特許第6244210号(P6244210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6244210粉末冶金用バインダー、および粉末冶金用混合粉末、並びに焼結体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244210
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】粉末冶金用バインダー、および粉末冶金用混合粉末、並びに焼結体
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/02 20060101AFI20171127BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20171127BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20171127BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20171127BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20171127BHJP
【FI】
   B22F3/02 M
   B22F1/00 V
   B22F1/02 B
   C22C38/00 301Z
   C22C38/58
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-11096(P2014-11096)
(22)【出願日】2014年1月24日
(65)【公開番号】特開2014-196553(P2014-196553A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2016年9月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-41670(P2013-41670)
(32)【優先日】2013年3月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 義浩
(72)【発明者】
【氏名】吉川 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】赤城 宣明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 充洋
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−160206(JP,A)
【文献】 特開昭63−103001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00− 8/00
C22C 1/04− 1/05
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄基粉末と副原料粉末とを含む粉末冶金用混合粉末に配合して使用されるバインダーであって、前記バインダーは融点が50℃以上85℃以下、且つ、190℃での加熱溶融流動性が2.0g/10分以上3.6g/10分以下を有するブテン系重合体であることを特徴とする粉末冶金用バインダー。
【請求項2】
鉄基粉末と副原料粉末とを含む粉末冶金用混合粉末に配合して使用されるバインダーであって、前記バインダーは融点が50℃以上85℃以下、且つ、190℃での加熱溶融流動性が2.0g/10分以上3.6g/10分以下を有するブテン系重合体、および重量平均分子量が1,000,000以下のメタクリル酸系重合体を含むものであることを特徴とする粉末冶金用バインダー。
【請求項3】
前記バインダーに含まれる前記メタクリル酸系重合体の含有量は、前記バインダー中、少なくとも5質量%である請求項に記載の粉末冶金用バインダー。
【請求項4】
前記ブテン系重合体は、ブテンと低級アルキレンとの共重合体である請求項1〜3のいずれかに記載の粉末冶金用バインダー。
【請求項5】
前記ブテン系重合体は、ブテン−プロピレン共重合体、またはブテン−エチレン共重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の粉末冶金用バインダー。
【請求項6】
鉄基粉末、副原料粉末と、請求項1〜5のいずれかに記載の粉末冶金用バインダーとを含有する粉末冶金用混合粉末。
【請求項7】
前記バインダーの含有量は、前記鉄基粉末と前記副原料粉末との合計100質量%に対して、0.01質量%以上0.5質量%以下である請求項6に記載の粉末冶金用混合粉末。
【請求項8】
前記混合粉末は、前記鉄基粉末と前記副原料粉末の少なくとも一部が前記バインダーで被覆されたものである請求項6または7に記載の粉末冶金用混合粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主原料粉末と副原料粉末との混合粉末に配合して使用する粉末冶金用バインダー、および粉末冶金用混合粉末、並びに焼結体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄基粉末などの主原料粉末を用いて焼結体などの製品を製造する粉末冶金法では、まず上記主原料粉末と、焼結体の強度特性や加工特性などの物性を改善するために黒鉛粉などの副原料粉末とを混合し、加圧成形して圧粉体を成形する。そして該圧粉体を主原料粉末の溶融点以下の温度で焼結することによって焼結体を製造している。
【0003】
このような焼結体の製造方法においては様々な問題が指摘されている。例えば上記成形した圧粉体を金型から抜出す際に、圧粉体と金型面との摩擦係数が増加すると、金型から製品を取り外す際、金型の表面に傷が発生する型かじりや金型の損傷の原因となることが知られている。そのため、主原料粉末と副原料粉末との混合粉末に、潤滑性を良好にするための潤滑剤(例えば特許文献1)などが添加・混合されている。
【0004】
また例えば副原料粉末として汎用されている黒鉛は主原料粉末である鉄基粉末に比べて比重が小さく、かつ粒径が小さい。そのため、単に混合するだけでは、黒鉛と鉄基粉末が大きく分離して黒鉛が偏析し、均一に混合できないという問題が指摘されている。黒鉛の偏析によって圧粉体中のカーボン含有量にバラツキが生じると、焼結体にも炭素濃度の濃淡が生じ、機械的特性が安定しないため、品質の安定した部品を製造することが困難となる。
【0005】
更に黒鉛を使用すると、混合工程または加圧成形工程で黒鉛が飛散して発塵するため混合粉末中の黒鉛量が低下すると共に、黒鉛の発塵によって作業環境が悪化するといった問題を抱えている。上記した偏析や発塵は、黒鉛のみならず、主原料粉末と混合されるその他の様々な粉末でも同様に生じ、偏析や発塵の防止が求められていた。
【0006】
そこで、偏析や発塵を防ぐ方法として、粘結剤となるバインダーを添加することが提案されている。バインダーとしては例えばスチレン・ブタジエンゴム(SBR)などのゴム系バインダーなどが提案されている(例えば特許文献2)。
【0007】
しかしながらゴム系バインダーは、極めて高い粘着性を有しているため、混合粉末の流動性を阻害する原因となっていた。混合粉末の流動性が悪いと以下のような問題が生じる。例えば、混合粉末を貯蔵ホッパーから排出して成形金型に移送する際、または混合粉末を成形金型に充填する際などの加圧成形工程で、貯蔵ホッパーの排出上部でブリッジングなどによる排出不良が生じる。また貯蔵ホッパーからシューボックスまでのホースが閉塞するなどの問題が生じる。また、混合粉末の流動性が悪いと、成形金型内全体、特に薄肉部分に混合粉末が均一に充填され難くなり、均質な圧粉体が得られ難いという問題もある。
【0008】
そこで上記問題を解決するため、特許文献3〜10には、上記偏析や発塵を防止するだけでなく、更に混合粉末の流動性も改善し得る樹脂系バインダーやそのための補助添加剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−148505号公報
【特許文献2】特開平5−86403号公報
【特許文献3】特開平9−104901号公報
【特許文献4】特開2003−105405号公報
【特許文献5】特開2004−256899号公報
【特許文献6】特開2004−360008号公報
【特許文献7】特開2008−285762号公報
【特許文献8】特開平2−217403号公報
【特許文献9】特開昭63−103001号公報
【特許文献10】特開2013−112824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記各種バインダーを添加すれば、主原料粉末と副原料粉末との間の付着力が高まって偏析や発塵を防止することができ、更に混合粉末の流動性も改善することができる。しかしながら混合粉末の流動性改善効果は十分でなく、更なる向上が求められていた。例えば混合粉末の移送や充填、加圧成形時に混合粉末同士あるいは混合粉末と装置内壁との摩擦熱によって混合粉末の温度が50℃以上の高温に上昇することがある。このような場合、樹脂系バインダーを含有する混合粉末は、常温で流動性を有するが、高温状態では流動性が低下した。一方、高温状態で流動性を有する樹脂系バインダーを含有する混合粉末は偏析や発塵に対する十分な防止効果を有していなかった。
【0011】
そのため、混合工程や加圧成形工程では依然として偏析や発塵、排出不良や閉塞などが生じ、均質で高密度な焼結体を製造することが難しかった。
【0012】
さらに、バインダーを混合粉末に添加する場合、バインダーを有機溶媒に溶解させてスプレー噴霧して、混合粉末に添加している。しかしながら溶解させたバインダーの粘度が高いと、混合粉末に均一に噴霧できず混合粉末における黒鉛付着量にバラツキが生じた。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は偏析や発塵の抑制に優れた効果を有するだけでなく、例えば50℃〜70℃の高温に加熱された場合でも優れた流動性を奏するバインダーを提供することである。また本発明の他の目的は、成形作業性が良好で高密度な焼結体を得ることのできる粉末冶金混合粉末を提供すること、及び均質で高密度な焼結体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
鉄基粉末と副原料粉末とを含む粉末冶金用混合粉末に配合して使用されるバインダーであって、前記バインダーは融点が50℃以上85℃以下、且つ、190℃での加熱溶融流動性が2.0g/10分以上3.6g/10分以下を有するブテン系重合体、および重量平均分子量が1,000,000以下のメタクリル酸系重合体から選択される1種以上であることに要旨を有する。
【0015】
また前記バインダーは前記ブテン系重合体、および前記メタクリル酸系重合体を含むものであることが好ましい。
本発明では、前記バインダーに含まれる前記メタクリル酸系重合体の含有量は、前記バインダー中、少なくとも5質量%であることも好ましい。
本発明では前記ブテン系重合体は、ブテンと低級アルキレンとの共重合体であることが好ましく、より好ましくはブテン−プロピレン共重合体、またはブテン−エチレン共重合体である。
【0016】
また本発明には、鉄基粉末、副原料粉末と上記本発明のバインダーとを含有する粉末冶金用混合粉末が含まれる。本発明の粉末冶金用混合粉末における前記バインダーの含有量は、前記鉄基粉末と前記副原料粉末の合計100質量%に対して、0.01質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。また前記混合粉末は、前記鉄基粉末と前記副原料粉末の少なくとも一部が前記バインダーで被覆されたものであることが好ましい。
【0017】
更に本発明には、上記粉末冶金用混合粉末を圧縮成形し、焼結することによって得られる焼結体も含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のバインダーは、特定の融点および加熱溶融流動性を有するブテン系重合体、および重量平均分子量1,000,000以下のメタクリル酸系重合体から選択される1種以上で構成されているため、鉄基粉末と副原料粉末とを含む混合粉末に含有させることで、副原料粉末の偏析や飛散を効果的に防止できるだけでなく、混合粉末の流動性、特に50℃以上70℃以下での流動性に優れた効果を奏する。
【0019】
したがって本発明のバインダーを含有する粉末冶金用混合粉末は、成形作業性が良好であり、均質、且つ高密度な焼結体を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施例において用いた黒鉛飛散率測定用器具の断面図である。
図2図2は、実施例において用いた限界流出径測定用器具の断面図である。
図3図3(a)〜(d)は、実施例において用いたスリット充填量測定用器具の上面図(a)と動作を示す側面図(b)〜(d)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは樹脂系バインダーとして、融点と190℃での加熱溶融流動性が特定の範囲にあるブテン系重合体、および重量平均分子量が特定の範囲にあるメタクリル酸系重合体が好適であり、これらの少なくともいずれか一方を含むバインダーは、常温だけでなく高温での流動性と偏析や発塵の防止に優れた効果を奏することを突き止めて本発明に至った。
【0022】
本発明において「流動性に優れている」とは、25℃の常温のみならず、50℃以上70℃以下の高温での流動性が高いことを意味する。具体的には、後記する実施例に示す測定条件において、(1)25℃および50℃、70℃の高温状態で流動することであり、25℃での流動度は好ましくは25s/50g以下、50℃、および70℃の高温での流動度は好ましくは30s/50g以下、より好ましくは25s/50g以下である。(2)限界流出径が小さいことであり、好ましくは25mm以下、より好ましくは20mm以下である。および(3)金型充填性に優れていることであり、好ましくは30g以上、より好ましくは35g以上である。
【0023】
また本発明において「偏析や発塵の防止性に優れている」とは、後記する実施例の測定条件において、黒鉛飛散率が30%以下、好ましくは10%以下であることをいう。黒鉛飛散率が低いと、焼結体の製造過程において混合粉末に対する副原料粉末である黒鉛の付着性が高く、発塵の発生が抑制されていることを意味する。また偏析性については、後記する実施例の測定条件において、混合粉末中の黒鉛付着量のバラツキが好ましくは20%以上30%未満、より好ましくは10%以上20%未満、更に好ましくは10%未満であることを意味する。
【0024】
以下、本発明に至った経緯を述べつつ、本発明について説明する。
【0025】
本発明者らが粉末冶金用混合粉末の流動性について検討した結果、使用する主原料粉末の粒径や形状、副原料粉末の種類、添加量、粒径、形状などによっても流動性は影響されるが、特に50℃〜70℃の高温での流動性はバインダーによる影響が最も大きいと考えた。
【0026】
そこで従来から使用されているゴム系バインダーや上記従来技術でも使用されているような樹脂系バインダーについて検討したところ、次のことがわかった。
【0027】
まず、スチレンブタジエンゴム系バインダーなどのゴム系バインダーを添加した混合粉末は、25℃で流動性を有していても、50℃以上の高温になると後記表1のNo.9、10に示すように流動性が低下した。高温で流動性が低下する原因は、ゴム系バインダーの軟化・溶融によって粘着性が高まるためであると考えられる。
【0028】
また従来の樹脂系バインダーを添加した混合粉末についても流動性と偏析性、発塵性について調べたところ、高温での流動性と偏析性、発塵性とは相反する傾向を示し、両者を兼備したバインダーは存在しなかった。すなわち、従来の樹脂系バインダーを添加した場合、高温で優れた流動性を示すものは、例えば後記表1のNo.1に示すように粘着性が低く、偏析や発塵を防止する効果が低かった。一方、偏析と発塵を防止する効果が高いものは、例えば後記表1のNo.2に示すように高温になると粘着性が高くなって流動性が悪化した。
【0029】
そこで本発明者らが流動性向上効果と偏析や発塵防止効果の両特性を発揮し得る樹脂について検討した結果、ブテン系重合体、およびメタクリル酸系重合体が上記効果を発揮するバインダーとして好適であることがわかった。もっとも、後記表1のNo.7、8に示すようにブテン系重合体の中でも高温での流動性が悪いものがある。そのため上記優れた効果を発揮する条件について研究を重ねた結果、ブテン系重合体の融点と190℃での加熱溶融流動性が高温での流動性と偏析や発塵に影響を与えていることを見出した。同様にメタクリル酸系重合体についても、重量平均分子量が、高温での流動性と偏析や発塵に影響を与えていることを見出した。または重量平均分子量が1,000,000以下のメタクリル酸系重合体、ならびにブテン系重合体と平均分子量が1,000,000以下のメタクリル酸系重合体との2成分系樹脂が、高温での流動性向上と偏析・発塵の抑制とに影響を与えていることを見出した。
【0030】
詳細には、融点の高いブテン系重合体の場合、粘着性が低いため高温下での流動性は良好になるが、主原料粉末と副原料粉末との間の付着力が弱く、偏析・粉塵が発生し易いことがわかった。一方、融点の低いブテン系重合体は偏析・発塵の抑制に有効であるが、後記表1のNo.8に示すように加熱溶融流動性が高すぎたり、あるいは後記表1のNo.7に示すように加熱溶融流動性が低すぎたりすると高温での流動性が不十分であることがわかった。そしてこれらの傾向を考慮して検討した結果、本発明者らはブテン系重合体の融点と加熱溶融流動性を特定の範囲とすることで、高温でも優れた流動性を示すと共に、偏析・発塵の防止にも優れた効果を発揮することを見出した。
【0031】
なお、上記した特許文献7には重量平均分子量が500〜10,000のポリオレフィン系樹脂を用いた潤滑剤が開示されており、本発明のブテン系重合体もポリオレフィン系樹脂の一つであるが、本発明とは以下の点で相違している。
【0032】
まず、特許文献7は潤滑剤であり、本発明はバインダーである点で用途目的が異なる。すなわち、潤滑剤は、粉末冶金用混合粉末を金型成形した後、金型から成形体を取り出す時に、抜き圧を低減させ、製品割れや金型の損傷を防ぐ目的で使用される潤滑性付与剤である。一方、バインダーは、主原料粉末と副原料粉末との付着性を高めて粉塵性や偏析を低減させることを主目的として使用される粘着性付与剤であり、両者は本来的に要求特性が異なっている。
【0033】
また特許文献7の潤滑剤は、混合粉末を金型へ充填するまでは、充填時の取扱い性や圧縮体の密度の均一性の観点から潤滑剤が軟化または溶融し始めない温度に維持することが重要であることが段落0037に記載されている。すなわち、特許文献7の潤滑剤は金型に充填するまでの移送時に軟化、溶融しない高融点を有するものである。例えば実施例の表1では125〜126℃の融点ピークのポリエチレンワックスを使用している。一方、本発明のバインダーは、融点が50〜85℃であるから、上記したように混合粉末を成形金型に移送する際や充填する際の温度がバインダーの融点近傍になった際には、軟化・溶融する性質を有するものである。したがって両者は樹脂の融点が異なる。
【0034】
この点について、特許文献7の実施例で潤滑剤として開示している樹脂はポリエチレンワックスのみであり、本発明で対象とするブテン系重合体は全く開示されていない。特許文献7の実施例に用いたポリエチレンワックスの融点は表1、表4より、融点125〜129℃であり、本発明で特定する50〜85℃の融点よりも高い。また本発明の実施例の表1のNo.2でも示しているように、特許文献7を模擬して120℃の高融点のポリエチレンをバインダーとして用いた場合、50℃以上での流動性が得られておらず、効果の観点からも本発明と特許文献7のバインダーは全く異なる性質を有するものである。したがって特許文献7の潤滑剤と本発明のバインダーは相違する。
【0035】
またバインダーと潤滑剤では使用形態が異なる。すなわち、潤滑剤として使用する場合は、鉄基粉末とは別に潤滑剤樹脂を添加・混合して両者が混在した混合粉末を形成する。一方、本発明に係るバインダーは、鉄基粉末と副原料粉末とを含む混合粉末の少なくとも一部をバインダーで被覆した混合粉末である。すなわち、バインダーとして使用する場合は、バインダーを有機溶媒で溶解させた溶液中に、混合粉末を添加・混合した後、有機溶媒を乾燥させることで混合粉末がバインダーで被覆された粉末冶金用混合粉末を使用する。
【0036】
また本発明者らは上記ブテン系重合体以外にもバインダーに適した材料として、重量平均分子量が1,000,000以下のメタクリル酸系重合体、あるいは、重量平均分子量が1,000,000以下のメタクリル酸系重合体とブテン系重合体の両方を含む2成分系バインダーも高温でも優れた流動性を示すと共に、偏析・発塵の防止にも優れた効果を発揮することを見出した。メタクリル酸系重合体の中でも特に重量平均分子量が1,000,000以下のメタクリル酸系重合体は上記ブテン系重合体と比べて有機溶媒に溶解させた際の粘度が低いため、混合粉末中の黒鉛付着量のバラツキ低減に有効であり、偏析や発塵の抑制に高い効果を奏することがわかった。
【0037】
以下、本発明に係るバインダーの構成について説明する。
【0038】
[融点が50℃以上85℃以下、且つ、190℃での加熱溶融流動性が2.0g/10分以上3.6g/10分以下を有するブテン系重合体]
本発明の第1のバインダーは、融点が50℃以上85℃以下、且つ、190℃での加熱溶融流動性が2.0g/10分以上3.6g/10分以下を有するブテン系重合体である。本発明においてブテン系重合体には、ブテン系共重合体も含む。ブテン系重合体としては、ブテンのみからなるブテン重合体、ブテンと他のアルケンの共重合体であり、アルケンとしては低級アルケンが好ましく、低級アルケンとは、好ましくは炭素数2または3、より好ましくは炭素数3のアルケンである。
【0039】
具体的には1−ブテン単独重合体、ブテンと[エチレンまたはプロピレン]との共重合体、更に好ましくはブテンとプロピレンとの共重合体である。なお、ブテンは1−ブテン、イソブテン、2−ブテンであってもよい。
【0040】
更に本発明に係るブテン系重合体は、任意の他のモノマー、あるいはポリマーを有する構造であってもよく、例えば酢酸ビニルを含む構造はブテン−エチレン共重合体の融点低下に寄与する。
【0041】
(1)ブテン系重合体の融点:50℃以上85℃以下
ブテン系重合体の融点はバインダー温度が25℃の室温から70℃程度までの高温での流動性に影響を与える。すなわち、本発明に係るブテン系重合体の融点が50℃以上であれば、上記混合粉末同士や装置内壁と混合粉末との摩擦熱によって、混合粉末の温度が融点付近に上昇しても、ブテン系重合体の粘着性が流動性を阻害する程度に高くなりすぎないため、優れた流動性を示す。重合体の種類によっても異なるがブテン系重合体の融点は50℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上である。一方、ブテン系重合体の融点が高すぎると主原料粉末と副原料粉末との間の付着力が弱く、黒鉛飛散率が高くなって偏析や発塵を十分に防止できないことがある。したがってブテン系重合体の融点は、85℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下である。例えば実施例に用いた融点の範囲、具体的には77℃以上85℃以下のブテン−プロピレン共重合体、50℃以上55℃以下のブテン−エチレン共重合が好ましい。
【0042】
(2)ブテン系重合体の190℃での加熱溶融流動性:2.0g/10分以上3.6g/10分以下
ブテン系重合体の加熱溶融流動性は、ブテン系重合体の流動性に影響を与える。一般的に加熱溶融流動性が高いほど粘性が低いことから、本発明者らはバインダーとして使用する場合も、加熱溶融流動性が高いほどブテン系重合体の流動性は向上するものと推測した。しかしながら実験の結果、加熱溶融流動性と流動性の関係は比例関係にあるのではなく、むしろ加熱溶融流動性が低すぎたり、高すぎると50℃以上の高温での混合粉末の流動性が低下することがあり、流動性との関係では加熱溶融流動性の最適値があることがわかった。したがって流動性を確保する観点から本発明ではブテン系重合体の加熱溶融流動性を2.0g/10分以上、好ましくは2.5g/10分以上、より好ましくは3.0g/10分以上、3.6g/10分以下とする。
【0043】
本発明では上記ブテン系重合体の融点と加熱溶融流動性を特定の範囲内に制御することで、室温から高温での良好な流動性と偏析や粉塵に対する防止効果を得ることができる。
【0044】
なお、本発明ではブテン系重合体が上記融点と加熱溶融流動性を満足すればよく、重量平均分子量など他の物性は特に限定されない。したがって例えば単量体の配列などの共重合体の形態は特に限定されず、ランダム共重合体、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフと共重合体のいずれであってもよい。また共重合体の構造も直鎖状、分枝状のいずれであってもよい。
【0045】
本発明に係るブテン系重合体の中でも特に好ましいのは、下記式(1)で示されるブテン−プロピレン共重合体、例えば融点が好ましくは77℃以上85℃以下、加熱溶融流動性が好ましくは2.5g/10分以上3.5g/10分以下、より好ましくは2.8g/10分以上3.3g/10分以下、更に好ましくは3.0g/10分以下、或いは下記式(2)で示されるブテン−エチレン共重合体、例えば融点が好ましくは50℃以上65℃以下、より好ましくは50℃以上55℃以下、加熱溶融流動性が好ましくは3.4g/10分以上3.6g/10分以下、より好ましくは3.6g/10分以下である。また本発明で最も好ましいブテン系重合体としては、ブテン−プロピレン共重合体である。
【0046】
【化1】
【0047】
(式中、x、yは任意の整数。また共重合体の融点及び加熱溶融流動性は上記値を満足するもの)
【0048】
【化2】
【0049】
(式中、x、yは任意の整数。また共重合体の融点及び加熱溶融流動性は上記値を満足するもの)
【0050】
上記要件を満足する本発明に係るブテン系重合体は、各種公知の製造方法に基づいて重合させることによって製造できる。また本発明に係るブテン系重合体は、上記融点と加熱溶融流動性を満足するものであれば、市販品を用いることができる。
【0051】
[重量平均分子量が1,000,000以下のメタクリル酸系重合体]
また本発明の第2のバインダーは、重量平均分子量が1,000,000以下のメタクリル酸系重合体である。メタクリル酸系重合体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸エチルへキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどが例示され、これらを単独、あるいは2種以上を併用してもよい。構造式が直鎖状に近い方が本発明の効果発現に有効であるため、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルが好ましく、より好ましくはメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルである。
【0052】
本発明のメタクリル酸系重合体の重量平均分子量を低くすると、製造過程でメタクリル酸系重合体の有機溶媒で溶解する際の粘度が調整されて、鉄粉と黒鉛の粘着性向上効果を奏するため、混合粉末中の黒鉛付着量のバラツキを抑制することができ、ブタン系重合体よりも優れた偏析抑制効果を発揮する。また50℃以上70℃以下の高温において高い流動性を発揮する。このような効果を得るためには、メタクリル酸系重合体の重量平均分子量は1,000,000以下、好ましくは350,000以下である。なお、高温での流動性を向上させる観点からは重量平均分子量の下限は特に限定されないが、低くなりすぎると粘性が低下することがあるため、好ましくは150,000以上である。
【0053】
上記要件を満足する本発明に係るメタクリル酸系重合体は、各種公知の製造方法に基づいて重合させることによって製造できる。また本発明に係るメタクリル酸系重合体は、上記重量平均分子量を満足するものであれば、市販品を用いることができる。
【0054】
[融点が50℃以上85℃以下、且つ、190℃での加熱溶融流動性が2.0g/10分以上3.6g/10分以下を有するブテン系重合体、および重量平均分子量が1,000,000以下のメタクリル酸系重合体の2成分系]
本発明の第3のバインダーは、上記第1のバインダーであるブテン系重合体と、上記第2のバインダーであるメタクリル酸系重合体を両方含むものである。ブテン系重合体と共にメタクリル酸系重合体を使用すると、50℃以上70℃以下の高温での優れた流動性を発揮しつつ、メタクリル酸系重合体の上記優れた偏析抑制効果を発揮できる。このような効果を得るためには、上記第2のバインダーとして説明した重量平均分子量が1,000,000以下のメタクリル酸系重合体は、バインダー中、すなわち、ブテン系重合体とメタクリル酸系重合体の合計質量100質量%中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上含有させる。
【0055】
なお、本発明のバインダーは、上記ブテン系重合体、上記メタクリル酸系重合体、あるいは上記ブテン系重合体とメタクリル酸系重合体の両方、のいずれかを含むものであればよく、これら以外に、極圧剤、油系潤滑剤などの添加剤や製造過程で混入する微量の不可避不純物が含まれていてもよい。もちろん、本発明のバインダーは上記ブテン系重合体のみ、上記メタクリル酸系重合体のみ、あるいは上記ブテン系重合体とメタクリル酸系重合体の両方のみと、不可避不純物で構成されていてもよい。
【0056】
次に本発明の粉末冶金用混合粉末について説明する。本発明の粉末冶金用混合粉末は鉄基粉末、任意の副原料粉末、および上記本発明のバインダーとを含有する粉末である。
【0057】
上記鉄基粉末とは鉄を主成分とする原料粉末であって、混合粉末の主原料である。鉄基粉末は、純鉄粉、鉄合金粉のいずれであってもよい。鉄合金粉は、鉄基粉末の表面に銅、ニッケル、クロム、モリブデンなどの合金粉が拡散付着した部分合金粉であってもよく、合金成分を含有する溶融鉄または溶鋼から得られるプレアロイ粉であってもよい。鉄基粉末は、通常、溶融した鉄または鋼をアトマイズ処理することによって製造される。また、鉄基粉末は、鉄鉱石やミルスケールを還元して製造する還元鉄粉であってもよい。
【0058】
鉄基粉末の平均粒径は、限定されず、粉末冶金用主原料粉末として使用されているサイズのものでよい。例えば、平均粒径40μm以上120μm以下、好ましくは50μm以上100μm以下、さらに好ましくは60μm以上80μm以下である。金属粉末の平均粒径は、日本粉末冶金工業会規格JPMA P 02−1992に記載の「金属粉のふるい分析試験方法」に準じて粒度分布を測定したときの累積篩下量50%の粒径を算出したものである。
【0059】
また上記副原料粉末は、所望の物性に応じて適宜選択することができ、本発明の作用を阻害しない限度で、最終製品に求められる諸特性に応じて任意に定めることができる。
【0060】
例えば後記する銅、ニッケル、クロム、モリブデンなどの合金元素や、リン、硫黄、黒鉛や硫化マンガン、タルク、フッ化カルシウムなどの無機成分の粉末などが挙げられる。これらは単独、或いは2種以上を含有してもよい。
【0061】
このような副原料粉末は、主原料粉末100質量%に対して合計で10質量%以下、より好ましくは5質量%以下使用することが好ましい。10質量%を超えると、焼結体の密度が低下して焼結体強度を低下させるなどの悪影響が生じる場合があるからである。一方、下限は特に限定されず、所定の添加効果が得られるように副原料粉末の添加量を決定すればよい。
【0062】
例えば副原料粉末は好ましくは下記の範囲で含有することができる。
【0063】
黒鉛粉:0.1質量%以上、3質量%以下、好ましくは0.2質量%以上、1質量%以下
銅粉:0.1質量%以上、10質量%以下、好ましくは1質量%以上、4質量%以下
ニッケル粉:0.1質量%以上、10質量%以下、好ましくは0.5質量%以上、4質量%以下
クロム粉:0.1質量%以上、8質量%以下、好ましくは0.2質量%以上、5質量%以下
モリブデン粉:0.1質量%以上、5質量%以下、好ましくは0.2質量%以上、3質量%以下
リン:0.01質量%以上、3質量%以下、好ましくは0.05質量%以上、1質量%以下
硫黄:0.01質量%以上、2質量%以下、好ましくは0.03質量%以上、1質量%以下
硫化マンガン:0.05以上、3質量%以下、好ましくは0.1質量%以上、1質量%以下
タルク:0.05質量%以上、3質量%以下、好ましくは0.1質量%以上、1質量%
フッ化カルシウム:0.05以上、3質量%以下、好ましくは0.1質量%以上、1質量%以下
【0064】
本発明にかかる上記第1〜第3のバインダーの含有量は、特に限定されるものではないが、副原料粉末の偏析や飛散を防止して、優れた流動性を確保する観点からは鉄基粉末と副原料粉の合計100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上である。一方、バインダー含有量が多くなると、高密度な焼結体が得られなくなることがあるため、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下である。
【0065】
本発明では必要に応じて潤滑剤などの公知の添加剤を使用できる。潤滑剤は、粉末冶金に通常用いられるものであれば特に限定されず、各種公知の潤滑剤を使用できる。例えば金属石鹸、ステアリン酸リチウム、脂肪酸アミド、炭化水素系ワックス、架橋(メタ)アクリル酸アルキルエステル樹脂などを挙げることができる。これらは、単独で使用しても良いし、2種以上を併用してもよい。
本発明で添加剤を使用する場合の含有量は、通常使用されている範囲内で適宜設定できる。例えば上記の潤滑剤は、鉄基粉末と副原料粉末の合計100質量%に対し、0.01質量%以上1.5質量%以下の範囲内で含有することが好ましい。潤滑剤の含有量が0.01質量%未満では、潤滑剤の添加による作用が十分発揮されないことがある。一方、潤滑剤の含有量が1.5質量%を超えると、圧粉体の圧縮性や密度などが低下するおそれがある。潤滑剤のより好ましい含有量は、0.1質量%以上1.2質量%以下であり、更に好ましい含有量は、0.2質量%以上1.0質量%以下である。
【0066】
次に、上記の成分を用いて粉末冶金用混合粉末、圧粉体、および焼結体を作製する方法を説明する。
【0067】
本発明の粉末冶金用混合粉末の製造方法は、鉄基粉末を主原料粉末として、任意の副原料粉末と、上記本発明のバインダーを加えて混合することによって得られる。必要に応じて潤滑剤などの添加剤を含有させてもよい。
【0068】
なお、本発明に係るバインダーは、例えば、混合する際に溶融状態で混合させた後、固化させることで、バインダーを主原料粉末や副原料粉末などの表面に存在させることができる。そして該粉末同士が固着して成分の偏析や黒鉛の飛散などを抑制する効果をより一層高めることができる。例えばバインダーをトルエンやアセトンなど揮発性を有する有機溶媒に溶解させて鉄基粉末と副原料粉末とを含む混合粉末に滴下または噴霧し、さらに混合し、有機溶媒を揮発させ、バインダーを固化させることによって、バインダーで被覆された混合粉末が得られる。またはバインダーを粉末形態のままで鉄基粉末と副原料粉末とを含む混合粉末に添加し、その混合過程で粒子間摩擦等による摩擦熱よってバインダーを溶融させて混合粉末を被覆させてもよい。あるいは外部熱源で所望の温度まで加熱してバインダーを溶融させて混合粉末を被覆させてもよい。その後、冷却等によりバインダーを固化させればよい。もちろん、上記と同様にして予めバインダーで被覆された鉄基粉末と、バインダーで被覆されていない副原料粉末とを混合して混合粉末としてもよい。
【0069】
混合方法は特に限定されず、公知の各種混合方法を採用できる。例えば、ミキサー、ハイスピードミキサー、ナウターミキサー、V型混合機、ダブルコーンブレンダーなどの
混合装置を用いて、撹拌・混合することが好ましい。
【0070】
混合条件は特に限定されず、装置や生産規模などの諸条件に応じて従来採用されている条件でよい。混合条件は、例えば、羽根付き混合機を用いる場合、羽根の回転速度を約2m/s以上10m/s以下の範囲内の周速度に制御し、約0.5分以上20分以下の撹拌をすることが好ましい。また、V型混合機や二重円錐形混合機を用いる場合、おおむね、2rpm以上50rpm以下で1分以上60分以下混合することが好ましい。
【0071】
混合温度は、特に限定されないが、例えば、40℃以上60℃以下である。混合温度を40℃以上とすることによって、バインダーを低粘度化して混合粉末への分散性を向上させることができる。また上記混合温度の上限は、特に限定されるものではないが、加熱設備の簡便性から60℃以下としておくことが好ましい。このような条件で混合することで、各種原料粉末が均一に混合された粉末冶金用混合粉末を得ることができる。
【0072】
次に、上記の混合粉末を用い、粉末圧縮成形機を用いた通常の加圧成形方法によって圧粉体を得る。具体的な成形条件は、混合粉末を構成する成分の種類や添加量、圧粉体の形状、おおむね、25℃以上150℃以下の成形温度、成形圧力などによっても相違するため特に限定されない。例えば、本発明の粉末冶金用混合粉末を金型に充填した後、490MPa以上686MPa以下の圧力をかけることによって、圧粉成形体を製造できる。
【0073】
最後に、上記の圧粉体を用い、通常の焼結方法によって焼結体を得る。具体的な焼結条件は、圧粉体を構成する成分の種類や添加量、最終製品の種類などによっても相違するが、例えば、N2、N2−H2、炭化水素などの雰囲気下、1000℃以上1300℃以下の温度で5分以上60分以下の焼結を行なうことが好ましい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0075】
下記No.1〜No.40のバインダー(粉末)を用意した。
【0076】
No.1:ポリプロピレン(住友精化社製「フローセン」)
No.2:ポリエチレン(住友精化社製「フローブレン」)
No.3:ブテン−プロピレン共重合体(三井化学社製「タフマーXM5080」)
No.4:ブテン−プロピレン共重合体(三井化学社製「タフマーXM5070」)
No.5:ブテン−エチレン共重合体(三井化学社製「タフマーDF740」)
No.6:ブテン−エチレン共重合体(三井化学社製「タフマーDF640」)
No.7:ブテン−エチレン共重合体(三井化学社製「タフマーDF810」)
No.8:ブテン−エチレン共重合体(三井化学社製「タフマーDF8200」)
No.9:SBRゴム(0.10%SBR−0.6%WXDBS(エチレンビスアマイド:大日本化学社製「WXDBS」))
No.10:SBRゴム(0.10%SBR-0.6%Zn−St)
No.11:メタクリル酸ブチル 平均分子量150,000(根上工業社製「M−0603」)
No.12:メタクリル酸ブチル 平均分子量200,000(根上工業社製「M−6664」)
No.13:メタクリル酸ブチル 平均分子量350,000(根上工業社製「M−6003」)
No.14:メタクリル酸メチル 平均分子量1,000,000(根上工業社製「M−4003」)
No.15:メタクリル酸エチル 平均分子量1,000,000(根上工業社製「M−5000」)
No.16:メタクリル酸メチル/エチル 平均分子量1,000,000(根上工業社製「M−4501」)
No.17〜20:No.3、4で使用したブテン-プロピレン共重合体と、No.11で使用したメタクリル酸ブチルを表3に示す添加比率となるように調整した。
No.21〜24:No.3、4で使用したブテン-プロピレン共重合体と、No.12で使用したメタクリル酸ブチルを表3に示す添加比率となるように調整した。
No.25〜28:No.3、4で使用したブテン-プロピレン共重合体と、No.13で使用したメタクリル酸ブチルを表3に示す添加比率となるように調整した。
No.29〜32:No.3、4で使用したブテン-プロピレン共重合体と、No.14で使用したメタクリル酸ブチルを表3に示す添加比率となるように調整した。
No.33〜36:No.3、4で使用したブテン-プロピレン共重合体と、No.15で使用したメタクリル酸ブチルを表3に示す添加比率となるように調整した。
No.37〜40:No.3、4で使用したブテン-プロピレン共重合体と、No.16で使用したメタクリル酸ブチルを表3に示す添加比率となるように調整した。
【0077】
各バインダーの融点、及び190℃でのメルトフローレート(MFR)を下記方法により測定した。
【0078】
[バインダーの融点]
バインダーの融解ピーク温度をJIS K7121:2012年に記載の「プラスチックの転移温度測定方法」に準拠して測定し、融点とした。具体的にはプラスチックの転移温度は、示差走査熱量計(セイコー電子工業社製「SSC−5200」)を使用し、アルミニウム製サンプルパンに封入した20mg程度のバインダー樹脂フィルム片を、窒素雰囲気下、0℃から250℃を10℃/分の平均速度で昇温させて測定することにより行った。得られた熱量曲線において、曲線がベースラインから離れ再度ベースラインに戻るまでの部分を融解ピークとし、その融解ピークの頂点における温度を融点とした。
【0079】
[バインダー樹脂の加熱溶融流動性(メルトフローレート)]
JIS K7210:1999年、「附属書A表1」に準拠して試験温度190℃、荷重2.16kgで樹脂の粘着性を測定した。表中、「MFR(g/10分)」(メルトフローレート)と表記する。
【0080】
[バインダーの重量平均分子量の測定方法]
メタクリル酸系重合体の重量平均分子量は、JIS K7252:2008年に準拠して、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。
【0081】
[粉末冶金用混合粉末の調製]
粒径40μm以上120μm以下の純鉄粉(神戸製鋼所製「アトメル300M」)を用意し、この純鉄粉100質量%に対し、銅粉末2.0質量%、黒鉛粉0.8質量%とをV型混合機を用いて混合しつつ、純鉄粉100質量%に対しバインダー0.10質量%となるようにトルエンにバインダーを溶解させたバインダー濃度2.5質量%溶液を噴霧・攪拌混合してバインダーで被覆された粉末冶金用混合粉末を得た。
【0082】
得られた混合粉末の流動性、及び付着性、偏析性を下記の方法によって測定した。
【0083】
[流動性]
流動性は(1)メルトフローレートに基づく流動度、(2)限界流出径、(3)スリット充填量を測定して評価した。(1)〜(3)の全ての基準を満たした場合、流動性に優れていると評価した。流動性は(1)流動度が小さいほど、そして(2)限界流出径が小さく、(3)スリット充填量が多いほど優れている。
【0084】
(1)流動度(s/50g)
JIS Z 2502:2012年に記載の「金属粉の流動度試験法」に準拠した。すなわち、50gの混合粉末がφ2.63mmのオリフィスを流れ出るまでの時間(秒:s)を測定し、この時間(秒)を混合粉末の流動度とした。なお、流動度は、樹脂の温度を25℃、50℃、70℃に調整したものをそれぞれ調べた。本発明では25℃:25s/50g以下、50℃:25s/50g以下、70℃:25s/50g以下を全て満たす場合を合格とした。なお、表1中、NF(Non−Flow)は流動しなかったことを示し、NFと記載された例は不合格を意味する。
【0085】
(2)限界流出径(mm)
図2に示すような内径112.8mmφ、高さ100mmの円筒状の装置を用いて限界流出径を測定した。図2では60mmφの開孔状態で表示されているが、底に排出径を変えることのできる排出孔を備えている。排出孔を閉じた状態で2kgの混合粉末を充填し、10分間保持した。その後、排出孔を除々に開き、混合粉末を排出できる最小径を測定し、この最少径を限界流出径とした。限界流出径が小さいほど、流動性に優れている。本発明では限界流出径25mm以下を合格とし、20mm以下を特に優れていると評価した。
【0086】
(3)スリット充填量(g)
図3(a)に示すような幅2.5mmのスリットLを有する装置を用いてスリット充填量を25℃で測定した。図3(a)に示すように底面が全面開口しているW80mm×D80mm×H80mmの金型Kに混合粉末を充填し、シュー速度100mm/sで図3(b)〜(d)に示すように移動させた後、スリットL内の混合粉末質量を測定した。本発明ではスリット充填量が30g以上を合格とし、35g以上を特に優れていると評価した。
【0087】
[付着性]
下記条件でC−loseから黒鉛飛散率を測定し、黒鉛の付着性を評価した。図1に示す編目12μmのニューミリポアフィルター1を取付けた内径16mm、高さ106mmの漏斗状のガラス管2に混合粉末25gを入れて、ガラス管2の下方から25℃のN2ガスを0.8L/分の速度で20分間流し、下記式より黒鉛飛散率(%)を求めた。ここで黒鉛量(%)とは、混合粉末中の黒鉛の質量%を意味する。本実施例では黒鉛飛散率が10%以下のものを合格とし、0%のものを特に優れていると評価した。黒鉛飛散率が低いほど、付着性が高く、発塵も抑えられていることを意味する。
黒鉛飛散率(%)=[1−(Nガス流通後の混合粉末の黒鉛量(%)/Nガス流通前の混合粉末の黒鉛量(%))×100
尚、混合粉末の黒鉛量は、混合粉末の炭素分を定量分析することにより求めた。
【0088】
[偏析性]
混合粉中の黒鉛付着量のバラツキを調べて偏析性を評価した。作製した混合粉末の6箇所からサンプルを採取した。具体的には混合粉末の中央よりも上側と下側において、混合粉末の右側部、中央部、左側部から各3点サンプルを採取した。各サンプルは炭素分析装置(Leco社製 CSLS600)を用いて混合粉中の炭素量を測定した。炭素量のバラツキが30%以上のサンプルはF(Fail)、20%以上30%未満のサンプルはP(Pass)、10%以上20%未満のサンプルはG(Good)、10%未満のサンプルについてはE(Excellent)として評価した。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
表1、2より、以下のように考察することができる。
【0093】
本発明の要件を満足するバインダーを用いたNo.3〜6、11〜16は、いずれも高温下での流動性に優れていると共に、黒鉛飛散率も低く、付着性にも優れていた。また黒鉛粉末のバラツキも少なく偏析性が良好であった。
【0094】
特にブテン−プロピレン共重合体を用いたNo.3と4は、ブテン−エチレン共重合体を用いたNo.5、6よりも高温での流動度が優れていた。
【0095】
また重量平均分子量1,000,000以下のメタクリル酸系重合体を用いたNo.11〜16は高温下での流動性に優れており、また黒鉛飛散率が低く付着性に優れていた。更に上記メタクリル酸系重合体の噴霧時の粘度が低いため混合粉末中の黒鉛付着量のバラツキが少なく、偏析性が良好であった。メタクリル酸系重合体を用いたNo.11〜16は、ブテン系重合体を用いたNo.3〜6よりも偏析の抑制効果が優れていた。また重量平均分子量が350,000以下のNo.11〜13は特に黒鉛付着量のバラツキが抑制されていた。
【0096】
一方、本発明の規定の要件を満足しなかったNo.1、2、7〜10は十分な流動性を有していないか、あるいは付着性が悪かった。
【0097】
No.1はバインダーの原料樹脂にポリプロピレンを用いた例である。この例は限界流出径、および、高温における流動性に優れていたが、25℃での流動度が低く常温における流動性が悪かった。また粘着性が低かったため黒鉛飛散率が高く付着性が悪かった。更にバインダーを噴霧する際のバインダーの粘度が高かったため、バインダーを純鉄粉や黒鉛粉の混合物に均一に噴霧できず、黒鉛付着量にバラツキが生じた。
【0098】
No.2はバインダーの原料樹脂にポリエチレンを用いた例である。この例は前述した特許文献1を模擬したものである。この例では、50℃以上の高温下では流動せず、高温での流動性が悪かった。また25℃での流動性も不十分であった。更にNo.1と同様、バインダーを噴霧する際のバインダーの粘度が高かったため、黒鉛付着量にバラツキが生じた。
【0099】
No.7はバインダーの原料樹脂として本発明の要件を満足しないブテン−エチレン共重合体を用いた例である。この例では、バインダーの融点は66℃であって本発明の範囲を満足したが、メルトフローレート(MFR)が1.2g/10分と低かった。そのため、50℃以上の高温下では流動せず、流動性が悪かった。なお、本発明の要件を満足するブテン−エチレン共重合体のバインダーを用いたNo.5、6では、高温での流動性に優れていた。
【0100】
No.8はバインダーの原料樹脂として本発明の要件を満足しないブテン−エチレン共重合体を用いた例である。この例は、バインダーのメルトフローレート(MFR)が18g/10分と高かった。そのため、No.7と同様、50℃以上では粘着性が高くなりすぎて流動しなかった。
【0101】
No.9、10はバインダーの原料としてゴム系材料を用いた例である。No.9は70℃、No.10は50℃以上になると粘着性が高くなりすぎて流動しなかった。
【0102】
表3からは、バインダーとしてブテン系共重合体とメタクリル酸系重合体の2元系成分を用いた場合、ブテン系重合体単独のバインダーやメタクリル酸系重合体単独のバインダーと比べて優れた流動性を有し、且つ発塵・偏析も一層抑制されていることがわかる。
例えばブテン系重合体のみを使用したNo.17と、ブテン系重合体とメタクリル酸系重合体の両方を使用したNo.18、19とを比べると、いずれも優れた流動性を示すものの、No.18、19は混合粉末中の黒鉛付着量のバラツキが少なく、偏析抑制効果に優れていた。またNo.17〜20を比べるとメタクリル酸樹脂が少量でも含まれていれば、偏析抑制効果が向上し、その効果はメタクリル酸系重合体の含有量が増える程、高まることがわかる。
【0103】
なお、使用するメタクリル酸系重合体の種類によって効果に若干の違いがあるものの、No.21〜40についても、No.17〜20と同じ傾向を示した。
【符号の説明】
【0104】
1 ニュークリポアフィルター
2 漏斗状ガラス管
P 混合粉末
K 金型
L スリット
図1
図2
図3