特許第6243683号(P6243683)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立ビルシステムの特許一覧

<>
  • 特許6243683-エレベータのドラムブレーキの点検装置 図000002
  • 特許6243683-エレベータのドラムブレーキの点検装置 図000003
  • 特許6243683-エレベータのドラムブレーキの点検装置 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243683
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】エレベータのドラムブレーキの点検装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20171127BHJP
   F16D 66/00 20060101ALI20171127BHJP
   F16D 65/00 20060101ALI20171127BHJP
   B66B 11/08 20060101ALI20171127BHJP
   F16D 66/02 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   B66B5/00 G
   F16D66/00 Z
   F16D65/00 E
   B66B11/08 G
   F16D66/02 L
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-198682(P2013-198682)
(22)【出願日】2013年9月25日
(65)【公開番号】特開2015-63373(P2015-63373A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北原 博道
【審査官】 中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第03/002448(WO,A1)
【文献】 特開平10−019523(JP,A)
【文献】 特開2013−086930(JP,A)
【文献】 特開2011−121669(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/008033(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00
B66B 11/08
F16D 65/00−66/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータに備えられる巻上機の回転軸と一体的に回転するブレーキドラムと、前記ブレーキドラムに押し付けられることで前記回転軸を制動し、前記ブレーキドラムから離間することで前記回転軸の回転を許可するブレーキパッドとを備えるドラムブレーキに適用される点検装置であって、
前記ブレーキパッドが固定されたパッドベースが吸引したことを検知して検知信号を出力する検知器と、
前記ドラムブレーキを撮影するカメラと、
前記カメラからの撮像信号に基づいて前記ドラムブレーキの診断に係る処理を行う処理装置と、前記処理装置での処理に係る基準パターン及び許容範囲を記憶する補助記憶部とを備えており、
前記処理装置は、
前記カメラにより撮影されたものに基づき画像データを作成する画像データ作成部と、
前記画像データ作成部で作成された画像を前記補助記憶部に記憶された基準パターンに基づき認識するパターン認識部と、
前記パターン認識部で認識された像中の前記ブレーキパッドの厚さ寸法を計測する寸法計測部と、
前記検知器から検知信号が入力された状態において、前記寸法計測部による前記厚さ寸法の計測値が前記補助記憶部に記憶された許容範囲内の値であるか否かを判定する寸法判定部と、
前記寸法計測部による前記厚さ寸法の計測値、及び前記寸法判定部による前記厚さ寸法の計測値が前記補助記憶部に記憶された許容範囲内の値であるか否かの判定結果を送信する通信部とを有しており
通信回線を介して前記ドラムブレーキの遠隔監視を行う監視センタに接続されており、前記通信部から送信された前記寸法計測部による前記厚さ寸法の計測値、及び前記寸法判定部による前記厚さ寸法の計測値が前記補助記憶部に記憶された許容範囲内の値であるか否かの判定結果を、定期的に前記監視センタに通報する監視装置を備えることを特徴とするエレベータのドラムブレーキの点検装置。
【請求項2】
エレベータの巻上機の回転軸と一体的に回転するブレーキドラムと、前記ブレーキドラムに接触することで前記回転軸を制動し、前記ブレーキドラムから離間することで前記回転軸の回転を許可するブレーキパッドとを備えるドラムブレーキに適用される点検装置であって、
前記ブレーキパッドが固定されたパッドベースが吸引したことを検知して検知信号を出力する検知器と、
前記ドラムブレーキを撮影するカメラと、
前記カメラからの撮像信号に基づいて前記ドラムブレーキの診断に係る処理を行う処理装置と、前記処理装置での処理に係る基準パターン及び許容範囲を記憶する補助記憶部とを備えており、
前記処理装置は、
前記カメラにより撮影されたものに基づき画像データを作成する画像データ作成部と、
前記画像データ作成部で作成された画像を前記補助記憶部に記憶された基準パターンに基づき認識するパターン認識部と、
前記パターン認識部で認識された像中の前記ブレーキパッドと前記ブレーキドラムとの間隔寸法を計測する寸法計測部と、
前記検知器から検知信号が入力された状態において、前記寸法計測部による前記間隔寸法の計測値が、前記補助記憶部に記憶された許容範囲内の値であるか否かを判定する寸法判定部と、
前記寸法計測部による前記間隔寸法の計測値、及び前記寸法判定部による前記間隔寸法の計測値が前記補助記憶部に記憶された許容範囲内の値であるか否かの判定結果を送信する通信部とを有しており
通信回線を介して前記ドラムブレーキの遠隔監視を行う監視センタに接続されており、前記通信部から送信された前記寸法計測部による前記間隔寸法の計測値、及び前記寸法判定部による前記間隔寸法の計測値が前記補助記憶部に記憶された許容範囲内の値であるか否かの判定結果を、定期的に前記監視センタに通報する監視装置を備えることを特徴とするエレベータのドラムブレーキの点検装置。
【請求項3】
請求項1に記載のエレベータのドラムブレーキの点検装置において、
前記寸法計測部は、前記ブレーキパッドの周方向における一端部と他端部の両方の厚さ寸法を計測し、
前記寸法判定部は、前記一端部の厚さ寸法および前記他端部の厚さ寸法のそれぞれが許容範囲内の値か否かを判定することを特徴とするエレベータのドラムブレーキの点検装置。
【請求項4】
請求項2に記載のエレベータのドラムブレーキの点検装置において、
前記寸法計測部は、前記ブレーキパッドの周方向における一端部および他端部のそれぞれと前記ブレーキドラムとの前記間隔寸法を計測し、
前記寸法判定部は、前記一端部と前記ブレーキドラムとの前記間隔寸法および前記他端部と前記ブレーキドラムとの前記間隔寸法のそれぞれが許容範囲内の値か否かを判定することを特徴とするエレベータのドラムブレーキの点検装置。
【請求項5】
エレベータに備えられる巻上機の回転軸と一体的に回転するブレーキドラムと、ブレーキパッドと、前記ブレーキパッドが固定されるパッドベースと、前記パッドベースを前記ブレーキドラムから離れる方向に吸引することで前記ブレーキパッドを前記ブレーキドラムから離間させるコイルとを備えるドラムブレーキに適用される点検装置であって、
前記パッドベースが吸引したことを検知して検知信号を出力する検知器と、
前記ドラムブレーキを撮影するカメラと、
前記カメラからの撮像信号に基づいて前記ドラムブレーキの診断に係る処理を行う処理装置と、前記処理装置での処理に係る基準パターン及び許容範囲を記憶する補助記憶部とを備えており、
前記処理装置は、
前記カメラにより撮影されたものに基づき画像データを作成する画像データ作成部と、
前記画像データ作成部で作成された画像を前記補助記憶部に記憶された基準パターンに基づき認識するパターン認識部と、
前記パターン認識部で認識された像中の前記パッドベースと前記ブレーキドラムとの間隔寸法を計測する寸法計測部と、
前記検知器から検知信号が入力された状態において、前記寸法計測部による前記間隔寸法の計測値が前記補助記憶部に記憶された許容範囲内の値であるか否かを判定する寸法判定部と、
前記寸法計測部による前記間隔寸法の計測値、及び前記寸法判定部による前記間隔寸法の計測値が前記補助記憶部に記憶された許容範囲内の値であるか否かの判定結果を送信する通信部とを有しており
通信回線を介して前記ドラムブレーキの遠隔監視を行う監視センタに接続されており、前記通信部から送信された前記寸法計測部による前記間隔寸法の計測値、及び前記寸法判定部による前記間隔寸法の計測値が前記補助記憶部に記憶された許容範囲内の値であるか否かの判定結果を、定期的に前記監視センタに通報する監視装置を備えることを特徴とするエレベータのドラムブレーキの点検装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの巻上機の回転を制動するドラムブレーキを点検するエレベータのドラムブレーキの点検装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エレベータの電磁ブレーキ点検装置が開示されている。このエレベータの電磁ブレーキの点検装置は、ブレーキディスクを固定プレートと可動プレートとによって挟持することで制動力を発生する電磁ブレーキ装置に、可動プレートに連動して当該可動プレートよりも大きく変位する被検出体を設け、その被検出体の変位量を距離センサによって検出する。そして、制御装置の異常寸法判定部が、距離センサの出力に基づき、ブレーキディスクの異常摩耗の有無を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−148578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたエレベータの電磁ブレーキ点検装置は、ブレーキディスクを固定プレートと可動プレートとによって挟持することで制動力を発生する電磁ブレーキ装置、すなわち、ディスクブレーキに適用されるものである。
【0005】
エレベータの巻上機の制動に用いられるブレーキには、ディスクブレーキの他に、ドラムブレーキがある。前述のように、特許文献1に開示されたエレベータの電磁ブレーキ点検装置はディスクブレーキに適用されるものであるので、ドラムブレーキの点検には用いることができない。
【0006】
本発明は前述の事情を考慮してなされたものであり、その目的は、エレベータの巻上機の回転を制動するドラムブレーキの異常を診断することができるエレベータのドラムブレーキの点検装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の目的を達成するために本発明に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置は次のように構成されている。
【0008】
〔1〕 本発明に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置は、エレベータに備えられる巻上機の回転軸と一体的に回転するブレーキドラムと、前記ブレーキドラムに押し付けられることで前記回転軸を制動し、前記ブレーキドラムから離間することで前記回転軸の回転を許可するブレーキパッドとを備えるドラムブレーキに適用される点検装置であって、前記ブレーキパッドが固定されたパッドベースが吸引したことを検知して検知信号を出力する検知器と、前記ドラムブレーキを撮影するカメラと、前記カメラからの撮像信号に基づいて前記ドラムブレーキの診断に係る処理を行う処理装置と、前記処理装置での処理に係る基準パターン及び許容範囲を記憶する補助記憶部とを備えており、前記処理装置は、前記カメラにより撮影されたものに基づき画像データを作成する画像データ作成部と、前記画像データ作成部で作成された画像を前記補助記憶部に記憶された基準パターンに基づき認識するパターン認識部と、前記パターン認識部で認識された像中の前記ブレーキパッドの厚さ寸法を計測する寸法計測部と、前記検知器から検知信号が入力された状態において、前記寸法計測部による前記厚さ寸法の計測値が前記補助記憶部に記憶された許容範囲内の値であるか否かを判定する寸法判定部と、前記寸法計測部による前記厚さ寸法の計測値、及び前記寸法判定部による前記厚さ寸法の計測値が前記補助記憶部に記憶された許容範囲内の値であるか否かの判定結果を送信する通信部とを有しており、通信回線を介して前記ドラムブレーキの遠隔監視を行う監視センタに接続されており、前記通信部から送信された前記寸法計測部による前記厚さ寸法の計測値、及び前記寸法判定部による前記厚さ寸法の計測値が前記補助記憶部に記憶された許容範囲内の値であるか否かの判定結果を、定期的に前記監視センタに通報する監視装置を備えることを特徴とする。
【0009】
〔2〕 本発明に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置は、エレベータの巻上機の回転軸と一体的に回転するブレーキドラムと、前記ブレーキドラムに接触することで前記回転軸を制動し、前記ブレーキドラムから離間することで前記回転軸の回転を許可するブレーキパッドとを備えるドラムブレーキに適用される点検装置であって、前記ブレーキパッドが固定されたパッドベースが吸引したことを検知して検知信号を出力する検知器と、前記ドラムブレーキを撮影するカメラと、前記カメラからの撮像信号に基づいて前記ドラムブレーキの診断に係る処理を行う処理装置と、前記処理装置での処理に係る基準パターン及び許容範囲を記憶する補助記憶部とを備えており、前記処理装置は、前記カメラにより撮影されたものに基づき画像データを作成する画像データ作成部と、前記画像データ作成部で作成された画像を前記補助記憶部に記憶された基準パターンに基づき認識するパターン認識部と、前記パターン認識部で認識された像中の前記ブレーキパッドと前記ブレーキドラムとの間隔寸法を計測する寸法計測部と、前記検知器から検知信号が入力された状態において、前記寸法計測部による前記間隔寸法の計測値が、前記補助記憶部に記憶された許容範囲内の値であるか否かを判定する寸法判定部と、前記寸法計測部による前記間隔寸法の計測値、及び前記寸法判定部による前記間隔寸法の計測値が前記補助記憶部に記憶された許容範囲内の値であるか否かの判定結果を送信する通信部とを有しており、通信回線を介して前記ドラムブレーキの遠隔監視を行う監視センタに接続されており、前記通信部から送信された前記寸法計測部による前記間隔寸法の計測値、及び前記寸法判定部による前記間隔寸法の計測値が前記補助記憶部に記憶された許容範囲内の値であるか否かの判定結果を、定期的に前記監視センタに通報する監視装置を備えることを特徴とする。
【0010】
〔3〕 本発明に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置は、エレベータに備えられる巻上機の回転軸と一体的に回転するブレーキドラムと、ブレーキパッドと、前記ブレーキパッドが固定されるパッドベースと、前記パッドベースを前記ブレーキドラムから離れる方向に吸引することで前記ブレーキパッドを前記ブレーキドラムから離間させるコイルとを備えるドラムブレーキに適用される点検装置であって、前記パッドベースが吸引したことを検知して検知信号を出力する検知器と、前記ドラムブレーキを撮影するカメラと、前記カメラからの撮像信号に基づいて前記ドラムブレーキの診断に係る処理を行う処理装置と、前記処理装置での処理に係る基準パターン及び許容範囲を記憶する補助記憶部とを備えており、前記処理装置は、前記カメラにより撮影されたものに基づき画像データを作成する画像データ作成部と、前記画像データ作成部で作成された画像を前記補助記憶部に記憶された基準パターンに基づき認識するパターン認識部と、前記パターン認識部で認識された像中の前記パッドベースと前記ブレーキドラムとの間隔寸法を計測する寸法計測部と、前記検知器から検知信号が入力された状態において、前記寸法計測部による前記間隔寸法の計測値が前記補助記憶部に記憶された許容範囲内の値であるか否かを判定する寸法判定部と、前記寸法計測部による前記間隔寸法の計測値、及び前記寸法判定部による前記間隔寸法の計測値が前記補助記憶部に記憶された許容範囲内の値であるか否かの判定結果を送信する通信部とを有しており、通信回線を介して前記ドラムブレーキの遠隔監視を行う監視センタに接続されており、前記通信部から送信された前記寸法計測部による前記間隔寸法の計測値、及び前記寸法判定部による前記間隔寸法の計測値が前記補助記憶部に記憶された許容範囲内の値であるか否かの判定結果を、定期的に前記監視センタに通報する監視装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
「〔1〕」に記載の本発明に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置において、ブレーキパッドの厚さ寸法の計測値を許容範囲外であると判定することは、ブレーキパッドの状態を使用限度を超えて摩耗した異常な状態であると診断することを意味する。したがって、「〔1〕」に記載の本発明に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置は、エレベータの巻上機の回転を制動するドラムブレーキの異常すなわち、使用限度を超えたブレーキパッドの異常を診断することができる。
【0012】
「〔2〕」に記載の本発明に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置において、ブレーキパッドとブレーキドラムとの間隔寸法の計測値を許容範囲外であると判定することは、ブレーキパッドの状態を使用限度を超えて摩耗した異常な状態であると診断することを意味する。したがって、「〔2〕」に記載の本発明に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置は、エレベータの巻上機の回転を制動するドラムブレーキの異常すなわち、使用限度を超えたブレーキパッドの摩耗を診断することができる。
【0013】
「〔3〕」に記載の本発明に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置において、パッドベースとブレーキドラムとの間隔寸法の計測値を許容範囲内の値であるか否かを判定することは、パッドベースに動作不良が生じた異常な状態であると診断することを意味する。したがって、「〔3〕」に記載の本発明に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置は、エレベータの巻上機の回転を制動するドラムブレーキの異常すなわち、パッドベースの動作不良を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置のブロック図である。
図2図1に示したドラムブレーキにおいて、ブレーキドラムの内周面にブレーキパッドが押し付けられた状態を示す図である。
図3図1に示した点検装置において、寸法計測部により計測されるブレーキドラムとブレーキパッドとの間隔寸法、および、ブレーキパッドの厚さ寸法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置について図1図3を用いて説明する。
【0016】
本発明の一実施形態に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置は、図1に示す点検装置20である。この点検装置20は、エレベータに備えられる巻上機(図示してない)の回転を制動するドラムブレーキ1に適用されるものである。
【0017】
ドラムブレーキ1は内拡式ドラムブレーキであり、巻上機の回転軸と一体的に回転するブレーキドラム2と、このブレーキドラム2の内側に位置し、巻上機のハウジング(図示してない)に対して固定された固定ベース3と、この固定ベース3に固定された1対のコイル4A,4Bと、一方のコイル4Aに固定されたパッドベース5Aと、他方のコイル4Bに固定されたパッドベース5Bと、一方のパッドベース5Aに固定されたブレーキパッド6Aと、他方のパッドベース5Bに固定されたブレーキパッド6Bと、一方のパッドベース5Aを固定ベース3側からブレーキドラム2の内周面に向かう方向に付勢するスプリング7Aと、他方のパッドベース5Bを固定ベース3側からブレーキドラム2の内周面に向かう方向に付勢するスプリング7Bとを備える。
【0018】
コイル4A,4Bは同時に励磁される。コイル4A,4Bが励磁された状態において、パッドベース5Aはスプリング7Aによる付勢に抗してコイル4Aに吸引された状態となり、パッドベース5Bはスプリング7Bによる付勢に抗してコイル4Bに吸引された状態となる。この状態において、ブレーキパッド6A,6Bは、図1に示すように、ブレーキドラム2の内周面から固定ベース3の方向に離れた状態に維持され、これにより、巻上機の回転軸は回転を許可された状態に維持される。
【0019】
コイル4A,4Bが励磁されてない状態においては、図2に示すように、パッドベース5Aがスプリング7Aにより付勢されることで、ブレーキパッド6Aがブレーキドラム2の内周面に押し付けられた状態に維持され、パッドベース5Bがスプリング7Bにより付勢されることで、ブレーキパッド6Bがブレーキドラム2の内周面に押し付けられた状態に維持される。これにより、巻上機の回転軸の回転が制動される。
【0020】
本実施形態に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置20はエレベータが据え付けられた建物に設置されるものであり、ドラムブレーキ1を撮影し、撮影したものを撮影信号の形で出力するカメラ21と、コイル4A,4Bのそれぞれがパッドベース5A,5Bのそれぞれを吸引したことを検知して検知信号を出力する検知器22と、カメラ21からの撮影信号および検知器22からの検知信号に基づき、ドラムブレーキ1の診断に係る処理を行う処理装置30と、この処理装置30での処理に係るデータ等を保存する補助記憶装置40とを備える。
【0021】
処理装置30は、CPU、ROM、RAMを備え、コンピュータプログラムにより設定された処理を行う機能部として、画像データ作成部31、パターン認識部32、寸法計測部33、寸法判定部34、通信部35を備える。これらの機能部について次に説明していく。
【0022】
画像データ作成部31は、カメラ21からの撮影信号に基づいて画像データを作成するものである。
【0023】
パターン認識部32は、画像データ作成部31により作成された画像データ中におけるブレーキドラム2、パッドベース5A,5Bおよびブレーキパッド6A,6Bを、補助記憶装置40に予め保存された基準パターンに基づき認識するものである。
【0024】
寸法計測部33は、パターン認識部32により認識された画像データ中のブレーキドラム2、パッドベース5A,5Bおよびブレーキパッド6A,6Bに基づき、図3に示す一方のブレーキパッド6Aとブレーキドラム2との間隔寸法Da1,Da2、一方のブレーキパッド6Aの厚さ寸法Db1,Db2、他方のブレーキパッド6Bとブレーキドラム2との間隔寸法Da3,Da4、他方のブレーキパッド6Bの厚さ寸法Db3,Db4を計測するものである。
【0025】
間隔寸法Da1は、ブレーキパッド6Aの周方向における一端部とブレーキドラム2の内周面との間隔寸法であり、間隔寸法Da2は、ブレーキパッド6Aの周方向における他端部とブレーキドラム2の内周面との間隔寸法である。厚さ寸法Db1は、ブレーキパッド6Aの周方向における一端部の厚さ寸法であり、厚さ寸法Db2は、ブレーキパッド6Aの周方向における他端部の厚さ寸法である。間隔寸法Da3は、ブレーキパッド6Bの周方向における一端部とブレーキドラム2の内周面との間隔寸法であり、間隔寸法Da4は、ブレーキパッド6Bの周方向における他端部とブレーキドラム2の内周面との間隔寸法である。厚さ寸法Db3は、ブレーキパッド6Bの周方向における一端部の厚さ寸法であり、厚さ寸法Db4は、ブレーキパッド6Bの周方向における他端部の厚さ寸法である。
【0026】
寸法計測部33は、間隔寸法Da1と厚さ寸法Db1との合計値Dc1(=Da1+Db1)、間隔寸法Da2と厚さ寸法Db2との合計値Dc2(=Da2+Db2)、間隔寸法Da3と厚さ寸法Db3との合計値Dc3(=Da3+Db3)、間隔寸法Da4と厚さ寸法Db4との合計値Dc4(=Da4+Db4)を算出するものでもある。
【0027】
合計値Dc1は、コイル4Aがパッドベース5Aを吸引した状態におけるパッドベース5Aの一端部とブレーキドラム2の内周面との間隔寸法である。合計値Dc2は、コイル4Aがパッドベース5Aを吸引した状態におけるパッドベース5Aの他端部とブレーキドラム2の内周面との間隔寸法である。合計値Dc3は、コイル4Bがパッドベース5Bを吸引した状態におけるパッドベース5Bの一端部とブレーキドラム2の内周面との間隔寸法である。合計値Dc4は、コイル4Bがパッドベース5Bを吸引した状態におけるパッドベース5Bの他端部とブレーキドラム2の内周面との間隔寸法である。これらのことから、寸法計測部33は、コイル4Aがパッドベース5Aを吸引した状態におけるパッドベース5Aの一端部とブレーキドラム2の内周面との間隔寸法と、コイル4Aがパッドベース5Aを吸引した状態におけるパッドベース5Aの他端部とブレーキドラム2の内周面との間隔寸法と、コイル4Bがパッドベース5Bを吸引した状態におけるパッドベース5Bの一端部とブレーキドラム2の内周面との間隔寸法と、コイル4Bがパッドベース5Bを吸引した状態におけるパッドベース5Bの他端部とブレーキドラム2の内周面との間隔寸法とを計測するものと言い換えることができる。
【0028】
寸法判定部34は、検知器22から点検装置20に検知信号が入力された状態において、寸法計測部33による間隔寸法Da1〜Da4の計測値のそれぞれ、および、厚さ寸法Db1〜Db4の計測値のそれぞれが、補助記憶装置40に予め保存された許容範囲内の値であるか否かを判定するものである。間隔寸法Da1〜Da4のそれぞれの許容範囲は、ブレーキパッド6Aまたは6Bが使用限界の厚さ寸法Dblまで摩耗したときの間隔寸法Dauを上限値とする範囲、すなわち、「Da1≦Dau」、「Da2≦Dau」、「Da3≦Dau」、「Da4≦Dau」である。厚さ寸法Db1〜Db4のそれぞれの許容範囲は、厚さ寸法Dblを下限値とする範囲、すなわち「Db1≧Dbl」、「Db2≧Dbl」、「Db3≧Dbl」、「Db4≧Dbl」である。
【0029】
一方のブレーキパッド6Aとブレーキドラム2との間隔寸法Da1,Da2の少なくとも一方の計測値を許容範囲外であると判定すること、および、ブレーキパッド6Aの厚さ寸法Db1,Db2の少なくとも一方の計測値を許容範囲外であると判定することは、一方のブレーキパッド6Aの状態を使用限度を超えて摩耗した異常な状態であると診断することを意味する。これと同様に、他方のブレーキパッド6Bとブレーキドラム2との間隔寸法Da3,Da4の少なくとも一方計測値を許容範囲外であると判定すること、および、他方のブレーキパッド6Bの厚さ寸法Db3,Db4の少なくとも一方の計測値を許容範囲外であると判定することは、ブレーキパッドの状態を使用限度を超えて摩耗した異常な状態であると診断することを意味する。
【0030】
特に、間隔寸法Da2の計測値および厚さ寸法Db2の計測値を許容範囲内の値であると判定し、かつ、間隔寸法Da1の計測値および厚さ寸法Db1の計測値を許容範囲外の値であると判定することは、ブレーキパッド6Aの状態をブレーキパッド6Aの周方向における一方の端部に使用限度を超える摩耗が生じた異常な状態(片減り)であると診断することを意味する。これとは逆に、間隔寸法Da1の計測値および厚さ寸法Db1の計測値を許容範囲内の値であると判定し、かつ、間隔寸法Da2の計測値および厚さ寸法Db2の計測値を許容範囲外の値であると判定することは、ブレーキパッド6Aの状態をブレーキパッド6Aの周方向における他方の端部に使用限度を超える摩耗が生じた異常な状態(片減り)であると診断することを意味する。
【0031】
これらと同様に、間隔寸法Da4の計測値および厚さ寸法Db4の計測値を許容範囲内の値であると判定し、かつ、間隔寸法Da3の計測値および厚さ寸法Db3の計測値を許容範囲外の値であると判定することは、ブレーキパッド6Bの状態をブレーキパッド6Bの周方向における一方の端部に使用限度を超える摩耗が生じた異常な状態(片減り)であると診断することを意味する。間隔寸法Da3の計測値および厚さ寸法Db3の計測値を許容範囲内の値であると判定し、かつ、間隔寸法Da4の計測値および厚さ寸法Db4の計測値を許容範囲外の値であると判定することは、ブレーキパッド6Bの状態をブレーキパッド6Bの周方向における他方の端部に使用限度を超える摩耗が生じた異常な状態(片減り)であると診断することを意味する。
【0032】
寸法判定部34は、寸法計測部33により算出された合計値Dc1〜Dc4のそれぞれが補助記憶装置40に予め保存された許容範囲内の値であるか否かを判定するものである。合計値Dc1〜Dc4のそれぞれの許容範囲は、寸法Dclを下限値とし、寸法Dcuを上限値とする範囲、すなわち、「Dcl≦Dc1≦Dcu」、「Dcl≦Dc2≦Dcu」、「Dcl≦Dc3≦Dcu」、「Dcl≦Dc4≦Dcu」である。
【0033】
ブレーキパッド6Aの一端部が摩耗すると、厚さ寸法Db1が減少し、その厚さ寸法Db1の減少分だけ間隔寸法Da1が増加するので、合計値Dc1はブレーキパッド6Aの一端部の摩耗量に関係なく一定である。また、ブレーキパッド6Aの他端部が摩耗すると、厚さ寸法Db2が減少し、その厚さ寸法Db2の減少分だけ間隔寸法Da2が増加するので、合計値Dc2はブレーキパッド6Aの他端部の摩耗量に関係なく一定である。また、ブレーキパッド6Bの一端部が摩耗すると、厚さ寸法Db3が減少し、その厚さ寸法Db3の減少分だけ間隔寸法Da3が増加するので、合計値Dc3はブレーキパッド6Bの一端部の摩耗量に関係なく一定である。また、ブレーキパッド6Bの他端部が摩耗すると、厚さ寸法Db4が減少し、その厚さ寸法Db4の減少分だけ間隔寸法Da4が増加するので、合計値Dc4はブレーキパッド6Bの他端部の摩耗量に関係なく一定である。
【0034】
したがって、合計値Dc1,Dc2の少なくとも一方を許容範囲外の値であると判定することは、パッドベース5Bに動作不良が生じた異常な状態であると診断することを意味する。これと同様に、合計値Dc3,Dc4の少なくとも一方を許容範囲外の値であると判定することは、パッドベース5Bに動作不良が生じた異常な状態であると診断することを意味する。
【0035】
通信部35は、寸法計測部33による間隔寸法Da1〜Da4および厚さ寸法Db1〜Db4のそれぞれの計測値と、寸法判定部34による判定結果とを、監視装置50に送信するものである。
【0036】
監視装置50は通信回線70を介して監視センタ60と通信を行うものであり、寸法計測部33による間隔寸法Da1〜Da4および厚さ寸法Db1〜Db4のそれぞれの計測値と、寸法判定部34による判定結果を、監視センタ60に通報するものである。監視装置50は、寸法計測部33による間隔寸法Da1〜Da4および厚さ寸法Db1〜Db4のそれぞれの計測値を、定期的に、監視センタ60に通報する。
【0037】
監視センタ60は、監視装置50からの通報に基づきドラムブレーキ1の遠隔監視を行うとともに、技術員を派遣するサービス拠点(図示してない)に対して異常の通報元への技術員の派遣を要請するものである。なお、監視センタ60は、寸法計測部33による間隔寸法Da1〜Da4および厚さ寸法Db1〜Db4のそれぞれの計測値を定期的に監視装置50から通報されるので、ドラムブレーキ1に異常が発生する前から、それらの計測値を把握することができる。
【0038】
本実施形態に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置20は次の効果を奏する。
【0039】
本実施形態に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置20は、間隔寸法Da1〜Da4の計測値のそれぞれ、および、厚さ寸法Db1〜Db4の計測値のそれぞれが許容範囲内の値であるか否かを判定することによって、使用限度を超えたブレーキパッド6A,6Bの摩耗および片減りを診断することができる。
【0040】
本実施形態に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置20は、合計値Dc1〜Dc4のそれぞれが許容範囲内の値であるか否かを判定することによって、パッドベース5A,5Bの動作不良を診断することができる。
【0041】
本実施形態に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置20は、ドラムブレーキ1の分解を要さずに、間隔寸法Da1〜Da4、厚さ寸法Db1〜Db4を計測できるので、点検のためにエレベータの運転を停止することなく、エレベータの通常運転中にドラムブレーキ1の異常を診断できる。
【0042】
本実施形態に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置20は、ドラムブレーキ1の異常の通報を監視装置50に行わせるので、ドラムブレーキ1の異常への対処の迅速化に貢献できる。
【0043】
なお、前述の実施形態に係るエレベータのドラムブレーキの点検装置20において、寸法判定部34は、間隔寸法Da1〜Da4と厚さ寸法Db1〜Db4との両方を許容範囲内の値であるか否かを判定するものであるが、寸法判定部34は、間隔寸法Da1〜Da4および厚さ寸法Db1〜Db4のいずれか一方が許容範囲内の値であるか否かを判定するものであってもよい。これによっても、寸法判定部34は、使用限度を超えたブレーキパッド6A,6Bの摩耗および片減りを診断することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 ドラムブレーキ
2 ブレーキドアラム
4A,4B コイル
5A,5B パッドベース
6A,6B ブレーキパッド
20 点検装置
21 カメラ
22 検出器
31 画像データ作成部
33 寸法計測部
34 寸法判定部
図1
図2
図3