(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照しながら、本発明の実施の形態によるハイブリッド式作業車両について説明する。
図1は実施の形態のハイブリッド式作業車両200の一例として示されるホイールローダの外観側面図であり、
図2はハイブリッド式作業車両200の主要構成を示す回路ブロック図である。
【0009】
図1に示すように、ハイブリッド式作業車両200は、アーム201、バケット20、前輪18a,18b等を有する前部車体202と、運転室19、後輪18c,18d等を有する後部車体203とを有する。アーム201はリフトシリンダ13の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット20はバケットシリンダ14の駆動により上下方向に回動(ダンプまたはクラウド)する。なお、前輪18a,18bと後輪18c,18dについて、総称する場合には車輪18として説明する。
【0010】
前部車体202と後部車体203とは、不図示の連結軸により互いに回動自在に連結されている。このハイブリッド式作業車両200は、連結軸にて前部車体202と後部車体203とが屈曲されるアーティキュレート式の作業車両である。前部車体202と後部車体203には、連結軸を中心とする一対のステアリングシリンダ(以下、ステアリングシリンダ)12の一端と他端とが、それぞれ回転可能に係止されている。後述する油圧装置により一対のステアリングシリンダ12のうち一方を伸長、他方を縮退させることにより、前部車体202と後部車体203とをそれぞれ連結軸を中心に回転させる。これにより、前部車体202と後部車体203との相対的な取付角度が変化し、車体が屈曲して換向する。
【0011】
図2に示すように、ハイブリッド式作業車両200は、エンジン1、エンジン1の駆動を制御するエンジン制御装置(以下、エンジンコントローラ)2、蓄電装置(以下、キャパシタ)3、コンバータ4、発電電動機5、発電インバータ6、走行電動機7F,7R、走行インバータ8F,8R、油圧ポンプ9、操作装置31およびシフトスイッチ40を備えている。またハイブリッド式作業車両200は、以上の構成部を制御する主制御装置(以下、メインコントローラ)100を備えている。
【0012】
油圧ポンプ9はハイブリッド式作業車両200の各油圧アクチュエータ、すなわちステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14に圧油を供給する可変容量型油圧ポンプである。油圧ポンプ9の回転軸はエンジン1の駆動軸と同軸上に設けられている。油圧ポンプ9がエンジン1により駆動されると、オイルタンク10の作動油がコントロールバルブ11を介してステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14に供給される。コントロールバルブ11は、ステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14のボトム室またはロッド室への作動油の流れを制御する制御弁である。コントロールバルブ11は、運転室19内に設置された操作装置31から出力される信号(油圧信号または電気信号)によって制御される。油圧ポンプ9からコントロールバルブ11に導かれた作動油は、操作装置31の操作に応じてステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14に分配される。
【0013】
発電電動機5は、エンジン1の駆動軸と同軸上にある回転軸にロータが取り付けられ、ロータの外周にステータが配置されている。発電電動機5は発電機モードと電動機モードのいずれかのモードで駆動される。発電機モードが選択されているとき、発電電動機5は、エンジン1によってロータが回転することにより発電する。発電インバータ6は発電電動機5で発電された交流電力を所定電圧の直流電力に変換する。電動機モードが選択されているとき、発電電動機5は、発電インバータ6から交流電力が供給されて電動機として機能する。発電電動機5の回転軸はエンジン1の回転軸と油圧ポンプ9の回転軸に連結されている。そのため、発電電動機5の出力トルクは油圧ポンプ9に与えられる。
【0014】
コンバータ4は、キャパシタ3に蓄電された電荷により得られる直流電力を所定電圧に昇圧して、発電電動機5、走行電動機7F,7Rに供給する。コンバータ4は、後述するメインコントローラ100により制御される。
なお、キャパシタ3に代えて、たとえば鉛蓄電池や、リチウムイオンバッテリのような2次電池を用いてもよい。
【0015】
走行電動機7F,7Rは、キャパシタ3および発電電動機5に電力線を介して接続され、キャパシタ3および発電電動機5の一方、または双方から供給される電力によって車輪18を駆動する。走行加速時には、走行電動機7F,7Rは、後述する走行インバータ8F,8Rにより力行駆動される。力行駆動により発生した力行トルクはプロペラシャフト15f,15r、ディファレンシャルギア16f,16rおよびドライブシャフト17a,17b,17c,17dを介して前輪18a,18bおよび後輪18c,18dへと伝えられ、ハイブリッド式作業車両200が加速する。走行制動時には、走行電動機7F,7Rが発生した回生トルク(制動トルク)は、車輪18へと伝えられ、ハイブリッド式作業車両200が減速する。
【0016】
走行インバータ8F,8Rは、走行加速時には走行電動機7F,7Rに交流走行駆動電力を供給してそれぞれ駆動する。また、走行インバータ8F,8Rは、走行制動時に走行電動機7F,7Rで発生した回生電力(交流電力)を所定電圧の直流電力に変換してキャパシタ3に供給する。コンバータ4、発電インバータ6および走行インバータ8F,8Rは、同一の電力線に接続され、相互に電力の供給が可能となるように構成されている。また、コンバータ4は、電力線に取り付けられた平滑コンデンサ(不図示)の直流電圧(DC電圧)を監視し、この平滑コンデンサのDC電圧を一定に保つようにキャパシタ3の充放電を制御する。
【0017】
運転室19に設けられた操作装置31は、ステアリングホイール、リフトレバー、バケットレバー等を含んで構成される。ステアリングホイールはステアリングシリンダ12を伸縮させる際に操作される。オペレータはステアリングホイールを操作することで、ステアリングシリンダ12を伸縮させてハイブリッド式作業車両200の操舵角を調整して、ハイブリッド式作業車両200を旋回させる。リフトレバーはリフトシリンダ13を伸縮する際に操作される。バケットレバーはバケットシリンダ14を伸縮する際に操作される。オペレータはリフトレバー、バケットレバー等を操作することにより、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14を伸縮させて、バケット20の高さと傾きとを制御し、掘削および荷役作業を行う。
【0018】
運転室19には、シフトスイッチ40、図示しないアクセルペダル、ブレーキペダル、前後進スイッチ操作部が設けられている。オペレータはシフトスイッチ40を操作することによって、たとえば1速〜3速の間で速度段を設定することができる。シフトスイッチ40は、設定された速度段を示す信号(速度段信号)を後述するメインコントローラ100へ出力する。オペレータは、上記のシフトスイッチ40、アクセルペダル、ブレーキペダル、前後進スイッチ操作部を操作することによって、車輪18を駆動してハイブリッド式作業車両200を走行させることができる。アクセルペダルの踏込量はアクセルペダル踏込量に応じアクセル信号を出力するアクセルペダルセンサ290で検出され、ブレーキペダルの踏込量はブレーキペダル踏込量に応じたブレーキ信号を出力するブレーキペダルセンサ291で検出される。それらのセンサ290,291は、オペレータによる操作量、すなわち踏込量に応じて、それぞれアクセル信号とブレーキ信号とを後述するメインコントローラ100へ出力する。また、前後進スイッチ操作部が前進側または後進側に操作されたことは前後進スイッチ292により検出され、この前後進スイッチ292は前進信号または後進信号をメインコントローラ100に送信する。
【0019】
なお、本実施の形態のハイブリッド式作業車両200は、ブレーキペダルの操作に応じて油圧ブレーキ制御弁35a,35bに所定の油圧力が導入され、ディスクブレーキである油圧ブレーキ36a,36bにより摩擦力で車輪18a,18bの回転を機械的に制動する。そして、上述した走行電動機7F,7Rの回生トルクによる回生制動力も加味される。
【0020】
速度センサ21は、ハイブリッド式作業車両200の走行速度を検出して、速度信号をメインコントローラ100へ出力し、モータ回転数センサ22は、走行電動機7F,7Rの回転数を検出して、モータ回転数信号をメインコントローラ100へ出力する。
【0021】
メインコントローラ100は、CPU、ROM、RAMなどを有し、制御プログラムに基づいてハイブリッド式作業車両200の各構成要素を制御したり、各種のデータ処理を実行したりする演算回路である。メインコントローラ100は、上述したアクセルペダルセンサ290、ブレーキペダルセンサ291、シフトスイッチ40からそれぞれ入力したアクセル信号とブレーキ信号と速度段信号とを用いて車速制御を行う。
【0022】
図3に示すように、メインコントローラ100は、蓄電管理部110と、油圧要求演算部120と、走行要求演算部130と、出力管理部140と、目標回転数演算部150と、発電電動機制御部160と、傾転角制御部170と、走行電動機・ブレーキ制御部180と、ブレーキ制御部190とを機能的に備える。
【0023】
以下の数式(1)〜(14)で用いる主な表記は以下のとおりである。
「トルク」 T
rq
「出力」 P
wr
「ポンプ」 P
pmp
「走行」
drv
「アクセル」
acc
「発電」
gen
「要求」
req
「指令(目標値)」
t
「走行電動機」、「回生電力」
mot
【0024】
油圧要求出力 P
wr_pmp_req …(1)式
アクセル要求トルク T
rq_acc_req …
図6のアクセル要求トルクマップ
走行要求トルク T
rq_drv_req …(2)式
走行要求出力 P
wr_drv_req …(3)式
エンジン出力指令 P
wr_eng_t …(9)式
回生電力低減指令 dP
wr_mot_t …(6)式
発電出力指令 P
wr_gen_t …(8)式
発電電動機トルク指令 T
rq_gen_t …(10)式
走行電動機トルク指令 T
rq_mot_t …(12)式
エンジン回転数指令 N
eng_t
制動トルク指令 T
rq_brk_t …(13)式
エンジン回転数 N
eng
走行電動機回転数 N
mot
【0025】
−蓄電管理部−
蓄電管理部110は、
図7(a)に示すように、キャパシタ3の許容充電電力を演算する許容充電電力演算部800と、エンジン回転数の下限値を演算するエンジン回転数下限値演算部820と、キャパシタ開放電圧演算部810とを備えている。蓄電管理部110は、出力管理部140に許容充電電力を出力し、エンジン回転数目標演算部150にエンジン回転数下限値とエンジン回転数低減率とを出力する。詳細は以下で説明する。
蓄電管理部110には、コンバータ4で検出されるキャパシタ3の充放電電圧(キャパシタ電圧)と充放電電流(キャパシタ電流)と、速度センサ21からの車体速度信号と、シフトスイッチ40からの速度段信号と、アクセルペダルセンサ290からのアクセルペダル操作量信号と、モードスイッチ293からのモード信号とが入力されている。モード信号は、たとえばPモードやEモードであり、Pモードが設定されているときはEモードが設定されているときよりも高出力で作業車両を運転することができる。Eモードが設定されているときは低燃費で作業車両を運転することができる。
また蓄電
管理部110には、後述するエンジン回転数低減率を決定するためエンジン回転数も入力されている。
【0026】
許容充電電力演算部800は
図4に示すような許容充電電力マップを有し、コンバータ4から入力したキャパシタ3の充放電電圧と充放電電力に基づいて、キャパシタ3の許容充電電力を算出する。許容充電電力は出力演算部140に出力される。
【0027】
図4に許容充電電力マップの一例を示す。
図4では、Vcmin、Vcmaxはそれぞれキャパシタ3が劣化しにくい使用範囲における最低電圧、最高電圧である。許容充電電力マップは、キャパシタ3の電圧(蓄電電圧)が最高電圧Vcmaxを超えないように、許容充電電力が最高電圧Vcmax付近で0以下になるように設定されている。一方、
図4において、Icmaxはコンバータ4の最大電流制限に基づいて設定される。許容充電電力マップは、充電電流が最大電流制限Icmaxを超えないように蓄電電圧が低いほど許容充電電力が小さくなるようにも設定されている。
なお、上記は充電時における例を説明するものであるが、放電時においても同様の演算が成される。
【0028】
キャパシタ開放電圧演算部810には、キャパシタ電流とキャパシタ電圧とが入力され、これらの信号値からキャパシタ開放電圧が算出される。
【0029】
図7(b)は、エンジン回転数下限値演算部820の機能を説明するブロック図である。エンジン回転数下限値演算部820は、第1関数発生器820aと、第2関数発生器820bと、第3関数発生器820cと、最小値選択器820dと、最大値選択器820eと、エンジン回転数低減率決定部820fとを備えている。
【0030】
エンジン回転数下限値演算部820には、キャパシタ開放電圧と、シフトスイッチ40からの速度段信号と、速度センサ21からの車体速度信号と、アクセル信号と、モード信号と、エンジン回転数とが入力されている。これらの入力値を使用して、エンジン回転数下限値演算部820ではエンジン1の回転数の下限値(以下、エンジン回転数下限と呼ぶ)が算出される。また、後述するエンジン回転数低減率も決定される。
【0031】
第1関数発生器820aは、
図8に示すように車体速度に応じたエンジン回転数の上限値を決定するものであり、入力された車体速度に応じてエンジン回転数の上限値が読み出される。第1関数発生器820aは、燃費改善のため、車体速度が速いほど上限値を低くする特性S1,S2を有している。また、第1関数発生器820aで決定されるエンジン回転数の上限値は1速の速度段(S1)で走行しているときと、2速以上の速度段(S2)で走行しているときとで車体速度に応じたエンジン回転数の上限値が異なるような特性を有している。同一車体速度であれば1速選択時の上限値が低い。
【0032】
図8の特性S1に示すように、車体速度がV1〜V2の範囲でエンジン回転数上限がR0〜R01の範囲で減少し、車体速度がV2を超えるとエンジン回転数上限値はR01で保持される。速度段が2速〜4速の場合には、特性S2に示すように、車体速度がV2となるまではエンジン回転数上限値はR0に保持され、車体速度がV2を超えるとエンジン回転数上限値はR0〜R01の範囲で減少する。
【0033】
第2関数発生器820bは、
図9に示すようにアクセルペダル操作量に応じたエンジン回転数の下限値を決定するものであり、入力されたアクセルペダル操作量に応じてエンジン回転数の下限値が読み出される。第2関数発生器820bは、応答性をよくするため、アクセル踏込み量が大きいほどエンジン回転数下限値を大きくし、また、高い出力を要求するモードほどエンジン回転数値を大きくする特性を有している。S3はPモード、S4はEモードである。なお、S5はパーキングモードであるが、本発明に関係しないので説明を省略する。
【0034】
図9において、Pモードの特性S3は、Eモードの特性S4に比べて、アクセルペダル踏み込み量に対して設定されるエンジン回転数下限値が大きい。このような特性は、Pモードが作業優先の作業モードであり、Eモードが燃費優先の作業モードであることに起因する。
なお、符号S5はパーキングモードの特性である。ホイールローダの点検時に、パーキングブレーキを作動させた状態でアクセルペダルを操作全域で踏み込むことを想定して設定した特性である。
【0035】
第3関数発生器820cは、
図10に示すようにキャパシタ開放電圧に応じたエンジン回転数の下限値を決定するものであり、入力されたキャパシタ開放電圧に応じてエンジン回転数の下限値が読み出される。キャパシタの充電量は、その開放電圧(容量)が高いほど少なくする必要がある。第3関数発生器820cは、キャパシタ開放電圧が低いほどエンジン回転数の下限値を高くする特性S6を有している。これは、キャパシタ容量が少ないときのアシストパワーが不足することに対応するためである。特性S6はキャパシタ電圧がEvを超えるとエンジン回転数下限値はR0から減少するように設定されている。
【0036】
最小値選択器820dは、車体速度と速度段に応じたエンジン回転数の上限値と、アクセルペダル操作量とモードに応じたエンジン回転数の下限値とのいずれか小さい値を選択する。
図8の特性に基づいて、車体速度が早いほど小さいエンジン回転数上限値が決定される。
図8の特性は燃費低減を目的として設定されている。
図9の特性に基づき、アクセル踏み込み量が大きいほど大きなエンジン回転数下限値が決定される。
図9の特性はエンジンの応答性を高めることを目的として設定されている。そして、最小値選択器820dにより、応答性と燃費改善を目的としてそれぞれ決定されたエンジン回転数のうちいずれか小さい値が選択される。
【0037】
最大値選択器820eは、最小値選択器820dで選択されたエンジン回転数と、キャパシタ開放電圧に応じたエンジン回転数の下限値とのいずれか大きい値を選択する。最大値選択器820eにより、
図9の応答性と
図8の燃費に基づいて決定された2つのエンジン回転数のいずれか小さいエンジン回転数と、キャパシタ開放電圧に応じて決定されたエンジン回転数下限値のいずれか大きい値が選択される。最大値選択器820eで選択されたエンジン回転数下限値は目標回転数演算部150に出力される。
【0038】
エンジン回転数低減率決定部820fは、減速開始時のエンジン回転数が目標回転数演算部150によって選択されたエンジン回転数下限値を上回っている場合、エンジン1の回転を停止させるときに比べて、エンジン回転数が低減する率、すなわち割合を小さくする。換言すると、エンジン回転数低減率決定部820fは、減速開始時のエンジン回転数がエンジン回転数下限値を上回るときはエンジン回転数の低減の割合を後述する第1低減率に決定し、エンジン1の停止時はエンジン回転数の低減の割合を第1低減率より大きい第2低減率に決定して、エンジン回転数下限値とともに目標回転数演算部150に出力する。
【0039】
エンジン回転数低減レートについて説明する。
ホイールローダは、減速と増速を頻繁に繰り返し、エンジン変動も頻繁である。実施の形態のハイブリッド式ホイールローダでは、走行時はアクセルペダルの踏み込み量、すなわち走行要求出力に応じて発電電動機5で発電した電力で走行モータ7Fと7Rが駆動される。アクセルペダル解放時は発電電動機5の発電量はゼロでありエンジン負荷が非常に小さい。したがって、減速時にエンジン回転数が減少する割合が大きく、増速時にエンジン回転数が急峻に立ち上がって黒煙が発生しがちである。減速開始(アクセルペダル踏み込み量減小開始)から増速開始(アクセルペダル踏み込み開始)までの時間内におけるエンジン回転数の低下を緩やかにし、増速時(アクセルペダル踏み込み開始時)のエンジン回転数を高めに設定するのが好ましい。
【0040】
本発明では、走行、掘削、走行を繰り返す標準的な作業において、アクセルペダルの踏み込み量が低減されてから踏み込み量が増えるまで間、すなわち減速から増速までの標準的な時間を想定し、減速開始時のエンジン回転数が上記標準的な時間内で低減し,その後増速したときに黒煙が発生しないように、エンジン回転数の低減率を設定することとしている。具体的には、減速開始時のエンジン回転数と、上記標準的な時間と、増速時に黒煙の発生を抑制しえる増速開始エンジン回転数などに基づいて、上記エンジン回転数低減率が決定されている。このエンジン回転数低減率は、発電電動機5と可変容量油圧ポンプ9が無負荷であるときにエンジン回転数が低減する割合よりも小さい割合でエンジン回転数を低減させるように設定される。
【0041】
図7(b)のエンジン回転数下限値演算部820による演算が減速時に行われたとき、演算されたエンジン回転数下限値が減速開始時のエンジン回転数よりも小さいときは、第1低減レート、すなわち第1低減率が選択される。一方、エンジン1の回転を停止させるときは、第2低減レート、すなわち第2低減率が選択される。第1低減率は第2低減率よりも小さい値であり、エンジン回転数は緩やかに減少する。
低減率は、目標回転数演算部150がエンジン回転数を目標値に向けて低減する際の回転数低減率である。たとえば、目標回転数演算部150がエンジン回転数指令を10msごとに演算する場合、10msごとに低減するエンジン回転数の量である。したがって、10msごとに低減するエンジン回転数の量を小さくすると低減率は小さくなり、エンジン回転数は緩やかに低減される。
【0042】
第1低減率は減速開始時のエンジン回転数に依存しない。すなわち、減速開始時におけるエンジン回転数にかかわらず、減速時は同一の低減率でエンジン回転数が減少する。
【0043】
−油圧要求演算部120−
油圧要求演算部120は、油圧ポンプ9の油圧要求出力P
wr_pmp_reqを演算する。油圧要求演算部120には、リフトレバーおよびバケットレバー、すなわち操作装置31からレバー信号が入力され、油圧ポンプ9とコントロールバルブ11との間に設けられた圧力センサ(不図示)からポンプ圧p
pmpが入力される。なお、説明を簡略化するため、ステアリングホイールの操作およびステアリングシリンダ12の動作については演算に含めないものとする。
【0044】
図5は、ポンプ要求流量マップの一例を示す図である。ポンプ要求流量マップは、レバー信号にポンプ要求流量がほぼ比例するように設定され、メインコントローラ100の記憶装置(不図示)に記憶されている。油圧要求演算部120は、受信したレバー信号とポンプ要求流量マップとに基づいて、ポンプ要求流量q
pmp_reqを算出する。そして油圧要求演算部120は、算出したポンプ要求流量q
pmp_reqと、受信したポンプ圧力p
pmpとを用いて、以下の(1)式により油圧要求出力P
wr_pmp_reqを算出する。
P
wr_pmp_req=q
pmp_req・p
pmp …(1)
なお、説明を簡略化するため、油圧ポンプ9の効率は考慮しないものとし、以下の計算式においても同様に油圧ポンプ9の効率は含まれない。
【0045】
−走行要求演算部130−
走行要求演算部130は、走行時に走行電動機7F,7Rに要求されるトルクである走行要求トルクT
rq_drv_reqを(2)式に基づいて算出して出力し、走行時に走行電動機7で消費または発生(回生)される電力である走行要求出力P
wr_drv_reqを(3)式に基づいて算出して出力する。このとき、走行要求演算部130は、メインコントローラ100の記憶装置(不図示)に記憶されたアクセル要求トルクマップを用いて演算を行う。
【0046】
図6にアクセル要求トルクマップの一例を示す。アクセル要求トルクマップは速度段ごとに設けられる。(a)が1速、(b)が2速、(c)が3速の特性である。アクセル要求トルクT
rq_acc_reqは、アクセル信号と、走行電動機7F,7Rの回転数の絶対値とに基づいて算出される。すなわち、走行要求演算部130は、シフトスイッチ40から入力される速度段信号と、アクセルペダルの踏込量を検出するセンサ290から入力されるアクセル信号と、車両の走行速度に相当する、回転数センサ22から入力される走行電動機回転数N
motとに基づいて、設定された速度段に対応するアクセル要求トルクマップを選択してアクセル要求トルクT
rq_acc_reqを算出する。そして、走行要求演算部130は、算出したアクセル要求トルクT
rq_acc_reqと、前後進スイッチから入力される前後進スイッチ信号V
FNRと、車両の走行速度に相当する、回転数センサ22から入力される走行電動機回転数N
motと、ブレーキペダルの踏込量を検出するセンサ291から入力されるブレーキ信号V
brkとを用いて、以下の(2)式により走行要求トルクT
rq_drv_reqを算出する。
T
rq_drv_req=sign(V
FNR)・T
rq_acc_req−sign(N
mot)・K
brk・V
brk
…(2)
ただし、signは符号関数であり、引数が正の場合は「1」を、負の場合は「−1」を、0の場合は「0」を返すものとする。さらに、前後進スイッチ信号V
FNRは、前後進スイッチが前進方向の場合は「1」を、後進方向の場合は「−1」を、中立の場合は「0」を示す。K
brkは比例定数であり、ブレーキペダルの操作によって過不足のない減速が得られるように予め設定されている。
【0047】
走行要求演算部130には、コンバータ4で検出されるDC電圧V
DCと、走行インバータ8F,8Rで検出される走行直流電流(DC電流)I
DC_motが入力されている。ただし、走行DC電流は走行インバータ8F,8Rの電力線側を流れるDC電流であり、消費側を正とし、回生側を負とする。走行要求演算部130は、DC電圧V
DCと、走行DC電流I
DC_motとを用いて、以下の(3)式により走行要求出力P
wr_drv_reqを算出する。
P
wr_drv_req=V
DC・I
DC_mot …(3)
(3)式によれば、回生運転時の走行要求出力P
wr_drv_reqは負の値をとる。
【0048】
−出力管理部140−
出力管理部140には、エンジンコントローラ2からのエンジン回転数N
engと、蓄電管理部110からの許容充電電力P
wr_chg_maxと、油圧要求演算部120からの油圧要求出力P
wr_pmp_reqと、走行要求演算部130からの走行要求出力P
wr_drv_reqとが入力される。
出力管理部140は、(4)式に基づいて余剰電力P
wr_supを算出する。また、(5)式に基づいて傾転角増加指令dD
pmpを算出して出力し、(6)式に基づいて回生電力低減指令dP
wr_mot_tを算出して出力し、(8)式に基づいて発電出力指令P
wr_gen_tを算出して出力し、(9)式に基づいてエンジン出力指令P
wr_eng_tを算出して出力する。
なお、出力管理部140は、エンジン回転数を受信して演算に用いているが、エンジン1、発電電動機5および油圧ポンプ9が機械的に接続されているため、エンジン回転数に代えて発電電動機5および油圧ポンプ9の回転数をセンサ等を介して適宜受信して演算に用いてもよい。
【0049】
(余剰電力)
出力管理部140は、走行要求演算部130で(3)式で算出した走行要求出力P
wr_drv_reqを受信する。この走行要求出力P
wr_drv_reqが0以上であれば、出力管理部140はハイブリッド式作業車両200が力行運転中と判断し、走行要求出力P
wr_drv_reqが負であればハイブリッド式作業車両200が回生運転中と判断する。ハイブリッド式作業車両200が回生運転中と判断すると、出力管理部140は、蓄電管理部110からの許容充電電力P
wr_chg_maxと、走行要求演算部130からの走行要求出力P
wr_drv_reqとを用いて、以下の(4)式により、余剰電力P
wr_supを算出する。
P
wr_sup=max(|P
wr_drv_req|−P
wr_chg_max,0)…(4)
【0050】
回生時の走行要求出力P
wr_drv_reqの絶対値が許容充電電力P
wr_chg_maxより大きいとき、その差が余剰電力P
wr_supとして計算される。
すなわち、余剰電力P
wr_supとは、回生運転中の走行電動機7F,7Rによる回生電力がキャパシタ3に充電可能な許容充電電力を上回っている電力である。したがって、この余剰電力は、発電電動機5を駆動して消費するか、あるいは、回生電力自体を低減して余剰電力自体を低減する必要がある。
余剰電力P
wr_supの消費は、(10)式で算出される発電電動機トルク指令T
rq_gen_tにより発電電動機5を駆動することで消費される。また、余剰電力P
wr_supは、エンジン回転数N
engとその第2閾値N
eng_th2との差(N
eng−N
eng_th2)から(6)式で算出される回生電力低減指令により低減される。この点は後に詳述する。
【0051】
出力管理部140は、算出した余剰電力P
wr_supが0か否かを監視することで、走行電動機7F,7Rで発生した全ての回生電力をキャパシタ3に充電可能か否か、すなわち余剰電力P
wr_supが発生するか否かを判定する。ただし、力行運転中と判断されている場合には、余剰電力P
wr_supは0に設定される。
すなわち、出力管理部140は、(4)式で算出される余剰電力P
wr_supから以下のことを認識することができる。
(a)余剰電力P
wr_supが0のときは、回生電力でキャパシタ3を充電することができると認識する。
(b)余剰電力P
wr_supが0ではないときは、回生電力でキャパシタ3を充電することができないと認識する。
出力管理部140は(b)を認識すると、発電電動機5を電動モードで駆動して回生電力を消費するか、もしくは、回生電力低減指令により余剰電力自体を低減する。
【0052】
(エンジン回転数判定)
出力管理部140は、ハイブリッド式作業車両200が回生運転中と判断すると、エンジン1の回転数N
engが第1設定閾値N
eng_th1以下であるか、さらに第2設定閾値N
eng_th2以下であるかを判定する。ここで、第1設定閾値N
eng_th1および第2設定閾値N
eng_th2は、「エンジン1のアイドル回転数<第1設定閾値N
eng_th1<第2設定閾値N
eng_th2<min(エンジン1の最高回転数、油圧ポンプ9の最高回転数)」を満たすように設定されている。第1設定閾値N
eng_th1および第2設定閾値N
eng_th2は、メインコントローラ100の記憶装置に記憶され、必要に応じて適宜再設定が可能である。なお、エンジン1の回転数に代えて、発電電動機5の回転数を用いても良いし、油圧ポンプ9の回転数を用いても良い。
【0053】
出力管理部140は、入力されたエンジン1の回転数と第1設定閾値N
eng_th1と第2設定閾値N
eng_th2とを比較して、エンジン1が低回転モードか、回転抑制モードか、高回転モードかを判定する。この場合、エンジン1の回転数N
engが第1設定閾値N
eng_th1以下であれば、出力管理部140はエンジン1を低回転モードと判定する。エンジン1の回転数N
engが第1設定閾値N
eng_th1よりも大きく第2設定閾値N
eng_th2以下であれば、出力管理部140はエンジン1を回転抑制モードと判定する。エンジン1の回転数N
engが第2設定閾値N
eng_th2よりも大きい場合は、出力管理部140はエンジン1を高回転モードと判定する。
【0054】
なお、ハイブリッド式作業車両200が力行運転中と判断された場合には、出力管理部140は、エンジン回転数N
engの大小にかかわらず、エンジン1を通常モードと判定する。
以上のように、この実施の形態のハイブリッド作業車両200ではエンジン1の運転モードを以下の4つのモードに分類している。
回生運転時は、低回転モードと、回転抑制モードと、高回転モードに分類し、力行運転時は、通常モードに分類する。
【0055】
(掘削装置動作判定)
出力管理部140は、油圧要求演算部120で(1)式から算出された油圧要求出力P
wr_pmp_reqに基づいて、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14のいずれが動作中であるかを判定する。油圧要求出力P
wr_pmp_reqが、たとえばポンプ圧力×最小吐出流量で算出される設定値以上であれば、出力管理部140はリフトシリンダ13およびバケットシリンダ14が動作中であると判定する。
【0056】
なお、油圧要求出力P
wr_pmp_reqに代えて、操作装置31の操作を検出してリフトシリンダ13およびバケットシリンダ14のいずれが動作中であるかを判定してもよい。この場合、操作装置31からレバー信号が出力されていることを検出するセンサ、たとえば、レバー信号が油圧信号の場合は圧力センサを設け、出力管理部140は、センサによって検出された検出値を用いて上記シリンダ13〜14のいずれかが動作中であると判定すればよい。また、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14の伸縮速度を検出するセンサを設け、出力管理部140は、センサにより検出された検出速度を用いて判定してもよい。
【0057】
(傾転角増加指令)
さらに、出力管理部140は、以下の3つの条件(i)〜(iii)を満たす場合に、油圧ポンプ9の傾転角を増加するための傾転角増加指令dD
pmp_tを下記(5)式にしたがって算出する。
(i)ハイブリッド式作業車両200が回生運転中と判定されている。
(ii)走行電動機7F,7Rの余剰電力で発電電動機5が駆動されているとき、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14のいずれも動作中でないと判定されている。
(iii)エンジン1が高回転モードと判定されている。
【0058】
出力管理部140は、エンジンコントローラ2から入力されたエンジン回転数N
engと、第1設定閾値N
eng_th1とを用いて、以下の(5)式により傾転角増加指令dD
pmp_tを算出する。
dD
pmp_t=max{K
nD(N
eng−N
eng_th1),0}…(5)
ただし、K
nDは、第1設定閾値N
eng_th1と実回転数N
engの差から傾転角増加指令を算出する比例定数であり、あらかじめメインコントローラ100に記憶されている。
【0059】
なお、走行電動機7F,7Rの余剰電力で電動発電機5が駆動されている場合であっても、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14のいずれかが動作中である場合には、出力管理部140は傾転角増加指令dD
pmp_tを0に設定する。また、力行運転中と判定された場合には、出力管理部140は傾転角増加指令dD
pmp_tを0に設定する。さらに、回生運転中、回生電力の全量がキャパシタ3に充電することができず余剰電力が0でなく、かつ、油圧ポンプ9の負荷が小さいときには、出力管理部140は、(5)式で算出された傾転角増加指令dD
pmp_tを出力する。その結果、油圧ポンプ9の傾転角が大きくなって余剰電力の消費量が増加する。
【0060】
回生運転中に上記の(5)式に基づいて傾転角増加指令dD
pmp_tが算出された場合、エンジン回転数N
engが高くなるほど傾転角増加指令dD
pmp_tが大きくなり、油圧ポンプ9の吐出容量が大きくなる。この結果、エンジン回転数N
engが高くなるほど、油圧ポンプ9の負荷トルク、すなわち回生電力消費量を大きくすることができる。その結果、回生制動力も大きくなる。
【0061】
(回生電力低減指令)
出力管理部140は、走行電動機7F,7Rの余剰電力で発電電動機5が駆動され、かつエンジン1が高回転モードと判定された場合に、走行電動機7F,7Rが発電する回生トルクを低減するための回生電力低減指令dP
wr_mot_tを算出する。出力管理部140は、エンジンコントローラ2から入力されたエンジン回転数N
engと、第2設定閾値N
eng_th2とを用いて、以下の(6)式により回生電力低減指令(回生電力低減目標値)dP
wr_mot_tを算出する。
dP
wr_mot_t=max{K
nP(N
eng−N
eng_th2),0}…(6)
なお、(6)式において、K
nPは、第2設定閾値N
eng_th2と実エンジン回転数N
engとの差から回生電力低減指令を算出する比例定数である。
エンジン1が通常モード、低回転モード、回転抑制モードのいずれかの場合には、出力管理部140は回生電力低減指令dP
wr_mot_tを0に設定する。
【0062】
上記の(6)式に基づいて回生電力低減指令dP
wr_mot_tが算出されると、エンジン回転数N
engが高くなるほど、回生電力低減指令dP
wr_mot_tが大きくなり、走行電動機7F,7Rの回生電力が小さくなる。この結果、エンジン回転数N
engが高くなるほど、余剰電力P
wr_supを小さくすることができる。
この回生電力低減指令制御は、エンジン1の回転数が高速域で走行しているときに、例えば、アクセルペダルを解放して作業車両200が回生運転に入るような場合にて、余剰電力P
wr_supが大きすぎることに伴うエンジン回転数N
engの過回転を防止することができる。
【0063】
(消費電力)
出力管理部140は、ハイブリッド式作業車両200が回生運転中であると判定した場合に、走行電動機7F,7Rで発生する回生電力のうち発電電動機5で消費すべき電力である消費電力P
wr_cnsを算出する。出力管理部140は、(4)式で算出した余剰電力P
wr_supと、(6)式で算出した回生電力低減指令dP
wr_mot_tとを用いて、以下の(7)式から消費電力P
wr_cnsを算出する。
P
wr_cns=max(P
wr_sup−dP
wr_mot_t,0)…(7)
ただし、出力管理部140は、ハイブリッド式作業車両200が力行運転中と判定した場合には、消費電力P
wr_cnsを0に設定する。
【0064】
上記の(7)式を用いて消費電力P
wr_cnsを算出すると、出力管理部140は、走行要求出力P
wr_drv_reqと消費電力P
wr_cnsに基づいて、以下の式(8)から発電出力指令(発電出力目標値)P
wr_gen_tを算出する。
P
wr_gen_t=max(P
wr_drv_req,0)−P
wr_cns …(8)
【0065】
力行運転時と回生運転時に(8)式で算出される発電出力指令P
wr_gen_tをまとめると以下のとおりである。
力行運転時、消費電力P
wr_cnsは0に設定され、また、走行要求出力P
wr_drv_reqは正の値をとるので、(8)式の発電出力指令P
wr_gen_tは、(3)式で算出される走行要求出力P
wr_drv_reqとなる。一方、回生運転時、走行要求出力P
wr_drv_reqは負の値をとるので、(8)式の発電出力指令P
wr_gen_tは、(7)式で算出される消費電力P
wr_cnsとなる。
換言すると、力行時の発電出力指令P
wr_gen_tは走行要求出力P
wr_drv_reqであり、回生時の発電出力指令P
wr_gen_tは消費電力P
wr_cnsであり、負の値をとる。
【0066】
出力管理部140は、油圧要求演算部120からの油圧要求出力P
wr_pmp_reqと、(8)式で算出した発電出力指令P
wr_gen_tとを用いて、以下の(9)式によりエンジン出力指令(エンジン出力目標値)P
wr_eng_tを算出する。
P
wr_eng_t=P
wr_pmp_req+P
wr_gen_t …(9)
【0067】
力行運転時と回生運転時に(9)式で算出されるエンジン出力指令P
wr_eng_tをまとめると以下のとおりである。
力行運転時、出力管理部140が算出するエンジン出力指令P
wr_eng_tは、ポンプ要求流量q
pmp_reqとポンプ圧力p
pmpとの積である油圧要求出力P
wr_pmp_req((1)式で算出される)に、(8)式で算出した走行要求出力P
wr_drv_reqである発電出力指令P
wr_gen_tを加算したものとなる。
回生運転時、出力管理部140が算出するエンジン出力指令P
wr_eng_tは、ポンプ要求流量q
pmp_reqとポンプ圧力p
pmpとの積である油圧要求出力P
wr_pmp_req((1)式で算出される)に、(7)式で算出した消費電力P
wr_cnである発電出力指令P
wr_gen_tを加算したものとなる。
換言すると、力行時のエンジン出力指令P
wr_eng_tは油圧要求出力P
wr_pmp_reqに走行要求出力P
wr_drv_reqを加算したものであり、回生時のエンジン出力指令P
wr_eng_tは油圧要求出力P
wr_pmp_reqから消費電力P
wr_cnsを減算したものである。油圧要求出力P
wr_pmp_reqが0の場合、エンジン出力指令P
wr_eng_tは消費電力P
wr_cnsとなる。
【0068】
−目標回転数演算部150−
目標回転数演算部150は、エンジンコントローラ2に送信するエンジン回転数指令、すなわちエンジン回転数目標値N
eng_tを算出する。目標回転数演算部150は、出力管理部140で算出されたエンジン出力指令P
wr_eng_tが正の場合、エンジン等燃費マップを用いて、最もエンジン効率が高くなる動作点を算出する。そして、目標回転数演算部150は、算出した動作点でのエンジン回転数をエンジン回転数指令N
eng_tとする。エンジンコントローラ2は、エンジン回転数指令N
eng_tを目標回転数演算部150から受信すると、そのエンジン回転数指令が示すエンジン回転数でエンジン1を回転させる。
【0069】
回生時、(9)式により出力管理部140で算出されたエンジン出力指令P
wr_eng_tが負となる。この場合、蓄電管理部110から出力されるエンジン回転数下限値とエンジン回転数の第1低減率または第2低減率に基づいて、目標回転数演算部150はエンジン回転数指令N
eng_tを算出する。ただし、エンジン回転数指令N
eng_tが第2設定閾値N
eng_th2を超える場合、第2設定閾値N
eng_th2がそのままエンジンコントローラ2へ送信される。
【0070】
−発電電動機制御部160−
発電電動機制御部160には、エンジンコントローラ2からのエンジン回転数N
engと、出力管理部140からの発電出力指令P
wr_gen_tと、目標回転数演算部150からのエンジン回転数指令N
eng_tとが入力される。発電電動機制御部160は、これらの値を用いて、以下の(10)式によって発電電動機トルク指令(発電電動機トルク目標値)T
rq_gen_tを算出する。
T
rq_gen_t=max{K
p(N
eng_t−N
eng),0}−P
wr_gen_t/N
eng…(10)
ただし、K
pは、エンジン回転数N
engとエンジン回転数指令N
eng_tとの差から発電電動機トルクを算出する比例定数である。
そして、発電電動機制御部160は、算出した発電電動機トルク指令T
rq_gen_tを発電インバータ6へ送信する。これにより、発電電動機5が駆動制御される。
【0071】
力行運転時と回生運転時に(10)式で算出される発電電動機トルク指令T
rq_gen_tをまとめると以下のとおりである。
力行運転時、エンジン回転数指令N
eng_tはエンジン回転数N
engより大きい。したがって、力行運転時、発電電動機制御部160は、K
p(N
eng_t−N
eng)で求めた要求トルクから、エンジン出力指令P
wr_eng_tをエンジン回転数N
engで除して得られるトルクを減算することにより、発電電動機トルク指令T
rq_gen_tを算出する。力行運転時のエンジン出力指令P
wr_eng_tは、油圧要求出力P
wr_pmp_reqに走行要求出力P
wr_drv_reqを加算したものである。
一方、回生運転時、エンジン回転数指令N
eng_tはエンジン回転数N
engより小さい。また、回生時のエンジン出力指令P
wr_eng_tは油圧要求出力P
wr_pmp_reqに消費電力P
wr_cnsを加算したものである。したがって、回生運転時に発電電動機制御部160が算出する発電電動機トルク指令T
rq_gen_tは、油圧要求出力P
wr_pmp_reqから消費電力P
wr_cnsを減算した値をエンジン回転数N
engで除して得られるトルクとなる。
【0072】
−傾転角制御部170−
傾転角制御部170は、下記の(11)式に基づいて傾転角制御信号V
Dp_tを算出して、この傾転角制御信号に基づいて油圧ポンプ9の図示しないレギュレータを駆動することによって、油圧ポンプ9の傾転角、すなわち容量を制御する。傾転角制御部170は、エンジンコントローラ2からのエンジン回転数N
engと、油圧要求演算部120からのポンプ要求流量q
pmp_reqと、出力管理部140からの傾転角増加指令dD
pmp_tとを用いて、以下の(11)式によって傾転角制御信号V
Dp_tを算出する。
V
Dp_t=K
Dp{(q
pmp_req/N
eng)+dD
pmp_t} …(11)
なお、K
Dpは、油圧ポンプの傾転角を目標値とするために必要な傾転制御信号を算出するための比例定数である。
また、力行運転中と判定された場合には、出力管理部140は傾転角増加指令dD
pmp_tを0に設定する。さらに、回生運転中、回生電力の全量がキャパシタ3に充電することができず余剰電力が0でなく、かつ、油圧ポンプ9の負荷が小さいときには、出力管理部140は、(5)式で算出された傾転角増加指令dD
pmp_tを出力する。その結果、油圧ポンプ9の傾転角が大きくなって余剰電力の消費量が増加する。
【0073】
傾転角増加指令dD
pmp_tが0の場合、すなわち、(1)力行運転中と判定された場合、または、(2)走行電動機7F,7Rの余剰電力で発電電動機5が駆動され、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14のいずれかが動作中の場合には、傾転角制御信号V
Dp_tが以下のように設定される。すなわち、操作装置31を介してオペレータから要求されるポンプ要求流量に実際のポンプ吐出流量が保持されるように傾転角制御信号V
Dp_tが設定される。したがって、油圧ポンプ9の傾転角は、油圧ポンプ9の吐出量がオペレータによって要求する値(ポンプ要求流量)に保持されるように、エンジン1、発電電動機5または油圧ポンプ9の回転数の増加に合わせて小さくなるように制御される。
【0074】
−走行電動機・ブレーキ制御部180−
走行電動機・ブレーキ制御部180には、走行要求演算部130で(2)式から算出された走行要求トルクT
rq_drv_reqと、回転数センサ22からの走行電動機回転数N
motと、出力管理部140で(6)式から算出された回生電力低減指令dP
wr_mot_tとが入力されている。走行電動機・ブレーキ制御部180は、これらの値を用いて、以下の(12)式によって走行電動機トルク指令T
rq_mot_tを算出する。
T
rq_mot_t=sign(T
rq_drv_req)・max{|T
rq_drv_req|
−(dP
wr_mot_t)/|N
mot|,0} …(12)
ただし、signは符号関数であり、引数が正の場合は1を、負の場合は「−1」を、0の場合は「0」を返すものとする。
【0075】
走行電動機・ブレーキ制御部180は、算出した走行電動機トルク指令T
rq_mot_tを走行インバータ8F,8Rに送信する。これにより、走行電動機7F,7Rの力行・回生が制御される。すなわち、走行電動機・ブレーキ制御部180は、アクセルペダル踏込量と、ブレーキペダル踏込量と、選択された速度段とに基づいて(2)式で算出した走行要求トルクT
rq_drv_reqの絶対値を算出する。力行運転時、走行要求トルクT
rq_drv_reqは正、回生電力低減指令dP
wr_mot_tがゼロなので、(12)式で算出される走行電動機トルク指令T
rq_mot_tは走行要求トルクT
rq_drv_reqとなる。
【0076】
回生運転時、回生電力の全量をキャパシタ3に充電することができず余剰電力が0でなく、かつ、エンジンが第2設定閾値N
eng_th2以上の高速で運転されているとき(エンジンが高速モードのとき)、(6)式から回生電力低減指令値dP
wr_mot_tが算出される。走行要求トルクの絶対値|T
rq_drv_req|から、回生電力低減指令dP
wr_mot_tを走行電動機回転数N
motの絶対値で除して求めた回生電力低減トルクを減算する。この減算結果は、走行要求トルクT
rq_drv_reqが負のときは負の値となり、負の値を有する走行電動機トルク指令T
rq_mot_t、すなわち、回生制動トルク指令となる。
【0077】
また、走行電動機・ブレーキ制御部180は、(12)式から算出した走行電動機トルク指令T
rq_mot_tと、走行要求トルクT
rq_drv_reqと、走行電動機回転数N
motとを用いて、以下の(13)式により制動トルク指令T
rq_brk_tを算出する。
T
rq_brk_t=max{−sign(N
mot)・(T
rq_drv_req−T
rq_mot_t),0}
…(13)
ただし、signは符号関数であり、引数が正の場合は1を、負の場合は「−1」を、0の場合は「0」を返すものとする。
【0078】
(13)式により制動トルク指令T
rq_brk_tは次のように算出される。まず、アクセルペダル踏込量と、ブレーキペダル踏込量と、選択された速度段とに基づいて(2)式で算出した走行要求トルクT
rq_drv_reqから、(12)式で算出した走行電動機トルク指令T
rq_mot_tが減算される。力行運転時、走行電動機トルク指令T
rq_mot_tは走行要求トルクT
rq_drv_reqであるから、制動トルク指令T
rq_brk_tはゼロである。
回生運転時、走行要求トルクT
rq_drv_reqも走行電動機トルク指令T
rq_mot_tもいずれも負であり、また、走行要求トルクT
rq_drv_reqの絶対値は走行電動機トルク指令T
rq_mot_tの絶対値よりも大きいので、(T
rq_drv_req−T
rq_mot_t)は負である。符号関数{−sign(N
mot)}は電動機が前進(正転)しているときは「−1」、電動機が後進(逆転)しているときは「1」である。したがって、前進時の回生運転時は、{−sign(N
mot)・(T
rq_drv_req−T
rq_mot_t)}が正となり、この正の値が回生運転時の制動トルク指令T
rq_brk_tとして選択されて使用される。
【0079】
−ブレーキ制御部190−
走行電動機・ブレーキ制御部180で演算された制動トルク指令T
rq_brk_tから次式(14)を用いてブレーキ制御信号V
brk_tを演算する。
V
brk_t=K
brkT
rq_brk_t …(14)
ただし、K
brkは、制動トルク指令T
rq_brk_tと油圧ブレーキの実際の制動トルクとが一致するように予め設定された比例定数である。
ブレーキ制御信号V
brk_tに基づいて油圧ブレーキ制御弁35a,35bが駆動され、油圧ブレーキ36a,36bが車輪18を制動する。これが回生協調時の機械的ブレーキ力である。
【0080】
−メインコントローラ100の処理−
以下、メインコントローラ100により行われる処理について詳細に説明する。以下の説明は、ハイブリッド式作業車両200が力行運転中の場合と、回生運転中の場合とに分けて行う。
−力行運転の場合−
力行運転時に走行電動機・ブレーキ制御部180から出力される走行電動機トルク指令値T
rq_mot_tを説明する。上述したように、走行電動機トルク指令値T
rq_mot_tは(12)式から算出される。力行運転時、走行電動機・ブレーキ制御部180は、走行電動機トルク指令値T
rq_mot_tとして、走行要求トルク指令T
rq_drv_reqを出力する。走行用インバータ8F,8Rはこの走行要求トルク指令T
rq_drv_reqにより駆動され、走行電動機7F,7Rは要求されたトルクを出力する。
【0081】
メインコントローラ100の出力管理部140は、上述したように、走行要求演算部130で算出された走行要求出力値P
wr_drv_reqが0以上の場合に、ハイブリッド式作業車両200が力行運転中と判断する。そして、メインコントローラ100は、走行電動機7F,7Rに必要な電力を供給するために、(8)式により発電出力指令P
wr_gen_tおよび(9)式によりエンジン出力指令P
wr_eng_tを算出する。発電出力指令P
wr_gen_tにより発電電動機6が駆動され、エンジン出力指令P
wr_eng_tによりエンジンが駆動制御される。
【0082】
走行電動機・ブレーキ制御部180は上述した(13)式により制動トルク指令値T
rq_brk_tを算出する。上述したように、力行運転時、(13)式から算出され制動トルク指令値T
rq_brk_tはゼロである。
【0083】
−回生運転の場合−
回生時に走行電動機・ブレーキ制御部180から出力される走行電動機トルク指令値T
rq_mot_tを説明する。上述したように、走行電動機トルク指令値T
rq_mot_tは(12)式から算出される。回生時、走行要求トルクT
rq_drv_reqは負であり、回生電力低減指令値dP
wr_mot_tが所定値となる。走行要求トルクの絶対値|T
rq_drv_req|から、回生電力低減指令値dP
wr_mot_tを走行電動機回転数N
motの絶対値で除して求めた回生電力低減トルクを減算した値の負の値が走行電動機トルク指令値T
rq_mot_tとなる。これが回生制動トルクである。インバータ8F,8Rはこの回生制動トルク指令に基づいて駆動され、走行電動機7F,7Rからの回生電力を取り出し、発電機インバータ6により発電電動機6を駆動制御する。
【0084】
メインコントローラ100の出力管理部140は、上述したように、走行要求演算部130で算出された走行要求出力値P
wr_drv_reqが負の場合に、ハイブリッド式作業車両200が回生運転中と判断する。この場合、メインコントローラ100の出力管理部140は、走行電動機7F,7Rで発電された回生電力をキャパシタ3および発電電動機5へ配分するために、(8)式により発電出力指令値P
wr_gen_t、(9)式によりエンジン出力指令値P
wr_eng_t、(5)式より傾転角増加指令dD
pmp_t、(6)式より回生電力低減指令値dP
wr_mot_tを算出する。発電出力指令値P
wr_gen_tにより発電電動機6が駆動され、エンジン出力指令値P
wr_eng_tによりエンジンが駆動制御される。傾転角増加指令dD
pmp_tによりポンプレギュレータが駆動制御される。
【0085】
メインコントローラ100の出力管理部140は、上述した(4)式を用いて算出した余剰電力P
wr_supが0の場合には、キャパシタ3への充電が可能と判断する。そして、回生運転時、発電電動機制御部160は、(10)式にしたがって、発電電動機トルク指令値T
rq_gen_tを算出する。すなわち、回生運転時の発電電動機トルク指令値T
rq_gen_tは、エンジン回転数指令値N
eng_tと実エンジン回転数との差分に定数を乗じて得たトルクから、発電出力指令値P
wr_gen_tをエンジン回転数N
engで除して得られるトルクを減算した値となる。メインコントローラ100が(10)式で算出された発電電動機トルク指令値T
rq_gen_tにより発電インバータ6を駆動し、発電電動機5が回生電力により電動機モードで回生電力を消費する。
【0086】
出力管理部140は、回生運転中に算出した余剰電力P
wr_supが0以外の場合には、キャパシタ3への充電ができないと判断する。この場合、出力管理部140は、エンジン1が低回転モードか、回転抑制モードか、高回転モードかを判定した後、余剰電力P
wr_supのうち発電電動機5で消費すべき電力である消費電力P
wr_cnsを算出する。各モードでの消費電力P
wr_cnsは次のとおりである。
【0087】
−−低回転モード−−
エンジン1が低回転モードの場合、すなわちエンジン1の回転数N
engが第1設定閾値N
eng_th1以下の場合、出力管理部140は、余剰電力P
wr_supと、回生電力低減指令値dP
wr_mot_tとを用いて、上記の(7)式から消費電力P
wr_cnsを算出する。上述したように、エンジン1が低回転モードの場合には、出力管理部140は回生電力低減指令値dP
wr_mot_tを0に設定するので、低回転モードの場合には、余剰電力P
wr_supが消費電力P
wr_cnsとなる。
【0088】
−−回転抑制モード−−
エンジン1が回転抑制モードの場合、出力管理部140は、ステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14のいずれも動作中でなければ傾転角増加処理を行った後、上記の式(7)から消費電力P
wr_cnsを算出する。傾転角増加処理では、出力管理部140は、エンジン回転数N
engと、第1設定閾値N
eng_th1とを用いて、上記の式(5)により傾転角増加指令dD
pmp_tを算出する。そして、出力管理部140は、低回転モードの場合と同様に上記の式(7)から消費電力P
wr_cnsを算出する。上述したように、エンジン1が回転抑制モードの場合には、出力管理部140は回生電力低減指令値dP
wr_mot_tを0に設定するので、回転抑制モードの場合においても、余剰電力P
wr_supが消費電力P
wr_cnsとなる。
【0089】
−−高回転モード−−
エンジン1が高回転モードの場合、出力管理部140は、回生電力低減処理を行った後、上記の式(7)から消費電力P
wr_cnsを算出する。回生電力低減処理では、出力管理部140は、エンジン回転数N
engと、第2設定閾値N
eng_th2とを用いて、上記の式(6)により回生電力低減指令値dP
wr_mot_tを算出する。なお、高回転モードの場合であっても、出力管理部140は、ステアリングシリンダ12、リフトシリンダ13およびバケットシリンダ14のいずれも動作中でなければ、回転抑制モードの場合と同様に傾転角増加処理を行う。
【0090】
上述したように、低回転モード、回転抑制モード、高回転モードのいずれかにおいて消費電力P
wr_cnsが算出されると、出力管理部140は、上記の(8)式を用いて発電出力指令値P
wr_gen_tを算出する。発電電動機制御部160は、エンジン回転数N
engと、出力管理部140により算出された発電出力指令値P
wr_gen_tと、エンジン回転数指令値N
eng_tとを用いて、上記の(10)式によって発電電動機トルク指令値T
rq_gen_tを算出する。そして、発電電動機制御部160は、算出した発電電動機トルク指令値T
rq_gen_tを発電インバータ6へ送信することによって、発電電動機5を制御する。その結果、余剰電力により生じるトルクが適宜減じられたトルク値によって発電電動機5が駆動される。
【0091】
発電出力指令値P
wr_gen_tが算出されると、出力管理部140は、油圧要求演算部120からの油圧要求出力値P
wr_pmp_reqと、発電出力指令値P
wr_gen_tとを用いて、上記の(9)式によりエンジン出力指令値P
wr_eng_tを算出する。目標回転数演算部150は、出力管理部140で算出されたエンジン出力指令値P
wr_eng_tに基づいて、上述したように、エンジン等燃費マップを用いて算出したエンジン回転数を算出する。このエンジン回転数は、エンジン回転数下限値とエンジン回転数低減率に基づいて次のように制御される。
すなわち、あらかじめ車体速度、速度段、アクセル踏込量、モード、キャパシタ容量すなわち開放電圧に基づいて算出されたエンジン回転数下限値を下回らないようにエンジン回転数が制御される。さらに、予め定めたエンジン回転数低減率でエンジン回転数が低減するように、エンジン回転数指令N
eng_tが算出される。このエンジン回転数指令N
eng_tがエンジンコントローラ2に送出される。エンジンコントローラ2は、エンジン回転数指令値N
eng_tを目標回転数演算部150から受信すると、そのエンジン回転数指令値が示すエンジン回転数でエンジン1を回転させる。
以上の処理がエンジン回転数を目標値に制御する手順である。
【0092】
次に、アクセルペダルを開放した際のエンジン回転数の低減制御について説明する。
図11は、アクセル時刻T0でアクセルペダルを開放した場合のエンジン回転数と時間との関係を模式的に示す図である。
図11(a)においては、L1は、エンジン回転数がR1のとき、すなわち時刻T0でアクセルペダルがオフ操作された場合におけるエンジン回転数と時間との関係を示し、L2は、エンジン回転数がR2(<R1)のときに、すなわち時刻T0でアクセルペダルがオフ操作された場合におけるエンジン回転数と時間との関係を示す。L3は、エンジン回転数低減率が本発明のものと比べて大きい比較例において、エンジン回転数がR1のときに、すなわち時刻T0でアクセルペダルがオフ操作された場合のエンジン回転数と時間との関係を示す。なお、
図11では、説明の都合上、特性L1〜L3において、エンジン回転数下限に対応するエンジン回転数がRminであるものとする。
L3は、無負荷でエンジンを減速させる際に回転数が低減する割合でエンジン回転数が減小する場合の線である。ここでエンジン無負荷とは、たとえば、油圧ポンプ9の押除け容積が最小、発電電動機5の負荷が最小の状態である。上述した第2低減率はたとえばL3のようにエンジン回転数が減少する低減率である。
【0093】
上述したように、エンジン回転数下限値演算部820で設定されるエンジン回転数の減少率は、上述したように、減速後に増速開始されたときのPM削減を狙って設定している。このような観点で設定されるエンジン回転数低減率よりも大きい低減率と比較する。
図11の特性L1ではアクセルペダルのオフ操作後の時間T1でエンジン回転数Rminに到達し、特性L3では時間T4(<T1)でエンジン回転数Rminに到達する。
図11(a)に示すように、比較例として示す特性L3では大きな減少率でエンジン回転数が減少するのに対して、特性L1ではなだらかにエンジン回転数が減少する。換言すると、特性L1においては、アクセルペダルがオフ操作されてから所定時間(たとえば時間T3(<T1))が経過するまでは、所定のエンジン回転数以上の範囲(たとえばR3(<R1))でエンジン回転数が低下する。このため、時間T3(T4<T3<T1)においてアクセルペダルがオン操作された場合、特性L1では、エンジン回転数R3(Rmin<R3<R1)からアクセルペダルの操作に応じたエンジン回転数まで増加する(特性L1’)のに対し、特性L3ではエンジン回転数Rminから増加(特性L3’)する必要がある。すなわち、特性L1は特性L3と比較して、エンジン回転数変動(R3−Rmin)に相当して発生するPMの抑制と、燃費の低減が可能になる。
【0094】
さらに、エンジン回転数の低減率は、アクセルペダルがオフ操作されたり、踏み戻されたときのエンジン回転数、すなわち減速開始エンジン回転数にかかわらず一定の率に設定される。したがって、特性L1および特性L2において、エンジン回転数の減少率を示す傾きは同一であり、特性L2においても特性L1と同様になだらかにエンジン回転数が減少し、時間T2(T4<T2<T1)でエンジン回転数Rminに到達する。このため、時間T3(T4<T3<T2)においてアクセルペダルがオン操作された場合、特性L2では、エンジン回転数R4(Rmin<R4<R2)からアクセルペダルの操作に応じたエンジン回転数まで増加させることができる。すなわち、特性L3と比較して、エンジン回転数(R4−Rmin)に相当して発生するPMの抑制と、燃費の低減が可能になる。
【0095】
上述した実施の形態によるハイブリッド式ホイールローダによれば、次の作用効果が得られる。
(1)ハイブリッド式ホイールローダは、エンジン1で駆動される発電電動機5と、発電電動機5の電力で駆動される走行電動機7F,7Rと、回生時に走行電動機7F,7Rが発電する電力で充電される蓄電素子、すなわちキャパシタ3と、エンジン
1で駆動される可変容量油圧ポンプ9と、可変容量油圧ポンプ9から吐出される圧油で駆動される油圧アクチュエータ、すなわちリフトシリンダやバケットシリンダ13,14と、要求トルク指令を出力するアクセルペダル(不図示)と、ポンプ要求流量指令を出力する操作装置31と、要求トルク指令とポンプ要求流量指令に基づいてエンジン1の回転数と可変容量油圧ポンプ9の押除け容積を演算し、この演算結果によりエンジン1の回転数と可変容量油圧ポンプ9の押除け容積を制御するとともに、発電電動機5、走行電動機7F,7R、蓄電素子3の充放電を制御する制御部、すなわちメインコントローラ100とを備える。
そして、メインコントローラ100は、減速時において、無負荷でエンジン1を減速させる際に回転数が低減する割合よりも小さい割合でエンジン回転数を低減させる。したがって、前進、掘削、後進を繰り返す作業が行われる場合に、増速時にエンジン回転数が下限まで到達する可能性が少なくなり、エンジン回転数下限値からエンジン回転数を増加させる場合と比較して、PM排出量を低減し、燃費を抑制することが可能となる。さらには、高負荷作業を行うために必要となるエンジン回転数に増加するまでの時間を短縮できるので、速やかに高負荷作業に移行可能となり、作業効率の向上に寄与する。
【0096】
(2)実施形態のハイブリッド式ホイールローダでは、回生時のエンジン回転数の低減の割合は、減速開始時のエンジン回転数にかかわらず一定である。減速開始時のエンジン回転数によらず小さな低減率にてエンジン回転数を減少させることができるので、アクセルオフ時の減速感が高速度でも低速度でも違和感がない。
【0097】
(3)実施形態のハイブリッド式ホイールローダでは、エンジン回転数下限値演算部820が運転状態に基づいてエンジン回転数下限値を演算し、エンジン回転数下限値以下にならないようにエンジン回転数を制御する。減速と増速を繰り返すハイブリッド作業車両において、エンジン回転数下限値までエンジン回転数が下がらない状態で増速する可能が多くなり、PM発生量が抑制されるとともに、燃費の低下が抑制できる。
また、減速開始時のエンジン回転数が演算されたエンジン回転数下限値を上回っているときは、エンジン1の停止時に比べて、エンジン回転数の低減の割合を小さくした。エンジン1を停止する際にはPM対策としての緩やかなエンジン低減処理は不要であり、エンジン回転数を短時間で停止させることができる。
【0098】
(4)エンジン回転数下限値演算部820は、車速に応じてエンジン回転数の上限値を決定する第1関数発生器820aと、アクセルペダルの操作量に応じてエンジン回転数の下限値を決定する第2関数発生器820bと、キャパシタ3の開放電圧に応じたエンジン回転数の下限値を決定する第3関数発生器820cと、車体速度に応じたエンジン回転数の上限値とアクセルペダル操作量に応じたエンジン回転数の下限値とのうち、いずれか小さい値を選択する最小値選択器820dと、最小値選択器820dで選択されたエンジン回転数下限値と、開放電圧に応じたエンジン回転数下限値とのうち、いずれか大きい値を選択して目標回転数演算部150に出力する最大値選択器820eと、減速開始時のエンジン回転数が選択されたエンジン回転数下限値を上回る場合にエンジン回転数の低減の割合を第1低減率に決定し、エンジン1の停止時には低減の割合を第1低減率よりも大きい第2低減率に決定して目標回転数演算部150に出力する低減率決定部820fとを備える。
燃費改善のために車体速度で決定するエンジン回転数と、応答性をよくするためアクセルペダル踏み込み量で決定されるエンジン回転数と、キャパシタ容量が小さくなってもパワーが不足することがないように開放電圧で決定されるエンジン回転数とに基づいてエンジン回転数の下限値を決定した。エンジン回転数下限値と低減率の両データを目標回転数演算部150に送り、減速開始時のエンジン回転数はその低減率で低減されるようにした。したがって、同一の処理により減速時のエンジン回転数制御に使用する情報を得ることができる。
【0099】
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
(1)以上ではエンジン回転数の低減率を緩やかに設定してPMの発生を抑制するようにした。しかし、減速開始から所定の時間が経過するまでは予め設定された所定のエンジン回転数以下にエンジン回転数が低下することを禁止させるものについても本発明の一態様に含まれる。たとえば、
図11(b)の特性L4に示すように、アクセルペダルがオフ操作されてから所定時間Txが経過するまでは、所定のエンジン回転数Rx(Rmin<Rx<R1)に制御する。このため、時間T3(T4<T3<Tx)においてアクセルペダルがオン操作された場合、エンジン回転数Rxからアクセルペダルの操作に応じたエンジン回転数まで増加させることができるので、エンジン回転数Rminから増加させる場合と比較して、エンジン回転数(Rx−Rmin)に相当して発生するPMの抑制と、燃費の低減が可能になる。なお、エンジン回転数R1からRxまでのエンジン回転数の減少率については、実施の形態の場合と同様に小さな減少率を設定しても良いし、特性L3の場合と同様に大きな減少率を設定しても良い。
【0100】
(2)エンジン回転数下限値を設定しないハイブリッド式作業車両にも本発明を適用できる。
(3)実施形態のハイブリッド式作業車両200では、一対の走行電動機7F,7Rを使用しているが、一つの走行電動機を使用した作業車両でもよい。
(4)実施形態のメインコントローラ100では、(1)式〜(14)式により、エンジン1、発電電動機5,走行電動機7F,7R、ブレーキ弁35bなどを駆動制御するようにしたが、これは一例である。異なる数式を採用して同様の装置を駆動制御するように設計されたメインコントローラを採用することもできる。
【0101】
(5)実施形態のハイブリッド式作業車両200は、1速〜3速の速度段を設定したが、1速と2速の速度段を有する作業車両でもよく、4段以上の速度段を有するようにしてもよい。
(6)エンジン1により駆動された発電電動機5によって車輪18を駆動するシリーズハイブリッド式を用いるものに代えて、エンジン1により走行駆動力を得るとともに、エンジン1により駆動された発電電動機5による電力で駆動される走行電動機を得るようにしたパラレルハイブリッド式やシリーズパラレル式のハイブリッド車両に本発明を適用してもよい。
【0102】
(7)実施形態の作業車両はホイールローダで説明したが、エンジンで駆動される発電電動機と、発電電動機の電力で駆動される走行電動機と、回生時に前記走行電動機が発電する電力で充電される蓄電素子と、エンジンで駆動される可変容量油圧ポンプと、可変容量油圧ポンプから吐出される圧油で駆動される油圧アクチュエータと、要求トルク指令を出力するアクセルペダルと、ポンプ要求流量指令を出力する操作部材と、要求トルク指令とポンプ要求流量指令に基づいてエンジンの回転数と可変容量油圧ポンプの押除け容積を演算し、この演算結果によりエンジンの回転数と可変容量油圧ポンプの押除け容積を制御するとともに、発電電動機、走行電動機、蓄電素子の充放電を制御する制御部とを備え、減速時において、無負荷でエンジンを減速させる際に回転数が低減する割合よりも小さい割合でエンジン回転数を低減させるようにした、種々のハイブリッド式作業車両に本発明を適用できる。
【0103】
本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。