【実施例1】
【0016】
図1は本発明に係る遊星ローラ減速機の一実施形態を模式的に示す断面図であり、
図2は
図1のA−A断面図である。
図1及び
図2に示したように、本発明に係る遊星ローラ減速機100は、入力軸1と、出力軸3と、入力軸1に固定された太陽ローラ2と、出力軸3に固定されたアウターローラ4と、太陽ローラ2の周りに配置された複数個の遊星ローラ5とを備える。入力軸1、出力軸3、太陽ローラ2及びアウターローラ4は同一の回転軸の周りを回転する。また、複数個の遊星ローラ5は、回転軸6の周りに回転可能に、太陽ローラ2の周りに配置されている。
【0017】
図1には図示していないが、入力軸1は外部の回転体に接続され、出力軸3は外部の別の回転体に接続される。外部の回転体により入力軸1が回転させられると、太陽ローラ2も同一の回転数で回転する。遊星ローラ5は太陽ローラ2との接触面での摩擦力によって回転させられ、両者の接触面の速度はほぼ同一となる。同様に、アウターローラ4は遊星ローラ5との接触面での摩擦力によって回転させられ、両者の接触面の速度はほぼ同一となる。このとき、太陽ローラ2の接触面(円錐台形状)の外径はアウターローラ4の接触面(円錐台形状)の内径よりも小さいので、アウターローラ4の回転数は太陽ローラ2の回転数よりも小さくなる。出力軸3はアウターローラ4と同一の回転数で回転するので、遊星ローラ減速機100は、入力軸1から出力軸3に回転速度を減速して回転運動を伝達する機構を有している。
【0018】
アウターローラ4は、その内面が複数個の遊星ローラ5に接触するように太陽ローラ2及び複数個の遊星ローラ5を収納する形状(
図1に示したようなカップ形状)を有する。そして、入力軸1及び出力軸3の一部、太陽ローラ2、アウターローラ4及び複数個の遊星ローラ5は、ケーシング11と蓋8とで形成された空間に収納される。ケーシング11及び蓋8は、ボルト12で密閉可能に構成されている。
【0019】
太陽ローラ2、アウターローラ4及び遊星ローラ5の回転機構について、より詳細に説明する。第1の球13は、アウターローラ4とケーシング11との間に、太陽ローラ2の中心軸と同心の円周上に複数個配置されている。同様に、第2の球14は、太陽ローラ2とアウターローラ4との間に、太陽ローラ2の中心軸と同心の円周上に複数個配置されている。太陽ローラ2とアウターローラ4は、それぞれ上述した第1の球13及び第2の球14によってケーシング11に対して太陽ローラ2の中心軸周りの回転が可能に支持されている。また、第3の球15は、遊星ローラ5と回転軸6との間に回転軸6の中心軸と同心の円周上に複数個配置され、遊星ローラ5を回転軸6の周りに回転可能に支持している。第4の球16は、遊星ローラ5と後述する座金(リング)9との間に配置され、後述する弾性体(皿ばね)10による推力を遊星ローラ5に伝達するとともに、遊星ローラ5が回転軸6の周りに回転可能に弾性体10及び座金9を支持している。
【0020】
次に、支持部材7について説明する。支持部材7は、一方の端部が遊星ローラ5の回転軸6に固定されており、もう一方の端部が蓋8に固定されている。本発明に係る支持部材7は、遊星ローラ5の中心軸と直交し、かつ、この遊星ローラの中心軸から太陽ローラ2の中心軸に向かう方向である第1の方向(
図2中のx方向)の剛性が、遊星ローラ5の中心軸及び第1の方向に直交する第2の方向(
図2中のy方向)の剛性よりも小さいことを特徴とする。支持部材7の剛性がこのように異方性を有することで、太陽ローラ2が磨耗した際に、支持部材7がその磨耗に追従して遊星ローラ5を太陽ローラ2に向かって移動可能とし、遊星ローラ5を太陽ローラ2に接触させることができる。このような剛性の異方性を実現する手段として、支持部材7として板ばねのような板状の弾性体を用いることが好ましい。板ばねは厚さ方向の剛性が幅方向の剛性よりも小さいので、板ばねを、板ばねの厚さ方向が前述した第1の方向に一致させるように配置することで、第1の方向の剛性よりも第2の方向の剛性が小さくなる。
【0021】
支持部材7の具体的な形状について説明する。
図3は本発明に係る遊星ローラ減速機に用いられる支持部材の第一の態様を示す模式図である。また、
図4Aは
図3に示した支持部材を用いる場合の、遊星ローラ減速機の蓋の側面の一部を示す模式図であり、
図4Bは
図4Aに示した蓋に、
図3に示した支持部材を固定した状態を示す模式図である。
図3に示したように、板ばね7は、一方の端部がストッパ17を介して遊星ローラ5の回転軸6に固定されており、もう一方の端部に雄ねじ18を備える。このような支持部材を用いる場合、
図4A及び4Bに示したように、蓋8は、雄ねじ18が貫通する貫通孔41を備え、板ばね7の側端部42を噛合する溝40を備える。雄ねじ18が蓋8を貫通しているので、ボルト12で蓋8を固定後、ナットによって雄ねじ18を蓋8に固定可能となる。
【0022】
支持部材7の別の形状について説明する。
図5は本発明に係る遊星ローラ減速機に用いられる支持部材の第二の態様を示す模式図である。また、
図6Aは
図5に示した支持部材を用いる場合の、遊星ローラ減速機の蓋の側面の一部を示す模式図であり、
図6Bは
図6Aに示した蓋に、
図5に示した支持部材を固定した状態を示す模式図である。
図5に示したように、板ばね7は、一方の端部がストッパ17を介して遊星ローラ5の回転軸6に固定されており、もう一方の端部に複数の雌ねじ19を有する円盤20を備える。このような支持部材を用いる場合、
図6A及び6Bに示したように、蓋8に上述した雌ねじ19に締結されるボルト51を貫通させるボルト貫通孔50を設けることで、ボルト51を介して支持部材7を蓋8に固定することができる。この構造では、円盤20が雌ねじ19を有しているので、蓋8に溝を設ける必要がなく、製作性が向上する。
【0023】
支持部材7の別の形状について説明する。
図7は本発明に係る遊星ローラ減速機に用いられる支持部材の第三の態様を示す模式図である。
図7に示したように、支持部材7は、一方の端部がストッパ17を介して遊星ローラ5の回転軸6に固定されており、もう一方の端部に複数本(
図7では2本)の棒(連結棒)21を備え、蓋8に固定される一端に複数の雌ねじ19を有する円盤20を備える。このように支持部材7を複数本の棒21で構成した場合、複数本の棒21を結ぶ方向と直交する方向が、上述した第1の方向と一致するように支持部材7を配置することで、第1の方向の剛性よりも第2の方向の剛性が小さくなる。なお、蓋8の取り付け方については、第二の態様と同様である。この構造では、棒21の本数を調整することで、第1の方向の剛性と第2の方向の剛性との比率を段階的に調整することができる。
【0024】
次に、弾性体10及び座金(リング)9について説明する。本発明に係る遊星ローラ減速機100は、遊星ローラ5と蓋8の間に弾性体10及び座金9を有することが好ましい。弾性体10は、座金9を介して遊星ローラ5を押圧する。
図1では、遊星ローラ5を紙面下方向に押圧する。弾性体10の形状は、遊星ローラ5を押圧できるものであれば特に限定は無いが、皿ばねが好適である。中心に穴を有する皿ばねを用いる場合、前述した支持部材7を皿ばねの穴に貫通させて配置することが好ましい。
【0025】
太陽ローラ2、アウターローラ4の内面及び遊星ローラ5の好ましい形状について説明する。
図1に示したように、太陽ローラ2は、入力軸1から出力軸3に向かって径が単調増加する円錐台形状をなし、アウターローラ4の内面は、入力軸1から出力軸3に向かって径が単調減少する円錐台形状をなし、遊星ローラ5は、入力軸1から出力軸3に向かって径が単調減少する円錐台形状をなすことが好ましい。
【0026】
図8は
図1において、太陽ローラ2の摩擦面が磨耗したときの状態を模式的に示す断面図である。以下、
図8を用いて本発明の作用効果を説明する。遊星ローラ5は皿ばね10によって太陽ローラ2及びアウターローラ4に押圧され、入力軸1にトルクが負荷されるとこれらの押付け面で摩擦力が生じる。その結果、押付け面が磨耗する。そのため、太陽ローラ2、アウターローラ4及び遊星ローラ5が
図1及び
図8に示した形状の場合、皿ばね10の推力によってリング9、遊星ローラ5は蓋8から遠ざかる方向(
図8中の矢印方向)に移動する。
【0027】
このとき、太陽ローラ2の外径はアウターローラ4の内径より小さいため、太陽ローラ2の方がアウターローラ4よりも回転数が高く、両者の材質が同一であれば太陽ローラ2の方が大きな磨耗量となる。その結果、遊星ローラ5と接している太陽ローラ2の接触面から遊星ローラ5と接しているアウターローラ4の接触面までの中間位置は、磨耗前の状態よりも太陽ローラ2に近づく。すなわち、回転軸6は初期の状態よりも太陽ローラ2に近づく。この変位に追従するように支持部材7は変形するため、太陽ローラ2が磨耗しても、太陽ローラ2と遊星ローラ5との接触面は確保され、バックラッシを防止することができる。
【0028】
皿ばね10は、接触面で力を伝達するため、リング9を介して遊星ローラ5を十分に大きな推力で押圧する。支持部材7の変形に対する反力よりも十分大きくなるようにこの推力を設定することで、遊星ローラ5は太陽ローラ2及びアウターローラ4の側面に沿うように、接触面を確保しながら変位するので、伝達力の減少が防止される。
【0029】
以上説明したように、本発明に係る遊星ローラ減速機100において、歯車式減速機におけるバックラッシに相当する現象が防止されるとともに、接触面の磨耗によって伝達可能な力が減少するのが防止される。
【0030】
次に、この遊星ローラ減速機の組み立て工程について説明する。第1工程では、
図1の向きにケーシング11を設置してから、第1の球13、アウターローラ4、第2の球14、太陽ローラ2をこの順でケーシング11の中に配置する。第2工程では、遊星ローラ5、一端に支持部7を固定した回転軸6及び第3の球15を組み合わせたものを太陽ローラ2とアウターローラ4の間に配置する。第3工程では、遊星ローラ5の上に第4の球16、リング9、皿ばね10をこの順に配置し、支持部7を蓋8に固定するとともに、蓋8をケーシング11にボルト12で固定する。このとき、第2工程で回転軸6が落下しないように、回転軸6よりも外径が大きいストッパ17が回転軸6と支持部7の間に設けられている(
図3、5及び7)。
【0031】
なお、
図1に示した各構物品の材質については特に限定は無く、ステンレス等、遊星ローラ減速機に適用される公知の材料を用いることができる。
【実施例2】
【0032】
図9は、本発明に係る遊星ローラ減速機を用いたエレベーターの一実施形態を模式的に示す図である。
図9に示したように、本発明に係るエレベーターは、乗客が搭乗する部分である乗りかご22と、乗りかご22とロープ24を介して接続され、乗りかご22と質量バランスをとるための釣り合い錘23と、ロープ24を駆動するための巻上機25とを備えている。巻上機25は、ロープ24を巻き掛ける部位であるシーブ26と、ロープ24を駆動するための駆動力を生成するモータ28と、シーブ26及びモータ28の間に配置され、モータ28の回転を減速させ、シーブ28に伝える減速機27とを備える。モータ28の回転が減速機27で減速された上でシーブ26に伝達される。減速機27として、上述した本発明に係る遊星ローラ減速機を用いる。
【0033】
本発明に係る遊星ローラ減速機を適用したエレベーターは、シーブ26の回転とモータ28の回転とがバックラッシの様な現象を生じることなく、一意に対応するため、乗りかご22の位置を制御でき、異常な走行、あるいは、乗り心地低下を引き起こすバックラッシ相当の移動を抑制可能となる。
【0034】
なお、
図9に示した構成のように、巻上機に25に減速機27を用いると、減速機27を用いずにモータ28がシーブ26を直接駆動する場合と比較して、モータ28に要求されるトルクが低減され、ゆえに、モータ28の小型化が可能となる。
【0035】
以上説明したように、本発明に係る遊星ローラ減速機によれば、バックラッシの防止及びローラの摩耗による伝達力の減少を防止することが可能な遊星ローラ減速機を提供できることが示された。また、本発明に係る遊星ローラ減速機をエレベーターに適用することで、乗客の乗り心地の向上及び乗客の乗降に伴う乗りかごの異常走行を防止することができるエレベーターを提供可能であることが示された。
【0036】
なお、上述した実施形態や実施例は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。