(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1に開示される走行制御装置では、速度が低いほど低い値に上限加速度が設定されるため、車両の後方が高くなっている勾配で後進する際に、仮に駆動力が不足して車両が前進、すなわちずり下がってしまうと、所定の車速に至るまで、ずり下がり状態から回復するのに必要な駆動力が得られず、早期にずり下がり状態から回復できないという問題がある。また、レンジ位置がリバースで、ずり下がり状態ではなくても、ドライバによりアクセルペダルが誤って強く踏み込まれると、設定される上限加速度以内に抑制されるものの、速度が高くなるほど高い値に上限加速度が設定されるため、後退であるにも係わらず次第に速度が高くなり、高速で後方に飛び出してしまう虞もある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、レンジ位置がリバース状態の際に、たとえ、ずり下がりが生じても早期に後退状態に復帰することができ、また、後方への飛び出し発進を抑制することができる車両の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様による車両の制御装置は、レンジ位置を検出するレンジ位置検出手段と、リバースレンジが選択されている際、目標加速度マップを参照して車速に基づき目標加速度を設定し、実際の加速度が
該目標加速度となるよう目標エンジントルクを算出する加減速制御手段と、上記目標エンジントルクに基づきエンジンを制御するエンジン制御手段とを備えた車両の制御装置において、上記リバースレンジが選択されている際に、車両が前進しているか後退しているかを判定する前後進判定手段を有し、上記加
減速制御手段で参照する上記目標加速度マップは、上記前後進判定手段が上記車両が前進していると判定したときに参照する目標加速度マップと、後退していると判定したときに参照する目標加速度マップとを備え、上記各目標加速度マップにおける上記目標加速度は、上記エンジンがストールする車速よりも高い車速に設定した上限車速で0に設定されるとともに、車速の増加に伴い減少する正の値に設定されており、更に前進時の目標加速度が後進時の目標加速度よりも高い値に設定されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車両の制御装置によれば、レンジ位置がリバース状態の際に、たとえ、ずり下がりが生じても早期に後退状態に復帰することができ、また、後方に飛び出し発進を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は車両を示し、車両前部に配置されたエンジン2による駆動力は、このエンジン2後方の自動変速装置(トルクコンバータ等も含んで図示)3からトランスミッション出力軸3aを経てセンターディファレンシャル装置4に伝達され、このセンターディファレンシャル装置4から、リヤドライブ軸5、プロペラシャフト6、ドライブピニオン7を介して後輪終減速装置8に入力される一方、センターディファレンシャル装置4から、フロントドライブ軸9を介して前輪終減速装置10に入力される。ここで、自動変速装置3、センターディファレンシャル装置4および前輪終減速装置10等は、一体に図示しないケース内に設けられている。
【0010】
後輪終減速装置8に入力された駆動力は、後輪左ドライブ軸11rlを経て左後輪12rlに、後輪右ドライブ軸11rrを経て右後輪12rrに伝達される一方、前輪終減速装置10に入力された駆動力は、前輪左ドライブ軸11flを経て左前輪12flに、前輪右ドライブ軸11frを経て右前輪12frに伝達される。
【0011】
符号13は車両のブレーキ駆動部を示し、このブレーキ駆動部13には、ドライバにより操作されるブレーキペダル14と接続されたマスターシリンダ15が接続されており、ドライバがブレーキペダル14を操作するとマスターシリンダ15により、ブレーキ駆動部13を通じて、4輪12fl,12fr,12rl,12rrの各ホイールシリンダ(左前輪ホイールシリンダ16fl,右前輪ホイールシリンダ16fr,左後輪ホイールシリンダ16rl,右後輪ホイールシリンダ16rr)にブレーキ圧が導入され、これにより4輪にブレーキがかかって制動される。
【0012】
ブレーキ駆動部13は、加圧源、減圧弁、増圧弁等を備えたハイドロリックユニットで、ブレーキ制御装置22からの入力信号に応じて、各ホイールシリンダ16fl,16fr,16rl,16rrに対して、それぞれ独立にブレーキ圧を導入自在に形成されている。
【0013】
エンジン2を制御するエンジン制御手段としてのエンジン制御装置21、および、ブレーキ駆動部13を制御するブレーキ制御装置22は、駆動力制御ユニット20と接続されている。この駆動力制御ユニット20には、車両の進行方向が前進状態か後進状態かの判定も可能な多相式の車輪速センサで構成された車速Vを検出する車速センサ31、ドライバにより選択されたセレクトレバー(図示せず)のレンジ位置(ドライブ「D」、リバース「R」、ニュートラル「N」等の各レンジ位置)を検出するレンジ位置検出手段としてのインヒビタスイッチ32、路面勾配値θksを検出する路面勾配センサ33、図示しないエンジン回転数センサ、ドライバが後述する後退発進時における後退時走行制御のON−OFF、及び、後退時走行制御で上限車速をドライバが3種類の車速の中から選択的に設定する車速上限値設定スイッチ34等のセンサ、スイッチ類が接続されている。尚、セレクトレバーのレンジ位置を検出する手段として、インヒビタスイッチ32に代えて変速機を制御するトランスミッション制御ユニットからの信号を用いても良い。
【0014】
そして、駆動力制御ユニット20は、上述の各入力信号を基に、Rレンジが選択されている際、目標加速度Axtや目標減速度Dectを算出し、上限車速Vmaxを超えないようエンジン制御装置21やブレーキ制御装置22に対して目標エンジントルクTEtや目標ブレーキ液圧Pbを出力する。
【0015】
ここで、上限車速Vmaxは車両のずり下がり状態時にエンジンがストールする車速であるエンスト車速Vs(例えば、10km/h)よりも高い車速に設定される。また、目標加速度Axtは、車速Vと目標加速度Axtとの関係が記憶された目標加速度マップを参照して車速Vから算出される。この目標加速度マップは、その特性が車速Vの増加に伴い減少し、上限車速Vmaxで0になるよう、正の値に設定される。一方、目標減速度Dectは、車速Vが上限車速Vmaxを超えると、車速Vに応じて目標減速度マップから算出される。このように駆動力制御ユニット20は、加減速制御手段としての機能を有して設けられている。
【0016】
駆動力制御ユニット20は、
図2に示すように、自車加速度算出部20a、真の路面勾配値算出部20b、前後進判定部20c、加減速制御部20dから主要に構成されている。
【0017】
自車加速度算出部20aは、車速センサ31から車速Vが入力され、車速Vの時間的変化(微分)を基に自車加速度Axを算出し、加減速制御部20dに出力する。
【0018】
真の路面勾配値算出部20bは、路面勾配センサ33から検出された路面勾配値θksが入力される。そして、予め設定しておいた、例えば、
図4に示すマップ等を参照して、検出される路面勾配値θksに対し、発生し得る最大の誤差を考慮した路面勾配値を真の路面勾配値(推定勾配値)θkeとして設定し、加減速制御部20dに出力する。
【0019】
一般に、路面勾配センサ33等で検出される路面勾配の値には車両の積載状態等により誤差が含まれる。例えば、
図4に示すように、路面勾配センサ33等で検出される路面勾配値θksとすると、検出勾配値θ1における推定される真の路面勾配値(推定勾配値θke)は、θL(図中、「θk1」線上の値)〜θH(図中、「θk2」線上の値)の間にある(尚、
図4の例は、路面勾配が水平な状態を0度とし、車両1の後方が高くなる場合の符号を「+」とした場合の図である)。従って、シフト位置が「R」レンジ位置で、検出路面勾配値θksがθ1の場合に、真の勾配値がθLであった場合は、駆動力の制限が小さ過ぎて、車両1は後方に急発進してしまう。逆に、真の勾配値がθHであった場合は、駆動力の制限が大き過ぎて、車両1はずり下がりしてしまう。本発明の実施の形態の真の路面勾配値算出部20bは、検出される路面勾配値θksに対し、発生し得る最大の誤差を考慮した路面勾配値、すなわち、
図4における「θk2」線上の値(θH)を、推定勾配値の初期値として採用するようになっている。
【0020】
前後進判定部20cは、車速センサ31から車速Vが入力され、車両1が前進状態か後退状態かを判定し、判定結果を加減速制御部20dに出力する。このように、前後進判定部20cは前後進判定手段として設けられている。
【0021】
加減速制御部20dは、車速センサ31から車速Vが入力され、インヒビタスイッチ32からドライバにより選択されたシフト位置が入力され、車速上限値設定スイッチ34から後退発進時における後退時走行制御のON−OFF信号、及び、ドライバにより選択された後退時走行制御での後述する上限車速が入力され、自車加速度算出部20aから自車加速度Axが入力され、真の路面勾配値算出部20bから推定勾配値θkeが入力され、前後進判定部20cから前進状態か後退状態かの判定結果が入力される。
【0022】
そして、後退発進時における後退時走行制御がONにされ、Rレンジが選択されている場合、目標加速度マップ(
図5(a))を参照して車速Vに応じた目標加速度Axtを設定する。この目標加速度マップは、車速Vの増加に伴い減少し、エンスト車速Vsよりも高く設定された上限車速Vmaxで0となるように正の目標加速度Axtが設定されている。そして、目標加速度Axtを算出した後、目標加速度Axtと実際の加速度Axとの偏差に応じて最終目標加速度を算出し、最終目標加速度に車両重量を乗算し、各種走行抵抗を加算した上でタイヤ半径、総ギヤ比、トルコン比等のトルク換算係数を乗算することで目標エンジントルクTEtを算出し、エンジン制御装置21に出力する。尚、各種走行抵抗として、勾配抵抗が含まれるが、ここで用いる勾配抵抗は、上述の真の路面勾配算出部20bからの誤差を考慮しても車両1がずり下がりを生じない推定勾配値θkeである。
【0023】
一方、車速Vが上限車速Vmaxを超えると、予め設定しておいた車速Vに応じた目標減速度マップ(
図5(b))を参照して実際の車速Vに応じた目標減速度Dectを設定する。そして、目標減速度Dectと実際の加(減)速度Axとの偏差に応じて最終目標減速度を算出し、最終目標減速度からブレーキ液圧Pbを算出して、ブレーキ制御装置22に出力する。尚、目標減速度Dectは、ドライバビリティを向上させるため、推定勾配値θkeに応じ、例えば、推定勾配値θkeが低いほど低い値に補正して用いても良い。
【0024】
このように、本発明の実施の形態では、目標加速度マップが車速Vの増加に伴い減少し、上限車速Vmaxで0となるようにされているため、後退発進時、仮にドライバがアクセルペダルを誤って強く踏み込んだとしても、また推定勾配値の誤差などに起因して駆動力の制限が弱かったとしても後方への飛び出しを抑制できる。また、仮に推定勾配値の誤差などに起因して駆動力が不足することで車両がずり下がってしまったとしても上限車速Vmaxがエンスト車速Vsよりも高く設定され、かつ目標加速度Axtが車速Vの増加に伴い減少し、上限車速Vmaxで0となるように正の値に設定されているため、ずり下がりを有効に防止することができる。すなわち、例えば、
図6の破線で示すように、仮に目標加速度マップにおける目標加速度Axtがエンスト車速Vsよりも低い値Vmaxaで0に設定されている(特性2)と、Vmaxaよりも低い車速Vでは、アクセルペダルを踏めば、ずり下がりを防止することが可能である。しかし、Vmaxaよりも大きな車速Vでずり下がりを発生していると、ドライバがアクセルペダルを踏み込んでも目標加速度Axtは0となり、Vmaxaからエンジンストールに至るエンスト車速Vsまでの間、車両はずり下がり続け、その状態から復帰することができなくなる。それに対して、本発明では、エンスト車速Vsよりも高く設定された上限車速Vmaxで0となるように正の目標加速度Axtが設定されるため、ずり下がり状態から回復することができる。さらに、本発明では、目標加速度Axtが車速Vの増加に伴い減少するよう設定されている、言い換えると目標加速度Axtが車速Vの低下に伴い増大するよう設定されている。そのため、ずり下がりから回復するにつれて、すなわち車両が減速するにつれて目標加速度Axtが大きくなることから目標エンジントルクTEtが急激に増加し、ずり下がり状態から早期に回復することが可能となる。なお、仮にずり下がり状態から回復せず、車速Vがエンスト車速Vsを超えてしまった場合はエンジンストールが生じ、その時点で後退時走行制御が強制OFF(解除)されるため、ずり下がりは収まることになる。そして、そのような状況はシステムの正常状態では通常考えられず、路面勾配センサの故障などのシステム異常と考えれるため、ドライバに異常状態を報知する。
【0025】
次に、駆動力制御ユニット20で実行される後退時走行制御を、
図3のフローチャートで説明する。この後退時走行制御プログラムは、後退発進時における後退時走行制御がONにされ、Rレンジが選択されている際に実行されるものである。
【0026】
まず、ステップ(以下、「S」と略称)101で、自車加速度算出部20aにおいて自車加速度Axを算出する。
【0027】
次いで、S102に進み、真の路面勾配値算出部20bで、真の路面勾配値(推定勾配値)θkeを算出する。
【0028】
次に、S103に進んで、ドライバによって選択された上限車速Vmaxを読み込む。
【0029】
次いで、S104に進み、目標加速度マップを参照して車速Vに応じた目標加速度Axtを設定する。
【0030】
次いで、S105に進んで、目標減速度マップを参照して車速Vに応じた目標減速度Dectを設定する。
【0031】
次に、S106に進み、目標加速度Axtと実際の加速度Axとの偏差に応じて最終目標加速度を算出する。そして、最終目標加速度に車両重量を乗算し、各種走行抵抗を加算した上で、タイヤ半径、総ギヤ比、トルコン比等のトルク換算係数を乗算することで目標エンジントルクTEtを算出し、エンジン制御装置21に出力する。
【0032】
そして、S107に進み、目標減速度Dectと実際の加(減)速度Axとの偏差に応じて最終目標減速度を算出し、最終目標減速度からブレーキ液圧Pbを算出して、ブレーキ制御装置22に出力し、プログラムを抜ける。
【0033】
このように、本発明の実施の形態によれば、Rレンジが選択されている際、上限車速Vmaxをエンジン2が車両のずり下がり時にストールする車速Vsよりも大きな車速に設定し、且つ、上限車速Vmaxを超えない車速領域で目標加速度Axtを0よりも大きな値に設定した車速Vに応じた目標加速度特性に基づいて実際の車速Vに応じた目標加速度Axtを設定し、該目標加速度Axtに基づきエンジン制御装置21に出力してエンジン駆動力をフィードバック制御する一方、上限車速Vmaxを超えた車速領域では、車速Vに応じた目標減速度特性に基づいて実際の車速Vに応じた目標減速度Dectを設定し、該目標減速度Dectに基づきブレーキ制御装置22に出力してブレーキ液圧Pbをフィードバック制御するようになっている。このため、Rレンジの際に、たとえ、ずり下がりが生じても早期に後退状態に復帰することができ、また、後方発進の駆動力が適切に制限されて後方に飛び出し発進することや、後方への急加速を確実に防止することができる。
【0034】
尚、本発明の実施の形態では、
図5に示すように、目標加速度マップを後進時と前進時(ずり下がり状態)とで同じ特性に設定したが、例えば、
図7、8に示すように、後進時と前進時とで異なる特性を有する目標加速度マップを設定しても良い。
【0035】
図7(a)の例は、一定の車速の基で、前進時の目標加速度(破線)の方が後進時の目標加速度(実線)よりも高い値に設定されるものであり、前進時の目標加速度の上限車速Vmaxfも後進時の目標加速度の上限車速Vmaxrよりも高い値に設定されるものである。すなわち、Rレンジの際に前進状態と判定された場合は、車両1はずり下がり状態の場合であるため、素早くずり下がり状態から復帰させるため、目標加速度を高く設定するのである。
【0036】
図7(b)の例は、
図7(a)の前進時の目標加速度と後進時の目標加速度に対応して設定される前進時の目標減速度(破線)と後進時の目標加速度(実線)を示し、それぞれの上限車速Vmaxf、Vmaxrから次第に目標減速度が増加されるように設定される。
【0037】
また、
図8(a)の例も、一定の車速の基で、前進時の目標加速度(破線)の方が後進時の目標加速度(実線)よりも高い値に設定されるものであり、前進時の目標加速度の上限車速Vmaxfと後進時の目標加速度の上限車速Vmaxrとが同じ値に設定されるものである。この
図8(a)の例も、
図7(a)と同様に、Rレンジの際に前進状態と判定された場合は、車両1はずり下がり状態の場合であるため、素早くずり下がり状態から復帰させるため、目標加速度を高く設定するのである。
【0038】
図8(b)の例は、
図8(a)の前進時の目標加速度と後進時の目標加速度に対応して設定される前進時の目標減速度(破線)と後進時の目標加速度(実線)を示し、上限車速Vmaxf(Vmaxr)から次第に目標減速度が増加されるように設定される。
【0039】
また、本発明の実施の形態では、上限車速Vmaxが、ドライバにより任意に3種類の中から設定可能な例を示しているが、予め設定された(1種類の)固定値としても良く、或いは、2種類の中から設定可能、或いは、アナログ的により多くの選択ができるものであっても良い。