(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1ないし13を参照して以下に本発明の幾つかの例示的な実施形態を説明する。なお以下の説明および請求の範囲の記載において、前後方向、横方向、鉛直方向は、それぞれ自動車の向きに対して定義されて使用されている。また説明の便宜のために左右を区別するが、左右を逆転しても以下の実施形態は実施できる。
【0012】
本発明の実施形態に係る動力伝達装置1として、
図1で示すように、たとえば、自動車45に使用されるトランスファを掲げることができる。
【0013】
まず、動力伝達装置1が使用されている自動車45の駆動系について説明する。
【0014】
自動車45の車体47の前部には、左右一対の前輪49が回転自在に支承され、また、同上車体47の後部には左右一対の後輪51が回転自在に支承され、これら各前輪49と、各後輪51により、車体47が走行面上に支持されている。
【0015】
左右の前輪49の間には、前差動装置53が設けられており、この前差動装置53の各出力軸に各前輪49が前車軸55により連動連結されている。また、左右の後輪51の間には、後差動装置57が設けられており、この後差動装置57の各出力軸に各後輪51が後車軸59により連動連結されている。
【0016】
車体47の前部には、内燃機関であるエンジン61が支持され、このエンジン61にトランスミッション63とトランスファ(動力伝達装置)1とが連設され、トランスミッション63にはモータージェネレータ64が連結され、トランスファ1の出力軸と後差動装置57の入力軸とは、自在継手軸65により連動連結されている。
【0017】
エンジン61またはモータージェネレータ64の動力は、まず、トランスミッション63に伝達され、このトランスミッション63から、前差動装置53と各前車軸55とを介して各前輪49に伝達されるとともに、トランスファ1と自在継手軸65と各後車軸57とを介して各後輪51に伝達され、これによって、自動車45は前、後4輪駆動で走行可能になっている。
【0018】
なお、自動車45が制動時あるいは降坂時の場合などには、モータージェネレータ64が放出されたエネルギー回生を行う。
【0019】
トランスファ1は、
図3等で示すように、潤滑油3が入る内部空間5を備えたハウジング(ケース)7を備えている。内部空間5内に入る潤滑油3の体積は、内部空間5の体積よりも小さく、内部空間5の体積の半分よりも小さい程度になっている。
【0020】
ハウジング7には、ハウジング7に対して回転自在である回転軸9,11,19が設けられている。各回転軸9,11,19それぞれの少なくとも一部は、ハウジング7の内部空間5内に位置している。
【0021】
また、ハウジング7内には、
図2B,
図4,
図5等で示すように、ブリーザ室17が設けられている。
図2Aに示されるごとく、ハウジング7の上面が僅かに膨出しており、
図2Bに示されるごとく、かかる部分の内部にブリーザ室17が保持される。ブリーザ室17は、必然的に総ての回転軸9,11,19の回転中心C1,C2,C3より上方である。また、ブリーザ室17は、ハウジング7の内部空間5と隔壁13を隔てて区画されており、ハウジング7の内部空間5と貫通孔15A,15Bを介して連通している。貫通孔15A,15Bも、総ての回転軸9,11,19の回転中心C1,C2,C3より上方である。
【0022】
回転軸9,11,19は、
図3等で示すように、内部空間5内においてハウジング7に回転可能に支持されている。回転軸9,11,19は、第1軸(エンジン61等の駆動源の動力が伝達される入力軸)9と、この第1軸9よりも後側に設けられ第1軸9の回転によって回転する第2軸(中間軸)11と、この第2軸よりも後側に設けられ第2軸11の回転によって回転する第3軸(出力軸)19とを含む。
【0023】
第1軸9の回転中心C1と第2軸11の回転中心C2とはお互いが平行になって車体47の横方向に延伸している。第3軸19の回転中心C3は車体47の前後方向に延伸している。
【0024】
また、第3軸19の回転中心C3は、第2軸11の回転中心C2に対して捻れの位置にあるとともに、平面視において、第2軸11の回転中心C2と第3軸19の回転中心C3とはお互いが直交している。なお、第3軸19の回転中心C3が第2軸11の回転中心C2に対して直交していてもよい。
【0025】
また、第1軸9の回転中心C1は、第2軸11の回転中心C2よりも下側に位置し、第2軸11の回転中心C2は、第3軸19の回転中心C3よりも下側に位置しているが、必ずしもこのようになっている必要はなく、鉛直方向で各回転中心C1,C2,C3の位置が変更されてもよい。
【0026】
ブリーザ室17は、第2軸11の回転中心C2よりも前側に位置している。また、ブリーザ室17は、第1軸9の回転中心軸C1よりも後側に位置している。すなわち、ブリーザ室17は、前後方向で、第1軸9の回転中心C1と第2軸11の回転中心C2との間に設けられている。
【0027】
なお、貫通孔15A,15Bが、前後方向で、第1軸9の回転中心C1と第2軸11の回転中心C2との間に設けられているのであれば、ブリーザ室17の一部が第1軸9の回転中心C1から僅かに前側にはみ出していてもよいし、また、ブリーザ室17の一部が第2軸11の回転中心C2から僅かに後側にはみ出していてもよい。
【0028】
第1軸9は、フローフォーミング等の方法によりパイプ状に形成されており、その右端に近接してその外周に、第1歯車(たとえば、ヘリカルギヤ)37が圧入または溶接などにより一体的に固定されている。第2軸11には、同様に右端に近接して、第1歯車37と噛み合う第2歯車39が一体的に設けられている。これにより、第1軸9から第2軸11へ回転力が伝達されるようになっている。通常は、第2軸11を増速するべく、第1歯車37は比較的に大径であり、第2歯車39は比較的に小径である。隔壁13は、円弧状に形成されており、第1歯車37と第2歯車39の外径側に位置している。
【0029】
ハウジング7には、
図2B、
図4、
図7等で示すように、ブリーザ通路(直線状に延びている細長いドレイン孔)21が設けられている。ブリーザ通路21は、ハウジング7の肉部を機械加工(たとえば、ドリル加工)することで形成されており、ブリーザ室17をハウジング7の外部に連通せしめている。
【0030】
また、ブリーザ通路21は、水平方向に延びているか、もしくは、ブリーザ室17側は下方に位置しハウジング7の外部側が上方に位置するようにして、斜め方向に延びている。
【0031】
ハウジング7は、ハウジング本体部23とハウジングカバー25とを備えている。
【0032】
ハウジング本体部23は、環状の側壁部69と仕切り壁部71とを備えている。ハウジング本体部23(環状の側壁部69)の一端部(右端部)は開口しており、その周囲には、環状の合わせ面27が形成されている。ハウジング本体部23(環状の側壁部69)の他端部(左端部)は概して閉じているが、小さく開口している。かかる開口部分はトランスミッションと結合するための部分であって、その周囲にも環状の合わせ面67が形成されている。第1軸9の左端はかかる開口から引き出されてトランスミッションと結合する。ハウジング本体部23の各合わせ面27,67は、横方向に対して直交する方向に展開している。
【0033】
ハウジング本体部23の右端の環状の合わせ面27の内側には、ハウジング本体部23の右端から左側に大きく凹んでいる部位73が形成されている。ハウジング本体部23の左端の環状の合わせ面67の内側には、ハウジング本体部23の左端から右側に僅かに凹んでいる部位75が形成されている。大きく凹んでいる部位73と僅かに凹んでいる部位75とは仕切り壁部71で仕切られている。
【0034】
ハウジングカバー25は、ハウジング本体部23の右端に結合することによりその開口を閉塞するべく構造づけられている。ハウジングカバー25は、環状の側壁部77と仕切り壁部79とを備えており、ハウジングカバー25(環状の側壁部77)の一端部(左端部)には、ハウジング本体部23の合わせ面27と同一形状の環状の合わせ面31が形成されている。ハウジングカバー25の合わせ面31は、横方向に対して直交する方向に展開している。ハウジングカバー25の左端の環状の合わせ面31の内側には、ハウジング7の左端から右側に僅かに凹んでいる部位81が形成されている。
【0035】
内部空間5は、ハウジング本体部23の合わせ面27の全体とハウジングカバー25の合わせ面31全体とがお互いに面接触するように、ハウジング本体部23とハウジングカバー25とを組み付けたときに形成されるようになっている。
【0036】
すなわち、ハウジング7の内部空間5の大部分は、ハウジング本体部23の環状の合わせ面27の内側でハウジングカバー本体部23の右端から左側に大きく凹んでいる部位73で構成されており、仕切り壁部71が、内部空間5の底壁を形成している。また、ハウジング7の内部空間5の一部は、ハウジングカバー25の環状の合わせ面31の内側でハウジング7の左端から右側に僅かに凹んでいる部位81で構成されている。
【0037】
ハウジング本体部23の左端の環状の合わせ面67は、ハウジング7をトランスミッションハウジング35に設置したときにトランスミッションハウジング35に接触するようになっている。これにより、ハウジング本体部23の僅かに凹んでいる部位75で、空間83が形成される。環状の合わせ面67の下側の部位には、小さな切り欠き85が形成されている。これにより、空間83は、切り欠き85を介して、トランスファ1の外部とつながっている。
【0038】
既に述べた隔壁13は、より詳しくは、ハウジング本体部23の左端から右端の開口へ向けて一体的に延びる第1の隔壁と、ハウジングカバー25の右端から左端の開口へ向けて一体的に延びる第2の隔壁とよりなり、両者が合わせ面27,31において互いに当接することにより構成されている。ハウジング本体部23の側において、第1の隔壁は、ハウジングカバー25との合わせ面27のところから凹んでいるハウジング本体部凹部29を囲む。またハウジングカバー25の側において、第2の隔壁は、ハウジング本体部23との合わせ面31のところから凹んでいるハウジングカバー凹部33を囲む。すなわちブリーザ室17は、これらの凹部29,33により構成される。
【0039】
ハウジング本体部凹部29の深さ寸法(横方向の寸法)の値は、大きく凹んでいる部位73の深さ寸法(横方向の寸法)の値よりも小さくなっており、大きく凹んでいる部位73の深さ寸法の値の半分程度になっているとともに、ハウジングカバー凹部33の深さ寸法の値よりも大きくなっている。
【0040】
ハウジングカバー凹部33は、ハウジング本体部23との環状の合わせ面31の肉部の一部のところから一端側(たとえば右側)に凹んでいる。ハウジング本体部凹部29は、ハウジングカバー25との環状の合わせ面27の肉部の一部のところから他端側(たとえば左側)に凹んでいる。
【0041】
ブリーザ通路21は、横方向に長く延びてハウジング本体部凹部29の底面から、トランスミッション63側の空間83にわたって形成されている。
【0042】
ハウジング本体部23とハウジングカバー25とはダイキャストで形成された後、少なくとも各合わせ面27,31,67は機械加工によって平面状に加工されている。
【0043】
第1軸9と第2軸11とは、それぞれに設けられた歯車(たとえば、ヘリカルギヤ)37,39によって回転するように構成されている。第1軸9の回転中心C1の延伸方向と第2軸11の回転中心C2の延伸方向とにおいて、歯車37,39は、たとえば、ハウジング本体部23の右側でハウジング本体部23内に位置している。
【0044】
また、第2軸11の左端に近接して、第3歯車(たとえば、ベベルギヤないしハイポイドギヤ)87が設けられており、第3軸19の先端には、第4ピニオン歯車(たとえば、ベベルギヤないしハイポイドギヤ)89が設けられている。第4ピニオン歯車89が第3歯車87に噛み合っており、第2軸11によって第3軸19が回転するようになっている。
【0045】
第3軸19は、ボールベアリングを介してハウジング本体部23に回転可能に支持され、かかるボールベアリングには例えば一対のボールベアリングを備えたユニットベアリングを利用することができる。第3軸19は、予めかかるユニットベアリングと一体で組み立てておき、これと一体にハウジング本体部23に組み付けることができる。
【0046】
またかかるユニットベアリングに潤滑油を循環せしめるべく、ユニットベアリングは一以上の貫通路93,95を備え、ハウジング本体部23はこれらに連通する溝99A,99Bを備えることができる。溝99Aは例えば、ギヤ87,89の何れかまたは両方に臨み、これらが跳ね飛ばす潤滑油を受容する位置に配置されていてもよい。これに連通する貫通路93は、一対のベアリングの間に開口していてもよい。これはギヤ87,89の遠心力を利用して一対のベアリングに効率よく潤滑油を供給するのに有利である。
【0047】
貫通路95は、ユニットベアリングにおいて少なくとも周方向に貫通路93から離れており、また一対のベアリングより外方であってオイルシールより内方の空間97に開口していてもよい。複数の溝99Bは、それぞれ貫通路95を内部空間5に連絡する。ユニットベアリングを支持するアウタレースの肉厚が比較的に薄いことに鑑み、各溝99Bを比較的に浅くしてもよく、代わりにその数を多数にすることができる。貫通路93,95、溝99A,99B、空間97の組み合わせは、潤滑油が内部空間5からユニットベアリングを経由して内部空間5へ戻る一連の経路を構成する。
【0048】
ハウジングカバー25の第2の隔壁には切り欠き41が形成される。切り欠き41は、ハウジングカバー25の合わせ面31に面して形成されている(合わせ面31から左側に凹んだ形態で形成されている)。かかる切り欠き41とハウジング本体部23の第1の隔壁とが、内部空間5とブリーザ室17とを互いに連通する貫通孔15A,15Bを囲む。あるいは、切り欠き41(または貫通孔)は、ハウジング本体部23の第1の隔壁に形成されてもよい。さらにあるいは、いずれかの隔壁に開けられた孔によってのみ貫通孔15A,15Bが構成されてもよい。この場合は、合わせ面31から僅かに離れている。貫通孔15Aは第1軸9に臨むべく、より詳しくは第1歯車37に臨むべく配置されている。貫通孔15Bは第2軸11に臨むべく、より詳しくは第2歯車39に臨むべく配置されている。
【0049】
内部空間5とブリーザ室17とは、第1軸9と第2軸11との外側の(外周から外側に離れ)円弧状の隔壁13を介して区画されており、貫通孔15A,15Bは、ハウジングカバー25に形成されている円弧状の隔壁13の一部を切り欠くことのみの態様で形成されている。2以上の貫通孔15A,15B(切り欠き41)が、隔壁13の前端部と後端部とに設けられており、万一ブリーザ室17側に潤滑油3が流入した場合の潤滑油3の出口にもなっている。なお、円弧状の隔壁13の中心は、第2軸11や第1軸9の回転中心と一致している。
【0050】
また、ハウジング7(トランスファ1)が水平に対して実用上の最大の角度(たとえば、40°)傾斜しても、ハウジング7の内部空間5に入っている所定量の潤滑油3の油面が、ブリーザ室17よりも下方に位置するように構成されている。
【0051】
たとえば、横方向に延びた軸を回動中心にして前側が下側に位置し、後側が上側に位置するような回動方向に最大角度傾いたときでも、ブリーザ室17は油面L2(
図5参照)の上方に位置している。なお、
図5で示す直線L1の延伸方向は、トランスファ1が搭載された自動車45が、水平な走行面上にあるときの水平方向を示している。
【0052】
また、横方向に延びた軸を回動中心にして前側が上側に位置し、後側が下側に位置するような回動方向に最大角度傾いたときでも、ブリーザ室17は油面L3(
図5参照)の上方に位置している。
【0053】
また、前後方向に延びた軸を回動中心にして左側が下側に位置し右側が上側に位置するような回動方向に最大角度傾いたときでも、ブリーザ室17は油面L4(
図7参照)の上方に位置している。
【0054】
また、前後方向に延びた軸を回動中心にして左側が上側に位置し右側が下側に位置するような回動方向に最大角度傾いたときでも、ブリーザ室17は油面L5(
図8参照)の上方に位置している。
【0055】
さらに、
図5、
図7、
図8で示すような油面(L2,L3,L4,L5)の状態になったときであっても、貫通孔15A,15Bは、油面(L2,L3,L4,L5)の上方に位置している。
【0056】
また、水平状態、または、
図5で示すような油面(L2,L3)の状態、または、
図8で示すような油面L5の状態では、ブリーザ室17に潤滑油3が入ったとしても、この入った潤滑油3が貫通孔15A,15Bを通って内部空間5内に戻るようになっている。
【0057】
つまり、水平状態から任意の方向に最大の角度まで傾く間の姿勢では、ブリーザ室17と貫通孔15A,15Bとが油面の上方に位置し、水平状態から所定の方向に所定の角度まで傾く間の姿勢では、ブリーザ室17に入った潤滑油3が貫通孔15A,15Bの何れかを通って内部空間5内に戻るように構成されている。
【0058】
ハウジング本体部凹部29は、
図4で示すように、2以上の凹部29A,29Bに区画されていてもよい。凹部29Aは第2軸11に隣接し、凹部29Bは第1軸9に隣接する。これらを区画するべく、第1の隔壁からハウジング本体部23の外殻へ一体的に延びる第3の隔壁を、ケーシング本体23は備える。ブリーザ通路21は、複数のハウジング本体部凹部29のうちの最も上側に位置している1つのハウジング本体部凹部29Aのみに設けられている。
【0059】
複数のハウジング本体部凹部29(29A,29B)は、ハウジングカバー凹部33によってお互いが連通している。
【0060】
次に、トランスファ1の動作について説明する。
【0061】
各軸9,11,19が回転を停止しているときには、潤滑油3は、内部空間5の下側に溜まっている。
【0062】
各軸9,11,19が回転すると、内部空間5内の潤滑油3が歯車37,39等で攪拌される。これにより、潤滑油3が、内部空間5の上側に飛ぶ。しかし、この飛んだ潤滑油3は、ブリーザ室17内に入ることなく、内部空間5の内壁にぶつかり、内部空間5の内壁をつたって下方に移動する。なお、僅かな量の潤滑油3がブリーザ室17内に入ったとして、この入った潤滑油3は、貫通孔15A,15Bの何れかを通って落下し、内部空間5に戻る。なお、
図4、
図5で示す矢印は、第1軸9、第2軸11の回転方向を示している。
【0063】
また、各軸9,11,19が回転することで内部空間5内の圧力が上昇しようとしても、内部空間5内の空気が、貫通孔15A,15B、ブリーザ室17、ブリーザ通路21、空間83、切り欠き85を介して大気に開放されるので、内部空間5内の圧力が上昇することが抑制される。
【0064】
トランスファ1によれば、ハウジング7の内部空間5から隔壁13を隔てて区画されているブリーザ室17が、ハウジング7に設けられている回転軸9,11の回転中心C1,C2よりも上側に位置しているので、回転軸9,11が回転しても、内部空間5内の潤滑油3がブリーザ室17内へ入り難くなる。また、内部空間5とブリーザ室17とをつないでいる貫通孔15A,15Bも、回転軸9,11の回転中心C1,C2よりも上側に位置しているので、内部空間5内の潤滑油3がブリーザ室17内へ入り難くなる。
【0065】
また、トランスファ1によれば、ブリーザ室17が第2軸11の回転中心C2よりも前側に位置しているので、トランスファ1の後方への突出量が少なくなり、トランスファ1のハウジング7の外に設置されている自動車45の部品(たとえば、排気管)との干渉を無くすことができる。
【0066】
また、トランスファ1によれば、ブリーザ室17が、前後方向で、第1軸9の回転中心C1と第2軸11の回転中心C2との間に設けられているので、ハウジング7が大きくなることが抑制される。
【0067】
また、トランスファ1によれば、隔壁13が第1歯車37と第2歯車39の外径側に位置しているので、一対の噛み合う歯車37,39の外径側でハウジング7の壁が二重になっており、ハウジング7の強度が向上し、各歯車37,39同士の噛み合いにおいて静粛性が増し、振動を抑制することができる。
【0068】
また、トランスファ1によれば、ブリーザ室17とハウジング7の外部とをお互いにつないでいるブリーザ通路21が設けられているが、ハウジング7の肉部を機械加工(たとえば、ドリル加工)することで形成された場合には、ブリーザ通路21を細長くすることが容易であるとともに、ブリーザ通路21を正確な形状で正確な位置に設けることができる。
【0069】
また、トランスファ1によれば、ブリーザ通路21が、ブリーザ室17側が下方に位置しハウジング7の外部側が上方に位置するようにして、斜め方向に延びているので、ブリーザ室17に潤滑油3が稀に入ったとしてもハウジング7の外部には漏れ出ない。
【0070】
また、トランスファ1によれば、ブリーザ室17が、ハウジングカバー25との合わせ面27のところから凹んでいるハウジング本体部凹部29と、ハウジング本体部23との合わせ面31のところから凹んでいるハウジングカバー凹部33とで構成されているので、別途部品を設けること無く、ブリーザ室17をハウジング本体部23とハウジングカバー25との組立で形成することができ、製造コストが低減される。
【0071】
また、トランスファ1によれば、第1軸9の回転中心C1の延伸方向と第2軸11の回転中心C2の延伸方向で、歯車37,39がハウジング本体部23内に位置しており、内部空間5とブリーザ室17とをお互いに連通している貫通孔15A,15Bがハウジングカバー25に形成されている切り欠き41で形成されているので、第1軸9の回転中心C1の延伸方向で、各歯車37,39の位置と貫通孔15A,15Bの位置とがずれており、歯車37,39の回転による遠心力で発生する潤滑油3の飛沫が貫通孔15A,15Bに到達し難くなっている。
【0072】
また、トランスファ1によれば、ハウジング7が水平位置に対して実用上の最大の角度(たとえば、40°)傾斜しても、ハウジング7の内部空間5に入っている所定量の潤滑油3の油面が、ブリーザ室17よりも下方に位置するように構成されているので、自動車45が傾いたときでも潤滑油3がハウジング7の外に流れ出ない。
【0073】
主に
図12を参照するに、ハウジング本体部凹部29は、第3の隔壁により複数の凹部(たとえば、2つ;29A,29B)に区画されており、ブリーザ通路21はこれらのうちの最も上側に位置している凹部29Aのみに連通している。複数のハウジング本体部凹部29は、ハウジングカバー凹部33によってお互いが連通している。例えば貫通孔15Aから侵入した潤滑油および空気の流れFは、一旦凹部29B内を通り、第3の隔壁に遮られて蛇行した後に凹部29Aに流入する。ブリーザ室17の内部の空間は十分に広いために流れFはごく遅くなり、しかも蛇行するため、潤滑油LOと空気Aに分離する。空気Aは凹部29Aを通過してブリーザ通路21に流入し、外部へと逃げることができる。
【0074】
凹部29Aは、
図2B,4から明らかな通り、凹部29Bよりも上方にあるので、分離された潤滑油LOは重力に逆らってブリーザ通路21へ侵入することはできない。あるいは、万が一多量の潤滑油LOが凹部29Bに侵入したとしても、凹部29Bが満たされない限り凹部29Aには侵入し得ない。潤滑油LOは貫通孔15Aに戻るか、あるいは他方の貫通孔15Bに達し、何れかを通って内部空間5へ戻る。2以上の貫通孔15A,15Bがあるために、潤滑油の逃げ道があるので、圧の高まった空気が潤滑油を押し上げてしまうことはない。
【0075】
また
図2Bより明らかな通り、第1歯車37は貫通孔15Aに近接しているために、第1歯車37が跳ね上げる潤滑油は貫通孔15Aに侵入し易い。ところが貫通孔15Bは第1歯車37から遠く、また第2歯車39は第1歯車37よりも小径であるために貫通孔15Bからは遠く、従ってこれらの歯車37,39が跳ね上げる潤滑油は貫通孔15Bに侵入し難い。従って2番目の貫通孔15Bは潤滑油の回収に効果を示すが、ここから潤滑油が流入して外部へ漏洩することは起こりにくい。
【0076】
なお、ハウジングカバー25側にも設けられたブリーザ室17は、ハウジング本体部23側にだけブリーザ室17を形成し、ハウジングカバー25側はこのブリーザ室17の端面を塞ぐフラット壁面としてもよい。この場合に、貫通孔15A,15Bはハウジング本体部23側に設けられる。さらに、ハウジング本体部23側にのみブリーザ室17を設ける場合には、ブリーザ室17の端面を塞ぐために別部材のプレートを設け、その端面に取り付けるとともに、その端面の周囲にボルト止めや溶接などでプレートを固定してもよい。
【0077】
2つの貫通孔が何れもハウジングカバー25に設けられていなくてもよく、何れか一方はハウジング本体部23に設けられてもよい。そのような貫通孔を形成するべく、
図9Aに示す如く、ハウジング7の外部から内部へ貫通するように、ハウジング7にボア91が開けられていてもよい。
図9B,10を参照するに、ボア91は凹部29Bおよび隔壁13を貫通し、凹部29Bと内部空間5とを連通する貫通孔15Cを形成する。ボア91は適宜のプラグにより閉塞でき、また潤滑油を注入するために利用することもできる。かかるハウジング本体部23には、
図11に例示するごとく、唯一の貫通孔15Aのみを備えるハウジングカバー25を組み合わせることができる。
【0078】
図13を参照するに、前述の実施形態と同様に、貫通孔15Aから侵入した潤滑油および空気の流れFは、一旦凹部29B内を通り、蛇行するようにして凹部29Aに流入する。流れFはその間に、潤滑油LOと空気Aに分離し、空気Aは凹部29Aを通過してブリーザ通路21を経由して外部へと逃げることができる。貫通孔15Cが凹部29Bにあるために潤滑油LOは凹部29Bを満たすに至らず、従って凹部29Aを通ってブリーザ通路21に侵入することはない。潤滑油LOは貫通孔15Aまたは15Cから内部空間5へ戻る。2以上の貫通孔15A,15Cがあるために、圧の高まった空気が潤滑油を押し上げてしまうことはない。
【0079】
また
図9Bより明らかな通り、貫通孔15Cは第1軸9に臨んでいるが、第1歯車37には臨んでおらず、もちろん何れの歯車にも近接していない。何れかの歯車が跳ね上げる潤滑油が貫通孔15Cに侵入することは起こり難い。従って貫通孔15Cは潤滑油の回収に効果を示すが、潤滑油の漏洩を促すことはない。
【0080】
好適な実施形態により本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記開示内容に基づき、当該技術分野の通常の技術を有する者が、実施形態の修正ないし変形により本発明を実施することが可能である。