特許第6243648号(P6243648)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243648
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】地盤アンカーの施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/80 20060101AFI20171127BHJP
【FI】
   E02D5/80 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-157409(P2013-157409)
(22)【出願日】2013年7月30日
(65)【公開番号】特開2015-28242(P2015-28242A)
(43)【公開日】2015年2月12日
【審査請求日】2016年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(73)【特許権者】
【識別番号】501133247
【氏名又は名称】構造工事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080296
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】森 利弘
(72)【発明者】
【氏名】新井 庸夫
【審査官】 神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−013845(JP,A)
【文献】 実開昭62−143747(JP,U)
【文献】 特開平10−168876(JP,A)
【文献】 特開平04−216715(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0039672(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
削孔手段及び液体を用いて地盤に地盤アンカー挿入用の孔を形成する削孔ステップと、
削孔された孔内に注入材を注入する第1の注入材注入ステップと、
第1の注入材注入ステップ終了後に孔内に地盤アンカーを挿入する地盤アンカー挿入ステップと、
孔内に地盤アンカーが挿入された後に当該孔内の液体が全て注入材に置換されるまで孔内に注入材を注入する第2の注入材注入ステップとを備え、
第1の注入材注入ステップにおいては、地盤アンカー挿入ステップにおいて孔内に地盤アンカーを挿入して地盤アンカーの下端を孔底に接触させた場合に孔内の液体中で浮遊するスライムを地盤アンカーの定着長部の上端位置よりも上方に移動させるために必要な量の注入材として、地盤アンカーの下端を孔底に接触させた状態における地盤アンカーの定着長部の上端位置に相当する孔内高さ位置と孔底との間の孔内下端側部分の容積から地盤アンカーの下端と地盤アンカーの定着長部の上端位置との間の地盤アンカー下端側部分の体積を引いた量の1.1倍〜1.2倍の量の注入材を孔内に注入したことを特徴とする地盤アンカーの施工方法。
【請求項2】
地盤アンカー挿入ステップにおいては、第1の注入材注入ステップにおいて孔内に注入材を注入するために用いた注入管を除去した後に、地盤アンカーを孔内に挿入したことを特徴とする請求項1に記載の地盤アンカーの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時や暴風時等における建物基礎の浮上り防止用、地下水による建物基礎の浮上り防止用等に使用される地盤アンカーの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地震時や暴風時等における建物基礎の浮上り防止用、地下水による建物基礎の浮上り防止用、塔状建物の転倒防止用等に使用される地盤アンカーを地盤に固定するための地盤アンカーの施工方法が知られている(特許文献1など参照)。
地盤アンカーの施工方法は、下端側に削孔ビットが取付けられたケーシングを用い、地盤に水を供給しながら削孔ビットで地盤を削孔して地盤に孔を形成し、当該削孔された孔内に設置された地盤アンカーと孔壁との間に注入された注入材と孔壁との摩擦力によって地盤アンカーを地盤に定着させる。
地盤アンカーの施工方法として、例えば、地盤に削孔された孔内にセメントミルクやモルタル等の注入材を注入した後、当該孔内に地盤アンカーを挿入する方法(以下、方法Aと言う)や、地盤に削孔された孔内に地盤アンカーを挿入した後に、当該孔内に注入材を注入する方法(以下、方法Bと言う)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−144467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した方法Aでは、孔内に注入材を注入して孔内の水を全て注入材に置換した後に当該孔内の注入材中に地盤アンカーを挿入するが、注入材の比重が水に比べて大きいため、孔内の水中に地盤アンカーを挿入する場合と比べて地盤アンカーの孔内への挿入抵抗が大きくなることから、地盤アンカーの高止まり(地盤アンカーの下端が所望とする孔底側の位置まで到達していない状態となること)などの不具合を生じる虞がある。
また、上述した方法Bでは、孔内の水中に地盤アンカーが設置された状態で孔内に注入材を注入するので、方法Aと比べて、地盤アンカーの孔内への挿入抵抗が小さくなり、地盤アンカーの高止まりなどの不具合を生じる虞は少なくなる。しかしながら、方法Bでは、削孔の際に水中に浮遊したスライムが孔底に沈降して、孔内に設置された地盤アンカーの周囲に堆積し、孔内に設置された地盤アンカーの下端側の周囲の任意の箇所から注入管を介して孔底側に注入材を注入した場合、地盤アンカーが障害となって地盤アンカーの下端側の周囲の前記任意の箇所から離れた箇所においてはスライムが注入材と置換されずに残ってしまうことがあり、特に、地盤アンカーの定着長部の回りにスライムが残ってしまう場合、地盤アンカーの引抜き耐力が低下するといった課題があった。
そこで、本発明は、地盤アンカーの孔内への挿入抵抗を小さくできるとともに、地盤アンカーの引抜き耐力低下を防止できる地盤アンカーの施工方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る地盤アンカーの施工方法によれば、削孔手段及び液体を用いて地盤に地盤アンカー挿入用の孔を形成する削孔ステップと、削孔された孔内に注入材を注入する第1の注入材注入ステップと、第1の注入材注入ステップ終了後に孔内に地盤アンカーを挿入する地盤アンカー挿入ステップと、孔内に地盤アンカーが挿入された後に当該孔内の液体が全て注入材に置換されるまで孔内に注入材を注入する第2の注入材注入ステップとを備え、第1の注入材注入ステップにおいては、地盤アンカー挿入ステップにおいて孔内に地盤アンカーを挿入して地盤アンカーの下端を孔底に接触させた場合に孔内の液体中で浮遊するスライムを地盤アンカーの定着長部の上端位置よりも上方に移動させるために必要な量の注入材として、地盤アンカーの下端を孔底に接触させた状態における地盤アンカーの定着長部の上端位置に相当する孔内高さ位置と孔底との間の孔内下端側部分の容積から地盤アンカーの下端と地盤アンカーの定着長部の上端位置との間の地盤アンカー下端側部分の体積を引いた量の1.1倍〜1.2倍の量の注入材を孔内に注入したので、当該孔内の液体が全て注入材に置換された後に地盤アンカーを孔内に挿入する場合と比べて挿入抵抗を小さくできるとともに、孔内に地盤アンカーを挿入して地盤アンカーの下端を孔底に接触させた場合に孔内の液体中で浮遊するスライムを地盤アンカーの定着長部の上端位置よりも上方に移動させることができるので、地盤アンカーの定着長部の回りにスライムが残りにくくなり、地盤アンカーの引抜き耐力低下を防止できる。
地盤アンカー挿入ステップにおいては、第1の注入材注入ステップにおいて孔内に注入材を注入するために用いた注入管を除去した後に、地盤アンカーを孔内に挿入したので、地盤アンカーの挿入作業をスムーズに行える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】地盤アンカーの施工方法を示す図。
図2】施工後の地盤アンカーの一例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
地盤アンカー1の施工方法は、図1に示すように、孔壁崩落防止のための円筒形状のケーシング2と当該ケーシング2の下端側に設けられた削孔ビット3とを備えた削孔体4を用いて地盤アンカー1を挿入するための孔5を地盤10に形成する削孔ステップAと、孔5を削孔した後に孔5内に残置されたケーシング2の円筒内側(以下、ケーシング孔6という)に注入材7を注入する第1の注入材注入ステップBと、第1の注入材注入ステップBの終了後にケーシング孔6に地盤アンカー1を挿入する地盤アンカー挿入ステップCと、ケーシング孔6に地盤アンカー1が挿入された後に当該地盤アンカー1の外周面とケーシング孔6の内周面との間に注入材7を注入する第2の注入材注入ステップDと、地盤アンカー定着ステップEとを備える。
【0008】
削孔ステップAでは、図1(a)に示すように、削孔体4を削孔機8に取付けて構成された削孔手段を用いて、ケーシング2の円筒の上端開口からケーシング2内経由で地盤10に図外の液体としての水(削孔水)を供給しながら、ケーシング2の円筒の中心軸線2Cを回転中心として当該削孔体4を回転させることによって、削孔ビット3が地盤10を削孔して支持層まで到達する孔5が形成される。尚、削孔ビット3は、当該ケーシング2の円筒の下端に設けられた外周側環状削孔ビット3aと当該外周側環状削孔ビット3aの内側に配置されて図外のロッドの下端に設けられた内側削孔ビット3bとを備えて構成され、ケーシング2及びロッドの両方を回転させることによって外周側環状削孔ビット3a及び内側削孔ビット3bが地盤10を削孔して支持層まで到達する孔5が形成される。そして、孔5を削孔後、ロッド及び内側削孔ビット3bを孔5内より引抜いてから孔5内に残置されたケーシング2のケーシング孔6内に注入材7を注入する第1の注入材注入ステップBを行う。また、ケーシング2の外径は、例えば、135mm〜225mm程度である。
【0009】
第1の注入材注入ステップBでは、図1(b)に示すように、削孔ステップAにより形成された孔5内に残置されたケーシング2のケーシング孔6に注入ホース等の注入管9Aを挿入し、注入管9Aの下端開口を孔5の孔底5a付近まで到達させた後、注入管9A経由でセメントミルクやモルタル等の注入材7をケーシング孔6の水中に注入する。
【0010】
第1の注入材注入ステップBにおいては、地盤アンカー挿入ステップCにおいてケーシング孔6内に地盤アンカー1を挿入して地盤アンカー1の下端1aを孔底5aに接触させた場合にケーシング孔6内の水中で浮遊するスライムを地盤アンカー1の定着長部101の上端位置40tよりも上方に移動させるために必要な量の注入材7をケーシング孔6内に注入する。
即ち、第1の注入材注入ステップBにおいては、ケーシング孔6内の水が全て注入材7に置換されるまでケーシング孔6内に注入材7を注入するのではなく、図1(c)に示すように、地盤アンカー挿入ステップCにおいてケーシング孔6内に地盤アンカー1を挿入して地盤アンカー1の下端1aを孔底5aに接触させた場合に、ケーシング孔6内に注入されて水と置換される注入材7の上端位置Tが地盤アンカー1の定着長部101の上端位置40tよりも若干上方に位置される量だけ注入材7を注入すれば良いので、ケーシング孔6内の水を全て当該水よりも比重の大きい注入材7に置換した後に当該注入材7中に地盤アンカー1を挿入する場合と比べて、地盤アンカー1のケーシング孔6内への挿入抵抗を小さくできる。さらに、ケーシング孔6内の水中で浮遊するスライムは比重が小さく地盤アンカー1の定着長部101の上端位置40tよりも上方に移動するので、地盤アンカー1の定着長部101の回りにスライムが残ってしまうことを防止でき、地盤アンカー1の引抜き耐力の低下を防止できるようになる。
尚、スライムとは、地盤削孔によりケーシング孔6内に残った削孔水に混じった土(堀屑)を言う。
【0011】
第1の注入材注入ステップBでの注入材7の注入量Xは、例えば、以下のように定義される量Aから量Bを引いた量Cの1.1倍〜1.2倍の量とする。
・量Aは、地盤アンカー1の下端1aを孔5の孔底5aに接触させた状態における地盤アンカー1の定着長部101の上端位置40tに相当するケーシング孔内高さ位置と孔底5aとの間のケーシング孔内下側部分の容積。
・量Bは、地盤アンカー1の下端1aと地盤アンカー1の定着長部101の上端位置40tとの間の地盤アンカー下側部分の体積。
【0012】
このように、削孔ステップAの終了後に第1の注入材注入ステップBを行うようにすれば、孔5内に残置されたケーシング孔6内に、孔5の削孔後直ちに注入材7を注入できるので、孔底5aに沈降するスライムの量を少なくできるとともに水中に浮遊するスライムを注入材7で地盤アンカー1の定着長部101の上端位置40tよりも上方に追いやることができるようになり、地盤アンカー挿入ステップCでケーシング孔6内に挿入された地盤アンカー1の定着長部101の周囲にスライムが残りにくくなるので、地盤アンカー1の引抜き耐力が低下してしまうことを防止できる。
【0013】
第1の注入材注入ステップBにおいて、注入材7を注入量C=量A−量Bだけケーシング孔6に注入した後に、地盤アンカー挿入ステップCで地盤アンカー1の下端1aが孔底5aに接触するように地盤アンカー1をケーシング孔6に挿入して設置した場合、ケーシング孔6内で水と置換された注入材7の上端位置Tとケーシング孔6に挿入されて設置された地盤アンカー1の定着長部101の上端位置40tとが一致することが想定される。しかしながら、この場合、ケーシング孔6に挿入されて設置された地盤アンカー1の定着長部101の上端部の周囲にスライムが残る可能性があり、地盤アンカー1による所望の引抜き耐力が得られない可能性がある。
【0014】
そこで、実施形態では、第1の注入材注入ステップBにおいて注入材7をケーシング孔6に注入した後に、地盤アンカー挿入ステップCで地盤アンカー1の下端1aが孔底5aに接触するように地盤アンカー1をケーシング孔6に挿入して設置した場合に、ケーシング孔6内で水と置換された注入材7の上端位置Tがケーシング孔6に挿入されて設置された地盤アンカー1の定着長部101の上端位置40tよりも上方に位置して、スライムが定着長部101の上端位置40tと注入材7の上端位置Tとの間に浮遊するように、第1の注入材注入ステップBにおいて、注入材7を注入量X=1.1C〜1.2Cだけケーシング孔6の孔底5a側に注入するようにした。
従って、実施形態では、ケーシング孔6に挿入されて設置された地盤アンカー1の定着長部101の周囲にスライムを残さないようにすることが可能となり、所望の引抜き耐力が得られるように地盤アンカー1を地盤10に設置することが可能となる。
【0015】
地盤アンカー挿入ステップCでは、注入管9Aをケーシング内側孔内から撤去した後に、図1(c)に示すように、地盤アンカー1を下端1a側(下端(先端)支圧部100(図2参照)側)からケーシング孔6の内側に挿入し、地盤アンカー1の下端1aを孔底5aに接触させるようにして地盤アンカー1をケーシング孔6に設置する。
このように、注入管9Aをケーシング孔6内から撤去し後に地盤アンカー1をケーシング孔6に挿入すれば、ケーシング孔6に地盤アンカー1を挿入する際の障害物が無くなるので、地盤アンカー1の挿入作業をスムーズに行える。
【0016】
第2の注入材注入ステップDでは、図1(d)に示すように、ケーシング孔6に挿入された地盤アンカー1の外周面とケーシング孔6の内周面との間に注入材7を注入する。即ち、ケーシング孔6内の水が全て注入材7に置換されるまでケーシング孔6内に注入材7を注入する。
尚、第2の注入材注入ステップDにおける注入材注入作業は、注入材7を注入するための注入ホース等の注入管9Bを地盤アンカー1の側面に取付けて注入管9Bと地盤アンカー1とを一緒にケーシング孔6に挿入した後に注入材7を当該注入管9Bを介してケーシング孔6内に注入したり、あるいは、地盤アンカー1をケーシング孔6に挿入した後に注入管9Bをケーシング孔6に挿入して注入材7を当該注入管9Bを介してケーシング孔6内に注入したり、あるいは、地盤アンカー1の後述する下端(先端)部キャップ61の周面や耐荷体40の周面に地盤アンカー1の内側と外側とに貫通する図外の注入口を備えた地盤アンカー1を用いて地盤アンカー1の内側に注入材7を注入することで当該注入口を介して注入材7をケーシング孔6内に注入すればよい。
また、注入管9Bとしては、ケーシング孔6への地盤アンカー1の挿入作業性や注入管9Bの挿入作業性を良くするために断面扁平形状の注入ホースを用いることが好ましい。
【0017】
地盤アンカー定着ステップEは、地盤アンカー加圧注入ステップと地盤アンカー緊張定着ステップとを備える。
地盤アンカー加圧注入ステップでは、下端1aが孔5の孔底5aに接触するように孔5内に設置されている地盤アンカー1の定着長部101の上端位置40tの位置までケーシング2の下端が位置されるようにケーシング2を引き上げた後に、ケーシング2の上端開口を図外のキャップ(蓋)で塞いで当該キャップに設けられた注入孔に図外の注入管を通し、当該注入管を介して注入材7を加圧注入して注入材7を地盤10に浸透させることで、注入材7と孔5の内壁との接触面の摩擦力、即ち、注入材7と地盤10との接触面の摩擦力を維持させ、さらに、ケーシング2を孔5内から引抜いた後、孔5の上端まで注入材7を追加注入する。
地盤アンカー緊張定着ステップでは、孔5の上端まで注入材7を注入した後、注入材7が所定の強度に達するのを待ってから(例えば、孔5の上端まで注入材7を注入した後、7日〜28日程度経過するのを待ってから)、孔5の上端開口より上方に突出する地盤アンカー1の頭部の周囲に建物の基礎を構築して当該建物の基礎に地盤アンカー1の頭部を固定する。例えば、予め決められた引張力で引張材としてのPC鋼撚り線20を引っ張ってからPC鋼撚り線20の上端部を後述する上端部固定装置33で固定することで、PC鋼撚り線20による引き抜き荷重が、後述する下端側支圧板30A、耐荷体40、注入材7を介して地盤10に伝達され、注入材7と地盤10との摩擦力によって地盤アンカー1が地盤10に定着される。
【0018】
図2を参照し、地盤アンカー1の一例を説明する。
図2に示す地盤アンカー1は、引張材としての複数のPC鋼撚り線20と、複数のPC鋼撚り線20の下端部に設けられた下端側支圧板30Aと、複数のPC鋼撚り線20の上端部に設けられた上端側支圧板30Bと、下端側支圧板30AのPC鋼撚り線20による引き抜き側(上面31側)と接触する耐荷体40とを備え、耐荷体40の外周面が凹凸面41に形成され、PC鋼撚り線20による引き抜き荷重が耐荷体40の凹凸面41、注入材7、孔5の壁面を介して地盤10に伝達されることによって地盤10に定着される構成のアンカーである。
下端側支圧板30Aの上面31側の外周面である上端部と耐荷体40の円筒の下端部とが連結される。耐荷体40の円筒の上端部と円筒状のシース体50の円筒の下端部とが連結される。シース体50の円筒の上端部と上端側支圧板30Bの下面32とが連結される。上端側支圧板30Bは、地盤表面42上に打設形成された基礎コンクリート19上に設置される。尚、上述した各連結は、円板や円筒の外周面あるいは内周面に円板や円筒の中心軸に沿って螺旋状に形成されたねじ部同士のねじ結合や、円板や円筒の外周面と内周面との嵌合とねじ止め、あるいは、溶接などで実現される。
各PC鋼撚り線20の下端部は、下端側支圧板30Aに形成された貫通孔16を貫通して下端側支圧板30Aよりも下方において圧着グリップ装置のような下端部固定装置60により固定される。下端側支圧板30Aの円筒の下端部には、下端部固定装置60を覆う下端部キャップ61が取付けられる。
上端側支圧板30Bの上面14にはくさび式固定装置のような上端部固定装置33が設けられる。複数の各PC鋼撚り線20;20の上端部は、上端側支圧板30Bの貫通孔17を貫通して、予め決められた引張力で上端側支圧板30Bの上方に引っ張られた後に上端部固定装置33により固定される。これにより、各PC鋼撚り線20にプレストレスが導入されて固定される。
PC鋼撚り線20にプレストレスが導入されて固定されたことで、下端部固定装置60と下端側支圧板30Aとが接触し、PC鋼撚り線20による引き抜き荷重が、下端側支圧板30A、耐荷体40、注入材7、孔5の壁面を介して地盤10に伝達されて、地盤アンカー1が地盤10に定着される。
上端側支圧板30Bの上面14には、PC鋼撚り線20の上端部及び上端部固定装置33を覆う上端部キャップ35が取付けられる。
地盤アンカー1の下端部キャップ61と下端側支圧板30Aの下面15とで区画された先端空間には防錆油45が充填され、下端側支圧板30Aの上面31から上端側支圧板30Bの下面32より若干下の位置までの間において耐荷体40及びシース体50で区画された中央側筒内空間にはグラウトのような防錆材46が充填され、上端側支圧板30Bの下面32より若干下の位置から上端側支圧板30Bの下面32までの間においてシース体50で区画された筒内空間、及び、上端側支圧板30Bの上面14と上端部キャップ35とで囲まれた空間には、防錆油45が充填される。
【0019】
尚、図2に示すように、孔5内に挿入されて地盤10に定着された地盤アンカー1において、下端側支圧板30Aの上面31と下端1aとの間の部分を下端(先端)支圧部100、下端側支圧板30Aの上面31と耐荷体40の上端位置40tとの間の部分を定着長部101、耐荷体40の上端位置40tと地盤10の表面(地上表面42)との間の部分を自由長部102、地盤10の表面と上端部キャップ35の上端との間の部分をアンカー頭部103という。
地盤アンカー1における下端1aから上端部キャップ35の上端までの長さをLとした場合、例えば、下端支圧部100の長さはL/100程度、定着長部101の長さはL/3程度、自由長部102の長さはL/1.7程度、アンカー頭部103の長さはL/15程度である。
【0020】
孔5はケーシング2を使用せずに、安定液を使用して削孔された孔でもよい。即ち、この場合、アースオーガーや打撃回転式の削孔機械等の削孔手段及び液体としての安定液を用いて地盤10に地盤アンカー挿入用の孔5を削孔した後、当該孔5内に地盤アンカー1を挿入して地盤アンカー1の下端1aを孔底5aに接触させた場合に孔5内の安定液中で浮遊するスライムを地盤アンカー1の定着長部101の上端位置40tよりも上方に移動させるために必要な量の注入材7を孔5内に注入する。その後、孔5内に地盤アンカー1を挿入し、孔5内に挿入された当該地盤アンカー1の外周面と孔5の内周面との間に注入材7を注入して安定液を注入材7に置換した後に、地盤アンカー1を定着させればよい。
【符号の説明】
【0021】
1 地盤アンカー、1a 地盤アンカーの下端、5 孔、5a 孔底、
6 ケーシング孔(孔)、7 注入材、9A 注入管、10 地盤、
40t 地盤アンカーの定着長部の上端位置。
図1
図2