(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記イオン流れを分離する段階と前記質量スペクトル分析を実施する段階の間にイオン断片化の段階を更に備えており、前記飛行時間型質量分析部のトリガリングパルスは、飛行時間期間内の任意対のトリガリングパルスの間の固有時間間隔について時間符号化されている、請求項1に記載の方法。
前記イオン流れを分離する段階は、多重チャネルイオントラップ内での時間分離又は多重チャネルトラップパルス変換器に先行される広口径空間集束飛行時間型分離部内での時間分離を備えている、請求項1又は請求項2に記載の方法。
最も豊富なイオン種を前記飛行時間型質量分析部の空間電荷を飽和させること無く分析するために又は検出器の飽和を回避するために、イオン流れが前記第1の質量分離部を一部の時間に亘って迂回する段階と、前記イオン源からのイオン流れの一部を前記飛行時間型質量分析部へ入射させる段階と、を更に備えている請求項1から請求項3の何れか一項に記載の方法。
ダイナミックレンジを拡げることを目的として及び主要検体種を分析するために、前記多重反射飛行時間型質量分析部で、前記初期m/z範囲の原イオン流れの少なくとも一部を入射させ分析する段階を更に備えている、請求項5及び請求項6の何れか一項に記載の方法。
前記段階(e)は、一覧、即ち、(i)直線状延長RF四重極アレイからの四重極DC場によるイオン半径方向射出、(ii)直線状延長RF四重極アレイからの共鳴イオン半径方向射出、(iii)RF四重極アレイからの質量選択的軸方向イオン射出、(iv)何れも複数の環状電極間にDC電圧、RF振幅、及びRF位相を分配することによって形成されている半径方向RF閉じ込め、軸方向RFバリア、及びイオン推進のための軸方向DC勾配、を有するRFチャネルのアレイ内での質量選択的軸方向移動、(v)直交RFチャネルを通るイオンによって送給される複数の四重極トラップからのDC場によるイオン射出、のうちの1つの段階を備えている、請求項5から請求項7の何れか一項に記載の方法。
前記質量分離部アレイは、整合するトポロジーのイオンバッファ及びイオン捕集チャネルと幾何学的に整合されている、請求項5から請求項9の何れか一項に記載の方法。
前記段階(e)での粗分離は、当該段階(e)での粗分離を過ぎてのイオン捕集及びイオン移動を加速するために10mTorから100mTorのガス圧のヘリウム中に配列されている、請求項5から請求項9の何れか一項に記載の方法。
前記方法は、前記段階(e)におけるイオンの射出と、前記段階(i)におけるイオンパケットの形成との間に、追加の質量分離の段階を更に備えており、前記追加の質量分離の段階は、一覧、即ち、(1)イオントラップ又はトラップアレイからの質量依存順次イオン射出、(2)質量分析計部での質量フィルタ処理であって、前記段階(e)におけるイオンの射出と質量同期されている質量フィルタ処理、のうちの1つの段階を備えている、請求項5から請求項10の何れか一項に記載の方法。
前記多重チャネルトラップアレイは、(i)半径方向イオン射出のための四重極DC場を有する直線状延長RF四重極、(ii)共鳴イオン半径方向射出のための直線状延長RF四重極、(iii)質量選択的軸方向イオン射出のためのDC軸方向プラグを有するRF四重極、(iv)環状電極であって、半径方向RF閉じ込めと、軸方向RFバリアと、イオン推進のための軸方向DC勾配と、を有するRFチャネルを形成するように、DC電圧、RF振幅、及びRF位相が電極間に分配されている環状電極、及び(v)DC場によるRFバリアを通ってのイオン射出のために直交RFチャネルを通るイオンによって送給される四重極直線状トラップ、の群のうちの複数のトラップを備えている、請求項12及び請求項13の何れか一項に記載のタンデム質量分析計。
前記質量分離部アレイは整合するトポロジーのイオンバッファ及びイオン捕集チャネルと幾何学的に整合されている、請求項12から請求項14の何れか一項に記載のタンデム質量分析計。
【背景技術】
【0002】
頻回パルシングを有するMR−TOF
[0002]ここに参考文献として援用する米国特許第5017780号は、折り返されたイオン経路を有する多重反射飛行時間型質量分析計(MR−TOF)を開示している。イオン閉じ込めは周期レンズのセットで改善される。MR−TOFは100,000の範囲の分解度に達する。直交加速器(OA)と組み合わされた場合、MR−TOFは低いデューティサイクルを有し、大抵は1%を下る。トラップ変換器と組み合わされた場合、ショット毎のパケット当たりイオン数が1E+3イオンより上ではイオンパケットの空間電荷がMR−TOFの分解度に影響を及ぼす。MR−TOFでの1ms飛行時間を勘案すると、これは毎秒ピーク当たり1E+6未満の略極大信号に相当する。
【0003】
[0003]デューティサイクルと空間電荷スループットの両方を改善するために、ここに参考文献として援用する国際公開第2011107836号は、もはやイオンパケットをドリフト方向に閉じ込めることはせず何れの質量種もイオン反射数のスパンに対応する複数の信号によって提示されるようにした開放式トラップ静電分析部を開示している。当該方法は、OAデューティサイクルの問題とMR−TOF分析部内の空間電荷制限の問題を解決する。但し、毎秒1E+8イオンより上のイオン流束ではスペクトルの復号がうまくいかない。
【0004】
[0004]ここに参考文献として援用する国際公開第2011135477号は、同じ問題を全体としてより制御された方式で解決し且つ任意の前段分離の10μs時間分解度にまで下げた極めて高速なプロファイル記録取りを可能にする符号化頻回パルシング(EFP:encoded frequent pulsing)の方法を開示している。スペクトル復号段階は、スペクトル密集が0.1%未満であるので、タンデムMSでのフラグメントスペクトルの記録取りに十分適う。しかしながら、EFP MR−TOFが単一の質量分析計として適用されたとき、実際にスペクトルの復号は稠密な化学的バックグラウンドのせいでダイナミックレンジを1E+4未満に制限する。
【0005】
[0005]最新のイオン源は、1E+10イオン/秒(1.6nA)までを質量分析計の中へ送達する能力がある。1E+5のダイナミックレンジの信号を勘案すれば、任意の復号段階前のスペクトル密集は30−50%に迫る。先行技術のEFP法は巨大イオン流束をフルダイナミックレンジで捕捉するには向かない。
【0006】
[0006]本開示は、(a)前段の損失無しで粗い時間的質量分離の使用、質量分離されたイオン流れのガス減衰化、射出パルス間隔をMR−TOFでの最も重いイオンの飛行時間よりはるかに短くしての直交加速器の頻回パルシング、1E+10イオン/秒に上るイオン流束を取り扱うように拡張されたダイナミックレンジと寿命を有する検出器の使用、によるEFP−MR−TOFの改善を提案している。損失無しの第1カスケードの分離部は、広口径イオン移動チャネルを従えたトラップアレイであってもよいし、10−20eV未満の低衝突エネルギーで動作するソフト減衰化セル、主として表面誘起解離(SID)セル、を従えた広く開放された粗いTOF分離部を有するトラップアレイパルス式変換器であってもよい。
【0007】
包括的MS−MS(C−MS−MS)
[0007]高信頼特異的検体同定のために、タンデム質量分析計は次の様に動作し、即ち、親イオンが第1の質量分析計の中で選別され、衝突誘起解離(CID)セルの様な断片化セルの中で断片化されると、次いでフラグメントイオンスペクトルが第2の質量分析計の中で記録される。四重極TOF(Q−TOF)の様な従来式タンデム機器は、狭い質量範囲をフィルタに通す一方で他全てを拒絶する。複合的な混合物を分析する場合、複数のm/z範囲の順次分離が捕捉を緩慢にさせ感度に影響を及ぼす。MS−MS分析の速さ及び感度を上げるために、所謂、「包括的」、「並列」、又は「全質量」のタンデム型、即ち、米国特許第6504148号及び国際公開第01/15201号にはトラップTOF、国際公開第2004008481号にはTOF−TOF、及び米国特許第7507953号にはLT−TOFが記載されており、それら全てをここに参考文献として援用する。
【0008】
[0008]しかしながら、先行技術の包括的MS−MSはどれもフィルタ処理式タンデムに比べタンデムMS改善という責務を解決できず、並列MS−MSの目的を頓挫させる。複数の制限が、1E+10イオン/秒に上る全イオン流れがイオン源から入ってくる状態で動作することを許容しない。而して、第1のMSでの並列分析の利得は、MS1進入時点のイオン損失で打ち消され、全体としての感度及び速さ(主として微量成分の信号強度によって制限される)は従来のフィルタ処理式Q−TOFの感度及び速さを超越しない。
【0009】
[0009]この陳述を支持するための簡単な推定を提供する。Q−TOFでは、MS1のデューティサイクルは1%であって親質量選別の標準分解度R1=100を提供する。TOFのデューティサイクルは、R2〜50,000の分解度で約10−20%程度である。MS−MS分析での最近の傾向は、その様なレベルのR2がMS−MSデータ信頼度での実質的優位を与えることを実証しており、即ちより低いR2はTOF期間の下限を300usと設定するMS−MS向けには考慮されないはずである。而して、比較のための全体としての真価は、1E+10イオン/秒の入来イオン流れでDC=0.1%及びR=50,00である。米国特許第7507953号に説明されている例示としてのMS−MSでは、単一親イオン留分のフラグメントスペクトルを記録するのに要する時間は少なくとも1ms(親質量留分当たり3TOFスペクトル)である。R1=100の親質量分離を提供するには、走査時間は100msを下らない。単一直線状イオントラップの空間電荷容量N=3E+5イオン/サイクルを勘案すると、全体としての電荷スループットは3E+6イオン/秒である。1E+10イオン/秒の入来流れを勘案すると、米国特許第7507953号のLT−TOFの全体デューティサイクルは0.03%に等しく、それは以上に推定されたQ−TOFタンデムに比べて低い。米国特許第7507953号のタンデムは、新規性のある構成要素である直線状トラップを過ぎてのイオンを捕集するためのRFチャネルを提供してはいるものの、並列MS−MSの目的及び責務が解決されていないことから、先行の既知の解決法、即ち、空間電荷容量を拡げるためのLT、トラップを過ぎてのイオン流れを移動させるためのRFチャネル、全質量の並列記録取りのためのTOF、及び並列動作のためのトラップとTOFとのタンデム、の組合せ以上のものにはなっていない。
【0010】
[0010]本開示は、Q−TOFの様なフィルタ処理式タンデムの1つをはるかに超える効率性を有する包括的MS−MS分析の責務への解決法を提案している。以上に提案されている同じタンデム(損失無し質量分離部及びEFP MR−TOF)は更に質量分光学的カスケードの中間に断片化セルを備えている。トラップアレイの場合には、広口径減衰移動チャネルの次にイオン漏斗の様なRF収束チャネルが続いており、イオンは、例えば急速イオン移動のための抵抗性多重極で作られているCIDセルの中へ導入される。粗TOF分離部の場合には、SIDセルは遅延パルス式抽出と共に採用されている。
【0011】
[0011]提案されているMS−EFP−MRTOF及びMS−CID/SID−EFP−MRTOFタンデムは、タンデム構成要素の何れかが、分離時には1E+10イオン/秒より上、検出時には1E+9イオン/秒より上のイオン流束の取り扱いにしくじったなら、(目的を頓挫させるという)同じ問題に苦しむことになってしまう。先行技術のトラップ質量分析計も、粗TOF分離部も、TOF検出器及びデータシステムも、どれもが1E+9乃至1E+10イオン/秒のイオン流束を取り扱えないことは明らかである。新規性のある機器は、本発明の複数の新規性のある構成要素の導入を以てしか実用化されない。
【0012】
並列質量分離部
[0012]分析的四重極質量分析部(Q−MS)は、1つのm/z種を通過させ他の種全てを除外する質量フィルタとして動作する。デューティサイクルを改善するために、イオントラップ質量分析計(ITMS)はサイクルで動作しており、即ち、全m/zのイオンがトラップの中へ射入され、次いで質量的に順次放出される。質量依存イオン射出は、RF振幅の傾斜化によって、また特定の種の射出をそれらの永続運動の共鳴励起によって促す補助的なAC信号の支援を受けて、実現されている。ITMSの不都合は、遅い走査速度(走査当たり100−1000ms)と、小さい空間電荷容量―3Dトラップでは3E+3未満、直線状イオントラップでは3E+5未満―と、にある。走査当たり0.1−1秒を勘案すると、最大スループットは3E+6イオン/秒未満に制限される。
【0013】
[0013]Q−トラップ質量分析計は、反発トラップエッジを介した質量選択的射出で以て動作する。エッジバリアを越えてイオンを射出するために、直線状四重極内で特定のm/zイオンの半径方向永続運動が選択的に励起される。遅い走査(走査当たり0.3−1秒)のせいで、Q−トラップのスループットは3E+6イオン/秒未満である。MSAEトラップは、1E−5Tor真空で動作しており、それが下流のイオン捕集及びイオン減衰化を複雑にする。
【0014】
[0014]本開示は、10mTorから100mTorの高められたガス圧のヘリウムで動作し、大凡1ms時間内に広い面積(例えば10cm×10cm)からの放射イオンを捕集するようにした無線周波数トラップのアレイ(TA)を備える新規性のある質量分析部を提案している。1つの実施形態では、個々のトラップは、四重極DC場による半径方向イオン射出を有する四重極無線周波数(RF)トラップを備えた新規な型式の質量分析部である。或る実施形態では、アレイはイオンが円筒内方へ射出されるように円筒中心線上に配列されているのが望ましい。代わりに、イオン放射面は平面状か又は部分的に円筒状又は球状の何れかであってもよい。
【0015】
[0015]別の実施形態では、TAは共鳴半径方向イオン射出を有する直線状イオントラップのアレイを備えている。アレイは、一方のやり方として、円筒中心線上に配列されていて、射出されるイオンは広口径円筒状ガス減衰化セル内で半径方向にトラップされ軸方向に駆り立てられるのが望ましい。代わりのやり方では、アレイは平面内に配列されていて、射出されるイオンは広口径イオン漏斗又はイオントンネルによって捕集される。トラップアレイは、10−30mTorのガス圧のヘリウムを充填されているのが望ましい。
【0016】
[0016]実施形態の或る群では、CIDセルの様な断片化セルが、前記トラップアレイと包括的全質量MS−MS分析のためのEFP−MR−TOFの間に提案されている。
[0017]長さ10cmのチャネル大凡100個を有するトラップアレイは、サイクル当たり1E+8イオンを取り扱う能力がある。EFP法は、10us時間分解度での入来イオン流れの高速時間プロファイリングを可能にさせ、翻せばTAサイクル時間を10msまで引き下げることが可能になり、こうしてトラップアレイスループットを1E+10イオン/秒まで持ってゆく。
【0017】
抵抗性イオンガイド
[0018]高速イオン移動は、重畳された軸方向DC勾配を有するRFイオンガイド内に有効に整備される。先行技術の抵抗性イオンガイドは、薄い抵抗性膜の不安定性又はバルクフェライト内のRF抑制の様な実用上の制限に苦しんでいる。本発明は、SiC材料又はB4C材料のバルク炭素充填抵抗器を採用している改善された抵抗性イオンガイド、二次RFコイルの中央タップを介したDC供給を有する標準的RF回路を使用しながらのDC絶縁導電性トラックとの改善されたRF結合、を提案している。
【0018】
TOF検出器
[0019]二重マイクロチャネルプレート(MCP)及び二次電子増倍管(SEM)の様な現在の飛行時間検出器の大半は、1クーロンの出力電荷を数える寿命を有している。1E+6の検出器利得を勘案すると、検出器は1E+10イオン流束では1000秒も働かない可能性がある。ダリ検出器が長らく知られており、そこではイオンは金属製変換器に当たり、二次電子が静電場によってシンチレータ上へ捕集され、次に光電子増倍管(PMT)が続いている。封止されたPMTの寿命は300Cほどに高くなるかもしれない。しかしながら、検出器は、相当な時間的広がり(数十ナノ秒)を持ち込み、負の二次イオン形成のせいで偽りの信号を持ち込む。
【0019】
[0020]代わりのハイブリッドTOF検出器は、マイクロチャネルプレート(MCP)とシンチレータとPMTを順次に接続して備えている。しかしながらMCPとシンチレータはどちらも1Cに満たずに機能しなくなる。シンチレータは、サブミクロンの金属被覆の破壊に因り劣化する。単段MCPの低い利得(1E+3)を勘案すると、寿命は1E+10イオン/秒流束で1E+6秒(1月)まで延びる。
【0020】
[0021]先行技術の制限を打開するために、本開示は、改善されたシンチレータを有する等時性ダリ検出器を提案している。二次電子は、磁場によって操舵されシンチレータ上へ導かれる。シンチレータは確実に電荷が除去されるように金属メッシュによって覆われている。2つの光電子増倍管が二次光子を異なった立体角で捕集し、而して検出器のダイナミックレンジを改善する。少なくとも1つの高利得PMTは、電子雪崩電流を制限するための従来式回路構成を有している。新規性のある検出器の寿命は1E+10イオン/秒の流束で1E+7秒(1年)を上回ると推定され、而して上述のタンデムを実用化させる。
【0021】
データシステム
[0022]従来式TOF MSは、信号がTOFスタートパルスと同期された複数の波形に亘って積算される積算式ADCを採用している。データ流束は、PCへの信号転送バスの速さに整合させるべくスペクトル当たり波形数に比例して減らされる。その様なデータシステムは、弱いイオン信号は微量な種を検出するのに波形積算を要することから、自ずとTOF MSの要件に整合する。
【0022】
[0023]EFP−MRTOFでは、タンデムサイクルの間に急速に変化する波形の時間推移情報を保留すること及び(100msに上る)長い波形を記録することが必要になる。長い波形は、クロマトグラフィー分離時間に比較してもなお短い積算時間中に合算されることになろう。1秒ピークのガスクロマトグラフィー(GC)を使用している場合、積算時間は目立って短く例えば0.1−0.3秒となるはずである。而して、制限された波形数(3−30)しか積算できなくなってしまう。バス経由のデータフローを減らすためには、信号がゼロフィルタ処理されるのが望ましい。代わりに、ゼロフィルタ処理された信号が、非ゼロデータストリングが実験室時間スタンプと併せて記録される所謂データロギングモードのPCへ転送されてもよい。信号は、オンザフライ分析され、マルチコアPCか又はビデオカードの様なマルチコアプロセッサの何れかで圧縮されるのが望ましい。
【0023】
結論
[0024]提案されている解決法のセットは、1E+10イオン/秒イオン流束についてMR−TOFの高R2=100,000分解度及び高(〜10%)デューティサイクルのMS単独及びC−MS−MSを提供し、而して、様々な質量分光学的デバイスを先行技術に比べ実質的に改善するものと期待される。
【発明を実施するための形態】
【0040】
[0053]様々な図面中の同様の符号は同様の要素を表す。
一般化された方法及び実施形態
[0054]
図1をブロック線図のレベルで参照して、本発明の質量分析計11は、イオン源12と、高スループットの粗く包括的な質量分離部13と、時間分離部流れの調整部14と、頻回符号化パルス(EFP)を有するパルス式加速器16と、多重反射飛行時間型(MR−TOF)質量分析計部17と、延長寿命を有するイオン検出器18と、を備えている。CIDセル又はSIDセルの様な断片化セル15が当該調整部14と当該パルス式加速器16の間に挿入されるのは随意である。質量分析計11は、更に、差動ポンピングのための真空室とポンプと壁、段間結合のためのRFガイド、DC、RFパワー供給、パルス生成器、などの様な、複数の示されていない標準的な構成要素を備えている。質量分析計は、同様に示されていないがそれぞれの実施形態に特定の構成要素も備えている。
【0041】
[0055]本発明の高スループット質量分析計は、主として、液体クロマトグラフィー(LC)、キャピラリー電気泳動(CE)、単段又は二段ガスクロマトグラフィー(GC及びGC×GC)、の様な前段のクロマトグラフィー分離との組合せ向けに設計されているものと理解している。更に、電気スプレー(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、大気圧及び中圧光化学イオン化(APPI)、マトリックス支援レーザー脱離(MALDI)、電子衝撃(EI)、化学イオン化(CI)、又は国際公開第2012024570に記載されている条件付けられたグロー放電イオン源の様な、種々のイオン源が使用できるものと理解している。
【0042】
[0056]ここで「二重カスケードMS」と呼ばれている1つの好適な方法では、イオン源12は、広いm/z範囲内の複数種の分析対象化合物を備えるイオン流れを生成しており、ということは主要種に比べ1E−3乃至1E−5のレベルの何千もの種を形成する濃厚な化学的バックグラウンドも生じる。m/zの多様性は、源ボックス12の下に示されているm1、m2、m3によって描かれている。典型的な1−2nA(即ち、1E+10イオン/秒)イオン流は、10−1000mTorrの空気又はヘリウム(GC分離の場合)の中ガス圧の無線周波数(RF)イオンガイドの中へ送達される。連続イオン流れは粗い包括的な分離部13の中へ入射され、イオン流れ全体がイオンm/zと整列した時間分離シーケンスへ変換される。「包括的」とは、m/z種の殆どが拒絶されるのではなしにボックス14下の記号アイコン上に示されている様に1msから100msの時間スパン内で時間的に分離されることを意味する。様々なトラップアレイ分離部の様な具体的な包括的分離部(C−MS)は以下に記載されているが、具体的なTOF分離部は別個の同時係属出願の中に記載されることになっている。好適には、空間電荷制限を軽減するために、C−MS分離部は、ボックス12、ボックス13、及びボックス14につながる複数の矢印によって示されている複数のチャネルを備えている。時間分離された流れは、ボックス14の三角で記号化されている調整部14に入り、調整部14がイオン流れを低速化しその位相空間を小さくさせる。調整部は、時間分離への極僅か乃至は無視できるほどの影響しか与えないように設計されている。収束RFチャネルが後に控える広口径RFチャネルの様な様々な調整部が以下に説明されている。パルス式加速器16は、ボックス16の下のアイコンに示されている様に約100kHzの高い周波数で、随意的には符号化されたパルス間隔で以て、動作する。加速器16は頻繁にイオンパケットをMR−TOF分析部17の中へ射入する。瞬時的イオン流れはMR−TOFの狭い飛行時間間隔に対応する比較的狭いm/z範囲によって提示されるので、頻回イオン射入は、信号パネル19に示されている様にMR−TOF検出器18上のスペクトルの重なり合い無しに整備することができる。加速器の高速動作はどちらであってもよく、つまりは周期的であってもよいし、又は好適には、例えば加速器からのピックアップ信号に関わる系統的な信号の重なり合いを回避するために、EFP符号化されていてもよい。分離部13の直接的射出シーケンス(重いイオンは後に来る)が好適であり、というのは極大限の分離速さでも重なり合いが回避されるからである。分離部の速さを圧迫するのでなければ、逆射出シーケンス(重いm/zが最初に来る)も実現可能である。
【0043】
[0057]第1のMSカスケードの粗い時間分離に因り、第2のカスケードであるMR−TOFは、高い周波数(〜100kHz)及び高いデューティサイクル(20−30%)で、MR−TOF分析部の空間電荷容量に負荷を掛けすぎること無く、検出器を飽和させること無く、動作させることができる。而して、説明されている二段MS、即ち粗分離部13と高分解度MR−TOF17とのタンデムは、質量分析を、高い全体デューティサイクル(数十パーセント)で、MR−TOFの高い分解度(50,000−100,000)で、MR−TOFの拡がった空間電荷スループットで、しかも検出器18のダイナミックレンジの要件にストレスを掛けること無しに、提供する。
【0044】
[0058]1つの数値例では、第1の質量分析計部13はイオン流れを分解度R1=100で10ms時間内に分離し、即ち、単一のm/z留分は100usの間に加速器16へ到達することになり、MR−TOFでの最も重いm/zの飛行時間は1msであり、加速器は10usパルス期間で動作している。そうすると、単一のm/z留分は10パルス加速に相当することになり、各パルスは5us信号ストリングに相当する信号を生成することになる。隣接するパルス同士(大凡10usで広がる)からの信号は検出器18上で重なり合わないのは明らかである。1E+10イオン/秒のイオン流れは毎秒1E+5パルスの間で分配され、加速器(以下に説明)の現実的な効率を勘案するとパルス当たり1E+4に上るイオンをMR−TOFの中へ提供する。高速パルシングは、分析部の空間電荷制限を低め、検出器ダイナミックレンジの飽和を回避する。第1のカスケードの走査速度は、1msまで加速させることができ(例えばTOF分離部使用時)、又は100msまで低速化でき(例えば二段トラップ分離部実装向け)、しかもなお記載の原理に影響を及ぼすことはないが、但し第1の分離部が1E+10イオン/秒の所望の電荷流れを取り扱うのに十分な走査期間当たり空間電荷容量を有している場合は別であり、それについては以下の具体的な分離部実施形態の説明の中で分析されることになっている。
【0045】
[0059]二段MS11のダイナミックレンジは、二重MSモードと単一MSモードの間で交番させれば更に改善することができる。主要イオン成分の信号を記録するために、一部の時間は原イオン流れの少なくとも一部をEFPか又は標準的な加速器レジームのどちらかで動作するMR−TOF分析部の中へ直接射入させ、デューティサイクルは低くなるがそれでも主要成分についての十分に強い信号が提供されるようにしてもよい。
【0046】
[0060]別の好適な方法では、粗C−MS分離部13は、イオンm/zと整列して時間分離されたイオン流れを生成する。流れは、直接に又は調整部14を介して断片化セル15の中へ導かれる。セル15は、比較的狭い瞬時m/zウインドー内の親イオンのイオン断片化を誘導する。フラグメントイオンの流れは、好適には、流れ位相空間が小さくなるように調整され、次いでMR−TOF17の中へ100kHzの高速平均速度で動作する加速器16によってパルス射入される。加速器16のパルス間隔は任意対のパルスの間の固有時間間隔を形成するように符号化されているのが望ましい。一例として、現在のj番目のパルスの時間は、T(j)=j*T
1+j(j−l)*T
2と定義され、ここに、T
1は10us、T
2は5nsとしてもよい。符号化頻回パルシング(EFP)の方法は、ここに参考文献として援用する国際公開第2011135477号に記載されている。フラグメントイオンが広いm/z範囲内で形成されるので、MR−TOF検出器上の信号は実際にスペクトルの重なり合いを有する。検出器信号の例示的な区分がパネル20に示されており、そこには信号の2つの連なりが異なるm/zのイオンフラグメントについて示され、F1及びF2と注記されている。しかしながら、瞬時的スペクトル密集は標準的なEFP−MR−TOFに比べ実質的に低減されているので効率の良いスペクトル復号が期待される。
【0047】
[0061]親質量分解度は、所謂時間デコンボリューション手続きによって更に増加させることができることに注目されたい。現に、極めて高速なOAパルシング及び分離部13のサイクル時間に整合する持続時間を有する長いスペクトルの記録取りは、10us時間分解度を有する個々の質量成分の時間プロファイルを再構築することを実際に可能にする。次いで、フラグメントピーク及び親ピークを時間的に相関させれば、隣接するフラグメント質量スペクトルを、分離部13を過ぎての親イオン射出プロファイルの時間幅より低い時間分解度で分離できるようになる。デコンボリューションの原理はGC−MSのために60年代末期にクラウス・ビーマン(Klaus Bieman)によって開発された。
【0048】
[0062]或る数値例では、第1の分離部は、分解度R1=100及び10−100ms持続時間の時間分離されたm/zシーケンスを形成し、1ms飛行時間を有するMR−TOFは100kHz平均繰り返し率のEFPパルシングで動作し、長いスペクトルは、全体MS−MSサイクルに相当して捕捉され、クロマトグラフィーのタイミングが許せば数サイクルについて合算されてもよい。親イオンの1つのm/z留分当たりフラグメントスペクトルは、0.1−1msの間続き、加速器の10−100パルスに相当し、スペクトル復号には十分なはずである。方法は、複数の微量検体成分の分析には十分適している。しかしながら、主要検体成分については、瞬時流束は100倍にも濃縮されることがある。しかも複数のフラグメントピークの間の信号分割を勘案すれば、ショット当たり瞬時極大イオン数は検出器上で1E+4乃至1E+5イオンほどに高くなり、MR−TOF分析部の空間電荷容量及び検出器ダイナミックレンジの両方を超えてしまう。ダイナミックレンジを増加させるため、C−MS−MSタンデム11を、一部の時間の間は信号強度が抑制されるか又は時間的に広がるという交番モードで動作させてもよい。代わりに、強いイオンパケットが空間的に広がり、低い透過速度で移送されてゆくような空間電荷の自動抑制がMR−TOF分析部内に整備されてもよい。タンデム11の電荷スループット及び速さの真価は以下の説明に支えられている。
【0049】
方法の主な効果
[0063]1.二重カスケードMS法では、前段の粗い質量分離は、MR−TOFを高い繰り返し率でパルス発振することをスペクトル重なり合い形成無しに可能にさせ、而して、1E+10イオン/秒に上る大きいイオン流れを、高いデューティサイクル(20−30%)で、R2=100,000の高い全体分解度で、しかも機器の空間電荷限界及び検出器限界にストレスを掛けること無く取り扱えるようになる。明解さを期し、この動作法を「二重MS」と呼ぶことにする。
【0050】
[0064]2.包括的MS−MS(C−MS−MS)法では、タンデム質量スペクトルが、1E+10イオン/秒に上るイオン流れでの全ての親イオンについて、大凡10%のデューティサイクルで、親イオン分解度R1=100及びフラグメントスペクトル分解度R2=100,000で、しかもMR−TOF分析部の空間電荷限界にストレスを掛けること無く、検出器ダイナミックレンジにストレスを掛けること無く捕捉される。
【0051】
[0065]3.C−MS−MSのモードでは、親質量選別の分解度は、GC−MSでのデコンボリューションに似たフラグメントスペクトルの時間デコンボリューションによって更に改善することができる。二次元デコンボリューションならクロマトグラフィー分離プロファイルも勘案することになろう。
【0052】
[0066]4.二重MSとC−MS−MSの両方法は、断片化セルの入口でイオンエネルギーを調節さえすれば、また或いは加速器動作の低デューティサイクルレジームと高デューティサイクルレジームの間で切り替えさえすれば、同じ装置11内に実装させることができる。
【0053】
[0067]5.タンデム動作及びEFP法は、複数の微量検体成分をクロマトグラフィー時間尺度で検出するという目標を持って採用されている。一部の時間について同じ装置を主要成分の信号捕捉のための従来式動作方法で使用すれば、ダイナミックレンジは更に向上する。
【0054】
トラップアレイに係る実施形態
[0068]
図2をブロック線図のレベルで参照して、本発明の質量分析計21は、イオン源22と、蓄積式多重チャネルイオンバッファ23と、並列イオントラップのアレイ24と、広口径減衰RFイオンチャネル25と、RFイオンガイド26と、頻回符号化パルス(EFP)を有する直交加速器27と、多重反射質量分析計部28と、延長された寿命を有するイオン検出器29と、を備えている。随意的にイオンガイド25がCIDセルの様な断片化セルとしての機能を果たしていてもよい。質量分析計21は、更に、差動ポンピングのための真空室とポンプと壁、段間結合のためのRFガイド、DC、RFパワー供給、パルス生成器、など、の様な複数の示されていない標準的な構成要素を備えている。
【0055】
[0069]バッファ及びトラップアレイのトポロジーを異ならせた、即ち平面状23、24の配列と円筒状23C、24Cの配列に対応している、2つの実施形態21及び21Cが示されている。トラップアレイ24の平面状放射面を湾曲させて円筒状面又は球状面の一部分を形成させることもできる。円筒状配列21Cでは、トラップ24Cはイオンを内方へ射出し、円筒の内側部分は、イオン移動を軸方向DC場によって加速させるために抵抗性RFロッドを並ばせた広口径イオンチャネルとして働く。それ以外は実施形態21と実施形態21Cはどちらも同様に動作する。
【0056】
[0070]動作時、大抵は適したクロマトグラフィー分離部によって先行されるイオン源22でイオンが形成される。連続的にゆっくりと変化する(時定数はGCについては1秒、LCについては3−10秒である)イオン流れは、複数種の分析対象成分を備えており、ということは主要種に比べ1E−3乃至1E−5のレベルの何千もの種を形成する濃厚な化学的バックグラウンドも備えていることになる。典型的な1−2nA(即ち、1E+10イオン/秒)イオン流は、10−100mTorrの中ガス圧の空気又はヘリウム(GCの場合)の無線周波数イオンガイドの中へ送達される。
【0057】
[0071]連続的なイオン流れは、10mTorから100Torの中ガス圧で動作する無線周波数イオン閉じ込めを有するイオンバッファ23の複数のチャネル間に分配される。質量射出段階のより高いイオンエネルギーに耐えるようにヘリウムガスが使用されるのが望ましい。バッファ23は、イオンを連続的に蓄積し、周期的(10−100ms毎)にイオン分の大半をトラップアレイ24の中へ移動させる。イオンバッファ23は、RF単独多重極、イオンチャネル、又はイオン漏斗、などの様な、様々なRFデバイスを備えることができる。1E+10イオン/秒イオン流束を支援するには、バッファは毎100ms、1E+9イオンまでを保持しなければならない。一例として、長さ100mmの単一RF四重極は、一度に1E+7乃至1E+8イオンまでを保持することができる。而して、イオンバッファは個々の四重極イオンガイドを10個乃至は数十個有していなくてはならない。四重極ロッドは2つの同軸中心線面上に整列しているのが望ましい。四重極ロッドは、軸方向DC場による制御されたイオン射出を可能にさせるように抵抗性であるのが望ましい。同軸イオンチャネル、イオントンネル、又はイオン漏斗を採用するのがより実用的であろう。その様なデバイスは、制御されたイオン射出のための軸方向DC場を提供するための手段を備えているのが望ましい。改善された抵抗性多重極が以下に説明されている。
【0058】
[0072]トラップアレイ24は周期的にイオンをイオンバッファ23から入射させる。イオンは、複数のチャネルの間にチャネルに沿って自身の電荷により1−10ms時間内に分配されるものと予想される。トラップアレイ24が充填された後、トラップ電位は、質量依存イオン射出を整備するように傾斜化され、而してイオンがそれらのm/z比に従って順次的に射出されるイオン流れが形成される。1つの実施形態では、トラップチャネルは円筒中心線上に整列している。イオンは、RFイオン閉じ込め並びに0.1−1msの時間尺度での急速イオン排出のための軸方向DC場を有する広口径チャネル25の中へと円筒内方に射出される。RFチャネル25は収束部分を有している。トラップアレイ24及びRFチャネル25の複数の実施形態が以下に説明されている。セット全体の動作原理を論じるに当たり、トラップアレイは10−100msサイクル内で質量分解度100のイオン流れ時間分離を提供している、即ち分離された各留分は0.1−1ms時間の持続期間を有しているものと仮定しよう。
【0059】
[0073]RFチャネル25の収束部分から、イオンは、普通は差動ポンプされている室にセットアップされていて1−20mTorのガス圧で動作しているイオンガイド26の中へ入る。イオンガイド26は、抵抗性の四重極又は多重極を備えているのが望ましい。例示としてのイオンガイドが以下に説明されている。ガイドは連続的にイオンを大凡0.1−2msの時間遅延及び実質的に0.1ms未満の時間的広がりで移動させる。一例として、5V DCを用い10mTorのヘリウムで動作している10cmの多重極ガイドは、イオンを大凡1msで移動させるはずであり、それでもなお断片化を引き起こさない。狭いm/z範囲のイオンについての時間的広がりは10−20usになるものと予想される。ガイドの後には標準的(MR−TOFの場合)イオン光学器(図示せず)が続いており、当該光学器がガス圧を下げさせ30eVから100eVのイオンエネルギー(MR−TOF設計に依存)の実質的に平行なイオンビームを形成させる。平行なイオンビームは直交加速器27に入る。
【0060】
[0074]加速器27は、好適には、ここに参考文献として援用する米国特許第20070176090号に記載されている、より長いOAの使用を可能にさせるMR−TOF28のイオン経路の平面に実質的に直交の向きにある直交加速器(OA)である。MR−TOF分析部は、好適には、国際公開第2005001878号に記載されている、周期レンズのセットを有する平面状多重反射飛行時間型質量分析計である。典型的なOA長さ6−9mm(MR−TOFミラー設計に依存)及び典型的なイオンエネルギー50eVで、m/z=1000のイオンは、3mm/usの速度を有し、OAを2-3マイクロ秒で通る。現在の技術では、高電圧パルス生成器を100kHz(パルス期間10us)もの高速でパルス発振させ、OAのデューティサイクルを20−30%へ持ってゆくことができる。トラップアレイ24でのイオン分離を除外したなら、飛行時間スペクトルは激しく重なり合うことになろう。トラップ分離を勘案することで、入来するイオンビームは、狭い質量留分、即ち1000amuから1010amuを有する。MR−TOF28での典型的な飛行時間は1msであり、よって各個々のOAパルスは1msから1.005msの間の信号を生成することになるはずである。而して、OAはイオンスペクトルの重なり合いを形成させること無しに10us期間でパルス発振される。従って、第1のMSカスケードでの前段質量分離は、スペクトルの重なり合いを形成させること無しに高い繰り返し率でMR−TOFをパルス発振することを可能にさせ、尚且つOAの20−30%のデューティサイクル及びOA前の2−3倍のビーム平行化損失を勘案して、大凡10%の全体デューティサイクルが提供される。そうすると機器は、1E+10イオン/秒の入来流束及びMR−TOF検出器29上の1E+9イオン/秒イオン流束のスペクトルを10%の全体デューティサイクル及びR2=100,000の分解度で記録し、クロマトグラフィー時間での微量検体成分の検出を手助けする。
【0061】
[0075]機器22の高い(10%)デューティサイクルは、実際に、ダイナミックレンジの上限にストレスを掛ける。二重カスケードMSモードでは、最も強いイオンパケット(高濃度単一検体を仮定)は、分離部22での10倍の時間濃縮、100kHzのOA周波数、及び10%のOA動作効率を勘案すると、ショット当たり1E+6イオンにも達し得る。その様なパケットは間違いなくMR−TOF空間電荷容量及びMR−TOF検出器のダイナミックレンジに過大な負荷を掛けることになるはずである。本発明は、或る解決法、即ち、機器22が2つのモード―弱い検体成分を記録するための二重カスケードMSモード及び例えばトラップ24の装入時でのイオン流れがイオンバッファ23からRFチャネル25の中へ直接射入される標準動作モード―を支援する、という解決法を提案している。標準動作モードでは、極大イオンパケットは大凡1E+4イオン、即ちMR−TOF空間電荷容量の極限、を有しているはずである。完全に安全な動作のためには、検出器は例えば最も後のPMT段の回路を制限することによる過負荷保護を有していなくてはならない。分析部の周期レンズの強度によって制御されるMR−TOF分析部28の空間電荷反発による追加の保護層が整備されているのが望ましい。
【0062】
[0076]再び
図2を参照して、当該同じタンデム21は、例えばイオンを十分に高い(20−50eV)イオンエネルギーで抵抗性イオンガイド26の中へ誘導することによってイオン断片化を始動させる場合の包括的MS−MSとして動作させることができ、この様にすれば有効にCIDセルへ転換させることができる。動作時、狭いm/z範囲の時間分離された親イオン流れ(例えば正味500amuにつき5amu及び正味1000amuにつき10amu)は、大凡0.1−1msの時間内にCIDセル26に入る。質量ウインドーは、同位体群の幅より僅かに広い。群は断片化セルに入り、例えば衝突解離によってフラグメントイオンを形成する。フラグメントは連続的にOA26に入る。OAは、国際公開第2011135477号に記載のEFPモードで動作されている。かいつまめば、パルス間隔は、非均一時間シーケンスで符号化されており、例えば、T1=10us及びT2=10nsを典型としてTi=i*T1+i(i+l)/2*T2の様に符号化されている。フラグメントスペクトルは重なり合うが、任意の特定の対のピーク同士の重なり合いは系統的に繰り返されない。普通の型式のTOFスペクトルが、スペクトル復号段階で、パルス間隔を勘案しピークの連なり同士の間の重なり合いを分析しながら回復される。フラグメントスペクトルについてスペクトル密集性が制限されているために、EFPスペクトル復号は有効なものになる。結果として、フラグメントスペクトルは、全ての親種について、親分解能R1〜100、フラグメント分解能R2〜100,000、大凡10%の全体デューティサイクルで、しかも1E+10イオン/秒に上るイオン流束を取り扱いながらに、記録される。
【0063】
[0077]C−MS
2法のダイナミックレンジを推定してみよう。1E+10イオン/秒の総イオン流束、主要検体成分での10%以下の信号分(主要成分を見るならC−MS−MSの必要性はない)、分離部23での100倍の時間圧縮、OA27の10%の全体デューティサイクル(OA前の空間イオン損失も勘案)、及びOAの100kHzのパルス繰り返し数を勘案すると、極大イオンパケットは1E+4イオンまでを含んでいよう。その様な強いイオンパケットは、MR−TOFではより低い分解度で記録されることになろう。しかしながら、MR−TOFの質量精度は、パケット当たり1E+4イオンまでは持ち堪えることが知られている。MR−TOF分析部内での自己空間電荷反発による強信号の自動抑制のために周囲レンズ電圧を下げることによって追加の保護が設定されてもよい。強信号を捕まえるには、第1の分離部23の分解度(ひいては信号の時間的濃縮)が周期的に下げられてもよい。そうすると1E+9イオン/秒の入来イオン流束に相当する化合物についての極大信号を記録することができる。最小信号を推定するに当たり、総フラグメントイオン信号が検出器で親当たり1E+3より上の場合、匹敵するQ−TOF機器は情報性のあるMS−MSスペクトルを得るものと勘案する。そうすると1秒当たりのダイナミックレンジは、秒当たり主要捕捉信号1E+8と微量記録スペクトル1E+3イオンの比であるDR=1E+5と推定される。総体的なダイナミックレンジ、即ち最も小さい同定種当たりの総信号の比は、Int−DR=秒当たり1E+6であり、一度に一親イオンの選別によって追加のオン損失が引き起こされるQ−TOFの様なフィルタ処理式タンデムに比べ約2桁高い。
【0064】
[0078]以上の説明は、1E+10イオン/秒の流束を取り扱うトラップアレイの能力を仮定している。既存のイオントラップは、1E+6乃至1E+7イオン/秒より上のイオン流束を取り扱えない。大凡100分解度を存続させながらもイオン流束を増加させるために、本発明は、幾つかの新規性のあるトラップ解決法を提案しており、それらを説明した上でトラップアレイを考察する。
【0065】
四重極DC射出を有するRFトラップ
[0079]
図3を参照して、四重極DC射出を有する新規性のあるトラップ31が分解度R1〜100での粗い質量分離向けに提案されている。トラップは、Z方向に引き伸ばされた平行な電極32、33、34、35を有する直線状四重極、並びにZ方向の静電イオントラッピングのためのエンドプラグ37、38を備えている。電極32は、トラップ軸Zと整列しているスリット36を有している。エンドプラグ37、38は、アイコン39の軸方向DC分布によって示されている様に数ボルトDCによってバイアスの掛けられている電極32−35の区分であるのが望ましい。代わりのやり方ではエンドプラグはDCバイアスの掛けられた環状電極である。トラップは10mTorrから100mTorrの間の圧力のヘリウムを充填されている。
【0066】
[0080]RF信号及びDC信号の両方がアイコン40に示されている様に印加されて、四重極RF場及びDC場を形成させており、即ち1つの位相(+RF)及び+DCが電極33と電極35から成る1つの対へ印加され、反対の位相(−RF)及び−DCが電極32と電極34から成るもう1つの対へ印加されている。二重極電圧バイアスVBが1つの対になった電極間即ち電極32と電極34の間に印加されるのは随意である。電極対の間にRF及びDC差を作り出すために信号の各型式が別々に印加されることもあり得るものと理解している。一例として、RF信号がDC=0で電極33及び電極35に印加され、その一方で−DC信号を対である32及び34へ印加することもできる。
【0067】
[0081]1つの実施形態では電極は放物線状である。別の実施形態では、電極は丸いロッドであって、その半径Rは内接するトラップ半径R
0に対してR/R
0=1.16の関係にある。代わりの実施形態では、比R/R
0は1.0から1.3の間で変わっている。その様な比はRF場とDC場の両方での弱い八重極成分を提供する。更に別の実施形態では、トラップは1つの方向に伸ばされており、即ち弱い二重極及び六重極場成分を導入するためにX方向のロッドとY方向のロッドの間の距離が異なっている。
【0068】
[0082]トラップ31装置の電極配列は、例えばここに参考文献として援用する米国特許第5420425号に記載されている共鳴射出(LTMS)を有する従来式直線状トラップ質量分析計を思い起こさせる。それら装置の相違は、主としてイオン射出のための四重極DC場の使用にあり、パラメータの差―長さ(100−200mm対LTMSでの10mm)、例外的に高いヘリウム圧力10mTorr乃至100mTor対LTMSでの1mTor―における分解度に対するより低い要件(R=100対LTMSでの1000−10,000)が理由である。本方法は、採用されているイオン射出メカニズムにより、走査方向により、及び動作レジームにより異なる。LTMSはRF振幅を走査し永続運動の励起のためにAC電圧を印加しているが、新規性のあるトラップ21は質量依存半径方向RF閉じ込めとは相反する四重極DC場による質量依存射出を提供している。或る意味では、動作レジームは四重極質量分析計の動作と似ており、透過質量ウインドーの上側の質量境界はDC四重極場とRF有効電位の間のバランスによって画定される。但し、四重極は極度の真空で動作し、それらは通過してゆくイオン流れを分離し、動作は永続運動不安定性を発現させることに基づいている。対照的に、新規性のあるトラップ21は、トラップされたイオンに関して動作し、RF微動を抑制するように十分に小さいが永続運動を部分的に減衰させるには十分に大きい而して共鳴効果を抑制するには十分に大きい高められたガス圧で動作する。高められた圧力は、主として、トラップの中への入射時のイオン減衰化を加速させ、ひいては射出されたイオンの捕集、減衰、及び移動を加速させるように選定されている。
【0069】
[0083]
図4Aを参照して、四重極及び様々なトラップの動作レジームが、軸U
DC及び軸V
RFで示されている従来の安定性線
図41に示されており、ここにU
DCは電極対間DC電位であり、V
RFはRF信号のピークツーピーク振幅である。イオン安定性領域42、43、及び44は、3通りのイオンm/z、即ち、極小m/z集団M
min、例示としての中間m/zであるM、極大m/zの集団M
max、について示されている。作用線45は四重極フィルタの動作に対応している。線は、安定性線
図42−44の先端を突っ切っており、而して単一のm/z種の透過及び他のm/z種の排除を提供している。線46は、特定の固定q=4Vze/ω
2R
02MでのAC励起によるイオンの永続運動の共鳴励起を勘案した上でのLTMSの動作に対応している。励起q値は、RF周波数とAC周波数の比によって定義される。RF信号の線形立ち上げの結果としてトラップは小さいイオンを先に、より重いイオンを次に射出し、これは「直接走査」と呼ばれている。
【0070】
[0084]四重極場の有効電位井戸は、D=Vq/4=0.9V
RFM
0/4Mであることが知られており、ここにM
0はq〜0.9での最も低い安定質量である。方程式は、有効なバリアが質量依存であり質量に反比例して降下することを示している。而して、小さいU
DCでは、より重いイオンは四重極DC場によって射出され、一方、小さいイオンは停留することになる。DC電位を立ち上げてゆくと、イオンは、より重いイオンが先に離れてゆく所謂逆走査式に順次射出されることになる。トラップ動作の原理は、DCバリア及びRFバリアから構成される総バリアDをD=0.9V
RFM
0/4M−U
DCと考えると理解することができ、何れかの所与のU
DCで、M<M
*=4U
DC/(0.9V
RFM
0)を有するイオンについては正であり、M>M
*については負となる。四重極では、RF場成分及びDC場成分はどちらも、半径に比例して上昇し、而して安定している(より低い質量の)トラップイオンと不安定な(より高い質量の)トラップイオンの間の境界は当該同じM
*に留まる。質量留分当たり0.1msに対応する例示としての走査速度では、安定イオンは全体バリアD>10kTe〜0.25Vでは射出されないはずであり、というのはイオン射出の速度が大体(1/F)*exp(−De/2kT)であるからであり、ここにFはRF場周波数、kTは熱エネルギー、eは電子の電荷である。方程式はRF場のイオン運動エネルギーが静電場に比べ2倍であると勘案している。而して、トラップ分解度はボルトで表すことができる。25VのDCバリアについては、推定分解度はR1=100である。同時に、DCバリアを通り越すイオンの運動エネルギーはDCバリアの高さに匹敵する。イオン断片化を回避するために、トラップはヘリウムガスで動作しており、質量エネルギーの中心はM
He/低Mの因数である。モデルは空間電荷効果の単純推定を可能にさせる。トラップ分解度は、熱エネルギーの空間電荷電位に対する比2kT/U
SCに比例して降下すると予想される。大空間電荷での有効トラップ分解度はR〜U
DC/(U
SC+2kT/e)として推定することができる。
【0071】
[0085]説明の最後の部分は、イオン光学シミュレーションの結果を提示しており、DC電圧を1V/ms乃至5V/msの速度で傾斜化させたとき、m/z=100を有するイオンとm/z=98を有するイオンについての時間プロファイルは20VのDC電圧で十分に分離される。HWFM分解度は100程度であり、非常に単純な分離モデルであることを裏付ける。
【0072】
[0086]
図4Aを参照して、新規性のあるトラップ41は、走査線47、又は走査線48、又は走査線49に沿って動作する。最も単純な(但し光学的ではない)走査49では、RF信号は固定され(定V
RF)、一方、DC信号は立ち上げられる。RF振幅は、最も低い質量がRF場の断熱イオン運動について0.3−0.5を下回るqを有するように選定される。イオン射出時のあまりに高いエネルギー及びイオン断片化を回避するためには、走査線49によって示されている様に定U
DCでRF振幅を下げるのが望ましい。最も高い質量分解度については、RF信号及びDC信号共に線48に沿って走査されるべきである。その様な走査は、タンデムをC−MS−MSモードで使用する場合に選定され、イオン断片化は何れにせよ所望される。
【0073】
[0087]
図4Bを参照して、イオン光学シミュレーションの結果を説明すると、6mmの内接直径を有する四重極トラップは、次のパラメータ、即ち、U
DC[V]=0.025*t[us]、V
RF(0−P)[V]=1200−1*t[us]、二重極電圧+0.2V及び−0.2V、に沿って動作される。ヘリウムの動作ガス圧は0mTorから25mTorまでで変えられている。
【0074】
[0088]上列は、m/z=1000及び950を有するイオンについての時間プロファイル(左)、及びm/z=100及び95を有するイオンについての時間プロファイル(右)を示している。典型的なプロファイル幅は0.2−0.3msであり、20ms走査で得ることができる。20という質量分解度は総飛行時間の1/40を有する質量範囲の選択に対応している。イオン射出の効率は1に近い。イオンは、5度から20度までで変わる質量依存角度スパン内で射出される(中列のグラフ)。運動エネルギーは、1000amuイオンについては60eVまで、100amuイオンについては30eVまでとなろう。その様なエネルギーは、ヘリウム内のソフトイオン移動にとってなお安全である。
【0075】
[0089]当該同じトラップはLTMSと同様の共鳴イオン射出のレジームで動作させることもできるが、但し、トラップアレイを使用していること、はるかに高い空間電荷負荷で動作すること、はるかに大きいガス圧(LTMSでの0.5−1mToヘリウムに比べ10−100mTor)で動作すること、より小さい質量分解度ではあるがより高速に稼働すること、が標準的なLTMSとは異なる。
【0076】
[0090]
図4Cを参照して、イオン光学シミュレーションの結果を説明すると、直線状トラップは、僅かに伸ばされた幾何学形状を採用しており、1つの電極対間距離は6.9mm、他の電極対間距離は5.1mmであり、大凡10%八重極場に相当する。印加信号は図面中に注記されており、即ち、(a)1MHz及び450V
0−pRF信号が垂直方向に離間されているロッドへ適用され、RF振幅は10V/msの速度で走査されてゆき、(b)二重極DC信号+1VDC及び−1VDCが水平方向に離間されている電極間に印加され、(c)70kHz周波数と1V振幅を有する二重極AC信号が水平方向に離間されているロッド間へ印加されている。上側のグラフは、1000amuを有するイオンと1010amuを有するイオンの共鳴射出での2つの時間プロファイルを示している。逆質量走査は大凡300質量分解度に対応するが、総RF立ち下げ時間は大凡30−40msである。下側のグラフから分かる様に、イオンは20度以内の角度で射出され、それらの運動エネルギーは0eVから30eVの間で広がり、なおヘリウムガスでのソフトイオン捕集を可能にさせる。
【0077】
軸方向RFバリアを有するトラップ
[0091]
図5を参照して、軸方向RFバリアを有するトラップ51は、開口又はスリット53の整列された複数のセットを有するプレート52のセットと、k*RFと注記されている位相及び振幅を有する二次RFコイルからの複数の中間出力を有するRF供給54と、幾つかの調節可能な出力U1...Unを有するDC供給55と、抵抗性分割器56と、を備えている。アイコン57での例示としてのプレート上RF分布によって示されている有効な軸方向RFトラップを形成しながら急勾配の半径方向RFバリアを形成するために、隣接するプレート52の間に交番振幅又は交番位相を形成するように、二次コイルの中間点と終点から取られた両位相のRF信号がプレート52へ印加される。トラップは入口バリア及び出口バリアによって囲まれており、入口RFバリア58は出口バリア59より低くなっている。抵抗性分割器からのDC電位は、軸方向駆り立てDC勾配と二次に近い軸方向DC場の組合せをRFトラップ57の領域中に作り出すように、メガオーム範囲の抵抗器を介してプレート52へ接続されている。而して、軸方向のRFバリア及びDCバリアは四重極に形成されるものに似ており、少なくとも原点近くではそうである。トラップは、10−100mTorのガス圧範囲のガスを充填されている。
【0078】
[0092]動作時、RF位相が交番され軸方向駆り立てDC電圧がプレート52へ印加されている状態のRFチャネルに沿ってイオン流れがやって来る。トラップを充填するためにDC電圧54aは下げられる。次いで電位54aが電位54cより上に上昇されてトラップ領域57内に軽い二重極場を作り出す。次に、電位54bが立ち上げられて軸方向への順次的質量射出を誘導する。点54aと点54bと点54c間の抵抗分割器の部分は二次に近い電位分布を形成するように選択されている。こうして質量依存イオン射出は
図4の四重極トラップについて説明されているのと類似のメカニズムによって起こる。
【0079】
[0093]次の同様のトラップが、下流のRFチャネルの十分なガス減衰化区分後に配列されている。複数のトラップがRFチャネルに沿って順次に配列されていてもよい。複数の順次的なトラップは空間電荷効果を低減させるものと期待される。実際に、より狭いm/z範囲のフィルタ処理後、次のトラップはより小さい空間電荷負荷で動作することになるはずであり、而してトラップ分解度が改善されることになる。広範な時間分布を有する複数の収着事象が狭い相対時間広がりdT/Tを有する時間プロファイルを確かに形成しているガスクロマトグラフィーでのピーク形状先鋭化と同様に、トラップ分解度の「先鋭化」のために複数のトラップを配列させることもできる。
【0080】
側方イオン供給を有するハイブリッドトラップ
[0094]
図6を参照して、中ガス圧10−100mTorでの近四重極RF及びDC場の平衡対立という同じ原理を使用した更に別の新規性のあるトラップ即ちハイブリッドトラップ61が提案されている。トラップ61は、RFチャネル62と、四重極ロッド63−65と、射出スリット66を有するロッド65と、を備えている。RFチャネル62はロッドセット63−65に直交の向きにあり、当該RFチャネルはアレイ端への交番RF信号(0及び+RF)及び静電電位U
1及び静電電位U
2を供給される抵抗性ロッドで形成されている。チャネルの軸での有効RFはRF/2である。RF信号はロッド63及びロッド64へも印加される。調節可能なDCバイアスU
3が、イオン射出、ラッピング、及びスリット66を介しての質量依存射出の制御のためにロッド62へ提供される。
【0081】
[0095]動作時、イオン流れはRFチャネル62を通ってやって来る。チャネルは、交番RFに因りイオン流れを放射状に保留する。チャネルが軸方向DC勾配U
1−U
2による制御された軸方向運動のために抵抗性ロッドで形成されるのは随意である。チャネル62は、ロッド63―64及び4番目の「開放ロッド」の役を務めるチャネルによって形成されているトラッピング領域67と連通している。チャネル62の軸上の正味RFはRF/2である。ロッド65上のRF信号はゼロであり、RFはロッド63及びロッド64へ印加されているので、RFトラップが原点付近に出現しており、当該トラップは一方の側である入口(チャネル62へ接続されている)側で歪みが激しいが、とはいえトラップ原点付近にはなお近四重極場を存続させている。U
3を十分に高く調節することによってトラッピングDC場を整備することによりイオンはトラップ61の中へ射入される。ガス衝突でのイオン減衰(10mtorヘリウムで大凡1−10msかかる)の後、DCバリアは、入口側で高く即ちU
2>U
3となり出口側で小さくなるように調節される。次いでロッド63及びロッド64のU
2+U
3で構成されている四重極DC電位は、イオンを出口に向けて押し出す二重極DC勾配を作り出すように立ち上げられる。RFバリアは、より小さいイオンにとってはより広いので、より重いイオンが最初にトラップを離れることになり、而して逆順にイオンm/zと整列して時間分離された流れを形成させる。RF/DCトラップ31及び51に比べ、トラップ61はトラップの充填がより速いという利点を有するが、四重極場の歪みがより大きいためにトラップ61の分解度は若干低くなるものと予想しておいたほうがよい。
【0082】
トラップの空間電荷容量及びスループット
[0096]長さL及び半径rを有するイオンの円筒を密集電荷濃度nで閉じ込めるトラップを仮定してみよう。空間電荷場E
SCは、円筒内で、E
SC=nr/2ε
0で増大し、而してイオン円筒面上にU
SC=q/4πε
0Lに等しい空間電荷電位を形成する。トラップ分解度に及ぼす空間電荷の影響を最小限にするには、空間電荷電位U
SCは2kT/eより下でなくてはならない。そうするとイオンリボン長さLはL>N/(8πε
0KT)でなくてはならず、ここにNは保存素電荷の数である。トラップの中央値走査時間を10msと仮定して、1E+10イオン/秒のスループットを存続させるには、トラップは、N=1E+8に上る電荷を保持しなくてはならず、イオンリボン長さはL>3mでなくてはならない。提案されている1つの解決法は並列動作トラップアレイを配列することである。提案されている別の解決法は、多段(少なくとも二段)トラップを配列することであり、第1のトラップを総電荷に関し低い分解度で動作させ、相対的に狭い質量範囲を第2段のトラップへ回すようにすれば、第2段のトラップは僅かな空間電荷で動作して順次的質量射出の分解度をより高めるはずである。
【0083】
二段トラップ
[0097]
図7を参照して、二段トラップアレイ71は、順次的に連通しているイオンバッファ72と、第1のトラップアレイ73と、イオンエネルギー減衰化のためのガスRFガイド74と、第2のトラップアレイ75と、空間的閉じ込めRFチャネル76と、なおいっそう狭い質量範囲の同期通過のための随意的な質量フィルタ77と、を備えている。
【0084】
[0098]動作時、瞬時的に選別される質量範囲が線
図78に示されている。イオンバッファは、広いm/z範囲のイオンを連続式又はパルス式の何れかのモードで射入する。トラップ73とトラップ75はどちらも、イオン流れが直接か又は逆の何れかのm/zシーケンスに整列して時間的に分離されるような同期化された質量依存イオン射出を目指して配列されている。第1のトラップ73は、主としてイオン分のより高い空間電荷によって生じる、質量選択的射出のより低い分解度で動作する。トラップサイクルは、10msから100msの間で調節される。イオン源(図示せず)からの1E+10イオン/秒にも上るイオン流れを勘案すると、第1のトラップアレイ73は大凡1E+8乃至1E+9のイオンを充填される。全体トラップ電気容量を減らすために、トラップは長さ100mmのチャネルを大凡10個有している。より悪い場合の空間電荷電位は1mの全体イオンリボン当たり1E+9イオンに対応する1E+10イオン/秒での100msサイクルについて1.5Vと推定される。15−50VのDCバリアについては、第1のトラップの分解度は10から30の間と予想される。結果として、トラップ73は30−100amuのm/zウインドーのイオンを射出してゆくはずである。射出されたイオンはガス衝突で減衰され、次いで追加のより細かな分離のための第2のトラップアレイ75の中へ射入されることになる。第2のトラップの空間電荷は10−30倍低いと予想される。空間電荷電位は、0.05V乃至0.15Vになるはずであり、即ち大凡100というより高い分解度での質量射出を可能にさせる。二重トラップ配列はトラップの全体電気容量を抑えるのに助けとなり、というのも同じ効果が、単段トラップの場合には100個のチャネルを要し容量をより大きくしてしまうのに比較して個々のトラップチャネル20個で達成されるからである。イオンが閉じ込めRFチャネル76に閉じ込められその中で減衰されたら、分析四重極の様な随意的質量フィルタ75が第2のトラップアレイに加えて又はその代わりに使用されてもよい。質量フィルタ77の移動質量範囲は、上流のトラップ又は二重トラップによって透過される質量範囲に同期される。
【0085】
[0099]二重トラップ配列にあってさえ、1E+10イオン/秒に上る高い電荷スループットは複数のチャネルを形成するトラップアレイでしか実現させることはできない。
トラップアレイ
[0100]電荷スループットを改善するために、トラップアレイの複数の実施形態が提案されている。実施形態は、次の主な事項、即ち、製造の簡便性、個々のトラップチャネルの間の達成可能な精度及び再現性、トラップ全体電気容量の歯止め、イオン射入及び射出の簡便性及び速さ、イオン移動デバイスへのトラップ結合の効率性、差動ポンピングシステムの制限、を考慮して設計されている。
【0086】
[0101]トラップアレイは、
図3−
図7に説明されている新規性のあるトラップで構成されていてもよいし、同様に、Sykaらにより米国特許第5420425号に記載されている共鳴イオン射出を有するLTMSの様な順次イオン射出を有する従来式イオントラップ、米国特許第6504148号のHagerらによって記載されている共鳴半径方向イオン励起による軸方向イオン射出を有するトラップ、で構成されていてもよい。従来式トラップは、より高い〜10mTorガス圧で但しそれらの分解能を或る程度落として動作するように修正されることになろう。
【0087】
[0102]トラップアレイを過ぎてのイオンの効率の良い高速なイオン捕集のために、数通りの幾何学構成が提案されている。
[0103]出口ポートを平面上か又は緩く曲がった円筒状又は球状の面に配置させた軸方向射出イオントラップの平面状アレイであり、平面状アレイには、広口径RFイオンチャネルが続き、次にRFイオン漏斗が続いており、トラップアレイを過ぎてのイオン移動を加速するようにDC勾配がRFチャネル及びRF漏斗へ印加される。
【0088】
[0104]出口スリットを平面上か又は緩く曲がった円筒状又は球状の面に配列させた半径方向射出トラップの平面状アレイ。平面状アレイには、広口径RFイオンチャネルが続き、次にRFイオン漏斗が続いており、トラップアレイを過ぎてのイオン移動を加速するようにDC勾配がRFチャネル及びRF漏斗へ印加される。
【0089】
[0105]円筒内方を臨む射出スリットを有する円筒面上に配置されている平面状アレイ。イオンは広口径円筒状チャネル内で捕集され、減衰され、及び移動される。
新規性のある構成要素の機械的設計
[0106]
図8を参照して、例示としてのトラップアレイ81(
図2に24Cとして示されてもいる)は、円筒中心線上に整列している複数の同一の直線状四重極トラップによって形成されている。電極の形状は、単一工作物から、放電機械加工によって、埋め込み型曲線電極82Cを有する外側円筒82、複数の内側電極83、及び複数の埋め込み型曲線電極84Cを有する内側円筒84を形成することによって実現されている。組立体は、セラミックの管形状又はロッド形状のスペーサ85を介して一体に保持されている。埋め込み型電極82C及び84Cは、放物線、円、又は三角形の形状であってもよい。内側円筒84は、幾つかの機械加工溝86を全長EDM製法によるスリット87と整合させて作られている、構造的リッジ86Rと交互配置の複数のスリット86を有している。特徴的なサイズは、内接半径3mm、24個のトラップ即ち15度毎に1トラップを形成する場合の中心直径120mm、及び長さ100mm、である。内側領域は、10−100mTorの範囲にあるヘリウムのガス圧に依存して数ボルトから数十ボルトまでの全体電位降下の伴う軸方向DC場を有する多重極を形成するように抵抗性ロッド88が並べられている。
【0090】
[0107]
図9を参照して、例示としての組立体91が、更に、円筒状トラップ81を取り囲むモジュール向けに提示されている。完全組立体の図は組立体の詳細を示すアイコンを贈呈されている。イオン源(図示せず)は、多重極92mか又は入口ポート92pを通っている加熱されたキャピラリー92cの何れかを介して組立体91と連通している。イオン入口ポート92pは、イオンを封止されたイオンチャネル93の中へ射入するようにトラップ軸に直交に設置されていてもよい。ガスは、イオンチャネル93とリペラ電極94の間のギャップ94gを通してポンプされていてもよい。チャネル93は交番RF信号及び多段イオン漏斗95の中へのイオン移動のためのDC電圧分割器を供給されており、当該多段イオン漏斗95は薄いプレートで個々の開口をプレート間で可変にして作られており、而して、円錐状に拡がる部分95e、次の随意的な円筒状部分95c、そして更にトラップ81のチャネルと整列する複数の円状チャネル95rへと発散しているイオンチャネルが形成されている。多段イオン漏斗95は更に軸方向中心RFチャネル95aを有しているのが望ましい。イオン漏斗95の内側軸方向部分95aを支持するために接続リッジが使用されていてもよい。複数の開口を有する最後のリング96は、イオン通門のための調節可能なDC電圧が供給されていてもよい。イオン漏斗の円状チャネル95rは、整列していて、上述されているトラップ81の個々のチャネルと連通している。イオン捕集チャネル97は、RF信号及び軸方向DC信号の両方を供給されている抵抗性ロッド88と、静電リペラプレート97pと、で形成されている。抵抗性ロッド88は無機接着剤によってセラミック製支持部88cへ接着されていてもよい。イオンは、抵抗性ロッド88を過ぎて閉じ込めイオン漏斗98によって捕集され、抵抗性多重極99の中へ通される。随意的に、イオン漏斗98は、DC勾配と組み合わされた半径方向RF閉じ込めのための収束抵抗性ロッドのセットで置き換えられてもよい。提示されている設計は通常の機械加工を使用してトラップアレイを構築する1つの実施可能な手法を示している。・・・ものと理解している。
【0091】
[0108]
図10を参照して、例示としての抵抗性多重極イオンガイド101(
図2に26又は
図8に88として示されてもいる)は、抵抗性ロッド106と、二次コイル103及び104の中央タップ102を介して接続されているDCを有するRF供給と、を備えている。随意的に、DC信号は、示されている様に、平滑化RC回路を有するスイッチ105によってパルス発振されていてもよい。ロッド106は、導電性エッジ端子107を備えている。ロッド106の外側の(イオンに曝されない)面(aide)は、RF結合の改善のために上に導電性トラック109を有する絶縁被覆108を備えているのが望ましい。ロッドは、隣接するロッド間の交番RF位相供給に因る多重極を形成するように設置されている。等しくエネルギー供給されるロッドの群が2つあるので、
図10の電気回路図は2つの極のみを示している。
【0092】
[0109]ロッド106は、US resistors Inc.社又はHVP Resistors Inc.社から市販されている炭素充填バルクセラミック抵抗器又はクレイ抵抗器で作られているのが望ましい。代わりのやり方では、ロッドは、焼結方法に依存して1−100Ohm*cmの抵抗範囲を提供することが知られている炭化ケイ素又は炭化ホウ素で作られている。直径3mmから6mmで長さ100mの個々のロッドの電気抵抗は、100Ohmから1000Ohmの間で、(a)大凡10VのDC降下でのパワー放散と(b)大凡5−10kOhmである反応抵抗Rc〜1/ωCに相当する10−20pF範囲のロッド当たり浮遊容量に因るRF信号サギングの間の最適折衷に適うように選定される。より高いロッドインピーダンスを使用するために、RF結合は、電極106の外側(イオンに曝されない)面のDC絶縁厚肉金属化トラック109を1つの(任意の)エッジ端子107へ結合しロッド106から絶縁層108によって絶縁させることによって改善することもできる。その様な導電性トラック及び絶縁体は、例えば、一例としてAremco Co.社から市販されている絶縁性及び導電性の無機接着剤又は糊を用いて作ることができる。抵抗性ロッドは、長く知られているRF回路を使用してRF信号及びDC信号を供給されており、DC電圧は複数の二次RFコイル103及び104の中央タップ102を介して供給される。トラップ81のイオンライナーとして抵抗性ロッド88を使用する場合、イオンガイドの全体容量(0.5−1nF)はRFドライバ構築での懸案事項となる。共鳴RF回路は、ICP分光法の場合と同じくパワーのあるRF増幅器或いは真空管さえ採用することができる。
【0093】
[0110]先行技術の抵抗性ガイドである、イギリス特許第2412493号、米国特許第7064322号、米国特許第7164125号、米国特許第8193489号は、ロッドに沿ったRF信号を抑制し貧弱な抵抗直線性及び再現性を有するバルクフェライトか又は中ガス圧での大きいRF信号時の偶発的放電によって破壊されかねない薄い抵抗性膜の何れかを採用している。本発明は、再現性のある丈夫で均一な抵抗性イオンガイドであって、その上広い温度範囲でも安定しているイオンガイドを提案している。
【0094】
[0111]ガイド101の機械的設計は、接地又はEDM機械加工ロッドの精密整列のために、また熱膨張衝突を回避するために、金属のエッジクランプを使用していてもよい。代わりに、ロッド88は
図8に示されている様に無機糊によってセラミック製ホルダ88cへ接着されていてもよく、その場合、1つのホルダは固定され、もう1つのホルダは軸方向に整列しているが、熱膨張衝突を回避するように直線的に浮動されている。好適には、ロッドは、直径3mmまでの誤差の少ないロッド作製を可能にさせる精密整列のためにセンターレス研削されているのが望ましい。
【0095】
[0112]
図8から
図10の組立体の説明されている設計は、個々のチャネルのアレイと連通する平面状、曲線状、円錐状、又は円筒状のイオンチャネルを有するハイブリッド型イオンチャネル及びガイドを形成している記載の要素の複数の他の特定の構成及び組合せを形成することを可能にさせるものと理解している。それら特定の構成は、個々のデバイスの所望パラメータ、例えば、空間電荷容量、イオン移動速度、組立体の精度、絶縁の安定性、電極の電気容量、など、に基づいて最適化されるものと考えている。
【0096】
長寿命TOF検出器
[0113]既存のTOF検出器は、出力電荷1クーロンと測定される寿命によって特徴付けられている。1E+6の典型的な利得を勘案すると、これは進入1E−6Cに相当する。而して、検出器寿命は、1E+9イオン/秒のイオン流束ではたった1000秒(15分)である。前の単段MCPにシンチレータが続き次いでPMTが続いて成るハイブリッド検出器は市販されている。自身の実験では当該検出器は約10倍長く働き、ということはなお十分ではない。ハイブリッド検出器はシンチレータの上の1ミクロンの金属被覆の破壊が理由で劣化する。本発明は、検出器寿命の改善を、
(a)シンチレータを、静電電荷を表面から除去するための導電性メッシュによって覆うこと、
(b)金属製変換器を高イオンエネルギー(大凡10kEV)で二次電子の磁気的操舵と組み合わせて使用すること、及び(c)信号をイオンチャネルの中へ捕集するための異なる立体角を有する二重PMTを使用するとともに下流の拡大段での能動的信号カットオフのための回路をPMT内に設定すること、によって実現させて提供している。
【0097】
[0114]
図11を参照して、2種類の改善されたTOF検出器111及び112は複数の共通の構成要素を共用している。両検出器111と112は、シンチレータ118と、シンチレータを被覆しているメッシュ117と、反射性被覆を有する光子透過性パッド119と、好適には大気側に配置されている少なくとも1つの光電子増倍管120と、を備えている。異なる立体角で光子を捕集するように2つの光電子増倍管120が採用されているのが望ましい。実施形態111及び112は、電子変換へのイオンの種類によって異なり、即ち、検出器111は、30ガウスから300ガウスの間の磁場及び表面に沿って向きのある磁力線を有する磁石114Mを備えた金属製変換器表面114を採用している。検出器112は単段マイクロチャネルプレート115を採用している。
【0098】
[0115]動作時、4−8keVエネルギーのイオンのパケット113が検出器111に近づいてゆく。イオンビームは、例えば示されている単純な3電極システム内の、U
D電位とそれより負のU
C電位の間の数キロボルトの差によって加速される。大凡10keVエネルギーのイオンが金属製変換面114に当たり、二次電子を主に運動的放射によって生成する。高エネルギーのイオン射突が何らかの表面汚染を引き起こすことは殆どない。特別設計の変換面とは違って平板金属面(ステンレス、銅、ベリリウム銅、など)は劣化することがない。二次電子は、より負のU
C電位によって加速され、磁石114Mの30ガウスから300ガウスの間(好適には50−100ガウス)の磁場によって操舵されてゆく。二次電子は、軌道116に沿って窓の中へ導かれ、シンチレータに当たる。
【0099】
[0116]シンチレータ118は、St. Gobain(scintillators@Saint-Gobain.com)によるBC418シンチレータ、BC420シンチレータ、又はBC422Qシンチレータ、又はZnO/Ga(http://scintillator.lbl.gov/E.D.Bourret−Courchesne,S.E.Derenzo,and M.J.Wever.超高速シンチレータとしてのZnO:Gaの開発、の様な、1−2nsの応答時間を有する高速シンチレータであるのが望ましい。物理学研究における原子力機器及び方法、セクションa―加速器、分光計、検出器、及び関連機材、601:358−363、2009年(Nuclear Instrument & Method in Physics Research Section a-Accelerators Spectrometers Detectors and Associated Equipment, 601: 358-363, 2009))。静電帯電を回避するために、シンチレータ118は導電性メッシュ117によって覆われている。シンチレータの前面は、パス中の如何なる低速電子も回避されるように及び電子対光子利得が改善されるように、大凡+3kVから+5kVの正電荷に保持されているのが望ましい。典型的なシンチレータ利得は、1kV電子エネルギー当たり10光子であり、即ち、10kV電子が大凡100の光子を生成するものと予想されている。光子は等方的に放射されるので、それら光子の30−50%のみが下流の増倍管に到達することになり、ということは典型的な380−400mm光子波長で大凡30%の量子効率を有することになると予想される。結果として、単一の二次電子がPMT光電陰極に大凡10の電子を生成するものと予想される。PMT利得は個々のイオンの検出について大凡1E+5へ引き下げることができる。ハママツによるR9880の様な封止されたPMTは、MR−TOF分析部の技術的真空で動作するTOF検出器に比べ、出口で約300C程度のはるかに長い寿命を有しながらも1−2nsの高速応答時間を提供することが可能である。総利得1E+6での出力電荷300Cはイオン電荷0.0003Cに相当する。検出器の寿命は、更に、(a)PMTの小さい容量に因り実施可能となることとして1−10kOhm範囲のより大きい抵抗器で動作しながらより小さいPMT利得、例えば1E+4、を使用すること、及び(b)二次電子116当たり10PMT電子までは標準的なTOF検出器に比べはるかに(2−3倍)狭い信号高さ分布を提供するので、なおいっそう小さい利得で動作すること、によって改善することができる。検出器進入総電荷として測定される検出器111の寿命は、0.0003クーロンから0.001クーロンの間と推定される。
【0100】
[0117]検出器のダイナミックレンジ、また同様に検出器の寿命を延ばすためには、2つのPMTチャネルを採用して、光子捕集の立体角によって制御されたPMT1とPMT2の間の10−100倍の感度差で信号を検出させるようにするのが望ましい。低感度(例えばPMT2)チャネルは、極めて強い信号(3−5nsの持続時間のイオンパケット当たり1E+2乃至1E+4イオン)を検出するのに使用することができる。短いイオンパケットのなおいっそう高い強度は、MR−TOF分析部での強いイオンパケットの自身の空間電荷の空間的広がりによって防止されることになる。高感度チャネル(例えばPMT1)の飽和を回避するために、PMT−1はダイノード段当たり電荷パルスの自動的歯止めのための能動的保護回路を備えているのが望ましい。代わりのやり方では、長い伝搬時間及び狭い時間的広がりを有するPMTが使用され(ハママツによるR6350−10同様)、上流のダイノードで電荷を感知する能動抑制回路を使用できるようにしている。ダイナミックレンジの改善は10倍と推定され、寿命の改善は、能動的抑制回路の効率に依存して10倍から100倍である。
【0101】
[0118]再び
図11を参照して、実施形態112は実施形態111に比べ若干劣っておりより複雑であるが、二次電子経路中の追加の時間的広がりを回避し、シンチレータの低速蛍光の抑制効果を可能にさせる。動作時、イオンパケット113は、100−1000利得で動作するマイクロチャネルプレート115に当たる。二次電子116は、静電帯電を除去するためのメッシュ117によって覆われたシンチレータ118上へ導かれる。前MCP面をMR−TOFの加速電位(−4kV乃至−8kV)に保ったまま、0kVから+5kVの電位U
SCをメッシュ117へ印加することによって、電子は5−10keVエネルギーへ加速されるのが望ましい。結果として、単一のイオンがPMT光電陰極上に1000乃至10,000の電子を現出させるはずである。高速蛍光の強い信号とは対照的に、低速蛍光はPMT光電陰極上に単電子を現出させてゆくはずであり、その様な低速信号は抑制され得る。それ以外は検出器112は以上に説明されている検出器111と同様に動作する。検出器112の寿命を推定するために、MCP利得=100と仮定しよう。そうするとMCP出力総電荷は1E−6Cより下であり、入力総電荷は0.001クーロンを下回る。
【0102】
[0119]新規性のある両検出器は、入力電荷0.001クーロンに達する長寿を提供する。MR−TOF検出器への1E+9イオン/秒(1.6E−10A)に上る極大イオン流束を勘案すると、新規性のある検出器の寿命は、6E+6秒、即ち2000時間、即ち稼働時間1年を上回る。検出器は、更に、大気側での軽費用PMTの高速置き換えを可能にさせる。而して、新規性のある検出器は、TOFMSの高いイオン流速向けの類を見ない新規なタンデムを動作させることを可能にする。
【0103】
[0120]本明細書は多くの詳細を含んでいるが、これらは本開示の範囲又は特許請求されるものの範囲への限定ではなく、むしろ本開示の特定の実施形に固有の特徴の記述であるものと解釈されたい。本明細書中に別々の実施形に照らして記載されている一部の特定の特徴は、更に、組み合わせて単一の実施形に実装することもできる。逆に、単一の実施形に照らして記載されている様々な特徴は、同様に、複数の実施形に別々に又は何らかの適した部分的組合せで実装することもできる。また、特徴は特定の組合せで作用するものとして以上に記載されているかもしれないし、更にはそういうものとして冒頭に特許請求されているかもしれないが、特許請求されている組合せからの1つ又はそれ以上の特徴は、場合によっては、当該組合せから削除されることもあり得るし、また特許請求されている組合せは、部分的組合せ又は部分的組合せの変型へ向けられてもよい。
【0104】
[0121]同様に、動作は図面では特定の順序に描かれているが、このことは、その様な動作が示されている特定の順序で又は連続した順序で遂行されること、又は所望の結果を実現するのに例示されている動作全てが遂行されること、を要求しているものと理解されてはならない。一部の特定の状況では、マルチタスク処理及び並列処理が有利であるかもしれない。また、上述の実施形態の様々なシステム構成要素の分離は、その様な分離が全ての実施形態で要求されているものと理解されてはならず、また、記載のプログラム構成要素及びシステムは、概して、一体に単一のソフトウェア製品に統合することもできるし、又は複数のソフトウェア製品へパッケージ化することもできるものと理解されたい。
【0105】
[0122]以上、数多くの実施形を説明してきた。とはいえ、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく様々な修正がなされる余地のあることが理解されるであろう。従って、他の実施形は、付随の特許請求の範囲による範囲内にある。例えば、特許請求の範囲に列挙されている行為は、異なった順序で遂行され、なおも所望の結果を実現させることができる。