【実施例1】
【0014】
本実施例の荷電粒子ビーム照射システム1は、
図1に示すように、荷電粒子ビーム発生装置11、ビーム輸送装置14、照射装置30を備え、ビーム輸送装置14が、荷電粒子ビーム発生装置11と治療室内に配置される照射装置30を連絡する。荷電粒子ビーム発生装置11は、周回軌道に沿って周回する荷電粒子ビームを所望のエネルギーまで加速させるシンクロトロン13、前段加速器12およびシンクロトロン13を備える。前段加速器12はシンクロトロン13に接続される。前段加速器12は、荷電粒子ビーム10をシンクロトロン13に入射可能なエネルギーまで加速する。前段加速器12で加速された荷電粒子ビーム10aは、シンクロトロン13に入射される。
【0015】
シンクロトロン13は、高周波加速空洞19(以降、加速空胴19)、出射用高周波電極16a、および出射用デフレクター16bを備える。加速空胴19は、周回軌道に沿って周回する荷電粒子ビーム10bに高周波電圧を印加することによって、荷電粒子ビーム10bにエネルギーを付与し、目標のエネルギーに至るまで加速する。出射用高周波電極16aは、周回している荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅を増大させ、振動振幅が増大した荷電粒子ビームを、出射用デフレクター16bが周回軌道から取り出す。
【0016】
加速空胴19に加速高周波電圧が印加される際、シンクロトロン13内を周回する荷電粒子ビーム10bの周回軌道が一定となるように、荷電粒子ビーム10bの周回エネルギーの増加に合わせて偏向電磁石18a、四極電磁石18b等の磁場強度および、加速空胴19に印加する高周波電圧の周波数は高められる。
【0017】
出射用高周波電極16aは、目標エネルギーに達した荷電粒子ビームをシンクロトロン13からビーム輸送系へ出射する際、高周波磁場または高周波電場(以下、高周波電圧と表記)を印加し、周回している荷電粒子ビームの固有振動であるベータトロン振動振幅を増大させる。ベータトロン振動振幅を効率良く増大させる高周波電圧として、複数の線スペクトル信号で構成される帯域制限高周波電圧や、所定の周波数範囲で周波数変調したRFKO電圧が挙げられる。ベータトロン振動振幅が増大した荷電粒子ビームは、安定限界外に移動し、シンクロトロン13からビーム輸送装置14へ出射され、照射装置30に輸送される。
【0018】
照射装置30は、上記荷電粒子ビーム発生装置11から導かれた荷電粒子ビームを、患者の体表面からの深さ及び患部形状に合わせて整形して、治療用ベッド上の患者36の患部に照射する。照射装置30でのビーム照射方法として、患部形状に合わせてビームを走査し照射するビームスキャニング法が挙げられる。本実施例でいうビームスキャニング法とは、以下に示すスポットスキャニング照射法やラスタースキャニング照射法を指す。
【0019】
スポットスキャニング照射法は、患部をスポットと呼ばれる領域に分割し、治療計画によりスポット毎に付与する照射線量を設定する。スポットに照射される線量は、線量モニタ31にて逐次計測する。線量モニタで計測した照射線量が所定線量に到達すると、荷電粒子ビームの照射を停止する。荷電粒子ビームの照射停止後、走査電磁石32の励磁量を次のスポット位置に対応した励磁量に変更し、荷電粒子ビームを照射する。このような走査と照射の繰り返しにより、患部平面方向の照射を実施する。また、患部平面方向の照射を完了したら、照射面の深さ方向を変更する。患部深さ方向の照射は、荷電粒子ビームの飛程を変更することで制御する。具体的には、照射装置30に供給する荷電粒子ビームのエネルギーを変更することで荷電粒子ビームの飛程が変わる。
【0020】
また、ラスタースキャニング照射法は、スポットスキャニング照射法とは異なり、照射経路に沿って荷電粒子ビームを走査しながら照射する。このため、ラスタースキャニング照射法では、出射ビーム電流の時間構造(スパイクやリップル)を考慮して荷電粒子ビームの電流を低く設定し、患部平面方向に対して複数回に分けて走査し照射(以下、リペイント)することで、所定の線量一様度を担保しつつ、照射線量を満了させる。
【0021】
このように、ビームスキャニング法は、患部形状に合わせた荷電粒子ビームを照射するため、従来の散乱体照射法のように、患部形状に合わせた一様な吸収線量範囲(拡大ブラックピーク(Spread-Out Bragg Peak)以下、SOBPと表記)を形成するための散乱体(SOBPフィルタ)や、ボーラス、コリメータ等の患部形状に合わせた患者固有具が不要となり、荷電粒子ビーム発生装置11から照射装置30に供給される荷電粒子ビームを効率よく患部に照射することが可能である。
【0022】
なお、照射装置30に供給する荷電粒子ビームのエネルギーは、加速空胴19に供給する高周波電圧の周波数と偏向電磁石18aの磁場強度により制御可能である。また、シンクロトロン13から照射装置30に供給する荷電粒子ビームの電流は、出射用高周波電圧の振幅値により制御可能である。スキャニングビーム走査法で要求されるスポット毎の荷電粒子ビームの照射制御(ビームON/OFF)は、出射用高周波電圧の印加(ON)および印加停止(OFF)制御により実現できる。特に、スポットに対する照射線量が所定線量に到達した際に荷電粒子ビームの照射を停止(OFF)する際には、シンクロトロン13から出射する荷電粒子ビームを素早く停止させることで、照射線量の精度を高める必要がある。また、治療効率という面からは、スポットを照射するための時間を短縮し線量率を向上させることが望ましく、そのためには出射ビーム電流の立ち上がりが速いほうが好ましい。
【0023】
以下、本実施例において、スキャニング照射法の実施や、高精度な荷電粒子ビームの出射に適した荷電粒子ビームの出射制御について説明する。所望のエネルギーまで加速した荷電粒子ビーム10bは、出射準備制御により、四極電磁石18bおよび六極電磁石(図示せず)の励磁量により周回ビーム10bが出射可能な条件(周回ビームの安定限界15)を成立させる。出射準備制御が終了後、出射制御装置20から高周波電圧(Fext)を高周波増幅器17で増幅した後に、出射用高周波電極16aに印加し、シンクロトロン13内を周回するビーム10bのベータトロン振動振幅を増大させる。このベータトロン振動振幅の増大により、安定限界15を超えた周回ビーム10bはシンクロトロン13から高エネルギービーム輸送系14に出射される。シンクロトロン13からのビーム出射制御は、出射制御装置20によって出射用高周波電極16aに印加する高周波電圧により、ビーム出射(高周波電圧(Fext)の印加)および、ビーム停止(高周波電圧(Fext)の停止)を制御することで行う。
【0024】
シンクロトロン13から出射されたビーム10cは、高エネルギービーム輸送系14により照射装置30に輸送される。照射装置30では、患者に照射するビーム10dの照射線量を計測する線量モニタ31にて、照射するビーム10dの線量強度を逐次確認し、走査電磁石32で患部形状に合わせてビーム10dを走査する。また、患部深さ方向のビーム飛程変更は、シンクロトロン13で加速するビーム10bのエネルギーを変更して出射することで、患部形状に合わせた照射野を形成する。
【0025】
次に、本実施例の特徴である高周波電圧(Fext)の印加方法について、
図2および
図6を用いて従来法と比較しながら説明する。
図2は、本実施例の特徴である出射用高周波電極に印加する高周波電圧の印加帯域を示す図である。
【0026】
出射用高周波電極に印加する高周波電圧(Fext)は、
図2に示すように、周回ビーム10bを、安定限界15を越えるように振動振幅を増大させる第一高周波電圧と、安定限界の近傍を周回する荷電粒子ビームを優先的に出射させるための第二高周波電圧で構成される。本実施例では、第一高周波は複数の線スペクトル信号で構成される帯域制限高周波電圧を示しており、第二高周波電圧は単一周波数の高周波電圧を示している。
【0027】
周回ビーム10bを安定限界15まで振動振幅を増大させる第一高周波電圧は、中心周波数fceに対して周波数帯域をfw、周波数間隔をfdivで示される帯域制限高周波電圧であり、複数の正弦波高周波電圧で構成される。ここで、中心周波数fceとは、周回ビームのベータトロン振動数(νe)に対して、式1に示される関係がある。ここで、frevは周回ビームの周回周波数、nは整数である。同様に、周波数帯域fwは、周回ビームのベータトロン振動数の広がり(Δνe)に対して、式2に示される関係がある。
fce=νe×n×frev…(式1)
fw=Δνe×frev…(式2)
【0028】
第一高周波電圧の強度Veは、出射ビーム電流の振幅値Iextを調整する機能を有するため、シンクロトロン13内を周回する荷電粒子ビーム10bの蓄積ビーム量と目標ビーム電流に応じて制御する。
【0029】
第二高周波電圧は、安定限界15の近傍を周回する荷電粒子ビームを優先的に出射させる機能を有する。そのため、第二高周波電圧の周波数fcmは、安定限界を表すベータトロン振動数の共鳴点νres近傍に分布する粒子のベータトロン振動数νmに対応した周波数に設定する。第二高周波電圧の周波数fcmは、安定限界近傍に分布する粒子のベータトロン振動数νmに対して、式3に示す関係がある。
fcm=νe×n×frev…(式3)
【0030】
具体的な第二高周波電圧の印加周波数fcmは、ビーム停止後の漏洩ビームを計測し、所定の漏洩ビーム量以下になる点をサーベイして調整する。また、第二高周波電圧の強度Vmは、安定限界近傍に分布する周回ビーム10bの密度を低減させる目的であるため、第一高周波電圧に対して十分高いものとする。
【0031】
図3に本実施例のビーム出射制御装置の構成を示す。出射制御装置20は、第一高周波電圧(Fe)出力回路201と、第二高周波電圧(Fm)出力回路202と、これら二つの高周波電圧を合成する合成器26と、合成器から出力される高周波電圧を高周波増幅器への伝送を制御する高周波スイッチ271、272および、これらの高周波電圧出力回路の制御指令値を制御するコントローラ28から構成される。コントローラ28には、上位制御システム40から伝送される出射ビームエネルギー情報Enと、高周波電圧の制御指令値(fce,Ve,fcm,fw,fdiv,Vm)が伝送される。出射制御装置20を構成する高周波スイッチ25m、25e、271、272には、タイミングシステム50およびインターロックシステム60から制御信号が伝送される。タイミングシステム50からは、ビーム出射制御区間を示すタイミング信号51が出射制御装置20の高周波スイッチ271に伝送される。インターロックシステム60からは、粒子線治療システム1を構成する制御機器の健全性を確認した上でビーム出射制御指令61が出射制御装置20の高周波スイッチ25m、25e、272に伝送される。本実施例では、出射用高周波電圧の確実なON/OFF制御を実現するため、3つの高周波スイッチ25m、25e、272で冗長化しているが、制御を簡便にしたい場合には、合成器26から伝送される高周波電圧を制御する高周波スイッチ272のみでも構わない。
【0032】
出射用高周波電極16aに印加する高周波電圧(Fext)は、第一高周波電圧(Fe)および第二高周波電圧(Fm)をそれぞれの出力回路201、202で生成し、生成した二つの高周波電圧(FeおよびFm)を合成器26で合成した後、高周波増幅器17で増幅し、出射用高周波電極16aに印加する。
【0033】
第一高周波電圧(Fe)および第二高周波電圧(Fm)の出力回路201(第一高周波出力回路)、202(第二高周波出力回路)についてそれぞれ説明する。
【0034】
第一高周波電圧(Fe)の出力回路201について説明する。第一高周波電圧出力回路201の構成は、第一高周波電圧(Fe)の周波数(fce)を出力する発振器21e、帯域制限高周波発生器22e、発振器21eと帯域制限高周波発生器22eの出力信号を乗算する乗算器23e、振幅変調回路24e、および、高周波スイッチ25eで構成される。
【0035】
正弦波発振器21eには、コントローラ28から第一高周波電圧の中心周波数(fce)を設定し、帯域制限高周波発生器22eは、コントローラ28から設定されるスペクトル幅(fw)およびスペクトル間隔(fdiv)の設定値に基づき、複数の線スペクトル信号で構成される帯域制限高周波電圧を出力する。
【0036】
本実施例では、第一高周波電圧(Fe)は、複数の線スペクトラムで構成される帯域制限電圧を用いているが、ホワイトノイズ発生装置(図示せず)の出力電圧を第一高周波電圧(Fe)の周波数範囲(fw)のみ出力するバンドパスフィルタ(図示せず)を用いて生成しても良いし、帯域制限高周波発生器22eおよび乗算器23eを用いずに、正弦波発振器21eの出力周波数を第一高周波電圧(Fe)の周波数範囲(fw)で掃引しても良い。
【0037】
第一高周波電圧(Fe)の周波数演算結果に対して、第一高周波電圧(Fe)の振幅値(Ve)を振幅変調回路24eで制御する。この振幅変調制御された第一高周波電圧(Fe)は、インターロックシステム60から出力されるビーム出射制御指令61に基づき、高周波スイッチ25eを制御する。ビーム出射時にはRF信号を印加するため、高周波スイッチ25eを閉じる。ビーム停止時にはRF信号の印加を停止するため、高周波スイッチ25eを開く。高周波スイッチ25eを経て出力される第一高周波電圧(Fe)は、合成器26に入力される。
【0038】
同様に、第二高周波電圧出力回路202は、第二高周波電圧(Fm)の周波数(fcm)を出力する発振器21mと、振幅変調回路24m、および、高周波スイッチ25mで構成される。発振器21mからは、コントローラ28から設定される中心周波数(fcm)となる正弦波電圧を出力する。
【0039】
第二高周波電圧(Fm)に対して、コントローラ28から設定される第二高周波電圧(Fm)の振幅値(Vm)を振幅変調回路24mで制御する。振幅値が制御された第二高周波電圧(Fm)は、インターロックシステム60から出力されるビーム出射制御指令61に基づき、高周波スイッチ25mを制御する。ビーム出射時にはRF信号を印加するため、高周波スイッチ25mを閉じる。ビーム停止時にはRF信号の印加を停止するため、高周波スイッチ25mを開く。高周波スイッチ25mを経て出力される第二高周波電圧(Fm)は、合成器26に入力される。
【0040】
合成器26は、2つの高周波電圧(Fm、Fe)を合成する。合成された高周波電圧(第3高周波電圧)は、二つの高周波スイッチ271、272を経て高周波増幅器17に出力される。
【0041】
出射制御装置20のコントローラ28から各制御回路への制御設定値の管理方法について
図3、
図4を用いて説明する。第一高周波電圧(Fe)および第二高周波電圧(Fm)の制御設定値は、
図4に示したように、それぞれ正弦波発振器21の中心周波数(fcs、fce)、帯域制限信号のスペクトル幅(fw)、スペクトル間隔(fdiv)、振幅値(Vs、Ve)があり、それぞれ出射ビームエネルギー情報(En)に関連付けられた状態で、コントローラ28のメモリ(図示せず)に予め記憶しておく。治療計画情報に基づき、シンクロトロン13の出射ビームエネルギー情報(En)が上位制御システム40から出射制御装置20に対して伝送される。上位制御システム40から伝送された出射ビームエネルギー情報(En)に基づき、コントローラ28はメモリ内に記憶した制御設定値を読み出し、各制御回路へ制御設定値を出力する。
【0042】
出射用高周波電極に印加する高周波電圧(Fext)の強度制御について説明する。従来法ではビーム出射(ビームON)の際、
図6に示したように、ビーム出射制御指令(
図6(a))に基づき、ビーム出射(ビームON)時には、第一高周波電圧である出射用高周波電圧(
図6(b))と、第二高周波電圧である第二高周波電圧(
図6(c))を同時に印加する。またビーム停止(ビームOFF)時には、第一高周波電圧である出射用高周波電圧(
図6(b))と、第二高周波電圧である第二高周波電圧(
図6(c))の印加を同時に停止する。したがって、出力回路202と出力回路201は同期して機能する構成とも捉えることができる。
【0043】
ここで、従来法では第二高周波電圧(
図6(c))はビーム出射(ビームON)指令に合わせてステップ的に印加していた。そのため、
図2に示した安定限界15の近傍に分布する周回ビーム10bをビーム出射開始と同時に出射してしまうため、出射ビーム電流波形にオーバーシュート10eを生じてしまい(
図6(d))、出射ビーム電流が制御しづらくなる課題がある。
【0044】
一方、本実施例の荷電粒子ビーム照射装置は、
図5に示したように、ビーム出射制御指令(
図5(a))に基づき、ビーム出射(ビームON)時には、第一高周波電圧である出射用高周波電圧(
図3(b))と、第二高周波電圧である第二高周波電圧(
図5(c))を印加するが、この際、第二高周波電圧である第二高周波電圧(
図5(c))を0から徐々に増加し、所定の値に到達後は一定値で印加する。このように第二高周波電圧である第二高周波電圧(
図5(c))を制御することにより、安定限界15の近傍に分布する周回ビーム10bが一斉に出射されることがなくなる、換言すると出射ビーム電流10cにオーバーシュート10eの発生を抑制することができる。
【0045】
なお、特許文献1では、ビーム出射指令に基づき、加速用高周波電圧と出射用高周波電圧の印加を制御し、ビーム出射(ビームON)時に出射用高周波電圧を0から徐々に増加し、所定の照射線量に到達したら一定値で印加する旨が示されている。このような出射用高周波電圧の印加制御を実施すると、ビーム出射開始時に出射ビーム電流のオーバーシュートを抑制することは可能になるものの、オーバーシュートの抑制のため、ビーム出射電流の立ち上がりが緩やかになるため、当該スポットを照射するための時間が掛かってしまう課題があり、しいては線量率が低下する課題が考えられる。
【0046】
それに対して本実施例では、周回ビーム10bが安定限界15を越えるように振動振幅を増大させる第一高周波電圧と、安定限界の近傍を周回する荷電粒子ビームを優先的に出射させるための第二高周波電圧のうち、安定限界の近傍を周回する荷電粒子ビームを優先的に出射させるための第二高周波電圧の振幅値のみを0から徐々に増加し、所定の値に到達後は一定値で印加する。そのため、周回ビーム10bを出射し、出射ビーム電流を制御するために印加する第一高周波電圧の振幅値は所定の出射ビーム電流値を実現するように制御されるため、特許文献1のようにビーム出射電流の立ち上がりが緩やかにならない。したがって当該スポットの照射時間は長くならず、線量率の低下も抑制できる。
【0047】
以上説明したように、シンクロトロン13内を周回する荷電粒子ビームの安定限界を超えるように振動振幅を増大させるための第一高周波電圧と、安定限界の近傍を周回する荷電粒子ビームを優先的に出射させるための第二高周波電圧を重畳したものを出射用高周波電極16aに印加し、第一高周波電圧と第二高周波電圧の振幅値を独立に制御することで、シンクロトロン13から荷電粒子ビームの出射制御を実施する際の荷電粒子ビームの出射開始時および出射停止時の応答性を高めるとともに、ビーム出射開始時のオーバーシュート電流の発生を抑制することができる。これにより、高精度のビーム照射とともに線量率の向上を実現する荷電粒子ビーム照射システムおよびそのビーム出射方法を提供できる。
【0048】
具体的には、第一高周波電圧は、複数の周波数成分で構成される帯域制限高周波電圧を用いて生成され、第一高周波電圧の周波数範囲は、周回ビームが安定限界を超えるように設定し、第一高周波電圧の強度は、求められる出射ビーム電流に応じて制御するする。また、第二高周波電圧の周波数は、安定限界と第一高周波電圧の中心周波数との間に設定し、第二高周波電圧の強度は、ビーム出射開始とともに増加させ、所定の電圧振幅値に到達後は一定で制御する。これにより、ビーム制御応答性、つまり、ビーム出射制御指令に基づくビーム出射時およびビーム停止時の応答速度を高めることができる。
【0049】
なお、本発明は、上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、適宜その構成を変更することができる。上記した実施形態例は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。