(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244043
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】非接地電力線センサを用いた電圧測定方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
G01R 19/00 20060101AFI20171127BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20171127BHJP
G01R 15/16 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
G01R19/00 A
H02J13/00 301D
G01R15/16
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-561333(P2016-561333)
(86)(22)【出願日】2015年2月26日
(65)【公表番号】特表2017-516983(P2017-516983A)
(43)【公表日】2017年6月22日
(86)【国際出願番号】US2015017721
(87)【国際公開番号】WO2015156915
(87)【国際公開日】20151015
【審査請求日】2016年12月9日
(31)【優先権主張番号】14/621,696
(32)【優先日】2015年2月13日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/976,191
(32)【優先日】2014年4月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】599138308
【氏名又は名称】フォスター−ミラー・インク
(74)【代理人】
【識別番号】100110711
【弁理士】
【氏名又は名称】市東 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100078798
【弁理士】
【氏名又は名称】市東 禮次郎
(72)【発明者】
【氏名】ミーカー,デイビッド,シー
(72)【発明者】
【氏名】カウンター,ブライアン,エム
【審査官】
永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−300735(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0183522(US,A1)
【文献】
特開2000−341882(JP,A)
【文献】
特開昭63−198879(JP,A)
【文献】
特開2011−122939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 19/00
G01R 15/16
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力線の各相に非接地センサを配置し,前記センサを用いて各相の電圧を測定し,前記各相の測定電圧を収集装置に伝送し,前記収集装置に測定対象の電力線に接続した変圧器から動力を供給し,前記収集装置に収集装置の供給電圧を測定する電圧測定回路を設け,前記収集装置の供給電圧に基づいて各相の代替的電圧測定値を取得し,前記何れかの相のセンサ検出電圧が代替的電圧測定値から所定値以上逸脱しているときを検出してなる非接地電力線センサを用いた代替的電圧測定方法。
【請求項2】
請求項1の方法において,前記センサ検出電圧に対する代替的電圧測定値の比率を用いて電圧に関する測定値を修正してなる非接地電力線センサを用いた代替的電圧測定方法。
【請求項3】
請求項1の方法において,何れかの相のセンサ検出電圧が代替的電圧測定値から逸脱した時刻を記録してなる非接地電力線センサを用いた代替的電圧測定方法。
【請求項4】
請求項1の方法において,前記電圧測定回路により収集装置の供給電圧を低電圧に変換し,その低電圧を更にデジタル信号に変換してなる非接地電力線センサを用いた代替的電圧測定方法。
【請求項5】
請求項4の方法において,前記電圧測定回路によりデジタル信号を調べてなる非接地電力線センサを用いた代替的電圧測定方法。
【請求項6】
請求項1の方法において,前記各相の代替的電圧測定値の取得に,前記収集装置の各相の較正係数に基づいて前記収集装置の測定した供給電圧の大きさを変更する処理を含めてなる非接地電力線センサを用いた代替的電圧測定方法。
【請求項7】
請求項6の方法において,前記収集装置の各相の較正係数を,前記非接地センサの較正の際に電力線の各相の相電圧を測定することにより決定してなる非接地電力線センサを用いた代替的電圧測定方法。
【請求項8】
電力線の各相に配置する複数の非接地センサ,及び前記各相のセンサ測定電圧を入力すると共に測定対象の電力線に接続した変圧器経由で動力を供給し且つその供給電圧を測定する電圧測定回路を含む収集装置を備え,前記収集装置により,前記測定した供給電圧に基づいて各相の代替的電圧測定値を算出し,前記何れかの相のセンサ検出電圧が代替的電圧測定値から所定値以上逸脱しているときを検出してなる電力線の電圧測定システム。
【請求項9】
請求項8のシステムにおいて,前記収集装置により,前記センサ検出電圧に対する代替的電圧測定値の比率を用いて電圧に関する測定値を修正してなる電力線の電圧測定システム。
【請求項10】
請求項8のシステムにおいて,前記収集装置により,前記何れかの相のセンサ検出電圧が代替的電圧測定値から逸脱した時刻を記録してなる電力線の電圧測定システム。
【請求項11】
請求項8のシステムにおいて,前記収集装置により,前記収集装置の各相の較正係数に基づいて前記収集装置の測定した供給電圧の大きさを変更することにより前記各相の代替的電圧測定値を算出してなる電力線の電圧測定システム。
【請求項12】
動力源である電力ラインの供給電圧を測定する電圧測定回路,電力線の各相に配置された非接地センサからの各相の電圧信号を受信する受信器,記憶された各相の較正係数,及び処理装置を備え,前記処理装置により,前記電力ラインの供給電圧と較正係数とに基づいて電力線の各相の代替的電圧測定値を算出し,前記受信した各相の電圧信号が代替的電圧測定値から逸脱しているか否かを監視してなる電力線測定用の収集装置
【請求項13】
請求項12の装置において,前記処理装置により,前記センサ検出電圧に対する代替的電圧測定値の比率を用いて電圧に関する測定値を修正してなる電力線測定用の収集装置
【請求項14】
請求項12の装置において,前記処理装置により,前記何れかの相のセンサ検出電圧が代替的電圧測定値から逸脱した時刻を記録してなる電力線測定用の収集装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力センサ及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願について,米国特許法第119条,第120条,第363条,第365条,及び米国特許法規則第1.55条及び第1.78条に基づく2015年2月13日提出の米国特許出願第14/621,696による優先権を主張し,その出願は米国特許法第119条,第120条,第363条,第365条,及び米国特許法規則第1.55条及び第1.78条に基づく2014年4月7日提出の米国特許出願第61/976,191による優先権を主張する。この両出願を参照により引用して本明細書に組み込む。
【0003】
非接地電力線センサは,中電圧電力線の地面との間の電圧を,例えばセンサ上の金属板と地面との間の容量結合を介して測定する。通常の条件下では正確な電圧測定が可能であるが,氷や雪が積もるとセンサと地面との間の容量結合が変化するため電力線の電圧測定値に誤差が生じる。
【0004】
このように,この種の容量性の電圧センサでは氷雪の影響が問題となる。例えば,特許文献1は氷雪の影響を小さく抑えることを目的したシステムについて開示し,特許文献2はそのシステムの改変について開示している。また特許文献2は,センサ全体を大きな単一の電圧センサ板とした態様を開示している。これらの特許文献を参照により引用して本明細書に組み込む。ただし,これらの特許文献の解決方法では,積雪(積氷)が大きくなるとセンサの有効表面積が変化し,測定された電圧の不要な減少ではなく,むしろ不要な増加を招くので,依然として氷雪の影響を受ける可能性がある。
【0005】
従来において,氷雪の堆積に起因する非接地センサ(中性の接続点のないセンサ)の電圧測定値の誤差の低減に完全に成功した技術は未だ開発されていない。
【0006】
氷雪の影響に対する完全な耐性を得るための1つの典型的な解決手法は,各相の電力線に有線で直接接続された比較的大型で重い変圧機器(トランス)を用いる方法である。計器用変圧器(PT)は,電力線電圧を測定しやすい低電圧(典型的には約120Vrms)に降圧するために用いられる。この低電圧を測定してPTの巻数比を乗じることにより,各相の電力線と中性点との間の電圧を検出できる。変流器(CT)は,電流を測定するために用いられる。監視対象の電力線を変流器の一次側鉄心に一回巻き付け,二次側鉄心に二次コイルを複数回巻き付け,二次コイルを短絡させるか又は極小さい抵抗で駆動させる。二次側は一次側電圧から絶縁されており,二次側電流はCTの巻数比(所定比例係数)に応じて電力線上の電流に比して遥かに小さい値(且つ比例した値)となる。その後,PT及びCTに搭載された商用計測器(例えばITRON Quantum Q1000)により電圧,電流,電力等を測定する。しかし,この解決手法は高価であり,導入のために手間がかかる。
【0007】
【特許文献1】米国特許第4689752号明細書
【特許文献2】米国特許第4795973号明細書
【特許文献3】米国特許第6677743号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2014/125354号明細書
【0008】
【非特許文献1】”Power Quality Application Guide”,Copper Development Association,インターネット(URL://tinyurl.com/nffewr8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の1つの目的は,一態様において,非接地電力線センサを,その上に堆積する氷雪の影響を受けにくくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明において好ましくは,電圧低下の発生時を検出すると共にその低下を緩和するため,システムのデータ収集装置の動力供給電圧から入手できる電力線電圧の代替的な推定を用いる。この推定により,不利な天候条件の影響を受けにくく,測定性能の低下を小さく又は完全に抑えたシステムとすることができる。
【0011】
本発明は,好ましくは地面に対する電力線の電圧を測定する非接地電力線センサ(給電線メータ,FT)に適用する。このセンサは,電力線の電流をも測定し,電力線から動力を取り出して作動する。また,このセンサは電圧と電流との組み合わせから有効電力及び無効電力の流れを算出し,積分により実効電力量及び無効電力量を算出し,ボルト時(ボルト*アワー)及びアンペア時(アンペア*アワー)を算出することができる。
【0012】
本発明の適用可能なセンサの一例は特許文献3に記載されたものであり,特許文献3を参照により引用して本明細書に組み込む。また,装置の他の一例は特許文献1に示されたものであり,特許文献1を参照により引用して本明細書に組み込む。
【0013】
本発明は,一態様において上述した目的を達成するものであるが,他の態様において上述した全ての目的の達成を必要としないものであり,上述した目的を達成できる方法や構造に限定されるものではない。
【0014】
他の態様において本発明は,非接地電力線センサを用いた代替的な電圧測定方法を提供する。測定対象の電力線に接続した変圧器経由で動力を供給する収集装置を設け,その収集装置の供給電圧を測定する電圧測定回路を収集装置に含め,その収集装置の供給電圧を電力線の各相の代替的電圧測定値を算出するために用いる。非接地センサを介して検出された1次電圧測定値は,典型的にはセンサ導入時に,それ以前の各相−中性点(地表)間の直接的な電圧測定値によって較正される。各相−中性点間の電圧測定値は,収集装置の供給電圧と非接地電力線センサの測定対象の中電圧電力線の電圧との間の関係を較正するためにも用いる。各相の較正係数を,それ以降の収集装置の供給電圧値の評価のために用いることにより,各相の代替的電圧測定値が得られる。
【0015】
何れかの相のセンサ検出電圧が代替的電圧測定値から所定値以上逸脱しているときは,1つ又は複数の方策を採ることができる。一実施例では,何れかの相のセンサ検出電圧が代替的電圧測定値から逸脱したときを単に検出するように収集装置を構成する。他の実施例では,電圧の逸脱を検出すると共に,センサ検出電圧に対する代替的電圧測定値の比率を用いて電圧に関する測定値を修正するように収集装置を構成する。
【0016】
好ましくは,電圧測定回路により収集装置の供給電圧を低電圧に変換し,その低電圧を更にデジタル信号に変換する。電圧測定回路は,そのデジタル信号を調べて収集装置の供給電圧を決定することができる。好ましくは,電圧測定回路により収集装置の供給電圧をアナログ・デジタル変換器(ADC)に適合可能な低電圧に変換する。アナログ・デジタル変換器を含むマイクロ制御装置により,そのように調整された電圧を調べて収集装置の供給電圧を決定することができる。
【0017】
各相の代替的電圧測定値を取得する工程には,収集装置の各相の較正係数に基づいて収集装置の測定した供給電圧の大きさを変更する処理を含めることができる。収集装置の各相の較正係数は,非接地センサの較正の際に,電力線の各相の相電圧を測定して決定することができる。
【0018】
望ましい態様において本発明は,電力線の電圧測定システムを提供する。電力線の各相に非接地センサを配置し,各相のセンサ測定電圧を収集装置に入力する。収集装置は,測定対象の電力線に接続した変圧器経由で動力を供給し,その収集装置の供給電圧を測定するように構成する。また収集装置は,その収集装置の測定した供給電圧を用いて各相の代替的電圧測定値を算出し,何れかの相のセンサ検出電圧が代替的電圧測定値から所定閾値以上逸脱したときを検出するように構成する。
【0019】
好ましくは,収集装置を,センサ検出電圧に対する代替的電圧測定値の比率を用いて電圧に関する測定値を修正するように構成し,それに代えて又は加えて,何れかの相のセンサ検出電圧が代替的電圧測定値から逸脱した時刻を記録するように構成する。
【0020】
望ましい他の態様において本発明は,動力源である電力ラインの供給電圧を測定する電圧測定回路と,電力線の各相に配置された非接地センサからの各相の電圧信号を受信する受信器とを備えた電力線測定用の収集装置を提供する。収集装置の内蔵プログラムは,供給電圧と電力線の各相の相電圧との間の較正係数を,それ以前の各相−中性点(地表)間の電圧測定値によって導き出す。収集装置は,導き出した各相の較正係数を記憶し,その記憶した較正係数に基づいて電力線の各相の代替的電圧測定値を算出する。また収集装置は,電力線の各相に配置したセンサから受信した各相の電圧信号が代替的電圧測定値から逸脱しているか否かを監視する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
以下,添付図面を参照して本発明による好ましい実施例を説明する。当業者であれば,以下に説明する好ましい実施例及び添付図面に基づき,他の目的,構成,及び効果に想到することができるであろう。
【
図1】は,非接地センサの一実施例を三次元で図式的に示した正面図である。
【
図2】は,電力線に適用した3つのセンサを示す説明図である。
【
図3】は,センサの電圧測定回路の一例の図式的説明図である。
【
図4】は,氷雪が上部に堆積したセンサの説明図である。
【
図5】は,電圧測定値の経時変化と天候の影響による低下を示すグラフである。
【
図6】は,本発明によるシステムの主要な構成を示す図式的説明図である。
【
図7】は,電圧測定回路を有する
図6の収集装置のブロック図である。
【
図8】は,セットアップ装置(較正装置)の一例を示す説明図である。
【
図9】は,
図8のセットアップ装置を稼働する,例えばタプレットPC上のプログラムの説明図である。
【
図10】は,本発明の一例による較正プログラム(アルゴリズム)の主要な処理ステップを示す流れ図である。
【
図11】は,
図10に続く氷雪堆積検出プログラム(アルゴリズム)の主要な処理ステップを示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は,以下に開示する好ましい実施例としてだけでなく,他の態様での実施が可能であり,様々な態様で実施することができる。従って,本発明の適用対象は,以下において説明され又は図面において描かれる詳細な構成や構成要素の組み合わせに限定されるものではないことを理解すべきである。以下において単独の実施例が説明されたとしても,本発明はそのような実施例に限定されるわけではない。また,特定の排除,限定,放棄を明示する明らかで説得的な証拠がない限り,本発明は限定的に解するべきではない。
【0023】
図1は,本発明に適用可能な電力線センサの一例を示す。図示例のセンサ10は,設置後に現場でセンサが較正されていれば,通常の条件下で±0.5%の精度で電圧を正確に測定する。
図2は,典型的な設置状況を表し,3台のセンサ10a,10b,10cが中電圧三相電力給電線(電力線)の各相に1台ずつ取り付けられることを示している。各センサは,近くの電柱に設置した収集装置12と無線通信可能である。また
図2は,給電線のB相と中性点(地表)との間に取り付けられた単相変圧器(トランス)14を示している。変圧器14は,収集装置12が必要とする120Vの動力を供給する。
【0024】
各センサは,
図3に一例を示す図式的回路を用いて電圧を測定する。
図3に示すキャパシタンスC0のように,電圧センサの本体底部のセンサ板16a,16bと地表との間には容量性インピーダンスが存在している。キャパシタンスC0の大きさは,典型的には10
−12ファラッドのオーダーである。
図3に示す検出回路17は,このキャパシタンスにより,電力線18とセンサ坂16の表面との間に往復して流れる極小さい電流を測定する。この電流は,電力線と地表との間の電圧の尺度となる。検出した電圧はマイクロ制御装置20に入力し,マイクロ制御装置20が電圧信号を処理して無線通信によりデータ収集装置12(
図2参照)に伝える。各センサは図示例に限定されず,他の電圧センサ装置又は回路を用いることも可能である。
【0025】
図示例のセンサは,通常高い精度で電圧を示すものの,一定の天候条件により電圧の精度が低下しうる。とくに,氷雪がセンサ上に堆積しうることが問題となる。
図4は,氷雪30が堆積した特定の場合を表しており,雪がセンサ10から滑り落ちてセンサの片側のセンサ板16aを覆った場合を示している。このような氷雪の配置は,センサと地表との間のキャパシタンスC0を減少させ,
図3の検出回路17における検出電圧の降下として現れる。
【0026】
このような氷雪の発生期間中は,
図5に示すようなセンサによる測定電圧が現れる。氷雪がセンサ上に積み上がり,センサの片側を覆うようになると,符号32で示すように測定電圧が降下する。氷雪の一部が崩れ落ちるとセンサの測定電圧は一時的に回復するが,更に多くの氷雪がセンサ坂の表面を覆うようになると氷雪の影響が大きくなる。全ての氷雪がセンサから滑り落ちることで,ようやくセンサの通常の機能が回復する。
【0027】
一態様において本発明は,データ収集装置の供給電圧の測定値を代替的電圧測定値として用い,その代替的電圧測定値を,氷雪による電圧誤差の存在を確認するために利用し,更に氷雪による誤差を修正するために利用することができる。本発明では,
図6に示すように収集装置12の動力を変圧器14経由で供給することが望ましく,その変圧器14を地表19と給電線センサ10aの測定対象である給電線の何れかの相18aとに接続することが望ましい。収集装置12に動力を供給する単相変圧器14は,給電線(電力線)上の中電圧を扱いやすい約120Vrmsに低減する。収集装置12の供給電圧は,収集装置に動力を供給する変圧器14の変圧比によって,給電線18a上の電圧に関連付けられている。
【0028】
本発明は,収集装置12に特別な回路を追加し,収集装置の供給電圧を測定する機能を追加する。すなわち,この機能のため,収集装置12に電圧測定回路を追加する。収集装置の一例のブロック図を
図7に示す。収集装置の供給電圧32を電圧調整回路42に送り込む。電圧調整回路42には,約120Vの供給電圧をアナログ・デジタル変換器(ADC)で測定可能な数V程度の低電圧に低減できるように,分圧器及びオペアンプ・バッファを含めることが望ましい。最初に実施する場合は,差動オペアンプLTC1992に基づく回路を用いることができる。
【0029】
電圧調整回路42の出力信号は,収集装置のマイクロ制御装置44に組み込まれたアナログ・デジタル変換器で繰り返し測定される。その原型の一例であるテキサスインスツルメンツ社製のマイクロ制御装置MSP−430は,16ビットのアナログ・デジタル変換器(ADC)が組み込まれており,2048Hzのレートでサンプリングする。次いで,マイクロ制御装置44の内蔵プログラムにより,TrueRMS(二乗平均平方根)型フィルタ処理が適用される。そのフィルタ処理の原型の一例は,測定信号を二乗し,ローパスフィルタを通し,その結果の平方根を出力する。この測定プロセスの結果として,氷雪により影響されない収集装置の供給電圧の測定値が得られる。
【0030】
マイクロ制御装置44は,
図7に示す2.4GHzのISMバンド(産業科学医療用バンド)無線装置64を介して
図2に示すセンサ10とも通信可能であり,センサ10から電圧,電流,電力,エネルギーの測定値を取得する。マイクロ制御装置44は,センサの測定値及び収集装置の供給電圧測定値を共に,内蔵のLinux(登録商標)オペレーティングシステムで駆動されるマイクロ処理装置62に送る。マイクロ処理装置62の内蔵プログラムにより,センサからの各相の電圧測定値に対して,較正の際に決定された比例係数を適用する。また,収集装置の供給電圧測定値に対して,同様に較正の際に決定された収集装置の各相の較正係数を適用することにより,各相の代替的電圧測定値を生成する。マイクロ処理装置62の内蔵プログラムは,各相の代替的電圧測定値とセンサ電圧測定値とを対比して氷雪の影響を検出し,氷雪状況の様々な測定値を記録し,それに代えて又は加えて,氷雪状況の様々な測定値を修正する。マイクロ処理装置62は,収集データを内部で記憶するために安全デジタル(SD)記憶カード72を使用することができ,収集データをデータ最終需要者(例えば産業制御(SCADA)システム)に伝送するためにイーサーネット装置66,900MHzのメッシュ無線装置68,又は無線LAN(WiFi無線)装置70を使用することができる。図示例の収集装置12の電圧測定回路は,上述した態様で収集装置の供給電圧を測定するように実装されているが,他の態様で実装することも可能である。好ましい他の実施例では,電圧調整回路42とマイクロ制御装置44とマイクロ処理装置62とだけを含む構成とする。
【0031】
収集装置の供給電圧測定値と,対応する電力線18aの相−中性点(地表)間の電圧測定値(
図6のセンサ10a,10b,10cで測定される各相電圧)との間の正確な比例関係は,必ずしも予め知られていなくてもよい。
【0032】
しかし,その場合は,電力線にセンサを配置する導入処理の1ステップとして,電力線配置センサ(例えば
図6のセンサ10a)による各相の電圧測定値を現場で較正する較正処理を設ける。この処理は,センサ較正処理の一部分として,収集装置の供給電圧の大きさを変更して各相の代替的電圧測定値が生成されるように修正することができる。好ましくは,
図10のステップ100に示すように,この実施例において
図8に示す高速の軸付きセットアップ装置(較正装置)50を用い,電力線の3相の各々について各相−中性点間の正確な電圧と位相角とを測定する。
図9に示す自動セットアッププログラム52は,近くのタブレットPC(図示せず)で起動されるものであり,収集装置10及びセットアップ装置50と無線通信することにより,収集装置の測定値とセットアップ装置の測定値とを1秒以下の精度で同期させる。セットアップ装置の一例は特許文献4に記載されたものであり,特許文献4を参照により引用して本明細書に組み込む。
図10のステップ102において,センサによる各相の電圧測定値と,時間的に同期されたセットアップ装置による各相−中性点間の電圧測定値とを比較することにより,ステップ104において,各センサの相電圧のための較正係数を取得・決定することができる。センサの較正係数は,収集装置に記憶し,それに代えて又は加えて,各センサに記憶することができる。
【0033】
その後,使用時に,収集装置の供給電圧から引き出した供給電圧を電力線電圧と同期させながらサンプリングし,上述したセットアッププログラムと同様の自動セットアップ処理を用いて,セットアップ装置による各相の各相−中性点間の電圧測定値に合わせて収集装置の供給電圧の大きさを変更することにより,各相の代替的電圧測定値を生成する。較正時において各センサの測定した較正用電圧はVcal_a,Vcal_b,Vcal_cである。次いで,各センサから通知される測定電圧に対応する信号はVma,Vmb,Vmcである。センサの較正係数fa,fb,fcは,較正用電圧Vcalと測定電圧Vmとの相違に基づき取得・決定され,センサ毎に(センサ自体又は収集装置に)記憶する。収集装置の各相の較正係数ga,gb,gcは次式により決定され,次式においてVcsは,
図10のステップ106に示すように収集装置の供給電圧の二乗平均平方根(RMS)である(
図10のステップ108参照)。
【0035】
図10のステップS110において,収集装置の各相の較正係数を収集装置に記憶する。各相の代替的電圧測定値は,
図11のステップ120において測定された収集装置の供給電圧の大きさを次式にように変更することにより取得・決定される(
図10のステップ122参照)。
【0037】
図7のマイクロ制御装置44に示すように,この演算処理を実現するために,マイクロ制御装置,処理装置,集積回路用プログラム,プログラム可能なゲートアレー(FPGA),同様の基盤上のコンピュータ・デバイス,又は通信のためのコンピュータ・デバイス等がプログラムされている。
【0038】
収集装置の検出回路からの供給電圧測定値は1つであり,測定対象の電力線の3相のうちの何れかと直接的に対応するものでしかないが,その供給電圧は3相全ての代替的電圧測定値のための拠り所として十分な精度で用いることができる。国際標準の一例(例えばEN−50160,IEC−1000−3−xシリーズ)によれば,給電線の各相間の不均衡は2%以下に抑えることが規定されているので(非特許文献1参照),何れか1相の電圧測定値は,誤差2%以下の高い精度で他の相の電圧の代理となりうる。
【0039】
代替的電圧測定値が一旦取得・決定されれば,その代替的電圧を用いて電圧測定値の劣化条件(例えば氷雪の堆積)を判定することができる。専門用語を容易にするため,各相に配置したセンサにより測定され,センサ較正係数を用いて訂正された各相の電圧測定値をVphaseと表すこととし,較正の際に収集装置の供給電圧から引き出された関連する代替的電圧測定値をValtと表すこととする。そうすると,
図11のステップ124に示すようにVphaseを監視することにより,電圧測定値の劣化条件を検出することができ,各相の電圧と代替的電圧測定値との間に顕著な逸脱があるか否かを判断することができる。例えば,
図7のマイクロ制御装置44(或いは他の処理装置,又は収集装置の制御装置等)において次のプログラム(疑似コード)を採用することにより,劣化条件を検出することができる。次の疑似コードにおいて,bSnowはブール代数の変数を表し,TRUEのときに電圧測定条件の劣化が存在していることを示し,FALSEのときに電圧測定条件が正常であることを示す。また,パラメタdeltaは,劣化条件を検出する際に要求される誤差の大きさの程度を示しており,典型的には比較的誤差の許容が小さい約2%とする(
図11のステップ126参照)。
【0041】
幾つかの適用分野では,劣化条件の単純な境界決定で十分であろう。その場合は,
図11のステップ128に示すように,特別なサンプリング条件に関連付けられたデータの有効性の指標(インジケータ)として,単に変数bSnowを記録すれば十分である。
【0042】
しかし,他の適用分野では,
図11のステップ130に示すように,電圧関連測定値の修正が望まれることがある。センサの読み取る瞬時値は各相の電圧(V),実効電力(P),及び無効電力(Q)であるが,センサの読み取り時間の合間(インターバル)において他の測定値を収集することもできる。そのような想定値には,合間ボルト時(dVh),合間実効エネルギー(dW),及び合間無効エネルギー(dR)が含まれる。収集装置のマイクロ制御装置において,例えば次式のように各相電圧に対する代替的電圧の比率を乗算することにより,これらの測定値を修正することができる。
【0044】
有効エネルギー,無効エネルギー,及びボルト時の合間測定値は,それぞれ収集装置の記憶装置に累積記憶しておくことができ,それらを積算することで全エネルギー量及び全ボルト時(Vh,W,R)を求めることができる。
【0045】
収集装置のマイクロ制御装置で駆動するプログラムにより,時間にわたって変数bSnowフラグを積分することも有効である。その積分量はSnowHoursとして示される。SnowHoursの記憶手段(レジスタ)は,次式のように変数bSnowが検出される都度更新される。次式において,bSnow(k)及びbSnow(k−1)はそれぞれ今回及び前回の評価時におけるbSnow値を表す。同様に,t(k)及びt(k−1)はそれぞれ今回及び前回のbSnowの評価時における時刻を表す。
【0047】
積分量SnowHoursの効用は,SnowHoursの時間の違いにより,氷雪条件として経過した一定時間(インターバル)の積算時間が表せることである。このような定量化は,例えばエネルギーの記憶手段(レジスタ)の時間の違いから取得される一定時間のエネルギー量を用いるような大量データの事後的分析において非常に重要である。
【0048】
このように,収集装置によって,電力線の各相に配置したセンサにより取得される各相−中性点間の電圧に加えて,収集装置の動力供給電圧を検出する。また,収集装置の供給電圧は,各相電圧に対する供給電圧の較正係数を用いることにより,測定対象の電力線の各相電圧の代替的電圧測定値として使用することができる。三相電力線の各相の代替的電圧と相電圧との関係は,現場において較正することができるので,収集装置の供給電圧と測定対象電力線の各相電圧との関係について詳細な情報を予め必要としない。代替的電圧と電力センサで測定される相電圧との相違は,電圧測定条件の低下(例えばセンサ上の氷又は雪の堆積)を判定するために使用することができる。好ましくは,収集装置により,電圧測定条件の低下を示すフラグを継続的に設けてその変化を記録する。収集装置により電圧測定条件の低下を示すフラグの積算時間を継続に設けて記録することにより,劣化条件で経過した所定合間時間の積算時間を簡単に判断することができる。劣化した電圧測定値が検出されたとき(例えば,氷雪が堆積されたとき)は,収集装置において,測定された相電圧に対する代替的電圧の比率を用いることにより,相電圧,ボルト時(ボルト*アワー),実効電力,無効電力,実効エネルギー,無効エネルギー等の電圧関連測定値を修正することができる。
【0049】
代替的電圧は,氷雪の存在しないときは相電圧Vphaseと比較して精度が悪くなりうる。また,代替的電圧は,三相電力線の何れか1相にのみ関連付けたものである。しかし,氷雪が存在する間は相電圧Vphaseが劣化するので,上述したように代替的電圧を利用することができる。氷雪が存在しないときは,
図11のステップ132に示すように,センサの測定する相電圧Vphaseを使用することができる。
【0050】
本発明の特定の構成が幾つかの図面には示され,他の図面には示されていないが,これは説明の便宜上だけのものであり,本発明の各構成は,本発明に従って他の何れの構成又は全ての構成と組み合わせることができる。明細書において使用される「含む」,「構成する」,「有する」,「共に」の各用語は,幅広く解釈されるべきであり,物理的な相互関係に限定されるものではない。また,本出願において開示された何れの実施例も,実施可能な実施例のみを示すものと解釈されるべきではない。
【0051】
更に,本出願の審査過程における如何なる補正も,出願時において本出願に記載された如何なる要素に対する権利の放棄を意味するものではない。当業者が全ての可能な均等物が文言的に含まれる請求項を起案できると想定することは無理である。多くの均等物は補正時において想定することができないものであり,放棄されたもの(何かあるとして)の公正な解釈を超えたものであり,補正の合理性は多くの均等物と僅かな関係を有するに過ぎないものである。更に,補正された如何なる要素についても,出願人が他の実体のない代替物を説明することが期待できなことを示す数多くの理由が存在している。
【0052】
当業者であれば,請求項に記載された範囲に含まれる他の実施例に想到することができるであろう。
【符号の説明】
【0053】
10…非接地電力線センサ
12…(電力)収集装置
14…単相変圧器(トランス)
16…センサ板
17…検出回路
18…電量線
19…地面
20…マイクロ制御装置
30…雪
32…電圧降下
32…収集装置への供給電圧
42…電圧調整回路
44…アナログ・デジタル変換器を含むマイクロ制御装置
50…軸付きセットアップ装置(較正装置)
52…自動セットアッププログラム
60…電力供給調整装置
62…マイクロ処理装置
64…ISMバンド(産業科学医療用バンド)無線装置
66…イーサーネット装置
68…メッシュ無線装置
70…WiFi無線装置
72…SDメモリーカード