特許第6243750号(P6243750)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243750
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】ねじ締結具
(51)【国際特許分類】
   F16B 31/02 20060101AFI20171127BHJP
   F16D 7/02 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   F16B31/02 H
   F16B31/02 Z
   F16D7/02 A
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-32675(P2014-32675)
(22)【出願日】2014年2月24日
(65)【公開番号】特開2015-158221(P2015-158221A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2017年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176992
【氏名又は名称】三木プーリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 富雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀雄
【審査官】 葛原 怜士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−047326(JP,A)
【文献】 特開2000−027886(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第02297000(GB,A)
【文献】 実開昭56−135529(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 31/00−31/04
F16D 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ廻し工具が係合する工具係合部を有し且つ軸線方向で見て前記工具係合部とは反対の側に向けて開口した中心嵌合孔および当該中心嵌合孔の径方向外方に延在する環状の端面部を有する第1の部材と、
前記中心嵌合孔に回転可能に嵌合し、外周部に周溝を形成された嵌合軸部を一端部に有し、他端部の外周部に雄ねじ部を形成され且つ他端部に締結用ねじ部を有し、更に前記嵌合軸部と前記雄ねじ部との間にディスク支持軸部を有する筒状の第2の部材と、
前記第1の部材を径方向に貫通するねじ孔にねじ係合し、先端部が前記嵌合軸部の外周に形成された周溝に摺動可能に嵌合する止めねじ部材と、
前記第1の部材に固定され、前記第1の部材より前記第2の部材の側に軸線方向に延在する棒状部材と、
前記ディスク支持軸部の外周部に軸線方向に移動可能に且つ回転可能に嵌合し、且つ前記棒状部材が軸線方向に貫通する貫通孔を有する複数枚の駆動側ディスク部材と、
前記ディスク支持軸部の外周部に前記駆動側ディスク部材と交互に軸線方向に移動可能に且つ回転不能に嵌合した複数枚の被動側ディスク部材と、
前記ディスク支持軸部の外周部に軸線方向に移動可能に取り付けられ、前記駆動側ディスク部材と前記被動側ディスク部材とを前記第1の部材の前記端面部に向けて付勢する板ばねと、
前記第2の部材の前記雄ねじ部にねじ係合し、前記板ばねに予荷重を付与するばね受け部材とを有するねじ締結具。
【請求項2】
前記工具係合部が多角形をなし、前記ディスク支持軸部は前記ねじ廻し工具と同一のねじ廻し工具が係合可能な多角形軸部をなし、被動側ディスク部材は前記多角形軸部に嵌合することにより、前記第2の部材に対して回り止め装着されている請求項1に記載のねじ締結具。
【請求項3】
前記駆動側ディスク部材と前記被動側ディスク部材とが互いに接触する少なくとも一方の面に前記駆動側ディスク部材および前記被動側ディスク部材を構成する材料より耐腐食性が高い材料による薄板が配置あるいは同材料による被膜層が形成されている請求項1または2に記載のねじ締結具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ締結具に関し、更に詳細には、最大締付トルクを設定するトルクリミタ機能付きのボルトあるいはナットに関する。
【背景技術】
【0002】
トルクリミタ機能付きのボルトとして、ねじ廻し工具が係合する工具係合部を有する頭部部材と、雄ねじを形成された雄ねじ部材とにねじ弛み側が逆止のラチェット部が形成され、頭部部材と雄ねじ部材との間に設けられたばねによって前記ラチェット部の緩斜面同士が互いに係合する方向に付勢し、緩斜面同士の摩擦によって頭部部材から雌ねじ部材へねじ締め付け方向のトルクが伝達されるようにし、規定値(最大締付トルク)以上のトルクによって頭部部材が廻されると前記緩斜面同士が互いに滑ることにより、規定値以上のトルクによってボルトが締結相手の雌ねじにねじ係合することを防止するよう構成されたボルトが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、トルクリミタ機能付きのナットとして、ねじ廻し工具が係合する工具係合部を有する頭部部材と、雌ねじを形成された雌ねじ部材とに互いにスラスト方向の接触する摩擦係合面が形成され、頭部部材と雌ねじ部材との間に設けられたばねによって摩擦係合面同士が互いに接触する方向に付勢し、摩擦係合面同士の摩擦によって頭部部材から雌ねじ部材へねじ締め付け方向のトルクが伝達され、規定値(最大締付トルク)以上のトルクによって頭部部材が廻されると、摩擦係合面同士が互いに滑ることにより、規定値以上のトルクによってナットが締結相手の雄ねじにねじ係合することを防止するよう構成されたナットが知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−27886号公報
【特許文献2】特開平10−47326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から知られているトルクリミタ機能付きのボルト、ナットは、その構造上、大型化するか、ばね付勢力を増大させないと、大きい規定トルクを設定することができず、大きさや組付性、分解保守性に問題を残している。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、トルクリミタ機能付きねじ締結具(ボルト、ナット)において、大型化やばね付勢力を増大することなく大きい規定トルクを設定でき、併せてトルクリミタ機能付きねじ締結具の組付性および分解保守性に優れたものにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるねじ締結具は、ねじ廻し工具が係合する工具係合部(14)を有し且つ軸線方向で見て前記工具係合部とは反対の側に向けて開口した中心嵌合孔(16)および当該中心嵌合孔の径方向外方に延在する環状の端面部(18)を有する第1の部材(10)と、前記中心嵌合孔(16)に回転可能に嵌合し外周部に周溝(34)を形成された嵌合軸部(32)を一端部に有し他端部の外周部に雄ねじ部(40)を形成され且つ他端部に締結用ねじ部(42、72)を有し更に前記嵌合軸部(32)と前記雄ねじ部(40)との間にディスク支持軸部(36)を有する筒状の第2の部材(30)と、前記第1の部材(10)を径方向に貫通するねじ孔(20)にねじ係合し、先端部(24)が前記嵌合軸部(32)の外周に形成された周溝(34)に摺動可能に嵌合する止めねじ部材(22)と、前記第1の部材(10)に固定され、前記第1の部材(10)より前記第2の部材(30)の側に軸線方向に延在する棒状部材(28)と、前記ディスク支持軸部(36)の外周部に軸線方向に移動可能に且つ回転可能に嵌合し且つ前記棒状部材(28)が軸線方向に移動可能に貫通する貫通孔(50C)を有する複数枚の駆動側ディスク部材(50)と、前記第2の部材(30)の前記ディスク支持軸部(36)の外周部に前記駆動側ディスク部材(50)と交互に軸線方向に移動可能に且つ回転不能に嵌合した複数枚の被動側ディスク部材(52)と、前記ディスク支持軸部(36)の外周部に軸線方向に移動可能に取り付けられ、前記駆動側ディスク部材(50)と前記被動側ディスク部材(52)とを前記第1の部材(10)の前記端面部(18)に向けて付勢するばね部材(58)と、前記第2の部材(30)の前記雄ねじ部(40)にねじ係合し、前記ばね部材(58)に予荷重を付与するばね受け部材(62)とを有する。
【0008】
この構成によれば、第1の部材(10)と第2の部材(30)との間に、複数枚の駆動側ディスク部材(50)と被動側ディスク部材(52)とによる多板式のトルクリミタが構成され、第1の部材(10)と第2の部材(30)とを止めねじ部材(22)によって連結、分解できるから、大型化やばね付勢力の増大を招くことなく大きい規定トルクを設定でき、併せてトルクリミタ機能付きねじ締結具の組付性および分解保守性が改善される。
【0009】
本発明によるねじ締結具は、好ましくは、前記工具係合部(14)が多角形をなし、前記ディスク支持軸部(36)は前記ねじ廻し工具と同一のねじ廻し工具が係合可能な多角形軸部(36A)をなし、被動側ディスク部材(52)は前記多角形軸部(36A)に嵌合することにより、前記第2の部材(30)に対して回り止め装着されている。
【0010】
この構成によれば、多角形軸部(36A)が被動側ディスク部材(52)の回り止めと第2の部材(30)を直接廻すための工具係合部とを兼ねるようになり、しかも、第2の部材(30)を直接廻すための工具は、第1の部材(10)を廻すナット廻し工具と同じ工具を用いることができ、2種類のナット廻し工具を準備する必要がなくなる。
【0011】
本発明によるねじ締結具は、好ましくは、更に、前記駆動側ディスク部材(50)と前記被動側ディスク部材(52)とが互いに接触する少なくとも一方の面に前記駆動側ディスク部材(50)および前記被動側ディスク部材(52)を構成する材料より耐腐食性が高い材料による薄板(54)が配置あるいは同材料による被膜層が形成されている。
【0012】
この構成によれば、錆付き等による摩擦面の固着を、オイルメタルのような高価な浸油材を用いることなく回避することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるねじ締結具によれば、第1の部材と第2の部材との間に複数枚の駆動側ディスク部材と被動側ディスク部材とによる多板式のトルクリミタが構成され、第1の部材と第2の部材とを止めねじ部材によって連結、分解できる構造になっているから、トルクリミタ機能付きねじ締結具を大型化やばね付勢力の増大を招くことなく大きい規定トルクを設定でき、併せてトルクリミタ機能付きねじ締結具の組付性および分解保守性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明によるねじ締結具(ナット)の一つの実施形態を示す斜視図。
図2】本実施形態によるナットの分解斜視図。
図3】本実施形態によるナットの側面図。
図4】本実施形態による図3の線IV−IVに沿った断面図。
図5図4のA部分の拡大断面図。
図6】本実施形態による図3の線VI−VIに沿った断面図。
図7】本発明によるねじ締結具(ボルト)の他の実施形態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明によるナットの一つの実施形態を、図1図6を参照して説明する。
【0016】
本実施形態によるナット1は第1の部材10を有する。第1の部材10は、円環状の主部12と、主部12の軸線方向の一方の側(図4で見て右側)に突出形成された工具係合部14とを一体に有する。
【0017】
工具係合部14は六角柱形状をしており、当該工具係合部14にはスパナ等のナット廻し工具(不図示)が着脱可能に係合する。主部12の中心部は軸線方向で見て工具係合部14とは反対の側(図4で見て左側)に向けて開口した中心嵌合孔16になっている。中心嵌合孔16は、横断断面形状が円形の孔であり、円環状の底部16Aを有する。
【0018】
主部12の軸線方向で見て工具係合部14とは反対の側(図4で見て左側)、つまり中心嵌合孔16の開口端側は、中心嵌合孔16の径方向外方に延在する環状の端面部18になっている。端面部18は中心軸線に対して直交する方向に延在するスラスト面部である。
【0019】
主部12の外周近傍には主部12を軸線方向に貫通する貫通孔26が円周方向の6箇所に等間隔に形成されている。各貫通孔26には棒状部材をなすスプリングピン28の一端部(図4で見て右側の端部)が打ち込まれている。各スプリングピン28は、主部12に固定で、主部12より後述する第2の部材30の側(図4で見て左側)に、第1の部材10の中心軸線と平行な軸線方向に延在している。
【0020】
中心嵌合孔16には、第2の部材30の一端部(図4で見て右側の端部)に形成された円筒形状の嵌合軸部32が底部16Aに突き当てられた状態で、第1の部材10の中心軸線周りに回転可能に嵌合している。嵌合軸部32の外周部には円環状の周溝34が形成されている。主部12には当該主部12を径方向に貫通するねじ孔20が形成されている。ねじ孔20には止めねじ部材22がねじ係合しており、止めねじ部材22の先端部に一体形成された円柱形状の突部24が周溝34に摺動可能に嵌合している。
【0021】
これにより、第2の部材30は、軸線方向の抜け止めをされた状態で、第1の部材10と同一軸線上に延在して第1の部材10に対して相対回転可能である。第2の部材30は、全体が円筒形状で、嵌合軸部32と、ディスク支持軸部36と、ねじ形成軸部38とを軸線方向に順に有する。
【0022】
ねじ形成軸部38は、第2の部材30の他端部(図4で見て左側の端部)に形成されたディスク支持軸部36より小径の軸部であり、外周部に雄ねじ部40を形成され、内周部にナットとしての締結用ねじ部である雌ねじ部42が形成されている。
【0023】
ディスク支持軸部36は、嵌合軸部32とねじ形成軸部38との間にあり、図2に示されているように、工具係合部14に係合するナット廻し工具(不図示)と同一のナット廻し工具(不図示)が着脱可能に係合可能な六角形軸部36Aをなしている。六角形軸部36Aの各角部は、ディスク支持軸部36と同心の部分円周面36Bになっている。つまり、六角形軸部36Aは、角部が部分円周面36Bになっていること以外、工具係合部14の六角柱形状と同一である。
【0024】
ディスク支持軸部36の外周部には、複数枚の円盤状の駆動側ディスク部材50と、複数枚の円盤状の被動側ディスク部材52とが各々軸線方向に移動可能に交互に配置されている。
【0025】
駆動側ディスク部材50は、各々、円形の中心嵌合孔50Aを有し、中心嵌合孔50Aによってディスク支持軸部36の部分円周面36Bに円周方向および軸線方向に摺動可能に嵌合している。これにより、駆動側ディスク部材50は、第2の部材30に対して回転可能且つ軸線方向に移動可能である。
【0026】
各駆動側ディスク部材50の外周近傍には、スリット50Bを有する貫通孔50Cが軸線方向に貫通形成されている。貫通孔50Cは駆動側ディスク部材50の円周方向の6箇所に等間隔に形成されている。各貫通孔50Cには対応する位置にある各スプリングピン28が滑り嵌合状態で軸線方向に貫通している。これにより、駆動側ディスク部材50は、第1の部材10に対して回転可能且つ軸線方向に移動可能である。換言すると、駆動側ディスク部材50は第1の部材10と一体的に回転する。
【0027】
被動側ディスク部材52は、各々、六角形の中心嵌合孔52Aを有し、中心嵌合孔52Aによって六角形軸部36Aに軸線方向に摺動可能に嵌合している。これにより、被動側ディスク部材52は、第2の部材30に対して回転不能且つ軸線方向に移動可能になっている。換言すると、被動側ディスク部材52は第2の部材30と一体的に回転する。
【0028】
被動側ディスク部材52の外径は駆動側ディスク部材50の外径より小さく、被動側ディスク部材52は、スプリングピン28との間に径方向の間隙を有し、スプリングピン28に接触することがない。
【0029】
駆動側ディスク部材50および被動側ディスク部材52は、一般的な鋼板によって構成されている。被動側ディスク部材52が駆動側ディスク部材50と接触する両面には、図5に示されているように、ステンレス鋼等、駆動側ディスク部材50および被動側ディスク部材52を構成する材料より耐腐食性、特に耐発錆性が高い材料による薄板54が配置されている。
【0030】
軸線方向で見て第1の部材10の端面部18に最も近い位置には被動側ディスク部材52があり、次に駆動側ディスク部材50があり、以降、被動側ディスク部材52と駆動側ディスク部材50とが同数枚交互に配置され、最もねじ形成軸部38の側には、更に、プレッシャプレート56と円環形状の板ばね58とが順に配置されている。
【0031】
プレッシャプレート56は六角形の中心嵌合孔56Aを有し、中心嵌合孔56Aによって六角形軸部36Aに軸線方向に摺動可能に嵌合している。これにより、プレッシャプレート56は、被動側ディスク部材52と同様に、第2の部材30に対して回転不能且つ軸線方向に移動可能になっている。換言すると、プレッシャプレート56は第2の部材30と一体的に回転する。
【0032】
なお、プレッシャプレート56は、一般的な鋼板によって構成されている。プレッシャプレート56が駆動側ディスク部材50と接触する面にも、図5に示されているように、ステンレス鋼等、プレッシャプレート56を構成する材料より耐腐食性、特に耐発錆性が高い材料による薄板54が配置されている。
【0033】
板ばね58は、円形の中心嵌合孔58Aを有し、中心嵌合孔58Aによってディスク支持軸部36の部分円周面36Bに円周方向および軸線方向に摺動可能に遊嵌合している。これにより、板ばね58は、第2の部材30に対して回転可能且つ軸線方向に移動可能である。板ばね58は、駆動側ディスク部材50と被動側ディスク部材52とをプレッシャプレート56を介して第1の部材10の端面部18に向けて付勢するばね部材である。
【0034】
雄ねじ部40には、円環形状のばね受け部材62の内周部に形成された雌ねじ部64がねじ係合している。ばね受け部材62は、雄ねじ部40に対するねじ込みによって板ばね58の側に移動(螺進)し、板ばね58に予荷重を付与する。
【0035】
ばね受け部材62には円環形状の一部を開放するスリット66が形成されている。ばね受け部材62にはスリット66を一方の側から他方の側に通過してばね受け部材62にねじ係合した締め付けねじ68が設けられている。ばね受け部材62は、締め付けねじ68によってスリット66が狭まる方向に弾性変形することにより、雄ねじ部40の任意の軸線方向位置(螺進位置)にてねじ形成軸部38に対して固定される。
【0036】
上述した駆動側ディスク部材50と被動側ディスク部材52とプレッシャプレート56と板ばね58とばね受け部材62とにより、第1の部材10と第2の部材30との間に、多板式のトルクリミタが構成される。
【0037】
このトルクリミタの規定トルク(最大締付トルク)は、板ばね58に付与する予荷重により決まる。第1の部材10が工具係合部14に係合したナット廻し工具(不図示)によって規定トルク未満のトルクで廻されている時には、第1の部材10の回転が、スプリングピン28から駆動側ディスク部材50と被動側ディスク部材52との摩擦によって第2の部材30に伝達され、第2の部材30が第1の部材10と一体的に回転する。
【0038】
第2の部材30の回転によって雌ねじ部42にねじ係合したボルト(不図示)に対する雌ねじ部42の螺進が進み、ナット1の締め付けによってねじ締結が行われる。ねじ締結の進行によって第1の部材10を廻すのに必要なトルクが増大し、このトルクがトルクリミタの規定トルクに達すると、駆動側ディスク部材50が被動側ディスク部材52に対して滑りを生じ、第1の部材10が廻されても第2の部材30が回転することはない。これにより、過剰な締付トルクによるねじ締結が回避される。
【0039】
このトルクリミタの規定トルクは、ねじ形成軸部38に対するばね受け部材62の螺進量によって連続的に可変設定することができる。
【0040】
このトルクリミタにおいては、駆動側ディスク部材50と被動側ディスク部材52との摩擦面およびプレッシャプレート56と摩擦面は、耐腐食性が高い材料による薄板54によって構成されるから、錆付き等による摩擦面の固着を、オイルメタルのような高価な浸油材を用いることなく回避することができる。
【0041】
ナット1に組み込まれたトルクリミタは、多板式であるから、駆動側ディスク部材50と被動側ディスク部材52との摩擦面の直径を大きくすることなく摩擦面積を大きく取れるので、トルクリミタの外径を大きくすることなく、板ばね58によるばね付勢力を大きくすることなく大きい規定トルクを設定することができる。
【0042】
駆動側ディスク部材50と第1の部材10とのトルク伝達のための係合は、アウタケースの内周壁に形成されたスプラインと駆動側ディスク部材の外周縁部に形成されたスプラインとの係合によらずに、駆動側ディスク部材50の外周縁部より径方向内方にある貫通孔50Cとスプリングピン28との係合によって行われるから、このことによってもトルクリミタの外径を小さくすることができる。
【0043】
ナット1の組立は、止めねじ部材22によって第2の部材30を第1の部材10に取り付けた状態で、ディスク支持軸部36の外周部に、複数枚の駆動側ディスク部材50と複数枚の被動側ディスク部材52とを交互に取り付け、更にプレッシャプレート56と板ばね58とを順に取り付け、その後に雄ねじ部40にばね受け部材62をねじ込み、所要の規定トルクが得られる螺進にて締め付けねじ68を締め付けてばね受け部材62をねじ形成軸部38に固定することにより完了する。
【0044】
ナット1のもう一つの組立手順として、第2の部材30を第1の部材10に取り付けない状態で、ディスク支持軸部36の外周部に、複数枚の駆動側ディスク部材50と複数枚の被動側ディスク部材52とを交互に取り付け、更にプレッシャプレート56と板ばね58とを順に取り付け、その後に雄ねじ部40にばね受け部材62をねじ込み、所要の規定トルクが得られる螺進にて締め付けねじ68を締め付けてばね受け部材62をねじ形成軸部38に固定し、これをサブアッシィとして、第2の部材30の嵌合軸部32を第1の部材10の中心嵌合孔16に挿入し、ねじ孔20に止めねじ部材22をねじ係合させて最後に第2の部材30を第1の部材10に連結する組立手順もある。
【0045】
なお、第2の部材30に組み付けられて板ばね58によってばね付勢されている駆動側ディスク部材50、被動側ディスク部材52、プレッシャプレート56は、ディスク支持軸部36の嵌合軸部32側の端部外周に突起36Cが形成されていることにより、サブアッシィ状態で、ディスク支持軸部36の嵌合軸部32側から脱落することがない。
【0046】
この場合には、第2の部材30を、当該第2の部材30に駆動側ディスク部材50と被動側ディスク部材52とプレッシャプレート56と板ばね58とばね受け部材62とが組み付けられたサブアッシィとして取り扱うことができ、トルクリミタを組み込まれたナット1の組立作業性が向上する。
【0047】
ナット1の分解は上述した組立手順と逆の手順によって行うことができ、止めねじ部材22を緩めるだけで、第1の部材10と第2の部材30とを簡単に分解することができるから、部品交換の作業性も向上する。
【0048】
ナット1の雌ねじ部42において錆付き等による固着が生じ、ナット1を緩めるのにトルクリミタの規定トルク以上のトルクが必要な場合には、第1の部材10を廻しても、トルクリミタの滑り作用によって第2の部材30が回らない事態に陥ることになる。
【0049】
この場合には、締め付けねじ68を緩めてばね受け部材62の螺進を戻し、駆動側ディスク部材50、被動側ディスク部材52、プレッシャプレート56、板ばね58をねじ形成軸部38側にずらし、六角形軸部36Aを外部に露呈させ、六角形軸部36Aにナット廻し工具(不図示)を係合させてナット廻し工具によって第2の部材30を緩み側に直接廻すことにより、ナット1を緩めることができる。このように、六角形軸部36Aは、被動側ディスク部材52の回り止めと、第2の部材30を直接廻すための工具係合部とを兼ねることになる。
【0050】
この際のナット廻し工具は、六角形軸部36Aが工具係合部14と実質的に同じであるから、第1の部材10を廻すナット廻し工具と同じ工具を用いることができ、2種類のナット廻し工具を準備する必要がなくなる。
【0051】
なお、嵌合軸部32側の端部外周に突起36Cがない構造のものである場合には、止めねじ部材22を緩めて第1の部材10と第2の部材30とを分解し、嵌合軸部32の側から、駆動側ディスク部材50と被動側ディスク部材52とを取り外すことにより、六角形軸部36Aを外部に露呈させるができる。
【0052】
次に、本発明によるボルトの一つの実施形態を、図7を参照して説明する。なお、図7において、図4に対応する部分は、図4に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0053】
この実施形態では、第2の部材30が中実軸体によって構成され、雌ねじ部42に代えて、ボルト70をなす締結用ねじ部として、第2の部材30の先端部に雄ねじ部72が形成されている。このこと以外は、前述のナット1と同じ構造である。
【0054】
この実施形態のボルト70は、前述のナット1と同等に作用し、同等の効果を奏する。
【0055】
以上、本発明を、その好適な実施形態について説明したが、当業者であれば容易に理解できるように、本発明はこのような実施形態により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0056】
例えば、工具係合部は、六角柱状のものに限られることなく、四角柱状等、他の多角柱状であっても、多角形孔であってもよい。
【0057】
また、薄板54は駆動側ディスク部材50の両面あるいは駆動側ディスク部材50および被動側ディスク部材52の両面に配置されていても、駆動側ディスク部材50と被動側ディスク部材52とが互いに接触する少なくとも一方の面に、駆動側ディスク部材50および被動側ディスク部材52を構成する材料より耐腐食性が高い材料による被膜層が形成されていてもよい。なお、これらのことは必須ではない。
【0058】
また、第1の部材10と第2の部材30とを連結する止めねじ部材22は、1個に限られることはなく、周方向に等間隔に複数個設けられていてもよい。スプリングピン28に代えて中実あるいは筒状の棒状部材が用いられてもよい。板ばね58に代えて圧縮コイルばねやゴム状弾性部材が用いられてもよい。
【0059】
第1の部材10と第2の部材30とを分解する必要がない場合には、止めねじ部材22に代えてスプリングピン等のピン部材によって第1の部材10と第2の部材30とが相対回転可能に連結されてもよい。また、突起36Cが省略され、突起36Cに代えてスナップリング等が着脱可能に装着されていてもよい。
【0060】
また、上記実施形態に示した構成要素は必ずしも全てが必須なものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 第1の部材
14 工具係合部
16 中心嵌合孔
18 端面部
20 ねじ孔
22 止めねじ部材
28 スプリングピン(棒状部材)
30 第2の部材
32 嵌合軸部
34 周溝
36 ディスク支持軸部
36A 六角形軸部
36B 部分円周面
38 ねじ形成軸部
40 雄ねじ部
42 雌ねじ部
50 駆動側ディスク部材
50C 貫通孔
52 被動側ディスク部材
54 薄板
56 プレッシャプレート
58 板ばね
62 ばね受け部材
66 スリット
68 締め付けねじ
70 ボルト
72 雄ねじ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7