特許第6243519号(P6243519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6243519セルスタック装置、モジュールおよびモジュール収容装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243519
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】セルスタック装置、モジュールおよびモジュール収容装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/2485 20160101AFI20171127BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20171127BHJP
【FI】
   H01M8/24 S
   !H01M8/12
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-514917(P2016-514917)
(86)(22)【出願日】2015年4月20日
(86)【国際出願番号】JP2015061972
(87)【国際公開番号】WO2015163277
(87)【国際公開日】20151029
【審査請求日】2016年10月19日
(31)【優先権主張番号】特願2014-87415(P2014-87415)
(32)【優先日】2014年4月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河口 正哉
(72)【発明者】
【氏名】山内 亨祐
【審査官】 佐藤 知絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−158531(JP,A)
【文献】 特開2005−216620(JP,A)
【文献】 特開2008−135304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/2485
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のセルを配列してなるセルスタックと、該セルの一端を固定するマニホールドとを備え、前記セルは、燃料ガスが流通する燃料ガス流路を内部に含み、かつNiを含有する断面が扁平状の支持体を有し、前記セルと前記マニホールドとがシール材にて固定されているとともに、該シール材は、ガラスであり、かつ前記セルの配列方向に沿った断面視において、凹型のメニスカス構造であって、
複数個の前記セル間におけるそれぞれの前記シール材のうち少なくとも一部が、前記メニスカスの先端部から前記マニホールドに向けて引いた垂線と、前記メニスカスの凹状の外形線のうち、前記凹状の底部から前記先端部までの高さの半分の高さに位置する点と前記先端部とを結ぶ直線とのなす角度θが45°以下であることを特徴とするセルスタック装置。
【請求項2】
全ての前記セル間における前記シール材において、前記角度θが45°以下であることを特徴とする請求項1に記載のセルスタック装置。
【請求項3】
前記セルスタックの前記セルの配列方向における端部側の前記セル間におけるシール材の前記角度θが、前記セルスタックの前記セルの配列方向における中央部側の前記セル間におけるシール材の前記角度θよりも小さいことを特徴とする請求項2に記載のセルスタック装置。
【請求項4】
前記シール材の凹状の底部から前記先端部までの高さをhとし、前記セルの厚みをtとしたときに、h≧t/3を満たすことを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちいずれかに記載のセルスタック装置。
【請求項5】
前記セルの配列方向に垂直な方向である前記セルの幅方向における端部側の前記角度θが、前記セルの幅方向における中央部側の前記角度θよりも小さいことを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちいずれかに記載のセルスタック装置。
【請求項6】
収納容器内に、請求項1乃至請求項5のうちいずれかに記載のセルスタック装置を収容してなることを特徴とするモジュール。
【請求項7】
外装ケース内に、請求項6に記載のモジュールと、該モジュールの運転を行なうための補機とを収納してなることを特徴とするモジュール収容装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルスタック装置、モジュールおよびモジュール収容装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代エネルギーとして、燃料ガス(水素含有ガス)と酸素含有ガス(空気)とを用いて電力を得ることができるセルである燃料電池セルを複数個配列してなるセルスタック装置が知られている。また、セルスタック装置を収納容器内に収納してなる燃料電池モジュールや、燃料電池モジュールを外装ケース内に収納してなる燃料電池装置が種々提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このようなセルスタック装置としては、燃料電池セルの一端をマニホールドにシール材にて固定することで構成されており、そのシール材が凹型のメニスカス構造とされている例が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−59377号公報
【特許文献2】特開2005−158531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようなセルスタック装置においては、シール材と燃料電池セルとの接合状態によっては、燃料電池セルの還元等に伴う変形により、上述のシール材と燃料電池セルとの接合部にクラックが生じ、ひいては燃料電池セルにクラックが生じるという問題があった。
【0006】
それゆえ、本発明は、信頼性の向上したセルスタック装置、モジュールおよびモジュール収容装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセルスタック装置は、複数個のセルを配列してなるセルスタックと、該セルの一端を固定するマニホールドとを備え、前記セルは、燃料ガスが流通する燃料ガス流路を内部に含み、かつNiを含有する断面が扁平状の支持体を有し、前記セルと前記マニホールドとがシール材にて固定されているとともに、該シール材は、ガラスであり、かつ前記セルの配列方向に沿った断面視において、凹型のメニスカス構造であって、複数個の前記セル間におけるそれぞれの前記シール材のうち少なくとも一部が、前記メニスカスの先端部から前記マニホールドに向けて引いた垂線と、前記メニスカスの凹状の外形線のうち、前記凹状の底部から前記先端部までの高さの半分の高さに位置する点と前記先端部とを結ぶ直線とのなす角度θが45°以下であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のモジュールは、収納容器内に、上記構成のセルスタック装置を収容してなることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明のモジュール収容装置は、外装ケース内に、上記構成のモジュールと、該モジュールの運転を行なうための補機とを収納してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセルスタック装置は、信頼性の向上したセルスタック装置とすることができる。
【0011】
また、本発明のモジュールは、信頼性の向上したモジュールとすることができる。
【0012】
さらに、本発明のモジュール収容装置は、信頼性の向上したモジュール収容装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態のセルスタック装置を示し、(a)はセルスタック装置を概略的に示す側面図、(b)は(a)の一部を拡大して示す横断面図である。
図2図1に示すセルスタック装置の破線Aの部位を拡大して示す断面図である。
図3】本実施形態のモジュールの一例を示す斜視図である。
図4図3に示すモジュールの断面図である。
図5】本実施形態のモジュール収容装置の一例を概略的に示す分解斜視図である。
図6】本実施形態のシミュレーションの結果を示すグラフである。
図7】本実施形態の他のシミュレーションの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本実施形態のセルスタック装置について説明する。図1は、本実施形態のセルスタック装置を示し、(a)はセルスタック装置を概略的に示す側面図、(b)は(a)の一部を拡大して示す横断面図である。なお、以降の図において同一の構成については同一の符号を用いて説明する。
【0015】
なお、図1に示すセルスタック装置(以下、セルスタック装置と略す。)は、セルである燃料電池セルを複数個配列してなる燃料電池セルスタック装置であり、以下の説明では、セルとして燃料電池セルを例として説明する。
【0016】
図1に示すセルスタック装置1は、内部にガス流路14を有して、一対の対向する平坦面をもつ断面が扁平状で全体として柱状の導電性支持体13の一方の平坦面上に内側電極層としての燃料極層9と、固体電解質層10と、外側電極層としての空気極層11とを順次積層してなるとともに、他方の平坦面のうち空気極層11が形成されていない部位にインターコネクタ12を積層してなる柱状の燃料電池セル3の複数個を備えるセルスタック2を有している。そして、隣接する燃料電池セル3間に導電部材4を介して配置することで、燃料電池セル3同士を電気的に直列に接続される。なお、インターコネクタ12の外面および空気極層11の外面には、導電性の接合材15が設けられており、導電部材4を、接合材15を介して空気極層11およびインターコネクタ12に接続させることより、両者の接触がオーム接触となって電位降下を少なくし、導電性能の低下を有効に抑制することができる。
【0017】
そして、セルスタック2を構成する各燃料電池セル3の下端が、ガス流路14を介して燃料電池セル3に反応ガスを供給するためのマニホールド7にガラス等のシール材16により固定されている。なお、シール材16については後述する。また、図1に示すセルスタック装置1においては、ガス流路14にマニホールド7より反応ガスとして水素含有ガス(燃料ガス)を供給する場合の例を示しており、マニホールド7の側面に、燃料ガスをマニホールド7内に供給するための燃料ガス供給管8が接続されている。
【0018】
また、燃料電池セル3の配列方向(図1に示すX方向)の両端から導電部材4を介してセルスタック2を挟持するように、マニホールド7に下端が固定された弾性変形可能な導電部材5を具備している。ここで、図1に示す導電部材5においては、燃料電池セル3の配列方向に沿って外側に向けて延びた形状で、セルスタック2(燃料電池セル3)の発電により生じる電流を引出すための電流引出し部6が設けられている。
【0019】
ちなみに、上記セルスタック装置1においては、ガス流路14より排出される燃料ガス(余剰の燃料ガス)を燃料電池セル3の上端部側で燃焼させるように構成することにより燃料電池セル3の温度を上昇させることができる。それにより、セルスタック装置1の起動を早めることができる。
【0020】
以下に、図1において示す燃料電池セル3を構成する各部材について説明する。
【0021】
例えば、燃料極層9は、一般的に公知のものを使用することができ、多孔質の導電性セラミックス、例えば希土類元素酸化物が固溶しているZrO(安定化ジルコニアと称し、部分安定化も含むものとする。)とNiおよび/またはNiOとから形成することができる。
【0022】
固体電解質層10は、電極間の電子の橋渡しをする電解質としての機能を有していると同時に、燃料ガスと酸素含有ガスとのリークを防止するためにガス遮断性を有することが必要とされ、3〜15モル%の希土類元素酸化物が固溶したZrOから形成される。なお、上記特性を有する限りにおいては、他の材料等を用いて形成してもよい。
【0023】
空気極層11は、一般的に用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、いわゆるABO型のペロブスカイト型酸化物からなる導電性セラミックスから形成することができる。空気極層11はガス透過性を有していることが必要であり、開気孔率が20%以上、特に30〜50%の範囲にあることが好ましい。
【0024】
インターコネクタ12は、導電性セラミックスから形成することができるが、燃料ガス(水素含有ガス)および酸素含有ガス(空気等)と接触するため、耐還元性及び耐酸化性を有することが必要であり、それゆえランタンクロマイト系のペロブスカイト型酸化物(LaCrO系酸化物)が好適に使用される。インターコネクタ12は導電性支持体13に形成された複数のガス流路14を流通する燃料ガス、および導電性支持体13の外側を流通する酸素含有ガスのリークを防止するために緻密質でなければならず、93%以上、特に95%以上の相対密度を有していることが好ましい。
【0025】
導電性支持体13としては、燃料ガスを燃料極層9まで透過するためにガス透過性であること、さらには、インターコネクタ12を介して集電するために導電性であることが要求される。したがって、導電性支持体13としては、かかる要求を満足するものを材質として採用する必要があり、例えば導電性セラミックスやサーメット等を用いることができる。燃料電池セル3を作製するにあたり、燃料極層9または固体電解質層10との同時焼成により導電性支持体13を作製する場合においては、鉄属金属成分と特定希土類酸化物(Y、Yb等)とから導電性支持体13を形成することが好ましい。また、導電性支持体13は、所要ガス透過性を備えるために開気孔率が30%以上、特に35〜50%の範囲にあるのが好適であり、そしてまたその導電率は300S/cm以上、特に440S/cm以上であるのが好ましい。
【0026】
なお、図示はしていないが、固体電解質層10と空気極層11との間に、固体電解質層10と空気極層11との接合を強固とするとともに、固体電解質層10の成分と空気極層11の成分とが反応して電気抵抗の高い反応層が形成されることを抑制する目的で中間層を備えることもできる。
【0027】
ここで、中間層としては、Ce(セリウム)と他の希土類元素とを含有する組成にて形成することができ、例えば、
(1):(CeO1−x(REO1.5
式中、REはSm、Y、Yb、Gdの少なくとも1種であり、xは0<x≦0.3を満足する数。
で表される組成を有していることが好ましい。さらには、電気抵抗を低減するという点から、REとしてSmやGdを用いることが好ましく、例えば10〜20モル%のSmO1.5またはGdO1.5が固溶したCeOからなることが好ましい。
【0028】
また、固体電解質層10と空気極層11とを強固に接合するとともに、固体電解質層10の成分と空気極層11の成分とが反応して電気抵抗の高い反応層が形成されることをさらに抑制することを目的として、中間層を2層から形成することもできる。
【0029】
また、図示はしていないが、インターコネクタ12と導電性支持体13との間に、インターコネクタ12と導電性支持体13との間の熱膨張係数差を軽減する等のために密着層を設けることもできる。
【0030】
密着層としては、燃料極層9と類似した組成とすることができ、例えば、YSZなどの希土類元素酸化物が固溶しているZrO(安定化ジルコニアと称する)とNiおよび/またはNiOとから形成することができる。なお、希土類元素酸化物が固溶したZrOと、Niおよび/またはNiOとは、体積比で40:60〜60:40の範囲とすることが好ましい。
【0031】
ところで、図1に示すセルスタック装置1において、各燃料電池セル3の一端はマニホールド7にシール材16で固定されている。しかしながら、このシール材16の形状によっては、燃料電池セル3の還元等に伴う変形により、シール材16と燃料電池セル3との接合部にクラックが生じるという問題があった。そこで、シール材16の形状を所定の形状とすることで、このクラックの発生を抑制することができ、信頼性の向上したセルスタック装置1とすることができることを見出した。
【0032】
図2は、図1に示す破線Aの部位を拡大して示す断面図である。なお図2においては、マニホールド7の構成を省略している。
【0033】
図2におけるシール材16は、凹型のメニスカス構造とされている。すなわち、シール材16は凹状の外形線を有し、燃料電池セル3間の中央部付近に底部17を有し、底部17から燃料電池セル3に向けて這い上がるようにシール材16が設けられている。
【0034】
ここで、燃料電池セル3は還元等において、収縮する変形を生じる場合がある。この場合に、燃料電池セル3にはシール材16によって収縮が阻害されることに伴ってシール材16側に向けた応力が生じる。一方で、シール材16には燃料電池セル3の収縮に伴って引っ張られることにより、燃料電池セル3側に向けた応力が生じる。
【0035】
そこで、本発明者らが鋭意研究した結果、シール材16の先端部付近と燃料電池セル3との接合部において、この応力の差を小さくすること、またこの応力が圧縮応力となるようにすることにより、接合部におけるクラックを抑制できることを見出した。
【0036】
そして、シール材16のメニスカスの先端部18からマニホールド7に向けて引いた垂線と、メニスカスの凹状の外形線のうち、凹状の底部17から先端部18までの高さの半分の高さに位置する点19と先端部17とを結ぶ直線とのなす角度θ、言い換えればシール材16の這い上がり部分の形状が、燃料電池セル3とシール材16との接合部における応力に大きな影響を与えることが分かった。
【0037】
それゆえ、図2に示すシール材16においては、シール材16のメニスカスの先端部18からマニホールド7(図2においては下方側)に向けて引いた垂線と、メニスカスの凹状の外形線のうち、凹状の底部17から先端部18までの高さの半分の高さに位置する点19と先端部17とを結ぶ直線(図においては破線で示している)とのなす角度θを45°以下としている。
【0038】
それにより、燃料電池セル3とシール材16との接合部に生じる応力の差を低減することができ、またこの応力が圧縮応力となることで、クラックが生じることを抑制することができる。なお、よりクラックを抑制するにあたっては、この角度θが30°以下となる形状であることが好ましい。
【0039】
なお、シール材16の先端部18とは、シール材16の凹状の底部17と燃料電池セル3との距離をwとした場合に、凹状の外形線から燃料電池セル3に向けて引いた垂線の長さがwの2%となる部位を先端部18とみなし、この先端部18と燃料電池セル3との交点を起点として、直線や垂線を引くことで、角度θを求めればよい。
【0040】
また、シール材16としては、絶縁性を有し、800〜1000℃の耐熱性を有する材料であることが好ましく、例えばガラス(特には非晶質なガラスや、結晶質を含むガラス)、セメント等を用いることができる。
【0041】
ここで、燃料電池セル3間のシール材16の構造を上述のメニスカス構造とするにあたって、少なくともクラックの発生しやすい燃料電池セル3間のシール材16を上述の構造とすることがよい。例えば、セルスタック装置1において、燃料電池セル3の配列方向に沿った端部側に位置する燃料電池セル3において、燃料電池セル3の変形等による応力が強く生じる場合がある。この場合に、燃料電池セル3の配列方向に沿った端部側に位置する燃料電池セル3においてクラックが生じやすくなる。それゆえ、燃料電池セル3の配列方向に沿った端部側の燃料電池セル3間におけるシール材16の構造を上述のメニスカス構造とすることができる。なお、あらかじめセルスタック装置1において、クラックの発生しやすい燃料電池セル3間を調査し、クラックの発生しやすい燃料電池セル3間のシール材16を上述の構造とすることがよい。
【0042】
また、さらには、全ての燃料電池セル3とシール材16との接合を強化し、信頼性を向上する観点からは、全ての燃料電池セル3におけるシール材16の構造を上述のメニスカス構造とすることができる。
【0043】
この場合において、各燃料電池セル3や各シール材16に生じる応力が異なるため、特に応力が強く生じる部位のシール材16における角度θを、他の部位におけるシール材16における角度θよりも小さくすることができる。それにより、セルスタック装置1全体として、信頼性を向上することができる。例えば、燃料電池セル3の配列方向の端部側におけるシール材16の角度θを、燃料電池セル3の配列方向における中央部側におけるシール材16の角度θよりも小さくすればよい。
【0044】
ここで、燃料電池セル3の厚みtに対してシール材16の高さが低いと、シール材の先端部の体積が少なくなり、燃料電池セル3の還元等の変形をシール材16で十分に抑制することが難しくなる。それゆえ、例えば、シール材16の凹状の底部17から先端部18までの高さをhとし、燃料電池セル3の厚みをtとしたときに、h≧t/3を満たすように設定することができる。なお、より効果的に変形を抑制するには、h≧t/2を満たすように設定することができる。
【0045】
それにより、燃料電池セル3の変形をシール材16により抑えることができ、信頼性の向上したセルスタック装置1とすることができる。
【0046】
なお、シール材16の高さ(先端部の高さ)の上限値については、燃料電池セル3の発電効率を考慮して、燃料電池セル3の空気極層11や導電部材4と接触しない高さとすることができる。
【0047】
また、図1に示すように、燃料電池セル3が、断面が扁平状の燃料電池セル3においては、燃料電池セル3の還元等に伴う変形は、燃料電池セル3の厚み方向tよりも、燃料電池セルの配列方向に垂直な方向である幅方向(図1(b)における上下方向、以下単に幅方向という。)において大きくなる場合がある。従って、燃料電池セル3とシール材16との接合部を燃料電池セル3の幅方向に沿って見た場合に、燃料電池セル3の幅方向における端部側において、クラックが生じやすくなる場合がある。
【0048】
従って、燃料電池セル3の幅方向における端部側において、燃料電池セル3とシール材16との接合部の角度θを、燃料電池セル3の幅方向における中央部側の燃料電池セル3とシール材16との接合部の角度θよりも小さくすることができる。それにより、クラックの発生をより効率よく抑制することができ、信頼性の向上したセルスタック装置1とすることができる。
【0049】
図3は、本実施形態のセルスタック装置1を備えてなる燃料電池モジュール(以下、モジュールという場合がある。)の一例を示す外観斜視図であり、図4図3の断面図である。
【0050】
図3に示すモジュール20においては、収納容器21の内部に、本実施形態のセルスタック装置1が収納されている。なお、セルスタック装置1の上方には、燃料電池セル3に供給する燃料ガスを生成するための改質器22が配置されている。なお、図3においては、セルスタック装置1が2つのセルスタック2を備えている場合を示しているが、適宜その個数は変更することができ、例えばセルスタック2を1つだけ備えていてもよい。また、セルスタック装置1を、改質器22を含むものとすることもできる。
【0051】
また、図1においては、燃料電池セル3として、内部を燃料ガスが長手方向に流通する燃料ガス流路を複数有する中空平板型で、燃料ガス流路を有する支持体の表面に、燃料極層、固体電解質層および酸素極層を順に積層してなる固体酸化物形の燃料電池セル3を例示している。なお、燃料電池セル3の間に酸素含有ガスが流通する。
【0052】
また、図1に示す改質器22においては、原燃料供給管26を介して供給される天然ガスや灯油等の原燃料を改質して燃料ガスを生成する。なお、改質器22は、効率のよい改質反応である水蒸気改質を行うことができる構造とすることが好ましく、水を気化させるための気化部23と、原燃料を燃料ガスに改質するための改質触媒(図示せず)が配置された改質部24とを備えている。そして、改質器22で生成された燃料ガスは、燃料ガス流通管26(図1に示す燃料ガス供給管8に相当)を介してマニホールド7に供給され、マニホールド7より燃料電池セル3の内部に設けられた燃料ガス流路に供給される。
【0053】
また図3においては、収納容器21の一部(前後面)を取り外し、内部に収納されるセルスタック装置1を後方に取り出した状態を示している。ここで、図3に示したモジュール20においては、セルスタック装置1を、収納容器21内にスライドして収納することが可能である。
【0054】
なお、収納容器21の内部には、マニホールド7に並置されたセルスタック2の間に配置され、酸素含有ガスが燃料電池セル3の側方を下端部から上端部に向けて流れるように、酸素含有ガス導入部材27が配置されている。
【0055】
図4に示すように、モジュール20を構成する収納容器21は、内壁28と外壁29とを有する二重構造で、外壁29により収納容器21の外枠が形成されるとともに、内壁28によりセルスタック装置1を収納する発電室30が形成されている。さらに収納容器21においては、内壁28と外壁29との間を、燃料電池セル3に導入する酸素含有ガスが流通する酸素含有ガス流路36としている。
【0056】
ここで、収納容器21内には、収納容器21の上部より、上端側に酸素含有ガスが流入するための酸素含有ガス流入口(図示せず)とフランジ部40とを備え、下端部に燃料電池セル3の下端部に酸素含有ガスを導入するための酸素含有ガス流出口31が設けられてなる酸素含有ガス導入部材27が、内壁28を貫通して挿入されて固定されている。なお、フランジ部40と内壁28との間には断熱部材32が配置されている。
【0057】
なお、図4においては、酸素含有ガス導入部材27が、収納容器21の内部に並置された2つのセルスタック2間に位置するように配置されているが、セルスタック2の数により、適宜配置することができる。例えば、収納容器21内にセルスタック2を1つだけ収納する場合には、酸素含有ガス導入部材27を2つ設け、セルスタック2を両側面側から挟み込むように配置することができる。
【0058】
また発電室30内には、モジュール20内の熱が極端に放散され、燃料電池セル3(セルスタック2)の温度が低下して発電量が低減しないよう、モジュール20内の温度を高温に維持するための断熱部材32が適宜設けられている。
【0059】
断熱部材32は、セルスタック2の近傍に配置することが好ましく、特には、燃料電池セル3の配列方向に沿ってセルスタック2の側面側に配置するとともに、セルスタック2の側面における燃料電池セル3の配列方向に沿った幅と同等またはそれ以上の幅を有する断熱部材32を配置することが好ましい。なお、セルスタック2の両側面側に断熱部材32を配置することが好ましい。それにより、セルスタック2の温度が低下することを効果的に抑制できる。さらには、酸素含有ガス導入部材27より導入される酸素含有ガスが、セルスタック2の側面側より排出されることを抑制でき、セルスタック2を構成する燃料電池セル3間の酸素含有ガスの流れを促進することができる。なお、セルスタック2の両側面側に配置された断熱部材32においては、燃料電池セル3に供給される酸素含有ガスの流れを調整し、セルスタック2の長手方向および燃料電池セル3の積層方向における温度分布を低減するための開口部33が設けられている。
【0060】
また、燃料電池セル3の配列方向に沿った内壁28の内側には、排ガス用内壁34が設けられており、内壁28と排ガス用内壁34との間が、発電室30内の排ガスが上方から下方に向けて流れる排ガス流路37とされている。なお、排ガス流路37は、収納容器21の底部に設けられた排気孔35と通じている。また、排ガス用内壁34のセルスタック2側にも断熱部材32が設けられている。
【0061】
それにより、モジュール20の稼動(起動処理時、発電時、停止処理時)に伴って生じる排ガスは、排ガス流路37を流れた後、排気孔35より排気される構成となっている。なお、排気孔35は収納容器21の底部の一部を切り欠くようにして形成してもよく、また管状の部材を設けることにより形成してもよい。
【0062】
なお、酸素含有ガス導入部材27の内部には、セルスタック2近傍の温度を測定するための熱電対39が、その測温部38が燃料電池セル3の長手方向の中央部でかつ燃料電池セル3の配列方向における中央部に位置するように配置されている。
【0063】
また、上述の構成のモジュール20においては、燃料電池セル3における燃料ガス流路より排出される発電に使用されなかった燃料ガスと酸素含有ガスとを燃料電池セル3の上端と改質器22との間で燃焼させることにより、燃料電池セル3の温度を上昇・維持させることができる。あわせて、燃料電池セル3(セルスタック2)の上方に配置された改質器22を温めることができ、改質器22で効率よく改質反応を行なうことができる。なお、通常発電時においては、上記燃焼や燃料電池セル3の発電に伴い、モジュール20内の温度は500〜800℃程度となる。
【0064】
図5は、外装ケース内に図3で示したモジュール20と、モジュール20を動作させるための補機(図示せず)とを収納してなる本実施形態の燃料電池装置の一例を示す分解斜視図である。なお、図5においては一部構成を省略して示している。
【0065】
図5に示す燃料電池装置41は、支柱42と外装板43から構成される外装ケース内を仕切板44により上下に区画し、その上方側を上述したモジュール20を収納するモジュール収納室45とし、下方側をモジュール20を動作させるための補機を収納する補機収納室46として構成されている。なお、補機収納室46に収納する補機を省略して示している。
【0066】
また、仕切板44には、補機収納室46の空気をモジュール収納室45側に流すための空気流通口44が設けられており、モジュール収納室45を構成する外装板43の一部に、モジュール収納室45内の空気を排気するための排気口48が設けられている。
【0067】
このような燃料電池装置41においては、上述したように、長期信頼性の向上したモジュール20をモジュール収納室45に収納し、モジュール20を動作させるための補機を補機収納室46に収納して構成されることにより、長期信頼性の向上した燃料電池装置41とすることができる。
【0068】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、改良等が可能である。
【0069】
例えば、導電性支持体上に空気極層、固体電解質層、燃料極層を配置した燃料電池セルであっても良い。さらに、例えば、上記形態では、導電性支持体13上に燃料極層9、固体電解質層10、空気極層11を積層したが、導電性支持体13を用いることなく、燃料極層9自体を支持体とし、この燃料極層9に、固体電解質層10、空気極層11を設けても良い。
【0070】
また、支持体上に空気極層、固体電解質層、燃料極層を有する発電素子部が複数形成された、いわゆる横縞型の燃料電池セルスタックを複数組み合わせてなる横縞型バンドルにも適用することができる。
【0071】
さらに、上記形態では燃料電池セル3、セルスタック装置1、モジュール20ならびに燃料電池装置41について説明したが、セルに水蒸気と電圧とを付与して水蒸気(水)を電気分解することにより、水素と酸素(O)を生成する電解セル(SOEC)およびこの電解セルを備える電解セルスタック装置および電解モジュールならびにモジュール収容装置である電解装置にも適用することができる。
【実施例1】
【0072】
以下、本実施形態の効果についてシミュレーションにより確認した結果について説明する。
【0073】
図6は、燃料電池セル3とシール材16との接合部における応力が0となる部位を調査したシミュレーション結果を示したグラフである。
【0074】
なお、燃料電池セル3としては、NiとYを含有する断面が扁平状の導電性支持体13に、Ni(NiO)とイットリアが固溶したZrOを含む燃料極層9と、8モル%のイットリアが固溶したZrOから形成された固体電解質層10と、LaSrCoFeからなる空気極層11と、LaCrOからなるインターコネクタ12とを備え、図1で示した構成の燃料電池セル3を用いた。また、シール材16としてはガラスを用いた。
【0075】
グラフにおいて、縦軸は燃料電池セル3とシール材16との応力(σxx)が0となる部位を、横軸にメニスカスの角度θを示している。なお、縦軸において、メニスカスの先端部と燃料電池セル3の接合箇所を0として示しており、0の線よりも上側に位置する場合は、燃料電池セル3とシール材16との応力(σxx)が0となる部位が、メニスカスの先端部と燃料電池セル3との接合箇所よりも上方の燃料電池セル3にある、言い換えれば燃料電池セル3とシール材16との接合部が引っ張り応力となることを意味している。
【0076】
一方、燃料電池セル3とシール材16との応力(σxx)が0となる部位が、0の線よりも下側に位置する場合は、燃料電池セル3とシール材16との応力(σxx)が0となる部位が、燃料電池セル3とシール材16との接合部側にある、言い換えれば燃料電池セル3とシール材16との接合部が圧縮応力となることを意味している。
【0077】
ここで、燃料電池セル3とシール材16との接合部が圧縮応力となるとは、燃料電池セル3とシール材16とのそれぞれに向かって応力が生じることから、この接合が強固になることを意味している。
【0078】
図6に示したように、シール材16のメニスカスの先端部18からマニホールド7に向けて引いた垂線と、メニスカスの凹状の外形線のうち、凹状の底部17から先端部18までの高さの半分の高さに位置する点19と先端部17とを結ぶ直線とのなす角度θが45°以下の場合は、燃料電池セル3とシール材16との応力(σxx)が0となる部位が、0の線よりも下側に位置し、燃料電池セル3とシール材16との接合部が圧縮応力となること分かる。それにより、燃料電池セル3とシール材16との接合部において、クラックが生じることを抑制することができる。
【0079】
一方、上記角度θが45°よりも大きい場合には、燃料電池セル3とシール材16との応力(σxx)が0となる部位が、0の線よりも上側に位置し、燃料電池セル3とシール材16との接合部が引っ張り応力となることが分かる。この場合は、燃料電池セル3とシール材との接合部において、クラックが生じることを抑制することができない。
【0080】
それゆえ、本実施形態において、上記メニスカスの先端角度が45°以下の場合は、燃料電池セル3とシール材16との接合部において、クラックが生じることを抑制することができることが確認できた。
【実施例2】
【0081】
図7は、上述の燃料電池セル3とシール材16とを用いて、燃料電池セル3の厚みとシール材16の高さとの関係について行ったシミュレーションの結果を示すグラフである。
【0082】
グラフにおいて、縦軸は燃料電池セル3の変形度を示している。なお変形度は、燃料電電池セル3の内側に向けての変形度を意味している。また、横軸はシール材16の先端からの距離を示している。
【0083】
図7に示したように、シール材16の凹状の底部17から先端部18までの高さをhとし、燃料電池セル3の厚みをtとしたときに、h≧t/3を満たす場合には、シール材16の先端部18からの距離が0.1μmの場合に、燃料電池セル3の変形度は4μm以下であった。一方、h≧t/3を満たさない、h=t/4およびh=t/8においては、シール材16の先端部18からの距離が0.1μmの場合に、燃料電池セル3の変形度は4μm以上と、燃料電池セル3の変形を十分に抑制できていないことが分かった。また上記の結果より、シール材16の高さhが、燃料電池セル3の厚みに対して大きくなるにつれて、変形度が抑制できることが確認できた。
【符号の説明】
【0084】
1:セルスタック装置
3:燃料電池セル
7:マニホールド
16:シール材
18:先端部
20:燃料電池モジュール
41:燃料電池装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7