(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の静電容量型トランスデューサの一典型例では、振動膜は、形成過程においてエッチストップ層上に封止層が形成され、その後にエッチストップ層まで(エッチストップ層を含む場合とエッチストップ層を除く場合がある)封止層が除去される。そして、最終的に、振動膜は、間隙を覆うように配置された第一の絶縁層と、第一の電極側への正射影において間隙に重なるように配置された第二の電極を含む。エッチストップ層を含む場合もある。一方、振動膜の支持部は、振動膜を振動可能に支持するために間隙の周りに配置され、封止層を含んで振動膜より厚く、振動膜とは異なる層構成を有する。このように、封止層と振動膜を分離して形成しているので、封止層による間隙の確実な封止を確保しつつ振動膜の厚さを薄くすることができる。さらには、厚さばらつきを抑えることもできる。こうして柔軟な設計で形成することができる。静電容量型トランスデューサの製造方法では、第一の電極上の犠牲層上に振動膜の少なくとも一部をなす第一の絶縁層を形成し、第一の絶縁層上にエッチストップ層を形成し、エッチング孔を形成して犠牲層を除去する。この際、振動膜の少なくとも一部をなす層としては、第一の絶縁層の他の層を形成することもできる。場合に応じて設計すればよい。その後、エッチング孔を封止するための封止層を形成し、封止層の間隙に重なる部分の少なくとも一部(すなわち、最終的に振動膜となる部分)をエッチストップ層まで除去し、エッチストップ層上または第一の絶縁層上に、第二の電極を形成する。こうした考え方に基づいて、以下、本発明の実施形態及び実施例について説明するが、本発明はこれらの実施形態や実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0012】
(実施形態)
本発明の実施の形態について
図1、
図2を用いて説明する。
図1(a)は、本発明の静電容量型トランスデューサに係る一実施形態の上面図であり、
図1(b)は、
図1(a)のA’−A−B断面図である。
図2は、本発明の静電容量型トランスデューサの作製方法に係る一実施形態を説明する各段階のA’−A−B断面図である。
【0013】
本実施形態の静電容量型トランスデューサは、複数のセル15で構成されるエレメント17を有している。
図1(a)では、エレメント17に含まれるセル数は9個であるが、幾つであっても構わない。また、
図1(a)の静電容量型トランスデューサでは、4個のエレメントを有するが、エレメントは幾つであっても構わない。
【0014】
各セルは、第一の電極3と間隙12(空隙など)を挟んで設けられた第一の絶縁膜6と第二の電極9を含む振動膜11が振動可能に支持されている。第一の電極と第二の電極のうちの一方は、バイアス電圧を印加する電極、或いは、電気信号を加える又は電気信号を取り出すための電極として用いる。
図1では、バイアス電圧を印加する電極として、第一の電極3を用いており、信号取り出し電極として第二の電極9を用いているが、逆でも構わない。バイアス電圧を印加する電極はエレメント間で共通となっている。バイアス電圧はエレメント間で共通となる構成としても構わない一方、信号取り出し電極はエレメント毎に電気的に分離されていなければならない。
【0015】
本実施形態の駆動原理を説明する。静電容量型トランスデューサは、信号引き出し配線16を用いることで、第二の電極9から電気信号を引き出すことができる。本実施形態では、引き出し配線により電気信号を引き出しているが、貫通配線等を用いてもよい。また、本実施形態では、第二の電極から電気信号を引き出しているが、第一の電極から引き出してもよい。静電容量型トランスデューサで超音波を受信する場合、図示しない電圧印加手段で、直流電圧を第一の電極3に印加しておく。超音波を受信すると、第二の電極9を有する振動膜11が変形するため、第二の電極9と第一の電極3との間の間隙12の距離が変わり、静電容量が変化する。この静電容量変化によって、引き出し配線に電流が流れる。この電流を図示しない電流−電圧変換素子によって電圧として超音波を受信することができる。上述したように、引き出し配線の構成を変更することによって、直流電圧を第二の電極に印加し、第一の電極から電気信号を引き出してもよい。また、第二の電極9に交流電圧を印加し、静電気力によって振動膜11を振動させることができる。これによって、超音波を送信することができる。送信する場合も、引き出し配線の構成を変更することによって、交流電圧を第一の電極に印加し、振動膜11を振動させてもよい。
【0016】
次に本実施形態の静電容量型トランスデューサの作製方法例を説明する。
図2−1〜
図2−3は、
図1(a)のA’−A−B断面図である。
図2−1(a)に示すように、基板1上に絶縁膜2を形成する。基板上の絶縁膜2は、シリコンのような導電性を有する基板と第一の電極間の絶縁を形成するためである。基板1がガラス基板のような絶縁性基板の場合、基板上の絶縁膜2は形成しなくともよい。また、基板1は、表面粗さの小さな基板が望ましい。表面粗さが大きい場合、本工程の後工程での成膜工程でも、表面粗さが転写されていくとともに、表面粗さによる第一の電極と第二の電極間の距離が、各セル間、各エレメント間でばらついてしまう。このばらつきは、送信及び受信の感度のばらつきとなるとなる。従って、基板1は、表面粗さの小さな基板が望ましい。
【0017】
次に、
図2−1(b)に示すように第一の電極3を形成する。第一の電極3は、表面粗さが小さい導電材料が望ましく、例えば、チタン、アルミ等である。基板と同様に、第一の電極の表面粗さが大きい場合、表面粗さによる第一の電極と第二の電極間の距離が、各セル間、各エレメント間でばらついてしまう。
【0018】
次に、
図2−1(c)に示すように第一の電極上の絶縁膜4を形成する。第一の電極上の絶縁膜4は、第一の電極と第二の電極との間に電圧が印加された場合の第一の電極と第二の電極間の電気的短絡あるいは絶縁破壊を防止するために形成する。また、後述する犠牲層エッチング工程において、第一の電極3がエッチングされてしまうことを防止する働きをする。もし第一の電極が犠牲層エッチング工程に対する耐性を有し、低電圧で駆動する場合には、後述する第一の絶縁膜が第一の電極と第二の電極との間の電気的絶縁の役割を果たすため、第一の電極上の絶縁膜4を形成しなくともよい。基板と同様に、絶縁膜4の表面粗さが大きい場合、表面粗さによる第一の電極と第二の電極間の距離が、各セル間、各エレメント間でばらついてしまうため、絶縁膜4の表面粗さは小さいことが望ましい。例えば、窒化シリコン膜、シリコン酸化膜等である。
【0019】
次に、
図2−1(d)に示すように、犠牲層5を形成する。犠牲層5は、表面粗さが小さい材料が望ましい。基板と同様に、犠牲層の表面粗さが大きい場合、表面粗さによる第一の電極と第二の電極間の距離が、各セル間、各エレメント間でばらついてしまって望ましくない。また、犠牲層を除去するエッチングのエッチング時間を短くするために、エッチング速度の速い材料が望ましい。また、犠牲層をエッチング液やエッチングガスにより除去する際に、犠牲層周辺の材料、第一の電極上の絶縁膜4、第一の絶縁膜6、エッチストップ層7に対するエッチング選択性が十分高いことが必要である。
【0020】
次いで、
図2−1(e)に示すように、第一の絶縁膜6を形成し、さらに
図2−2(f)に示すようにエッチストップ層7を形成する。第一の絶縁膜6とエッチストップ層7は、全体として低い引張応力になることが望ましい。この2層は、後述する犠牲層除去工程後に間隙部上に支持されたメンブレン状態になるが、圧縮応力を有する場合にはこの犠牲層除去工程においてメンブレンがスティッキングしたり、座屈を起こしたりして大きく変形することが起こり得る。スティッキングとは、犠牲層除去後に構造体であるメンブレンが間隙部の下層に付着してしまうことである。また、引張応力が大きすぎると、その応力により亀裂等によるメンブレンの破壊が生じやすくなる。また、このエッチストップ層7は、最終的に残ってそれ自体が振動膜の一部になってもよいし、後に、振動膜となる部分からこのエッチストップ層を除去しても構わない。
【0021】
エッチストップ層7を振動膜として残す場合には、エッチストップ層7は、封止層のエッチング条件に対してエッチングレートが十分に低い必要がある。封止層と比較してエッチングレートが低いほど望ましく、低ければそれだけエッチストップ層7を薄くすることができる。振動膜となる部分のエッチストップ層7を除去する場合には、その際のエッチング等の除去工程において、下層の第一の絶縁膜6と十分に大きな選択性を有する必要がある。この第一の絶縁膜6とエッチストップ層7の組合せとして好適なものとして、引張応力の制御が可能な窒化シリコン膜と、窒化シリコンと選択性を持ってエッチング可能な酸化シリコンを挙げることができる。前者が第一の絶縁膜6で、後者がエッチストップ層7である。
【0022】
次に、
図2−2(g)に示すように、エッチング孔10を形成する。エッチング孔は、犠牲層を除去するために、エッチング液あるいはエッチングガスを導入するための孔である。エッチング孔10は、エッチストップ層7と第一の絶縁膜6を貫通し、犠牲層5に到達するように形成される。次に、
図2−2(h)に示すように、ウェットエッチングや、等方的に進むドライエッチングの手法を用い、エッチング孔10から犠牲層5を除去し、間隙12を形成する。
【0023】
次いで、
図2−2(i)に示すように、エッチング孔10を封止するために、封止層8を形成する。封止部14は間隙部内に液体や外気が浸入しないようにすればよい。封止することによって、静電容量型トランスデューサを液体中で使用することができる。十分な封止性を得るためには、封止層8の厚さとして、間隙12の厚さよりも十分大きい厚さが必要である。本発明では、後に間隙部上の封止層8を除去するため、封止性を重視して十分な厚さの封止層を形成してもよい。
【0024】
次に、
図2−2(j)に示すように、間隙12に対応する部分のみ封止層8をエッチストップ層までエッチングにより除去する。即ち、より厳密に言えば、封止層8の第一の電極側への正射影において間隙12に重なる部分の少なくとも一部を除去する。封止層8のエッチング条件に対して十分にレートの低い材料をエッチストップ層7として用いた場合には、封止層エッチングのレートが基板内でばらつく場合にも、最終的に残る膜厚を第一の絶縁膜6とエッチストップ層7の膜厚でほぼ規定できる。
【0025】
次に、
図2−3(k)に示すように第二の電極9を形成する。第二の電極9は第一の絶縁膜6やエッチングストップ層7と共に静電容量型トランスデューサの振動膜11を形成するが、この振動膜11の厚さは静電容量型トランスデューサの特性として小さいことが望ましい。従って、第二の電極9の厚さも、電気的な特性を満足する限りにおいて十分に薄いことが望ましい。第二の電極の材料としては、一般的な導電性を有する材料で構わない。このようにして本実施形態の静電容量型トランスデューサの構成を得ることができる。本実施形態では、間隙の部分での封止層を除去することができるので、振動膜の厚さを封止層とは独立に制御できる。そのため、結果として薄い振動膜を形成し易い。ただし、勿論、厚い振動膜を形成することも可能である。かつ、振動膜厚はエッチングレートばらつきの影響を受けず、厚さばらつきを小さくすることが可能である。そのため、広い周波数帯域を有し、セル間あるいはエレメント間の受信又は送信感度のばらつきの小さな優れた静電容量型トランスデューサを得ることができる。また、本実施形態の構成では、間隙部に対応した振動膜の部分以外には厚い封止層8を残しているため、振動膜以外の部分では第一の電極3と第二の電極9の間隔が大きくなる。つまり、実際に静電容量型トランスデューサとしてアクティブに働く振動膜の部分では電極間隔が小さく、その他の部分では電極間隔が大きくなっている。これは、静電容量型トランスデューサのアクティブな容量が大きくなり、それに対して寄生容量が小さくなることであり、このことは、静電容量型トランスデューサの受信においてS/N比が大きなデバイスを得られることを意味する。
【0026】
さらに、間隙部以外の部分で第一の電極と第二の電極間の間隔が大きく、絶縁膜厚が大きいので、第一及び第二の電極間に大きな電圧が印加される場合にも絶縁破壊が生じにくく、耐電圧性に優れた静電容量型トランスデューサを得ることができる。なお図示はしていないが、本実施形態の静電容量型トランスデューサには、使用上の接触や液体などに対する保護のために、
図1(b)に示される断面構成に加え、デバイス上層に比較的振動に対する影響の小さな樹脂層などを設けても構わない。
【0027】
上記特許文献1でも、振動膜となる部分とそれ以外の部分とで上下電極間の絶縁膜厚さが異なることにより、寄生容量が小さく、耐電圧に優れた静電容量型トランスデューサが記載されている。しかし、本実施形態は、この寄生容量が小さく耐電圧に優れるという特性を持つ静電容量型トランスデューサを別の構成で実現し、薄く均一な厚みの振動膜を有するという特性と、寄生容量が小さく耐電圧に優れるという特性を併せ持つ。
【0028】
以下、より具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
本発明の実施例1について
図1、
図2を用いて説明する。本実施例の静電容量型トランスデューサは、複数のセル15で構成されるエレメント17を有している。
図1(a)では、エレメント17に含まれるセル数は9個であるが、幾つであっても構わない。また、
図1(a)の静電容量型トランスデューサでは、4個のエレメントを有するが、エレメントは幾つであっても構わない。セルでは、第一の電極3と間隙12を挟んで設けられた第二の電極9を含む振動膜11が振動可能に支持されている。本実施例では、振動膜は、第一の絶縁膜6とエッチストップ層7と第二の電極9からなっている。第一の電極3を、バイアス電圧を印加する電極とし、第二の電極9を信号取り出し電極としている。本実施例の振動膜形状は、円形であるが、形状は四角形、六角形等でも構わない。円形の場合、振動モードが軸対称となるため、不要な振動モードによる振動膜の振動を抑制できる。
【0029】
本実施例の作製方法では、
図2−1(a)で示す基板1としてシリコンを用い、熱酸化によりこのシリコン基板上に、基板上の絶縁膜2としてシリコン酸化膜を厚さ1μm形成する。次いで
図2−1(b)に示すように、第一の電極3としてのチタンを50nmスパッタリングにより成膜し、その後フォトリソグラフィとエッチングの手法により静電容量型トランスデューサの第一の電極3として好ましい平面形状にパターニングを行う。次に
図2−1(c)に示すように、第一の電極上の絶縁膜4として、Plasma−Enhanced−Chemical−Vapor−Deposition(PE−CVD)の手法を用いてシリコン酸化膜を100nmの厚さになるよう形成する。
【0030】
続いて、スパッタリングによりクロムを200nmの厚さに成膜し、フォトリソグラフィとエッチングの手法によるパターニングを行って、
図2−1(d)に示すように、後に間隙部となる部分の犠牲層5を形成する。犠牲層5のパターンは、先に形成された第一の電極3のパターンに対応するようにアライメントされている。犠牲層は、セル15の形に対応するよう円形を基本とし、そこに犠牲層除去のためのエッチング孔に連結する部分を加えた形状となっている。円の径は33μmとする。さらに、PE−CVDの手法を用い、
図2−1(e)に示すように、第一の絶縁膜6となるシリコン窒化膜を400nmの厚さになるよう成膜する。この時のシリコン窒化膜は、膜応力がシリコン基板上で約100MPa程度の引張応力となるよう、成膜条件を調整する。
【0031】
続いて、
図2−2(f)に示すエッチストップ層7として、やはりPE−CVDの手法を用い、シリコン酸化膜を50nm成膜する。次に
図2−2(g)に示すよう、フォトリソグラフィとRIE(リアクティブイオンエッチング)の手法により、最初にエッチストップ層のシリコン酸化膜を、次いで第一の絶縁膜であるシリコン窒化膜を続けてエッチングする。そして、エッチング孔10を犠牲層5のクロムに達するまで形成する。エッチング孔の径は約5μmとする。さらに、このエッチング孔が形成された基板をクロムのエッチング液(硝酸セリウム(IV)アンモニウムと過塩素酸の混合物)に浸漬して犠牲層除去を行う。こうして、犠牲層5が除去されて間隙12となる
図2−2(h)の状態を得る。この時、エッチング液の乾燥に際しては、エッチング液→水→IPA(イソプロピルアルコール)→HFE(ハイドロフルオロエーテル)というように表面張力の小さな液へ逐次入れ替える。こうして、液体の表面張力により後に振動膜となる部分が間隙12の対向面に付着してしまうスティッキングという現象が生じないよう注意する。次に、再びPE−CVDの手法を用いたシリコン窒化膜を700nmの厚さになるよう成膜し、
図2−2(i)に示すように封止層8を形成し、封止部14による封止を行う。
【0032】
次いで、やはりフォトリソグラフィを用いて、間隙12の上になる部分のみ露出させた状態のレジストによるエッチングマスクパターンを形成する。そして、四フッ化炭素と酸素をエッチングガスとして用いるCDE(ケミカルドライエッチング)により間隙12上の封止層8の窒化シリコンを除去する。このエッチング手法によれば、封止層8である窒化シリコンとエッチストップ層7である酸化シリコンのエッチング選択比(窒化シリコンのエッチレート/酸化シリコンのエッチレート)が50以上と大きい。そのため、封止層8の窒化シリコンを十分にオーバーエッチしてもエッチングストップ層7の厚さ変化はわずかである。このようにして、
図2−2(j)に示すような、間隙12に対応した部分のみの封止層8が除去された状態を得る。
【0033】
さらに
図2−3(k)に示すように第二の電極9としてチタンを50nm成膜し、第二の電極としてのパターニングを行う。セル上の第二の電極の径は29μmである。
【0034】
本構成では、超音波を送受信するときに振動膜の変位量が大きい部分にのみ第二の電極が構成されており、振動膜の振動を電気信号に変換する効率が高い。振動膜全面に第二の電極が形成されている場合、振動膜の辺縁の電極は寄生容量となりノイズを増大させ易い。このことを考慮して第二の電極9の直径を第一の絶縁膜6などの直径より小さくすることにより、送信あるいは受信感度を向上することができる。エレメント17は複数のセルで構成されていて、エレメント17を構成するセル15の間隙12を形成するためのエッチング孔は封止部14で封止されている。このようにして得られたデバイスに、
図1に示すように第一の電極及び第二の電極に電気的に接続する構成(信号引き出し配線16など)を加えることにより、静電容量型トランスデューサとして用いることができる。
【0035】
本実施例の静電容量型トランスデューサでは、振動膜11が第一の絶縁膜、エッチストップ層、第二の電極から構成されており、その厚さが封止層の厚さとは独立に制御可能である。よって、振動膜に封止層を含む場合より大幅に振動膜の厚さを薄くすることが可能であり、その結果としてより広い帯域特性を有する静電容量型トランスデューサとして適する。また、振動膜厚さのばらつきは、封止層のエッチングばらつきの影響を受け難く、第一の絶縁膜、エッチストップ層、第二の電極の成膜時のばらつきのみにより規定される。そのため、全体としてセルやエレメント毎の膜厚ばらつきが小さく、周波数特性や送受信感度のばらつきの小さなトランスデューサを得ることができる。また、間隙12に対応する部分以外では第一及び第二の電極間の間隔が広く、寄生容量が小さくなるため、S/N比の大きな受信特性が得られ、かつ耐電圧の高い静電容量型トランスデューサが得られる。
【0036】
(実施例2)
実施例2を説明する。間隙12に対応する箇所の封止層除去までは実施例1と同様に行う(
図2−2(j)の状態)。しかし、実施例2では、その後、バッファードフッ酸に短時間浸漬して、間隙12上のエッチストップ層7の酸化シリコンを除去し、
図3(a)の状態を得る。酸化シリコンと窒化シリコンはバッファードフッ酸に対するエッチングレートが大きく異なるため、短時間の浸漬であれば、エッチングストップ層7である酸化シリコンだけが除去され、窒化シリコンからなる第一の絶縁膜6は殆どエッチングされないで残る。
【0037】
次に実施例1と同様に、第二の電極9としてチタンを50nm成膜し、第二の電極としてのパターニングを行う。このようにして、
図3(b)に示すような構成の静電容量型トランスデューサを得ることができる。この構成では、振動膜11は第一の絶縁膜6と第二の電極9からなるので、さらに薄い振動膜の形成が可能であり、広帯域の静電容量型トランスデューサとして適している。S/N比の大きな受信特性が得られ、かつ耐電圧が高くなることも実施例1と同様である。
【0038】
(実施例3)
実施例3を説明する。実施例1と同様にして、封止層8の成膜までの工程を行う(
図2−2(i)の状態)。次の封止層パターニングの工程において、実施例1とはフォトリソグラフィに用いる露光マスクを変更し、エレメント内の或るセルにおいては実施例1同様に間隙12の上になる部分の封止層が除去されるようにする。そして、その他のセルでは間隙12の上の部分の封止層8がそのまま残るようにした。
【0039】
その他の工程は再び実施例1と同様に行い、最終的に
図4−1(a)、
図4−2(b)、(c)に示すように、一つのエレメント17内にセル15Aとセル15Bが混在する静電容量型トランスデューサを得る。15Aは
図4(b)のセルAであり、15Bは
図4(c)のセルBに対応し、セル15Aとセル15Bは1つずつではなく、実際には多数混在している。このようにして得た静電容量型トランスデューサにおいては、振動膜11のバネ定数の異なるセル、つまり適正周波数帯域の異なるセルを混在させることにより、より広い周波数帯域特性を得ることができる。
【0040】
(他の実施形態)
上記静電容量型トランスデューサは、超音波診断装置などの被検体情報取得装置に適用することができる。被検体からの音響波をトランスデューサで受信し、出力される電気信号を用い、光吸収係数などの被検体の光学特性値を反映した被検体情報や音響インピーダンスの違いを反映した被検体情報を取得できる。
【0041】
より詳しくは、情報取得装置の一例は、被検体に光(可視光線や赤外線を含む電磁波)を照射する。このことにより被検体内の複数の位置(部位)で発生した光音響波を受信し、被検体内の複数の位置に夫々対応する特性情報の分布を示す特性分布を取得する。光音響波により取得される特性情報とは、光の吸収に関わる特性情報を示し、光照射によって生じた光音響波の初期音圧、或いは初期音圧から導かれる光エネルギー吸収密度や、吸収係数、組織を構成する物質の濃度、等を反映した特性情報を含む。物質の濃度とは、例えば、酸素飽和度やトータルヘモグロビン濃度や、オキシヘモグロビン或いはデオキシヘモグロビン濃度などである。また、情報取得装置は、人や動物の悪性腫瘍や血管疾患などの診断や化学治療の経過観察などを目的とすることもできる。よって、被検体としては生体、具体的には人や動物の乳房、頸部、腹部などの診断対象が想定される。被検体内部にある光吸収体としては、被検体内部で相対的に吸収係数が高い組織を示す。例えば、人体の一部が被検体であれば、オキシヘモグロビン或いはデオキシヘモグロビンやそれらを多く含む血管、或いは新生血管を多く含む腫瘍、頸動脈壁のプラークなどがある。さらには、金粒子やグラファイトなどを利用して、悪性腫瘍などと特異的に結合する分子プローブや、薬剤を伝達するカプセルなども光吸収体となる。
【0042】
また、光音響波の受信だけでなく、トランスデューサを含むプローブから送信される超音波が被検体内で反射した超音波エコーによる反射波を受信することにより、被検体内の音響特性に関する分布を取得することもできる。この音響特性に関する分布は、被検体内部の組織の音響インピーダンスの違いを反映した分布を含む。
【0043】
図5(a)は、光音響効果を利用した情報取得装置を示したものである。光源2010が発振したパルス光は、レンズ、ミラー、光ファイバー等の光学部材2012を介して、被検体2014に照射される。被検体2014の内部にある光吸収体2016は、パルス光のエネルギーを吸収し、音響波である光音響波2018を発生する。探触子部105内の本発明のトランスデューサ2020は、光音響波2018を受信して電気信号に変換し、探触子部のフロントエンド回路に出力する。フロントエンド回路ではプリアンプ等の信号処理を行い、接続部106を介してこれを本体部107の信号処理部2024に送る。信号処理部2024では、入力された電気信号に対して、A/D変換や増幅等の信号処理を行い、同じく本体部のデータ処理部2026へ出力する。データ処理部2026は、入力された信号を用いて被検体情報(光吸収係数などの被検体の光学特性値を反映した特性情報)を画像データとして取得する。ここでは、信号処理部2024とデータ処理部2026を含めて、画像処理部という。表示部2028は、データ処理部2026から入力された画像データに基づいて、画像を表示する。探触子部105と本体部107を一体にした構成とすることもできる。
【0044】
図5(b)は、音響波の反射を利用した超音波エコー診断装置などの情報取得装置を示したものである。探触子部105内の本発明のトランスデューサ2120から被検体2114へ送信された音響波は、反射体2116により反射される。トランスデューサ2120は、反射された音響波(反射波)2118を受信して電気信号に変換し、探触子部内のフロントエンド回路に出力する。フロントエンド回路ではプリアンプ等の信号処理を行い、接続部106を介してこれを本体部107の信号処理部2124に送る。信号処理部2124は、入力された電気信号に対して、A/D変換や増幅等の信号処理を行い、同じく本体部のデータ処理部2126へ出力する。データ処理部2126は、入力された信号を用いて被検体情報(音響インピーダンスの違いを反映した特性情報)を画像データとして取得する。ここでも、信号処理部2124とデータ処理部2126を含めて、画像処理部という。表示部2128は、データ処理部2126から入力された画像データに基づいて、画像を表示する。ここでも、探触子部105と本体部107を一体にした構成とすることもできる。
【0045】
探触子部は、機械的に走査するものであっても、医師や技師等のユーザが被検体に対して移動させるもの(ハンドヘルド型)であってもよい。また、
図5(b)のように反射波を用いる装置の場合、音響波を送信する探触子は受信する探触子と別に設けても良い。さらに、
図5(a)と
図5(b)の装置の機能をどちらも兼ね備えた装置とし、被検体の光学特性値を反映した被検体情報と、音響インピーダンスの違いを反映した被検体情報と、をどちらも取得するようにしてもよい。この場合、
図5(a)のトランスデューサ2020が光音響波の受信だけでなく、音響波の送信と反射波の受信を行うようにしてもよい。