(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上面側経糸と上面側緯糸からなる上面側織物と、下面側経糸と下面側緯糸からなる下面側織物とを、接結糸として機能する経糸によって接合された工業用二層織物において、表面側に形成される全ての経糸ナックルは単一の上面側緯糸の上側を通る事で形成されており、前記経糸ナックルは隣接するシャフトにおいて平面視斜め方向に少なくとも二つの他の経糸ナックルが配置されており、前記経糸ナックルは連続して配置されることにより織物の表面層側に杉綾模様を形成するように配置されていることを特徴とする工業用二層織物。
前記連続して配置される経糸ナックルは、杉綾模様を形成する頂点間における前記経糸ナックルの数の最小値が3であり、最大値が完全組織における上面側経糸の本数の2倍であることを特徴とする請求項1に記載された工業用二層織物。
【背景技術】
【0002】
従来から工業用織物として経糸、緯糸で製織したものが広く使用されており、例えば製紙用織物や搬送用ベルト、ろ布等があり、それぞれ用途や使用環境に適した織物特性が要求されている。これらの織物のうち、織物の網目を利用して原料の脱水等を行う製紙工程で使用される抄紙用織物での要求は特に厳しい。例えば、紙に織物のワイヤーマークが転写しにくい表面平滑性に優れた織物、また原料に含まれる余分な水分を十分且つ均一に脱水するための脱水性、過酷な環境下でも好適に使用できる程度の剛性、耐摩耗性を持ち合わせ、更に良好な紙を製造するために必要な条件を長期間持続することのできる織物が要求されている。その他にも繊維支持性、製紙の歩留まりの向上、寸法安定性、走行安定性等が要求されている。さらに近年では抄紙マシンが高速化しているため、それに伴い抄紙用織物への要求も一段と厳しいものとなっている。
【0003】
工業用二層織物の一般的な組織としては綾織が知られている(例えば、特許文献1を参照)。かかる綾織組織を有する工業用二層織物は、表面に斜紋線が表われ、このような斜紋線が紙の表面に転写されてしまう問題があった。このような転写マークが発生した紙等は見た目が悪く、印刷時にインクがマーク方向に滲む等の印刷特性への悪影響が問題となっていた。このような問題を解決する方法としては、織物の表面を綾織ではなく、サテン織、繻子織、崩し綾織りにする技術が知られている。例えば、特許文献2には、織物の表面組織を崩し綾織りにすることによって、表面性、斜め剛性、走行安定性を向上させる技術が開示されている。
しかし、サテン織等の従来技術を織物に採用すると、ナックルが連続しない箇所が存在するため、隣接する緯糸同士の寄集が発生し、緯糸の不均一な並びに起因する転写マークの発生が問題となっていた。
【0004】
又、特許文献2に開示されている崩し綾織りを表面に有する織物には、組織構造上、工業用織物を使用することによって、経時的に隣接する緯糸同士に離間又は寄集が発生し、これが新たな転写マークとして紙等に転写されてしまうという問題が発生した。すなわち、引用文献2の段落[0007]には、『綾がつながった状態になった場合、綾織りによる一方向へのワイヤー剛性低下と斜めマークは抑制できたとしても、接することによって、くの字型のような綾が目立つようになってしまい、そのマークが強く出てしまう。』と記載されている。これは頂点と隣接する上面側経糸が頂点部と隣接するナックルの部分、つまり上面側緯糸の上を通り、次に上面側緯糸の下を取った後に上面側緯糸の上を通る上面側経糸の構造が、上面側経糸が上面側緯糸の下を通る際に上面側緯糸を押し上げる力が発生するので引用文献2にあるように綾が目立つことになる。
そして、綾織を崩した組織でありながら、隣接する緯糸同士の離間又は寄集を防止し、転写マークを抑制すると共に、表面平滑性及び走行安定性といった織物に要求される全ての特性を満足させる組織は存在していなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、経糸ナックルによって織物の表面上に表れる斜紋線を消滅させることを目的とする。又、従来、組織の構造上発生していた隣接する緯糸同士の離間又は寄集を防止することにより、転写マークを抑制し、表面平滑性及び走行安定性に優れた工業用二層織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る織物は、斜紋線をなくし、かつ織物の内部における緯糸の離間又は寄集を防止することを目的として開発されたものである。すなわち本発明は、上記従来技術の課題を解決するために、以下の構成を採用した。
(1)上面側経糸と上面側緯糸からなる上面側織物と、下面側経糸と下面側緯糸からなる下面側織物とを、接結糸として機能する経糸によって接合された工業用二層織物において、表面側に形成される全ての経糸ナックルは単一の上面側緯糸の上側を通る事で形成されており、前記経糸ナックルは隣接するシャフトにおいて平面視斜め方向に少なくとも二つの他の経糸ナックルが配置されており、前記経糸ナックルは連続して配置されることにより織物の表面層側に杉綾模様を形成するように配置されていることを特徴とする工業用二層織物である。
【0008】
ここで、本発明における「経糸ナックル」とは、経糸接結糸が上面側緯糸の上を通って織物の表面にナックルを形成している箇所を示している。またナックルを形成する経糸としては、接結糸に加えて上面側経糸も含まれている。
又、本発明における「単一の上面側緯糸の上側」とは、経糸接結糸が隣接している二本以上の上面側緯糸の上を通ることはなく、経糸接結糸が必ず1本の上面側緯糸の上を通って単一のナックルを形成していることを示している。そのため、経糸ナックルが織物の表面上にロングクリンプを形成することはない。
更に、本発明における「杉綾模様」とは、経糸ナックルが走行方向に対して斜めの方向に平面視上一定数並設され、更に正方向に反転して同数並ぶことにより、経糸ナックルによるジグザグ模様を織物の上面層側に形成している様をいう。すなわち、ジグザグ模様の反転部における頂点には、一の経糸ナックルが配置されている。
また、本発明における頂点に配置された経糸ナックルにおいては、一方向の隣接するシャフトの上下斜め方向に2つの他の経糸ナックルが配置され、ジグザグ模様を形成する頂点と頂点の中間地点に配置された経糸ナックルは、両隣りのシャフトの対角線上(斜め方向)に2つの他の経糸ナックルが配置されている。
【0009】
(2)前記連続して配置される経糸ナックルは、杉綾模様を形成する頂点間における前記経糸ナックルの数の最小値が3であり、最大値が完全組織における上面側経糸の本数の2倍であることを特徴とする上記(1)に記載された工業用二層織物である。
本発明における、平面視斜め方向に連接する経糸ナックルの配置数の最小値は3である。すなわちジグザグ模様の頂点間に1つの経糸ナックルが配置されたものが、最小値3となる。また、経糸ナックルの数の最大値を採用することにより、完全組織を形成する上面側経糸の総本数の2倍の個数の経糸ナックルを配置することにより、ジグザグ模様の一つの辺が形成されることになる。
(3)前記杉綾模様の頂点に配置された経糸ナックルは、接結糸であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載された工業用二層織物である。
(4)前記織物の表面側に表れる上面側緯糸によって形成されたナックルが、全て同じ長さを有していることを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれか一に記載された工業用二層織物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、織物の表面上に経糸ナックルによる杉綾模様を形成することによって、斜紋線のない工業用二層織物を提供するという効果を奏する。又、従来の織物における組織の構造上発生していた隣接する緯糸同士の離間又は寄集を防止することにより、転写マークを抑制し、表面平滑性及び走行安定性に優れた工業用二層織物を提供するという優れた効果も奏する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る工業用二層織物について詳細に説明する。
本発明に係る工業用二層織物は、上面側経糸と上面側緯糸からなる上面側織物と、下面側経糸と下面側緯糸からなる下面側織物の二層で構成されており、上面側織物と下面側織物とは接結糸として機能する経糸によって接合されている。
また、本発明に係る工業用二層織物は、表面側に形成される全ての経糸ナックルが単一の上面側緯糸の上側を通って形成されている点に特徴を有する。さらに、前記経糸ナックルは隣接するシャフトにおいて平面視斜め方向に少なくとも二つの他の経糸ナックルが配置されており、前記経糸ナックルは連続して配置されることにより織物の表面層側に杉綾模様を形成するように配置されている。
本発明は、一の接結糸が上面側織物上にナックルを形成している箇所において、隣接する斜め方向の箇所に二つの経糸ナックルを形成することによって、一の接結糸が形成する経糸ナックルにおいて発生する凹凸形状を隣接する二つの経糸ナックルとの応力関係によって打ち消しあうことができる。そのため紙に対する織物の脱水マークの転写を抑止し、結果的に紙における織物との接触面に生じる転写マークを防止し、表面平滑性を良好なものとすることができる。
【0013】
本発明に係る工業用二層織物に使用される糸は用途によって選択すればよいが、例えば、モノフィラメントの他、マルチフィラメント、スパンヤーン、捲縮加工や嵩高加工等を施した一般的にテクスチャードヤーン、バルキーヤーン、ストレッチヤーンと称される加工糸、あるいはこれらを撚り合わせる等して組み合わせた糸が使用できる。また、糸の断面形状も円形だけでなく四角形状や星型等の短形状の糸や楕円形状、中空等の糸が使用できる。また、糸の材質としても、自由に選択でき、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロ、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、綿、ウール、金属等が使用できる。もちろん、共重合体やこれらの材質に目的に応じてさまざまな物質をブレンドしたり含有させた糸を使用しても良い。抄紙用ワイヤーとしては一般的には、上面側経糸、下面側経糸、接結糸、上面側緯糸には剛性があり、寸法安定性に優れるポリエステルモノフィラメントを用いるのが好ましい。また、耐摩耗性が要求される下面側緯糸にはポリエステルモノフィラメントとポリアミドモノフィラメントを交互に配置する等、交織するのが剛性を確保しつつ耐摩耗性を向上できて好ましい。
【0014】
以下、本発明に係る工業用二層織物の実施形態を説明する。以下に示す実施形態は、本発明の一例であって、本発明を限定するものではない。
本発明の工業用二層織物に係る実施形態を図面に則して説明する。
図1〜
図7は本発明の工業用二層織物に係る実施形態1〜5を示す意匠図である。下記に記述する完全組織とは、織物組織の最小の繰り返し単位であって、この完全組織が上下左右につながって織物全体の組織が形成される。意匠図において、経糸はアラビア数字、例えば1、2、3・・・で示した。本実施形態において、接結機能を有する経糸を(b)で示している。また、上面側経糸は(U)、下面側経糸は(L)で示している。 緯糸はダッシュを付したアラビア数字、例えば1’、2’、3’・・・で示した。配置比率によって上面側緯糸と下面側緯糸が上下に配置されている場合と、上面側緯糸のみの場合がある。上面側緯糸は(U)で、下面側緯糸は(L)で示している。
【0015】
また、×印は上面側経糸が上面側緯糸の上側に位置していることを示し、●印は接結糸が上面側緯糸の上側に位置していることを示し、▲印は接結糸が下面側緯糸の下側に位置していることを示し、○印は下面側経糸が下面側緯糸の下側に位置していることを示している。
上面側経糸と下面側経糸、および上面側緯糸と下面側緯糸は上下に重なって配置されているところがある。緯糸については配置比率から一部上面側緯糸の下に下面側緯糸が配置されていないところもある。意匠図では糸が上下に正確に重なって配置されることになっているが、これは図面の都合上であって実際の織物ではずれて配置されても構わない。
【0016】
実施形態1
図1は本発明の工業用二層織物に係る実施形態1の完全組織を示す意匠図である。上面側経糸(2U)と下面側経糸(2L)と、接結機能を有する上面側経糸接結糸(1Ub,3Ub)と下面側経糸接結糸(1Lb,3Lb)を含む2つの経糸対がある。第一の経糸対は、1Ubと1Lbとから構成され、第二の経糸対は、3Ubと3Lbとから構成されている。
図1に示す如く、第一の経糸対と第二の経糸対の間に、上面側経糸(2U)と下面側経糸(2L)の対が配置されており、合計6シャフトの織物である。なお、上面側緯糸と下面側緯糸の配置比率は4:3である。
【0017】
表面側に形成される全ての経糸ナックルは単一の上面側緯糸の上側を通る事で形成されている。例えば、
図2に示す如く、上面側経糸接結糸(1Ub)は、単一の上面側緯糸(1’U)及び上面側緯糸(5’U)の上側を通って経糸ナックルを形成している。また、上面側経糸(2U)も夫々単一の上面側緯糸(2’U,4’U,6’U,8’U)の上側を通って経糸ナックルを形成している。
図1に示す如く、前記経糸ナックル(●×)は、隣接するシャフトにおいて平面視斜め方向に少なくとも二つの他の経糸ナックル(●×)が配置されている。例えば、上面側経糸接結糸(3Ub)が上面側緯糸(3’U)の上側を通って形成されている経糸ナックル(●)の平面視斜め方向には、上面側経糸(2U)が上面側緯糸(2’U)の上側を取って形成されている他の経糸ナックル(×)と、上面側経糸(2U)が上面側緯糸(4’U)の上側を取って形成されている他の経糸ナックル(×)の2つの経糸ナックルが配置されている。その他、上面側経糸接結糸(1Ub)が上面側緯糸(1’U)の上側を通って形成されている経糸ナックル(●)の平面視斜め方向には、上面側経糸(2U)が上面側緯糸(2’U)の上側を取って形成されている他の経糸ナックル(×)と、上面側経糸(2U)が上面側緯糸(8’U)の上側を取って形成されている他の経糸ナックル(×)の2つの経糸ナックルが配置されている。
【0018】
上記のように経糸ナックルを連続して配置することにより織物の表面層側に杉綾模様を形成することができる。そして、
図1に示すような杉綾模様を形成することによって、斜紋線のない工業用二層織物を提供することができる。
実施形態1に係る工業用織物における連続して配置される経糸ナックルは、杉綾模様を形成する頂点間における前記経糸ナックルの数が3である。
そして、一の接結糸が上面側織物上にナックルを形成している箇所において、隣接する斜め方向の箇所に二つの経糸ナックルを形成することによって、一の接結糸が形成する経糸ナックルにおいて発生する凹凸形状を隣接する二つの経糸ナックルとの応力関係によって打ち消しあうことができるため、紙における織物との接触面に生じる転写マークを抑制し、表面平滑性及び走行安定性に優れた工業用二層織物を提供することができる。
【0019】
実施形態2
図3は本発明の工業用二層織物に係る実施形態2の完全組織を示す意匠図である。上面側経糸(2U,3U,5U,6U)と下面側経糸(2L,3L,5L,6L)と、接結機能を有する上面側経糸接結糸(1Ub,4Ub)と下面側経糸接結糸(1Lb,4Lb)を含む2つの経糸対がある。第一の経糸対は、1Ubと1Lbとから構成され、第二の経糸対は、4Ubと4Lbとから構成されている。実施形態2に係る工業用二層織物は、
図12シャフトの織物である。なお、上面側緯糸と下面側緯糸の配置比率は1:1である。
表面側に形成される全ての経糸ナックルは単一の上面側緯糸の上側を通る事で形成されている。例えば、
図4に示す如く、上面側経糸接結糸(1Ub)は、単一の上面側緯糸(1’U)及び上面側緯糸(4’U)の上側を通って経糸ナックルを形成し、下面側経糸接結糸(1Lb)は、単一の上面側緯糸(7’U)及び上面側緯糸(10’U)の上側を通って経糸ナックルを形成している。また、上面側経糸(2U)も夫々単一の上面側緯糸(2’U,6’U,8’U,12’U)の上側を通って経糸ナックルを形成している。
【0020】
図3に示す如く、前記経糸ナックル(●×)は、隣接するシャフトにおいて平面視斜め方向に少なくとも二つの他の経糸ナックル(●×)が配置されている。例えば、上面側経糸接結糸(5Ub)が上面側緯糸(4’U)の上側を通って形成されている経糸ナックル(●)の平面視斜め(
図3における左側)方向には、上面側経糸(3U)が上面側緯糸(3’U)の上側を取って形成されている他の経糸ナックル(×)と、上面側経糸(3U)が上面側緯糸(5’U)の上側を取って形成されている他の経糸ナックル(×)の2つの経糸ナックルが配置されている。その他、上面側経糸接結糸(1Ub)が上面側緯糸(1’U)の上側を通って形成されている経糸ナックル(●)の平面視斜め方向には、上面側経糸(2U)が上面側緯糸(2’U)の上側を取って形成されている他の経糸ナックル(×)と、上面側経糸(2U)が上面側緯糸(12’U)の上側を取って形成されている他の経糸ナックル(×)の2つの経糸ナックルが配置されている。また、上面側経糸(2U)が上面側緯糸(2’U)の上側を通って形成されている経糸ナックル(×)の平面視斜め(
図3における左側)方向には、上面側経糸接結糸(1Ub)が上面側緯糸(1’U)の上側を取って形成されている他の経糸ナックル(●)と、
図3における右側方向には、上面側経糸(3U)が上面側緯糸(3’U)の上側を取って形成されている他の経糸ナックル(×)の2つの経糸ナックルが配置されている。
【0021】
上記のように経糸ナックルを連続して配置することにより織物の表面層側に杉綾模様を形成することができる。実施形態2における杉綾模様の頂点は、上面側経糸接結糸1Ubが上面側緯糸(1’U,4’U,)の上側を通る2つの経糸ナックル(●)と、下面側経糸接結糸1Lbが上面側緯糸(7’U,10’U)の上側を通る2つの経糸ナックル(●)、及び上面側経糸接結糸4Ubが上面側緯糸(4’U,7’U,)の上側を通る2つの経糸ナックル(●)と、下面側経糸接結糸4Lbが上面側緯糸(1’U,10’U)の上側を通る2つの経糸ナックル(●)、合計8箇所の経糸ナックルがある。実施形態2に係る工業用織物は、前記8箇所の経糸ナックルの全てが、接結糸によって形成されている点に特徴を有している。
また、実施形態2に係る工業用織物における連続して配置される経糸ナックルは、杉綾模様を形成する頂点間における前記経糸ナックルの数が4である。
そして、
図3に示すような杉綾模様を形成することによって、斜紋線のない工業用二層織物を提供することができる。
また、一の接結糸が上面側織物上にナックルを形成している箇所において、隣接する斜め方向の箇所に二つの経糸ナックルを形成することによって、一の接結糸が形成する経糸ナックルにおいて発生する凹凸形状を隣接する二つの経糸ナックルとの応力関係によって打ち消しあうことができるため、紙における織物との接触面に生じる転写マークを抑制し、表面平滑性及び走行安定性に優れた工業用二層織物を提供することができる。
【0022】
実施形態3
図5は本発明の工業用二層織物に係る実施形態3の表面組織の一部を示す意匠図である。ここで、図中における■印は接結糸及び上面側経糸によって形成される経糸ナックルを示している。これは実施形態4及び5においても同様である。
本実施形態3に係る工業用二層織物は、
図5に示す如く、表面組織中に8本の上面側経糸及び経糸接結糸を有する。
本実施形態3に係る工業用二層織物において、杉綾模様を形成する頂点間における経糸ナックルの数は、上面側経糸の本数である8の2倍である16個を有している。すなわち、経糸8と緯糸16の交差する箇所にある経糸ナックルを頂点とする連続して配置される経糸ナックル数は、経糸7−緯糸15、経糸6−緯糸14、経糸5−緯糸13、経糸4−緯糸12、経糸3−緯糸11、経糸2−緯糸10、経糸1−緯糸9、経糸8−緯糸8、経糸7−緯糸7、経糸6−緯糸6、経糸5−緯糸5、経糸4−緯糸4、経糸3−緯糸3、経糸2−緯糸2、そして正方向に反転してジグザグ模様を形成する他方の頂点である経糸1−緯糸1まで、計16個を有している。
上記のように経糸ナックルを連続して配置することにより織物の表面層側に杉綾模様を形成することができる。これにより斜紋線がなく、かつ転写マークもない、表面平滑性及び走行安定性に優れた工業用二層織物を提供することができる。
【0023】
実施形態4
図6は本発明の工業用二層織物に係る実施形態4の表面組織の一部を示す意匠図である。本実施形態4に係る工業用二層織物は、
図6に示す如く、表面組織中に6本の上面側経糸及び経糸接結糸を有する。
本実施形態4に係る工業用二層織物において、杉綾模様を形成する頂点間における経糸ナックルの数は3個である。杉綾模様の頂点は、経糸1−緯糸1、経糸3−緯糸3、経糸4−緯糸1及び経糸6−緯糸3の計4つある。 このような完全組織を上下左右に連接することによって、走行方向に杉綾模様が形成される。これにより斜紋線がなく、かつ転写マークもない、表面平滑性及び走行安定性に優れた工業用二層織物を提供することができる。
【0024】
実施形態5
図7は本発明の工業用二層織物に係る実施形態5の表面組織の一部を示す意匠図である。本実施形態5に係る工業用二層織物は、完全組織において24シャフトの織物である。本実施形態5に係る工業用二層織物は、
図7に示す如く、表面組織中に12本の上面側経糸及び経糸接結糸を有する。
本実施形態5に係る工業用二層織物において、杉綾模様を形成する頂点間における経糸ナックルの数は5個である。杉綾模様の頂点は、経糸1−緯糸4、経糸1−緯糸8、経糸5−緯糸4、経糸5−緯糸8、経糸9−緯糸4及び経糸9−緯糸8の計6つある。
このような完全組織を上下左右に連接することによって、走行方向に杉綾模様が形成される。これにより斜紋線がなく、かつ転写マークもない、表面平滑性及び走行安定性に優れた工業用二層織物を提供することができる。
【0025】
図8は、上述した実施形態2に係る工業用二層織物の一部を製造し、製造された織物を使用して表面スリマークの試験を行った結果を示す写真である。
図9は、従来の綾織組織における織物の一部を製造し、同様に表面スリマークの試験を行った結果を示す写真である。
黒く現れた部分は、織物の表面において凸部を形成している部分である。
図9における工業用二層織物においては、斜め方向に連続する転写マークが現れているのが看取される。一方、
図8に示す如く、実施形態2に係る工業用二層織物においては、比較的濃く表れた黒い点が杉綾模様を形成するように現われているのが看取される。そして実施形態2に係る工業用二層織物には、斜め方向の転写マークが看取されない。
すなわち、本発明に係る工業用二層織物は、従来の工業用二層織物に比較して、紙に対する脱水マークの転写が抑止され、網厚を増大させることなく表面平滑性を良好なものとする顕著な効果を奏することが明らかである。