(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
多価不飽和化合物と硫黄性軽質化合物とを含むガソリンの選択的水素化の方法であって、前記方法は、多価不飽和化合物の一価不飽和化合物への水素化と、一価不飽和化合物との反応による硫黄性飽和軽質化合物の増量と、外部C=C二重結合を含む一価不飽和化合物の、内部C=C二重結合を有するそれらの異性体への異性化とを一緒に可能にし、前記方法は、少なくとも1種の第VIb族金属および少なくとも1種の第VIII族金属を多孔性担体上に沈着させられて含有する触媒を用いて実施し、ここで:
・ 触媒の重量に対する、第VIb族元素の酸化物の重量含有率は、6〜18%の範囲内であり;
・ 触媒の重量に対する、第VIII族元素の酸化物の重量含有率は、4〜12%の範囲内であり;
・ 触媒の比表面積は、200〜270m2/gの範囲内であり;
・ 前記第VIb族元素の酸化物の重量含有率対触媒の比表面積の比であるとして表される第VIb族元素の密度は、4×10−4〜6×10−4g/m2の範囲内であり;
・ 第VIII族金属と第VIb族金属との間のモル比は、0.6〜3モル/モルの範囲内である、
方法。
第VIII族元素の酸化物の重量含有率は、触媒の重量に対して6〜10%の範囲内であり、第VIb族元素の酸化物の重量含有率は、触媒の重量に対して8〜12%の範囲内である、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
工程c)を、水素および触媒の存在下に、210〜350℃の範囲内の温度、1〜4MPaの範囲内の圧力で行い、触媒の体積および時間当たりの液体の体積として表される空間速度は1〜20h−1であり、該触媒は、少なくとも1種の第VIII族元素および/または少なくとも1種の第VIb族元素を、少なくとも一部、硫化物の形態で含む、請求項13に記載の方法。
工程c)の触媒は、第VIII族金属を、触媒の重量に対する、酸化物の形態で表される含有率0.5〜15重量%で、第VIB族金属を、触媒の重量に対する、酸化物の形態で表される含有率1.5〜60重量%で含む、請求項13または14に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
新たな環境基準に準拠するガソリンの製造において、それらの硫黄含有率が一般的には50ppm以下、好ましくは10ppm未満の値にまで大幅に低減させられることが要求されている。
【0003】
転化ガソリン、より具体的には接触分解によって製造された転化ガソリン(これは、ガソリンプールの30〜50%を表し得る)はさらに、オレフィンおよび硫黄の高い含有率を示すことが知られている。
【0004】
この理由のために、ガソリン中に存在する硫黄の90%近くは、以下にFCC(Fluid Catalytic Cracking:流動接触分解)と称されることとなる、接触分解方法に由来するガソリンに起因する。FCCガソリンは、従って、本発明の方法の好ましい供給原料を構成する。
【0005】
低硫黄燃料の製造のための可能性のある経路の中で、最も広く用いられているものは、硫黄リッチなベースガソリンを、水素の存在下、水素化脱硫によって具体的に処理することからなる。従来の方法では、ガソリンは、モノオレフィンの大部分を水素化することによって非選択的に脱硫され、オクタン価の大幅な喪失および水素の大量消費が引き起こされる。最近の方法、例えば、Prime G+方法(商品名)によって、モノオレフィンの水素化、並びに、それ故のオクタンの喪失およびそれに由来する大量の水素消費を制限しながら、オレフィンリッチな分解ガソリンの脱硫が可能となる。このような手順は、例えば、特許文献1および2に記載されている。
【0006】
特許文献1に記載されているように、処理されるべき供給原料の選択的水素化の工程の後に、有利には、水素化処理工程が行われる。この第1の水素化工程は、ジオレフィンを選択的に水素化しながら同時に、硫黄性の飽和軽質化合物を増量する(それらの分子量を増やす)ことによって転換することから実質的になり、前記硫黄性飽和軽質化合物は、チオフェンの沸点よりも低い沸点を有する硫黄化合物、例えば、メタンチオール、エタンチオール、およびジメチルスルフィドである。このことにより、オクタンの喪失を伴わず、5個の炭素原子を有するモノオレフィンから主としてなる脱硫ガソリンフラクションを簡易な蒸留により製造することが可能となる。
【0007】
具体的な操作条件下で、この水素化は、処理されるべき供給原料に存在するジオレフィンのモノオレフィン化合物への水素化を選択的に行い、より良好なオクタン価を有する。選択的水素化の別の効果は、触媒の表面上または反応器中での重合ゴム状物の形成に起因する、選択的水素化脱硫触媒の進行性の失活を防止し、ならびに/あるいは、反応器の進行性の閉塞を回避することである。実際、多価不飽和化合物は、不安定であり、かつ重合ゴム状物前駆体を形成する傾向がある。
【0008】
特許文献3には、多価不飽和化合物、より具体的にはジオレフィンの選択的水素化の方法であって、硫黄性飽和軽質化合物の増量を同時に行うことを可能とする、方法が開示されている。この方法では、少なくとも1種の第VIb族金属および少なくとも1種の第VIII族非貴金属を多孔性担体上に沈着させられて含有する触媒が用いられる。しかし、この文献には、外部オレフィンの内部オレフィンへの異性化の性能を可能とする触媒は開示されていない。本発明は、特許文献3に記載された触媒とは、特に、以下の組み合わされたパラメータの選択において異なっている:
・ 触媒の比表面積は、200〜270m
2/gの範囲内である;
・ 第VIb族元素の密度(第VIb族元素の酸化物の重量含有率対比表面積の比として表される)は、4×10
−4〜6.10
−4g/m
2の範囲内である;
・ 第VIII族金属対第VIb族金属のモル比は、0.6〜3モル/モルの範囲内である。
【0009】
モノオレフィンを含有する分解ガソリンの水素化脱硫の工程は、処理されるべき供給原料を水素と混合して、これを、硫黄の硫化水素(H
2S)への還元の反応を促進する遷移金属の硫化物タイプの触媒上に通過させることからなる。次いで、反応混合物は冷却され、ガソリンを凝縮させる。過剰の水素とH
2Sを含有する気相は分離されて、脱硫ガソリンが回収される。
【0010】
脱硫ガソリン中に一般的に存在する残留硫黄化合物は、2つの異なる系統群に分離されてよい:供給原料中に存在する硫黄性の非水素化化合物および反応器において二次的な「再結合」反応によって形成された硫黄性化合物。硫黄性化合物の後者の系統群において、それらの大部分は、反応器中に形成されたH
2Sの、供給原料中に存在するモノオレフィン上への付加から生じるチオールである。化学式R−SH(式中、Rはアルキル基である)のチオールは、再結合チオールとも呼ばれ、一般的に脱硫ガソリン中の残留硫黄の20〜80重量%を示す。
【0011】
再結合チオールの含有率の低減は、接触水素化脱硫によって達成され得るが、ガソリン中に存在するモノオレフィンの大部分を飽和させることを犠牲にしており、これにより、ガソリンのオクタン価における大幅な低減、ならびに、水素の過剰消費に至る。また、水素化脱硫工程の間のモノオレフィンの水素化に関連するオクタンの喪失は、目標硫黄含有率、すなわち、供給原料中に存在する硫黄化合物の徹底的な除去が試みられている場合に反比例して増加することも知られている。
【0012】
さらに、非特許文献1および2には、モノオレフィン化合物の構造のそれらの水素化脱硫(hydrodesulphuration:HDS)工程における反応性に対する影響が研究され、内部二重結合を有するモノオレフィン化合物は、水素化脱硫の条件下での水素化がより困難であったことが実証された。
【0013】
低硫黄含有率と良好なオクタン価とを有するガソリンを製造するために、選択的水素化の第1の工程を実施することが有利なようであり、この選択的水素化により、ジオレフィンのオレフィンへの水素化、硫黄性軽質化合物の増量、および外部オレフィンの内部オレフィンへの異性化が同時に達成され、これにより、水素化脱硫方法の機能化が促進され、オレフィンの水素化ができる限り制限され、結果として次の水素化脱硫工程の間のオクタン価の喪失が制限される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(発明の詳細な説明)
本発明は、任意のタイプの化学的系統、とりわけ、ジオレフィン、モノオレフィン、およびチオールおよび軽質硫化物の形態での硫黄化合物を含むガソリンを処理するための方法に関する。本発明は、より具体的には、転化ガソリン、特に、接触分解、流動床接触分解(FCC)、コーキング方法、ビスブレーキング方法、または熱分解方法によって生じたガソリンの転換に適用される。本発明が適用される供給原料は、0〜280℃の範囲内の沸点を有する。供給原料は、3または4個の炭素原子を有する炭化水素を含有してもよい。
【0024】
例えば、接触分解(FCC)装置に由来するガソリンは、平均して、0.5〜5重量%のジオレフィン、20〜50重量%のモノオレフィン、10ppm〜0.5重量%の硫黄(そのうち、一般的には300ppm未満はチオールである)を含有する。チオールは、一般的にガソリンの軽質フラクション、より正確には沸点が120℃未満のフラクション中に濃縮される。
【0025】
本選択的水素化方法において記載されるガソリンの処理は、主に、
− ジオレフィンをモノオレフィンへと選択的に水素化すること;
− モノオレフィンとの反応によって、硫黄性飽和軽質化合物、主にチオールを、より重質の硫化物またはチオールへと転換すること;
− 外部C=C二重結合を有するモノオレフィン化合物を、内部C=C二重結合を有するそれらの異性体へと異性化すること
からなる。
【0026】
ジオレフィンのモノオレフィンへの水素化の反応は、容易に水素化される不安定な化合物である1,3−ペンタジエンの、ペンタ−2−エンへの転換によって以下に例証される。しかし、以下の例においてn−ペンタンが形成されるに至るであろうモノオレフィンの二次的な水素化反応を制限することが求められる。
【0028】
転換されるべき硫黄化合物は主にチオールと硫化物である。チオール転換の主な反応は、チオールによるモノオレフィンのチオエーテル化にある。反応は、プロパン−2−チオールがペンタ−2−エン上に付加してプロピルペンチルスルフィドが形成されることにより以下に例証される。
【0030】
水素の存在下で、硫黄化合物の転換はH
2Sの中間生成を介して起こってもよく、これは、次いで、付加によって、供給原料中に存在する不飽和化合物と結合してもよい。しかし、この経路は、好ましい反応条件下に重要性はより低い。
【0031】
チオールの他に、このように転換されかつ増量を施されることが可能な化合物は、硫化物、主にジメチルスルフィド、メチルエチルスルフィド、およびジエチルスルフィド、CS
2、COS、チオファン、およびメチルチオファンである。
【0032】
場合によっては、軽質窒素化合物、主に、ニトリル、ピロール、およびその誘導体の増量反応が観測されてもよい。
【0033】
本発明によると、触媒はまた、それらのC=C二重結合を外部の位置に有するモノオレフィン化合物の、内部C=C二重結合を有するそれらの異性体への異性化を可能にする。
【0034】
この反応は、1−ヘキセンの、2−ヘキセンまたは3−ヘキセンへの異性化によって以下に例証される:
【0036】
本発明で記載された方法は、処理されるべき供給原料を、水素流との混合物で、少なくとも1種の第VIb族金属(元素周期律表の新表記法による第6族:Handbook of Chemistry and Physics, 76th edition, 1995-1996)と、前記分類の少なくとも1種の第VIII族金属(第8、9、および10族)とを、多孔性の金属酸化物ベースの担体上に沈着させて含有する触媒と共に配置することにある。
【0037】
特に、外部オレフィンの対応する内部オレフィンへの異性化における触媒の性能は、触媒が以下の特徴を組み合わせて示す場合、向上させられることが見出された:
酸化物形態の第VIb族元素の重量含有率は、触媒の重量に対して6〜18重量%、好ましくは8〜12重量%、さらにより好ましくは10〜12重量%の範囲内である。第VIb族金属は、好ましくはモリブデンおよびタングステンから選択される。より好ましくは、第VIb族金属はモリブデンである。
【0038】
触媒はまた、第VIII族金属を含有し、好ましくは、ニッケル、コバルトおよび鉄から選択される。より好ましくは、第VIII族金属はニッケルである。酸化物の形態で表される第VIII族金属の含有率は、触媒の重量に対して4〜12重量%、好ましくは6〜10重量%、さらにより好ましくは6〜8重量%の範囲内である。
【0039】
非貴金属性第VIII族金属対第VIb族金属のモル比は、0.6〜3モル/モル、好ましくは1〜2モル/モルの範囲内である。
【0040】
第VIb族元素の密度(前記第VIb族元素の酸化物の重量含有率対触媒の比表面積の比として表される)は、4×10
−4〜6×10
−4g/m
2、好ましくは4.3×10
−4〜5.5×10
−4g/m
2、より好ましくは4.5×10
−4〜5×10
−4g/m
2の範囲内であり、より好ましくは4.5×10
−4〜5×10
−4g/m
2である。従って、例えば、触媒が、触媒の重量に対して11重量%の酸化モリブデンを含み、219m
2/gの比表面積を有する状況において、モリブデンの密度(酸化モリブデンの重量含有率対触媒の比表面積の比として表される)は、(0.11/219)、すなわち5×10
−4g/m
2に等しい。
【0041】
触媒の比表面積は、200〜270m
2/g、好ましくは220〜260m
2/gの範囲内である。比表面積は、ASTM標準D3663に従って決定される。
【0042】
好ましくは、水銀ポロシメトリによって測定される全細孔容積が0.3cm
3/g超である触媒が使用されるが、好ましくは0.4〜1.4cm
3/gの範囲内、優先的には0.5〜1.3cm
3/gの範囲内である。水銀ポロシメトリは、ASTM標準D4284−92に従って、140°の濡れ角を用いて、Micromeritics Autopore III機器により測定される。
【0043】
触媒担体は、アルミナ、アルミン酸ニッケル、シリカ、炭化ケイ素、またはそれらの混合物から好ましくは選択される。アルミナが好ましくは用いられるが、さらにより好ましくは、高品質アルミナである。
【0044】
1つの変形例によると、担体は、立方晶系ガンマ−アルミナ、またはデルタ−アルミナからなる。
【0045】
本発明による触媒は、当業者に公知の任意の方法によって、とりわけ、第VIII族および第VIb族の元素の選択された担体上への含浸によって調製されてよい。この含浸は、例えば、用語「乾式含浸」による当業者に公知の方法に従って行われてよく、この「乾式含浸」では、精密に所望量の元素が、可溶性の塩の形態で、選択された溶媒、例えば、鉱質除去水に導入され、可及的に精密に担体の細孔が満たされる。溶液で満たされた担体は、好ましくは乾燥させられる。好ましい担体はアルミナであり、これは、当業者に公知の任意のタイプの前駆体および成形ツールで出発して調製されてよい。
【0046】
第VIII族および第VIb族の元素の導入、ならびに場合による触媒の成形の後に、触媒は活性化処理を経る。この処理の目的は、一般的に、元素の分子前駆体を酸化物相に転換することである。この場合、処理は、酸化であるが、単純な触媒の乾燥も行われ得る。焼成とも称される、酸化処理の場合、触媒は、空気下または希釈酸素下で熱処理に付され、処理温度は一般的に200〜550℃、好ましくは300〜500℃の範囲内である。
【0047】
触媒の調製の方法において使用可能な第VIb族および第VIII族金属の塩は、例えば、硝酸コバルト、硝酸ニッケル、 ヘプタモリブデン酸アンモニウム、およびメタタングステン酸アンモニウムである。当業者に公知の任意の他の塩、適切な溶解性を有しかつ活性化処理の間に分解可能であるものが用いられてもよい。
【0048】
焼成後、担体上に沈着させられた金属は、酸化物の形態にある。ニッケルおよびモリブデンの場合、金属は主にMoO
3およびNiOの形態である。処理されるべき供給原料と接触させられる前に、触媒は硫化工程を経る。硫化は、好ましくは、硫黄還元環境下、すなわちH
2Sおよび水素の存在下で行われ、これにより、金属酸化物が硫化物、例えばMoS
2およびNi
3S
2に転換される。硫化は、H
2Sおよび水素を含有する流束、あるいは触媒および水素の存在下でH
2Sに分解されることが可能な硫黄化合物を触媒上に注入することによって行われる。ポリスルフィド、例えばジメチルスルフィドは、現行の触媒硫化の使用法においてH
2S前駆体である。温度は、H
2Sを金属酸化物と反応させて金属硫化物を形成するように調節される。このスルフィド化は、水素化脱硫反応器の現場(in situ)または現場外(ex situ)(反応器の中または外)で、200〜600℃、より優先的には300〜500℃の範囲内の温度において行われてもよい。
【0049】
活性であるために、金属は、実質的に硫化されなければならない。触媒上に存在する硫黄(S)と元素との間のモル比が、考慮中の元素の全硫化に相当する理論的モル比の60%に少なくとも等しい場合に、前記元素は実質的に硫化されたとみなされる:
(S/元素)
触媒≧0.6×(S/元素)
理論:
ここで:
(S/元素)
触媒=触媒上に存在する硫黄(S)と元素との間のモル比
(S/元素)
理論=元素の硫化物への全硫化に相当する硫黄と元素との間のモル比。
【0050】
この理論的モル比は、考慮中の元素によって変動する:
− (S/Fe)
理論=1
− (S/Co)
理論=8/9
− (S/Ni)
理論=2/3
− (S/Mo)
理論=2/1
− (S/W)
理論=2/1
触媒が複数種の金属を含む場合、触媒上に存在するSと、一緒にある元素の全てとの間のモル比は、同様に、各元素の硫化物への全硫化に相当する理論的モル比の60%に少なくとも等しい必要があり、計算は各元素に関連するモル分率で比例配分して行われる。
【0051】
例えば、モリブデンおよびニッケルをそれぞれ0.7および0.3のモル分率で含む触媒では、最小のモル比(S/Mo+Ni)は、式:
(S/Mo+Ni)
触媒=0.6×{(0.7×2)+(0.3×(2/3)}
によって与えられる。
【0052】
金属の硫化率(%)は、非常に好ましくは80%超であることとなる。
【0053】
硫化は、金属の還元の事前工程が行われることなく、酸化物の形態の金属について行われる。実際、還元金属の硫化は、酸化物形態の金属の硫化よりも困難であることが知られている。
【0054】
本発明による選択的水素化の方法において、処理されるべき供給原料は、水素と混合された後に、触媒と接触させられる。注入される水素の量は、水素と水素化されるべきジオレフィンとの間のモル比が1(化学量論)超かつ10未満、好ましくは1〜5モル/モルの範囲内であるようにされる。過剰過ぎる水素は、モノオレフィンの強力な水素化を誘導して、結果として、ガソリンのオクタン価を低減させ得る。供給原料の全体は、一般的に反応器への入口に注入される。しかし、場合によっては反応器内に置かれた2つの連続する触媒床の間に供給原料の一部または全部を注入することが有利であってもよい。この実施形態は、とりわけ、反応器への入口が、供給原料中に存在するポリマー性沈着物、粒子、またはゴム状物によって塞がれてしまう場合に、反応器の連続操作を可能とする。
【0055】
ガソリンおよび水素からなる混合物が触媒と接触させられる際の温度は、80〜220℃、好ましくは90〜200℃であり、毎時液空間速度(liquid hourly space velocity:LHSV)は、1〜10h
−1であり、毎時液空間速度の単位は、時間当たりおよび触媒の体積(リットル)当たりの供給原料の体積(リットル)(L/L.h)である。圧力は、反応混合物のほとんどが反応器内で液体の形態であるように調節される。圧力は、0.5〜5MPa、好ましくは1〜4MPaの範囲内である。
【0056】
上記の条件下で処理されたガソリンは、低減したジオレフィンおよびチオールの含有率を有する。生じたガソリンは、一般的に、1重量%未満のジオレフィン、好ましくは0.5重量%未満のジオレフィンを含有する。硫黄性軽質化合物であって、その沸点がチオフェンの沸点(84℃)未満のものは、一般的に50%超転化さ
せられている。従って、ガソリンの軽質フラクションを蒸留によって分離し、補完処理なしでこのフラクションをガソリンプールに直接送ることが可能である。ガソリンの軽質フラクションの終点は、一般的に120℃未満、好ましくは100℃未満、非常に好ましくは80℃未満である。
【0057】
本発明による選択的水素化方法は、特に、特許出願EP 1 077 247に記載された脱硫方法において実施されるように適応される。
【0058】
本出願は、同様に、その主題として、硫黄化合物を含むガソリンの脱硫方法であって、少なくとも以下の工程:
a) 上記の方法を実施する選択的水素化工程と;
b) 工程a)で得られたガソリンを、それぞれ軽質ガソリンおよび重質ガソリンを含む2つのフラクションに分離する工程と;
c) 工程b)で分離された重質ガソリンを、硫黄化合物の少なくとも一部のH
2Sへの分解を可能にする触媒上で処理する工程と
からなる、方法を有する。
【0059】
分離工程b)は、好ましくは、スプリッタ(splitter)とも称される、従来の蒸留塔によって行われる。この分留塔は、ごく一部の硫黄を含有する軽質フラクションと、重質フラクションであって、好ましくは初めのガソリン中に当初に存在する大部分の硫黄を含有する、ものとの分離を可能にしなければならない。
【0060】
この塔は、一般的に、0.1〜2MPa、好ましくは0.2〜1MPaの範囲内の圧力で操作される。この分離塔の理論段の数は、一般的に、10〜100、好ましくは20〜60の範囲内である。還流率(塔内の液体流対留出物流(kg/hで表される)の比として表される)は、一般的に、1未満、好ましくは0.8未満である。
【0061】
分離の終わりに得られた軽質ガソリンは、一般的に、少なくとも全グループのC5オレフィン、好ましくはC5化合物および少なくとも20%のC6オレフィンを含有する。この軽質フラクションは、一般的に低い硫黄含有率を有し、すなわち、それを燃料として用いる前に軽質留分を処理することは一般的には必要ではない。
【0062】
脱硫工程c)は、好ましくは、水素化脱硫工程であり、これは、水素の存在下に重質ガソリンを触媒上に通過させることによって行われ、その触媒は、少なくとも1種の第VIII族元素および/または少なくとも1種の第VIb族元素を少なくとも一部硫化物形態で含み、上記工程における温度は、約210〜約350℃、好ましくは220〜320℃であり、圧力は、一般的に約1〜約4MPa、好ましくは1.5〜3MPaである。液体の毎時空間速度(触媒の体積当たりかつ時間当たりの液体の体積として表される)は、約1〜約20h
−1、好ましくは1〜10h
−1、非常に好ましくは3〜8h
−1の範囲内である。H
2/供給原料の比は、100〜600リットル/リットル、好ましくは300〜600リットル/リットルの範囲内である。
【0063】
酸化物として表される第VIII族金属の含有率は、一般的に、触媒の重量に対して0.5〜15重量%、優先的には1〜10重量%の範囲内である。酸化物として表される第VIb族金属の含有率は、一般的に、触媒の重量に対して1.5〜60重量%、優先的には3〜50重量%の範囲内である。
【0064】
第VIII族元素は、存在する場合、好ましくはコバルトであり、第VIb族元素は、存在する場合、一般的にモリブデンまたはタングステンである。コバルト−モリブデン等の組合せが好ましい。触媒担体は、通常、多孔性固体物、例えばアルミナ、シリカ−アルミナ、あるいは他の多孔性固体物、例えばマグネシア、シリカ、または酸化チタンであり、これらは単独であるかあるいはアルミナまたはシリカ−アルミナとの混合物である。重質ガソリン中に存在するオレフィンの水素化を最小限に抑えるために、比表面積の単位当たりのMoO
3の重量%(重量%は、触媒の全重量に対して表される)で表されるモリブデンの密度が0.07超、好ましくは0.12超である触媒を優先的に利用することは有利である。本発明による触媒の比表面積は、好ましくは250m
2/g未満、より好ましくは230m
2/g未満、非常に好ましくは190m
2/g未満である。
【0065】
担体上の金属の沈着は、当業者に公知のすべての方法、例えば乾式含浸、または、金属前駆体を含有する過剰の溶液によって達成される。含浸溶液は、所望の濃度で金属前駆体を可溶化することが可能であるように選択される。例えば、CoMo触媒の合成の場合、モリブデン前駆体は、モリブデンの酸化物、ヘプタモリブデン酸アンモニウムであってよい一方で、コバルトの前駆体は、例えば、硝酸コバルト、水酸化コバルト、または炭酸コバルトであってよい。前駆体は、一般的に、所望の濃度でのそれらの可溶化を可能にする媒体中に溶解させられる。
【0066】
元素(単数または複数)の導入および場合による触媒の成形の後に、触媒は、第1の工程において活性化される。この活性化は、酸化およびその後の還元、あるいは直接還元、あるいは焼成のみのいずれかに相当していてよい。焼成工程は、一般的に、約100〜約600℃、好ましくは200〜450℃の範囲内の温度で空気流下に行われる。還元工程は、酸化された形態のベース金属(base metal)の少なくとも一部を金属に転化させることを可能にする条件下に行われる。一般的に、前記工程は、水素流下、好ましくは300℃に少なくとも等しい温度で触媒を処理することにある。還元は、化学還元剤によって部分的に行われてもよい。
【0067】
触媒は、好ましくは、少なくとも一部、硫化物形態で用いられる。硫黄の導入は、任意の活性化工程(これは焼成または還元工程である)の前後に行われてよい。好ましくは、硫黄または硫黄化合物が触媒上に導入された時に、触媒の酸化の工程は行われない。硫黄または硫黄化合物は、現場外で、すなわち本発明による方法が行われる反応器外で、あるいは現場で、すなわち本発明による方法のために用いられる反応器中で導入されてよい。後者の場合、触媒は、好ましくは、すでに記載された条件下で還元され、次いで少なくとも1種の硫黄化合物を含有する供給原料の通過によって硫化され、この硫黄化合物が一旦分解された後に、触媒上に硫黄が固定されるに至る。この供給原料は、気体または液体であってよく、例えばH
2Sを含有する水素または少なくとも1種の硫黄化合物を含有する液体である。
【0068】
硫黄化合物は、好ましくは、現場外で触媒上に添加される。例えば、焼成工程の後に、硫黄化合物は、場合による別の化合物の存在下で触媒上に導入されてよい。触媒は、次いで乾燥させられ、その後、本発明による方法の実施に供する反応器に移される。この反応器内で、触媒は次いで水素下で処理されて、これにより、主要金属の少なくとも一部が硫化物へと転換される。本発明にとって特に有利な方法は、特許FR-B- 2 708 596およびFR-B- 2 708 597に記載された方法である。
【0069】
本発明の特定の実施形態によると、脱硫方法は、さらに、工程c)において処理された重質ガソリンを、工程c)においてH
2Sで分解されなかったであろう硫黄化合物の分解を可能にする触媒により処理する第2の工程d)を含む。工程c)で形成されたH
2Sは、有利には、処理工程d)を行う前に除去される。
【0070】
(実施例1)
触媒1、2、3および4を、100%アルミナ担体の乾式含浸によって調製した。
【0071】
合成手順は、ヘプタモリブデン酸アンモニウムおよび硝酸ニッケルの溶液の乾式含浸を行うことにあり、金属前駆体を含有する水溶液の体積は、含浸させられるべき担体の塊体(mass)に相当する水吸収(take-up in water)の体積(多孔度(porosity)中に浸透することが可能な水の全体積)に等しい。溶液中の前駆体の濃度を、所望の重量含有率の金属酸化物を担体上に沈着させるように調節した。
【0072】
次いで、固体を、周囲温度で12時間にわたり成熟させ、次いで、120℃で12時間にわたり乾燥させた。最後に、この固体を、500℃で2時間にわたり空気流下(1L/g.h)で焼成した。
【0073】
用いられた担体は、可変の比表面積の遷移アルミナであり、等しい含有率の金属を装填させた後に種々の比表面積の触媒を得た。このようにして調製された触媒の特徴を、表1に示す。
【0075】
触媒1および2(本発明に合致しない)は、200〜270m
2/gの範囲外の比表面積を示した。一方、触媒3および4は、本発明に合致する比表面積およびモリブデン密度を有していた。
【0076】
触媒1、2、3および4の触媒性能の評価を、500mLの撹拌オートクレーブ反応器内で行われた選択的水素化試験によって行った。4gの触媒を、大気圧で、硫化ベンチ(sulphuration bench)により、1L/g(触媒)・hのH
2S/H
2の混合物(15容積%のH
2Sからなる)下、400℃で2時間にわたり硫化した。この手順により、本発明に合致する触媒の群について、80%超の硫化率を達成することが可能となった。このように硫化された触媒を、空気に紛れて反応器に移し、次いで、1.5MPaの全圧および160℃の温度で250mLのモデル供給原料と接触した状態に置いた。試験中、水素の供給によって、圧力を一定に保持した。
【0077】
活性試験のために用いられた供給原料は、以下の組成のものであった:n−ヘプタン中、メチル 3−チオフェンの形態の硫黄1000重量ppm、プロパン−2−チオールの形態の硫黄100重量ppm、1−ヘキセンの形態のオレフィン10重量%、およびイソプレン1重量%。
【0078】
試験の時間t=0は、触媒および供給原料の接触状態での載置に相当する。試験の継続期間を80分に設定し、得られた液体流出物の気相クロマトグラフィー分析により、イソプレンの水素化(メチルブテンの形成)、1−ヘキセンの水素化(n−ヘキサンの形成)、1−ヘキセンの異性化(内部位置の飽和を有するヘキセン、すなわち、2−ヘキセンまたは3−ヘキセンの形成)および軽質チオールの増量(プロパン−2−チオールの転化)における、種々の触媒の活性の評価が可能となった。
【0079】
各反応についての触媒の活性は、触媒の重量(グラム)当たりで規格化された各反応について得られた速度定数に対して規定される。速度定数は、反応に対して一次を考慮して計算される:
A(X)=k(X)/m
式中:
A(X):反応Xについての触媒の活性(min
−1/g(触媒))
m:試験に関与する触媒の質量(酸化物形態)
k:考慮中の反応についての速度定数(min
−1):以下の式に従って計算される:
k(X)=(1/80)*ln(100/(100−Conv(X)))
ここで:
80:試験の継続期間(min)
X=ヘキセンの異性化に相当するヘキセン
X=ヘキセンの水素化に相当するヘキセン
X=イソプレンの水素化に相当するイソプレン
【0080】
イソプレンの水素化に関する触媒の選択性は、イソプレンの水素化と1−ヘキセンの水素化における触媒の活性の比:HYD(イソプレン)/HYD(1−ヘキセン)に等しい。
【0081】
本発明による触媒3に関して100に基づいて、種々の触媒について得られた結果を以下の表2に報告する。
【0083】
触媒3および4(本発明による方法において実施された)は、そのモリブデン密度および比表面積が特許請求された範囲内であり、これらは、触媒1および2より著しく高いヘキセン異性化活性を示すだけでなく、向上した水素化選択性をも示す。
【0084】
(実施例2)
以下に示される触媒の例によって、等しい触媒の比表面積の、第VIb族金属(ここではモリブデン)の密度が、ジオレフィンのモノオレフィンへの水素化および「外部」モノオレフィンの「内部」モノオレフィンへの異性化の活性に与える影響を例証することが可能となる。
【0085】
実施例1における条件に従って、触媒5および6(本発明に合致しない)を調製した。これらの触媒は、とりわけ、本発明に適合する比表面積を有するが、モリブデンの密度は、4×10
−4〜6×10
−4g/m
2の範囲外である。これら2つの触媒の特徴を、表3に一緒にまとめる。
【0087】
触媒5および6の触媒性能を、実施例1において記載された選択的水素化試験において評価し、本発明に合致しない触媒3および4のものと比較した。
【0089】
触媒5および4を触媒6および3と比較することによって観察されたことは、比表面積が等しい場合に(それぞれ約250および230m
2/g)、特許請求された範囲内のモリブデン密度を有する触媒は、触媒5および6(そのモリブデン密度は、4×10
−4〜6×10
−4g/m
2の範囲外に位置する(それぞれ、2.4×10
−4g/m
2および3.8×10
−4g/m
2))のものより著しく高いジオレフィンの選択的水素化の活性および異性化の活性を有することである。
【0090】
(実施例3)
触媒7(本発明に合致しない)および触媒8(本発明に合致する)を、実施例1における条件に従って調製した。これらの触媒を、第VIII族金属対第VIb族金属のそれらのモル比によって区別した。
【0092】
実施例1において記載された選択的水素化試験を用いて、触媒7および8を評価した。触媒の性能を、表6に一緒にまとめる。
【0094】
触媒7(本発明に合致しない)は、Ni/Moモル比が0.6〜3モル/モルの範囲外であるがモリブデン密度および比表面積が特許請求された範囲内であり、このものは、触媒8および3より良好性の低い水素化選択性およびより弱い異性化活性を示した。触媒8および3のNi/Moモル比は、それぞれ1.9および1.2であり、モリブデン密度は、それぞれ5.0×10
−4g/m
2および4.8×10
−4g/m
2であり、4×10
−4〜6×10
−4g/m
2の範囲内にあり、比表面積は、それぞれ、219および230m
2/gであり、200〜270m
2/gの範囲内である。
【0095】
この実施例によって、組み合わせて用いられかつ特許請求された特定の範囲内であるパラメータの群に合致する触媒を実施することにより、求められる技術的効果が十分得られることが確認された。
【0096】
(簡単な説明)
本願は、多価不飽和化合物および硫黄性軽質化合物を含むガソリンの選択的水素化方法であって、多価不飽和化合物の一価不飽和化合物への水素化、不飽和化合物との反応による硫黄性軽質化合物の増量、外部C=C二重結合を含む一価不飽和化合物のそれらの内部C=C二重結合異性体への異性化の最大化を一緒に可能にし、少なくとも1種の第VIb族金属および少なくとも1種の第VIII族金属を多孔性担体上に含有する触媒を実施し、ここで:
・ 第VIb族元素の酸化物の重量密度は、触媒の重量に対して6〜18%の範囲内であり;
・ 第VIII族元素の酸化物の重量含有率は、触媒の重量に対して4〜12%の範囲内であり;
・ 触媒の比表面積は、200〜270m
2/gの範囲内であり;
・ 第VIb族元素の密度(第VIb族元素の酸化物の重量含有率と触媒の比表面積との間の比であるとして表される)は、4×10
−4〜6×10
−4g/m
2の範囲内であり;
・ 第VIII族金属と第VIb族金属との間のモル比は、0.6〜3モル/モルの範囲内である
方法に関する。