特許第6243694号(P6243694)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243694
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】アルミニウム塗装材
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/20 20060101AFI20171127BHJP
   C23C 22/24 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   B32B15/20
   C23C22/24
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-210105(P2013-210105)
(22)【出願日】2013年10月7日
(65)【公開番号】特開2015-74109(P2015-74109A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100188570
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 あい
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆太
(72)【発明者】
【氏名】前園 利樹
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−079409(JP,A)
【文献】 特開平11−158436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
C23C 22/24
B05D1/00−7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基材と、当該アルミニウム基材の少なくとも一方の表面に形成された化成皮膜と、当該化成皮膜上に形成された塗膜とを含むアルミニウム塗装材であって、
前記塗膜は、硬度が10N/mm〜100N/mm、ガラス転移温度が120℃〜160℃であり、かつ、エポキシ−アミノ樹脂を52〜90重量%、硫酸バリウムを10〜30重量%、有機シリコーン系化合物を0〜5重量%、ポリアクリル酸を5〜16重量%含有することを特徴とする高絶縁性アルミニウム塗装材。
【請求項2】
前記エポキシ−アミノ樹脂はエポキシ−尿素樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載の高絶縁性アルミニウム塗装材。
【請求項3】
前記塗膜は、さらに、有機シリコーン系化合物を1〜5重量%含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の高絶縁性アルミニウム塗装材。
【請求項4】
前記塗膜は、厚さが1μm〜20μmであることを特徴とする、請求項1からのいずれか1項に記載の高絶縁性アルミニウム塗装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などの移動体や各種電気・電子製品に用いられる高絶縁性アルミニウム塗装材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車部品や電気・電子部品等において、軽量化やコストダウン等を目的として、アルミニウム塗装材の適用が検討されている。インバータ、モーター、IGBTモジュール、太陽電池用基板、蓄電システム等を構成する部材は高電圧下で使用されるため、これらの材料には、優れた電気特性が求められる。
【0003】
アルミニウム材自体は導体であるが、その表面に絶縁体である樹脂皮膜を形成させることによって、高い絶縁性を付与することができる。これらは、樹脂皮膜自体が絶縁体であるため、塗膜の表面に高い電圧を印加しても、樹脂皮膜の厚さ方向には電流が流れず、絶縁物として用いることができる。この現象は、バンド理論を用いて説明される。バンド理論において、絶縁体は、価電子帯と伝導帯の間に大きなバンドギャップが存在する状態を示す物質であり、電圧を印加し電子が励起しても電子が伝導帯に遷移しないために電流が流れない。ところが、樹脂皮膜に十分に高い電圧が印加されると、電子が伝導帯まで励起する。この強い電場によって、電荷担体である自由な電子が加速され、周囲の原子と衝突する。電子が衝突した原子は励起した電子を原子内に取り込んでしまい、原子内の電子がまた励起する。原子内の励起された電子がまた加速され、原子より放出される。放出された電子が周囲の原子と衝突し、また原子を放出する。このように電子の励起、放出という現象が繰り返される連鎖反応が生じ、電子雪崩という現象が起きる。このようにして、絶縁体に印加される電圧がある電圧以上になると急激に電流が流れることになる。この現象が絶縁破壊であり、絶縁破壊した電圧を絶縁破壊電圧という。絶縁破壊電圧とは、JISC2110−1に準じて測定される絶縁破壊電圧のことを指す。
【0004】
そこで、材料の絶縁性を向上させるために、特許文献1では、フォルステライト、あるいはりん酸塩系絶縁被膜を形成した方向性電磁鋼板の表面に、ガラス転移点が25〜150℃のアクリル系、エポキシ系、ウレタン系、フェノール系樹脂を形成することにより、圧延方向と直角方向に優れた曲げ密着性を持つ絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板が開示されている。特許文献2では、ポリフェニレンスルフィドを主成分とする樹脂組成物からなり、ガラス転移温度が95℃以上、130℃以下である二軸配向フィルムの少なくとも片面に金属層が形成された金属化フィルムが開示されている。
【0005】
特許文献3には、直径が0.035〜0.15mmの導体の表面に、30℃における粘度が0.005〜0.05Pa・sであって、ポリウレタン又はポリエステルイミドを含有した絶縁塗料を塗布した後、焼付けを行う操作を繰り返し、皮膜厚さが3〜15μmである絶縁皮膜を形成し、JISC3003により測定した絶縁皮膜の絶縁破壊電圧が、皮膜厚さ0.001mm当たり340V以上である絶縁電線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−38279号公報
【特許文献2】特開2001−261959号公報
【特許文献3】特開2009−129566号公報
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に開示されている材料は、複雑な形状に加工したりすると絶縁皮膜層にて割れや剥離等が生じたり、また取り扱い時に他の製品等と接触したりすると塗膜が傷付き導体を露出させたりし、絶縁材料として信頼性を損なうという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、絶縁性、加工性、塗膜密着性および耐傷付き性に優れ、更にコスト面や安全性にも優れた高絶縁性アルミニウム塗装材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る高絶縁性アルミニウム塗装材は、アルミニウム基材と、当該アルミニウム基材の少なくとも一方の表面に形成された化成皮膜と、当該化成皮膜上に形成された塗膜とを含むアルミニウム塗装材であって、前記塗膜は、硬度が10N/mm〜100N/mm、ガラス転移温度が120℃〜160℃であり、かつ、エポキシ−アミノ樹脂を52〜90重量%、硫酸バリウムを10〜30重量%、有機シリコーン系化合物を0〜5重量%、ポリアクリル酸を0〜28重量%、含有することを特徴とする。
【0010】
また、前記エポキシ−アミノ樹脂はエポキシ−尿素樹脂であることが好ましい。
【0011】
また、前記塗膜は、さらに、有機シリコーン系化合物を1〜5重量%含有することが好ましい。
【0012】
また、前記塗膜は、さらに、ポリアクリル酸を5〜16重量%含有することが好ましい。
【0013】
また、前記塗膜は、厚さが1μm〜20μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る高絶縁性アルミニウム塗装材は、各種部材に必要とされる高い絶縁性、加工性、塗膜密着性および耐傷付き性を有しており、コスト面や安全性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(A)アルミニウム塗装材
本発明に係る高絶縁性アルミニウム塗装材は、アルミニウム又はアルミニウム合金の基材と、当該基材の少なくとも一方の面に形成された化成皮膜と、当該化成皮膜の上に形成された塗膜とを含む。
【0016】
(B)アルミニウム基材
本発明で用いる基材は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材である。以下において、アルミニウム及びアルミニウム合金からなる基材を、単に「アルミニウム材」と記す。なお、アルミニウム以外の金属を基材に用いることもできる。
【0017】
(C)化成皮膜
アルミニウム材には、耐食性下地皮膜が形成される。耐食性下地皮膜としては、化成皮膜が挙げられる。化成皮膜の中でも耐食性、密着性、経済性の観点から、リン酸クロメート皮膜が好ましい。リン酸クロメート皮膜の付着量は金属Cr元素換算で2mg/m〜50mg/mであることが好ましい。付着量がCr元素換算で2mg/m未満では、十分な耐食性と塗膜との密着性が得られない。また、付着量が50mg/mを超えても耐食性や塗膜との密着性の効果が飽和し経済性に欠ける。好ましい付着量はCr元素換算で5mg/m〜40mg/mである。
【0018】
(D)塗膜
本発明では、塗膜の硬度が10N/mm〜100N/mm、塗膜のガラス転移温度が120℃〜160℃であり、塗膜がエポキシ−アミノ樹脂を70〜90重量%、硫酸バリウムを10〜30重量%含有することにより、初めて上記の性能を満足することができる。特に、塗膜がエポキシ−アミノ樹脂を含有し、塗膜のガラス転移温度が120℃〜160℃であることにより、印加した際の発熱によって塗膜が高温になっても、塗膜を形成する樹脂が流動するのを抑制することができる。また、加工時の塗膜に柔軟性を付与することができ、アルミニウム塗装材は絶縁性に優れる。
【0019】
本発明の塗膜に含まれるエポキシ−アミノ樹脂は、エポキシ樹脂とアミノ樹脂とを反応させることにより得られる。エポキシ−アミノ樹脂の含有量は、52〜90重量%であり、好ましくは、70〜89重量%、より好ましくは、71〜84重量%である。エポキシ−アミノ樹脂の含有量が52重量%未満であると、塗膜硬度が高すぎ、加工時に塗膜割れを生じ、絶縁性の低下を招いてしまう。一方、エポキシ−アミノ樹脂の含有量が90重量%を超えると、絶縁性や耐傷付き性を低下してしまう。
【0020】
エポキシ樹脂は、アクリル樹脂やポリエステル樹脂に比べて絶縁性に優れていることにより絶縁性塗膜として好適に用いられる。エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型、ノボラック型、グリシジルエーテル型などの環状脂肪族型、あるいは、非環状脂肪族型などが用いられる。これらの中でも、工業的汎用性及び耐食性が良好である点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂等が挙げられ、1種のみを単独で使用しても、2種以上の混合物として使用してもよい。ビスフェノール型エポキシ樹脂の中でも、工業的汎用性から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。本発明に用いられるエポキシ樹脂の数平均分子量は、2000〜6000の範囲にあることが好ましい。数平均分子量が2000未満では硬化性が悪くなり、所定のガラス転移温度にすることが困難である。一方、数平均分子量が6000を超えると塗料粘度が高くなり、塗装時の平坦性を得られづらくなり、塗膜を形成しても表面の凹凸によって絶縁性が低下する場合がある。
【0021】
アミノ樹脂としては、例えばメラミン樹脂、尿素樹脂及びベンゾグアナミン樹脂等が挙げられるが、絶縁性の観点から尿素樹脂が好ましい。尿素樹脂としては、メチル化尿素樹脂、ブチル化尿素樹脂等が挙げられる。
【0022】
アミノ樹脂の含有量は、エポキシ樹脂とアミノ樹脂の合計100重量%中、1〜40重量%であることが好ましい。アミノ樹脂の含有量が1重量%未満では、樹脂塗膜のガラス転移温度が110℃未満となり、絶縁性を満足できなくなるおそれがある。また、塗膜を形成する樹脂が柔らかくなり、他の物体に接触したときに一部が削れたり傷を生じやすくなったりする可能性がある。また、アミノ樹脂の含有量が40重量%を超えると、樹脂塗膜のガラス転移温度が160℃を超え、加工性が満足できなくなるおそれがある。また、塗膜の形成時に内部応力が過大となり、塗膜剥離を生じたりする場合がある。
【0023】
また、本発明では、塗膜はエポキシ−アミノ樹脂以外に硫酸バリウムを含有する。硫酸バリウムは、無機系であるため樹脂より絶縁性に優れていることから、塗膜に含有させることによって絶縁性を向上させることができる。また、硫酸バリウムは、水に溶けにくい性質を有しているので、過酷な湿潤状態でも塗膜中に導電体である水が浸透せず、高い絶縁性を確保することが可能である。また、硫酸バリウムは、エポキシ−アミノ樹脂よりも硬度が高いため、塗膜に硫酸バリウムを含有させることにより塗膜の硬度を上げ、耐傷付き性を向上させることが可能となる。
【0024】
硫酸バリウムは、粒状又は粉状であることが好ましい。硫酸バリウムの粒径としては、塗料中の分散性等を考慮すると塗膜の膜厚にも因るが10μm以下が好ましい。より好ましい粒径は1μm〜7μmである。本発明に用いられる硫酸バリウムは一般に入手可能な硫酸バリウムを使用することが可能であるが、樹脂や溶剤との相溶性を確保するために、脂肪酸等を表面に被覆した硫酸バリウム粒子を使用することも可能である。
【0025】
硫酸バリウムの含有量は10〜30重量%であり、より好ましくは15〜25重量%である。硫酸バリウムの含有量が10重量%未満であると、絶縁性や耐傷付き性が低下し、アルミニウム塗装材を実用上使用することが困難となる。一方、硫酸バリウムの含有量が30重量%を超えると、塗膜の硬度が高くなりすぎて、加工時に塗膜割れを生じ、絶縁性の低下を招いてしまう。
【0026】
本発明では、塗膜は有機シリコーン系化合物を含有してもよい。有機シリコーン系化合物を含有することにより、塗膜表面が平滑となり絶縁性が良好となる。また、塗膜の表面自由エネルギーが高くなるため、湿潤環境でも水の付着を抑制することができ、過酷な環境でも使用できる。有機シリコーン系化合物の含有量は、0〜5重量%であり、より好ましくは1〜5重量%である。有機シリコーン系化合物の含有量が5重量%を超えると、塗膜中における有機シリコーン系化合物の分散が困難となり、絶縁性の低下や塗膜の密着性の低下を招いてしまう。
【0027】
本発明では、塗膜はエポキシ−アミノ樹脂以外にポリアクリル酸を含有してもよい。ポリアクリル酸を含有することにより、塗膜表面にポリアクリル酸が凝集し、火気に触れても表面のポリアクリル酸が延焼を阻害し、塗膜の燃焼を抑制することができる。ポリアクリル酸の含有量は、0〜28重量%であり、より好ましくは5〜16重量%である。ポリアクリル酸の含有量が28重量%を超えると、ガラス転移温度の低下や絶縁性の低下を招いてしまう。ポリアクリル酸としては、例えば、アクリル酸とこれに重合可能な単量体とのランダム共重合体やブロック共重合体、アクリル酸の単独重合体が挙げられる。
【0028】
本発明における塗膜のガラス転移温度は、エポキシ−アミノ樹脂の種類、含有量、焼付温度等によって調整することができる。エポキシ−アミノ樹脂を含む塗膜のガラス転移温度を120℃〜160℃にすることにより、高い絶縁性を付与することが可能となる。詳細なメカニズムについては不明であるが、塗膜に電圧を負荷すると前述のように加速された電子が周囲の原子と衝突するため発熱し、塗膜自体の温度が上昇してしまう。塗膜の温度がガラス転移以上に上昇すると、塗膜を形成する樹脂自体がゴム状態に転移してしまう。樹脂がゴム状態になると、容易に塗膜が変形してしまったりするため、絶縁性の低下が顕著になる。よって、塗膜のガラス転移温度が120℃以上であると、塗膜に電圧を負荷し塗膜の温度が上昇しても樹脂がゴム状態になり難く、高い絶縁性を保つことが可能となる。塗膜のガラス転移温度が120℃未満であると、前述のように、絶縁性を低下させてしまい、実用上使用することが困難となる。一方、塗膜のガラス転移温度が160℃を超えると、エポキシ樹脂の分子量が大きく、さらにエポキシ樹脂とアミノ樹脂との架橋度も大きくなり、塗膜自体の流動性が低くなるため、塗膜の柔軟性が不十分となり、加工時に塗膜割れが顕著になる。なお、ガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置にて測定することができる。測定は、周波数10Hz、温度上昇速度5.0℃/min、サンプル長5cm、振幅0.01mmの条件で行われる。
【0029】
また、塗膜の硬度を10N/mm〜100N/mmにすることにより、耐傷付き性、加工性を両立することが可能となる。塗膜の硬度が10N/mm未満であると塗膜が柔らかくなりすぎて、他の物体と接触した際、塗膜が削れたり傷が生じやすくなってしまう。また、塗膜の硬度が100N/mmを超えると、塗膜が硬くなりすぎて、加工時に塗膜の割れ等が生じてしまう。
(E)その他添加剤
本発明の塗膜には、必要に応じて、防錆剤、界面活性剤等を含有させてもよい。また、相溶性を損なわない範囲で着色剤を含有させてもよい。防錆剤としては、例えば、タンニン酸、没食子酸、フイチン酸、ホスフィン酸等が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、脂肪酸等が挙げられる。着色剤としては、例えば、フタロシアニン化合物等が挙げられる。
(F)塗膜の形成
本発明のアルミニウム材表面に塗膜用の液状の塗料組成物を塗装(塗布)し、それを焼付けることにより、塗膜を形成しうる。
【0030】
本発明における塗膜を形成する塗料組成物は、溶媒を含有する。各成分は、溶媒に溶解、分散させて調製される。溶媒は、各成分を溶解又は分散できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、水等の水性溶媒、アセトン、エチルエチルケトン、シクロケキサノン等のケトン系溶剤、エタノール等のアルコール系溶剤、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコールアルキルエーテル系溶剤、プロピレングリコールアルキルエーテル系溶剤、及び一連のグリコールアルキルエーテル系溶剤のエステル化合物等が挙げられる。塗料組成物における固形分量は、5〜50重量%であることが好ましい。固形分量が5重量%未満であると、焼付け時に発泡等が生じ、塗膜が均一に形成できない。固形分量が50重量%を超えると、塗料組成物の粘度が高くなり、取り扱いが難しい上、塗料組成物を均一に塗布することが難しい。
【0031】
塗料組成物の塗布方法としては、ロールコータ法、スプレー法、静電塗装法等の方法が用いられるが、塗膜の均一性に優れ、生産性が良好なロールコータ法が好ましい。ロールコータ法としては、塗布量の管理が容易なグラビアロール方式や、厚塗りに適したナチュラルコート方式や、塗布面に美的外観を付与するのに適したリバースコート方式等を採用することができる。また、塗膜の乾燥には一般的な加熱法、誘電加熱法等が用いられる。
【0032】
塗膜を形成する際の焼付けは、焼付け温度(到達板表面温度)が150℃〜320℃で行うのが好ましい。焼付け温度が150℃未満である場合には、塗膜が十分に形成されず塗膜密着性が低下する。焼付け温度が320℃を超える場合には、塗膜が変性し、塗膜の強度・伸び等を著しく低下させ、成形性を低下させることになる。焼付け時間は1〜120秒の条件で行うのが好ましい。
【0033】
塗膜の厚さは1μm〜20μmであるのが好ましく、より好ましくは5μm〜20μmである。塗膜の厚さが1μm未満であると、所望の絶縁性が得られないおそれがある。一方、塗膜の厚さが20μmを超えると、絶縁性、加工性、塗膜密着性、耐傷付き性が飽和して不経済となる。
【0034】
このようにして作製されるアルミニウム塗装板は、その表面にプレス成形加工用のプレス油を塗布してからスリット加工や曲げ加工等の成形加工を施すことにより、絶縁性、加工性、密着性、耐傷付き性を確保することができる。これらの性能が必要とされるものであれば、用途は特に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1〜24及び比較例1〜13)
まず、各成分を含有する塗料組成物を調製した。塗料組成物の溶媒にはシクロヘキサノンとキシレン(シクロヘキサノン20重量%)の混合液を用いた。
【0037】
アルミニウム材表面には、塗膜を以下のようにして形成した。アルミニウム合金板(1100−H24材、0.30mm厚さ)を弱アルカリ脱脂液で脱脂処理し、水洗した後に乾燥した。次いで、このように処理したアルミニウム合金板表面に、市販のリン酸クロメート処理液を用いて化成処理を施した。なお、比較例1は、化成処理を施していない。このアルミニウム合金板に、各々の塗料組成物をバーコータにて塗布した。到達板表面温度(PMT)は270℃、焼付け時間は42秒となるように焼付けして、表1〜3に示すアルミニウム塗装材の供試材を得た。膜厚は、渦電流式膜厚計にて測定した。
【0038】
得られた供試材について、塗膜の硬度およびガラス転移温度を測定した。また、それぞれの供試材について、成形性、塗膜密着性、絶縁性、傷付き性を後述の方法で測定した。結果を、あわせて表1に示す。
【0039】
(硬度)
硬度は、微小硬度計を用いて測定した。測定時の雰囲気温度は23℃とし、面角 136°四角錐のビッカース圧子を用いて、圧縮荷重1mN、荷重保持時間60秒の条件で測定した。
(ガラス転移温度)
ガラス転移温度は、周波数10Hz、温度上昇速度5.0℃/min、サンプル長5cm、振幅0.01mmの条件で動的粘弾性を測定することにより評価した。tanδを計算しそのピークをガラス転移温度とした。
(加工性)
JIS H4001に基づき、塗膜面を外側にして180° 3T曲げを行い、曲げ部にセロハンテープを密着させた。次いで、セロハンテープを急激に剥離した際の剥がれ具合を目視にて観察した。評価基準は、以下の通りである。
○:剥離なし
×:剥離あり
○を合格とし、×を不合格とした。
(塗膜密着性)
JIS H4001に基づき、塗膜面に25マスの碁盤目を描き、セロハンテープにて剥離試験を実施し、塗膜の残存状況にて評価した。下記評価基準に基づいて評価した。
○:塗膜残存 25/25
×:塗膜残存 0/25〜24/25
○を合格とし、×を不合格とした。
(絶縁性)
試料を10cm×10cmの大きさに切断し、JIS C2110−1に準じて、交流50Hz、空気中で、絶縁破壊電圧を測定した。絶縁性試験は、供試材の通常の状態での測定と、供試材に対して耐湿性試験500H(JIS K5600−7−2)を実施した後の乾燥状態での測定とを実施した。
◎:4.5kV〜6.0kV
○:3.6kV〜4.4kV
△:3.0kV〜3.5kV
×:2.9kV以下
絶縁部材として要求される電圧が3.0kV以上であることから、◎、○、△を合格とし、×を不合格とした。
(耐傷付き性)
バウデン試験にて,荷重500gで直径1/4インチの硬球を,無潤滑にて供試材の表面を100回摺動し、摺動痕跡を目視にて観察し評価した。
○:痕跡なし
△:かすかに痕跡あり
×:痕跡あり
○、△は性能を満足するため合格とし、×を不合格とした。
(燃焼性)
水平燃焼試験を行い、塗膜の燃焼の有無を観察することにより、燃焼性を評価した。評価基準は、以下の通りである。なお、本発明は、絶縁性、加工性、塗膜密着性および耐傷付き性の改善に主眼を置いており、燃焼性の評価は、補完的機能としての評価である。
○:塗膜が接炎30秒で着火しない。
△:塗膜が接炎30秒以内に着火するが、延焼しない。
×:塗膜が接炎30秒以内に着火・延焼し、塗膜が残らない。
○、△は性能を満足するため合格とし、×を不合格とした。
(総合評価)
加工性、塗膜密着性、絶縁性、耐傷付き性、燃焼性の各評価をまとめて総合評価とした。総合評価は、本発明の主効果である、加工性、塗膜密着性、絶縁性、耐傷付き性に重点を置いて行い、燃焼性ついては、補完的に評価した。
◎:加工性、塗膜密着性、絶縁性、耐傷付き性、燃焼性の評価が「◎」又は「○」であって少なくとも1つ以上が「◎」であり、かつ、燃焼性の評価が「○」であるもの
○:加工性、塗膜密着性、絶縁性、耐傷付き性の評価が「◎」、「○」又は「△」であり、かつ、燃焼性の評価が「△」又は「×」であるもの、又は、
加工性、塗膜密着性、絶縁性、耐傷付き性、燃焼性の評価が全て「○」であるもの
×:加工性、塗膜密着性、絶縁性、耐傷付き性、燃焼性の評価において少なくとも1つが「×」であるもの
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
実施例1〜24はいずれも加工性、塗膜密着性、絶縁性、耐傷付き性が合格であり、その中でも、実施例4〜6、8、12〜13、16〜17、19、20は優れており、実施例21〜24は、更に難燃性も良好であった。これに対して比較例1〜13では、加工性、塗膜密着性、絶縁性、耐傷付き性の少なくともいずれかが不合格であった。
【0045】
比較例1は、化成皮膜を形成していなかったため、加工性、塗膜密着性を満足することができなかった。
【0046】
比較例2は、塗膜がポリエステル樹脂で形成されており、塗膜のガラス転移温度が低く、塗膜の硬度も低かった。それにより、絶縁性、耐傷付き性を満足することができなかった。
【0047】
比較例3は、比較例2とは異なり塗膜中に硫酸バリウムを含有させたものの、塗膜がポリエステル樹脂で形成されており、塗膜のガラス転移温度が低く、塗膜の硬度も低かった。それにより、絶縁性、耐傷付き性を満足することができなかった。
【0048】
比較例4は、塗膜中に硫酸バリウムを含有させたものの、塗膜がポリエステル−尿素樹脂で形成されており、塗膜のガラス転移温度が低く、塗膜の硬度も低かった。それにより、絶縁性、耐傷付き性を満足することができなかった。
【0049】
比較例5は、塗膜がビスフェノールAエポキシ樹脂で形成されており、ガラス転移温度が低く、塗膜の硬度も低かった。それにより、絶縁性、耐傷付き性を満足することができなかった。
【0050】
比較例6は、塗膜中に硫酸バリウムを含有させておらず、塗膜の硬度が低かった。それにより、耐傷付き性を満足することができなかった。
【0051】
比較例7は、塗膜中に硫酸バリウムを含有させたものの、塗膜がビスフェノールAエポキシ樹脂で形成されており、ガラス転移温度が低かった。それにより、絶縁性を満足することができなかった。
【0052】
比較例8は、塗膜中に硫酸バリウムの代わりに酸化亜鉛を含有させたため、絶縁性(耐湿性試験後)を満足することができなかった。
【0053】
比較例9は、塗膜中の硫酸バリウムの含有量が多く、塗膜の硬度が高かった。それにより、加工性を満足することができなかった。
【0054】
比較例10は、塗膜中の硫酸バリウムの含有量が少なく、塗膜の硬度が低かった。それにより、耐傷付き性を満足することができなかった。
【0055】
比較例11は、塗膜のガラス転移温度が低かったため、絶縁性を満足することができなかった。
【0056】
比較例12は、塗膜のガラス転移温度が高かったため、加工性を満足することができなかった。
【0057】
比較例13は、塗膜中のポリアクリル酸の含有量が多かったため、絶縁性を満足することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明により、絶縁性、加工性、塗膜密着性、ならびに、耐傷付き性に優れ、更にコスト面や安全性において優れた性能を発揮する塗膜を表面に備えるアルミニウ塗装材を提供することができる。