(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.超電導線材用基板
本発明の超電導線材用基板は、最表層の金属の結晶配向が、c軸配向率99%以上であり、Δφ(面内配向度)が6°以下であり、且つ結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合が単位面積(1mm
2)あたり6%以下であることを特徴とする。ここで、Δφは面内配向度を示す。Δφは平均値であり、1つ1つの結晶粒がどれくらいずれているかは不明であるため、結晶方位が(001)[100]から特定の角度以上ずれている面積の割合の指数とはならない。
【0017】
本発明において、「結晶方位が(001)[100]から○○°以上ずれている面積の割合」とは、EBSD法で観察した場合に、(001)[100]からの角度差が○○°以上である結晶の面積の割合をいう。ここで、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction:電子後方散乱回折)とは、SEM(Scanning Electron Microscope:走査電子顕微鏡)内で試料に電子線を照射したときに生じる反射電子菊池線回折(菊池パターン)を利用して結晶方位を解析する技術である。通常、電子線は最表層表面に照射され、このとき得られる情報は電子線が侵入する数10nmの深さまでの方位情報、すなわち最表層の方位情報である。
【0018】
本発明の超電導線材用基板は、最表層の金属の結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合が単位面積あたり6%以下であることを特徴とする。基板の最表層の金属の結晶方位をこのようにすることにより、この基板を用いて得られる超電導線材の超電導特性を向上させることができる。
【0019】
本発明の超電導線材用基板において、好ましくは、その最表層の金属の結晶方位が(001)[100]から10°以上ずれている面積の割合は単位面積あたり1%未満であり、15°以上ずれている面積の割合は単位面積あたり0.3%未満である。このようにすることで、得られる超電導線材において非常に優れた超電導特性を達成できる。
【0020】
本発明の超電導線材用基板の最表層は、面心立方格子金属であることが好ましく、例えばニッケル、銅、銀、アルミニウム、パラジウムよりなる群から選ばれる1種以上又はそれらの合金からなり、二軸結晶配向のしやすさ及び中間層との格子マッチングが良好であることから、好ましくは銅、ニッケル又はそれらの合金からなる。
【0021】
本発明の超電導線材用基板は、最表層が前記の金属の結晶配向及び結晶方位を有していればよく、その下層に無配向の別の金属層があってもよい。
【0022】
本発明の超電導線材用基板の厚さは特に限定されないが、50μm〜200μmであることが好ましい。厚さが50μm未満であると基板の機械的強度が確保できず、厚さが200μmより大きいと超電導線材を加工する際の加工性が確保できないためである。
【0023】
本発明の一つの実施形態において、本発明の超電導線材用基板は、非磁性の金属板と、非磁性の金属板の上に積層された結晶配向した高圧延金属層(以下、結晶配向金属層とも呼ぶ。なお、高圧延金属層を熱処理することで結晶配向させたものを結晶配向金属層と呼ぶ。)とを含む。なお、高圧延金属層は、非磁性の金属板の片面のみに積層させても良く、あるいは金属板の両面に積層させても良い。
【0024】
本発明において、「非磁性」とは、77K以上で強磁性体ではない、すなわちキュリー点やネール点が77K以下に存在し、77K以上の温度では常磁性体又は反強磁性体となる状態をいう。非磁性の金属板としては、ニッケル合金やオーステナイト系ステンレス鋼板が、強度に優れた補強材としての役割を有することから好ましく用いられる。
【0025】
一般に、オーステナイト系ステンレス鋼は、常温では非磁性の状態、すなわち金属組織
が100%オーステナイト(γ)相であるが、強磁性体であるマルテンサイト(α’)相
変態点(Ms点)が77K以上に位置している場合、液体窒素温度で強磁性体であるα’
相が発現する可能性がある。そのため、液体窒素温度(77K)下で使用される超電導線
材用基板としては、Ms点が77K以下に設計されているものが好ましく用いられる。
【0026】
使用するγ系ステンレス鋼板としては、Ms点が77Kより十分に低く設計された安定
なγ相を有し、且つ一般に普及し、比較的安価に入手できるという点から、SUS316
やSUS316L、SUS310やSUS305等の板材が好ましく用いられる。これら
の金属板の厚さは、通常20μm以上であれば適用可能であり、超電導線材の薄肉化及び
強度を考慮すると、50μm〜100μmであることが好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
【0027】
本発明において、「高圧延金属層」とは、最終圧延時の圧下率が好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の高圧下率で冷間圧延され、かつ、その冷間圧延後再結晶のための熱処理を施されず、冷間圧延により発達した圧延集合組織を保持した金属層を意味する。圧下率が90%未満であると後に行う熱処理において金属が配向しないおそれがある。
【0028】
本発明の基板に用いられる高圧延金属層は、圧延後に熱処理を施すことにより結晶配向する金属、例えばニッケル、銅、銀、及びアルミニウムよりなる群から選ばれる1種以上又はそれらの合金から選択することができるが、二軸結晶配向のしやすさ及び中間層との格子マッチングが良好であることから、好ましくは銅又は銅合金からなる。
【0029】
高圧延金属層には、後記の熱処理による2軸結晶配向性をより向上させるため、1%以下程度の微量の元素を含有させても良い。このような添加元素としては、Ag、Sn、Zn、Zr、O及びN等から選択される一種以上の元素が挙げられる。これらの添加元素と高圧延金属層に含まれる金属とは固溶体を形成するが、添加量が1%を超えると固溶体以外の酸化物等の不純物が増加してしまい、結晶配向性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0030】
高圧延金属層としては、金属箔が好ましく用いられる。用いることができる金属箔は、一般的にも入手可能であり、例えば、銅箔として、JX日鉱日石金属(株)製の高圧延銅箔(HA箔(商品名))や、日立電線(株)製の高圧延銅箔(HX箔(商品名))等がある。
【0031】
高圧延金属層の厚さは、高圧延金属層自体の強度を確保するとともに、後に超電導線材を加工する際の加工性を良好にするため、通常7μm〜70μmの範囲とすることが好ましい。
【0032】
本発明の超電導線材用基板において、基板の最表層の金属の結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合を単位面積あたり6%以下にするための一つの方法として、光沢度が、例えば45以下、好ましくは20〜45の範囲、より好ましくは20〜43の範囲である銅箔等の高圧延金属層を用いることができる。ここで、光沢度は、後記の基板の製造方法において、非磁性の金属板上に積層される前であり、且つ圧延後の高圧延金属層について色差計でL
*、a
*、b
*を測定して得られるL値である。
【0033】
また、本発明の超電導線材用基板は、結晶配向金属層の上に形成された保護層を含んでいてもよい。
【0034】
本発明の超電導線材用基板に用いられる保護層は、面心立方格子金属が好ましく、例えば、ニッケル、パラジウム、銀又はそれらの合金からなり、好ましくはニッケル又はニッケル合金からなる。ニッケルを含む保護層は耐酸化性に優れ、また保護層が存在することによって、その上にCeO
2等の中間層を形成する際に、結晶配向金属層に含まれる金属の酸化膜が生成して結晶配向性が崩れることを防止することができるためである。ニッケル、パラジウム又は銀の合金の含有元素としては、磁性が低減されるものが好ましく、例としてCu、Sn、W、Cr等の元素が挙げられる。また、結晶配向性に悪影響を及ぼさない範囲であれば、不純物を含んでいても良い。
【0035】
保護層の厚さは、薄過ぎると、超電導線材の製造において、その上に中間層、超電導層を積層する際に結晶配向金属層中の金属が保護層表面まで拡散することにより表面が酸化する可能性があり、また厚過ぎると保護層の結晶配向性が崩れ、めっき歪も増大するため、これらを考慮して適宜設定される。具体的には、1μm〜5μmの範囲であることが好ましい。
【0036】
2.超電導線材用基板の製造方法
本発明の超電導線材用基板は、熱処理により、c軸配向率が99%以上であり、Δφが6°以下であり、且つ結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合が単位面積あたり6%以下である層を形成させる工程を含む方法によって製造できる。
【0037】
本発明の一つの実施形態において、熱処理により形成される、c軸配向率が99%以上であり、Δφが6°以下であり、且つ結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合が単位面積あたり6%以下である層は結晶配向金属層である。
【0038】
熱処理は、例えば、温度150℃以上で施す。熱処理時間は温度によって異なるが、例えば400℃であれば1〜10時間、700℃以上の高温であれば数秒〜5分程度保持するとよい。熱処理温度をあまり高温にすると高圧延金属層が2次再結晶を起こしやすくなり、結晶配向性が悪くなるため、150℃以上1000℃以下で行う。後の中間層や超電導層を形成する工程で基板が600℃〜900℃の高温雰囲気におかれることを考慮した場合、600℃〜900℃での熱処理が好ましい。より好ましくは段階的に、低温での熱処理の後、高温での熱処理熱処理を行うことにより、結晶配向金属層及びその後形成する保護層の結晶配向及び表面粗度が良好となる。具体的には200〜400℃での熱処理の後、800〜900℃の熱処理を行うのが特に好ましい。
【0039】
本発明の一つの実施形態において、超電導線材用基板は、非磁性の金属板と、高圧延金属層とを表面活性化接合にて積層する工程と、c軸配向率が99%以上であり、Δφが6°以下であり、且つ結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合が単位面積あたり6%以下となるように高圧延金属層の熱処理を行う工程とを含む方法によって製造する。
【0040】
本発明の超電導線材用基板の製造方法において、得られる超電導線材用基板の最表層の結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合を単位面積あたり6%以下にするためには、例えば、用いられる銅箔等の高圧延金属層の光沢度を調整する方法が挙げられる。高圧延金属層の光沢度は、例えば45以下、好ましくは20〜45の範囲、より好ましくは20〜43の範囲である。ここで、光沢度は、非磁性の基板に積層される前の圧延後の高圧延金属層について色差計でL
*、a
*、b
*を測定して得られるL値である。また、前記の高圧延金属層の光沢度を調整する方法以外にも、特に限定されずに、例えば、高圧延金属層の圧延集合組織中のカッパー方位(Copper方位)の割合を高くすると共にブラス方位(Brass方位)の割合を低くすることによって、熱処理後の基板の最表層の結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合を単位面積あたり6%以下にすることができる。
【0041】
本発明の超電導線材用基板の製造方法における、非磁性の金属板と高圧延金属層とを表面活性化接合にて積層する工程について、表面活性化接合では、非磁性の金属板及び高圧延金属層のそれぞれの表面にスパッタエッチング処理を行うことにより表面吸着層及び表面酸化膜を除去して活性化させ、その後、活性化した2つの面同士を冷間圧接することにより接合する。
【0042】
表面活性化接合は、具体的には、非磁性の金属板及び高圧延金属層を、幅150mm〜600mmの長尺コイルとして用意し、接合する2つの面を予め活性化処理した後、冷間圧接する。
【0043】
表面活性化処理は、接合面を有する非磁性の金属板と高圧延金属層をそれぞれアース接地した一方の電極とし、絶縁支持された他の電極との間に1MHz〜50MHzの交流を印加してグロー放電を発生させ、且つグロー放電によって生じたプラズマ中に露出される電極の面積が前記の他の電極の面積の1/3以下でスパッタエッチング処理することで行われる。不活性ガスとしては、アルゴン、ネオン、キセノン、クリプトンなどや、これらを少なくとも1種類含む混合気体を適用することができる。
【0044】
スパッタエッチング処理では、非磁性の金属板及び高圧延金属層の接合する面を不活性ガスによりスパッタすることにより、少なくとも表面吸着層を除去し、さらに表面酸化膜を除去してもよく、この処理により接合する面を活性化させる。このスパッタエッチング処理中は、前記のアース接地した電極が冷却ロールの形をとっており、各搬送材料の温度上昇を防いでいる。
【0045】
その後、連続的に圧接ロール工程に搬送し、活性化された面同士を圧接する。圧接下の雰囲気は、O
2ガスなどが存在すると、搬送中、活性化処理された面が再酸化され密着に影響を及ぼす。前記圧接工程を通って密着させた積層体は、巻き取り工程まで搬送され、そこで巻き取られる。
【0046】
なお、前記スパッタエッチング工程において、接合面の吸着物は完全に除去するものの、表面酸化層は完全に除去する必要はない。表面全体に酸化層が残留していても、接合工程で圧下率を上げ、接合面での摩擦により素地を露出させることで、非磁性の金属板と高圧延金属層との接合性を確保することができるからである。
【0047】
また、乾式エッチングで酸化層を完全に除去しようとすると、高プラズマ出力、又は長時間のエッチングが必要となり、材料の温度が上昇してしまう。スパッタエッチング処理において、温度が、高圧延金属層中の金属の再結晶開始温度以上に上昇すると高圧延金属層の再結晶が起こり、高圧延金属層は接合前に結晶配向してしまうこととなる。結晶配向した高圧延金属層を圧延すると、高圧延金属層に歪が導入され、高圧延金属層の2軸結晶配向性が劣化する。このような理由から、スパッタエッチング工程では、高圧延金属層の温度を、金属の再結晶開始温度未満に保持する必要がある。例えば、高圧延金属層として銅箔を用いる場合、銅箔の温度を150℃未満に保持する。好ましくは、100℃以下に保持し高圧延金属層の金属組織を圧延集合組織のまま保持する。
【0048】
また、非磁性の金属板をスパッタエッチングする処理においても、高プラズマ出力で処理したり、時間をかけ金属板温度を高圧延金属層中の金属の再結晶開示温度以上にしたりすると、圧接時に高圧延金属層との接触で高圧延金属層の温度が上昇し、圧延と同時に高圧延金属層の再結晶が起こり、2軸結晶配向性が劣化するおそれがある。
【0049】
このため、非磁性の金属板のスパッタエッチング工程においても、金属板の温度を高圧延金属層中の金属の再結晶開始温度未満に保つことが望ましい。例えば、高圧延金属層として銅箔を用いる場合、150℃未満に銅箔を保持する。好ましくは、高圧延金属層を常温〜100℃に保つのがよい。
【0050】
このように非磁性の金属板及び高圧延金属層の表面を活性化処理した後、両者を真空中で圧延ロールにて接合する。この時の真空度は、表面への再吸着物を防止するため高い方が好ましいが、10
−5Pa〜10
−2Paの範囲の真空度であればよい。
【0051】
また、非磁性の金属板表面や高圧延金属層表面への酸素の再吸着によって両者間の密着強度が低下するので、非酸化雰囲気中、例えばArなどの不活性ガス雰囲気中で前記圧延ロール接合をすることも好ましい。
【0052】
圧延ロールによる加圧は、接合界面の密着面積の確保、及び圧下時の接合界面で起こる摩擦により一部表面酸化膜層を剥離させ、素地を露出させるために行い、300MPa以上加えることが好ましく、特に、非磁性の金属板及び高圧延金属層は、共に硬い材料であるため、600MPa以上1.5GPa以下での加圧が好ましい。圧力はこれ以上かけてもよく、圧下率で30%までは後の熱処理後に結晶配向性が劣化しないことは確認しているが、好ましくは、5%未満の圧下率となるように加圧する。圧下率で30%を超えるような圧力を加えると、高圧延金属層表面にクラックが発生するとともに、圧延、熱処理後の結晶配向金属層の結晶配向性が悪くなる。
【0053】
以上のような表面活性化接合によって積層した非磁性の金属板と高圧延金属層との積層体を、c軸配向率が99%以上であり、Δφが6°以下であり、且つ結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合が単位面積あたり6%以下となるように高圧延金属層の熱処理を行う。熱処理は、前記の通り、例えば、温度150℃以上で施す。熱処理時間は温度によって異なるが、例えば400℃であれば1〜10時間、700℃以上の高温であれば数秒〜5分程度保持するとよい。熱処理温度をあまり高温にすると高圧延金属層が2次再結晶を起こしやすくなり、結晶配向性が悪くなるため、150℃以上1000℃以下で行う。後の中間層や超電導層を形成する工程で基板が600℃〜900℃の高温雰囲気におかれることを考慮した場合、600℃〜900℃での熱処理が好ましい。より好ましくは段階的に、低温での熱処理の後、高温での熱処理を行うことにより、結晶配向金属層及びその後形成する保護層の結晶配向及び表面粗度が良好となる。具体的には200〜400℃での熱処理の後、800〜900℃の熱処理を行うのが特に好ましい。
【0054】
前記の通り、本発明の超電導線材用基板は、結晶配向金属層の上に形成された保護層を含むことができる。高圧延金属層を熱処理して得た2軸結晶配向した結晶配向金属層と非磁性の金属板との積層体をめっき処理することにより、結晶配向金属層の上に結晶配向金属層の結晶配向を引き継いだ保護層を形成することができる。
【0055】
めっき処理は、保護層のめっき歪が小さくなるような条件を適宜採用して行うことができる。ここで、めっき歪とは、金属板等の下地にめっき処理を施した場合に、めっき皮膜内に生ずる歪(ひずみ)の度合いをいう。例えば、保護層としてニッケルからなる層を形成する場合は、めっき浴として従来知られたワット浴やスルファミン酸浴を用いて行うことができる。特に、スルファミン酸浴は、保護層のめっき歪を小さくしやすいため好適に用いられる。めっき浴組成の好ましい範囲は以下の通りであるが、これに限定されるものではない。
【0056】
ワット浴
硫酸ニッケル 200g/l〜300g/l
塩化ニッケル 30g/l〜60g/l
ホウ酸 30g/l〜40g/l
pH 4〜5
浴温 40℃〜60℃
【0057】
スルファミン酸浴
スルファミン酸ニッケル 200g/l〜600g/l
塩化ニッケル 0g/l〜15g/l
ホウ酸 30g/l〜40g/l
添加剤 適量
pH 3.5〜4.5
浴温 40℃〜70℃
【0058】
めっき処理を行う際の電流密度は、特に限定されるものではなく、めっき処理に要する時間とのバランスを考慮して適宜設定される。具体的には、例えば、保護層として2μm以上のめっき皮膜を形成する場合、低電流密度であるとめっき処理に要する時間が長くなり、その時間を確保するためにラインスピードが遅くなって、生産性が低下したり、めっきの制御が困難になる場合があるため、通常、電流密度を10A/dm
2以上とすることが好ましい。また、電流密度の上限は、めっき浴の種類によって異なり、特に限定されるものではないが、例えばワット浴であれば25A/dm
2以下、スルファミン酸浴であれば35A/dm
2以下とすることが好ましい。一般に、電流密度が35A/dm
2を超えると、所謂めっき焼けによって良好な結晶配向が得られない場合がある。
【0059】
形成した保護層は、めっき条件等によって表面にマイクロピットが発生する場合がある。その場合、必要に応じて、めっき後にさらに熱処理による平均化を行ない、表面を平滑にすることができる。その際の熱処理温度は、例えば700℃〜1000℃とすることが好ましい。
【0060】
また、保護層の上にさらにエピタキシャル成長によって積層させる中間層及び超電導化合物層の結晶配向性を良好に維持するため、必要に応じて、非磁性の金属板と高圧延金属層とを接合させた後、高圧延金属層の表面粗度Raを低減するための処理を行っても良い。具体的には、圧延ロールによる圧下、バフ研磨、電解研磨、電解砥粒研磨等の方法を用いることができ、これらの方法により、表面粗度Raを例えば20nm以下、好ましくは10nm以下にすることが望ましい。
【0061】
3.超電導線材
以上のような超電導線材用基板の上に、従来の方法に従って中間層及び超電導層を順次積層することにより、超電導線材を製造することができる。具体的には、超電導線材用基板の最表層の上に、CeO
2、YSZ、SrTiO
3、MgO、Y
2O
3等の中間層をスパッタリング法等の手段を用いてエピタキシャル成膜し、さらにその上にY123系等の超電導化合物層をPLD(パルスレーザー蒸着;Pulse Laser Deposition)法、MOD(有機金属成膜;Metal Organic Deposition)法、MOCVD(有機金属気相成長;Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法などの方法により成膜することによって超電導線材を得ることができる。中間層は複数層であってもよい。必要に応じて、超電導化合物層の上にさらにAg、Cu等からなる保護膜を設けても良い。
【実施例】
【0062】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
非磁性の金属板としてSUS316L(厚さ100μm)を用い、高圧延金属層として、圧下率96%〜99%で圧延され、色差計(日本電色工業株式会社NR−3000)で測定した圧延後の光沢度が42.8である銅箔(厚さ18μm)を用いた。SUS316Lと銅箔を表面活性化接合装置を用いて常温で表面活性化接合し、SUS316Lと銅箔の積層材を形成させた。
【0064】
表面活性化接合において、スパッタエッチングを、0.1Pa下で、プラズマ出力を200W、接合面へのスパッタ照射時間を20秒として実施し、SUS316L及び銅箔の吸着物層を完全に除去した。また圧延ロールでの加圧は600MPaとした。
【0065】
積層材の銅箔側表面を研磨により表面粗度Raを20nm以下とした後、積層材に温度250℃にて5分均熱保持の後、850℃にて5分均熱保持の条件にて連続熱処理炉にて熱処理を施して銅箔を2軸結晶配向させた。熱処理後の銅箔表面において後述するEBSDを用いて解析を行ったところ、結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合は4.9%であった。
【0066】
次に、積層材をカソードとして、銅箔上にニッケルめっきを施してニッケル層を保護層として形成させて基板を得た。めっき浴の組成は以下の通りである。なお、ニッケルめっき厚は2.5μmとし、めっき浴温は60℃、めっき浴のpHはpH4に設定した。
【0067】
(スルファミン酸浴)
スルファミン酸ニッケル 450g/l
塩化ニッケル 5g/l
ホウ酸 30g/l
添加剤 5ml/l
【0068】
(実施例2)
高圧延金属層として、圧下率96%〜99%で圧延された光沢度が43.2である銅箔(厚さ18μm)を用いる以外は実施例1と同様にした。なお、保護層形成前の、熱処理後の銅箔表面における結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合は3.9%であった。
【0069】
(比較例1)
高圧延金属層として、圧下率96%〜99%で圧延された光沢度が55.4である銅箔(厚さ18μm)を用いる以外は実施例1と同様にした。なお、保護層形成前の、熱処理後の銅箔表面における結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合は10.9%であった。
【0070】
実施例1、2及び比較例1で得られた基板の最表層の結晶配向及び結晶方位を測定した。
【0071】
(1)結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合
得られた基板をEBSD(日本電子株式会社SEM-840及び株式会社TSLソリューションズ DigiView)及び結晶方位解析ソフト(EDAX社OIM Data Collection及びOIM Analysis)を用いて解析し、1mm
2あたりの結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合を求めた。具体的には、「Crystal Orientation」にてOrientationを(001)[100]に設定し、その方向からの傾きの範囲を指定して、それぞれの範囲での面積率を算出した。
【0072】
例として、実施例2の基板の解析結果を
図1に示し、比較例1の基板の解析結果を
図2に示す。
図1及び
図2において、濃灰色又は灰色の領域は結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている結晶を示す。
図1に示される実施例2の基板は、
図2に示される比較例1の基板と比較して、結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積が明らかに小さい。
【0073】
(2)面内配向度(Δφ)
得られた基板をEBSD及び結晶方位解析ソフトを用い、「Crystal Direction」の<111>‖NDを用いて以下の方法で解析することにより得た:
1. 結晶座標系において、<111>を試料座標系のND[001]とあわせるような軸の回転操作を行う。
【0074】
2. その後、試料座標系のND[001]軸に対して、各測定点の結晶座標系の<111>軸がどれくらい傾いているかを測定点毎に算出する
3. 各点の傾きを積算グラフで表示し、縦軸:Number fractionが0.5のときの傾き:AlignmentをΔφの1/2とする。よって、Δφは得られた値の2倍とする。
【0075】
(3)c軸配向率
得られた基板について、X線回折装置(株式会社リガクRINT2000)にてθ/2θ測定を行い、(200)面のc軸配向を測定して得た。具体的には、c軸配向率(%)=I(200)/ΣI(hkl)×100(%)により求めた。
【0076】
結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
実施例1及び2の基板と比較例1の基板とは、Δφはそれぞれ0.3°〜0.6°程度の差であるが、基板の最表層の結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合の差は8%以上と大きく異なることから、Δφと結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合とは、比例関係等の直接対応する関係にはないことが分かる。つまり、単純にΔφが小さくなると、それに応じて結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合が少なくなるものではなく、Δφとずれている面積の割合とは別のファクターである。
【0079】
(実施例3及び比較例2)
実施例1及び比較例1で得られた基板上に、RFマグネトロンスパッタリング法により中間層(CeO
2、YSZ、Y
2O
3)を形成させ、MOD(有機金属成膜;Metal Organic Deposition)法により、中間層の上に0.15μmの厚さの超電導層(YBCO)を形成させて超電導線材を得た。実施例1の基板から得られたものを実施例3とし、比較例1の基板から得られたものを比較例2とする。実施例3及び比較例2の超電導線材の超電導線材10mm幅における臨界電流値Icを測定した。臨界電流値Icについては、温度が77Kで、自己磁場中において測定を行い、10
−6V/cmの電界が発生したときの通電電流値とした。結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
最表層の金属の結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合が多い(13.8%)基板を用いた比較例2の超電導線材に対し、最表層の金属の結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合が少ない(5.2%)基板を用いた実施例3の超電導線材では超電導特性の向上が認められた。
【0082】
(実施例4及び比較例3)
実施例2及び比較例1で得られた基板上に、RFマグネトロンスパッタリング法により、中間層(CeO
2、YSZ、CeO
2)を形成させ、PLD(パルスレーザー蒸着;Pulse Laser Deposition)法により、中間層の上に、それぞれ0.7μm、1.4μm、2.1μm及び2.8μmの厚さの超電導層(GdBCO)を形成させて超電導線材を得た。実施例1の基板から得られたものを実施例4−1〜4−4とし、比較例1の基板から得られたものを比較例3−1〜3−4とする。実施例4−1〜4−4及び比較例3−1〜3−4の超電導線材の超電導線材10mm幅における臨界電流値Icを測定した結果を表3及び
図3に示す。
図3中、○は実施例4−1〜4−4の超電導線材の臨界電流値Icを表し、□は比較例3−1〜3−4の超電導線材の臨界電流値Icを表す。
【0083】
【表3】
【0084】
表3及び
図3より、実施例4−1〜4−4及び比較例3−1〜3−4の超電導線材は、共に、超電導層の膜厚の増加に伴い超電導特性の向上がみられるが、最表層の金属の結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合が多い(13.8%)基板を用いた比較例3−1〜3−4に対し、最表層の金属の結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合が少ない(5.7%)基板を用いた実施例4−1〜4−4の電導線材は、いずれの膜厚においても超電導特性が向上しており、高い臨界電流密度を有することを示した。
【0085】
(参考例)
圧下率96〜99%で圧延した様々な光沢度の銅箔を箱型熱処理炉850℃にて5分の条件にて熱処理を施して銅箔を2軸結晶配向させた。EBSD法で銅箔の面内配向度(Δφ)及び結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合を測定した。結果を表4に示す。
【0086】
【表4】
【0087】
表4より、光沢度が45以下の銅箔を用いることにより、銅箔の結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合を6%以下にすることが可能となることが分かった。また、表4から、Δφと結晶方位が(001)[100]から6°以上ずれている面積の割合とは、比例関係等の直接対応する関係にはないことも分かる。特に、Δφの値が小さくなったにもかかわらず、6°以上ずれている面積の割合が逆に増加する場合が見られた。