特許第6243515号(P6243515)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6243515耐食性、加工性に優れた水系潤滑皮膜処理剤及び金属材料
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  • 特許6243515-耐食性、加工性に優れた水系潤滑皮膜処理剤及び金属材料 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243515
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】耐食性、加工性に優れた水系潤滑皮膜処理剤及び金属材料
(51)【国際特許分類】
   C10M 173/02 20060101AFI20171127BHJP
   C10M 103/02 20060101ALN20171127BHJP
   C10M 103/06 20060101ALN20171127BHJP
   C10M 105/22 20060101ALN20171127BHJP
   C10M 105/58 20060101ALN20171127BHJP
   C10M 105/68 20060101ALN20171127BHJP
   C10M 105/70 20060101ALN20171127BHJP
   C10M 107/38 20060101ALN20171127BHJP
   C10M 109/00 20060101ALN20171127BHJP
   B21C 9/00 20060101ALN20171127BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20171127BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20171127BHJP
   C10N 50/02 20060101ALN20171127BHJP
【FI】
   C10M173/02
   !C10M103/02 Z
   !C10M103/06 A
   !C10M103/06 C
   !C10M103/06 E
   !C10M103/06 F
   !C10M105/22
   !C10M105/58
   !C10M105/68
   !C10M105/70
   !C10M107/38
   !C10M109/00
   !B21C9/00 M
   C10N10:12
   C10N40:24
   C10N50:02
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-510293(P2016-510293)
(86)(22)【出願日】2015年3月20日
(86)【国際出願番号】JP2015058425
(87)【国際公開番号】WO2015146818
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2016年5月30日
(31)【優先権主張番号】特願2014-68039(P2014-68039)
(32)【優先日】2014年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】畠山 豪
(72)【発明者】
【氏名】小見山 忍
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/043087(WO,A1)
【文献】 特開2010−018829(JP,A)
【文献】 特開昭51−084786(JP,A)
【文献】 特開昭61−002797(JP,A)
【文献】 特開2002−363593(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/080774(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/001653(WO,A1)
【文献】 特開2013−209625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00−80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ケイ酸塩(A)と、タングステン酸塩(B)と、滑剤(D)とを、固形分質量比(B)/(A)が0.7〜25の範囲となるよう配合してなり、前記滑剤(D)がワックス、ポリテトラフルオロエチレン、脂肪酸石鹸、脂肪酸金属石鹸、脂肪酸アマイド、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、メラミンシアヌレート、層状構造アミノ酸化合物及び層状粘土鉱物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする水系潤滑皮膜処理剤。
【請求項2】
樹脂成分(C)を含み、その固形分質量比が(C)/{(A)+(B)}が0.01〜3であることを特徴とする請求項1に記載の水系潤滑皮膜処理剤。
【請求項3】
樹脂成分(C)が、ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、セルロース誘導体、ポリマレイン酸、ポリオレフィン及びポリエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の水系潤滑皮膜処理剤。
【請求項4】
前記滑剤(D)、その固形分質量比(D)/{(A)+(B)}が0.01〜6の範囲となるように配合してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の水系潤滑皮膜処理剤。
【請求項5】
請求項1〜の何れか一項に記載の水系潤滑皮膜処理剤を塗布し乾燥することで金属材料表面上に、付着量として0.5〜40g/mの潤滑皮膜が形成された金属材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種金属材料に塑性加工を行う際に適用する水系潤滑皮膜処理剤、並びに、金属材料表面上に当該処理剤を塗布し乾燥して皮膜を形成させた金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
塑性加工用潤滑剤としては、りん酸塩皮膜と石鹸を利用した複合皮膜である所謂化成処理皮膜が一般的である。しかし、化成処理皮膜は、金属材料との反応に伴う副生成物や水洗水等の排水処理や、長大な処理スペース等の問題があり、近年は環境に配慮した水系の塗布型1液潤滑剤が開発されている。
【0003】
特許文献1には、(A)水溶性無機塩と(B)ワックスを水に溶解又は分散させた組成物で、固形分質量比(B)/(A)が0.3〜1.5の範囲内にあることを特徴とする金属材料塑性加工用水系潤滑皮膜処理剤とその皮膜形成方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、アルカリ金属ホウ酸塩(A)を含有する水系潤滑皮膜処理剤において、アルカリ金属ホウ酸塩(A)にホウ酸リチウムを含み、アルカリ金属ホウ酸塩(A)における全アルカリ金属に対するリチウムのモル比率が0.1〜1.0であって、かつ、アルカリ金属ホウ酸塩(A)のホウ酸Bとアルカリ金属Mとのモル比率(B/M)が1.5〜4.0であることを特徴とする金属材料塑性加工用水系潤滑皮膜処理剤とその皮膜形成方法が開示されている。この技術は皮膜が吸湿することによって発生する皮膜の結晶化を抑制することで加工性のみならず、高い耐食性を有する皮膜を形成することができるとされている。
【0005】
特許文献3には、A成分:無機系固体潤滑剤と、B成分:ワックスと、C成分:水溶性無機金属塩とを含有し、A成分とB成分の固形分質量比(A成分/B成分)が0.1〜5であり、A成分、B成分、及びC成分の合計量に対するC成分の固形分質量比率(C成分/(A成分+B成分+C成分))が1〜30%であることを特徴とする非リン系塑性加工用水溶性潤滑剤が開示されている。この技術はリンを含有しない潤滑剤であり、且つ化成処理皮膜と同等の耐食性が実現できるとされている。
【0006】
特許文献4には、水溶性無機塩(A)と、二硫化モリブデン、グラファイトから選ばれる滑剤(B)と、ワックス(C)とを含有し、かつこれ等は水に溶解又は分散しており、(B)/(A)が固形分重量比で1.0〜5.0、(C)/(A)が固形分重量比で0.1〜1.0である水系潤滑皮膜処理剤とその皮膜形成方法が開示されている。この技術は従来の水系潤滑皮膜処理剤に二硫化モリブデンやグラファイトを配合することで、化成処理皮膜と同等レベルの高い加工性を実現できるとされている。
【0007】
特許文献5には、珪酸塩(A)と、ポリカルボン酸塩(B)と、水親和性ポリマー及び/又は水親和性有機ラメラ構造体(C)と、モリブデン酸塩及び/又はタングステン酸塩(D)とを含有し、前記各成分の質量比がB/A=0.02〜0.6、C/A=0.05〜0.6、D/A=0.05〜0.6である皮膜形成剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開WO02/012420
【特許文献2】特開2011−246684
【特許文献3】特開2013−209625
【特許文献4】国際公開WO02/012419
【特許文献5】特開2002−363593
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献1〜5に係る水系潤滑皮膜処理剤を用いても、実用環境で化成処理皮膜に匹敵するような高い耐食性(特に長期防錆性)や強加工時の加工性を同時に兼ね備えた皮膜を形成できないという課題がある。また、ケイ酸塩が含まれる水系潤滑皮膜処理剤を用いた場合には、脱膜不良となり、めっき不良や酸化スケールの剥離不良などの原因となることがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行ってきた結果、水溶性ケイ酸塩と特定の水溶性無機塩とをある特定の比率で複合した皮膜を形成することにより、それら成分単体では決して成しえなかった高い耐食性(特に長期防錆性)と加工性及び十分な脱膜性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明(1)は、水溶性ケイ酸塩(A)と、タングステン酸塩、リン酸塩及びホウ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の水溶性無機塩(B)とを、固形分質量比(B)/(A)が0.7〜25の範囲となるよう配合してなることを特徴とする水系潤滑皮膜処理剤である。
【0012】
本発明(2)は、樹脂成分(C)を含み、その固形分質量比が(C)/{(A)+(B)}が0.01〜3であることを特徴とする前記発明(1)の水系潤滑皮膜処理剤である。
【0013】
本発明(3)は、樹脂成分(C)が、ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、セルロース誘導体、ポリマレイン酸、ポリオレフィン及びポリエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記発明(2)の水系潤滑皮膜処理剤である。
【0014】
本発明(4)は、滑剤(D)を含み、その固形分質量比が(D)/{(A)+(B)}が0.01〜6であることを特徴とする前記発明(1)〜(3)の水系潤滑皮膜処理剤である。
【0015】
本発明(5)は、滑剤(D)が、ワックス、ポリテトラフルオロエチレン、脂肪酸石鹸、脂肪酸金属石鹸、脂肪酸アマイド、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、メラミンシアヌレート、層状構造アミノ酸化合物及び層状粘土鉱物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記発明(4)の水系潤滑皮膜処理剤である。
【0016】
本発明(6)は、前記発明(1)〜(5)の塑性加工用水系潤滑皮膜処理剤を塗布し乾燥することで金属材料表面上に、付着量として0.5〜40g/mの潤滑皮膜が形成された、塑性加工性に優れた金属材料である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の水系潤滑皮膜処理剤を用いれば、実用上の耐食性、加工性、脱膜性に優れた潤滑皮膜が得られる。また、それらの性能は化成処理皮膜と同等以上の水準である点が従来の水系潤滑皮膜と比べて大きく優れた点である。本発明の水系潤滑皮膜処理剤を塗布し乾燥することで、金属材料表面上に前述した優れた特性を有する皮膜を形成した金属材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、据えこみ−ボールしごき試験(耐焼付き性評価)での評価の目安である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を以下の順で詳述する。
・水系潤滑皮膜処理剤(成分又は原料、組成等)
・水系潤滑皮膜処理剤の製造方法
・水系潤滑皮膜処理剤の用途
・水系潤滑皮膜処理剤の使用方法
【0020】
≪水系潤滑皮膜処理剤≫
本発明の水系潤滑皮膜処理剤は、水溶性ケイ酸塩(A)(以下、ケイ酸塩(A)と記載する)と、タングステン酸塩、リン酸塩及びホウ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の水溶性無機塩(B)(以下、無機塩(B)と記載する)とを、固形分質量比(B)/(A)が0.7〜25の範囲となるように配合してなる。この範囲で配合することで、ケイ酸塩(A)や無機塩(B)単独では成し得なかった高い耐食性、加工性、十分な脱膜性を有する皮膜を形成できる。尚、本特許請求の範囲及び本明細書にいう「水溶性」とは、室温(25℃)での水への溶解度{水100gに溶ける溶質の質量(g)}が少なくとも1gであり、好ましくは10g以上であることを意味する。
【0021】
ケイ酸塩(A)と無機塩(B)とを複合して皮膜とした場合、ケイ酸塩(A)が形成するネットワーク構造の中に無機塩(B)が微細且つ均一に取り込まれることとなる。その結果、ケイ酸塩(A)の脆い皮膜が柔軟になり、加工性が向上する。また、ケイ酸塩(A)のネットワーク構造の中に無機塩(B)が取り込まれることで皮膜がより密になり、バリア性が上がり、耐食性(特に長期防錆性)が向上する。また、ケイ酸塩(A)のネットワーク構造が無機塩(B)によって適度に阻害されることにより脱膜性が向上する。
【0022】
上記性能の発現にはケイ酸塩(A)と無機塩(B)の比率が重要である。この性能は固形分質量比が(B)/(A)が0.7〜25の範囲内で発現するが、0.9〜10.0の範囲であれば好ましく、1.1〜3.0の範囲であればより好ましい。(B)/(A)が0.7を下回ると十分な耐食性、加工性が得られない他、脱膜性が劣る皮膜となる。これは相対的にケイ酸塩量が増えることにより、強固なネットワーク構造を形成してしまうことに起因する。(B)/(A)が25を上回ると十分な耐食性が得られない他、皮膜の密着性、均一性に劣る皮膜となる。これは、相対的にケイ酸塩量が少なすぎるために、十分なネットワーク構造が構築できず、バリア性が低下すること、皮膜の密着性、均一性が低下することに起因する。
【0023】
また、特にケイ酸塩とタングステン酸塩とを組み合わせた場合は、タングステン特有の自己修復機能を有する不動態皮膜の形成により、耐食性が著しく向上する。また、自己修復機能を有していることから、鋼材同士の接触等によって皮膜に欠陥ができた場合でも安定した耐食性を得ることが出来る。このため、冷間鍛造用潤滑処理剤で用いられるバレルを使用した大量処理や線材のコイル処理など、同時に多量の材料を処理する場合にも安定した耐食性を発揮しやすい。
【0024】
本発明に係る皮膜処理剤で用いられるケイ酸塩(A)としては、例えば、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせてもよい。特にケイ酸リチウム及び/又はケイ酸ナトリウムの使用が好ましい。
【0025】
本発明に係る皮膜処理剤で用いられる無機塩(B)の種類を具体的に挙げる。タングステン酸塩としては、例えば、タングステン酸リチウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸アンモニウムが挙げられる。リン酸塩としては、例えば、リン酸アンモニウム、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムが挙げられる。なお、リン酸塩は、トリポリリン酸、メタリン酸、ピロリン酸などの縮合リン酸の塩も包含する。ホウ酸塩としては、例えば、ホウ酸ナトリウム(四ホウ酸ナトリウム等)、ホウ酸カリウム(四ホウ酸カリウム等)、ホウ酸アンモニウム(四ホウ酸アンモニウム等)が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせてもよい。
【0026】
次に樹脂成分(C)について説明する。樹脂成分(C)は、バインダー作用、基材と皮膜の密着性向上、増粘作用によるレベリング性の付与、分散成分の安定化、バリア性の向上を目的として配合される。そのような機能及び性質を有する樹脂成分(C)としては、例えば、ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、セルロース誘導体、ポリマレイン酸、ポリオレフィン、ポリエステルが挙げられる。ここで用いられる樹脂成分(C)は、皮膜形成性を有するものであれば特に制限はなく、一般的には水溶性もしくは水分散状態で供給されている。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせてもよい。
【0027】
水系潤滑皮膜処理剤は、ケイ酸塩(A)と無機塩(B)と樹脂成分(C)の固形分質量比が(C)/{(A)+(B)}が0.01〜3であることが好ましく、(C)/{(A)+(B)}が0.1〜1.5であることがより好ましい。0.01未満だと樹脂成分(C)に期待するバインダー作用、基材と皮膜の密着性向上、増粘作用によるレベリング性の付与、分散成分の安定化、バリア性の向上等が十分に発揮されない場合があり、3を超える場合はケイ酸塩や無機塩の量が相対的に少なくなってしまい、高い耐食性と加工性が十分に発現できなくなる場合がある。
【0028】
次に、滑剤(D)について説明する。滑剤(D)は、それ自体が潤滑性を持ちすべり性があり、加工時のダイスと被加工材の間での摩擦力を低減させる機能を有する。一般に塑性加工時に摩擦力が増大すると加工エネルギーの増大や発熱、焼付き等が発生するが、滑剤(D)を本発明の水系潤滑皮膜処理剤に含ませると、摩擦力の増大が抑制されることになる。そのような機能及び性質を有する滑剤(D)としては、例えば、ワックス、ポリテトラフルオロエチレン、脂肪酸石鹸、脂肪酸金属石鹸、脂肪酸アマイド、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、メラミンシアヌレート、層状構造アミノ酸化合物及び層状粘土鉱物が挙げられる。この中でも、耐食性や液安定性の観点から、ワックス、ポリテトラフルオロエチレン、脂肪酸石鹸、脂肪酸金属石鹸、脂肪酸アマイド、メラミンシアヌレート、層状構造アミノ酸化合物及び層状粘土鉱物の配合がより好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせてもよい。ここで、ワックスとしては、具体例として、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリプロピレンワックス、カルナバワックスが挙げられる。また、脂肪酸石鹸としては、具体例として、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウムが挙げられる。また、脂肪酸金属石鹸としては、具体例として、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウムが挙げられる。また、脂肪酸アマイドは脂肪酸を2つ有するアミド化合物であり、具体例として、エチレンビスラウリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アマイド、N-N’-ジステアリルアジピン酸アマイド、エチレンビスオレイン酸アマイド、エチレンビスエルカ酸アマイド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アマイド、N-N’-ジオレイルアジピン酸アマイドが挙げられる。また、層状構造アミノ酸化合物は、分子構造内に炭素数11以上の炭化水素基を有するアミノ酸もしくはその誘導体である。具体例として、N−ラウロイル−L−リジン[C11H23CONH(CH24CH(NH2)COOH]が挙げられる。層状粘土鉱物としては、スメクタイト群、バーミキュライト群、雲母群、脆雲母群、パイロフィライト群、カオリナイト群の天然品もしくは合成品が挙げられる。より詳しく具体例を挙げると、スメクタイト群ではモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、鉄サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト、バーミキュライト群ではdi.バーミキュライト、tri.バーミキュライト、雲母群では白雲母、パラゴナイト、イライト、フロゴパイト、黒雲母、紅雲母、レピドライト、脆雲母群ではマーガライト、クリントナイト、パイロフィライト群ではパイロフィライト、滑石、カオリナイト群ではカオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライトが挙げられる。また、これらの層状粘土鉱物は有機処理を行うことで層間に有機変性剤が導入されていても良い。有機処理は層状粘土鉱物を水で膨潤させて層間距離を広げた状態で有機変性剤を導入する方法で行われる。有機変性剤は層間で吸着して強固な結合を形成するアルキルアミン又はアルキル四級アンモニウム塩であって具体例としてステアリルジメチルアミン、ジステアリルアミン、ジステアリルジメチルアミン、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。
【0029】
本発明に係る水系潤滑皮膜処理剤の滑剤(D)の配合比率について説明する。滑剤(D)を配合する場合、ケイ酸塩(A)と無機塩(B)と滑剤(D)の固形分質量比が(D)/{(A)+(B)}が0.01〜6の範囲であることが好ましく、0.1〜2の範囲であることがより好ましい。ここで(D)/{(A)+(B)}が0.01未満では、滑剤(D)に期待する摩擦低減作用が十分に発揮されず、6を超える場合はケイ酸塩(A)と無機塩(B)の量が相対的に少なくなってしまい、高い耐食性と加工性が十分に発現できなくなる場合がある。
【0030】
本発明の水系潤滑皮膜処理剤は、ケイ酸塩(A)、無機塩(B)、樹脂成分(C)、滑剤(D)以外にも、基材に潤滑剤を塗布した際に均一な塗布状態を確保するためにレベリング性とチクソ性を付与する目的で粘度調整剤を配合することができる。なお、これらの配合量は全固形分質量に対して0.1〜50質量%が好ましい。そのような粘度調整剤としては、具体例として、モンモリロナイト、ソーコナイト、バイデライト、ヘクトライト、ノントロナイト、サポナイト、鉄サポナイト及びスチブンサイト等のスメクタイト系粘土鉱物や微粉シリカ、ベントナイト、カオリン等の無機系の増粘剤が挙げられる。
【0031】
本発明の水系潤滑皮膜処理剤は加工前後における高い耐食性を付与することができるが、更に耐食性を向上させる目的で、他の水溶性防錆剤やインヒビターを配合しても良い。具体例として、オレイン酸、ダイマー酸、酒石酸、クエン酸等の各種有機酸、EDTA、NTA、HEDTA、DTPA等の各種キレート剤、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミンの混合成分やp−t−ブチル安息香酸のアミン塩類等、カルボン酸アミン塩、2塩基酸アミン塩基、アルケニルコハク酸及びその水溶性塩とアミノテトラゾール及びその水溶性塩の併用等、公知のものを用いることができる。なお、これらは単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせてもよい。これらの配合量は全固形分質量に対して0.1〜30質量%が好ましい。
【0032】
本発明の水系潤滑皮膜処理剤における液体媒体(溶媒、分散媒体)は水である。尚、乾燥工程での潤滑剤の乾燥時間短縮化のために水よりも低沸点のアルコールを配合してもよい。
【0033】
本発明の水系潤滑皮膜処理剤には液の安定性を高めるため、水溶性の強アルカリ成分を含んでいても良い。具体例として、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせてもよい。これらの配合量は全固形分質量に対して0.01〜10質量%が好ましい。
【0034】
非水溶性物質を分散させるために、界面活性剤を使用することも許容される。しかし、(A)(B)(C)(D)以外の添加量については、要求性能を低下させない範囲内で、水系潤滑皮膜剤固形分の50質量%を超えないことが好ましい。逆にいえば、(A)(B)(C)(D)の添加量の総量は、水系潤滑被膜剤固形分を基準として、50質量%以上であることが好適であり、70質量%以上であることがより好適であり、85質量%以上であることが更に好適である。
【0035】
≪水系潤滑皮膜処理剤の製造方法≫
本発明に係る水系潤滑皮膜処理剤は、例えば、液体媒体である水に、ケイ酸塩(A)と無機塩(B)、更に樹脂成分(C)、滑剤(D)等を添加して混合することにより製造される。混合は、プロペラ攪拌、ホモジナイザー等の一般的な方法で行われる。
【0036】
≪水系潤滑皮膜処理剤の用途≫
本発明の水系潤滑皮膜処理剤は、好適には鍛造、伸線、伸管、ロールフォーミング、プレス等の冷間領域での塑性加工用である。
【0037】
・使用対象である金属材料
本発明の水系潤滑皮膜処理剤は、鉄もしくは鋼、ステンレス、銅もしくは銅合金、アルミニウムもしくはアルミニウム合金、チタンもしくはチタン合金等の金属材料に適用される。金属材料の形状としては、棒材やブロック材等の素材だけでなく、鍛造後の形状物(ギヤやシャフト等)にも適用され、特に限定されない。
【0038】
・下地皮膜としての使用
本発明の水系潤滑皮膜処理剤は、他の湿式潤滑剤や乾式潤滑剤の下地皮膜処理剤としても使用することができる。下地皮膜として用いることにより、他の湿式潤滑剤や乾式潤滑剤の加工性、耐食性を底上げすることができる。組み合わせる潤滑剤の種類は特に限定されないが、例えば湿式潤滑剤としては上記特許文献1〜4に代表されるような一般的な水系潤滑皮膜処理剤や、石灰石鹸、鍛造油を用いることができる。また、乾式潤滑剤としては、例えば高級脂肪酸石鹸、ボラックス、石灰、二硫化モリブデン等を主成分とするような一般的な潤滑パウダーや伸線パウダーが使用できる。
【0039】
≪水系潤滑皮膜処理剤の使用方法≫
次に、本発明の水系潤滑皮膜処理剤の使用方法を説明する。本使用方法は、金属材料の清浄化工程、水系潤滑皮膜処理剤の適用工程及び乾燥工程を含む。以下、使用対象である金属材料及び各工程を説明することとする。
【0040】
・清浄化工程(前処理工程)
金属材料に水系潤滑皮膜を形成させる前に、ショットブラスト、サンドブラスト、ウェットブラスト、ピーリング、アルカリ脱脂及び酸洗浄よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の清浄化処理を行うことが好ましい。ここでの清浄化とは、焼鈍等により成長した酸化スケールや各種の汚れ(油など)を除去することを目的とするものである。
【0041】
・適用工程
本発明の水系潤滑皮膜を金属材料に適用する工程は、特に限定されるものではないが、浸漬法、フローコート法、スプレー法などを用いることができる。塗布は金属表面が充分に本発明の水系潤滑皮膜処理剤に覆われればよく、塗布する時間に特に制限は無い。乾燥性を高めるために金属材料を60〜80℃に加温して金属材料塑性加工用水系潤滑皮膜処理剤と接触させてもよいし、40〜70℃に加温した金属材料塑性加工用水系潤滑皮膜処理剤を接触させてもよい。これらにより、乾燥性が大幅に向上して乾燥が常温で可能になる場合もあり、熱エネルギーのロスを少なくすることもできる。
【0042】
金属表面に形成させる水系潤滑皮膜の付着量は、その後の加工の程度により適宜コントロールされるが、付着量として0.5〜40g/mの範囲であることが好適であり、より好ましくは2〜20g/mの範囲である。この付着量が0.5g/m未満の場合は潤滑性が不充分となる。また、付着量が40g/mを超えると潤滑性は問題ないが、金型へのカス詰まり等が生じ好ましくない。付着量は、処理前後の金属材料の質量差及び表面積より計算することができる。付着量をコントロールするためには水系潤滑皮膜処理剤の固形分質量(濃度)を適宜調節する。高濃度の水系潤滑皮膜剤を作成し、水で希釈することで目的の付着量を得る。希釈調整する水は、特に限定されないが、脱イオン水、蒸留水が好ましい。
【0043】
・乾燥工程
特に限定するものではないが、60〜150℃で1〜30分程度実施することが好ましい。
【0044】
・任意工程1(下地皮膜工程)
本発明の水系潤滑皮膜処理剤は加工時に金型と被加工材との間での焼き付きを防止し、加工前後における高い耐食性を付与することができるが、更に加工性や耐食性を向上させる目的で下地皮膜処理を行っても良い。下地皮膜処理は反応型皮膜であっても非反応型皮膜であってもよい。反応型皮膜の具体例として、リン酸塩、酸化鉄、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、モリブデン酸塩、シュウ酸塩、タンニン酸などが挙げられる。非反応型皮膜の具体例として、ケイ酸塩、ホウ酸塩、ジルコニウム化合物、バナジウム化合物、コロイダルシリカ、樹脂コーティング膜などが挙げられる。
【0045】
・任意工程2(脱膜工程)
本発明の水系潤滑皮膜処理剤により形成された潤滑皮膜は、水系のアルカリ洗浄剤に浸漬するかスプレー洗浄することによって脱膜可能である。アルカリ洗浄剤は、水に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の一般的なアルカリ成分を溶解させた液であり、これに水系潤滑皮膜を接触させると水系潤滑皮膜は洗浄液中に溶解するので容易に脱膜することができる。よってアルカリ洗浄での脱膜不良による、後工程への汚染がなくメッキ不良や酸化スケールの剥離不良を未然に防ぐことができる。
【実施例】
【0046】
本発明の実施例を比較例と共に挙げることによって、本発明の効果を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
≪実施例A≫
【0047】
(1−1)水系潤滑皮膜処理剤の製造
以下に示す各成分を表1〜2に示す組み合わせ及び割合にて実施例1〜9、12〜16、比較例1〜8及び参考例1〜2の水系潤滑皮膜処理剤を調製した。なお、比較例9はリン酸塩/石鹸処理である。
【0048】
<ケイ酸塩>
(A−1)ケイ酸ナトリウム(NaO・nSiO n=3)
(A−2)ケイ酸リチウム(LiO・nSiO n=3.5)
(A−3)ケイ酸カリウム(KO・nSiO n=2.3)
<無機塩>
(B―1)タングステン酸ナトリウム
(B−2)トリポリリン酸ナトリウム
(B−3)メタホウ酸カリウム
<樹脂成分>
(C−1)イソブチレン・無水マレイン酸共重合体のナトリウム中和塩(分子量約165,000)
<潤滑成分>
(D−1)アニオン性ポリエチレンワックス(平均粒子径5μm)
(D−2)非膨潤性合成雲母(平均粒子径5.0μm)
【0049】
(1−2)水系潤滑皮膜処理剤の使用方法
<標準工程>
(a)脱脂:市販の脱脂剤(ファインクリーナーE6400、日本パーカライジング(株)製)濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分
(b)水洗:水道水、常温、浸漬20秒
(c)酸洗:17.5%塩酸、常温、浸漬20分
(d)水洗:水道水、常温、浸漬20秒
(e1)〜(e3)潤滑処理:各実施例及び比較例毎に記述する
(f)乾燥:100℃、10分
<実施例1〜9、12〜15、比較例1〜8及び参考例1〜2の潤滑処理>
(e1)潤滑皮膜処理:(1−1)で製造した水系潤滑皮膜処理剤 温度60℃、浸漬1分
<実施例16の前処理及び皮膜処理>
(e1)下地処理:市販のジルコニウム化成処理剤(パルシード1500、日本パーカライジング(株)製) 濃度50g/L、温度45℃、pH4.0 浸漬2分
(e2)水洗:水道水、常温、浸漬20秒
(e3)潤滑皮膜処理:(1−1)で製造した水系潤滑皮膜処理剤 温度60℃、浸漬1分
<比較例9(リン酸塩/石鹸処理)の前処理及び皮膜処理>
(e1)化成処理:市販のリン酸亜鉛化成処理剤(パルボンド181X、日本パーカライジング(株)製)濃度75g/L、温度80℃、浸漬7分
(e2)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(e3)石鹸処理:市販の反応石鹸潤滑剤(パルーブ235、日本パーカライジング(株)製)濃度70g/L、温度85℃、浸漬3分
※乾燥皮膜量:10g/m
【0050】
(1−3)評価試験
(1−3−1)スパイク試験
実施例1〜9、12〜16比較例1〜9及び参考例1〜2について、スパイク試験による加工性の評価を行った。スパイク試験は特開平5−7969号公報記載の方法に準じて行った。試験後のスパイク高さと成形荷重にて潤滑性を評価した。スパイク高さが高い程、また、成形荷重が低いほど潤滑性に優れる。なお、同公報によるとスパイク試験における面積拡大率は約10倍とされる。加工時の荷重とスパイク高さを測定することで皮膜の潤滑性を評価した。
評価用試験片:S45C球状化焼鈍材 25mmφ×30mm
評価基準:
スパイク性能=スパイク高さ(mm)/加工荷重(kNf)×100
値が大きいほど潤滑性良好
◎:0.96以上
○:0.94以上0.96未満
△:0.92以上0.94未満
▲:0.90以上 0.92未満
×:0.90未満
(1−3−2)据えこみ−ボールしごき試験(耐焼付き性評価)
実施例1〜9、12〜16比較例1〜9及び参考例1〜2について、据えこみ−ボールしごき試験による加工性の評価を行った。据えこみ−ボールしごき試験は特開2013−215773号公報記載の方法に準じて行った。据えこみ−ボールしごき試験における面積拡大率は最大で150倍以上とされ、上記のスパイク試験と比較すると面積拡大率が非常に大きく、強加工を再現した試験である。しごき加工面に入る焼付きの量を評価することで、強加工時における皮膜の耐焼付性能を評価した。
評価用試験片:S10C球状化焼鈍材 14mmφ×32mm
ベアリングボール:10mmφ SUJ2
評価基準:
しごき面全体の面積に対して、どれだけの面積が焼きついたかを評価した。評価の目安を図1に示す。
◎:リン酸塩/石鹸皮膜より著しく優れる
○:リン酸塩/石鹸皮膜より優れる
△:リン酸塩/石鹸皮膜と同等
▲:リン酸塩/石鹸皮膜より劣る
×:リン酸塩/石鹸皮膜より著しく劣る
(1−3−3)脱膜性試験
実施例1〜9、12〜16比較例1〜9及び参考例1〜2について、脱膜性試験を行った。なお、比較例9は一般的な脱膜方法が異なるため、試験水準から除外した。脱膜性試験は円柱状試験片を、上下とも平面の金型を使用し、圧縮率50%で据えこみ加工を行った後アルカリ洗浄剤に浸漬して皮膜を剥離した。(1−2)工程の(d)水洗後、(f)の乾燥を行い冷却後試験片の質量を測定した。その後(e)潤滑処理後、(f)の乾燥を行い冷却後試験片の質量を測定した。その前後の質量差により皮膜質量を換算した。アルカリ洗浄後(f)の乾燥を行い冷却後試験片の質量を測定した。アルカリ洗浄後の質量と酸洗後質量より脱脂処理後の皮膜質量を換算した。
評価用試験片:S45C球状化焼鈍材 25mmφ×30mm
アルカリ洗浄剤:2%NaOH水溶液
脱膜条件:液温60℃、浸漬時間2分
皮膜残存率(%)=(脱膜処理後の皮膜質量/脱膜処理前の皮膜質量)×100
評価基準:
皮膜残存率が低いほど脱膜性良好
◎:皮膜残存率が0%
○:皮膜残存率が0超、8%未満
△:皮膜残存率が8%以上、16%未満
▲:皮膜残存率が16%以上、25%未満
×:皮膜残存率が25%以上
(1−3−4)耐食性試験
実施例1〜9、12〜16比較例1〜9及び参考例1〜2について、耐食性試験を行った。バレルを使用して試験片5つを同時に潤滑処理し、その試験片を夏場に開放雰囲気で屋内に3ヶ月間暴露して錆の発生具合を観察した。発錆面積が大きいほど耐食性に劣ると判断した。評価は5つの試験片全てで実施した。
評価用試験片:S45C球状化焼鈍材 25mmφ×30mm
評価基準:
◎:錆面積3%以下(リン酸塩/石鹸皮膜より著しく優れる)
○:錆面積3%超、10%以下(リン酸塩/石鹸皮膜より優れる)
△:錆面積10%超、20%以下(リン酸塩/石鹸皮膜と同等)
▲:錆面積20%超、30%以下(リン酸塩/石鹸皮膜より劣る)
×:錆面積30%超(リン酸塩/石鹸皮膜より著しく劣る)
(1−3−5)総合得点評価
上記4つの評価結果を表3のように示す基準で得点化し、合計点をまとめた。
【0051】
試験結果を表4、5に示す。なお、表5は耐食性試験の詳細である。表から明らかなように実施例は加工性(スパイク試験、ボールしごき試験)、脱膜性、耐食性(屋内曝露)が良好であった。また、耐食性に関してはタングステン酸ナトリウムを配合した水準が良い傾向にあり、性能のバラつきも小さかった。比較例1〜8はケイ酸塩(A)と無機塩(B)の比率が本請求範囲外のものであるが、ボールしごき試験と耐食性試験の結果が劣る傾向があった。比較例9のリン酸塩皮膜に反応石鹸処理を行ったものは、比較的優れた性能を示すものの、実施例と比較して劣るものであった。
【0052】
以下、本発明を乾式潤滑剤及び湿式潤滑剤の下地皮膜として用いた場合について、本発明の実施例を比較例と共に挙げることによって、本発明のその効果と共に更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
≪実施例B≫
【0053】
(2−1)水系潤滑皮膜処理剤の製造
上記に示す各成分を表6、7に示す組み合わせ及び割合にて実施例17〜26、29〜39、42比較例11〜18、20〜27及び参考例3〜6の水系潤滑皮膜処理剤を調製した。比較例10は本発明の潤滑皮膜なしで伸線パウダーのみを使用した。比較例19は本発明の潤滑皮膜なしで石灰石鹸を使用した。比較例28はリン酸塩/石鹸処理である。なお、実施例30〜39、42、比較例19〜28、参考例5〜6は伸線パウダーを使用していない。
【0054】
(2−2)潤滑処理
<実施例17〜26、比較例11〜18、参考例3〜4の潤滑処理>
(1−2)に記載した標準工程で処理した。
(e)潤滑皮膜処理:(2−1)で製造した水系潤滑皮膜処理剤 温度60℃、浸漬1分
<実施例30〜39、比較例20〜27、参考例5〜6の前処理及び皮膜処理>
(1−2)に記載した標準工程で処理した。
(e1)潤滑皮膜処理:(2−1)で製造した水系潤滑皮膜処理剤 温度60℃、浸漬1分
その後、上層皮膜として、市販の石灰石鹸(LUB−CAO2、日本パーカライジング(株)製)250g/L 温度60℃、浸漬1分処理を施し、(f)と同様の乾燥を行い、石灰石鹸皮膜量5g/mを得た。
<実施例29の前処理及び皮膜処理>
(e1)下地処理:市販のジルコニウム化成処理剤(パルシード1500、日本パーカライジング(株)製) 濃度50g/L、温度45℃、pH4.0 浸漬2分
(e2)水洗:水道水、常温、浸漬20秒
(e3)潤滑皮膜処理:(2−1)で製造した水系潤滑皮膜処理剤 温度60℃、浸漬1分
<実施例42の前処理及び皮膜処理>
(e1)下地処理:市販のジルコニウム化成処理剤(パルシード1500、日本パーカライジング(株)製) 濃度50g/L、温度45℃、pH4.0 浸漬2分
(e2)水洗:水道水、常温、浸漬20秒
(e3)潤滑皮膜処理:(2−1)で製造した水系潤滑皮膜処理剤 温度60℃、浸漬1分
その後、上層皮膜として、市販の石灰石鹸(LUB−CAO2、日本パーカライジング(株)製)250g/L 温度60℃、浸漬1分処理を施し、(f)と同様の乾燥を行い、石灰石鹸皮膜量5g/mを得た。
<比較例10の前処理及び皮膜処理>
(e)純水洗:脱イオン水、常温、浸漬30℃
<比較例19の前処理及び皮膜処理>
(e)潤滑:市販の石灰石鹸(LUB−CAO2、日本パーカライジング(株)製)250g/L 温度60℃、浸漬1分
(f)乾燥:100℃、10分
※石灰石鹸皮膜量5g/m
<比較例28(リン酸塩/石鹸処理)の前処理及び皮膜処理>
(e1)化成処理:市販のリン酸亜鉛化成処理剤(パルボンド421WD、日本パーカライジング(株)製)濃度75g/L、温度80℃、浸漬10分
(e2)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(e3)石鹸処理:市販の反応石鹸潤滑剤(パルーブ235、日本パーカライジング(株)製)濃度70g/L、温度85℃、浸漬3分
※乾燥皮膜量:10g/m
【0055】
(2−3)評価試験
(2−3−1)伸線試験(潤滑性評価)
実施例17〜26、29〜39、42比較例10〜28及び参考例3〜6について、伸線試験による加工性の評価を行った。φ3.2mmの鋼線をφ2.76のダイスを通して引抜くことで伸線加工を行った。実施例17〜26、29、比較例10〜18、参考例3〜4は乾式潤滑剤として松浦工業(株)のミサイルC40を使用した。材料が引抜かれる直前のダイスボックス内に乾式潤滑剤を入れ、材料に自然付着するようにした。伸線後の試験材の焼付きと潤滑膜の残存量から評価を行った。なお、伸線後の皮膜量は下記皮膜剥離剤を用いて皮膜を剥離し、剥離前後の質量差から求めた。
評価用試験片:SWCH45K材φ3.2mm×20m
ダイス径:φ2.76
皮膜剥離剤:市販のアルカリ性剥離剤(FC-E6463、日本パーカライジング(株)製)、20g/L
脱膜条件:液温60℃、浸漬時間2分
評価基準:
皮膜残存率(%)=(加工前の皮膜量/加工後の皮膜量)×100
※加工前の皮膜量は潤滑パウダーを含まない。加工後の皮膜量は潤滑パウダーを含む。
◎:皮膜残存率85%以上
○:皮膜残存率75%以上、85%未満
△:皮膜残存率65%以上、75%未満
▲:皮膜残存率50%以上、65%未満
×:皮膜残存率50%未満、もしくは焼付きが発生
(2−3−2)耐食性試験
実施例17〜26、29〜39、42比較例10〜28及び参考例3〜6について、耐食性の評価を行った。上記伸線試験を行った線材を、夏場に開放雰囲気で屋内に3ヶ月間暴露して錆の発生具合を観察した。発錆面積が大きいほど耐食性に劣ると判断した。
評価基準:
◎:リン酸塩/石鹸皮膜より著しく優れる(錆面積3%以下)
○:リン酸塩/石鹸皮膜より優れる(錆面積3%以上、10%未満)
△:リン酸塩/石鹸皮膜と同等(錆面積10%以上、20%未満)
▲:リン酸塩/石鹸皮膜より劣る(錆面積20%以上、30%未満)
×:リン酸塩/石鹸皮膜より著しく劣る(錆面積30%以上)
【0056】
試験結果を表8に示す。実施例はどれも皮膜が多く残っており、加工性、耐食性が良好な結果となった。伸線後の耐食性も高いことからも、加工後に当発明の潤滑皮膜が多く残存していることが分かる。比較例10、19は本発明の潤滑剤を使用していない水準であるが、伸線性、耐食性が大きく劣っていた。比較例11〜18、20〜27はケイ酸塩(A)と無機塩(B)の比率を不適切に設定したものであるが、伸線後の皮膜残存量や耐食性が劣っていた。比較例28のリン酸塩皮膜に反応石鹸処理を行ったものは、優れた性能を示すものの、廃水処理や液管理が必要で簡便な処理工程や装置では使用できず、反応に伴う廃棄物を生じるため環境負荷が大きい。
【0057】
以上の説明から明らかなように本発明の水系潤滑剤を用いると高い加工性と耐食性を両立することができる。更に洗浄剤による加工後の潤滑皮膜の脱膜性も良好である。したがって産業上の利用価値が極めて大きい。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
図1