特許第6243481号(P6243481)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243481
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】水分離複合膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20171127BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20171127BHJP
   B01D 71/50 20060101ALI20171127BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20171127BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20171127BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20171127BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20171127BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20171127BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20171127BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20171127BHJP
   C01B 32/20 20170101ALN20171127BHJP
【FI】
   B01D71/02 500
   C09D1/00
   B01D71/50
   B01D71/56
   B01D69/02
   B01D69/12
   B01D69/10
   B32B5/18
   B32B27/34
   B32B27/36 102
   !C01B32/20
【請求項の数】20
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-121877(P2016-121877)
(22)【出願日】2016年6月20日
(65)【公開番号】特開2017-80730(P2017-80730A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2016年9月7日
(31)【優先権主張番号】14/920549
(32)【優先日】2015年10月22日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】105100256
(32)【優先日】2016年1月6日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】頼 宇倫
(72)【発明者】
【氏名】張 志彰
(72)【発明者】
【氏名】顏 紹儀
(72)【発明者】
【氏名】許 榮男
(72)【発明者】
【氏名】郭 峻男
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2015/0231577(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0270188(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0141711(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0318373(US,A1)
【文献】 国際公開第2014/168629(WO,A1)
【文献】 特表2011−526834(JP,A)
【文献】 特開2003−024755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00− 71/82
C02F 1/44
B32B 1/00− 43/00
C01B 32/00− 32/991
C09D 1/00− 10/00
C09D 101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化1及び化2のいずれかの繰り返し単位を有するポリマーで作製された複数の細孔を有する多孔質支持材と、
当該多孔質支持材上に配置された、複数の酸化グラフェン(graphene oxide)層からなる選択層(selective layer)と、を含み、
任意の隣接する2層の当該酸化グラフェン層間に、化3に示す式(1)又は化4に示す式(2)で表される構造を有する有機化合物を配置したものであることを特徴とする水分離複合膜。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【請求項2】
前記ポリマーがポリアミドまたはポリカーボネートである請求項1に記載の水分離複合膜。
【請求項3】
前記多孔質支持材の細孔径が100nm以上300nm以下である請求項1又は請求項2に記載の水分離複合膜。
【請求項4】
前記選択層の厚さが200nm以上3000nm以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の水分離複合膜。
【請求項5】
前記選択層の厚さが400nm以上2000nm以下である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の水分離複合膜。
【請求項6】
水蒸気透過率(water vapor permeance rate)が1×10−6mol/msPa〜1×10−5mol/msPaである請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の水分離複合膜。
【請求項7】
前記水分離複合膜の水/空気分離係数が200以上3000以下である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の水分離複合膜。
【請求項8】
ポリマーで作製された複数の細孔を有する多孔質支持材と、当該多孔質支持材上に配置された選択層(selective layer)とを含む水分離複合膜であって、
当該選択層は、前記多孔質支持材上に配置した複数の酸化グラフェン(graphene oxide)層を備え、任意の隣接する2層の当該酸化グラフェン層間に化6に示す式(I)又は化7に示す式(II)で表される構造を有する有機化合物を配置したものであることを特徴とする水分離複合膜。
【化6】
【化7】
【化8】
【請求項9】
前記多孔質支持材が複数の細孔を有し、かつ、下記のうちいずれかの繰り返し単位を有するポリマーで作製されている請求項8に記載の水分離複合膜。
【化9】
【化10】
【請求項10】
前記多孔質支持材の前記細孔の径が100nm以上300nm以下である請求項8又は請求項9に記載の水分離複合膜。
【請求項11】
前記ポリマーがポリカーボネートまたはポリアミドである請求項8〜請求項10のいずれか1項に記載の水分離複合膜。
【請求項12】
前記選択層の厚さが200nm以上4000nm以下である請求項8〜請求項11のいずれか1項に記載の水分離複合膜。
【請求項13】
前記選択層の厚さが800nm以上3000nm以下である請求項8〜請求項12のいずれか1項に記載の水分離複合膜。
【請求項14】
前記有機化合物が化11に示すいずれかの構造式を備えるものである請求項8〜請求項13のいずれか1項に記載の水分離複合膜。
【化11】
【請求項15】
前記有機化合物がさらに前記酸化グラフェン層と反応する請求項8から14のいずれか1項に記載の水分離複合膜。
【請求項16】
前記有機化合物と前記酸化グラフェン層との間に共有結合、水素結合またはイオン結合がある請求項8から15のいずれか1項に記載の水分離複合膜。
【請求項17】
任意の隣接する2層の酸化グラフェン層間に間隔があり、前記間隔の膨潤度(swelling degree)が0.1%以上20.0%以下である請求項8から16のいずれか1項に記載の水分離複合膜。
【請求項18】
前記有機化合物と前記酸化グラフェン層との重量比が0.1以上80以下である請求項8から17のいずれか1項に記載の水分離複合膜。
【請求項19】
前記水分離複合膜の水蒸気透過率が5×10−6mol/msPa以上5×10−5mol/msPa以下である請求項8から18のいずれか1項に記載の水分離複合膜。
【請求項20】
前記水分離複合膜の水/空気分離係数が1000以上1×10以下である請求項8から19のいずれか1項に記載の水分離複合膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水分離複合膜(water separation composite membrane)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の家庭用除湿器は、冷媒圧縮機を用いて空気中の水分を凝縮し、除湿を達成している。しかし、冷媒の使用はオゾン層破壊などの問題を引き起こす。故に、冷媒を使用しない新規な除湿技術開発の必要がある。
【0003】
現在利用可能な除湿技術の中で、ヒーターも冷媒も必要としないものとして膜除湿装置(membrane dehumidification device)がある。この膜除湿装置は、水蒸気−空気分離膜および真空ポンプにより、室内の空気から水分を除去するものである。膜除湿装置における除湿メカニズムは、水蒸気選択膜(water vapor selective membrane)の使用によって達成されるものであるため、環境温度および水分含有量によって除湿効率が阻害されないだけでなく、従来の除湿装置に使用されていたようないかなる冷媒も必要としない。
【0004】
膜除湿装置の性能は、水蒸気選択膜の特性によって決まる。故に、膜除湿装置の性能を改善するために、高い水蒸気透過率(water vapor permeance)および高い水/空気分離係数(separation factor)を有する新規な膜が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第20140318373号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、膜除湿装置の性能を左右する選択層および支持材を含む水分離複合膜は、空気から水を除去する際に、高い水蒸気透過率(water vapor permeance)および高い水/空気分離係数(separation factor)を発揮することが求められ、同時に選択層と支持材との間の密着性(adhesion)をより向上させることが求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決するため、下記の化1及び化2のいずれかの繰り返し単位を有するポリマーで作製された複数の細孔を有する多孔質支持材と、当該多孔質支持材上に配置された、複数の酸化グラフェン(graphene oxide)層からなる選択層(selective layer)と、を含むことを特徴とする水分離複合膜を提供する。
【0008】
【化1】
【0009】
【化2】
【0010】
本発明の別の実施形態によれば、本発明は、複数の細孔を有する支持材と、前記多孔質支持材上に配置された選択層(selective layer)とを含む水分離複合膜であって、選択層が、複数の酸化グラフェン層と、任意の隣接する2層の酸化グラフェン層間に分散された有機化合物とからなり、有機化合物が式(I)または式(II)で表される構造を有する水分離複合膜をも提供する。
【0011】
【化3】
【0012】
【化4】
【0013】
【化5】
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る水分離複合膜は、選択層および支持材を含み、選択層と支持材との間の密着性(adhesion)が、それらの間に形成された化学結合(例えば、共有結合または水素結合)によって改善されている。そして、この本発明に係る水分離複合膜は、選択層の多層構造、厚さ、および特性のために、空気から水を除去する際に、高い水蒸気透過率(water vapor permeance)および高い水/空気分離係数(separation factor)を発揮する。また、本発明における選択層は、任意の隣接する2層の酸化グラフェン層の間に分散された有機化合物をさらに含み、有機化合物は化学結合により酸化グラフェン層に結合して、任意の隣接する2層の酸化グラフェン層間に橋(bridge)を形成し、任意の隣接する2層の酸化グラフェン層を一定間隔だけ互いに離間させる。その結果、任意の隣接する2層の酸化グラフェン層間の有機化合物の橋が、任意の隣接する2層の酸化グラフェン層間の距離を制御して、水分子が通る通路が形成され得るため、水分離複合膜の水蒸気透過率および水/空気分離係数が改善されることとなる。更に、水分離複合膜によって除去された水分は、水分離複合膜に水蒸気圧差(water vapor pressure difference)を与えることにより除去することができる。よって、本発明の水分離複合膜は再利用が可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
添付の図面を参照にしながら、以下の実施形態において詳細な説明を行う。
【0016】
添付の図面を参照にしながら後続の詳細な説明および実施例を読むことによって、本発明をより十分に理解することができる。
図1】本発明の1実施形態による水分離複合膜の概略断面図である。
図2】本発明の別の実施形態による水分離複合膜の概略断面図である。
図3図2の領域3の拡大概略図である。
図4】水分離複合膜(I)の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図5】水分離複合膜(II)の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図6】水分離複合膜(III)の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図7】実施例4に開示された除湿装置の概略ブロック図である。
図8】水分離複合膜(V)の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図9】水分離複合膜(XI)の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図10】水分離複合膜(XIV)の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本記載は、本発明の基本原理を説明する目的でなされたものであって、限定の意味に解されてはならない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲を参照することにより決定される。
【0018】
本発明は、膜除湿装置(membrane dehumidification device)の水蒸気/空気分離コンポーネントとして用いることのできる水分離複合膜を提供する。本発明の水分離複合膜は、選択膜および支持材を含み、選択層と支持材との間の密着性(adhesion)が、それらの間に形成された化学結合(例えば、共有結合または水素結合)によって改善される。さらに、選択層の多層構造、厚さ、および特性のために、本発明の水分離複合膜は、空気から水分を分離する際に、高い水蒸気透過率(water vapor permeance)および高い水/空気分離係数(water/air separation factor)を示す。本発明の別の実施形態によれば、選択層は、任意の隣接する2層の酸化グラフェン層の間に分散された有機化合物をさらに含み、有機化合物は化学結合により酸化グラフェン層に結合して、任意の隣接する2層の酸化グラフェン層間に橋(bridge)を形成し、任意の隣接する2層の酸化グラフェン層を一定間隔だけ互いに離間させる。任意の隣接する2層の酸化グラフェン層間の有機化合物の橋が、任意の隣接する2層の酸化グラフェン層間の距離を制御して、水分子が通る通路が形成され得るため、水分離複合膜の水蒸気透過率および水/空気分離係数が結果として改善されることとなる。また、水分離複合膜によって除去された水分は、水分離複合膜に水蒸気圧差を与えることにより除去することができる。よって、本発明の水分離複合膜は再利用可能である。
【0019】
本発明の実施形態によれば、図1に示されるように、水分離複合膜10は、複数の細孔13を有する支持材12と、この多孔質支持材上に配置された選択層14とを含み得る。選択層は複数の酸化グラフェン層15からなる。支持材と選択層との間に化学結合(例えば共有結合または水素結合)を形成して、それらの間の密着性を強めるため、支持材は下記の化6または化7のいずれかの繰り返し単位を有するポリマーで作製される。また、下記の化6または化7のいずれかを部分(moiety)として備える繰り返し単位を有するポリマーで作製されるものであってよい。これらに該当する具体的なポリマーは、ポリアミドまたはポリカーボネート等である。
【0020】
【化6】
【0021】
【化7】
【0022】
水分が自由に通過するのを促すため、支持材の細孔の径は100nmから300nmの間とすることが好ましい。さらに、選択膜を用いる水分離複合膜の水蒸気透過率が確実に1×10−6mol/msPa以上1×10−5mol/msPa以下となり、かつ水/空気分離係数が200以上3000以下(20〜35℃および60〜80%RHで測定)となるように、選択層の厚さは200nm以上3000nm以下、例えば400nm以上2000nm以下とすることができる。特定の酸化グラフェンの堆積(deposition)(g/cm)が増加するとき、選択層はより大きい厚さを有し得る。
【0023】
本発明の実施形態によれば、図2に示されるように、水分離複合膜10は、複数の細孔13を有する支持材12と、この多孔質支持材12上に配置された選択層14Aとを含み得る。選択層が、複数の酸化グラフェン層と、任意の隣接する2層の酸化グラフェン層間に分散された有機化合物とを含むことに留意されたい。有機化合物は、下式(I)または式(II)によって表される構造を備え得る。
【0024】
【化8】
【0025】
【化9】
【0026】
【化10】
【0027】
有機化合物は、水素結合もしくはイオン結合により酸化グラフェン層に結合することができる。または、さらに酸化グラフェン層と求核置換反応もしくは縮合により反応して、それらの間に結合を形成することができ、結果として、有機化合物または有機化合物から派生した部分(moiety)が任意の隣接する2層の酸化グラフェン層間の橋(bridge)となる。つまり、図2の領域3の拡大概略図である図3を参照すると、有機化合物16(または有機化合物から派生した部分)の一方側(すなわち式(I)または式(II)の基Xのうちの1つ)が1つの隣接する酸化グラフェン層15に結合し、有機化合物16(または有機化合物から派生した部分)の他方側(すなわち式(I)または式(II)の別の基X)が別の隣接する酸化グラフェン層15に結合する。結果として、有機化合物は、任意の隣接する2層の酸化グラフェン層を一定の間隔だけ互いに離間させることができる。任意の隣接する2層の酸化グラフェン層間の有機化合物の橋(bridges)が、任意の隣接する2層の酸化グラフェン層間の距離を制御して、水分子が通る通路を形成することができるため、水分離複合膜の水蒸気透過率および水/空気分離係数が結果として改善されることとなる。よって、間隔の膨潤度(swelling degree)を0.1%以上20.0%以下に制御することができ、その結果、選択層を用いる水分離複合膜の水蒸気透過率を5×10−6mol/msPaから5×10−5mol/msPaの間とし、かつ水/空気分離係数を1000以上1×10以下(20〜35℃および60〜80%RHで測定)とすることができる。間隔の膨潤度は、次のステップにより測定する。先ず、X線回折測定により選択層(乾燥状態)の平均間隔幅W1を測定する。次に、選択層を一定の時間(例えば60分)水中に置いてから、膨潤選択層の平均間隔幅W2を測定する。次に、間隔の膨潤度を下記方程式により決定する。
【0028】
膨潤度(%) = {(W2−W1)/W1}×100
【0029】
本発明の実施形態によれば、式(I)で表される構造を有する有機化合物では、Xが化11に示すいずれかであるとき、nは0から1である。
【0030】
【化11】
【0031】
例えば、上述の式(I)で表される構造を有するいくつかの有機化合物を、化12に例示する。
【0032】
【化12】
【0033】
さらに、Xが−OH、−NH、または−SHであるとき、nは2から3である。これらの式(I)で表される構造を有する有機化合物を化13に例示する。
【0034】
【化13】
【0035】
さらに、式(II)で表される構造を有する有機化合物は、下記のいずれかであることが好ましい。
【0036】
【化14】
【0037】
支持材は複数の細孔を備える。支持材は、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(polyether sulfone,PES)、ポリテトラフルオロエテン(PTFE)、またはセルロースアセテート(cellulose acetate,CA)であってよい。水分が自由に通過するのを促すため、支持材の細孔の径は100nm以上300nm以下とすることができる。さらに、選択層の厚さは200nm以上4000nm以下、例えば400nm以上3000nm以下とすることができる。
【0038】
本発明の実施形態によれば、水分離複合膜の選択層は、基板上に組成物を塗布する、または組成物に対し吸引堆積(suction deposition)を行うことによって作製することができる。当該組成物は酸化グラフェン粉末および有機化合物を含み、有機化合物と酸化グラフェン粉末との重量比は、約0.1以上80以下であれば良く、例えば、1以上0.1以下、1以上80以下、5以上60以下、または5以上40以下とすることができる。つまり、選択層において、有機化合物と酸化グラフェン層との重量比は約0.1以上80以下であってよく、例えば1以上0.1以下、1以上80以下、5以上60以下、または5以上40以下とすることができる。
【実施例】
【0039】
以下に、当該分野において通常の知識を有する者が容易に理解できるよう、例示的な実施形態を詳細に記載する。本発明概念は、本明細書に述べられた例示的な実施形態に限定されることなく、様々な形で具体化され得る。明確とするために既知の部分についての記述は省いている。
【0040】
参考例1:水分離複合膜(I)
1重量部の酸化グラフェン粉末(modified Hummer’s methodを用いて合成)を脱イオン水と混合して、固形分が0.05wt%の溶液を得た。次いで、その組成物に対し吸引堆積(suction deposition)を行うことによって、厚さ約400nmの選択層を形成した。次いで、その選択層を多孔質親水性ナイロン支持材(平均径200nmの細孔を備えるもの)上に配置し、50℃で60分加熱乾燥し、水分離複合膜(I)を得た。図4は、水分離複合膜(I)の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0041】
参考例2:水分離複合膜(II)
選択層の厚さを約400nmから800nmに増やしたこと以外は、参考例1と同じように参考例2を進行して、水分離複合膜(II)を得た。図5は、水分離複合膜(II)の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0042】
参考例3:水分離複合膜(III)
【0043】
選択層の厚さを約400nmから2000nmに増やしたこと以外は、参考例1と同じように参考例3を進行して、水分離複合膜(III)を得た。図6は、水分離複合膜(III)の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0044】
参考例4:除湿性能試験
参考例1〜3の水分離複合膜(I)〜(III)の水蒸気透過率および水/空気分離係数を除湿装置100により評価した。その結果は表1に示されている。図7に示されるように、除湿装置100は、特定の温度下で特定の湿度(例えば25℃/80%RH)を持つ気流(gas flow)を、本発明の水分離複合膜106を通過させるよう導くための恒温恒湿装置102を含むものとした。水分離複合膜106を通過する前の気流の湿度および温度を、第1の温湿度計104を用いて測定し、水分離複合膜106を通過した後の気流の湿度および温度を、第2の温湿度計108を用いて測定した。除湿装置100は、気流が確実に水分離複合膜106を通過するように真空ポンプ110をさらに備えるものであった。第1の温湿度計104および第2の温湿度計108の測定値から、水分離複合膜106の水蒸気透過率および水/空気分離係数を算出した。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示されるように、選択層の厚さが増すと、水分離複合膜の水/空気分離係数が向上する。
【0047】
参考例5:水分離複合膜(IV)
1重量部の酸化グラフェン粉末(modified Hummer’s methodを用いて合成)を脱イオン水と混合して、固形分が0.05wt%の第1の溶液を得た。次に、0.1重量部のグリオキサール(ethanedial)を脱イオン水と混合して、固形分が1.0wt%の第2の溶液を得た。次いで、第1の溶液と第2の溶液とを混合して、50℃で60分静置し、第3の溶液を得た(酸化グラフェン粉末とグリオキサールとの重量比は1:0.1であった)。次いで、その第3の組成物に対し吸引堆積(suction deposition)を行うことにより、選択層を形成した。次いで、その選択層を多孔質親水性ナイロン支持材(平均径200nmの細孔を備えるもの)上に配置し、50℃で60分加熱乾燥し、水分離複合膜(IV)を得た。乾燥膜状態における水分離複合膜(IV)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。次いで、水分離複合膜(IV)を水中に60分置いた後に再び、水分離複合膜(IV)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。その結果は表2に示してある。
【0048】
参考例6:水分離複合膜(V)
グリオキサールの重量を0.1重量部から5重量部に増やしたこと以外は、参考例6参考例5と同じように進行し(よって、第3の組成物の酸化グラフェン粉末とグリオキサールとの重量比は1:5)、水分離複合膜(V)(厚さ800nm)を得た。乾燥膜状態における水分離複合膜(V)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。次いで、水分離複合膜(V)を水中に60分置いた後に再び、水分離複合膜(V)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。その結果は表2に示してある。図8は、水分離複合膜(V)の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0049】
参考例7:水分離複合膜(VI)
グリオキサールの重量を0.1重量部から10重量部に増やしたこと以外は、参考例7参考例5と同じように進行し(よって、第3の組成物の酸化グラフェン粉末とグリオキサールとの重量比は1:10)、水分離複合膜(VI)を得た。乾燥膜状態における水分離複合膜(VI)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。次いで、水分離複合膜(VI)を水中に60分置いた後に再び、水分離複合膜(VI)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。その結果は表2に示してある。
【0050】
参考例8:水分離複合膜(VII)
グリオキサールの重量を0.1重量部から15重量部に増やしたこと以外は、参考例8参考例5と同じように進行し(よって、第3の組成物の酸化グラフェン粉末とグリオキサールとの重量比は1:15)、水分離複合膜(VII)を得た。乾燥膜状態における水分離複合膜(VII)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。次いで、水分離複合膜(VII)を水中に60分置いた後に再び、水分離複合膜(VII)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。その結果は表2に示してある。
【0051】
参考例9:水分離複合膜(VIII)
グリオキサールの重量を0.1重量部から20重量部に増やしたこと以外は、参考例9参考例5と同じように進行し(よって、第3の組成物の酸化グラフェン粉末とグリオキサールとの重量比は1:20)、水分離複合膜(VIII)を得た。乾燥膜状態における水分離複合膜(VIII)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。次いで、水分離複合膜(VIII)を水中に60分置いた後に再び、水分離複合膜(VIII)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。その結果は表2に示してある。
【0052】
参考例10:水分離複合膜(IX)
グリオキサールの重量を0.1重量部から80重量部に増やしたこと以外は、参考例10参考例5と同じように進行し(よって、第3の組成物の酸化グラフェン粉末とグリオキサールとの重量比は1:80)、水分離複合膜(IX)を得た。乾燥膜状態における水分離複合膜(IX)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。次いで、水分離複合膜(IX)を水中に60分置いた後に再び、水分離複合膜(IX)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。その結果は表2に示してある。
【0053】
【表2】
【0054】
参考例11:水分離複合膜(X)
第3の組成物を多孔質親水性ナイロン支持材上に直接塗布したこと以外は、参考例5と同じように参考例11を進行し、水分離複合膜(X)を得た。
【0055】
実施例1:水分離複合膜(XI)
1重量部の酸化グラフェン粉末を脱イオン水と混合して、固形分が0.5wt%の第1の溶液を得た。次に、5重量部の1,2−エタンジアミンを脱イオン水と混合して、固形分が1.0wt%の第2の溶液を得た。次いで、第1の溶液と第2の溶液とを混合して、50℃で60分静置し、第3の溶液を得た(酸化グラフェン粉末と1,2−エタンジアミンとの重量比は1:5であった)。次いで、その第3の組成物に対し吸引堆積(suction deposition)を行うことにより、選択層を形成した。次いで、その選択層を多孔質親水性ナイロン支持材(平均径200nmの細孔を備えるもの)上に配置し、50℃で60分加熱乾燥して水分離複合膜(XI)を得た。図9は、水分離複合膜(XI)の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0056】
実施例2:水分離複合膜(XII)
1,2−エタンジアミンの重量を5重量部から10重量部に増やしたこと以外は、実施例2実施例1と同じように進行し(よって、第3の組成物の酸化グラフェン粉末と1,2−エタンジアミンとの重量比は1:10)、水分離複合膜(XII)を得た。
【0057】
実施例3:水分離複合膜(XIII)
1重量部の酸化グラフェン粉末を脱イオン水と混合して、固形分が0.5wt%の第1の溶液を得た。次に、10重量部の1,3−プロパンジアミンを脱イオン水と混合して、固形分が1.0wt%の第2の溶液を得た。次いで、第1の溶液と第2の溶液とを混合して、50℃で60分静置し、第3の溶液を得た(酸化グラフェン粉末と1,3−プロパンジアミンとの重量比は1:10であった)。次いで、その第3の組成物に対し吸引堆積(suction deposition)を行うことにより、選択層を形成した。次いで、その選択層を多孔質親水性ナイロン支持材(平均径200nmの細孔を備えるもの)上に配置し、50℃で60分加熱乾燥し、水分離複合膜(XIII)を得た。乾燥膜状態における水分離複合膜(XIII)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。次いで、水分離複合膜(XIII)を水中に60分置いた後に再び、水分離複合膜(XIII)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。その結果は表3に示してある。
【0058】
実施例4:水分離複合膜(XIV)
1,3−プロパンジアミンの重量を10重量部から20重量部に増やしたこと以外は、実施例4実施例3と同じように進行し(よって、第3の組成物の酸化グラフェン粉末と1,3−プロパンジアミンとの重量比は1:20)、水分離複合膜(XIV)を得た。図10は、水分離複合膜(XIV)の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。乾燥膜状態における水分離複合膜(XIV)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。次いで、水分離複合膜(XIV)を水中に60分置いた後に再び、水分離複合膜(XIV)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。その結果は表3に示してある。
【0059】
実施例5:水分離複合膜(XV)
1,3−プロパンジアミンの重量を10重量部から40重量部に増やしたこと以外は、実施例5実施例3と同じように進行し(よって、第3の組成物の酸化グラフェン粉末と1,3−プロパンジアミンとの重量比は1:40)、水分離複合膜(XV)を得た。乾燥膜状態における水分離複合膜(XV)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。次いで、水分離複合膜(XV)を水中に60分置いた後に再び、水分離複合膜(XV)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。その結果は表3に示してある。
【0060】
実施例6:水分離複合膜(XVI)
1,3−プロパンジアミンの重量を10重量部から80重量部に増やしたこと以外は、実施例6実施例3と同じように進行し(よって、第3の組成物の酸化グラフェン粉末と1,3−プロパンジアミンとの重量比は1:80)、水分離複合膜(XVI)を得た。乾燥膜状態における水分離複合膜(XVI)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。次いで、水分離複合膜(XVI)を水中に60分置いた後に再び、水分離複合膜(XVI)の酸化グラフェン層の平均間隔幅をX線回折測定により測定した。その結果は表3に示してある
【0061】
【表3】
【0062】
表2および表3から分かるように、有機化合物(グリオキサールまたは1,3−プロパンジアミン)を含まない選択層を有した水分離複合膜(I)は、間隔の膨潤度が比較的高い。反対に、有機化合物(グリオキサールまたは1,3−プロパンジアミン)の重量が増加するのに伴って、水分離複合膜の間隔の膨潤度は減少している。このことは、有機化合物の添加によって2層の隣接する酸化グラフェン層間が確実に架橋され、任意の隣接する2層の酸化グラフェン層間の間隔幅を所定の範囲内に維持できるということを意味する。結果として、水分子が通る通路が2層の隣接する酸化グラフェン層間に形成され得るため、水分離複合膜の水蒸気透過率および水/空気分離係数が改善されることとなる。
【0063】
実施例7:除湿性能試験
参考例6および実施例2の水分離複合膜(V)および(XII)の水蒸気透過率および水/空気分離係数を、図7に示される除湿装置100により、25℃/80%RHで評価した。その結果は表4に示されている。さらに、参考例6の水分離複合膜(V)の水蒸気透過率および水/空気分離係数を、図7に示される除湿装置100により、29℃/60%RHで評価した。その結果も表4に示されている。
【0064】
【表4】
【0065】
表4に示されるように、有機化合物を含む選択層を有した本発明の水分離複合膜は、式(I)または(II)で表される構造の有機化合物を選択層中に含まない水分離複合膜に比べ、水蒸気透過率および水/空気分離係数が高かった。また、29℃/60%RHで測定したときに、水分離複合膜(V)の水/空気分離係数は約3.79×106であった。
【0066】
参考例12:水分離複合膜(XVII)
厚さを約800nmから約1400nmに増やしたこと以外は、参考例12参考例6と同じように進行し、水分離複合膜(XVII)を得た。
【0067】
参考例13:水分離複合膜(XVIII)
厚さを約800nmから約3000nmに増やしたこと以外は、参考例13参考例6と同じように進行し、水分離複合膜(XVIII)を得た。
【0068】
参考例14:除湿性能試験
参考例12および13の水分離複合膜(XVII)および(XVIII)の水蒸気透過率および水/空気分離係数を、図7に示される除湿装置100により、25℃/80%RHで評価した。その結果は表5に示されている。
【0069】
【表5】
【0070】
開示した方法および物質に各種修飾および変化を加え得るということは明らかであろう。明細書および実施例は単に例示として見なされるように意図されており、本開示の真の範囲は、以下の特許請求の範囲およびそれらの均等物によって示される。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る水分離複合膜は、ヒーターも冷媒も用いることなく除湿を行う膜除湿装置に用いるものである。本発明に係る選択層および支持材を含む水分離複合膜は、空気から水を除去する際に、高い水蒸気透過率および高い水/空気分離係数を発揮すると、同時に選択層と支持材との間の密着性が高く、繰り返し使用も可能なため高寿命の製品である。
【符号の説明】
【0072】
3…領域
10…水分離複合膜
12…多孔質支持材
13…細孔
14、14A…選択層
15…酸化グラフェン層
16…有機化合物
100…除湿装置
102…恒温恒湿装置
104…第1の温湿度計
106…水分離複合膜
108…第2の温湿度計
110…真空ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10