(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記補正部は、前記ピーク値をPkとし、前記酸化物半導体における吸収係数および厚さをそれぞれαおよびdとした場合に、前記補正ピーク値Pkcを次式(1)から求めること
を特徴とする請求項1に記載の酸化物半導体評価装置。
Pkc=Pk/(1−exp(−αd)) ・・・(1)
【背景技術】
【0002】
インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)等を含む酸化物半導体は、電界効果移動度(移動度)が高いなど、優れた半導体特性を有している。このため、酸化物半導体をアクティブマトリクス型ディスプレイの駆動素子等に適用することが検討されている。特に、酸化物半導体は、低温で成膜でき、しかも光学バンドギャップが大きいことから、プラスチック基板やフィルム基板等に成膜することが可能であり、このことから、このような基板を使ったフレキシブルディスプレイや透明ディスプレイ等も検討されている。
【0003】
このような酸化物半導体の応用では、その仕様に応じて酸化物半導体の組成の組み合わせや含有量等を変更する必要があるが、最適な組み合わせを検討する際に、キャリア寿命(キャリアライフタイム)や移動度等の電気的特性を検査することが必要となる。
【0004】
そこで、このような酸化物半導体の電気的特性を求めるために、特許文献1には、その発明者における次の知見に基づき、マイクロ波光導電減衰法(μ−PCD法)を利用した酸化物半導体薄膜の評価方法が提案されている。
【0005】
前記特許文献1の発明者らは、(ア)酸化物半導体薄膜の移動度とライフタイム値に高い相関関係があること、(イ)酸化物半導体薄膜の移動度と反射率のピーク値に高い相関関係があることを見出した。そして、前記特許文献1の発明者らは、酸化物半導体薄膜が形成された試料に励起光およびマイクロ波を照射し、前記励起光の照射により変化する前記マイクロ波の前記酸化物半導体薄膜からの反射波の最大値を測定した後、前記励起光の照射を停止し、前記励起光の照射停止後の前記マイクロ波の前記酸化物半導体薄膜からの反射波の反射率の変化を測定し、前記測定した値からライフタイム値を算出することによって、前記酸化物半導体薄膜の移動度を判定する酸化物半導体薄膜の評価方法を提案している。また、前記特許文献1の発明者らは、酸化物半導体薄膜が形成された試料に励起光およびマイクロ波を照射し、前記励起光の照射により変化する前記マイクロ波の前記酸化物半導体薄膜からの反射波の最大値を測定することによって、前記酸化物半導体薄膜の移動度を判定する酸化物半導体薄膜の評価方法を提案している。
【0006】
なお、酸化物半導体薄膜試料に照射した励起光によって、酸化物半導体薄膜に吸収されて過剰キャリア(励起キャリア)を生成し、過剰キャリア密度が増加すると共にその消失速度が増え、キャリア注入速度と消失速度が等しくなった場合に過剰キャリア密度は、一定のピーク値となる。そして該過剰キャリアの生成と消滅の速度が等しくなると飽和して一定の値を維持するようになるが、励起光の照射を停止すると、過剰キャリアの再結合、消滅により、過剰キャリアが減少し、最終的には励起光照射前の値に戻ることが知られている。前記μ−PCD法は、このような現象に基づいてキャリア寿命を求めるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、本願発明者は、酸化物半導体の厚さを種々に変えてμ−PCD法を用いて酸化物半導体を評価していたところ、マイクロ波の反射率のピーク値が酸化物半導体の厚さに依存していることに気がついた。このため、前記特許文献1に開示された酸化物半導体薄膜の評価方法は、互いに同じ厚さである複数の酸化物半導体同士で評価でき、前記特許文献1に開示された酸化物半導体薄膜の評価方法には、その厚さを考慮する点で、改善の余地がある。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、酸化物半導体の厚さをさらに考慮することによって、前記酸化物半導体の移動度をより精度良く評価できる酸化物半導体評価装置および酸化物半導体評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる酸化物半導体評価装置は、所定波長の光を評価対象の酸化物半導体に照射する光照射部と、前記酸化物半導体に所定の測定波を照射する測定波照射部と、前記酸化物半導体で反射された前記測定波の反射波を測定する反射波測定部と、前記光照射部によって照射される光の進行方向に沿った方向における前記酸化物半導体の厚さを測定する厚さ測定部と、前記厚さ測定部で測定された前記酸化物半導体の厚さとに基づいて、前記反射波測定部で測定された前記反射波の強度を補正する処理部とを備えることを特徴とする。
【0011】
このような酸化物半導体評価装置では、評価対象の酸化物半導体における反射波の強度および厚さが測定され、この測定された厚さに基づいて反射波の強度が補正される。したがって、このような酸化物半導体評価装置は、酸化物半導体の移動度を反射波の強度に基づいて評価するのではなく、酸化物半導体の厚さをさらに考慮することによって酸化物半導体の移動度を評価するので、より精度良く酸化物半導体の移動度を評価できる。
【0012】
そして、上述の酸化物半導体評価装置において、前記反射波測定部は、前記反射波の反射率を測定し、前記処理部は、前記反射波測定部で測定された前記反射率のピーク値を求めるピーク演算部と、前記ピーク演算部で求めたピーク値を、前記厚さ測定部で測定された前記酸化物半導体の厚さで補正することによって補正ピーク値を求める補正部とを備える
。
【0013】
このような酸化物半導体評価装置は、移動度と相関関係にある反射率のピーク値を求め、この求めたピーク値を酸化物半導体の厚さで補正するので、より精度良く前記酸化物半導体の移動度を評価できる。
【0014】
また、他の一態様では、上述の酸化物半導体評価装置において、前記補正部は、前記ピーク値をPkとし、前記酸化物半導体における吸収係数および厚さをそれぞれαおよびdとした場合に、前記補正ピーク値Pkcを式(1);Pkc=Pk/(1−exp(−αd))から求めることを特徴とする。
【0015】
これによれば、前記式(1)を用いて補正ピーク値を求める酸化物半導体評価装置を提供できる。
【0016】
また、他の一態様では、上述の酸化物半導体評価装置において、前記厚さ測定部は、前記酸化物半導体における消衰係数kをさらに測定することを特徴とする。
【0017】
吸収係数は、他の手段によって既に求められている既存の値であってもよいが、このような酸化物半導体評価装置は、評価対象の酸化物半導体における消衰係数を測定し、この測定した消衰係数から式(2);α=4πk/λを用いて吸収係数を求める。このため、このような酸化物半導体評価装置は、評価対象自体の吸収係数を求めているので、評価対象自体の移動度をより精度良く評価できる。
【0018】
また、他の一態様では、これら上述の酸化物半導体評価装置において、前記処理部は、前記補正部で補正された補正ピーク値に基づいて前記酸化物半導体の移動度を評価する評価部をさらに備えることを特徴とする。
【0019】
これによれば、補正ピーク値に基づいて酸化物半導体の移動度を評価する酸化物半導体評価装置が提供できる。
【0020】
そして、本発明の他の一態様にかかる酸化物半導体評価方法は、所定波長の光を評価対象の酸化物半導体に照射する光照射工程と、前記酸化物半導体に所定の測定波を照射する測定波照射工程と、前記酸化物半導体で反射された前記測定波の反射波を測定する反射波測定工程と、前記光照射工程によって照射される光の進行方向に沿った方向における前記酸化物半導体の厚さを測定する厚さ測定工程と、前記厚さ測定工程で測定された前記酸化物半導体の厚さとに基づいて、前記反射波測定工程で測定された前記反射波の強度を補正する処理工程とを備え、前記反射波測定工程は、前記反射波の反射率を測定し、前記処理工程は、前記反射波測定工程で測定された前記反射率のピーク値を求めるピーク演算工程と、前記ピーク演算工程で求めたピーク値を、前記厚さ測定工程で測定された前記酸化物半導体の厚さで補正することによって補正ピーク値を求める補正工
程とを備えることを特徴とする。
【0021】
このような酸化物半導体評価方法では、評価対象の酸化物半導体における反射波の強度および厚さが測定され、この測定された厚さに基づいて反射波の強度が補正される。したがって、このような酸化物半導体評価方法は、酸化物半導体の移動度を反射波の強度に基づいて評価するのではなく、酸化物半導体の厚さをさらに考慮することによって酸化物半導体の移動度を評価するので、より精度良く酸化物半導体の移動度を評価できる。
このような酸化物半導体評価方法は、移動度と相関関係にある反射率のピーク値を求め、この求めたピーク値を酸化物半導体の厚さで補正するので、より精度良く前記酸化物半導体の移動度を評価できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかる酸化物半導体評価装置および酸化物半導体評価方法は、酸化物半導体の厚さをさらに考慮することによって、前記酸化物半導体の移動度をより精度良く評価できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0025】
図1は、実施形態における酸化物半導体評価装置の構成を示す図である。本実施形態における酸化物半導体評価装置は、マイクロ波光導電減衰法(μ−PCD法)を利用して評価対象の酸化物半導体における移動度を評価する装置であり、前記移動度を評価する際に、前記酸化物半導体の厚さを考慮するものである。このような実施形態における酸化物半導体評価装置Dは、例えば、
図1に示すように、光源部1と、測定波照射部2と、反射波測定部3と、厚さ測定部4と、制御処理部5とを備え、
図1に示す例では、さらに、入力部6と、出力部7と、インターフェース部(IF部)8と、記憶部9と、ステージコントローラ10と、移動ステージ11とを備える。
【0026】
光源部1は、制御処理部5に接続され、制御処理部5の制御に従って、所定波長の光を評価対象の酸化物半導体SPに照射する装置であり、光照射部の一例に相当する。光源部1は、例えばランプと波長フィルタとを備えた光源装置等であってもよいが、本実施形態では、比較的大きな出力が得られる、パルス状にレーザ光を発光するレーザ光源装置を備えて構成される。光源部1の前記所定波長は、例えば、評価対象の酸化物半導体におけるバンドギャップ以上のエネルギーを有するように、評価対象の酸化物半導体の種類に応じて適宜に選択される。例えば、酸化物半導体SPが、後述の一例である、インジウム、ガリウム、亜鉛および酸素から構成されるアモルファス半導体であるIZSOである場合では、光源部1の前記波長は、例えば349nmであることが好ましい。
【0027】
評価対象の酸化物半導体SPは、例えばガラス基板等の基板上に形成された酸化物半導体の薄膜である。酸化物半導体は、例えば、In、Ga、ZnおよびSnよりなる群から選択される少なくとも1種以上組み合わせを含むものであり、より具体的には、例えば、In酸化物、In−Sn酸化物、In−Zn酸化物、InSn−Zn酸化物、In−Ga酸化物、Zn−Ga酸化物、In−Ga−Zn酸化物、Zn酸化物が挙げられ、その一例では、上述のIZSOである。
【0028】
測定波照射部2は、制御処理部5に接続され、制御処理部5の制御に従って、酸化物半導体SPに所定の測定波を照射する装置である。より具体的には、測定波照射部2は、
図1に示すように、測定波生成部21と、サーキュレータ22と、導波管アンテナを含む導波管23(23−1〜23−3)とを備えて構成される。
【0029】
導波管23は、測定波やその反射波を導く伝播路を形成する部材であり、本実施形態では、第1ないし第3導波管23−1〜23−3を備える。本実施形態では、測定波がマイクロ波であることから、導波管23は、マイクロ波導波管である。
【0030】
測定波生成部21は、制御処理部5に接続され、制御処理部5の制御に従って所定の測定波を生成する装置である。前記所定の測定波は、電磁波であればよいが、本実施形態の酸化物半導体評価装置Dでは、μ−PCD法を利用するので、前記所定の測定波は、マイクロ波であり、測定波生成部21は、例えば、周波数26GHzのガンダイオード等を用いた、マイクロ波を生成するマイクロ波発振器を備えて構成される。測定波生成部21は、第1導波管23−1を介してサーキュレータ22の1個の端子に接続され、測定波生成部21から放射された測定波は、第1導波管23−1を介してサーキュレータ22に入射される。
【0031】
サーキュレータ22は、3つ以上の端子(ポート)を持ち、非可逆的に、一の端子の入力をサイクリックに他の端子へ出力するものであり、本実施形態では、3個の第1ないし第3端子を備え、第1端子に入射された測定波を第2端子へ射出し、第2端子に入射された測定波を第3端子へ射出する光学素子である。サーキュレータ22の第1端子は、第1導波管23−1を介して測定波生成部21に接続され、その第2端子は、導波管アンテナとしても機能する第2導波管23−2に接続され、そして、その第3端子は、第3導波管23−3を介して反射波検出部3に接続される。
【0032】
第2導波管23−2は、導波管アンテナとしても機能し、測定波を評価対象の酸化物半導体SPへ放射するとともに、前記酸化物半導体SPで反射した測定波の反射波を受信する。第2導波管23−2の一方端は、上述のようにサーキュレータ22の第2端子に接続され、その他方は、略90度で屈曲して前記酸化物半導体SPの法線方向に沿って配設されており、その先端には、開口した開口部231が形成されている。前記測定波は、この開口部231から前記酸化物半導体SPへ放射され、前記酸化物半導体SPで反射された測定波の反射波は、この開口部231で受信される。そして、第2導波管23−2の前記略90度で屈曲している屈曲部には、光源部1から放射された光を第2導波管23−2内に案内するための、開口した開口部232が形成されている。
【0033】
なお、第2導波管23−2には、前記酸化物半導体SPで反射された測定波の反射波を反射波検出部3でより良好に測定できるように、測定波の磁界と電界とを調整するE−Hチューナが介設されてもよい。
【0034】
反射波測定部3は、制御処理部5に接続され、制御処理部5の制御に従って前記酸化物半導体SPで反射された前記測定波の反射波を測定する装置である。本実施形態では、測定波がマイクロ波であることから、反射波検出部3は、マイクロ波検出器を備えて構成され、反射波の強度を測定し、反射波の反射率を求める。反射波検出部3は、この求めた反射波の反射率を制御処理部5へ出力する。なお、反射波測定部3は、反射波の強度を測定し、この測定した反射波の強度を制御処理部5へ出力し、制御処理部5が反射波の反射率を求めてもよい。
【0035】
厚さ測定部4は、制御処理部5に接続され、制御処理部5の制御に従って、光源部1によって照射される光の進行方向に沿った方向における評価対象の酸化物半導体SPの厚さを測定する装置である。厚さ測定部4は、例えば、いわゆる分光干渉法を利用した膜厚計である。また例えば、厚さ測定部4は、いわゆる分光エリプソメータである。前記分光干渉法を利用した膜厚計を備えて厚さ測定部4が構成される場合では、吸収係数αは、文献等の値を入力部6から入力する必要があるが、前記分光エリプソメータを備えて厚さ測定部4が構成される場合では、分光エリプソメータは、酸化物半導体SPの厚さを測定し、前記酸化物半導体SPにおける消衰係数kをさらに測定でき、吸収係数αは、α=4πk/λを用いて求められる。λは、光源部1から放出された光の波長である。消衰係数kは、分光エリプソメータの測定結果であり、光源部1から放出される光の波長に対応する値である。このように、吸収係数を入力部6から入力する手間が省け、評価対象自体の吸収係数αを求めることができるので、評価対象自体の移動度をより精度良く評価できる。このため、分光エリプソメータを備えて厚さ測定部4が構成されることが、より好ましい。
【0036】
入力部6は、制御処理部6に接続され、制御処理部6の制御に従って、例えば、酸化物半導体SPの評価開始を指示するコマンド等の各種コマンド、および、例えば評価対象の酸化物半導体SPにおける識別子の入力や、例えば吸収係数α等の移動度を評価する上で必要な各種データを酸化物半導体評価装置Dに入力する装置であり、例えば、所定の機能を割り付けられた複数の入力スイッチや、キーボードや、マウス等である。出力部7は、制御処理部6に接続され、制御処理部6の制御に従って、入力部6から入力されたコマンドやデータ、および、酸化物半導体評価装置Dによって評価された移動度の評価を出力する装置であり、例えばCRTディスプレイ、LCDおよび有機ELディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0037】
なお、入力部6および出力部7からタッチパネルが構成されてもよい。このタッチパネルを構成する場合において、入力部6は、例えば抵抗膜方式や静電容量方式等の操作位置を検出して入力する位置入力装置であり、出力部7は、表示装置である。このタッチパネルでは、表示装置の表示面上に位置入力装置が設けられ、表示装置に入力可能な1または複数の入力内容の候補が表示され、ユーザが、入力したい入力内容を表示した表示位置を触れると、位置入力装置によってその位置が検出され、検出された位置に表示された表示内容がユーザの操作入力内容として酸化物半導体評価装置Dに入力される。このようなタッチパネルでは、ユーザは、入力操作を直感的に理解し易いので、ユーザにとって取り扱い易い酸化物半導体評価装置Dが提供される。
【0038】
IF部8は、制御処理部5に接続され、制御処理部5の制御に従って、外部機器との間でデータの入出力を行う回路であり、例えば、シリアル通信方式であるRS−232Cのインターフェース回路、Bluetooth(登録商標)規格を用いたインターフェース回路、IrDA(Infrared Data Asscoiation)規格等の赤外線通信を行うインターフェース回路、および、USB(Universal Serial Bus)規格を用いたインターフェース回路等である。
【0039】
記憶部9は、制御処理部5に接続され、制御処理部5の制御に従って、各種の所定のプログラムおよび各種の所定のデータを記憶する回路である。前記各種の所定のプログラムには、例えば、酸化物半導体の移動度を評価するための評価プログラムや、各部を当該機能に応じて制御する制御プログラム等の制御処理プログラムが含まれる。このような記憶部9は、例えば不揮発性の記憶素子であるROM(Read Only Memory)や書き換え可能な不揮発性の記憶素子であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等を備える。そして、記憶部9は、前記所定のプログラムの実行中に生じるデータ等を記憶するいわゆる制御処理部5のワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等を含む。
【0040】
移動ステージ11は、ステージコントローラ10に接続され、ステージコントローラ10の制御に従って、評価対象の酸化物半導体SPの厚さ方向に直交する水平方向に前記酸化物半導体SPを移動する装置である。移動ステージ11は、例えば、評価対象の酸化物半導体SPを載置するためのステージ(載置台)と、前記ステージを前記水平方向に移動するために、前記水平方向に含まれるX方向およびこのX方向に直交するY方向に移動するXY移動機構部とを備えるXYステージ等である。
【0041】
ステージコントローラ10は、制御処理部5に接続され、制御処理部5の制御に従って、評価対象の酸化物半導体SPにおける複数の評価箇所を測定するために、前記酸化物半導体SPを前記水平方向に移動するように、移動ステージ11の前記移動機構部の動作を制御するものである。
【0042】
制御処理部5は、酸化物半導体評価装置Dの各部を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、反射波測定部3で測定された前記反射波の強度と、厚さ測定部4で測定された前記酸化物半導体SPの厚さとに基づいて、前記酸化物半導体SPの移動度を評価するための回路である。制御処理部5は、例えば、CPU(Central Processing Unit)およびその周辺回路を備えて構成される。制御処理部5には、制御処理プログラムが実行されることによって、制御部51、取得部52、ピーク演算部53、補正部54および評価部55が機能的に構成される。
【0043】
制御部51は、酸化物半導体評価装置Dの各部を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御するためのものである。
【0044】
取得部52は、ステージコントローラ10を介して移動ステージ11を制御することによって、酸化物半導体SPの各位置それぞれと厚さ測定部4の位置(測定位置)とを互いに位置合わせし、酸化物半導体SPの各位置における各厚さを厚さ測定部4にそれぞれ測定させ、厚さ測定部4から酸化物半導体SPの各位置における各厚さを取得するものである。取得部52は、測定した各位置とその厚さとを互いに対応づけて記憶部9に記憶する。そして、取得部52は、ステージコントローラ10を介して移動ステージ11を制御することによって、酸化物半導体SPの各位置それぞれと第2導波管23−2の開口部232の位置(測定位置)とを位置合わせし、光源部1および測定波照射部2それぞれに所定光および測定波それぞれを照射させ、酸化物半導体SPの各位置における測定波の反射波を反射波測定部3にそれぞれ測定させ、反射波測定部3から酸化物半導体SPの各位置における測定波の反射波の強度(時間経過に伴う反射波の強度変化)を取得するものである。そして、取得部52は、測定した各位置とその反射波の強度とを互いに対応づけて記憶部9に記憶する。
【0045】
ピーク演算部53は、酸化物半導体SPの各位置それぞれにおいて、記憶部9に記憶された前記反射波の強度あるいはその反射率(すなわち、反射波測定部3で測定され取得部52によって取得された前記反射波の強度あるいはその反射率)から、前記反射率のピーク値を求めるものである。
【0046】
補正部54は、酸化物半導体SPの各位置それぞれにおいて、ピーク演算部53で求めたピーク値を、記憶部9に記憶された酸化物半導体SPの厚さ(すなわち、厚さ測定部4で測定され取得部52で取得された酸化物半導体SPの厚さ)で補正することによって補正ピーク値を求めるものである。より具体的には、補正部54は、前記ピーク値をPkとし、酸化物半導体SPにおける吸収係数および厚さをそれぞれαおよびdとした場合に、前記補正ピーク値Pkcを次式(1)から求める。
Pkc=Pk/(1−exp(−αd)) ・・・(1)
【0047】
評価部55は、酸化物半導体SPの各位置それぞれにおいて、補正部54で補正された補正ピーク値に基づいて酸化物半導体SPの移動度を評価するものである。評価方法には、前記特許文献1に開示された方法が利用される。より具体的には、補正ピーク値Pkcの大きさ(高さ)に比例して移動度も大きくなる(高くなる)。したがって、評価対象の酸化物半導体SPごとに、その各補正ピーク値Pkcの大小が比較され、小さい順に、あるいは、大きい順に並べることにより、評価対象の酸化物半導体SP間の移動度を相対的に評価できる。
【0048】
このような酸化物半導体評価装置Dは、例えば、次のように動作することによって酸化物半導体の移動度を評価する。
図2は、実施形態における酸化物半導体評価装置の動作を示すフローチャートである。
図3は、酸化物半導体における反射率の時間変化を示す図である。
図3の横軸は、時間であり、その縦軸は、反射率である。
図4は、酸化物半導体の厚さを考慮した場合における移動度とピーク値(補正ピーク値)との関係を示す図である。
図4の横軸は、cm
2/Vs単位で表す移動度(Mobility)であり、その縦軸は、補正ピーク値(Corrected Peak Value)である。
図5は、酸化物半導体の各試料における厚さと移動度との関係を示す図である。
図5の横軸は、nm単位で表す酸化物半導体の膜厚であり、その縦軸は、cm
2/Vs単位で表す移動度である。
図6は、酸化物半導体の厚さを考慮しない場合における移動度とピーク値との関係を示す図である。
図6の横軸は、cm
2/Vs単位で表す移動度(Mobility)であり、その縦軸は、mV単位で表すピーク値(Peak Value)である。
【0049】
評価対象(試料)の酸化物半導体SPが移動ステージ11にセットされ、入力部6の操作によって評価開始が指示されると、
図2において、酸化物半導体SPの各位置において、その反射波が測定され(S1a)、その厚さが測定される(S1b)。これら処理S1aおよび処理S1bは、酸化物半導体SPの互いに異なる位置に対し略同時に実行されてよく、あるいは、これら処理S1aおよび処理S1bのうちの一方の処理が先に実施され、その他方の処理が後に実施される。
【0050】
これら各処理S1a、S1bについてより具体的に説明すると、まず、処理S1aでは、制御処理部5の取得部52の制御に従って測定波照射部2によって測定波が酸化物半導体SPの測定位置(測定領域)に照射され、酸化物半導体SPで反射した測定波が反射波測定部3で測定され、この測定結果が反射波測定部3から制御処理部5へ出力される。より詳しくは、取得部52の制御に従って測定波生成部21は、測定波を生成し、この生成された測定波は、第1導波管23−1を介してサーキュレータ22の第1端子に入射される。第1端子から入射した測定波は、サーキュレータ22の第2端子から射出され、第2導波管23−2に入射され、第2導波管23−2内を伝播する。この第2導波管23−2内を伝播する測定波は、酸化物半導体SPの測定位置を照射するべく、導波管アンテナとしての開口部231から前記測定位置に向けて放射される。そして、酸化物半導体SPで反射した測定波(測定波の反射波)は、前記開口部231から入射され、受信される。この反射波は、第2導波管23−2を介してサーキュレータ22の第2端子に入射される。この第2端子から入射した反射波は、サーキュレータ22の第3端子から射出され、第3導波管23−3を介して反射波測定部3に入射され、反射波測定部3でその強度(または反射率)が測定される。この測定した反射波の強度(または反射率)は、反射波測定部3から制御処理部5の取得部52へ出力される。
【0051】
一方、制御処理部5の取得部52の制御に従って光源部1によって所定光が酸化物半導体SPの前記測定位置に照射される。より詳しくは、取得部52の制御に従って光源部1は、反射波のピークを測定するために充分なパルス幅を持つパルスレーザ光を射出し、この射出されたパルスレーザ光は、第2導波管23−2の開口部232に入射され、第2導波管23−2内を伝播し、酸化物半導体SPの測定位置を照射するべく、導波管アンテナとしての開口部231から前記測定位置に向けて射出される。
【0052】
これによってパルスレーザ光を酸化物半導体SPに照射している場合に測定波を酸化物半導体SPに照射していれば、パルスレーザ光による反射波の強度変化が反射波測定部3を介して制御処理部5の取得部52に取り込まれる。通常では、測定波が酸化物半導体SPに照射され、測定波を酸化物半導体SPに照射しながらパルスレーザ光を照射することによって、パルスレーザ光の照射直後(消灯直後)における反射波の強度変化が測定される。
【0053】
この測定結果の一例が
図3に示されている。この
図3に示すように、反射波の反射率は、パルスレーザ光の照射開始後、時間の経過とともに高くなり、やがて、過剰キャリアの生成と再結合とが平衡して略一定の飽和状態となり、パルスレーザ光の照射停止後、時間の経過とともに低くなり、やがて、キャリアが熱平衡状態となって略一定となる。
【0054】
このような測定波の反射波における反射率の時間変化が、酸化物半導体SPの各位置それぞれで測定され、その位置と対応付けられて記憶部9に記憶される。
【0055】
また、処理S1bでは、制御処理部5の取得部52の制御に従って厚さ測定部4は、測定位置における、パルスレーザ光の進行方向に沿った厚さを測定する。そして、厚さ測定部4は、その測定結果を制御処理部5へ出力する。この酸化物半導体SPの厚さが、酸化物半導体SPの各位置それぞれで測定され、その位置と対応付けられて記憶部9に記憶される。なお、厚さ測定部4が分光エリプソメータである場合には、前記厚さに加えて、酸化物半導体SPの消衰係数kも測定され、この測定された消衰係数kも、その位置と対応付けられて記憶部9に記憶される。
【0056】
このように酸化物半導体SPの各位置それぞれについて、反射波および厚さが測定されると、制御処理部5のピーク演算部53は、酸化物半導体SPの各位置それぞれにおいて、記憶部9に記憶された反射率の時間変化(すなわち、反射波測定部3で測定され取得部52によって取得された前記反射波の強度あるいはその反射率)から、反射率のピーク値(反射率の最大値)Pkを求める(S2)。例えば、
図3に示す例では、パルスレーザ光の照射中に飽和した飽和レベルがピーク値Pkとして求められる。
【0057】
次に、ピーク値Pkが求められると、補正部54は、酸化物半導体SPの各位置それぞれにおいて、ピーク演算部53で求めたピーク値を、記憶部9に記憶された酸化物半導体SPの厚さ(すなわち、厚さ測定部4で測定され取得部52で取得された酸化物半導体SPの厚さ)dで補正することによって補正ピーク値Pkcを求める(S3)。より具体的には、補正部54は、上述の式(1);Pkc=Pk/(1−exp(−αd))を用いることによって補正ピーク値Pkcを求める。ここで、吸収係数αは、上述したように、予め入力部6から入力された数値であってよく、また、厚さ測定部4が分光エリプソメータである場合には、分光エリプソメータで測定された消衰係数kから上述の式(2);α=4πk/λを用いることによって求められても良い。
【0058】
ここで、発明者らは、次のように推察し、上記式(1)でピーク値を補正することによって補正ピーク値で酸化物半導体の移動度を評価できると、考えている。酸化物半導体のバンドギャップは、比較的大きいため、通常のμ−PCD法で用いられる波長の光は、膜厚の薄い酸化物半導体では、すべて吸収されずに、一分透過してしまう。このため、酸化物半導体の膜厚の増大に伴って光の吸収量も増大し、それによって励起される過剰キャリア量が増大するため、反射率のピーク値が大きくなる。したがって、酸化物半導体の吸収係数αの増加に応じてピーク値が小さくなるように、一方、酸化物半導体の厚さdの増加に応じてピーク値が小さくなるように、ピーク値を補正すれば、すなわち、例えば、式(1)でピーク値を補正すれば、膜厚に依らず、酸化物半導体の移動度の評価が可能となる。
【0059】
一実験例について以下に説明する。まず、厚さの異なるアモルファスの酸化物半導体(InGaZnO)の複数の試料が作成された。その作成方法は、前記特許文献1に開示された成膜方法と同様の方法であり、InGaZnO
4の組成を持つターゲットを用いたスパッタリングによって、ガラス基板上に成膜された。膜厚は、成膜時間を変更することによって変更された。移動度は、アニール処理の内容を適宜に変更することで変更された。このように得られた各試料について、その膜厚と移動度との関係が、
図5に示されている。
図5から分かるように、膜厚が約40〜205nmの各試料に対し、それらの移動度は、約9〜11で略一定となっている。なお、
図5の移動度は、前記特許文献1と同様に、同じ成膜条件で薄膜トランジスタを作成し、この薄膜トランジスタのId−Vg特性(ゲート電圧Vgに対するドレイン電流Igの特性)を測定することで求められている。
【0060】
このような各試料について、上述の各処理によって求められた反射率のピーク値の結果が、
図6に示され、反射率の補正ピーク値の結果が、
図4に示されている。
図6から分かるように、反射率のピーク値は、移動度に対し、ランダムで相関が見られないが、上記式(1)を用いて求められた反射率の補正ピーク値は、
図4に示すように、移動度に対し相関が見られる。
【0061】
したがって、μ−PCDを利用して反射率のピーク値を求め、上記式(1)によってその補正ピーク値を求めることによって、膜厚に依らず、酸化物半導体の移動度の評価できる。
【0062】
図2に戻って、酸化物半導体SPの各位置それぞれについて反射率の補正ピーク値が求められると、制御処理部5の評価部55は、補正部54で補正された補正ピーク値に基づいて酸化物半導体SPの移動度を評価する(S4)。評価部55は、処理S3で求められた各位置の各補正ピーク値をそのまま出力部7に出力しても良いが、本実施形態では、酸化物半導体SPにおける各位置の移動度に関する相対評価がユーザに認識しやすいように、例えば、評価部55は、最大の補正ピーク値で各位置の補正ピーク値を規格化する。これによって1に近いほど、その位置の移動度は、他の各位置の移動度に較べて相対的に大きいことが分かる。また例えば、複数の酸化物半導体SPについて比較する場合、評価部55は、各酸化物半導体SPそれぞれについて、各位置の各補正ピーク値の最大値や平均値等を当該酸化物半導体SPの移動度の代表値として求め、これら求めた各酸化物半導体SPの各代表値をその最大の代表値で規格化する。これによって1に近いほど、その酸化物半導体SPの移動度は、他の各酸化物半導体SPに較べて相対的に大きいことが分かる。また例えば、複数の酸化物半導体SPについて比較する場合、評価部55は、同様に代表値を求め、各酸化物半導体SPの各代表値の大きい順に各酸化物半導体SPを並べる。これによって各酸化物半導体SP間の移動度の相対的な大小が分かる。
【0063】
そして、制御処理部5は、その評価結果を出力部7に出力する(S5)。また、必要に応じて、制御処理部5は、その評価結果をIF部8から外部の機器へ出力する。
【0064】
以上、説明したように、本実施形態における酸化物半導体評価装置Dおよびこれに実装された酸化物半導体評価方法では、評価対象の酸化物半導体SPにおける反射波の強度および厚さが測定され、これら測定された反射波の強度および厚さに基づいて、酸化物半導体SPの移動度が評価される。したがって、このような酸化物半導体評価装置Dおよび該方法は、酸化物半導体SPの移動度を反射波の強度に基づいて評価するのではなく、酸化物半導体SPの厚さをさらに考慮することによって酸化物半導体SPの移動度を評価するので、より精度良く酸化物半導体SPの移動度を評価できる。
【0065】
また、本実施形態における酸化物半導体評価装置Dおよび該方法は、移動度と相関関係にある反射率のピーク値を求め、この求めたピーク値を酸化物半導体SPの厚さで補正するので、より精度良く酸化物半導体SPの移動度を評価できる。
【0066】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。