(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
導電性オルガノゲルを含む粘接着ゲルシートを鋼材に粘着させ、次いで、前記粘接着ゲルシートを硬化させた後、前記鋼材に前記粘接着ゲルシートの硬化膜から防食電流を流すことからなり、前記粘接着ゲルシートの硬化膜が107Ω/cm2以下の表面抵抗値を有し、
前記導電性オルガノゲルが、導電材と、(メタ)アクリレート系樹脂からなる高分子マトリックスと、液状の硬化性エポキシ系樹脂及び硬化剤とを含むことを特徴とする鋼材の防食方法。
前記防食電流が、前記粘接着性ゲルシートの硬化膜を陽極、鋼材を陰極として、両極間に直流電流を加えることにより、前記鋼材に前記硬化膜から流される請求項1に記載の鋼材の防食方法。
前記繊維基材が、天然繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、カーボン繊維、ガラス繊維、ポリオレフィン繊維からなる群の中から選ばれる1種又は2種以上の繊維からなる請求項5に記載の鋼材の防食方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、導電性塗膜は、導電材を含む塗料を防食塗料上に塗布及び乾燥することにより形成することを要すため、作業性が劣るという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者等は、導電性オルガノゲルを含む粘接着ゲルシートを使用することにより、防食の作業性を向上できることを見い出し、本発明に至った。
かくして本発明によれば、導電性オルガノゲルを含む粘接着ゲルシートを鋼材に粘着させ、次いで、前記粘接着ゲルシートを硬化させた後、前記鋼材に前記粘接着ゲルシートの硬化膜から防食電流を流すことからなり、前記粘接着ゲルシートの硬化膜が10
7Ω/cm
2以下の表面抵抗値を有
し、
前記導電性オルガノゲルが、導電材と、(メタ)アクリレート系樹脂からなる高分子マトリックスと、液状の硬化性エポキシ系樹脂及び硬化剤とを含むことを特徴とする鋼材の防食方法が提供される。
また、本発明によれば、上記鋼材の防食方法に使用され、
前記導電性オルガノゲルから構成されることを特徴とする鋼材の防食用粘接着ゲルシートが提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の鋼材の防食方法及び防食用粘接着ゲルシートによれば、作業者のスキルに依存せず、作業性を向上できる。
また、以下のいずれか1つ又は組み合わせによる場合、より作業性を向上できる。
(1)防食電流が、粘接着性ゲルシートの硬化膜を陽極、鋼材を陰極として、両極間に直流電流を加えることにより、鋼材に硬化膜から流される場合
(2)導電性オルガノゲルが、(1)23℃において、1.0×10
3〜5.0×10
4Paの貯蔵弾性率及び0.01〜2の損失係数(周波数0.01Hz時)、1.0×10
4〜1.0×10
7Paの貯蔵弾性率及び0.01〜2の損失係数(周波数100Hz時)を有し、かつ(2)硬化前に、0.01〜0.15N/mm
2の粘着力、硬化後に、3N/mm
2以上の接着力を有する場合
(3)粘接着ゲルシートが、物理的強度を高めるための補強層を備える場合
(4)補強層が、織布、編布、不織布及び積層布からなる群の中から選ばれる1種又は2種以上の繊維基材である場合
(5)繊維基材が、天然繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、カーボン繊維、ガラス繊維、ポリオレフィン繊維からなる群の中から選ばれる1種又は2種以上の繊維からなる場合
(6)導電性オルガノゲルが、導電材と、(メタ)アクリレート系樹脂からなる高分子マトリックスと、液状の硬化性エポキシ系樹脂及び硬化剤とを含む場合
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。
図1は、鋼材の防食用粘接着ゲルシート(単に、ゲルシートともいう)を用いて鋼材を防食している状態の実施形態を示している。この防食は、例えば、次の手順で実行できる。
まず、鋼材1の防食必要部位を清浄化する。次に、防食必要部位に防食塗料を用いて塗膜2を形成する。塗膜2上に防食用粘接着ゲルシートを粘着させることで固定する。塗膜2は、必要に応じて形成できる。塗膜2を形成しない場合は、ゲルシートは直接鋼板1上に粘着される。ゲルシートは粘着により固定されているので、空気の巻き込み、シワの発生等により貼り直しの必要が生じた場合でも、容易に貼りなおすことができる。次に、ゲルシートを硬化させて接着する。次いで、ゲルシートの硬化膜3上に陽極4を設置し、陽極4と鋼板1間に電流を流すための電流流路5と電源6とを接続し、次いで硬化膜3と鋼材1間に防食電流を流すことで、防食を行い得る。電流流路5は、直接硬化膜3と接続してもよく、この場合、陽極4を設ける必要はない。
ゲルシートは、ゲル状の形態、所定の粘着力及び接着力を有していさえすれば、その構成成分は特に限定されない。
【0009】
ゲルシートの厚さは、ゲルシート粘着時にシートの形状を維持し得る厚さであれば特に限定されない。例えば、0.1〜5.0 mmである。
本明細書において、ゲル状の形態とは、例えば、23℃で測定した貯蔵弾性率及び損失係数の値において、周波数0.01Hzにおける貯蔵弾性率が1.0×10
3〜5.0×10
4Pa、損失係数が0.01〜2であり、周波数100Hzにおける貯蔵弾性率が1.0×10
4〜1.0×10
7Pa、損失係数が0.01〜2の物性で表される形態が挙げられる。
【0010】
上記粘弾特性は、ゲルシートが鋼材又は塗膜表面の凹凸に入り込んで接着する密着性の評価であり、被着体へのゲルシートの接触面積や、ゲルシート自身の変形性を示す。また、粘弾特性は、ゲルシートの凝集力、すなわち耐破壊強さの評価値ともなる。
粘弾特性は、貯蔵弾性率と損失係数によって表すことができる。低周波数域(0.01Hz)における粘弾特性は、低速での微小な変形過程におけるゲルシートの濡れ粘着力、クリープ挙動(塑性変形)等の指標となる。例えば、被着体に貼り付けた場合、0.01Hzにおける貯蔵弾性率が高過ぎたり、損失係数が低すぎたりすると、ゲルシートは良好な変形ができず、密着性が低下することがある。また、逆に、貯蔵弾性率が低過ぎたり、損失係数が高過ぎたりすると、ゲルシートの凝集性が低下し、形状保持性が低下することがある。
【0011】
高周波数域(100Hz)における粘弾特性は、高速の変形過程におけるゲルシートの被着体への追従性、剥離挙動等の指標となる。例えば、被着体に貼り付けた場合、100Hzにおける貯蔵弾性率が高過ぎたり、損失係数が低過ぎたりすると、ゲルシートが車両等の通過による振動等に追従できず剥離が生じやすくなる。また、逆に、貯蔵弾性率が低過ぎたり、損失係数が高過ぎたりすると、被着体への貼り直しがしづらいことがある。
なお、周波数0.01Hzにおける貯蔵弾性率は1.0×10
3〜5.0×10
4Pa、損失係数は0.01〜2であり、周波数100Hzにおける貯蔵弾性率は1.0×10
4〜1.0×10
7Pa、損失係数は0.01〜2であることがより好ましい。
【0012】
所定の粘着力とは、ゲルシートの鋼材又は塗膜への粘着状態を維持し得る力である。粘着力は0.01〜0.15N/mm
2であることが好ましい。0.01N/mm
2未満の場合、被着体に対する粘着力が十分でないことがある。0.15N/mm
2より高い場合、粘着性が強すぎて作業性が低下することがある。より好ましい粘着力は、0.05〜0.15N/mm
2である。
所定の接着力とは、ゲルシートの硬化後において、ゲルシートの鋼材又は塗膜への接着状態を維持し得る力である。接着力は、引張せん断接着強度で表すと、3N/mm
2以上であることが好ましい。3N/mm
2未満であると鋼材への接着性が低下し、耐荷力が不足することがある。より好ましい接着力は、5〜20N/mm
2である。
【0013】
オルガノゲルは、導電材と、(メタ)アクリレート系樹脂からなる高分子マトリックスと、液状の硬化性エポキシ系樹脂及び硬化剤とを含むことが好ましい。
導電材としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ−p−フェニレンビニレン、ポリアセチレン等の導電性樹脂、カーボンブラック、黄銅、アルミニウム、酸化亜鉛、グラファイト等が挙げられる。導電材は、粉末状、フレーク状、繊維状の形状を有していてもよい。導電材は、ゲルシートの硬化膜が10
7Ω/cm
2以下の表面抵抗値を示すのに必要な量で含有されていることが好ましい。導電材は、例えば、ゲルシート中に5〜50質量%含まれていること好ましい。
【0014】
高分子マトリックスは、例えば、(メタ)アクリレート系の単官能単量体と多官能単量体とを共重合させることで得ることができる。単量体は、エポキシ基を含んでいることが好ましい。
液状の硬化性エポキシ系樹脂は、常温(約23℃±2℃)で液体の樹脂である。例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック樹脂型等のエポキシ樹脂が挙げられる。
【0015】
硬化剤は、特に限定されず、熱又は光硬化剤を使用できる。熱硬化剤を使用する場合は、ゲルシートの硬化は加熱により、光硬化剤を使用する場合は、ゲルシートの硬化は光の照射により行われる。ゲルシートへの熱又は光の付与は、コンクリート構造物へのゲルシートの粘着後に行ってもよく、粘着前に行ってもよい。
ゲルシートは、連続繊維シートを備えていていてもよい。連続繊維シートを備えることで、ゲルシートの物理的強度を高めることができる。
連続繊維シートは、例えば、織布、編布、不織布及び積層布からなる群の中から選ばれる1種又は2種以上の繊維基材からなるシートとすることができる。また、繊維基材は、天然繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、カーボン繊維、ガラス繊維、ポリオレフィン繊維からなる群の中から選ばれる1種又は2種以上の繊維からなっていてもよい。これらの中でも、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、及びポリオレフィン繊維は、軽くて強度に優れることから好ましい。
【0016】
上記繊維は、混紡されていてもよいし、縦糸や横糸に使い分けられていてもよいし、多層に積層されていてもよい。
連続繊維シートは、ゲルシートのどの部位に位置していてもよい。例えば、ゲルシートの鋼材側の表面、反対面に位置していてもよく、ゲルシート内部に位置していてもよい。この内、ゲルシート内部に位置することが、ゲルシートと連続繊維シートとの一体性をより向上できるので好ましい。
なお、ゲルシートは、使用時まで、一対の剥離フィルムでその表面を保護されていてもよい。また、ゲルシートの片面に基材(例えば、合成樹脂フィルム)を備え、他方面に剥離フィルムを備えていてもよい。更に、連続繊維シートは、基材に接着させてもよい。
【0017】
ゲルシートの製造例を下記する。
まず、以下の成分を均一になるまで撹拌混合し、粘接着剤組成物を得る。
【0018】
アクリレートモノマー(P2H−A、共栄社化学社製) 4.5質量部
エポキシアクリレートオリゴマー(SP1509、昭和電工社製) 10.5質量部
光重合開始剤(イルガキュアOXE−01、BASF社製) 0.3質量部
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER828、三菱化学社製) 100質量部
潜在型硬化剤(フジキュア7001、T&K TOKA社製) 10質量部
導電材(ケッチェンブラックECP600JD、ライオン社製) 16.9質量部
得られた粘接着剤組成物をシリコーンコーティングされたPETフィルム(剥離フィルム)上に芯材(連続繊維シート)としてチョップドストランドマット(日東紡社製MC-600A 目付け600g/cm
2)を置き、その上から粘接着剤組成物を流し込む。その後、上から同じくシリコーンコーティングされたPETフィルムを被せて、一対のフィルム間の粘接着剤組成物の厚さが2.0mmになるように、粘接着剤組成物を均一に押し広げる。次いで、メタルハライドランプからエネルギー量7500mJ/cm
2の紫外線を照射することにより、厚さ2.0mmのゲルシートを得ることができる。
【0019】
このゲルシートは、硬化前において、粘着力が0.148N/mm
2、周波数0.01Hzにおける貯蔵弾性率が7330Pa及び損失係数が0.38、周波数100Hzにおける貯蔵弾性率が1.92×10
6Pa及び損失係数が0.90である。また、硬化後において、引張せん断接着強さが8.28N/mm
2、硬化物の表面抵抗値が1.0×10
5Ω/cm
2である。なお、これら物性の測定方法を下記する。
【0020】
(粘着力測定:プローブタック試験)
ゲルシートを3×3cmに切断し、両面テープ(スリオンテック社製No.5486)で固定したSUS板に、測定するためのゲルシートの片面を上にして、もう一方の面を用いてゲルシートを貼り付ける。プローブタック試験はテクスチャーアナライザーTX−AT(英弘精機株式会社製)を用いて測定する。プローブには直径10mmのSUS製プローブを用いた。1000gの荷重で10秒間、負荷をプローブの粘着面にかけた後、10mm/secの速度でプローブを引き剥がす時の最大荷重(N)を測定する。粘着力は、最大荷重(N)を粘着面の面積で除した値(N/mm
2)である。
【0021】
〔動的粘弾性(貯蔵弾性率G'及び損失係数tanδ)の測定方法〕
本発明における動的粘弾性測定は粘弾性測定装置PHYSICA MCR301(Anton Paar社製)、温度制御システムCTD450、解析ソフトRheoplus、ジオメトリーにはφ8mmの上下格子目加工パラレルプレートを用いて測定する。直径10mm、厚さ2mmの円盤状のゲルシート試験片を測定温度にした粘弾性測定装置のプレートに挟みノーマルフォース0.05Nとなるようにプレート間距離を調整する。
更に測定温度±1℃を2分間保持した後、歪み1%、周波数0.1〜100Hz、温度条件23℃、窒素雰囲気、ノーマルフォース1N一定にする。
次に周波数が0.1Hzから100Hzの範囲で、測定開始を高周波数(100Hz)側から行なう。対数昇降、測定点数は5点/桁の条件で動的粘弾性測定を行うことで、貯蔵弾性率G'及び損失係数tanδを測定する。
【0022】
(接着力測定)
ゲルシートを25mm×12.5mmのサイズに切断し、ゲルシートの二つの剥離フィルムのうち、一方の剥離フィルムを剥がす。アルコール洗浄後にJIS R 6252:2006に記載の240番研磨紙にて研磨したSPCC鋼板に露出したゲルシートを圧着する。次いで、他方の剥離フィルムを剥がし、露出したゲルシートを、もう一つの同様に前処理したSPCC鋼板に圧着する。送風式オーブンにて120℃で2時間保持して加熱硬化させ、その後常温で放冷したものを引張せん断接着強度測定用試験片とする。
【0023】
次いで、試験片を、引張試験機テンシロン万能試験機UCT−10T(オリエンテック社製)、万能試験機データ処理ソフトUTPS−458X(ソフトブレーン社製)を用い、JISK6850:1999の7の手順に従い、JIS K 7100:1999の記号「23/50」(温度23℃、相対湿度50%)、2級の標準雰囲気下で16時間以上かけて状態調整した後、同じ標準雰囲気下にて引張せん断接着強度(N/mm
2)を測定する。但し、引張速度は、日本接着剤工業会規格JAI−15:2011に倣い、1.0±0.2(mm/分)とする。
引張せん断接着強さ(N/mm
2)は次式により算出する。
【0024】
S=P/A
S:引張せん断接着強さ(N/mm
2)
P:破断力(N)
A:せん断面積(mm
2)
(表面抵抗値測定)
各試料について100mm角以上の面積に裁断し、セパレータであるポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離した試験片の硬化後のゲルシート面上の表面抵抗値(Ω/cm
2)を表面抵抗計(トレック・ジャパン社製、本体:Model−152、プローブ:152P−CR)を用いて測定する。測定環境は、温度23℃±5℃、湿度55%±10%で実施する。
【0025】
ゲルシート中に短繊維を分散させることによりゲルシートを補強してもよい。短繊維としては、天然繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、カーボン繊維、ガラス繊維、ポリオレフィン繊維からなる群の中から選ばれる1種又は2種以上の繊維が挙げられる。短繊維は、3〜50mmの繊維長を有することが好ましい。