(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在のHDDにおいては、例えば2.5インチ型(直径65mm)の磁気ディスクにディスク1枚あたり320ギガバイト程度の情報を収納することが可能になっているが、更なる高記録密度化、例えば750ギガバイト、更には1テラバイトの実現が要求されるようになってきている。このような近年のHDDの大容量化の要求に伴い、基板表面品質の向上の要求は今まで以上に厳しいものとなってきている。上記のような例えば750ギガバイトの磁気ディスク向けの次世代基板においては、HDDの信頼性に与える基板の影響が大きくなるので、基板表面の粗さについても現行品からの更なる改善が求められる。
【0006】
次世代基板においてはHDDの信頼性に与える基板の影響が大きくなるのは以下のような理由による。
磁気ヘッドの浮上量(磁気ヘッドと媒体(磁気ディスク)表面との間隙)の大幅な低下(低浮上量化)が挙げられる。こうすることで、磁気ヘッドと媒体の磁性層との距離が近づくため、より小さい領域に信号を書き込むことや、より小さい磁性粒子の信号を拾うことができるようになり、高記録密度化を達成することができる。近年、DFH(Dynamic Flying Height)制御という機能が磁気ヘッドに搭載されている。これは、スライダーの浮上量を下げるのではなく、磁気ヘッドの記録再生素子部近傍に内蔵したヒーター等の加熱部の熱膨張を利用して、記録再生素子部のみを媒体表面方向に向けて突き出す(近づける)機能である。このような状況下で、磁気ヘッドの低浮上量化を実現するためには、ガラス基板表面のよりいっそうの平滑性が必要となってくる。
【0007】
ところで、従来技術では、ガラス基板主表面の粗さを低減させる方法として、研磨工程に使用する研磨砥粒の粒径を微細化する方法がよく知られている。
しかしながら、本発明者の検討によると、例えば従来の仕上げ研磨に使用するコロイダルシリカ砥粒の場合、例えば平均粒子径10nm以下のものを使用しても研磨後のガラス表面の粗さの低下傾向が見られなくなった。研磨時、研磨砥粒はガラス表面と研磨パッドの間に介在しているが、研磨パッドは所定の荷重によりガラス表面に圧接しているため、微小の砥粒は研磨パッドの内部に沈み込んでしまい、研磨に寄与する突出量が減少し、研削量が著しく低下することにより、研磨による表面粗さの低減効果が発揮できなくなったのではないかと推測される。
【0008】
また、研磨後は、ガラス表面に付着した砥粒の除去を目的とした洗浄が行われるが、コロイダルシリカなどの無機砥粒を除去するための洗浄では、通常アルカリ洗浄が行われる。アルカリ成分はガラスに対してエッチング効果を持つため、洗浄後のガラス基板表面の粗さの上昇が従来より確認されている。
【0009】
特にコロイダルシリカはガラスと同程度の硬度を有するため、コロイダルシリカを砥粒とする研磨加工においては、ガラス表面に不均一な加工変質層が形成されるため、この加工変質層に対するアルカリ成分のエッチング作用もガラス表面の粗さの上昇に関与していると考えられる。たとえば砥粒を微細化することで不均一な加工変質層の形成を抑えることは可能であるが、上記のとおり、砥粒を微細化していくと研磨による表面粗さの低減効果も得られなくなる。
【0010】
なお、上記特許文献1には、有機系粒子と該有機系粒子と同等以上の大きさの無機粒子との複合粒子(ヘテロ凝集体)を研磨砥粒として用いることで、スクラッチ発生が抑制されることが開示されている。
しかし、上記特許文献1に開示された研磨砥粒においては、例えばシリカ粒子等の無機粒子が実質的にはガラスに対する研削作用を発揮するものと考えられ、このような研磨砥粒を用いて研磨加工を行っても、従来の問題を根本的に解決することは困難である。
【0011】
要するに、例えば750ギガバイトの磁気ディスク向けの次世代基板の製造を目指す場合、基板表面の粗さについても現行品からの更なる改善が求められ、例えば表面粗さRaが0.1nm以下であることが要求されるとすると、従来技術による粗さ改善方法では限界があり、上記のような次世代基板の開発は到底困難である。
また、フォトリソグラフィー法によるLSI等の半導体装置の製造にはフォトマスクが使用されているが、半導体基板への高精細なパターン転写を実現するためには、このフォトマスクの製造に用いられるマスクブランクス用ガラス基板においても、基板表面の粗さについての更なる改善が求められている。
【0012】
そこで、本発明はこのような従来の課題を解決すべくなされたものであって、その目的は、ガラス基板主表面の表面粗さを現行よりも低減できる例えば磁気ディスク用の高品質のガラス基板の製造方法、及びこのガラス基板を用いた磁気ディスクの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者は、表面粗さを現行よりもさらに低減させたガラス基板を得るために、研磨工程にてガラス基板の表面粗さを低減させ、かつ研磨後の洗浄工程ではガラス基板の表面粗さを上昇させない方法を検討した。その検討の結果、有機系粒子を研磨砥粒として用いることにより上記課題を解決できることを見出した。
【0014】
すなわち、ガラスよりも低硬度の有機系粒子を研磨砥粒として用いることにより、荷重下における研磨工程ではガラス表面に不均一な加工変質層を形成させることなく研磨が進行すると考えられるため、研磨後のガラス基板表面の粗さを低減させることができ、しかもガラスに対するエッチング作用を持たない洗浄液の選定により洗浄後のガラス基板表面の粗さの上昇を抑制することができ、その結果、次世代基板に要求される例えば表面粗さRaが0.1nm以下とすることも達成可能であることを見出した。
【0015】
本発明者は、上記知見に基づき、以下の構成による発明によれば上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は上記目的を達成するために、以下の構成を有する。
【0016】
(構成1)
ガラス基板の主表面を鏡面研磨する研磨処理を含むガラス基板の製造方法であって、有機系粒子を研磨砥粒として含む研磨液を用いて、ガラス基板の主表面を鏡面研磨した後、有機系洗浄剤を用いてガラス基板を洗浄することを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0017】
(構成2)
前記有機系粒子は、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂またはウレタン系樹脂からなることを特徴とする構成1に記載のガラス基板の製造方法。
(構成3)
前記有機系洗浄剤は、有機溶剤またはアミン化合物であることを特徴とする構成1又は2に記載のガラス基板の製造方法。
【0018】
(構成4)
ガラス基板の主表面の研磨処理を含むガラス基板の製造方法であって、有機系粒子を研磨砥粒として含む研磨液を用いて、ガラス基板の主表面を研磨処理した後、ガラス基板表面に付着した前記有機系粒子又はその一部を膨潤させ得る有機溶剤をガラス基板表面に接触させる処理を行うことを特徴とするガラス基板の製造方法。
(構成5)
前記有機系粒子を構成する樹脂のモノマー成分の溶解度パラメータ(SP値)をSP1、前記有機溶剤の溶解度パラメータ(SP値)をSP2としたとき、SP2/SP1が0.9〜1.1の範囲となるような前記有機溶剤を選択し、この選択した前記有機溶剤を用いて前記ガラス基板表面に接触させる処理を行うことを特徴とする構成4に記載のガラス基板の製造方法。
(構成6)
前記有機系粒子を構成する樹脂のモノマー成分の分子量をMW1、前記有機溶剤の分子量をMW2としたとき、MW2/MW1が1.5以下となるような前記有機溶剤を選択し、この選択した前記有機溶剤を用いて前記ガラス基板表面に接触させる処理を行うことを特徴とする構成5に記載のガラス基板の製造方法。
【0019】
(構成7)
シリカ砥粒を研磨砥粒として含む研磨液を用いてガラス基板の主表面を研磨した後、前記有機系粒子を研磨砥粒として含む研磨液を用いてガラス基板の主表面を鏡面研磨することを特徴とする構成1乃至6のいずれかに記載のガラス基板の製造方法。
(構成8)
前記有機系粒子を研磨砥粒として含む研磨液を用いて鏡面研磨する前のガラス基板主表面の粗さは、算術平均粗さRaが0.3nm以下であることを特徴とする構成1乃至7のいずれかに記載のガラス基板の製造方法。
【0020】
(構成9)
前記有機系粒子の粒径は、0.5〜60μmであることを特徴とする構成1乃至8のいずれかに記載のガラス基板の製造方法。
(構成10)
前記ガラス基板は、磁気ディスク用ガラス基板であることを特徴とする構成1乃至9のいずれかに記載のガラス基板の製造方法。
(構成11)
構成10に記載の製造方法によって得られたガラス基板上に、少なくとも磁性層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、有機系粒子を研磨砥粒として含む研磨液を用いてガラス基板の主表面を鏡面研磨することで、ガラス基板の表面粗さをよりいっそう低減させることができ、しかも該研磨終了後の最適な洗浄方法を選択して、洗浄後の粗さ上昇を抑えることができるため、有機系砥粒を用いた研磨による超平滑な鏡面状態を洗浄後も維持することができ、その結果、ガラス基板主表面の表面粗さを現行よりもさらに低減させることができる高品質のガラス基板を製造することが可能である。
また、本発明の上記構成とすることで、例えば750ギガバイトを超えるような今まで以上に高記録密度の磁気ディスクを製造するのに好適な高品質のガラス基板を製造することが可能である。
また、上記ガラス基板を用いることにより、上記のような高記録密度の磁気ディスクを製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
磁気ディスク用ガラス基板は、通常、研削工程、形状加工工程、端面研磨工程、主表面研磨工程、化学強化工程、等を経て製造される。
この磁気ディスク用ガラス基板の製造は、まず、溶融ガラスからダイレクトプレスにより円盤状のガラス基板(ガラスディスク)を成型する。なお、このようなダイレクトプレス以外に、ダウンドロー法やフロート法で製造された板ガラスから所定の大きさに切り出してガラス基板を得てもよい。次に、この成型したガラス基板の主表面に対して寸法精度及び形状精度を向上させるための研削を行う。この研削工程は、通常両面研削装置を用い、ダイヤモンド等の硬質砥粒を用いてガラス基板主表面の研削を行う。こうしてガラス基板主表面を研削することにより、所定の板厚、平坦度に加工するとともに、所定の表面粗さを得る。
【0024】
この研削工程の終了後は、形状加工工程、端面研磨工程を経た後、高精度な平面を得るための鏡面研磨加工を行う。従来、ガラス基板の鏡面研磨方法としては、酸化セリウムやコロイダルシリカ等の金属酸化物の研磨材を含有するスラリー(研磨液)を供給しながら、発泡ポリウレタン等の研磨パッドを用いて行われていた。
【0025】
前にも説明したとおり、本発明者は、たとえば750ギガバイトを超えるような今まで以上に高記録密度の磁気ディスクを製造しようとした場合、例えば前述のDFH制御機能を備える磁気ヘッドを採用するなど更なる低浮上量化を実現する上で、阻害要因となり得る基板表面の粗さを現行品よりもさらに一段と低減させる必要があるが、そのためには、研磨処理に用いる研磨液として、有機系粒子を研磨砥粒として含有する研磨液組成物が好適であることを見出した。
【0026】
本発明の一実施の形態は、上記構成1にあるように、磁気ディスクに用いられるガラス基板の主表面を研磨する研磨処理に適用される研磨液組成として、有機系粒子を研磨砥粒として含有する構成としたものである。
すなわち、ガラスよりも低硬度かつ弾性を有する有機系粒子を研磨砥粒として用いることにより、荷重下における研磨工程ではガラス表面に不均一な加工変質層を形成させることなく研磨が進行すると考えられるため、研磨後のガラス基板表面の粗さを低減させることができる。しかも、研磨後、ガラス基板表面に付着した砥粒を除去するための洗浄工程には、ガラスに対するエッチング作用を持たない洗浄液を選定して洗浄を行うことが可能であるため、洗浄後のガラス基板表面の粗さの上昇を抑制することができる。
【0027】
そして、この本発明に係る有機系粒子を研磨砥粒として含有する研磨液を使用してガラス基板の研磨処理を行うことにより、ガラス基板表面の表面粗さを、次世代基板に要求される例えば算術平均粗さRaが0.1nm以下に低減させることができ、高品質のガラス基板を製造することが可能である。そのため、例えば750ギガバイトを超えるような今まで以上に高記録密度の磁気ディスクを製造する場合、今まで以上の低浮上量化を実現する上で、好適な高品質のガラス基板を製造することが可能である。
要するに、本発明において、有機系粒子を研磨砥粒として含む研磨液を用いて、ガラス基板の主表面を研磨する処理は、換言すれば、ガラス基板表面の粗さ低減処理である。
【0028】
本発明における鏡面研磨処理に適用される研磨液は、研磨材(研磨砥粒)と溶媒である水の組合せであり、さらに研磨液のpHを調整するためのpH調整剤や、その他の添加剤が必要に応じて含有されている。
【0029】
上記研磨液には、有機系粒子を研磨砥粒として含有する。また、本発明においては、この有機系粒子のみを研磨砥粒として用いることも特徴の一つである。この有機系粒子は、樹脂等の有機材料からなる粒子であり、より具体的には、ガラスよりも低硬度であり、かつ、弾性を有する樹脂からなる粒子である。具体的には材質が、例えば、アクリル系樹脂またはウレタン系樹脂、あるいはスチレン系樹脂等の樹脂材料からなることが好ましい。アクリル系樹脂とは、アクリル単量体を重合して得られた重合体(例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)など)や、アクリル単量体を主たる成分として含む共重合体などである。また、ウレタン系樹脂とは、ウレタン単量体を重合して得られたウレタン樹脂や、ウレタン単量体を主たる成分として含む共重合体などである。また、スチレン系樹脂とは、スチレン単量体を重合して得られたスチレン樹脂や、スチレン単量体を主たる成分として含む共重合体などである。なかでも水への分散性が良好であり、スラリーとし易い点では、特にアクリル系樹脂またはウレタン系樹脂からなることが好ましい。
有機系粒子の形状としては、荷重下で定盤を回転させるためには低摩擦でなければならないので、ほぼ球形状であることが好ましく、粒径の揃った樹脂ビーズが望ましい。
なお、上記有機系粒子は複数種の単量体を重合して得られる共重合体であってもよい。例えば、アクリル単量体、ウレタン単量体、スチレン単量体から2種類以上を選択して重合してもよい。また、異なる種類の有機系粒子を複数混合したものでもよい。
【0030】
上記有機系粒子の粒径は、0.5〜60μmの範囲のものを使用することが好ましい。粒径が0.5μm未満であると、ガラス基板に対する表面粗さを低減させる効果が得られ難い。また、粒径が60μmを超えると、研磨液の粘度が上がり、良好な上記効果が得られ難い。
本発明においては、特に、表面粗さのいっそうの低減を図る観点から、粒径が1.5〜30μmの範囲のものを使用するのが好ましく、より好ましくは、粒径が10〜25μmの範囲のものを使用することである。
なお、研磨液に0.1μm以下の極めて小さい有機粒子や、水溶性高分子などの高分子化合物が含まれる場合、当該高分子化合物がガラス基板表面に吸着して残留しやすいため、洗浄処理後に清浄な表面を得にくくなり好ましくない。本発明の研磨液に含まれる有機系粒子は、近年の基板主表面の最終研磨に用いられているコロイダルシリカ等の研磨砥粒の粒径(例えば25nm)よりおおよそ20倍以上大きいため、洗浄処理において除去されやすく、最終洗浄において清浄な基板表面が得られやすい。
【0031】
なお、本発明において、上記有機系粒子の粒径とは、走査電子顕微鏡(SEM)による観察で、粒子100個を選択してそれぞれの最大径を測定し、その算術平均値を言う。
【0032】
また、研磨液中の砥粒濃度は、特に制約されないが、研磨後の表面品質及び加工レートの観点からは、0.1〜5重量%の範囲とすることができる。特に、1〜3重量%の範囲が好適である。
【0033】
また、本発明に使用する研磨液は、乾燥による樹脂の固着によるスクラッチ低減の観点から、潤滑効果を発揮する材料、保湿効果を発揮する材料から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有してもよい。
【0034】
このような添加剤の具体例としては、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコールなど)、アミン類(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミンなど)、カルボン酸、鉱油、水溶性油エマルジョン、ポリエチレンイミン、ホウ酸、アミド、トリアジン類、ベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、エーテル類、等が挙げられる。
上記添加剤の添加量は、特に制約されないが、加工性の観点からは、0.01〜1重量%の範囲とすることが好適である。
【0035】
また、上記研磨液は、例えばpH=4〜8に調整されたものが好適に用いられる。pHが4未満であると、樹脂砥粒への浸食が懸念される。また、pHが8を超えると、研磨後の洗浄性が低下し、異物欠陥が発生し易くなる。
【0036】
本発明の有機系粒子を研磨砥粒として含有する研磨液を用いた研磨処理において、研磨方法は特に限定されるものではないが、例えば、従来と同様に、ガラス基板と研磨パッドとを接触させ、有機系粒子の研磨砥粒を含む研磨液を供給しながら、研磨パッドとガラス基板とを相対的に移動させて、ガラス基板の表面を鏡面状に研磨すればよい。研磨パッドとしては、従来のコロイダルシリカ砥粒を用いた鏡面研磨処理において適用されている例えば発泡ポリウレタンの研磨パッドと同様のものを適用することができる。但し、本発明の有機系粒子の研磨砥粒を用いた鏡面研磨処理においては、研磨パッドの硬さは、シリカ砥粒のように限定されない。これは、樹脂砥粒自体にパッドのクッション性があるためである。従って、本発明の有機系粒子の研磨砥粒を用いた鏡面研磨処理においては、従来のコロイダルシリカ砥粒を用いた鏡面研磨処理において適用されている例えば発泡ポリウレタンの研磨パッドよりも硬い研磨パッドを適用することも可能である。硬い研磨パッドを用いると基板面のうねりを低減できるため有利である。
【0037】
例えば
図1は、ガラス基板の鏡面研磨工程に用いることができる遊星歯車方式の両面研磨装置の概略構成を示す縦断面図である。
図1に示す両面研磨装置は、太陽歯車2と、その外方に同心円状に配置される内歯歯車3と、太陽歯車2及び内歯歯車3に噛み合い、太陽歯車2や内歯歯車3の回転に応じて公転及び自転するキャリア4と、このキャリア4に保持された被研磨加工物1を挟持可能な研磨パッド7がそれぞれ貼着された上定盤5及び下定盤6と、上定盤5と下定盤6との間に研磨液を供給する研磨液供給部(図示せず)とを備えている。
【0038】
このような両面研磨装置によって、研磨加工時には、キャリア4に保持された被研磨加工物1、即ちガラス基板を上定盤5及び下定盤6とで挟持するとともに、上下定盤5,6の研磨パッド7と被研磨加工物1との間に本発明の研磨液組成物からなる研磨液を供給しながら、太陽歯車2や内歯歯車3の回転に応じてキャリア4が公転及び自転しながら、被研磨加工物1の上下両面が研磨加工される。
【0039】
なお、加える荷重(加工面圧力)は、50gf/cm
2以上200gf/cm
2以下の範囲内が好適である。上記荷重が、50gf/cm
2よりも低いと、ガラス基板の加工性(研磨速度)が低下するために好ましくない。また、200gf/cm
2よりも高い場合には、加工が不安定となるため好ましくない。
そして、本発明の研磨液組成物からなる研磨液を用い、かつ、上記範囲内の加工面圧力でガラス基板の主表面を研磨することで、表面粗さをより一層低減できる。
【0040】
従来、ガラス基板主表面の鏡面研磨工程は、研削工程で残留した傷や歪みを除去するための研磨工程(第1研磨工程)と、この研磨工程で得られた平坦な表面を維持しつつ、ガラス基板主表面の表面粗さを平滑な鏡面に仕上げる仕上げ研磨工程(第2研磨工程)の2段階を経て行われることが一般的であるが、本発明においては、この仕上げ研磨工程の後に、本発明の有機系粒子を研磨砥粒とする研磨液を適用した最終仕上げ研磨を行うことが好適である。
【0041】
上記従来の仕上げ研磨工程は、通常、平均粒径が20〜40nm程度のコロイダルシリカ砥粒を用いて行われているが、この後に、本発明の有機系粒子を研磨砥粒とする研磨液を適用した最終仕上げ研磨を行うことにより、表面粗さの更なる低減を図ることが可能である。前にも説明したように、仮に、上記粒径よりも微細なコロイダルシリカ砥粒を用いて最終仕上げ研磨を行っても表面粗さを更に低減させることは困難である。
【0042】
以上のように、コロイダルシリカ砥粒を研磨砥粒として含む研磨液を用いてガラス基板の主表面を研磨した後、本発明の有機系粒子を研磨砥粒として含む研磨液を用いてガラス基板の主表面を鏡面研磨することが好ましい。換言すれば、加工変質層を有するガラス基板の主表面に対して、本発明の有機系粒子を研磨砥粒として含む研磨液を用いて鏡面研磨することが好ましい。
【0043】
本発明の有機系粒子を研磨砥粒として含む研磨液を用いて鏡面研磨する前のガラス基板主表面の粗さは、算術平均粗さRaが0.3nm以下であると、本発明の有機系粒子を研磨砥粒とした研磨処理により、基板表面粗さをさらに低減させて、例えばRaが0.1nm以下に仕上ることが可能である。
【0044】
本発明による有機系粒子を研磨砥粒として含む研磨液を用いてガラス基板の主表面を鏡面研磨した後、ガラス基板表面に付着した砥粒の除去を目的とした洗浄を行うが、この場合、有機系洗浄剤を用いてガラス基板を洗浄することが好適である。有機系洗浄剤は、研磨砥粒である有機系粒子を良好に溶解(乃至は膨潤)除去できる一方で、ガラスに対しては何らエッチング作用やリーチング作用を及ぼさない。つまり、ガラスに対するエッチング作用やリーチング作用を持たない洗浄液を選定して洗浄を行うことが可能であるため、洗浄後のガラス基板表面の粗さの上昇を抑制することができる。そのため、有機系粒子を研磨砥粒として適用した鏡面研磨処理によって得られた超低粗さ(高平滑性)を洗浄後もそのまま維持することができる。その結果、ガラス基板主表面の表面粗さを現行よりもさらに低減させることができ、これによって高品質のガラス基板を製造することが可能である。
【0045】
本発明における有機系粒子に対して好適な洗浄剤としては、有機溶剤、またはアミン化合物などの有機系洗浄剤が好適である。
上記有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、スチレン等の芳香族炭化水素類、クロルベンゼン、オルトクロルベンゼン等の塩化芳香族炭化水素類、ジクロルメタン、トリクロルメタン、テトラクロルメタン、1,2-ジクロルエタン、1,1,1-トリクロルエタン、1,1,2,2-テトラクロルエタン、1,2-ジクロルエタン、トリクロルエチレン、テトラクロルエチレン等の塩化脂肪族炭化水素類、メタノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、2-イソプロポキシエタノール等のアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、1-メトキシプロピル-2-アセテート、3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアセテート等のエステル類、エチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、セロソルブ、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のセロソルブ類、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール等の脂環式炭化水素類、ノルマルヘキサン等の脂肪族炭化水素類、クレゾール、二硫化炭素、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
また、上記アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、ペンタエチレンヘキサアミン、2-[(2-アミノエチル)アミノ]エタノール、2-[メチル[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミノ]エタノール、2,2’-(エチレンビスイミノ)ビスエタノール、N-(2-ヒドロキシエチル)-N’-(2-アミノエチル)エチレンジアミン、2,2’-(2-アミノエチルイミノ)ジエタノール、N1,N4-ビス(ヒドロキシエチル)ジエチレントリアミン、N1,N7-ビス(ヒドロキシエチル)ジエチレントリアミン、1,3-ジアミノ-2-プロパノール、ピペラジン、1-メチルピペラジン、3-(1-ピペラジニル)-1-アミン、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、4-メチルピペラジン-1-アミン、1-ピペラジンメタンアミン、4-エチル-1-ピペラジンアミン、1-メチル-4-(2-アミノエチル)ピペラジン、1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン等が挙げられる。
【0046】
本発明者は、上記のような有機系洗浄剤について更に検討した結果、有機系粒子を研磨砥粒として含む研磨液を用いて、ガラス基板の主表面を研磨処理した後、ガラス基板表面に付着した有機系粒子又はその一部を膨潤させ得る有機溶剤を用いることが特に好適であることを見出した。ここで、膨潤とは、有機系粒子が有機溶剤を吸収して膨らむ現象のことである。また、上記の有機系粒子の一部とは、例えば、研磨処理時に有機系粒子が壊れて生じたものであり、ガラス基板表面に付着した有機系粒子の一部分という意味である。
従って、本発明は、以下の構成Aに係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法についても提供するものである。
【0047】
(構成A)
ガラス基板の主表面の研磨処理を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、有機系粒子を研磨砥粒として含む研磨液を用いて、ガラス基板の主表面を研磨処理した後、ガラス基板表面に付着した前記有機系粒子又はその一部を膨潤させ得る有機溶剤をガラス基板表面に接触させる処理を行うことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【0048】
また、本発明者は、更に検討を続けた結果、有機系粒子を構成する樹脂のモノマー成分の溶解度パラメータ(SP値)に対する有機溶剤の溶解度パラメータ(SP値)の比が、当該有機溶剤の洗浄性との相関関係があり、当該比が特定の範囲内にある有機溶剤を選択することが、有機系粒子の洗浄性向上の観点から特に好適であることを見出した。
【0049】
具体的には、有機系粒子を構成する樹脂のモノマー成分の溶解度パラメータ(SP値)をSP1、有機溶剤の溶解度パラメータ(SP値)をSP2としたとき、SP2/SP1が0.9〜1.1の範囲となるような有機溶剤を選択し、この選択した有機溶剤を研磨処理後のガラス基板表面に接触させる処理を行うことが好適である。
【0050】
つまり、有機系粒子を用いて研磨処理(特に最終仕上げ研磨)を行った後の洗浄方法としては、有機系粒子を構成する樹脂のモノマー成分とSP値が比較的近い有機溶剤を用いた処理が最適である。有機系粒子を構成する樹脂のモノマー成分とSP値が比較的近い有機溶剤を基板表面に接触させることで、基板表面に付着した有機系粒子が良好に膨潤するので、基板との界面においてずれが生じるため、基板表面にたとえ強固に付着した有機系粒子(又はその一部)であっても基板表面から剥がれやすくなる。
なお、上記の溶解度パラメータ(Solubility Parameter)とは、ヒルデブラントによって導入された正則溶液論により定義されたいわゆる「SP値」であり、以下の式に基づいて求められる値である。
溶解度パラメータδ[(cal/cm
3)
1/2]=(ΔE/V)
1/2
(式中、ΔEはモル蒸発エネルギー[cal]、Vはモル体積[cm
3]を示す。)
【0051】
また、本発明者は、有機系粒子を構成する樹脂のモノマー成分の分子量に対する有機溶剤の分子量の比に関しても、当該有機溶剤の洗浄性との相関関係があり、当該比が特定の範囲内にある有機溶剤を選択することが、有機系粒子の洗浄性向上の観点から好適であることを見出した。
【0052】
具体的には、有機系粒子を構成する樹脂のモノマー成分の分子量をMW1、有機溶剤の分子量をMW2としたとき、MW2/MW1が1.5以下となるような有機溶剤を選択し、この選択した有機溶剤を用いて研磨処理後のガラス基板表面に接触させる処理を行うことが好適である。より好ましくは、MW2/MW1が0.5〜1.5の範囲である。
また、本発明においては、上記有機溶剤の分子量は60以上のものが好適である。
【0053】
したがって、本発明においては、上記のSP2/SP1が0.9〜1.1の範囲内であって、なお且つ、上記のMW2/MW1が1.5以下であるような有機溶剤を選択することが最も好適である。
なお、有機系粒子が複数のモノマー成分を含む共重合体樹脂材料である場合、いずれかのモノマー成分について、上記の関係を満たすような有機溶剤を選択することができる。
【0054】
本発明においては、ガラス基板を構成するガラス(の硝種)は、SiO
2を主成分とし、さらにアルミナを含むアルミノシリケートガラスを用いることが好ましい。このようなガラスを用いたガラス基板は表面を鏡面研磨することにより平滑な鏡面に仕上げることができ、また加工後の強度が良好である。また、化学強化によってさらに強度を上げることもできる。
また、上記ガラスは、結晶化ガラスであってもよく、アモルファスガラスであってもよい。アモルファスガラスとすることで、ガラス基板としたときの主表面の表面粗さをより一層下げることができる。
【0055】
このようなアルミノシリケートガラスとしては、SiO
2が58重量%以上75重量%以下、Al
2O
3が5重量%以上23重量%以下、Li
2Oが3重量%以上10重量%以下、Na
2Oが4重量%以上13重量%以下を主成分として含有するアルミノシリケートガラス(ただし、リン酸化物を含まないアルミノシリケートガラス)を用いることができる。さらに、例えば、アルカリ土類金属の酸化物が5重量%以上であって、SiO
2 を62重量%以上75重量%以下、Al
2O
3 を5重量%以上15重量%以下、Li
2Oを4重量%以上10重量%以下、Na
2 Oを4重量%以上12重量%以下、ZrO
2 を5.5重量%以上15重量%以下、主成分として含有するとともに、Na
2O/ZrO
2の重量比が0.5以上2.0以下、Al
2 O
3 /ZrO
2 の重量比が0.4以上2.5以下であるリン酸化物を含まないアモルファスのアルミノシリケートガラスとすることができる。
【0056】
また、次世代基板(例えば熱アシスト磁気記録方式に適用される磁気ディスクに用いられる基板)の特性として耐熱性を求められる場合もある。この場合の耐熱性ガラスとしては、例えば、アルカリ土類金属の酸化物が5重量%以上であって、以下はモル%表示にて、SiO
2を50〜75%、Al
2O
3を0〜6%、BaOを0〜2%、Li
2Oを0〜3%、ZnOを0〜5%、Na
2OおよびK
2Oを合計で3〜15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOを合計で14〜35%、ZrO
2、TiO
2、La
2O
3、Y
2O
3、Yb
2O
3、Ta
2O
5、Nb
2O
5およびHfO
2を合計で2〜9%、含み、モル比[(MgO+CaO)/(MgO+CaO+SrO+BaO)]が0.85〜1の範囲であり、且つモル比[Al
2O
3/(MgO+CaO)]が0〜0.30の範囲であるガラスを好ましく用いることができる。
また、マスクブランクス基板用としては、石英ガラス等を用いることが好ましい。
【0057】
本発明においては、本発明による有機系砥粒を適用した上記最終仕上げ研磨処理後のガラス基板の表面は、算術平均表面粗さRaが0.1nm以下、特に0.06nm以下である鏡面とされることが好ましい。更に、最大山高さRpが1.0nm以下である鏡面とされることが好ましい。なお、本発明においてRa、Rpというときは、日本工業規格(JIS)B0601に基づく粗さのことである。
また、本発明において表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて例えば1μm×1μmの範囲を256×256ピクセルの解像度で測定したときに得られる表面形状の表面粗さとすることが実用上好ましい。
【0058】
本発明においては、たとえば鏡面研磨加工工程の前または後に、化学強化処理を施すことができる。化学強化処理の方法としては、例えば、ガラス転移点の温度を超えない温度領域、例えば摂氏300度以上400度以下の温度で、イオン交換を行う低温型イオン交換法などが好ましい。化学強化処理とは、溶融させた化学強化塩とガラス基板とを接触させることにより、化学強化塩中の相対的に大きな原子半径のアルカリ金属元素と、ガラス基板中の相対的に小さな原子半径のアルカリ金属元素とをイオン交換し、ガラス基板の表層に該イオン半径の大きなアルカリ金属元素を浸透させ、ガラス基板の表面に圧縮応力を生じさせる処理のことである。化学強化処理されたガラス基板は耐衝撃性に優れているので、例えばモバイル用途のHDDに搭載するのに特に好ましい。化学強化塩としては、硝酸カリウムや硝酸ナトリウムなどのアルカリ金属硝酸を好ましく用いることができる。
【0059】
本発明によって製造される磁気ディスク用ガラス基板は、上述のとおり、超低浮上量を実現できるDFH型磁気ヘッドを備えるHDDに搭載される磁気ディスクに用いられるガラス基板に好適である。
【0060】
また、本発明は、以上の磁気ディスク用ガラス基板を用いた磁気ディスクの製造方法についても提供するものである。磁気ディスクは、本発明による磁気ディスク用ガラス基板の上に少なくとも磁性層(磁気記録層)を形成して製造される。磁性層の材料としては、異方性磁界の大きな六方晶系であるCoCrPt系やCoPt系強磁性合金を用いることができる。磁性層の形成方法としてはスパッタリング法、例えばDCマグネトロンスパッタリング法によりガラス基板の上に磁性層を成膜する方法を用いることが好適である。
【0061】
また、磁性層の上に、保護層、潤滑層をこの順に形成するとよい。保護層としてはアモルファスの水素化炭素系保護層が好適である。例えばプラズマCVD法により保護層を形成することができる。また、潤滑層としては、パーフルオロポリエーテル化合物の主鎖の末端に官能基を有する潤滑剤を用いることができる。潤滑層はディップ法により塗布形成することができる。
【0062】
本発明によって得られる超平滑性を備えたガラス基板を利用することにより、DFHヘッドによる記録再生を行っても、記録再生エラーやヘッドクラッシュ等の問題が起こらず、信頼性の高い磁気ディスクを得ることができる。それゆえ、例えば750ギガバイトを超えるような今まで以上に高記録密度の磁気ディスクを製造するのに好適である。
以上説明した実施形態では、本発明を主に磁気ディスク用のガラス基板の研磨処理に適用した場合について説明したが、本発明をマスクブランクス用のガラス基板の研磨処理に適用する場合についても同様である。
【実施例】
【0063】
以下に実施例を挙げて、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜7、比較例1〜4)
以下の(1)粗研削工程、(2)形状加工工程、(3)精研削工程、(4)端面研磨工程、(5)主表面研磨工程、(6)化学強化工程、(7)主表面仕上げ研磨工程、(8)主表面最終仕上げ研磨工程、を経て磁気ディスク用ガラス基板を製造した。
【0064】
(1)粗研削工程
まず、溶融ガラスから上型、下型、胴型を用いたダイレクトプレスにより直径66mmφ、厚さ1.0mmの円盤状のアルミノシリゲートガラスからなるガラス基板を得た。なお、このようなダイレクトプレス以外に、ダウンドロー法やフロート法で製造された板ガラスから所定の大きさに切り出してガラス基板を得てもよい。
【0065】
次いで、このガラス基板に寸法精度及び形状精度の向上させるため粗研削工程を行った。この粗研削工程は両面研削装置を用いて行った。
(2)形状加工工程
次に、円筒状の砥石を用いてガラス基板の中央部分に孔を空けると共に、外周端面の研削をして直径を65mmφとした後、外周端面および内周端面に所定の面取り加工を施した。
(3)精研削工程
この精研削工程は両面研削装置を用いた。
【0066】
(4)端面研磨工程
次いで、ブラシ研磨により、ガラス基板を回転させながらガラス基板の端面(内周、外周)を研磨した。そして、上記端面研磨を終えたガラス基板の表面を洗浄した。
【0067】
(5)主表面研磨工程
次に、主表面研磨工程を両面研磨装置を用いて行なった。両面研磨装置においては、研磨パッドが貼り付けられた上下研磨定盤の間にキャリアにより保持したガラス基板を密着させ、このキャリアを太陽歯車(サンギア)と内歯歯車(インターナルギア)とに噛合させ、上記ガラス基板を上下定盤によって挟圧する。その後、研磨パッドとガラス基板の研磨面との間に研磨液を供給して回転させることによって、ガラス基板が定盤上で自転しながら公転して両面を同時に研磨加工するものである。具体的には、ポリシャとして硬質ポリシャ(硬質発泡ウレタン)を用い、研磨工程を実施した。研磨液としては酸化セリウムを研磨剤として分散したものとした。上記研磨工程を終えたガラス基板を、洗浄し、乾燥した。
【0068】
(6)化学強化工程
次に、上記洗浄を終えたガラス基板に化学強化を施した。化学強化は硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合した化学強化液を用意し、この化学強化溶液を380℃に加熱し、上記洗浄・乾燥済みのガラス基板を約4時間浸漬して化学強化処理を行なった。
【0069】
(7)主表面仕上げ研磨工程
次いで上記の主表面研磨工程で使用したものと同じ両面研磨装置を用い、ポリシャを軟質ポリシャ(スウェード)の研磨パッド(発泡ポリウレタン)に替えて仕上げ研磨工程を実施した。この仕上げ研磨工程は、上述した最初の研磨工程で得られた平坦な表面を維持しつつ、例えばガラス基板主表面の表面粗さをRaで0.2nm程度以下の平滑な鏡面に仕上げるための鏡面研磨加工である。研磨液としてはコロイダルシリカ(粒径:18nm)を水に分散させたものを酸性に調整した。上記仕上げ研磨工程を終えたガラス基板を、洗浄し、乾燥した。
【0070】
(8)主表面最終仕上げ研磨工程
研磨砥粒として粒径1.3μmのスチレン樹脂を原料とした有機系粒子を水に1重量%加え、pH2〜10に調整したものを研磨液とした。研磨方法は、上記の仕上げ研磨工程と同様にして行った。上記最終仕上げ研磨工程を終えたガラス基板を、洗浄し、乾燥した。
この最終仕上げ研磨終了後の洗浄方法として、洗浄液に水分量1.0重量%以下のアセトンを使用し、洗浄液にガラス基板を浸漬させた状態で超音波を加えて洗浄を行った。
【0071】
洗浄後の磁気ディスク用ガラス基板について、主表面の表面粗さ(Ra)を原子間力顕微鏡(AFM)にて測定し、その結果を以下の表1に示した。また、AFMの1μm×1μmの範囲の画像から、洗浄後のガラス基板主表面の異物付着欠陥数をカウントし、その結果についても表1に示した。
【0072】
また、上記主表面最終仕上げ研磨工程において使用する研磨砥粒を粒径1.5μmのアクリル樹脂を原料とした有機系粒子に変更したこと以外は、上記実施例1と同様に最終仕上げ研磨、洗浄を行い、磁気ディスク用ガラス基板(実施例2)を得た。
また、上記主表面最終仕上げ研磨工程において使用する研磨砥粒を粒径2.0μmのウレタン樹脂を原料とした有機系粒子に変更したこと以外は、上記実施例1と同様に最終仕上げ研磨、洗浄を行い、磁気ディスク用ガラス基板(実施例3)を得た。
【0073】
また、上記主表面最終仕上げ研磨終了後の洗浄方法として、洗浄液を水分量1.0重量%以下のイソプロピルアルコールに変更したこと以外は、上記実施例2と同様に最終仕上げ研磨終了後の洗浄を行い、磁気ディスク用ガラス基板(実施例4)を得た。
また、上記主表面最終仕上げ研磨終了後の洗浄方法として、洗浄液を水分量1.0重量%以下のイソプロピルアルコールに変更したこと以外は、上記実施例3と同様に最終仕上げ研磨終了後の洗浄を行い、磁気ディスク用ガラス基板(実施例5)を得た。
【0074】
また、上記主表面最終仕上げ研磨終了後の洗浄方法として、洗浄液を水分量1.0重量%以下のエチレンジアミンに変更したこと以外は、上記実施例2と同様に最終仕上げ研磨終了後の洗浄を行い、磁気ディスク用ガラス基板(実施例6)を得た。
また、上記主表面最終仕上げ研磨終了後の洗浄方法として、洗浄液を水分量1.0重量%以下のエチレンジアミンに変更したこと以外は、上記実施例3と同様に最終仕上げ研磨終了後の洗浄を行い、磁気ディスク用ガラス基板(実施例7)を得た。
【0075】
また、上記主表面最終仕上げ研磨終了後の洗浄方法として、洗浄液を水(超純水)に変更したこと以外は、上記実施例2と同様に最終仕上げ研磨終了後の洗浄を行い、磁気ディスク用ガラス基板(比較例1)を得た。
また、上記主表面最終仕上げ研磨終了後の洗浄方法として、洗浄液を濃度0.01〜1モル/Lの水酸化カリウムに変更したこと以外は、上記実施例2と同様に最終仕上げ研磨終了後の洗浄を行い、磁気ディスク用ガラス基板(比較例2)を得た。
【0076】
また、上記主表面最終仕上げ研磨終了後の洗浄方法として、洗浄液を濃度0.01〜1モル/Lの硫酸に変更したこと以外は、上記実施例2と同様に最終仕上げ研磨終了後の洗浄を行い、磁気ディスク用ガラス基板(比較例3)を得た。
また、上記主表面最終仕上げ研磨工程において使用する研磨砥粒を粒径0.02μmのコロイダルシリカ砥粒に変更したこと以外は、上記実施例4と同様に最終仕上げ研磨、洗浄を行い、磁気ディスク用ガラス基板(比較例4)を得た。
【0077】
上記実施例2〜7及び比較例1〜4により得られた磁気ディスク用ガラス基板についても、上記と同様にして主表面の表面粗さを測定し、また洗浄後のガラス基板主表面の異物付着欠陥数をカウントし、その結果を実施例1とともに纏めて以下の表1に示した。
【0078】
【表1】
【0079】
有機系粒子を研磨砥粒として用いて最終仕上げ研磨を行った後の、洗浄方法における洗浄後のガラス基板表面粗さへの影響については、上記表1に示されるように、たとえば超純水洗浄のみ(比較例1)では洗浄後の表面粗さの上昇は殆ど無かったが、異物付着による欠陥が多く発生し、洗浄が不十分であることが確認された。また、アルカリ洗浄(比較例2)、酸洗浄(比較例3)では、異物付着欠陥は確認されなかったが、洗浄後の表面粗さの上昇幅が大きいことが確認された。また、仕上げ研磨よりさらに微細なコロイダルシリカを用いて最終仕上げ研磨を行うと(比較例4)、主表面の表面粗さは上昇し、最終的にRaを例えば0.1nm以下に低減することができない。しかも、洗浄後の基板表面の異物付着欠陥が多発し、コロイダルシリカ砥粒は有機系洗浄剤では除去されないことが確認された。
これに対し、有機系粒子を研磨砥粒として用いて最終仕上げ研磨を行った後の洗浄方法において、有機溶剤やアミン化合物などの有機系洗浄剤を用いると、洗浄後の表面粗さの上昇は殆ど無く、異物付着欠陥も確認されなかった。つまり、有機系粒子を研磨砥粒として用いて最終仕上げ研磨を行った後の洗浄方法としては、有機系洗浄剤を用いた洗浄が最適であることがわかる。
【0080】
(実施例A〜G)
上記主表面最終仕上げ研磨工程において使用する研磨砥粒を粒径20μmのポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂(モノマー成分はメタクリル酸メチル)を原料とした有機系粒子を用い、上記主表面最終仕上げ研磨終了後の洗浄方法として、下記表2に示す有機溶剤をそれぞれガラス基板表面に接触させる処理を行ったこと以外は、上記実施例1と同様にして磁気ディスク用ガラス基板を得た。
【0081】
洗浄後の磁気ディスク用ガラス基板について、主表面の表面粗さ(Ra)を原子間力顕微鏡(AFM)にて測定し、その結果を以下の表2に示した。また、AFMの10μm×10μmの範囲の画像から、洗浄後のガラス基板主表面の付着異物を検出し、その付着異物を分析して上記PMMA有機系粒子由来の異物数を異物欠陥数としてカウントし、その結果についても表2に示した。このAFMの測定面積は実施例1に対して100倍広く、より厳しい評価である。
なお、上記PMMA有機系粒子のモノマー成分であるメタクリル酸メチルのSP値は9.1(SP1)、分子量は100(MW1)であるため、これらの値を元に、各有機溶剤におけるSP2/SP1およびMW2/MW1を求め、表2に示した。
【0082】
【表2】
【0083】
上記表2の結果に示されるように、有機系粒子を研磨砥粒として用いて最終仕上げ研磨を行った後の洗浄方法において、有機系粒子を構成する樹脂のモノマー成分のSP値に対する有機溶剤のSP値の比、SP2/SP1が0.9〜1.1の範囲となるような有機溶剤を選択し、この選択した有機溶剤を用いて洗浄処理を行うと、洗浄後の表面粗さの上昇は殆ど無く、有機系粒子に由来する異物付着欠陥も確認されなかった。つまり、有機系粒子を用いて最終仕上げ研磨を行った後の洗浄方法としては、有機系粒子を構成する樹脂のモノマー成分とSP値が比較的近い有機溶剤を用いた洗浄が最適であることがわかる。
また、上記表2の結果から、有機系粒子を構成する樹脂のモノマー成分の分子量に対する有機溶剤の分子量の比、MW2/MW1が0.5〜1.5の範囲となるような有機溶剤を選択し、この選択した有機溶剤を用いて洗浄処理を行うことも好適であることがわかる。
また、実施例Eと実施例4,5(いずれもIPA)を比較すると、実施例Eでは粒径がより好適な範囲である20μmと大きくなったことによりRaがさらに改善(−0.02nm)している。
【0084】
(磁気ディスクの製造)
上記実施例1で得られた磁気ディスク用ガラス基板にそれぞれ以下の成膜工程を施して、垂直磁気記録用磁気ディスクを得た。
すなわち、上記ガラス基板上に、Ti系合金薄膜からなる付着層、CoTaZr合金薄膜からなる軟磁性層、Ru薄膜からなる下地層、CoCrPt合金からなる垂直磁気記録層、カーボン保護層、潤滑層を順次成膜した。保護層は、磁気記録層が磁気ヘッドとの接触によって劣化することを防止するためのもので、水素化カーボンからなり、耐磨耗性が得られる。また、潤滑層は、アルコール変性パーフルオロポリエーテルの液体潤滑剤をディップ法により形成した。
得られた磁気ディスクについて、DFHヘッドを用いて、グライド特性試験を行った結果ヘッドクラッシュは起こらず良好な結果が得られた。