特許第6244151号(P6244151)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244151
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】レーザ焼入れ方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/09 20060101AFI20171127BHJP
   C21D 9/28 20060101ALI20171127BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20171127BHJP
   B23K 26/04 20140101ALI20171127BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20171127BHJP
【FI】
   C21D1/09 M
   C21D9/28 A
   B23K26/352
   B23K26/04
   B23K26/00 G
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-196944(P2013-196944)
(22)【出願日】2013年9月24日
(65)【公開番号】特開2015-63715(P2015-63715A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 信行
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−204823(JP,A)
【文献】 特開昭57−013121(JP,A)
【文献】 特開昭60−258407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/09、 1/34
C21D 9/00− 9/44
B23K 26/00−26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザを軸部材に向けて照射して軸部材の外周部に焼入れを行うレーザ焼入れ方法であって、
軸部材の周囲に配置されてレーザを軸部材に照射する複数の照射源を用い、
複数の照射源のうち少なくとも一部の照射源による軸部材に対するレーザの照射方向を変化させ、且つ、複数の照射源のうちその他の照射源による軸部材に対する照射方向を固定すると共に軸部材を周方向に回転可能とし
軸部材における照射源によって最初に照射される位置を他の照射源によって最初に照射される位置と近傍とするとともに、照射源によって最後に照射される位置を他の照射源によって最後に照射される位置と近傍とすることを特徴とするレーザ焼入れ方法。
【請求項2】
複数の照射源のうち少なくとも一部の照射源は、軸部材の周方向に移動することによって、軸部材に対するレーザの照射方向を変化させることを特徴とする請求項1に記載のレーザ焼入れ方法。
【請求項3】
複数の照射源のうち少なくとも一部の照射源は、レーザの照射を行う位置を固定した状態でレーザの照射方向を変化させることによって、軸部材に対するレーザの照射方向を変化させることを特徴とする請求項1に記載のレーザ焼入れ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸部材の外周面にレーザによって焼入れを行うレーザ焼入れ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋼材などの金属の硬度を向上させるために、レーザ等を用いた焼入れを行う。レーザ焼入れは、焼入れする部位にレーザを照射して加熱し、加熱された部位から内部への熱伝導によって被加熱部位が急速に冷却されて焼入れ(硬化層の形成)されるものである。棒状または円筒状に形成されたシャフト等の軸部材の外周面にレーザの照射によって焼入れを行う場合、硬度のばらつきが生じるのを防止するため、軸部材の周方向に均一な硬化層を形成する必要がある。そのため、従来、所定方向から軸部材の一点に向けてレーザを照射させつつ、軸部材を一定速度で回転させることにより、軸部材の外周面の周方向に均一にレーザを照射する方法が採用されている。
【0003】
ここで、レーザを照射しながら被照射物である軸部材を一回転させる場合、照射の開始位置と終了位置との間に隙間が生じないように、被照射物を一回転よりも多めに(例えば370°)回転させる。しかしながら、この場合、軸部材においてレーザの照射が2回行われる部分が生じ、この部分は、一回目の照射後に冷却されて2回目の照射によって再加熱されることになる。そのため、焼戻しが発生して硬度が低下し、均一な焼入れができないという問題があった。
【0004】
これに対し、例えば、特許文献1には、被照射物を高速で回転させながら一定時間レーザを照射することにより、被照射物の周方向に均一な加熱を行う技術が開示されている。すなわち、モータによって回転する回転台に被照射物を載置し、この回転台を500rpmで高速回転させながら、所定の方向から115秒間継続してレーザを照射する。これにより、被照射位置が高速で移動していくので、被照射物の該表面に均一な厚さの硬化層を形成している。そして、高速で回転させることにより、照射後に冷却される前に再度加熱させることができるので、焼戻しの発生を抑えることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−315863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このように高回転で被照射物である軸部材を回転させて同一箇所に複数回レーザを照射する場合、被照射物の径が大きいと焼入れ深さが浅くなってしまい、形成される硬化層が薄くなってしまう。そのため、高速回転する被照射物にレーザ焼入れを行う場合は、被照射物の焼入れの深さを確保するために、照射するレーザの出力を大きくする必要がある。そのため、レーザを照射するためのレーザ発振器等のコストが増大してしまうという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、軸部材の外周に均一にレーザ焼入れを行う方法であって、照射するレーザの出力を大きくせずとも焼戻しの発生を抑止することが可能なレーザ焼入れ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るレーザ焼入れ方法は、レーザを軸部材に向けて照射して軸部材の外周部に焼入れを行うレーザ焼入れ方法であって、軸部材の周囲に配置されてレーザを軸部材に照射する複数の照射源を用い、複数の照射源のうち少なくとも一部の照射源による軸部材に対するレーザの照射方向を変化させ、且つ、複数の照射源のうちその他の照射源による軸部材に対する照射方向を固定すると共に軸部材を周方向に回転可能とし、軸部材における照射源によって最初に照射される位置を他の照射源によって最初に照射される位置と近傍とするとともに、照射源によって最後に照射される位置を他の照射源によって最後に照射される位置と近傍とすることを特徴とする。
【0009】
これにより、高速で軸部材を回転させて何度も同部位に照射しなくとも、軸部材の周方向に均一に焼入れすることができる。また、軸部材における照射源によるレーザ照射の開始位置と終了位置とを重ならないようにすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高速で軸部材を回転させて何度も同部位に照射する必要が無いため、レーザの出力を大きくしなくとも、軸部材における焼入れ深さを確保することができる。また、レーザ照射の開始位置と終了位置とが重ならないため、焼戻しの発生による軸部材の硬度低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の焼入れ装置の構成を概略的に示す概略図である。
図2】本発明のレーザ照射部の斜視図である。
図3】本発明のレーザ照射部の動作を概略的に表した図である。
図4】本発明の焼入れ処理を示す図である。
図5】変形例における焼入れ装置の構成を概略的に示す概略図である。
図6】変形例におけるレーザ照射部の動作を概略的に表した図である。
図7】変形例における焼入れ処理を示す図である。
図8】別実施例におけるレーザ照射部の動作を概略的に表した図である。
図9】別実施例におけるレーザ照射部の動作を概略的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至図4は、本発明の一実施形態を示すものである。
【0013】
図1に示すように、焼入れ装置1は、レーザLを被照射物に照射するレーザ照射部2と、レーザ照射部2によるレーザLの照射位置を移動させるレーザ移行機構3と、焼入れ作業の制御を行う焼入れ制御装置4と、レーザ移行機構3の制御を行うロボットコントローラ5とを有している。
【0014】
図1および図2に示すように、レーザ照射部2は、レーザLを発振するレーザ発振器21と、レーザ発振器21と光ファイバ22を介して接続する第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bと、第1レーザヘッド23aおよび第2レーザヘッド23bに装着されてレーザLを被照射物である軸部材Wに向けて照射するレンズユニット24と、軸部材Wを保持するワーク保持部25と、を備えている。
【0015】
レーザ発振器21が発振するレーザLは、半導体レーザやYAGレーザ等の、一般的にレーザ焼入れ作業に用いられる種類のレーザである。レーザ発振器21から発振されたレーザLは、光ファイバ22を介して第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとに案内される。第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとが有するレンズユニット24は、集合レンズ等を有し、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとに案内されたレーザLを、焼入れ部位に向けて照射する。ワーク保持部25は、軸部材Wの軸方向に移動可能な2個のプレート25a,25bを有しており、このプレート25a,25bがそれぞれ円筒形状の軸部材Wの長手方向両端部を把持することによって、軸部材Wを保持する。
【0016】
レーザ移行機構3は、多軸アーム型ロボットであり、焼入れ装置1はレーザ移行機構3を2台有している。一方のレーザ移行機構3のアーム31先端部のハンド32aには第1レーザヘッド23aが設けられ、他方のレーザ移行機構3のアーム31先端部のハンド32bには第2レーザヘッド23bが設けられている。レーザ移行機構3の動作によって第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとをそれぞれ移動させることができる。
【0017】
焼入れ制御装置4は、レーザ発振器21と、レーザ移行機構3の動作を制御するロボットコントローラ5と、ワーク保持部25と接続している。これにより、焼入れ制御装置4は、レーザ発振器21によるレーザLの発振と、レーザ移行機構3による第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとの移動と、ワーク保持部25のプレート25a,25bの移動を制御可能となっている。
【0018】
次に、図2および図3を用いて、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとの移動について説明する。第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとは、レーザ移行機構3によって、ワーク保持部25によって保持された軸部材Wの周囲を、軸部材Wの中心軸を中心に周方向に水平に等速で旋回可能となっている。第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとの旋回速度は同速度である。第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとの旋回軌道は上下方向にずれており、互いの旋回を妨げないようになっている。また、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとは、軸部材Wの周囲を旋回している間、常に軸部材Wの中心軸に向かってレーザLを照射するように、ハンド32a,32bによって回転する。
【0019】
軸部材Wにおける第1レーザヘッド23aから照射されるレーザLの照射位置は、第1レーザヘッド23aの旋回に伴って第1の軌道Aに沿って移動する。また、軸部材Wにおける第2レーザヘッド23bから照射されるレーザLの照射位置は、第2レーザヘッド23bの旋回に伴って第2の軌道Bに沿って移動する。
【0020】
第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとは、それぞれ旋回を開始してからある所定の地点に到達したときに焼入れ可能な出力量のレーザLの照射を開始する。したがって、第1レーザヘッド23aが焼入れ可能な出力量のレーザLの照射を開始する時の軸部材WにおけるレーザLの照射位置が、第1の軌道Aの始点となる。一方、第2レーザヘッド23bが焼入れ可能な出力量のレーザLの照射を開始する時の軸部材WにおけるレーザLの照射位置が、第2の軌道Bの始点となる。また、焼入れ可能な出力量のレーザLを照射しながら旋回する第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとは、それぞれある所定の位置に到達したときに、焼入れ可能な出力量のレーザLの照射を終了する。したがって、第1レーザヘッド23aによる焼入れ可能な出力量のレーザLの照射終了時におけるレーザLの照射位置が、第1の軌道Aの終点となる。一方、第2レーザヘッド23bによる焼入れ可能な出力量のレーザLの照射終了時におけるレーザLの照射位置が、第2の軌道Bの終点となる。
【0021】
第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとはそれぞれ等速で旋回し、第1の軌道Aと第2の軌道Bとは、それぞれ軸部材Wの中心軸を中心とした円周上を半周する。そして、第1の軌道Aの始点は第2の軌道Bの始点の近傍であり、第1の軌道Aの終点は第2の軌道Bの終点の近傍である。
【0022】
ここで、本実施形態における近傍とは、互いに密接して隣り合った位置をいう。すなわち、第1の軌道Aの始点における第1レーザヘッド23aによるレーザLの照射範囲と、第2の軌道Bの始点における第2レーザヘッド23bによるレーザLの照射範囲とは密接している。また、第1の軌道Aの終点における第1レーザヘッド23aによるレーザLの照射範囲と、第2の軌道Bの終点における第2レーザヘッド23bによるレーザLの照射範囲とは密接している。
【0023】
次に、図4を用いて、軸部材Wの外周面にレーザLを照射して焼入れを行うレーザ焼入れ処理について説明する。
【0024】
まず、ステップS1において、焼入れ制御装置4は、ワーク保持部25のプレート25a,25bによって、所定位置に軸部材Wがセットされているか否かを判断する。軸部材Wをセットする位置には、軸部材Wを検出する図示しないセンサが設けられている。そして、軸部材Wが所定位置にセットされていることを該センサによって検出された場合はステップS2に処理を移し、軸部材Wが所定位置にセットされていることを検出しない場合はステップS1の処理を繰り返し実行する。
【0025】
ステップS2において、焼入れ制御装置4は、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとを旋回開始位置に移動させる処理を行う。焼入れ制御装置4は、ロボットコントローラ5に、ロボット3を動作させて第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとを移動させるための制御信号を送信する。これにより、ロボット3によって第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとがそれぞれ旋回開始位置に移動する。なお、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとの旋回開始位置は、軸部材Wにおける焼入れ部位によって上下方向に変更することができる。
【0026】
ステップS3において、焼入れ制御装置4は、旋回開始位置に移動した第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとの旋回を開始させる処理を実行する。具体的には、焼入れ制御装置4は、ロボットコントローラ5へと制御信号を出力し、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとを、軸部材Wの中心軸を中心に互いに同速度かつ等速で水平に旋回させる。
【0027】
ステップS4において、焼入れ制御装置4は、レーザLの照射を開始する処理を実行する。具体的には、焼入れ制御装置4は、レーザ発振器21にレーザLの発振を開始する制御信号を出力する。これにより、レーザ発振器21から発振されたレーザLが光ファイバ22を介して第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとに案内され、レンズユニット24から軸部材W向けて照射される。なお、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとは、常にレーザLの照射方向が軸部材Wの中心軸に向かうように向きを調整しながら旋回する。
【0028】
ステップS5において、焼入れ制御装置4は、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとがレーザLを照射する位置が、それぞれ第1の軌道Aおよび第2の軌道Bの始点に到達したか否かを判断する。具体的には、ロボットコントローラ5が第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとがそれぞれ第1の軌道Aおよび第2の軌道Bの始点に到達したか否かを判断し、ロボットコントローラ5から焼入れ制御装置4へと信号が出力される。そして、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとがそれぞれ第1の軌道Aおよび第2の軌道Bの始点に到達した場合にはステップS6に処理を移し、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとがまだそれぞれ第1の軌道Aおよび第2の軌道Bの始点に到達していない場合は、ステップS5の処理を繰り返し実行する。
【0029】
ステップS6において、焼入れ制御装置4は、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとから照射されるレーザLが軸部材Wに焼入れするのに十分な出力量にするためにレーザLの出力を調整する処理を実行する。具体的には、焼入れ制御装置4は、レーザ発振器21に制御信号を出力し、レーザ発振器21のレーザLの発振出力を上げる。これにより、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとから照射されるレーザLは、軸部材Wに焼入れするのに十分な出力量となる。
【0030】
ステップS7において、焼入れ制御装置4は、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとがレーザLを照射する位置が、第1の軌道A,第2の軌道Bの終点に到達したか否かを判断する。具体的には、ロボットコントローラ5が第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとがそれぞれ第1の軌道Aおよび第2の軌道Bの終点に到達したか否かを判断し、ロボットコントローラ5から焼入れ制御装置4へと信号が出力される。そして、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとがレーザLを照射する位置がそれぞれ第1の軌道Aおよび第2の軌道Bの終点に到達した場合にはステップS8に処理を移し、まだ第1の軌道Aおよび第2の軌道Bの終点に到達していない場合は、ステップS7の処理を繰り返し実行する。
【0031】
ステップS8において、焼入れ制御装置4は、レーザLの照射を終了する処理を実行する。具体的には、焼入れ制御装置4は、レーザ発振器21にレーザLの発振を終了する制御信号を出力する。これにより、レーザ発振器21がレーザLの発振を停止し、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bからのレーザLの照射が終了する。
【0032】
ステップS9において、焼入れ制御装置4は、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとの旋回を終了させる処理を実行する。具体的には、焼入れ制御装置4は、ロボットコントローラ5へと制御信号を出力し、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bの軸部材W周囲の旋回を終了させる。旋回を終了した第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとは、それぞれ所定の待機位置へと移動する。本処理が終了するとレーザ焼入れ処理が終了する。
【0033】
以上のように構成されたレーザ焼入れ方法によれば、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとは、レーザLを軸部材Wの中心軸に向けて照射しながら、軸部材Wの周囲を水平に旋回する。第1レーザヘッド23aから照射される焼入れ可能な出力量のレーザLによる照射位置の第1の軌道Aと、第2レーザヘッド23bから照射される焼入れ可能な出力量のレーザLによる照射位置の第2の軌道Bとは、軸部材Wの外周に沿った軌道となる。そして、第1の軌道Aの始点と第2の軌道Bの始点とが近傍であるとともに、第1の軌道Aの終点と第2の軌道Bの終点とが近傍であり、第1の軌道Aと第2の軌道Bとは重複しない。したがって、軸部材Wの焼入れ部位において、第1レーザヘッド23aによってレーザLが照射された部位が冷却された後にさらに第2レーザヘッド23bによってレーザLが照射されることはない。そのため、高出力のレーザを高速で何度も同一部位にレーザを照射しなくとも、再加熱することによって生じる硬度低下を防ぎ、均一な焼入れを行うことができる。
【0034】
また、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとは、それぞれレーザヘッド自体が移動することによってレーザLの照射方向を変化させることによって、軸部材Wにおける照射位置を移動させる。これにより、軸部材Wを回転させなくとも、軸部材Wの全周囲に焼入れを行うことができる。
【0035】
なお、第1の軌道Aの始点と第2の軌道Bの始点、および第1の軌道Aの終点と第2の軌道Bの終点とは、それぞれ一部または全部が重なってもよい。この場合は、照射範囲が重なる部分は、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとによって同時に加熱される。そのため、第1レーザヘッド23aによるレーザLの照射によって加熱された部分が、第2レーザヘッド23bによるレーザLの照射によって再加熱されることはない。また、レーザLの出力が高く、軸部材WにおいてレーザLが照射された部分の周囲も熱伝導によって加熱される場合は、第1の軌道Aの始点と第2の軌道Bの始点、および第1の軌道Aの終点と第2の軌道Bの終点とは、加熱範囲内であれば離れた位置となってもよい。
【0036】
また、上記実施形態では、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとを旋回させるレーザ移行機構3は多軸アーム型ロボットである。しかし、これに限らず、例えば、軸部材Wの周囲を円形に囲むレールを設け、該レール上を第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとがスライド移動するようにしてもよい。また、軸部材Wを中心に回転するテーブルを設け、該回転テーブルに設けられた第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとが、回転テーブルの回転とともに軸部材Wの周囲を回転するようにしてもよい。その他、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとを軸部材Wの周囲を周方向に移動させることが可能な手段を用いてもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、2個のレーザヘッドから軸部材WにレーザLを照射して焼入れを行っているが、レーザヘッドの数は、偶数であれば4個であったり6個であったりしてもよい。この場合であっても、隣り合うレーザヘッドが照射するレーザLの軌道の始点と終点とは、隣り合うレーザヘッドが照射するレーザLの軌道の始点または終点と近傍となるようにするものとする。
【0038】
さらに、上記実施形態では、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとは、旋回を開始してから第1の軌道Aおよび第2の軌道Bの始点に到達してから、軸部材Wに焼入れするのに十分な出力量のレーザLを照射する(上記ステップS6,S7参照)。しかし、これに限らず、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとの旋回開始位置におけるレーザLの照射位置を第1の軌道Aおよび第2の軌道Bの始点とし、旋回開始とともに軸部材Wに焼入れするのに十分な出力量のレーザLの照射を開始してもよい。この場合、第1レーザヘッド23aと第2レーザヘッド23bとの旋回開始位置におけるレーザLの照射位置を互いに近傍とする。
【0039】
(変形例)
次に、図5乃至図7を用いて、焼入れ装置1の変形例である焼入れ装置100について説明する。なお、上記実施例と重複または同一の部分の説明については省略し、また、上記実施例と同一の構成部分は、同一の符号を付して示す。
【0040】
図5に示すように、ワーク保持部125は、軸部材Wの軸方向に移動可能な2個のプレート125a,125bを有しており、このプレート125a,125bがそれぞれ軸部材Wの長手方向両端部を把持する。また、プレート125a,125bは、回転モータ125cによって回転自在の回転軸125dに接続しており、軸部材Wを保持した状態で、軸部材Wの周方向に回転可能になっている。
【0041】
レーザ照射部102は、レーザ発振器21と光ファイバ22を介して接続する第1レーザヘッド123aと第2レーザヘッド123bとを有している。第1レーザヘッド123aは、レーザ移行機構103のハンド132aに設けられ、ワーク保持部125によって保持された軸部材Wの周囲を水平に等速で旋回可能となっている。一方、第2レーザヘッド123bは、第1レーザヘッド123aの旋回軌道上に設けられたブラケット126に、レーザLを軸部材Wの中心軸に向けて照射可能に設けられている。すなわち、第1レーザヘッド123aは、軸部材Wの周囲を旋回可能に設けられ、第2レーザヘッド123bは、軸部材Wから第1レーザヘッド123aの旋回半径と同距離の位置に固定されている。
【0042】
図6に示すように、軸部材Wにおける第1レーザヘッド123aから照射されるレーザLによる照射位置は、第1レーザヘッド123aの旋回に伴って軌道Cに沿って移動する。一方、第2レーザヘッド123bは固定されているため、同一箇所に向けてレーザLを照射する。軌道Cは略円形であり、軌道Cの始点および終点は、第2レーザヘッド123bによってレーザLが照射される位置の近傍となる。なお、第1レーザヘッド123aの旋回速度はワーク保持部125の回転速度の2倍であり、ワーク保持部125が軸部材Wを半周回転させる間に、第1レーザヘッド123aは軸部材Wの周囲を一周旋回する。
【0043】
次に、図7を用いて、軸部材Wの外周面にレーザLを照射して焼入れを行うレーザ焼入れ処理について説明する。
【0044】
まず、ステップS11において、焼入れ制御装置104は、軸部材Wを保持したワーク保持部125の回転を開始するために、回転モータ125cに制御信号を出力する。これにより、軸部材Wが周方向への回転を開始する。
【0045】
ステップS12において、焼入れ制御装置104は、ロボットコントローラ5に制御信号を送信して、第1レーザヘッド123aを旋回開始位置に移動させる処理を行う。
【0046】
ステップS13において、焼入れ制御装置104は、ロボットコントローラ105へと制御信号を出力し、第1レーザヘッド123aの旋回を開始させる処理を実行する。これにより、第1レーザヘッド123aは、軸部材Wの中心軸を中心に等速で水平に旋回する。
【0047】
ステップS14において、焼入れ制御装置104は、レーザLの照射を開始する処理を実行する。具体的には、焼入れ制御装置104は、レーザ発振器121にレーザLの発振を開始する制御信号を出力し、第1レーザヘッド123aと第2レーザヘッド123bとからレーザLを軸部材Wの中心軸に向けて照射させる。
【0048】
ステップS15において、焼入れ制御装置104は、第1レーザヘッド123aがレーザLを照射する位置が、第2レーザヘッド123bがレーザLを照射する位置の近傍である軌道Cの始点に到達したか否かを判断する。そして、第1レーザヘッド123aがレーザLを照射する位置が軌道Cの始点に到達した場合にはステップS16に処理を移し、第1レーザヘッド123aがレーザLを照射する位置が軌道Cの始点に到達していない場合は、ステップS15の処理を繰り返し実行する。
【0049】
ステップS16において、焼入れ制御装置104は、第1レーザヘッド123aと第2レーザヘッド123bとから照射されるレーザLが軸部材Wに焼入れするのに十分な出力量にするためにレーザLの出力を調整する処理を実行する。これにより、第1レーザヘッド123aと第2レーザヘッド123bとから照射されるレーザLは、軸部材Wに焼入れするのに十分な出力量となる。
【0050】
ステップS17において、焼入れ制御装置104は、第1レーザヘッド123aがレーザLを照射する位置が、第2レーザヘッド123bがレーザLを照射する位置の近傍である軌道Cの終点に到達したか否かを判断する。そして、第1レーザヘッド123aがレーザLを照射する位置が軌道Cの終点に到達した場合にはステップS18に処理を移し、第1レーザヘッド123aがレーザLを照射する位置が軌道Cの終点に到達していない場合は、ステップS17の処理を繰り返し実行する。
【0051】
ステップS18において、焼入れ制御装置104は、レーザLの照射を終了する処理を実行する。具体的には、焼入れ制御装置4は、レーザ発振器121にレーザLの発振を終了する制御信号を出力する。これにより、レーザ発振器121がレーザLの発振を停止し、第1レーザヘッド123aと第2レーザヘッド123bからのレーザLの照射が終了する。
【0052】
ステップS19において、焼入れ制御装置4は、第1レーザヘッド123aの旋回を終了させるとともに、ワーク保持部125の回転を終了させる処理を実行する。具体的には、焼入れ制御装置104は、ロボットコントローラ105へと制御信号を出力し、第1レーザヘッド123aの旋回を終了させ、回転モータ125cに制御信号を出力してワーク保持部125の回転を終了させる。本処理が終了するとレーザ焼入れ処理が終了する。
【0053】
以上のように、第1レーザヘッド123aがレーザLを照射しながら軸部材Wの周囲を一周旋回する間に、第2レーザヘッド123bは、半回転する軸部材Wに照射する。このように、第1レーザヘッド123aは旋回移動する一方で、第2レーザヘッド123bは移動しないため、軌道Cの始点と終点との位置決めが容易となる。
【0054】
なお、上記実施形態では、レーザヘッドが軸部材Wの周囲を旋回しながら軸部材WにレーザLを照射するが、これに限らず、レーザヘッドを旋回させずに軸部材Wにレーザ焼入れを行ってもよい。
【0055】
例えば、図8に示すように、第1レーザヘッド223a、第2レーザヘッド223b、第3レーザヘッド223c、および第4レーザヘッド223dの4個のレーザヘッドを、それぞれ互いに等間隔で軸部材Wの周囲に配置するようにしてもよい。この場合、レーザヘッド223a〜223dが照射位置を同時に等速で移動させ、軸部材Wの外周を4分の1ずつ照射する。この第1レーザヘッド223a〜第4レーザヘッド223dの移動する照射位置の始点と終点は、それぞれ隣り合う第1レーザヘッド223a〜第4レーザヘッド223dの照射位置の始点または終点と近傍とする。
【0056】
このように、第1レーザヘッド223a〜第4レーザヘッド223d自体は移動せず、それぞれの照射位置のみを移動させるので、レーザ移行機構を使用せずにシンプルな制御で軸部材Wの周囲に均一な焼入れを行うことができる。
【0057】
また、図9に示すように、第1レーザヘッド323aと第2レーザヘッド323bとを、それぞれ照射位置を同時に等速で移動させつつ、第1レーザヘッド323aと第2レーザヘッド323bとが、直線的に移動していくようにしてもよい。この場合、第1レーザヘッド323aと第2レーザヘッド323bとは、それぞれ軸部材Wの外周の半分ずつを照射するようにする。すなわち、まず、第1レーザヘッド323aと第2レーザヘッド323bとは、軸部材Wの外周の互いに近傍の位置にレーザLを照射させる。次に、それぞれ直線的に軸部材Wの側方を移動しつつ、レーザLの照射位置を移動させていく。そして、第1レーザヘッド323aのレーザLの照射位置と、第2レーザヘッド323bのレーザLの照射位置とが近傍となると、レーザLの照射を終了する。なお、第1レーザヘッド323aと第2レーザヘッド323bとを、それぞれ照射位置を同時に等速で移動させつつ、軸部材Wが第1レーザヘッド323aと第2レーザヘッド323bとの間を直線的に移動するようにしてもよい。この場合であっても、第1レーザヘッド323aと第2レーザヘッド323bとは、それぞれ軸部材Wの外周の半分ずつを照射するようにする。
【符号の説明】
【0058】
1,101 焼入れ装置
2,102 レーザ照射部
3,103 レーザ移行機構
4,104 焼入れ制御装置
5,105 ロボットコントローラ
21,121 レーザ発振器
22 光ファイバ
23a,123a,223a,323a 第1レーザヘッド
23b,123b,223b,323b 第2レーザヘッド
24 レンズユニット
25,125 ワーク保持部
25a,25b,125a,125b プレート
31 アーム
32a,32b,32a,32b ハンド
125c 回転モータ
125d 回転軸
126 ブラケット
223c 第3レーザヘッド
223d 第4レーザヘッド
A 第1の軌道
B 第2の軌道
C 軌道
L レーザ
W 軸部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9