(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置の製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚もの転写用マスク(通常、フォトマスクとも呼ばれている)が使用される。この転写用マスクは、一般に透光性のガラス基板上に、金属薄膜等からなる遮光性の微細パターンを設けたものであり、この転写用マスクの製造においてもフォトリソグラフィー法が用いられている。
【0003】
半導体回路の集積度が向上するにつれ、パターンの寸法は小さくなり、転写用マスクの精度もより高いものが要求される。特に近年における超LSIデバイスの高密度化、高精度化により、転写用マスクに対する要求は年々厳しくなる状況にある。転写用マスクの精度を高めるためには、転写用マスクを製造する際の原版となるマスクブランクの品質も向上させる必要があり、なお且つマスクブランクの品質の安定化も重要な課題となっている。
【0004】
ところで、上記マスクブランクは、ガラス基板等の基板上に転写パターンとなる薄膜を形成したものであるが、このような薄膜の形成方法の一つに、反応性スパッタリング法が挙げられる。反応性スパッタリング法は、スパッタリングターゲットから飛翔したスパッタリング粒子と成膜室に導入された反応性ガスが反応し、その反応生成物を基板上に堆積させて薄膜を形成する方法である。
反応性スパッタリング法では、スパッタリング粒子の飛翔量と成膜室中の反応性ガス濃度により、反応生成物である薄膜の組成が変わるので、薄膜の光学的性質等を調整することができる。
【0005】
しかしながら、スパッタリングターゲットは、ターゲット材料の減少やターゲット表面の形状変化に伴い、表面抵抗値等が変動する。このため、反応性スパッタリングを同条件で繰り返し行っていても、成膜された薄膜の組成や光学的性質が変動することがある。このような変動を管理するため、たとえば下記特許文献1乃至3の薄膜形成方法が従来提案されている。
【0006】
特許文献1には、スパッタリングのプラズマ発光時に、そのプラズマの発光スペクトルを計測し、そのスペクトルから成膜される膜の組成やスペクトルの強度から予測される成膜速度を予測して成膜される薄膜の特性を管理する技術が開示されている。
また、特許文献2及び特許文献3には、スパッタリング装置の真空容器内に光学式膜厚計を備えて成膜中の光学薄膜の膜厚と屈折率を同時に測定し、成膜時の状態を管理する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記転写マスク製造用のマスクブランクの基板上に形成される薄膜(たとえば、遮光膜や光半透過膜)は、通常、透過率が低く、約3.0以上の光学濃度が要求される。
上記特許文献1に開示されているプラズマの発光スペクトルを計測する方法は、上記転写マスク製造用のマスクブランクの薄膜形成に関する管理には適していない。マスクブランクの薄膜は、消衰係数の高い薄膜であるので、スパッタリング粒子が測定窓に付着することでプラズマ光のスペクトル測定時のノイズとなる。このため、プラズマ光のスペクトル強度が測定できないので、スパッタリング粒子の飛翔量を正確に測定することができない。また、反応性スパッタリングで成膜された薄膜の場合、スパッタリングターゲットからの粒子の飛翔量に加えて反応性ガスの濃度(分圧)等によっても薄膜の光学特性が変わるため、プラズマ光のスペクトル強度による間接的な管理では不十分である。
【0009】
また、上記特許文献2、特許文献3に開示されている光学膜厚計等による管理方法もまた、消衰係数が0に近い組成の薄膜形成には適した方法であるが、消衰係数の高い転写マスク製造用のマスクブランクの薄膜形成の管理には適していない。特許文献2、3の方法で管理する薄膜のように消衰係数が0に近ければ、薄膜の膜厚による吸収率の変化を無視することが可能であるが、消衰係数の高い上記マスクブランクの薄膜では無視できないからである。上記マスクブランクの基板上に形成される薄膜は消衰係数が高く、たとえば遮光膜では消衰係数が2以上、光半透過膜では消衰係数が0.5以上であるため、薄膜の吸収率等の要因を考慮しなければならない。このため、上記特許文献2、特許文献3に開示されている方法では正確な管理が困難である。
【0010】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、第1に、スパッタリング法で成膜された薄膜の状態を正確に管理し、品質の安定したマスクブランクが得られるマスクブランクの製造方法を提供することであり、第2に、このような品質の安定したマスクブランクを用いる転写用マスクの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、スパッタリング装置内でスパッタリング成膜直後の薄膜の光学特性等を測定することで、成膜された薄膜の状態を正確に管理することができ、成膜された薄膜の光学特性等の変動が生じてもすばやく検出することが可能になることを見出した。本発明は、得られた知見に基づき鋭意検討の結果、完成したものである。
すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0012】
(構成1)
基板上に、転写パターンを形成するための薄膜を有するマスクブランクの製造方法であって、前記薄膜は、枚葉式スパッタリング装置を用いてスパッタリング法で形成され、前記スパッタリング装置内で基板上に前記薄膜を成膜した後、そのスパッタリング装置内で成膜直後の前記薄膜の光学特性値および基板温度を測定し、その測定結果を基に、成膜した薄膜の光学特性を評価することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【0013】
構成1にあるように、スパッタリング成膜された薄膜の評価を成膜直後に行うことにより、薄膜の評価のみならず成膜室内の環境(たとえば、ターゲットの残量、温度等)の評価も行うことができる。スパッタリング成膜は、予め所定の光学特性値が得られるような成膜条件で行われている。成膜直後の薄膜の光学特性値が規定範囲から外れた場合には、ターゲット残量や、成膜室内の温度、電圧、反応ガス流量等の条件が所定の範囲から外れたことを意味するため、同じ条件で継続して成膜した場合の異常検知を行うことができる。また、スパッタリング成膜後の基板の温度が異常であった場合には、スパッタ室内の過熱状態である、スパッタリング粒子のエネルギーが過多である、等の異常検知を行うことができる。
また、発塵リスクの少ないスパッタリング装置内で薄膜の評価を行うことで、薄膜に異物が付着することを抑制することができる。
構成1の発明によれば、スパッタリング法で成膜された薄膜の状態を正確に管理でき、品質の安定したマスクブランクを連続的に供給することができる。
【0014】
(構成2)
前記スパッタリング装置は、基板上に前記薄膜を成膜する成膜室と、成膜した前記薄膜の光学特性値および基板温度を測定する測定室と、前記成膜室と前記測定室との間で基板を搬送する搬送経路とを備えており、前記成膜室、前記測定室及び前記搬送経路はいずれも内部を真空状態に保持することができ、前記成膜室で基板上に前記薄膜を成膜した後、前記基板を前記搬送経路を通って前記成膜室から前記測定室へ搬送し、前記測定室で成膜直後の前記薄膜の光学特性値および基板温度を測定することを特徴とする構成1に記載のマスクブランクの製造方法。
構成2にあるように、真空状態にある成膜室で基板上に薄膜を成膜した後、真空状態にある搬送経路を通って基板を成膜室から同じく真空状態にある測定室へ搬送し、測定室で成膜直後の薄膜の光学特性値および基板温度を測定することによって、上記構成1による作用効果が好ましく得られる。
【0015】
(構成3)
測定した成膜直後の前記薄膜の光学特性値に、温度による光学特性値の変動分を補償することによって、成膜した薄膜の光学特性を評価することを特徴とする構成1又は2に記載のマスクブランクの製造方法。
成膜直後の基板は、温度が上昇しているため、その温度で測定した光学特性値は常温での光学特性値とは相違する。構成3の発明によれば、成膜直後のクリーンな状態で測定したデータに、温度による変動因子(温度による光学特性値の変動分)を補償することにより、スパッタリング成膜で得られた薄膜の状態を正確に判断することが可能になる。
【0016】
(構成4)
前記光学特性値は、前記薄膜が成膜された基板の透過率であることを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
マスクブランクの薄膜は、設定された所定の光学濃度を有する必要がある。構成4にあるように、成膜直後の薄膜(薄膜つき基板)の透過率を測定することで、成膜された薄膜の光学濃度を管理することができる。また、所定の薄膜(組成、膜厚、透過率)が形成される薄膜の成膜条件(カソード電圧、反応ガス流量)で成膜しているので、透過率の変化により、成膜室内の状態の変化をすばやく検知することができる。
【0017】
(構成5)
前記光学特性値は、前記薄膜の反射率であることを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
構成5にあるように、成膜された薄膜の反射率(表面、裏面)を測定することで、その反射特性から薄膜の品質を管理することができる。また、反応性スパッタリングで成膜された薄膜は、薄膜を形成する原子の組成比に応じて反射率が変動する。成膜直後の反射率を測定することにより、成膜された薄膜の組成をより正確に判断することができる。また、反射率測定から得られる組成情報に基づいて、成膜条件の調整も可能になる。
【0018】
(構成6)
先に成膜した薄膜の光学特性の評価結果を基に、その後の薄膜の成膜条件を制御することを特徴とする構成1乃至5のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
枚葉式スパッタリング装置で形成される薄膜は、成膜が繰り返されるうちに、ターゲットの残量、成膜室内環境等の変化により光学特性が次第に変化することは避けられないが、構成6の発明によれば、先に成膜した薄膜の光学特性の評価結果を基に、その後の薄膜の成膜条件を制御するので、スパッタリング成膜を繰り返しても、光学特性のばらつきを抑制したマスクブランクを製造することができる。例えば、n枚目の成膜条件を、先に薄膜を形成したm枚目(n≧2、n>mであり、m≧1)の評価結果に基づいて算出し、その条件に基づいてn枚目の成膜を行うことができる。
【0019】
(構成7)
構成1乃至6のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法により製造されたマスクブランクの前記薄膜をパターニングすることを特徴とする転写用マスクの製造方法。
本発明により得られる品質の安定したマスクブランクを用いて転写用マスクを製造することにより、高精度の転写用マスクが得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、スパッタリング法で成膜された薄膜の状態を正確に管理し、品質の安定したマスクブランクが得られるマスクブランクの製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、このような品質の安定したマスクブランクを用いて高精度の転写用マスクが得られる転写用マスクの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について適宜図面を参照しながら詳述する。
本発明に係るマスクブランクの製造方法は、上記構成1にあるように、基板上に、転写パターンを形成するための薄膜を有するマスクブランクの製造方法であって、前記薄膜は、枚葉式スパッタリング装置を用いてスパッタリング法で形成され、前記スパッタリング装置内で基板上に前記薄膜を成膜した後、そのスパッタリング装置内で成膜直後の前記薄膜の光学特性値および基板温度を測定し、その測定結果を基に、成膜した薄膜の光学特性を評価することを特徴としている。
【0023】
本発明に係るマスクブランクの製造方法において、薄膜形成に使用される枚葉式スパッタリング装置は、例えば
図1に示すような構成を備えている。
図1は、枚葉式スパッタリング装置の全体の概略構成図である。
図2は、上記スパッタリング装置内の成膜室の構成図であり、
図3は、上記スパッタリング装置内の測定室の構成図である。
なお、
図1〜
図3に示すスパッタリング装置の構成はあくまでも一例であって、本発明において使用するスパッタリング装置をこれに限定する趣旨ではない。
【0024】
図1に示すように、本発明に使用されるスパッタリング装置は、ロードロック室1、成膜室2、測定室3、及びアンロードロック室4の4室が、トランスファー室5の周りに放射状に形成された真空槽で構成されている。また、上記トランスファー室5の内部には、該トランスファー室5を経由して上記の各室から室に基板を搬入出可能なロボットアーム12が設置されている。ロボットアーム12は、回転軸を中心として伸縮可能な構成になっており、そのハンドに基板を保持させることで、各室に基板を搬入出することができる。
【0025】
また、スパッタリング成膜を行う成膜室2を常に高真空状態に保持できるロードロック機構を設け、ロードロック室1からトランスファー室5を経由して成膜室2への基板導入を、一定の間隔で、継続的に行えるような装置構成である。
上記ロードロック室1には、装置外(大気)とロードロック室1とを隔離するゲート13と、ロードロック室1とトランスファー室5とを隔離するゲート51が設けられている。また、同様に、上記成膜室2とトランスファー室5とを隔離するゲート52、上記測定室3とトランスファー室5とを隔離するゲート53がそれぞれ設けられている。さらに、上記アンロードロック室4には、装置外(大気)とアンロードロック室4とを隔離するゲート41と、アンロードロック室4とトランスファー室5とを隔離するゲート54が設けられている。
【0026】
上記成膜室2の内部へは、反応性ガス8と、必要に応じて反応性ガスと混合される不活性ガス9が供給されるようになっている。これら反応性ガス8と不活性ガス9の供給量は、フローコントローラー7によるバルブ10及び11の調節によって制御される。
【0027】
また、上記測定室3には、光学モニター31及び温度モニター32が備えられている。そして、これらの光学モニター31及び温度モニター32のデータは制御ユニット6に格納される。制御ユニット6では、これらの光学モニター31及び温度モニター32のデータを基に、成膜した薄膜の状態(光学特性等)を評価する。この評価結果に基づき、必要な場合(成膜された薄膜の品質が所定の許容範囲から外れた場合)には、成膜室2のカソード電源21、フローコントローラー7に対して成膜条件変更のための制御を行う。
【0028】
上記構成によるスパッタリング装置において、成膜及び成膜後の測定は次のようにして行われる。
ロードロック室のゲート13が開放され、大気状態にあるロードロック室1の内部に、図示していないロボットアーム(上記ロボットアーム12と同様の構成)によって基板が搬入される。基板搬入後に、ゲート13が閉じられて、ロードロック室1の内部は所定の真空状態になるまで脱気される。
【0029】
ロードロック室1の内部が所定の真空状態になった時点で、トランスファー室5との間のゲート51が開放され、上記ロボットアーム12によって基板はロードロック室1からトランスファー室5の内部に搬入される。トランスファー室5の内部は所定の真空状態になっている。続いて、トランスファー室5と成膜室2との間のゲート52が開放されて、上記ロボットアーム12によって基板はトランスファー室5から成膜室2の内部に搬入される。上記ゲート52が閉じられて、成膜室2が高真空状態になってから、基板上にスパッタリング成膜が行われる。
【0030】
成膜が完了すると、上記ゲート52が開放され、上記ロボットアーム12によって基板(薄膜付き基板)は成膜室2からトランスファー室5の内部に搬入される。続いて、トランスファー室5と測定室3との間のゲート53が開放されて、上記ロボットアーム12によって基板はトランスファー室5から測定室3の内部に搬入される。上記ゲート53が閉じられて、所定の真空状態になっている上記測定室3において、成膜直後の薄膜の光学特性値及び基板温度の測定が行われる。
【0031】
成膜後の測定が完了すると、上記ゲート53が開放され、上記ロボットアーム12によって基板は測定室3からトランスファー室5の内部に搬入される。続いて、トランスファー室5とアンロードロック室4との間のゲート54が開放されて、上記ロボットアーム12によって基板はトランスファー室5からアンロードロック室4の内部に搬入される。上記ゲート54が閉じられた後、外部とのゲート41が開放されて、アンロードロック室4の内部は大気状態になる。そして、図示していないロボットアーム(上記ロボットアーム12と同様の構成)によって基板が装置外に搬出される。
【0032】
上記成膜室2の詳細な構成を
図2に示す。成膜室2は、
図2に示すように、内部にカソード22及び基板ホルダ25が配置されている。カソード22にはバッキングプレート24に接着されたスパッタリングターゲット23が装着されている。バッキングプレート24は水冷機構により直接または間接的に冷却されている。カソード22とバッキングプレート24及びスパッタリングターゲット23は電気的に結合されている。また、基板ホルダ25には成膜を行う基板100が装着される。
【0033】
成膜室2(真空槽)は排気口28を介して真空ポンプにより排気される。成膜室2内の雰囲気が形成する膜の特性に影響しない真空度まで達した後、ガス導入口27から反応性ガス(スパッタリングガス)を導入し、電源21を用いてカソード22に負電圧を加え、スパッタリング成膜を行う。電源21はアーク検出機能を持ち、スパッタリング中の放電状態を監視できる。成膜室2内部の圧力は圧力計26によって測定される。
【0034】
また、上記測定室3の詳細な構成を
図3に示す。測定室3は、内部に、基板ホルダ37、基板上に成膜された薄膜の光学特性を測定可能な光学特性測定手段と、基板の温度を測定可能な温度測定手段が備えられている。
図3では上記光学特性測定手段の一例として透過率測定手段を示している。
具体的には、上記透過率測定手段は、基板ホルダ37を挟んで投光素子34と受光素子35が対向する位置に配置されており、投光素子34は光源33に接続している。基板ホルダ37上に設置された薄膜付き基板(図示せず)に対して、受光素子35で得られた薄膜の透過率のデータは、光学モニター31へ送られ、さらに制御ユニット(制御手段)6に格納される。
【0035】
なお、ここでは光学特性測定手段として透過率測定手段を備えている場合を示したが、たとえば反射率測定手段を備える形態であってもよいし、透過率測定手段と反射率測定手段のいずれも備える形態であってもよい。反射率測定手段は、薄膜の表面裏面のいずれも測定できるものであることが好ましい。
【0036】
また、上記温度測定手段は、具体的には、基板ホルダ37の近傍位置に温度計36が配置されている。この温度計36は、例えば非接触式の放射温度計であり、基板表面(薄膜側)の温度を計測する。測定された基板温度のデータは、温度モニター32へ送られ、さらに前記の薄膜の透過率データと同期して制御ユニット6に格納される。
【0037】
また、
図1〜
図3に示される上記制御ユニット6は、これらの光学モニター31及び温度モニター32のデータを基に、成膜した薄膜の状態(光学特性等)を評価する。たとえば具体的には、格納された上記透過率データに、温度による変動因子(温度による光学特性値の変動分)を補償することにより、スパッタリング成膜で得られた薄膜の光学特性を正確に評価する。この評価結果に基づき、薄膜の品質が所定の許容範囲から外れた場合には、たとえば次の基板の成膜を中止し、成膜室2のカソード電源21、フローコントローラー7に対してスパッタリング成膜条件の変更(再設定)や、ターゲットの交換等の処理を行う。
【0038】
上記の構成1の発明によれば、スパッタリング成膜された薄膜の評価を成膜直後に行うことにより、薄膜の評価のみならず成膜室内の環境(たとえば、ターゲットの残量、温度等)の評価も行うことができる。スパッタリング成膜は、予め所定の光学特性値が得られるような成膜条件で行われている。成膜直後の薄膜の光学特性値が規定範囲から外れた場合には、ターゲット残量や、成膜室内の温度、電圧、反応ガス流量等の条件が所定の範囲から外れたことを意味するため、同じ条件で継続して成膜した場合の異常検知を行うことができる。また、スパッタリング成膜後の基板の温度が異常であった場合には、スパッタ室内の過熱状態である、スパッタリング粒子のエネルギーが過多である、等の異常検知を行うことができる。
【0039】
また、成膜後に、発塵リスクの少ない同じスパッタリング装置内で薄膜の評価を行うことで、薄膜に異物が付着することを抑制することができる。
以上のように、構成1の発明によれば、スパッタリング法で成膜された薄膜の状態を正確に管理でき、品質の安定したマスクブランクを連続的に供給することができる。
【0040】
また、本発明において、スパッタリング成膜に用いるスパッタリング装置は、上記
図1等に示すように、基板上に薄膜を成膜する成膜室2と、成膜された薄膜の光学特性値および基板温度を測定する測定室3と、前記成膜室2と前記測定室3との間で基板を搬送する搬送経路となるトランスファー室5とを備えており、前記成膜室2、前記測定室3及び前記トランスファー室5はいずれも内部を真空状態に保持することができる。
上記のとおり、かかる構成によって、真空状態にある成膜室2で基板上に薄膜を成膜した後、真空状態にあるトランスファー室5を経由して基板を成膜室2から同じく真空状態にある測定室3へ搬送し、この測定室3で成膜直後の薄膜の光学特性値および基板温度を測定することができるので、上記構成1の発明による作用効果が好ましく得られる。
【0041】
また、本発明においては、測定した成膜直後の薄膜の光学特性値に、温度による光学特性値の変動分を補償することによって、成膜した薄膜の常温での光学特性を評価することができる。
すなわち、成膜直後の基板は、温度が上昇しているため、その温度で測定した光学特性値は常温での光学特性値とは相違するが、成膜直後のクリーンな状態で測定したデータに、温度による変動因子(温度による光学特性値の変動分)を補償することにより、スパッタリング成膜で得られた薄膜の状態(特に常温での)を正確に判断することが可能になる。
【0042】
本発明において、基板温度の測定方法は、接触式の測定方法、非接触式の測定方法のいずれも適用することができる。接触式温度測定機を用いて基板温度を測定する場合には、測定アタッチメントの接触が基板の汚染や破損の防止のために裏面側に接触するように行うことが好ましい。放射赤外温度計のような非接触式測定機を用いる場合には、薄膜側の温度を測定することが好ましい。本発明では、実際の薄膜の温度が測定できる点を考慮すると、非接触式測定機を用いる方がより好ましい。
【0043】
温度による変動因子の補償方法については、形成する標準的な薄膜の温度変化量に対する光学測定値の変化量から係数(以下、「温度補償係数」と呼ぶ。)を導出しておき、その温度補償係数に基づいて成膜した薄膜の標準状態(たとえば常温(室温)23℃)の光学特性値を導く方法が好ましい。
なお、温度補正については、成膜する薄膜の組成に応じてあらかじめ補正値を設定しておいてもよく、光学特性値の測定を異なる温度で複数回実施し、dK/dT(Kは光学特性値、Tは温度)から補正値を算出してもよい。
【0044】
上記の光学特性値は、例えば薄膜が成膜された基板の透過率である。マスクブランク上の薄膜は、設定された所定の光学濃度を有するように形成される必要がある。従って、成膜直後の薄膜(薄膜付き基板)の透過率を測定することで、成膜された薄膜の光学濃度を管理することができる。また、所定の薄膜(組成、膜厚、透過率)が形成される薄膜の成膜条件(カソード電圧、反応ガス流量)で成膜しているので、透過率の変化により、成膜室内の状態の変化をすばやく検知することも可能である。
【0045】
上記透過率による光学特性値の取得は、マスクブランク上の薄膜が単層である場合に限らず積層構造の場合にも適用可能である。積層順で先の層までの透過率を測定しておくことで、その層の透過率も近似的に導出することができる。なお、反射率を同時に測定している場合には、積層順で先の層との界面反射や、表面反射、裏面反射等を考慮して補正を行ってもよい。
【0046】
また、上記の光学特性値は、例えば薄膜の反射率とすることも好適である。成膜された薄膜の反射率を測定することで、その反射特性から薄膜の品質を管理することができる。また、反応性スパッタリングで成膜された薄膜は、薄膜を形成する原子の組成比に応じて反射率が変動するため、成膜直後の反射率を測定することにより、成膜された薄膜の組成をより正確に判断することができる。また、反射率測定から得られる組成情報に基づいて、成膜条件の調整も可能になる。
上記反射率による光学特性値の取得は、マスクブランク上の薄膜が単層である場合と積層構造である場合のいずれにも実施することができる。
【0047】
上記の透過率や反射率等の光学特性値の測定波長は、単一の波長であってもよく、複数の波長であってもよい。また、特定の波長域を走査する方式であってもよい。なお、光学測定に使用する光源も特に限定はなく、レーザー光源のような特定波長の光源を用いてもよく、重水素ランプ(D2ランプ)のような特定の波長域を有しているものであってもよい。本発明において好ましくは、転写用マスクを用いて半導体基板上にパターン転写を行う際に、露光光として使用する波長(たとえば、ArFエキシマレーザーの波長193nm、KrFエキシマレーザーの254nm)が含まれる光源を用いて測定することである。
【0048】
上述のとおり、本発明においては、先に成膜した薄膜の光学特性の評価結果を基に、その後の薄膜の成膜条件を制御することができる。枚葉式スパッタリング装置で形成される薄膜は、成膜が繰り返されるうちに、ターゲットの残量、成膜室内環境等の変化により光学特性が次第に変化することは避けられない。成膜される薄膜は、反応性ガスとターゲットから飛翔する粒子の反応物であり、成膜された薄膜の透過率や反射率等の光学特性値は、スパッタリング時の反応性ガスの量(反応性ガス流量)により変動する。例えば、酸素や窒素が反応性ガスの場合、ケイ素や金属の化合物層は薄膜中の反応生成物に含まれる酸素や窒素の割合が高いほど透過率が高くなり、酸素や窒素の割合が低いほど透過率が低くなる。よって、先に薄膜を形成した基板の透過率を測定し、設計基準値よりも高い場合には次にスパッタするときの反応性ガス流量を下げ、設計基準値よりも低い場合には、次にスパッタするときの反応性ガス流量を上昇させる。反応性ガス流量の制御は、PID制御やPI制御で行うことができる。また、このような反応性ガス流量の制御だけでなく、成膜室のカソード電源の電圧を調節する必要が生じる場合もある。
【0049】
本発明によれば、先に成膜した薄膜の光学特性の評価結果を基に、その後の薄膜の成膜条件を制御することができるので、スパッタリング成膜を繰り返しても、光学特性のばらつきを抑制したマスクブランクを製造することができる。例えば、n枚目の成膜条件を、先に薄膜を形成したm枚目(n≧2、n>mであり、m≧1)の評価結果に基づいて算出し、その条件に基づいてn枚目の成膜を行うことができる。
【0050】
なお、反射率や透過率の光学特性値の測定を行う段階で、その光学測定値が異常であったり、測定温度が成膜後の標準的な温度から外れた結果であるならば、温度補償するまでもなく、形成された薄膜が異常であることがわかる。このような異常が確認された場合には、次の基板へのスパッタリング成膜を中止して、ターゲット交換や条件の再設定などの作業を行うとよい。
【0051】
本発明は、ガラス基板等の基板上に、反応性スパッタリング法で成膜される薄膜を有するマスクブランクに適用可能であり、マスクブランク及び転写用マスクの種類や薄膜の種類に特に限定されない。例えば、マスクブランク用基板上に、遮光膜が形成されたバイナリマスクブランクや、マスクブランク用基板上に、位相シフト膜、あるいは位相シフト膜及び遮光膜が形成された位相シフト型マスクブランクに好ましく適用される。また、薄膜の種類に関しては、反応性スパッタリング法にて成膜される上記遮光膜、光半透過膜(位相シフト膜)、ハードマスク層、エッチングストッパー層等に適用することが可能である。
【0052】
マスクブランク用基板としては、半導体装置製造用の転写用マスクに用いられる基板であれば特に限定されない。例えばバイナリマスク用のマスクブランクや、位相シフト型マスク用のマスクブランクに使用する場合、使用する露光波長に対して透明性を有するものであれば特に制限されず、合成石英基板や、その他各種のガラス基板(例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス等)が用いられる。この中でも合成石英基板は、微細パターン形成に有効なArFエキシマレーザー(波長193nm)又はそれよりも短波長の領域で透明性が高いので、特に好ましく用いられる。
【0053】
上記遮光膜は、単層でも複数層(例えば遮光層と反射防止層との積層構造)としてもよい。また、遮光膜を遮光層と反射防止層との積層構造とする場合、この遮光層を複数層からなる構造としてもよい。また、上記光半透過膜(位相シフト膜)についても、単層でも複数層としてもよい。
【0054】
このようなマスクブランクとしては、例えば、クロム(Cr)を含有する材料により形成されている遮光膜を備えるバイナリマスクブランク、遷移金属とケイ素(Si)を含有する材料により形成されている遮光膜を備えるバイナリマスクブランク、タンタル(Ta)を含有する材料により形成されている遮光膜を備えるバイナリマスクブランク、ケイ素(Si)を含有する材料、あるいは遷移金属とケイ素(Si)を含有する材料により形成されている位相シフト膜を備える位相シフト型マスクブランクなどが挙げられる。
【0055】
上記クロム(Cr)を含有する材料としては、クロム単体、クロム系材料(CrO,CrN,CrC,CrON,CrCN,CrOC,CrOCN等)が挙げられる。
上記タンタル(Ta)を含有する材料としては、タンタル単体のほかに、タンタルと他の金属元素(例えば、Hf、Zr等)との化合物、タンタルにさらに窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも1つの元素を含む材料、具体的には、TaN、TaO,TaC,TaB,TaON,TaCN,TaBN,TaCO,TaBO,TaBC,TaCON,TaBON,TaBCN,TaBCONを含む材料などが挙げられる。
【0056】
上記ケイ素(Si)を含有する材料としては、ケイ素に、さらに窒素、酸素及び炭素のうち少なくとも1つの元素を含む材料、具体的には、ケイ素の窒化物、酸化物、炭化物、酸窒化物(酸化窒化物)、炭酸化物(炭化酸化物)、あるいは炭酸窒化物(炭化酸化窒化物)を含む材料が好適である。
【0057】
また、上記遷移金属とケイ素(Si)を含有する材料としては、遷移金属とケイ素を含有する材料のほかに、遷移金属及びケイ素に、さらに窒素、酸素及び炭素のうち少なくとも1つの元素を含む材料が挙げられる。具体的には、遷移金属シリサイド、または遷移金属シリサイドの窒化物、酸化物、炭化物、酸窒化物、炭酸化物、あるいは炭酸窒化物を含む材料が好適である。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、クロム、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ルテニウム、ロジウム、ニオブ等が適用可能である。この中でも特にモリブデンが好適である。
【0058】
また、本発明は、転写用マスクの製造方法についても提供する。
すなわち、上述のマスクブランクの製造方法により製造されたマスクブランクの前記薄膜をパターニングすることを特徴とする転写用マスクの製造方法である。
マスクブランク上の薄膜のパターニング方法としては、精度の高いパターニングが行えることからフォトリソグラフィー法が最も好適である。
本発明により得られる品質の安定したマスクブランクを用いて転写用マスクを製造することにより、高精度の転写用マスクが得られる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
本実施例は、枚葉式スパッタリング装置を用いて、スパッタリング法で基板上に所定の薄膜を成膜した後、そのスパッタリング装置内で成膜直後の薄膜の透過率および基板温度を測定し、その測定結果を基に、成膜直後の薄膜の光学特性値に、温度による光学特性値の変動分を補償することによって、成膜した薄膜の光学特性を評価できることを示すものである。
【0060】
以下のようにして、ガラス基板の表面にCrOCNからなる遮光膜を形成し、バイナリマスクブランクを作製した。
ガラス基板として合成石英基板(大きさ約152mm×152mm×厚み6.35mm)を準備した。
【0061】
次に、前述の
図1と同様の構成の枚葉式DCスパッタリング装置内の成膜室に上記合成石英基板を設置し、上記遮光膜のスパッタリング成膜を行った。すなわち、Crターゲットを使用し、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO
2)、窒素(N
2)およびヘリウム(He)の混合ガス(流量比 Ar:CO
2:N
2:He=22:39:6:33、圧力=0.2Pa)を成膜室内に供給しながら、CrOCNからなる遮光膜を45nmの膜厚で形成した。なお、波長193nmにおける光学濃度が約1.9になるように、上記遮光膜の成膜条件を設定した。
【0062】
このようにして、遮光膜を成膜後、遮光膜を有する基板を上記スパッタリング装置内の測定室に搬送し、波長193nmの光に対する透過率と、透過率測定時の基板温度を測定した。
次いで、スパッタリング装置から基板を取り出し、250℃でアニール処理を施した後に室温(23℃)まで緩やかに冷却した後、真空環境下で、再度、上記遮光膜の透過率を測定した。
【0063】
温度補償係数を導出するために、上記と同じ条件で、バイナリマスクブランクのサンプル1〜10を製造した。
各サンプルについて、成膜直後の基板の温度(t
1)と透過率(T
1)、及び、アニール処理を施した後、室温23℃(t
2)まで冷却したマスクブランクの透過率(T
2)から、薄膜が形成された基板の1℃あたりの透過率の変化量(温度係数)を算出し、その平均値を温度補償係数とした。表1にサンプル1〜10の結果を示し、
図4にはサンプル1〜10の成膜直後及びアニール冷却後の透過率を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1及び
図4に示すように、上記遮光膜の透過率は、温度により変化することがわかった。
【0066】
次に、上記サンプル1〜10と同様の条件で、ガラス基板上にCrOCN遮光膜を形成したマスクブランクのサンプル11〜15を製造した。そして、成膜直後の透過率に、上記で導出した温度補償係数(表1の温度係数の平均値(0.00173%/℃))で補償した透過率と、アニール冷却後の実際の透過率の測定結果を比較した。結果を表2及び
図5に示す。
なお、上記の温度補償係数の補償後の透過率は以下の式(I)によって算出した。
式(I) T
1−(t
1−23)×0.00173
【0067】
【表2】
【0068】
表2に示すように、上記のようにして室温時を予測して温度補償を行った算出透過率と、アニール冷却後の室温時の実測値における透過率とを比較したところ、誤差は±0.004%の範囲であった。成膜直後の基板温度が高い状態で測定した光学測定値も温度補償を行うことでアニール後室温冷却した場合の光学特性値に近似できることが確認できた。
したがって、スパッタリング装置内で成膜直後の薄膜の透過率および基板温度を測定し、その結果を基に、成膜直後の薄膜の光学特性値に、温度による光学特性値の変動分を補償することによって、成膜した薄膜の常温時の光学特性を正確に評価することが可能である。