(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243710
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】車軸用軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 19/38 20060101AFI20171127BHJP
F16C 33/46 20060101ALI20171127BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20171127BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20171127BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20171127BHJP
B61F 15/22 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
F16C19/38
F16C33/46
F16C33/58
F16C33/78 C
F16C33/66 Z
B61F15/22
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-239801(P2013-239801)
(22)【出願日】2013年11月20日
(65)【公開番号】特開2015-98915(P2015-98915A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 晋一
【審査官】
日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−042030(JP,A)
【文献】
特開2011−226571(JP,A)
【文献】
特開2007−315566(JP,A)
【文献】
実開昭58−165324(JP,U)
【文献】
特開2009−024782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56,33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の軌道を有する外輪と、それぞれの外周に軌道を有する一対の内輪と、一対の内輪の軸方向で挟まれた内輪間座と、前記内輪と外輪の軌道との間に介在する複列の円すいころと、各列の円すいころを円周方向で所定間隔に保持する保持器と、一対の内輪の軸端側に配される油切りと、一対の内輪の軸端側とは反対側に配される後蓋とを備え、
前記保持器は、大径側環状部と、小径側環状部と、大径側環状部と小径側環状部とを連結する柱部とを備え、
前記内輪は軌道の油切り又は後蓋側に大鍔を、内輪間座側に小鍔を有し、
前記大鍔の外周を軸受内部に向かってその径が拡径するように傾斜部が設けられ、
前記傾斜部は、前記油切り又は後蓋側の傾斜部ところ側の傾斜部からなる段付き形状に形成され、前記油切り又は後蓋側の傾斜部の傾斜角度をころ側の傾斜部の傾斜角度より大きく形成されていることを特徴とする車軸用軸受装置。
【請求項2】
内周に複列の軌道を有する外輪と、それぞれの外周に軌道を有する一対の内輪と、一対の内輪の軸方向で挟まれた内輪間座と、前記内輪と外輪の軌道との間に介在する複列の円すいころと、各列の円すいころを円周方向で所定間隔に保持する保持器と、一対の内輪の軸端側に配される油切りと、一対の内輪の軸端側とは反対側に配される後蓋とを備え、
前記保持器は、大径側環状部と、小径側環状部と、大径側環状部と小径側環状部とを連結する柱部とを備え、
前記内輪は軌道の油切り又は後蓋側に大鍔を、内輪間座側に小鍔を有し、
前記大鍔の外周を軸受内部に向かってその径が拡径するように傾斜部が設けられ、
前記内輪の大鍔の外径を曲線的に変化させるとともに、軸受内部へ向かって径が漸増するように形成した傾斜部が設けられていることを特徴とする車軸用軸受装置。
【請求項3】
前記保持器の前記大径側環状部が軸受内部に向かって拡径するように形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車軸用軸受装置。
【請求項4】
内周に複列の軌道を有する外輪と、それぞれの外周に軌道を有する一対の内輪と、一対の内輪の軸方向で挟まれた内輪間座と、前記内輪と外輪の軌道との間に介在する複列の円すいころと、各列の円すいころを円周方向で所定間隔に保持する保持器と、一対の内輪の軸端側に配される油切りと、一対の内輪の軸端側とは反対側に配される後蓋とを備え、
前記内輪は軌道の油切り又は後蓋側に大鍔を、内輪間座側に小鍔を有し、
前記内輪の大鍔の外周にリング状の凹所を設け、この凹所に潤滑剤が封入され、
前記凹所を覆うように、前記大鍔の外周にリングを取り付けたことを特徴とする車軸用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車軸用軸受装置に関するもので、より詳しくは、主に鉄道車両車軸用軸受に用いられる密封装置を備えた軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両車軸用軸受装置においては、軸受内部に封入したグリースなどの潤滑剤が漏れ出すのを防止し、また、外部から塵、水分、異物、摩耗分などの有害物の浸入を防ぐために、接触式又は非接触式の密封装置が採用されている。
【0003】
密封装置を備えた鉄道車両車軸用軸受装置は、グリースなどの潤滑剤を外輪中央部および複列内輪組立部に封入し潤滑を行っている。この内輪組立部封入された大半の潤滑剤は回転により軸受内部から排出されてオイルシール近傍に溜まり、潤滑剤が必要な軌道列や内輪大鍔部に不足した状態になって、メンテナンス周期が短くなるという問題があった。
【0004】
上記の問題を解決するために、外輪に装着する金属製のシールケースと、シールケースに固着し内輪の大鍔の外周面に摺接するリップを有するシール本体とで、密封装置を構成し、密封装置により、軸受回転によって軸受端部に排出された潤滑剤を軸受内部に誘導するようにした密封装置付き軸受が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−172201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、軸受の潤滑は軸受内部に蓄えられている潤滑剤によって行われる。特に、回転部周辺に付着している潤滑剤からの油分の供給が潤滑寿命に影響を及ぼす。しかしながら、潤滑剤は、軸受の回転によって回転部から排除されてオイルシール近傍へ留まり、潤滑剤が必要な軌道列や内輪大鍔面ところ端面の接触部に潤滑剤が不足する場合がある。特に、内輪大鍔面ところ端面は滑り接触するため、潤滑剤の不足は焼き付きなどの重大な問題につながる。
【0007】
軸受回転によって軸受端部に排出された潤滑剤を軸受内部に誘導するようにした特許文献1に記載の構造においては、オイルシール部の空間容積は小さくなり、軸受内部に封入できる潤滑剤の量が少なくなってしまうことになる。
【0008】
そこで、この発明は、内輪大鍔面ところ大端面に潤滑剤を供給し易くすると共に、潤滑寿命を延伸させ、軸受の耐摩耗性・耐焼き付き性を向上させる軸受を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、この発明は、内周に複列の軌道を有する外輪と、それぞれの外周に軌道を有する一対の内輪と、一対の内輪の軸方向で挟まれた内輪間座と、前記内輪と外輪の軌道との間に介在する複列の円すいころと、各列の円すいころを円周方向で所定間隔に保持する保持器と、一対の内輪の軸端側に配される油切りと、一対の内輪の軸端側とは反対側に配される後蓋とを備え、前記保持器は、大径側環状部と、小径側環状部と、大径側環状部と小径側環状部とを連結する柱部とを備え
、前記内輪は軌道の油切り又は後蓋側に大鍔を、内輪間座側に小鍔を有し、前記大鍔の外周を軸受内部に向かってその径が拡径するように傾斜部が設けられ、前記傾斜部は、前記油切り又は後蓋側の傾斜部ところ側の傾斜部からなる段付き形状に形成され、前記油切り又は後蓋側の傾斜部の傾斜角度をころ側の傾斜部の傾斜角度より大きく形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、この発明は、
内周に複列の軌道を有する外輪と、それぞれの外周に軌道を有する一対の内輪と、一対の内輪の軸方向で挟まれた内輪間座と、前記内輪と外輪の軌道との間に介在する複列の円すいころと、各列の円すいころを円周方向で所定間隔に保持する保持器と、一対の内輪の軸端側に配される油切りと、一対の内輪の軸端側とは反対側に配される後蓋とを備え、前記保持器は、大径側環状部と、小径側環状部と、大径側環状部と小径側環状部とを連結する柱部とを備え、前記内輪は軌道の油切り又は後蓋側に大鍔を、内輪間座側に小鍔を有し、前記大鍔の外周を軸受内部に向かってその径が拡径するように傾斜部が設けられ、前記内輪の大鍔の外径を曲線的に変化させるとともに、軸受内部へ向かって径が漸増するように形成した傾斜部が設けられていることを特徴とする前記内輪は軌道の油切り又は後蓋側に大鍔を、内輪間座側に小鍔を有し、前記大鍔の外周を軸受内部に向かってその径が拡径するように傾斜部を設けることができる。
【0011】
また、
前記保持器の前記大径側環状部が軸受内部に向かって拡径するように形成するように構成することができる。
【0012】
また、
この発明は、内周に複列の軌道を有する外輪と、それぞれの外周に軌道を有する一対の内輪と、一対の内輪の軸方向で挟まれた内輪間座と、前記内輪と外輪の軌道との間に介在する複列の円すいころと、各列の円すいころを円周方向で所定間隔に保持する保持器と、一対の内輪の軸端側に配される油切りと、一対の内輪の軸端側とは反対側に配される後蓋とを備え、前記内輪は軌道の油切り又は後蓋側に大鍔を、内輪間座側に小鍔を有し、前記内輪の大鍔の外周にリング状の凹所を設け、この凹所に潤滑剤が封入され、前記凹所を覆うように、前記大鍔の外周にリングを取り付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、この発明によれば、内輪の大鍔面ところ端面への潤滑剤の供給性が改善され、当該部位の耐摩耗性および耐焼き付き性の向上、メンテナンス周期を延長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明が適用される車軸用軸受装置を示す縦断面図である。
【
図2】この発明に用いられる保持器を示す斜視図である。
【
図3】この発明の第1の
参考例を示す円すいころ部分を中心とした拡大模式図である。
【
図4】この発明の第2の
参考例を示す円すいころ部分を中心とした拡大模式図である。
【
図5】この発明の第3の
参考例を示す円すいころ部分を中心とした拡大模式図である。
【
図6】この発明の第
1の実施形態を示す円すいころ部分を中心とした拡大模式図である。
【
図7】この発明の第
2の実施形態を示す円すいころ部分を中心とした拡大模式図である。
【
図8】この発明の第
3の実施形態を示す円すいころ部分を中心とした拡大模式図である。
【
図9】この発明の第
4の実施形態を示す円すいころ部分を中心とした拡大模式図である。
【
図10】この発明の第
4の参考例を示す円すいころ部分を中心とした拡大模式図である。
【
図11】この発明の
第5の参考例を示す円すいころ部分を中心とした拡大模式図である。
【
図12】この発明の第
5の実施形態を示す円すいころ部分を中心とした拡大模式図である。
【
図13】この発明の第
5の実施形態を示す円すいころ部分を中心とした拡大模式図である。
【
図14】この発明の第
6の実施形態を示す円すいころ部分を中心とした拡大模式図である。
【
図15】この発明の第
7の実施形態を示す円すいころ部分を中心とした拡大模式図である。
【
図16】この発明の第
7の実施形態を示す内輪大鍔を径方向に断面した拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
この発明が適用される車軸用軸受は、
図1に示すように、一対の内輪2と、一対の内輪2に軸方向で挟まれた内輪間座12と、複列外輪3と、2列の円すいころ4と、保持器5とで構成されている。内輪2はそれぞれ外周に軌道2aを有し、外輪3は内周に2列の軌道3aを有している。一対の内輪2の軌道2aと外輪3の軌道3aとの間に2列の円すいころ4が転動自在に介在させてある。各列の円すいころ4は保持器5によって所定間隔に保持される。
【0016】
内輪2は車軸40に嵌合させてあり、一対の内輪2を挟んで、軸端側に油切り11、その反対側に後蓋10が、それぞれ配置してある。そして、油切り11、前蓋13が車軸40に取り付けられる。尚、内輪2は、軌道2aの油切り11又は後蓋10側に大鍔2bを、内輪間座12側に小鍔2cを有している。
【0017】
そして、軸受内部に充填したグリースなどの潤滑剤が漏れ出すのを防止するとともに、外部から異物が進入するのを防止するため、外輪3の両端開口部に密封装置14が装着してある。密封装置14は、一端が外輪3と嵌合させたシールケース14aと、シールケース14aの内側に取り付けたオイルシール14bとからなっている。オイルシール14bのシールリップを油切り11または後蓋10の外周面に弾性的に接触させてある。
【0018】
尚、
図1に示す軸受においては、外輪3に、貫通孔3bとこの貫通孔3bを塞ぐベント3cが設けられている。
【0019】
この発明は、上記した車軸用軸受において、内輪2の大鍔2bの端面ところ4の大端面に潤滑剤を供給し易い構造とするとともに、有効に潤滑剤を使用して、潤滑寿命を長くするために、以下のような構造にしている。以下、円すいころ部分を中心とした拡大模式図を参照して各実施形態について説明する。
【0020】
図2は、この発明の実施形態に用いられる保持器の一例を示す斜視図である。保持器5は、大径側環状部5aと小径側環状部5bと、大径側環状部5aと小径側環状部5bとを連結する柱部5cとを備える。柱部5cは、周方向に沿って等ピッチで配置され、周方向に沿って隣り合う柱部5c間に設けられる収容部(ポケット)5dに円すいころ4が回転自在に収容される。
【0021】
図3に示す第1の
参考例は、ころ4の大端面4a側に位置する保持器5の大径側環状部5aが軸受内部に向かって拡径するように形成されている。
【0022】
軸受の回転により、グリースなどの潤滑剤が、遠心力により内輪2の大鍔2bから飛散する。この第1の実施形態では、飛散した潤滑剤が保持器5の大径側環状部5aの内面5a’に付着する。大径側環状部5aは軸受内部に拡径するように形成されているので、付着した潤滑剤はころ4の大端面4a側に向かって移動し、内輪2の大鍔2bの端面2b’ところ4の大端面4aに潤滑剤が供給される。
【0023】
図4に示す第2の
参考例は、内輪2の大鍔2bの外周を軸受内部に向かってその径が拡径するように傾斜部2dが設けられている。傾斜させた内輪2の大鍔2bの端面の直径は、当接する油切り11や後蓋10の接触面の直径よりも大きくなるように傾斜部2dの傾斜角が設定されている。
【0024】
このように、この第2の
参考例は、内輪2の大鍔2bに付着した潤滑剤は、傾斜部2dに沿って遠心力により、ころ4の大端面4a側に向かって移動し、内輪2の大鍔2bの端面2b’ところ4の大端面4aに潤滑剤が供給される。
【0025】
図5に示す第3の
参考例は、第1の
参考例と第2の
参考例とを組み合わせたものである。即ち、この第3の
参考例は、第1の
参考例の保持器5の形状に加え、内輪2の大鍔2bの外周を軸受内部に向かってその径が拡径するように傾斜部2dが設けられている。傾斜させた内輪2の大鍔2bの端面の直径は、当接する油切り11や後蓋10の接触面の直径よりも大きくなるように傾斜部2dの傾斜角が設定されている。
【0026】
このように、この第3の
参考例は、保持器5の大径側環状部5aに付着した潤滑剤は、ころ4の大端面4a側に向かって移動するとともに、内輪2の大鍔2bに付着した潤滑剤は、傾斜部2dに沿って遠心力により、ころ4の大端面4a側に向かって移動し、内輪2の大鍔2bの端面2b’ところ4の大端面4aに保持器5の大径側環状部5aに付着した潤滑剤と大鍔2bの傾斜部2dを沿って移動した潤滑剤が供給される。
【0027】
図6に示す第
1の実施形態は、内輪2の大鍔2bの外周を軸受内部に向かってその径が拡径するように傾斜部が設けられている。この傾斜部は、油切り11又は後蓋10側の傾斜部2fところ4の大端面4a側の傾斜部2eからなる段付き形状に形成され、傾斜部2fの傾斜角度θ1を傾斜部2eの傾斜角度θ2をより大きくしている。
【0028】
このように、この第
1の実施形態は、傾斜の角度を変えることにより、遠心力による潤滑剤の移動の速度を変え、急激に潤滑剤がころ4の大端面4aへ供給されることを抑制したものである。
【0029】
図7に示す第
2の実施形態は、第1の
参考例と第
1の実施形態とを組み合わせたものである。即ち、この第
2の実施形態は、第1の
参考例の保持器5の形状に加え、段付き形状の傾斜部2f、2eを設けたものである。
【0030】
このように、この第
2の実施形態は、保持器5の大径側環状部5aに付着した潤滑剤は、ころ4の大端面4a側に向かって移動するとともに、内輪2の大鍔2bに付着した潤滑剤は、段付きの傾斜部2f、2eに沿って遠心力により、急激に潤滑剤がころ4の大端面4aへ供給されることなく、ころ4の大端面4a側に向かって移動し、内輪2の大鍔2bの端面2b’ところ4の大端面4aに潤滑剤が供給される。
【0031】
図8に示す第
3の実施形態は、内輪2の大鍔2bの外径を曲線的に変化させるとともに、軸受内部へ向かって径が漸増するように形成した傾斜部2gが設けられている。
【0032】
このように、この第
3の実施形態は、内輪2の大鍔2bの外径を曲線的に変化させることにより、遠心力による潤滑剤の移動の速度を変え、急激に潤滑剤がころ4の大端面4aへ供給されることを抑制したものである。
【0033】
図9に示す第
4の実施形態は、第1の
参考例と第
3の実施形態とを組み合わせたものである。即ち、この第
4の実施形態は、第1の
参考例の保持器5の形状に加え、内輪2の大鍔2bの外径を曲線的に変化させるとともに、軸受内部へ向かって径が漸増するように形成した傾斜部2gを設けたものである。
【0034】
このように、この第
4の実施形態は、保持器5の大径側環状部5aの内面5a’に付着した潤滑剤は、ころ4の大端面4a側に向かって移動するとともに、内輪2の大鍔2bに付着した潤滑剤は、軸受内部へ向かって径が漸増するように形成した傾斜部2gに沿って遠心力により、急激に潤滑剤がころ4の大端面4aへ供給されることなく、ころ4の大端面4a側に向かって移動し、内輪2の大鍔2bの端面2b’ところ4の大端面4aに潤滑剤が供給される。
【0035】
図10に示す第
4の参考例は、内輪2の大鍔2bの外周にリング状の凹所20を設けている。そして、この凹所20に予め潤滑剤が封入されている。この凹所20に封入した潤滑剤が遠心力により、ころ4の大端面4aに供給されるようにしたものである。この
図10に示すように、凹所20の底の径を軸受内部に漸増するように構成することで、潤滑剤の供給を効率よく行うことができる。
【0036】
図11に示す第
5の参考例は、第1の
参考例と第
4の参考例とを組み合わせたものである。即ち、この第9の実施形態は、第1の
参考例の保持器5の形状に加え、内輪2の大鍔2bの外周にリング状の凹所20を設けたものである。
【0037】
このように、この第
5の参考例は、保持器5の大径側環状部5aの内面5a’に付着した潤滑剤は、ころ4の大端面4a側に向かって移動するとともに、内輪2の凹所20に封入された潤滑剤は、遠心力により、ころ4の大端面4a側に向かって移動し、内輪2の大鍔2bの端面2b’ところ4の大端面4aに潤滑剤が供給される。
【0038】
図12に示す第
5の実施形態は、内輪2の大鍔2bの外周にリング状の凹所20を設け、この凹所20を覆うように、大鍔2bの外周にリング21を取り付けている。このリング21は、軸受の回転時に脱落しないように、リング内径側に凸部22が設けられ、内輪2の大鍔2bの外径面にリング固定用凹部22aが設けられ、リング固定用凹部22aに凸部22を嵌め込み固定している。
【0039】
リング21の材質は、樹脂又は鉄板が使用され、リング21の大鍔2b面側はころ4の大端面4aへの潤滑剤の供給をよりよくするために、大鍔2bの面取り部2b’’まで延びている。
【0040】
軸受の回転時に遠心力によって、凹所20に予め封入されている潤滑剤は、大鍔2bとリング21との隙間から徐々に供給できるようにしている。
【0041】
そして、凹所20に封入された潤滑剤が軸受回転部側へ供給されやすくするために、凹所20を境にして、ころ4の大端面4a側へ向かう内輪2の大鍔2bの外径面の面粗さを大きくすればよい。面粗さは、例えば、Ra(算術平均粗さ)6.3を超えるようにしている。リング21と当接する大鍔2bの面粗さを大きくすることで、リング21と大鍔2bが当接していても潤滑剤が通りやすくなる。凹所20より油切り11又は後蓋10へ向かう内輪2の大鍔2bの外径の面粗さは小さく、例えばRa6.3以下とし、軸受外部へは潤滑油が出にくくすればよい。もちろん、
図13に示すように、凹所20を境に、リング21と大鍔2bの間に隙間sを設けてもよい。
【0042】
図14に示す第
6の実施形態は、第1の
参考例と第
5の実施形態とを組み合わせたものである。即ち、この第
6の実施形態は、第1の
参考例の保持器5の形状に加え、内輪2の大鍔2bの外周にリング状の凹所20を設け、この凹所20を覆うように、大鍔2bの外周にリング21を取り付けている。
【0043】
このように、この第
6の実施形態は、保持器5の大径側環状部5aの内面5a’に付着した潤滑剤は、ころ4の大端面4a側に向かって移動するとともに、大鍔2bとリング21との隙間から徐々に潤滑材を供給することができる。
【0044】
この第
7の実施形態は、
図15および
図16に示すように、第
5および第6の実施形態において、内輪2の大鍔2bに取り付けるリング21の大鍔2bに面する側に、円周方向にて複数の軸方向に延びるスリット24を設けたものである。即ち、リング21と内輪2の大鍔2bとに間に、複数のスリット24が配されることになる。この第
7の実施形態では、大鍔2bの外周の凹所20に封入した潤滑剤がスリット24を通じて供給できるようになっている。この実施形態の場合、リング21と内輪2の大鍔2bの外周面とのはめあいや面粗さは一定でよい。
【0045】
また、上記した第
5から第7の実施形態において、凹所20の底の径を軸受内部に漸増するように構成してもよい。
【0046】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0047】
2 内輪
2a 軌道
2b 大鍔
2c 小鍔
3 外輪
3a 軌道
4a 大端面
5 保持器
5a 大径側環状部
5b 小径側環状部
5c 柱部
10 後蓋
11 油切り
12 内輪間座
13 前蓋
14 密封装置
20 凹所
21 リング
22 凸部