特許第6244170号(P6244170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244170
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】コネクタ用導電部材
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20171127BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20171127BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20171127BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20171127BHJP
   C22C 9/10 20060101ALI20171127BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   C25D7/00 H
   C25D5/50
   C25D5/12
   H01R13/03 D
   H01R13/03 A
   C22C9/10
   C22C9/00
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-226772(P2013-226772)
(22)【出願日】2013年10月31日
(65)【公開番号】特開2015-86446(P2015-86446A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年9月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000176822
【氏名又は名称】三菱伸銅株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 淳一
(72)【発明者】
【氏名】相田 正之
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/199547(WO,A1)
【文献】 特開平08−055521(JP,A)
【文献】 特開2012−156409(JP,A)
【文献】 特開2001−279492(JP,A)
【文献】 特開2010−037629(JP,A)
【文献】 特開2009−057630(JP,A)
【文献】 特開2016−065316(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0186597(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00−7/12
C22C 9/00−9/10
H01R 13/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu系基材の上に、Cu−Sn金属間化合物層、Sn系表面層を順に備えた銅合金条材の、前記Sn系表面層の上に、ストライプ状のNiめっき、硬質Agめっきをこの順に備えたストライプ状めっき部が形成されているコネクタ用導電部材において、雄端子と雌端子とが嵌合する部位、及び、端子がリード線と接合する部位に、それぞれ前記ストライプ状めっき部を使用したコネクタの製造に使用され、前記ストライプ状めっき部は、幅が前記銅合金条材の幅と同等であり、厚みが1〜20μmであり、150℃で1000時間加熱保持処理後のストライプ状めっき部の表面硬度が130Hv以上であることを特徴とするコネクタ用導電部材。
【請求項2】
前記銅合金条材の一方の面に嵌合部用前記ストライプ状めっき部が形成され、他方の面にリード線接合部用前記ストライプ状めっき部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のコネクタ用導電部材。
【請求項3】
前記Cu系基材がMg:0.3〜2質量%、P:0.001〜0.1質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有することを特徴とする請求項1或いは請求項2に記載のコネクタ用導電部材。
【請求項4】
前記Cu系基材がCr:0.07〜0.4質量%、Zr:0.01〜0.15質量%、Si:0.005〜0.1質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有することを特徴とする請求項1或いは請求項2に記載のコネクタ用導電部材。
【請求項5】
前記Cu系基材がZr:0.005〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有することを特徴とする請求項1或いは請求項2に記載のコネクタ用導電部材。
【請求項6】
前記Cu系基材がFe:0.05〜0.15質量%、P:0.015〜0.05質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有することを特徴とする請求項1或いは請求項2に記載のコネクタ用導電部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ用導電部材に関し、特に詳しくは、銅合金条材に硬質Agめっきをストライプ状に施した表面硬度及び表面抵抗値に優れたコネクタ用導電部材に係り、特に電気自動車用コネクタに用いて好適なコネクタ用導電部材に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、表面に硬質Agめっき(130Hv以上)が施された銅合金条材が耐摩耗性及び導電性が要求される電気自動車の充電用プラグ部、各種摺動部、モーター部、充電部などのコネクタ部材として使用されている。
この場合、通常は、めっきが施されていない銅合金条材(裸銅合金条材)をプレス等でコネクタ部材に加工後、その表面上に全面的に或いはストライプ状に硬質Agめっきを施して使用されることが多く、複雑な加工後の形状のコネクタ部材への後めっきとなり、コストが高くなる。また、ストライプ状に硬質Agめっきを施したコネクタ部材は、全面的に硬質Agめっきが施されたコネクタ部材に比べて、コストは低くなるが、硬質Agめっきが施されていない部分は、変色し易く、耐候性、耐熱性等が低下するという欠点がある。
また、コネクタ部材として、更に過酷な条件下での使用に耐えるため、実装時(例えば、100〜150℃で100〜1000時間での使用)に、表面抵抗値が上昇せず、表面硬度が130Hv以上で安定していることが要求され始めている。
【0003】
特許文献1には、半導体装置用リードフレーム及びその製造方法として、耐湿性等のために設けるV溝と銀めっき境界部とが一致しても、ヒゲバリが生じないような構造であり、ストライプめっき条は、銅または銅合金からなる異形断面条の全面にニッケルめっきが施され、さらにダイパッド面およびワイヤボンディングパッド面に相当する機能領域に銀ストライプめっきが施され、銀めっき境界部aに一体に形成した傾斜めっきは、境界部のめっき厚さの途中から非銀めっき部側に向ってめっき厚が漸次薄く形成され、その密着性が強固になっている。そして、このようにするには、めっきの下地処理においてテープ境界へのアタックを多くさせてマスキングテープを浮き上がらせ、その隙間にストライクめっき液が侵入するようにすることが開示されている。
特許文献2には、鉛による環境汚染問題の生じない電子部品用リード線であって、耐屈曲性、はんだ付性等の特性が良好であり、安価なスズ合金めっき線の製造方法として、銅又は銅合金、或いは鉄又はその合金等でできたリード基材1上にスズめっき2を施し、その表面に銀めっきを施した後、そのリード材表面をダイス或いは繊維で平滑化させ、表層の銀をスズめっき層に拡散させることが開示されている。
特許文献3には、従来よりも耐食性の高いケーブル用コネクタとして、ケーブルと電気機器とを電気的に接続するためのハウジングを有するケーブル用コネクタであって、ハウジングは電気機器への接続具と、前記接続具とケーブルとを接続するシェルとを備え、シェルは、自体の構造を形成するための土台となっている金属製ベース部と、該ベース部の表面に順に形成されたニッケルめっき層と銀めっき層とを有し、ニッケルめっき層、銀めっき層の層厚は各々5μm以上であり、かつ、銀めっき層の表面粗さは最大高さ(Rz)で6.3s以下である、ケーブル用コネクタが開示されている。
特許文献4には、下地の銅の表面への拡散を抑制することが出来ると共に、端子の挿抜が良好で耐摩耗性に優れたコネクタ用銀めっき端子として、銅又は銅合金からなる母材の表面が、銀めっき層により被覆されたコネクタ用銀めっき端子であり、前記銀めっき層は、母材側となる下層側の第一の銀めっき層と、該第一の銀めっき層の上に形成され、銀めっき端子の表面に露出する上層側の第二の銀めっき層とから構成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−169890号公報
【特許文献2】特開2001−254196号公報
【特許文献3】特開2005−166289号公報
【特許文献4】特開2008−169408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
めっきが施されていない銅合金条材(裸銅合金条材)をプレス等でコネクタ部材に加工した後に、後めっきでストライプ状に硬質Agめっきを施して形成されたコネクタ用導電部材は、コネクタとしての実装時に表面硬度の低下が大きく、表面抵抗値が上昇する傾向が見られていた。
【0006】
本発明では、これらの欠点を改良し、ストライプ状に硬質Agめっきが施され、コネクタとしての実装時に表面硬度が大きく低下せず、表面抵抗値も安定したコネクタ用導電部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の観点に鑑み、本発明者らは鋭意検討の結果、Cu系基材の上に、Cu−Sn金属間化合物層、Sn系表面層を順に備えた銅合金条材の、Sn系表面層の上に、ストライプ状のNiめっき、硬質Agめっきをこの順に備えたストライプ状めっき部が形成されているコネクタ用導電部材は、実装時、例えば、100〜150℃で100〜1000時間での使用において、表面硬度が大きく低下せず、表面抵抗値も安定していることを見出した。
本発明のコネクタ用導電部材は、実装時に、Niめっき層がAgめっき層へのCuの拡散を抑制するので、CuがAg表面に拡散して酸化銅となり難くなり、表面抵抗値が安定し、更に、実装時の熱により、Cu−Sn金属間化合物層の表面に、Sn系表面層より硬度が高い(Ni,Cu)Sn合金層が形成されるので、硬質Agめっき層の表面硬度が大きく低下せずに130Hv以上で安定することになる。(Ni,Cu)Sn合金層の主成分は、(Ni,Cu)Snであると考えられる。
【0008】
即ち、本発明は、以下の構成からなるコネクタ用導電部材である。
〔1〕Cu系基材の上に、Cu−Sn金属間化合物層、Sn系表面層を順に備えた銅合金条材の、前記Sn系表面層の上に、ストライプ状のNiめっき、硬質Agめっきをこの順に備えたストライプ状めっき部が形成されているコネクタ用導電部材において、雄端子と雌端子とが嵌合する部位、及び、端子がリード線と接合する部位に、それぞれ前記ストライプ状めっき部を使用したコネクタの製造に使用され、前記ストライプ状めっき部は、幅が前記銅合金条材の幅と同等であり、厚みが1〜20μmであり、150℃で1000時間加熱保持処理後のストライプ状めっき部の表面硬度が130Hv以上であることを特徴とするコネクタ用導電部材。
〔2〕前記銅合金条材の一方の面に嵌合部用前記ストライプ状めっき部が形成され、他方の面にリード線接合部用前記ストライプ状めっき部が形成されていることを特徴とする〔1〕に記載のコネクタ用導電部材。
【0009】
〔3〕前記Cu系基材がMg:0.3〜2質量%、P:0.001〜0.1質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有することを特徴とする〔1〕或いは〔2〕に記載のコネクタ用導電部材。
〔4〕前記Cu系基材がCr:0.07〜0.4質量%、Zr:0.01〜0.15質量%、Si:0.005〜0.1質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有することを特徴とする〔1〕或いは〔2〕に記載のコネクタ用導電部材。
〔5〕前記Cu系基材がZr:0.005〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有することを特徴とする〔1〕或いは〔2〕に記載のコネクタ用導電部材。
〔6〕前記Cu系基材がFe:0.05〜0.15質量%、P:0.015〜0.05質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有することを特徴とする〔1〕或いは〔2〕に記載のコネクタ用導電部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、銅合金条材の表面に、Niめっきを下地に有する硬質Agめっきがストライプ状に施されているので、実装時に表面硬度が低下せず、表面抵抗値も安定したコネクタ用導電部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態を示す雄端子用導電部材の斜視図である。
図2】本発明の別の実施形態を示す雌端子導電部材の斜視図である。
図3】本発明のコネクタ用導電部材を使用して製造されたコネクタの一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照に、本発明のコネクタ用導電部材の実施形態を詳細に説明する。
図1に示すコネクタ用導電部材1は、リフローSnめっきが施された銅合金条材(Cu系基材の表面(両面)に、Cu又はCu合金、Sn又はSn合金をこの順にめっきしてそれぞれのめっき層を形成した後、加熱してリフロー処理することにより、Cu系基材の上に、Cu−Sn金属間化合物層、Sn系表面層がこの順に形成されている)2の一方の表面3の一部に嵌合部用金属材となるストライプ状めっき部(下からNiめっき層、硬質Agめっき層がこの順に形成されている)4が、他方の表面5にリード線接合部用金属材となるストライプ状めっき部(下からNiめっき層、硬質Agめっき層がこの順に形成されている)6が形成されており、後述する雄端子7の製造に使用される。
図2の本発明のコネクタ用導電部材11は、リフローSnめっきが施された銅合金条材(Cu系基材の表面(両面)に、Cu又はCu合金、Sn又はSn合金をこの順にめっきしてそれぞれのめっき層を形成した後、加熱してリフロー処理することにより、Cu系基材の上に、Cu−Sn金属間化合物層、Sn系表面層がこの順に形成されている)12の一方の表面13の一部に嵌合部用金属材となるストライプ状めっき部(下からNiめっき層、硬質Agめっき層がこの順に形成されている)14が、同じ表面13の他の部分にリード線接合部用金属材となるストライプ状めっき部(下からNiめっき層、硬質Agめっき層がこの順に形成されている)16が形成されており、後述する雌端子17の製造に使用される。
雌端子17では、雄端子7と嵌合する部位と外部リード線と接合する部位とが同一円面上であることが通常であり、機械的加工のし易さからも、嵌合部用金属材となるストライプ状めっき部(嵌合部用ストライプ状めっき部)14とリード線接合部用金属材となるストライプ状めっき部(リード線接合部用ストライプ状めっき部)16とは、同一平面上に形成される。コネクタ接続時に、雌端子の嵌合部用ストライプ状めっき部14は、雄端子の嵌合部用金属材となるストライプ状めっき部(嵌合部用ストライプ状めっき部)4と嵌合される。
【0013】
ストライプ状めっき部4、14のNiめっき層の下部は、実装時、例えば、100〜150℃で100〜500時間での使用時に、銅合金条材2のSn系表面層と、Cu系基材自体からマイグレーションしてくるCuと反応して、銅合金条材2のCu−Sn金属間化合物層の表面に(Ni,Cu)Sn合金層を形成する。
本発明にて使用される銅合金条材2は、電気自動車用コネクタとしての使用に適した銅合金条材であれば種類は限定しないが、導電率、耐熱性、強度、加工性等を加味すると、三菱伸銅社製の商品名「MSP1」(Mg:0.3〜2質量%、P:0.001〜0.1質量%、残部がCuおよび不可避的不純物)、三菱伸銅社製の商品名「MZC1」(Cr:0.07〜0.4質量%、Zr:0.01〜0.15質量%、Si:0.005〜0.1質量%、残部がCuおよび不可避的不純物)、三菱伸銅社製の商品名「C151」(Zr:0.005〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物)、三菱伸銅社製の商品名「TAMAC4」(Fe:0.05〜0.15質量%、P:0.015〜0.05質量%、残部がCuおよび不可避的不純物)等が特に好ましく、これらの銅合金条材は、良好な熱伝導性、強度、熱クリープ性、耐熱性、加工性等を有しており、電気自動車用のコネクタ製造用銅合金条材として最適である。
【0014】
コネクタ用導電部材1は、例えば、次の様な手法で形成することができる。
Cu系基材の上に、下地層として表1の条件にて、例えば0.5μm厚みのCuめっきを施し、次に、表2の条件にて、Cuめっきの表面に例えば0.5μm厚みのSnめっきを施した後に、リフロー処理(20〜75℃/秒の昇温速度で240〜300℃のピーク温度まで加熱する加熱工程と、ピーク温度に達した後、30℃/秒以下の冷却速度で2〜10秒間冷却する一次冷却工程と、一次冷却後に100〜250℃/秒の冷却速度で20〜60℃まで冷却する二次冷却工程を含む)を施す。この場合、Cu系基材表面から順に、Cu層、Cu−Sn合金層、Sn層が形成されている。
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【0017】
次に、表3の条件にて、Snめっき層の表面に0.5〜2μm厚みのNiめっき層をストライプ状に施した後に、そのストライプ状Niめっき層の表面に表4の条件にて、硬質Agめっき層を0.5〜19μm厚みで施し、ストライプ状めっき部4、14を形成する。
【0018】
【表3】
【0019】
【表4】
【0020】
このストライプ状めっき部4、14は、そのNiめっき層の下部が、実装時、例えば、100〜150℃で100〜500時間での使用時に、銅合金条材2のSn系表面層と、Cu系基材自体からマイグレーションしてくるCuと反応して、銅合金条材2のCu−Sn金属間化合物層の表面に(Ni,Cu)Sn合金層を形成する。
ストライプ状めっき部4、14は、幅が銅合金条材の幅と同等或いはそれ以下であり、厚みが1〜20μmであり、ストライプ状めっき部4、14の表面硬度が130Hv以上である。
ストライプ状めっき部4、14の表面硬さが130Hv未満では、雄端子或いは雌端子として使用時の耐久性、特に、耐磨耗性が低下し、220Hvを超えると、効果が飽和し、コストも高くなり無駄である。
ストライプ状めっき部4、14の厚みが1μm未満では、雄端子或いは雌端子として使用時に効果が不足し、20μmを超えると効果が飽和し、コストも高くなり無駄となる。
【0021】
この様にして形成されたコネクタ用導電部材1は、実装時に、Niめっき層がAgめっき層へのCuの拡散を抑制するので、CuがAgめっき層表面に拡散して酸化銅となり難くなり、表面抵抗値が安定し、更に、実装時の熱により、Cu−Sn金属間化合物層の表面に、Sn系表面層より硬度が高い(Ni,Cu)Sn合金層が形成されるので、硬質Agめっき層の表面硬度が大きく低下せずに130Hv以上で安定することになる。
更に、ストライプ状めっき部4、14を除く部材の表面部には、リフローSnめっきが施されているので、実装時に、変色し難く、耐候性、耐熱性等が低下することはない。
また、本発明での「嵌合する部位」とは、雄端子と雌端子とが直接面接触している部分およびそれに隣接した5mm以内の面接触に寄与している部分を意味する。
【0022】
例えば、図1のコネクタ用導電部材1は、所定の外形にプレス打抜きされ、矢印で示すように丸める曲げ加工、かしめ加工等の機械的加工が施されて、雄端子となり、耐久性が高く、密着力が強くて硬度の高い嵌合部用ストライプ状めっき部4が、コネクタ嵌合時に雄端子が雌端子と嵌合する部位に使用される。これにより、繰り返し挿抜に対する高い耐久性を有することができ、特に、厳しい状況下で使用される電気自動車用充電器コネクタの製造に使用されることが好ましい。
更に、リード線接合部用ストライプ状めっき部6は、雄端子7が外部リード線33と接合する部位に使用される。これにより、雄端子7全体としての強度および耐久性が増し、外部リード線33とのはんだ付けなどの接合が容易になる。この外部リード線33と接合する部位は、かしめ加工などを施されることが多く、密着力が強固であるリード線接合部用ストライプ状めっき部6を使用することにより、加工効率が向上する。この場合、リード線接合部用ストライプ状めっき部6の厚みは、雄端子7として雌端子17との直接の挿抜力がかからないので、コストダウンの面からも、嵌合部用ストライプ状めっき部4の厚みより小さくて良い。
嵌合部用ストライプ状めっき部4及びリード線接合部用ストライプ状めっき部6の表面硬さは、130Hv以上である。130Hv未満では、コネクタ雄端子として使用時の耐久性、特に、耐磨耗性が低下し、220Hvを超えると、効果が飽和し、コストも高くなり無駄となる。
【0023】
図2のコネクタ用導電部材11は、所定の外形にプレス打抜きされ、矢印で示すように丸める曲げ加工、かしめ加工等の機械的加工が施されて、雌端子17となり、耐久性が高く、密着力が強くて硬度の高いストライプ状めっき部14が、コネクタ嵌合時に雌端子が雄端子と嵌合する部位に使用される。これにより、繰り返し挿抜に対する高い耐久性を有することができ、特に、厳しい状況下で使用される電気自動車用充電器コネクタの製造に使用されることが好ましい。
更に、リード線接合部用ストライプ状めっき部16は、雌端子17が外部リード線33と接合する部位に使用される。これにより、雌端子17全体としての強度および耐久性が増し、外部リード線33とのはんだ付けなどの接合が容易になる。この外部リード線33と接合する部位は、かしめ加工などを施されることが多く、密着力が強固であるリード線接合部用ストライプ状めっき部16を使用することにより、加工効率が向上する。この場合、リード線接合部用ストライプ状めっき部16の厚みは、雌端子17として雄端子7との直接の挿抜力がかからないので、コストダウンの面からも、嵌合部用ストライプ状めっき部14の厚みより小さくても良い。
嵌合部用ストライプ状めっき部14及びリード線接合部用ストライプ状めっき部16の表面硬さは、130Hv以上である。130Hv未満では、コネクタ雌端子として使用時の耐久性、特に、耐磨耗性が低下し、220Hvを超えると、効果が飽和し、コストも高くなり無駄となる。
【0024】
図3は、本発明のコネクタ用導電部材1、11を使用して製造されたコネクタの一実施形態を示す概略図である。
雄端子7は、先端に、雌端子17に嵌合する嵌合部31が形成され、その基端部にリード線接合部32が形成されている。嵌合部31は棒状に形成され、リード線接合部32は、リード線33の先端に露出している導体33aを嵌合する円筒部34が嵌合部31に連続して形成され、その円筒部34に、一対のかしめ片35a,35bが左右に開いた状態に一体に形成された構成とされている。これらかしめ片35a,35bは、リード線33の外被33bをかしめる外被用かしめ片35aと導体用かしめ片35bとが連続して形成されている。
雌端子17は、先端に、雄端子7の嵌合部31を嵌合する嵌合部41が形成され、その基端部にリード線接合部42が形成されている。嵌合部41は、雄端子7の嵌合部31を緊密に嵌合し得る内径の円筒状に形成され、その先端部を除く中央部分に長さ方向に沿うスリットが周方向に間隔をおいて複数形成されることにより、弾性変形容易部43とされている。リード線接合部42は、雄端子7と同様に、リード線33の先端の導体33aを嵌合する円筒部44が嵌合部41に連続して形成され、その円筒部44に、一対のかしめ片45a,45bが左右に開いた状態に一体に形成されており、それぞれ外被用かしめ片45aと導体用かしめ片45bとが連続して形成されている。
【0025】
そして、雄端子7では、前述した嵌合部用ストライプ状めっき部4が棒状の嵌合部31の基端側に近い部分の外周部に配置され、リード線接合部用ストライプ状めっき6が円筒部34及び導体用かしめ片35bの内面に配置されている。一方、雌端子17では、嵌合部用ストライプ状めっき部14が嵌合部41の先端部の内周面に配置され、リード線接合部用ストライプ状めっき16が円筒部44及び導体用かしめ片45bの内面に配置されている。
この様な個々のコネクタの雄端子7及び雌端子17が、雄端子毎、あるいは雌端子毎に複数本まとめてハウジングに収容されることにより多ピン型のコネクタとなる。
【実施例】
【0026】
長さ500mm、幅30mm、厚み0.3mmの表5に示す三菱伸銅社製の商品名「MSP1」(Mg:0.3〜2質量%、P:0.001〜0.1質量%、残部がCuおよび不可避的不純物)、三菱伸銅社製の商品名「MZC1」(Cr:0.07〜0.4質量%、Zr:0.01〜0.15質量%、Si:0.005〜0.1質量%、残部がCuおよび不可避的不純物)、三菱伸銅社製の商品名「C151」(Zr:0.005〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物)、三菱伸銅社製の商品名「TAMAC4」(Fe:0.05〜0.15質量%、P:0.015〜0.05質量%、残部がCuおよび不可避的不純物)の各条材の表面に、表1の条件にて、0.5μm厚みのCuめっきを施し、次に、表2の条件にて、Cuめっきの表面に0.5μm厚みのSnめっきを施した後に、リフロー処理(20〜75℃/秒の昇温速度で240〜300℃のピーク温度まで加熱する加熱工程と、ピーク温度に達した後、30℃/秒以下の冷却速度で2〜10秒間冷却する一次冷却工程と、一次冷却後に100〜250℃/秒の冷却速度で20〜60℃まで冷却する二次冷却工程を含む)を施して、リフローSnめっき表面層を有する各条材を作製した。
【0027】
次に、表3の条件にて、各リフローSnめっき表面層の部位1(コネクタの雄端子として使用され雌端子と嵌合する部位となる)の表面に表5に示す厚みのNiめっきをストライプ状に施した後に、そのストライプ状のNiめっき層の表面に表4の条件にて、硬質Agめっきを表5に示す厚みで施し、実施例1〜16、比較例1〜8のコネクタ用導電部材を作製した。ストライプ状めっき部の寸法は横30mm×縦7mmであり、厚みは表5に示す。
次に、表3の条件にて、各リフローSnめっき表面層の部位2(コネクタの雄端子として使用され外部リード線と接合する部位となる)の表面に表6に示す厚みのNiめっきをストライプ状に施した後に、そのストライプ状のNiめっき層の表面に表4の条件にて、硬質Agめっきを表6に示す厚みで施し、実施例31〜46、比較例31〜38のコネクタ用導電部材を作製した。
【0028】
【表5】
【0029】
【表6】
【0030】
これらの部位1、部位2に形成されたストライプ状めっき部を有するコネクタ用導電部材につき、表7、8に示す、初期、実装時を想定した条件(100℃×100hr、100℃×500hr、100℃×1000hr、150℃×100hr、150℃×500hr、150℃×1000hr)で加熱保持処理後に、表面硬さ、動摩擦係数、接触抵抗を測定した。
測定結果を表7、8に示す。
【0031】
表面硬さは、マイクロビッカース硬度計にて測定した。
動摩擦係数は、嵌合型のコネクタのオス端子とメス端子の接点部を模擬するように、各試料によって板状のオス試験片と内径1.5mmの半球状としたメス試験片とを作成し、アイコーエンジニアリング株式会社製の横型荷重測定器(Model−2152NRE)を用い、両試験片間の摩擦力を測定して動摩擦係数を求めた。
接触抵抗は、山崎精機株式会社製電気接点シミュレーターを用い荷重0.49N(50gf)摺動有りの条件で測定した。
また、各コネクタ用導電部材より、実際に雄端子及び雌端子を作製し、電気自動車用充電コネクタ(SAE規格No「J1772」)の電源端子として装着し、このコネクタを14000回挿抜した時の挿入力の変化を測定し、変化率が0.5%未満のものを○、0.5%以上のものを×として挿抜性を評価した。測定結果を表7、8に示す。
【0032】
【表7】
【0033】
【表8】
【0034】
【表9】
【0035】
【表10】
【0036】
これらの結果より、本発明の実施例1〜16、実施例31〜46のコネクタ用導電部材は、実装時に表面硬度が大きく低下せず、表面抵抗値も安定しており、繰り返し挿抜に対する高い耐久性および高導電率を有するコネクタ端子を製造する部材として適していることがわかる。
【0037】
以上、本発明の実施形態の製造方法について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0038】
1、11 コネクタ用導電部材
2、12 銅合金条材
3、13 一方の表面
4、14 嵌合部用ストライプ状めっき部
5、 他方の表面
6、16 リード線接合部用ストライプ状めっき部
7 雄端子
17 雌端子
31、41 嵌合部
32、42 リード線接合部
43 弾性変形容易部
34、44 円筒部
35a、45a 外被用かしめ片
35b、45b 導体用かしめ片
図1
図2
図3