特許第6243713号(P6243713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243713
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】研磨液組成物
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20171127BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20171127BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20171127BHJP
【FI】
   G11B5/84 A
   C09K3/14 550D
   B24B37/00 H
   C09K3/14 550Z
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-243102(P2013-243102)
(22)【出願日】2013年11月25日
(65)【公開番号】特開2015-103263(P2015-103263A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】栗原 純
(72)【発明者】
【氏名】松井 芳明
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−131346(JP,A)
【文献】 特開2011−161599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子と、共重合体と、水とを含有する研磨液組成物であって、
前記共重合体が、下記一般式(I)で表される構成単位と下記一般式(II)で表される構成単位と下記一般式(III)で表される構成単位を有する共重合体又はその塩であり、
前記共重合体を構成する全構成単位中に占める式(II)で表される構成単位のモル比率と式(III)で表される構成単位のモル比率の和が、55モル%以上である、磁気ディスク基板用研磨液組成物。
【化1】
[式(I)、(II)及び(III)中、R1、R3及びR5はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であり、X1及びX2はそれぞれ独立して酸素原子又はNH基であり、R2は炭素数8以上18以下の炭化水素鎖であり、pは0又は1であり、AOは炭素数1以上3以下のオキシアルキレン基であり、nはAOの平均付加モル数であって1以上30以下の数であり、R4は水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基であり、R6はスルホン酸基を含む炭化水素基又は−X3−R7であり、X3は−COO−又は−CONH−であり、R7はスルホン酸基を含む炭化水素基である。]
【請求項2】
アルミナ砥粒を含まず、仕上げ研磨に用いられる、請求項1に記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
【請求項3】
前記共重合体の重量平均分子量が、1000以上1000000以下である、請求項1又は2記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
【請求項4】
前記共重合体を構成する全構成単位中に占める式(II)で表される構成単位のモル比率が60モル%以下であり、pが1であり、X2が酸素原子であり、AOがオキシエチレン基であり、平均付加モル数nが2以上10以下である、請求項1から3のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
【請求項5】
前記共重合体を構成する全構成単位中に占める式(I)及び式(III)で表される構成単位のモル比率が、それぞれ独立して、23モル%以上45モル%以下である、請求項1からのいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
【請求項6】
前記式(III)中、R6が−CONH−C(CH32−CH2−SO3Hである、請求項1から5のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
【請求項7】
さらに、酸、及び酸化剤を含有する、請求項1からのいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
【請求項8】
pHが、1.0以上3.0以下である、請求項1からのいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
【請求項9】
磁気ディスク基板がNi―P含有層を有するアルミナ基板である、請求項1からのいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
【請求項10】
請求項1からのいずれかに記載の研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び前記被研磨基板の少なくとも一方を動かして研磨する工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法。
【請求項11】
請求項1からのいずれかに記載の研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び前記被研磨基板の少なくとも一方を動かして研磨することを含む、基板の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、研磨液組成物、並びにこれを用いた基板の製造方法及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスクドライブは小型化・大容量化が進み、高記録密度化が求められている。高記録密度化するために、単位記録面積を縮小し、弱くなった磁気信号の検出感度を向上するため、磁気ヘッドの浮上高さをより低くするための技術開発が進められている。磁気ディスク基板には、磁気ヘッドの低浮上化と記録面積の確保に対応するため、表面粗さ、うねり、端面ダレの低減に代表される平滑性・平坦性の向上とスクラッチ、突起、ピット等の低減に代表される欠陥低減に対する要求が厳しくなっている。このような要求に対して、ポリエチレングリコール(PEG)鎖やスルホン酸基などの官能基を有する共重合体を含有する研磨液組成物が提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
特許文献1は、PEG鎖を有する構成単位と疎水性モノマーに由来する構成単位とを含む共重合体を含有するガラス基板用研磨液組成物を開示する。また、同文献は、該ガラス基板用研磨液組成物を用いる研磨工程では研磨速度が向上可能であることを開示する。
【0004】
特許文献2は、炭化水素鎖を有する構成単位とスルホン酸基を有する構成単位とを有する共重合体を含有する磁気ディスク基板用研磨液組成物を開示する。また、同文献は、該磁気ディスク基板用研磨液組成物を用いる研磨工程では、研磨後の基板表面のスクラッチに加えて、研磨後の基板表面のうねりやナノ突起欠陥を低減できることを開示する。
【0005】
特許文献3は、スルホン酸基又はカルボン酸基を持つモノマーに由来する構成単位と窒素原子を持つモノマーに由来する構成単位とを有する共重合体を含有する、半導体部品等の研磨液組成物を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−31324号公報
【特許文献2】特開2010−170648号公報
【特許文献3】特開2001−64688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気ディスクドライブの大容量化に伴い、基板の表面品質に対する要求特性はさらに厳しくなっており、基板表面のスクラッチをいっそう低減できる研磨液組成物の開発が求められている。
【0008】
そこで、本開示は、研磨速度を著しく損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減できる研磨液組成物、並びにこれを用いた磁気ディスク基板の製造方法及び研磨方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は一態様において、シリカ粒子と、共重合体と、水とを含有する研磨液組成物であって、前記共重合体が、下記一般式(I)で表される構成単位と下記一般式(II)で表される構成単位と下記一般式(III)で表される構成単位とを有する共重合体又はその塩であり、前記共重合体を構成する全構成単位中に占める式(II)で表される構成単位のモル比率と式(III)で表される構成単位のモル比率の和が、55モル%以上である、磁気ディスク基板用研磨液組成物に関する。
【化1】
[式(I)、(II)及び(III)中、R1、R3及びR5はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であり、X1及びX2はそれぞれ独立して酸素原子又はNH基であり、R2は炭素数8〜18の炭化水素鎖であり、pは0又は1であり、AOは炭素数1以上3以下のオキシアルキレン基であり、nはAOの平均付加モル数であって1以上30以下の数であり、R4は水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基であり、R6はスルホン酸基を含む炭化水素基又は−X3−R7であり、X3は−COO−又は−CONH−であり、R7はスルホン酸基を含む炭化水素基である。]
【0010】
本開示はその他の態様において、本開示に係る研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び前記被研磨基板の少なくとも一方を動かして研磨する工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法に関する。
【0011】
本開示はその他の態様において、本開示に係る研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び前記被研磨基板の少なくとも一方を動かして研磨することを含む、基板の研磨方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る研磨液組成物によれば、生産性を損なうことなく、研磨後の基板表面のスクラッチが低減された基板、好ましくは磁気ディスク基板、さらに好ましくは垂直磁気記録方式の磁気ディスク基板を製造できるという効果が奏されうる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、研磨パッドに吸着するユニットとシリカ粒子に吸着するユニットの双方を備え、さらに水溶性に寄与するユニットを備えるポリマーを含む研磨液組成物を用いると、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減できるという知見に基づく。なお、本開示において、「生産性を損なうことなく」とは、一又は複数の実施形態において、本開示の組成物を用いない場合に比して、研磨速度が著しく低減しない範囲で維持されること、又は、研磨速度の著しい低減が抑制されることをいう。
【0014】
すなわち、本開示は、一態様において、シリカ粒子と、共重合体と、水とを含有する研磨液組成物であって、前記共重合体が、前記一般式(I)で表される構成単位と前記一般式(II)で表される構成単位と前記一般式(III)で表される構成単位とを有する共重合体又はその塩(以下、「本開示に係る共重合体」ともいう)である磁気ディスク基板用研磨液組成物(以下、「本開示に係る研磨液組成物」ともいう)に関する。
【0015】
本開示に係る研磨液組成物により生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減できるメカニズムの詳細は明らかではないが以下のように推定される。すなわち、本開示に係る共重合体の研磨パッドに吸着するユニットが研磨パッド全面に吸着し、研磨パッドと被研磨基板との摩擦が低減され、スクラッチ数を著しく低減すると考えられる。更にシリカ吸着ユニットにより研磨パッド表面にシリカ砥粒が濃縮・保持されることで、通常より切削移動距離が大きくなり、摩擦を低減しつつも生産性を損なうことなく基板表面のスクラッチが低減されると考えられる。また、水溶性に寄与するユニットを加えることで、フィルターの目詰まりの原因となる共重合体の凝集を抑制しつつ、水溶性を保持でき、生産性の維持とスクラッチの低減がいっそう促進されると推測される。但し、本開示及び本発明はこれらのメカニズムに限定されない。
【0016】
[共重合体の構成単位]
本開示に係る共重合体は、下記一般式(I)で表される構成単位と下記一般式(II)で表される構成単位と下記一般式(III)で表される構成単位とを有する共重合体又はその塩である。また、本開示の共重合体は、一又は複数の実施形態において、ポリスチレン等の重合架橋粒子を含まないことが好ましく、水溶性共重合体であることがより好ましい。ここで言う「水溶性」とは、一又は複数の実施形態において、20℃、pH1.5の水100gに対する溶解度が0.1g以上であることをいう。
【化2】
[式(I)、(II)及び(III)中、R1、R3及びR5はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であり、X1及びX2はそれぞれ独立して酸素原子又はNH基であり、R2は炭素数8以上18以下の炭化水素鎖であり、pは0又は1であり、AOは炭素数1以上3以下のオキシアルキレン基であり、nはAOの平均付加モル数であって1以上30以下の数であり、R4は水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基であり、R6はスルホン酸基を含む炭化水素基又は−X3−R7であり、X3は−COO−又は−CONH−であり、R7はスルホン酸基を含む炭化水素基である。]
【0017】
[式(I)の構成単位]
上記一般式(I)の構成単位は、一又は複数の実施形態において、研磨パッドに吸着するユニットである。式(I)中、X1は、一又は複数の実施形態において、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、酸素原子であることが好ましい。R2の炭化水素鎖の炭素数は、一又は複数の実施形態において、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、8以上であって、10以上が好ましく、12以上がより好ましい。R2の炭化水素鎖の炭素数は、一又は複数の実施形態において、同様の観点から、18以下であって、16以下が好ましく、14以下がより好ましい。
【0018】
上記一般式(I)の構成単位を与えるモノマーとしては、一又は複数の実施形態において、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、ノニルアクリレート、ノニルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ウンデシルアクリレート、ウンデシルメタクリレート、ラウリルアクリレート(LA)、ラウリルメタクリレート(LM)、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、ミリスチルアクリレート、ミリスチルメタクリレート、ペンタドデシルアクリレート、ペンタドデシルメタクリレート、セトリアクリレート、セチルメタクリレート、パルミチルアクリレート、パリミチルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、オレイルアクリレート、オレイルメタクリレート等が挙げられる。
【0019】
本開示に係る共重合体を構成する全構成単位中に占める式(I)で表される構成単位のモル比率は、一又は複数の実施形態において、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、20モル%以上が好ましく、より好ましくは23モル%以上、さらに好ましくは27モル%以上、さらにより好ましくは30モル%以上である。本開示に係る共重合体を構成する全構成単位中に占める式(I)で表される構成単位のモル比率は、一又は複数の実施形態において、同様の観点及び共重合体の水溶性を維持する観点から、45モル%以下が好ましく、より好ましくは43モル%以下、さらに好ましくは40モル%以下、さらにより好ましくは36モル%以下である。
【0020】
[式(II)の構成単位]
上記一般式(II)の構成単位は、一又は複数の実施形態において、シリカ粒子に吸着するユニットである。式(II)中、AOは炭素数1以上3以下のオキシアルキレン基であり、一又は複数の実施形態において、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、炭素数2のオキシエチレン(EO)基が好ましい。nはAOの平均付加モル数であって1以上30以下の数であり、一又は複数の実施形態において、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、25以下が好ましく、20以下がより好ましく、15以下がさらに好ましく、10以下がさらにより好ましく、5以下がさらにより好ましい。nは、一又は複数の実施形態において、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、1以上であって、2以上が好ましい。
【0021】
式(II)中、X2は、一又は複数の実施形態において、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、酸素原子であることが好ましい。R3及びR4は、一又は複数の実施形態において、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、水素原子が好ましい。
【0022】
上記一般式(II)の構成単位を与えるモノマーとしては、一又は複数の実施形態において、p=1の場合モノマーとして、ポリエチレングリコールメタクリレート(PEGMA)、ポリエチレングリコールアクリレート(PEGAA)、ジエチレングリコールアクリレート(DEGAA)等が挙げられ、p=0の場合モノマーとして、ポリエチレングリコールアリルエーテルが挙げられる。
【0023】
本開示に係る共重合体を構成する全構成単位中に占める式(II)で表される構成単位のモル比率は、一又は複数の実施形態において、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、10モル%以上が好ましく、より好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは27モル%以上、さらにより好ましくは30モル%以上である。本開示に係る共重合体を構成する全構成単位中に占める式(II)で表される構成単位のモル比率は、一又は複数の実施形態において、同様の観点及び共重合体の凝集を抑制する観点から、60モル%以下が好ましく、より好ましくは52モル%以下、さらに好ましくは40モル%以下、さらにより好ましくは36モル%以下である。
【0024】
[式(III)の構成単位]
上記一般式(III)の構成単位は、一又は複数の実施形態において、水溶性を付与するユニットである。式(III)中、R6は、一又は複数の実施形態において、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、スルホン酸基を含む炭化水素基、又は−X3−R7であり、X3は−COO−又は−CONH−であり、R7はスルホン酸基を含む炭化水素基であることが好ましい。一又は複数の実施形態において、R6の炭化水素基の炭素数は、一又は複数の実施形態において、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、1以上であって、2以上が好ましく、3以上がより好ましい。R6の炭化水素基の炭素数は、一又は複数の実施形態において、同様の観点から、8以下であって、6以下が好ましく、4以下がより好ましい。R6は、一又は複数の実施形態において、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、-CONH-C(CH3)2-CH2-SO3H が好ましい。
【0025】
上記一般式(III)の構成単位を与えるモノマーとしては、一又は複数の実施形態において、イソプレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、スチレンスルホン酸、メタリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソアミレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等が挙げられ、研磨速度維持及びスクラッチ低減及び重合性の観点から、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びスチレンスルホン酸が好ましく、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸がより好ましい。
【0026】
本開示に係る共重合体を構成する全構成単位中に占める式(III)で表される構成単位のモル比率は、一又は複数の実施形態において、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、20モル%以上が好ましく、より好ましくは23モル%以上、さらに好ましくは27モル%以上、さらにより好ましくは30モル%以上である。本開示に係る共重合体を構成する全構成単位中に占める式(III)で表される構成単位のモル比率は、一又は複数の実施形態において、同様の観点から、45モル%以下が好ましく、より好ましくは43モル%以下、さらに好ましくは40モル%以下、さらにより好ましくは36モル%以下である。
【0027】
なお、本開示において、前記共重合体を構成する全構成単位中に占めるある構成単位の含有量(モル%)として、合成条件によっては、前記共重合体の合成の全工程で反応槽に仕込まれた全構成単位を導入するための化合物中に占める前記反応槽に仕込まれた該構成単位を導入するための化合物量(モル%)を使用してもよい。また、本明細書において、前記共重合体を構成するある2つの構成単位の構成比(モル比)として、合成条件によっては、前記共重合体の合成の全工程で反応槽に仕込まれた該2つの構成単位を導入するための化合物量比(モル比)を使用してもよい。なお、各構成単位の割合は1H−NMRやHPLCにより分析することもできる。
【0028】
本開示に係る共重合体を構成する全構成単位中に占める式(II)で表される構成単位のモル比率と式(III)で表される構成単位のモル比率の和は、一又は複数の実施形態において、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点及び共重合体の水溶性維持の観点から、55モル%以上であって、好ましくは60モル%以上、より好ましくは65モル%以上である。
【0029】
本開示に係る共重合体は、一又は複数の実施形態において、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、式(I)で表される構成単位のモル比率と式(II)で表される構成単位のモル比率と式(III)で表される構成単位とのモル比率の割合は、1:1:1又はそれに近い割合であることが好ましい。
【0030】
本開示に係る共重合体は、塩の形態であってもよい。塩を形成させるための対イオンは、特に限定されないが、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン等から選ばれる1種以上を用いることができる。
【0031】
[その他の構成単位]
前記共重合体は、式(III)に含まれないその他の構成単位を有していてもよい。前記共重合体を構成する全構成単位中に占めるその他の構成単位の含有率は、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、0モル%以上30モル%以下が好ましく、より好ましくは0モル%以上20モル%以下、さらに好ましくは0モル%以上10モル%以下、さらにより好ましくは0モル%以上5モル%以下、さらにより好ましくは実質的に0モル%である。
【0032】
[共重合体の重量平均分子量]
前記共重合体の重量平均分子量は、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチ及びうねりを低減する観点から、1000以上1000000以下が好ましく、より好ましくは1000以上50000以下、さらに好ましくは1500以上40000以下、さらにより好ましくは3000以上30000以下、さらにより好ましくは5000以上20000以下、さらにより好ましくは7000以上20000以下である。該重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて実施例に記載の条件で測定した値とする。
【0033】
[共重合体の含有量]
本開示に係る研磨液組成物における共重合体の含有量は、研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、好ましくは30ppm以上5000ppm以下、より好ましくは50ppm以上1500ppm以下、さらに好ましくは100ppm以上700ppm以下、さらにより好ましくは200ppm以上400ppm以下、である。生産性の観点から、好ましくは5000ppm以下、より好ましくは1500ppm以下、さらに好ましくは700ppm以下、さらにより好ましくは400ppm以下、さらにより好ましくは200ppm以下である。なお、本開示において「研磨液組成物中における含有成分の含有量」とは、研磨液組成物を研磨に使用する時点での前記成分の含有量をいう。したがって、本開示に係る研磨液組成物が濃縮物として作製された場合には、前記成分の含有量はその濃縮分だけ高くなりうる。
【0034】
[シリカ粒子]
本開示に係る研磨液組成物に使用されるシリカ粒子としては、一又は複数の実施形態において、生産性を損なうことなく研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカが好ましく、コロイダルシリカがより好ましい。
【0035】
〔シリカ粒子の平均粒径〕
本開示における「研磨材の平均粒径」とは、特に言及しない限り、動的光散乱法において検出角90°で測定される散乱強度分布に基づく平均粒径をいう(以下、「散乱強度分布に基づく平均粒径」ともいう)。研磨材の平均粒径は、研磨後の基板表面のスクラッチを低減する観点から、1nm以上40nm以下が好ましく、より好ましくは5nm以上37nm以下、さらに好ましくは10nm以上35nm以下である。なお、研磨材の平均粒径は、具体的には実施例に記載の方法により求めることができる。
【0036】
本開示に係る研磨液組成物中における研磨材の含有量は、研磨速度を向上させる観点から、0.5質量%以上が好ましく、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、さらにより好ましくは4質量%以上である。また、研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点からは、20質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは13質量%以下、さらにより好ましくは10質量%以下である。すなわち、研磨材の含有量は、0.5質量%以上20質量%以下が好ましく、より好ましくは1質量%以上15質量%以下、さらに好ましくは3質量%以上13質量%以下、さらにより好ましくは4質量%以上10質量%以下である。
【0037】
[水]
本開示に係る研磨液組成物中の水は、媒体として使用されるものであり、蒸留水、イオン交換水、超純水等が挙げられる。被研磨基板の表面清浄性の観点からイオン交換水及び超純水が好ましく、超純水がより好ましい。研磨液組成物中の水の含有量は、60質量%以上99.4質量%以下が好ましく、より好ましくは70質量%以上98.9質量%以下である。また、本開示の効果を阻害しない範囲内でアルコール等の有機溶剤を適宜配合してもよい。
【0038】
[酸]
本開示に係る研磨液組成物は、研磨速度向上の観点から、酸を含有することが好ましい。本開示において、酸の使用は、酸及び又はその塩の使用を含む。本開示に係る研磨液組成物に使用される酸としては、硝酸、硫酸、亜硫酸、過硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、アミド硫酸等の無機酸、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1,−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸、α−メチルホスホノコハク酸等の有機ホスホン酸、グルタミン酸、ピコリン酸、アスパラギン酸等のアミノカルボン酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、ニトロ酢酸、マレイン酸、オキサロ酢酸等のカルボン酸等が挙げられる。中でも、基板表面のスクラッチ及びうねり低減の観点、酸化剤の安定性向上及び廃液処理性向上の観点から、無機酸、有機ホスホン酸が好ましい。無機酸の中では、硝酸、硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸が好ましく、リン酸、硫酸がより好ましい。有機ホスホン酸の中では、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)及びそれらの塩が好ましく、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)がより好ましい。
【0039】
前記酸は単独で又は2種以上を混合して用いてもよいが、研磨速度の向上及び基板の洗浄性向上の観点から、2種以上を混合して用いることが好ましく、スクラッチ低減、酸化剤の安定性向上及び廃液処理性向上の観点から、リン酸、硫酸、及び1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸からなる群から選択される2種以上の酸を混合して用いることがさらに好ましい。
【0040】
前記酸の塩を用いる場合の塩としては、特に限定はなく、具体的には、金属、アンモニウム、アルキルアンモニウム等が挙げられる。上記金属の具体例としては、周期律表(長周期型)1A、1B、2A、2B、3A、3B、4A、6A、7A又は8族に属する金属が挙げられる。これらの中でも、研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から1A族に属する金属又はアンモニウムとの塩が好ましい。
【0041】
研磨液組成物中における前記酸及びその塩の含有量は、研磨速度向上、並びに研磨後の基板表面のスクラッチ低減の観点から、0.001質量%以上5.0質量%以下が好ましく、より好ましくは0.01質量%以上4.0質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以上3.0質量%以下、さらにより好ましくは0.1質量%以上2.0質量%以下、さらにより好ましくは0.4質量%以上1.0質量%以下である。
【0042】
[酸化剤]
本開示に係る研磨液組成物は、研磨速度の向上、基板表面のスクラッチ及びうねり低減の観点から、酸化剤を含有することが好ましい。本開示に係る研磨液組成物に使用できる酸化剤としては、過酸化物、過マンガン酸又はその塩、クロム酸又はその塩、ペルオキソ酸又はその塩、酸素酸又はその塩、金属塩類、硝酸類、硫酸類等が挙げられる。
【0043】
前記過酸化物としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム等が挙げられ、過マンガン酸又はその塩としては、過マンガン酸カリウム等が挙げられ、クロム酸又はその塩としては、クロム酸金属塩、重クロム酸金属塩等が挙げられ、ペルオキソ酸又はその塩としては、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸金属塩、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸等が挙げられ、酸素酸又はその塩としては、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム等が挙げられ、金属塩類としては、塩化鉄(III)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)、硫酸アンモニウム鉄(III)等が挙げられる。
【0044】
研磨後の基板表面のスクラッチ及び基板表面うねりの低減の観点から好ましい酸化剤としては、過酸化水素、硝酸鉄(III)、過酢酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、硫酸鉄(III)及び硫酸アンモニウム鉄(III)等が挙げられる。より好ましい酸化剤としては、表面に金属イオンが付着せず汎用に使用され安価であるという観点から過酸化水素が挙げられる。これらの酸化剤は、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0045】
研磨液組成物中における前記酸化剤の含有量は、研磨速度向上の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、研磨後の基板表面のスクラッチ及び基板表面うねりの低減の観点から、好ましくは4質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。従って、表面品質を保ちつつ研磨速度を向上させるためには、上記含有量は、好ましくは0.01質量%以上4質量%以下、より好ましくは0.05質量%以上2質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上1質量%以下である。
【0046】
[その他の成分]
本開示に係る研磨液組成物には、必要に応じて他の成分を配合することができる。他の成分としては、増粘剤、分散剤、防錆剤、塩基性物質、界面活性剤等が挙げられる。研磨液組成物中のこれら他の任意成分の含有量は、0質量%以上10質量%以下が好ましく、より好ましくは0質量%以上5質量%以下である。但し、本開示に係る研磨液組成物は、他の成分、とりわけ界面活性剤を含むことなく、基板表面のスクラッチ及びうねりの低減効果を発揮し得る。さらに、本開示に係る研磨液組成物は、アルミナ砥粒を含ませることができ、最終研磨工程より前の粗研磨工程に使用することもできる。
【0047】
[研磨液組成物のpH]
本開示に係る研磨液組成物のpHは、研磨速度向上の観点から、4.0以下が好ましく、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3.0以下、さらにより好ましくは2.5以下である。また、表面粗さ低減の観点から、0.5以上が好ましく、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは1.0以上、さらにより好ましくは1.2以上である。したがって、研磨液組成物のpHは、好ましくは0.5以上4.0以下、より好ましくは0.8以上3.5以下、さらに好ましくは1.0以上3.0以下、さらにより好ましくは1.2以上2.5以下である。
【0048】
[研磨液組成物の調製方法]
本開示に係る研磨液組成物は、例えば、水と、シリカ粒子と、共重合体と、さらに所望により、酸及び/又はその塩と、酸化剤と、他の成分とを公知の方法で混合することにより調製できる。この際、シリカ粒子は、濃縮されたスラリーの状態で混合されてもよいし、水等で希釈してから混合されてもよい。本開示に係る研磨液組成物中における各成分の含有量や濃度は、上述した範囲であるが、その他の態様として、本開示に係る研磨液組成物を濃縮物として調製してもよい。
【0049】
[基板の製造方法]
本開示は、その他の態様として、基板の製造方法(以下、「本開示の製造方法」ともいう。)に関する。本開示の製造方法は、上述した研磨液組成物を研磨パッドに接触させながら被研磨基板を研磨する工程(以下、「本開示に係る研磨液組成物を用いた研磨工程」ともいう。)を含む基板の製造方法である。これにより、研磨後の基板表面のスクラッチに加えて、研磨後の基板表面うねりが低減された基板を提供できる。本開示の製造方法は、磁気ディスク基板の製造方法に適しており、とりわけ、垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造方法に適している。よって、本開示の製造方法は、その他の態様として、本開示に係る研磨液組成物を用いた研磨工程を含む基板の製造方法であり、好ましくは磁気ディスク基板の製造方法であり、より好ましくは垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造方法である。
【0050】
本開示に係る研磨液組成物を用いた研磨工程は、一又は複数の実施形態において、本開示に係る研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び前記被研磨基板の少なくとも一方を動かして研磨する工程であり、或いは、不織布状の有機高分子系研磨布等の研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨基板を挟み込み、本開示に係る研磨液組成物を研磨機に供給しながら、定盤や被研磨基板を動かして被研磨基板を研磨する工程である。
【0051】
被研磨基板の研磨工程が多段階で行われる場合は、本開示に係る研磨液組成物を用いた研磨工程は2段階目以降に行われるのが好ましく、最終研磨工程又は仕上げ研磨工程で行われるのがより好ましい。その際、前工程の研磨材や研磨液組成物の混入を避けるために、それぞれ別の研磨機を使用してもよく、またそれぞれ別の研磨機を使用した場合では、研磨工程毎に被研磨基板を洗浄することが好ましい。また使用した研磨液を再利用する循環研磨においても、本開示に係る研磨液組成物は使用できる。なお、研磨機としては、特に限定されず、基板研磨用の公知の研磨機が使用できる。
【0052】
[研磨パッド]
本開示で使用される研磨パッドとしては、特に制限はなく、スエードタイプ、不織布タイプ、ポリウレタン独立発泡タイプ、又はこれらを積層した二層タイプ等の研磨パッドを使用することができるが、研磨速度の観点から、スエードタイプの研磨パッドが好ましい。
【0053】
研磨パッドの表面部材の平均開孔径は、スクラッチ低減及びパッド寿命の観点から、50μm以下が好ましく、より好ましくは45μm以下、さらに好ましくは40μm以下、さらにより好ましくは35μm以下である。パッドの研磨液保持性の観点から、開孔で研磨液を保持し液切れを起こさないようにするために、平均開孔径は0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは1μm以上、さらにより好ましくは5μm以上、さらにより好ましくは10μm以上である。また、研磨パッドの開孔径の最大値は、研磨速度維持の観点から、100μm以下が好ましく、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは60μm以下、特に好ましくは50μm以下である。
【0054】
[研磨荷重]
本開示に係る研磨液組成物を用いた研磨工程における研磨荷重は、好ましくは5.9kPa以上、より好ましくは6.9kPa以上、さらに好ましくは7.5kPa以上である。これにより、研磨速度の低下を抑制できるため、生産性の向上が可能となる。なお、本開示の製造方法において研磨荷重とは、研磨時に被研磨基板の研磨面に加えられる定盤の圧力をいう。また、本開示に係る研磨液組成物を用いた研磨工程は、研磨荷重は20kPa以下が好ましく、より好ましくは18kPa以下、さらに好ましくは16kPa以下であり、さらにより好ましくは12kPa以下である。これにより、スクラッチの発生を抑制することができる。したがって、本開示に係る研磨液組成物を用いた研磨工程において研磨圧力は5.9kPa以上20kPa以下が好ましく、6.9kPa以上18kPa以下がより好ましく、7.5kPa以上16kPa以下がさらに好ましい。研磨荷重の調整は、定盤及び被研磨基板のうち少なくとも一方に空気圧や重りを負荷することにより行うことができる。
【0055】
[研磨液組成物の供給]
本開示に係る研磨液組成物を用いた研磨工程における本開示に係る研磨液組成物の供給速度は、スクラッチ低減の観点から、被研磨基板1cm2当たり、好ましくは0.05mL/分以上15mL/分以下であり、より好ましくは0.06mL/分以上10mL/分以下、さらに好ましくは0.07mL/分以上1mL/分以下、さらにより好ましくは0.07mL/分以上0.5mL/分以下である。
【0056】
本開示に係る研磨液組成物を研磨機へ供給する方法としては、例えばポンプ等を用いて連続的に供給を行う方法が挙げられる。研磨液組成物を研磨機へ供給する際は、全ての成分を含んだ1液で供給する方法の他、研磨液組成物の安定性等を考慮して、複数の配合用成分液に分け、2液以上で供給することもできる。後者の場合、例えば供給配管中又は被研磨基板上で、上記複数の配合用成分液が混合され、本開示に係る研磨液組成物となる。
【0057】
[被研磨基板]
本開示において好適に使用される被研磨基板の材質としては、例えばシリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン等の金属若しくは半金属、又はこれらの合金や、ガラス、ガラス状カーボン、アモルファスカーボン等のガラス状物質や、アルミナ、二酸化珪素、窒化珪素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料や、ポリイミド樹脂等の樹脂等が挙げられる。中でも、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅等の金属や、これらの金属を主成分とする合金を含有する被研磨基板、ガラス基板が好適である。中でも、Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板や、アルミノシリケートガラス基板が適しており、Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板がさらに適している。アルミノシリケートガラス基板には、結晶構造を有しているもの、化学強化処理を施したものが含まれる。化学強化処理は研磨後に行ってもよい。
【0058】
上記被研磨基板の形状には特に制限はなく、例えば、ディスク状、プレート状、スラブ状、プリズム状等の平面部を有する形状や、レンズ等の曲面部を有する形状であればよい。中でも、ディスク状の被研磨基板が適している。ディスク状の被研磨基板の場合、その外径は例えば2mm以上95mm以下程度であり、その厚みは例えば0.5mm以上2mm以下程度である。
【0059】
また、本開示によれば、研磨後の基板表面のスクラッチに加えて、研磨後の基板表面のうねりが低減された基板を提供できるため、高度の表面平滑性が要求される磁気ディスク基板、とりわけ垂直磁気記録方式の磁気ディスク基板の研磨に好適に用いることができる。
【0060】
[研磨方法]
本開示は、その他の態様として、本開示に係る研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含む被研磨基板の研磨方法に関する。本開示の研磨方法を使用することにより、研磨後の基板表面のスクラッチに加えて、研磨後の基板表面のうねりが低減された基板が提供される。本開示の研磨方法における前記被研磨基板としては、上述のとおり、磁気ディスク基板の製造に使用されるものが挙げられ、なかでも、垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造に用いる基板が好ましい。なお、具体的な研磨の方法及び条件は、上述のとおりとすることができる。
【0061】
本開示に係る研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することは、一又は複数の実施形態において、本開示に係る研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び前記被研磨基板の少なくとも一方を動かして研磨することであり、或いは、不織布状の有機高分子系研磨布等の研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨基板を挟み込み、本開示に係る研磨液組成物を研磨機に供給しながら、定盤や被研磨基板を動かして被研磨基板を研磨することである。
【0062】
上述した実施形態に関し、本開示はさらに以下の一又は複数の実施形態にかかる組成物、製造方法、或いは用途を開示する。
【0063】
<1> シリカ粒子と、共重合体と、水とを含有する研磨液組成物であって、
前記共重合体が、下記一般式(I)で表される構成単位と下記一般式(II)で表される構成単位と下記一般式(III)で表される構成単位を有する共重合体又はその塩であり、前記共重合体を構成する全構成単位中に占める式(II)で表される構成単位のモル比率と式(III)で表される構成単位のモル比率の和が、55モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは65モル%以上である、磁気ディスク基板用研磨液組成物。
【化3】
[式(I)、(II)及び(III)中、R1、R3及びR5はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であり、X1及びX2はそれぞれ独立して酸素原子又はNH基であり、R2は炭素数8以上18以下の炭化水素鎖であり、pは0又は1であり、AOは炭素数1以上3以下のオキシアルキレン基であり、nはAOの平均付加モル数であって1以上30以下の数であり、R4は水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基であり、R6はスルホン酸基を含む炭化水素基又は−X3−R7であり、X3は−COO−又は−CONH−であり、R7はスルホン酸基を含む炭化水素基である。]
【0064】
<2> 前記共重合体の重量平均分子量が、好ましくは1000以上1000000以下、より好ましくは1000以上50000以下、さらに好ましくは1500以上40000以下、さらにより好ましくは3000以上30000以下、さらにより好ましくは5000以上20000以下、さらにより好ましくは7000以上20000以下である、<1>記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<3> 前記共重合体を構成する全構成単位中に占める式(II)で表される構成単位のモル比率が好ましくは60モル%以下、より好ましくは52モル%以下、さらに好ましくは40モル%以下、さらにより好ましくは36モル%以下であり、また、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは27モル%以上、さらにより好ましくは30モル%以上であり、pが1であり、X2が酸素原子であり、AOがオキシエチレン基であり、平均付加モル数nが好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは25以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは15以下、さらにより好ましくは10以下、さらにより好ましくは5以下である、<1>又は<2>に記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<4> 前記共重合体を構成する全構成単位中に占める式(I)及び式(III)で表される構成単位のモル比率が、それぞれ独立して、好ましくは20モル%以上、より好ましくは23モル%以上、さらに好ましくは27モル%以上、さらにより好ましくは30モル%以上であり、好ましくは45モル%以下、より好ましくは43モル%以下、さらに好ましくは40モル%以下、さらにより好ましくは36モル%以下である、<1>から<3>のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<5> さらに、酸、及び酸化剤を含有する、<1>から<4>のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<6> pHが、好ましくは0.5以上4.0以下、より好ましくは0.8以上3.5以下、さらに好ましくは1.0以上3.0以下、さらにより好ましくは1.2以上2.5以下である、<1>から<5>のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<7> 磁気ディスク基板がNi―P含有層を有するアルミナ基板である、<1>から<6>のいずれかに記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。
<8> <1>から<7>のいずれかに記載の研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び前記被研磨基板の少なくとも一方を動かして研磨する工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法。
<9> <1>から<7>のいずれかに記載の研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び前記被研磨基板の少なくとも一方を動かして研磨することを含む、基板の研磨方法。
【実施例】
【0065】
[実施例1〜12、参考例1及び比較例1〜11]
実施例1〜12、参考例1及び比較例1〜11の研磨液組成物を調製して被研磨基板の研磨を行い、純水で洗浄して評価用基板とした。各研磨液組成物の分散性、研磨速度、及び、該評価用基板の表面のスクラッチ数を評価した。使用した共重合体、研磨液組成物の調製方法、各パラメーターの測定方法、研磨条件(研磨方法)及び評価方法は以下のとおりである。
【0066】
1.共重合体AからTの準備
共重合体AからT(表1)を以下のように調製又は購入した。準備された各共重合体について、水溶性の評価及び重量平均分子量の測定を行った。その結果を表1に示す。
[共重合体Aの調製]
まず、500mLの四つ口フラスコ内に、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)235g(和光純薬工業社製)、ラウリルアクリレート23g(和光純薬工業社製)、ジエチレングリコールアクリレート15g(商品名「AE−90」、日油社製)、及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸20g(和光純薬工業社製)を投入し、混合液を得た。そして、フラスコ内の混合液の温度を65±2℃まで昇温し、反応開始剤である2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.8g(商品名「V−65」、和光純薬工業社製)及び連鎖移動剤であるチオグリセロール0.77gを2時間かけて滴下した後、3時間熟成を行った。その後、フラスコ内の混合液を水酸化ナトリウム水溶液で中和した後、減圧下で溶剤を除去することにより、白色の重合体であるLA/DEGAA/AMPS共重合体ナトリウム塩(以下、共重合体Aという)を得た。
[共重合体B〜E、I、K〜Oの調製]
構成単位(I)〜(III)の含有量が表1の様になるように調製したほかは、共重合体Aと同様に調製した。
[共重合体F〜Hの調製]
共重合体Fは、式(I)の構成単位をラウリルメタクリレート由来のものに替えたほかは共重合体Aと同様に調製した。
共重合体Gは、式(II)の構成単位のEOの平均付加モル数が4〜5のものに替えたほかは共重合体Aと同様に調製した。
共重合体Hは、式(II)の構成単位のEOの平均付加モル数が10のものに替えたほかは共重合体Aと同様に調製した。
【0067】
[共重合体J、P〜T]
共重合体J、P〜Tとして、以下の共重合体を使用した。
共重合体J:アクリル酸(AA)/アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸(AMPS)共重合体、重合モル比60/40、重量平均分子量25000
共重合体P:スチレン(St)/スチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS)共重合体、重合モル比66/34、重量平均分子量6000
共重合体Q:メタクリル酸(MAA)/スチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS)共重合体、重合モル比70/30、重量平均分子量15000
共重合体R:アクリル酸(AA)/ポリエチレングリコール(EO=2モル)アクリレート(PEGAA(EO=2モル)/アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸(AMPS)共重合体、重合モル比66/17/17、重量平均分子量15000
共重合体S:スチレン(St)/ポリエチレングリコール(EO=9モル)メタクリレート(PEGMA(EO=9モル)共重合体、重合モル比30/70、重量平均分子量57000
共重合体T:スチレン(St)/ポリエチレングリコール(EO=23モル)メタクリレート(PEGMA(EO=23モル)共重合体、重合モル比30/70、重量平均分子量55000
【0068】
[共重合体の水溶性の評価]
ここでは、共重合体の水溶性を下記のようにして評価した。すなわち、上記の共重合体A〜Tを、硫酸でpH=1.5に調製したイオン交換水に300ppmの濃度で溶解させて、水溶液が透明であるかどうかを目視で確認し、各共重合体の水溶性を評価した。後述の表2では、水溶液が無色透明の場合は「+」、水溶液が半透明の場合は「±」、水溶液が白濁状態の場合は「−」と表記した。
【0069】
[共重合体の分子量の測定]
共重合体A〜Tの重量平均分子量を、下記条件で測定した。
カラム:TSKgel α−M+TSKgel α−M(東ソー社製)
溶離液:60ミリモル/L;リン酸、50ミリモル/L;LiBr/DMF
温度:40℃
流速:1.0mL/分
試料サイズ:5mg/mL
検出器:RI(東ソー社製)
標準物質:ポリスチレン(分子量3600,30000:西尾工業社製、9.64万,842万:東ソー社製、92.9万:chemco社製)
【0070】
【表1】
【0071】
2.研磨液組成物の調製
研磨材(コロイダルシリカ)と、共重合体と、酸と、過酸化水素水(濃度:35質量%)とをイオン交換水に添加し、撹拌することにより、実施例1〜12、参考例1及び比較例1〜11の研磨液組成物を調製した(pH1.5)。
コロイダルシリカは、平均粒径22nmの球形シリカを5質量%となる添加量で使用した。
酸は、硫酸0.5質量%、HEDP(1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、ソルーシア・ジャパン製)1.0質量%又はリン酸1.0質量%のいずれかを用いた。
過酸化水素は、0.4質量%となる添加量で使用した。
共重合体は、表1に示す共重合体A〜Tを表2に添加量(50〜300ppm)で使用した。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により下記条件で測定した。
【0072】
〔コロイダルシリカの平均粒径〕
研磨液組成物の調製に用いたコロイダルシリカと、硫酸と、HEDPと、過酸化水素水とをイオン交換水に添加し、撹拌することにより、標準試料を作製した(pH1.5)。標準試料中におけるコロイダルシリカ、硫酸、HEDP、過酸化水素の含有量は、それぞれ5質量%、0.5質量%、0.1質量%、0.4質量%とした。この標準試料を動的光散乱装置(大塚電子社製、「DLS−6500」)により、同メーカーが添付した説明書に従って、200回積算した際の検出角90°におけるCumulant法によって得られる散乱強度分布の面積が全体の50%となる粒径を求め、コロイダルシリカの平均粒径とした。
【0073】
2.研磨方法
前記のように調製した実施例1〜12、参考例1及び比較例1〜11の研磨液組成物を用いて、以下に示す研磨条件にて下記被研磨基板を研磨した。次いで、研磨速度、スクラッチ数、及び分散性を測定した。その結果を表2に示す。また、表2には、表1の内容、すなわち、共重合体A〜Tの構成単位、水溶性の評価及び重量平均分子量についても併せて示した。
【0074】
[被研磨基板]
被研磨基板として、Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板を予めアルミナ研磨材を含有する研磨液組成物で粗研磨した基板を用いた。この被研磨基板は、厚さが1.27mm、外径が95mm、内径が25mmであり、AFM(Digital Instrument NanoScope IIIa Multi Mode AFM)により測定した中心線平均粗さRaが1nm、長波長うねり(波長0.4〜2mm)の振幅は2nm、短波長うねり(波長50〜400μm)の振幅は2nmであった。
【0075】
[研磨条件]
研磨試験機:スピードファム社製「両面9B研磨機」
研磨パッド:フジボウ社製スエードタイプ(厚さ0.9mm、平均開孔径10μm)
研磨液組成物供給量:100mL/分(被研磨基板1cm2あたりの供給速度:0.076mL/分)
下定盤回転数:32.5rpm
研磨荷重:7.9kPa
研磨時間:6分間
【0076】
[研磨速度の算出方法]
研磨前後の基板の重量差(g)を、Ni−Pメッキの密度(7.99g/cm3)、基板の片面面積(65.97cm2)、及び研磨時間(min)で除した単位時間当たりの研磨量を計算し、研磨速度(μm/min)を算出した。下記表2に、比較例1を100とした相対値として示す。
【0077】
[スクラッチ数の測定方法]
測定機器:Candela Instruments社製、「OSA7100」
評価:研磨試験機に投入した基板のうち、無作為に4枚を選択し、各々の基板を10000rpmにてレーザーを照射してスクラッチを測定した。その4枚の基板の各々両面にあるスクラッチ数(本)の合計を8で除して、基板面当たりのスクラッチ数を算出した。その結果を、下記表2に、比較例1を100とした相対値として示す。
【0078】
[分散性の評価方法]
一般的に研磨機に投入する直前に、フィルターによって研磨液組成物中のゴミや粗大粒子を除去するが、フィルターの目詰まりを抑制し、フィルターの長寿命化及び生産性の観点から、研磨液組成物の分散性は良好であることが好ましい。ここでは、分散性を次のようにして評価した。すなわち、比較例1の研磨液組成物の白濁度合を基準として、実施例1〜12、参考例1、及び比較例2〜11の研磨液組成物の分散性を目視評価により行った。比較例1の研磨液組成物の白濁度合と同等のものを+、比較例1よりも薄く白濁したものを±、比較例1よりも顕著に白濁したものを−とした。
【0079】
【表2】
【0080】
上記表2に示すとおり、実施例1〜12の研磨液組成物は、参考例1及び比較例1〜11の研磨液組成物に比べて、基板表面のスクラッチを効果的に低減することが示された。中でも、実施例3〜7は、実施例1,2、8〜12に比べても研磨速度の低下を抑制しつつ、スクラッチ数がより低減されていた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本開示によれば、例えば、高記録密度化に適した磁気ディスク基板を提供できる。