(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記車両の始動後に前記操舵角検出部が第3の値以上の操舵角を検出するまで制動状態を維持するように、前記車両の制動装置を制御する制動制御部に指示を送信する指示送信部を備えた請求項1または2に記載の車両用操舵装置。
前記転舵角制御部は、前記車両の始動後に前記操舵角検出部が第4の値以上の操舵角を検出したときは、当該舵角比を予め定めた状態に制御する請求項1〜3の何れかの一項に記載の車両用操舵装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、操舵装置をステア・バイ・ワイヤとして機能させるときは、操舵角の検出値などに基づいて、転舵角をフィードバック制御している。そして、ステア・バイ・ワイヤでは、車両が低車速のときは操舵角に対する転舵角の比(舵角比)を大きくし、少しハンドルを操作するだけで転舵角が大きく変わるようにしている(クイックレシオ)。逆に、車両が高車速のときは舵角比を小さくして、大きな角度でハンドルを操作しても、転舵角が小さく変化するようにしている(スローレシオ)。
【0006】
この場合に、異物のかみ込みにより前記のクラッチ機構が誤接続してしまった場合は(特許文献1参照)、ステア・バイ・ワイヤの制御系が設定する舵角比ではなく、操舵装置の機構で機械的に定まる舵角比(機械的舵角比)で操舵されることになる。
クラッチ機構が誤接続した状態で、ステア・バイ・ワイヤの制御を行う場合は、クイックレシオと機械的舵角比との偏差を埋めようと前記のモータが動作することになる。しかし、クラッチ機構が誤接続している限り、この偏差は埋まらずに拡大していく。すると、転舵機構側とハンドル側とが接続されているので、ハンドルが勝手に回転し(セルフステア)、運転者に違和感を与えてしまうという不具合がある。
【0007】
また、逆に、機械的舵角比よりもスローレシオでクラッチ機構が誤接続した場合、ハンドルで設定されるタイヤの目標転舵角を実転舵角が追い越してしまうため、実転舵角を目標転舵角に合わせるためにモータが作動し、ハンドルがロックして(ステアリングロック)、運転者に違和感を与えてしまうという不具合もある。
本発明は、クラッチ機構が誤接続してしまっても、運転者に与える違和感を低減可能なステア・バイ・ワイヤ機能を備えた車両用操舵装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態は、車両の操舵のための操作を行う操舵部と、前記操舵部と非連結で前記車両の転舵輪を転舵する転舵機構と、前記操舵部側と前記転舵機構側とを断接し、前記車両がイグニッションOFF時に接続するクラッチ機構と、前記操舵部による操舵角を検出する操舵角検出部と、前記操舵角検出部が検出した操舵角に基づいた前記転舵機構による転舵角となるように当該転舵角を制御する転舵角制御部と、を備え、前記転舵角制御部は、前記車両が始動された際は、前記クラッチ機構により前記操舵部側と前記転舵機構側とが接続されているときの前記操舵角に対する前記転舵角の比より小さい値である
舵角比である第1の値になるように、目標転舵角を設定する車両用操舵装置である。
本発明によれば、車両が始動された際は、クラッチ機構により操舵部側と転舵機構側とが接続されているときの操舵角に対する転舵角の比(機械的舵角比)以下になるように舵角比を制御する。よって、異物のかみ込みなどによりクラッチ機構が誤接続されても、クラッチ機構の誤接続による車両の始動の際においても、セルフステアは発生せず、よって運転者に与える違和感を低減できる。
また、クラッチ機構が誤接続している場合に、第1の値を機械的舵角比より小さくすれば、操作部(のハンドル)がロックされるので、運転者に異常の発生を知らせることができる。よって、運転者が一度車両の駆動を停止して、車両の再始動を図ることも期待される。そのため、異物などによるクラッチ機構の誤接続が解除される可能性も高まる。
【0009】
前記の場合に、前記操舵部による操舵トルクを検出する操舵トルク検出部を備え、前記転舵角制御部は、前記車両が始動された際に前記操舵トルク検出部で第2の値以上の操舵トルクが検出されたときは、前記操舵トルク検出部で検出される操舵トルクに基づいて前記転舵角を制御するようにしてもよい。
本発明によれば、第2の値以上の操舵トルクが検出されたときは、所謂SBWモードから所謂EPSモードに切り替え、操舵トルクに基づいた制御、つまり、通常の電動パワーステアリング装置として機能させることが可能となる。
【0010】
前記の場合に、前記車両の始動後に前記操舵角検出部が第3の値以上の操舵角を検出するまで制動状態を維持するように、前記車両の制動装置を制御する制動制御部に指示を送信する指示送信部を備えるようにしてもよい。
本発明によれば、クラッチ機構が正常に解放できていれば、操舵部は第3の値以上に操舵することができるので、所謂SBWモードで正常に立ち上がったと判定できて、制動を解除して車両を運転することができる。また、クラッチ機構が誤接続された状態で、かつSBWモードの制御状態、つまりハンドルがロックされた状態で、車両が走行に移行する不具合を防止することができる。
【0011】
前記の場合に、前記転舵角制御部は、前記車両の始動後に前記操舵角検出部が第4の値以上の操舵角を検出したときは、当該舵角比を予め定めた状態に制御するようにしてもよい。
本発明によれば、車両の始動後に前記操舵角検出部が第4の値以上の操舵角を検出したときは、クラッチ機構が開放され、正常に所謂SBWモードが立ち上がったと判定することができるので、徐々に車速に応じた舵角比に移行することができる。
【発明の効果】
【0012】
クラッチ機構が誤接続してしまっても、運転者に与える違和感を低減できるステア・バイ・ワイヤ機能を備えた車両用操舵装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態にかかる車両用操舵装置の全体の概略構成を示す図である。
図1に示すように、車両用操舵装置1は、転舵輪6,6を有する車両Vに設けられている。車両用操舵装置1は、ハンドル2と、クラッチ機構4と、転舵装置5と、を有する。
ハンドル2は入力軸2aと一体に回転する。ハンドル2と入力軸2aは、運転者が操舵のための回転操作をする「操舵部」を構成する。転舵装置5は、出力軸4aの回転運動をラック軸6aの直線運動に変換する。ラック軸6aは、図示しないタイロッドを介して転舵輪6,6に接続される。転舵輪6,6は、ラック軸6aの直線運動で転舵される。
【0015】
転舵装置(ステアリングギアボックス)5は、ラック・アンド・ピニオン機構(図示せず)で出力軸4aの回転運動をラック軸6aの直線運動に変換する。このラック・アンド・ピニオン機構は、ラックとピニオンとが噛み合い、ステアリングギアボックス5のハウジング内に収納されている。ラックはラック軸6aに形成されている。転舵装置5には、電動モータ(転舵モータ)5aが設けられている。転舵モータ5aは、ラック軸6aを直線運動させるように駆動する。転舵モータ5aが駆動するとラック軸6aが直線運動し、転舵輪6,6が転舵する。
【0016】
出力軸4aと、転舵装置5と、転舵モータ5aと、ラック軸6aとは、転舵輪6,6を転舵させる「転舵機構」を構成する。
入力軸2aには、電動モータ(反力モータ)3が接続されている。反力モータ3は、入力軸2aを軸周りに回転させるトルクを発生する。これにより、車両用操舵装置1が後述のSBWモードで動作している際に、ハンドル2を握る運転者の手元には、操舵に係る反力(手応え)が伝えられる。
【0017】
反力モータ3、および転舵モータ5aは、制御装置8で制御される。つまり、反力モータ3、および転舵モータ5aは、制御装置8から与えられる指令(制御信号)に基づいて駆動する。
入力軸2aには、トルクセンサ7aが設けられている。トルクセンサ7aは、入力軸2aに発生するトルクを検出し、その検出信号を制御装置8に入力する。
【0018】
反力モータ3と転舵モータ5aとには、それぞれレゾルバ(それぞれ、反力モータレゾルバ7b,転舵モータレゾルバ7c)が設けられている。反力モータレゾルバ7bは、反力モータ3の回転動作量(回転角度)を検出し、その検出信号を制御装置8に入力する。また、転舵モータレゾルバ7cは、転舵モータ5aの回転動作量(回転角度)を検出し、その検出信号をそれぞれ制御装置8に入力する。
【0019】
さらに、制御装置8には、車輪速センサ7dの検出信号(車輪速信号)が入力される。車輪速センサ7dは、車輪(転舵輪6,6)の回転速度を検出するセンサである。車輪速信号は、車輪が1回転するごとに所定数のパルスを発生するパルス波である。制御装置8は、車輪速センサ7dから入力される車輪速信号に基づいて車両Vの車速を算出する。したがって、車輪速センサ7dは車速を検出する車速センサになる。
【0020】
ハンドル2(入力軸2a)には、操舵角を検出する舵角センサ7eが設けられ、舵角センサ7eの検出信号が制御装置8に入力される。制御装置8は、舵角センサ7eから入力される検出信号に基づいて、ハンドル2(入力軸2a)の操舵角を算出可能に構成されている。制御装置8は、舵角センサ7eが検出するハンドル2の操舵角に基づいて、レゾルバを中点補正する。
【0021】
クラッチ機構4は、遊星歯車機構40を備える。遊星歯車機構40は、リングギヤ40aと、プラネタリギヤ40bと、サンギヤ40cと、を有する。また、クラッチ機構4には、ロック用ギヤ41と、ロック装置42と、が設けられている。ロック装置42は、ロック用ギヤ41に係り合いするロックピン42bと、ロックピン42bを駆動する電磁ソレノイド42aと、から構成される。
リングギヤ40aは、入力軸2aと一体に回転する。サンギヤ40cは、出力軸4aと同軸の回転軸周りに自在に回転する。プラネタリギヤ40bは、出力軸4aと一体に回転するプラネタリキャリア40dに軸支される。
【0022】
また、ロック用ギヤ41は外歯歯車で、サンギヤ40cと一体に回転する。ロックピン42bは、ロック用ギヤ41の歯溝に係り合いする。ロックピン42bが係り合いするとロック用ギヤ41の回転が規制される。ロックピン42bは、図示しない付勢手段によってロック用ギヤ41に近接する方向に付勢されてロック用ギヤ41に係り合いする。
電磁ソレノイド42aは、励磁電流が供給されたときにロックピン42bを変位させてロックピン42bとロック用ギヤ41の係り合いを解除する。
【0023】
ロック装置42は、制御装置8で制御される。制御装置8は、電磁ソレノイド42aに励磁電流を供給して、ロックピン42bとロック用ギヤ41の係り合いを解除する。
このように構成されるクラッチ機構4において、ロックピン42bがロック用ギヤ41に係り合うようにすると、ロック用ギヤ41と一体に回転するサンギヤ40cの回転が規制される。
【0024】
この状態で、運転者がハンドル2を回転操作すると、入力軸2aの回転にともなってリングギヤ40aが回転する。そして、サンギヤ40cの回転が規制されているため、プラネタリギヤ40bは自転しながらサンギヤ40cの周囲を公転する。プラネタリギヤ40bの公転によって、プラネタリギヤ40bを軸支するプラネタリキャリア40dと、プラネタリキャリア40dと一体に回転する出力軸4aと、が回転する。
【0025】
このように、ロックピン42bがロック用ギヤ41に係り合いした状態では、入力軸2aの回転が出力軸4aに伝達される。つまり、クラッチ機構4は、入力軸2aと出力軸4aが係り合いした状態(動力伝達状態)になる。クラッチ機構4が動力伝達状態になると、運転者がハンドル2を回転操作することで入力軸2aに入力される回転動力が転舵機構(出力軸4a,転舵装置5,ラック軸6a)へ伝達される。
ロックピン42bとロック用ギヤ41の係り合いが解除されると、ロック用ギヤ41と一体に回転するサンギヤ40cは自在に回転可能になる。
【0026】
この状態で、運転者がハンドル2を回転操作すると、入力軸2aの回転にともなってリングギヤ40aが回転する。また、プラネタリギヤ40bは自転してサンギヤ40cの周囲を公転しようとする。しかしながら、プラネタリキャリア40dには、出力軸4aおよびラック軸6aを介して転舵輪6,6が接続されている。このため、プラネタリキャリア40dの回転に対する抵抗は、回転自在の状態にあるサンギヤ40cの回転に対する抵抗よりもはるかに大きい。したがって、プラネタリギヤ40bが自転すると、回転に対する抵抗が小さいサンギヤ40cが回転(自転)し、プラネタリキャリア40dは回転しない。よって、出力軸4aは回転しない。
【0027】
このように、ロックピン42bとロック用ギヤ41の係り合いが解除された状態では、入力軸2aの回転が出力軸4aに伝達されない。つまり、クラッチ機構4は、入力軸2aと出力軸4aとが切断した状態(動力遮断状態)になる。クラッチ機構4が動力遮断状態になると、運転者がハンドル2を回転操作することで入力軸2aに入力される回転動力が転舵機構(出力軸4a,転舵装置5,ラック軸6a)に伝達されない状態になる。
このように、クラッチ機構4は、操作部(ハンドル2,入力軸2a)側と、転舵機構(出力軸4a,転舵装置5,ラック軸6a)側との間に設けられている。そして、クラッチ機構4は、操作部から転舵機構に回転動力が伝達される動力伝達状態と、操作部から転舵機構への回転動力の伝達が遮断される動力遮断状態と、が切り替わる。
【0028】
制御装置8は、電磁ソレノイド42aへの励磁電流の供給と供給停止を切り替えてクラッチ機構4(ロック装置42)を制御し、クラッチ機構4の状態(動力伝達状態と動力遮断状態)を切り替える。
制御装置8は、反力モータ3と、クラッチ機構4と、転舵モータ5aと、を制御して車両用操舵装置1を制御する。制御装置8は、車両用操舵装置1を、SBW(Steer By Wire)モードと、EPS(Electronic Power Steering)モード(電動パワーステアリングモード)とで制御する。
【0029】
制御装置8は、車両Vが通常に走行する際には、車両用操舵装置1をSBWモードで制御する。具体的には、制御装置8が、電磁ソレノイド42aに励磁電流を供給してロックピン42bとロック用ギヤ41の係り合いを解除する。これによって、クラッチ機構4が動力遮断状態に切り替わり、車両用操舵装置1がSBWモードに設定される。SBWモードでは、車両用操舵装置1は、転舵モータ5aの駆動により転舵力を発生させる。
【0030】
また、制御装置8は、車両Vの電気系統の失陥発生などの際においては、SBWモードからEPSモードに移行させる。すなわち、制御装置8は、電磁ソレノイド42aへの励磁電流の供給を停止して、ロックピン42bがロック用ギヤ41に係り合うようにする。これによって、クラッチ機構4が動力伝達状態に切り替わる。したがって、車両Vの電気系統が失陥した状態であっても、運転者はハンドル2を回転操作して車両Vを操舵できる。すなわち、EPSモードでは、転舵モータ29の駆動により運転者の手動による操舵に係る補助力を発生させる。
【0031】
車両用操舵装置1をSBWモードで制御する際には(つまり、クラッチ機構4が動力遮断状態に切り替わっている際には)、制御装置8は、ハンドル2の回転操作量(操舵角)を算出する。すなわち、制御装置8は、反力モータレゾルバ7bから入力される検出信号に基づいて操舵角を算出する。そして、制御装置8は、操舵角に対応した、転舵輪6,6の転舵角を算出する。さらに、制御装置8は、転舵輪6,6の転舵角に対応したラック軸6aの動作量(ストローク)を算出する。制御装置8は、算出したストロークを目標ストロークとする。そして、制御装置8は、ラック軸6aが目標ストロークだけ動作するように転舵モータ5aを制御する。つまり、制御装置8は、操舵角に応じた指令を転舵モータ5aに与えて転舵輪6,6を転舵させる。
また、制御装置8は、反力モータ3を制御して、入力軸2aに所定のトルク(操舵反力トルク)を付与する。入力軸2aに操舵反力トルクが付与されることによって、運転者に対する擬似的な操舵反力が発生する。そして、車両用操舵装置1に良好な操舵フィーリングが付与される。
【0032】
本実施形態の車両用操舵装置1は、車両の制動装置と連携した動作を行うので、次に、車両の制動装置について説明する。
図2は、本実施形態にかかる制動装置210の概要を表す構成図である。この制動装置210は、所謂ブレーキ・バイ・ワイヤ(Brake By Wire)により車両の摩擦制動力を発生する装置である。
【0033】
制動装置210は、ブレーキペダル212の操作により運転者が入力した踏力をブレーキ液圧に変換するマスタシリンダ234等を備えた入力装置214、マスタシリンダ234で発生したブレーキ液圧に応じて、または、そのブレーキ液圧とは無関係にブレーキ液圧を発生させるモータシリンダ装置216、車両挙動安定化装置218、ディスクブレーキ機構230a〜230dなどを備える。モータシリンダ装置216は、電動モータ272の駆動力を受けてブレーキ液圧を発生させる第1及び第2スレーブピストン277a,277bを備える。
なお、配管222a〜222fには、各部のブレーキ液圧を検出するブレーキ液圧センサPm,Pp,Phが設けられている。また、車両挙動安定化装置18は、ブレーキ液加圧用のポンプ273を備える。
【0034】
モータシリンダ装置216には(車両挙動安定化装置218を介して)、図示しない車両の右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構230aで液圧により摩擦制動力を発生させるホイールシリンダ232FRと、左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構230bに液圧により摩擦制動力を発生させるホイールシリンダ232RLと、右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構230cに液圧により摩擦制動力を発生させるホイールシリンダ232RRと、左側前輪に設けられたディスクブレーキ機構230dに液圧により摩擦制動力を発生させるホイールシリンダ232FLと、が接続される。
【0035】
次に、制動装置210の基本動作について説明する。制動装置210では、モータシリンダ装置216やバイ・ワイヤの制御を行う制御系の正常作動時において、運転者がブレーキペダル212を踏むと、いわゆるバイ・ワイヤ式のブレーキシステムがアクティブになる。具体的には、正常作動時の制動装置210では、運転者がブレーキペダル212を踏むと(後述のブレーキペダルストロークセンサ252で検出)、第1遮断弁260aおよび第2遮断弁260bが、マスタシリンダ234と各車輪を制動するディスクブレーキ機構230a〜230d(ホイールシリンダ232FR,232RL,232RR,232FL)との連通を遮断した状態で、モータシリンダ装置216が、モータ272の駆動により発生するブレーキ液圧を用いてディスクブレーキ機構230a〜230dを作動させて、各車輪を制動する。
【0036】
また、正常作動時は、第1遮断弁260aおよび第2遮断弁260bが遮断される一方、第3遮断弁262が開弁され、ブレーキ液は、マスタシリンダ234からストロークシミュレータ264に流れ込むようになり、第1遮断弁260aおよび第2遮断弁260bが遮断されていても、ブレーキ液が移動し、ブレーキペダル212操作時にはストロークが生じ、ペダル反力が発生するようになる。
【0037】
一方、制動装置210では、モータシリンダ装置216などが不作動である異常時において、運転者がブレーキペダル12を踏むと、既存の油圧式のブレーキシステムがアクティブになる。具体的には、異常時の制動装置210では、運転者がブレーキペダル12を踏むと、第1遮断弁260aおよび第2遮断弁260bをそれぞれ開弁状態とし、かつ、第3遮断弁262を閉弁状態として、マスタシリンダ234で発生するブレーキ液圧をディスクブレーキ機構230a〜230d(ホイールシリンダ232FR,232RL,232RR,32FL)に伝達して、ディスクブレーキ機構230a〜230d(ホイールシリンダ232FR,232RL,232RR,232FL)を作動させて各車輪を制動する。
その他の入力装置214、モータシリンダ装置216、車両挙動安定化装置218の構成や動作は公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0038】
図3は、車両用操舵装置1の制御系の電気的な接続を示すブロック図である。この制御系は、制御装置8(SBW−ECU(Electronic Control Unit))を中心に構成されている。制御装置8は、マイクロコンピュータや、各種インターフェイス機器を中心に構成されている。制御装置8には、前記のとおり、舵角センサ7e、トルクセンサ7a、車輪速センサ7d,反力モータレゾルバ7b、転舵モータレゾルバ7c、転舵モータ5a、反力モータ3、電磁ソレノイド42aなどの各種センサ、各種アクチュエータが接続されている。また、車両のイグニッションスイッチ(図示せず)がONになったときのイグニッション信号も入力する。
【0039】
制御装置200(ESB−ECU)(制動制御部)は、前記の制動装置210を制御する制御装置である。制御装置200には、ブレーキペダル212の踏量を検出するブレーキペダルストロークセンサ201と、制動装置210(の各種センサ、アクチュエータ)とが接続されている。
制御装置8と制御装置200とは、車両内の各部間の通信を可能とする通信システムであるCAN(Controller Area Network)400を介して互いに通信可能である。
【0040】
次に、
図3の制御系に基づいて車両用操舵装置1が実行する制御処理の内容について説明する。
図4に示すように、制御装置8は、モード設定部310(転舵角制御部、指示送信部)を備えている。モード設定部310は、車両用操舵装置1の動作モードを設定する。すなわち、車両用操舵装置1の動作モードとしては、SBWモード、EPSモード、マニュアルステアリングモードとがある。SBWモードは、前記のとおり、車両用操舵装置1ステア・バイ・ワイヤによる操舵装置として、転舵モータ5aなどのアクチュエータの出力のみで転舵力を発生させるモードである。EPSモードは、前記のとおり、車両用操舵装置1を通常の電動パワーステアリング装置として、ハンドル2の回転による運転者の手動の転舵力を転舵モータ5aなどのアクチュエータの駆動でアシストするモードである。マニュアルステアリングモードは、転舵モータ5aなどのアクチュエータのアシストはまったくなしで、ハンドル2の回転による運転者の手動の力だけで車両用操舵装置1において転舵力を得るモードである。モード設定部310は、所定の条件にしたがって、これらのモード切り替えを行うように、転舵モータ制御部320、反力モータ制御部330、ソレノイド制御部340にモード設定信号を出力する。また、モード設定部310は、所定の通信を行う指示となる通信指示信号を通信制御部350に出力する。
【0041】
転舵モータ制御部320は、転舵モータ5aを制御する。すなわち、転舵モータ5aをモータ駆動信号で駆動するモータ駆動回路323にモータ制御信号を出力して、転舵モータ5aの動作を制御する。転舵モータ制御部320は、制御マップ322を有して、この制御マップ322に従って転舵モータ5aの転舵角を制御する転舵角制御マップ部321を備えている。すなわち、詳細な図示、説明は省略するが、モータ駆動回路323から転舵モータ5aへ供給する三相交流電流を検出し、また、転舵モータ5aの回転角度を検出して、モータ駆動回路323へ供給する三相交流電流のフィードバック制御などを行う。
【0042】
反力モータ制御部330は、反力モータ3を制御する。すなわち、反力モータ制御部330は、反力モータ3をモータ駆動信号で駆動するモータ駆動回路331にモータ制御信号を出力して、反力モータ3の動作を制御する。
ソレノイド制御部340は、電磁ソレノイド42aを制御する。すなわち、ソレノイド制御部340は、電磁ソレノイド42aをソレノイド駆動信号で駆動するソレノイド駆動回路341にソレノイド制御信号を出力して、電磁ソレノイド42aの動作を制御する。
転舵モータ制御部320、反力モータ制御部330、ソレノイド制御部340は、転舵モータ5a、反力モータ3、電磁ソレノイド42aを、モード設定部310からのモード設定信号によるモード設定に応じて動作させる。
【0043】
すなわち、転舵モータ制御部320は、SBWモードの場合は、舵角センサ7eの検出値に基づき、転舵モータ5aなどの転舵力だけで転舵輪43の転舵力を出力するように、転舵モータ5aを制御する。転舵モータ制御部320は、EPSモードの場合は、トルクセンサ7aの検出値に基づき、運転者のハンドル22の回転による回転トルクをアシストするように、転舵モータ5aに転舵輪43の転舵力を出力させる。転舵モータ制御部320は、マニュアルモードの場合は、転舵モータ5aを駆動しない。
【0044】
また、転舵角制御マップ部321は、ハンドル2の操舵角に対する転舵角をフィードバック制御する。すなわち、転舵角制御マップ部321は、ハンドル2の操舵角から所定の舵角比に基づいて目標転舵角を算出し、実転舵角が目標転舵角になるようにフィードバック制御する。
つまり、ブラシレスモータなどで構成される転舵モータ5aの回転角を(転舵モータ5aの転舵モータレゾルバ7cなどで)検出し、この回転角が目標値となるように制御する。具体的には、車両が低車速走行の際には(車速は、車輪速センサ7dにより検出する)、操舵角に対する転舵角が相対的に大きくなるように(クイックレシオ)制御する。また、車両が高車速走行の際には、操舵角に対する転舵角が相対的に小さくなるように(スローレシオ)制御する。
【0045】
反力モータ制御部330は、SBWモードなどの場合に、必要な操舵反力を与えるように、反力モータ3を制御する。
ソレノイド制御部340は、SBWモードの場合は、クラッチ機構4を切断し、EPSモードマニュアルモードの場合は、クラッチ機構4を接続するように、電磁ソレノイド42aを制御する。
通信制御部350は、通信回路351を制御する。通信回路351は、制御装置8がCAN400を介して車両の各部と通信を行うための回路である。通信制御部350は、通信回路351に通信制御信号を出力し、モード設定部310からの通信指示信号に応じた制御指示信号を制御装置200に送信させる。
【0046】
ところで、車両の始動時に、異物のかみ込みなどの影響によりクラッチ機構4が誤接続してしまう場合がありうる。この場合は、本来はSBWモードであるにもかかわらず、制御装置8がSBWモードで設定する本来の舵角比ではなく、機械的舵角比で車両用操舵装置1は駆動することになる。機械的舵角比とは、クラッチ機構4を接続してハンドル22側と転舵機構44側とを連結している際に、機械的に定まる舵角比である。
【0047】
この状態で、制御装置8がクイックレシオ(車両が始動時なので低車速走行)でSBWモードの制御を行う場合は、クイックレシオと機械的舵角比との偏差を埋めようと転舵モータ5aをフィードバック制御することになる。しかし、クラッチ機構4が誤接続している限り、この偏差は埋まらずに拡大していく。すると、転舵機構44側にハンドル22側も接続されているので、ハンドル22が勝手に回転し(セルフステア)、運転者に違和感を与えてしまうという問題がある。
【0048】
なお、このクラッチ機構4の誤接続の場合に、逆にスローレシオ(車両が高車速走行の場合)でSBWモードの制御を行うときは、舵角比がフィードバック制御の目標値を追い越してしまうので、制御装置8は当該状態を解消しようとし、運転者はハンドル22を回転させにくくなる(ステアリングロック)。
ここで、セルフステアの状態になってハンドル22が勝手に回転してしまうより、ステアリングロックの状態の方が、運転者を慌てさせず、違和感を与えることがないといえる。
そこで、本実施形態では、車両の始動時のSBWモードにおいては、本来のクイックレシオより小さな舵角比である機械的舵角比以下の舵角比になるように制御して、セルフステアの発生を防止することができるようにしている。
【0049】
以下、このような動作を実現するモード設定部310が実行する処理について説明する。
図5は、モード設定部310が実行する処理について説明するフローチャートである。まず、車両がイグニッションOFF(エンジン停止)の状態にある場合は、クラッチ機構4が接続され、ハンドル22側と転舵機構44側とは連結されている。これは、エンジンが停止した状態で人手により車両を後ろから押して移動させる場合などにも、ステアリングをきれるようにするためである。
【0050】
そしてイグニッションスイッチ(図示せず)をONにして車両を始動させると、イグニッション信号が制御装置8に入力されて、モード設定部310は、車両の始動時であると判断する(S1のYes)。この場合、モード設定部310は、通信指示信号を通信制御部350に出力し、制御指示信号を制御装置8から制御装置200に送信して、制動装置210を制動状態にさせるように指示する(S2)。すなわち、制動装置210を動作させて、車両の各車輪を制動する。よって、車両は停止状態を保つ。次に、モード設定部310は、モード設定信号を送り、転舵モータ制御部320、反力モータ制御部330、ソレノイド制御部340にSBWモードの動作を行わせる(S3)。
SBWモードでは、前記のとおり、操舵角に対する転舵角の比(舵角比)を、車両の低車速時にはクイックレシオ、車両の高車速時にはスローレシオにする。そして、この場合は、車両の始動時なので、転舵角制御マップ部321が、まずは、制御マップ322に基づいてクイックレシオにするのが通例である。
【0051】
しかし、本実施形態においては、これとは異なり、モード設定部310は、SBWモードの動作を指示するモード設定信号とともに舵角比指示信号を転舵モータ制御部320に出力し、舵角比を機械的舵角比以下の所定の値である舵角比R(第1の値)にする(S4)。前記のとおり、機械的舵角比は、クラッチ機構4を接続してハンドル22側と転舵機構44側とを連結している際に、機械的に定まる舵角比である。そして、機械的舵角比は、一般的には、前記のクイックレシオより小さく、スローレシオより大きな舵角比である(操舵角に対して、クイックレシオより小さく、スローレシオより大きな転舵角になる)。
【0052】
そして、所定値T(第2の値)以上の操舵トルクをトルクセンサ7aで検出したときは(S5のYes)、モード設定部310は、モード設定信号を送り、転舵モータ制御部320、反力モータ制御部330、ソレノイド制御部340にEPSモードの動作を行わせる(S6)。すなわち、所定値T以上の操舵トルクを検出した場合とは、クラッチ機構4が前記の誤接続を起こしたときであり、この場合はEPSモードに移行する。この場合においては、通常、イグニッションOFFされるまで、EPSモードが維持されることになる。
【0053】
また、一度、所定値θ(第3の値、第4の値)以上の操舵角を検出したときは(S7のYes)、前記の制動状態(S2)を解除し(S8)、舵角比を前記の舵角比Rから、予め定めた状態、すなわちSBWモードで定まっている舵角比に変更する(S8)。すなわち、舵角比が所定値θ以上となるのは、前記のクラッチ機構4の誤接続は発生せず、ステアリングロックが発生していないので、SBWモードで定まる舵角比(通常のクイックな舵角比)に移行する。そして、制動状態を解除して通常の走行を可能とする。なお、制動状態を解除するため(S8)の基準値となる所定値θと、舵角比をSBWモードで定まる舵角比(通常のクイックな舵角比)に移行させる(S9)基準値となる所定値θとは、異なる値を用いてよい。すなわち、本発明の第3の値と第4の値とは異なる値としてもよい。
車両を再始動しない限り、通常のクイックレシオの舵角比になって(S9)以後は、SBWモードが続く限りは、転舵角制御マップ部321により、車両の低車速走行時はクイックレシオ、高車速走行時はスローレシオに制御する。すなわち、
図5の処理は、車両の始動の際の短時間に実行される処理である。
【0054】
このように、車両の始動時には、クイックレシオとせず、クイックレシオより小さな機械的舵角比よりさらに小さな舵角比Rにする。あるいは、機械的舵角比と同じ舵角比Rとする(S4)。よって、異物のかみ込みなどによりクラッチ機構4が誤接続されても、その接続により機械的に定まる機械的舵角比、あるいは、それよりさらに小さな舵角比に設定される。そのため、車両の始動時においても、クラッチ機構4の誤接続によるセルフステアは発生せず、よってセルフステアの発生により運転者を慌てさせることがなく、運転者に違和感を与えない。
【0055】
また、この場合に、舵角比Rを機械的舵角比と同じに設定したときは、通常のコンベンショナルステアリングのように操舵できてしまい、運転手は異常に気付きにくい。しかし、舵角比Rを機械的舵角比より小さく設定したときは、ステアリングロックの発生により運転者に異常の発生を知らせることができる。よって、運転者が操舵系の異常の発生に気付き、イグニッションスイッチを一度OFFにして、車両の再始動を図ることも期待される。そのため、異物のかみ込みなどによるクラッチ機構4の誤接続が解除される可能性も高まる。
【0056】
そして、この場合は、所定の操舵トルクT以上を検出したときは(S5)、EPSモードに移行する(S6)。操舵トルクTは、正常時にはあり得ないような大きな操舵トルク(前記のクラッチ機構4の誤接続が発生したときの操舵トルク)に設定されている。よって、この場合は、EPSモードに移行することで、運転者にスムーズな操舵操作を行わせることができる。
【0057】
また、始動時から制動装置210による制動状態を維持して車両を発車させないようにし(S2)、所定の操舵角θ以上の操舵角を検出したときには(S7のYes)、制動装置210による制動状態を解除して(S8)、車両を発車できるようにしている。すなわち、クラッチ機構4の誤接続のまま高車速走行に移行できるようにするのは、問題がある。よって、運転者がハンドルをステアリングロックが発生することなく操舵角θ以上回転させ、運転の意思を示すまでは、車両を制動装置210により停止させておくことができる。
【0058】
さらに、車両の始動時で車両が停止している際または低車速で走行を始めた際に、操舵角θ以上の操舵がなされると舵角比Rから、SBWモードによる舵角比に移行させている(S9)。そして、以後は、通常どおり、車両の低車速時はクイックレシオ、高車速時はスローレシオに制御する。すなわち、始動時からしばらくして問題なければ、徐々に正常な制御に戻すことが可能となる。