【文献】
LEE D-H,DRUGS OF THE FUTURE,ES,PROUS SCIENCE,2010年 5月 1日,V35 N5,P393-398
【文献】
OSANAI TAKA,NEUROCHEMICAL RESEARCH,1984年,V9 N10,P1407-1416
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
抗FXII抗体またはその抗原結合断片が、(a)配列番号9に記載の重鎖CDR1、配列番号11に記載の重鎖CDR2、および配列番号13に記載の重鎖CDR3を含むVH領域;ならびに(b)配列番号14に記載の軽鎖CDR1、配列番号15に記載の軽鎖CDR2、および配列番号17に記載の軽鎖CDR3を含むVL領域を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
抗FXII抗体またはその抗原結合断片が、(a)配列番号9に記載の重鎖CDR1、配列番号10に記載の重鎖CDR2、および配列番号12に記載の重鎖CDR3を含むVH領域;ならびに(b)配列番号14に記載の軽鎖CDR1、配列番号15に記載の軽鎖CDR2、および配列番号16に記載の軽鎖CDR3を含むVL領域を含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
FXII阻害剤が、アルブミン、アファミン、アルファ−フェトタンパク質、ビタミンD結合タンパク質、ヒトアルブミンもしくはその変異体、免疫グロブリンもしくはその変異体、PEGもしくはその変異体、またはIgGのFcである半減期増強ポリペプチドに連結される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症(MS)は、その病理の一部として、免疫細胞の浸潤、脱髄、および軸索/神経損傷を含む様々な神経炎症性疾患の一部である。世界保健機関(ICD−9−CM診断コード340)は、MSを、虚弱、協調運動失調、感覚異常、および言語障害などの症状を含む中枢神経系におけるいくつかの領域の脱髄の存在を特徴とする慢性疾患と記載している。MSおよびそれと同様の他の疾患は、炎症細胞が神経系に侵襲し、脱髄および組織破壊をもたらす自己免疫攻撃により引き起こされる(非特許文献1、非特許文献2)。組織病理学的結果は、細胞浸潤(T細胞、B細胞、マクロファージ)を有するMSプラークであり、これは最終的にはオリゴデンドログリアおよび軸索の損傷を引き起こすと考えられる。破壊的プロセスが進行するにつれて、脱髄は認知機能の障害をもたらす(非特許文献3、非特許文献4)。
【0003】
脱髄は、神経軸索周囲の絶縁層を形成するミエリン鞘の喪失である。ミエリンは解剖学的位置に応じて異なる細胞型により産生される:オリゴデンドロサイトは中枢神経系(CNS)の軸索を有髄化するが、シュワン細胞は末梢軸索を有髄化する。ミエリンは、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ガラクトセレブロシド(GalC)、およびスフィンゴミエリンなどのいくつかのタンパク質および脂質から構成される。
【0004】
脱髄疾患の徴候および症状は、脱髄の位置に応じて変わる。いくつかの一般的な徴候および症状は、視覚的問題(複視、眼振、または失明)、チクチクする痛み(tingling)または無感覚(知覚障害)、言語障害、記憶喪失、熱感度、筋痙攣、筋力低下、および協調運動または平衡の喪失を含む。
【0005】
「多発性硬化症」という名称は、脳および脊髄中のミエリンが失われた領域において形成する複数の瘢痕(「硬化症」)、または病変を指す。MSの疾患パターンは変化してもよい。全米多発性硬化症協会(U.S.National Multiple Sclerosis Society)によれば、4つの標準化されたサブタイプが存在する:(1)再発寛解型、(2)二次性進行型、(3)一次性進行型、および(4)再発進行型。再発寛解型は、疾患の最も一般的な初期経過であり、疾患の新しい徴候がない期間が数ヶ月から数年続いてもよい寛解の期間によって隔てられた攻撃を特徴とする。二次性進行型疾患は、名称が意味する通り、再発寛解型MSとして始まるが、明確な寛解期間が最終的には消失する。一次性進行型は、最初の発症後に意義のある寛解が起こっていない疾患を表すものである。進行再発型疾患においては、発症から一様な神経減少が起こるが、それに加えて多重的攻撃が起こる。
【0006】
多発性硬化症は、臨床所見に加えて磁気共鳴画像化(MRI)に依拠するMcDonald基準の2010年の改訂版を用いて診断することができる(非特許文献5)。一般に、2つ以上の攻撃または2つ以上の客観的な臨床病変を呈する患者は、さらなる臨床的証拠がなくてもMSを有すると考えられる。攻撃または証明できる病変がより少ない患者においては、診断は臨床的知見または臨床的および診断的(MRI)知見による空間および/または時間における病変の普及の客観的証明に基づく。
【0007】
MSの病因は不明であるが、それは身体の免疫系がCNS中のミエリンを破壊する自己免疫疾患であることが一般に受け入れられている(非特許文献6)。CNSへの免疫細胞浸潤に関する必要条件は、通常は浸潤からCNSを保護する血液脳関門における破壊である。このプロセスは、CNS炎症をもたらし、これはMSの第2の病理学的特質である。多くの自己免疫疾患と同様、MSは男性よりも女性においてより一般的であり、100,000人あたり約3人が罹患する(非特許文献7)。MSに加えて、他の脱髄炎症疾患も起こる。例えば、中枢神経系の他の脱髄炎症疾患としては、特発性炎症性脱髄疾患、横断性脊髄炎、および視神経脊髄炎(デビック病)が挙げられる。炎症性脱髄は、末梢神経系においても生じ得る:その例としては、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、ミラー・フィッシャー症候群、および抗MAG末梢神経障害が挙げられる。
【0008】
MSのための現在の処置は、疾患の自己免疫性に基づくものであり、少なくとも部分的には、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)動物モデルを用いる実験に基づいて開発された(非特許文献8)。再発型のMSにおける処置のために2010年にFDAによって認可されたフィンゴリモドは、ミエリンの破壊を媒介すると考えられる免疫細胞であるリンパ球を隔離することによって作用するリン脂質である(非特許文献9)。フィンゴリモドはまた、慢性炎症性脱髄性多発神経炎の処置のために2010年に欧州においてオーファンドラッグ指定を受けた(EU/3/09/718)。MSのためのより古い処置としては、免疫調節剤であるインターフェロンベータ−1aおよびインターフェロンベータ−1b、ならびにグラチラマー酢酸塩が挙げられる(非特許文献10、非特許文献8)。インテグリンα4に対するヒト化モノクローナル抗体であるナタリズマブは、再発型のMSを有する患者の処置のために2004年に認可された(非特許文献11)。その使用は生命を脅かすウイルス感染(PML、進行性多巣性白質脳症)の危険性の増加と関連するため、それは一般的には第2選択治療として用いられる。ナタリズマブは、血液から組織中への細胞の通過に関与する特定の細胞接着分子への白血球の結合を遮断する。かくして、ナタリズマブは、CNS中への免疫細胞の通過を防止することによって作用し、それによってミエリンのさらなる破壊を防止すると考えられる。ミトキサントロンは、DNA合成を遮断する薬剤であり、したがって、リンパ球が増殖する能力を低下させ得る。
【0009】
それぞれの現在認可されている治療は、再発型のMSにおける少なくとも攻撃の回数を減少させることにおいてはいくらかの有効性を示すが、その有効性は限られており、多くの場合、有意な副作用と関連し、長期的な治療を実現困難にしている。したがって、さらなる治療に関する大きな、満たされていない生物医学的な要求が存在する。
【0010】
第XII因子(FXII)は、内因性凝固カスケードの活性化に関与するセリンプロテアーゼである。それは、ポリアニオンとの接触によって活性化される(接触活性化)凝固因子として1955年に同定された。in vivoでは、これらの表面は、活性化された血小板により分泌される無機ポリリン酸塩(PolyP)(非特許文献12)、内皮細胞表面(qC1qR)、サイトケラチン1、ウロキナーゼ−プラスミノゲン活性化受容体(u−PAR、CD87)、関節軟骨、皮膚、脂肪酸、内毒素、プロテオグリカン(ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸E、脂肪細胞ヘパリン)、およびアミロイドタンパク質(非特許文献13)を含む。一度、FXIIが活性化されてFXIIaを形成したら、FXIIaが循環しているFXIIを活性化する正のフィードバック反応が起こる。低分子からタンパク質に及ぶ様々なFXII阻害剤が利用可能である。FXIIは内因性の経路における開始因子であるが、外因性(組織因子)経路が血栓形成のための主な経路であるため、第XII因子欠損は出血の一因とはならない。
【0011】
内因性経路におけるその確立された役割にも拘らず、第XII因子の生理学的役割は依然として不明確である(非特許文献14、非特許文献15)。FXIIは、キニン−カリクレイン系によるブラジキニンの形成を介する炎症プロセスに関与する。ブラジキニンは、血管透過性、一酸化窒素の産生、およびアラキドン酸の移動を増加させる内皮細胞の活性化、ならびに感覚神経終末の刺激により引き起こされる、発赤、熱、腫れ、および疼痛の古典的炎症パラメータに寄与する。それは、虚血における病理学的血栓形成にも関与する(非特許文献16)。FXIIのさらに別の役割は、好中球の走化性、凝集、および脱顆粒におけるものである(非特許文献17)。それは前炎症性サイトカインIL−1の単球産生も増強することができ、補体系に関与する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本出願の実施形態は、神経炎症性疾患の影響を防止する、処置する、あるいは改善するために少なくとも1つの第XII因子(FXII)阻害剤を患者に投与することを含む方法に関する。
【0032】
本出願の実施形態の1つの利点は、FXII阻害剤は良好な忍容性を示すと予想されるため、それらが他の薬物と比較して改善された安全性プロファイルを有し得ることである。さらに、FXIIはいくつかの生理学的カスケードに関与し、その1つまたはそれ以上はMSなどの炎症性脱髄疾患に関与し得るため、FXII阻害剤は単一標的治療と比較して良好な効能プロファイルを有し得る。
【0033】
I.炎症性脱髄疾患
一態様において、本発明は、少なくとも1つの第XII因子(FXII)阻害剤を、それを必要とする対象に投与することによって、神経炎症性疾患の影響を防止、処置、または改善することを含む、炎症性脱髄疾患の影響を防止する、処置する、あるいは改善する方法に関する。したがって、本発明はまた、炎症性脱髄疾患の影響を防止、処置、または改善するのに使用するための第XII因子阻害剤と薬学的に許容される賦形剤または担体とを含む医薬組成物も提供する。
【0034】
本明細書で用いられる用語「処置する」および「処置すること」は、症状の完全な排除を必要とせず、これらの用語は「治癒する」または「治癒すること」と等価ではない。そうではなく、「処置する」および「処置すること」は、疾患の少なくとも1つの徴候または症状が低減、阻害、低下、または遅延されたことを意味する。いくつかの実施形態においては、徴候または症状は以下に記載の一次または二次評価項目のうちの1つまたはそれ以上である。ある特定の実施形態においては、「処置する」または「処置すること」は、疾患の影響を改善することを含んでもよい。しかしながら、一般的には、「影響を改善すること」とは、患者の機能の障害を反映する疾患のいくつかの態様が改善されることを意味する。以下に記載のような、多発性硬化症(MS)に関するKurtzkeの総合障害度(Expanded Disability Status Score(EDSS))(Kurtzke JF、Neuroepidemiol.2008;31:1〜9頁)の使用を含む、疾患に関する確立された基準を用いて、機能的評価を行うことができる。本明細書で用いられる「防止すること」とは、炎症性脱髄疾患を発症する危険性があることが知られる対象への治療の投与を意味するか、または寛解した後、再発する疾患においては、「防止すること」は寛解にある患者における再発を阻害することを意味してもよい。MSについて以下に注記されるように、「防止すること」は、患者が、MSに関する全てではないが、いくつかの診断基準を満たすが、その診断基準を完全に満たす明白な疾患には進行しないことも意味する。
【0035】
用語「神経炎症性疾患」および「炎症性脱髄疾患」は、脳または脊髄の1つまたはそれ以上の領域の炎症が起こっている、ヒト患者、または動物における状態を指すように、本質的には互換的に用いられる。これらの用語は、完全に等価ではないが、当業者であれば、神経炎症性疾患が脱髄を必ずしも要するわけではなく、脱髄が炎症後に生じることも多いことを理解するであろう。多発性硬化症は、ヒトにおける炎症性脱髄疾患の一例である。マウス、ラット、およびサルなどの様々な動物において、周知であり、ヒト疾患のモデルとして受け入れられているいくつかの異なる免疫化戦略によって炎症性脱髄を実験的に誘導することができる(Krishnamoorthy&Wekerle、Eur.J.Immunol.2009;39:2031〜35頁に概説されている)。2つの異なる免疫化戦略を実施例に提示する。得られる誘導疾患、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)は、実験的疾患であるが、炎症性脱髄疾患の別の例であり、したがって、非ヒト対象に限定される。
【0036】
いくつかの実施形態においては、炎症性脱髄疾患は、中枢神経系(CNS)の疾患である。例示的な疾患としては、限定されるものではないが、多発性硬化症、特発性炎症性脱髄疾患、横断性脊髄炎、および視神経脊髄炎(デビック病)が挙げられる。
【0037】
いくつかの実施形態においては、炎症性脱髄疾患は、末梢神経系の疾患である。例示的な疾患としては、限定されるものではないが、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、ミラー・フィッシャー症候群、および抗MAG末梢神経障害が挙げられる。
【0038】
ある特定の実施形態においては、本発明は、治療上有効量の少なくとも1つの第XII因子阻害剤を、それを必要とする対象に投与することによって、多発性硬化症を防止もしくは処置するか、または多発性硬化症の影響を改善することを含む、多発性硬化症の影響を防止、処置または改善する方法を提供する。したがって、本発明はまた、多発性硬化症の防止もしくは処置、または多発性硬化症の影響の改善における使用のための第XII因子阻害剤と薬学的に許容される賦形剤または担体とを含む医薬組成物も提供する。
【0039】
多発性硬化症を含むこれらの実施形態においては、MSを有する対象を、臨床所見に加えて磁気共鳴画像化(MRI)に依拠する「McDonald基準」を用いて診断することができる(Polmanら、Ann Neurol 2011;69:292〜302頁)。一般に、2つ以上の攻撃または2つ以上の客観的な臨床病変を呈する患者は、さらなる臨床的証拠がなくてもMSを有すると考えられる。攻撃または証明できる病変がより少ない患者においては、診断は臨床的知見または臨床的および診断的(MRI)知見による空間および/または時間における病変の普及の客観的証明に基づく。空間における病変の普及の臨床的証拠は、中枢神経系の4つの以下の領域:脳室周囲、皮質近接(juxtacortical)、テント下、または脊髄のうちの少なくとも2つにおける1つまたはそれ以上のT2病変により証明される。時間における病変の普及は、任意の時点での追跡MRIにおける新しいT2病変および/もしくはガドリニウム増強病変または無症状性ガドリニウム増強病変および非増強病変の同時的存在により証明される。一次性進行型MSは、1年の疾患進行(遡及も含む)と、A)MSに特徴的な少なくとも1つの領域(脳室周囲、皮質近接、もしくはテント下)における脳中の1つもしくはそれ以上のT2病変に基づく空間における普及の証拠、またはB)2つより多いT2病変に基づく脊髄中の空間における普及に関する証拠、ならびにC)脳脊髄液中のオリゴクローナルバンドの存在および/もしくはIgGインデックスの上昇のうちの2つ以上を有する対象において診断される(Polmanら、Ann Neurol 2011;69:292〜302頁)。
【0040】
いくつかの実施形態においては、患者は、少なくとも1つの臨床的攻撃または少なくとも1つの客観的臨床病変を有するか、または有したことがあるが、McDonald基準を用いて多発性硬化症の診断を確立するための十分な数の臨床的攻撃および客観的臨床病変を呈していない。そのような患者は、多発性硬化症の「危険性がある」患者であり、MSの「危険性がある」患者へのFXII阻害剤の投与を用いて、MSの診断をMcDonald基準の下で行うことができる点まで対象が進行しないという意味でMSを防止することができる。したがって、一実施形態においては、多発性硬化症の危険性がある対象に少なくとも1つのFXII阻害剤を投与することによって、多発性硬化症を防止することを含む、多発性硬化症を防止する方法が提供される。同様に、本発明は、多発性硬化症の危険性がある対象における多発性硬化症を防止するのに使用するための、第XII因子阻害剤と薬学的に許容される賦形剤または担体とを含む医薬組成物も提供する。
【0041】
多発性硬化症と診断された対象を含むこれらの実施形態においては、対象を、疾患経過に基づいて、(1)再発寛解型、(2)二次性進行型、(3)一次性進行型、および(4)進行再発型MSを有する対象にさらに分類することができる。
【0042】
かくして、本発明は、ある特定の実施形態においては、治療上有効量の少なくとも1つの第XII因子阻害剤を、再発寛解型MSと診断された患者に投与することによって、再発寛解型MSを防止もしくは処置するか、または再発寛解型MSの影響を改善することを含む、多発性硬化症の影響を防止、処置、または改善する方法を提供する。さらに、本発明は、再発寛解型多発性硬化症の影響の防止、処置、または改善における使用のための、第XII因子阻害剤と薬学的に許容される賦形剤または担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0043】
さらなる実施形態において、本発明は、治療上有効量の少なくとも1つの第XII因子阻害剤を、二次性進行型MSと診断された患者に投与することによって、二次性進行型MSを防止もしくは処置するか、または二次性進行型MSの影響を改善することを含む、多発性硬化症の影響を防止、処置、または改善する方法を提供する。さらに、本発明は、二次性進行型多発性硬化症の影響の防止、処置、または改善における使用のための、第XII因子阻害剤と薬学的に許容される賦形剤または担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0044】
さらに他の実施形態において、本発明は、治療上有効量の少なくとも1つの第XII因子阻害剤を、一次性進行型MSと診断された患者に投与することによって、一次性進行型MSを防止もしくは処置するか、または一次性進行型MSの影響を改善することを含む、多発性硬化症の影響を防止、処置、または改善する方法を提供する。さらに、本発明は、一次性進行型多発性硬化症の影響の防止、処置、または改善における使用のための、第XII因子阻害剤と薬学的に許容される賦形剤または担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0045】
さらなる実施形態において、本発明は、治療上有効量の少なくとも1つの第XII因子阻害剤を、進行再発型MSと診断された患者に投与することによって、進行再発型MSを防止もしくは処置するか、または進行再発型MSの影響を改善することを含む、多発性硬化症の影響を防止、処置、または改善する方法を提供する。さらに、本発明は、進行再発型多発性硬化症の影響の防止、処置、または改善における使用のための、第XII因子阻害剤と薬学的に許容される賦形剤または担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0046】
いずれかの型のMSの影響を改善するか、またはそれを処置することの一例は、対象の障害度の低下または障害進行までの時間の増加である。障害度を、Kurtzkeの総合障害度(EDSS)を用いて評価(またはスコア化)することができる(Kurtzke JF、Neuroepidemiol 2008;31:1〜9頁)。例えば、ある阻害剤が、12週間にわたって持続したベースラインEDSS≧1.0からのEDSS上の少なくとも1ポイントの増加、または12週間にわたって持続したベースラインEDSS=0からのEDSS上の少なくとも1.5ポイントの増加と定義される、「障害の持続的増加」の開始までの時間を減少させる場合、その阻害剤は障害スコアを減少させる。いずれかの型のMSの影響を改善するか、またはそれを処置することの他の例を、MRI:例えば、所定の期間、例えば、12、24、36、もしくは48ヶ月にわたる新しいか、もしくは新しく拡大するT2−高信号病変の中央数の減少;または所定の期間、例えば、12、24、36、もしくは48ヶ月にわたるT1ガドリニウム増強病変の数の減少により測定することができる。
【0047】
一般に、本発明によるFXII阻害剤がMSを処置しているか、またはMSの影響を改善していることを示すために用いることができる基準としては、単独の、または任意の副組合せの以下の結果:造影MRI病変数の程度の低下;障害の持続的蓄積(SAD)評定の低下;再発の発生の減少;再発するまでの時間の増加;初回処置後、例えば、1、2、3年以上で再発していない患者の割合の増加;脳走査上での脳萎縮の比率の低下;MRI
T2病変体積の減少;脳脊髄液(「CSF」)オステオポンチンレベルの変化;総合障害度(EDSS)の改善;Timed 25−foot Walk(T25FW)検査の改善;多発性硬化症機能障害スコア(MSIS)の改善;多発性硬化症機能評価短縮型36健康調査(SF36)の改善;脳脊髄液中のニューロフィラメント重鎖レベルの改善;脳脊髄液中のミエリン塩基性タンパク質レベルの改善;標準脳容積(NBV)、灰白質容積(GMV)、および/もしくは白質容積(WMV)の改善;全脳、病変、正常に見える灰白質(NAGM)、もしくは正常に見える白質(NAWM)における磁化移動率(MTR)の改善;病変、GMおよびNAWM中のFAおよびADCにおける拡散移動画像化(DTI)の改善;CSF細胞計数の改善;IgGインデックスの改善;CSF窒素酸化物代謝物の改善;CSF−血清アルブミン濃度比(concentration quotient)の改善;CSF CXCL13レベルの改善;マトリックスメタロプロテイナーゼ−9(MMP−9)レベルの改善;新しいガドリニウム増強病変(GdEL)の減少;T2加重MRI画像上の病変の体積の減少、T2加重MRI画像上の新しいか、もしくは拡大している病変の数の減少;これらの基準の任意の組合せ;またはこれらの基準の任意の副組合せが挙げられる。いずれかの基準について、処置が始まった時点に関して基準を判定することができる。
【0048】
再発型のMSを含むこれらの実施形態においては、本発明によるFXII阻害剤が、年間再発率を減少させるか、または所定の期間、例えば、6ヶ月、12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月、36ヶ月、48ヶ月、もしくは60ヶ月(もしくはその間の任意の時間)にわたって再発していない患者の割合を増加させる場合、その阻害剤もMSを処置または改善する。
【0049】
EAEモデルを用いて、特定のFXII阻害剤が多発性硬化症を防止、処置、または改善するかどうかを決定することができる。EAEモデルは許容されたMSの動物モデルであり、多発性硬化症の処置のためにFDAによって認可された薬物を開発するために用いられてきた(例えば、Stuveら、Arch.Neurol.2010;67:1307〜15頁;Yednockら、Nature 1992)。したがって、特定のFXII阻害剤が、実施例に記載のものなどの1つまたはそれ以上のEAEモデルにおいて活性を示す場合、当業者であれば、FXII阻害剤が多発性硬化症の影響の防止、処置または改善においても活性を示すと予想することができる。しかしながら、EAEモデルにおける不活性は多発性硬化症における活性を排除するものではないことには注目すべきである。例えば、MSのための1つの初期処置であるインターフェロンベータは、EAEモデルにおいてはあまり有効ではなかった(Stuveら、Arch.Neurol.2010;67:1307〜15頁)。
【0050】
II.FXII阻害剤
用語「第XII因子」および「FXII」はそれぞれ、第XII因子および活性化第XII因子(FXIIa)のいずれかまたは両方を指す。かくして、「FXII阻害剤」は、FXIIおよびFXIIaのいずれかまたは両方の阻害剤を含む。さらに、抗FXII抗体は、FXIIおよびFXIIaのいずれかまたは両方に結合し、これを阻害する抗体を含む。用語「FXII阻害剤」はまた、いくつかの実施形態においては、リンカーを含む半減期延長ポリペプチドに連結されたFXIIの阻害剤を含むことも意味する。
【0051】
いくつかの実施形態においては、FXII阻害剤は、FXIIの直接的阻害剤である。用語「直接的」阻害剤とは、FXII(またはFXIIa)との接触(例えば、結合)を介して作用する阻害剤を意味する。対照的に、間接的阻害剤は、FXII(またはFXIIa)タンパク質と接触せずに作用し得る;例えば、アンチセンスRNAを用いて、FXII遺伝子の発現を減少させることができるが、それはFXIIタンパク質と直接的に相互作用するわけではない。かくして、直接的阻害剤とは対照的に、間接的阻害剤は、FXIIタンパク質から上流または下流で作用する。直接的阻害剤のいくつかの例を、以下に提示する。FXII阻害剤は、一般的には非内因性阻害剤である;すなわち、それらは炎症性脱髄疾患を有する対象の体内に天然に存在する阻害剤ではない。
【0052】
A.インフェスチン−4
一実施形態においては、本出願は、インフェスチンドメイン4、「インフェスチン−4」を含むFXII阻害剤を提供する。最近、インフェスチン−4は、活性化FXII(FXIIa)の新規阻害剤であると報告された。インフェスチンは、シャーガス病を引き起こすことが知られる寄生虫Trypanosoma cruziの主要な媒介生物である吸血昆虫、Triatoma infestansの中腸に由来するあるクラスのセリンプロテアーゼ阻害剤である(Campos ITNら、32 Insect Biochem.Mol.Bio.991〜997、2002;Campos ITNら、577 FEBS Lett.512〜516頁、2004)。この昆虫は、摂取された血液の凝固を防止するためにこれらの阻害剤を用いる。インフェスチンの完全長前駆体ポリペプチド配列が、
図1に提供される(配列番号1)。インフェスチン遺伝子は、凝固経路における異なる因子を阻害することができるタンパク質をもたらす4個のドメインをコードする。特に、ドメイン4は、FXIIaの強力な阻害剤であるタンパク質(インフェスチン−4)をコードする。インフェスチン−4は、出血性合併症を伴わずにマウスにおいて投与された(WO2008/098720;Hagedornら、Circulation 2010;121:1510〜17頁)。
【0053】
したがって、一実施形態においては、インフェスチン−4の変異体を含むFXII阻害剤が提供される。別の実施形態においては、FXII阻害剤は、インフェスチンドメイン4、ならびに場合によりインフェスチンドメイン1、2および/または3を含む。これらのタンパク質は、FXIIの強力な阻害剤であることが知られている(WO2008/098720を参照されたい;また、Campos ITNら、577 FEBS Lett.512〜516頁、2004も参照されたい)。一実施形態においては、FXII阻害剤は、(His)
6タグ付きインフェスチン−4構築物である。別の実施形態においては、FXII阻害剤は、アルブミン−リンカー−インフェスチン−4からなる融合タンパク質である。一実施形態においては、アルブミン−リンカー−インフェスチン−4は、Hagedornら、Circulation 2010;117:1153〜60頁に記載されたrHA−インフェスチン−4タンパク質である。FXIIのインフェスチン阻害剤の例は、WO2008/098720およびHagedornら、Circulation 2010;117:1153〜60頁に記載されている。
【0054】
本明細書で用いられる場合、インフェスチンの「変異体」という用語は、「突然変異」が野生型インフェスチン−4配列に対する置換、欠失、または付加と定義され、そのような変化がFXIIを阻害するポリペプチドの機能的能力を変化させないアミノ酸変異を有するポリペプチドを指す。用語「変異体」は、野生型または突然変異型インフェスチン−4配列の断片を含む。そのような変異体のさらなる例を、以下に提供する。
【0055】
一実施形態においては、インフェスチン−4変異体は、野生型インフェスチン−4配列のアミノ末端に由来するアミノ酸配列VRNPCACFRNYV(配列番号2の残基2〜13)(
図2中の下線付き配列を参照)、および野生型インフェスチン−4配列との差異をもたらす、N末端アミノ酸以外の少なくとも1個から最大5個のアミノ酸変異、および/または6個の保存されたシステイン残基、および/または野生型インフェスチン−4配列に対する少なくとも70%の相同性を含む。したがって、いくつかの実施形態においては、インフェスチン−4の変異体は、野生型インフェスチン−4配列のアミノ酸2〜13の保存されたN末端領域、および野生型インフェスチン−4配列との差異をもたらす、これらの保存されたN末端アミノ酸以外の少なくとも1個から最大5個のアミノ酸変異を含む。本明細書で用いられる場合、インフェスチン変異体の「N末端アミノ酸以外」という用語は、配列VRNPCACFRNYV、すなわち、配列番号2に由来するアミノ酸2〜13を含むアミノ酸の連続するストレッチ以外の変異体のポリペプチド鎖に沿った任意のアミノ酸を指す。別の実施形態においては、インフェスチン−4変異体は、6個の保存されたシステイン残基を含み、野生型インフェスチン−4配列に対する少なくとも70%の相同性を有する。一実施形態においては、6個の保存されたシステイン残基は、野生型インフェスチン−4配列、配列番号2の6、8、16、27、31および48位のアミノ酸である(
図2を参照されたい)。一実施形態においては、変異体は、48位に最後の保存されたシステインを含む。他の実施形態においては、システイン残基の正確な位置および互いの相対的位置は、インフェスチン−4変異体中の挿入または欠失に起因して野生型インフェスチン−4配列の6、8、16、27、31、および48位から変化してもよい。それにも拘らず、これらの実施形態においては、インフェスチン−4変異体は、6個全てのシステインを含み、野生型インフェスチン−4配列に対する70%、75%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%、またはその間の任意のパーセンテージの相同性を有してもよい。
【0056】
一実施形態においては、FXII阻害剤は、野生型インフェスチン−4ポリペプチド配列の変異体(配列番号2)を含み、その変異体は配列番号2のN末端アミノ酸2〜13;野生型インフェスチン−4配列との差異をもたらす、前記N末端アミノ酸以外の少なくとも1個から最大5個のアミノ酸変異;6個の保存されたシステイン残基;および野生型インフェスチン−4配列に対する少なくとも70%の相同性を含む。
【0057】
インフェスチン−4変異体の実施形態においては、インフェスチン−4の変異体は、それがFXIIを阻害することを特徴とする。FXIIを阻害する機能的活性を、例えば、FXII酵素活性の阻害、凝固時間の延長、すなわち、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT;内因性凝固経路に対処する臨床凝固試験)を検査するための直接アッセイ、または凝固を評価するin vivo方法を含む、in vitroおよび/またはin vivoでの特性評価により評価することができる。
【0058】
インフェスチン−4変異体のさらなる例は、以下に記載されるSPINK−1突然変異体である。
【0059】
B.SPINK−1突然変異体
一実施形態は、ヒトにおける治療的使用のためのFXII阻害剤を含む。インフェスチン−4との高い類似性を有するヒトタンパク質を用いることができる。例えば、インフェスチン−4との最も高い類似性を有するヒトタンパク質は、膵臓中で発現されるKazal型セリンプロテアーゼ阻害剤(膵臓分泌トリプシン阻害剤、PSTIとしても知られる)であるSPINK−1である。Kazal型セリンプロテアーゼ阻害剤ファミリーは、セリンプロテアーゼ阻害剤のいくつかのファミリーのうちの1つである。異なる種に由来する多くのタンパク質が記載されている(Laskowski MおよびKato I、49 Ann.Rev.Biochem.593〜626頁、1980)。
【0060】
野生型SPINK−1配列(配列番号3)に基づいて、異なる変異体を作成して、インフェスチン−4に対するSPINK−1配列の相同性を増加させることができる。一実施形態においては、SPINK−1を、FXII阻害機能にとって重要であると考えられる、配列番号2のN末端アミノ酸2〜13を含むように突然変異させる。K1と呼ばれるポリペプチド配列を、配列番号4および
図2に与える。
【0061】
一実施形態においては、突然変異型SPINK−1の変異体はまた、野生型インフェスチン−4配列(配列番号2)のN末端アミノ酸2〜13、および野生型SPINK−1配列との差異をもたらし、野生型インフェスチン−4配列に対する変異体の相同性を増加させる、前記N末端アミノ酸以外の少なくとも1個から最大5個のアミノ酸変異も含む。別の実施形態においては、突然変異型SPINK−1の変異体は、6個の保存されたシステイン残基を含み、野生型SPINK−1配列に対する少なくとも70%の相同性を有する。突然変異は、置換、欠失、または付加であってもよい。上記で定義された通り、用語「N末端アミノ酸以外」とは、配列VRNPCACFRNYV、すなわち、配列番号2のアミノ酸2〜13を含むアミノ酸の連続するストレッチ以外の変異体のポリペプチド鎖に沿った任意のアミノ酸を指す。用語「変異体」は、前記突然変異型SPINK−1配列の断片を含む。一実施形態においては、6個の保存されたシステイン残基は、野生型SPINK−1配列(配列番号3、
図2を参照されたい)の9、16、24、35、38、および56位のアミノ酸であってもよい。一実施形態においては、変異体は、最後の保存されたシステインを含む。別の実施形態においては、システインの正確な位置、および互いの相対的位置は、SPINK−1変異体中の挿入または欠失に起因して野生型SPINK−1配列の9、16、24、35、38、および56位から変化してもよい。それにも拘らず、これらの実施形態においては、SPINK−1変異体は、6個全部のシステインを含む。実施形態において、SPINK−1変異体も、それがFXIIを阻害することを特徴とする。
【0062】
一実施形態においては、FXII阻害剤は、SPINK−1の変異体(配列番号3)を含み、SPINK−1変異体は配列番号2のN末端アミノ酸2〜13;野生型SPINK−1配列との差異をもたらし、野生型インフェスチン−4配列に対する変異体の相同性を増加させる、前記N末端アミノ酸以外の少なくとも1個から最大5個のアミノ酸変異;6個の保存されたシステイン残基;および野生型SPINK−1配列に対する少なくとも70%の相同性を含む。
【0063】
SPINK−1変異体の例が与えられ、K1、K2およびK3(それぞれ、配列番号4、5および6)と命名される。SPINK−1変異体K2およびK3において、N末端以外のさらなるアミノ酸置換をK1に関して作製して、インフェスチン−4に対する相同性を増加させ、この変異体はまた、それらがFXII活性を阻害することを特徴とする。WO2008/098720を参照されたい。
図2は、これらの変異体のアミノ酸配列およびSPINK−1野生型配列に対する変化の程度を示す。SPINK−1変異体K3の場合、5個のアミノ酸置換はインフェスチン−4との相同性を増加させる。かくして、実施形態においては、SPINK−1変異体は、野生型SPINK−1配列との70%、75%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%またはその間の任意のパーセンテージの相同性を有してもよい。
【0064】
C.他のFXII阻害剤
FXIIとFXIIaの両方の阻害剤を含む、FXIIの他の阻害剤は、WO2006/066878に記載されている。したがって、いくつかの実施形態においては、FXII阻害剤は、抗トロンビン111(AT111)、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、C1阻害剤、アプロチニン、アルファ−1プロテアーゼ阻害剤、アンチパイン([(S)−1−カルボキシ−2−フェニルエチル]−カルバモイル−L−Arg−L−Val−Arginal)、Z−Pro−プロアルデヒド−ジメチルアセテート、DX88(Dyax Inc.、300 Technology Square、Cambridge、MA02139、USA;Williams AおよびBaird LG、29 Transfus Apheresis Sci.255〜258頁、2003に引用)、ロイペプチン、Fmoc−Ala−Pyr−CNのようなプロリルオリゴペプチダーゼの阻害剤、コーン−トリプシン阻害剤、ウシ膵臓トリプシン阻害剤の突然変異体、エコチン、コガネガレイ抗凝固タンパク質、Cucurbita maximaのイソ阻害剤などのCucurbita maximaのトリプシン阻害剤−V、またはハマダリン(Isawa Hら、277 J.Biol.Chem.27651〜27658頁、2002により開示される)である。
【0065】
さらに他の実施形態においては、FXII阻害剤は、H−D−Pro−Phe−Arg−クロロメチルケトン(PCK)である(Tansら、Eur.J.Biochem.1987;164:637〜42頁;Kleinschnitzら、J Exp Med.2006;203:513〜8頁)。
【0066】
さらに他の実施形態においては、FXII阻害剤は、米国特許第6,613,890号のカラム4〜8に開示されたアミロイド前駆体タンパク質のKunitzプロテアーゼ阻害剤ドメインの類似体である。
【0067】
D.FXII抗体
他の実施形態においては、FXII阻害剤は、FXIIに結合し、FXII活性化および/または活性を阻害する抗FXII抗体である。抗FXII抗体は、例えば、WO2006/066878およびRavonら、1 Blood 4134〜43頁、1995に記載されている。ヒト第XII因子に対する他のモノクローナル抗体(mAb)としては、Pixleyら(J Biol Chem 1987;262、10140〜45頁)により記載されたB7C9 mAb、Smallら(Blood 1985;65:202〜10頁)により記載されたmAb;Nuijensら(J.Biol.Chem.1989;264:12941〜49頁)により記載されたmAb F1およびF3;WO89/11865に記載されたFXIIの軽鎖に対するB6F5、C6B7およびD2E10 mAb;WO90/08835に記載されたFXIIよりもFXIIa−βに選択的に結合するmAb;ならびにWO91/17258に記載された抗FXII抗体OT−2が挙げられる。
【0068】
さらなる抗第XII因子/FXIIaモノクローナル抗体およびその抗原結合断片は、参照によって本明細書に組み入れられる2011年7月22日に出願された米国特許仮出願第61/510,801号に記載されている。これらの抗体は、ヒト第XII因子よりもヒト第XIIa−ベータに対する2倍を超える高い結合親和性を有し、ヒト第XIIa因子のアミド分解活性を阻害することができる。いくつかの実施形態においては、前記抗体またはその抗原結合断片は、1つまたはそれ以上の下記特徴を有する:(a)マウスFXII/FXIIaに結合する;(b)配列番号7の配列と85%を超えて同一である重鎖可変(VH)領域を含む;(c)配列番号8の配列と85%を超えて同一である軽鎖可変(vL)領域を含む;(d)配列番号9の配列と少なくとも80%同一である重鎖CDR1、および/もしくは配列番号10と少なくとも60%同一である重鎖CDR2、および/もしくは配列番号12の配列と少なくとも80%同一である重鎖CDR3を含む;(e)配列番号14と少なくとも50%同一である軽鎖CDR1、および/もしくは配列番号15の軽鎖CDR2、および/もしくは配列A−X
1−W−X
2−X
3−X
4−X
5−R−X
6−X
7(式中、X
1はAもしくはSであってよく、X
5はLもしくはVであってよく、他のX
nは任意のアミノ酸であってよい)(配列番号17)を有する軽鎖CDR3を含む;(f)10
−8Mより良好なK
Dでヒト第XIIa因子−ベータに結合する;(g)ヒト第XIIa因子−ベータへの結合について、インフェスチン−4と競合する;または(h)ヒトIgGもしくはその変異体、好ましくはヒトIgG4もしくはその変異体である。
【0069】
他の実施形態においては、抗FXII抗体は、ヒトFXIIに結合するIgG抗体であり、(a)配列番号9に記載の重鎖CDR1、配列番号11に記載の重鎖CDR2、および配列番号13に記載の重鎖CDR3を含むVH領域;ならびに/または(b)配列番号14に記載の軽鎖CDR1、配列番号15に記載の軽鎖CDR2、および配列番号17に記載の軽鎖CDR3を含むVL領域を含む。配列番号11を含む重鎖CDR2は、配列GIX
1X
2X
3X
4X
5X
6TVYADSVKG(式中、X
1はR、NまたはDであり、X
2はP、V、IまたはMであり;X
3はS、PまたはAであり;X
4はG、L、V、またはTであり;X
5は任意のアミノ酸であってよく、好ましくは、X
5はG、Y、Q、K、R、N、またはMであり;X
6はT、G、またはSである)を含む。配列番号13を含む重鎖CDR3は、配列ALPRSGYLX
1X
2X
3X
4YYYYALDV(式中、X
1はI、MまたはVであり;X
2はSまたはKであり;X
3はP、K、TまたはHであり;X
4はH、N、GまたはQである)を含む。配列番号17を含む軽鎖CDR3は、配列
AX
1WX
2X
3X
4X
5RX
6X
7(式中、X
1はAまたはSであり;X
2はD、Y、E、T、W、EまたはSであり;X
3はA、N、I、L、V、P、QまたはEであり;X
4はS、D、P、E、QまたはRであり;X
5はLまたはVであり;X
6はG、LまたはKであり;X
7はV、A、D、T、MまたはGである)を含む。
【0070】
他の実施形態においては、抗FXII抗体抗原結合断片は、ヒトFXIIに結合し、(a)配列番号9に記載の重鎖CDR1、配列番号10に記載の重鎖CDR2、および配列番号12に記載の重鎖CDR3を含むVH領域;ならびに/または配列番号14に記載の軽鎖CDR1、配列番号15に記載の軽鎖CDR2、および配列番号16に記載の軽鎖CDR3を含むVL領域を含むIgG抗体の断片である。
【0071】
一実施形態においては、抗FXII抗体またはその抗原結合断片は、実施例3で用いられる抗体「3F7」である。3F7の可変領域およびCDRの配列は、表1に提示される。
【0073】
さらに他の実施形態においては、抗FXII抗体またはその抗原結合断片は、親和性成熟した(3F7に関して)抗体VR115、VR112、VR24、VR110、VR119から選択される。
【0075】
上記の通り、配列番号11は縮重配列である。VR119は、X
1がNであり、X
2がVであり、X
3がPであり;X
4がLであり、X
5がYであり;X
6がGである配列番号11を含む。VR112は、X
1がNであり、X
2がVであり、X
3がPであり、X
4がVであり、X
5がQであり、X
6がGである配列番号11を含む。VR115は、X
1がDであり、X
2がIであり、X
3がPであり、X
4がTであり、X
5がKであり、X
6がGである配列番号11を含む。VR110は、X
1がDであり、X
2がMであり、X
3がPであり、X
4がTであり、X
5がKであり、X
6がGである配列番号11を含む。VR24は、ユニークなLCDR1:SGSSEMTVHHYVY(配列番号18)を含む。
【0076】
抗体CDRを含む実施形態においては、CDRはKABATの番号付けシステムに従って定義される(Kabat EA、Wu TT、Perry HM、Gottesman KS、Foeller C(1991)Sequences of proteins of immunological interest、第5版、U.S.Department of Health and Human services、NIH、Bethesda、MD.)。
【0077】
いくつかの実施形態においては、抗体またはその抗原結合断片は、1:0.2のFXIIa−アルファと抗体とのモル比で用いた場合、第XIIa−アルファを40%より多く、50%より多く、または60%より多く阻害する抗第XII因子/FXIIaモノクローナル抗体またはその抗原結合断片である。いくつかの実施形態においては、抗体またはその抗原結合断片は、1:0.5のFXIIa−アルファと抗体とのモル比で、第XIIa因子−アルファを80%より多く、85%より多く、または90%より多く阻害する。一実施形態においては、抗体は1:0.5のモル比で、FXIIa−アルファの完全な阻害を達成する。一実施形態においては、FXIIa−アルファはヒト第XIIa因子−アルファである。一実施形態においては、抗体またはその抗原結合断片は、抗体3F7と少なくとも同等であるヒトFXIIaに対する親和性を有する。
【0078】
上記で考察された通り、「抗FXII抗体」は、FXIIおよびFXIIaのいずれかまたは両方に結合し、これを阻害する抗体を含む。一実施形態においては、抗体は完全長Ig、Fab、F(ab)
2、Fv、scFvの形態、または他の形態もしくはその変異体にあってもよい。抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであってもよい。抗体は、そのアイソタイプがIgM、IgD、IgA、IgG、もしくはIgE、またはその任意のサブクラス、例えば、IgG
1、またはその変異体であることを特徴としてもよい。抗体は、限定されるものではないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ハムスター、またはサルなどの哺乳動物種に由来するものであってもよい。抗体は、ヒト化またはCDR移植されていてもよい。抗体は、免疫原性、半減期を変化させるために、または治療的抗体に関連する他の有利な特性を付与するために突然変異または改変されていてもよい。一実施形態においては、抗体は、中和エピトープなどの、FXII(ここで、「FXII」はFXIIおよびFXIIaを含む)の重鎖または軽鎖上のエピトープに結合する抗FXII抗体である。抗体は、FXIIへの結合に関する高い親和性および/または高いアビディティを有してもよい。抗体を、ポリペプチド、核酸または小分子にコンジュゲートしてもよい。
【0079】
別の実施形態においては、FXII阻害剤は、タンパク質、ペプチド、核酸、または小分子である。用語「小分子」とは、低分子量化合物を指す。小分子は、例えば、細胞膜を越えて拡散することができる1000ダルトン未満であってもよい。小分子は、それがFXIIに高い親和性で結合することを特徴としてもよい。好ましい小分子は、GI管から吸収され得るものである。
【0080】
E.半減期増強ポリペプチドに連結されたFXII阻害剤
本出願の別の態様は、半減期増強ポリペプチド(HLEP)に連結されたFXII阻害剤を提供する。一実施形態においては、FXII阻害剤は、低分子タンパク質である。したがって、他の低分子タンパク質について公開されたような迅速な腎クリアランスを期待することができる(Werle MおよびBernkop−Schnurch A、Amino Acids 2006;30:351〜367頁)。ポリペプチド化合物の短い血漿半減期に対処するための1つの方法は、それを反復的に、または連続輸注により注射することである。別の手法は、ポリペプチド自身の内因性血漿半減期を増加させることである。例えば、一実施形態においては、FXII阻害剤は、半減期延長タンパク質に連結される。
【0081】
「半減期増強ポリペプチド」は、患者または動物におけるin vivoでのFXII阻害剤の半減期を増加させる。例えば、アルブミンおよび免疫グロブリンおよびその断片または誘導体が、半減期増強ポリペプチド(HLEP)として記載されている。Ballanceら(WO2001/79271)は、ヒト血清アルブミンに融合させた場合、in vivoでの機能的半減期の増加および保存可能期間の延長を有すると予測される複数の異なる治療的ポリペプチドの融合ポリペプチドを記載した。
【0082】
用語「アルブミン」および「血清アルブミン」は、ヒトアルブミン(HA)およびその変異体(その完全な成熟形態は配列番号19に与えられる)、ならびに他の種に由来するアルブミンおよびその変異体を包含する。本明細書で用いられる「アルブミン」とは、アルブミンの1つまたはそれ以上の機能的活性(例えば、生物活性)を有する、アルブミンポリペプチドもしくはアミノ酸配列、またはアルブミン変異体を指す。本明細書で用いられる場合、アルブミンは、FXII阻害剤の治療的活性を安定化させるか、または延長することができる。アルブミンは、任意の脊椎動物、特に、任意の哺乳動物、例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、またはブタから誘導することができる。非哺乳動物アルブミンとしては、限定されるものではないが、ニワトリおよびサケに由来するアルブミンが挙げられる。アルブミン連結ポリペプチドのアルブミン部分は、治療的ポリペプチド部分とは異なる動物に由来するものであってもよい。アルブミン融合タンパク質の例については、WO2008/098720を参照されたい。
【0083】
一実施形態においては、アルブミン変異体は、少なくとも10、20、40、もしくは少なくとも70アミノ酸長であるか、またはヒトアルブミン(HA)配列(例えば、
図3に記載の配列、配列番号19)に由来する15、20、25、30、50個以上の連続するアミノ酸を含んでもよく、またはHAの特定のドメインの一部もしくは全部を含んでもよい。アルブミン変異体は、アミノ酸置換、欠失、または付加、保存的または非保存的置換のいずれかを含んでもよく、そのような変化は半減期増強ポリペプチドの治療的活性を付与する活性部位、または活性ドメインを実質的に変化させない。これらの変異体は、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%またはその間の任意のパーセンテージの相同性を有してもよい。
【0084】
一実施形態においては、アルブミン変異体は、断片を含み、アルブミンの少なくとも1つの全ドメインまたは前記ドメインの断片、例えば、ドメイン1(配列番号19のアミノ酸1〜194)、2(配列番号19のアミノ酸195〜387)、3(配列番号19のアミノ酸388〜585)、1+2(配列番号19の1〜387)、2+3(配列番号19の195〜585)もしくは1+3(配列番号19のアミノ酸1〜194+配列番号19のアミノ酸388〜585)からなるか、またはあるいは含んでもよい。それぞれのドメインは、それ自身、2つの相同なサブドメイン、すなわち、配列番号19の残基1〜105、120〜194、195〜291、316〜387、388〜491および512〜585と共に、残基Lys106〜Glu119、Glu292〜Val315およびGlu492〜Ala511を含む可撓性サブドメイン間リンカー領域から構成される。
【0085】
別の実施形態においては、限定されるものではないが、アルファ−フェトタンパク質(WO2005/024044;BeattieおよびDugaiczyk、20 Gene 415〜422頁、1982)、アファミン(Lichensteinら、269 J.Biol.Chem.18149〜18154頁、1994)、およびビタミンD結合タンパク質(CookeおよびDavid、76 J.Clin.Invest.2420〜2424頁、1985)などのアルブミンと構造的または進化的に関連する他のタンパク質をHLEPとして用いることができる。それらの遺伝子は、ヒト、マウス、およびラット中の同じ染色体領域にマッピングされる構造的および機能的類似性を有する複数遺伝子クラスターである。アルブミンファミリーメンバーの構造的類似性は、それらをHLEPとして用いることができることを示唆する。例えば、アルファ−フェトタンパク質はin vivoで結合した治療的ポリペプチドの半減期を延長させると特許請求された(WO2005/024044)。治療的活性を安定化または延長することができるそのようなタンパク質、またはその変異体を用いることができ、それらは任意の脊椎動物、特に、任意の哺乳動物、例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、もしくはブタ、または限定されるものではないが、ニワトリもしくはサケなどの非哺乳動物から誘導することができる(WO2008/098720を参照されたい)。そのような変異体は、10アミノ酸以上の長さであってもよく、または対応するタンパク質配列の約15、20、25、30、50個以上の連続するアミノ酸を含んでもよく、または対応するタンパク質の特定のドメインの一部もしくは全部を含んでもよい。アルブミンファミリーメンバー融合タンパク質は、天然の多型変異体を含んでもよい。
【0086】
一実施形態においては、モノ−またはポリ−(例えば、2〜4)ポリエチレングリコール(PEG)部分を用いて、半減期を延長することができる。ペグ化を、利用可能なペグ化反応のいずれかによって実行することができる。ペグ化されたタンパク質生成物を製造する方法は、一般に、(a)タンパク質が1つまたはそれ以上のPEG基に結合されるようになる条件下で、ポリペプチドをポリエチレングリコール(PEGの反応性エステルもしくはアルデヒド誘導体など)と反応させること;および(b)反応生成物を取得することを含む。一般に、最適な反応条件は、既知のパラメータおよび所望の結果に基づいて個別に決定される。当業界で公知のいくつかのPEG結合方法が存在する。例えば、EP0401384;Malikら、Exp.Hematol.、20:1028〜1035頁(1992);Francis、Focus on Growth Factors、3(2):4〜10頁(1992);EP0154316;EP0401384;WO92/16221;WO95/34326;米国特許第5,252,714号を参照されたい。
【0087】
別の実施形態においては、免疫グロブリン(Ig)、またはその変異体をHELPとして用いることができ、その場合、変異体は断片を含む。一実施形態においては、免疫グロブリン定常領域のFcドメインまたは部分が用いられる。定常領域は、IgM、IgG、IgD、IgA、またはIgE免疫グロブリンのものであってもよい。治療的ポリペプチド部分は、切断可能であってもよい、抗体のヒンジ領域またはペプチドリンカーを介してIgに接続される。いくつかの特許および特許出願が、in vivoでの治療的タンパク質の半減期を延長するための免疫グロブリン定常領域への治療的タンパク質の融合を記載している(US2004/0087778、WO2005/001025、WO2005/063808、WO2003/076567、WO2005/000892、WO2004/101740、米国特許第6,403,077号)。したがって、別の実施形態は、そのような免疫グロブリン配列、例えば、免疫グロブリンのFc断片およびその変異体を、HLEPとして用いることである。FXIIの阻害剤をHLEPとしてFcドメインまたは免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部に融合し、細菌、酵母、植物、動物(昆虫を含む)もしくはヒト細胞系などの原核もしくは真核宿主細胞中で、またはトランスジェニック動物(WO2008/098720)中で組換え分子として産生させることができる。
【0088】
1つのSPINK突然変異体Fc融合タンパク質の例、SPINK−K2−Fc融合タンパク質は、WO2008/098720に記載されている。
【0089】
F.リンカー
一実施形態においては、介在ペプチドリンカーを、治療的ポリペプチドとHLEPとの間に導入することができる。一実施形態においては、特に、HLEPが例えば、立体障害により治療的ポリペプチドの特異的活性を妨害する場合、切断可能なリンカーが導入される。ある特定の実施形態においては、リンカーは、内因性、外因性、または共通の凝固経路の凝固プロテアーゼなどの酵素によって切断される。内因性経路の凝固プロテアーゼは、例えば、FXIIa、FXIa、またはFIXaなどの接触活性化経路中のプロテアーゼである。一実施形態においては、リンカーはFXIIaによって切断される。外因性経路のプロテアーゼは、組織因子経路中のプロテアーゼ、例えば、FVIIaを含む。共通経路のプロテアーゼは、フィブリノゲンのフィブリンへの変換に関与するプロテアーゼ、例えば、FXa、FIIa、およびFXIIIaを含む。
【0090】
G.治療製剤および投与
FXII阻害剤またはその変異体は、80%を超える純度、または95%、96%、97%、98%、もしくは99%を超える純度を有してもよい。一実施形態においては、変異体は、他のタンパク質および核酸などの夾雑巨大分子に関して99.9%を超えて純粋であり、感染性因子および発熱物質を含まない薬学的に純粋な状態を有してもよい。
【0091】
精製されたFXII阻害剤を、添加することができる従来の生理的に適合する水性バッファー溶液、場合により、医薬賦形剤に溶解して、患者における炎症性脱髄疾患の影響を防止、処置、または改善するための医薬調製物を提供することができる。そのような医薬担体および賦形剤ならびに好適な医薬製剤は、当業界で周知である。例えば、Kibbeら、Handbook of Pharmaceutical Excipients(第3版、Pharmaceutical Press)、2000を参照されたい。医薬組成物を、凍結乾燥形態または安定可溶性形態で製剤化することができる。当業界で公知の様々な手順により、ポリペプチドを凍結乾燥することができる。凍結乾燥製剤は、注射用滅菌水または滅菌生理食塩溶液などの1つまたはそれ以上の薬学的に許容される希釈剤の添加によって使用前に再構成される。
【0092】
FXII阻害剤の製剤は、任意の薬学的に好適な投与手段によって患者に送達される。様々な送達系が公知であり、これを用いて任意の都合のよい経路により組成物を投与することができる。組成物を、非経口的などの全身的に投与することができる。本明細書で用いられる用語「非経口的」は、静脈内、皮下、筋肉内、動脈内および気管内注射;ならびに点滴、スプレー適用、および輸注技術を含む。非経口製剤を、公知の手順に従って、ボーラス形態で、または持続輸注として、静脈内的または皮下的に投与することができる。非経口的使用のための周知である好ましい液体担体としては、滅菌水、塩水、水性デキストロース、糖溶液、エタノール、グリコール、および油が挙げられる。全身的使用のためには、治療的タンパク質を静脈内系または動脈系のために製剤化することができる。製剤を、輸注またはボーラス注射により連続的に投与することができる。
【0093】
いくつかの実施形態においては、製剤は、脊髄および脳への直接的アクセスが得られるように、くも膜下注射または頭蓋内注射により投与される。これらの実施形態においては、製剤を特殊に製剤化することができる;例えば、製剤は保存剤を欠いてもよい。
【0094】
いくつかの実施形態においては、製剤は、鼻内投与により投与される。鼻内送達は、脳脊髄液(CSF)またはCNSへのウイルスおよび巨大分子の直接的進入を可能にすると報告されている。Mathisonら、J.Drug Target 1998;5:415〜41頁;Chouら、Biopharm Drug Dispos.1997;18:335〜46頁;Draghiaら、Gene Ther.1995;2(6):418〜235頁。一実施形態においては、タンパク質である任意のFXII阻害剤をコードする遺伝子を含む、アデノウイルスベクターなどのウイルスベクターを、嗅覚受容器ニューロンを介して送達して、脳中でのコードされたタンパク質の発現を得ることができる。Draghiaら、Gene Ther.1995;2(6):418〜23頁。
【0095】
経口投与のための錠剤およびカプセル剤は、結合剤、充填剤、潤滑剤、または湿潤剤などの従来の賦形剤を含有してもよい。経口液体調製物は、水性もしくは油性の懸濁液、溶液、乳濁液、シロップ、エリキシル剤などの形態にあってもよく、または使用のための水もしくは他の好適なビヒクルによる再構成のための乾燥製品として提供することができる。そのような液体調製物は、懸濁剤、乳化剤、非水性ビヒクル、および保存剤などの従来の添加物を含有してもよい。いくつかの製剤は、遅延放出系、例えば、パッチを包含する。
【0096】
FXII阻害剤の用量は、例えば、適応症、製剤、または投与様式などの多くの因子に依存してもよく、それぞれ対応する適応症について前臨床および臨床試験において決定することができる。例えば、一実施形態においては、FXII阻害剤の用量は、0.1mg/kg、1mg/kg、50mg/kg、100mg/kg、200mg/kg、500mg/kg、1000mg/kg、もしくはその間の任意の用量、または0.1〜1000mg/kg、もしくは1〜1000mg/kgもしくは1〜500mg/kg、もしくは50〜500mg/kg、50〜200mg/kg、もしくは100〜200mg/kg、もしくはその間の任意の用量範囲である。
【0097】
治療上有効用量の抗FXII抗体またはその抗原結合断片を含むこれらの実施形態においては、治療上有効用量は、処置を必要とする患者または対象において正の治療効果をもたらす用量である。治療上有効用量は、一般的には、約0.01〜100mg/kg、約0.01〜50mg/kg、約0.1〜30mg/kg、約0.1〜10mg/kg、約0.1〜5mg/kg、約0.1〜2mg/kgもしくは約0.1〜1mg/kgの範囲、もしくはその間の任意の用量範囲、または上記で提示されたか、もしくは実施例に提示されるFXII阻害剤に関する用量の1つである。
【0098】
処置は、単回用量または複数回用量を与えることを含んでもよい。複数回用量が必要な場合、それらを毎日、1日置きに、毎週、2週間毎に、毎月、または2ヶ月毎に、または必要に応じて投与してもよい。抗体またはその抗原結合断片をゆっくりと連続的に放出するデポー剤(depository)を用いてもよい。治療上有効用量は、対象におけるFXIIaを少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%、より好ましくは、少なくとも95%、99%、またはさらには100%(またはその間の任意のパーセンテージ)阻害する用量であってもよい。
【0099】
FXII阻害剤を、単独で、または他の治療剤と共に投与してもよい。これらの薬剤を同時製剤化するか、または別々の製剤として、同時もしくは別々に、同じ投与経路もしくは異なる投与経路により投与してもよい。FXII阻害剤の投与のスケジュールまたは用量は、他の医学的状態または治療などの因子に応じて、同じ適応症または異なる適応症を有する個々の患者間で変化してもよい。
【0100】
実施形態は、限定と解釈されるべきではない以下の実施例によってさらに例示される。他の実施形態は、明細書の考慮および開示された実施形態の実施から当業者には明らかとなるであろう。本出願を通して引用される全ての参考文献、特許、および公開された特許出願の内容は、参照によって本明細書に組み入れる。
【実施例】
【0101】
〔実施例1〕
多発性硬化症における革新的標的としての血漿血液凝固系
予備試験は、一次止血および二次止血がMSにおける炎症性神経変性に関与することを示唆する。例えば、Ca
2+依存的血小板活性化における重要な分子として既に同定されていたSTIM1およびSTIM2が、炎症反応および神経変性の重要な病態生理学的決定因子であることが、EAE動物モデルにおいて最近証明された(Schuhmannら、J.Immunol.2010;184:1536〜42頁)。さらに、フィブリノゲンおよびフィブリンの沈着が、MS患者の中枢血管および脳実質の両方において認められる(Sobel & Mitchell、Am.J.Pathol.1989;135:161〜68頁;Claudioら、Acta Neuropathol 1995;90:228〜38頁;Marikら、Brain 2007;I30:2800〜15頁)。フィブリンは、順に外因系および内因系から作られる、いわゆる血漿血液凝固系の最終生成物である。凝固因子XII(FXII)は、内因性血液凝固カスケードの出発点であり、最初にFXIの活性化を誘導する。同時に、それは、ブラジキニンの形成である終点である前炎症性接触(キニン)系を活性化する。
【0102】
本発明者らの研究により、ブラジキニン受容体B1RはEAEモデルにおける炎症細胞侵襲の重要な調節因子であることが示された(Gobelら、J.Autoimmun 2011:36:106〜14頁)。B1R欠損マウスは、あまり重症ではないEAEを経験した。同様に、B1Rの選択的アンタゴニストで処置した野生型マウスも、未処置のマウスと比較してより低い疾患の極大(disease maximum)を経験した。対照的に、B2R遺伝子の破壊によるブラジキニン受容体B2Rの遮断は、EAE疾患経過を変化させなかった。興味深いことに、B2Rはブラジキニンの効果の多くを媒介するが、B1RとB2Rは両方とも組織損傷後に古典的炎症プロセスを媒介する。さらに、ブラジキニンは少なくとも2つの経路:内因性凝固経路およびFXIIノックアウトマウスにおいても生じるため、FXII非依存的であるはずの別の経路によって活性化され得るため、in vivoでブラジキニン活性をもたらす機序は不明である(Schmaier AH、Int.Immunopharmacol.2008;8:161〜65頁)。
【0103】
FXIIもまたEAEに寄与するかどうかを試験するために、200μgのMOG
35−55で10〜12週齢のメスC57Bl/6、FXII−またはFXI−欠損マウスを免疫することにより、EAEを誘導した。C57Bl/6MOG
35−55マウスモデルは、治療化合物の前臨床検証のために一般的に用いられている(Krishnamoorthy & Wekerle、Eur.J.Immunol 2009;39:2031〜35頁)。このモデルにおけるEAEの経過は、一度誘導された場合、疾患が寛解しないため、一次性進行型のMSと似ている。完全Freundアジュバント(CFA)をMOGに添加して、1mg/mlの乳濁液を得て、2x100μlを、深く麻酔したマウスの脇腹の2つの異なる部位に皮下注射した。百日咳毒素を免疫化の当日および2d後に注射した(400ng、Alexis、San Diego、CA)。全ての動物を標準的な条件下で保持し、水および食料を自由に摂取させた。
【0104】
毎日静脈内注射により投与されるFXIIアンタゴニストH−D−Pro−Phe−Arg−クロロメチルケトン(PCK)(8μg/g;Bachem)を用いて、薬理学的調節も実施した。PCKは、活性化FXII(FXIIa)のアミド分解活性およびFXIIの血漿カリクレイン媒介性活性化を不可逆的に阻害する(Tansら、Eur.J.Biochem.1987;164:637〜42頁;Kleinschnitz、J Exp Med.2006 Mar 20;203(3):518〜8頁)。
【0105】
EAEの臨床経過を、以下のスコア系を用いて二重盲検調査者によって毎日モニタリングした:等級0、異常なし;1等級、尾の先端を引きずる;2等級、尾を引きずる;3等級、中程度の後ろ肢の弱体;4等級、完全な後ろ肢の弱体;5等級、軽度の不全対麻痺;6等級、不全対麻痺;7等級、重度の不全対麻痺または対麻痺;8等級、四肢不全麻痺;9等級、四肢麻痺または瀕死前状態;10等級、死亡。7より高いスコアを有する動物を安楽死させ、実験の最後まで一致したスコアを継続した。
【0106】
FXII欠損マウスにおいては、最大疾患率は有意に低下した(
図4A)。PCKによる薬理学的遮断においても同様の結果が得られた(
図4C、4D)。PCKは、動物がEAE症状を既に示していた12日目に処置を開始した場合でも効果があった(
図4D)。しかし、FXI欠損マウスにおいては、EAE疾患経過は野生型対象マウスにおけるものと類似していた(
図4B)。FXIはFXIIのすぐ下流にあり、FXIIaによって活性化されるため、これらの結果は、それがEAEモデルにおける観察された保護効果をもたらした内因性凝固カスケードにおけるFXIIの役割ではないことを示している。
【0107】
疾患スコアの減少に加えて、炎症病巣の数および脱髄と軸索損傷との両方も、FXII欠損動物において有意に減少した。
図5は、対照(左バー)、PCK処置されたマウス(中央バー)およびFXII
−/−マウス(右バー)における炎症病巣の数(
図5A)、脱髄領域/スライス(
図5B)、および軸索計数(
図5C)を示す。定量のために、染色された切片を、CCDカメラ(Visitron Systems;Tuchheim、Germany)を備えた顕微鏡(Axiophot2、Zeiss;Oberkochen、Germany)により盲検方式で検査した。炎症病巣(H&E)、脱髄領域(LFB)、および細胞を、MetVue Software(Molecular Devices;Downingtown、USA)を用いて5つの無作為に選択された試料上で計数した。軸索の数を所定の病変において分析した。ImageJ(NIH、USA)を用いて蛍光強度を測定した。対照(Con)とPCK処置されたマウスとの組織学的比較の例を、それぞれの棒グラフについて提示する。矢印は、炎症(
図5A)、脱髄(
図5B)、および軸索損傷(
図5C)の領域を示す。
【0108】
in vitro分析により、免疫応答の変化も示された(
図5Dおよび5E)。脾細胞を、疾患最大で、およびEAE誘導の50日後に免疫したマウスから単離し、MOG
35−55ペプチド(10mg/ml)またはCD3/CD28ビーズ(細胞:ビーズ比2:1)で刺激した。
図5Dに示された増殖アッセイについては、1x10
5個の脾細胞を、10mM HEPES、25mg/mlゲンタマイシン、50mMメルカプトエタノール、5%FCS、2mMグルタミン、および1%非必須アミノ酸(Cambrex;Verviers、Belgium)を含有するDMEM 1ml中で3日間培養し、CD3/CD28ビーズ(細胞:ビーズ比2:1;Dynal Biotech、Hamburg、Germany)または10mg/mlのMOG
35−55で刺激した。
3Hチミジン(Amerham;Piscataway、NJ)を最後の14時間について添加し、ベータ−シンチレーションカウンター(TopCount NXT;PerkinElmer、Rodgau−Juegesheim、Germany)上で放射活性を測定した。実験を4回行った。
【0109】
図5Dに示されるように、CD3/CD28ビーズで刺激した対照(左バー)、PCK処置されたマウス(中央バー)およびFXII
−/−マウス(右バー)の脾細胞間での増殖は有意に異なっていなかった。MOG
35−55ペプチドを用いて増殖を刺激した場合、対照とPCK処置されたマウスとの間に有意差はあったが、対照とFXII
−/−マウスとの間には有意差がなかった。
【0110】
また、MOGで再刺激した脾細胞の上清を、製造業者の説明書に従うELISA(R&D Systems;Wiesbaden、Germany)によってIFNγ、IL−17、IL−4およびIL−6タンパク質レベルについて評価した。
図5Eに提示される結果は、対照と比較してPCK処置されたマウス(中央バー)およびFXII
−/−マウス(右バー)の両方に由来する脾細胞からのIL−17、TNFαおよびIL−6の産生が低下したことを示す。IFNγのレベルは有意に異ならなかった。
【0111】
総合すると、これらの結果は、FXIIの阻害が末梢免疫応答の変化をもたらし、これは内因性凝固カスケードの変化と関連しないことを示唆している。
【0112】
〔実施例2〕
FXIIのタンパク質阻害剤は神経自己免疫性炎症の一次性進行モデルにおける疾患の臨床徴候も阻害する
FXIIのもう1つの阻害剤であるrHA−インフェスチン−4も、実施例1で詳細に説明されたEAEモデルにおいて活性であった。この試験においては、マウスを、200μg/gの用量で毎日静脈内注射によって、リンカーを介してインフェスチン4ドメインに融合されたヒトアルブミンを含むタンパク質であるrHA−インフェスチン−4(Hagedornら、Circulation 2010;117:1153〜60頁に記載されている)で処置した。
【0113】
図6Aに示されるように、rHA−インフェスチン−4はまた、疾患経過の初期にEAEスコアを減少させた。そしてPCK処置されたマウスおよびFXII
−/−マウスにおける試験において見られたように、rHA−インフェスチン−4による処置は、対照と比較してIL−17産生の有意な減少をもたらした(
図6B)。
【0114】
これらの結果は、FXIIの薬理学的遮断が、MSの処置のための新しい代替的な抗炎症戦略を提供することのさらなる証拠を提供する。
【0115】
〔実施例3〕
抗FXII抗体処置は神経自己免疫性炎症の再発モデルにおける疾患の臨床徴候を阻害する
また、抗FXII抗体を用いて、第2のEAEモデル−PLPペプチド(ミエリンプロテオリピドタンパク質)で免疫したメスSJLマウスにおけるFXIIの役割も試験した。このEAEマウスモデルは、運動ニューロン機能の変性などのMSの多くの臨床徴候および組織病理学的徴候を再現する。C57Bl/6MOG
35−55モデルと同様、PLPで免疫したSJLマウスは、治療化合物の前臨床検証における使用のための許容されるモデルである(Krishnamoorthy & Wekerle、Eur.J.Immunol 2009;39:2031〜35頁)。しかしながら、SJL PLPモデルもまた、再発寛解型のMSにおいて生じるように、寛解および再発を経験する。
【0116】
完全Freundアジュバント(CFA)(Difco、BD San Diego、CA、USA)中に乳濁したPLPペプチド(139〜151)(Mimotopes、Clayton、Vic、Australia)100μgを用いて8〜12週齢のメスSJLマウスに皮下的に免疫した後、百日咳毒素(Sigma−Aldrich、St Louis、MO、USA)200ngを0日目に静脈内投与することにより、該マウスにおいてEAEを誘導した。「−1」日目(すなわち、EAE誘導注射の前日)、ならびに誘導後1、3、6、8、10、13および15日目に、対照動物にアイソタイプ対照モノクローナル抗体200μgの皮下注射を与えたが、実験群は抗FXIImAb(3F7)を受けた。0および15日目に疾患をモニタリングした。それぞれのマウスにつき6の最大スコアを用いて、Langrishら、J Exp Med.2005;201:233〜40頁に記載のように臨床スコアを評価した。全ての動物手順は、CSL動物倫理委員会によって認可されたものであった。
【0117】
中和抗FXIIモノクローナル抗体(mAb)を用いるマウスの処置は、この再発モデルにおいてEAEの臨床進行を阻害した(
図7)。阻害は、疾患の初期段階で最も有効であった。
【0118】
in vivoでの前炎症性サイトカイン応答に対するFXII遮断の効果を評価するために、動物を9日目に出血させ、製造業者の説明書に従うLuminex 200装置(Austin、TX、USA)上でのLuminexアッセイ(Millipore、Billerica、MA、USA)によるサイトカイン分析のために血清を収穫した。抗FXII抗体処置は、血液中への前炎症性サイトカイン放出の減少をもたらした。
図8に示されるように、抗FXIIは、GM−CSF、IFNγ、TNFαおよびIL−1βのレベルを減少させた。
【0119】
マクロファージおよび樹状細胞(DC)はEAEおよびMS炎症病変において顕著であり、組織損傷の媒介における役割を有する。これらは、前炎症性サイトカインの産生により、自己反応性リンパ球への抗原提示、および直接的ミエリン損傷を引き起こす反応性酸素種の産生に寄与する(Grahamら、2009)。ケメリンは、血液中のチモーゲンとして循環する分子であり、プラスミン、好中球エラスターゼ、およびそれほどではないにせよ、FVIIaを含むセリンプロテアーゼにより活性化される。しかしながら、FXIIaは、主な活性化因子である(QuおよびChaikof、2010)。活性化ケメリンは、ChemR23としても知られる、ケモカイン様受容体1(CMKLR1)を発現する細胞のための強力な化学誘引物質である。この受容体は、形質細胞様樹状細胞(pDC)、組織常在マクロファージ、単球、およびNK細胞により高度に発現される(HartおよびGreaves、2010)。Grahamら(2009)による研究により、ケメリン受容体、CMKLR1、またはChem23のマウスノックアウトがEAE実験における全体的なより低い臨床スコアを有することが示された。したがって、少なくとも再発EAEモデルにおいて、抗体を用いるFXIIの作用の遮断は、少なくとも部分的には、活性ケメリンの量を減少させることによって、EAE実験における治療効果をもたらすことによって作用し得ることが可能である。
【0120】
本発明の他の実施形態は、本明細書の考慮および本明細書に開示された本発明の実施から当業者には明らかとなるであろう。明細書および実施例は例示のみと考えられ、本発明の真の範囲および精神は以下の特許請求の範囲によって示されることが意図される。