特許第6243794号(P6243794)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6243794遊星ローラ減速機並びにこれを用いたエレベーター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243794
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】遊星ローラ減速機並びにこれを用いたエレベーター
(51)【国際特許分類】
   F16H 13/08 20060101AFI20171127BHJP
   B66B 11/08 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   F16H13/08 D
   B66B11/08 E
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-100041(P2014-100041)
(22)【出願日】2014年5月14日
(65)【公開番号】特開2015-218738(P2015-218738A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】堂薗 美礼
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−052666(JP,A)
【文献】 特開平10−252853(JP,A)
【文献】 実開平02−087157(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 13/08
B66B 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸から出力軸に回転速度を減速して回転運動を伝達する機構を有し、
前記入力軸に接続された太陽ローラと、
前記出力軸に接続されたアウターローラと、
前記太陽ローラの周りに配置された複数個の遊星ローラと、
ケーシングと、
蓋と、を備え、
前記アウターローラは、前記太陽ローラ及び前記複数個の遊星ローラを収納し、
前記太陽ローラ、前記アウターローラ及び前記複数個の遊星ローラは、前記ケーシングと前記蓋とで形成された空間に収納された遊星ローラ減速機において、
前記複数個の遊星ローラはそれぞれ、一方の端部に支持部材を固定した回転軸を有し、前記回転軸の周りに回転可能に配置され、
前記支持部材は、前記蓋に固定され、前記遊星ローラの中心軸と直交し、かつ、前記遊星ローラの中心軸から前記太陽ローラの中心軸に向かう第1の方向の剛性が、前記遊星ローラの中心軸及び前記第1の方向に直交する第2の方向の剛性よりも小さいことを特徴とする遊星ローラ減速機。
【請求項2】
さらに、座金と、弾性体と、を含み、
前記弾性体は、前記座金と前記蓋との間に配置され、前記座金を介して前記遊星ローラを前記太陽ローラ及び前記アウターローラに押圧することを特徴とする請求項1記載の遊星ローラ減速機。
【請求項3】
前記太陽ローラは、前記入力軸から前記出力軸に向かって径が単調増加する円錐台形状をなし、
前記アウターローラの内面は、前記入力軸から前記出力軸に向かって径が単調減少する円錐台形状をなし、
前記遊星ローラは、前記入力軸から前記出力軸に向かって径が単調減少する円錐台形状をなすことを特徴とする請求項1又は2に記載の遊星ローラ減速機。
【請求項4】
前記支持部材は板ばねであって、
前記板ばねは、前記板ばねの厚さ方向が前記第1の方向に一致するように配置されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の遊星ローラ減速機。
【請求項5】
前記板ばねは、前記蓋に固定される端部に雄ねじを備え、
前記蓋は、前記雄ねじが貫通する貫通孔と、前記板ばねの側端部と噛合する溝とを備えることを特徴とする請求項4記載の遊星ローラ減速機。
【請求項6】
前記板ばねは、前記蓋に固定される端部に複数の雌ねじを有する円盤を備え、
前記蓋は、前記雌ねじに締結されるボルトを貫通させる貫通孔を備えることを特徴とする請求項4記載の遊星ローラ減速機。
【請求項7】
前記支持部材は同一形状の複数本の棒で構成され、
前記複数本の棒は、前記第2の方向に沿って配置されるとともに、前記蓋に固定される一端に複数の雌ねじを有する円盤を備え、
前記蓋は、前記雌ねじに締結されるボルトを貫通させる貫通孔を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の遊星ローラ減速機。
【請求項8】
前記弾性体は中心に穴を有する皿ばねであって、
前記支持部材が、前記皿ばねの穴を貫通したことを特徴とする請求項2記載の遊星ローラ減速機。
【請求項9】
乗客が搭乗する乗りかごと、
前記乗りかごとロープを介して接続された釣り合い錘と、
前記ロープを駆動するための巻上機とを備え、
前記巻上機は、前記ロープを巻き掛ける部位であるシーブと、
前記ロープを駆動するための駆動力を生成するモータと、
前記シーブと前記モータとの間に配置され、前記モータの回転を減速させ、前記シーブに伝達する減速機とを備え、
前記減速機は、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の遊星ローラ減速機であることを特徴とするエレベーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星ローラ減速機並びにこれを用いたエレベーターに関する。
【背景技術】
【0002】
減速機の方式は多数実用化されている。そのうち、遊星歯車減速機は大きな減速比を実現可能である。しかし、他の歯車式減速機と同様に、歯のかみ合いで生じる振動や騒音、あるいは、バックラッシが問題となる場合がある。そのため、力の伝達を歯車ではなく、摩擦車(ローラ)で行う、所謂、遊星ローラ減速機が、例えば特許文献1(特開2012−193793号公報)に開示されているように、既に提案されている。
【0003】
特許文献1でも課題に挙げているように、摩擦車を用いる場合には摩擦面の磨耗によって摩擦車同士の接触力が低下し、力の伝達ができなくなる可能性がある。このような課題に対し、特許文献1には、中間ローラを、それぞれがこれら各中間ローラの軸方向片半部を構成する、1対ずつの中間ローラ素子により構成すると共に、これら各中間ローラ毎に1対ずつの中間ローラ素子同士の間に弾性部材を挟持して、各中間ローラに軸方向寸法を増大させる方向の弾力を付与し、前記各ローラの周面同士の転がり接触部の面圧を確保する為の予圧を付与している事を特徴とする摩擦ローラ式減速機が開示されている。さらに、特許文献1には、太陽ローラと環状ローラ(アウターローラ)の回転数が異なることから両者の磨耗量に差が生じるため、端板34,36に支持されたガイドブロック37に太陽ローラの回転軸の半径方向の溝(ガイド長孔)を設け、この溝の内側に沿って遊星ローラの回転軸を太陽ローラ側へ案内し、太陽ローラが磨耗した場合であっても、太陽ローラと遊星ローラの接触を確保する構造としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012‐193793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示された遊星ローラ減速機では、遊星ローラの回転軸を、ガイドブロック37に設けられた溝(ガイド長孔38)に沿って案内させるため、遊星ローラ(中間ローラ19)の回転軸(自転軸20)と溝との間に、太陽ローラの回転軸に向かって伸びる隙間が必要である。このように遊星ローラを移動させるための隙間があるため、入力軸である太陽ローラの回転方向が反転するとき、遊星ローラの回転軸は隙間を無くすように太陽ローラの周りを移動し、太陽ローラの回転が環状ローラ(アウターローラ)に伝達されない、すなわち、歯車式減速機におけるバックラッシに相当する現象が発生する可能性がある。
【0006】
さらに、特許文献1に開示されている遊星ローラ減速機では、摩擦車同士の接触面の材質のばらつきによる磨耗量の差や、加工誤差による寸法差があると、遊星ローラの回転軸が傾いて環状ローラ(アウターローラ)に力を伝達できなくなる可能性がある。この現象を以下に説明する。
【0007】
太陽ローラと遊星ローラ及び遊星ローラとアウターローラが接触するとき、太陽ローラの回転軸と遊星ローラの回転軸との距離は、太陽ローラの外径とアウターローラの内径の平均値となる。したがって、特許文献1のように、太陽ローラ、遊星ローラ及びアウターローラとも特許文献1に記載されているような接触面を備えている場合、摩耗量の差及び加工誤差によって、分割された遊星ローラの上記距離が互いに異なる可能性がある。このとき、遊星ローラの回転軸は太陽ローラの回転軸と非平行となり、遊星ローラは太陽ローラ及びアウターローラとの接触面が減少し、点接触するようになる。その結果、伝達可能な力が低減する。
【0008】
そして、エレベーターでは、バックラッシに相当する現象は乗り心地の低下を引き起こし、伝達可能な力の低減は乗客が搭乗する乗りかごの異常走行を引き起こす可能性がある。この事象を以下で説明する。
【0009】
通常のエレベーターは、一端に乗りかごが、他端に釣り合い錘が接続されたロープを巻上機が駆動して乗りかごを昇降させる、所謂、つるべ式の駆動方式である。釣り合い錘の質量は、乗りかごの質量と定員の約半分の質量との和になるように設定されている。したがって、乗客が少ないときは乗りかご側よりも釣り合い錘側が重いので、乗りかごの位置を保持する場合、巻上機は釣り合い錘を持ち上げる方向の力を出力する必要がある。一方、乗客が満員に近いときは乗りかご側よりも釣り合い錘側が軽いので、乗りかごの位置を保持する場合、巻上機は乗りかごを持ち上げる方向の力を出力する必要がある。したがって、巻上機に適用されている遊星ローラ減速機にバックラッシに相当する現象が生じると、乗客の乗降によって乗りかごと釣り合い錘とのバランスが変わり、巻上機に要求される力の向きが反転したときに、乗りかごが瞬間的にバックラッシに相当する距離だけ移動する可能性がある。また、伝達可能な力が低減する場合、巻上機に要求される力を出力できなくなり、乗りかごの位置を制御できなくなる可能性がある。
【0010】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、遊星ローラ減速機において、バックラッシの防止及びローラの摩耗による伝達力の減少を防止することが可能な遊星ローラ減速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、
入力軸から出力軸に回転速度を減速して回転運動を伝達する機構を有し、
前記入力軸に接続された太陽ローラと、
前記出力軸に接続されたアウターローラと、
前記太陽ローラの周りに配置された複数個の遊星ローラと、
ケーシングと、
蓋と、を備え、
前記アウターローラは、前記太陽ローラ及び前記複数個の遊星ローラを収納し、
前記太陽ローラ、前記アウターローラ及び前記複数個の遊星ローラは、前記ケーシングと前記蓋とで形成された空間に収納された遊星ローラ減速機において、
前記複数個の遊星ローラはそれぞれ、一方の端部に支持部材を固定した回転軸を有し、前記回転軸の周りに回転可能に配置され、
前記支持部材は、前記蓋に固定され、前記遊星ローラの中心軸と直交し、かつ、前記遊星ローラの中心軸から前記太陽ローラの中心軸に向かう第1の方向の剛性が、前記遊星ローラの中心軸及び前記第1の方向に直交する第2の方向の剛性よりも小さいことを特徴とする遊星ローラ減速機を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る遊星ローラ減速機は、上記構成により、遊星ローラが太陽ローラの周りを移動しないので、バックラッシが防止される。また、遊星ローラはその回転軸を太陽ローラの回転軸と平行としたまま、太陽ローラの摩擦面の磨耗量に追従して太陽ローラに接触するよう移動可能なので、磨耗による伝達力の減少が防止される。
【0013】
そして、本発明に係る遊星ローラ減速機を巻上機に適用したエレベーターは、乗客の乗り心地の向上及び乗客の乗降に伴う乗りかごの異常走行を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る遊星ローラ減速機の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2図1のA−A断面図である。
図3】本発明に係る遊星ローラ減速機に用いられる支持部材の第一の態様を示す模式図である。
図4A図3に示した支持部材を用いる場合の、遊星ローラ減速機の蓋の側面の一部を示す模式図である。
図4B図4Aに示した蓋に、図3に示した支持部材を固定した状態を示す模式図である。
図5】本発明に係る遊星ローラ減速機に用いられる支持部材の第二の態様を示す模式図である。
図6A図5に示した支持部材を用いる場合の、遊星ローラ減速機の蓋の側面の一部を示す模式図である。
図6B図6Aに示した蓋に、図5に示した支持部材を固定した状態を示す模式図である。
図7】本発明に係る遊星ローラ減速機に用いられる支持部材の第三の態様を示す模式図である。
図8図1において、太陽ローラの摩擦面が磨耗したときの状態を模式的に示す断面図である。
図9】本発明に係る遊星ローラ減速機を用いたエレベーターの一実施形態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る遊星ローラ減速機の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施の形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明に係る遊星ローラ減速機の一実施形態を模式的に示す断面図であり、図2図1のA−A断面図である。図1及び図2に示したように、本発明に係る遊星ローラ減速機100は、入力軸1と、出力軸3と、入力軸1に固定された太陽ローラ2と、出力軸3に固定されたアウターローラ4と、太陽ローラ2の周りに配置された複数個の遊星ローラ5とを備える。入力軸1、出力軸3、太陽ローラ2及びアウターローラ4は同一の回転軸の周りを回転する。また、複数個の遊星ローラ5は、回転軸6の周りに回転可能に、太陽ローラ2の周りに配置されている。
【0017】
図1には図示していないが、入力軸1は外部の回転体に接続され、出力軸3は外部の別の回転体に接続される。外部の回転体により入力軸1が回転させられると、太陽ローラ2も同一の回転数で回転する。遊星ローラ5は太陽ローラ2との接触面での摩擦力によって回転させられ、両者の接触面の速度はほぼ同一となる。同様に、アウターローラ4は遊星ローラ5との接触面での摩擦力によって回転させられ、両者の接触面の速度はほぼ同一となる。このとき、太陽ローラ2の接触面(円錐台形状)の外径はアウターローラ4の接触面(円錐台形状)の内径よりも小さいので、アウターローラ4の回転数は太陽ローラ2の回転数よりも小さくなる。出力軸3はアウターローラ4と同一の回転数で回転するので、遊星ローラ減速機100は、入力軸1から出力軸3に回転速度を減速して回転運動を伝達する機構を有している。
【0018】
アウターローラ4は、その内面が複数個の遊星ローラ5に接触するように太陽ローラ2及び複数個の遊星ローラ5を収納する形状(図1に示したようなカップ形状)を有する。そして、入力軸1及び出力軸3の一部、太陽ローラ2、アウターローラ4及び複数個の遊星ローラ5は、ケーシング11と蓋8とで形成された空間に収納される。ケーシング11及び蓋8は、ボルト12で密閉可能に構成されている。
【0019】
太陽ローラ2、アウターローラ4及び遊星ローラ5の回転機構について、より詳細に説明する。第1の球13は、アウターローラ4とケーシング11との間に、太陽ローラ2の中心軸と同心の円周上に複数個配置されている。同様に、第2の球14は、太陽ローラ2とアウターローラ4との間に、太陽ローラ2の中心軸と同心の円周上に複数個配置されている。太陽ローラ2とアウターローラ4は、それぞれ上述した第1の球13及び第2の球14によってケーシング11に対して太陽ローラ2の中心軸周りの回転が可能に支持されている。また、第3の球15は、遊星ローラ5と回転軸6との間に回転軸6の中心軸と同心の円周上に複数個配置され、遊星ローラ5を回転軸6の周りに回転可能に支持している。第4の球16は、遊星ローラ5と後述する座金(リング)9との間に配置され、後述する弾性体(皿ばね)10による推力を遊星ローラ5に伝達するとともに、遊星ローラ5が回転軸6の周りに回転可能に弾性体10及び座金9を支持している。
【0020】
次に、支持部材7について説明する。支持部材7は、一方の端部が遊星ローラ5の回転軸6に固定されており、もう一方の端部が蓋8に固定されている。本発明に係る支持部材7は、遊星ローラ5の中心軸と直交し、かつ、この遊星ローラの中心軸から太陽ローラ2の中心軸に向かう方向である第1の方向(図2中のx方向)の剛性が、遊星ローラ5の中心軸及び第1の方向に直交する第2の方向(図2中のy方向)の剛性よりも小さいことを特徴とする。支持部材7の剛性がこのように異方性を有することで、太陽ローラ2が磨耗した際に、支持部材7がその磨耗に追従して遊星ローラ5を太陽ローラ2に向かって移動可能とし、遊星ローラ5を太陽ローラ2に接触させることができる。このような剛性の異方性を実現する手段として、支持部材7として板ばねのような板状の弾性体を用いることが好ましい。板ばねは厚さ方向の剛性が幅方向の剛性よりも小さいので、板ばねを、板ばねの厚さ方向が前述した第1の方向に一致させるように配置することで、第1の方向の剛性よりも第2の方向の剛性が小さくなる。
【0021】
支持部材7の具体的な形状について説明する。図3は本発明に係る遊星ローラ減速機に用いられる支持部材の第一の態様を示す模式図である。また、図4A図3に示した支持部材を用いる場合の、遊星ローラ減速機の蓋の側面の一部を示す模式図であり、図4B図4Aに示した蓋に、図3に示した支持部材を固定した状態を示す模式図である。図3に示したように、板ばね7は、一方の端部がストッパ17を介して遊星ローラ5の回転軸6に固定されており、もう一方の端部に雄ねじ18を備える。このような支持部材を用いる場合、図4A及び4Bに示したように、蓋8は、雄ねじ18が貫通する貫通孔41を備え、板ばね7の側端部42を噛合する溝40を備える。雄ねじ18が蓋8を貫通しているので、ボルト12で蓋8を固定後、ナットによって雄ねじ18を蓋8に固定可能となる。
【0022】
支持部材7の別の形状について説明する。図5は本発明に係る遊星ローラ減速機に用いられる支持部材の第二の態様を示す模式図である。また、図6A図5に示した支持部材を用いる場合の、遊星ローラ減速機の蓋の側面の一部を示す模式図であり、図6B図6Aに示した蓋に、図5に示した支持部材を固定した状態を示す模式図である。図5に示したように、板ばね7は、一方の端部がストッパ17を介して遊星ローラ5の回転軸6に固定されており、もう一方の端部に複数の雌ねじ19を有する円盤20を備える。このような支持部材を用いる場合、図6A及び6Bに示したように、蓋8に上述した雌ねじ19に締結されるボルト51を貫通させるボルト貫通孔50を設けることで、ボルト51を介して支持部材7を蓋8に固定することができる。この構造では、円盤20が雌ねじ19を有しているので、蓋8に溝を設ける必要がなく、製作性が向上する。
【0023】
支持部材7の別の形状について説明する。図7は本発明に係る遊星ローラ減速機に用いられる支持部材の第三の態様を示す模式図である。図7に示したように、支持部材7は、一方の端部がストッパ17を介して遊星ローラ5の回転軸6に固定されており、もう一方の端部に複数本(図7では2本)の棒(連結棒)21を備え、蓋8に固定される一端に複数の雌ねじ19を有する円盤20を備える。このように支持部材7を複数本の棒21で構成した場合、複数本の棒21を結ぶ方向と直交する方向が、上述した第1の方向と一致するように支持部材7を配置することで、第1の方向の剛性よりも第2の方向の剛性が小さくなる。なお、蓋8の取り付け方については、第二の態様と同様である。この構造では、棒21の本数を調整することで、第1の方向の剛性と第2の方向の剛性との比率を段階的に調整することができる。
【0024】
次に、弾性体10及び座金(リング)9について説明する。本発明に係る遊星ローラ減速機100は、遊星ローラ5と蓋8の間に弾性体10及び座金9を有することが好ましい。弾性体10は、座金9を介して遊星ローラ5を押圧する。図1では、遊星ローラ5を紙面下方向に押圧する。弾性体10の形状は、遊星ローラ5を押圧できるものであれば特に限定は無いが、皿ばねが好適である。中心に穴を有する皿ばねを用いる場合、前述した支持部材7を皿ばねの穴に貫通させて配置することが好ましい。
【0025】
太陽ローラ2、アウターローラ4の内面及び遊星ローラ5の好ましい形状について説明する。図1に示したように、太陽ローラ2は、入力軸1から出力軸3に向かって径が単調増加する円錐台形状をなし、アウターローラ4の内面は、入力軸1から出力軸3に向かって径が単調減少する円錐台形状をなし、遊星ローラ5は、入力軸1から出力軸3に向かって径が単調減少する円錐台形状をなすことが好ましい。
【0026】
図8図1において、太陽ローラ2の摩擦面が磨耗したときの状態を模式的に示す断面図である。以下、図8を用いて本発明の作用効果を説明する。遊星ローラ5は皿ばね10によって太陽ローラ2及びアウターローラ4に押圧され、入力軸1にトルクが負荷されるとこれらの押付け面で摩擦力が生じる。その結果、押付け面が磨耗する。そのため、太陽ローラ2、アウターローラ4及び遊星ローラ5が図1及び図8に示した形状の場合、皿ばね10の推力によってリング9、遊星ローラ5は蓋8から遠ざかる方向(図8中の矢印方向)に移動する。
【0027】
このとき、太陽ローラ2の外径はアウターローラ4の内径より小さいため、太陽ローラ2の方がアウターローラ4よりも回転数が高く、両者の材質が同一であれば太陽ローラ2の方が大きな磨耗量となる。その結果、遊星ローラ5と接している太陽ローラ2の接触面から遊星ローラ5と接しているアウターローラ4の接触面までの中間位置は、磨耗前の状態よりも太陽ローラ2に近づく。すなわち、回転軸6は初期の状態よりも太陽ローラ2に近づく。この変位に追従するように支持部材7は変形するため、太陽ローラ2が磨耗しても、太陽ローラ2と遊星ローラ5との接触面は確保され、バックラッシを防止することができる。
【0028】
皿ばね10は、接触面で力を伝達するため、リング9を介して遊星ローラ5を十分に大きな推力で押圧する。支持部材7の変形に対する反力よりも十分大きくなるようにこの推力を設定することで、遊星ローラ5は太陽ローラ2及びアウターローラ4の側面に沿うように、接触面を確保しながら変位するので、伝達力の減少が防止される。
【0029】
以上説明したように、本発明に係る遊星ローラ減速機100において、歯車式減速機におけるバックラッシに相当する現象が防止されるとともに、接触面の磨耗によって伝達可能な力が減少するのが防止される。
【0030】
次に、この遊星ローラ減速機の組み立て工程について説明する。第1工程では、図1の向きにケーシング11を設置してから、第1の球13、アウターローラ4、第2の球14、太陽ローラ2をこの順でケーシング11の中に配置する。第2工程では、遊星ローラ5、一端に支持部7を固定した回転軸6及び第3の球15を組み合わせたものを太陽ローラ2とアウターローラ4の間に配置する。第3工程では、遊星ローラ5の上に第4の球16、リング9、皿ばね10をこの順に配置し、支持部7を蓋8に固定するとともに、蓋8をケーシング11にボルト12で固定する。このとき、第2工程で回転軸6が落下しないように、回転軸6よりも外径が大きいストッパ17が回転軸6と支持部7の間に設けられている(図3、5及び7)。
【0031】
なお、図1に示した各構物品の材質については特に限定は無く、ステンレス等、遊星ローラ減速機に適用される公知の材料を用いることができる。
【実施例2】
【0032】
図9は、本発明に係る遊星ローラ減速機を用いたエレベーターの一実施形態を模式的に示す図である。図9に示したように、本発明に係るエレベーターは、乗客が搭乗する部分である乗りかご22と、乗りかご22とロープ24を介して接続され、乗りかご22と質量バランスをとるための釣り合い錘23と、ロープ24を駆動するための巻上機25とを備えている。巻上機25は、ロープ24を巻き掛ける部位であるシーブ26と、ロープ24を駆動するための駆動力を生成するモータ28と、シーブ26及びモータ28の間に配置され、モータ28の回転を減速させ、シーブ28に伝える減速機27とを備える。モータ28の回転が減速機27で減速された上でシーブ26に伝達される。減速機27として、上述した本発明に係る遊星ローラ減速機を用いる。
【0033】
本発明に係る遊星ローラ減速機を適用したエレベーターは、シーブ26の回転とモータ28の回転とがバックラッシの様な現象を生じることなく、一意に対応するため、乗りかご22の位置を制御でき、異常な走行、あるいは、乗り心地低下を引き起こすバックラッシ相当の移動を抑制可能となる。
【0034】
なお、図9に示した構成のように、巻上機に25に減速機27を用いると、減速機27を用いずにモータ28がシーブ26を直接駆動する場合と比較して、モータ28に要求されるトルクが低減され、ゆえに、モータ28の小型化が可能となる。
【0035】
以上説明したように、本発明に係る遊星ローラ減速機によれば、バックラッシの防止及びローラの摩耗による伝達力の減少を防止することが可能な遊星ローラ減速機を提供できることが示された。また、本発明に係る遊星ローラ減速機をエレベーターに適用することで、乗客の乗り心地の向上及び乗客の乗降に伴う乗りかごの異常走行を防止することができるエレベーターを提供可能であることが示された。
【0036】
なお、上述した実施形態や実施例は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…入力軸、2…太陽ローラ、3…出力軸、4…アウターローラ、5…遊星ローラ、6…遊星ローラの回転軸、7,21…支持部材、8…蓋、9…リング、10…弾性体、11…ケーシング、12,51…ボルト、13…第1の球、14…第2の球、15…第3の球、16…第4の球、17…ストッパ、18…雄ねじ、19…雌ねじ、20…円盤、40…溝、41…雄ねじ貫通孔、42…支持部材の側端部、50…ボルト貫通孔、51…ボルト、100,100´…遊星ローラ減速機。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9