特許第6243590号(P6243590)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243590
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】酸性調味料
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20171127BHJP
   A23L 3/3544 20060101ALI20171127BHJP
   A23L 27/60 20160101ALI20171127BHJP
   A23L 3/3562 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   A23L27/00 B
   A23L3/3544
   A23L27/60 A
   A23L3/3562
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-61731(P2012-61731)
(22)【出願日】2012年3月19日
(65)【公開番号】特開2013-192485(P2013-192485A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年12月17日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細谷 幸一
(72)【発明者】
【氏名】中山 素一
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−127826(JP,A)
【文献】 特開平04−020262(JP,A)
【文献】 特開2008−173030(JP,A)
【文献】 特開2005−027663(JP,A)
【文献】 特開2010−227086(JP,A)
【文献】 特開2008−195917(JP,A)
【文献】 特開2004−222649(JP,A)
【文献】 特開2008−163202(JP,A)
【文献】 特開2010−259404(JP,A)
【文献】 特開2008−173050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
A23L 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテキン類を0.0005〜0.007質量%、ショ糖脂肪酸エステルを0.01〜0.07質量%含有し、油相部と水相部の質量比率が5/95〜60/40であり、水相部のpHが3.7以下であり、水相部に食塩を4.5質量%以上含有する酸性調味料。
【請求項2】
カテキン類を0.0005〜0.007質量%、ショ糖脂肪酸エステルを0.01〜0.07質量%含有し、油相部と水相部の質量比率が5/95〜60/40であり、水相部のpHが3.5以下であり、水相部に食塩を3.5質量%以上含有する酸性調味料。
【請求項3】
水相部に食塩を4.0質量%以上含有する、請求項2記載の酸性調味料。
【請求項4】
水相部のpHが3.7以下であり水相部に食塩を4.5質量%以上含有する分離型又は乳化型の酸性調味料中にカテキン類が0.0005〜0.007質量%、かつショ糖脂肪酸エステルが0.01〜0.07質量%の含有量となるように添加する、酸性調味料の抗菌又は保存方法。
【請求項5】
水相部のpHが3.5以下であり水相部に食塩を3.5質量%以上含有する分離型又は乳化型の酸性調味料中にカテキン類が0.0005〜0.007質量%、かつショ糖脂肪酸エステルが0.01〜0.07質量%の含有量となるように添加する、酸性調味料の抗菌又は保存方法。
【請求項6】
分離型又は乳化型の酸性調味料中にカテキン類が0.001〜0.006質量%、かつショ糖脂肪酸エステルが0.03〜0.065質量%の含有量となるように添加する、請求項4又は5記載の酸性調味料の抗菌又は保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性調味料、酸性調味料に適した抗菌剤組成物、並びに酸性調味料の抗菌又は保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドレッシングなどの酸性調味料においては、酢酸などの制菌作用により一般的な汚染微生物の増殖による食品変敗は制御されている。しかし、このような低pH環境下でも、稀に細菌により変敗する場合がある。とりわけラクトバチルス・フルクチボランス(Lactobacillus fructivorans)に代表される酢酸耐性乳酸菌は、耐熱・耐塩・好酢酸性の性質を持ち、調味料の風味、外観などの変化を引き起こすことから調味料業界において重要危害菌として警戒されている(非特許文献1)。
酢酸耐性乳酸菌の増殖は、通常、加熱殺菌、特数値(塩分濃度、酢酸濃度)において制御可能であることが知られているが、近年、酸性調味料における消費者の嗜好性の多様化が進み、特に酸味及び塩味の少ないマイルドな風味を求める風潮が高まっており、特数値が緩和され内容液の耐菌性が低下しているため、低酸味の調味料での酢酸耐性乳酸菌の増殖を抑制することが一層重要となる。
【0003】
一方、微生物による食品の汚染や変質防止を目的として、抗菌性物質が広く使用されている。このような抗菌性物質としては、例えば、ソルビン酸、安息香酸、ε−ポリリシン、カテキン、キトサン、チアミンラウリル硫酸塩、香辛料抽出物、各種精油(成分)などが知られている。特に食品においては高い安全性が求められており、消費者のニーズとして健康志向の観点からも天然系のものが好まれる。
例えば、カテキンは、茶葉から抽出することのできる経験的に安全性が高い成分であり、細菌などに対し優れた抗菌作用を発揮することから広く利用されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】食品の腐敗変敗防止対策ハンドブック(株式会社サイエンスフォーラム)
【非特許文献2】緑茶抽出物の抗菌活性に対する食品添加物の影響 中山素一 など 防菌防黴36巻9号 Page569-578(2008)
【非特許文献3】食品 微生物制御の化学(幸書房)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、抗菌性物質には、苦味やエグ味、渋味を呈するものが多く、たとえ酢酸耐性乳酸菌の増殖抑制作用を有する抗菌性物質であっても酸性調味料の風味を損なうものは使用できないか、使用できても配合量は制限されざるを得ないという問題がある。実際、前記カテキンも多量添加した場合は食材の風味、更に色合いを損なってしまう。一方で、低濃度では抗菌力が十分に発揮されない。
これまでに酸性調味料の風味を損なうことなく、酢酸耐性乳酸菌を抗菌できる抗菌性物質は知られていない。
【0006】
本発明は、斯かる実情に鑑み、酢酸耐性乳酸菌の増殖が抑制され、且つ風味の良好な酸性調味料、酸性調味料に適した抗菌剤組成物、並びに酸性調味料の抗菌又は保存方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討したところ、カテキン類とショ糖脂肪酸エステルを併用すれば、酸性調味料の風味を損なわずに、酢酸耐性乳酸菌の抗菌が可能であることを見出した。
ショ糖脂肪酸エステルは、安全性に優れた食品用乳化剤であり、乳酸球菌に対し抗菌作用を発揮することが知られているが(非特許文献3)、酢酸耐性乳酸菌に対する作用はこれまでに知られていない。
【0008】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(15)に係るものである。
(1)カテキン類及びショ糖脂肪酸エステルを含有する酸性調味料。
(2)カテキン類を0.0005〜0.007質量%、ショ糖脂肪酸エステルを0.01〜0.07質量%含有する、上記(1)の酸性調味料。
(3)カテキン類を0.001〜0.06質量%、ショ糖脂肪酸エステルを0.03〜0.065質量%含有する、上記(1)又は(2)の酸性調味料。
(4)油相部と水相部の質量比率が5/95〜60/40である、上記(1)〜(3)の酸性調味料。
(5)水相部のpHが3.7以下である、上記(1)〜(4)いずれかの酸性調味料。
(6)水相部に食塩を2.5質量%以上含有する、上記(1)〜(5)いずれかの酸性調味料。
(7)水相部に食塩を3.5質量%以上含有する、上記(1)〜(6)いずれかの酸性調味料。
(8)カテキン類及びショ糖脂肪酸エステルを有効成分として含有する酸性調味料用抗菌剤組成物。
(9)酸性調味料中にカテキン類が0.0005〜0.007質量%、かつショ糖脂肪酸エステルが0.01〜0.07質量%の含有量となるように用いられる、上記(8)の酸性調味料用抗菌剤組成物。
(10)酸性調味料中にカテキン類が0.001〜0.06質量%、かつショ糖脂肪酸エステルが0.03〜0.065質量%の含有量になるように用いられる、上記(8)又は(9)の酸性調味料用抗菌剤組成物。
(11)カテキン類及びショ糖脂肪酸エステルを有効成分として含有する酢酸耐性微生物に対する抗菌剤組成物。
(12)酢酸耐性微生物が酢酸耐性乳酸菌である、上記(11)の抗菌剤組成物。
(13)酸性調味料に、カテキン類及びショ糖脂肪酸エステルを添加する酸性調味料の抗菌又は保存方法。
(14)酸性調味料中にカテキン類が0.0005〜0.007質量%、かつショ糖脂肪酸エステルが0.01〜0.07質量%の含有量となるように添加する、上記(13)の酸性調味料の抗菌又は保存方法。
(15)酸性調味料中にカテキン類が0.001〜0.06質量%、かつショ糖脂肪酸エステルが0.03〜0.065質量%の含有量となるように添加する、上記(13)又は(14)の酸性調味料の抗菌又は保存方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酢酸耐性乳酸菌の抗菌が可能であり、酸性調味料の風味・外観などの変敗を防ぎ、保存性を向上させることができる。また、本発明の酸性調味料は、カテキン類及びショ糖脂肪酸エステルの不快な呈味を感じず、風味良好である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いられるカテキン類は、非重合性カテキン類であって、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート及びガロカテキンガレート等の非エピ体カテキン類と、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレート等のエピ体カテキン類を併せての総称である。カテキン類の含有量は、上記8種の合計量に基づいて定義される。
【0011】
カテキン類は茶抽出物を用いてもよい。茶抽出物としては、茶抽出液、その濃縮物及びそれらの精製物から選択される少なくとも1種を使用することができる。
ここで、「茶抽出液」とは、茶葉から熱水又は水溶性有機溶媒を用いて抽出された抽出液であって、濃縮や精製操作が行われていないものをいう。なお、水溶性有機溶媒として、例えば、エタノール等の低級アルコールを使用することができる。また、抽出方法としては、ニーダー抽出、攪拌抽出(バッチ抽出)、向流抽出(ドリップ抽出)、カラム抽出等の公知の方法を採用できる。
抽出に使用する茶葉は、その加工方法により、不発酵茶、半発酵茶、発酵茶に大別することができる。不発酵茶としては、例えば、煎茶、番茶、玉露、碾茶、釜入り茶、茎茶、棒茶、芽茶等の緑茶が例示される。また、半発酵茶としては、例えば、鉄観音、色種、黄金桂、武夷岩茶等の烏龍茶が例示される。更に、発酵茶としては、ダージリン、アッサム、スリランカ等の紅茶が例示される。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、カテキン類の含有量の点から、緑茶が好ましい。
【0012】
また、「茶抽出液の濃縮物」とは、不発酵茶、半発酵茶及び発酵茶から選択される茶葉から熱水又は水溶性有機溶媒により抽出された溶液の水分の一部を除去してカテキン類濃度を高めたものであり、例えば、特開昭59−219384号公報、特開平4−20589号公報、特開平5−260907号公報、特開平5−306279号公報等に記載の方法により調製することができる。その形態としては、固体、水溶液、スラリー状等の種々のものが挙げられる。茶抽出液の濃縮物として市販品を使用してもよく、例えば、三井農林(株)の「ポリフェノン」、伊藤園(株)の「テアフラン」、太陽化学(株)の「サンフェノン」等の緑茶抽出液の濃縮物がある。
茶抽出液等の精製は、溶剤やカラムを用いて精製することにより行うことができる。
【0013】
酸性調味料中のカテキン類の含有量は、0.0005質量%(以下、単に「%」とする)以上、より0.001%以上、さらに0.0015以上、更に0.002%以上、更に0.0025%以上、殊更0.003%以上であるのが酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌効果の点から好ましく、酸性調味料の風味維持の点からは0.007%以下が好ましく、0.0065%以下がより好ましく、0,006%以下がさらに好ましく、0.005%以下が特に好ましい。具体的には、0.0005〜0.007%が好ましく、0.001〜0.0065%がより好ましく、0.002〜0.006%がさらに好ましく、0.0025〜0.006%がさらに好ましく、0.003〜0.005%がさらに好ましい。
【0014】
本発明で用いられるショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖の水酸基に脂肪酸がエステル結合してなるノニオン界面活性剤である。エステルを構成する脂肪酸は、特に制限されないが、炭素数12以上、更に炭素数14〜22、更に炭素数16のパルミチン酸、炭素数18のステアリン酸又はこれらの混合物を主成分とするものが好ましい。
【0015】
ショ糖脂肪酸エステル中のモノエステル含有量は、40〜90%、更に50〜85%、更に55〜80%であることが、カテキンとの抗菌性併用効果の点から好ましい。ショ糖脂肪酸エステルには、モノエステル以外にジエステル、トリエステル、ポリエステルが含有されていてもよい。
【0016】
また、ショ糖脂肪酸エステルの平均エステル化度は1〜2.5であることが好ましく、更に1.1〜2、更に1.2〜1.7であることが、カテキンとの抗菌性併用効果および物性の点から好ましい。ここで、ショ糖脂肪酸エステルのエステル化度とは、ショ糖1分子中の8個の水酸基のうち脂肪酸エステル化されているものの個数をいい、例えば、モノエステルのエステル化度は1、ジエステルのエステル化度は2である。また、平均エステル化度とは、次式(1)により定義される値である。
【0017】
【数1】
【0018】
本発明で用いられるショ糖脂肪酸エステルは、既知の合成法を利用して調製することができる。また、市販のショ糖エステルを用いてもよく、市販品のショ糖脂肪酸エステルを分画し、得られた各分画物を本発明に適合するように再構成することによっても得ることができる。
【0019】
酸性調味料中のショ糖脂肪酸エステルの含有量は、酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌効果の点から0.01%以上が好ましく、0.02%以上がより好ましく、0.03%以上がさらに好ましく、0.04%以上がよりさらに好ましく、0.045%以上がことさら好ましく、0.05%以上が特に好ましい。風味維持の点からは0.07%以下であることが好ましく、0.065%以下であることがより好ましく、0.06%以下であることが特に好ましい。具体的には、0.01〜0.07%が好ましく、0.02〜0.065%がより好ましく、0.03〜0.06%がさらに好ましく、0.04〜0.06%がさらに好ましく、0.05〜0.06%がさらに好ましい。
【0020】
本発明の酸性調味料におけるカテキン類とショ糖脂肪酸エステルの質量比は、酢酸耐性乳酸菌に対する制菌効果の点から、0.5:50〜5:50が好ましく、1:50〜4:50がより好ましく、2:50〜3:50がさらに好ましい。
【0021】
本発明における酸性調味料は、水相部のみからなるもの、水相部と油相部を含有する非乳化型のもの(分離型)、水中油型の乳化物からなる乳化型のもの、又は水中油型の乳化物に油相を積層した分離型のものが挙げられる。特に、嗜好性、酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌効果の点から分離型が好ましい。
酸性調味料において、油相部と水相部の質量比率は、5/95〜60/40であることが好ましく、より15/85〜55/45、更に20/80〜35/65であることが酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌効果及び風味の点から好ましい。
【0022】
ここで、油相部を形成する油相成分としては、食用油脂が主成分であり、例えば、動物油及び/又は植物油、並びにこれらを原料として加水分解後にグリセリンとエステル化反応した油脂、エステル交換油、水素添加油等が挙げられる。動物油としては、例えば牛脂、豚脂、魚油等が挙げられ、植物油としては、例えば大豆油、パーム油、パーム核油、綿実油、落花生油、ナタネ油、コーン油、サフラワー油、サンフラワー油、米油等が挙げられる。
【0023】
食用油脂は、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロールのいずれか1種以上を含むものとする。油脂は、ジアシルグリセロールを15%以上含むことが、生理効果の点から好ましい。油脂中のジアシルグリセロール含有量は、より15〜95%、更に35〜95%、更に50〜95%、更に70〜93%とすることが、同様の点から好ましい。また、トリアシルグリセロールを4.9〜84.9%、より4.9〜64.9%、更に6.9〜39.9%、更に6.9〜29.9%含有するのが生理効果、油脂の工業的生産性、外観の点で好ましい。また、モノアシルグリセロールの含有量は2%以下、より0.01〜1.5%であるのが好ましく、遊離脂肪酸(塩)の含有量は3.5%以下、より0.01〜1.5%であるのが風味等の点で好ましい。
【0024】
油脂を構成する脂肪酸は、特に限定されず、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよいが、60〜100%が不飽和脂肪酸であることが好ましく、より好ましくは70〜100%、更に75〜100%、より更に80〜98%であるのが外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。不飽和脂肪酸の炭素数は14〜24、さらに16〜22であるのが生理効果の点から好ましい。
【0025】
また、油脂を構成する脂肪酸のうち、飽和脂肪酸の含有量は40%以下であることが好ましく、より好ましくは0〜30%、更に0〜25%、より更に2〜20%であるのが、外観、生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。飽和脂肪酸としては、炭素数14〜24、特に16〜22のものが好ましい。
【0026】
ジアシルグリセロールを含有する油脂の起源としては、前記と同様の動物性、植物性の食用油脂を挙げることができる。またこれらの油脂を分別、混合したもの、水素添加や、エステル交換反応などにより脂肪酸組成を調整したものも原料として利用できるが、水素添加していないものが、油脂を構成する全脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量を低減させる点から好ましい。
【0027】
ジアシルグリセロールを含有する油脂は、上述した油脂由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応、油脂とグリセリンとのエステル交換反応(グリセロリシス)等により得ることができる。これらの反応はアルカリ触媒等を用いた化学反応でも行うことができるが、1,3−位選択的リパーゼ等を用いて酵素的に温和な条件で反応を行うのが、風味等の点で好ましい。
【0028】
本発明の酸性調味料においては、その他の成分として、野菜類、果実類、水、食酢、食塩、醤油、香辛料、糖、蛋白質素材、有機酸、アミノ酸系調味料、核酸系調味料、動植物エキス、発酵調味料、酒類、増粘剤、安定剤、乳化剤、着色料等の各種食品素材又は添加剤等を使用することができる。また、これらは、必要に応じて成形加工したものを使用してもよい。
【0029】
本発明の酸性調味料のpH(酸性調味料が油相部を有する場合は水相部のpH、20℃)は、3.7以下であることが保存性の点から好ましい。特に耐酢酸性が高いことが知られているラクトバチルス・フルクチボランスに対する抗菌効果を考慮すると、pHは3.7以下、更に3.5以下、更に3.0以下の範囲が好ましい。この範囲にpHを低下させるためには、食酢、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸;リン酸等の無機酸等の酸味料を使用することができる。特に、保存性を良くする点、及び調味料製造直後の具材の風味を維持する点から食酢、クエン酸を用いることが好ましい。食酢は、穀物酢、りんご酢、ビネガー類等様々な種類を用いることができる。
【0030】
食酢の含有量は、酸性調味料中に3〜30%、より4〜26%、更に5〜20%であることが好ましい。また、酢酸の含有量は0.6〜2.5%が好ましく、より0.8〜1.6%が好ましい。
本発明の酸性調味料の酸度(酸性調味料が油相部を有する場合は水相部の酸度)は、0.15〜10%、より0.25〜6%、更に0.3〜3%であることが風味の点から好ましい。なお、「酸度」とは、測定の対象となる液体を0.1mol/Lの水酸化ナトリウムで滴定を行い、その終点の滴定量から次の式(1)により算出したもの(食酢の日本農林規格(平成9年9月3日農林水産省告示第1381号)を参考に酢酸相当酸度の質量%を導出したもの)をいう。
酸度=(a×v×f)/w×100 (1)
(a:0.1mol/Lの水酸化ナトリウム1mLに相当する酢酸量0.006g、v:0.1mol/Lの水酸化ナトリウムの使用量(mL)、f:0.1mol/Lの水酸化ナトリウムの力価、w:試料採取量(g))
酸度は、酢酸の他、グルコン酸、クエン酸等の各種有機酸のいずれを使用した場合でも、これら全ての酸を酢酸換算して得た値の試料質量中の百分率で表したものである。
【0031】
また、食塩の含有量は、風味の点、酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌効果の点から、酸性調味料(酸性調味料が油相部を有する場合は水相部)中に2.5%以上、さらに3.0%以上、さらに3.5%以上が好ましい。また同様の点から6.5%以下、さらに6.0%以下、さらに5.5%以下、さらに5.0%以下が好ましい。具体的には2.5〜6.5%が好ましく、3.0〜6.0%がより好ましく、3.5%〜5.5%がさらに好ましく、3.5〜5.0%が特に好ましい。食塩としては、並塩、天日塩、岩塩等様々な種類のものを用いることができ、その一部を塩化カリウムや硫酸マグネシウム等に置き換えたものも用いることができる。
【0032】
本発明の酸性調味料は、特に制限されず、常法に準じて調製できるが、酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌効果及び溶解性の点から、カテキン類とショ糖脂肪酸エステルを水相部に添加するのが好ましい。
また、水相部は安全性の面から加熱殺菌することが好ましい。殺菌方法としては、一般に用いられている方法が使用可能である。具体的には、ヒーター加熱方式、高周波電磁誘導加熱方式、チューブ式高温加熱方式などの方法が利用可能である。
【0033】
本発明の酸性調味料としては、例えば、各種ドレッシング類、各種つゆ類、各種たれ類、各種ソース類などの酸性液体調味料が挙げられる。なかでも、各種ドレッシング類であることが好適である。ドレッシング類としては、半固体状ドレッシング、乳化液状ドレッシング、分離液状ドレッシング、ドレッシングタイプ調味料、サラダ用調味料が挙げられる。
【0034】
後記実施例に示すとおり、カテキン類とショ糖脂肪酸エステルを併用することによって、酢酸耐性乳酸菌に対して優れた抗菌作用を示す。ここで酢酸耐性乳酸菌とは、Lactobacillus属に属するラクトバチルス・フルクチボランス(L.fructivorans)、ラクトバチルス・ブチネリ(L.buchneri)、ラクトバチルス・ブレビス(L.brevis)、ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバチルス・パラカセイ(L.paracasei)などが挙げられる。
ラクトバチルス・フルクチボランス(L.fructivorans)は、酢酸耐性乳酸菌の中で特に耐酢酸性が高いことが知られている。
なお、本発明において「抗菌」とは、微生物を死滅させる「殺菌」、「滅菌」、微生物の発生、発育、増殖を抑える「静菌」、「制菌」等いずれの概念も含む語である。
【0035】
また、カテキン類とショ糖脂肪酸エステルを併用することによって、耐酢酸性の性質を有するカビ、酵母などの真菌、細菌などの酢酸耐性微生物に対しても優れた抗菌作用を示す。酢酸耐性微生物としては、具体的に、耐酢酸性酵母Zygosaccharomyces bailii、耐酢酸性カビMoniliella acetoabutansなどが挙げられる。
【0036】
従って、カテキン類とショ糖脂肪酸エステルを配合してなる組成物は、抗菌剤組成物として、前記微生物が増殖し得る酸性調味料の抗菌、保存性向上に有用である。また、カテキン類とショ糖脂肪酸エステルを酸性調味料に添加することにより、前記微生物に対する抗菌性を付与できる。また、保存性を向上させることができる。
【0037】
本発明の酸性調味料に用いられる抗菌剤組成物は、必要に応じて、例えば、他の抗菌性物質、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、乳化剤、着色剤などを添加し、常法に従い、例えば、液状、粉末状、ペースト状、錠剤状、カプセル状、ジェル状などの任意の形態とすることができる。
カテキン類とショ糖脂肪酸エステルは、単一製剤としてもよく、別々に製剤化してセット(キット)として使用してもよい。また、この場合、カテキン類とショ糖脂肪酸エステルは同一の形態としなくてもよい。
【0038】
本発明の抗菌剤組成物は、酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌効果の点から、酸性調味料中にカテキン類が前記含有量となるように、すなわち0.0005質量%(以下、単に「%」とする)以上、より0.001%以上、さらに0.0015以上、更に0.002%以上、更に0.0025%以上、殊更0.003%以上となるように用いられるのが好ましい。また、及び酸性調味料の風味維持の点からは、の面からは0.007%以下が好ましく、0.0065%以下がより好ましく、0,0060%以下がさらに好ましく、0.005%以下が特に好ましい。具体的には、0.0005〜0.007%が好ましく、0.001〜0.0065%がより好ましく、0.002〜0.006%がさらに好ましく、0.0025〜0.006%がさらに好ましく、0.003〜0.005%がさらに好ましい。また、同様に、酸性調味料中にショ糖脂肪酸エステルは酢酸耐性乳酸菌に対する抗菌効果の点から0.01%以上が好ましく、0.02%以上がより好ましく、0.03%以上がさらに好ましく、0.04%以上がよりさらに好ましく、0.045%以上がことさら好ましく、0.05%以上が特に好ましい。風味維持の点からは0.07%以下であることが好ましく、0.065%以下であることがより好ましく、0.06%以下であることが特に好ましい。具体的には、0.01〜0.07%が好ましく、0.02〜0.065%がより好ましく、0.03〜0.06%がさらに好ましく、0.04〜0.06%がさらに好ましく、0.05〜0.06%がさらに好ましい。
このとき、抗菌剤組成物を、酸性調味料中のカテキン類とショ糖脂肪酸エステルの濃度が前記範囲となるようにそのまま用いてもよいが、カテキン類とショ糖脂肪酸エステルを前記範囲よりも高含有とした抗菌剤組成物を前記任意の形態で調製し、酸性調味料に配合した後適宜希釈して、希釈後に前記範囲内となるように用いてもよい。希釈倍率は、5〜50質量倍、更に10〜40質量倍、より更に20〜30質量倍とすることが好ましい。希釈には、脱イオン水を無菌処理した水を用いるのが好ましい。
【実施例】
【0039】
〔酸度の測定〕
上記「食酢の日本農林規格(平成9年9月3日農林水産省告示第1381号)」に基づき酢酸相当酸度の質量%を導出した。
【0040】
〔NaCl濃度の測定〕
モール法により測定した。試料をメスフラスコに秤量し、蒸留水を加えて定容としたものを試料溶液とした。試料溶液をメスピペットを用いて三角フラスコにとり、指示薬として1.0%クロム酸カリウム溶液を加え、0.1mol/L硝酸銀溶液で褐色ビュレットを用いて滴定し、液の色が微橙色になる点を終点とした。
NaCl濃度は下記の計算式で算出した。
NaCl濃度(%)=0.00585×A×F/W×100
A: 0.1mol/L硝酸銀溶液の滴定量(mL)
F:0.1mol/L硝酸銀溶液の力価
W:試料採取量(mL)
【0041】
〔pHの測定〕
pHは、試料の品温を20℃にした後、(株)堀場製作所製pHメーター(F−22)を使用し測定した。
【0042】
〔カテキン類の測定〕
試料を蒸留水で適宜希釈し、液体クロマトグラフ用パックドカラム L−カラムTM ODS(4.6mmφ×250mm:財団法人 化学物質評価研究機構製)を装着した、島津製作所製、高速液体クロマトグラフ(型式SCL−10AVP)を用いて、カラム温度35℃でグラジエント法により測定した。移動相A液は酢酸を0.1mol/L含有の蒸留水溶液、B液は酢酸を0.1mol/L含有のアセトニトリル溶液とし、試料注入量は20μL、UV検出器波長は280nmの条件で行った。
(濃度勾配条件)
時間(分) A液(%(v/v)) B液(%(v/v))
0 97 3
5 97 3
37 80 20
43 80 20
43.5 0 100
48.5 0 100
49 97 3
62 97 3
【0043】
〔油脂の脂肪酸組成〕
日本油化学会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.−1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られたサンプルを、American Oil Chemists. Society Official Method Ce 1f−96(GLC法)により測定した。
【0044】
〔油脂のグリセリド組成〕
ガラス製サンプル瓶に、油脂サンプル約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析した。
<GLC条件>
(条件)
装置:アジレント6890シリーズ(アジレントテクノジー社製)
インテグレーター:ケミステーションB 02.01 SR2(アジレントテクノジー社製)
カラム:DB−1ht(Agilent J&W社製)
キャリアガス:1.0mL He/min
インジェクター:Split(1:50)、T=320℃
ディテクター:FID、T=350℃
オーブン温度:80℃から10℃/分で340℃まで昇温、15分間保持
【0045】
試験例1
(1)供試菌の調製
供試菌として、酢酸耐性乳酸菌の中で特に耐酢酸性が高いことが知られているラクトバチルス・フルクチボランス JCM1117株を用いた。
ラクトバチルス・フルクチボランス JCM1117株はMRS寒天培地(OXOID)、30℃で嫌気的に3日間培養した。培養した菌体を生理食塩水に104cfu/mlになるように調整して菌液とした。
【0046】
(2)酸性調味料の調製
水相部の原料を表1に示した量で配合し、撹拌混合(ホモディスパー:特殊機化工業製)して均一に溶解した。そこにカテキン製剤(UHG−L:花王株式会社)及びショ糖脂肪酸エステル(モノエステルP:三菱化学フーズ株式会社)を加えさらに撹拌混合して溶解して水相部を調製した。次に、調製した水相部を常温から加熱して80℃に到達してから4分間保持することにより殺菌処理を行った後、常温まで冷却した。
次いでジアシルグリセロール(DAG)脱臭油を油相部とした。
容器に水相部:油相部を7:3の割合で充填することにより液状の分離型酸性調味料を調製した。水相部の食塩濃度は4.8%、pHは3.8、酸度は1.1であった。
【0047】
(3)接種試験
供試菌の最終濃度が102cfu/mlとなるように、分離型酸性調味料100gに上記菌液を1mL接種し、30℃で60日間好気的に保存し菌の挙動を確認した。菌数測定は、保存後の調味料を強攪拌して系内を均一化した後、生理食塩水で希釈し、MRS寒天培地(OXOID社製)に塗抹して測定した。菌濃度として1オーダー以上の増殖が確認された場合を「増殖」、死滅或いは菌数の減少が確認された場合を「非増殖」と判断した。結果を表1に示す。なお、同じ非増殖でもカテキンの添加濃度が高い試験区では菌はより速やかに死滅した。
【0048】
(4)官能評価
市販レタス40gに、市販ノンオイル酸性調味料を15gかけ、パネル3名による食味試験を行い、協議により評点を決定した。
評価は、以下に示す基準に従って行った。すなわち、無添加のものと風味上差がない場合あるいは風味に差があるが許容できる場合は合格、風味上許容できない場合は不合格とした。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1から明らかなように、カテキン類単独では酢酸耐性乳酸菌の増殖を抑制するのに0.1%必要であり、ショ糖脂肪酸エステル単独では0.15%の添加でも酢酸耐性乳酸菌の増殖を抑制することはできなかった。カテキン類0.1%では、苦渋みがあり風味上許容できるものではなかった。
一方、カテキン類及びショ糖脂肪酸エステルを配合すると、低濃度でも酢酸耐性乳酸菌増殖に対する抑制作用が認められた。また、酸性調味料の風味は良好であった、
【0051】
試験例2
酸性調味料の水相部のpH、食塩濃度をかえた以外は試験区3と同様にして、表2に示す組成の液状の分離型酸性調味料を調製した。また、同様にして接種試験及び官能評価を行った。結果を表2に示すカテキンは0.003%、ショ糖脂肪酸エステルは0.05%とした。
【0052】
【表2】
【0053】
表2から明らかなように、本発明の酸性調味料はpH3.7以下が保存性の点から好ましい。また、食塩濃度は3.0%程度まで低下させても保存性が良好である。