特許第6243699号(P6243699)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243699
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】脆性材料基板の分断装置
(51)【国際特許分類】
   B28D 5/00 20060101AFI20171127BHJP
   C03B 33/033 20060101ALI20171127BHJP
   B28D 1/22 20060101ALI20171127BHJP
   B26F 3/00 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   B28D5/00 Z
   C03B33/033
   B28D1/22
   B26F3/00 A
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-221702(P2013-221702)
(22)【出願日】2013年10月25日
(65)【公開番号】特開2015-83336(P2015-83336A)
(43)【公開日】2015年4月30日
【審査請求日】2016年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】岩坪 佑磨
(72)【発明者】
【氏名】村上 健二
(72)【発明者】
【氏名】武田 真和
【審査官】 塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−119901(JP,A)
【文献】 特開2006−117480(JP,A)
【文献】 特開2008−201629(JP,A)
【文献】 特開2006−192753(JP,A)
【文献】 特開平08−194200(JP,A)
【文献】 特開2013−144421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 5/00
B26F 3/00
B28D 1/22
C03B 33/033
H01l 21/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板本体の上面に樹脂または金属の表面層が積層され、前記基板本体の下面に所定のピッチで複数条のスクライブラインが形成されている脆性材料基板を分断する基板分断装置であって、
前記脆性材料基板を載置するテーブルと、
前記テーブル上に載置された基板に対して昇降可能に形成された基板本体ブレイク工程用ブレイクバー並びに表面層破断工程用押圧部材とを備え、
前記基板本体ブレイク工程用ブレイクバーは、前記表面層を上側にした脆性材料基板に対して上方から押圧して脆性材料基板を下方に撓ませたときに、前記基板本体は前記スクライブラインに沿って分断されるが前記表面層にはブレイクバーの刃先が進入しないように、前記ブレイクバーの刃先が円弧または鈍角で形成されている脆性材料基板の分断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスやセラミック等の脆性材料からなる基板本体の片面にシリコン樹脂(シリコーン)等の樹脂層が形成された基板に対し、基板本体に形成されたスクライブライン(切り溝)に沿って基板を分断する分断方法並びに分断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、脆性材料基板に対して、カッターホイール(スクライビングホイールともいう)やダイシングソー等を用いて、予め複数条のスクライブラインを形成し、その後に、外力を印加して基板を撓ませてスクライブラインに沿ってブレイクすることにより、チップ等の単位製品を取り出す方法が知られている(例えば特許文献1、特許文献2等)。
【0003】
脆性材料基板に対し、スクライブラインに沿って曲げモーメントを加えてブレイクする際、曲げモーメントを効果的に生じさせるために、多くの場合、上記特許文献等に示すような3点曲げ方式にて行われている。
図8は、基板本体の片面に樹脂層を積層したアルミナ基板やLTCC基板(低温焼成セラミックス基板)等の脆性材料基板を3点曲げ方式でブレイクして単位製品を取り出す一般的なブレイク工程を説明するための図である。
回路パターンを表面または内部に形成したセラミック等の基板本体1の表面に、薄いシリコン樹脂等の表面層2を積層した脆性材料基板W(以下、単に「基板」という)を、ダイシングリング20に支持された弾力性のある粘着フィルム21に貼り付ける。基板本体1の下面には前工程で複数条のスクライブラインSが形成されている。
スクライブラインSを跨いでその左右位置で基板Wの下面を受ける一対の受刃22、22が配置されており、基板WのスクライブラインSに相対する部位の上方にはブレイクバー23が配置されている。このブレイクバー23を図8(b)に示すように基板Wに押しつけることによって、基板Wを撓ませてスクライブラインSに沿って分断している。この際、刃先先端(基板と接する面)が鋭利なブレイクバー23によって最初に押しつけられる表面層2は、ブレイクバー23の刃先によってまず切断され、その後更なる押しつけによって基板Wが撓んでスクライブラインSから分断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−131216号公報
【特許文献2】特開2011−212963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分断に使用されるブレイクバー23は、表面層2を切断するために先端を尖らせた鋭角な刃先(例えば刃先角度30度)を必要とする。しかし、ブレイクバー23は表面層2を切断するだけではなく、引き続いて基板本体1を押圧して基板本体1をスクライブラインSから分断するものであるから、基板分断時に大きな荷重が負荷される。したがって、ブレイクバーの刃先が鋭角であれば摩耗や刃こぼれが生じやすく使用寿命が短くなる。また、表面層2を切断したときに切り屑が発生し、品質の劣化や不良品の発生の原因となる。
【0006】
また、表面層2の分断方法としては、レーザ光を使用して切断する方法がある。
しかし、レーザ光の場合は、切断ラインの周辺部分にレーザ光の熱によって変性や変形を生じることがあり、基板本体1にも熱が浸透して基板本体の回路パターン等に悪影響をもたらすことがある。特に、熱の影響を受けやすい樹脂材で表面層が形成されている基板の場合には問題がある。
【0007】
そこで本発明は、上記した従来課題の解決を図り、樹脂または金属の表面層を備えた脆性材料基板を効率的に分断することができる新規な分断方法並びに分断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明では次のような技術的手段を講じた。
【0009】
すなわち、本発明の分断装置は、基板本体の上面に樹脂または金属の表面層が積層され、前記基板本体の下面に所定のピッチで複数条のスクライブラインが形成されている脆性材料基板を分断する基板分断装置であって、前記脆性材料基板を載置するテーブルと、前記テーブル上に載置された基板に対して昇降可能に形成された基板本体ブレイク工程用ブレイクバー並びに表面層破断工程用押圧部材とを備え、前記基板本体ブレイク工程用ブレイクバーは、前記表面層を上側にした脆性材料基板に対して上方から押圧して脆性材料基板を下方に撓ませたときに、前記基板本体は前記スクライブラインに沿って分断されるが前記表面層にはブレイクバーの刃先が進入しないように、前記ブレイクバーの刃先が円弧または鈍角で形成されている構成とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基板本体ブレイク工程で樹脂層を残して基板本体のみをスクライブラインに沿って分断し、次の表面層破断工程で樹脂層を引張り応力で分断するものであるから、ブレイク工程に使用されるブレイクバーは樹脂層を切断するための鋭突な刃先を必要としない。したがって、ブレイクバーの刃先は、表面層には進入しないように刃先を円弧または鈍角で形成することができ、使用寿命を延ばすことができる。また、ブレイクバーの鋭突な刃先で切断する場合のような切り屑の発生を防ぐことができ、切り屑による不良品の発生を抑制できるとともに高品質の単位基板を得ることができる。
【0011】
本発明において、前記基板本体ブレイク工程用ブレイクバーと表面層破断工程用押圧部材とが別のブレイクバー及び押圧部材で形成され、前記表面層破断工程用押圧部材は互いに平行して配置された複数の単位押圧部材を備えており、これら単位押圧部材がそれぞれ前記複数のスクライブラインに向かって同時に押圧できるように形成されている構成としてもよい。
これにより、表面層破断工程用押圧部材の1回の押しつけにより、表面層を単位押圧部材の数だけ同時に破断することができ、作業時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】加工対象となる基板の分断過程を示す説明図。
図2】本発明に係る基板分断装置の一例を示す概略的な斜視図。
図3】分断対象の基板をダイシングテープに貼り付けた状態を示す斜視図。
図4】本発明における基板本体ブレイク工程を示す説明図。
図5】本発明における表面層破断工程を示す説明図。
図6図5の別実施例を示す説明図。
図7】本発明の分断方法の別実施例を示す説明図。
図8】従来の基板分断方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る分断方法並びに分断装置の詳細を、一実施形態を示す図面に基づいて詳細に説明する。図1は加工対象の一例となるアルミナ基板Wを示すものである。基板Wの基板本体1の内部または上面には電子回路パターン(図示外)が形成されており、表面にはシリコン樹脂等の薄い表面層2が積層されている。また、基板本体1の下面には、前段のスクライブ工程で互いに交差するX−Y方向の複数条のスクライブラインSが所定のピッチをあけて形成されている。
この基板Wは、以下で述べる本発明の分断装置Aによって、全てのスクライブラインSに沿って分断され、図1(b)に示すようなチップ状の単位製品W1が取り出される。
【0014】
図2は本発明に係る分断装置Aの一例を示す斜視図である。
分断装置Aは、基板Wを載置して保持するテーブル3を備えている。テーブル3は、水平なレール4に沿ってY方向に移動できるようになっており、モータMによって回転するネジ軸5により駆動される。さらにテーブル3は、モータを内蔵する回転駆動部6により水平面内で回動できるようになっている。
【0015】
さらに、テーブル3の上方には、Y方向に間隔をあけて長尺板状の基板本体ブレイク工程用ブレイクバー7と、表面層破断工程用押圧部材8とがそれぞれのブリッジ9a、9bに保持されている。
各ブリッジ9a、9bは、テーブル3を跨ぐような門型に形成され、X方向に水平に延びるそれぞれのビーム(横桟)10a、10bに、基板本体ブレイク工程用ブレイクバー7並びに表面層破断工程用押圧部材8が、それぞれ流体シリンダ11a、11bによってテーブル3に向かって上下動するように取り付けられている。
【0016】
基板本体ブレイク工程用ブレイクバー7の下端の刃先7aは、後述する基板本体ブレイク工程において、基板Wの表面層2を押圧したときに決して表面層2内に進入しない程度の曲率半径の円弧形状にしてある。また、表面層破断工程用押圧部材8の下端は、後述する表面層破断工程において、基板Wを押圧したときに基板本体1を傷つけないように緩やかな曲面にするのがよい。
【0017】
基板Wを分断するにあたり、図3に示すように、基板Wをダイシングリング12に支持された弾力性のある粘着性のダイシングテープ13に、スクライブラインSが下方になるようにして貼り付ける。そして、この基板Wを貼り付けたダイシングテープ13を、図4(a)に示すように、ゴム等のクッションシート14を介して分断装置のテーブル3上に載置保持する。このとき、図のように基板WのスクライブラインSが形成されている面を下側となるように載置する。
【0018】
そして図4(b)に示すように、基板Wの上方からブレイクバー7をスクライブラインSに向かって降下させて基板Wを押しつけ、スクライブラインSをクッションシート14上で撓ませてスクライブラインSの亀裂を厚み方向に浸透させ、基板本体1を分断する(基板本体ブレイク工程)。
この基板本体ブレイク工程において、ブレイクバー7の押込みにより基板本体1は前記スクライブラインSに沿って分断されるが、ブレイクバー7の刃先7aは表面層2内に進入しない程度の曲率半径の円弧形状にしてあるため、表面層2が切断されることはない。なお、この刃先形状としては、刃先7aの円弧の曲率半径Rが0.025〜5mmとするのがよい。
【0019】
以上の基板本体ブレイク工程によって全てのスクライブラインSを分断した後、図5(a)に示すように、表面層2が下側になるように基板Wをダイシングテープ13とともに反転させ、基板本体1の上方から表面層破断工程用押圧部材8をスクライブラインSに向かって基板本体1に押しつけ、基板Wを下方が広がるように撓ませる。これにより表面層2は、図5(b)の矢印で示すように、押圧部材8の押込み位置Lを境として左右方向に向かう引張り応力を受けて引き裂かれるように力が働き、表面層2内に亀裂Kが発生する。この亀裂Kは、押圧部材8の更なる押しつけによって、図5(c)に示すように厚み方向に浸透して表面層2が破断される(表面層破断工程)。
したがって、この表面層破断工程では、押圧部材8は亀裂Kを発生させるとともに、さらに浸透させて破断されてしまう深さ位置まで十分に下動することが要求される。
このようにして、全てのスクライブラインSに相対する部分で表面層2が破断され、図1(b)に示す単位基板W1がダイシングテープ13に貼り付けられた状態で切り出される。
【0020】
以上のように本発明によれば、基板本体ブレイク工程で樹脂層2を残して基板本体1のみをスクライブラインSに沿って分断し、次の表面層破断工程で樹脂層2を引張り応力で破断するものであるから、ブレイク工程に使用されるブレイクバー7は樹脂層2を切断するための鋭突な刃先を必要としない。したがって、ブレイクバー7の刃先7aを円弧または鈍角に形成することができて使用寿命を延ばすことができる。また、鋭突なブレイクバーの刃先で表面層を切断する場合のような切り屑の発生をなくすことができ、切り屑による不良品の発生を抑制できるとともに高品質の単位基板を得ることができる。
【0021】
上記実施例では、基板本体1を分断する基板本体ブレイク工程と、表面層2を破断する表面層破断工程とを、それぞれ別のブレイクバー7及び押圧部材8で行うようにしたが、表面層破断工程用押圧部材8を省略して、基板本体ブレイク工程用のブレイクバー7を用いて次の表面層破断工程を行うようにしてもよい。
【0022】
(他実施例)
図6は、表面層破断工程を、前述した基板本体ブレイク工程用ブレイクバー7に換えて別の押圧部材で行う場合の実施例を示すものである。
この実施例における表面層破断工程用押圧部材15は、複数、例えば三つの単位押圧部材15a、15b、15cを備えている。これら単位押圧部材15a、15b、15cは互いに平行となるように並べて配置され、共通の保持部材16に取り付けられて同時に昇降できるように形成されている。単位押圧部材15a、15b、15cは、図6(a)に示すように、基板本体1に形成された複数の、本実施例では5本の平行なスクライブラインSに対して、2ピッチずつ間隔をあけて配置されている。
これにより、図6(b)に示すように、単位押圧部材15a、15b、15cを基板本体1の上方からスクライブラインSに向かって押しつけたときに、先行の基板本体ブレイク工程で分断された各スクライブラインSを節として基板本体1が表面層2とともにジグザグ状に撓む。これにより、前記実施例の場合と同様に、表面層2がスクライブラインSに隣接する部分で引張り応力を受けて破断される。したがって、この実施例では、表面層破断工程用押圧部材15を1回押しつけるだけで、5本のスクライブラインSに沿って表面層2を一挙に破断することができるので、作業時間の短縮を図ることができる。
なお、上記実施例では、単位押圧部材15a、15b、15cの1回の動作でジグザグ状に撓むことを利用して表面層2を一挙に分断するようにしているが、2回の動作で確実に分断するようにしてもよい。その場合、1回目のブレイク操作で奇数番目のスクライブライン、2回目のブレイク操作で偶数番目のスクライブラインに押しつけるようにすることで、確実に分断することができる。
【0023】
また、前記実施例では、基板Wの下面にクッションシート14を敷設してブレイクバー7及び表面層破断工程用押圧部材8の押しつけにより基板Wを撓ませるようにしたが、クッションシート14に代えて、図7に示すようなスクライブラインSを挟んで基板Wを受ける一対の受刃17、17を配置するようにしてもよい。
【0024】
以上、本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施例構造のみに特定されるものでない。例えば、上記したダイシングテープ13を省略することも可能である。
その他本発明では、その目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、表面に樹脂や金属の薄い表面層を有するアルミナ基板、LTCC基板等の脆性材料からなる基板の分断に好適に利用される。
【符号の説明】
【0026】
A 分断装置
K 亀裂
L 押圧部材の押込み位置
S スクライブライン
W 基板
1 基板本体
2 表面層
3 テーブル
7 ブレイクバー
7a 刃先
8 表面層破断工程用押圧部材
13 ダイシングテープ
14 クッションシート
15 表面層破断工程用押圧部材
15a、15b、15c 単位押圧部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8