特許第6243957号(P6243957)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特許6243957画像処理装置、眼科システム、画像処理装置の制御方法および画像処理プログラム
<>
  • 特許6243957-画像処理装置、眼科システム、画像処理装置の制御方法および画像処理プログラム 図000004
  • 特許6243957-画像処理装置、眼科システム、画像処理装置の制御方法および画像処理プログラム 図000005
  • 特許6243957-画像処理装置、眼科システム、画像処理装置の制御方法および画像処理プログラム 図000006
  • 特許6243957-画像処理装置、眼科システム、画像処理装置の制御方法および画像処理プログラム 図000007
  • 特許6243957-画像処理装置、眼科システム、画像処理装置の制御方法および画像処理プログラム 図000008
  • 特許6243957-画像処理装置、眼科システム、画像処理装置の制御方法および画像処理プログラム 図000009
  • 特許6243957-画像処理装置、眼科システム、画像処理装置の制御方法および画像処理プログラム 図000010
  • 特許6243957-画像処理装置、眼科システム、画像処理装置の制御方法および画像処理プログラム 図000011
  • 特許6243957-画像処理装置、眼科システム、画像処理装置の制御方法および画像処理プログラム 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6243957
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】画像処理装置、眼科システム、画像処理装置の制御方法および画像処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20171127BHJP
   A61B 3/14 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   A61B3/10 R
   A61B3/14 M
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-83123(P2016-83123)
(22)【出願日】2016年4月18日
(62)【分割の表示】特願2012-15930(P2012-15930)の分割
【原出願日】2012年1月27日
(65)【公開番号】特開2016-152962(P2016-152962A)
(43)【公開日】2016年8月25日
【審査請求日】2016年5月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 好彦
(72)【発明者】
【氏名】新畠 弘之
【審査官】 増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−019644(JP,A)
【文献】 特開2011−224347(JP,A)
【文献】 特開2011−110158(JP,A)
【文献】 特開2010−240068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00−3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼底の断層画像を処理する画像処理装置であって、
前記眼底の正面画像に含まれる黄斑部と視神経乳頭部とを結ぶ直線を、前記眼底の断層画像を取得するために光を走査する位置である横断位置を設定する基準となる基準ラインとして、前記正面画像に設定する第一の設定手段と、
前記設定された基準ラインに対して直交する直線を前記横断位置として設定する第二の設定手段と、
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記正面画像を表示手段に表示させ、前記基準ラインを、前記表示される正面画像上に重畳表示させる表示制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記正面画像を表示手段に表示させ、前記横断位置を、前記表示される正面画像上に重畳表示させる表示制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記正面画像を表示手段に表示させ、前記基準ライン及び前記横断位置を、前記表示される正面画像上に重畳表示させる表示制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記正面画像を解析することで前記黄斑部と前記視神経乳頭部とを検出する検出手段を更に備え、
前記第一の設定手段は、前記検出手段により検出された前記黄斑部と前記視神経乳頭部とに基づいて前記基準ラインを設定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記第二の設定手段は、前記横断位置に前記視神経乳頭部が含まれるように前記横断位置を設定することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の画像処理装置と、
前記第二の設定手段により設定された前記横断位置に対して光を走査する断層画像撮像装置と、を備える眼科システム。
【請求項8】
眼底の断層画像を処理する画像処理装置の制御方法であって、
前記眼底の正面画像に含まれる黄斑部と視神経乳頭部とを結ぶ直線を、前記眼底の断層画像を取得するために光を走査する位置である横断位置を設定する基準となる基準ラインとして、前記正面画像に設定する第一の設定ステップと、
前記設定された基準ラインに対して直交する直線を前記横断位置として設定する第二の設定ステップと、
を有することを特徴とする画像処理装置の制御方法。
【請求項9】
眼底の断層画像を処理する画像処理装置の動作を制御するための画像処理プログラムであって、
前記画像処理装置のプロセッサによって実行されることで、
前記眼底の正面画像に含まれる黄斑部と視神経乳頭部とを結ぶ直線を、前記眼底の断層画像を取得するために光を走査する位置である横断位置を設定する基準となる基準ラインとして、前記正面画像に設定する第一の設定ステップと、
前記設定された基準ラインに対して直交する直線を前記横断位置として設定する第二の設定ステップと、
を画像処理装置に実行させることを特徴とする画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、眼科システム、画像処理装置の制御方法および画像処理プログラムに関する。

【背景技術】
【0002】
光干渉断層計(OCT;Optical Coherence Tomography)などの被検眼の眼部の断層画像撮影装置は、網膜層内部の状態を三次元的に観察することが可能である。この断層画像撮影装置は、疾病の診断をより的確に行うのに有用であることから近年注目を集めている。OCTの一つの形態として、例えば、広帯域な光源とマイケルソン干渉計とを組み合わせたTD−OCT(Time domain OCT)が知られている。これは、参照アームの遅延を走査することで、信号アームの後方散乱光との干渉光を計測し、深さ分解の情報を得るように構成されている。しかし、このようなTD−OCTでは高速な画像取得は難しい。そのため、より高速に画像を取得するため、広帯域光源を用い、分光器でインターフェログラムを取得するOCTとして、SD−OCT(Spectral domain OCT)が知られている。また、光源として、高速波長掃引光源を用いることで、単一チャネル光検出器でスペクトル干渉を計測する手法によるSS−OCT(Swept Source OCT)が知られている。
【0003】
これらのOCTにより撮影された断層画像において、網膜の形態変化を計測できれば、緑内障などの疾病の進行度や治療後の回復具合を定量的に診断することが可能となる。従来、OCTにより撮影を行う場合、装置固有の座標系で撮影されるものであった。しかし、眼部においては、神経線維の走行を考慮した画像を得られることが望ましい。ここで図9は神経線維の走行を示した模式図である。図9において、細い曲線Nは神経線維、中心付近のMは黄斑部、楕円のDは視神経乳頭部、太い曲線Vは血管を示している。
【0004】
特許文献1では、神経線維の走行に沿った断層画像を作成する技術が開示されている。特許文献1では、装置固有の座標系で撮影した3次元のOCTデータから操作者が指定した神経線維の走行に合わせた断面を断層画像として作成したり、撮影時に神経線維層の走行に沿って撮影を行ったりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−125291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
病気の診断を行うためには、診断の対象となる神経線維の上下側や耳鼻側が一つの断面に写っていることが望ましい。しかしながら、特許文献1は、神経線維走行に対して垂直、水平となるような断層画像の撮影を保障するものではない。例えば、篩状板では、上下方向で孔が大きくなっているため、上下方向に形状の変化が現れやすい。そのため、個人毎の眼部の座標系に合わせて撮影を行わないと、診断や解析を行う際に有効な画像を取得し難いという課題がある。
【0007】
上記の課題に鑑み、本発明は、眼部の形状を解析するのに適した断層画像の位置の設定を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本発明に係る画像処理装置は、
眼底の断層画像を処理する画像処理装置であって、
前記眼底の正面画像に含まれる黄斑部と視神経乳頭部とを結ぶ直線を、前記眼底の断層画像を取得するために光を走査する位置である横断位置を設定する基準となる基準ラインとして、前記正面画像に設定する第一の設定手段と、
前記設定された基準ラインに対して直交する直線を前記横断位置として設定する第二の設定手段と、
を備えることを特徴とする。

【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、眼部の形状を解析するのに適した断層画像の位置の設定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る眼科システムの構成を示す図。
図2】第1実施形態に係る画像処理装置における処理の流れを示すフローチャート。
図3】第1実施形態に係る撮影表示画面の一例を示す図。
図4】第1実施形態に係る観察表示画面の一例を示す図。
図5】第1実施形態に係る網膜の視神経乳頭部の断層画像の模式図。
図6】第2実施形態に係る眼科システムの構成を示す図。
図7】第2実施形態に係る画像処理装置における処理の流れを示すフローチャート。
図8】第2実施形態に係る撮影表示画面の一例を示す図。
図9】神経線維の走行を示す眼底画像の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る画像処理装置を備える眼科システムは、視神経乳頭部と黄斑部とを検出し、これらの部位の位置に基づいて撮影座標系決定を行って断層画像を得ることを特徴としている。
【0012】
以下、本実施形態に係る画像処理装置を備える眼科システムについて、詳細を説明する。図1は、本実施形態に係る画像処理装置110を備える眼科システム100の構成を示す。図1に示すように、眼科システム100は、画像処理装置110と、断層画像撮影装置200と、表示部300と、眼底画像撮影装置400と、データベース500とを備えており、画像処理装置110は、インタフェースを介して断層画像撮影装置200、表示部300、眼底画像撮影装置400およびデータベース500と接続されている。なお、断層画像撮影装置200と、眼底画像撮影装置400とは1つの眼科装置として構成されてもよく、単独で眼科装置として構成されてもよい。また、断層画像撮影装置200と、画像処理装置110とが、1つの眼科装置として構成されてもよい。
【0013】
断層画像撮影装置200は、眼部の断層画像を撮影する。断層画像撮影装置200は、例えばSD−OCTやSS−OCTである。断層画像撮影装置200は、ガルバノミラー201と、駆動制御部202と、パラメータ設定部203とを備える。なお、断層画像撮影装置200は既知の装置であるため、詳細な説明は省略し、ここでは、画像処理装置110からの指示により設定される、走査線のパラメータの設定機能について主に説明を行う。
【0014】
ガルバノミラー201は、測定光の眼底における走査を行い、OCTによる眼底の撮影範囲を規定する。駆動制御部202は、ガルバノミラー201の駆動範囲および速度を制御し、眼底における平面方向の撮影範囲及び走査線数(平面方向の走査速度)を規定する。ここでは、簡単のためガルバノミラーは一つのミラーとして示したが、実際にはXスキャン用のミラーとYスキャン用の2枚のミラーとにより構成され、眼底上の所望の範囲を測定光で走査できる。
【0015】
パラメータ設定部203は、駆動制御部202によるガルバノミラー201の動作制御に用いられる各種パラメータを設定する。パラメータ設定部203により設定されるパラメータにより、断層画像撮影装置200による断層画像の撮影における撮影条件が決定される。具体的には、画像処理装置110からの指示により設定される走査線の走査位置、走査線数、撮影枚数などが決定される。
【0016】
表示部300は、撮影された断層画像や、眼底画像を表示する。眼底画像撮影装置400は、眼部の眼底画像を撮影する装置であり、当該装置としては、例えば、眼底カメラやSLO等が挙げられる。
【0017】
画像処理装置110は、画像取得部111と、記憶部112と、第一の画像処理部113と、決定部114と、表示制御部115と、第二の画像処理部116とを備える。
【0018】
画像取得部111は、断層画像撮影装置200により撮影された断層画像を取得する断層画像取得部として機能し、また眼底画像撮影装置400により撮影された眼底画像を取得する眼底画像取得部として機能する。そして取得した画像を記憶部112に格納する。第一の画像処理部113は、記憶部112で記憶している眼底画像から視神経乳頭部と黄斑部とを検出する。また決定部114は、第一の画像処理部113で検出した結果に基づいて基準座標系を決定し(座標系決定)、当該基準座標系に基づいて断層画像の取得位置決定を行い、撮影パラメータとして断層画像撮影装置200のパラメータ設定部203へ出力する。表示制御部115は、表示部300を制御し、各種画像を表示させる。第二の画像処理部116は、記憶部112で記憶している断層画像から網膜層の各領域の形状の抽出を行い、網膜層の厚みや、篩状板形状の解析を行う。
【0019】
次に、図2図3を参照して、本実施形態の画像処理装置110の処理手順を示す。図2は、第1実施形態における処理の流れを示すフローチャートである。図3は、第1実施形態における表示部300が表示する撮影時の表示画面の一例を示している。図3において、断層画像撮影画面310は、断層画像301、眼底画像302、撮影座標系設定のコンボボックス303、撮影指示ボタン304を有する。撮影領域305は、眼底画像302上に重畳表示した領域である。座標軸306は、個人差に関係なく一律に設定する座標軸である。そして、Mは黄斑部、Dは視神経乳頭部、Vは血管である。
【0020】
なお、撮影モードが複数存在し、目的に合った撮影を行うためのモードを選択することにより所望の撮影が開始される。例えば本実施形態では、ユーザ操作等により、被検眼の篩状板領域を含む断層画像を取得する撮影モードの選択を受け付ける。被検眼の篩状板領域を含む断層画像を取得する撮影モードを受け付けた場合に、本実施形態の処理が開始する。
【0021】
<ステップS201>
ステップS201において、不図示の被検眼情報取得部は、被験眼を同定する情報として被験者識別番号を外部から取得する。そして、被験者識別番号に基づいて、データベース500が保持している当該被検眼に関する情報(患者の氏名、年齢、性別など)を取得して記憶部112に記憶する。
【0022】
<ステップS202>
ステップS202において、画像取得部111は、図3の断層画像撮影画面310に表示するためのプレビュー用の画像、ならびにステップS205での部位検出に用いる画像取得用の処理を行う。具体的には、画像取得部111は、眼底画像撮影装置400から眼底画像を取得し、断層画像撮影装置200から断層画像を取得する。眼底画像には黄斑部Mと視神経乳頭部Dとが含まれる。
【0023】
<ステップS203>
ステップS203において、表示制御部115は、撮影座標系設定用のコンボボックス303に対するユーザ操作を受け付けることにより、撮影座標系の選択受付を行う。撮影座標系設定用のコンボボックス303により、網膜基準座標系または装置座標系を撮影座標系として選択して設定することができる。ここで、網膜基準座標系とは黄斑Mと視神経乳頭部Dとを結ぶ線を基準として構成する座標系とする。そして、装置座標系が設定された場合(S203;YES)、ステップS204へ進む。一方、網膜基準座標系が設定された場合(S203;NO)、ステップS205へ進む。
【0024】
<ステップS204>
ステップS204において、決定部114は、予め定められた装置座標系を設定する。具体的には、決定部114は、装置座標系が選択されたことを示す情報と、装置座標系を基準として決定された取得位置を示す情報とを、断層画像撮影装置200のパラメータ設定部203に設定する。取得位置を示す情報は、撮影範囲および撮影方向を含む。装置座標系は被検眼に対して撮影を行う場合、水平方向を軸X、垂直方向を軸Yとしたものであり、図3の座標軸306に示されるように、個人差に関係なく一律に設定する座標軸である。それに対して、網膜基準座標系は、眼部の解剖学的特徴に基づいて設定する座標系であり、個人差や撮影時の状況に応じて設定する座標軸である。次に、ステップS205とステップS206とを参照して、網膜基準座標系を設定する場合について説明を行う。
【0025】
<ステップS205>
ステップS205において、第一の画像処理部113は、眼底画像から黄斑部Mの位置と視神経乳頭部Dの位置とを検出する。まず、視神経乳頭部Dを検出する例を示す。眼底画像中では、視神経乳頭部Dの画素値は高い(明るい)ことが知られている。色分布を調べ、画像中の明るい領域(視神経乳頭部)の中心を視神経乳頭部の中心とする。あるいは、視神経乳頭部には血管が集中しているので、眼底画像中から血管を検出し、その情報を用いて視神経乳頭部を検出してもよい。血管の検出方法として、例えば、血管は細い線状構造を有しているため、線状構造を強調するフィルタを用いて血管を抽出する。線状構造を強調するフィルタとしては、線分を構造要素としたときに構造要素内での画像濃度値の平均値と構造要素を囲む局所領域内での平均値との差を計算するフィルタを利用する。ただし、これに限らずSobelフィルタのような差分フィルタを用いてもよい。また、濃度値画像の画素ごとにヘッセ行列の固有値を計算し、結果として得られる2つの固有値の組み合わせから線分状の領域を抽出してもよい。さらには、単純に線分を構造要素とするトップハット演算でもよい。これらの方法で検出した血管位置と、視神経乳頭部の明るい領域とを組み合わせて、視神経乳頭部の中心を検出する。
【0026】
次に、黄斑部M中心の中心窩を検出する例を示す。眼底画像中では、黄斑部Mの画素値は低い(暗い)ことが知られている。そのため、眼底画像の色分布を調べ、画像中の暗い領域(黄斑部)の中心は黄斑部M中心の中心窩とする。ただし、血管も黄斑部と同じ色分布になる場合があるが、上述したように、血管は細い線状構造を有しているため、線状構造と円形構造とは区別できる。また、視神経乳頭部Dの位置と、血管の枝状構造の解剖学的特徴とを用いることで、黄斑部のおおよその領域を推定することができる。従って、これらの情報を用いることで、黄斑部検出の誤検出を減らすことができる。
【0027】
<ステップS206>
ステップS206において、決定部114は、第一の画像処理部113が検出した黄斑部M中心の中心窩と視神経乳頭部Dとを結んだ直線に基づいて、眼底画像中の網膜基準座標系を決定する。図3に示されるように、網膜基準座標系の原点を視神経乳頭部Dの中心として、第1の軸は、視神経乳頭部Dの中心と黄斑部Mの中心とを結んだ破線(AxisX')として求められる。網膜基準座標系の第2の軸は、原点でAxisX'と交差または直交する破線(AxisY')とする。すなわち、網膜基準座標系は、多くの場合において装置座標系に対して角度θ回転した座標系となる。断層画像の取得位置を示す撮影領域305は、この座標軸に基づいた軸を基準に決定部114により決定される。例えば、所定の幅で軸上を一定距離だけ走査した領域を撮影領域305としてもよい。なお、網膜基準座標系の座標軸を基準として、ユーザ操作により撮影領域305の位置が決定されてもよい。そして、決定部114は、網膜基準座標系の回転角度θを示す情報と、取得位置を示す情報とを、撮影パラメータとして、断層画像撮影装置200のパラメータ設定部203へ出力して設定する。なお、本実施形態においては視神経乳頭部Dの中心を原点とした座標系の説明を行ったが、原点はこれに限るものではない。例えば、黄斑部Mの中心を原点とした座標系としてもよい。この場合においても、原点の位置が異なるだけであり、座標系の回転角度θは同一であるため、本発明を適用可能である。
【0028】
<ステップS207>
ステップS207において、断層画像撮影装置200は、パラメータ設定部203に設定されている撮影パラメータに基づき、駆動制御部202を制御することで、ガルバノミラー201の撮影領域を設定し、断層画像の撮影を行う。ガルバノミラー201は、水平方向用のXスキャナと垂直方向用のYスキャナとにより構成される。そのため、これらのスキャナの向きをそれぞれ変更すると、装置座標系における水平方向(X)、垂直方向(Y)それぞれの方向に走査することができる。そして、これらのスキャナの向きを同時に変更させることで、水平方向と垂直方向とを合成した方向に走査することができるため、眼底平面上の任意の方向に走査することが可能となる。したがって、網膜基準座標系が選択されており、装置座標系に対して回転角度θが設定されている場合、駆動制御部202は、その角度θに合わせてXスキャナとYスキャナを制御する。
【0029】
<ステップS208>
ステップS208において、第二の画像処理部116は、記憶部112に記憶している断層画像から網膜層の抽出と解析を行う。まず、図5(a)を参照して、視神経乳頭部の場合の網膜層の各領域の境界の抽出について説明する。図5(a)は、網膜基準座標系で撮影した場合の垂直方向の断層画像501を示している。図5(a)は、視神経乳頭部の断層画像を示している。L1は内境界膜(ILM)、L2は神経線維層(NFL)、L3は神経節細胞層(GCL)、L4はブルッフ膜オープニング(BMO)、L5は網膜色素上皮層(RPE)、L6は篩状板(LC)、L7は脈絡膜(Choroid)を表す。第二の画像処理部116は、L1〜L7の各領域の境界を抽出する。
【0030】
まず、第二の画像処理部116は、断層画像501に対して、メディアンフィルタとSobelフィルタをそれぞれ適用して画像を生成する(生成された画像をそれぞれ、メディアン画像、Sobel画像と称する)。次に、生成したメディアン画像とSobel画像とから、A−scan毎にプロファイルを生成する。メディアン画像では輝度値のプロファイル、Sobel画像では勾配のプロファイルが生成される。そして、Sobel画像から生成したプロファイル内のピークを抽出する。抽出したピークの前後やピーク間に対応するメディアン画像のプロファイルを参照することにより、網膜層の各領域の境界を抽出する。そして、抽出した層境界から厚みの解析を行う。例えば、ILM・L1と、NFL・L2/GCL・L3との境界を抽出したとする。この場合、NFL・L2の厚みを計算することとなる。層の厚みは、AxisY'Z平面上の各AxisY'座標において、内境界膜L1のZ座標と、NFL・L2/GCL・L3境界のZ座標との差を求めることで計算できる。さらに、厚みだけではなく、層の面積や体積を求めても良い。NFL・L2の面積は、1枚の断層画像においてX軸の各座標点での層厚を加算することによって計算できる。また、NFL・L2の体積は、求めた面積をY軸方向に加算することで計算できる。ここでは、NFL・L2の計算を例に説明したが、他の層や網膜層全体の厚み、面積、体積も同様にして求めることができる。
【0031】
次に、図5(b)を参照して、篩状板形状の抽出と解析について説明を行う。第二の画像処理部116は、篩状板領域を抽出するために、図5(b)の断層画像501からBMO・L4の抽出を行う。BMO・L4の抽出は、例えば、ステップS208で抽出されたILM・L1とRPE・L5とを用いて、視神経乳頭の陥凹部を特定することにより行う。本実施形態では、まず、視神経乳頭陥凹部の中心付近を特定する。ここで、視神経乳頭陥凹部の特徴として、RPE・L5が存在しないこと、ILM・L1の形状が深部方向(図5のZ方向)に大きな勾配をもつことが挙げられる。そこで、各A−scanとその周辺A−scanを含めた局所領域を設定し、その局所領域内のRPE・L5の存在状況と、ILM・L1の深部方向への勾配を算出し、視神経乳頭陥凹部の中心付近の点を特定する。次に、各断層画像において視神経乳頭陥凹部中心付近に近いRPE・L5の点を、全ての断層画像において繋ぐことで、C−scan方向で見た場合に楕円形状となるRPE領域を設定する。それを初期位置としてSnakesやLevelSetのような動的輪郭モデルを適用することで、各断層画像においてBMO・L4を特定する。次に、先ほど特定したBMO端からエッジ成分を視神経乳頭陥凹部の中心に向かってトレースすることで、BMO端の正確な位置を特定する。本実施形態では、まず各BMO端について、座標値とエッジ成分を調べる。次に、各BMO端の位置を開始点として、視神経乳頭陥凹部の中心に向かってエッジをトレースしていく。トレースは各BMO端の位置におけるエッジ成分を参照して、内側の近傍に存在するエッジ成分が一番近い位置に探索点を更新し、参照するエッジ成分も更新する。これを繰り返すことで、正確なBMO端を特定する。次に、1枚の断層画像(B−scan)において、2点のBMO・L4を抽出した個所において、BMO・L4を固定端とした篩状板境界を初期値として、SnakesやLevelSetのような動的輪郭モデルを実行することで、篩状板領域(図5のL6)を抽出する。動的輪郭モデルでは、さらに確率アトラスを用い、篩状板の空間的な存在確率を利用する事によって領域検出を行ってもよい。なお、ここでは自動で篩状板領域を抽出する場合の例を説明したが、不図示の操作部を用いて、操作者が自動抽出結果を修正しても良いし、マニュアルで篩状板領域を設定するようにしても良い。
【0032】
そして、篩状板の形状解析として、BowingAngleで解析する場合について説明を行う。ここで、BowingAngleの解析方法について説明をする。まず2点のBMO・L4を直線で結び、その直線を4分割する。そして、その分割点から篩状板に対して垂線BA1、BA2、BA3を引く。BowingAngleとは、それら垂線の長さを用いて式(1)を計算することで求めることができるものである。式(1)において、BA1、BA2、BA3は、各垂線の長さ(距離)の数値が入る。そして、式(1)において、数値が大きい(プラス)ほど下に凸形状となり、数値が小さい(マイナス)ほどW形状となる。すなわち、BowingAngleとは、符号と数値から篩状板の形状を把握できる指標である。
【0033】
【数1】
【0034】
また、BowingAngleを数値ではなく、比で計算しても良い。その場合の計算式を式(2)に示す。式(2)において、BowingAngle比が1以上の場合下に凸形状となり、1より小さい場合W形状となる。
【0035】
【数2】
【0036】
<ステップS209>
ステップS209において、表示制御部115は、表示部300に断層画像を表示する。ここで図4は、表示部300に表示する表示画面の一例を示している。断層画像観察画面410は、断層画像401と、眼底画像402と、解析マップ404と、解析グラフ405とを備える。このように、解析結果を示す表示形態を、断層画像と共に表示させる。
【0037】
断層画像401は、撮影した断層画像上に網膜層の各層を抽出したセグメンテーション結果(L1〜L6)を重畳表示した画像である。領域403は、断層画像の取得位置とその座標系を示す。解析マップ404は、第二の画像処理部116で断層画像を解析して得られたマップである。解析グラフ405は、第二の画像処理部116で断層画像を解析して得られたグラフである。そして、コンボボックス420は、眼底画像の種類を選択するためのボックスであり、コンボボックス430は、解析結果のマップの種類を選択するためのボックスである。
【0038】
チェックボックス421〜423はそれぞれ、第一の画像処理部113で検出した視神経乳頭(Fovea)、黄斑部(Macula)、血管(Vessel)を表示する場合に用いるチェックボックスを示している。例えば、チェックボックス421〜423にチェックを入れると、視神経乳頭(Fovea)、黄斑部(Macula)、血管(Vessel)の位置を、眼底画像402に重畳表示することができる。なお、図4ではそれぞれの部位にチェックボックスが1つある場合を示しているが、チェックボックスは全体として1つとし、1つのチェックボックスを選択することで、チェックボックス421〜423に対する情報の表示、非表示を切り替えられるようにしてもよい。
【0039】
<ステップS210>
ステップS210において、不図示の指示取得部は、眼科システム100による断層画像の撮影を終了するか否かの指示を外部から取得する。この指示は、不図示の操作部を用いて、操作者によって入力される。処理を終了する指示を取得した場合には(S210;YES)、眼科システム100はその処理を終了する。一方、処理を終了せずに、撮影を続ける場合には(S210:NO)、ステップS202に処理を戻して撮影を続行する。以上のようにして眼科システム100の処理が実行される。
【0040】
以上説明したように、視神経乳頭部(第1の位置)と黄斑部(第2の位置)とに基づいた撮影座標系を決定して撮影することにより、眼部の形状を解析するのに適した座標系で撮影を行う画像処理装置を提供することができ、個人差に対応させた状態で神経線維走行に対して垂直や水平方向の撮影を行うことができる。また、眼部の特徴から、神経線維走行基準で撮影を行うことで、解析、あるいは診断を行う際に好適な位置で撮影した断層画像を得ることができる。
【0041】
なお、本実施形態では視神経乳頭部、黄斑部を用いたが、必ずしもこれらに限定されず、位置が特定できるような特徴的な部位であれば他の部位を用いてもよい。また、上述のユーザ操作は、不図示のマウス等を操作してカーソルを移動して選択を行うことにより所望の処理を受け付けてもよいし、タッチパネルを介して処理を受け付けてもよい。
【0042】
(第2実施形態)
第1実施形態では、装置座標系または網膜基準座標系を操作者が選択する場合を例として説明をした。これに対して第2実施形態では、経過観察時に以前の解析状況の結果に基づいて、画像処理装置が撮影座標系を決定する例について説明する。
【0043】
図6は、第2実施形態に係る画像処理装置610を備える眼科システム600の構成を示す。図6に示すように、画像処理装置610は、画像取得部111と、記憶部612と、第一の画像処理部113と、決定部114と、表示制御部615と、第二の画像処理部116と、選択部617とを備える。選択部617は、前回の解析結果に基づいて撮影座標系の選択を行う。なお、第1実施形態と同様の機能を有する処理部に関しては、ここでは説明を省略する。
【0044】
以下、図7図8を参照して、第2実施形態の画像処理装置610の処理手順を示す。なお、ステップS701、ステップS703以外の各ステップは、第1実施形態と同様なので説明は省略する。
【0045】
<ステップS701>
ステップS701において、不図示の被検眼情報取得部は、被験眼を同定する情報として被験者識別番号を外部から取得する。そして、被験者識別番号に基づいて、データベース500が保持している当該被検眼に関する情報(患者の氏名、年齢、性別など)を取得するとともに、過去に撮影記録がある場合は、被検眼の過去の断層撮影に関する情報(過去の解析結果等)を取得し、記憶部612に記憶する。
【0046】
<ステップS703>
ステップS703において、選択部617は、過去の撮影記録と解析結果とに基づいて、撮影座標系を選択する。例えば、過去の解析結果から神経線維層の上下の対称性が失われている場合、表示制御部615は、図8の撮影座標系設定用のコンボボックス803に、網膜基準座標系を初期状態として設定する。あるいは、メッセージ表示ボックス807に、網膜基準座標系での撮影を促すメッセージを表示する。ここで、神経線維層の上下対称性の判定は、図8の眼底画像のY軸方向において、以前の撮影領域の中心を基準として、上下の神経線維層の厚みの比較を行い、その厚みの差異が閾値以上の場合、上下の対称性に異常があると判定することにより行う。
【0047】
他の例として、選択部617は、篩状板形状解析結果として、水平方向と垂直方向においてのBowingAngleの計測結果を比較してその差異によって上下対称性の判定を行う。もしくは、垂直方向のBowingAngleの計測値と、複数の正常眼から作成したBowingAngleの正常データベースとを比較して、計測結果が閾値以上に正常データベースから外れている場合、図8の撮影座標系設定用のコンボボックス803に、網膜基準座標系を初期状態として設定する。あるいは、メッセージ表示ボックス807に、網膜基準座標系での撮影を促すメッセージを表示する。
【0048】
さらに他の例として、被検眼情報取得部で取得した被検眼情報から、被検眼の診断結果として緑内障、あるいは緑内障疑いがある場合には、選択部617は、図8の撮影座標系設定のコンボボックス803に、網膜基準座標系を初期状態として設定する。あるいは、メッセージ表示ボックス807に、網膜基準座標系での撮影を促すメッセージを表示する。 以上説明したように、視神経乳頭部と黄斑部とに基づいた撮影座標系で撮影することを経過観察時に操作者に促すことにより、網膜基準の座標を設定して撮影する。それにより、神経線維走行に対して垂直や水平方向の撮影を行うことができるため、解析、あるいは診断を行う際に好適な位置で撮影した断層画像を得ることができる。
【0049】
(その他の実施形態)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。
【符号の説明】
【0050】
100:眼科システム、110:画像処理装置、111:画像取得部、112:記憶部、113:画像処理部、114:決定部、115:表示制御部、116:画像処理部、200:断層画像撮影装置、201:ガルバノミラー、202:駆動制御部、203:パラメータ設定部、300:表示部、400:眼底画像撮影装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9