特許第6243512号(P6243512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6243512軸受リング、電気絶縁性被膜および電気絶縁性被膜を適用する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243512
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】軸受リング、電気絶縁性被膜および電気絶縁性被膜を適用する方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/64 20060101AFI20171127BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20171127BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20171127BHJP
   C23C 4/10 20160101ALI20171127BHJP
【FI】
   F16C33/64
   C08L101/00
   C08K3/00
   C23C4/10
【請求項の数】13
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-509565(P2016-509565)
(86)(22)【出願日】2014年3月11日
(65)【公表番号】特表2016-520774(P2016-520774A)
(43)【公表日】2016年7月14日
(86)【国際出願番号】IB2014059616
(87)【国際公開番号】WO2014174382
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2016年12月8日
(31)【優先権主張番号】102013104186.8
(32)【優先日】2013年4月25日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515227486
【氏名又は名称】コアテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(73)【特許権者】
【識別番号】515227497
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アクチェンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンデイトゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】マーティン,グードルン
(72)【発明者】
【氏名】スモルツ,ゲオルグ
(72)【発明者】
【氏名】キルスト,マルクス シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ニコライ,イェンス
【審査官】 瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−312951(JP,A)
【文献】 特開2009−210090(JP,A)
【文献】 特開2008−069924(JP,A)
【文献】 特開2008−089407(JP,A)
【文献】 特開2002−181055(JP,A)
【文献】 特開平06−173960(JP,A)
【文献】 特開平05−052223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/64
C08K 3/00
C08L 101/00
C23C 4/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性被膜(4)を備えている本体部(2)を有し、
前記電気絶縁性被膜(4)は、間隙(8)を有するセラミック層(6)と、前記間隙(8)に充填されかつ前記セラミック層(6)上に被膜(7)を形成するプラスチック材料(10)と、から形成され、
前記セラミック層(6)の前記間隙(8)は、10から50%までの割合を有することを特徴とする軸受リング(1)。
【請求項2】
前記セラミック層(6)は、酸化物、酸化物の組み合わせ、窒化物、あるいはスピネルから構成されることを特徴とする請求項1に記載の軸受リング(1)。
【請求項3】
前記セラミック層(6)における単粒子(14)の粒径(12)は、25μm以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の軸受リング(1)。
【請求項4】
前記プラスチック材料は、絶縁性プラスチック材料(10)であることを特徴とする請求項1に記載の軸受リング(1)。
【請求項5】
前記電気絶縁性被膜(4)は、前記軸受リング(1)の前記本体部(2)における外面(16)、対向する両方の側面(18)、前記外面(16)と前記側面(18)の各々との間に形成される丸み付け部(20)、および、斜面(24)に適用され、
前記斜面(24)は、前記側面(18)の各々から、前記軸受リング(1)の内面(22)に向かって延長している
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の軸受リング(1)。
【請求項6】
前記電気絶縁性被膜(4)の膜厚(D)は、0.2から2.0mmまでの間にあることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の軸受リング(1)。
【請求項7】
間隙(8)を有するセラミック層(6)と、前記間隙(8)に充填されかつ前記セラミック層(6)上に被膜(7)を形成するプラスチック材料(10)と、から形成され、
前記セラミック層(6)の前記間隙(8)は、10から50%までの割合を有することを特徴とする電気絶縁性被膜(4)。
【請求項8】
前記セラミック層(6)は、酸化物、酸化物の組み合わせ、窒化物、あるいはスピネルから構成されることを特徴とする請求項7に記載の電気絶縁性被膜(4)。
【請求項9】
前記セラミック層(6)における単粒子(14)の粒径(12)は、25μm以上であることを特徴とする請求項7および請求項8に記載の電気絶縁性被膜(4)。
【請求項10】
前記プラスチック材料は、絶縁性プラスチック材料(10)であることを特徴とする請求項7に記載の電気絶縁性被膜(4)。
【請求項11】
軸受リング(1)の本体部(2)に電気絶縁性被膜(4)を適用するための方法であって、
セラミック材料を前記軸受リング(1)の前記本体部(2)に適用し、10から50%までの割合の間隙(8)を有するセラミック層(6)を形成するステップと、
プラスチック材料(10)を前記セラミック層(6)に適用することにより、前記間隙(8)を充填し、かつ、前記セラミック層(6)上に被膜(7)を形成するステップと、
前記プラスチック材料(10)を硬化するステップと、
を有することを特徴とする方法。
【請求項12】
前記セラミック材料を適用する前に、放射線処理が前記本体部(2)に施されることにより、適用される前記セラミック層(6)は、形状および材料ロック的(form− und stoffschluessig)に、前記本体部(2)の基材と固定されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記セラミック材料は、溶射法を用いて前記軸受リング(1)の前記本体部(2)に適用されることを特徴とする請求項11および請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
明細書
本発明は、軸受リングに関する。本体部を有する軸受リングは、間隙(Pore)を有するセラミック層と、間隙に充填されかつセラミック層の被膜を形成するプラスチック材料と、から形成される電気絶縁性被膜を開示している。
【0002】
また、本発明は、間隙を有するセラミック層と、間隙に充填されかつセラミック層の被膜を形成するプラスチック材料と、から形成される電気絶縁性被膜に関する。
【0003】
さらに、本発明は、軸受リングの本体部上に電気絶縁性被膜を適用する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
本発明の背景
実際的経験は、軸受を経由する電流の通過が、軸受の損傷を導く可能性があることを示している。したがって、電気絶縁性軸受、特に電気絶縁性軸受リングの必要性が、存在する。
【0005】
従来技術によると、例えば、独国特許出願公開第102010015155号および第102009014753号において開示されているように、セラミック被膜を、軸受リングにおける金属製であり、導電性の本体部上に、電気絶縁性被膜として提供することにより、軸受を経由する電流の通過を抑制することが知られている。
【0006】
さらに、電気絶縁性被膜は、主として酸化アルミニウムから構成される。酸化アルミニウムの電気絶縁性被膜は、非常に硬い。しかしながら、この種の被膜の誘電率は、絶縁性プラスチック材料の誘電率より高い。
【0007】
また、この種の電気絶縁性被膜は、衝撃に敏感であり、容易に剥離する虞があるため、細かい粒子から成るセラミック材料を、軸受に適用し、10%よりかなり小さい割合の間隙を有するセラミック層が形成される。セラミック層の間隙を経由する湿気の進入を防止するため、間隙を有するセラミック層は、シールされる。この種の電気絶縁性被膜の膜厚は、実際問題として現在のところ、0.1から0.4mmまでの間にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許出願公開第102010015155号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102009014753号明細書
【発明の概要】
【0009】
軸受を経由する高周波電流の通過に関し、現在のところ多くの問題が存在しており、高周波電流に対するより良い絶縁を獲得するために、機能強化が必要とされる。
【0010】
本発明の目的は、したがって、軸受における容量性電流(kapazitiven Stroemen)に対する、より高い絶縁性能が確保されるように、軸受リングの構成を変更することである。
【0011】
この目的は、請求項1の特徴を有する軸受リングによって達成される。
【0012】
本発明の別の目的は、高周波電流に対する高い絶縁性能を確保する電気絶縁性被膜を形成することである。
【0013】
この目的は、請求項7の特徴を有する電気絶縁性被膜によって達成される。
【0014】
本発明の付加的な目的は、高周波電流に対して軸受を保護する電気絶縁性被膜を、軸受リングの本体部上に提供するための容易に実行可能な方法を提供することである。
【0015】
この目的は、請求項11の特徴を有する電気絶縁性被膜を提供する方法によって達成される。
【0016】
本発明に係る本体部を有する軸受リングは、間隙を有するセラミック層と、間隙に充填されかつセラミック層上に被膜を形成するプラスチック材料と、から形成される電気絶縁性被膜を有する。特に、間隙を充填するための被膜は、間隙に対する湿気の進入を防止する。しかしながら、プラスチック材料の誘電率は、セラミックのそれより低い。本発明によれば、間隙は、セラミック層において10から50%までの割合を有する。この層構造によって、被膜の絶縁性は大幅に増加する。
【0017】
本発明の第1の実施の形態において、セラミック層は、酸化物、例えば、酸化アルミニウムから構成される。別の実施の形態において、セラミック層は、酸化物の組み合わせ、例えば、チタン酸化物をあるパーセントを含んでいる酸化アルミニウから構成される。酸化物の混合物も、酸化物の組み合わせの概念に含まれ、したがって、セラミック層は、また、スピネルから構成されることが可能である。さらに別の実施の形態において、セラミック層は、窒化物から構成される。窒化物からなるセラミック層は、例えば、アルミニウム窒化物から構成することが可能である。
【0018】
本発明において、セラミック層の単粒子の粒径は、25μを超える。
【0019】
本発明の別の実施の形態において、プラスチック材料は、絶縁性プラスチック材料である。特に、樹脂、シロキサン、ポリエステルあるいはアクリル等のプラスチックス材料が、使用される。また、間隙をシールする被膜が前記プラスチック材料の組み合わせから構成されることも可能である。
【0020】
好ましくは、電気絶縁性被膜は、軸受リングの本体部における外面、対向する両方の側面、外面と側面の各々との間に形成される丸み付け部、および、斜面(面取り部)に設けることが可能であり、斜面は、側面の各々から、軸受リングの内面に向かって延長している。
【0021】
電気絶縁性被膜の膜厚は、0.2から2.0mmである。
【0022】
有利な点は、軸受リング上の上述の基準となる電気絶縁性被膜と比較し、本発明に係る被覆がより脆くないため、軸受リング上の電気絶縁性被膜をかなり厚くすることが可能であることである。
【0023】
より厚い電気絶縁性被膜は、より大きい割合のプラスチック材料を有しており、したがって、明細書の導入部に記載されている従来技術と比較し、大幅により高い容量性抵抗(kapazitiven Widerstand)を提供し、これにより、絶縁性能が上昇し、したがって、本発明に係る軸受リングは、例えば、玉軸受あるいは転がり軸受等の軸受において、高周波電流に対して向上した絶縁を可能にする。また、従来技術で知られている微細な多孔性セラミック層と比較し、本発明においては、プラスチック材料がより大きな部分を占めることにより、誘電率の値が有利である点に注意することは、重要である。
【0024】
間隙を有するセラミック層と、間隙に充填されかつセラミック層上に被膜を形成するプラスチック材料と、から形成される、本発明に係る電気絶縁性被膜において、セラミック層の間隙は、10から50%までの割合を有する。
【0025】
材料のこの構成により、ある一定の厚さを有する、より高い電気絶縁性被膜を達成することが可能であり、その結果、高周波電流に対するより高い絶縁性能が与えられる。高周波電流に関する層の絶縁性能は、層厚および使用した材料の誘電率によって、影響される。
【0026】
軸受リングの本体部上の電気絶縁性被膜を提供するための本発明に係る方法は、次のステップによって、特徴づけられる。最初に、セラミック層が10から50%までの割合の間隙を有するように、セラミック材料が、軸受リングの本体部に適用される。その後、プラスチック材料がセラミック層に適用され、その結果、間隙は充填され、そして、セラミック層は被覆される。これにより、より良い容量性抵抗を達成し、そして、湿気が間隙を経由して侵入することを防止することが可能である。最後に、間隙を充填しかつセラミック層を被覆するためのプラスチック材料は、硬化される。
【0027】
好ましくは、セラミック材料を適用する前に、本体部に対する放射線処理が実行され、その結果、適用されるセラミック層は、形状および材料ロック的(form− und stoffschluessig)に、本体部の基材と固定される。
【0028】
有利には、本発明に係る方法において、セラミック材料は、溶射法を使用することによって、軸受リングの本体部に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】電気絶縁性被膜を示している本発明に係る軸受リングの斜視図である。
図2】本発明に係る電気絶縁性被膜の概略図である。
図3】丸み付け部のエリアで軸受リングに取り付けられている本発明に係る電気絶縁性被膜の概略図である。
図4】本発明に係る軸受リングの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下の実施の形態は、添付される図面を使用し、本発明およびその利点を説明している。一部の形状は単純化され、また、その他は、よりよく図解するため、別の要素と比較して拡大されて示されており、図中の比率は、必ずしも実際の比率に合致していない。ここで、
図1は、電気絶縁性被膜を示している本発明に係る軸受リングの斜視図を示しており、
図2は、本発明に係る電気絶縁性被膜の概略図を示しており、
図3は、丸み付け部のエリアで軸受リングに取り付けられている本発明に係る電気絶縁性被膜の概略図を示し、
図4は、本発明に係る軸受リングの斜視図を示している。
【0031】
本発明の同一の要素あるいは同じ機能を有する要素に対しては、同じ参照符号が使用される。さらに、より良い理解のため、各図の説明のために必要な参照符号のみが示される。示される実施の形態は、本発明に係る軸受リング、本発明に係る電気絶縁性被膜、および、本発明に係る電気絶縁性被膜を提供する方法のための単なる一例を示し、したがって、本発明を限定しない。
【0032】
図1は、電気絶縁性被膜4を備えている本体部2を有する本発明に係る軸受リング1の斜視図を示している。電気絶縁性被膜4は、図2に示されるように、間隙8を有するセラミック層6と、間隙8に充填されかつセラミック層6を被覆するプラスチック材料10と、から構成される。
【0033】
ここで示されるように、電気絶縁性被膜4は、軸受リング1の本体部2における外面16、対向する両方の側面18、外面16と側面18の各々との間に形成される丸み付け部20、および、斜面24に設けられており、斜面24は、側面18の各々から、軸受リング1の内面22に向かって延長している。
【0034】
図2は、図1において既に記載されているように、間隙8を有するセラミック層6と、間隙8に充填されかつセラミック層6に上に被膜7を形成するプラスチック材料10と、から構成される、本発明に係る電気絶縁性被膜4の詳細部分の概略図を示している。セラミック層6の単粒子14の粒径12は、25μより大きい。
【0035】
図3は、軸受リング1(図4参照)の本体部2に提供される本発明に係る電気絶縁性被膜4の膜厚Dの概略図を示している。膜厚Dは、0.2から2.0mmの間とすることが可能であり、その結果、本発明は、それに対応する厚い絶縁層を形成し、高周波電流に対する絶縁が確保される。本発明に係る方法を使用することにより、外面16、側面18、そしてさらに丸み付け部20に、本質的に一定の膜厚Dを適用することが可能である。
【0036】
図4は、本発明に係る軸受リング1の斜視図を示している。ここで、電気絶縁性被膜4は、軸受リング1の外輪(Aussenring)に提供される。本発明に係る電気絶縁性被膜4はまた、内輪(Innenring)に適用することが可能であることは、当業者にとって明らかである。
【0037】
参照符号リスト
1 軸受リング、
2 本体部、
4 電気絶縁性被膜、
6 セラミック層、
7 被覆、
8 間隙、
10 プラスチック材料、
12 粒径、
14 粒子、
16 外面、
18 側面、
20 丸み付け部、
22 内面、
24 斜面、
D 膜厚。
図1
図2
図3
図4