特許第6243675号(P6243675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大西 諭一郎の特許一覧 ▶ 吉峰 俊樹の特許一覧 ▶ 岩月 幸一の特許一覧

特許6243675オルファクトリースフィア細胞の生成・単離方法及び製造方法並びに該オルファクトリースフィア細胞を用いた脱随疾患治療剤及び末梢神経軸索再生増強剤の製造方法
<>
  • 特許6243675-オルファクトリースフィア細胞の生成・単離方法及び製造方法並びに該オルファクトリースフィア細胞を用いた脱随疾患治療剤及び末梢神経軸索再生増強剤の製造方法 図000004
  • 特許6243675-オルファクトリースフィア細胞の生成・単離方法及び製造方法並びに該オルファクトリースフィア細胞を用いた脱随疾患治療剤及び末梢神経軸索再生増強剤の製造方法 図000005
  • 特許6243675-オルファクトリースフィア細胞の生成・単離方法及び製造方法並びに該オルファクトリースフィア細胞を用いた脱随疾患治療剤及び末梢神経軸索再生増強剤の製造方法 図000006
  • 特許6243675-オルファクトリースフィア細胞の生成・単離方法及び製造方法並びに該オルファクトリースフィア細胞を用いた脱随疾患治療剤及び末梢神経軸索再生増強剤の製造方法 図000007
  • 特許6243675-オルファクトリースフィア細胞の生成・単離方法及び製造方法並びに該オルファクトリースフィア細胞を用いた脱随疾患治療剤及び末梢神経軸索再生増強剤の製造方法 図000008
  • 特許6243675-オルファクトリースフィア細胞の生成・単離方法及び製造方法並びに該オルファクトリースフィア細胞を用いた脱随疾患治療剤及び末梢神経軸索再生増強剤の製造方法 図000009
  • 特許6243675-オルファクトリースフィア細胞の生成・単離方法及び製造方法並びに該オルファクトリースフィア細胞を用いた脱随疾患治療剤及び末梢神経軸索再生増強剤の製造方法 図000010
  • 特許6243675-オルファクトリースフィア細胞の生成・単離方法及び製造方法並びに該オルファクトリースフィア細胞を用いた脱随疾患治療剤及び末梢神経軸索再生増強剤の製造方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243675
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】オルファクトリースフィア細胞の生成・単離方法及び製造方法並びに該オルファクトリースフィア細胞を用いた脱随疾患治療剤及び末梢神経軸索再生増強剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0797 20100101AFI20171127BHJP
   A61K 35/30 20150101ALN20171127BHJP
   A61P 25/00 20060101ALN20171127BHJP
【FI】
   C12N5/0797
   !A61K35/30
   !A61P25/00
【請求項の数】1
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-194822(P2013-194822)
(22)【出願日】2013年9月20日
(65)【公開番号】特開2014-76048(P2014-76048A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2016年8月10日
(31)【優先権主張番号】特願2012-206702(P2012-206702)
(32)【優先日】2012年9月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512244750
【氏名又は名称】大西 諭一郎
(73)【特許権者】
【識別番号】594108856
【氏名又は名称】吉峰 俊樹
(73)【特許権者】
【識別番号】504129607
【氏名又は名称】岩月 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】大西 諭一郎
【審査官】 池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/020611(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0129327(US,A1)
【文献】 特表2003−533172(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/134951(WO,A1)
【文献】 脳神経外科ジャーナル (Apr 2012) vol.21, supplement, p.79(3)
【文献】 Academic Journal of second Military Medical University (2009) vol.30, no.9, p.985-989
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00−5/28
A61K 35/30
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ヒト又はヒト以外の哺乳動物の鼻腔から採取された嗅粘膜細胞又は組織を、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、デオキシリボヌクレアーゼI及びヒアルロニダーゼを含む酵素混合物で処理する工程、(2)前記工程(1)で得られた酵素処理物を無血清下に培養し、オルファクトリースフィア細胞を得る工程、(3)前記工程(2)で得られたオルファクトリースフィア細胞をトリプシン処理する工程、並びに(4)NG2、PDGFRα及びA2B5から選択される一種以上を発現する細胞を取得する工程を含むことを特徴とするオリゴデンドロサイト前駆細胞の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルファクトリースフィア細胞の生成・単離方法及び製造方法並びに該オルファクトリースフィア細胞を用いた脱随疾患治療剤及び末梢神経軸索再生増強剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オリゴデンドロサイト前駆細胞(Oligodendrocyte Progenitor Cell:OPC)は成体中枢神経系に存在する。OPCは、NG2コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの他、PDGFRα、Olig2、A2B5を発現していることが特徴である(非特許文献1、2)。
【0003】
OPCは、未だ有効な治療法のない脱髄疾患や脊髄損傷の再生医療における有望な細胞ソースと考えられている。
【0004】
一方で、脳や脊髄からOPCを単離することは、その侵襲性や機能損傷の面から臨床応用は困難である。
【0005】
従来、中枢神経由来OPCの単離方法としては、抗PDGFRα抗体、抗A2B5抗体や抗Olig2抗体等を用い、フローサイトメーターにて行う方法が知られていた。
【0006】
しかしながら、この方法では、工程が煩雑であり、工業的に実用可能ではない。
【0007】
また、ES細胞やiPS細胞から細胞工学的、遺伝子工学的手法を用いて、OPCに分化誘導する方法も報告されているが、安全性から実用化の見通しはたっていない。
【0008】
そのため、OPCを安全に、かつ工業的に実用可能な方法で製造する方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nishiyama, A., Komitova, M., Suzuki, R., and Zhu, X. (2009). Polydendrocytes (NG2 cells): multifunctional cells with lineage plasticity. Nat Rev Neurosci 10, 9-22.
【非特許文献2】Richardson, W.D., Young, K.M., Tripathi, R.B., and McKenzie, I. (2011). NG2-glia as multipotent neural stem cells: fact or fantasy? Neuron 70, 661-673.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、安全性に問題がなく、工業的に実用可能で簡便なオルファクトリースフィア細胞(以下、OS細胞ともいう)の生成・単離方法及び生成・単離されたオルファクトリースフィア細胞の製造方法並びに脱随疾患治療剤及び末梢神経軸索再生増強剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、嗅粘膜組織より細胞工学的、遺伝子工学的手法を用いずに、オリゴデンドロサイト前駆細胞とシュワン前駆細胞の性質を持つ幹細胞集団であるオルファクトリースフィアを生成・単離できることを見い出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の発明に関する。
[1](1)ヒト又はヒト以外の哺乳動物の鼻腔から採取された嗅粘膜細胞又は組織を酵素処理する工程、及び(2)前記工程(1)で得られた酵素処理物を無血清下に培養し、オルファクトリースフィア細胞を得る工程を含み、前記工程(1)における酵素が、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、デオキシリボヌクレアーゼI及びヒアルロニダーゼを含む酵素混合物であることを特徴とする、オルファクトリースフィア細胞の生成・単離方法。
[2](1)ヒト又はヒト以外の哺乳動物の鼻腔から採取された嗅粘膜細胞又は組織を酵素処理する工程、及び(2)前記工程(1)で得られた酵素処理物を無血清下に培養し、オルファクトリースフィア細胞を得る工程を含み、前記工程(1)における酵素が、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、デオキシリボヌクレアーゼI及びヒアルロニダーゼであることを特徴とする、生成・単離されたオルファクトリースフィア細胞の製造方法。
[3]酵素処理の対象が、ヒト又はヒト以外の哺乳動物の鼻腔から採取された嗅上皮細胞であることを特徴とする、前記[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記[1]又は[2]に記載の方法で得られるオルファクトリースフィア細胞を用いて、オルファクトリースフィア細胞及び/又はオリゴデンドロサイト前駆細胞を含む脱随疾患治療剤を製造する工程を有することを特徴とする、脱随疾患治療剤の製造方法。
[5]前記[1]又は[2]に記載の方法で得られるオルファクトリースフィア細胞を用いて、オルファクトリースフィア細胞及び/又はシュワン細胞を含む末梢神経軸索再生増強剤を製造する工程を有することを特徴とする、末梢神経軸索再生増強剤の製造方法。
[6]前記[1]又は[2]に記載の方法で得られるオルファクトリースフィア細胞を、トリプシン処理し、人工髄液に添加する工程を有することを特徴とする前記[4]記載の製造方法。
[7]前記[1]又は[2]に記載の方法で得られるオルファクトリースフィア細胞を、トリプシン処理し、人工髄液に添加する工程を有することを特徴とする前記[5]記載の製造方法。
[8]前記[1]又は[2]に記載の方法で得られるオルファクトリースフィア細胞及び/又はオリゴデンドロサイト前駆細胞を含む脱随疾患治療剤。
[9]前記[1]又は[2]に記載の方法で得られるオルファクトリースフィア細胞及び/又はシュワン細胞を含む末梢神経軸索再生増強剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法を用いることにより、細胞工学的、遺伝子工学的手法を用いずに、オルファクトリースフィア細胞を安全に生成・単離することができる。また、本発明の方法は、フローサイトメトリーによる細胞の選別の必要がなく、従来の抗体を用いた単離方法と比べ、作業行程は簡素化され、工業的に実用化でき、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、オルファクトリースフィア細胞の生成・単離方法の概略図である。
図2図2は、嗅粘膜(嗅粘膜上皮層と嗅粘膜固有層)の位置を示す模式図である。
図3図3は、実施例2の免疫染色の結果を示す。
図4図4は、実施例2の免疫染色の結果を示す。
図5図5は、実施例3の結果を示す。図中、スケールバーはAでは50μmを表し、Fでは20μmを表す。
図6図6は、実施例3の免疫染色の結果を示す。
図7図7は、試験例1のBBBスコアを示す。図中、OSは、オルファクトリースフィア細胞を意味する。
図8図8は、試験例2の免疫染色の結果を示す。図中、OSは、オルファクトリースフィア細胞を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のオルファクトリースフィア細胞の生成・単離方法は、(1)ヒト又はヒト以外の哺乳動物の鼻腔から採取された嗅粘膜細胞又は組織を酵素処理する工程、及び(2)前記工程(1)で得られた酵素処理物を無血清下に培養し、オルファクトリースフィア細胞を得る工程を含み、前記工程(1)における酵素が、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、デオキシリボヌクレアーゼI及びヒアルロニダーゼを含む酵素混合物であることを特徴とする。本発明の方法の概略を図1に示す。本発明のオルファクトリースフィア細胞とは、オリゴデンドロサイト前駆細胞の集合体又はシュワン細胞の前駆細胞の集合体を意味する。
【0016】
第(1)工程は、ヒト又はヒト以外の哺乳動物の鼻腔から採取された嗅粘膜細胞又は組織を酵素処理する工程である。
【0017】
本発明でいう「嗅粘膜」は、主嗅覚器として鼻腔内の鼻中隔上部と左右の上鼻甲介上部に囲まれた部位にあり、例えば、ヒトにおいては左右各々約2cm程度の面積を持つものである。嗅粘膜は、図2に示されるように、嗅上皮及び嗅粘膜固有層から構成される。
【0018】
ヒト以外の哺乳動物としては、特に限定されないが、例えば、マウス、ラット、ウサギ、サル等の温血脊椎動物が挙げられる。嗅粘膜細胞又は嗅粘膜組織は、ヒト又はヒト以外の哺乳動物の鼻腔から採取されたものであれば特に限定されないが、脱随疾患治療剤又は末梢神経軸索再生増強剤として用いる場合、脱随疾患治療剤又は末梢神経軸索再生増強剤の投与対象と同種のヒト又はヒト以外の哺乳動物の鼻腔から採取されたものが好ましく、脱随疾患治療剤又は末梢神経軸索再生増強剤の投与対象又はその血縁に当たるドナーの鼻腔から採取されたものがより好ましく、脱随疾患治療剤又は末梢神経軸索再生増強剤の投与対象の鼻腔から採取されたものが適合性(免疫拒絶)の観点から最も好ましい。一方で、投与対象由来の嗅粘膜細胞又は嗅粘膜組織ではない場合にも、脱随疾患治療剤又は末梢神経軸索再生増強剤を投与する際に、免疫抑制剤を併用することで、免疫拒絶を解消することもできる。前記嗅粘膜細胞又は嗅粘膜組織は、嗅上皮を含んでいればよく、呼吸粘膜等が混在していてもよいが嗅上皮が好ましい。嗅粘膜細胞又は嗅粘膜組織の採取の方法は、特に限定されないが、例えば、Aoki, et al., (2010). J Neurosurg Spine 12, 122-130.に記載の方法が挙げられ、具体的には、外科用メス、シリンジ、ピンセット等の切断器具を用いた顕微解剖等が挙げられる。さらに、投与対象自身の嗅粘膜細胞又は嗅粘膜組織(好ましくは嗅上皮)を用いることで、免疫抑制剤の投与も不要になる。
【0019】
前記のように採取した嗅粘膜細胞又は組織を、酵素を含む培地に置き、酵素処理を行う。本発明の酵素処理に用いる酵素としては、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、デオキシリボヌクレアーゼI及びヒアルロニダーゼが挙げられる。これらの酵素を用いることにより、オルファクトリースフィア細胞を得ることができる。これらの酵素は、本発明の効果を妨げない範囲において、使用の順序は特に限定されず、同時に使用してもよく、1つずつ順番に使用してもよい。コラゲナーゼとしては、例えば、コラゲナーゼI、コラゲナーゼL等が挙げられる。ディスパーゼとしては、例えば、ディスパーゼI、ディスパーゼII等が挙げられ、ディスパーゼIIが好ましい。これらの酵素は、市販品を使用することができる。例えば、コラゲナーゼタイプI(商品名、コード番号:035-17604、和光純薬工業株式会社)、ディスパーゼII(商品名、粉末酵素:300,000PU/g、製品番号:GD81070、エーディア株式会社)、ウシ膵臓由来デオキシリボヌクレアーゼI(商品名、製品番号:D5025-150KU、シグマ−アルドリッチ社)、ウシ睾丸由来ヒアルロニダーゼ(商品名、製品番号:H3506-500MG、シグマ−アルドリッチ社)等が挙げられる。各酵素活性については、後記の実施例で詳細に説明する。酵素活性は、本発明の効果が得られる限り、特に限定されないが後記の実施例に記載される酵素活性以上を有するものが好ましい。
【0020】
酵素処理工程では、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されず、他の公知の添加剤を使用してもよい。公知の添加剤としては、例えば、アルブミン(例えば、ウシ血清由来アルブミン(商品名:Albumin, from Bovine Serum, Cohn Fraction V, pH7.0、コード番号:017-17841、和光純薬工業株式会社)等)等が挙げられる。
【0021】
酵素処理に用いる培地は、特に限定されないが、例えば、DMEM/F12混合培地(1:1)、Ham’sF10(シグマ(Sigma)社)、CMRL−1066、最少必須培地(MEM、シグマ社)、RPMI−1640(シグマ社)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、シグマ社)、及びイスコブ改変イーグル培地(IMEM)等が挙げられる。さらに、Ham and Wallance Meth. Enz., 58:44 (1979)、Barnes and Sato Anal. Biochem., 102:255 (1980)、又はMather,J.P. and Roberts, P.E. 、「Induction to Cell and Tissue Culture」、Plenum Press, New York (1998)に記載の任意の基本栄養培地を使用することもできる。
【0022】
酵素処理時間は、特に限定されないが、通常1分〜1時間程度である。酵素処理温度は、特に限定されないが、通常30〜39℃程度であり、約37℃が好ましい。pHは、特に限定されず、至適pHを考慮して決定でき、通常5.0〜8.0であり、6.0〜7.9であってもよい。
【0023】
第(2)工程は、前記工程(1)で得られた酵素処理物を無血清下に培養し、オルファクトリースフィア細胞を得る工程である。「血清」は、血液が凝固された後に残存する動物の血液の液相を意味する。前記血清としては、特に限定されないが、ヒト血清、サル血清、ウシ胎児血清、ウシ血清、ブタ血清、ウマ血清、ロバ血清、ニワトリ血清、ウズラ血清、ヒツジ血清、ヤギ血清、イヌ血清、ネコ血清、ウサギ血清、ラット血清、モルモット血清及びマウス血清等の動物由来血清が挙げられる。本発明では、無血清下に培養するため、安全性の懸念がない。血清には、ホルモンの供給源、培地の緩衝作用の増強、各種プロテアーゼからの保護効果等があることが知られており、動物細胞の培養には、血清を添加する必要があるが、本発明では、無血清下で培養できる。
【0024】
前記(1)工程で得られた酵素処理物を、基底細胞維持培地に添加する。基底細胞維持培地には、種々の基礎細胞維持培地が利用可能であり、前記基底細胞維持培地としては、特に限定されないが、例えば、DMEM/F12、Ham’sF12培地、RPMI−1640、及びCMRL−1066等が挙げられる。
【0025】
本培養工程においては、細胞の生存のために、培地に添加剤を加えるのが好ましい。前記添加剤としては、特に限定されないが、例えば、トランスフォーミング増殖因子α(TGF−α)、上皮成長因子(EGF)塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、活性型ビタミンD、塩化リチウム、アクチビン(Activin)、CCL−27(Chemokine(C-C motif)ligand 27)、2−メルカプトエタノール、ROCK(Rho-associated kinase)阻害剤のファスジル(Fasudil)、Y−27632((R)−(+)−トランス−N−(4−ピリジル)−4−(1−アミノエチル) クロヘキサンカルボキサミド)等が挙げられ、上皮成長因子(EGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)等が好ましい。これらはその1種のみを添加してもよく、また、2種以上を添加してもよい。これらは通常の範囲の添加量が用いられ、好ましい添加量の範囲は1nモル/L〜0.1mモル/Lである。
【0026】
また、本工程においては、培地に細胞増殖促進剤を添加してもよい。前記細胞増殖促進剤としては、特に限定されないが、例えば、KGF(FGF7)、インシュリン(Insulin)、トランスフェリン(Transferrin)、セレニウム(Selenium)、エタノールアミン、脂質、ビタミンC又はビタミンC誘導体等を挙げることができる。これらはその1種のみを添加してもよく、また、2種以上を添加してもよい。これらのうちKGF以外の物質は好ましくはそれぞれが1〜20000nモル/Lの範囲で添加され、KGFは好ましくは0.1〜100ng/Lの範囲で添加される。なお、上記の脂質としては、例えば、アラキドン酸、コレステロール、DL−a−Tocopherol−acetate、リノール酸、リノレン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、パルミトレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、Tween:80、Pluronic F68(シグマ社、インビトロジェン社等より入手できる)等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上の混合物として使用できる。
【0027】
さらに、本工程において、培養のために、必要に応じて、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27−サプリメント、N2−サプリメント、ITS−サプリメント、抗生物質、抗真菌剤等の公知の添加剤を培地に加えてもよい。これらは、1種単独又は2種以上を併用してもよい。前記添加剤は、市販品を使用することができる。
【0028】
酵素処理された細胞は、培養開始時において、1×10細胞/cm〜1×10細胞/cm程度又は1×10細胞/ml〜1×10細胞/ml程度となるように細胞培養容器に播種するのが好ましい。
【0029】
細胞培養の際の細胞培養容器としては、ディッシュ、フラスコ、マイクロプレート等が挙げられる。これらの容器は、細胞を非接着で培養させ、スフィアを得るために、培養底面にpolyHEMA(シグマ社製P3932)でコーティングする、又はHydroCell(セルシード社)のような非接着性の細胞培養容器を用いるのが好適である。
【0030】
培養温度は、特に限定されないが、例えば、通常30〜40℃程度であり、約37℃が好ましい。培養時間は、約15〜200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。他の培養条件としては、5%COとすることが好ましい。培養条件は、37℃及び5%COがより好ましい。
【0031】
本工程で得られるオルファクトリースフィア細胞を、トリプシン処理等でバラバラにし、各細胞を再度培養することで、オルファクトリースフィア細胞を分化・増殖させることができる。培養条件は、前記と同様である。本発明では、培養を繰り返すことで、脱随疾患の治療又は末梢神経軸索の再生増強に必要な十分量のオルファクトリースフィア細胞を、簡単に得ることができる。
【0032】
オルファクトリースフィア細胞は、50μm以上の直径(平面形状が円形でない場合は最大径)を有し、オリゴデンドロサイト前駆細胞からなる細胞塊を意味する。オルファクトリースフィア細胞は、オリゴデンドロサイト前駆細胞とシュワン細胞前駆細胞の性質を持ち、ニューロンへの分化誘導も可能である。スフィア形態をとるものがオリゴデンドロサイト前駆細胞とシュワン細胞前駆細胞の性質を有する。
【0033】
本発明の他の形態としては、(1)ヒト又はヒト以外の哺乳動物の鼻腔から採取された嗅粘膜細胞又は組織を酵素処理する工程、及び(2)前記工程(1)で得られた酵素処理物を無血清下に培養し、オルファクトリースフィア細胞を得る工程を含み、前記工程(1)における酵素が、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、デオキシリボヌクレアーゼI及びヒアルロニダーゼであることを特徴とする単離されたオルファクトリースフィア細胞の製造方法が挙げられる。各工程は、前記単離方法と同様である。
【0034】
また、本発明の他の形態としては、前記いずれかの方法で得られるオルファクトリースフィア細胞を用いて、オルファクトリースフィア細胞及び/又はオリゴデンドロサイト前駆細胞を含む脱随疾患治療剤を製造する工程を有する脱随疾患治療剤の製造方法が挙げられる。
【0035】
本発明の脱随疾患治療剤の製造工程としては、例えば、オルファクトリースフィア細胞をトリプシン処理し、人工髄液に添加する工程(以下、得られた溶液を「オルファクトリースフィア細胞溶液」ともいう。)、及び/又はオルファクトリースフィア細胞をトリプシン処理し、得られた細胞にバルプロ酸(VPA)を添加し、ニューロンを得る工程等が挙げられる。トリプシン処理において使用するトリプシンの量は、特に限定されず、細胞分離に用いられる公知の方法と同様に決定できる。トリプシン処理には、トリプシン又はトリプシン・EDTAを使用できる。
【0036】
前記人工髄液としては、例えば、人工脳脊髄液(Artificial cerebro-spinal fluid(ACSF))等が挙げられる。人工脳脊髄液の組成は、例えば、NaCl 124mM、KCl 3mM、KHPO 1.25mM、D−グルコース 10mM、MgSO 1mM、NaHCO 26mM、CaCl 2mM(pH7.4以下)のもの等が挙げられる。前記人工髄液は、公知の方法で製造することができ、例えば、前記人工脳脊髄液は、前記割合となるように混合したのち、すぐに混合ガス(O 95%、CO 5%)で通気することによって製造できる。前記人工髄液としては、特に限定されず、市販品を使用することができる。市販品としては、例えば、アートセレブ(登録商標)脳脊髄手術用洗浄灌流液(株式会社大塚製薬工場)等が挙げられる。
【0037】
本発明の前記製造方法には、必要に応じて、オルファクトリースフィア細胞溶液に対して、公知の分化誘導促進剤を添加する工程を含んでいてもよい。分化誘導促進剤としては、特に限定されないが、例えば、バルプロ酸(VPA)や特開2002−068973号公報に記載の分化誘導促進剤等が挙げられる。バルプロ酸は、オルファクトリースフィア細胞から神経細胞への分化誘導効果をもたらす。これらの使用量は、本発明の効果を妨げない範囲で、当業者が適宜設定でき、特に限定されない。
【0038】
「脱髄疾患(demyelinating disease)」は、神経細胞の神経繊維(軸索)を取り囲むミエリン鞘の損失又は損傷によって特徴付けされる疾患又は状態を意味する。脱髄疾患に苦しむ個体は、神経繊維から分離するミエリンによって引き起こされる神経インパルスの伝達が損傷したことに起因して、神経学的欠損を被る。
【0039】
脱髄疾患において、炎症が、ミエリンの損失又は損傷と同時に起こり得る。脱髄疾患の臨床的な経過としては、例えば、急性、慢性、弛張性、再発性等が挙げられる。脱髄疾患におけるミエリンの損失又は損傷は、中枢神経系(CNS)及び/又は末梢神経系(RNS)において生じ得る。
【0040】
例えば、多発性硬化症(MS)は、脱髄が脳の白質及び脊髄で生じる中枢神経系(CNS)の脱髄疾患である。他の中枢神経系(CNS)の脱髄疾患としては、例えば、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)(感染後脳脊髄炎及びワクチン後脳脊髄炎を含む)、炎症性広汎性硬化症、急性壊死性出血性脳脊髄炎及び進行性(壊死性)ミエロパシー等が挙げられ、さらに外傷性の中枢神経系(CNS)の脱髄疾患も含まれる。外傷性の中枢神経系(CNS)の脱髄疾患としては、脊髄損傷、外傷性脳損傷、脳血管障害(例えば、脳出血、脳梗塞等)に基づく脳損傷、脳手術後の脳損傷等が挙げられる。
【0041】
末梢神経系(PNS)における脱髄疾患としては、例えば、急性脱髄多発性神経障害(ギラン・バレー症候群(GBS)又はその異型の慢性炎症性脱髄性多発神経炎(Chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy、CIDP)としてより公知である)、IgMモノクローナル高ガンマグロブリン血症に関連する脱髄性ニューロパシー及び硬化性骨髄腫に関連するニューロパシー等が挙げられる。外傷性の末梢神経系(RNS)脱髄疾患としては、末梢神経損傷等が挙げられる。
【0042】
脱髄疾患の症状としては、例えば、神経学的欠損及び神経炎症が挙げられる。脱髄疾患の生理学的指標としては、神経繊維の脱髄が挙げられる。脱髄疾患の生化学的マーカーとしては、例えば、ミエリン、γグロブリン、又はオリゴクローナルバンドを生じる特定の分子である。神経繊維の脱髄ならびに再有髄化は、当該分野で周知の種々の臨床方法によって検出され得る。例えば、誘発電位(EP)を使用して、神経系の種々の部分においてどれほど早く神経インパルスが神経繊維に沿って走るかを測定し得る。さらに、コンピューター断層撮影法(CT)を使用して、神経繊維の脱髄領域ならびに再有髄化領域を検出するために中枢神経系をスキャンし得る。核磁気共鳴画像法(MRI)もまた使用して、中枢神経系をスキャンし得るが、この方法は、X線を使用しない。CTスキャンよりもより感度が高いMRIは、CTスキャナーによって見ることができなかった脱髄領域ならびに再有髄化領域を検出し得る。さらに、腰椎穿刺手順又は脊髄穿刺手順を使用して、髄液を引き出し得る。γグロブリンレベル及びオリゴクローナルバンドレベルの増大について、この液体を調べる。これらの方法及び当該分野で周知の他の方法を使用して、神経繊維の脱髄ならびに再有髄化のような有髄化の変化を測定することによって、脱髄疾患の重篤度を測定し得る。
【0043】
「再有髄化(remyelination)(以下、再ミエリン化ともいう)」は、脱髄神経繊維の有髄化における著しい増大をいう。有髄化における著しい増大は、当該分野で公知の種々の方法を通して検出され得る。
【0044】
また、本発明は、オルファクトリースフィア細胞及び/又はオリゴデンドロサイト前駆細胞を有効成分として含有する、脱随疾患治療剤を提供する。
【0045】
前記脱随疾患治療剤は、前記オルファクトリースフィア細胞及び/又はオリゴデンドロサイト前駆細胞を主成分としていればよく、有効成分として前記オルファクトリースフィア細胞のみからなるもの及び/又はオリゴデンドロサイト前駆細胞のみからなるものであってもよい。前記脱随疾患治療剤は、オルファクトリースフィア細胞を含有し、必要に応じてオリゴデンドロサイト前駆細胞を含有するものであってもよい。オルファクトリースフィア細胞は、優れた脱随疾患の治療効果を奏する。
【0046】
本発明の脱随疾患治療剤に含まれるオルファクトリースフィア細胞及び/又はオリゴデンドロサイト前駆細胞の量は、医薬として許容される量であれば、特に限定されないが、例えば、注射剤とする場合、オルファクトリースフィア細胞及び/又はオリゴデンドロサイト前駆細胞を、(1.0×10細胞/μl〜5.0×10細胞/μl)程度含む細胞懸濁液としてもよい。
【0047】
本発明の脱随疾患治療剤には、必要に応じて、バルプロ酸(VPA)等の分化誘導促進剤を含んでいてもよい。これらの使用量は、本発明の効果を妨げない範囲で、当業者が適宜設定でき、特に限定されない。
【0048】
本発明の脱随疾患治療剤は、軸索を再有髄化(再ミエリン化)することができ、脱髄疾患の治療剤として使用できる。
【0049】
本発明の他の形態は、前記いずれかの方法で得られるオルファクトリースフィア細胞を用いて、オルファクトリースフィア細胞及び/又はシュワン細胞を含む末梢神経軸索再生増強剤を製造する工程を有する末梢神経軸索再生増強剤の製造方法である。
【0050】
本発明の末梢神経軸索再生増強剤の製造工程としては、例えば、オルファクトリースフィア細胞をトリプシン処理し、人工髄液に添加する工程(以下、得られた溶液を「オルファクトリースフィア細胞溶液」ともいう。)等が挙げられる。人工髄液としては、上述と同様のものが使用できる。トリプシン処理において使用するトリプシンの量は、特に限定されず、細胞分離に用いられる公知の方法と同様に決定できる。トリプシン処理には、トリプシン又はトリプシン・EDTAを使用できる。
【0051】
末梢神経としては、特に限定されないが、例えば、感覚神経、運動神経を含む体性神経;内臓求心性神経、交感神経、副交感神経を含む自律神経が挙げられる。末梢神経の具体例としては、特に限定されず、例えば、大腿神経、指神経、正中神経、尺骨神経、橈骨神経、脛骨神経、伏在神経、顔面神経、脊髄副神経、上腕神経叢神経、坐骨神経等が挙げられる。末梢神経系の神経線維束には,体性神経と自律神経の神経線維も混在しており、本発明の末梢神経には、このような混合神経も含まれる。坐骨神経は、運動神経、感覚神経及び自律神経の繊維を含む末梢神経の代表例である。
【0052】
また、本発明は、オルファクトリースフィア細胞及び/又はシュワン細胞を有効成分として含有する、末梢神経軸索再生増強剤を提供する。
【0053】
前記末梢神経軸索再生増強剤は、前記オルファクトリースフィア細胞及び/又はシュワン細胞を主成分としていればよく、有効成分として前記オルファクトリースフィア細胞のみからなるもの及び/又はシュワン細胞のみからなるものであってもよい。前記末梢神経軸索再生増強剤は、オルファクトリースフィア細胞を含有し、必要に応じてはシュワン細胞を含有するものであってもよい。オルファクトリースフィア細胞は、末梢神経軸索の再生増強効果が優れる。シュワン細胞も、末梢神経軸索の再生増強効果を有する。
【0054】
末梢神経軸索再生増強剤に含まれるオルファクトリースフィア細胞及び/又はシュワン細胞の量は、医薬として許容される量であれば、特に限定されないが、例えば、注射剤とする場合、オルファクトリースフィア細胞及び/又はシュワン細胞を、(1.0×10細胞/μl〜5.0×10細胞/μl)程度含む細胞懸濁液としてもよい。
【0055】
また、必須ではないが、必要に応じて、前記オルファクトリースフィア細胞溶液に、Pax3、還元剤、レチノイン酸、ヘレグリン(Heregulin)等の公知の分化誘導促進剤を含んでいてもよい。これらの使用量は、本発明の効果を妨げない範囲で、当業者が適宜設定でき、特に限定されない。
【0056】
本発明の末梢神経軸索再生増強剤は、神経軸索の伸長を促進することができ、神経軸索の再生を増強する効果を有する。
【0057】
本発明の脱随疾患治療剤又は末梢神経軸索再生増強剤は、直接患者に投与する以外に、公知の製剤学的方法により製剤化した医薬組成物として投与を行うことも可能であるが、直接患者に投与するのが好ましい。例えば、必要に応じて、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に使用できる。また、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体(具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、結合剤等)と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な用量が得られるようにするものである。
【0058】
カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤、結晶性セルロース等の賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸等の膨化剤、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤等が挙げられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなビヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0059】
注射用の水溶液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液が挙げられる。前記等張液としては、D−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられる。前記等張液と適当な溶解補助剤と併用してもよい。前記溶解補助剤としては、例えば、アルコール(具体的にはエタノール、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)等)、非イオン性界面活性剤(例えばポリソルベート80(TM)、HCO−50等)等と併用してもよい。
【0060】
また、注射液には、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液等)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン等)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール)、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0061】
本発明の医薬製剤の患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、腹腔内注射、脊髄内注射、硬膜外注射等の当業者に公知の方法により行いうる。投与量は、患者の体重や年齢、投与方法等により変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。
【0062】
本発明の医薬製剤の投与量は、その1回の投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法によっても異なるが、例えば、注射剤の形では通常成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.1から1000mg、好ましくは約1.0から100mg、より好ましくは約1.0から50mg、さらに好ましくは約1.0から20mgであると考えられる。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量、あるいは体表面積あたりに換算した量を投与することができる。
【実施例】
【0063】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0064】
以下の実施例に用いた一次抗体は、下記のとおりである。
【表1】
【0065】
[実施例1]
1)実験動物
SD(Sprague-Dawley)ラット及び高感度緑色蛍光タンパク発現トランスジェニック(SD−Tg(CAG−EGFP))ラット(8週齢雄性;日本エスエルシー株式会社)を実験に用いた。前記トランスジェニックラットは、CAGプロモーターの発現によってEGFPを発現する(Ito T, Suzuki A, Imai E, Okabe M, Hori M (2001) Bone marrow is a reservoir of repopulating mesangial cells during glomerular remodeling. J Am Soc Nephrol 12:2625-35.)。
2)酵素処理工程
前記ラットを用いて、嗅粘膜は、Aoki, et al., (2010). J Neurosurg Spine 12, 122-130.に記載された方法で切断された。簡単に説明すれば、前記嗅粘膜は、黄色がかっており、隔膜の尾側に位置する。鋭利な切断により、組織は、嗅球及び篩板等の他の組織によるコンタミを避けるために、丁寧に隔膜の各側から取り除かれる。前記嗅粘膜は、機械的に分離され、その後、DMEM/F12混合培地中(以下「DF」と称する;インビトロジェン社)でコラゲナーゼ(商品名:コラゲナーゼタイプI、酵素活性:250U/mg(活性単位:pH7.5、37℃で、5時間にコラーゲンよりL−ロイシン1μmolを生じる酵素量を1unit (U)とする。)、コード番号:035-17604、和光純薬工業株式会社)、ディスパーゼ(商品名:ディスパーゼII、粉末酵素:300,000PU/g(活性単位:0.6%カゼイン水溶液5ml(pH7.5、0.05mol/Lトリス塩酸緩衝液)に酵素液1mL(50PU/mL、0.05mol/Lトリス塩酸緩衝液)を添加し、30℃で10分間反応後、トリクロロ酢酸試液5mLを加えて反応を停止させる。さらに30℃で30分間静置し、濾過後、275nmの吸光度を測定する。この条件下で1分間に1μgのチロシンに相当するアミノ酸を遊離する酵素量を1PUとする。前記トリクロロ酢酸試液は、無水酢酸ナトリウム18g、トリクロロ酢酸18g及び酢酸18gを600mLの水に溶解し、1mol/L水酸化ナトリウム溶液でpH4.0に調整後、水で1000mLとしたものを使用する。)、製品番号:GD81070、エーディア株式会社)、DNaseI(商品名:ウシ膵臓由来デオキシリボヌクレアーゼI、酵素活性:≧2000 Kunitz units/mg タンパク質(活性単位:1 Kunitz unitは、基質としてDNA(I型又はIII型)を用いたときに、pH5.0、25℃で、1ml、1分間当たり、260nmの吸光度が0.001となる酵素量を意味する。本酵素活性測定は、4.2mM Mg2+を含む83mM酢酸緩衝液中において、3mlの反応としてpH5.0、25℃行われた。)、製品番号:D5025-150KU、シグマ−アルドリッチ社)、ヒアルロニダーゼ(商品名:ウシ睾丸由来ヒアルロニダーゼ、酵素活性:400〜1,000 units/mg 固体(活性単位:1ユニットは、2.0mL反応混液(pH5.7、37°C)で600nmの吸光度を0.330/分の速度での変化を生じさせる単位を意味する(45分間のアッセイ)。)、製品番号:H3506-500MG、シグマ−アルドリッチ社)及びアルブミン(商品名:ウシ血清由来アルブミン(Albumin, from Bovine Serum, Cohn Fraction V, pH7.0)、コード番号:017-17841、和光純薬工業株式会社)を、下記表2の配合割合で含む酵素混合物で、37℃60分間処理された。
【0066】
【表2】
(表中、ヒアルロニダーゼは、ヒアルロニダーゼのDMEM/F12への溶解液(濃度1.5mg/ml)を200μl投与したことを意味する。)
【0067】
3)培養工程
酵素処理された細胞(1×10細胞/ml)は、ポリ−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)−コートディッシュに固定された。前記コートディシュは、DF培地に、B27サプリメント(インビトロジェン社)、20ng/ml塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF;シグマ−アルドリッチ社)、20ng/ml上皮成長因子(EGF;シグマ−アルドリッチ社)、5μg/mlヘパリン(シグマ−アルドリッチ社)、及び抗生物質−抗真菌剤(インビトロジェン社)を加えた。培養は、pH7.4、37℃及び5%COで、無血清下で行った。培地交換は、2〜3日ごとに行い、8日間培養した。細胞の凝集は培養開始から3,4日後に見られ、8日間後にサイズが増大し、凝集を形成した細胞塊が得られた。前記培養によって、オルファクトリースフィア細胞を得ることができた。細胞塊は、光学顕微鏡観察によって、球状形態及び少なくとも50μmの直径(平面形状が円形でない場合は最大径)を有するものを、スフィアと判断した。
【0068】
[実施例2]
1)脊髄損傷モデル動物の調製
基本的な外科的手術及び術後処置は、Aoki, et al., (2010). J Neurosurg Spine 12, 122-130.; Ohnishi et al., 2012, Neuroreport. 2012 Feb 15;23(3):157-61.に記載の方法に従って、実施例1の8週齢雄SDラットを用いて、脊髄損傷モデルラットを作製した。具体的には、実施例1と同様のラットについて、セボフルランとOを用いた麻酔吸入下において、椎弓切除が胸中脊椎骨の7/8で行われた。硬膜の背部表面をさらし、脊髄損傷(SCI)ラットは、SCI(spinal cord injury)機器 (100kdyn;脊椎損傷作製装置、商品名:Infinite Horizon Impactor; 室町機械株式会社製)を用いて、作製された。全てのラットは、毎日、ゲンタマイシン(8mg/kg)を皮下投与された。本実施例に用いた脊髄損傷モデルラットは、中程度の胸部脊髄挫傷を有する成体雄性ラットである。
【0069】
2)オルファクトリースフィア細胞の注入
実施例1で得られたEGFP発現オルファクトリースフィア細胞にトリプシン処理して得られたオルファクトリースフィア細胞をDF培地で希釈して細胞懸濁液を得た。損傷から9日後、定位的注入器(ナリシゲ株式会社)とともに、マイクロガラスピペットに接続されたハミルトン(Hamilton)社製のシリンジを用いて、前記脊髄損傷モデルラットに、マイクロピペットの先端を損傷脊髄の損傷の中心点に挿入して、該細胞懸濁液(0.5×10細胞/μl)を1μl/分で2μl注入した。全てのラットは、細胞注入後7日間、シクロスポリン免疫抑制剤(10mg/kg)及びゲンタマイシン(8mg/kg)を皮下投与された。細胞の注入後、7日間、ラットには損傷の作製から毎日、VPA(150mg/kg)(n=5)又は生理食塩水(n=5)の腹腔内注射を行った(以下、それぞれを「VPA投与群ラット」、「VPA非投与群ラット」という。)。各グループのラットは、細胞の注入から2週間後または4週間後に組織学的検査に供するために、安楽死させた。細胞の注入後、ラットの組織は、100mlPBSと、固定剤(4%パラホルムアルデヒド)を用いて、経心臓的灌流固定された。
【0070】
3)損傷した脊髄への再生効果の免疫染色による観察
前記ラットの脊髄を、凍結組織切片作製用包埋剤であるティシュー・テックO.C.T(Optimal Cutting Temperature)コンパウンド(サクラファインテックジャパン株式会社)に埋め込み、試料を作製した。低温保持装置(商品名:CM1510S;ライカ マイクロシステムズ株式会社)を用いて、前記試料(脊髄を包埋したO.C.Tコンパウンドのブロック)から10μm切片を矢状に切除し、免疫染色用の切片を作製し、免疫染色を行った。
【0071】
前記切片は、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定され、公知の標準プロトコール(例えば、Ueno T et al. Imuunity 2002;16:205-218、高津聖志 編:「抗体実験マニュアル」 羊土社、2011等)に従って免疫染色された。具体的には、前記切片は、1時間室温でブロッキング溶液を用いて培養され、4℃にて一次抗体で一晩培養され、次いで洗浄され、さらに4℃にて二次抗体で一晩培養された。
一次抗体は、抗MAP2(microtubule-associated protein 2、1:200 ウサギポリクローナル; アブカム社(Abcam);抗Olig2(1:300 ヒツジポリクローナル; アブカム社); 抗ICAM−1 (1:200 マウスモノクローナル抗体; アブカム社);抗コンドロイチン硫酸プロテオグリカン 4 (NG2, 1:200 ウサギポリクローナル; ミリポア社(Millipore); 抗APC (CC-1, 1:20 マウスモノクローナル; アブカム社);及び抗EAAT1 (GLAST; glutamate-aspartate transporter; 1:300 ウサギポリクローナル抗体;アブカム社) ; 抗GFP (1:500 ヤギポリクローナル抗体;アブカム社) ; 抗ニューロフィラメント−L(neurofilament-L(NF)、1:100 ウサギモノクローナル抗体; セルシグナリングテクノロジー社(cell signaling Technology)) ; 抗p75 NGFR (1:50 ウサギ モノクローナル抗体; アブカム社) ;抗ミエリン塩基性タンパク(Myelin Basic Protein(MBP)、(1:100 ウサギ ポリクローナル抗体; アブカム社) ;抗ミエリンタンパクゼロ(Myelin Protein Zero(P0)、1:100 ウサギ ポリクローナル抗体; アブカム社) ; 抗GFAP(glial fibrillary acidic protein、1:300 マウスモノクローナル, セルシグナリングテクノロジー社; 及び1:2 ウサギポリクローナル、ダコ社(Dako)); 及び抗受容体相互作用タンパク(RIP(receptor-interacting protein)、1:100 ウサギモノクローナル抗体、セルシグナリングテクノロジー社)であった。
次の日、切片をさらに、DyLight 488−標識ヤギ抗マウス抗体(ヤギ由来の二次抗体)(1:500; KPL社(Kirkegaard and Perry Laboratories, Inc.))、Alexa Fluor(登録商標) 650 ロバ(donkey)抗マウス抗体(1:200; アブカム社)、DyLight 549−標識ヤギ抗ウサギ 抗体(1:200; KPL)、DyLight594−標識ロバ(donkey)抗ウサギ抗体(1:200; アブカム社)、DyLight488−標識ロバ(donkey)抗ヤギ抗体(1:200; アブカム社)、DyLight 594-標識ヤギ 抗ニワトリ抗体(1:200; アブカム社) 及び Cy5−標識ロバ(donkey)抗ヒツジ抗体(1:200; ジャクソンイムノリサーチ社(Jackson ImmunoResearch))で、4℃で一晩培養した。
次いで、これらは、DAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole dihydrochloride、ベクターラボラトリーズ社(Vector Laboratories))で対比染色された。蛍光像は、共焦点レーザー顕微鏡(FV-1000D; オリンパス社)を用いて撮影され、細胞の表現型の決定と細胞数のカウントに使用された。
【0072】
免疫染色の結果を図3及び図4に示す。図3は、脊髄損傷部位周辺の注入されたOS細胞及びホストの組織への組み込まれる様子を示す。データは、少なくとも5検体から得られた。図3左はVPA非投与群の結果を表わし、図3右はVPA投与群を表わす。図3はニューロン細胞体のマーカーであるMAP2(赤色)と緑色蛍光タンパクの共染色の結果を示す。図3に示されるように、MAP2を共発現したオルファクトリースフィア細胞の割合は、VPA投与群及びVPA非投与群について、それぞれ0.6±1.1%及び4.9±0.6%(平均±SD)であった。これはin vivoで、OS細胞がVPAによってニューロンへ分化誘導されたことを示す。切片の縦方向の顕微鏡写真(図4)はホストの実質(parenchyma)に取り込まれたOS細胞(EGFP−陽性細胞)を示す。
【0073】
図4について、以下に説明する。図4から、EGFP−陽性細胞はニューロフィラメントタンパクに近接していた(A)。移植されたオルファクトリースフィア細胞は、ホストの白質に取り込まれ、頭側から尾側へ、軸索に沿って伸長突起を伸長した。EGFP−陽性細胞はp75、NG2、GFAP又はMAP2が共陽性とならなかった(B−D、F)。EGFP−陽性細胞はOlig2を発現したが、NG2を発現しなかった(F−H)。EGFP−陽性細胞は細胞質(アストロサイトマーカー)及び核Olig2(オリゴデンドロサイトマーカー) (G、H、K−M)並びにRIP(P−R)を発現した。図4中、矢印(ピンク)はOlig2の核局在化を示す。EGFP及び核Olig2 二重陽性細胞は、ミエリン化オリゴデンドロサイトの形態を表す形態(ミエリン皮膜を有するように見える多数の複雑な突起)を示した(I、N、S)。EGFP−陽性細胞は、MBP(赤色)と共陽性であった(E、J)。GFP陽性突起は、ミエリン塩基性タンパク(MBP)を発現した。MBPを有するGFP陽性細胞の近接結合から、注入された細胞がミエリン鞘を形成したと考えられる。これらは、OS細胞が宿主脊髄内でオリゴデンドロサイトに分化したことが明らかになった。また軸索に髄鞘形成されていることを示すものである。従って、本発明の薬剤が、軸索を再ミエリン化でき、神経細胞の神経繊維(軸索)を取り囲むミエリン鞘の損失又は損傷によって特徴付けされる疾患又は状態に全般的に有効であり、脱随疾患の治療剤としても有用であることも明らかとなった。オリゴデンドロサイト前駆細胞はシュワン細胞マーカーとしてin vivoにおいて末梢ミエリン関連 (P) タンパク及びPリングを発現する(Zawadzka M, et al. (2010) Cell Stem Cell 6:578-90.)。OS細胞はP タンパクに対してわずかに陽性を示したが、シュワン細胞のミエリン化に特徴的Pリングは認めなかった(O、T)。スケールバーは50μmを表す。
【0074】
[実施例3]
1)分化培養
実施例1の8日間の培養後、OS細胞をポリオルニチンコートされた4ウェルチャンバースライド(Becton Dickinson)又はディッシュ(Asahi Glass Co., Ltd.)に置いた。細胞はN2 (Life Technologies), B27, 20 ng/ml BFGF, 20ng/ml EGF及び抗生物質−抗真菌溶剤のサプリメント含有DF培地で5日間培養された。分離培養のため、スフィアはトリプシン・EDTA (EDTA, Life Technologies)で処理され、ポリオルニチンコートされた4ウェルチャンバースライドに約5×10細胞/ウェルで置かれ、上述のサプリメント含有DF培地で5日間培養された。
【0075】
2)蛍光セルソーター分析(FACS)
上記培養細胞を用いて蛍光セルソーター分析を、FACS Canto II(商品名、BD Biosciences)にて行った。抗体は下記のとおりである:フィコエリトリン(phycoerythrin;PE)-標識マウス抗ラットCD54 (intercellular adhesion molecule 1;ICAM-1) (BD Biosciences)、アロフィコシアニン(Allophycocyanin;APC)-標識マウス抗ラットGLAST抗体(Miltenyi Biotec)、PE−標識アイソタイプコントロールマウスIgG1(BD Biosciences)、APC−標識アイソタイプコントロールマウス IgG2a (Miltenyi Biotec)、抗NG2−フルオレセイン(Fluorescein) (マウスモノクローナル抗体; R&D Systems, Inc.)、抗マウスIgG1 アイソタイプコントロールフルオレセイン (マウス モノクローナル抗体; R&D Systems, Inc.)、抗A2B5−Biotin (Miltenyi Biotec)、抗-マウス IgM−Biotin (Miltenyi Biotec)及び抗Biotin−FITC (Miltenyi Biotec)。OS細胞は37℃において、トリプシン−EDTA及び無酵素細胞解離バッファ(enzyme-free Cell Dissociation Buffer、Life Technologies社)でそれぞれ5分、10分処理し解離させた。OS細胞(1×10)はICAM−1、NG2、GLAST及びA2B5に対する抗体で4℃60分反応させ、洗浄した。さらに、細胞は抗Biotin FITC抗体で4℃30分間培養された。細胞は洗浄され、再懸濁された後、2×10細胞のソーティングの直前に40μmフィルターを通した。データはFLOWJO ソフトウェアv6.2.1 (Tree Star, Ashland OR)を用いて分析した。結果を図5に示す。
【0076】
3)免疫染色
上記1)で培養したOS細胞は4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定され、1時間室温でブロッキング溶液を用いて培養され、4℃にて一次抗体で一晩培養され、次いで洗浄され、さらに4℃にて二次抗体で一晩培養された。前記一次抗体は下記のとおりである:抗MAP2(microtubule-associated protein 2, 1:200 ウサギポリクローナル抗体、アブカム社)、抗β3−tubulin (Tuj1, 1:200 マウスモノクローナル抗体、細胞signaling Technology)、抗グリア細胞繊維性酸性タンパク質(glial fibrillary acidic protein (GFAP), 1:300 マウスモノクローナル抗体、セルシグナリングテクノロジー社又は 1:2 ウサギポリクローナル抗体、ダコ社)、抗O4 (1:200 マウス モノクローナル抗体; Neuromics,)、抗ネスチン((nestin)、1:200 マウスモノクローナル抗体、アブカム社)、抗オリゴデンドロサイト転写因子2(Oligodendrocyte transcription factor 2;Olig2, 1:300 ヒツジポリクローナル抗体; アブカム社)、抗p75 NGF 受容体(1:50 ウサギモノクローナル抗体、アブカム社)、抗PDGFRα (1:200 ウサギ ポリクローナル抗体、アブカム社)、抗受容体相互作用タンパク(receptor-interacting protein (RIP)、1:100 ウサギモノクローナル抗体、セルシグナリングテクノロジー社)。BrdU に対するモノクローナル抗体 BMG6H8(1:10 マウス 5−ブロモ−2−デオキシ−ウリジン標識及び検出キットII, Cat. No. 1 299 964; ロッシュ社(Roche))はベーリンガーマンハイム(Boehringer-Mannheim)から入手した。
二次抗体はDyLight 488−標識ヤギ抗マウス (1:200; KPL), DyLight 549−標識ヤギ 抗ウサギ (1:200; KPL)及び Cy5−標識ロバ(donkey)抗ヒツジ(1:200; ジャクソンイムノリサーチ社)を用いた。
次いで、前記スライドはDAPIで対比染色された。蛍光像は、共焦点レーザー顕微鏡(FV-1000D; オリンパス社)を用いて撮影され、細胞の表現型の決定と細胞数のカウントに使用された。BrdU−, Olig2−, MAP2−及び GFAP−陽性細胞の割合(割合=(陽性細胞/全体の細胞数)×100)は、3つの独立した実験の3つの画像の平均±標準偏差(SD)として示す(図6)。
【0077】
4)逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)
市販品のキット(QIAGEN社)を用いて分化培養から得られたスフィアからRNAを抽出した。Total RNA (1μg)はワンステップ逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)キット (QIAGEN)を用いて逆転写された。プライマー及び期待される単位複製配列(amplicon)塩基対(bp)のサイズは以下のとおりである:
Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (Gapdh),
forward:CCTCTGGAAAGCTGTGGCGT(配列番号1)
reverse:TTGGAGGCCATGTAGGCCAT(配列番号2), 430 bp;
Nestin (Nes),
forward:CAGGCTTCTCTTGGCTTTCTGG(配列番号3)
reverse:TGGTGAGGGTTGAGGTTTGT(配列番号4), 431 bp;
tubulin, beta 3 class III (Tubb3),
forward:TGCGTGTGTACAGGTGAATGC(配列番号5)
reverse:AGGCTGCATAGTCATTTCCAAG(配列番号6), 240 bp;
glial fibrillary acidic protein (Gfap),
forward:ACCTCGGCACCCTGAGGCAG(配列番号7)
reverse:CCAGCGACTCAACCTTCCTC(配列番号8), 141 bp;
S100 protein, beta polypeptide, neural (S100β)),
forward:GGATGTCTGAGCTGGAGAAG(配列番号9)
reverse:ACTCCTGGAAGTCACACTCC(配列番号10), 222 bp;
2',3'-cyclic nucleotide 3' phosphodiesterase (Cnp),
forward:CCGGAGACATAGTGCCCGCA(配列番号11)
reverse:AAAGCTGGTCCAGCCGTTCC(配列番号12), 450 bp.
【0078】
逆転写は50℃30分行った。PCRは94℃で30秒、56℃で40秒、72℃で50秒のサイクルで行った。Gapdh、S100β及びCnpのPCRサイクル数は30であり、Nes、Tubb3及びGfapのPCRサイクル数は40であった。結果を図5Gに示す。図5G中、T(-)は テンプレートがないものを示し、T(+)はテンプレートが存在するものを示す。
図5Gに示されるように、RT−PCRでは、分化培養において、OS細胞はGfap、グリア(glial)由来S100β、オリゴデンドロサイトマーカー遺伝子2’,3’−サイクリック−ヌクレオチド 3’−ホスホジエステラーゼ(2',3'-cyclic-nucleotide 3'-phosphodiesterase;Cnp) (Kim SU et al., (1984) Brain Res 300:195-199.; Watanabe M et al., (2006) J Neurosci Res 84:525-533.)及びNg2を発現したが、Tuj1及びNesの発現はわずかであった。S100βはアストロサイト、シュワン細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞及びオリゴデンドロサイト(Cahoy JD et al., (2008) J Neurosci 28:264-278)によって発現される。
【0079】
免疫蛍光染色の結果から、OS細胞はICAM−1、NG2(オリゴデンドロサイト前駆細胞マーカー)、Olig2(オリゴデンドロサイト前駆細胞マーカー)、PDGFRα(オリゴデンドロサイト前駆細胞マーカー)及びネスチン(nestin)に陽性であった(図5A)。OS細胞は、スフィアの内側及び外側において、BrdU染色を示した(図5A)。OS細胞はオリゴデンドロサイト前駆体マーカー及び神経幹細胞マーカーを発現する。FACS分析から、OS細胞はGLAST及びNG2が弱陽性であった(図5B)。
【0080】
FACS分析では、前記GLAST−陽性及び弱陽性であったフラクションは、観察された当該細胞の72.02%であり(図5Cのsubset 1 + subset 2)、前記NG2−陽性及び弱陽性であったフラクションは、72.37%であった(図5Dのsubset 1 + subset 2)。前記 GLAST−陽性及びNG2−陽性フラクションは、それぞれ3.12% (subset 1)及び1.37% (subset 1)であった(図5C、D)。細胞の多くは、GLAST及びNG2に弱陽性であった。PE、APC及びFITC−蛍光発光のヒストグラムから、OS細胞はICAM−1陽性であり、GLAST及びNG2に陽性及び弱陽性であることがわかった。OPCは、しばしばA2B5によって同定される (Raff MC et al., (1983) Nature 303:390-396; Espinosa de los Monteros A, et al., (1993) Proc Natl Acad Sci U S A. 90(1):50-4; Baracskay KL et al., (2007) Glia 55:1001-10)。 組み合わせFACS分析から、OS細胞の23.5%はGLAST及びA2B5に対して二重陽性であった。一方、ネガティブコントロールのOS細胞の7.48%は GLAST及びA2B5に対して二重陽性であった(図5E)。A2B5−陽性フラクションは28.44%であった。一方、ネガティブコントロールのOS細胞の8.01%はA2B5−陽性であった。前記GLAST−陽性A2B5陰性フラクションは4.86%であり、ネガティブコントロールは1.64%であった。組み合わせFACS分析から、OS細胞は、A2B5+GLAST+集団及びA2B5+GLAST−集団を含むことが明らかとなった。これらの結果から、OS細胞はOPCとアストロサイトマーカーを発現する亜集団を含むということが示された。
自律的分化培養由来のOS細胞は、免疫組織染色とRT−PCRよりRIP (分化したオリゴデンドロサイトのマーカー) (Friedman B et al., (1989) Glia 2:380-390.) とCNPase (分化したオリゴデンドロサイトのマーカー)に陽性であったが、GFAP及びTuj1には弱陽性であった(図5F)。
【0081】
ヒト及びネズミのOS細胞は、ネスチン、O4、Tuj1及びGFAP (Murdoch B et al., (2008) J Neurosci 28:4271-4282; Tome M et al., (2009) Stem cells 27:2196-2208)を発現するが、我々の知る限りでは、分化したOS細胞の定量分析は行われていない。OS細胞は、細胞質Olig2(アストロサイトのマーカー)、核Olig2(オリゴデンドロサイトのマーカー)又はその両方に陽性であったが、核Olig2発現は、細胞の67.4 ± 9.8%の核で検出され、4.4 ± 1.9%はGFAP−陽性(アストロサイトマーカー)であり、9.5 ± 3.1%はMAP2−陽性(ニューロンマーカー)であった(図6)。
OS細胞は核Olig2、O4(オリゴデンドロサイトマーカー)及びRIPに陽性であったが、GFAP、MAP2、Tuj1及びp75には微陽性であった(図6)。p75陽性細胞はほとんど認めなかった(図6)。核Olig2−陽性細胞の多くはO4を共発現し、RIPに陽性であった(図6)。RIP−陽性細胞は、成熟オリゴデンドロサイトに特徴的な分岐した形態を示した(図6)。これらは、OS細胞がin vitroでオリゴデンドロサイトに分化したことを表す。
細胞増殖は、DNA合成時に組み込まれるチミジンのアナログであるBrdUを用いて評価した。OS細胞は、スフィアの内側及び外側において、BrdUを用いて染色された(図5A)。BrdUはOS細胞の6.7 ± 2.9% (平均±SD)に取り込まれていた(図6)。前記割合は3つの独立した実験の平均±SDを表す。スケールバーは20μmを表す。
【0082】
[試験例1]
実施例2の1)と同様にして調製した脊髄損傷モデルラットに1週間毎日シクロスポリン免疫抑制剤(10mg/kg)及びゲンタマイシン(8mg/kg)を皮下投与した。
また、実施例1で得られたEGFP発現オルファクトリースフィア細胞にトリプシン処理して得られたオルファクトリースフィア細胞をDF培地で希釈して細胞懸濁液を得た。
損傷から9日後、定位的注入器(ナリシゲ株式会社)とともに、マイクロガラスピペットに接続されたハミルトン(Hamilton)社製のシリンジを用いて、前記脊髄損傷モデルラットに、マイクロピペットの先端を損傷の中心点に挿入して、該細胞懸濁液(2.5×10細胞/μl)を1μl/分で2μl注入した。
全てのラットは、細胞注入後7日間、シクロスポリン免疫抑制剤(10mg/kg)及びゲンタマイシン(8mg/kg)を皮下投与された。
上記のようにして得られたOS細胞投与群ラット、実施例2の脊髄損傷モデルラット(非投与群)及び実施例2の脊髄損傷モデルラットにDF培地のみを注入したラット(ビヒクル投与群)について、BBBスコア(試験例1参照)で運動機能を評価した。BBBスコア(Basso-Beattie-Bresnahan Locomotor法;実験動物の後肢の運動機能を評価するシステム;Journal of Neurotrauma、12、1-21頁、1995年;オープンフィールドでの動物の動きを複数の観察者が目視で観察し、その機能を0[完全麻痺]〜21[正常]の21段階で測定、記録し評価する)で運動機能を評価した。本試験では、2名の観察者が、細胞注入前、細胞注入から1週間後及び細胞注入から2週間後の各段階で、運動機能を評価した。データは、1要因分散分析(ANOVA)に供した。F値が有意である場合、Tukey's post-hoc検定を行った。すべての場合において、有意な値は、P<0.05又はP<0.01に設定された。データは、特に示されない限り、平均±標準偏差で示す。
【0083】
非投与群のBBBスコアは、細胞注入前の0.6±0.5から、1.6±1.1、5.3±0.5、6.3±0.5及び7.3±0.5(それぞれ細胞注入から1、2、3、4週間後)であった(n=3)。
ビヒクル投与群のBBBスコアは、細胞注入前の0.3±0.5から、3.3±1.5、5.3±1.5、7.3±0.5及び8.3±0.5(それぞれ細胞注入から1、2、3、4週間後)であった(n=4)。
OS細胞投与群のBBBスコアは、細胞注入前の0から、2.6±0.5、7.6±0.5、10.0±1.0及び11.0±1.0(それぞれ細胞注入から1、2、3、4週間後)に改善された(n=5)。結果を図7に示す。
非投与群及びビヒクル投与群では、有意差がなかったが、OS細胞投与群ラットは運動機能において有意に差が見られた。
【0084】
以上のことから、in vivoにおいて、本発明のOS細胞が再髄鞘形成の能力を有し、軸索を再ミエリン化できることが確認された。よって、本発明の薬剤は、神経細胞の神経繊維(軸索)を取り囲むミエリン鞘の損失又は損傷によって特徴付けされる疾患又は状態に全般的に有効であり、脱随疾患の治療剤としても運動機能改善剤としても有用であることも明らかとなった。
【0085】
[試験例2]
実施例1の8週齢雄SDラットと同じラットを用いて、セボフルランとOを用いた麻酔吸入下に、両側伏在神経を暴露し、両足の伏在神経を切断した。神経切片は、近位及び遠位断端間に、10mmギャップを形成するように、切除された。
右伏在神経では、OS細胞を含まず、かつコラーゲンゲル(商品名:セルマトリックス(Cellmatrix)Type I−A;ブタ腱由来、酸可溶性;濃度3.0mg/ml, pH3.0;新田ゼラチン株式会社)を含むシリコンチューブ(内径:2mm、外径:3mm、長さ:10mm)を用いて、近位及び遠位神経断端を含むように包んだ。
左伏在神経では、OS細胞(実施例1で得られたEGFP発現OS細胞をトリプシン処理したもの;3×10 cells/μl)と前記コラーゲンゲルを含有するシリコンチューブ(内径:2mm、外径:3mm、長さ:10mm)を用いて、近位及び遠位神経断端を含むように包んだ。前記コラーゲンゲル(商品名:セルマトリックス(Cellmatrix)Type I−A)で培養された細胞はin vivoに近い三次元形態で増殖する。
【0086】
ラット組織はOS細胞投与から2週間後に検査した。前記伏在神経は4%PFAで一晩固定され、30%スクロース中で抗凍結保護し、ティシュー・テックO.C.Tコンパウンド(サクラファインテックジャパン株式会社)に埋め込み、凍結させて試料を作製した。低温保持装置を用いて、前記試料から軸方向に切除し、切片(10μm厚さ)を作製した。OS細胞投与から2週間後に両者のチューブ内を観察すると、明らかにOS細胞を含んだコラーゲンゲル中において、末梢神経軸索の再生が促進していた。結果を図8A,Fに示す。スケールバーは、A、Fでは2mmを表す。図8Aに示されるように、コラーゲンゲルのみでは、髄鞘は形成されていなかったが、図8Fに示されるように、OS細胞を含むコラーゲンゲル中では髄鞘が形成されていた。OS細胞の存在下での再生した神経に比べ、OS細胞の不存在下で再生した神経は脆弱であった。軸索再生によってギャップがなくなった(神経線維の再結合が認められた)割合は、OS細胞を含むチューブでは100%であり(n=9)、OS細胞を含まないチューブでは55%であった(n=9)。両方のサンプルについて、再生軸索の中間部位での軸索断面積を画像分析ソフト(Image J, version 1.44)を用いて測定した。再生軸索の中間部位での軸索断面積は、OS細胞を含むチューブでは113.2±38.9mmであり(n=8)、OS細胞を含まないチューブでは25.9±1.7mmであった(n=4)。OS細胞を末梢神経に接触させることで、末梢神経軸索の再生を促進できた。損傷した末梢神経への臨床的な利用のために、自家シュワン細胞を獲得、維持することが難しい場合であっても、OS細胞がシュワン細胞に分化できるため、本発明を用いることで、そのような臨床的な利用も可能となる。
【0087】
伏在神経部位は、抗−GFP (1:500 ヤギポリクローナル; アブカム社), 抗−peripherin (1:100 ニワトリポリクローナル; アブカム社), 抗EGR2 (krox20, 1:50 ウサギポリクローナル; アブカム社), 抗Sox10 (1:200 ウサギポリクローナル; アブカム社)、抗ミエリンタンパクゼロ(Myelin Protein Zero(P0)、1:100 ウサギ ポリクローナル抗体; アブカム社) ;及び抗S100β (1:200ウサギポリクローナル; アブカム社)を一次抗体として染色された。
二次抗体は、DyLight 488−標識ロバ抗ヤギ IgG H&L (1:100; アブカム社), DyLight 594−標識ヤギ抗ニワトリ IgY H&L (1:100; アブカム社)及び DyLight 594−標識ロバ抗ウサギ IgG H&L (1:100; アブカム社)であった。蛍光像は、共焦点レーザー顕微鏡(FV-1000D; オリンパス社)を用いて撮影された。
【0088】
免疫染色の結果を、図8に示す。図8について、以下に説明する。B〜Eは、OS細胞非投与群(コントロール)を表わし、G〜QはOS細胞投与群を表わす。B及びGはDAPI染色の結果を示す。C及びHは緑色蛍光タンパクの染色の結果を示し、D及びIはペリフェリン(Peripherin)免疫染色の結果を示す。E及びJはKrox20免疫染色の結果を示す。Kはシュワン細胞のマーカーであるS100β(赤色)と緑色蛍光タンパクの共染色の結果を示す。Kでは、DAPIが青を示し、S100βとEGFPが共に陽性となるものが黄色を示す。Lは末梢神経軸索のマーカーであるペリフェリン(Yuan A, et al., (2012). J Neurosci 32:8501-8508.)(赤色)と緑色蛍光タンパクの共染色の結果を示す。LはEGFP陽性細胞が末梢神経軸索に分化しないことを示す。Mはシュワン細胞のマーカーであるKrox20(Topilko P, et al., (1994). Nature 27:796-799.; Ghislain J, et al., (2002) Development 129:155-166.)(赤色)と緑色蛍光タンパクの共染色の結果を示す。NはDAPIとシュワン細胞のマーカーであるSox10(Bremer M, et al., (2011). Glia 59:1022-1032.)(赤色)と緑色蛍光タンパクの共染色の結果を示す。Oは、DAPIと緑色蛍光タンパクの共染色の結果を示す。Pは、DAPIとシュワン細胞のマーカーであるPとの共染色の結果を示す。Qは、DAPIと緑色蛍光タンパクとPの共染色の結果を示す。スケールバーは、B〜E及びG〜Jでは50μmを表し、K〜Qでは20μmを表す。OS細胞の存在下での再生した神経に比べ、OS細胞の不存在下で再生した神経の断面のDAPI−EGFP陽性領域は、より小さかった(B、C、G、H)。ペリフェリンは全ての再生した神経で観察された(D、I)。一方、Krox20は、OS細胞で処理した神経において発現した(E、J)。EGFP陽性細胞はKrox20、Sox10及びS100βに陽性であったが(K、M、N)、ペリフェリンには陽性ではなかった(L)。EGFP陽性細胞は、Pタンパクと共局在化し、Pリングを形成した(O、P、Q)。A〜Qから、OS細胞が宿主末梢神経軸索でシュワン細胞に分化したことが明らかになった。
【0089】
以上のことから、本発明を用いて、末梢神経軸索の再生を促進できることが確認された。よって、本発明の薬剤は、末梢神経軸索の再生増強剤としても有用であることも明らかとなった。
【0090】
細胞質Olig2はアストロサイト前駆体のマーカーである。脳損傷において、細胞質又は核Olig2局在化とアストロサイトへの分化が関連することが知られている(Magnus T et al., (2007) J Neurosci Res 85:2126-2137; Tatsumi K et al., (2008) J Neurosci Res 86:3494-3502; Zhao JW et al., (2009) Eur J Neurosci 29:1853-1869)。OPCは、アストロサイトさらには、オリゴデンドロサイトの亜集団を生成する(Zhu X et al., (2008) Development 135:145-157)。 Komitova et al.の研究(Komitova M et al., (2011) Glia 59:800-9.)が示唆するのは、大脳新皮質において、OPCは反応性アストロサイトのメジャーソースではないということである。OPCは、NG2、PDGFRα及びA2B5の発現によって同定され得る。A2B5−陽性OPCは、in vitroにて、無血清培地においてオリゴデンドロサイトを生成し、血清含有培地においてタイプIIアストロサイトを生成するため(Raff MC et al., (1983) Nature 303:390-396)、「O2A細胞」と称される。
上記の本実験では、OS細胞はNG2、PDGFRα、A2B5及びGLASTを発現した。GLASTはアストロサイトのマーカーである。ほとんどすべてのOS細胞はin vitroでは核Olig2、O4及びRIPに陽性であった。投与されたGFP−陽性OS細胞のいくつかは細胞質Olig2、GFAP及びTuj1を発現した。再ミエリン化の開始時に、OPC及びオリゴデンドロサイトの両方のマーカーは同定され得るが、NG2及びGFAPではない(Fancy SP et al., (2004) Mol Cell Neurosci 27:247-54)。実験では、投与された EGFP− 及び核 Olig2−二重陽性細胞は分化したオリゴデンドロサイトの形態的な特徴を示した。投与されたOS細胞はRIP及びMBPに陽性であったが、NG2及びGFAPには陽性ではなかった。これらの知見が示すのは、OS細胞は、in vitro及びin vivoにおいて、オリゴデンドロサイトに分化したが、アストロサイトには分化しなかったということである。
【0091】
以上のように、本発明によれば、中枢神経系及び末梢神経系のいずれに対しても、優れた治療効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の方法を用いることにより、細胞工学的、遺伝子工学的手法を用いずに、オルファクトリースフィア細胞を安全に単離することができる。また、本発明の方法は、フローサイトメトリーによる細胞の選別の必要がなく、従来の抗体を用いた単離方法と比べ、作業行程は簡素化され、工業的に実用化でき、有利である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]