特許第6243745号(P6243745)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243745
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】流体ノズル
(51)【国際特許分類】
   B26F 3/00 20060101AFI20171127BHJP
   B05B 1/00 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   B26F3/00 K
   B05B1/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-12573(P2014-12573)
(22)【出願日】2014年1月27日
(65)【公開番号】特開2015-139833(P2015-139833A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133868
【弁理士】
【氏名又は名称】岡林 義弘
(72)【発明者】
【氏名】伊原 稔
(72)【発明者】
【氏名】金三津 雅則
(72)【発明者】
【氏名】小掠 隆広
【審査官】 岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−162364(JP,A)
【文献】 特開2009−078313(JP,A)
【文献】 特表2003−500225(JP,A)
【文献】 実開平06−063156(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26F 3/00
B05B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給された流体を導入する導入口と、導入された流体を噴出する吐出口と、を有する貫通穴が形成されたノズルチップと、
前記ノズルチップを後部に埋設して支持する金属母材と、
前記後部における前記金属母材の露出部、前記後部における前記金属母材と前記ノズルチップとが接触する境界部、及び前記ノズルチップの外縁部までを被覆し、かつ、前記導入口の周縁部を被覆せず、前記金属母材が前記流体に接触しないように構成されたセラミックス膜と、
を備え、
前記後部に供給された流体を前記導入口から導入して前記吐出口から噴出する流体ノズ
【請求項2】
前記セラミックス膜は、窒化チタンまたは窒化チタンアルミニウムであること、
を特徴とする請求項1に記載の流体ノズル。
【請求項3】
前記金属母材は、基材部と、この基材部に埋設された焼結金属部材と、を備え、
前記焼結金属部材は、前記ノズルチップの外周部を覆うように環状に形成され、当該焼結金属部材焼結に伴って当該ノズルチップを前記基材部に固定する構造を有すること、
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の流体ノズル。
【請求項4】
前記焼結金属部材は、ニッケルまたはニッケルを主成分とする合金であり、
前記ノズルチップは、モース硬度が9以上の鉱物結晶であること、
を特徴とする請求項に記載の流体ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体ノズルに係り、特に、金属母材の後部をセラミックス被膜で被覆した流体ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
高圧の流体(例えば、水や高純度の純水)を噴射して、噴射したウォータージェット(流体の噴流からなる液柱)によって切断等の加工をするウォータージェット加工装置(以下、単に、「ウォータージェット加工装置」という。)は、切断幅が比較的狭く、材料の焼付きや材料の組織変化が少ない特徴がある。このため、高価な材料の切断や微細な溝加工等に用いられる。
【0003】
近時、加工工数を低減し加工素材の無駄を極力少なくするため、ウォータージェットによって最終仕上げの必要のない精密な最終製品を加工する要求が高まっている。
このため、ウォータージェットに導光させたレーザービームで素材を加工する加工装置(以下、「ウォータービーム加工装置」という。)も開発されている(例えば、特許文献1参照)。ウォータービーム加工装置は、材料の熱影響による変形が非常に少ないため、高精度な最終仕上げができるという利点を有する。
【0004】
これらのウォータージェット加工において、高精度な最終仕上げを行うためには、ウォータージェット用の流体ノズルから噴射したウォータージェットがノズル中心からノズル軸と平行に噴出し、かつ、ウォータージェットの液柱径が安定していることが求められる。
【0005】
従来、ウォータージェット加工用の流体ノズルとして、ノズルチップを固定するノズルボディ部にダイヤモンドで製造されたノズルオリフィス部を埋め込んだものが知られている(例えば、特許文献2の図2参照)。
【0006】
そして、特許文献2に記載された流体ノズルでは、ノズルボディ部に高圧の流体(高圧水)が接触しノズルボディ部から金属が溶出してウォータージェットに混入してワークを汚染するため、ノズルボディ部のうち、高圧水に接触する部分を樹脂製の部材として金属汚染を防止することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5220914号公報
【特許文献2】特開2009−78313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載された流体ノズルを高精度な最終仕上げに適用しようとする場合には、ノズルチップを固定するノズルボディ部に樹脂を使用しているため、ノズルオリフィス部を保持する強度が不足する場合がある。このため、ノズルオリフィスを高精度に位置決めし、強固に安定した状態で保持しにくいという問題があった。
【0009】
また、ノズルボディ部には、高圧水の供給時および停止時にいわゆるウォーターハンマ現象が生じ、強い衝撃力が加わる場合がある。さらに、特許文献1のようなレーザービーム加工装置に用いる場合には、ノズルチップおよびその周辺部は強いレーザー光にさらされて損傷する場合があるため、ノズルボディ部には、ノズルチップを安定して保持する剛性および耐久性が要求される。
【0010】
ノズルボディ部が衝撃圧およびレーザー光により損傷が生じた場合、ノズルチップの導入口付近での高圧水の流れが乱れて不規則で不安定な水流になり、安定したウォータージェットを得ることができないことが想定される。
【0011】
これらの問題に鑑みて、本発明は、高精度の安定したウォータージェットを形成して、かつ剛性および耐久性を向上させることができる流体ノズルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題に鑑みて、請求項1に係る本願発明は、供給された流体を導入する導入口と、導入された流体を噴出する吐出口と、を有する貫通穴が形成されたノズルチップと、前記ノズルチップを後部に埋設して支持する金属母材と、前記後部における前記金属母材の露出部、前記後部における前記金属母材と前記ノズルチップとが接触する境界部、及び前記ノズルチップの外縁部までを被覆し、かつ、前記導入口の周縁部を被覆せず、前記金属母材が前記流体に接触しないように構成されたセラミックス膜と、を備え、前記後部に供給された流体を前記導入口から導入して前記吐出口から噴出する流体ノズルである
【0013】
かかる構成によれば、ノズルチップが金属母材で保持されているため、ノズルチップが強固に保持され剛性及び耐久性が向上する。また、前記金属母材の露出部をセラミックス膜で被覆したことで、供給された流体が金属部材に接触しないため、金属母材に含有された金属が流体に溶出することを抑制することができる。このため、金属母材から溶出した金属(溶出金属)によるワークの汚染を防止することができる。
【0014】
さらに、本願の発明者は、流体に混入した溶出金属が流体の高圧力によってノズルチップの導入口の周囲に結晶となって堆積する現象(圧力晶析)を誘引することを新たに実験によって観察した。
【0015】
ここで、圧力晶析とは、数千気圧という高圧力に混合物を加圧することによって結晶が析出する現象であり、晶析法の一種として化学工業分野等で利用されている。この圧力晶析によってノズルチップに付着した金属(晶析金属)は、しだいに結晶が成長するため、導入口に導かれる流体の流れに不規則な抵抗が生じて、吐出口から噴出したウォータージェットがゆがめられる現象が観察できる。このため、圧力晶析を効果的に防止することが新たな課題となる。
【0016】
本願発明は、前記金属母材の露出部をセラミックス膜で被覆したことで、供給された流体が金属部材に接触せず、金属が流体に溶出しないため、溶出金属に起因する晶析金属によるウォータージェットのゆがみや傾きを回避して高精度の安定したウォータージェットを形成することができる。
【0018】
また、前記金属母材と前記ノズルチップとが接触する境界部を含んで被覆することで、流体が境界部から浸入して金属母材に到達することを阻止できるため、より確実に金属母材に含有された金属の溶出を抑制することができる。
【0019】
請求項に係る発明は、請求項1に記載の流体ノズルであって、前記セラミックス膜は、窒化チタン(TiN)または窒化チタンアルミニウム(TiAlN)であること、を特徴とする。
かかる構成によれば、適正な箇所に安定したセラミックス膜を形成することができる。
【0020】
請求項に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の流体ノズルであって、前記金属母材は、基材部と、この基材部に埋設された焼結金属部材と、を備え、前記焼結金属部材は、前記ノズルチップの外周部を覆うように環状に形成され、当該焼結金属部材焼結に伴って当該ノズルチップを前記基材部に固定する構造を有すること、を特徴とする。
かかる構成によれば、焼結金属の焼結工程によってノズルチップを基材部に安定して強固に接合できるため、ノズルチップの保持力を高め剛性を向上させてより高精度の安定したウォータージェットを得ることができる。
【0021】
請求項に係る発明は、請求項に記載の流体ノズルであって、前記焼結金属部材は、ニッケルまたはニッケルを主成分とする合金であり、前記ノズルチップは、モース硬度が9以上の鉱物結晶であること、を特徴とする。
かかる構成によれば、ニッケルまたはニッケルを主成分とする合金は、ダイヤモンドやサファイヤ等の結晶性材料との焼結による接合性および融合性にすぐれているため、ノズルチップの材質として強度および耐久性に優れたダイヤモンド、サファイヤ、コランダム、または立方晶窒化ホウ素等のモース硬度が9以上の鉱物結晶からなる材料を好適に使用することができる。
このため、ノズルチップの剛性および耐久性を向上させてより高精度の安定したウォータージェットを得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上の構成を有する本発明に係る流体ノズルは、高精度の安定したウォータージェットを形成して、かつ剛性および耐久性を向上させることができる。
つまり、金属母材に含まれる金属が供給された流体へ溶出するのを抑制することで、溶出金属が圧力晶析によってノズルチップ表面へ付着し流体の流れが乱れることを防止できる。このため、本発明に係る流体ノズルは、ノズルチップ表面が正常に保たれる作用が生じ、導入口の周縁部での流体の流れが安定し、ウォータージェットのゆがみを回避して高精度の安定したウォータージェットが得られる。
【0023】
また、本発明に係る流体ノズルは、ノズルチップを保持する部材を金属母材とすることで、熱耐久性(耐熱性)、および機械的強度を高めることが可能である。そのため、ノズルチップへの金属付着を防止する作用と相まって、剛性および耐久性が高く、かつ安定したウォータージェットを得ることができる。このため、本発明に係る流体ノズルは、ウォータージェット加工装置の他、ウォータービーム加工装置にも好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態に係る流体ノズルを示し、(a)は縦断面図、(b)は平面図を示す。
図2】本発明の第1の実施形態に係る流体ノズルをウォータージェット加工装置に適用した実施例を示すノズルユニットの縦断面図を示す。
図3】本発明の第1の実施形態に係る流体ノズルをウォータービーム加工装置に適用した実施例を示すノズルユニットの縦断面図を示す。
図4】本発明の第1の実施形態に係る流体ノズルの作用効果を説明するための比較例に係る流体ノズルを示し、(a)は縦断面図、(b)は平面図を示す。
図5】本発明の比較例に係る流体ノズルに晶析金属が付着する様子を示し、(a)は縦断面図、(b)は平面図を示す。
図6】本発明の比較例に係る流体ノズルをウォータービーム加工装置に適用した場合の作用効果を示す縦断面図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係る流体ノズルを示し、(a)は縦断面図、(b)は平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<第1の実施形態>
図1に従って、本発明の第1の実施形態に係る流体ノズル10について説明する。なお、参照する図において、説明の便宜上、部材のサイズ、ノズルの径やセラミックス膜の厚み等は、特に限定されるものではないため誇張して表示するものとする。
【0026】
流体ノズル10は、高圧の流体(例えば、水や純水であり、以下、「高圧水Q」という。)が供給されるノズル穴となる貫通穴121が形成されたノズルチップ12と、ノズルチップ12を埋設して支持する金属母材11と、金属母材11が高圧水Qにさらされる露出部11eを被覆するセラミックス膜13と、を備えている。
流体ノズル10は、供給された高圧水Qをノズル穴となる貫通穴121から噴出して、ウォータージェットWJ(噴流液柱)を生成する。
【0027】
なお、以下の流体ノズル10の説明において、説明の便宜上、ウォータージェットWJを噴射する流れ方向を基準として、下流側を流体ノズル10の前部、上流側を後部という。
【0028】
金属母材11は、後部11aに形成されたノズルチップ12を納める窪み(インサート部)11bと、ウォータージェットWJを通過させる逃げ穴11cとを有する。金属母材11は、十分な強度を有し、ノズルチップ12を強固に固定できる金属材料から製作される。例えば、金属母材11を焼結金属とすることで、焼結によって金属母材11とノズルチップ12とを一体として強固に高精度で位置決めして固定することができる。
【0029】
金属母材11を焼結金属とする場合には、金属母材11をニッケル(Ni)やニッケル(Ni)を主成分とするニッケルクロム合金とすることで、ノズルチップ12にダイヤモンド、コランダム、または立方晶窒化ホウ素等のモース硬度が9以上の鉱物結晶を用いることができるため、ノズルチップ12の耐熱性および耐久性をより向上させることができるため特に好適である。
【0030】
ノズルチップ12は、樹脂等よりも剛性が高い金属母材11に埋設されて保持されているため、供給された高圧水Qの流入又は衝突に伴う衝撃圧(ウォータハンマ)や、金属母材11への固定や圧入等に伴う強力な締め付け力等に対して十分な強度を有する。
かかる構成により、ノズルチップ12は、剥離や腐食等の損傷が発生せず、長期の使用に耐え得るようになっている。
【0031】
このため、本発明の実施形態に係る流体ノズル10は、後記するウォータージェット加工装置のノズルユニット30(図2参照)の他、ウォータービーム加工装置のノズルユニット40(図3参照)にも好適に適用することができる。
【0032】
なお、本実施形態においては、ノズルチップ12が金属母材11の後部11aに保持された状態において、高圧水Qの流れを乱さないように後部11aの後端面が面一になるように埋設されているが、これに限定されるものではなく、高圧水Qの流れを乱さない態様であれば高圧水Qの導入態様に応じてノズルチップ12が後端面から埋没している態様や突出している態様を採用することもできる。
【0033】
ノズルチップ12に形成された貫通穴121は、高圧水Qを導入する導入口121aと、導入された高圧水QをウォータージェットWJとして噴出する吐出口121bと、を備えている。
ノズルチップ12は、高圧水Qによる圧力により変形しない強度を有し、耐摩耗性が高い素材で製作される。ノズルチップ12は、例えば、ダイヤモンド、コランダム、立方晶窒化ホウ素、トパーズ、水晶、その他の結晶性材料が用いられる。ノズルチップ12としては、望ましくはモース硬度が9以上の鉱物の単結晶を用いる。モース硬度が9以上の鉱物を用いることで高精度な貫通穴121を得ることができるため、高精度なウォータージェットWJを得ることができる。そして、高硬度の単結晶材料を用いることで耐摩耗性が向上し、長寿命のノズル10を得ることができる。ノズルチップ12は、貫通穴121と金属母材11に形成された逃げ穴11cが同軸を成すように金属母材11に装着されている。
【0034】
セラミックス膜13は、少なくとも金属母材11の後部11aにおける高圧水Qにさらされる露出部11eを被覆するように配設されている。
具体的には、セラミックス膜13は、金属母材11の後部11aにノズルチップ12が埋設された状態において、少なくとも金属母材11の後部11aにおける高圧水Qに晒される露出部11eを被覆し、望ましくは金属母材11とノズルチップ12との境界部11dを含み、ノズルチップ12の外縁部まで被覆する。しかし、セラミックス膜13は、高圧水Qの流れに影響を及ぼさないように、導入口121aの周縁部(いわゆるエッジ部の近傍)を被覆しないことが望ましい。
【0035】
セラミックス膜13は、TiN(窒化チタン),TiAlN(窒化チタンアルミニウム)その他のセラミックス膜を利用できる。TiN,TiAlNのコーティングは、物理的蒸着法(PVD法)により施される。このとき、導入口121aの周縁部にTiO2(酸化チタン)を含む塗膜を予め作成してマスキングしておく。TiO2塗膜が存在する部分は蒸着膜が生成せず、導入口121aの周縁部には製膜されない。このため、図1(b)に示すように、導入口121aの周縁部にはセラミックス膜13が付着せず、ノズルチップ12は、導入口121aの周縁部が露出するようになっている。
【0036】
かかる構成により、導入口121aの周縁部にはノズルチップ12が露出するように構成することで、剛性および耐久性を有し高精度に加工されたノズルチップ12の本来の性能を発揮させることで、安定した流体の流れを確保して、高精度の安定したウォータージェットWJを得ることができる。
【0037】
つまり、図1(a)に示すように、流体ノズル10において、高圧水Qは導入口121aでその流れが収縮し、貫通穴121の内周壁に接触しない状態で貫通穴121内を通過するウォータージェットWJが形成される。従って、導入口121aとその周囲の構造や形態が重要であり、面粗さや寸法精度等が高精度に管理されなければならない。本実施形態の流体ノズル10は、導入口121aの周囲にはセラミックス膜13を設けないことで、剛性および耐久性を有し高精度に加工されたノズルチップ12の本来の性能を発揮するようにしたものである。
【0038】
なお、セラミックス膜は物理的蒸着法によらず、化学的蒸着法(CVD)又は溶着により形成することができる。導入口121a周囲にセラミックス膜を製膜しない方法は製膜方法により適宜選択できる。
また、この塗膜による製膜部位の除外方法(マスキング方法)は、特に限定されるものではなく、公知の種々の方法を採用することができ、製膜方法、製膜する膜の種類又は金属母材11の材質等を考慮して適宜設定される。
【0039】
以上のように構成した本発明の第1の実施形態に係る流体ノズル10をウォータージェット加工装置のノズルユニット30(図2参照)、およびウォータービーム加工装置のノズルユニット40(図3参照)に適用する場合の適用例について、図2図3を参照しながら説明する。参照する図2は流体ノズル10を適用したウォータージェット加工装置のノズルユニット30を示す縦断面図であり、図3は流体ノズル10を適用したウォータービーム加工装置のノズルユニット40を示す縦断面図である。
【0040】
<ウォータージェット加工装置への適用>
ウォータージェット加工装置のノズルユニット30は、図2に示すように、高圧ポンプHPから供給された高圧水Qを吐出する流体ノズル10と、流体ノズル10を保持するノズルホルダ31と、高圧水Qの流出を規制するパッキン材32と、を備えている。
【0041】
ノズルホルダ31は、パイプ形状をなした本体部31aと、本体部31aに内設されたノズル固定部材31bと、を備えている。
本体部31aは、その先端部(図の下部)にノズル固定部材31bを内設する窪み(インサート部)を有し、その窪みの内周部には三角ねじ31cが施されている。この三角ねじ31cによって本体部31aにノズル固定部材31bが螺入して内設されている。
【0042】
ノズル固定部材31bは、流体ノズル10を保持して本体部31aに固定する部材である。
ノズル固定部材31bは、後部(図の上部)に流体ノズル10が埋設される窪み(インサート部)を有し、この窪みに流体ノズル10が嵌挿される。そして、ノズル固定部材31bの後部(図の上部)は、本体部31aのインサート部に嵌挿される。
【0043】
かかる構成により、流体ノズル10は、その外周部がノズル固定部材31bによって本体部31aに嵌合されるため、高い寸法精度でノズルホルダ31に固定される。
【0044】
ノズルホルダ31を構成する本体部31aとノズル固定部材31bは、高圧水Qへの溶出が少なく、耐腐食性を有する金属で製作される。望ましくはチタン(Ti)合金を使用するが、析出硬化系又はオーステナイト系のステンレス鋼も使用され得る。
【0045】
パッキン材32は、Oリングであり、流体ノズル10の後部11a(図の上部)と本体部31aの窪みの底部(図の上部)との間に装着されている。パッキン材32は、天然ゴム、又はEPDMゴム、NBRゴムその他の合成ゴム製が用いられる。被加工物(不図示)が不純物混入を嫌う素材(例えば電子材料)の場合には、EPDMゴム製のパッキン材を用いることが望ましい。
【0046】
高圧ポンプHPから送られる高圧水Qは、純水を使用しノズルホルダ31の内部を通り、流体ノズル10の後部11aに送られる。ノズルチップ12は、流体ノズル10の後部11aに圧送された高圧水Qを導入口121aから導入して絞り、ウォータージェットWJとして吐出口121bから噴出する。噴出されたウォータージェットWJは、被加工物(不図示)に衝突し、ウォータージェットWJの運動量によって被加工物を加工する。その加工点は、ウォータージェットWJと被加工物との接触(衝突)点である。
【0047】
このため、特に精密な加工を行う場合、ウォータージェットWJがノズル固定軸と同軸で噴射される必要がある。ウォータージェットWJがノズル固定軸と同軸となれば、そのノズル固定軸を多軸ロボット又は数値制御装置により精密制御することで、高精度のウォータージェット加工を行うことができる。
【0048】
<ウォータービーム加工装置への適用>
ウォータービーム加工装置のノズルユニット40は、図3に示すように、流体ノズル10Aと、ノズルホルダ41と、高圧水Qを発生させる高圧ポンプHPと、高圧ポンプHPから送られる高圧水Qの乱れを減衰させる整流室42と、整流室42から流入した液体をノズル開口入口へ導く液体加振室44と、レーザー発振器45と、レーザー発振器45から出力されたレーザー光Lを集束させる集束レンズ46と、レーザー光Lを通過させるウインドウ47と、高圧水Qの流出を規制するパッキン材48と、を備えている。
【0049】
流体ノズル10Aは、後端面から外周面までを覆うようにセラミックス膜13Aで被覆している点で、流体ノズル10の後端面をセラミックス膜13で被覆している図1に示す流体ノズル10と相違する。
【0050】
一方、流体ノズル10Aにおけるセラミックス膜13Aは、金属母材11が高圧水Qに接触しないように金属母材11が高圧水Qに晒される露出部11eを覆うように設けられている点で図1に示す流体ノズル10と共通し、他の構成も同様であるので重複する詳細な説明は省略する。
【0051】
ノズルホルダ41は、パイプ形状をなした本体部41aと、本体部41aに内設されたノズル固定部材41bと、を備えている。ノズルホルダ41は、図2に示すノズルユニット30のノズルホルダ31と同様の構成であるので詳細な説明は省略する。
【0052】
整流室42は、ノズルホルダ41内部の液体加振室44の上方に設けられる、断面が略長方形のドーナツ状空間である。この整流室42の下方に円盆状の空間を設け、その円盆状空間の中心角略90°のみを残し、その他の空間を加振室流入通路調整部材49で閉塞する。すると、ここに、ノズルホルダ41の中心から略水平の中心角略90°の扇形平板状空間が横たわり、その外周円弧部から垂直に平面視円弧状の薄い空間が立ち上がる。この円盆を中心角略90°に切取られた内部空間が加振室流入通路43となる。加振室流入通路43は整流室42と円筒状の液体加振室44とを接続する。
【0053】
高圧ポンプHPから送られた高圧水Qは、整流室42に流入し、加振室流入通路43を通り液体加振室44に専ら一方向から流入する。この高圧水Qは、液体加振室44から流体ノズル10Aの中央に設けられた貫通穴121からレーザー光Lが導光されたウォータージェットWJとなって噴出する。
レーザー発振器45から出力されたレーザーは、集束レンズ46により集束され、ウインドウ47を通過して、導入口121aのやや上方で収束し、ウォータージェットWJ内に導光される。ウォータージェットWJ内を導かれたレーザー光Lが、被加工物(不図示)に当り、そのエネルギーにより加工する。
【0054】
ウォータービーム加工装置に適用されるノズルユニット40では、レーザー光Lの高圧水Qへの吸収率を下げるために、可能な限り伝導度の低い高圧水Qを噴出させる必要がある。そのため、ノズルホルダ41のように高圧水Qと接触する金属部分はTi合金や析出硬化ステンレス鋼が利用される。
【0055】
以上のように構成された本発明の第1の実施形態に係る流体ノズル10(流体ノズル10Aも同様である。)の作用効果について、セラミックス膜で被覆されていない流体ノズル50(図4から図6)と比較しながら説明する。図4はセラミックス膜で被覆されていない比較例に係る流体ノズル50の構成を示し、(a)は縦断面図、(b)は平面図である。図5はセラミックス膜で被覆されていない比較例に係る流体ノズル50の作用効果を示し、(a)は縦断面図、(b)は平面図である。
【0056】
本発明の第1の実施形態に係る流体ノズル10は、図1に示すように、金属母材11の後部11aと、金属母材11とノズルチップ12とが接触する境界部11dを含みノズルチップ12の外縁部までを被覆するようにセラミックス膜13を配設した点で、図4に示すセラミックス膜で被覆されていない比較例に係る流体ノズル50と相違する。このため、図4図5に示す比較例に係る流体ノズル50において、図1に示す流体ノズル10と同様の構成については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0057】
第1の実施形態の流体ノズル10は、金属母材11の露出部11e(高圧水Qに接触する部分)がセラミックス膜13で覆われているため、金属部材11が高圧水Qに接触せず、金属母材11から金属イオンが高圧水Q中に溶出しない。このため、高圧水Q中からのノズルチップ12への金属析出(金属付着)が抑えられる。ノズルチップ12の導入口121aの周囲への晶析金属の付着が無いため、導入口121a付近での水の流れが乱されず、その結果、ウォータージェットWJがノズル中心軸に沿って高精度に噴出する。
【0058】
一方、図4に示すように、セラミックス膜で被覆されていない比較例に係る流体ノズル50では、流体ノズル50の後部の金属母材11が露出しているため、金属母材11の露出部11eが高圧水Qに接触して晒された状態である。
【0059】
このため、比較例に係る流体ノズル50を適用したウォータービーム加工装置のノズルユニット80では、流体ノズル50に供給された高圧水Qが金属母材11に晒されているため、金属母材11に含有された金属(金属イオン)が高圧水Qに溶出する。
【0060】
そして、高圧水Qに溶出した金属(溶出金属)が高圧水Qの高圧力によってノズルチップ12の導入口121aの周囲に結晶となって堆積する現象(圧力晶析)を誘引すると考えられる。
具体的には、図5に示すように、金属母材11が高圧水Qに溶出するため、金属母材11の後端面上には、金属の溶出によって溝状に窪んだ凹部52が生ずる。そして、ノズルチップ12の表面上には、この圧力晶析によって堆積した種々の形態をなした晶析金属51が付着して隆起するように堆積する。
【0061】
晶析金属51は、導入口121aの縁部から周囲に広がるように堆積され、導入口121aに向かって雪結晶状(又は杉の葉状)に溶出金属の結晶が成長して堆積した金属結晶である。晶析金属51は、貫通穴121の壁面(内周面)には発生していないことが観察される。
【0062】
なお、晶析金属51がノズルチップ12の表面に付着するメカニズムについて、発明者は、焼結金属からなる金属母材11が高圧水Qに溶出し、その溶出した金属イオンが、ノズルチップ12の表面に付着したと考えている。つまり、金属母材11にはノズルチップ12と焼結による接合性および融合性の良い金属が使用されており、液体加振室44内の高圧水Qは高圧に圧縮されているため、この焼結金属の溶出分が、その圧力を受ける作用でこの溶出金属と相性(接合性および融合性による付着性)の良いノズルチップ12に析出して付着すると考えている。
【0063】
図6に示すように、ノズルチップ12上への晶析金属51の付着の結果、流体ノズル50から噴出したウォータージェットWJは流体ノズル50の軸線から傾斜する。このような構成の流体ノズル50においては、その導入口121aの周囲において、流体の流れが不規則な抵抗を受けながら収縮し、流れの方向が転換されて不安定なウォータージェットWJが形成されると考えられている。このように、導入口121aの周辺は噴流形成に重要な役割を有し、導入口121aの周囲への晶析金属51の付着がウォータージェットWJの傾斜に大きな影響を及ぼすと考えられる。
【0064】
ウォータービーム加工装置に適用したノズルユニット80を用いた加工では、レーザー光LがウォータージェットWJ内を伝搬しているため、被加工物(不図示)の加工点は、ウォータージェットWJと被加工物の接触点となる。ウォータージェットWJがノズルの中心軸、すなわちノズルユニット80の中心軸の延長線上から外れるため、加工点がその延長線上から離れる。その結果、ノズルユニット80を数値制御装置により精密に移動しても、高精度の加工物を得ることができない。特に、ノズルユニット80と被加工物を3次元的に姿勢が移動する場合には、致命的な悪影響を及ぼす。
【0065】
<第2の実施形態>
図7に従って、本発明の第2の実施形態に係る流体ノズル20について説明する。流体ノズル20は、金属母材21が基材部211と、基材部211に埋設された焼結金属部材212と、を備えた点で第1実施形態に係る流体ノズル10と相違する。
このため、セラミックス膜23は、金属母材21の後部21aにおける高圧水Qにさらされる露出部21eを被覆し、基材部211と、焼結金属部材212と、焼結金属部材212とノズルチップ12との境界部212dを含み、ノズルチップの外縁部まで被覆する点で第1の実施形態に係る流体ノズル10と異なるが、他の構成は流体ノズル10と同様であるので同様の構成については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0066】
金属母材21の基材部211は、ノズルチップ12と焼結金属部材212とを支持する部材であり、後部21aに形成されたノズルチップ12と焼結金属部材212とを納める窪み211bを備えている。
焼結金属部材212は、ノズルチップ12の外周部を覆うように環状に形成され、焼結金属部材212を焼結させることでノズルチップ12を基材部211に固定している。焼結金属部材212は、ノズルチップ12を支持する部材であり、ノズルチップ12を納める窪み212bを備えている。焼結金属部材212は、基材部211およびノズルチップ12に対して、焼結による接合性の良好な金属で構成され、第1の実施形態に係る流体ノズル10の金属母材11と同様の材質で構成される。
【0067】
第2の実施形態に係る流体ノズル20では、金属母材21の大半を占める基材部211は、純水への溶出が少なく、より高強度で加工性の高い金属で構成することができる。基材部211は、例えばTi合金、析出硬化系ステンレス鋼により製作される。その結果、ノズル20の寸法精度及び耐久性を高めることができ、かつ、第1の実施形態に係る流体ノズル10よりもさらに純水への金属溶出を小さくすることができる。その結果、流体ノズル20は、第1の実施形態の流体ノズル10に比較して、ノズルチップ12への金属付着をより一層抑え、高い安定性を有するウォータージェットWJを得ることができる。
【符号の説明】
【0068】
10,10A,20,50 流体ノズル
11,21 金属母材
11d,212d 境界部
12 ノズルチップ
13,13A、23 セラミックス膜
121 貫通穴
121a 導入口
121b 吐出口
30 ウォータージェット加工装置のノズルユニット
40 ウォータービーム加工装置のノズルユニット
51 晶析金属
52 凹部
211 基材部
212 焼結金属部材
Q 高圧水(流体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7