【実施例】
【0046】
本発明の実施例を比較例と共に挙げることによって、本発明の効果を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
≪実施例A≫
【0047】
(1−1)水系潤滑皮膜処理剤の製造
以下に示す各成分を表1〜2に示す組み合わせ及び割合にて実施例1〜
9、12〜16
、比較例1〜8
及び参考例1〜2の水系潤滑皮膜処理剤を調製した。なお、比較例9はリン酸塩/石鹸処理である。
【0048】
<ケイ酸塩>
(A−1)ケイ酸ナトリウム(Na
2O・nSiO
2 n=3)
(A−2)ケイ酸リチウム(Li
2O・nSiO
2 n=3.5)
(A−3)ケイ酸カリウム(K
2O・nSiO
2 n=2.3)
<無機塩>
(B―1)タングステン酸ナトリウム
(B−2)トリポリリン酸ナトリウム
(B−3)メタホウ酸カリウム
<樹脂成分>
(C−1)イソブチレン・無水マレイン酸共重合体のナトリウム中和塩(分子量約165,000)
<潤滑成分>
(D−1)アニオン性ポリエチレンワックス(平均粒子径5μm)
(D−2)非膨潤性合成雲母(平均粒子径5.0μm)
【0049】
(1−2)水系潤滑皮膜処理剤の使用方法
<標準工程>
(a)脱脂:市販の脱脂剤(ファインクリーナーE6400、日本パーカライジング(株)製)濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分
(b)水洗:水道水、常温、浸漬20秒
(c)酸洗:17.5%塩酸、常温、浸漬20分
(d)水洗:水道水、常温、浸漬20秒
(e1)〜(e3)潤滑処理:各実施例及び比較例毎に記述する
(f)乾燥:100℃、10分
<実施例1〜
9、12〜15
、比較例1〜8
及び参考例1〜2の潤滑処理>
(e1)潤滑皮膜処理:(1−1)で製造した水系潤滑皮膜処理剤 温度60℃、浸漬1分
<実施例16の前処理及び皮膜処理>
(e1)下地処理:市販のジルコニウム化成処理剤(パルシード1500、日本パーカライジング(株)製) 濃度50g/L、温度45℃、pH4.0 浸漬2分
(e2)水洗:水道水、常温、浸漬20秒
(e3)潤滑皮膜処理:(1−1)で製造した水系潤滑皮膜処理剤 温度60℃、浸漬1分
<比較例9(リン酸塩/石鹸処理)の前処理及び皮膜処理>
(e1)化成処理:市販のリン酸亜鉛化成処理剤(パルボンド181X、日本パーカライジング(株)製)濃度75g/L、温度80℃、浸漬7分
(e2)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(e3)石鹸処理:市販の反応石鹸潤滑剤(パルーブ235、日本パーカライジング(株)製)濃度70g/L、温度85℃、浸漬3分
※乾燥皮膜量:10g/m
2
【0050】
(1−3)評価試験
(1−3−1)スパイク試験
実施例1〜
9、12〜16
、比較例1〜9
及び参考例1〜2について、スパイク試験による加工性の評価を行った。スパイク試験は特開平5−7969号公報記載の方法に準じて行った。試験後のスパイク高さと成形荷重にて潤滑性を評価した。スパイク高さが高い程、また、成形荷重が低いほど潤滑性に優れる。なお、同公報によるとスパイク試験における面積拡大率は約10倍とされる。加工時の荷重とスパイク高さを測定することで皮膜の潤滑性を評価した。
評価用試験片:S45C球状化焼鈍材 25mmφ×30mm
評価基準:
スパイク性能=スパイク高さ(mm)/加工荷重(kNf)×100
値が大きいほど潤滑性良好
◎:0.96以上
○:0.94以上0.96未満
△:0.92以上0.94未満
▲:0.90以上 0.92未満
×:0.90未満
(1−3−2)据えこみ−ボールしごき試験(耐焼付き性評価)
実施例1〜
9、12〜16
、比較例1〜9
及び参考例1〜2について、据えこみ−ボールしごき試験による加工性の評価を行った。据えこみ−ボールしごき試験は特開2013−215773号公報記載の方法に準じて行った。据えこみ−ボールしごき試験における面積拡大率は最大で150倍以上とされ、上記のスパイク試験と比較すると面積拡大率が非常に大きく、強加工を再現した試験である。しごき加工面に入る焼付きの量を評価することで、強加工時における皮膜の耐焼付性能を評価した。
評価用試験片:S10C球状化焼鈍材 14mmφ×32mm
ベアリングボール:10mmφ SUJ2
評価基準:
しごき面全体の面積に対して、どれだけの面積が焼きついたかを評価した。評価の目安を
図1に示す。
◎:リン酸塩/石鹸皮膜より著しく優れる
○:リン酸塩/石鹸皮膜より優れる
△:リン酸塩/石鹸皮膜と同等
▲:リン酸塩/石鹸皮膜より劣る
×:リン酸塩/石鹸皮膜より著しく劣る
(1−3−3)脱膜性試験
実施例1〜
9、12〜16
、比較例1〜9
及び参考例1〜2について、脱膜性試験を行った。なお、比較例9は一般的な脱膜方法が異なるため、試験水準から除外した。脱膜性試験は円柱状試験片を、上下とも平面の金型を使用し、圧縮率50%で据えこみ加工を行った後アルカリ洗浄剤に浸漬して皮膜を剥離した。(1−2)工程の(d)水洗後、(f)の乾燥を行い冷却後試験片の質量を測定した。その後(e)潤滑処理後、(f)の乾燥を行い冷却後試験片の質量を測定した。その前後の質量差により皮膜質量を換算した。アルカリ洗浄後(f)の乾燥を行い冷却後試験片の質量を測定した。アルカリ洗浄後の質量と酸洗後質量より脱脂処理後の皮膜質量を換算した。
評価用試験片:S45C球状化焼鈍材 25mmφ×30mm
アルカリ洗浄剤:2%NaOH水溶液
脱膜条件:液温60℃、浸漬時間2分
皮膜残存率(%)=(脱膜処理後の皮膜質量/脱膜処理前の皮膜質量)×100
評価基準:
皮膜残存率が低いほど脱膜性良好
◎:皮膜残存率が0%
○:皮膜残存率が0超、8%未満
△:皮膜残存率が8%以上、16%未満
▲:皮膜残存率が16%以上、25%未満
×:皮膜残存率が25%以上
(1−3−4)耐食性試験
実施例1〜
9、12〜16
、比較例1〜9
及び参考例1〜2について、耐食性試験を行った。バレルを使用して試験片5つを同時に潤滑処理し、その試験片を夏場に開放雰囲気で屋内に3ヶ月間暴露して錆の発生具合を観察した。発錆面積が大きいほど耐食性に劣ると判断した。評価は5つの試験片全てで実施した。
評価用試験片:S45C球状化焼鈍材 25mmφ×30mm
評価基準:
◎:錆面積3%以下(リン酸塩/石鹸皮膜より著しく優れる)
○:錆面積3%超、10%以下(リン酸塩/石鹸皮膜より優れる)
△:錆面積10%超、20%以下(リン酸塩/石鹸皮膜と同等)
▲:錆面積20%超、30%以下(リン酸塩/石鹸皮膜より劣る)
×:錆面積30%超(リン酸塩/石鹸皮膜より著しく劣る)
(1−3−5)総合得点評価
上記4つの評価結果を表3のように示す基準で得点化し、合計点をまとめた。
【0051】
試験結果を表4、5に示す。なお、表5は耐食性試験の詳細である。表から明らかなように実施例は加工性(スパイク試験、ボールしごき試験)、脱膜性、耐食性(屋内曝露)が良好であった。また、耐食性に関してはタングステン酸ナトリウムを配合した水準が良い傾向にあり、性能のバラつきも小さかった。比較例1〜8はケイ酸塩(A)と無機塩(B)の比率が本請求範囲外のものであるが、ボールしごき試験と耐食性試験の結果が劣る傾向があった。比較例9のリン酸塩皮膜に反応石鹸処理を行ったものは、比較的優れた性能を示すものの、実施例と比較して劣るものであった。
【0052】
以下、本発明を乾式潤滑剤及び湿式潤滑剤の下地皮膜として用いた場合について、本発明の実施例を比較例と共に挙げることによって、本発明のその効果と共に更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
≪実施例B≫
【0053】
(2−1)水系潤滑皮膜処理剤の製造
上記に示す各成分を表6、7に示す組み合わせ及び割合にて実施例17〜
26、29〜39、42
、比較例11〜18、20〜27
及び参考例3〜6の水系潤滑皮膜処理剤を調製した。比較例10は本発明の潤滑皮膜なしで伸線パウダーのみを使用した。比較例19は本発明の潤滑皮膜なしで石灰石鹸を使用した。比較例28はリン酸塩/石鹸処理である。なお、実施例30〜
39、42、比較例19〜28
、参考例5〜6は伸線パウダーを使用していない。
【0054】
(2−2)潤滑処理
<実施例17〜
26、比較例11〜18
、参考例3〜4の潤滑処理>
(1−2)に記載した標準工程で処理した。
(e)潤滑皮膜処理:(2−1)で製造した水系潤滑皮膜処理剤 温度60℃、浸漬1分
<実施例30〜
39、比較例20〜27
、参考例5〜6の前処理及び皮膜処理>
(1−2)に記載した標準工程で処理した。
(e1)潤滑皮膜処理:(2−1)で製造した水系潤滑皮膜処理剤 温度60℃、浸漬1分
その後、上層皮膜として、市販の石灰石鹸(LUB−CAO2、日本パーカライジング(株)製)250g/L 温度60℃、浸漬1分処理を施し、(f)と同様の乾燥を行い、石灰石鹸皮膜量5g/m
2を得た。
<実施例29の前処理及び皮膜処理>
(e1)下地処理:市販のジルコニウム化成処理剤(パルシード1500、日本パーカライジング(株)製) 濃度50g/L、温度45℃、pH4.0 浸漬2分
(e2)水洗:水道水、常温、浸漬20秒
(e3)潤滑皮膜処理:(2−1)で製造した水系潤滑皮膜処理剤 温度60℃、浸漬1分
<実施例42の前処理及び皮膜処理>
(e1)下地処理:市販のジルコニウム化成処理剤(パルシード1500、日本パーカライジング(株)製) 濃度50g/L、温度45℃、pH4.0 浸漬2分
(e2)水洗:水道水、常温、浸漬20秒
(e3)潤滑皮膜処理:(2−1)で製造した水系潤滑皮膜処理剤 温度60℃、浸漬1分
その後、上層皮膜として、市販の石灰石鹸(LUB−CAO2、日本パーカライジング(株)製)250g/L 温度60℃、浸漬1分処理を施し、(f)と同様の乾燥を行い、石灰石鹸皮膜量5g/m
2を得た。
<比較例10の前処理及び皮膜処理>
(e)純水洗:脱イオン水、常温、浸漬30℃
<比較例19の前処理及び皮膜処理>
(e)潤滑:市販の石灰石鹸(LUB−CAO2、日本パーカライジング(株)製)250g/L 温度60℃、浸漬1分
(f)乾燥:100℃、10分
※石灰石鹸皮膜量5g/m
2
<比較例28(リン酸塩/石鹸処理)の前処理及び皮膜処理>
(e1)化成処理:市販のリン酸亜鉛化成処理剤(パルボンド421WD、日本パーカライジング(株)製)濃度75g/L、温度80℃、浸漬10分
(e2)水洗:水道水、常温、浸漬30秒
(e3)石鹸処理:市販の反応石鹸潤滑剤(パルーブ235、日本パーカライジング(株)製)濃度70g/L、温度85℃、浸漬3分
※乾燥皮膜量:10g/m
2
【0055】
(2−3)評価試験
(2−3−1)伸線試験(潤滑性評価)
実施例17〜
26、29〜39、42
、比較例10〜28
及び参考例3〜6について、伸線試験による加工性の評価を行った。φ3.2mmの鋼線をφ2.76のダイスを通して引抜くことで伸線加工を行った。実施例17〜
26、29、比較例10〜18
、参考例3〜4は乾式潤滑剤として松浦工業(株)のミサイルC40を使用した。材料が引抜かれる直前のダイスボックス内に乾式潤滑剤を入れ、材料に自然付着するようにした。伸線後の試験材の焼付きと潤滑膜の残存量から評価を行った。なお、伸線後の皮膜量は下記皮膜剥離剤を用いて皮膜を剥離し、剥離前後の質量差から求めた。
評価用試験片:SWCH45K材φ3.2mm×20m
ダイス径:φ2.76
皮膜剥離剤:市販のアルカリ性剥離剤(FC-E6463、日本パーカライジング(株)製)、20g/L
脱膜条件:液温60℃、浸漬時間2分
評価基準:
皮膜残存率(%)=(加工前の皮膜量/加工後の皮膜量)×100
※加工前の皮膜量は潤滑パウダーを含まない。加工後の皮膜量は潤滑パウダーを含む。
◎:皮膜残存率85%以上
○:皮膜残存率75%以上、85%未満
△:皮膜残存率65%以上、75%未満
▲:皮膜残存率50%以上、65%未満
×:皮膜残存率50%未満、もしくは焼付きが発生
(2−3−2)耐食性試験
実施例17〜
26、29〜39、42
、比較例10〜28
及び参考例3〜6について、耐食性の評価を行った。上記伸線試験を行った線材を、夏場に開放雰囲気で屋内に3ヶ月間暴露して錆の発生具合を観察した。発錆面積が大きいほど耐食性に劣ると判断した。
評価基準:
◎:リン酸塩/石鹸皮膜より著しく優れる(錆面積3%以下)
○:リン酸塩/石鹸皮膜より優れる(錆面積3%以上、10%未満)
△:リン酸塩/石鹸皮膜と同等(錆面積10%以上、20%未満)
▲:リン酸塩/石鹸皮膜より劣る(錆面積20%以上、30%未満)
×:リン酸塩/石鹸皮膜より著しく劣る(錆面積30%以上)
【0056】
試験結果を表8に示す。実施例はどれも皮膜が多く残っており、加工性、耐食性が良好な結果となった。伸線後の耐食性も高いことからも、加工後に当発明の潤滑皮膜が多く残存していることが分かる。比較例10、19は本発明の潤滑剤を使用していない水準であるが、伸線性、耐食性が大きく劣っていた。比較例11〜18、20〜27はケイ酸塩(A)と無機塩(B)の比率を不適切に設定したものであるが、伸線後の皮膜残存量や耐食性が劣っていた。比較例28のリン酸塩皮膜に反応石鹸処理を行ったものは、優れた性能を示すものの、廃水処理や液管理が必要で簡便な処理工程や装置では使用できず、反応に伴う廃棄物を生じるため環境負荷が大きい。
【0057】
以上の説明から明らかなように本発明の水系潤滑剤を用いると高い加工性と耐食性を両立することができる。更に洗浄剤による加工後の潤滑皮膜の脱膜性も良好である。したがって産業上の利用価値が極めて大きい。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】