(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、適宜図面を参照にしつつ、本発明の一実施形態に係るパルプ繊維前処理装置について詳説する。
【0015】
<パルプ繊維前処理装置>
図1のパルプ繊維前処理装置1は、セルロースナノファイバーを製造するためにパルプ繊維に前処理を施すための装置である。パルプ繊維前処理装置1は、機械的な処理によってパルプ繊維を微細化する前に、パルプ繊維に対して化学的反応を前処理として施すための装置である。具体的には、パルプ繊維前処理装置1は、パルプ繊維を含むスラリーを貯留する原料貯留槽2と、原料貯留槽2から送られるスラリーを脱水する脱水機構3と、上記脱水されたスラリーを加熱する加熱機構4と、上記加熱されたスラリーに酸化剤、酵素及び酸の少なくとも一つを選択して混合する混合機構5と、上記混合されたスラリー中のパルプ繊維の酸化反応及び加水分解反応の少なくとも一つの化学的反応を進行させる反応槽6と、反応槽6で化学的処理されたスラリーを原料貯留槽2に送るパルプ繊維洗浄用配管7とを備える。
【0016】
セルロースナノファイバーの原料となるパルプ繊維は、水を含むスラリーとして原料貯留槽2に貯留される。パルプ繊維を含むスラリーは、原料貯留槽2から脱水機構3に送られ、脱水機構3で脱水されて水が除かれる。脱水されたパルプ繊維は、加熱機構4によって加熱され、下流側の混合機構5に送られる。混合機構5に送られたパルプ繊維を含むスラリーには、混合機構5によって、酸化剤、酵素及び酸の少なくとも一つの化学的処理剤が選択されて混合される。そして、酸化剤、酵素及び酸の少なくとも一つが混合されたパルプは、反応槽6において、酸化剤、酵素及び酸の少なくとも一つによって酸化反応及び加水分解反応の少なくとも一つの化学的な前処理がなされる。つまり、パルプ繊維前処理装置1は、原料貯留槽2に貯留されるスラリーに対して脱水処理、加熱処理、混合処理及び前処理がこの順で行われるように原料貯留槽2、脱水機構3、加熱機構4、混合機構5及び反応槽6を備える。
【0017】
反応槽6で処理されたスラリーは、パルプ繊維洗浄用配管7によって再び上記原料貯留槽2に送られる。そして、スラリーは、再び脱水機構3に送られ、脱水機構3で脱水処理され、上記化学的反応に用いられた化学的処理剤が除かれて、スラリー中のパルプ繊維が洗浄される。
【0018】
このため、上記前処理反応に用いる脱水機構3等を、上記前処理反応が施されたパルプ繊維の洗浄に用いることができるため、パルプ繊維の洗浄のための装置を別途設ける必要がなく、該パルプ繊維前処理装置を小型化することができる。
【0019】
原料貯留槽2は、脱水機構3の上流側に設けられ、水を含むスラリーとして、セルロースナノファイバーの原料であるパルプ繊維を貯蔵する。原料貯留槽2としては、パルプスラリーを貯蔵することができれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。
【0020】
脱水機構3は、上述のように原料貯留槽2の下流側であって加熱機構4の上流側、つまりに原料貯留槽2と加熱機構4との間に備えられ、原料貯留槽2から送られるパルプスラリーから余分な水を取り除く。脱水機構3としては、パルプスラリーから余分な水を取り除くことができれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。脱水機構3としては、例えば、回転式脱水機(遠心脱水機)、プレス機、スクリュープレス脱水機等を用いることができる。これらの中で、スクリューによってスラリーが回転されながら搬送されることで連続的に脱水を行うことができるため、スクリュープレス脱水機が好ましい。
【0021】
加熱機構4は、上述のように脱水機構3の下流側であって混合機構5の上流側、つまり脱水機構3と混合機構5との間に備えられ、脱水機構3によって脱水されたパルプを加熱する。加熱機構4としては、上記パルプを上記化学的反応に適した温度に加熱することができれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。加熱機構4としては、例えば加熱装置とベルトコンベアとを備えるヒートコンベアを用いることができる。ヒートコンベアでは、ベルトコンベアによって上記脱水されたパルプを搬送しながら、例えばヒーターで加熱する、熱風を吹き付ける等の加熱装置によって上記パルプを加熱することができる。
【0022】
加熱機構4は、加熱機構4に供給されるスラリーの温度を測定するスラリー入口温度計(図示省略)と、加熱機構4から排出されたスラリーの温度を測定するスラリー出口温度計(図示省略)とを備えることが好ましい。
【0023】
混合機構5は、上述のように加熱機構4の下流側であって反応槽6の上流側、つまり加熱機構4と反応槽6との間に備えられ、酸化剤、酵素及び酸の少なくとも一つを選択してパルプ繊維を含むスラリーに均一に混合する。混合機構5としては、酸化剤、酵素及び酸の少なくとも一つを選択してパルプ繊維を含むスラリーに均一に混合することができればよく、公知のものを用いることができる。
【0024】
混合機構5により酸化剤、酵素及び酸の少なくとも一つが添加されたパルプスラリーの混合は、反応槽6の中で行われる。上記混合が反応槽6の中で行われることで、1つの反応槽でスラリーの混合と上記化学的処理とがなされ、コストの増大や装置の大型化を抑制することができる。
【0025】
反応槽6は、上述のように混合機構5の下流側に備えられ、混合されたスラリー中のパルプ繊維の酸化反応及び加水分解反応の少なくとも一つの化学的反応を進行させる。このため、パルプ繊維中の化学結合の一部が分断されると共に、パルプ繊維が膨潤され、予備的なパルプ繊維の解繊がなされる。反応槽6としては、例えば晒タワー等の製紙用タワーを用いることができる。
【0026】
パルプ繊維洗浄用配管7は、上述のように反応槽6で上記化学的処理が施されたスラリーを原料貯留槽2に送る配管であって、反応槽6と原料貯留槽2とを連結する配管である。反応槽6で上記化学的処理が施されたスラリーは、パルプ繊維洗浄用配管7によって原料貯留槽2に送られ、原料貯留槽2から脱水機構3に送られる。脱水機構3では、混合機構5によって加えられる酸化剤、酵素及び酸の少なくとも一つや、酸化剤、酸と必要に応じて添加機構8によって添加される中和剤との反応生成物等がスラリーから除去される。
【0027】
パルプ繊維洗浄用配管7としては、上記反応槽6で前処理が施されて高温や低pHとなっているスラリーを配送することができれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。
【0028】
パルプ繊維前処理装置1は、反応槽6に中和剤及び熱水の少なくとも一つを選択して添加する添加機構8をさらに備える。添加機構8は、反応槽6に中和剤及び熱水の少なくとも一つを選択して添加する。このため、中和剤及び熱水の少なくとも一つによって上記化学的反応が終了される。添加機構8としては、反応槽6に中和剤及び熱水の少なくとも一つを選択して添加することができればよく、公知のものを用いることができる。
【0029】
パルプ繊維前処理装置1は、原料貯留槽2に送られるスラリーを予備的に脱水する予備的脱水装置9と、原料貯留槽2に水を配送する水用配管10とをさらに備える。予備的脱水装置9は、原料貯留槽2に送られるスラリーから簡易的に水等を除き、スラリーに含まれる不純物等を取り除く。このため、予備的脱水装置9によって、上記化学的反応が終了されたパルプスラリーから、上記化学的反応に用いられた化学的処理剤や、必要に応じて上記化学的反応の終了に用いられた化学的処理剤が除かれる。水用配管10は、原料貯留槽2に水を配送して、原料貯留槽2に貯留されるスラリー中のパルプ濃度を適宜調節する。これらの結果、パルプ繊維洗浄用配管7によって再び原料貯留槽2に送られたスラリー中の化学的処理剤の濃度は低下するため、より効率的に脱水機構3によってスラリーから化学的処理剤を除去してスラリー中のパルプ繊維を洗浄することができる。
【0030】
予備的脱水装置9としては、公知のものを用いることができ、例えばディスクエキスト、ディスクシックナー等のパルプマットを用いるろ過脱水装置、スクリーンプレート(エキストラクションプレート)、SPフィルター、トロンメル等のフィルター・脱水エレメントを用いて自然脱水する装置などが挙げられる。
【0031】
水用配管10としては、原料貯留槽2に水を配送することができれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。
【0032】
<セルロースナノファイバーの製造装置>
図2に示すように、本発明の一実施形態に係るセルロースナノファイバーの製造装置20は、セルロースナノファイバーを製造するための装置である。セルロースナノファイバーの製造装置20は、パルプ繊維前処理装置1と、パルプ繊維前処理装置1によって処理されたスラリーのパルプ繊維を微細化する微細化装置40とをこの順に備える。上述のように、パルプ繊維前処理装置1がパルプ繊維洗浄用配管7を備えることで、上記前処理反応に用いる脱水機構3等を、上記前処理反応が施されたパルプ繊維の洗浄に用いることができるため、パルプ繊維前処理装置1を小型化することができ、セルロースナノファイバーの製造装置20を小型化することができる。
【0033】
また、上述のように、パルプ繊維を微細化装置40によって微細化する前に、パルプ繊維前処理装置1がパルプ繊維に対して上述のような化学的処理を施すことで、パルプ繊維中の化学結合の一部が分断されると共に、パルプ繊維が膨潤され、予備的なパルプ繊維の解繊がなされる。パルプ繊維前処理装置1によって予備的に解繊されたパルプ繊維は、微細化装置40によって微細化されて、セルロースナノファイバーが製造される。セルロースナノファイバーの製造装置20は、パルプ繊維前処理装置1によってパルプ繊維の前処理を効果的に施すことができるため、予備的な解繊の効率性を高め、消費エネルギー量を低減することができる。このため、微細化装置40による処理回数を低減し、省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。以下に、微細化装置40を詳説する。
【0034】
微細化装置40は、前処理された上記スラリー中のパルプ繊維を機械的な処理により微細化する装置である。本微細化装置によってセルロースナノファイバーが製造される。
【0035】
上記微細化装置としては、例えばパルプ繊維を回転する砥石間で磨砕するグラインダーや、粉砕装置等を挙げることができ、粉砕装置が好ましい。粉砕装置としては、圧力式ホモジナイザー、ボールミル等が挙げられる。これらの中でも、圧力式ホモジナイザーが好ましい。圧力式ホモジナイザーとは、細孔から高圧でスラリー等を吐出する分散機として用いられるものである。上記圧力式ホモジナイザーとしては、高圧ホモジナイザーが好ましい。高圧ホモジナイザーとは、例えば10MPa以上、好ましくは100MPa以上の圧力でスラリーを吐出できる能力を有するホモジナイザーをいう。パルプ繊維に対して高圧ホモジナイザーで処理することで、パルプ繊維同士の衝突、圧力差、マイクロキャビテーションなどが作用し、解繊が効果的に生じる。これにより、微細化工程の処理回数を低減(短縮化)でき、セルロースナノファイバーの製造効率をより高めることができる。
【0036】
上記高圧ホモジナイザーとしては、対向衝突型高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー、湿式ジェットミル)が好ましく、上記スラリーを一直線上で対向衝突させることが好ましい。具体的には、
図2において部分的に示されるように、対向衝突型高圧ホモジナイザー400においては、加圧されたスラリーS1、S2が合流部Xで対向衝突するように上流側流路401が形成されている。スラリーS1、S2は合流部Xで衝突し、衝突したスラリーS3は、下流側流路402から流出する。上流側流路401に対して、下流側流路402は垂直に設けられており、上流側流路401と下流側流路402とでT型の流路を形成している。このような対向衝突型高圧ホモジナイザー400を用いることで、高圧ホモジナイザーから与えられるエネルギーを衝突エネルギーに最大限に変換することができ、より効率的なパルプ繊維の解繊が生じる。
【0037】
セルロースナノファイバーの製造装置20は、粗解繊装置30をさらに備える。粗解繊装置30は、パルプ繊維に対して予備的な解繊を行う装置である。セルロースナノファイバーの製造装置20が粗解繊装置30をさらに備えることで、パルプ繊維前処理装置1によって化学的な前処理が施されて予備的な解繊されたスラリー中のパルプ繊維は、粗解繊装置30によって粗解繊されて、さらに予備的に解繊される。また、パルプ繊維前処理装置による化学的な前処理及び粗解繊装置30による粗解繊がこの順に行われることで、化学的な前処理により膨潤したパルプ繊維に対して、粗解繊装置30により剪断力が予備的な解繊が施されるため、予備的な解繊の効率性を高め、消費エネルギー量を低減することができる。
【0038】
粗解繊装置30としては、例えばリファイナー等が挙げられる。リファイナーは、パルプ繊維を叩解する装置であり、負荷をかけながら叩解することでパルプ繊維に対して剪断力を付与し、パルプ繊維に毛羽立ちを生させ、パルプ繊維を柔軟にすることで予備的な解繊を行う。
【0039】
リファイナーとは、パルプ繊維を叩解することができれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。リファイナーとしては、パルプ繊維に対して効率的に剪断力を付与し、予備的な解繊を進めることができること等の点から、コニカルタイプやダブルディスクリファイナー(DDR)及びシングルディスクリファイナー(SDR)が好ましい。
【0040】
<セルロースナノファイバーの製造方法>
図3に示すように、本発明の一実施形態に係るセルロースナノファイバーの製造方法は、前処理工程(s1)及び微細化工程(s2)を備える。当該製造方法によれば、前処理工程(s1)によって、パルプ繊維が柔軟になり、予備的な解繊が効果的に施されているため、後工程の微細化工程(s2)の短縮化、すなわち処理回数の低減化し、省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。以下、各工程を詳説する。
【0041】
前処理工程(s1)は、スラリー中のパルプ繊維に対して前処理を施す工程であり、パルプ繊維を機械的な処理により微細化する前に、パルプ繊維に対して前処理を施す工程である。前処理工程(s1)は化学的処理工程(s1a)を備える。以下に、セルロースナノファイバーの原料となるパルプ繊維について説明する。
【0042】
パルプ繊維としては、例えば
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)等の広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)等の針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ;
ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、晒サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の機械パルプ;
茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙、更紙古紙等から製造される古紙パルプ;
古紙パルプを脱墨処理した脱墨パルプ(DIP)などが挙げられる。これらは、本発明の効果を損なわない限り、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
<化学的処理工程(s1a)>
前処理工程(s1)の一つである化学的処理工程(s1a)は、上記スラリー中のパルプ繊維に対して、酸化処理、加水分解処理又はこれらの組み合わせからなる化学的処理を施す工程である。このような化学的処理を施すことにより、パルプ繊維中の化学結合の一部を分断すると共に、パルプ繊維を膨潤させることができる。
【0044】
より具体的には、化学的処理工程(s1a)では、原料貯留槽に貯留されるパルプ繊維を含むスラリーを脱水し、上記脱水されたスラリーを加熱し、上記加熱されたスラリーに酸化剤、酵素及び酸の少なくとも一つの化学的処理剤を選択して混合し、上記混合されたスラリー中のパルプ繊維の酸化反応及び加水分解反応の少なくとも一つの化学的反応を進行させ、上記化学的処理されたスラリーを上記原料貯留槽に送り、上記スラリー中のパルプ繊維を洗浄する。上記化学的処理が施されたパルプ繊維は、上記原料貯留槽に送られることで、再度上記処理と同様に脱水が施され、上記混合された酸化剤、酵素及び酸の少なくとも一つ等がスラリーから除去されて上記スラリー中のパルプ繊維が洗浄される。このため、上記化学的反応のための脱水等に用いる装置を上記化学的反応が施されたパルプ繊維の洗浄に用いることができるため、パルプ繊維の洗浄のための装置を別途設ける必要がなく、セルロースナノファイバーの製造に用いる装置を小型化することができる。
【0045】
また、化学的処理工程(s1a)では、パルプ繊維を含むスラリーは脱水、加熱されて、化学的処理に施されるため、パルプ繊維中の化学結合の一部を分断すると共に、パルプ繊維を膨潤させて、効率的に化学的な前処理が行われる。このため、セルロースナノファイバーを製造するための機械的処理の回数を効率的に低減し、省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。
【0046】
上記原料貯留槽としては、例えば「パルプ繊維前処理装置」において説明したものを用いることができる。この脱水に際しては、例えば「パルプ繊維前処理装置」において説明した脱水機構を用いることができる。この加熱に際しては、例えば「パルプ繊維前処理装置」において説明した加熱機構を用いることができる。この混合に際しては、例えば「パルプ繊維前処理装置」において説明した混合機構を用いることができる。この化学的反応の進行に際しては、例えば「パルプ繊維前処理装置」において説明した反応槽を用いることができる。この処理されたスラリーを上記原料貯留槽に送るに際しては、例えば「パルプ繊維前処理装置」において説明したパルプ洗浄用配管を用いることができる。
【0047】
上記脱水されて加熱に供するパルプスラリーにおけるパルプ繊維濃度は、加熱を効率的に行う観点から、下限としては、5質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、上限としては、40質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。
【0048】
上記化学的処理に供するパルプスラリーにおけるパルプ繊維濃度の下限としては、3質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。一方、この上限としては、30質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。上記濃度範囲とすることで、効率的な前処理を行うことができる。濃度が上記下限値未満の場合は、一回の処理で処理されるパルプ繊維の量が少なく、効率性が低い。一方、濃度が上記上限を超える場合は、十分な撹拌を行うことができず、反応性等が低下する。
【0049】
上記化学的処理に供するパルプスラリーの温度としては、例えば40℃以上90℃以下が好ましい。酸化剤又は酸を用いた場合の上記パルプスラリーの温度の下限としては、40℃が好ましく、50℃がより好ましく、60℃がさらに好ましく、70℃が特に好ましい。酸化剤又は酸を用いた場合の上記パルプスラリーの温度の上限としては、90℃程度が好ましい。酵素を用いた場合の上記パルプスラリーの温度の下限としては、40℃が好ましく、50度がより好ましく、60℃がさらに好ましい。酵素を用いた場合の上記パルプスラリーの温度の上限としては、70℃程度が好ましい。上記パルプスラリーの温度を上記範囲とすることで、パルプ繊維の解繊が促進され、より効率的に前処理を施すことができる。
【0050】
上記化学的処理に用いられる酸化剤としては、オゾン、次亜塩素酸又はその塩、亜塩素酸又はその塩、過塩素酸又はその塩、過硫酸又はその塩、過有機酸等を挙げることができる。これらの中でも、過硫酸類(過硫酸及びその塩)が好ましい。これらは、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。酸化処理を行う際は、N−オキシル化合物等の酸化触媒を併用することもできる。酸化反応を効率よく反応させる観点から、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性溶液を添加することが好ましい。
【0051】
上記化学的処理に用いられる酵素としては、セルラーゼ系酵素や、ヘミセルラーゼ系酵素等を挙げることができ、セルラーゼ系酵素が好ましい。これらは、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
上記化学的処理に用いられる酸としては、硫酸、過硫酸類、塩酸等が挙げられるが、硫酸及び過硫酸類が好ましい。これらは、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。酸を用いる場合の上記反応槽中のpHとしては、3以下が好ましく、0.5以上2以下がより好ましい。上記反応槽中のpHを上記範囲とすることで、酸によるパルプ繊維の解繊が促進され、より効率的に前処理を施すことができる。
【0053】
上記酸化剤、酵素、酸としては、複数種の処理剤を選択することができる。なお、過硫酸等及び酸化剤としても機能する酸を用いた場合、酸化反応と加水分解反応とが共に生じる。
【0054】
上記化学的処理の処理(反応)時間は、スラリーの濃度や温度、処理剤の添加量等に応じて変更されるが、上限としては5分が好ましく、10分がより好ましく、下限としては、12時間が好ましく、6時間がより好ましく、3時間がさらに好ましい。
【0055】
化学的処理を経たスラリーは、必要に応じ中和処理、洗浄処理等が施される。中和処理が施される場合、上記化学的が酸性条件で行われる場合は中和剤として塩基を用いることができる。塩基としては、例えば水酸化ナトリウム等を用いることができる。酵素を用いる化学的処理の場合は、スラリーへの熱水(温水)の注入などにより、スラリー温度を上げ、酵素を失活させることにより、反応を終了させることもできる。この場合の熱水の温度の下限としては、例えば90℃が好ましく、95℃がより好ましく、99℃がさらに好ましい。中和処理に施されるパルプスラリーにおけるパルプ繊維の濃度は、中和処理を効率的の行う観点から、下限としては0.1質量%が好ましく、1質量%がより好ましく、上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。
【0056】
前処理工程(s1a)においては、予備的に脱水してスラリーを原料貯留槽に送り、原料貯留槽に水を添加してスラリー中のパルプ濃度を調整することが好ましい。予備的脱水によって、原料貯留槽に送られるスラリーから簡易的に水等が除かれ、スラリーに含まれる不純物等が取り除かれる。このため、上記化学的反応が終了されたスラリーから、上記化学的反応や上記化学的反応の終了に用いられた化学的処理剤が除かれる。また、水が原料貯留槽に添加されて原料貯留槽に貯留されるスラリー中のパルプ濃度が調節されることで、上記化学的処理、予備的脱水が施されて原料貯留槽に送られたスラリー中の化学的処理剤の濃度が低下する。これらの結果、より効率的に上記脱水によってパルプスラリーから化学的処理剤を除去して上記スラリー中のパルプを洗浄することができる。
【0057】
予備的に脱水されたパルプスラリーにおけるパルプ繊維濃度は、上記脱水を効率的に行う観点から、下限としては2質量%が好ましく、4質量%がより好ましく、上限としては、19質量%が好ましく、9質量%がより好ましい。
【0058】
上記予備的脱及び水の添加がなれて水原料貯留槽に貯留されるパルプスラリーにおけるパルプ繊維濃度は、上記脱水を効率的に行う観点から、下限としては0.1質量%が好ましく、1質量%がより好ましく、2質量%がさらに好ましく、上限としては、10質量%が好ましく、7質量%がより好ましい。
【0059】
この予備的脱水に際しては、例えば「パルプ繊維前処理装置」において説明した予備的脱水装置を用いることができる。この水の添加に際しては、例えば「パルプ繊維前処理装置」において説明した水用配管を用いることができる。
【0060】
<微細化工程(s2)>
微細化工程(s2)は、前処理された上記スラリー中のパルプ繊維を機械的な処理により微細化する工程である。本工程を経ることによりセルロースナノファイバーを得ることができる。本発明のセルロースナノファイバーの製造方法によれば、前処理工程(s1)によってパルプ繊維の予備的な解繊が効果的に施されているため、本微細化工程(s2)を短縮(処理回数の低減)し、省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。
【0061】
微細化工程(s2)の機械的な処理を施す方法としては、例えば微細化装置を用いて機械的処理を施す方法が挙げられる。微細化装置は、「セルロースナノファイバーの製造装置」において説明したものを用いることができる。
【0062】
微細化工程(s2)においては、例えば一台の高圧ホモジナイザーに対して、スラリーを循環させて複数回の微細化処理を施すことができる。また、複数の高圧ホモジナイザーを用意し、連続的にパルプ繊維を処理することもできる。
【0063】
当該製造方法は、さらに粗解繊処理工程を備えることが好ましい。当該製造方法によれば、粗解繊処理工程を備えることで、化学的処理工程(s1a)と粗解繊工程(s1b)との2種類の前処理の組み合わせにより、パルプ繊維がより柔軟になり、予備的な解繊がより効率的に生じ、後工程の微細化工程のより短縮化、すなわち処理回数をより低減化し、省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。
【0064】
<粗解繊処理工程>
粗解繊処理工程は、前処理工程(s1)の一つとして、必要に応じて施される。粗解繊処理工程は、スラリー中のパルプ繊維を粗解繊する工程であり、パルプ繊維に対して予備的な解繊を行う。粗解繊処理は、粗解繊装置により行うことができるが、粗解繊装置は、上記「パルプ繊維前処理装置」において粗解繊装置として説明したものを用いることができる。なお、粗解繊処理において、粗解繊装置を用いると、処理後の分離や洗浄が不要となる点からも好ましい。
【0065】
粗解繊処理に供するパルプスラリーのパルプ繊維濃度の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。一方、この上限としては、8質量%が好ましく、6質量%がより好ましい。上記範囲のパルプ繊維濃度とすることで、パルプスラリーが好適な粘度となるため、粗解繊装置によりパルプ繊維が効率的に粗解繊される。
【0066】
当該製造方法が粗解繊処理工程を備える場合、化学的処理と粗解繊処理とは、いずれの処理を先に施してもよいが、化学的処理を先に施すことが好ましい。化学的処理及び上記粗解繊処理の順に施すことで、化学的前処理により膨潤したパルプ繊維に対して、粗解繊装置により剪断力が効率的に付与されるため、予備的な解繊の効率性を高め、消費エネルギー量を低減することができる。
【0067】
<その他の実施形態>
上記実施形態においては、パルプ繊維洗浄用配管によって上記原料貯留槽に送られて上記脱水機構によって脱水されたスラリーは、必要に応じて再度上記加熱機構、上記混合機構、上記反応槽に送られ、上記パルプ繊維洗浄用配管によって原料貯留槽に送られて、パルプ繊維の洗浄が複数回行われてもよい。また、再度上記加熱機構に送られるスラリーは、必要に応じて上記加熱機構によって加熱処理がされて混合機構に送られ、再度上記混合機構によって酸化剤、酵素及び酸の少なくとも一つが混合されて上記反応槽に送られ、パルプ繊維が化学的処理に複数回施されてもよい。このように化学的処理が複数回行われる場合は、各化学的処理は同一であっても異なっていてもよい。これらの結果、パルプ繊維前処理装置は、上記前処理をより効果的に行うことができ、セルロースナノファイバーを製造するために機械的処理の回数をより効率的に低減し、生産に必要なエネルギーをより低減することができる。化学的処理されたスラリーが予備的脱水装置によって予備的脱水されて原料貯留槽に貯留されなくてもよく、原料貯留槽で水用配管によって水が添加されなくてもよい。また、スラリー中のパルプ繊維が粗解繊装置によって粗解繊処理が施されなくてもよい。また、化学的処理機構と粗解繊装置とは、粗解繊装置が上流側、つまり化学的処理機構による化学的処理と粗解繊装置による粗解繊とのいずれが先に施されるように配設されて、化学的処理と粗解繊処理とが施されてもよい。また、粗解繊装置を例えば複数用意し、連続的にパルプ繊維を処理するように配設して粗解繊処理が施されてもよい。また、一台の粗解繊装置に対して、スラリーを循環させて複数回処理を行ってもよい。また、化学的処理と粗解繊処理とを重複して行ってもよい。例えば、酸、酵素、酸化剤等が添加されたスラリーを粗解繊処理に供することで、化学的処理と粗解繊処理とを同時に行うことができる。この場合、パルプ繊維洗浄用配管は、粗解繊装置で粗解繊されたスラリーを原料貯留槽に送るように配設され、スラリー中のパルプ繊維が洗浄されてもよい。また、改質手段、乾燥手段などが備られ、改質処理、乾燥処理等が施されてもよい。
【0068】
(ファイン率)
前処理工程を経て微細化工程に供されるパルプ繊維のファイン率の下限としては、例えば60%が好ましく、70%がより好ましく、75%がさらに好ましい。また、このファイン率の上限としては、例えば90%が好ましく、85%がより好ましい。このファイン率を上記下限以上とすることで、十分な前処理(解繊)が進んだパルプ繊維となり、微細化工程において効率的に更なる微細化を行うことができる。また、ファイン率を上記下限以上とすることで、微細化工程において高圧ホモジナイザーを用いて処理した際、パルプ繊維の流路内での詰まりの発生を低減することもできる。一方、このパルプ繊維のファイン率が上記上限以下とすることで、過剰に前処理、特に必要に応じて施される粗解繊処理を施すことを抑制することができ、製造工程全体としての、省エネルギー化及び高効率化を図ることができ、セルロースナノファイバーの生産性を高めることができる。なお、前処理工程と微細化工程との間に、パルプ繊維のファイン率を測定するファイン率測定工程を設けてもよい。ここで、「ファイン率」とは、繊維長が0.2mm以下、かつ繊維幅が75μm以下であるパルプ繊維の質量基準の割合をいう。このファイン率は、バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定することができる。繊維分析計「FS5」は、希釈したセルロース繊維が繊維分析計内部の測定セルを通過する際の画像分析により高い精度でセルロース繊維の長さ、幅を測定できる。
【0069】
このファイン率は、前処理工程、特に必要に応じて施される粗解繊処理における処理量等によって調整することができる。粗解繊処理が施される場合は、例えば、粗解繊装置による処理時間を長くすることや、例えばリファイナーによる処理の際、ディスク(プレート)の間隔(クリアランス)を狭くする、ディスクの刃幅、溝幅、刃の高さ、刃の交差角度、ディスクのパタ−ンの組み合わせなどによって、ファイン率を高めることができる。
【0070】
(平均繊維長)
前処理工程を経て微細化工程に供されるパルプ繊維の平均繊維長としては特に限定されないが、下限としては、0.05mmが好ましく、0.10mmがより好ましい。一方、この上限としては、0.50mmが好ましく、0.30mmがより好ましく、0.25mmがさらに好ましい。このような繊維長のパルプ繊維を微細化工程に供することで、製造工程全体としての省エネルギー化及び高効率化を図ることができ、セルロースナノファイバーの生産性を高めることができる。
【0071】
当該セルロースナノファイバーの製造方法は、TEMPOをはじめとしたN−オキシル化合物等の高価な酸化触媒等を使用しなくとも、機械的な微細化処理回数を減らし、省エネルギーでセルロースナノファイバーを得ることができるため、セルロースナノファイバーの製造コストを抑えることができる。また、TEMPO等を用いなかった場合、過剰な酸化が抑えられるため、得られるセルロースナノファイバーのカルボキシ基の含有量が低含される。セルロースナノファイバーのカルボキシ基の量が少ない場合、過剰な親水性や水素結合が抑えられ、乾燥性や分散性などが高まるといった利点もある。得られるセルロースナノファイバーのカルボキシ基の含有量としては、例えば0.1mmol/g以下であり、0.05mmol/g以下とすることもできる。
【課題】セルロースナノファイバーの製造に用いる装置を小型化することができるパルプ繊維前処理装置、セルロースナノファイバーの製造装置及びセルロースナノファイバーの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、セルロースナノファイバーの製造の際のパルプ繊維の前処理装置であって、パルプ繊維を含むスラリーを貯留する原料貯留槽と、上記原料貯留槽から送られるスラリーを脱水する脱水機構と、上記脱水されたスラリーを加熱する加熱機構と、上記加熱されたスラリーに酸化剤、酵素及び酸の少なくとも一つを選択して混合する混合機構と、上記混合されたスラリー中のパルプ繊維の酸化反応及び加水分解反応の少なくとも一つを進行させる反応槽と、上記反応槽で処理されたスラリーを上記原料貯留槽に送るパルプ繊維洗浄用配管とを備えることを特徴とする。