(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243647
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】金属基板ガスケット
(51)【国際特許分類】
F16J 15/12 20060101AFI20171127BHJP
F16J 15/08 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
F16J15/12 F
F16J15/08 H
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-155599(P2013-155599)
(22)【出願日】2013年7月26日
(65)【公開番号】特開2015-25513(P2015-25513A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健
(72)【発明者】
【氏名】丹治 功
【審査官】
杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−326920(JP,A)
【文献】
特開平07−253161(JP,A)
【文献】
特開平06−337070(JP,A)
【文献】
実開平05−030633(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00 − 15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筺体および前記筺体に重ねるカバー間に装着される平板状の金属基板ガスケットであって、
前記筺体およびカバー間であって前記筺体側に配置される第1ガスケット部材と、前記カバー側に配置される第2ガスケット部材と、前記両ガスケット部材を連結する連結手段とを有し、
前記第1ガスケット部材は、金属基板の筺体側表面にゴム層をコーティングしたガスケット素材よりなるとともにシールビードが前記第2ガスケット部材へ向けて立ち上げ形成され、
前記第2ガスケット部材は、金属基板のカバー側表面にゴム層をコーティングしたガスケット素材よりなるとともに平板状のままに形成され、
前記第1ガスケット部材における金属基板の第2ガスケット側表面および前記第2ガスケット部材における金属基板の第1ガスケット側表面の一方または双方にもゴム層がコーティングされていることを特徴とする金属基板ガスケット。
【請求項2】
請求項1記載の金属基板ガスケットにおいて、
前記連結手段は、カシメリベットよりなることを特徴とする金属基板ガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール技術に係るガスケットに関し、更に詳しくは、平板状の金属基板ガスケットに関する。本発明のガスケットは例えば自動車関連の分野で用いられ、またはその他の分野で用いられる。
【背景技術】
【0002】
金属基板の単体よりなる金属基板ガスケットまたは
図6に示すような金属基板51の表面にゴム層52をコーティングした金属基板ガスケットにおいては、その平面上にシールビード(図示せず)を成形し、このシールビードを装着時に圧縮することによって、例えば自動車用エンジンにおける内圧をシールし、また同時に外側からの水等の異物をシールしている。シールビードはこれを成形することによってシール部を線接触として接触面圧(シール面圧)を増大させるのに有効であるほか、ガスケットを相手面平面度に追随させるためにも必要である。
【0003】
ところで昨今、燃費向上のためにエンジンや補機類、EV、HEV用のインバーター等の筺体に重ねるカバー(フランジとも称する)においてその小型化・軽量化が必須となっており、カバー厚みの低減への対応要求がある。
【0004】
しかしながら、カバー厚みの低減に伴ってカバーが低剛性となるため、ボルト締結時にカバーが変形(ガスケットを組み込まなくてもカバーは変形)し、シールビード圧縮量が不足し、十分なシール性が得られないことが懸念される。また上記に加え、複数のボルト間距離が長くなるほどカバーの変形量が大きくなるため、これによってもシールビード圧縮量が不足し、十分名シール性が得られない場合がある。さらに上記に加え、シール面の幅狭化への対応要求もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−30633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の点に鑑みて、筺体およびカバー間に装着される金属基板ガスケットにおいて、カバーの低剛性をガスケットが補う機能を備え、もってカバーの低剛性によるシールビード圧縮量の不足、シール性の不足を抑制することができるガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1によるガスケットは、筺体および前記筺体に重ねるカバー間に装着される平板状の金属基板ガスケットであって、前記筺体およびカバー間であって前記筺体側に配置される第1ガスケット部材と、前記カバー側に配置される第2ガスケット部材と、前記両ガスケット部材を連結する連結手段とを有し、前記第1ガスケット部材は、金属基板の筺体側表面にゴム層をコーティングしたガスケット素材よりなるとともにシールビードが前記第2ガスケット部材へ向けて立ち上げ形成され、前記第2ガスケット部材は、金属基板のカバー側表面にゴム層をコーティングしたガスケット素材よりなるとともに平板状のままに形成され、前記第1ガスケット部材における金属基板の第2ガスケット側表面および前記第2ガスケット部材における金属基板の第1ガスケット側表面の一方または双方にもゴム層がコーティングされていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の
請求項2によるガスケットは、上記した
請求項1記載の金属基板ガスケットにおいて、前記連結手段は、カシメリベットよりなることを特徴とする。
【0010】
上記構成を備える本発明のガスケットにおいては、筺体側に配置される第1ガスケット部材およびカバー側に配置される第2ガスケット部材が組み合わされ、両ガスケット部材が連結手段によって連結されている。第1ガスケット部材は、金属基板の筺体側表面にゴム層をコーティングしたガスケット素材よりなり、シールビードが第2ガスケット部材へ向けて立ち上げ形成されている。一方、第2ガスケット部材は、金属基板のカバー側表面にゴム層をコーティングしたガスケット素材よりなり、シールビードは形成されず平板状のままに形成されている。
【0011】
したがって上記構成を備えるガスケットを筺体およびカバー間に装着してボルト締結すると、第1ガスケット部材に形成したシールビードがカバーではなく第2ガスケット部材に押し付けられて弾性変形することになり、これは、シールビードおよびカバー間に第2ガスケット部材が介在することによりカバーの剛性が実質的に補強されることになる。したがってカバーが低剛性であってもシールビードの圧縮量が増大してシールビードの反発力が増大するため、シールビードによるシール性を向上させることが可能とされる。
【0012】
尚、第1ガスケット部材における金属基板の筺体側表面にゴム層がコーティングされているために、金属基板および筺体間はゴム層によって十分にシールされる。第2ガスケット部材における金属基板のカバー側表面にゴム層がコーティングされているため、金属基板およびカバー間はゴム層によって十分にシールされる。また、第1ガスケット部材における金属基板の第2ガスケット側表面および第2ガスケット部材における金属基板の第1ガスケット側表面の一方または双方にゴム層がコーティングされているため、両金属基板間はゴム層によって十分にシールされる。
【0013】
また、上記構成のガスケットにおいては、第2ガスケット部材を平板状のままとしたが、この第2ガスケット部材にエンボス加工による凹凸形状を形成すると、第2ガスケット部材の剛性が増大するため、カバーに対する補強効果が一層大きくなる。エンボス加工による凹凸形状としては、第2ガスケット部材のカバー側の面に凹部を設けるとともに第1ガスケット部材側の面に凸部を設けたものとするのが好適であり、これによりエンボス加工による凹凸形状が第1ガスケット部材へ向けて立ち上げ形成されるため、凹凸形状による立体構造がカバーに対する補強効果をなす。
【0014】
第1および第2ガスケット部材は連結手段によって連結される。連結手段としては、第1および第2ガスケット部材が共に金属部品を有するため、強度の高いカシメリベットが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0016】
すなわち本発明においては以上説明したように、ガスケットが筺体およびカバー間に装着されてボルト締結されたときに、第1ガスケット部材に形成したシールビードがカバーではなく第2ガスケット部材に押し付けられて弾性変形するため、シールビードおよびカバー間に第2ガスケット部材が介在することになってカバーの剛性が実質的に補強される。したがってカバーが低剛性であってもシールビードの圧縮量が増大して反発力が増大するため、シール性を向上させることができる。換言すれば本発明のガスケットを使用することにより、カバーの低剛性化(軽量化・小型化)やシール面の幅狭化を一層促進することができる。
【0017】
また、第1ガスケット部材の金属基板および筺体間、第2ガスケット部材の金属基板およびカバー間ならびに第1ガスケット部材の金属基板および第2ガスケット部材の金属基板間をそれぞれ各ゴム層によって十分にシールすることができる。
【0018】
また、第2ガスケット部材にエンボス加工による凹凸形状を形成することにより第2ガスケット部材の剛性が増大するため、カバーに対する補強効果を一層拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】同ガスケットの要部拡大断面図であって
図1におけるC−C線拡大断面図
【
図3】本発明の第2実施例に係るガスケットの要部断面図
【
図4】本発明の第3実施例に係るガスケットの要部断面図
【
図5】本発明の第4実施例に係るガスケットの要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0021】
第1実施例・・・
図1は、本発明の実施例に係るガスケット1の全体平面を示している。
図2は同ガスケット1の要部拡大断面であって
図1におけるC−C線拡大断面を示している。
図2には装着の相手方である筺体41およびカバー42も描いており、筺体41およびカバー42の図上右側が筺体内部側D、図上左側が大気側Eとされている。
図2はボルト締結前の状態を示している。
【0022】
当該実施例に係るガスケット1は、筺体41および筺体41に重ねるカバー42間に装着される平板状の金属基板ガスケットであって、筺体41およびカバー42間であって筺体41側(
図2では下側)に配置される第1ガスケット部材11と、カバー42側(
図2では上側)に配置される第2ガスケット部材21との組み合わせ構造を有し、両ガスケット部材11,21が連結手段31を介して連結されている。
【0023】
第1ガスケット部材11は、金属基板(基材)12の筺体側表面(
図2では下面)にゴム層(弾性体)13をコーティング(接着)した平板状のガスケット素材よりなり、その平面上シール面内にシールビード14が第2ガスケット部材21へ向けて立ち上げ形成されている。
【0024】
一方、第2ガスケット部材21は、金属基板(基材)22のカバー側表面(
図2では上面)にゴム層(弾性体)23をコーティング(接着)した平板状のガスケット素材よりなり、こちらの方はシールビードを形成することなく平板状のままに形成されている。
【0025】
また、第1ガスケット部材11における金属基板12の第2ガスケット側表面(
図2では上面)には、ここにもゴム層(弾性体)15がコーティング(接着)されており、したがって第1ガスケット部材11の金属基板12はその厚み方向両面にそれぞれゴム層13,15がコーティングされている。
【0026】
上記金属基板12,22は鋼板よりなり、またステンレス、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板またはアルミニウム合板などの金属板よりなる。上記ゴム層13,15,23を形成するゴム配合物は、ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴムおよびシリコンゴムのうちの少なくとも一種を含む合成ゴム(発泡ゴムを含む)などよりなる。シールビード14は、断面円弧状のフルビードよりなり、フルビードよりなるシールビード14が第1ガスケット部材11の全周に亙って設けられている。
【0027】
また、連結手段31は、上下両端に頭部を備えるカシメリベットよりなり、このカシメリベットよりなる連結手段31が両ガスケット部材11,12を互いに平行な状態に保持している。
【0028】
尚、
図1に示すように、当該ガスケット1は全体として長方形の枠状に成形されているところ、周上複数箇所(図では3箇所)のはみ出し部2が設けられ、このはみ出し部2にそれぞれ連結手段31が取り付けられている。したがって第1および第2ガスケット部材11,21は周上複数箇所に亙って連結手段31を介して連結されている。
【0029】
上記構成を備えるガスケット1は、上記したように第1および第2ガスケット部材11,21の組み合わせ構造を有し、両ガスケット部材11,21が連結手段31を介して連結されている。第1ガスケット部材11は、金属基板12の筺体側表面にゴム層13をコーティングした平板状のガスケット素材よりなり、その平面内にシールビード14が第2ガスケット部材21へ向けて立ち上げ形成されている。一方、第2ガスケット部材21は、金属基板22のカバー側表面にゴム層23をコーティングした平板状のガスケット素材よりなり、シールビードを形成することなく平板状のままに形成されている。
【0030】
したがって上記構成を備えるガスケット1が筺体41およびカバー42間に装着されてボルト締結されると、第1ガスケット部材11に形成したシールビード14がカバー42ではなく第2ガスケット部材21に押し付けられて弾性変形し、シールビード14およびカバー42間に第2ガスケット部材21が介在するため、カバー42の剛性が実質的に補強される。したがってシールビード14の圧縮量が増大してシールビード14の反発力が増大するため、シールビード14によるシール性を向上させることができる。また換言すれば、上記構成のガスケット1を使用することにより、カバー42の低剛性化・小型化・軽量化やシール面の幅狭化などを一層促進することができる。
【0031】
また、第1ガスケット部材11の金属基板12および筺体41間、第2ガスケット部材21の金属基板22およびカバー42間ならびに第1ガスケット部材11の金属基板12および第2ガスケット部材21の金属基板22間にそれぞれゴム層13,15,23が介装されるため、各金属部品の平面度が不足したり金属部品間に隙間が存在したりする場合などにおいても十分なシール効果を発揮することができる。
【0032】
また、第2ガスケット部材21がカバー42に対し広範囲に接触するため、鋳巣対策の効果を発揮することもできる。
【0033】
構成部品ごとの作用効果は、以下のとおりである。
【0034】
第2ガスケット部材21の金属基板22は、カバー42の剛性増大に寄与することができ、カバー42の変形を抑制することによりシールビード14の圧縮率不足を低減することができる。金属基板22は厚みがあるほどシール性に有利である。
【0035】
第2ガスケット部材21のゴム層23は、シール相手面であるカバー42表面の粗さに当該ガスケット1を追随させることができる。当該実施例において金属基板22の片面のみにゴム層23を設けた狙いは、応力緩和の低減にある。
【0036】
第1ガスケット部材11は、シールビード14に反力が発生することにより第2ガスケット部材21の金属基板22を押し込むことができる。またシールビード14が変形することにより、相手平面度に対する追随性を向上させることができる。
【0037】
連結手段31は、第1および第2ガスケット部材11,21をあらかじめ組み立てることにより、ガスケット1の組み付け性(作業性)を向上させることができる。
【0038】
第2実施例・・・
上記第1実施例では、第1ガスケット部材11に形成するシールビード14をフルビードとしたが、シールビード14の構造は特に限定されず、例えば
図3に示すような断面直線状の立ち上がり斜面を有するハーフビードなどであっても良い。図示するハーフビードは、斜面の外側が筺体41に接触するとともに斜面の内側が第2ガスケット部材21に接触している。
【0039】
第3実施例・・・
上記第1実施例では、第2ガスケット部材21を平板状のままとしたが、この第2ガスケット部材21にエンボス加工による凹凸形状(凹形状)を形成することにより第2ガスケット部材21を厚み方向に立体化すると、第2ガスケット部材21の剛性が増大(金属基板22の断面係数(曲げ剛性)の増大および加工硬化の進行による)するため、カバー42に対する補強効果が一層大きくなり、またカバー42に対する第2ガスケット部材21の接触面積が縮小するため、接触面圧が増大し、シール性が向上する。
【0040】
エンボス加工による凹凸形状24としては例えば
図4に示すように、第2ガスケット部材21のカバー側の面に凹部25を設けるとともに第1ガスケット部材側の面に凸部26を設けたものとし、これによりエンボス加工による凹凸形状24を第1ガスケット部材11へ向けて立ち上げ形成したものとする。凹凸形状24は、内外一対の立ち上がり部27および金属基板22と平行な平面部28を有して第2ガスケット部材21の全周に亙って設けられており、平面部28の下面に対して第1ガスケット部材11のシールビード14が密接する。シールビード14は断面円弧状のフルビードよりなり、フルビードよりなるシールビード14が第1ガスケット部材11の全周に亙って設けられている。
【0041】
このエンボス加工による凹凸形状24を設けたことによる効果を纏めて説明すると、以下のようになる。
【0042】
すなわち先ず、金属基板22にエンボス加工による凹凸形状24を設けることで、基板厚み分だけでなく、断面係数(曲げ剛性)の増加、基板の加工硬化の影響も付与したカバー42の剛性増大を実現することができる。また、金属基板22にエンボス加工による凹凸形状24を設けることで、第1実施例(平板状のままのもの)と比較してカバー42に対する接触面積が縮小するため、カバー42への接触面圧が増大し、シール性を向上させることができる。
【0043】
第4実施例・・・
上記第3実施例では、第1ガスケット部材11に形成するシールビード14をフルビードとしたが、シールビード14の構造は特に限定されず、例えば
図5に示すような断面直線状の立ち上がり斜面を有するハーフビードなどであっても良い。図示するハーフビードは、斜面の外側が筺体41に接触するとともに斜面の内側が第2ガスケット部材21に接触している。
【符号の説明】
【0044】
1 ガスケット
2 はみ出し部
11 第1ガスケット部材
12,22 金属基板
13,15,23 ゴム層
14 シールビード
21 第2ガスケット部材
24 凹凸形状
25 凹部
26 凸部
27 立ち上がり部
28 平面部
31 連結手段
41 筺体
42 カバー