特許第6243810号(P6243810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6243810反応器、反応装置及び反応生成物の生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243810
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】反応器、反応装置及び反応生成物の生成方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20171127BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   B01J19/00 321
   B81B1/00
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-143952(P2014-143952)
(22)【出願日】2014年7月14日
(65)【公開番号】特開2016-19935(P2016-19935A)
(43)【公開日】2016年2月4日
【審査請求日】2016年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 彰利
(72)【発明者】
【氏名】野一色 公二
(72)【発明者】
【氏名】松岡 亮
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−238091(JP,A)
【文献】 特開2009−112934(JP,A)
【文献】 特開2012−162495(JP,A)
【文献】 特開2006−135130(JP,A)
【文献】 特開2006−061835(JP,A)
【文献】 特開2013−056315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
B81B 1/00
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼からなり、複数の異なる原料流体を流通させながらそれらの原料流体同士を反応させる微細流路である反応流路が形成された反応流路基板と、
ステンレス鋼からなり、前記反応流路を流れる前記原料流体の温度を調節するための温調流体を流通させる微細流路である温調流路が形成された温調流路基板と、
ステンレス鋼よりも高い比熱を有する素材によって形成され、前記反応流路基板と前記温調流路基板との間に介在し、特定領域に設けられる熱保持構造体とを備え、
前記反応流路は、複数の前記原料流体が個別に導入される複数の供給流路部と、それらの複数の供給流路部の下流側の端部に繋がり、当該複数の供給流路部から流入する複数の前記原料流体を流通させながらそれらの原料流体同士を反応させる反応流路部とを有し、
前記特定領域は、前記反応流路基板と当該熱保持構造体と前記温調流路基板との積層方向から見て少なくとも複数の前記供給流路部と前記反応流路部との接続箇所を含む領であり前記特定領域に設けられる前記熱保持構造体は、前記反応流路基板の前記特定領域に対応する部分の熱容量及び前記温調流路基板の前記特定領域に対応する部分の熱容量よりも大きい熱容量を有する、反応器。
【請求項2】
前記熱保持構造体は、前記反応流路基板の厚み及び前記温調流路基板の厚みよりも大きい厚みを有する、請求項1に記載の反応器。
【請求項3】
前記反応流路基板、前記温調流路基板及び前記熱保持構造体をそれぞれ複数備え、
複数の前記反応流路基板と複数の前記温調流路基板と複数の前記熱保持構造体とは、隣り合う前記反応流路基板と前記温調流路基板との間に前記熱保持構造体を介在させた状態で互いに積層されている、請求項1または2に記載の反応器。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の反応器を備えた反応装置であって、
複数の前記原料流体を個別に前記各供給流路部へ供給する複数の供給配管と、
複数の前記原料流体のうち特定の原料流体を供給する前記供給配管である特定配管に設けられ、前記特定配管から対応する前記供給流路部へ供給される前記特定の原料流体の流量を調節する流量調節弁と、
前記特定配管から対応する前記供給流路部への前記特定の原料流体の供給と供給停止とが交互に行われるように前記流量調節弁による前記特定の原料流体の流量の調節動作を制御するコントローラとをさらに備える、反応装置。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の反応器を用い反応物を生成する方法であって、
複数の前記供給流路部にそれぞれ異なる前記原料流体を供給する原料供給工程と、
前記各供給流路部から前記反応流路部へそれぞれ前記原料流体を流入させるとともにそれらの原料流体同士を前記反応流路部において流通させながら反応させることにより前記反応生成物を生成する反応工程と、
前記温調流路に前記温調流体を流通させることにより前記反応流路部に流れる前記原料流体の温度を調節する温調工程と、を備えた反応生成物の生成方法。
【請求項6】
前記原料供給工程では、複数の前記原料流体のうち特定の原料流体の前記供給流路部への供給と供給停止とを交互に実施する、請求項に記載の反応生成物の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応器、反応装置及び反応生成物の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の異なる原料流体を流通させながらそれらの原料流体同士の反応を生じさせる微細流路を備えた反応器が知られている。下記特許文献1には、このような反応器の一例が示されている。
【0003】
特許文献1には、反応器としての流路構造体が開示されている。この流路構造体内には、原料流体同士を反応させる微細流路としての複数の流通路が設けられている。また、この流路構造体内には、流通路を流れる流体の温度を調節するための温調流体を流通させる複数の温調用流路が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−56315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、原料流体同士の化学反応では、その反応プロセスによっては温度がプロセス効率に大きな影響を及ぼす要因となる場合がある。具体的には、温度の変化により副生成物の生成が増大し、主生成物の反応収率が低下する場合がある。そして、原料流体の種類や化学反応の種類、その他の各種条件等によっては、非常に大きな反応熱が生じる場合がある。この場合には、生じた反応熱によって原料流体同士の反応時の温度条件が大きく変化し、主生成物の反応収率が低下する虞がある。
【0006】
この発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、原料流体同士の反応により生じる反応熱に起因して主生成物の反応収率が低下するのを防ぐことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、反応流路を流れる原料流体同士の反応時の温度をより精緻に制御して反応熱による原料流体の温度変化を低減することが考えられる。そのための1つの手法として、反応器に設ける温調流路の数を増やすとともに各温調流路をより微細な流路にし、且つ、温調流体の流量を増やすことが考えられる。この手法によれば、各温調流路の合計の伝熱面積が拡大されるとともに大きな熱流束が得られ、その結果、温調流体による原料流体の温度の精緻な制御が可能となる。しかしながら、温調流路の一層の微細化及び温調流体の流量の増加は、温調流路における圧力損失を増大させることになる。その結果、温調流路に温調流体を流通させるために必要となるエネルギコストが増大する。そこで、本願発明者は、このような問題を解決するために以下のような反応器、反応装置及び反応方法を発明した。
【0008】
本発明による反応器は、ステンレス鋼からなり、複数の異なる原料流体を流通させながらそれらの原料流体同士を反応させる微細流路である反応流路が形成された反応流路基板と、ステンレス鋼からなり、前記反応流路を流れる前記原料流体の温度を調節するための温調流体を流通させる微細流路である温調流路が形成された温調流路基板と、ステンレス鋼よりも高い比熱を有する素材によって形成され、前記反応流路基板と前記温調流路基板との間に介在し、特定領域に設けられる熱保持構造体とを備える。前記反応流路は、複数の前記原料流体が個別に導入される複数の供給流路部と、それらの複数の供給流路部の下流側の端部に繋がり、当該複数の供給流路部から流入する複数の前記原料流体を流通させながらそれらの原料流体同士を反応させる反応流路部とを有する。前記特定領域は、前記反応流路基板と当該熱保持構造体と前記温調流路基板との積層方向から見て少なくとも複数の前記供給流路部と前記反応流路部との接続箇所を含む領であり当該特定領域に設けられる前記熱保持構造体は、前記反応流路基板の前記特定領域に対応する部分の熱容量及び前記温調流路基板の前記特定領域に対応する部分の熱容量よりも大きい熱容量を有する。
【0009】
この反応器では、反応流路基板と温調流路基板との間に介在し、前記積層方向から見て少なくとも反応流路の供給流路部と反応流路部との接続箇所を含む特定領域に設けられた熱保持構造体が、反応流路基板の前記特定領域に対応する部分の熱容量および温調流路基板の前記特定領域に対応する部分の熱容量よりも大きい熱容量を有することから、温調流路を流れる温調流体により熱保持構造体が原料流体の反応熱を打ち消す方向に温度制御されれば、各供給流路部と反応流路部との接続箇所において各供給流路部からの原料流体同士が合流してそれらの原料流体同士の反応による大きな反応熱が発生した場合であっても、その反応熱を熱容量の大きい熱保持構造体の温度によって打ち消して温度変化を低減することができる。このため、副生成物の生成が増大するのを防ぐことができ、主生成物の反応収率が低下するのを防ぐことができる。
【0010】
しかも、この反応器によれば、温調流路の数の増加や温調流路の微細化を行ったり、温調流路に流す温調流体の流量を増加させたりしなくても、上記のように主生成物の反応収率の低下を防ぐことができる。従って、この反応器では、温調流路に温調流体を流通させるために必要なエネルギコストを抑制しつつ、原料流体同士の反応による主生成物の反応収率の低下を防ぐことができる。
【0011】
上記反応器において、前記熱保持構造体は、前記反応流路基板の厚み及び前記温調流路基板の厚みよりも大きい厚みを有していてもよい。また、熱保持構造体は、前記反応流路基板の素材の比熱及び前記温調流路基板の素材の比熱よりも高い比熱を有する素材によって形成されていてもよい。
【0012】
熱保持構造体の素材の比熱が反応流路基板の素材の比熱及び温調流路基板の素材の比熱よりも高いので、熱保持構造体の厚みを抑えつつ、熱保持構造体の熱容量を大きくすることができる。このため、反応器の厚みの増大を抑制しつつ、上述したエネルギコストの抑制及び主生成物の反応収率の低下の防止という効果を得ることができる。
【0013】
上記反応器は、前記反応流路基板、前記温調流路基板及び前記熱保持構造体をそれぞれ複数備え、複数の前記反応流路基板と複数の前記温調流路基板と複数の前記熱保持構造体とは、隣り合う前記反応流路基板と前記温調流路基板との間に前記熱保持構造体を介在させた状態で互いに積層されていることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、反応器全体での原料流体の流量を増やして原料流体同士の反応による主生成物の生産性を向上することができる。
【0015】
また、本発明による反応装置は、上記反応器を備えた反応装置であって、複数の前記原料流体を個別に前記各供給流路部へ供給する複数の供給配管と、複数の前記原料流体のうち特定の原料流体を供給する前記供給配管である特定配管に設けられ、前記特定配管から対応する前記供給流路部へ供給される前記特定の原料流体の流量を調節する流量調節弁と、前記特定配管から対応する前記供給流路部への前記特定の原料流体の供給と供給停止とが交互に行われるように前記流量調節弁による前記特定の原料流体の流量の調節動作を制御するコントローラとをさらに備える。
【0016】
この反応装置では、各供給流路部と反応流路部との接続箇所において、各供給流路部からの原料流体同士を合流させて反応させる期間と、特定の原料流体の供給を停止することにより原料流体同士の反応を停止させる期間とを交互に発生させることができる。原料流体同士の合流直後には大きな反応熱が急激に発生するが、このように原料流体同士の反応が生じる期間とその反応を停止させる期間とが交互に発生することにより、原料流体同士の反応が生じる期間に発生した反応熱により温度が変化したとしても、その後の反応が停止する期間に温度が回復する。このため、例えば各供給流路部へ原料流体が連続して供給されて前記接続箇所で合流する原料流体同士の反応が継続して生じる場合に比べて、全体的な温度の変化を抑制することができる。
【0017】
また、本発明による方法は、反応器を用い反応物を生成する方法であって、複数の前記供給流路部にそれぞれ異なる前記原料流体を供給する原料供給工程と、前記各供給流路部から前記反応流路部へそれぞれ前記原料流体を流入させるとともにそれらの原料流体同士を前記反応流路部において流通させながら反応させることにより前記反応生成物を生成する反応工程と、前記温調流路に前記温調流体を流通させることにより前記反応流路部に流れる前記原料流体の温度を調節する温調工程と、を備える。
【0018】
の方法によれば、温調流路に温調流体を流通させるために必要なエネルギコストを抑制しつつ、原料流体同士の反応による主生成物の反応収率の低下を防ぐことができるという上記反応器と同様の効果が得られる。
【0019】
記方法において、前記原料供給工程では、複数の前記原料流体のうち特定の原料流体の前記供給流路部への供給と供給停止とを交互に実施することが好ましい。
【0020】
この構成によれば、各供給流路部と反応流路部との接続箇所において、各供給流路部からの原料流体同士が合流して反応を生じる期間と、特定の原料流体の供給が停止することにより原料流体同士の反応が停止する期間とが交互に発生する。原料流体同士の合流直後には大きな反応熱が急激に発生するが、このように原料流体同士の反応が生じる期間とその反応を停止させる期間とが交互に発生することにより、原料流体同士の反応が生じる期間に発生した反応熱により温度が変化したとしても、その後の反応が停止する期間に温度が回復する。このため、各供給流路部へ原料流体が連続して供給されて前記接続箇所で合流する原料流体同士の反応が継続して生じる場合に比べて、全体的な温度の変化を抑制することができる。
【0021】
上記方によって複数の前記原料流体同士を反応させることにより反応生成物を生成することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、温調流路に温調流体を流通させるために必要なエネルギコストを抑制しつつ、原料流体同士の反応による主生成物の反応収率の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態による反応装置の斜視図である。
図2図1に示した反応装置の反応器のうちの反応流路基板の上面を露出させて示す図である。
図3図2に示した反応流路基板及び熱保持構造体を取り除いてそれらの下の温調流路基板の上面を露出させて示す図である。
図4】第1原料流体を第1供給流路部に供給するとともに第2原料流体を第2供給流路部に供給してそれらの原料流体同士を反応流路部で反応させる場合の供給流路部と反応流路部との接続箇所の局所温度の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0025】
本発明の一実施形態による反応装置1は、いわゆるマイクロリアクタである。この反応装置1は、図1に示すように、反応器2と、第1原料供給ヘッダ12と、第2原料供給ヘッダ13と、反応流体排出ヘッダ14と、温調供給ヘッダ15と、温調排出ヘッダ16と、流量調節弁17(図2参照)と、コントローラ18(図2参照)と、第1供給配管52と、第2供給配管54と、反応流体排出配管56と、図略の温調供給配管と、温調排出配管58と、を備える。
【0026】
反応器2は、原料流体同士の反応をその内部で生じさせるための直方体状の構造体である。反応器2は、複数の反応流路22(図2参照)と、複数の温調流路30(図3参照)とを内部に備える。反応器2は、図1に示すように、複数の反応流路基板4と、複数の温調流路基板6と、複数の熱保持構造体8と、封止板10とが積層されて互いに接合されることによって形成されている。本実施形態では、反応器2は、これらの各板4,6,10及び構造体8の積層方向が上下方向に一致するように配置されているものとする。
【0027】
反応流路基板4は、反応流路22(図2参照)が形成される矩形状の平板である。反応流路基板4は、例えばステンレス鋼等によって形成されている。反応流路22は、本実施形態では2つの異なる原料流体を流通させながらそれらの原料流体同士を反応させる微細流路(マイクロチャネル)である。各反応流路22は、微細な流路幅(数μm〜数mm)を有する。反応流路基板4の厚みは、その厚み方向における反応流路22の深さよりも大きく、例えば500μm以上5mm以下の厚みである。各反応流路22は、第1供給流路部23と、第2供給流路部24と、反応流路部25とを有する。
【0028】
第1供給流路部23は、上記2つの異なる原料流体のうちの一方の原料流体である第1原料流体が導入され、その導入された第1原料流体を反応流路部25へ供給する部分である。第1供給流路部23は、当該第1供給流路部23内へ第1原料流体を導入するための第1導入口23a(図2参照)をその一端に有する。第1導入口23aは、反応器2の第1側面2a(図1参照)において開口している。第1側面2aは、反応器2の上下面に対して垂直な4つの側面のうちの1つの側面である。第1供給流路部23は、第1導入口23aから第1側面2aに対して垂直に反応器2の内部へ延びている。
【0029】
第2供給流路部24(図2参照)は、上記2つの異なる原料流体のうちのもう一方の原料流体である第2原料流体が導入され、その導入された第2原料流体を反応流路部25へ供給する部分である。第2供給流路部24は、当該第2供給流路部24内へ第2原料流体を導入するための第2導入口24aをその一端に有する。第2導入口24aは、反応器2の第2側面2b(図1参照)において開口している。第2側面2bは、反応器2の上記4つの側面のうち第1側面2aに対して垂直な1つの側面である。第2供給流路部24(図2参照)は、第2導入口24aから第2側面2aに対して垂直に反応器2の内部へ延びている。また、第2供給流路部24は、第1供給流路部23に対して垂直に延びている。
【0030】
第2供給流路部24の第2導入口24aと反対側の端部が、第1供給流路部23の第1導入口23aと反対側の端部と繋がっている。すなわち、第2供給流路部24の下流側の端部が第1供給流路部23の下流側の端部と繋がっている。そして、この第1供給流路部23の下流側の端部と第2供給流路部24の下流側の端部に、反応流路部25の上流側の端部が繋がっている。
【0031】
反応流路部25(図2参照)は、第1供給流路部23から流入する第1原料流体と第2供給流路部24から流入する第2原料流体とを流通させながらそれらの原料流体同士を反応させる部分である。反応流路部25は、第1供給流路部23及び第2供給流路部24との接続箇所26から第1供給流路部23の延長線上に延び、その後、折り返されて繰り返し往復するように蛇行した形状に形成されている。反応流路部25は、当該反応流路部25を流れた原料流体及び反応生成物を排出するための反応流路排出口25aを有する。反応流路排出口25aは、反応流路部25のうち第1及び第2供給流路部23,24との接続箇所と反対側の端部に設けられている。すなわち、反応流路排出口25aは、反応流路部25の下流側の端部に設けられている。反応流路排出口25aは、反応器2の上記4つの側面のうち第1側面2aと反対側の側面である第3側面2c(図1参照)において開口している。
【0032】
各反応流路基板4の厚み方向における一方の板面、本実施形態では反応流路基板4の上面には、反応流路22を形成するための反応溝42がエッチング等により形成されている。反応溝42は、反応流路22の上述した第1供給流路部23、第2供給流路部24及び反応流路部25の形状に対応した形状を有する。複数の反応流路基板4のうち最も上側に配置された反応流路基板4上には、封止板10が積層されて接合され、それ以外の反応流路基板4上には、熱保持構造体8が積層されて接合されている。各反応流路基板4の上面に形成された反応溝42の開口がその反応流路基板4上に積層された封止板10又は熱保持構造体8によって封止され、それによって各反応流路22が形成されている。
【0033】
温調流路基板6は、温調流路30(図3参照)が形成される矩形状の平板である。温調流路基板6は、反応流路基板4と同じ素材で且つ同様の外形に形成されている。温調流路基板6の厚みは、その厚み方向における温調流路30の深さよりも大きく、例えば500μm以上5mm以下の厚みである。
【0034】
温調流路30は、反応流路22を流れる原料流体の温度を調節するための温調流体を流通させる微細流路(マイクロチャネル)である。反応流路22での原料流体同士の反応が発熱反応である場合には、冷却のために低温の温調流体が温調流路30に流される。一方、反応流路22での原料流体同士の反応が吸熱反応である場合には、加熱のために比較的高温の温調流体が温調流路30に流される。各温調流路30は、反応流路22と同様の流路幅を有する。各温調流路30は、当該温調流路30内へ温調流体を導入するための温調導入口31をその一端に有し、当該温調流路30から温調流体を排出するための温調排出口32をその他端に有する。温調導入口31は、反応器2の第1側面2a(図1参照)において開口している。温調排出口32は、反応器2の第3側面2c(図1参照)において開口している。温調流路30は、反応流路部25と略対称形で蛇行した形状に形成されている。温調流路30のうち反応器2の第1側面2a及び第3側面2cに対して直交する方向に直線的に延びる各部分は、上記積層方向から見て、反応流路部25の直線的に延びる各部分と重なるように配置されている。
【0035】
温調流路基板6の厚み方向における一方の板面、本実施形態では温調流路基板6の上面には、温調流路30を形成するための温調溝44がエッチング等により形成されている。温調溝44は、温調流路30の形状に対応した形状を有する。各温調流路基板6上には、対応する熱保持構造体8が積層されて接合されている。各温調流路基板6の上面に形成された温調溝44の開口がその温調流路基板6上に積層された熱保持構造体8によって封止され、それによって各温調流路30が形成されている。
【0036】
熱保持構造体8(図1及び図2参照)は、隣り合う反応流路基板4と温調流路基板6との間に介在している。すなわち、熱保持構造体8は、隣り合う反応流路基板4と温調流路基板6との間に挟み込まれてそれらの反応流路基板4及び温調流路基板6と接合されている。熱保持構造体8は、反応流路基板4と当該熱保持構造体8と温調流路基板6との積層方向から見て少なくとも第1及び第2供給流路部23,24(図2参照)と反応流路部25との接続箇所26を含む領域に設けられている。本実施形態では、熱保持構造体8は、前記積層方向から見て反応流路基板4及び温調流路基板6と等しい領域に設けられており、反応流路22(図2参照)の全体及び温調流路30(図3参照)の全体をカバーしている。本実施形態の反応器2は、隣り合う反応流路基板4と温調流路基板6との間に熱保持構造体8を介在させた状態で複数の反応流路基板4と複数の温調流路基板6と複数の熱保持構造体8と封止板10とが積層されることによって形成されている。
【0037】
熱保持構造体8は、温調流路30を流れる温調流体から付与される熱を保持する。熱保持構造体8は、温調流路30に低温の温調流体が流される場合には、その温調流体から付与される冷熱を保持する。一方、熱保持構造体8は、温調流路30に高温の温調流体が流される場合には、その温調流体から付与される温熱を保持する。
【0038】
熱保持構造体8は、反応流路基板4の熱容量及び温調流路基板6の熱容量よりも大きい熱容量を有する。具体的に、熱保持構造体8は、反応流路基板4及び温調流路基板6と同じ素材(ステンレス鋼等)によって形成された厚板であり、前記積層方向において反応流路基板4の厚み及び温調流路基板6の厚みよりも大きい厚みを有する。例えば、熱保持構造体8は、反応流路基板4又は温調流路基板6の厚みの数倍の厚みを有する。具体的には、熱保持構造体8は、1mm以上100mm以下の範囲で反応流路基板4の厚み及び温調流路基板6の厚みよりも大きい厚みを有する。
【0039】
第1原料供給ヘッダ12(図1参照)は、全ての第1導入口23a(図2参照)を一括して覆うように反応器2の第1側面2a(図1参照)に取り付けられている。第1原料供給ヘッダ12には、当該第1原料供給ヘッダ12へ第1原料流体を供給する第1供給配管52が接続されている。なお、図2では、第1供給配管52が第1導入口23aに直接接続するように図示されているが、これは概念的な図示であって、第1供給配管52は、実際には第1原料供給ヘッダ12を介して各第1導入口23aに接続されている。第1原料供給ヘッダ12は、第1供給配管52から供給された第1原料流体を各第1導入口23aへ分配して供給する。
【0040】
第2原料供給ヘッダ13(図1参照)は、全ての第2導入口24a(図2参照)を一括して覆うように反応器2の第2側面2b(図1参照)に取り付けられている。第2原料供給ヘッダ13には、当該第2原料供給ヘッダ13へ第2原料流体を供給する第2供給配管54が接続されている。なお、図2では、第2供給配管54が第2導入口24aに直接接続するように図示されているが、これは概念的な図示であって、第2供給配管54は、実際には第2原料供給ヘッダ13を介して各第2導入口24aに接続されている。第2供給配管54は、本発明による特定配管の一例であり、第2原料流体は、本発明による特定の原料流体の一例である。第2原料供給ヘッダ13は、第2供給配管54から供給された第2原料流体を各第2導入口24aへ分配して供給する。
【0041】
反応流体排出ヘッダ14(図1参照)は、全ての反応流路排出口25a(図2参照)を一括して覆うように反応器2の第3側面2c(図1参照)に取り付けられている。反応流体排出ヘッダ14には、反応流体排出配管56(図1参照)が接続されている。反応流体排出ヘッダ14は、各反応流路排出口25aから排出される原料流体及び反応生成物を受け、それらをまとめて反応流体排出配管56へ流す。
【0042】
温調供給ヘッダ15(図1参照)は、全ての温調導入口31(図3参照)を一括して覆うように反応器2の第1側面2a(図1参照)に取り付けられている。温調供給ヘッダ15には、当該温調供給ヘッダ15へ温調流体を供給する図略の温調供給配管が接続されている。温調供給ヘッダ15は、温調供給配管から供給された温調流体を各温調導入口31へ分配して供給する。
【0043】
温調排出ヘッダ16(図1参照)は、全ての温調排出口32(図3参照)を一括して覆うように反応器2の第3側面2c(図1参照)に取り付けられている。温調排出ヘッダ16には、温調排出配管58(図1参照)が接続されている。温調排出ヘッダ16は、各温調排出口32から排出される温調流体を受け、それらをまとめて温調排出配管58へ流す。
【0044】
流量調節弁17(図2参照)は、第2供給配管54に設けられている。流量調節弁17は、第2供給配管54から第2原料供給ヘッダ13(図1参照)を介して各反応流路22の第2供給流路部24へ供給される第2原料流体の流量を調節する。
【0045】
コントローラ18(図2参照)は、流量調節弁17と電気的に接続されている。コントローラ18は、流量調節弁17へ制御信号を送ることにより、流量調節弁17による第2原料流体の流量の調節動作を制御する。具体的に、コントローラ18は、第2供給配管54から各第2供給流路部24への第2原料流体の供給と供給停止とが交互に行われるように流量調節弁17による第2原料流体の流量の調節動作を制御する。すなわち、コントローラ18は、流量調節弁17に第2原料流体が所定の流量で第2供給配管54を通じて第2原料供給ヘッダ13へ流れるのを所定期間だけ許容させ、その後、流量調節弁17に第2供給配管54における第2原料流体の流通を遮断させて第2原料供給ヘッダ13への第2原料流体の流入量を0にさせるという流量調節弁17の制御を繰り返し行う。
【0046】
次に、本発明の一実施形態による反応方法について説明する。
【0047】
本実施形態による反応方法では、第1原料流体が第1供給配管52(図1参照)から第1原料供給ヘッダ12を介して各反応流路22(図2参照)の第1供給流路部23へ供給されるとともに、第2原料流体が第2供給配管54(図1参照)から第2原料供給ヘッダ13を介して各反応流路22(図2参照)の第2供給流路部24へ供給される(原料供給工程)。
【0048】
第1供給流路部23に供給された第1原料流体と第2供給流路部24に供給された第2原料流体とは、接続箇所26(図2参照)で合流して反応流路部25へ流入し、反応流路部25を下流側へ流れつつ互いに反応する(反応工程)。これにより、反応生成物が生成される。第1原料流体と第2原料流体との反応の過程では、反応熱が発生する。
【0049】
一方、前記原料供給工程及び前記反応工程と並行して、各温調流路30(図3参照)に温調流体を流通させることにより各反応流路22(図2参照)の反応流路部25に流れる原料流体の温度を調節するとともに原料流体同士の反応時の温度を調節する温調工程が行われる。
【0050】
温調工程では、温調流体が、図略の温調供給配管から温調供給ヘッダ15(図1参照)を介して各温調流路30(図3参照)の温調導入口31へ供給される。温調流体は、予め、上記の反応によって生じる反応熱を打ち消すような温度に調節された状態で供給される。すなわち、第1原料流体と第2原料流体との反応が発熱反応である場合には、温調流体は低温に調節されており、第1原料流体と第2原料流体との反応が吸熱反応である場合には、温調流体は高温に調節されている。原料流体同士の反応時の温度を常温程度に調節する場合には、温調流体として例えば水が用いられる。また、原料流体同士の反応時の温度を氷点下の低温に調節する場合には、温調流体として例えば低温のコールドブラインが用いられる。また、原料流体同士の反応時の温度を高温に調節する場合には、温調流体として例えば高温の熱媒体油が用いられる。
【0051】
各温調導入口31に供給された温調流体は、各温調流路30を下流側へ流れる。その流通過程で温調流体の熱が各熱保持構造体8(図1参照)に付与され、各熱保持構造体8は付与された熱を保持する。具体的に、温調流体が低温である場合には、各熱保持構造体8は冷熱を保持し、温調流体が高温である場合には、各熱保持構造体8は温熱を保持する。
【0052】
各熱保持構造体8が保持する熱により各反応流路部25(図2参照)を流れる原料流体の温度が調節されるとともに原料流体同士の反応時の温度が調節される。すなわち、第1原料流体と第2原料流体との反応が発熱反応である場合には、各熱保持構造体8が保持する冷熱により、各反応流路部25を流れる反応中の原料流体が冷却されてその温度の上昇が抑制される。一方、第1原料流体と第2原料流体との反応が吸熱反応である場合には、各熱保持構造体8が保持する温熱により、各反応流路部25を流れる反応中の原料流体が加熱されてその温度の降下が抑制される。このような温度変化の抑制により、第1原料流体と第2原料流体との反応における副生成物の生成が抑制される。
【0053】
そして、上記原料供給工程において、所定期間、第1原料流体が各反応流路22の第1供給流路部23へ供給されるとともに第2原料流体が各反応流路22の第2供給流路部24へ供給された後、第1供給流路部23への第1原料流体の供給は継続しつつ第2供給流路部24への第2原料流体の供給が停止される。具体的には、コントローラ18(図2参照)が流量調節弁17に第2供給流路部24側への第2原料流体の流通を停止させる。そして、第2原料流体の供給停止がある一定の期間だけ経過した後、コントローラ18は、流量調節弁17に第2供給流路部24側への第2原料流体の流通を開始させ、それによって第2供給流路部24への第2原料流体の供給を再開させる。コントローラ18は、このように流量調節弁17に第2供給流路部24への第2原料流体の供給と供給停止とを交互に繰り返し実施させる。
【0054】
この第2供給流路部24への第2原料流体の供給制御により、反応熱による接続箇所26での温度の変動幅が抑制される。図4には、第1原料流体と第2原料流体との反応が発熱反応である場合の接続箇所26の局所温度Tの経時変化が示されている。
【0055】
この図4に実線Aで示されているように、第1供給流路部23に第1原料流体が供給されるとともに第2供給流路部24に第2原料流体が供給されて接続箇所26に第1原料流体及び第2原料流体が両方とも流入する期間P1では、原料流体同士の反応熱により接続箇所26の局所温度Tが徐々に上昇し、その期間P1の終了時に温度T1に達する。その後、第2供給流路部24への第2原料流体の供給が停止されて接続箇所26に第1原料流体のみが流入する期間P2では、接続箇所26における原料流体同士の反応が停止するため、接続箇所26で反応熱が発生しないとともに熱保持構造体8が有する冷熱により、接続箇所26の局所温度Tが低下する。期間P2の終了時には、期間P1よりも前の時点での温度にほぼ等しい温度にまで接続箇所26の局所温度Tが低下する。その後、第2供給流路部24への第2原料流体の供給が再開されて接続箇所26に第1原料流体及び第2原料流体が両方とも流入する期間P1となり、接続箇所26の局所温度Tが上昇する。このように、本実施形態の反応方法では、接続箇所26の局所温度Tが上昇する期間P1と局所温度Tが低下する期間P2とが交互に繰り返し生じる。
【0056】
第1原料流体と第2原料流体との合流直後には大きな反応熱が急激に発生するため、仮に、接続箇所26に第1原料流体と第2原料流体が両方とも流入し続ける場合には、大きな反応熱が連続して発生し続けることになる。その結果、図4に破線Bで示されているように、接続箇所26の局所温度Tが非常に高い温度T2にまで連続的に上昇する。これに対し、本実施形態では、上記のように接続箇所26の局所温度Tが上昇する期間P1と局所温度Tが低下する期間P2とが交互に生じることにより、全反応期間に亘っての局所温度Tの上昇幅が全体的に抑制される。
【0057】
本実施形態による反応方法は、以上のようにして行われる。
【0058】
本実施形態では、反応器2において、熱保持構造体8が、隣り合う反応流路基板4と温調流路基板6との間に介在するとともに、反応流路基板4と熱保持構造体8と温調流路基板6との積層方向から見て第1及び第2供給流路部23,24と反応流路部25との接続箇所26を含む領域に設けられ、反応流路基板4の熱容量及び温調流路基板6の熱容量よりも大きい熱容量を有する。そして、温調流路30を流れる温調流体から熱保持構造体8に第1原料流体と第2原料流体との反応によって生じる反応熱を打ち消すような熱が付与され、熱保持構造体8がその付与された熱を保持する。このため、第1及び第2供給流路部23,24と反応流路部25との接続箇所26において第1原料流体と第2原料流体とが合流して反応を生じ、反応熱が発生する場合であっても、その反応熱を大きな熱容量を有する熱保持構造体8が保持する熱によって打ち消して反応熱による大きな温度変化の発生を阻止することができる。このため、第1原料流体と第2原料流体との反応において副生成物の生成が増大するのを防ぐことができ、主生成物の反応収率が低下するのを防ぐことができる。
【0059】
しかも、本実施形態では、温調流路30の数の増加や温調流路30の微細化を行ったり、温調流路30に流す温調流体の流量を増加させたりしなくても、上記のように主生成物の反応収率の低下を防ぐことができる。従って、本実施形態では、温調流路30に温調流体を流通させるために必要なエネルギコストを抑制しつつ、第1原料流体と第2原料流体との反応による主生成物の反応収率の低下を防ぐことができる。
【0060】
また、本実施形態では、反応器2において、複数の反応流路基板4と複数の温調流路基板6と複数の熱保持構造体8とが隣り合う反応流路基板4と温調流路基板6との間に熱保持構造体8を介在させた状態で互いに積層されているため、反応器2全体での反応流路22の数及び温調流路30の数を増やすことができる。このため、反応器2全体での第1及び第2原料流体の流量を増やして原料流体同士の反応による主生成物の生産性を向上することができる。
【0061】
また、本実施形態では、第1及び第2供給流路部23,24と反応流路部25との接続箇所26において、第1原料流体と第2原料流体とを合流させて反応させる期間と、第2原料流体の供給を停止することにより第1原料流体と第2原料流体との反応を停止させる期間とを交互に生じさせる。このため、第1原料流体と第2原料流体とが反応する期間に発生した反応熱により原料流体の温度が変化したとしても、その後の反応を停止させる期間に温度が回復する。このため、例えば第1原料流体と第2原料流体が共に連続して供給されて接続箇所26で第1原料流体と第2原料流体との反応が継続的に生じる場合に比べて、全体的な温度の変化を抑制することができる。
【0062】
また、本実施形態では、各反応流路22への原料供給工程において、第1原料流体を連続的に供給する一方、第2原料流体の供給と供給停止とを交互に行うため、各反応流路22における第1及び第2供給流路部23,24と反応流路部25との接続箇所26において、第1原料流体と第2原料流体とが合流して反応を生じる期間と、第2原料流体が供給されないために第1原料流体と第2原料流体との反応が停止する期間とが交互に発生する。このため、第1原料流体と第2原料流体との反応が生じる期間に発生した反応熱により温度が変化したとしても、その後の反応が停止する期間に温度が回復する。その結果、第1供給流路部23へ第1原料流体を連続して供給するとともに第2供給流路部24へ第2原料流体を連続して供給し、接続箇所26において第1原料流体と第2原料流体との反応が継続して生じるような場合に比べて、本実施形態では、全体的な温度の変化幅を抑制することができる。
【0063】
[反応の具体例]
上記実施形態による反応器2で行われる反応の具体例について以下に説明する。
【0064】
反応器2で行われる反応の具体例としては、例えばグリニャール反応等のカルボニル化合物と有機金属反応剤との反応、ニトロ化反応、ハロゲン化反応、パーオキサイドを用いた酸化還元反応、又は、高分子重合反応などが挙げられる。これらの反応は、いずれも、原料流体同士の合流直後に大きな反応熱が急激に発生する発熱反応、もしくは、原料流体同士の合流直後に急激で且つ大きな温度低下を引き起こす吸熱反応である。
【0065】
前記ニトロ化反応の具体例としては、例えば、フェノールのニトロ化反応が挙げられる。このフェノールのニトロ化反応では、第1原料流体として硝酸が用いられるとともに第2原料流体としてフェノール水溶液が用いられ、反応生成物(主生成物)としてオルト・パラニトロフェノールが生成される。なお、このフェノールのニトロ化反応では、副生成物として2,4−ジニトロフェノールが生成される可能性があるが、上述した熱保持構造体8による温度変化の抑制効果により、この副生成物の生成が抑制される。
【0066】
また、前記ハロゲン化反応の具体例としては、例えば、フッ素ガスによる有機化合物のフッ素化反応が挙げられる。このフッ素化反応では、第1原料流体としてフッ素と窒素の混合ガスが用いられるとともに第2原料流体としてトルエンが用いられ、反応生成物として2−フルオロトルエン及び4−フルオロトルエンが生成される。
【0067】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、また、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含む。
【0068】
熱保持構造体は、反応流路基板の素材の比熱及び温調流路基板の素材の比熱よりも高い比熱を有する素材によって形成されていてもよい。例えば、反応流路基板及び温調流路基板の素材がステンレス鋼である場合には、熱保持構造体は、ステンレス鋼の比熱よりも高い比熱を有するガラス、アルミニウム、アルミニウム合金、又は、ハステロイなどによって形成されていてもよい。この場合の熱保持構造体の厚みは、上記実施形態で示した熱保持構造体8の厚みよりも小さくてもよい。例えば、熱保持構造体の素材の比熱が非常に高い場合には、熱保持構造体の厚みは、反応流路基板の厚み及び温調流路基板の厚みと同等もしくはそれ以下であってもよい。この構成によれば、熱保持構造体の厚みを抑えつつ、熱保持構造体の大きな熱容量を確保することができる。このため、反応器の厚みの増大を抑制しつつ、エネルギコストの抑制及び主生成物の反応収率の低下の防止という上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0069】
また、各反応流路基板には複数の反応流路が並列に配置されてもよい。この場合には、反応器全体での原料流体の流量をより一層増加させることができる。その結果、原料流体同士の反応による主生成物の生産効率をより向上できる。
【0070】
また、各温調流路基板には複数の温調流路が並列に配置されてもよい。この場合には、反応流路に流れる原料流体同士の反応時の温度をより精緻に制御することができる。
【0071】
また、反応流路の形状及び温調流路の形状として、上記実施形態で示した形状以外に様々な形状を適用可能である。例えば、反応流路の反応流路部及び温調流路は、上記したような蛇行形状ではなく、直線的に延びていてもよい。
【0072】
また、熱保持構造体は、反応流路基板と熱保持構造体と温調流路基板との積層方向から見て、必ずしも反応流路基板及び温調流路基板の全範囲をカバーするように設けられていなくてもよい。例えば、熱保持構造体は、前記積層方向から見て反応流路基板及び温調流路基板よりも小さい領域で且つ少なくとも供給流路部と反応流路部との接続箇所を含む特定領域に設けられていてもよい。ただし、前記積層方向から見て少なくとも供給流路部と反応流路部との接続箇所を中心としてその周囲に所定の広がりを有する領域に熱保持構造体が設けられていることが望ましい。
【0073】
また、本発明による反応方法では、コントローラによる流量調整弁の制御によらずに第2供給流路部への第2原料流体の供給と供給停止とを交互に行ってもよい。
【0074】
また、流量調節弁を第1供給配管に設けて、第2原料流体の供給と供給停止とを交互に行う代わりに、第1原料流体の第1供給流路部への供給と供給停止とを第1供給配管に設けた流量調節弁に行わせてもよい。
【0075】
また、反応器は、単一の反応流路基板と単一の熱保持構造体と単一の温調流路基板とからなり、それらの反応流路基板と温調流路基板との間に熱保持構造体が挟み込まれて接合されることによって形成されてもよい。
【0076】
また、反応装置が配置される向きは、上記実施形態で示した向きに必ずしも限定されない。例えば、上記実施形態で示した反応器が上下逆に配置されるように反応装置を配置してもよく、又、上記実施形態で示した反応器の上下面が上下以外の種々の方向を向くように反応装置を配置してもよい。
【0077】
また、反応流路の供給流路部の数は、3つ以上であってもよい。この場合には、供給流路部の数に応じた3種類以上の原料流体を各供給流路部に供給してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 反応装置
2 反応器
4 反応流路基板
6 温調流路基板
8 熱保持構造体
17 流量調節弁
18 コントローラ
22 反応流路
23 第1供給流路部(供給流路部)
24 第2供給流路部(供給流路部)
25 反応流路部
30 温調流路
52 第1供給配管(供給配管)
54 第2供給配管(供給配管、特定配管)
図1
図2
図3
図4