特許第6243551号(P6243551)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6243551SCR触媒を備える自動車内燃機関に接続された排気ガス浄化システムの運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243551
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】SCR触媒を備える自動車内燃機関に接続された排気ガス浄化システムの運転方法
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/08 20060101AFI20171127BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20171127BHJP
   F02D 9/04 20060101ALI20171127BHJP
   F01N 13/08 20100101ALI20171127BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20171127BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   F01N3/08 H
   F01N3/24 Q
   F02D9/04 C
   F01N13/08 B
   F01N3/24 N
   F01N3/24 E
   F01N3/035 E
   B01D53/94 400
   B01D53/94ZAB
   B01D53/94 222
   B01D53/94 241
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-559226(P2016-559226)
(86)(22)【出願日】2015年2月13日
(65)【公表番号】特表2017-510747(P2017-510747A)
(43)【公表日】2017年4月13日
(86)【国際出願番号】EP2015000322
(87)【国際公開番号】WO2015144276
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2016年9月26日
(31)【優先権主張番号】102014004439.4
(32)【優先日】2014年3月27日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】ゲルトナー,ウーヴェ
(72)【発明者】
【氏名】マスナー,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】レヒトリッチ,エーリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ツィンマーマン,フランク
【審査官】 首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−241860(JP,A)
【文献】 特開2005−240811(JP,A)
【文献】 特開2007−056719(JP,A)
【文献】 特開2004−150382(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/029792(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08
B01D 53/94
F01N 3/035
F01N 3/24
F01N 13/08
F02D 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気ガスに含まれる窒素酸化物をアンモニアで触媒変換するためのSCR触媒(5)を備える自動車内燃機関に接続された排気ガス浄化システム(1)の運転方法であって、
−前記SCR触媒(5)の上流側でアンモニア含有還元剤が前記排気ガスに予め設定された注入速度で添加され、
−前記排気ガス浄化システム(1)内の前記SCR触媒(5)の入口側での絶対圧力と相関する圧力値が測定され、
−前記注入速度が少なくとも前記圧力値に応じて設定され、前記SCR触媒(5)の窒素酸化物変換率が決定され、決定された窒素酸化物変換率に関する予め設定された閾値を下回る場合に、前記排気ガス浄化システム(1)内の前記SCR触媒(5)の入口側の前記絶対圧力は、該SCR触媒(5)から流出する排気ガスに関する気流抵抗が増加することにより増加することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記絶対圧力の増加は、前記内燃機関及び/又は前記SCR触媒(5)の運転パラメータに応じて調整されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記絶対圧力の増加は、前記SCR触媒(5)の前記窒素酸化物変換が少なくともほぼ予め設定された程度まで増加するように調整されることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記絶対圧力の増加と並行して、前記SCR触媒(5)の入口側で前記排気ガスの温度に影響する手段が実行されることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記絶対圧力の増加のために、前記自動車内燃機関の排気ガスが前記SCR触媒(5)を貫流する前に微粒子低減ユニット(4)を貫流する第1の気流方向から、前記自動車内燃機関の排気ガスが前記微粒子低減ユニット(4)を貫流する前に前記SCR触媒(5)を貫流する第2の気流方向へと、排気ガス流路の切替が実行されることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の気流方向において前記SCR触媒(5)及び前記微粒子低減ユニット(4)は、前記第1の気流方向前記排気ガスと対向する方向に、前記排気ガスが貫流されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気ガスに含まれる窒素酸化物をアンモニアで触媒的に変換するためのSCR触媒を備える、自動車内燃機関に接続された排気ガス浄化システムの運転方法に関し、この方法では、SCR触媒の上流側でアンモニア含有還元剤が排気ガスに予め設定された注入速度で添加される。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、SCR触媒を備えた排気ガスシステムにアンモニア含有還元剤として尿素水溶液が制御された調整可能な注入速度で供給される方法が記載されている。この方法では、様々なパラメータに応じて、SCR触媒中に貯蔵されたアンモニアの計算モデルにより設定された目標充填レベル、又は、SCR触媒中に貯蔵されたアンモニア、及び/又はSCR触媒に供給されたアンモニアを用いる窒素酸化物変換に関する設定された目標効率のいずれか一方に、少なくともほぼ到達するように注入速度が調整されている。このようにして、関連する自動車内燃機関の排気ガスに由来する窒素酸化物の効果的な低減は、達成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許第10 2008 036 885 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、自動車内燃機関の排気ガスから窒素酸化物を更に良好に除去することを可能にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本課題は、請求項1の特徴を有する方法により解決される。
【発明の効果】
【0006】
内燃機関の排気ガスに含まれる窒素酸化物をアンモニアで触媒的に変換するためのSCR触媒を備える、自動車内燃機関に接続された排気ガス浄化システムの本発明による運転方法では、アンモニア含有還元剤は、SCR触媒の上流側で排気ガスに予め設定された注入速度で添加され、排気ガス浄化システム内のSCR触媒の入口側での絶対圧力と相関する圧力値が測定され、注入速度は、少なくとも圧力値に応じて設定される。その際、注入速度は、ゼロではなく、好ましくは、窒素酸化物変換率、又は排気ガスに含まれる窒素酸化物の低減に対する予め設定された目標値に少なくともほぼ到達するように調整される。注入速度の調整は、好ましくは、フィードバックを伴う閉制御ループを用いて制御して行われる。ただしこの調整は、開制御ループを用いるフォワード制御でも可能である。絶対圧力に応じ、かつ、特に制御されて調整された本発明による注入速度を用いて、SCR触媒の変換能力の活用を更に改善でき、この改善により排気ガスからの窒素酸化物の低減を更に改善できる。本発明の手順により、絶対圧力は、触媒的窒素酸化物変換に決定的に関与している物質輸送プロセスに特に影響するという、発明者の知見が考慮される。窒素酸化物(以下では簡単にNOxと表記する)とは、ここでは主として一酸化窒素(NO)及び二酸化窒素(NO2)であると理解されたい。
【0007】
本発明の実施形態においてSCR触媒のNOx変換率が決定され、この決定されたNOx変換率に対する予め設定された閾値を下回るとき、SCR触媒から流出する排気ガスに対する気流抵抗が増加することにより、排気ガス浄化システム内のSCR触媒の入口側での絶対圧力が増加する場合、特に有利である。SCR触媒の入口側で特定の予め設定された値まで絶対圧力を増加させることは、例えば、排気ガス浄化システム内に気流に沿ってSCR触媒の後に配置された排気ガス後縁フラップを操作することにより生じることができる。SCR触媒の入口側での絶対圧力の増加によって、触媒部材自体での圧力も上昇する。指摘したように、圧力上昇により、排気ガスと共にSCR触媒に供給された窒素酸化物のアンモニア(NH3)を用いる変換に関して、正の影響を及ぼすことができる。これにより注入速度は、場合により増加可能であり、窒素酸化物変換率の増加を達成できる。因果関係が完全には説明されていないが、圧力上昇によって生じたNH3吸蔵能力の増加、及び、変換反応の熱力学的平衡の所望の方向への移動又は反応動力学の改善が、SCR触媒の改善されたNOx変換率に対して決定的であるとみなされる。好ましくはSCR触媒の入口での絶対圧力は、内燃機関の冷間始動又は暖機と関連する。SCR触媒が良好なNOx低減活性を示す温度までSCR触媒を加熱することは、排気ガスの滞留によって、及び滞留と関連するスロットル効果によって、内燃機関のより高温な排気ガスが最初から供給されるため、速やかに実現する。SCR触媒が約250℃の規定温度、又は約70%NOx変換率の規定活性に到達した場合、絶対圧力の増加を減少させる、又は完全に逆行させることができる。ただし絶対圧力の増加は、内燃機関の暖機の実行後でも有利であることが実証されている。250℃を超える温度を伴う運転温度のSCR触媒では、特に、例えば、定格負荷の70%を超える内燃機関の負荷は、未処理NOx排出の増加によって、SCR触媒のNOx流入が比較的多いという状態になり得る。そのような運転時点では、要求された閾値へNOx排出を低減することは、多くの場合に困難である。SCR触媒の入口側での絶対圧力の増加によって、触媒効率の向上が可能となる。それによって、SCR触媒に流入する排気ガス中のNOx濃度が高い運転時点であっても、高いNOx低減値及び厳しい閾値の順守が達成できる。
【0008】
本発明の別の実施形態では、絶対圧力の増加が、内燃機関及び/又はSCR触媒の運転パラメータに応じて調整されるように行われる。それによって、SCR触媒の入口側又はSCR触媒内での絶対圧力の増加は、排気ガス浄化システムを介して内燃機関に逆の作用を及ぼし、内燃機関の運転に影響を与える、という知見が考慮される。場合によってはその際、運転に関して予期せぬ余波が生じる。また、NOx変換率の正の影響に関して、逆効果となる作用が触媒運転パラメータに生じ得る。内燃機関及び/又はSCR触媒の運転パラメータに応じて絶対圧力を増加させることによって、この妨害影響を考慮に入れて負の作用を最小化できる、又は逆に影響する運転パラメータに関する最適化されたトレードオフに到達できる。
【0009】
本発明の別の実施形態では、絶対圧力の増加は、SCR触媒のNOx変換率が少なくともほぼ予め設定された程度まで増加するような方法で調整される。これに加えて好ましくは、様々な運転パラメータに応じたSCR触媒のNOx変換率の圧力依存性を記述する、事前に決定されて保存された特性曲線又は特性図が参照される。運転パラメータは、排気ガス流量、触媒温度、NO2吸気濃度又はNOx吸気濃度、NH3スリップ、及び場合によっては他の値の、1つ又は2つ以上の値を含んでもよい。
【0010】
本発明の別の実施形態では、絶対圧力の増加と並行して、SCR触媒の入口側での排気ガス温度に影響する手段が実行される。このようにして、SCR触媒用に少なくともほぼ最適化された運転条件は、触媒のNOx変換性能に対して調整できる。特に、例えば、200℃から250℃の低い排気ガス温度では、絶対圧力の増加に並行して、排気ガス温度を上昇させるための手段を実行するようにできる。逆に、例えば、450℃を超える高い排気ガス温度では、絶対圧力の増加に並行して、排気ガス温度を低下させるための手段を実行するようにできる。好ましくは、排気ガス温度に影響を与えるために、例えば、燃料の前噴射、主噴射及び/又は後噴射のタイミングの変更及び/又は燃料の量の変更、排気ガス再循環率、内燃機関の吸気バルブ及び/又は排気バルブの開放時間及び/又は閉鎖時間などの、内燃機関の1つ又は2つ以上の運転パラメータが変更される。
【0011】
本発明の別の実施形態では、絶対圧力を増加させるために、自動車内燃機関の排気ガスがSCR触媒を貫流する前に微粒子低減ユニットを貫流する第1の気流方向から、自動車内燃機関の排気ガスが微粒子低減ユニットを貫流する前にSCR触媒を貫流する第2の気流方向へと、排気ガス流路の切替が実行されるようにする。したがって、排気ガス流路の切替後、微粒子低減ユニットは、気流に沿ってSCR触媒の下流側に接続されるが、切替前には上流側に配置されていた。したがって、切替後にSCR触媒から流出する排気ガスは、環境に放出される前に、微粒子低減ユニットの気流抵抗を乗り越えなければならない。したがって、SCR触媒から流出する排気ガスに対する気流抵抗及びSCR触媒の上流側の絶対圧力は、増加し、触媒のNOx変換能力も同様に増加する。本発明による排気ガス流路の切替は、特に追加の圧力増加なしにSCR触媒に約50%未満のNOx変換率をもたらし得る低温で、特に有利であることが明らかとなっている。なぜなら、微粒子低減ユニットは、内燃機関の高温の排気ガスに対して上流側に接続されたヒートシンクとしてではなくなり、したがってSCR触媒は、より高温の排気ガスを受けるからである。このことは、特に内燃機関の暖機において有利である。
【0012】
排気ガス流路の切替において、本発明の別の実施形態での第2の気流方向では、SCR触媒及び微粒子低減ユニットに第1の気流方向と比較して逆方向に排気ガスが貫流する場合に、更に特に有利である。微粒子低減ユニットの貫流方向を逆転することによって、第1の気流方向での貫流時に集積した灰の排出が可能となる。いわゆるアンモニア吸蔵触媒がSCR触媒の後に好ましく備えられている場合、排気ガス流路を第2の気流方向に切替後、アンモニア吸蔵触媒に、SCR触媒の前に排気ガスが貫流する。吸蔵触媒の酸化触媒的性質に基づいて、この吸蔵触媒は、排気ガス中でのNO2のNOに対する比率を高めるように作用する。この作用は、第2の気流方向で気流に沿って吸蔵触媒に下流側で接続されたSCR触媒の触媒効率を、また同様に改善できる。
【0013】
本発明の有利な実施形態は、図に示されており、以下で説明する。その際、前述の特徴及び以下でも説明される特徴は、それぞれ示された特徴の組合せだけではなく、本発明の範囲を逸脱せずに、他の組合せでも、又は単独でも使用できることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明による方法を使用できる排気ガス浄化システムの有利な実施形態の概略図である。
図2】排気ガスに添加する還元剤に関する注入速度を決定するための制御ユニットの概略図である。
図3】SCR触媒のNOx変換率の温度依存性及び圧力依存性を概略的に示したグラフである。
図4図2に記載の制御ユニットの作動方法を説明するためのフローチャートである。
図5】本発明の方法を使用できる排気ガス浄化システムの更に有利な実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1には、本発明の方法が利用可能な排気ガス浄化システム1の有利な実施形態を例示としてのみ概略的に図示した。この場合、排気ガス浄化システム1は、以下では簡単にエンジンと呼ばれる自動車内燃機関(図示せず)に付随している。エンジンは、好ましくは、特に輸送用車両の直噴ディーゼルエンジンとして形成される。
【0016】
エンジンから排出される排気ガスは、排気ガス浄化システム1の排気ガストレイン2により受容され、矢印3により示された気流方向に連続して微粒子低減ユニット4及びSCR触媒5を貫流する。SCR触媒5の下流には、排気ガストレイン2内に排気ガス後縁フラップ6が配置され、この後縁フラップを用いて排気ガスを滞留させ、滞留することでSCR触媒5の特に下流側の排気ガス圧力を可変に増加できる、又は調整できる。排気ガス後縁フラップ6は、好ましくは連続して開放位置と閉鎖位置との間で調節可能に製作される。その際、閉鎖位置では、予め設定された排気ガス漏出量が排気ガス後縁フラップ6を介して流れることができるように、予め設定可能である。
【0017】
微粒子低減ユニット4及びSCR触媒5の入口側及び出口側には、圧力、温度、及び様々な排気ガス成分に関する様々なセンサが備えられる。センサについて代表的な例として図1に、第1の絶対圧力センサ7が微粒子低減ユニット4の入口側に、第2の絶対圧力センサ8が微粒子低減ユニット4の出口側に図示されている。絶対圧力センサ7、8を用いて、微粒子低減ユニット4にわたる差圧を決定でき、この差圧により、排気ガスからろ過除去された微粒子の捕集量を決定できる。絶対圧力センサ8を用いて、好ましくはSCR触媒5の入口側の絶対圧力に関する値も測定される。更に、第1の温度センサ9は、微粒子低減ユニット4の前に備えられ、第2の温度センサ11は、SCR触媒5の前に備えられる。温度センサ9、11を用いて、微粒子低減ユニット4及びSCR触媒5の温度を測定できる。更に、NOx及び/又はNH3を検知する第1の排気ガスセンサ10が微粒子低減ユニット4の後に備えられ、同様の第2の排気ガスセンサ12がSCR触媒5の後に備えられ、これらセンサは、排気ガス中のNOx含有量及び/又はNH3含有量の決定に役立つ。
【0018】
更に、排気ガストレイン2内で第1の排気ガスセンサ10と第2の温度センサ11との間に、NOx還元剤を排気ガス中に添加するためにインジェクタ13が配置される。インジェクタ13への還元剤の供給は、タンク(図示せず)から行われ、還元剤は、このタンクから還元剤ポンプを用いてインジェクタ13に輸送される。一般性を制限することなく、還元剤は、尿素水溶液であることを、以下では前提とする。高温排気ガス中では、熱分解及び/又は加水分解により尿素から実際に作用する還元剤NH3が遊離し、NH3は、排気ガスに含まれるNOxの還元に関してSCR触媒5内で選択的に作用する。これに対応してSCR触媒5は、好ましくはV25/WO3/TiO2ベースの固体として、又はNH3に関する貯蔵能力を有するゼオライト被覆SCR担持触媒として形成される。SCR触媒5は、多数の平行気流チャネルを有するハニカム体構造を備え、連続して接続された2種のSCR触媒部材を備えることができる。
【0019】
微粒子低減ユニット4は、好ましくは酸化触媒及び下流側に直接接続された微粒子フィルタから構成され、酸化触媒は、好ましくは隔壁を気流が貫通するハニカム体として、炭化ケイ素基材、チタン酸アルミニウム基材、又はコーディエライト基材上に形成され、フィルタ作用を持つ隔壁は、好ましくは少なくとも部分的に、酸化触媒作用を持つ被覆が施される。その際、酸化触媒及び微粒子フィルタは、共通のハウジング内に、好ましくは密に近接して配置される。
【0020】
図1に略記された排気ガス浄化システム1は、ここで概略図には記載されていない別のセンサ、排気ガス浄化構成部品、及び他の構成要素を備えること、又は備え得ることは、自明である。例えば、別の温度センサ及び圧力センサ、並びにNOx、酸素、又は他の排気ガス成分を検知する排気ガスセンサは、微粒子低減ユニット4及び/又はSCR触媒5の下流側又は上流側、又は微粒子低減ユニット4の酸化触媒と微粒子フィルタとの間にも備えることができる。更に、添加された尿素溶液の処理用の混合ユニットが、インジェクタ13と、SCR触媒5又はSCR触媒5の後にあるNH3吸蔵触媒との間に配置される。好ましくは、燃料の添加ユニットが、微粒子低減ユニット4の上流側に更に備えられる。エンジンは、好ましくは、充電ユニット、排気ガス再循環ユニット、及び燃料噴射装置を備える。排気ガストレイン2内に、浄化作用を持つ別の構成要素、別の補助剤用の添加装置、及び別のセンサなどを備えることができる。
【0021】
排気ガス浄化システム及びエンジンのセンサ及びアクチュエータは、電子制御ユニットに接続され、電子制御ユニットは、記録された運転パラメータを評価して処理し、排気ガス浄化システム1及びエンジンの制御用に、運転パラメータから導出された制御信号を生成して出力することができる。以下では、図2に単に概略的に図示された、そのような制御ユニットの有利な実施形態について説明する。エンジン及び排気ガス浄化システム1を制御するために、別に形成された制御装置構成も利用可能であることが自明である。
【0022】
図2に略記された電子制御ユニット20の実施形態の例は、この場合は特に、インジェクタ13を介して排気ガスに添加される還元剤に関する注入速度Dの、モデルに基づく計算を適用する。制御ユニット20は、そのために、エンジン制御装置MSG及びコンピュータによる算定モデルを内部に保存して有する計算ユニットRを備える。エンジン制御装置MSGは、基本的にエンジン運転に関係する、入力パラメータMEを得る。この入力パラメータは、この場合、エンジン回転数n、排気ガス再循環率AGR、吸入空気量mL、及びここでは分けずに挙げた別のエンジン運転パラメータに関する現時点の値を含む。他方でエンジン制御装置MSGは、エンジン運転の制御用の出力パラメータMAを出力する。出力パラメータMAは、この場合、調整すべきエンジントルクM、エンジンの燃料噴射インジェクタに関する制御開始tASB及び制御終了tASE、燃料噴射量、排気ガス後縁フラップ6の制御用の制御信号KL、及びここでは分けずに挙げた別の制御パラメータを含む。
【0023】
エンジン制御装置MSGは、計算ユニットRと通信し、この計算ユニットにMAD値を転送し、他方では計算ユニットRからDAM値を受信する。計算ユニットRに転送されたMAD値は、この場合、SCR触媒5の入口側での現時点の絶対圧力p、SCR触媒5の入口側での最大許容絶対圧力、又は特に排気ガス後縁フラップ6を用いて調整可能な絶対圧力pmax、排気ガス流量mA、特に排気ガス浄化システム1のここでは分けずに挙げた別の運転パラメータに関する、受信した値又は計算値を含む。最大許容絶対圧力pmaxの決定では、好ましくは、例えば、燃料消費量、すす排出、トルク動力学、及び場合により他のパラメータなど、特にエンジン運転に関する所定の境界条件の順守が考慮に入れられる。
【0024】
エンジン制御装置MSGが受信した計算ユニットRのDAM値は、この場合、特に排気ガス後縁フラップ6を用いて調整すべきSCR触媒5の入口側での絶対圧力pに関する値psoll、及び排気ガス浄化システム1の排気ガス後処理構成要素の1つに関する、任意に調整された温度上昇ΔTを含む。
【0025】
計算ユニットRは、別の入力パラメータDEとして、特に排気ガス浄化システム1の運転パラメータの測定値又は計算して得られた値、例えば排気ガス中の窒素酸化物の濃度値としてSCR触媒5の入口側でのcNO、cNO2、SCR触媒5の入口側及び出口側でのcNOx、SCR触媒5の出口側でのNH3濃度cNH3、並びにSCR触媒5の温度Tに関する値を受信する。受信された入力パラメータMAD、DEから、計算ユニットRの算定モデルは、還元剤の添加量に関する調整すべき注入速度Dを決定し、還元剤インジェクタ13の対応する制御用にこの注入速度を出力する。
【0026】
注入速度Dの決定のために、算定モデルは、特にNOx変換率に影響する様々な運転パラメータに応じたSCR触媒5の特性が記述された、別々に保存された特性曲線及び特性図を参照する。特性曲線又は特性図は、事前に決定して提示することも、事前に保存して提示することもでき、運転実施中であっても動的に作製する、又は適合することができる。
【0027】
以下に図3を参照して、この場合特に興味が持たれる特性曲線に関連して、SCR触媒5のNOx変換特性の温度依存性及び圧力依存性を詳細に述べる。図3のグラフは、実線で示された第1の曲線30により、触媒温度Tに応じたSCR触媒のNOx変換率ηに関する典型的な推移を概略的に示している。その際、SCR触媒にNH3を十分に、ただし少なくとも化学量論量を添加することを前提としている。示したように、NOx変換率ηは、低い値を基点として、増加してゆく温度Tと共に連続的に増加する。約300℃又はそれ以上の高温では、典型的には、ほぼ100%の高い変換率ηに達する。いわゆる立ち上がり温度TAを下回ると、達成可能な変換率ηは、無視できる低い値となる。立ち上がり温度TAは、例えば、変換率曲線30に接する接線と温度軸との交点により定義できる。
【0028】
発明者が確認できたように、SCR触媒内に含まれる気体の絶対圧力pが増加する場合、NOx変換率ηは、広い温度範囲で増加可能である。例えば、図3のグラフには、絶対圧力pの増大によって、かつその他の点では実質的に変化しない条件で得られた、破線の第2の変換率曲線31を示した。圧力増加により得られた第2の変換率曲線31は、典型的にはほぼ、それよりも低い圧力pで得られた第1の変換率曲線30の移動を示す。図3のグラフに更に示されているように、圧力上昇によって、比較的高いNOx変換率ηに到達している比較的高い温度T2でも、立ち上がり温度TAに近い比較的低い温度T1でも、NOx変換率ηの顕著な増加Δηが達成できる。明らかなように、圧力増加によって立ち上がり温度TAの低下も可能である。
【0029】
したがって、必要な場合は特に排気ガス後縁フラップ6の待機又は程度の差はあるが強い閉鎖によって、排気ガス浄化システム1でのSCR触媒5の下流側での絶対圧力pの増加をもたらすこと、その増加によってSCR触媒5のNOx変換率ηを上昇させること、又は立ち上がり温度TAの低下を達成することが、本発明により行われる。
【0030】
場合によりどのような程度で圧力増加が調整されるべきかどうか、又は実施された圧力増加をどの範囲まで再び逆行させるべきかどうかという判定が、この場合は計算ユニットRの算定モデルにおいて行われる。その際、並行して、SCR触媒5の下流側での絶対圧力に応じて順守すべき注入速度Dが決定される。
【0031】
算定モデルの好ましい作動手順は、図4に フローチャートの形式で大まかに概略的に示してある。その際、フローチャートは、予め設定された度数を伴って周期的に進行し続ける。入力パラメータDE、MADをブロック40において読み込んだ後、算定モデルは、ブロック41において目標値Z及びSCR触媒のNOx変換率ηに関する実際の現時点の値ηistを決定する。目標値Zは、好ましくは、NOxのテールパイプ排出に対する所定の許容最大値を考慮して決定される。その際、補足的に好ましくは、NH3スリップ、還元剤消費量、及び場合により別のパラメータなどの順守すべき予め設定された境界条件を考慮に入れてもよい。可能な限り現実的かつ実現可能な目標値Zを得るために、算定モデルは、好ましくは、保存された特性曲線にも関連する、SCR触媒5のNOx変換能力の温度依存性、排気ガス流依存性、圧力依存性、及びNOx濃度依存性、並びに、場合によりSCR触媒5の変換反応に影響する別のパラメータを参照する。次いで、現時点のNOx変換率ηistは、ブロック42及び43において目標値Zと比較される。
【0032】
現時点のNOx変換率ηistが目標値Zを予め設定された値Δよりも大きい分だけ上回っていることがブロック42において確定された場合、ブロック44にジャンプし、ブロック44において多数の手段Mの中から1つ又は2つ以上の手段が選択され、その手段を用いて現時点のNOx変換率ηistを、目標値Zに可能な限り近くなるように再び誘導できる。
【0033】
現時点のNOx変換率ηistが目標値Zを予め設定された値Δを超えている場合、算定モデルは、判断ブロック43に進み、現時点のNOx変換率ηistが目標値Zよりも小さいかどうかが判定される。その場合には、フローは、既に言及したブロック44にジャンプして進み、提示された手段Mのどれを用いれば目標値Zを可能な限り良好に達成できるのかが、同様に判定される。
【0034】
判断ブロック42からブロック44に到達した場合、手段Mとして、例えば、注入速度Dの低減、燃料消費量の低減を同時発生的に伴うエンジンの未処理NOx排出の増加、排気ガス後縁フラップ6の開放、又はSCR触媒5の入口側での絶対圧力pの低減が提供されてもよい。それに対して、ブロック43からブロック44に到達した場合、SCR触媒5の入口側での絶対圧力pの増加によって、又は、場合により好適となり得る他の手段、例えば、注入速度Dの増加、排気ガス温度の上昇、未処理NOx排出の低減、若しくは他の手段Mによって、目標値Zに到達できるかどうかが判定される。NOx変換率ηへの圧力の影響を判定するために、算定モデルは、図3に概略的に示された特性曲線又は対応する表の数値を参照する。好ましくは、使用可能な手段Mに対して優先順位付けが行われる。優先順位付けは、好ましくは、主として可能な限り少ない燃料消費量に関して行われる。
【0035】
現時点のNOx変換率ηistが、所定の公差値Δ未満の目標値Zよりも大きい場合、示したように選択ブロック44をスキップすることが行われる。
【0036】
いずれの場合も、算定モデルは、絶対圧力pに対する設定値psollを決定するブロック45に進行する。順守すべき設定値psollが最大許容絶対圧力pmaxを超える場合、最大許容絶対圧力は、順守すべき設定値psollとして選択される。
【0037】
続くブロック46において、算定モデルは、入力パラメータDE、MADに応じて、絶対圧力pに対して前もって決定された設定値psollに応じて、及び場合によりブロック44において選択された、NOx変換率ηに影響する別の手段Mに応じて、これらのデータに割り当てられ、理想的には目標値Zに相当するNOx変換率ηを決定し、最終的には注入速度Dを決定する。
【0038】
最終の出力ブロック47において、決定された出力パラメータpsoll、D、及びS(M)として表記された、選択された手段Mに応じて生成された制御信号が出力され、備えられたユニットに処理のために転送される。
【0039】
追加的に又は別法として、図1に示したように、後縁フラップ6を操作することによるSCR触媒5の入口側での絶対圧力の増加のために、排気ガス浄化システム1内の排気ガス流路を、エンジンの排気ガスがSCR触媒5を貫流する前に微粒子低減ユニット4を還流する第1の気流方向から、エンジンの排気ガスが微粒子低減ユニット4を貫流する前にSCR触媒5を貫流する第2の気流方向へと切り替えることで、絶対圧力を増加させることを、本発明により行うことができる。
【0040】
そのために備えられた、排気ガス浄化システム1の好ましい実施は、図5に概略的に示されている。その際、図1に関して同一の構成要素に対して、同一の参照符号を用いている。備えられたセンサの取り付けに関しては、見やすさの理由から省略した。ただし、図1の図示と類似して、排気ガス浄化システム1の関連運転パラメータを検知するための対応するセンサを、同一の方法又は類似の方法で、図5に示された排気ガス浄化システム1内にも備えることが自明である。
【0041】
図1に示された実施形態と比較して、排気ガストレイン2の誘導路は変更され、排気ガス流路切替装置50が追加して備えられる。排気ガス流路切替装置50は、適切に製作された1つ又は2つ以上のフラップ、又はバルブ装置の形状で形成される。いずれの場合も、排気ガス流路切替装置50は、排気ガス浄化システム1内での排気ガス流路の、エンジンの排気ガスがSCR触媒5を貫流する前に微粒子低減ユニット4を貫流する第1の気流方向から、エンジンの排気ガスが微粒子低減ユニット4を貫流する前にSCR触媒5を貫流する第2の気流方向への切替を可能にする。その際、第1の気流方向は、実線で表記された矢印51を用いて示され、第2の気流方向は、破線の矢印52で示されている。明らかなように、第2の気流方向において微粒子低減ユニット4及びSCR触媒5は、第1の排気ガス気流方向と比較して対向する方向に貫流される。
【0042】
典型的には、微粒子低減ユニット4の排気ガス気流抵抗は、SCR触媒5の排気ガス気流抵抗よりも明らかに高いため、排気ガス流路の第1の気流方向から第2の気流方向への切替では、SCR触媒5の排気ガス流入側又は触媒自体での絶対圧力の増加がもたらされる。
【0043】
第1の気流方向から第2の気流方向への切替、又は第2の気流方向から再び第1の気流方向へと戻す切替を実施することに関して、計算ユニットRの算定モデルは、どのくらいの範囲でそれぞれの切替が目的に合致しているか、又は行うべきかを決定する。排気ガス流路の切替手段は、図4に略記された算定モデルの選択ブロック44における手段リストMの、目的に合致した構成要素である。第1の排気ガス気流方向から第2の排気ガス気流方向への切替に関連する決定では、その際好ましくは、微粒子低減ユニット4の粒子捕集量、又は微粒子低減ユニット4の気流抵抗に関する粒子捕集量の影響も考慮に入れる。言い換えると排気ガス流路の切替は、微粒子低減ユニット4にわたる差圧に応じて実施される。
図1
図2
図3
図4
図5