(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
加速度センサを用いて計測された人の移動運動中の各時刻における2方向の加速度成分に対応するデータ点の分布または軌跡を表す2次元マップを表示するよう表示部を制御する第1の表示制御手段と、
前記2方向の加速度成分が計測された時間範囲内において注目時間範囲を設定する設定手段と、
設定された前記注目時間範囲内の各時刻における前記2方向の加速度成分に対応した各データ点を結んだ軌跡線を前記2次元マップ上に表示するよう表示部を制御する第2の表示制御手段と、を備えた移動運動状態表示装置。
前記設定手段は、前記2次元マップ上において前記操作者により指定されたデータ点に対応する前記2方向の加速度成分が計測された時刻を含む所定の時間範囲を前記注目時間範囲として設定する、請求項2に記載の移動運動状態表示装置。
前記設定手段は、前記2次元マップにおいて前記2方向の加速度成分が共に0(ゼロ)となる原点から最も離れたデータ点に対応する前記2方向の加速度成分が計測された時刻を含む所定の時間範囲を前記注目時間範囲として設定する、請求項1に記載の移動運動状態表示装置。
前記第2の表示制御手段は、前記注目時間範囲内の各時刻における前記2方向の加速度成分に対応した各データ点を、該加速度成分が計測された各タイミングと時間間隔同士の比率が同じである各タイミングで通過して描くように、前記軌跡線を表示させる、請求項7または請求項8に記載の移動運動状態表示装置。
前記第2の表示制御手段は、前記注目時間範囲内の各時刻における前記2方向の加速度成分に対応した各データ点を、該加速度成分が計測された順番とは逆の順番にて通過して描くように、前記軌跡線を表示させる、請求項7または請求項8に記載の移動運動状態表示装置。
前記2次元マップは、計測された前記各時刻における前記2方向の加速度成分について、前記2方向の加速度成分の組合せごとにおける計測頻度を表す画像である、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の移動運動状態表示装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上述のリハビリテーションにおいては、理学療法士などの指導員が患者の歩行運動を目視で確認し主観で判断するため、評価がばらつくことがある。また、既存の歩行評価技術においても、評価結果を客観的に示す方法は未だ確立されていない。特に、患者の歩行中における体重バランスの左右方向及び前後方向の動きを知ることは、患者の歩行評価に効果的であると考えられるが、そのような歩行運動の解析結果を効率的に確認できるものは、現時点において存在していない。
【0006】
このような事情により、人の歩行などの移動運動の評価に有用な移動運動の解析結果を効率的に確認できる技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の観点の発明は、
加速度センサを用いて計測された人の移動運動中の各時刻における2方向の加速度成分に対応するデータ(data)点の分布または軌跡を表す2次元マップ(map)を表示するよう表示部を制御する第1の表示制御手段と、
前記2方向の加速度成分が計測された時間範囲内において注目時間範囲を設定する設定手段と、
設定された前記注目時間範囲内の各時刻における前記2方向の加速度成分に対応した各データ点を結んだ軌跡線を前記2次元マップ上に表示するよう表示部を制御する第2の表示制御手段と、を備えた移動運動状態表示装置を提供する。
【0008】
第2の観点の発明は、
前記設定手段が、操作者により指定された時間範囲を前記注目時間範囲として設定する、上記第1の観点の移動運動状態表示装置を提供する。
【0009】
第3の観点の発明は、
前記設定手段が、前記2次元マップ上において前記操作者により指定されたデータ点に対応する前記2方向の加速度成分が計測された時刻を含む所定の時間範囲を前記注目時間範囲として設定する、上記第2の観点の移動運動状態表示装置を提供する。
【0010】
第4の観点の発明は、
前記設定手段が、前記2次元マップにおいて前記2方向の加速度成分が共に0(ゼロ)となる原点から最も離れたデータ点に対応する前記2方向の加速度成分が計測された時刻を含む所定の時間範囲を前記注目時間範囲として設定する、上記第1の観点の移動運動状態表示装置を提供する。
【0011】
第5の観点の発明は、
前記注目時間範囲が、移動運動の左右一歩ずつを含む一周期分の時間幅を有する、上記第1の観点から第4の観点のいずれか一つの観点の移動運動状態表示装置を提供する。
【0012】
第6の観点の発明は、
前記注目時間範囲が、前記一周期に相当する期間である、上記第5の観点の移動運動状態表示装置を提供する。
【0013】
第7の観点の発明は、
前記第2の表示制御手段が、前記軌跡線を描くように動画的に表示させる、上記第1の観点から第6の観点のいずれか一つの観点の移動運動状態表示装置を提供する。
【0014】
第8の観点の発明は、
前記第2の表示制御手段が、前記軌跡線を、設定された速度レベル(level)にて描くように表示させる、上記第7の観点の移動運動状態表示装置を提供する。
【0015】
第9の観点の発明は、
前記第2の表示制御手段が、前記注目時間範囲内の各時刻における前記2方向の加速度成分に対応した各データ点を、該加速度成分が計測された各タイミングと時間間隔同士の比率が同じである各タイミングで通過して描くように、前記軌跡線を表示させる、上記第7の観点または第8の観点の移動運動状態表示装置を提供する。
【0016】
第10の観点の発明は、
前記第2の表示制御手段が、前記注目時間範囲内の各時刻における前記2方向の加速度成分に対応した各データ点を、該加速度成分が計測された順番とは逆の順番にて通過して描くように、前記軌跡線を表示させる、上記第7の観点または第8の観点の移動運動状態表示装置を提供する。
【0017】
第11の観点の発明は、
前記2次元マップが、計測された前記各時刻における前記2方向の加速度成分について、前記2方向の加速度成分の組合せごとにおける計測頻度を表す画像である、上記第1の観点から第10の観点のいずれか一つの観点の移動運動状態表示装置を提供する。
【0018】
第12の観点の発明は、
前記2方向が、前記人の左右方向、前後方向及び上下方向のうちの2方向である、上記第1の観点から第11の観点のいずれか一つの観点の移動運動状態表示装置を提供する。
【0019】
第13の観点の発明は、
前記2方向が、前記人の左右方向及び前後方向である、上記第12の観点の移動運動状態表示装置を提供する。
【0020】
第14の観点の発明は、
前記移動運動が、歩行運動である、上記第1の観点から第13の観点のいずれか一つの観点の移動運動状態表示装置を提供する。
【0021】
第15の観点の発明は、
前記移動運動が、走行運動である、上記第1の観点から第13の観点のいずれか一つの観点の移動運動状態表示装置を提供する。
【0022】
第16の観点の発明は、
加速度センサを用いて人の移動運動中の各時刻における2方向の加速度成分を計測するステップ(step)と、
前記2方向の加速度成分が計測された時間範囲内において注目時間範囲を設定するステップと、
計測された前記各時刻における2方向の加速度成分に対応した各データ点の分布または軌跡を表す2次元マップと、設定された前記注目時間範囲内の各時刻における前記2方向の加速度成分に対応した各データ点を結んだ軌跡線とを対応付けて表示するよう表示部を制御するステップと、を備えた移動運動状態表示方法を提供する。
【0023】
第17の観点の発明は、
人に取り付けられる加速度センサと、
前記加速度センサを用いて計測された前記人の移動運動中の各時刻における2方向の加速度成分に対応するデータ点の分布または軌跡を表す2次元マップを表示するよう表示部を制御する第1の表示制御手段と、
前記2方向の加速度成分が計測された時間範囲内において注目時間範囲を設定する設定手段と、
設定された前記注目時間範囲内の各時刻における前記2方向の加速度成分に対応した各データ点を結んだ軌跡線を前記2次元マップ上に表示するよう表示部を制御する第2の表示制御手段と、を備えた移動運動状態表示システム(system)を提供する。
【0024】
第18の観点の発明は、
コンピュータ(computer)を、
上記第1の観点から第15の観点のいずれか一つの観点の移動運動状態表示装置として機能させるためのプログラム(program)を提供する。
【発明の効果】
【0025】
上記観点の発明によれば、人の移動運動中の各時刻における2方向の加速度成分に対応するデータ点の分布または軌跡を表す2次元マップ上に、注目時間範囲内の各時刻における上記2方向の加速度成分に対応するデータ点を結んだ軌跡線を表示するので、加速度成分の分布情報、例えば体重バランスの移動範囲及び集中領域を示す情報だけでなく、加速度成分の時間的情報、例えば特定の体重バランスの移動についてどのような動きの中で発生したものなのかを示す情報をも得ることができる。操作者は、これらの情報を用いて、人の移動運動の総合的な評価を行うことができる。よって、上記観点の発明によれば、操作者は、人の歩行などの移動運動の評価に有用な移動運動の解析結果を効率的に確認することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、発明の実施形態について説明する。なお、これにより発明は限定されない。
【0028】
図1は、歩行状態表示システム1の構成を概略的に示す図である。なお、歩行状態表示システム(system)1は、発明における移動運動状態表示システムの一例である。
【0029】
歩行状態表示システム1は、
図1に示すように、加速度センサモジュール(sensor module)2と、歩行状態表示装置3とを有している。加速度センサモジュール2は、患者10の背面の腰部中央等に、粘着パッド(pad)やバンド(band)等により装着される。歩行状態表示装置3は、操作者11が携帯したり操作したりして使用される。なお、歩行状態表示装置3は、発明における移動運動状態表示装置の一例である。
【0030】
図2は、加速度センサモジュール2及び歩行状態表示装置3のハードウェア(hardware)の構成を示す図である。
【0031】
図2に示すように、加速度センサモジュール2は、プロセッサ(processor)21と、加速度センサ22と、メモリ(memory)23と、通信I/F24と、バッテリ(battery)25とを有している。歩行状態表示装置3は、例えば、スマートフォン(smart
phone)、タブレット型コンピュータ(tablet computer)、ノートパソコン(note PC)などのコンピュータ端末であり、プロセッサ31と、ディスプレイ32と、操作部33と、メモリ34と、通信I/F35と、バッテリ36とを有している。なお、プロセッサ21及びプロセッサ31は、それぞれ、単一のプロセッサに限定されず、複数のプロセッサである場合も考えられる。
【0032】
図3は、加速度センサモジュール2及び歩行状態表示装置3の機能的な構成を示す機能ブロック(block)図である。
【0033】
加速度センサモジュール2は、
図3に示すように、加速度センサ部201と、サンプリング(sampling)部202と、送信部203とを有している。なお、サンプリング部202及び送信部203は、プロセッサ21がメモリ23に記憶されている所定のプログラム(program)を読み出して実行することにより実現される。
【0034】
加速度センサ部201は、センサ本体を基準とした3次元直交座標系におけるx,y,zの各軸方向の加速度成分について、その加速度成分に応じたアナログ(analog)信号をほぼリアルタイム(real time)に出力する。
【0035】
サンプリング部202は、そのアナログ信号を所定のサンプリング周波数でサンプリングしてデジタル(digital)の加速度データに変換する。サンプリング周波数は、例えば128Hzである。サンプリング部202は、例えば、1g(重力加速度)=9.8m/s
2=加速度データ値128となるスケール(scale)で、加速度データを出力する。なお、ここでは、加速度成分の正負は、右側寄り、前側寄り、上側寄りをそれぞれ正とする。
【0036】
送信部203は、サンプリングされた各時刻における加速度成分を表す加速度データをほぼリアルタイム(real time)にて無線で送信する。
【0037】
なお、本例では、加速度センサモジュール2は、センサ本体のx軸方向、y軸方向及びz軸方向が、それぞれ、患者10のRL(Right-Left)方向、AP(Anterior-Posterior)方向及びSI(Superior-Inferior)方向と一致するように取り付けられる。RL方向、AP方向及びSI方向は、それぞれサジタル(sagittal)方向、コロナル(coronal)方向及びアキシャル(axial)方向とも言う。また、本例では、加速度センサモジュール2の姿勢(傾き)は、患者10の歩行中において変化しないものと仮定する。
【0038】
歩行状態表示装置3は、
図3に示すように、操作部301と、ディスプレイ(display)部302と、患者情報受付部303と、受信部304と、歩行加速度算出部305と、2次元マップ生成部306と、注目時間範囲設定部307と、部分軌跡線生成部308と、表示制御部310と、GUI(Graphical User Interface)部311と、記憶部312とを有している。なお、患者情報受付部303、受信部304、歩行加速度算出部305、2次元マップ生成部306、注目時間範囲設定部307、部分軌跡線生成部308、表示制御部310、及びGUI部311は、プロセッサ31がメモリ34に記憶されている所定のプログラムを実行することにより実現される。また、2次元マップ生成部306及び表示制御部310は、発明における第1の表示制御手段の一例である。注目時間範囲設定部307は、発明における設定手段の一例である。また、部分軌跡線生成部308及び表示制御部310は、発明における第2の表示制御手段の一例である。
【0039】
操作部301は、操作者11の操作を受け付ける。操作部301は、例えば、タッチパネル(touch panel)、タッチパッド(touch pad)、キーボード(keyboard)、マウス(mouse)などにより構成されている。なお、操作者11は、例えば、理学療法士などの指導員である。
【0040】
ディスプレイ部302は、画像を表示する。ディスプレイ部302は、例えば、液晶パネル、有機ELパネルなどにより構成されている。
【0041】
患者情報受付部303は、患者情報の入力を受け付け、入力された患者情報を記憶部312に記憶させる。
【0042】
受信部304は、加速度センサモジュール2の送信部203から送信された加速度データを無線で受信する。なお、送信部203と受信部304との無線通信には、例えば、ブルートゥース(Bluetooth(登録商標))等の規格を用いることができる。
【0043】
歩行加速度算出部305は、取得された加速度データに基づいて、患者10の歩行中における左右方向、前後方向及び上下方向の加速度成分a
x,a
y,a
zをそれぞれ算出する。なお、本例では、これらの加速度成分a
x,a
y,a
zは、重力加速度gの成分を除去して、患者10の純粋な歩行運動により生じた加速度成分として算出することを想定する。ただし、より簡便に、重力加速度gの成分を含む形で算出してもよい。また、左右方向、前後方向及び上下方向は、それぞれ、水平左右方向、水平進行方向及び鉛直方向を想定する。ただし、より簡便に、加速度センサモジュール2のセンサ本体を基準としたx軸方向、y軸方向及びz軸方向としてもよい。
【0044】
2次元マップ生成部306は、患者10の歩行中の各時刻においてサンプリングされた、患者10の左右方向及び前後方向の加速度成分a
x,a
yの分布を表す2次元マップMを生成する。2次元マップMは、例えば、これら2方向の加速度成分a
x,a
yを2軸とする2次元座標系Kにおいて、患者10の歩行中の各時刻におけるこれら2方向の加速度成分a
x,a
yに対応するデータ点をプロットすることにより生成される。2次元マップMは、例えば、患者10の歩行中における水平面方向での体重バランスについて、移動範囲の広さや偏り、左右対称性、移動パターン等を評価するのに参照される。
【0045】
注目時間範囲設定部307は、上記2方向の加速度成分a
x,a
yが計測された時間範囲内において、すなわち、取得された加速度データに対応する最初の時刻から最後の時刻までの時間範囲内において、注目時間範囲R
tを設定する。本例では、操作者11が、表示された2次元マップM上において所望のデータ点D
Aを指定し、注目時間範囲設定部307が、その指定されたデータ点D
Aに対応する加速度成分が計測された時刻t
Aを含む所定の時間範囲を注目時間範囲R
tとして設定する。
【0046】
部分軌跡線生成部308は、2次元座標系Kにおいて、注目時間範囲R
t内の各時刻t
A1〜t
Anにおける上記2方向の加速度成分に対応した各データ点を時系列的な順番で結んだ部分軌跡線Lを生成する。
【0047】
表示制御部310は、ディスプレイ部302に、2次元座標系Kと、2次元マップMと、部分軌跡線Lとを表示させる。
【0048】
GUI部311は、いわゆるグラフィカル・ユーザ・インタフェースとして機能する。GUI部311は、ディスプレイ部302の画面にポインタPを表示させる。
【0049】
記憶部312は、入力された患者情報、取得された加速度データ、算出された各加速度成分、生成された2次元マップなどのデータを記憶する。なお、これらのデータは、必要に応じて、歩行状態表示装置3に接続されたデータベース41に転送されたり、外付けのDVD−ROM、メモリカード(memory card)などの媒体や、インターネット(internet)を介して接続された外部の媒体などを含む記憶媒体42に保存されたりする。
【0050】
これより、歩行状態表示システム1における処理の流れについて説明する。
【0051】
図4は、歩行状態表示システム1における処理の流れを示すフロー(flow)図である。
【0052】
ステップ(step)S1では、操作者11が操作部301を操作して、患者10の患者情報を歩行状態表示装置3に入力する。患者情報受付部303は、その患者情報の入力を受け付け、記憶部312に記憶させる。患者情報には、例えば、患者のID番号、氏名、年齢、性別、生年月日などが含まれる。なお、後述する患者10の加速度データや、当該加速度データを基に得られたグラフ(graph)、解析結果などは、この患者情報と対応付けて記憶部312に記憶される。
【0053】
ステップS2では、患者10の歩行中の各時刻t
iにおける加速度データを取得する。ここでは、まず、操作者11が、患者10の腰部に加速度センサモジュール2を取り付ける。そして、患者10に、標準的な歩行速度でしばらく歩行してもらう。歩行は、通常、距離にして5m〜20m程度、時間にして20秒〜3分程度、歩数にして10歩〜40歩程度である。加速度センサモジュール2のサンプリング部202は、加速度センサ部201の出力に基づいて、患者10の歩行中におけるx軸方向、y軸方向、z軸方向それぞれの加速度成分A
x,A
y,A
zをサンプリングして計測する。加速度センサモジュール2の送信部203は、計測された加速度成分を表す加速度データをほぼリアルタイムで送信する。歩行状態表示装置3は、送信部203から送信された加速度データを、受信部304を用いて受信して取得する。取得された加速度データは、記憶部312に送信され記憶される。
【0054】
ステップS3では、歩行加速度算出部305が、取得された加速度データを記憶部312から読み出し、当該加速度データに基づいて、患者10の歩行中の各時刻における左右方向、前後方向及び上下方向の加速度成分a
x,a
y,a
zを算出する。なお、ここでは、加速度データが表す加速度から重力加速度gの成分を除去する処理を含む所定のアルゴリズム(algorithm)を用いて、各加速度成分を算出する。算出された各加速度成分は、記憶部312に送信され記憶される。
【0055】
図5は、患者10の歩行中の各時刻における左右方向、前後方向及び上下方向の加速度成分a
x,a
y,a
zの一例を示す図である。
図5において、横軸は時間、縦軸は加速度成分の大きさ(相対値)をそれぞれ表している。
【0056】
ステップS4では、操作者11が、操作部301を操作して、加速度成分の測定結果及び解析結果を表示するための複数の機能の中から、実行させたい所望の機能を選択する。本例では、操作者11は、患者10の左右方向及び前後方向の加速度成分の2次元マップと部分軌跡線とを表示する機能を選択するものとする。このような表示によれば、患者10の歩行中における加速度成分について、水平面方向での全体的な移動範囲及び集中領域と、関心のある加速度成分がどのような時間的動きの中で計測されたものであるかとを確認することができる。
【0057】
ステップS5では、2次元マップ生成部306が、ステップS4での操作者11による選択操作に応答して、2次元マップMを生成する。本例では、2次元マップ生成部306は、2次元マップMとして、ステップS3にて得られた各時刻における左右方向及び前後方向の加速度成分a
x,a
yについてこれら2方向の加速度成分の組合せごとにおける計測頻度の分布を表すマップを生成する。2次元マップMの生成方法は、例えば次の通りである。
【0058】
まず、取得された患者10の各時刻t
iにおける左右方向及び前後方向の加速度成分a
x(i),a
y(i)を、記憶部312から読み出す。次に、取得された各時刻t
iでの左右方向及び前後方向の加速度成分a
x(i),a
y(i)について、これら2方向の加速度成分の組合せごとにおける計測頻度を求める。次いで、これら2方向の加速度成分a
x,a
yを2軸とした2次元座標系Kを用意する。そして、この2次元座標系Kにおいて、上記組合せに対応した座標の画素に、当該組合せの計測頻度を画素値として設定する。各画素は、その画素値に応じた色や明度で表す。これにより、2次元マップMが生成される。なお、本例におけるこの2次元マップMは、いわゆる、各画素を2次元的なビンとした2次元ヒストグラム(histogram)である。
【0059】
ステップS6では、表示制御部310が、2次元座標系Kにおける2次元マップMを、ディスプレイ部302の画面に表示させる。
【0060】
図6は、表示された2次元マップMの一例を示す図である。
【0061】
ステップS7では、GUI部311が、ポインタ(pointer)Pをディスプレイ部302の画面に表示させる。操作者11は、表示された2次元マップM上において、ポインタPを用いて所望のデータ点D
Aを指定する。
【0062】
ステップS8では、注目時間範囲設定部307は、指定されたデータ点D
Aに対応する加速度成分が計測された時刻t
Aを含む所定の時間範囲を注目時間範囲R
tとして設定する。
【0063】
図7は、2次元マップM上で所望のデータ点D
AがポインタPを用いて指定された様子を示す図である。
【0064】
指定されたデータ点D
Aに対応する加速度成分が計測された時刻t
Aと注目時間範囲R
tとの関係や注目時間範囲の時間幅Δtは、所定の設定がプリセット(preset)されている。ただし、この設定は任意の設定に変更可能である。例えば、操作者11による操作や他のアプリケーションプログラム(application program)等の出力に基づいて設定が変更される。プリセットでは、例えば、指定されたデータ点D
Aに対応する加速度成分が計測された時刻t
Aを中心とし、所定の時間幅Δt1を有する時間範囲を、注目時間範囲R
tとして設定する。時間幅Δt1は、例えば、0.2秒〜2秒程度が想定される。また例えば、上記の時刻t
Aを中心とし、加速度データの所定のサンプリング回数n分に相当する時間長を時間幅とする時間範囲を、注目時間範囲R
tとして設定する。所定のサンプリング回数nは、サンプリング周波数を128Hzとした場合には、例えば、20〜250回程度が想定される。
【0065】
ステップS9では、部分軌跡線生成部308が、2次元座標系Kにおいて、注目時間範囲R
t内の各時刻t
A1〜t
Anにおける上記2方向の加速度成分a
x,a
yに対応した各データ点を時系列的な順番で結んだ部分軌跡線Lを生成する。部分軌跡線Lは、操作者11が関心を持つデータ点に対応する加速度成分が計測された時刻を含む時間帯において、加速度成分の部分的な時間変化を表す軌跡を描く線となる。操作者11は、このような部分軌跡線Lを参照することにより、患者10の水平面方向における体重バランスの移動の中で関心のある移動がどのような動作の中で発生したものなのかを把握することができる。その結果、例えば、患者10の歩行運動が理想的な動作の流れに沿って行われているかを位相ごとに詳しく調べたり、平均的な動作から外れた気になる動作に特化してその動作の流れを調べたりすることができる。
【0066】
ステップS10では、表示制御部310が、この部分軌跡線Lを、設定された速度レベルにて、ペン(pen)で描くかの如く動画的に表示させる。
【0067】
図8は、2次元マップM上に部分軌跡線Lが表示された様子を示す図である。
【0068】
この部分軌跡線Lは、注目時間範囲R
tにおける上記2方向の加速度成分a
x,a
yの時間変化を表している。部分軌跡線Lは、データ点D間を直線で結んだ折れ線としてもよいが、
図8の例のように、データ点間を曲線で結んだスムージング(smoothing)曲線としてもよい。部分軌跡線Lは、基本的には、注目時間範囲R
t内の各時刻における上記2方向の加速度成分a
x,a
yに対応した各データ点を、その加速度成分が計測された順番にて通過して描くように表示させる。すなわち、部分軌跡線Lは、注目時間範囲R
t内で最早の時刻t
A1に計測された加速度成分に対応するデータ点D
A1から、最遅の時刻t
Anに計測された加速度成分に対応するデータ点D
Anまでを、その時刻の順番に沿って結ぶように描かれる。しかし、部分軌跡線Lは、必要に応じてその逆方向に描かれるようにしてもよい。すなわち、注目時間範囲Rt内の各時刻における上記2方向の加速度成分ax,ayに対応した各データ点を、その加速度成分が計測された順番とは逆の順番にて通過して描くように表示させるようにしてもよい。部分軌跡線Lを描く速度レベルVLは、所定の速度レベルがプリセットされているが、任意の速度レベルに変更可能である。例えば、操作者11による操作や他のアプリケーションプログラム等の出力に基づいて、部分軌跡線Lを描く速度レベルVLを上げたり下げたりすることができる。プリセットでは、例えば、部分軌跡線Lをすべて描くのに掛かる時間が所定の時間となるように設定される。この所定の時間は、例えば、1秒〜3秒程度が想定される。
【0069】
また、本例では、表示制御部310は、注目時間範囲R
t内の各時刻における上記2方向の加速度成分a
x,a
yに対応した各データ点を、その加速度成分が計測された各タイミング(timing)と時間間隔同士の比率が同じである各タイミングで通過して描くように、部分軌跡線Lを表示させる。別の言い方をすれば、時間的に互いに隣接するデータ点間ごとにおける部分軌跡線Lの描画時間の比率と、そのデータ点間ごとにおける加速度成分のサンプリング時刻間の時間の比率とが同じになるように、部分軌跡線Lを描く速度Vを調整する。これにより、部分軌跡線Lを描く際の各データ点を通過するタイミングの時間的な流れが、各データ点に対応する加速度成分が実際にサンプリングされたタイミングの時間的な流れを、速度を変えて(遅くして)再現したものとなる。すなわち、データ点Dが表す加速度成分の時間に対する変化の速さが部分軌跡線Lの描画速度に反映され、加速度成分の急激な変化と緩やかな変化が、部分軌跡線Lの高速な描画と低速な描画として再現される。その結果、操作者11は、患者10の体重バランスの移動の様子をより直感的に把握することができる。
【0070】
ステップS11では、表示制御部310が、操作者11の操作に応じて、新たなデータ点を指定し、新たな部分軌跡線Lの表示を行うか否かを決定する。新たな部分軌跡線Lの表示を行うと決定した場合には、ステップS4に戻り、新たな部分軌跡線Lの表示を行わないと決定した場合には、当該表示処理を終了する。
【0071】
このような本実施形態によれば、患者10の歩行中の各時刻における2方向の加速度成分に対応するデータ点の分布または軌跡を表す2次元マップM上に、注目時間範囲R
t内の各時刻における上記2方向の加速度成分に対応するデータ点を結んだ部分軌跡線Lを表示するので、加速度成分の分布情報、例えば体重バランスの移動範囲及び集中領域を示す情報だけでなく、加速度成分の時間的情報、例えば特定の体重バランスの移動についてどのような動きの中で発生したものなのかを示す情報をも得ることができる。操作者11は、これらの情報を用いて、患者10の歩行運動の総合的な評価を行うことができる。よって、本実施形態によれば、患者10の歩行評価に有用な歩行運動の解析結果を効率的に確認することができる。
【0072】
特に、本実施形態では、2次元座標系Kに、患者10の左右方向及び前後方向の加速度成分a
x,a
yの分布を表す2次元マップMが表示される。そのため、操作者11は、患者10の歩行中における水平面方向での体重バランスの移動範囲や集中領域などを把握することができ、これら体重バランスの移動範囲と集中領域から、患者10が理想的な体重移動をどの程度行っているか理解することができる。例えば、体重バランスの移動範囲が逆三角形を覆うような形状に近く、集中領域が逆三角形の頂点の位置に近いときは、理想的な体重移動が行われていると考えることができる。一方、体重バランスの移動範囲が台形をを覆うような形状に近く、集中領域が台形の頂点の位置に近いときは、理想から外れた体重移動が行われていると考えることができる。
【0073】
また、本実施形態では、上記2次元マップM上に、注目時間範囲R
t内の各時刻t
A1〜t
Anにおける上記2方向の加速度成分a
x,a
yによるデータ点Dを結ぶ部分軌跡線Lが表示される。そのため、2次元マップMだけでは把握できない情報として、注目する時間帯における患者10の体重バランスの移動経路(経過)を把握することができる。これにより、例えば、体重バランスの集中領域が、左前、右前、左後、及び右後の計4箇所あった場合に、患者10の右足一歩の踏出し時の体重バランスの移動が、右後から右前なのか、左後から右前なのかを見ることができ、右後から右前なら腰曲がり歩行であり、左後から右前なら関節不良の歩行であると言ったように、患者10の歩行タイプ(type)を切り分けることができる。
【0074】
また、本実施形態によれば、2次元マップM上で操作者11により指定されたデータ点に対応する加速度成分が計測された時刻を含むように注目時間範囲R
tを設定しているので、操作者11は、例えば、体重バランスの急激な移動や関心のある移動が認められるデータ点を指定することで、その体重バランスの移動が患者10のどのような動きの中でどのタイミングで得られたものなのかを把握することができ、その移動が偶然起きた単発的なものであるか患者10に特徴的なものであるかを切り分けることができる。
【0075】
操作者11は、このような評価に基づいて患者10の歩行中の動きを詳細に把握し、例えば効果的な歩行訓練プラン(plan)を作成することができる。
【0076】
なお、発明は、上記実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0077】
例えば、本実施形態では、注目時間範囲設定部307は、2次元マップM上で操作者11により指定されたデータ点D
Aに対応する加速度成分が計測された時刻t
Aを含む所定の時間範囲を注目時間範囲R
tとして設定しているが、別法として、2次元マップMにおいて上記2方向の加速度成分a
x,a
yが共に0となる原点Oから最も離れたデータ点D
Fに対応する加速度成分が計測された時刻t
Fを含む所定の時間範囲を注目時間範囲R
tとして設定してもよい。この場合、部分軌跡線Lは、最も大きな加速度成分が得られた時刻t
F周辺の加速度成分の時間変化を表す軌跡を描いた線となる。操作者11は、このような部分軌跡線Lを参照することにより、患者10の水平面方向における体重バランスの移動の中で最も急激な移動がどのような動作の中で発生したのかを把握することができる。その結果、例えば、患者10が歩行中に体重バランスを大きく崩したときのその原因を読み解くことができる。
【0078】
また例えば、注目時間範囲設定部307は、2次元マップMにおけるデータ点Dとは独立に、操作者11により直接的に指定された所望の時間範囲を注目時間範囲R
tとして設定してもよい。この場合、部分軌跡線Lは、操作者11が関心を持つ時間帯における加速度成分の時間変化を表す軌跡を描く線となる。操作者11は、このような部分軌跡線Lを参照することにより、患者10の水平面方向における体重バランスの移動の中で関心のある時間帯での移動がどのように発生したのかを把握することができる。その結果、例えば、対象者10の歩行運動の開始直後や終了間際における動作の流れを調べることができる。
【0079】
あるいは、注目時間範囲設定部307は、指定されたデータ点D
Aに対応する加速度成分が計測された時刻t
A周辺の各時刻における加速度成分(上下方向の加速度成分が好ましい)を解析して、その周期的な時間変化を認識し、上記の時刻t
Aを含み、患者10の左右一歩ずつの着地と踏切を含む一周期分の時間幅を有する時間範囲を、注目時間範囲R
tとして設定してもよい。この場合、部分軌跡線Lは、常に、歩行運動における左右一歩ずつの動作を含む一周期分の加速度成分の時間変化を表す軌跡を描く線となる。操作者(指導員)11は、このような部分軌跡線Lを参照することにより、患者10の水平面方向における体重バランスの移動の中で関心のある移動が、一周期分の歩行中においてどのようなタイミングで発生したものなのかを把握することができる。その結果、例えば、患者10の左右一歩ずつの着地及び踏切が理想的に行われているかなどを調べることができる。なお、注目時間範囲R
tは、上記一周期に相当する期間であってもよい。この場合、注目時間範囲R
tは、左右一歩ずつの動作が途中で切れることなく確保され、操作者11にとってよりイメージ(image)しやすく観察に適した形態にて部分軌跡線Lを表示することができる。
【0080】
また例えば、本実施形態では、2次元マップMは、所定の2方向の加速度成分の取得頻度を表す2次元ヒストグラムであるが、上記2次元ヒストグラムにスムージング処理を施した後、一定の間隔を置いた複数の頻度値について同じ頻度値の画素を線で結んだ、いわゆる等高線表示で表現したものであってもよい。あるいは、当該2方向の加速度成分を表す各データ点を2次元座標系に単純にプロットしたものであってもよい。あるいは、当該2方向の加速度成分を表す各データ点を、時系列的に線で結んでなる全体軌跡線を表すものであってもよい。ただし、2次元マップMをこの全体軌跡線を表すものとした場合、上記の部分軌跡線Lとこの全体軌跡線とを差別化するため、お互いに線の色や太さ、実線/破線の別などの表示形態を変える必要がある。
【0081】
また例えば、本実施形態では、対象者10の歩行中における左右方向及び前後方向の加速度成分a
x,a
yの2次元マップを生成し表示している。しかしながら、患者10の歩行中における他の2方向の加速度成分、例えば、前後方向及び上下方向の加速度a
y,a
z、あるいは、左右方向及び上下方向の加速度a
x,a
zの2次元マップを生成し表示するようにしてもよい。
【0082】
また例えば、本実施形態は、発明を、人の歩行運動に適用した例であるが、人のその他の移動運動、例えば人の走行運動などにも適用することができる。
【0083】
また例えば、本実施形態は、人に装着した加速度センサの出力から人の移動運動中における加速度を基に、上記の2次元マップM及び部分軌跡線Lを生成し表示する装置であるが、コンピュータをこのような装置として機能させるためのプログラムもまた発明の実施形態の一つである。