(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
油圧源からの油圧で駆動される可動シーブ及び固定シーブを備えたプライマリプーリ及びセカンダリプーリと、前記両プーリに架け渡されたベルトとを有する車両用無段変速機であって、
前記可動シーブの背面側に配置されて前記固定シーブの軸に固設された固定部材と、
前記可動シーブの背面側に固設され、前記固定部材と協働して油圧室を形成する可動部材と、
前記固定部材と前記可動部材との間で前記油圧室を外部と区画する摺動部分を、装着側からその対向面に密着してシールするシール機構とを備え、
前記シール機構は、
前記対向面に常時密着する第1シール部材と、
所定変速比以上で前記対向面に密着し、前記所定変速比未満では前記対向面とは離間する第2シール部材と、から構成されている
シール機構付き車両用無段変速機。
【背景技術】
【0002】
ベルト式車両用無段変速機は、プライマリプーリ,セカンダリプーリ及びこれらのプーリに架け渡されたベルトを備え、プライマリプーリ及びセカンダリプーリの可動シーブを固定シーブに対して軸方向移動させて、V溝幅を調整することにより、変速比を変更する。可動シーブの移動には、通常、油圧が用いられる。このため、可動シーブの背面には、可動シーブに油圧を作用させるための油圧室(ピストン室)が設けられる。
【0003】
この可動シーブの背面の油圧室は、可動シーブ側の部材と固定シーブ側の部材とによって形成され、両部材の接続する箇所には摺接部分があり、摺接部分には、油圧室から外部へのオイルの漏れを抑制するためにシール部材が介装される。各プーリは、固定シーブと可動シーブとでベルトを挟圧してベルトとの間で動力伝達する。この際のベルト挟圧力は油圧室内の油圧に依存し、ベルトの滑りを防止するには、油圧室に高い油圧を加える必要があり、高油圧の時にも油圧室からのオイルの漏れを抑える必要がある。
【0004】
ところで、車両用無段変速機において、プーリの油圧源としてエンジン駆動のオイルポンプのみを備えたアイドルストップ車の場合、アイドルストップ状態ではオイルポンプも停止しているので、プーリの油圧室へ油圧が供給されない。アイドルストップによるエンジンの自動停止時間が長くなると、時間経過に伴ってプーリの摺動部から油圧室内の油が漏れ出し、油圧室内にエアが混入することがある。エアが混入すると、エンジンの再始動時に油圧室にオイルを充満させる時間が必要になり、発進性が損なわれる。
【0005】
これに関し、特許文献1には、プーリの摺動部に装備した樹脂系シールリング(シール部材)から油圧室内へエアが混入するのを抑制する技術が開示されている。この技術では、エンジンの自動停止からの経過時間が所定時間Tに達したら強制的にエンジンを再始動させてエンジン駆動のオイルポンプを作動させるようにする。特に、樹脂の温度依存性に起因し温度に応じてシールリングからの油漏れ量も変化する点に着目して、時間Tを油温が高い時ほど長く設定している。これにより、プーリの油圧室にエアが混入するのを抑制し、エンジン再始動時に、ベルト滑りを防止し発進性の確保を図っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の技術は、強制的にエンジンを再始動させてオイルポンプを作動させることにより、油圧室内へのエアの混入を抑制するものであり、エンジンの強制始動によって燃料を消費することになる。しかし、燃費向上の観点からは、エンジンをより長く停止させておくことが有効であり、エンジンを停止させていても油圧室内へのエアの混入を抑制できるような技術の開発が望まれる。
【0008】
そこで、シール部材を多重に設けて油圧室内へのエアの混入を抑制する手法が考えられる。しかし、シール部材の数を増やすほど、シール部材と摺接面との間の摺動抵抗が増大する。摺動抵抗が増大すると、可動シーブの移動レスポンスが低下し、変速比制御の制御応答性が低下し、変速比制御を適正に行なえない。このため、シール部材による摺動抵抗の増大を抑制しつつシール部材による油圧室のシール性を向上させることが望まれる。
【0009】
なお、シール部材によるシール部分から油圧室内へエアが混入するのは、油圧室及びこれに連通する油圧系統の内圧が低下することに起因している。この内圧の低下は、油圧源のオイルポンプにおけるオイルの抜けが原因である。つまり、オイルポンプは、オイルタンクからオイルを吸い上げて吐出するが、停止時には自重によりオイルがオイルタンクに戻るため、油圧系統の内圧が低下し、シール部材によるシール部分から外部のエアを取り込むことになる。
【0010】
オイルポンプの種類によって、オイルタンクへオイルが戻る特性は異なる。例えばギヤポンプの場合、停止時にもポンプケース内のギヤの一部がポンプ室の内壁と接触状態を保つため、オイルタンクへのオイルの戻りが抑制され、油圧室内へのエアの混入が抑制される。一方、例えばベーンポンプの場合、停止時にはベーンの先端がポンプ室の内壁から離隔するため、オイルタンクへのオイルの戻りを阻止できず、油圧室内へのエアの混入が早まる。したがって、ベーンポンプのように、停止時に油圧室内へのエアの混入が早いポンプほど、ポンプ停止時の油圧室のシール性向上が望まれる。
【0011】
本発明は、上述の課題に鑑み創案されたもので、摺動抵抗の増大を抑制しつつ、ポンプ停止時にシール部材によってプーリの油圧室のシール性を向上させることができるようにした、シール機構付き車両用無段変速機を提供することを目的の一つとしている。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明にかかるシール機構付き車両用無段変速機は、油圧源からの油圧で駆動される可動シーブ及び固定シーブを備えたプライマリプーリ及びセカンダリプーリと、前記両プーリに架け渡されたベルトとを有する車両用無段変速機であって、前記可動シーブの背面側に配置されて前記固定シーブの軸に固設された固定部材と、前記可動シーブの背面側に固設され、前記固定部材と協働して油圧室を形成する可動部材と、前記固定部材と前記可動部材との間で前記油圧室を外部と区画する摺動部分を、装着側からその対向面に密着してシールするシール機構とを備え、前記シール機構は、対向面に常時密着する第1シール部材と、所定変速比以上で前記対向面に密着し、前記所定変速比未満では前記対向面とは離間する第2シール部材と、から構成されている。
【0013】
(2)前記油圧源に、車両に搭載されたエンジンで駆動されるメカニカルポンプが装備されていることが好ましい。
【0014】
(3)前記固定部材及び前記可動部材の一方に形成されたシリンダ部と、前記固定部材及び前記可動部材の他方に形成され、前記シリンダ部と協働して前記油圧室を形成し前記シリンダ部に対して相対動するピストン部と、を有し、前記摺動部分は前記シリンダ部と前記ピストン部との摺動部分であって、前記第1シール部材は、前記ピストン部の外端面に形成された環状溝に装着され、前記シリンダ部の内周面に常時密着する先端部を有する環状シール部材であって、前記第2シール部材は、前記シリンダ部及び前記ピストン部の一方に装着され、前記可動シーブが変速比を最ローとする位置にあるときにのみ前記シリンダ部及び前記ピストン部の他方の対向面に当接して圧縮状態で密着する先端部を有する環状シール部材であることが好ましい。
【0015】
(4)前記シリンダ部として、前記可動部材に形成された第1シリンダ部と、前記固定部材に形成された第2シリンダ部とを有し、前記ピストン部として、前記固定部材に形成され前記第1シリンダ部と協働して前記油圧室としての第1油圧室を形成する第1ピストン部と、前記可動部材に形成され前記第2シリンダ部と協働して前記油圧室としての第2油圧室を形成する第2ピストン部と、を有していることも好ましい。
【0016】
(5)前記油圧源には、ベーンポンプが装備されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかるシール機構付き車両用無段変速機によれば、固定部材と可動部材との間の摺動部分において、変速比が所定変速比以上の例えば最ロー領域になると、対向面に常時密着する第1シール部材に加えて、第2シール部材が対向面に当接し密着するので、摺動部分は、第1シール部材と第2シール部材との二重シールとなってシール性が向上する。油圧源に車載のエンジンで駆動されるメカニカルポンプが装備されていると、車両の停止時に、例えばアイドルストップ機能によってエンジンを自動停止させると、油圧源からの油圧供給が断たれて油圧室内の圧力が低下して油圧室内へのエアの混入が生じ易くなるが、上記二重シールが作用して、かかる油圧室内へのエアの混入が抑制される。これにより、その後のエンジンの再始動時にオイルポンプの始動と共に油圧室の油圧を速やかに立ち上げて変速比制御を開始することができ、滑らか且つ速やかに車両を発進させることができる。
【0018】
一方、車両の走行時に、変速によって変速比が所定変速比未満となって例えば最ロー領域から外れると、第2シール部材は対向面に当接せずにシール作用を発揮しないため、第1シール部材のみによるシールになる。車両の走行時には、通常エンジンが作動しオイルポンプも作動するので、油圧室内へのエアの混入はなく支障がない。しかも、最ロー領域以外の変速比では、車両の走行時に第2シール部材の摺動抵抗が生じないので、可動シーブの移動レスポンスの低下を招くことがなく、変速比制御の制御応答性を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下の実施形態の各構成は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することや必要に応じて取捨選択することができ、適宜組み合わせることも可能である。
【0021】
〔無段変速機の構成〕
まず、
図1を参照して本実施形態にかかるベルト式無段変速機(CVTとも言う)1を説明する。なお、図示しないが、CVT1は、自動車のエンジン(内燃機関)の出力軸にトルクコンバータ等を介して接続され、この自動車は、車両停止時に所定のエンジン停止条件が成立するとエンジンを自動で停止させ、この停止時に所定のエンジン再始動条件が成立するとエンジンを自動で再始動させるアイドルストップ機能を有しているものとする。
【0022】
図1に示すように、CVT1は、変速機入力軸2に装備されたプライマリプーリ20と、変速機出力軸3に装備されたセカンダリプーリ30と、プライマリプーリ20とセカンダリプーリ30とに巻き掛けられたベルト4とをそなえている。図示しないエンジンの出力回転が、変速機入力軸2に入力されると、プライマリプーリ20,ベルト4,セカンダリプーリ30を介して変速機出力軸3に伝達され、図示しない動力伝達機構及び差動機構等を介して駆動輪に伝達される。
【0023】
プライマリプーリ20は、変速機入力軸2に一体に設けられた固定シーブ21と、変速機入力軸2に軸方向に可動に装着された中空軸2Aに一体に設けられた可動シーブ22とを備え、固定シーブ21のシーブ面と可動シーブ22のシーブ面とでベルト4が圧接するV字状プーリ溝が形成される。可動シーブ22の背面22a側には、油圧によって可動シーブ22を固定シーブ21に対して離接するように軸方向に移動させるための第1油圧室23と第2油圧室24とが設けられている。なお、変速機入力軸2は、プライマリプーリ20よりも軸方向各外側で軸受25a,25bを通じて図示しないケースに回転自在に支持されている。
【0024】
第1油圧室23及び第2油圧室24は、いずれも、可動シーブ22の背面側に配置され変速機入力軸2に固設された部材(固定部材)と、可動シーブ22の背面側に固設された部材(可動部材)とによって区画形成される。
第1油圧室23は、可動シーブ22に固設された第1シリンダ部材(可動部材)23Cの内面と、固定シーブ21が形成された変速機入力軸2から後述の第2シリンダ部材24Cを介して径方向に延びるように形成された第1ピストン部(固定部材)23Bの内面とで囲繞された第1シリンダ部23Aの内部空間として形成される。
【0025】
なお、第1シリンダ部23Aは、可動シーブ22の背面22aに沿って軸心から外方に向けて延びるように配置された第1端面部23a及びこの第1端面部23aから可動シーブ22に対して離隔する方向に軸心と平行に延設された第1筒状部23bを有する第1シリンダ部材23Cと、可動シーブ22の背面22aと、中空軸2Aの外周面とから構成される。
第1ピストン部23Bは環状に形成され、外周側端面(外端面)231を、第1筒状部23bの内周面に、内周側端面(内端面)232を中空軸2Aの外周面に、それぞれ摺接させている。
【0026】
第2油圧室24は、固定シーブ21側である変速機入力軸2に固設された第2シリンダ部材(固定部材)24Cの内面と、可動シーブ22側である中空軸2Aから径方向に延びるように形成された第2ピストン部(可動部材)24Bの内面とで囲繞された第2シリンダ部24Aの内部空間として形成される。
【0027】
なお、第2シリンダ部24Aは、軸心から外方に向けて延びるように配置された第2端面部24a及びこの第2端面部24aから可動シーブ22に対して接近する方向に軸心と平行に延設された第2筒状部24bを有する第2シリンダ部材24Cと、中空軸2Aの外周面及び変速機入力軸2の外周面とから構成される。
第2ピストン部24Bは環状に形成され、外周側端面(外端面)241を第2筒状部24bの内周面に摺接させ、内周側端面(内端面)242を中空軸2Aの外周面に隙間なく結合させている。
【0028】
このように、プライマリプーリ20は、第1油圧室23,第2油圧室24の2つの油圧室を備え、可動シーブ22の背面22aと第2ピストン部24Bの内面とで油圧を受けるダブルピストン式となっているので、受圧面積を増大させており、固定シーブ21と可動シーブ22とによってベルト4を挟圧する力(挟圧力)を十分に確保できるようになっている。
【0029】
セカンダリプーリ30は、変速機出力軸3に一体に設けられた固定シーブ31と、変速機出力軸3に軸方向に可動に装着された中空軸3Aに一体に設けられた可動シーブ32とを備え、固定シーブ31のシーブ面と可動シーブ32のシーブ面とでベルト4が圧接するV字状プーリ溝が形成される。可動シーブ32の背面32a側には、油圧によって可動シーブ32を固定シーブ31に対して離接するように軸方向に移動させるための油圧室33が設けられている。変速機出力軸3は、プライマリプーリ20よりも軸方向外側で軸受35a,35bを通じて図示しないケースに回転自在に支持されている。
【0030】
油圧室33も、可動シーブ32の背面側に配置され変速機出力軸3に固設された部材(固定部材)と、可動シーブ32の背面側に固設された部材(可動部材)とによって区画形成される。つまり、油圧室33は、可動シーブ32に固設されたシリンダ部材(可動部材)33Cの内周面と、固定シーブ31側である変速機出力軸3から外方に延びるように形成されたピストン部(固定部材)33Bの内面とで囲繞されたシリンダ部33Aの内部空間として形成される。
【0031】
なお、シリンダ部33Aは、可動シーブ32の背面32aに沿って軸心から外方に向けて延びるように配置された端面部33a及びこの端面部33aから可動シーブ32に対して離隔する方向に軸心と平行に延設された筒状部33bを有するシリンダ部材33Cと、可動シーブ32の背面32aと、中空軸3A及び変速機出力軸3の外周面とから構成される。
【0032】
ピストン部33Bには段部33cが形成され、軸受35aはこの段部33cの外側に配備されている。また、ピストン部33Bは環状に形成され、外周側端面(外端面)331を、筒状部33bの内周面に摺接、内周側端面(内端面)332を変速機出力軸3の外周面に隙間なく結合させている。
【0033】
このように、セカンダリプーリ30は、油圧室33のみを備え、可動シーブ32の背面32a及びシリンダ部33Aの端面部33aの背面で油圧を受けるシングルピストンとなっているので、受圧面積は増大させていないが、油圧室33内には、可動シーブ32の背面32aを押圧するようにスプリング34が圧縮状態で介装されているので、油圧室33内の油圧にスプリング34の付勢力が加わって、固定シーブ31と可動シーブ32とによってベルト4の挟圧力を十分に確保できるようになっている。
【0034】
また、プライマリプーリ20では、油圧室23,24内の油圧が抜けるとベルト4の挟圧力はなくなってしまうが、セカンダリプーリ30では、油圧室33内の油圧が抜けても、スプリング34が可動シーブ32を固定シーブ31に付勢するので、この付勢力だけベルト4の挟圧力が残る。したがって、油圧源からの各油圧室23,24,33へ油圧供給が断たれると、スプリング34によってセカンダリプーリ30側だけにベルト4の挟圧力が残ることになる。
【0035】
各油圧室23,24,33へ油圧を供給する油圧源には、図示しないオイルポンプとコントロールバルブユニットとが装備される。
オイルポンプには、エンジンの出力トルクで駆動されるメカニカルポンプが適用され、ここでは、変速機入力軸2に固設されたスプロケット5からエンジンの出力トルクを取り出して駆動するメカニカルポンプが適用される。また、本実施形態では、メカニカルポンプとしてベーンポンプが適用されている。
【0036】
また、コントロールバルブユニットには、レギュレータ弁や変速制御弁や変速指令弁や減圧弁等のスプール弁と共に、ライン圧やプライマリ圧やセカンダリ圧等を調整するソレノイドや、ステップモータやモード切り換えソレノイド等のアクチュエータが備えられる。コントロールバルブユニットは、変速指令に応じてプライマリ圧やセカンダリ圧を制御して、プライマリプーリ20及びセカンダリプーリ30によるベルト4の挟圧力と、プライマリプーリ20及びセカンダリプーリ30のベルト巻き掛け半径の比、即ち、変速比とを制御する。
【0037】
車両が停止する際には、セカンダリプーリ30のプーリ溝の溝幅が最小に縮小されてベルト4の巻き掛け半径は最大とされ、プライマリプーリ20のプーリ溝の溝幅は最大に拡大されてベルト4の巻き掛け半径は最小にされ、CVT1の変速比は最ローに制御される。この車両停止時にエンジンを自動停止させるアイドルストップ制御が実施されると、エンジン駆動のメカニカルポンプの場合、エンジンの停止と共にポンプも停止するので、セカンダリプーリ30側だけにスプリング34によるベルト4の挟圧力が残る。これにより、CVT1の変速比は最ローに保持される。
【0038】
〔油圧室のシール機構〕
図1〜
図3に示すように、プライマリプーリ20の第1油圧室23及び第2油圧室24並びにセカンダリプーリ30の油圧室33には、何れも、固定シーブ21,31側の固定部材と可動シーブ22,32側の可動部材との間の摺動部分に、シール機構40A〜40Dが装備されている。
【0039】
これらのシール機構40A〜40Dは、第1シール部材41,42,43,44(環状シール部材)と、第2シール部材51,52,53(環状シール部材)又は第3シール部材61とを備えた、二重シール構造に構成される。各シール部材41,42,43,44,51,52,53,61の材料は、適宜採用でき、例えば、シール部材に広く適用されているニトリルゴム、シリコーンゴム等の合成ゴム等を用いることができる。
【0040】
図2に示すように、第1油圧室23には、第1ピストン部23Bの外端面231と第1筒状部23bの内周面との間、及び、第1ピストン部23Bの内端面232と中空軸2Aの外周面との間に、それぞれ摺接部分が形成されている。第2油圧室24には、第2ピストン部24Bの外端面241と第2筒状部24bの内周面との間に、摺接部分が形成されている。
【0041】
また、
図3に示すように、油圧室33には、ピストン部33Bの外端面331と、筒状部33bの内周面との間に、摺接部分が形成されている。これらの摺動部分には、各シリンダ部と各ピストン部との間をシールする第1シール部材41,42,43,44が装備されている。
シール機構40Aは第1シール部材41及び第2シール部材51を有し、シール機構40Bは第1シール部材42及び第3シール部材61を有している。
【0042】
まず、第1油圧室23の外側の第1シール部材41は、第1ピストン部23Bの外端面231に形成された環状溝141内に基部を内装されて装備され、先端部41aが、装着側から対向する第1筒状部23bの内周面(対向面)23dに常時密着している。
第1油圧室23の内側の第1シール部材42は、第1ピストン部23Bの内端面232に形成された環状溝142内に基部を内装されて装備され、先端部42aが中空軸2Aの外周面に常時密着している。
【0043】
第1油圧室23の第2シール部材51は、第1シリンダ部23Aの端面部23aの内面に形成された環状溝151内に基部を内装されて装備され、先端部51aが、装着側から対向する第1油圧室23に向けて突出している。第2シール部材51の先端部51aは、凸型曲面状に形成され、可動シーブ22が変速比を最ローとする位置にあるときにのみ第1ピストン部23Bの対向面23eに当接して圧縮状態で密着し、第1シリンダ部23Aと第1ピストン部23Bとの間をシールする。
【0044】
第1油圧室23には、更に第3シール部材(リップシール部材)61が装備される。この第3シール部材61は、リップシールであって、第1シリンダ部23Aの第1筒状部23bの先端部(可動シーブ22に対して離隔した端部)に基端を固定されて、リップ先端を対向する第2シリンダ部24Aの第2筒状部24bの外周面に当接させた環状リップ61aが装備される。ただし、環状リップ61aの先端は、湾曲して可動シーブ22に対して離隔する方向に向いており、第1油圧室23内が外部よりも圧力低下すると第3シール部材61の環状リップ61aの先端が第2筒状部24bの外周面に密着して、第1油圧室23内への外気の進入を阻止するようになっている。
【0045】
シール機構40Cは第1シール部材43及び第2シール部材52を有している。
第2油圧室24の外側の第1シール部材43は、第2ピストン部24Bの外端面241に形成された環状溝143内に基部を内装されて装備され、先端部43aが、装着側から対向する第2筒状部24bの内周面(対向面)24dに常時密着している。
【0046】
第2油圧室24の第2シール部材52は、第2シリンダ部24Aの端面部24aの内面に形成された環状溝152内に基部を内装されて装備され、先端部52aが、装着側から対向する第2油圧室24に向けて突出している。第2シール部材52の先端部52aは、凸型曲面状に形成され、可動シーブ22が変速比を最ローとする位置にあるときにのみ第2ピストン部24Bの対向面24eに当接して圧縮状態で密着し、第2シリンダ部24Aと第2ピストン部24Bとの間をシールする。
【0047】
シール機構40Dは第1シール部材44及び第2シール部材53を有している。
油圧室33の内側の第1シール部材44は、ピストン部33Bの外端面331に形成された環状溝144内に基部を内装されて装備され、先端部44aが、装着側から対向する筒状部33の内周面(対向面)33dに常時密着している。
油圧室33の第2シール部材53は、シリンダ部33Aの筒状部33bの内面に形成された環状溝153内に基部を内装されて装備され、先端部53aが、装着側から対向するピストン部33Bの側に向けて突出している。第2シール部材53の先端部53aは、凸型曲面状に形成され、可動シーブ32が変速比を最ローとする位置にあるときにのみピストン部33Bの対向面である外端面(対向面)331に当接して圧縮状態で密着し、シリンダ部33Aとピストン部33Bとの間をシールする。
なお、第2シール部材51,52,53の先端部51a,52a,53aがピストン部23B,24B,33Bの対向面23e,24e,331に当接する「変速比を最ローとする位置」とは、変速比を完全に最ローとする位置だけでなく、この最ロー近傍の変速比領域も含むため、「変速比を所定変速比以上の最ロー領域とする位置」と規定することもできる。
【0048】
〔作用及び効果〕
本発明の一実施形態にかかるシール機構付き車両用無段変速機は、上述のように構成されているので、以下のような作用及び効果を得ることができる。
【0049】
車両の停止時にアイドルストップが実施されると、エンジンの停止と共にエンジン駆動のオイルポンプも停止し、停止したオイルポンプからオイルタンクに時間経過とともにオイル(作動油)が漏出していく。このオイルポンプからのオイルの漏出に伴って、プライマリプーリ20の第1油圧室23及び第2油圧室24並びにセカンダリプーリ30の油圧室33の各油圧室の内圧は次第に低下していき、油圧室23,24,33内にエアが混入するおそれが発生する。
【0050】
このエアの混入は、油圧室23,24,33を形成する固定部材と可動部材との摺接部分において生じる。具体的には、第1油圧室23の場合、第1ピストン部23Bの外端面231と第1筒状部23bの内周面との間、及び、第1ピストン部23Bの内端面232と中空軸2Aの外周面との間が、それぞれ摺接部分となる。また、第2油圧室24の場合、第2ピストン部24Bの外端面241と第2筒状部24bの内周面との間が摺接部分となる。油圧室33の場合、ピストン部33Bの外端面331と筒状部33bの内周面との間が摺接部分となる。
【0051】
これらの摺動部分には、各シリンダ部と各ピストン部との間をシールする第1シール部材41,42,43,44を有するシール機構40A〜40Dが装備されているが、この第1シール部材41,42,43,44は、油圧室23,24,33から外部へのオイルの漏出を完全に阻止するものではなく、予め一定の漏出を考慮して設計されたもので、この漏出したオイルを油圧室23,24,33の外側周辺の摺動部分の潤滑に利用する場合もある。オイルポンプの作動時には、油圧系統内部の圧力は外気圧に比べて十分に高いので、油圧室23,24,33の内から外部へのオイルの漏出はあるが、外部から油圧室23,24,33内へのエアの混入は生じない。
【0052】
一方、オイルポンプが停止して油圧系統内部の圧力が低下すると、第1シール部材41,42,43,44だけでは、外部から油圧室23,24,33内へのエアの混入を阻止できない。しかし、各シール機構40A〜40Dは、第1シール部材41,42,43,44に加えて、第2シール部材51,52,53又は第3シール部材61を有しており、可動シーブ22,32が変速比を最ローとする最ロー位置にあるときには、二重シールとなってシール性が向上するため、外部から油圧室23,24,33内へのエアの混入を阻止することができる。
【0053】
特に、第2シール部材51,52,53は、可動シーブ22,32が変速比を最ローとする最ロー位置にあるときのみに、対向面に当接して圧縮状態で密着するので、強いシール効果を発生し、油圧系統内部の圧力低下が大きくなっても、外部から油圧室23,24,33内へのエアの混入を阻止することができる。
また、第3シール部材61は、油圧系統内部の圧力が低下するほど環状リップ61aの先端が対向面に強く当接して密着するので、油圧系統内部の圧力低下が大きくなるほど強いシール効果が発生し、外部から油圧室23内へのエアの混入を阻止することができる。
【0054】
このようにして、本シール機構40A〜40Dによれば、オイルポンプが停止した場合にも、長期間にわたって、外部から油圧室23,24,33内へのエアの混入を阻止することができる。油圧室23,24,33内から油圧系統内部へエアが混入すると、エンジンの再始動時に油圧室23,24,33内にオイルを充満させる時間が必要になり、発進性が損なわれるが、このような不具合が回避される。
【0055】
特に、本実施形態では、オイルポンプにベーンポンプを用いており、構造が比較的簡単なため流体内のごみに対して許容範囲が大きくカムリング・ベーンとも磨耗しても補償されるため効率低下が少ないといったベーンポンプの利点を利用できる反面、停止時にはベーンの先端がポンプ室の内壁から離隔するため、オイルタンクへのオイルの戻りを阻止できず、油圧室内へのエアの混入が早まる不具合があるが、本シール機構40A〜40Dによれば、かかる不具合の発生を回避することができる。
【0056】
また、車両の走行時には、変速比が最ローになるときは限定的となる。このため、最ロー以外の変速比では、第2シール部材51,52,53は対向面に当接せずにシール作用を発揮しないため、第1シール部材41,43,44のみによるシールになるが、車両の走行時には、通常エンジンが作動しオイルポンプも作動するので、油圧室内へのエアの混入はなく支障がない。しかも、最ロー以外の変速比の場合、車両の走行時に第2シール部材51,52,53の摺動抵抗が生じないので、可動シーブ22,32の移動レスポンスの低下を招くことがなく、変速比制御の制御応答性を確保することができ、摺動抵抗による効率の低下を抑制することができる。
【0057】
車両の走行時には、エンジンが作動しオイルポンプも作動するので、油圧室23,24,33内の圧力が外気圧よりも高くなり、第3シール部材61では、油圧系統内部の圧力が上昇するほど環状リップ61a先端の対向面への圧着が弱まって、第3シール部材61の摺動抵抗も低下する。したがって、この点でも、可動シーブ22,32の移動レスポンスの低下を招くことがなく、変速比制御の制御応答性を確保することができる。また、変速時に摺動抵抗とならないので、効率の低下を防ぐことができる。更に、シール性の向上のためには、シール部材を対向面により強く圧着させることが必要となるが、摺動機会が多いほど、強い圧着によりシール部材が磨耗する。しかし、最ロー以外では、シール部材が摺動することがないので、シール性を高くしながら、シール部材の磨耗を抑制することもできる。
【0058】
〔その他〕
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
例えば、上記実施形態では、プライマリプーリ20に、第1油圧室23,第2油圧室24の2つの油圧室を備え、可動シーブ22の背面22aと第2ピストン部24Bの内面とで油圧を受けるダブルピストン式のものを採用しているが、シングルピストン式のものを採用しても良い。
【0059】
また、上記実施形態では、セカンダリプーリ30に、シングルピストン式のものを採用しているが、ダブルピストン式のものを採用しても良い。この場合、第2シリンダ部24A,第2ピストン部24Bに相当する構造を追加し、シール機構の第2シール部材としては、第2シリンダ部の第2筒状部の内周面に装着し、可動シーブ32が変速比を最ローとする位置にあるときに、第2ピストン部に圧接するように構成すればよい。
【0060】
また、第2シール部材51,52をシリンダ部23A,24A側に装備して、可動シーブが最ロー位置にあるときに、ピストン部23B,24Bの対向面に密着するように構成したが、これと逆に、第2シール部材51,52をピストン部23B,24B側に装備して、可動シーブが最ロー位置にあるときに、シリンダ部23A,24Aの対向面に密着するように構成してもよい。
【0061】
また、上記本実施形態では、メカニカルポンプとしてベーンポンプが適用されているが、メカニカルポンプとしては歯車ポンプ等の他の方式のものを採用してもよい。
また、油圧源に、メカニカルポンプと共に或いはメカニカルポンプに替えて電動ポンプを装備しているものに本シール機構を適用することも可能である。この場合、車両停止時に電動ポンプの負担を軽減することができる。
さらに、CVTの一部の油圧室に部分的に本発明にかかるシール機構を適用してもよい。