特許第6244166号(P6244166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244166
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】積層部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/18 20060101AFI20171127BHJP
   B32B 3/06 20060101ALI20171127BHJP
   B60R 13/02 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   B32B5/18
   B32B3/06
   B60R13/02 A
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-223493(P2013-223493)
(22)【出願日】2013年10月28日
(65)【公開番号】特開2015-85540(P2015-85540A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100076048
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜幾
(74)【代理人】
【識別番号】100141645
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 健司
(72)【発明者】
【氏名】金山 学
【審査官】 市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−274470(JP,A)
【文献】 米国特許第04681239(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0043250(US,A1)
【文献】 特開平10−059437(JP,A)
【文献】 特表2004−534699(JP,A)
【文献】 実開昭58−116579(JP,U)
【文献】 実開昭53−056166(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
F16L59/00−59/22
B60R16/04
B65D81/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮材が表側になるように発泡体と該表皮材を重ね合わせて、互いの重ね合わせ面を接着して構成される積層部材において、
前記発泡体が臨む端面から前記表皮材の縁部にかけて覆うように、接着剤からなる被覆部が形成され
前記被覆部は、前記表皮材の色に合わせて着色される
ことを特徴とする積層部材。
【請求項2】
前記被覆部は、ホットメルト接着剤から構成される請求項1記載の積層部材。
【請求項3】
表皮材が表側になるように発泡体と該表皮材を重ね合わせて、互いの重ね合わせ面を接着することで、積層部材を得て、
前記積層部材の端末を液状の接着剤に浸漬し、該端末に付与した接着剤を固化することで、前記発泡体が臨む端面から前記表皮材の縁部にかけて覆うように、接着剤からなる被覆部を形成するようにした
ことを特徴とする積層部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発泡体と表皮材とを接着して構成された積層部材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両では、ウレタン基材の表面に熱可塑性樹脂シート等からなる表皮を貼り付けると共に、ウレタン基材の裏面にポリエステル繊維不織布等を裏打ちした積層構造体を熱プレス成形して得られる積層部材を、ルーフライナーなどに用いている(例えば特許文献1参照)。このような積層部材は、所要形状に成形された後に、その周縁部をトリムカット加工することで、製品に応じた外縁形状とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−52563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記積層部材は、製品の端面にウレタン基材が露出していると、水の侵入によりウレタン基材が劣化したり、他の部材との干渉などにより、ウレタン基材から表皮などの表層材が剥がれるおそれがある。そこで、特許文献1の積層部材は、製品の縁部に巻き込みシロを設け、製品の裏面における巻き込みシロの折り返し部位に接着剤を塗布した後に、裏側に折り返した巻き込みシロを接着剤で接着する端末処理を行っている。しかしながら、このような縁部の巻き込みによる端末処理は、非常な手間がかかる難点がある。
【0005】
すなわち本発明は、従来の技術に内在する前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、発泡体および表皮材が端末で剥がれにくい積層部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明の積層部材は、
表皮材が表側になるように発泡体と該表皮材を重ね合わせて、互いの重ね合わせ面を接着して構成される積層部材において、
前記発泡体が臨む端面から前記表皮材の縁部にかけて覆うように、接着剤からなる被覆部が形成され
前記被覆部は、前記表皮材の色に合わせて着色されることを要旨とする。
請求項1に係る発明によれば、積層部材は端面から縁部にかけての端末が被覆部で覆われているから、発泡体と表皮材との合わせ目が臨む端面を被覆部によって保護することができる。すなわち、積層部材の端面から水などが侵入したり、端面が接触することなどに起因して、発泡体と表皮材とが剥離することを被覆部によって防止できる。しかも、被覆部は、自身が接着力を有する接着剤から構成されるので、積層部材の端末に簡単に形成することができると共に端末から剥がれにくい。また、積層部材の端面を積層部材の表面をなす表皮材の色に合わせた被覆部で覆っているので、端面に臨む発泡体の色が表皮材と相違しても該発泡体を被覆部で隠して、積層部材の見栄えを向上することができる。
【0007】
請求項2に係る発明では、前記被覆部は、ホットメルト接着剤から構成されることを要旨とする。
請求項2に係る発明によれば、ホットメルト接着剤から被覆部を構成することで、より簡単に被覆部を形成することができる。
【0009】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の請求項に係る発明の積層部材の製造方法は、
表皮材が表側になるように発泡体と該表皮材を重ね合わせて、互いの重ね合わせ面を接着することで、積層部材を得て、
前記積層部材の端末を液状の接着剤に浸漬し、該端末に付与した接着剤を固化することで、前記発泡体が臨む端面から前記表皮材の縁部にかけて覆うように、接着剤からなる被覆部を形成するようにしたことを要旨とする。
請求項に係る発明によれば、接着剤によって積層部材の端末に被覆部を簡単に形成することができる。得られた積層部材は、積層部材は端面から縁部にかけての端末が被覆部で覆われているから、発泡体と表皮材との合わせ目が臨む端面を被覆部によって保護することができる。すなわち、積層部材の端面から水などが侵入したり、端面が接触することなどに起因して、発泡体と表皮材とが剥離することを被覆部によって防止できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る積層部材によれば、被覆部によって発泡体および表皮材を端末で剥がれにくくすることができる。また、本発明に係る積層部材の製造方法によれば、端末に被覆部を形成する簡単な構成で、被覆部によって発泡体および表皮材を端末で剥がれにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例に係る積層部材から構成された断熱カバーを、バッテリーに装着する状況を示す概略斜視図である。
図2】実施例の断熱カバーを示す縦断面図である。
図3】実施例の断熱カバーをバッテリーに取り付けた状態で示す縦断面図である。
図4】(a)は図3のX1−X1線要部断面図であり、(b)は図3のX2−X2線要部断面図であり、(c)は図3のX3−X3線要部断面図である。
図5】(a)は発泡体の両側に表皮材を重ねる前の分離状態を示す説明図であり、(b)は積層部材を加熱圧縮成形して被覆部を形成した状態を示す説明図である。
図6】実施例の加熱圧縮成形工程を示す説明図である。
図7】変更例の断熱カバーをバッテリーに取り付けた状態で示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明に係る複層部材およびその製造方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。なお、実施例では、自動車等の車両のエンジンルームなどに設置されるバッテリーを囲って断熱を図る断熱カバーに用いられる積層部材を挙げて説明する。
【実施例】
【0013】
実施例に係る断熱カバー10は、表皮材Sが表側になるように発泡体Fと表皮材Sとを重ね合わせて互いの重ね合わせ面を接着して構成された積層部材Pで後述する壁部12が形成されている(図1〜3参照)。ここで、断熱カバー10は、平板状の積層部材Pを、発泡体Fおよび表皮材Sの重なり方向(厚み方向)に加熱圧縮成形して所要形状に賦形した後に折り曲げて、重ね合わせた端部同士を繋ぎ合わせて角筒状に形成されている(図1参照)。また、積層部材Pは、その外縁部に少なくとも端面を覆うように形成された被覆部28を備えており(図2および3参照)、発泡体Fが表皮材Sで覆われない端面が被覆部28で保護されている。なお、実施例では、矩形平板状の積層部材Pにおける外縁部4辺の全てに被覆部28が形成され、発泡体F全体、発泡体Fと表皮材Sとの合わせ目が表皮材Sおよび/または被覆部28に覆われて外側に露出しないようになっている。すなわち、積層部材Pを角筒状にした断熱カバー10は、上下に開口する角筒の両開口縁の夫々に、被覆部28が設けられると共に、互いに重ねて繋ぎ合わせた部位のうち、角筒の内側に臨む側端部と角筒の外側に臨む側端部との夫々に、前記被覆部28が設けられている。
【0014】
図1に示すように、実施例に係る断熱カバー10は、矩形箱形のバッテリーBの外形形状に合わせて、上下に開口する角筒状に形成された壁部12を備え、バッテリーBの上方から被せて該バッテリーBの側面全周を壁部12で覆うように装着される。なお、実施例のバッテリーBは、箱状本体B1の上部に配設された蓋部B2の外周縁が、箱状本体B1の側面より外方へ僅かに延出している。また、バッテリーBは、略トレイ形状の架台Cに載置されている(図3参照)。断熱カバー10は、バッテリーBに装着した際に、壁部12の下端を架台Cに突き当てて、上下方向の位置決めをしている。断熱カバー10は、バッテリーBの四方の側面に対応して4面の壁部12を有し、隣り合う壁部12,12を繋ぐ角部をヒンジとして曲げ伸ばして、角筒状から平板状に折り畳んだ状態にすることができると共に、バッテリーBの形状に追従させることができる。すなわち、断熱カバー10は、同じような大きさのバッテリーBに共通して使用可能である。
【0015】
前記断熱カバー10の壁部12は、断熱性を有している。図2および図3に示すように、実施例の壁部12は、前記発泡体Fからなり、弾力性を有する断熱層14と、この断熱層14の両面を覆うように配設され、断熱層14を保護する前記表皮材Sからなる表皮層16,16とを備える複層構造であり、厚み方向に弾性変形可能に構成されている。すなわち、断熱カバー10は、バッテリーBに臨む内面が表皮層16で構成されると共に、外面が表皮層16で構成される。また、壁部12は、通気性が低く形成される。なお、エンジンルームに配設される断熱カバー10は、難燃性を有していることが望ましい。
【0016】
前記断熱層14は、ポリウレタンフォームやメラミンフォーム、ポリエチレンフォーム等のオレフィン系フォームなどの発泡体F(図6参照)から構成され、この中でもポリウレタンフォームが好適である。なお、発泡体Fは、軟質、半硬質または硬質の何れであってもよく、熱成形性に優れるものが製造上好ましい。発泡体Fは、通気性が低い独立気泡構造のものが好ましく、壁部12を構成する前の非圧縮状態において、その通気性(JIS K 6400−7)が、1.0ml/cm・s〜80ml/cm・sの範囲にあるものがよい。このような範囲の通気性の発泡体Fから断熱層14を構成することで、空気の通過に伴う熱移動を抑えることができ、壁部12の断熱性を向上することができる。また、発泡体Fは、壁部12を構成する前の非圧縮状態において、その密度が11kg/m〜30kg/mの範囲にあるものが好ましく、このような密度範囲の発泡体Fから断熱層14を構成することで、断熱カバー10の軽量化を図り得る。
【0017】
前記表皮層16は、断熱層14の弾性変形に追従して変形する柔軟性、撥水性および耐磨耗性を有している。また、表皮層16は、撥水加工や、フッ素樹脂等の含浸・塗布等により、水(液滴)を実質的に通さない撥水性を有しているものが望ましい。表皮層16は、不織布や織物などの布、または合成樹脂のフィルム材等の表皮材S(図6参照)から構成され、この中でも不織布が好適である。不織布としては、ニードルパンチ法、スパンボンド法およびサーマルボンド法などの何れの方法から得られるものであってもよく、その目付量が50g/m〜110g/mの範囲にあるものが好ましい。更に、表皮材Sは、発泡体Fと表皮材Sとを重ね合わせた積層部材P(図6参照)を加熱圧縮成形して壁部12を得る際に、発泡体Fの変形に追従して成形されるように、適度な伸び性を有していることが望ましい。
【0018】
図3に示すように、前記壁部12は、断熱カバー10をバッテリーBに装着した際に、バッテリーBにおける箱状本体B1の側面から離間するように配置される一般部18と、この一般部18よりも内方(バッテリーB側)へ突出するように形成されて、箱状本体B1の側面に弾力的に当接する封止部(凸部)20とを備えている。壁部12には、バッテリーBにおける箱状本体B1の側面上部に当接する位置に封止部20が少なくとも形成されており、当該封止部20によって、箱状本体B1の側面と一般部18との間にあく空間Gの上側を塞ぐようになっている。換言すると、壁部12には、断熱カバー10をバッテリーBに装着する際の挿入側の端部(実施例では下端部)と反対側の端部(実施例では上端部)に前記封止部20が少なくとも形成され、実施例では、壁部12の上部に幅方向(周方向)に延在する1条の封止部20が設けられている(図1および図5参照)。また、壁部12は、一般部18より内方へ突出すると共に封止部20より一般部18からの内方への突出寸法が小さく形成された補強部(第2の凸部)22を備えている。補強部22は、壁部12の幅方向(周方向)に延在するように形成されて、封止部20と上下方向に離間すると共に封止部20と並行するように配置されている。補強部22は、断熱カバー10をバッテリーBに装着した際に、バッテリーBにおける箱状本体B1の側面から離間するように構成される。
【0019】
図2および図3に示すように、前記壁部12は、上部に形成された封止部20と、下部に形成された補強部22と、封止部20および補強部22の間に延在する一般部(区別する場合は中間一般部18Aという)と、補強部22の下側に延出する一般部(下部一般部18B)と、封止部20の上側に延出する一般部(上部一般部18C)とを備えている。このように、壁部12は、封止部20、一般部18および補強部22が上下方向(装着時の挿入方向)に配置されており、壁部12の内面は、バッテリーBにおける箱状本体B1の側面に沿った平面ではなく、箱状本体B1の側面に当接可能な部分と当接しない部分とが上下の関係で形成されている。すなわち、壁部12は、箱状本体B1の側面の上下方向の一部範囲に封止部20が該側面の幅方向に亘って当接するものの、箱状本体B1の側面上下方向全体に亘って接触しないように構成される。なお、壁部12の外面は、略平坦に形成されている。
【0020】
前記断熱カバー10は、四方の壁部12の一般部18によって画成される内部領域が、バッテリーBにおける箱状本体B1の外形よりも大きく形成される(図4(b)参照)。また、断熱カバー10は、四方の壁部12の封止部20の先端によって画成される内部領域が、バッテリーBにおける箱状本体B1の外形より小さく形成されている(図4(c)参照)。更に、断熱カバー10は、四方の壁部12の補強部22の先端によって画成される内部領域が、バッテリーBにおける箱状本体B1の外形より大きく形成されている(図4(a)参照)。そして、封止部20の厚み寸法は、一般部18の厚み寸法より大きく設定される(図2参照)。補強部22の厚み寸法は、一般部18の厚み寸法より大きく、封止部20の厚み寸法よりも小さく設定される。実施例では、補強部22の上下幅が、封止部20の上下幅よりも小さく設定されている。断熱カバー10は、バッテリーBに装着した際に、封止部20がバッテリーBにおける箱状本体B1の側面に当接することでバッテリーBに対して水平方向に位置決めされて、一般部18および補強部22が箱状本体B1の側面から離間配置される。そして図3に示すように、断熱カバー10は、壁部12の上部に形成されてバッテリーBにおける箱状本体B1の側面上部に当接する封止部20と架台Cに当接する壁部12の下端とによって、前記空間Gを封止するようになっている。
【0021】
前記封止部20および前記補強部22は、壁部12を構成する発泡体Fからなる断熱層14を加熱圧縮成形して、壁部12の幅方向(周方向)に先端の峰が延在すると共に、上下に傾斜面を備えた山形に隆起する形状で形成されている(図2および図5参照)。また、封止部20および補強部22は、先端が円弧状になるように形成されており、封止部20および補強部22の上下幅内において該先端が上下方向の略中央部に配置されている。更に、封止部20および補強部22は、一般部18に連なる上下の基端から上下方向中央部側に向かうにつれて断熱層14の密度が低くなるよう構成されている。換言すると、封止部20および補強部22は、先端がある上下方向中央部側において断熱層14が圧縮されていない若しくは圧縮量が小さく、上下方向中央部から上下の基端側へ向かうにつれて断熱層14の圧縮量が大きくなっている。そして、封止部20および補強部22は、最も出っ張っている上下方向中央部が比較的柔軟で、上下方向中央部から上および下に向かうにつれて弾性変形に対する反発力が大きくなっている。封止部20は、変形初期において比較的容易に変形するが、変形量が大きくなるにつれて上下の密度の高い部分を変形させることになり、これに伴って反発力が増すように構成される。補強部22の上下方向中央部は、封止部20の上下方向中央部よりも圧縮されており、補強部22の上下方向中央部の断熱層14は、封止部20の上下方向中央部の断熱層14の密度より高くなっている。そして、封止部20の上下方向中央部は、補強部の上下方向中央部より柔軟に形成されている。なお、一般部18を構成する断熱層14の密度は、封止部20の上下方向中央部および補強部22の上下方向中央部を構成する断熱層14の密度よりも高くなっている。
【0022】
前記被覆部28は、発泡体Fおよび表皮材Sに接着可能な接着剤から構成されている。ここで、接着剤としては、ポリアミド等の熱可塑性樹脂を主成分とするホットメルト接着剤や、熱硬化性樹脂接着剤など、その他のものを用いることができ、ホットメルトに限られず、2液タイプや溶剤希釈タイプなど各種の接着剤を採用することができる。接着剤を固化して形成される被覆部28は、水(液滴)を実質的に通さない撥水性を有し、また表皮層16と同様に耐磨耗性などを有しているのが望ましい。被覆部28は、壁部(積層部材)において断熱層14(発泡体F)が外方に面する端面から該壁部12(積層部材P)の外表面(意匠面)をなす表皮層16(表皮材S)の縁部にかけて覆うように形成されている。すなわち、被覆部28は、壁部12(積層部材P)の端面だけでなく該端面を覆う部分から連続して壁部12の端縁から表裏両面に実施例では数ミリに亘って延在している。被覆部28は、表皮層16をなす表皮材Sの色に合わせて着色されている。実施例では、被覆部28をなす接着剤に顔料などの着色材を配合して、表皮材Sに合わせて被覆部28の色を調整している。従って、断熱カバー10は、発泡体Fが表皮材Sと色が異なっていても、発泡体Fからなる断熱層14が臨む端面を含めて全体が、該断熱カバー10の意匠面を構成する表皮材Sからなる表皮層16の色で統一されている。
【0023】
次に、実施例に係る断熱カバー10の製造方法について説明する。なお、以下の説明において、積層部材Pを断熱カバー10にした際に、壁部12の上下方向に相当する方向を短手方向といい、壁部12の幅方向(周方向)に相当する方向を長手方向という。板状に形成された前記発泡体Fの両面に、接着剤を介してシート状の表皮材S,Sを夫々重ね合わせて、発泡体Fを2枚の表皮材S,Sで挟んで積層した積層部材Pを成形手段30にセットする(図6(a)および(b)参照)。接着剤は、後述する加熱圧縮成形時の加熱により接着力を呈するものが用いられ、積層部材Pは、この段階では接着剤を塗布した表皮材Sを発泡体Fに重ねただけであり、成形手段30にセットされた積層部材Pにおいて発泡体Fと表皮材Sとは未接着である。なお、接着剤としては、熱硬化性樹脂接着剤やホットメルト接着剤などを用いることができ、例えば1価および多価フェノールからなる熱硬化性タイプのレゾルシノール系樹脂(DFK樹脂)などが好適である。なお、DFK樹脂が含浸されたPET不織布(例えば、有限会社デーエフケー、商品名:メーユカペーパー、タイプ名:XP30215−1(NP80−35))などを用いることができる。
【0024】
前記成形手段30は、積層部材Pにおいて壁部12の外面となる下面(他面)を支持する支持部31と、この支持部31の上側に配設され、積層部材Pにおいて壁部12の内面となる上面(一面)を上方(一面側)から押さえ付ける押圧体32,34,36とを備えている。成形手段30は、支持部31および押圧体32,34,36を介して積層部材Pを加熱可能であると共に、押圧体32,34,36が支持部31に対して進退移動可能に構成されている。押圧体32,34,36は、積層部材Pの長手方向に延在する所定幅の押圧面を有し、積層部材Pを短手方向所要幅で長手方向に亘って押圧し得るようになっている。ここで、成形手段30は、短手方向に離間する2つの第1変形押圧体32,32からなる第1押圧組と、短手方向に離間する2つの第2変形押圧体34,34からなる第2押圧組と、第1押圧組と第2押圧組との間に配設された成形押圧体36とを備えている。第1および第2押圧組は、成形押圧体36よりも積層部材Pを深い位置まで押し付け可能に構成される。成形押圧体36は、その押圧面が変形押圧体32,34より短手方向に幅広に形成される。また、各押圧組において、外側に位置する変形押圧体32,34が内側に位置する変形押圧体32,34より短手方向に幅広になっている。
【0025】
図6(c)および(d)に示すように、前記成形手段30にセットされた積層部材Pにおいて壁部12の上側となる領域を、2つの第1変形押圧体32,32によって、上方(一面側)から間隔をあけて並行に押さえ付けて加熱しつつ圧縮することで、圧縮成形された2箇所の押圧部位24,24の間に前記封止部20を形成する。また同時に、成形手段30にセットされた積層部材Pにおいて壁部12の下側となる領域を、2つの第2変形押圧体34,34によって、上方から間隔をあけて並行に押さえ付けて、170℃〜210℃で20秒〜120秒(好適には190℃、45秒)に亘って加熱しつつ圧縮することで、圧縮成形された2箇所の第2の押圧部位26,26の間に前記補強部22を形成する。更に同時に、積層部材Pの中間部を、成形押圧体36によって上側から所定範囲に亘って押さえ付けて加熱しつつ圧縮することで、封止部20および補強部22の先端(上端)よりも凹むように圧縮成形された前記一般部18を形成する。このような加熱圧縮成形により、前記一般部18と、前記封止部20および前記補強部22とを備えた積層部材Pを簡単に形成することができる。
【0026】
ここで、対をなす2つの変形押圧体32,32,34,34によって積層部材Pの短手方向に離間した位置を並行に押圧するに伴って、対をなす2条の押圧部位24,24,26,26に引っ張られて両押圧部位24,24,26,26の間が該押圧部位24,26に向けて下がるように湾曲変形する。そして、加熱圧縮成形によって積層部材Pの元の厚みより薄くなるように賦形された2つの押圧部位24,24,26,26の間が、両側の押圧部位24,24,26,26に引っ張られて中央部から該押圧部位24,24,26,26に向かうにつれて圧縮されるから、両側の押圧部位24,24,26,26から中央部に向かうにつれて隆起する山形状の封止部20および補強部22が夫々形成される。このように、封止部20および補強部22は、積層部材Pにおける封止部20および補強部22の形成予定部位を型等で直接押さえて成形するのではなく、封止部20および補強部22の形成予定位置の両側を加熱圧縮成形することで間接的に形成している。なお、第1押圧組のうちで外側に位置する第1変形押圧体32によって加熱圧縮成形される押圧部位24は、封止部20の上方に延出する上部一般部18Cとなり、第2押圧組のうちで外側に位置する第2変形押圧体34によって加熱圧縮成形される第2の押圧部位26は、補強部22の下方に延出する下部一般部18Bとなる。
【0027】
実施例では、封止部20における先端での厚み寸法が、加熱圧縮成形前の積層部材Pの厚さと略同一になっており、補強部22における先端での厚み寸法が、加熱圧縮成形前の積層部材Pの厚さよりも薄くなるように形成される。ここで、対をなす2つの押圧部位24,24(26,26)の間隔がある程度広ければ、両押圧部位24,24(26,26)の間にできる封止部20(補強部22)の中央部(先端)が圧縮されず、対をなす2つの押圧部位24,24(26,26)の間隔が狭くなれば、封止部20(補強部22)の中央部が圧縮されて押圧部位24,24(26,26)からの封止部20(補強部22)の突出寸法が低くなる。このように、押圧組の2つの変形押圧体32,32(34,34)の離間間隔を変更して両変形押圧体32,32(34,34)によって加熱圧縮成形される2つの押圧部位24,24(26,26)の離間間隔を調節することで、押圧部位32,32(34,34)からの封止部20(補強部22)の突出寸法を元の積層部材Pの厚み範囲内で簡単に制御することができる。なお、対をなす2つの押圧部位24,24(26,26)の間隔を広げることで、両押圧部位24,24(26,26)間の封止部20(補強部22)の先端を円弧状ではなく、平面状に形成することも可能である。
【0028】
前記封止部20(補強部22)では、賦形された押圧部位32,32(34,34)によって引っ張られて、両押圧部位32,32(34,34)の間の発泡体Fからなる断熱層14が圧縮されることで凸状に変形しており、断熱層14の圧縮度合いが押圧部位32,32(34,34)に近づくにつれて大きくなる。すなわち、封止部20(補強部22)は、短手方向中央部から押圧部位32,32(34,34)に連なる基端側へ向かうにつれて断熱層14の密度が高くなる。そして、封止部20よりも圧縮されている補強部22の中央部を構成する断熱層14の密度が、封止部20の中央部を構成する断熱層14の密度より高くなる。このように、封止部20などの部位に応じて異なる密度の発泡体Fを用いなくても、積層部材Pに並行に離間する2つの押圧部位32,32(34,34)を加熱圧縮成形することで、両押圧部位32,32(34,34)の間に形成される封止部20(補強部22)の断熱層14の密度を傾斜的に疎密化することが簡単にできる。また、第1押圧組および第2押圧組のうちで内側に位置する変形押圧体32,34の間において、成形押圧体36によって加熱圧縮成形される中間一般部18Aは、封止部20および補強部22の中央部よりも断熱層14が圧縮されており、当該断熱層14の密度が封止部20および補強部22の中央部をなす断熱層14の密度より高くなっている。
【0029】
また、成形手段30において、積層部材Pを加熱しつつ圧縮成形することで、加熱によって接着剤が接着力を呈し、これにより表皮材Sと発泡体Fとが接着剤により接合され、発泡体Fからなる断熱層14の両面に表皮材Sからなる表皮層16が一体化される。このように、発泡体Fと表皮材Sとを予め接合しなくても、封止部20、一般部18および補強部22を形成する際の加熱により断熱層14と表皮層16とを一体化することができ、製造工程の効率化を図り得る。
【0030】
前記成形手段30において所要形状に加熱圧縮成形されると共に表皮材Sと発泡体Fとが接着されて得られた積層部材Pは、その外縁部(端末)の各辺を、加熱されて液状とされたホットメルト接着剤に浸漬することで、接着剤が端末に付与される。なお、ホットメルト接着剤は、表皮材Sの色に合わせた色の顔料等を配合することで色を調整してある。ホットメルト接着剤に、積層部材Pの外縁部を端面から数ミリ程度ひたして引き上げることで、積層部材Pにおける発泡体Fが外方に臨む端面から表皮材Sの縁部にかけて接着剤を付与している。そして、ホットメルト接着剤を冷却固化することで、積層部材Pにおける発泡体Fが外方に臨む端面から表皮材Sの縁部にかけて被覆部28が形成される。なお、被覆部28の厚みは、ホットメルト接着剤の粘度を調節することでコントールすることができる。
【0031】
最後に、前記封止部20、一般部18および補強部22を内側にするように、積層部材Pを筒状に成形する。これにより、バッテリーBに装着した際に、バッテリーBにおける箱状本体B1の側面から離間するように配置される一般部18および補強部22と、箱状本体B1の側面上部に弾力的に当接する1つの封止部20とを備えた壁部12が形成された断熱カバー10が得られる。なお、断熱カバー10は、互いに重ね合わせた積層部材Pの両端を超音波溶着などで接着固定したり、積層部材Pの一方の端部に形成したスリットに該積層部材Pの他方の端部に形成した爪を引っ掛けるなどにより筒状成形される。これにより、積層部材Pを角筒状にした断熱カバー10には、上下に開口する角筒の両開口縁の夫々に、被覆部28が設けられると共に、互いに重ねて繋ぎ合わせた部位のうち、角筒の内側に臨む側端部と角筒の外側に臨む側端部との夫々に、前記被覆部28が設けられる。
【0032】
このように構成された断熱カバー10は、バッテリーBに対して上方から被せて、バッテリーBを内側に収容するように装着する。断熱カバー10は、下部一般部18Bによって画成される下部開口がバッテリーBの外形寸法より大きく形成されているから、下部開口をバッテリーBの上部に簡単に嵌め合わせて位置決めすることができる。また、断熱カバー10は、補強部22および中間一般部18Aによって画成される内部領域についてもバッテリーBの外形寸法より大きく形成されているから、壁部12の内面とバッテリーBの側面とを摺接させることなく、または摺接を最小限に抑えたもとで、断熱カバー10をバッテリーBの側面に沿って下降させることができる。すなわち、断熱カバー10は、壁部12の上部に形成された封止部20がバッテリーBの上部に至るまでは低い荷重で装着することができる。
【0033】
前記断熱カバー10は、壁部12の上部に設けた封止部20によって画成される内部領域がバッテリーBの外形寸法より小さく設定されており、装着時の最終段階においてバッテリーBの側面に当接する封止部20を該側面に干渉させつつ断熱カバー10を下降させることになる。封止部20は、壁部12の上部に形成されているから、封止部20をバッテリーBの側面に当接させつつ断熱カバー10を下降させる範囲は狭く、断熱カバー10をバッテリーBに装着する際に負荷がかかる範囲が小さい。また、断熱カバー10は、封止部20がバッテリーBの側面に当接する段階では壁部12の大部分がバッテリーBに被っているから、力をかけ易く、また負荷が大きくなっても斜めに位置ズレしたり、変形したり、バッテリーBの上部から延出した部分が座屈したりする等の不具合が生じにくい。封止部20は、先端を構成する断熱層14の密度が低く設定されて、バッテリーBに当接する部分が比較的柔軟になっているので、バッテリーBに対する封止部20の摺動負荷を軽減することができる。このように、実施例の断熱カバー10によれば、壁部12に一般部18を設けてバッテリーBに当接する封止部20を小さくしてあるから、バッテリーBに対して装着し易い。
【0034】
前記断熱カバー10は、バッテリーBの側面全周を壁部12で覆うように装着した装着状態において、バッテリーBが載置された架台Cに壁部12の下端を当接させて下部を封止している。また、断熱カバー10は、バッテリーBに装着した際に、バッテリーBの側面から離間する一般部18および補強部22と該側面との間に空間Gがあくが、この空間Gの上部をバッテリーBの側面に当接する封止部20で塞いでおり、当該空間をG外方に連通しないように封止することができる。すなわち、断熱カバー10は、壁部12自体の断熱性能だけでなく、閉じた空間Gに存在する空気層による断熱作用が得られ、全体として良好な断熱性能を示す。また、なお、壁部12の下部には、一般部18より突出する補強部22が設けられているので、該補強部22によりバッテリーBの側面との隙間を小さくすることができる。
【0035】
前記封止部20を構成する断熱層14は、一般部18に連なる基端側の密度が高く構成されているから、バッテリーBの側面に当接して弾性変形する先端側を基端側により弾力的に支持し得る。これにより、封止部20のへたりを抑制し得ると共に、バッテリーBの側面に対する封止部20の弾力的な当接を維持して、前記空間Gの封止状態を好適に保つことができる。更に、断熱カバー10は、一般部18よりも厚く形成された補強部22を壁部12に設けることで、全体として剛性を向上させることができる。
【0036】
前記断熱カバー10は、端面から縁部にかけての端末が被覆部28で覆われているから、発泡体Fからなる断熱層14と表皮材Sからなる表皮層16との合わせ目が臨む端面を被覆部28によって保護することができる。すなわち、壁部12の端面から水などが侵入したり、端面が架台Cなどの他の部材に接触することなどに起因して、断熱層14と表皮層16とが剥離することを被覆部28によって防止できる。しかも、被覆部28は、自身が接着力を有する接着剤から構成しているので、壁部12の端末から剥がれにくい。また、被覆部28は、壁部12の端面だけでなく、端面から該壁部12の表裏両面の縁部にかけて延在するように形成されているので、該壁部12との接着面積を広く確保して、壁部12に対してより強固に固着することができる。壁部12の端面を壁部12の表面をなす表皮層16の色に合わせた色に調整された被覆部28で覆っているので、端面に臨む断熱層14の色が表皮層16と相違しても該断熱層14を被覆部28で隠して、断熱カバー10の見栄えを向上することができる。
【0037】
加熱することで液状とされたホットメルト接着剤に壁部12をなす積層部材Pの端末を浸漬して該接着剤を固化するだけで、接着剤によって積層部材Pの端末に被覆部28を簡単に形成することができる。しかも、積層部材Pを接着剤に浸漬する深さや、接着剤の粘度などを調節することで、被覆部28を形成する範囲や厚みなどを簡単に調節することができる利点がある。すなわち、積層部材Pの端末を巻き込んで接着したり、金型において端末を食い切り加工するなどの複雑な端末処理を行う必要はなく、簡単な工程で被覆部28が形成された積層部材Pを得ることができる。また、接着剤を着色することで被覆部28の色を簡単に変えることができ、端面を含めた断熱カバー10全体の色を統一して、上質な断熱カバー10を得ることができる。
【0038】
(変更例)
前述した構成に限定されず、例えば以下のようにも変更することが可能である。
(1)実施例では、断熱カバーにおける壁部の下部に、断熱対象物の側面に接触しない補強部を設ける構成であるが、これに限られず、図7に示すように、断熱カバー10における壁部12の下部に、一般部18より内方へ突出すると共にバッテリーBの側面に弾力的に当接するよう形成された封止部(凸部)20を設けてもよい。このように変更例の断熱カバー10をバッテリーBに装着した際に、一般部18とバッテリーBの側面との間にあく空間を上下の封止部20,20で塞ぐように構成したから、壁部12だけでなく当該空間に存在する空気の層によっても断熱を図ることができる。しかも、一般部18とバッテリーBの側面との間にあく空間は、上側が壁部12の上側に形成された封止部20で塞がれると共に下側が壁部12の下側に形成された封止部20で塞がれるから、該空間への空気の流通を抑えて断熱性を向上することができる。なお、変更例の断熱カバー10にも、実施例と同様に被覆部28を設けることができる。
(2)封止部は、1箇所に限られず、壁部の上下に離間して複数形成してもよい。
(3)補強部は、1箇所に限られず、壁部の上下に離間して複数形成してもよい。
(4)壁部は、断熱層および表皮層からなる複層構造に限られず、断熱層だけの単層構造や断熱層および表皮層に加えて他の機能層を有していてもよい。
(5)成形手段における支持部と押圧体との位置関係は、実施例に限定されず、支持部を上で押圧体を下に配置したり、支持部と押圧体とを左右の位置関係で配置する等、その他の構成であってもよい。
(6)断熱カバーを装着する断熱対象物としては、車載用のバッテリーに限られず、家庭用のバッテリーであってもよい。また、温水器などその他の機器に装着してもよい。
【0039】
(7)断熱カバーに用いられる積層部材を例に挙げて説明したが、ドアトリムやルーフライナーなどの車両内装部材やフードライナーその他の車両構成部材に用いる積層部材にも、被覆部の構成を適用可能である。
【符号の説明】
【0040】
28 被覆部,F 発泡体,P 積層部材,S 表皮材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7