特許第6244140号(P6244140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244140
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】I型アレルギー疾患の予防・治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/75 20060101AFI20171127BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   A61K36/75
   A61P37/08
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-178249(P2013-178249)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-44784(P2015-44784A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166959
【氏名又は名称】御木本製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(72)【発明者】
【氏名】須藤 秀
(72)【発明者】
【氏名】梶浦 孝友
【審査官】 春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−319191(JP,A)
【文献】 特開2003−038140(JP,A)
【文献】 特表2005−502597(JP,A)
【文献】 特開平05−186360(JP,A)
【文献】 特開昭61−100510(JP,A)
【文献】 特表2005−501079(JP,A)
【文献】 特開2007−119432(JP,A)
【文献】 小山田 孝嘉,(未来医学事典)花粉症の現状と将来展望,未来医学,2008年 2月 9日,第23号,p.48−51,URI: http://hdl.handle.net/10470/10368
【文献】 エゾウコギで心も体も健康ガイド,[online],2013年 7月22日,http://web.archive.org/にて2013年7月22日収録時のファイルを取得(取得日2017年2月24日),インターネット,URL,http://web.archive.org/web/20130722182307/http://www.ezo-ukogi.net/
【文献】 中込 一之, 永田 真,スギ花粉症と喘息に連関性はあるか?,喘息,2010年 4月,第23巻,第1号,p.38−43
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CiNii
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラグリン、ロリクリン、またはコルネオデスモシンの欠乏に起因する疾患を予防・治療する予防・治療剤であって、
前記フィラグリン、ロリクリン、またはコルネオデスモシンの産生を促進するフィラグリン産生促進剤、ロリクリン産生促進剤、またはコルネオデスモシン産生促進剤を有効成分として含み、前記フィラグリン産生促進剤、ロリクリン産生促進剤、またはコルネオデスモシン産生促進剤が大葉月橘の葉および/または葉軸の抽出物であり、
前記疾患が花粉症であることを特徴とする予防・治療剤。
【請求項2】
前記フィラグリン産生促進剤、ロリクリン産生促進剤、またはコルネオデスモシン産生促進剤が前記大葉月橘の葉および/または葉軸の抽出物であり、該大葉月橘の葉および/または葉軸の抽出物は、さらにインボルクリンの欠乏に起因する疾患を予防・治療するインボルクリン産生促進剤であることを特徴とする請求項1記載の予防・治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、コルネオデスモシン等の産生を促進し、これらの欠乏に起因するI型アレルギー疾患を予防・治療する予防・治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、コルネオデスモシンの産生を促進することによって、皮膚機能を正常化し、シワ形成抑制、肌荒れ防止、肌理正常化、アトピー性皮膚炎等に有効な皮膚外用剤が得られることは知られている。
【0003】
トチュウ(杜仲)(学名Eucommia ulmoides)は、中国原産のトチュウ目トチュウ科の落葉高木で、生薬としては樹皮が利用されている。
トチュウの樹皮(これを杜仲という場合もある)は『神農本草経』の上品に収載され、腰痛、足腰の倦怠感解消、頻尿、肝機能・腎機能の強化、高血圧に効果があるとされている。
また、トチュウの葉は杜仲茶として、血圧の降下や肝機能の機能向上に効果があるとされ、広く飲料として利用されている。
皮膚外用剤としては樹皮に美白作用があることが知られ(特許文献1)、部位は判然としないが、抗酸化作用がある(特許文献2)。
しかしながら、トチュウの葉の抽出物がフィラグリン、ロリクリン、コルネオデスモシン等の産生を促進することは知られていなかった。
【0004】
エゾウコギ(Acanthopanax senticosus)は、北海道、中国東北部、ロシアシベリア地方に自生する落葉低木で、根を薬用として用いられている。
医薬品等の用途では、ストレス性胃潰瘍の治療または予防、活性酸素消去酵素の活性促進、パーキンソン病の予防、グルタチオンレダクターゼの活性増強、セラミド合成促進、メラニン生成抑制等の作用があることが知られている(特許文献3〜9)。
しかしながら、エゾウコギがフィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、コルネオデスモシン等の産生を促進することは知られていなかった。
【0005】
大葉月橘はムクロジ目、ミカン科、ゲッキツ属の植物で学名Murraya koenigiiで、中国南部、インド、東アジアに広く分布し、乾燥した低地に自生する常緑の低木または高木で、成長すると高さ4〜6mほどになる。
南洋山椒、カレーノキ(カレーの木)とも呼ばれ、香辛料として用いられている。
皮膚外用剤として、抗酸化、美白、ヒアルロニダーゼ阻害、抗菌等の用途が知られている(特許文献10〜13)。
しかしながら、大葉月橘の葉および/または葉軸の抽出物がフィラグリン、インボルクリン、ロリクリン、コルネオデスモシン等の産生を促進することは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−159623号公報
【特許文献2】特開平10−17436号公報
【特許文献3】特開平05−186360号公報
【特許文献4】特開2002−003391号公報
【特許文献5】特開2002−029992号公報
【特許文献6】特開2002−284695号公報
【特許文献7】特開2006−111545号公報
【特許文献8】特開2006−111560号公報
【特許文献9】特開2006−117613号公報
【特許文献10】特開平07−061918号公報
【特許文献11】特開平07−082133号公報
【特許文献12】特開平07−138180号公報
【特許文献13】特開平08−225420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は少なくともフィラグリン、ロリクリン、またはコルネオデスモシンの産生を促進することによって、これらの欠乏に起因するI型アレルギー疾患を予防・治療する予防・治療剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、フィラグリン、ロリクリン、またはコルネオデスモシンの欠乏に起因する疾患を予防・治療する予防・治療剤であって、これらフィラグリン、ロリクリン、またはコルネオデスモシンの産生を促進するフィラグリン産生促進剤、ロリクリン産生促進剤、またはコルネオデスモシン産生促進剤を有効成分として含み、上記フィラグリン産生促進剤、ロリクリン産生促進剤、またはコルネオデスモシン産生促進剤がトチュウの葉の抽出物、エゾウコギの根の抽出物、または大葉月橘の葉および/または葉軸の抽出物であり、上記疾患がI型アレルギー疾患であることを特徴とする。特に上記I型アレルギー疾患が花粉症であることを特徴とする。
【0009】
上記エゾウコギの根の抽出物は、さらにインボルクリンの欠乏に起因する疾患を予防・治療するインボルクリン産生促進剤であることを特徴とする。
また、上記大葉月橘の葉および/または葉軸の抽出物は、さらにインボルクリンの欠乏に起因する疾患を予防・治療するインボルクリン産生促進剤であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
トチュウの葉の抽出物、エゾウコギの根の抽出物、または大葉月橘の葉および/または葉軸の抽出物を有効成分として含有する予防・治療剤は、少なくともフィラグリン、ロリクリン、またはコルネオデスモシンの産生を促進することができるので、I型アレルギー疾患、特に花粉症に有効な予防・治療剤が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1のフィラグリンの遺伝子発現量を示す図である。
図2】実施例1のロリクリン、コルネオデスモシンの遺伝子発現量を示す図である。
図3】実施例1、実施例2−1、実施例2−2のフィラグリンの遺伝子発現量を示す図である。
図4】実施例3のフィラグリンに対する特異抗体を用いたウエスタンブロット図である。
図5】実施例1のMTT試験結果である。
図6】実施例4のフィラグリンの遺伝子発現量を示す図である。
図7】実施例4のロリクリン、コルネオデスモシン、インボルクリンの遺伝子発現量を示す図である。
図8】実施例5のコルネオデスモシンの遺伝子発現量を示す図である。
図9】実施例5のフィラグリン、ロリクリン、インボルクリンの遺伝子発現量を示す図である。
図10】実施例6−1および実施例6−2のフィラグリンの遺伝子発現量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らが鋭意検討した結果、トチュウの葉の抽出物、エゾウコギの根の抽出物、または大葉月橘の葉および/または葉軸の抽出物が少なくともフィラグリン、ロリクリン、またはコルネオデスモシンの産生を促進することがわかった。また、これら抽出物が花粉症の予防・治療に効果があることを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0013】
トチュウの葉、およびエゾウコギの根は、乾燥した後、抽出効率を考えると、細切,乾燥,粉砕等の処理を行った後に抽出を行うことが好ましい。
乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。
【0014】
大葉月橘の葉等は、カレーリーフとして、生葉あるいは乾燥物として容易に入手可能である。
大葉月橘の葉および/または葉軸より抽出する場合は、未乾燥のものを利用する場合は乾燥した方が抽出効率がよいので、必要により乾燥する。乾燥は天日乾燥や乾燥機を用いて通常通り乾燥し、必要に応じて細断して抽出に用いる。
【0015】
抽出に用いる溶媒としては、水もしくは親水性有機溶媒またはこれらの混合液を用いる。抽出溶媒として使用し得る水としては、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、ろ過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。従って、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0016】
また、抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン類、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール類などが挙げられ、これら親水性有機溶媒と水との混合溶媒などを用いることができる。
【0017】
なお、水と親水性有機溶媒との混合溶媒を使用する場合には、水10質量部に対して、低級アルコール類の場合は1〜20質量部、低級脂肪族ケトン類の場合は1〜15質量部、多価アルコール類の場合は1〜20質量部添加することが好ましい。
【0018】
抽出に用いる溶媒の量は、原料となるトチュウの葉、エゾウコギの根、または大葉月橘の葉および/または葉軸の単位質量に対して望ましくは5〜100倍量程度、さらに望ましくは10〜50倍量程度がよい。さらに抽出効率を上げるため、抽出溶媒中で撹拌やホモジナイズしてもよい。抽出温度としては、5℃程度から抽出溶媒の沸点以下の温度とするのが適切である。抽出時間は抽出溶媒の種類や抽出温度によっても異なるが、1時間〜14日間程度とするのが適切である。
なお、抽出操作は1回のみの操作に限定されるものではない。抽出後の残渣に再度新鮮な溶媒を添加し、抽出操作を施すこともできるし、抽出溶媒を複数回抽出原料に接触させることも可能である。
【0019】
必要ならば、その効果に影響のない範囲で更に脱臭、脱色等の精製処理を加えてもよく、エバポレーターのような減圧濃縮装置や加熱による溶媒除去などにより、濃縮することができる。
また、この抽出物を合成吸着剤(ダイアイオンHP20やセファビースSP825、アンバーライトXAD4、MCIgelCHP20P等)やデキストラン樹脂(セファデックスLH−20など)、限外濾過等を用いてさらに精製することも可能である。
【0020】
本発明は、経口、注射、外用のいずれでも薬効を発現するが、食品、医薬品に使用できる。例えば、散剤、丸剤、錠剤、注射剤、坐剤、乳剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤(チンキ剤、流エキス剤、酒精剤、懸濁剤、リモナーデ剤などを含む)、ゲル剤、エアゾール剤、軟膏、パップ剤、ペースト剤、プラスター剤、錠菓、飲料等が挙げられる。
【0021】
また、本発明の予防・治療剤には、上記抽出成分を必須成分として、食品、医薬品の製剤において使用されている他の成分を配合できる。
【実施例】
【0022】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
実施例1
反応容器内に、トチュウの葉(乾燥物、細断品)を50g投入し、これに30%(V/V)エタノール水溶液1リッターを加え、ときどき撹拌しながら、25℃で24時間抽出後、JIS P3801に規定されるNo5Cの濾紙を用いて濾過し、これを凍結乾燥した。
【0023】
実施例2
反応容器内に、トチュウの葉(乾燥物、細断品)を50g投入し、これに30%(V/V)エタノール水溶液1リッターを加え、ときどき撹拌しながら、25℃で24時間抽出後、限外濾過(アドバンテック ウルトラフィルター Q0100 分画分子量10,000)した。
膜透過液(実施例2−1)と膜不透過液(実施例2−2)を別々に凍結乾燥した。
【0024】
実施例3
反応容器内に、トチュウの葉(乾燥物、細断品)を50g投入し、これに30%(V/V)エタノール水溶液1リッターを加え、ときどき撹拌しながら、25℃で24時間抽出後、限外濾過(ミリポア ウルトラセル−PL公称分画分子量1,000)し、膜不透過液を凍結乾燥した。
【0025】
得られた抽出物について、以下の確認試験を行った。
確認試験
2継代目のヒト包皮由来表皮細胞(クラボウ)を50−70%コンフルエントとなるようHuMedia−KG2培地(フェノールレッド不含)で培養後、前日にカルシウム濃度を1.8mMに変更したHuMedia−KG2培地に、各実施例を添加し、37℃、5%CO2インキュベータ中で2日間培養した。
【0026】
<RNAの抽出>
細胞からの Total RNAの抽出は、トリプシン/EDTAで剥離後、SV Total RNA Isolation System(プロメガ社)を用い、プロメガ社の添付マニュアル(日本語プロトコールNoTM048J2001年6月作成)に従い調製した。RNA濃度は、NanoDrop1000(Thermo SCIENTIFIC)を用い算出した。
【0027】
<RT反応およびリアルタイムPCR>
2.5μgのTotal RNAを使い、MMLV Reverse Transcriptase RNaseH−(東洋紡社)を用い、東洋紡社推奨プロトコール(TOYOBO BIOCHEMICALS FOR LIFE SCIENCE 2008/2009のページ1−42)に従いRT反応を行った。
リアルタイムPCRはAppliedBiosystems 7500 リアルタイムPCR Systemを用い、以下のように実施した。SYBR Green法を用い(THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix,東洋紡社)、7500 リアルタイムPCR Systemの操作マニュアル(AppliedBiosystems)を用いて、Comparative CT(△△CT)法(n=3)により遺伝子発現比較を実施した。内部標準としてGAPDHを使用した。
【0028】
<使用プライマー>
フィラグリン:フォワードプライマーがGGCAAATCCTGAAGAATCC(配列番号1)の塩基配列と、リバースプライマーがTGCTTTCTGTGCTTGTGTCC(配列番号2)の塩基配列とのセット
ロリクリン:フォワードプライマーがGGAGTTGGAGGTGTTTTCCA(配列番号3)の塩基配列と、リバースプライマーがACTGGGGTTGGGAGGTAGTT(配列番号4)の塩基配列とのセット
コルネオデスモシン:フォワードプライマーがCCCATCTCTGAGGGCAAATA(配列番号5)の塩基配列と、リバースプライマーがCTAGAACTGCTGGGGACTCG(配列番号6)の塩基配列とのセット
GAPDH:フォワードプライマーがGAGTCAACGGATTTGGTCGT(配列番号7)の塩基配列と、リバースプライマーがTTGATTTTGGAGGGATCTCG(配列番号8)の塩基配列とのセット
【0029】
図1および図2にリアルタイムPCRの結果を示す。図1は、実施例1の終濃度0.1質量%での確認試験結果であり、フィラグリンの遺伝子発現量を示す図である。図2は、実施例1の終濃度0.1質量%での確認試験結果であり、ロリクリン、コルネオデスモシンの遺伝子発現量を示す図である。図1および図2において、縦軸は実施例1を添加していない場合の遺伝子発現量を1としたときの遺伝子発現量を相対値で表している。また*印はt検定において有意水準5%で有意であることを示している。
図1および図2に示すように、実施例1は0.1質量%濃度で、フィラグリンの遺伝子発現量を約4倍に、ロリクリンの遺伝子発現量を約3.5倍に、コルネオデスモシンの遺伝子発現量を約2.5倍に、それぞれ増加させることがわかった。
【0030】
図3は、フィラグリンの遺伝子発現増加量を指標に限外濾過による分画の効果を確認するため、実施例1、実施例2−1、実施例2−2の終濃度0.2質量%での確認試験結果である。縦軸は各実施例を添加していない場合の遺伝子発現量を1としたときの遺伝子発現量を相対値で表している。
図3に示すように、実施例2−2の遺伝子発現量が他の実施例より増加量が多く、有効性成分の多くが、限外濾過で分画した場合に分子量10,000以上の分画に存在することがわかった。
【0031】
図4は、タンパク質レベルでの増加も確認するため、実施例3でのフィラグリン0.1質量%に対する特異抗体を用いたウエスタンブロットの結果を示す図である。
図4に示すように、タンパク質レベルでも明らかな増加が認められた。
【0032】
図5は、実施例1を0.1質量%濃度で細胞に作用させたときのMTT試験結果である。
図5に示すように、実施例1を配合しないコントロールを1として比較したところ、両者に差がなく、実施例1に細胞毒性がないことを確認した。
なお、MTT活性の確認方法は以下のように行った。
24well plateで、確認試験と同一条件で培養した後、培地を交換し、1/10量の5mg/ml 3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイドを添加してさらに4時間培養後、等量の0.04N塩酸を含むイソプロパノールを添加して完全に溶解する。この溶液をリファレンス波長630nm、測定波長560nmで測定して、コントロールに対する相対値として算出した。
【0033】
実施例4
反応容器内に、エゾウコギの根(乾燥物、細断品)を50g投入し、これに50%(V/V)エタノール水溶液1リッターを加え、ときどき撹拌しながら、25℃で24時間抽出後、JIS P3801に規定されるNo5Cの濾紙を用いて濾過し、これを凍結乾燥した。
【0034】
得られた抽出物について、実施例1と同様な方法で確認試験を行った。なお、RT反応およびリアルタイムPCRにおける使用プライマーとして、以下のプライマーを追加して使用した。
インボルクリン:フォワードプライマーがGATGTCCCAGCAACACACAC(配列番号9)の塩基配列と、リバースプライマーがTGCTCACATTCTTGCTCAGG(配列番号10)の塩基配列とのセット
【0035】
図6および図7にリアルタイムPCRの結果を示す。図6は、実施例4の終濃度0.01質量%および0.02質量%での確認試験結果であり、フィラグリンの遺伝子発現量を示す図である。図7は、実施例4の終濃度0.01質量%での確認試験結果であり、ロリクリン、コルネオデスモシン、インボクリンの遺伝子発現量を示す図である。図6および図7において、縦軸は実施例4を添加していない場合の遺伝子発現量を1としたときの遺伝子発現量を相対値で表している。また*印はt検定において有意水準5%で有意であり、**印は有意水準1%で有意であることをそれぞれ示している。
図6に示すように、実施例4はフィラグリンの遺伝子発現量を、0.01質量%で約10倍に、0.02質量%で約20倍に増加させることがわかった。
また、図7に示すように、ロリクリンの遺伝子発現量を約8.5倍に、コルネオデスモシンの遺伝子発現量を約3.5倍に、インボルクリンの遺伝子発現量を約1.5倍に、それぞれ増加させることがわかった。
【0036】
実施例5
反応容器内に、大葉月橘の葉および/または葉軸(乾燥物、細断品)を30g投入し、これに50%(V/V)エタノール水溶液1リッターを加え、ときどき撹拌しながら、25℃で24時間抽出後、JIS P3801に規定されるNo5Cの濾紙を用いて濾過し、これを凍結乾燥した。
【0037】
実施例6
実施例5と同様に抽出した液(実施例5の凍結乾燥前)を限外濾過(ミリポア社製ウルトラセルPL・分画分子量1,000)した。
膜透過液(実施例6−1)と膜不透過液(実施例6−2)を別々に凍結乾燥した。
【0038】
図8図10にリアルタイムPCRの結果を示す。図8は、実施例5の終濃度0.1質量%での確認試験結果であり、コルネオデスモシンの遺伝子発現量を示す図である。図9は、実施例5の終濃度0.1質量%での確認試験結果であり、フィラグリン、ロリクリン、インボルクリンの遺伝子発現量を示す図である。図10は、フィラグリンの遺伝子発現増加量を指標に限外濾過による分画の効果を確認するため、実施例6−1の終濃度0.1質量%、実施例6−2の終濃度0.02質量%での確認試験結果である。図8図10において、縦軸は各実施例を添加していない場合の遺伝子発現量を1としたときの遺伝子発現量を相対値で表している。
図8および図9に示すように、実施例5は0.1質量%で作用させたとき、コルネオデスモシンの遺伝子発現量を約23倍に、フィラグリン、ロリクリンの遺伝子発現量を約3倍に、インボルクリン遺伝子発現量を約6倍に増加させることがわかった。
また、図10に示すように、分子量1,000で限外濾過を用いて分画したところ、分子量1,000以上の分画が、分画前、あるいは分子量1,000以下の分画より1/5の濃度(0.02質量%)でも遺伝子発現量はさらに3倍以上の発現量を示した。
【0039】
実施例7〜実施例9、比較例1
実施例1で得られた抽出物を有効成分とする花粉症の予防・治療するための飲料を実施例7として、同実施例4で得られた抽出物を有効成分とする飲料を実施例8として、同実施例5で得られた抽出物を有効成分とする飲料を実施例9として、以下の成分表の割合で配合して均一に撹拌して作製した。なお、比較例1の飲料は実施例1、実施例4または実施例5で得られた抽出物を精製水に置き換えたものである。
飲料の成分表
実施例1、実施例4または実施例5で得られた抽出物 1g
キシリトール 10g
ビタミンB1塩酸塩 0.5mg
ビタミンB2 0.2mg
ビタミンC 500mg
ナイアシン 1.0mg
パントテン酸カルシウム 1.0mg
精製水 100g
【0040】
花粉症を発症している男性被験者9名を3名ずつ第一、第二、第三の3グループに分けて、第一のグループには実施例7の飲料を、第二のグループには実施例8の飲料を、第三のグループには実施例9の飲料を、朝昼夕の3回、飲料50mlをそれぞれ飲用してもらった。試験は7日間行い、起床から就寝までを1日とし、クシャミの回数(1回を1点とする)、鼻をかんだ回数(1回を1点とする)、喉の違和感の程度(0〜3点、違和感がひどいと点数が高い)により花粉症の症状を判定した。7日間の合計点数を算出し、3名の平均値として評価した。試料の飲用を止め何も処置をせずに過ごすと、3日後には試験以前の状態に戻ったので、試験終了後7日間を空けて、比較例1による試験を行った。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
表1に示すように、実施例7〜9の飲料の飲用期間において、明らかな花粉症の諸症状の改善が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、トチュウの葉の抽出物、エゾウコギの根の抽出物、または大葉月橘の葉および/または葉軸の抽出物を有効成分として含有するので、I型アレルギー疾患、特に花粉症に有効な予防・治療剤が得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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