(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の発明者は、経験のある医師が生体情報をどのように観察して患者の症状を判断しているのかを検討した。そして、発明者は、経験のある医師は異なるパラメータに関する複数のトレンドグラフ間の関係に基づいて症状を判断している、ということを見出した。ここで、生体情報のパラメータとは、血圧、肺の換気量、心拍数、SpO
2などのことである。従って、異なるパラメータとは、例えば、血圧と肺の換気量のことである。経験のある医師は、異なるパラメータに関するトレンドグラフ間での相対的変化を考察することで、症状を判断している場合が多い。しかし、従来はどのトレンドグラフ間の関係を考察すれば良いかは、医師の経験や知識に委ねられている。さらに、各トレンドグラフは、ディスプレイ上の異なる位置や異なる画面(ページ)に表示されているので、トレンドグラフ間の関係をひと目で把握するのは難しい。
【0014】
そこで、本発明では、症状判断の基となる複数のトレンドグラフを同一座標上にオーバーラップさせて表示する。これより、経験のある医師が症状の判断時に頭の中で考察していることと同じことを模した表示を行うことができ、この結果、経験の少ない医師に対しても、的確かつ迅速な症状判断を促すことができるようになる。
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
<全体構成>
図1は、本実施の形態の生体情報モニタ100の構成を示すブロック図である。生体情報モニタ100は、コネクタ部101を有する。コネクタ部101は、患者に装着された生体情報検出部を生体情報モニタ100に接続するためのコネクタである。コネクタ部101には、心電図を検出するための心電電極111、血圧を検出するための血圧測定用カフ112、体温を検出するための体温センサ113、SpO
2を検出するためのSpO
2センサ114、及び心拍出量を検出するための心拍出量センサ115等の生体情報検出部が接続される。勿論、コネクタ部101には、これ以外の生体情報検出部が接続されてもよい。コネクタ部101は、接続された生体情報検出部と計測処理部102との間のインタフェースとして機能する。
【0017】
計測処理部102は、所定の計測処理を実行することで、コネクタ部101に接続された生体情報検出部(心電電極111、血圧測定用カフ112、体温センサ113、SpO
2センサ114及び心拍出量センサ115)を用いて患者の生体情報を計測する。なお、上記生体情報検出部を用いた各パラメータに関する生体情報の計測方法については従来周知のものを適用可能であるため、ここではその詳細な説明を省略する。また、計測処理部102は、計測した生体情報を記憶部103に記憶させる。
【0018】
カレント波形形成部104は、計測処理部102で得られた計測結果を用いて各生体情報のカレント波形を形成する。トレンドグラフ形成部105は、記憶部103に記憶されている計測処理部102の計測結果を用いて血圧、心拍数、SpO
2などの各パラメータに関するトレンドグラフを形成する。本実施の形態の場合、トレンドグラフ形成部105は、各パラメータについて30分の時間長のショートトレンドグラフを形成するようになっている。
【0019】
表示制御部106は、カレント波形形成部104で形成されたカレント波形、トレンドグラフ形成部105で形成されたトレンドグラフ、及び記憶部103に記憶されている計測結果を用いて、ディスプレイ107に表示させるための表示画像を形成し、その表示画像をディスプレイ107に表示させる。
【0020】
ディスプレイ107は、例えばタッチパネル付き液晶表示器であり、生体情報を表示する表示機能を有するだけでなく、操作者による入力操作を受け付ける入力部としての機能も有する。具体的には、ディスプレイ107は、操作者によるタッチ操作に応じた操作信号を表示制御部106に送出することにより、ディスプレイ104の表示形式を変更できる。また、ディスプレイ107は、操作者によるタッチ操作に応じた操作信号を計測処理部102に送出することにより、計測モードの変更を行うことができる。
【0021】
操作部108は、生体情報モニタ100の筐体前面に設けられた操作ボタン(例えば電源スイッチ、測定開始/停止ボタン、データ記録ボタンなど)、及び生体情報モニタ100に接続されたマウスやキーボードなどの操作入力部を含む。操作部108からの操作信号により、表示制御部106での表示制御動作や、計測処理部102での計測動作が制御される。
【0022】
アラームインジケータ109は、生体情報モニタ100の筐体上部に設けられており、計測処理部102によって生体情報に異常が生じたと検知されたときに例えば赤色に発光するようになっている。
【0023】
<表示画像>
次に、
図2及び
図3を用いて、生体情報モニタ100のディスプレイ107に表示される、本実施の形態における生体情報の表示形態について説明する。
【0024】
図2は、ディスプレイ107に表示された表示画像の例を示す。表示画像は、大きく分けて、カレント波形表示エリア201と、ショートトレンド表示エリア202と、計測値表示エリア203と、メニューバー表示エリア204と、から構成されている。勿論、これらのエリアに加えて、患者情報表示エリアなどを表示してもよい。
【0025】
カレント波形表示エリア201には、カレント波形形成部104によって形成されたカレント波形が表示される。
図2の例では、上から順に、心電図(ECG1、ECG2)、酸素飽和度(SpO
2)、観血血圧(ART)、中心静脈圧(CVP)、呼吸気中の炭酸ガス濃度(CO
2)及び呼吸気中のセボフルラン濃度(SEV)の各波形が、表示されている。因みに、カレント波形表示エリア201では、横軸の25[mm]が1[秒]を表す。
【0026】
ショートトレンドグラフ表示エリア202には、トレンドグラフ形成部105によって形成されたトレンドグラフが表示される。
図2の例は、30分間のショートトレンドグラフが表示される。因みに、本実施の形態の場合、ショートトレンドグラフの分解能(サンプリング間隔)は5秒とされている。分解能はこれ以外でもかまわないが、ショートトレンド波形を滑らかに表示できる程度の分解能であることが好ましい。
【0027】
なお、カレントグラフ、トレンドグラフ及び計測値は、各パラメータに応じて色分けされている。例えば、血圧に関するものは赤色、心電図・心拍に関するものは緑色、血液に関するものは黄色で表示されている。これにより、ユーザは、どのグラフがどのパラメータを示しているかをひと目で認識できる。
【0028】
本実施の形態の場合、ショートトレンドグラフ表示エリア202の一番上の位置には、異なるパラメータに関する2つ以上のトレンドグラフを同一座標上にオーバーラップさせて表示した、トレンドグラフオーバーラップ表示エリア202a、202bが表示されている。トレンドグラフオーバーラップ表示エリア202aには、血圧のトレンドグラフと、心拍数のトレンドグラフと、がオーバーラップして表示されている。トレンドグラフオーバーラップ表示エリア202bには、酸素飽和度(SpO
2)のトレンドグラフと、呼吸気中の炭酸ガス濃度(CO
2)のトレンドグラフと、呼吸数(RR)のトレンドグラフと、がオーバーラップして表示されている。トレンドグラフオーバーラップ表示エリア202aについては、
図3を用いて後で詳しく説明する。
【0029】
トレンドグラフオーバーラップ表示エリア202aの下には、酸素飽和度(SpO
2)、呼吸気中の炭酸ガス濃度(CO
2)、呼吸数(RR)、主肺動脈圧(PAP)、観血血圧(ART)、中心静脈圧(CVP)、体温(T2:例えば直腸温)、呼吸気中の炭酸ガス濃度(CO
2)、の各トレンドグラフが順次表示される。
【0030】
計測値表示エリア203には、心拍数(HR)の平均値、酸素飽和度(SpO
2)、灌流指標(PI:Perfusion Index)、非観血血圧(NIBP)、観血血圧(ART)、中心静脈圧(CVP)、体温(T1:例えば皮膚温、T2:例えば直腸温)、呼吸気中の炭酸ガス濃度(CO2)、呼吸数、呼吸気中のセボフルラン濃度(SEV)、呼吸気中の酸素濃度(O
2)、呼吸気中の笑気ガス濃度(N
2O)、の各計測値が表示される。
【0031】
メニューバー表示エリア204には、メニューバーが表示される。メニューバー表示エリア204において、メニューバーを構成する「ホーム」及び「メニュー」などの各矩形領域は、入力領域となっている。例えば、「メニュー」という表記を有する箇所に触れると、モニタリング全般の設定操作メニューを提示する設定操作用画像がサブ画像として表示され、モニタリング全般の設定操作が可能となる。
【0032】
ここで、表示対象の生体情報の種類(すなわちパラメータ)及び表示位置は、タッチパネル構成のディスプレイ107や操作部108を用いた、設定操作により適宜変更可能である。
【0033】
次に、
図3を用いて、トレンドグラフオーバーラップ表示エリア202aについて説明する。
【0034】
トレンドグラフオーバーラップ表示エリア202aには、観血血圧(ART)の最低血圧301、最高血圧302、平均血圧303のショートトレンドグラフと、心拍数(HR)401のショートトレンドグラフと、がオーバーラップして表示されている。つまり、トレンドグラフオーバーラップ表示エリア202aには、血圧をパラメータとしたトレンドグラフと、心拍数をパラメータとしたトレンドグラフと、がオーバーラップして表示されている。これにより、トレンドグラフオーバーラップ表示エリア202aを見れば、ショートトレンドグラフ上での血圧の変化傾向と心拍数の変化傾向との相対関係をひと目で確認できる。因みに、心拍数は基本的には脈拍数と同じ値を示すので、心拍数を脈拍数と読み換えてもよい。
【0035】
なお、
図3の例では、非観血血圧(NIBP)を示す縦棒501も表示されている。縦棒501の下端が最低血圧を示し、上端が最高血圧を示す。
図3の例では、非観血血圧(NIBP)を示す縦棒501が30分の間に8個表示されている。これにより、
図3の例では、観血血圧の変化傾向と心拍数の変化傾向との関係に加えて、非観血血圧の変化傾向と心拍数の変化傾向との関係もひと目で確認できる。非観血血圧の計測間隔は、あらかじめプリセットされた、連続・1分・2分・2.5分・5分…といった値をディスプレイ107のタッチパネルまたは操作部108を通じて選択可能である。
【0036】
ここで、血圧値のトレンドグラフと、心拍数のトレンドグラフとを同一座標上にオーバーラップさせて表示するにあたっては、オーバーラップのさせ方が重要である。勿論、時間軸である横軸は、血圧と心拍数とで同一となるように合わせる。縦軸は、血圧の単位がmmHgであり、心拍数の単位がbpmであるので単位が異なる。ただし、血圧と心拍数の場合は、単位は異なっていても数値同士が比較的近いので、縦方向の調整は必要ない。
【0037】
これに対して、オーバーラップさせるパラメータの組合せによってはトレンドグラフ同士が大きく離れてしまい、その相対関係を把握し難くなるため、縦方向の調整が必要な場合もある。この調整は、例えば、各パラメータのトレンドグラフの始点が縦軸方向で同一となるように縦軸方向の位置合わせを行えばよい。また、調整は、例えば、パラメータ毎の基準値(例えば平均値など)を設けておき、この基準値が一致するように、トレンドグラフを縦方向にシフトすることで行うようにしてもよい。このような調整を行うことで、トレンドグラフを互いに近づけて表示できるので、トレンドグラフ間の相対関係が把握し易くなる。
【0038】
医師は、
図2及び
図3の表示を見ることで、例えば以下の(1)〜(4)のような場合分けを行って、的確かつ迅速な患者の症状判断を行うことができるようになる。
【0039】
(1)心拍数及び血圧が共に上昇している場合。この場合は、交感神経に起因していることが多い。例えば麻酔覚醒時にこのような症状が現れ、対処の緊急度は低いと判断できる。
【0040】
(2)心拍数及び血圧が共に下降している場合。この場合は、迷走神経に起因していることが多い。例えば麻酔中にこのような症状が現れ、最悪の場合には心停止する危険があるので注意が必要である。
【0041】
(3)心拍数は上昇しているが、血圧は下降している場合。この場合は、患者が出血などに起因するショック症状を起こしていることが多い。患者は、重篤であり、対処の緊急度は非常に高いと判断できる。
【0042】
(4)心拍数は下降しているが、血圧は上昇している場合。この場合は、血管収縮に起因していることが多い。対処の緊急度は低いと判断できるが、脳内亢進も考えられるので、注意が必要である。
【0043】
本実施の形態のように、トレンドグラフをオーバーラップさせると、特に上記(3)や(4)のように、一方の波形が上昇し他方の波形が下降していること、及び、何時そのような状況になったかを、すぐに見つけることができるようになる。
【0044】
なお、上述の実施の形態では、オーバーラップするトレンドグラフが心拍数のトレンドグラフと血圧のトレンドグラフである場合について述べたが、オーバーラップするトレンドグラフはこれに限らない。例えば以下のようなトレンドグラフ同士をオーバーラップさせて表示すれば、症状判断のサポートとなり得る。
【0045】
・心電図のSTの変化を表すトレンドグラフと心拍数のトレンドグラフとをオーバーラップさせて表示する。この場合、医療従事者は、STが下降し、心拍数が上昇しているときには、患者の心臓の状態が悪いと判断できる。
【0046】
・血液の灌流指標(PI:Perfusion Index)の変化を表すトレンドグラフと血圧のトレンドグラフとをオーバーラップさせて表示する。この場合、医療従事者は、血圧の灌流指標が変化していないにもかかわらず、血圧が変化しているときには、血圧の変化の原因が血管以外にあると判断できる。
【0047】
・肺の換気量のトレンドグラフと肺からのCO
2濃度のトレンドグラフとをオーバーラップさせて表示する。この場合、医療従事者は、換気量が上昇しているにもかかわらず、CO
2濃度が上昇しないときには、肺でのガス交換がうまくいっていないと判断できる。
【0048】
・肺の換気量のトレンドグラフとSpO
2のトレンドグラフとをオーバーラップさせて表示する。この場合、医療従事者は、換気量が上昇しているにもかかわらず、SpO
2が上昇しないときには、肺で酸素がうまく取り込めていないと判断できる。
【0049】
・肺に送られる酸素濃度のトレンドグラフとSpO
2のトレンドグラフとをオーバーラップさせて表示する。この場合、医療従事者は、与えている酸素濃度が上昇しているにもかかわらず、SpO
2が上昇しないときには、肺で酸素がうまく取り込めていないと判断できる。
【0050】
以上説明したように、本実施の形態によれば、複数の生体情報についてのトレンドグラフを形成するトレンドグラフ形成部105と、トレンドグラフ形成部105によって形成された複数のトレンドグラフのうち、異なるパラメータに関する2つ以上のトレンドグラフを同一座標上にオーバーラップさせて表示する表示部(表示制御部106、ディスプレイ107)と、を設けたことにより、医療従事者に対して的確かつ迅速な症状判断を促すことができる生体情報モニタ100を実現できる。
【0051】
また、オーバーラップさせるトレンドグラフとして、ショートトレンドグラフを用いたことにより、同一画面にトレンドグラフとカレント波形の両方を表示し易くなる。因みに、ショートトレンドとは、上述の実施の形態のように30分の期間のトレンドや、それに近いトレンドのことを言う。ショートトレンドとは、例えば1時間未満のトレンドのことである。1時間以上のトレンドをオーバーラップさせてもよいが、1時間以上のトレンドは、比較的短い時間で起こった急激な変化が波形上で埋没してしまい、波形上に現れない場合が多い。よって、短時間での急激な変化がトレンド波形上に現れるショートトレンドをオーバーラップさせることがより好ましい。
【0052】
また、同一画面に、オーバーラップされたトレンドグラフとともに、カレント波形を表示したことにより、オーバーラップされたトレンドグラフに基づいて大まかな症状判断を行い、それと同一画面に表示されたカレント波形に基づいて症状確認と詳細な症状判断を速やかに行うことができるようになる。但し、オーバーラップされたトレンドグラフと、カレント波形とを、必ずしも同一画面に表示する必要はなく、別画面に表示してもよい。
【0053】
さらに、
図2及び
図3に示すように、オーバーラップさせたトレンドグラフの間の領域に色を付けて表示するようになっている。これにより、色付けされた帯状の領域が表示される。この結果、ユーザは、この帯状の領域の変化を見ることで、トレンドグラフ間の相対的な変化の様子をより容易に認識できるようになる。なお、
図3では、最低血圧301と最高血圧302の間を色付けした場合が示されている。このようにすることで、最低血圧301と最高血圧302との差や、最低血圧301と最高血圧302の間に心拍数401が収まっているかなどを、ひと目で確認できる。なお、色付けするのは、最低血圧301と最高血圧302の間に限らない。
【0054】
なお、上述の実施の形態では、生体情報モニタ100がベッドサイドモニタである場合について述べたが、本発明は、生体情報モニタがセントラルモニタである場合にも適用可能である。具体的には、ベッドサイドモニタ(実施の形態における生体情報モニタ100)の場合には、自装置でトレンドグラフを形成することによりトレンドグラフを取得したが、セントラルモニタの場合には、ベッドサイドモニタで形成したトレンドグラフ又は計測値をベッドサイドモニタから取得すればよい。いずれにしても、生体情報モニタは、複数種類の生体情報についての複数のトレンドグラフを得るトレンドグラフ取得部(ベッドサイドモニタの場合には、計測処理部102、記憶部103、トレンドグラフ形成部105に相当し、セントラルモニタの場合には、ベッドサイドモニタとの通信を行う通信部に相当する)を有し、このトレンドグラフ取得部で取得したトレンドグラフを用いて上述の実施の形態のような表示を行うようにすればよい。
【0055】
上述の実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。