特許第6244303号(P6244303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244303
(24)【登録日】2017年11月17日
(45)【発行日】2017年12月6日
(54)【発明の名称】18F標識生体分子の合成方法
(51)【国際特許分類】
   C07B 59/00 20060101AFI20171127BHJP
   C07C 319/14 20060101ALI20171127BHJP
   C07C 323/44 20060101ALI20171127BHJP
   A61K 51/04 20060101ALN20171127BHJP
   A61K 101/02 20060101ALN20171127BHJP
【FI】
   C07B59/00
   C07C319/14
   C07C323/44
   !A61K51/04 200
   A61K101:02
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-535116(P2014-535116)
(86)(22)【出願日】2012年10月15日
(65)【公表番号】特表2014-530814(P2014-530814A)
(43)【公表日】2014年11月20日
(86)【国際出願番号】EP2012070401
(87)【国際公開番号】WO2013053941
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2015年10月13日
(31)【優先権主張番号】1117785.4
(32)【優先日】2011年10月14日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】61/547,091
(32)【優先日】2011年10月14日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】305040710
【氏名又は名称】ジーイー・ヘルスケア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 拓人
(72)【発明者】
【氏名】ネアーヌ,ロバート・ジェームズ・ドメット
(72)【発明者】
【氏名】バッラ,ラジヴ
(72)【発明者】
【氏名】カーン,イミティアズ
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,ジェーン
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン,アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】ブラック,アンドリュー
【審査官】 安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−546755(JP,A)
【文献】 特表2008−524205(JP,A)
【文献】 特表2006−528648(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/042550(WO,A1)
【文献】 ZUHAYRA, M et al.,New approach for the synthesis of [18F]fluoroethyltyrosine for cancer imaging: Simple, fast, and high yielding automated synthesis,Bioorganic & Medicinal Chemistry,2009年,17(21),7441-7448
【文献】 PRANTE, OLAF et al.,Synthesis, Radiofluorination, and In Vitro Evaluation of Pyrazolo[1,5-a]pyridine-Based Dopamine D4 Receptor Ligands: Discovery of an Inverse Agonist Radioligand for PET,Journal of Medicinal Chemistry,2008年,51(6),1800-1810
【文献】 WILSON ALAN A,SYNTHESIS OF TWO RADIOFLUORINATED COCAINE ANALOGUES 以下省略,APPLIED RADIATION AND ISOTOPES,英国,ELSEVIER,1995年 8月 1日,V46 N8,P765-770
【文献】 MINGWEI WANG,JOURNAL OF RADIOANALYTICAL AND NUCLEAR CHEMISTRY,KLUWER ACADEMIC PUBLISHERS,2006年11月 1日,V270 N2,P439-443
【文献】 LUNDKVIST CAMILLA,NUCLEAR MEDICINE AND BIOLOGY,米国,ELSEVIER,1997年10月 1日,V24 N7,P621-627
【文献】 ZHANG MING-RONG,APPLIED RADIATION AND ISOTOPES,英国,ELSEVIER,2002年 9月 1日,V57 N3,P335-342
【文献】 Journal of the American Chemical Society,2006年,128(50),16394-16397
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B,C07C,C07D,A61K
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物又はその溶媒和物もしくは塩の製造方法であって、
【化1】
(式中、
1−A1−は、式R1−A1−H(式中、A1はS、O又はNR2(式中、R2は水素、C1−6アルキル又はC5−12アリールである。)から選択される。)又は次式の生体ターゲティング分子(BTM)の脱プロトン化された基であり、
【化2】
nは1〜6の整数である。)
(i)適当な溶媒中で式IIの化合物を適当な[18F]フッ化物源と反応させて、式IIの化合物と式IIIの化合物とを含む第一の粗反応生成物を得るステップと、
【化3】
(式中、
LG1及びLG2は同一又は異なるもので、各々脱離基LGを表し、
mはnに等しい1〜6の整数である。)
【化4】
(式中、LG12は脱離基LGであり、pは、式IIのmについて定義した通りである。)
(ii)式IVの化合物又はその保護形を脱プロトン化するステップと、
【化5】
(式中、−A2−R11は式Iの−A1−R1について定義した通りである。)
(iii)アルカノール溶媒中で、ステップ(i)で得られた第一の粗反応生成物をステップ(ii)で得られた脱プロトン化化合物と反応させて、式Iの化合物又はその保護形を含む第二の粗反応生成物を得るステップであって、アルカノール溶媒がアルカノール又はアルカノール水溶液であって、アルカノールが、メタノール、エタノール及びプロパノールから選択される、ステップと、
(iv)保護基を除去するステップと
を含む方法。
【請求項2】
式Iの化合物が式Iaの化合物又はその塩若しくは溶媒和物であり、
【化6】
(式中、
1aは、式1で定義したA基であり、
1aは、水素又はC1-4アルキルから選択されるRa基であり、
3aは、ハロであるRc基であり、
4aは、ハロ、C1-4アルキルチオ又はC1-4アルキルから選択されるRd基であり、naは、式Iのnについて定義した通りである。)
式IVの化合物が式IVaの化合物である、請求項1記載の方法。
【化7】
(式中、R11a、R13a及びR14aはそれぞれ、式Iaで定義したRa、Rc及びRd基であり、A2aは、式Iで定義したA基であり、P1及びP2は各々水素又は保護基から選択されるP基である。)
【請求項3】
式Iの化合物が式Ibの化合物であり、
【化8】
(式中、R1b、R3b及びR4bはそれぞれ、請求項2において式Iaで定義したRa、Rc及びRd基であり、A1bは、式Iで定義したA基であり、nbは、式Iのnについて定義した通りである。)
式IVの化合物が式IVbの化合物である、請求項1記載の方法。
【化9】
(式中、R11b、R13b及びR14bはそれぞれ、請求項2において式Iaで定義したRa、Rc及びRd基であり、A2bは、式Iで定義したA基であり、P1b及びP2b
各々、請求項2において式IVaで定義したP基である。)
【請求項4】
各Ra基はC1-4アルキルである、請求項2又は請求項3記載の方法。
【請求項5】
各Ra基はメチルである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
各Rc基はクロロである、請求項2乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
各Rd基はアルキルチオである、請求項2乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
各Rd基はメチルチオである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
A基はSである、請求項2乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
式IVの化合物が次式の化合物である、請求項1記載の方法。
【化10】
【請求項11】
式IVの化合物が次式の化合物である、請求項1記載の方法
【化11】
【請求項12】
脱離基LGは、Cl、Br、I、トシレート(OTs)、メシレート(OMs)及びトリフレート(OTf)から選択される、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
LG1及びLG2は同じである、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
式Iの精製化合物を得るために第二の粗反応生成物を精製する付加的なステップ(v)を含んでいる請求項1乃至請求項13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
自動化されている請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性医薬品の分野に関し、具体的には、陽電子放射断層撮影(PET)での利用に適した化合物の製造に関する。18F標識化合物の合成方法が提供され、この方法は好ましくは、自動化された方法である。また、本発明によって、発明の自動化された方法を行なうのに適したカセットも提供される。
【背景技術】
【0002】
18Fは、物理学的特性及び化学的特性のため陽電子放射断層撮影(PET)のトレーサーに用いられる好ましい放射性核種である。18Fを有機分子に導入するために用いられる化学反応は、求核反応及び求電子反応の二つの範疇に大きく分類される。求核フッ素化については、[18F]−フッ素イオン(18-)が18F源として用いられる。このイオンは通常、核反応18O(p,n)18Fからの水溶液として得られる。一旦、このイオンが、陽イオン性対イオンの添加及び水の除去によって反応性となったら、18-を適当な脱離基を含む化合物と反応させることができ、18Fが脱離基の代わりに化合物に導入される。適当な脱離基としては、Cl、Br、I、トシレート(OTs)、メシレート(OMs)、ノシレート(ONs)及びトリフレート(OTf)等がある。得られる18F標識化合物は最終生成物であってもよいし、最終生成物を得るための標識試薬として用いられる18F標識シントン(synthon)であってもよい。かかるシントンの一例は18F−(CH2x−LGであって、式中、LGは、前駆体化合物のチオール基、ヒドロキシ基又はアミン基をアルキル化して18F標識生成物を得るのに用いられ得る脱離基を表す。アルキル化反応を成功裡に進行させるために、チオール基、ヒドロキシ基又はアミン基の脱プロトン化が必要であり、このようなものとして、この反応は典型的には、塩基の存在下で行なわれる。
【0003】
18F標識放射性トレーサーは現在、自動式標識化合物合成装置によって簡便に製造されている。かかる装置の幾つかの市販品の例がある。FASTlab(商標)(GE Healthcare)のような装置は、放射化学作用が行なわれる使い捨て式カセットを含んでおり、このカセットを装置に装着して標識化合物合成を行なう。かかる自動合成装置において放射性フッ素化反応を行なうためには、試薬の各々を装置の周辺に輸送するために可溶にすることが必要である。加えて、各々の試薬毎に別々のバイアルが必要とされるが、化学的過程を単純化し、物品の費用を削減し、且つGMP臨床製造に必要とされる試薬の検定及び文書作成の負担を減少させ又は最小にするために、バイアルを可能な限り少数にすることが望ましい。
【0004】
放射性標識アルキルチオフェニル−グアニジン化合物及び中枢神経系受容体を撮像する際のこれらの化合物の応用可能性が、国際公開第2006/136846号及びZhao等(J Label Compd Radiopharm、2006年、第49巻、第163〜170頁)に報告されている。これらの化合物は、N−メチル−D−アスパルタート(NMDA)受容体(<5nM)に高い親和性を有し、てんかん、卒中、神経因性疼痛、・及び統合失調症のようなNMDA介在型疾患の診断への利用可能性を有することが実証されている。
【0005】
最近、二つの特定の放射性標識アルキルチオフェニル−グアニジン化合物の手動合成がRobins等(Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters、2010年、第20巻(第5号)、第1749〜1751頁)によって報告されている。
【0006】
【化1】
【0007】
18F−フルオロアルキルトシレートシントンを製造するために、ステップ(i)において15分間にわたり90℃でアセトニトリルにおいてジトシレート出発物質をK18F/Kryptofix2.2.2と反応させた。標識グアニジン化合物は、ステップ(ii)において塩基Cs2CO3の存在下でアセトニトリルにおいて関連するチオール前駆体化合物を適当な18Fフルオロアルキルトシレートシントンとアルキル化することにより得られた。本発明者等は、上のステップ(ii)を行なうときにアセチル不純物が生成されたことを観察した。
【0008】
【化2】
【0009】
このアセチル不純物は、HPLCでは粗製反応混合物から除去することが困難であり、時間の掛かり過ぎる複雑な標識化合物合成となることが判明した。
【0010】
PETトレーサーを得るための18F−フルオロアルキル化反応のもう一つの例は、Wang等(J Radioanalyt Nuc Chem、2006年、第270巻(第2号)、第439〜443頁)によって記載された反応であって、18F標識アミノ酸O−(2−[18F]フルオロエチル)−L−チロシン([18F]FET)を得るために用いられる反応である。
【0011】
【化3】
【0012】
18F]フルオロエチルトシレートを製造するために、ステップ(i)において10分間にわたり90℃でアセトニトリルにおいてK18F/Kryptofix2.2.2と反応させることにより1,2−ビストシルオキシエタンからトシル基を置換した。次いで、精製された[18F]フルオロエチルトシレートをステップ(ii)において90℃で20分間にわたりDMSOにおいてL−チロシンの溶液及び10%NaOH水溶液(又はDMSOにおいてL−チロシンの二Na塩)と反応させて、[18F]FETを得た。Robins等(前述)によって報告された18F標識S−フルオロアルキルジアリールグアニジンの製造方法とは対照的に、この[18F]FETの製造方法は、アルキル化反応に可溶性塩基を用いている。しかしながら、この反応は、続くフルオロアルキル化ステップに用いられる塩基のための付加的なバイアルが必要とされることから、カセットを用いる自動合成装置において行なうためには依然として理想的ではない。
【0013】
Lundkvist等(Nuc Med Biol、1997年、第24巻、第621〜627頁)は、[18F]フルオロプロピルブロミドを標識試薬として用いた[18F]フルオロプロピル−β−CIT(β−CIT:(−)−2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)トロパン)の合成を記載している。ステップ(i)において、[18F]カリウムKryptofix錯体による1,3−ジブロモプロパンの求核フッ素化によって[18F]フルオロプロピルブロミドを製造した。次いで、ステップ(ii)では、ジメチルホルムアミド(DMF)において[18F]フルオロプロピルブロミドを用いて25分間にわたり130℃でnor−β−CITをアルキル化して、[18F]フルオロプロピル−β−CITを形成した。
【0014】
【化4】
【0015】
上の方法は、蒸留を介したシントンの精製を必要とし、また塩基用の付加的な試薬バイアルを必要とするので、自動化には理想的と言えない。
【0016】
従って、これらの様々な問題を克服し、方法を自動化にさらに馴染み易くする上述及び類似の18F標識化合物を得る方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
国際公開第2006/136846号パンフレット
【発明の概要】
【0018】
本発明は、自動化に馴染み易い18F標識生体分子の合成方法を提供する。本発明はまた、当該発明の方法を自動化するためのカセットを提供する。本発明の方法は、従来技術の方法を凌ぐ多くの利点を提供する。本発明の方法は、公知の方法と比較して、必要とされる精製ステップが一つ少ない。さらに、好適実施形態では、二つのステップで一つの特定の試薬を利用することにより、必要とされる試薬バイアルの数を最小にする。これにより、化学的過程が単純化され、物品の費用が削減され、且つGMP臨床製造に必要とされる試薬の検証及び文書作成の負担が最小になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、FASTlab(商標)合成装置と共に使用するためのカセットを示している。
図2図2は、エタノール又はアセトニトリルを溶媒として用いた3−(2−クロロ−5−((2−[18F]フルオロエチル)チオ)フェニル)−1−メチル−1−(3−(メチルチオ)フェニル)グアニジンのFASTlab(商標)合成を比較している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
一態様では、本発明は、以下に示す式Iの化合物又はその溶媒和物もしくは塩の製造方法であって、
【0021】
【化5】
【0022】
(式中、
1−A1−は、式R1−A1−Hの生体ターゲティング分子(BTM)の脱プロトン化された基であり、式中、A1はS、O又はNR2から選択され、式中、R2は水素、C1−6アルキル又はC5−12アリールであり、
nは1〜6の整数である。)
(i)適当な溶媒中で、式IIの化合物を適当な[18F]フッ化物源と反応させて、式IIの化合物と式IIIの化合物とを含む第一の粗反応生成物を得るステップと、
【0023】
【化6】
【0024】
(式中、
LG1及びLG2は同一又は異なるもので、各々脱離基LGを表し、
mは1〜4の整数である。)
【0025】
【化7】
【0026】
(式中、LG12は脱離基LGであり、pは、式IIのmについて定義した通りである。)
(ii)式IVの化合物又はその保護形を脱プロトン化するステップと、
【0027】
【化8】
【0028】
(式中、−A2−R11は、式Iの−A1−R1について定義した通りである。)
(iii)アルカノール溶媒中で、ステップ(i)で得られた第一の粗反応生成物をステップ(ii)で得られた脱プロトン化化合物と反応させて、式Iの化合物又はその保護形を含む第二の粗反応生成物を得るステップと、
(iv)保護基を除去するステップと
を含んでいる。
【0029】
本発明による適当な「塩」は、(i)鉱酸、例えば塩酸、臭化水素酸、リン酸、メタリン酸、硝酸及び硫酸から導かれるもの、並びに有機酸、例えば酒石酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、安息香酸、グリコール酸、グルコン酸、コハク酸、メタンスルホン酸及びパラトルエンスルホン酸から導かれるもののような生理学的に許容される酸付加塩と、(ii)アンモニウム塩、アルカリ金属塩(例えばナトリウム及びカリウムの塩)、アルカリ土類金属塩(例えばカルシウム及びマグネシウムの塩)、トリエタノールアミン、N−メチル−D−グルカミン、ピペリジン、ピリジン、ピペラジン及びモルホリンのような有機塩基による塩、並びにアルギニン及びリジンのようなアミノ酸による塩のような生理学的に許容される塩基性塩とから選択され得る。
【0030】
本発明による適当な「溶媒和物」は、エタノール、水、塩水、生理学的緩衝液及びグリコールによって形成され得る。
【0031】
「生体ターゲティング部分」(BTM)との用語は、投与後にインビボで哺乳類生体の特定の部位に選択的に摂取され又は局在する化合物を意味する。かかる部位は、例えば特定の疾患状態に関与する場合もあるし又は器官若しくは代謝過程が如何に作用しているかを示す場合もある。BTMは、合成起源のものであっても天然起源のものであってもよいが、好ましくは合成起源である。
【0032】
「合成」との用語は、従来の意味を有し、すなわち天然供給源例えば哺乳類生体から単離されることに対して人工的であることを意味する。かかる化合物は、当該化合物の製品及び不純物プロファイルが完全に制御され得るという利点を有する。BTMの分子量は好ましくは3000ダルトン以下であり、さらに好ましくは200ダルトン〜2,500ダルトンであり、最も好ましくは300ダルトン〜2000ダルトンであり、400ダルトン〜1500ダルトンであるのが特に好ましい。
【0033】
好ましくは、BTMは酵素基質、酵素アンタゴニスト、酵素アゴニスト、酵素阻害剤又は受容体結合化合物、特に非ペプチドであり、好ましくは合成物である。「非ペプチド」との用語は、ペプチド結合すなわち二つのアミノ酸残基の間のアミド結合を一切含まない化合物を意味する。BTMが酵素基質、酵素アンタゴニスト、酵素アゴニスト又は酵素阻害剤であるときには、本発明の好ましいかかる生体ターゲティング分子は、合成薬物様小分子すなわち医薬品分子である。特定のかかる生体ターゲティング分子の非限定的実例については後にあらためて詳述する。
【0034】
単独で又は他の基の一部として用いられる「アルキル」との用語は、任意の直鎖状、分岐又は環状の飽和又は不飽和Cn2n+1基として定義される。
【0035】
単独で又は他の基の一部として用いられる「アリール」との用語は、単環若しくは多環の芳香族炭化水素又は単環若しくは多環の複素環式芳香族炭化水素から導かれる任意のC6−14分子断片又は分子群として定義される。
【0036】
反応させるステップ(i)で用いられる「適当な溶媒」は、望まれる生成物を生ずるように反応物が溶け易く反応し易いような溶媒である。例としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、ジクロロメタン(DCM)、クロロホルム、ジメチルスルホキシド(DMS)、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン(THF)又はアセトニトリル及びこれらの水溶液等がある。ステップ(i)のための適当な溶媒の文脈での「水溶液」は、好ましくは5%〜20%の水、最も好ましくは10%〜15%の水を意味する。エタノール水溶液又はアセトニトリル水溶液の何れかが反応させるステップ(i)に好ましいが、アセトニトリル水溶液を用いる場合には反応させるステップに続いて反応させるステップ(iii)において第一の粗反応生成物を用いる前にアセトニトリルを除去する必要がある。エタノール水溶液が好ましい。
【0037】
「脱離基」との用語は、不均等結合開裂において一対の電子を伴って解離する分子断片を指す。適当な脱離基は、例えばクロロ、ヨード、若しくはブロモから選択されるハロ又はアリール若しくはアルキルスルホン酸であってよい。好ましい脱離基は、Cl、Br、I、トシレート(OTs)、メシレート(OMs)及びトリフレート(OTf)から選択される。好ましくは、LG1及びLG2は同じである。
【0038】
「適当な[18F]フッ化物源」は、典型的には乾燥及び陽イオン性対イオンの添加によって反応性になった[18F]フルオリドである。[18F]フルオリドを「乾燥させる」ステップは、水の蒸発によって無水[18F]フルオリドを生ずることを含んでいる。この乾燥させるステップは、加熱及びアセトニトリルのような溶媒の利用によって低沸点共沸混合物を与えることにより適当に行なわれる。「陽イオン性対イオン」は、正に荷電した対イオンであって、例としてはルビジウム若しくはセシウム、カリウムのような大きいが軟らかい金属イオンがクリプタンドと錯化したもの又はテトラアルキルアンモニウム塩等がある。好ましい陽イオン性対イオンはクリプタンドの金属錯体であり、最も好ましくは、金属がカリウムであり、クリプタンドがKryptofix222であるものである。
【0039】
第一の粗反応生成物及び第二の粗反応生成物の両方の文脈で用いられる「粗反応生成物」との用語は、如何なる精製も受けていない反応の生成物を意味するように採用されている。「精製」との用語は、望まれる反応生成物である化合物を粗反応生成物から単離するのに用いられる任意の方法を指す。他の化合物を一般に「不純物」と呼ぶ。典型的には、精製は粗反応生成物に存在する様々な化合物を、クロマトグラフィ及び固相抽出のような当業者に周知の手法によって互いから分離することにより行なわれる。
【0040】
「脱プロトン化」との用語は、式IVの化合物からのプロトン(H+)の除去を指し、塩基を用いて行なわれる。このステップは、後のアルキル化反応を促進する。「塩基」は、炭酸カリウム若しくはセシウム、水酸化カリウム又は水素化ナトリウムのような無機塩基であってもよいし、トリアルキルアミン、例えばトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン又はジメチルアミノピリジンのような有機塩基であってもよい。一好適実施形態では、脱プロトン化ステップに用いられる塩基は、別個の試薬ではなく、反応性[18F]フルオリドを製造するのに用いられる陽イオン性対イオンである。この好適実施形態は、必要とされる試薬バイアルが少数で済むので自動化に特に適する。
【0041】
適当な「保護基」及び「保護基を除去する」方法は、当業者には周知である。保護基の利用については、Greene及びWutsによる“Protective Groups in Organic Synthesis”(第四版、John Wiley & Sons、2007年)に記載されている。これらの保護基を除去するステップは、存在する場合には、好ましくはアルキル化ステップの後に行なわれる。
【0042】
反応させるステップ(iii)の「アルカノール溶媒」は、アルカノール又はアルカノール水溶液であってよく、ここで「アルカノール」との用語は単純な脂肪族アルコールを意味するように採用されている。「アルカノール水溶液」は、水及びアルカノールから成り、このステップ(iii)の文脈では水を含む溶液を意味する。適当には、アルカノール溶媒は水及びアルカノール以外の如何なる溶媒も含まず、特にアセトニトリルを含まない。本発明の文脈での適当なアルカノールとしては、メタノール、エタノール及びプロパノールがあり、エタノールが最も好ましい。
【0043】
式IIの化合物は、Block等(J Label Comp Radiopharm、1988年、第25巻、第201頁)又はNeal等(J Label Comp Radiopharm、2005年、第48巻、第557頁)によって記載された方法の利用又は簡単な改変によって容易に得ることができる。
【0044】
式IVの化合物は、国際公開第94/27591号、同第2004/007440号、同第2006/136846号、Hu等(J Med Chem、1997年、第40巻、第4281〜4289頁)、Zhao等(J Label Compd Radiopharm、2006年、第49巻、第163〜第170頁)及びRobins等(Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters、2010年、第20巻(第5号)、第1749〜1751頁)に様々に記載された方法の利用又は簡単な改変によって製造され得る。
【0045】
指標n、m、p及びqは各々の例において好ましくは1から4であり、最も好ましくは1から3であり、最も特に好ましくは1から2である。
【0046】
アルキル化ステップ(iii)は、室温で又はさらに高温(典型的には90℃から130℃)で行なわれてよく、保護基の除去に続いて、この方法は、式Iの精製化合物を得るために第二の粗反応生成物を精製する付加的なステップ(v)を含み得る。適当には、精製するステップは、クロマトグラフィ又は固相抽出(SPE)によって行なわれ、ここでクロマトグラフィは好ましくは高速液体クロマトグラフィ(HPLC)である。
【0047】
本発明の方法は、アルキル化ステップに用いられる式IIIの化合物の精製を必要としないという利点を有する。
【0048】
本発明の方法の好適実施形態では、式Iの化合物は式Iaの化合物又はその塩若しくは溶媒和物であり、
【0049】
【化9】
【0050】
(式中、
1aは、式1で定義したA基であり、
1aは、水素又はC1-4アルキルから選択されるRa基であり、
3aは、ハロであるRc基であり、
4aは、ハロ、C1-4アルキルチオ又はC1-4アルキルから選択されるRd基であり、naは式Iのnについて定義した通りである。)
式IVの化合物は式IVaの化合物である。
【0051】
【化10】
【0052】
(式中、R11a、R13a及びR14aはそれぞれ、式Iaで定義したRa、Rc及びRd基であり、A2aは、式Iで定義したA基であり、P1及びP2は各々水素又は保護基から選択されるP基であり、好ましくは水素である。)。
【0053】
「ハロゲン」又は「ハロ」との用語は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素から選択される置換基を意味する。
【0054】
「アルキルチオ」との用語は、鎖にイオウを含む上述で定義されたようなアルキル基を指し、好ましくは基部側末端に含み、すなわち−S−アルキルである。
【0055】
最も好ましくは、式Iaの化合物は式Ibの化合物であり、
【0056】
【化11】
【0057】
(式中、R1b、R3b及びR4bはそれぞれ、式Iaで定義したRa、Rc及びRd基であり、A1bは、式Iで定義したA基であり、nbは式Iのnについて定義した通りである。)
式IVの化合物は式IVbの化合物である。
【0058】
【化12】
【0059】
(式中、R11b、R13b及びR14bはそれぞれ、式Iaで定義したRa、Rc及びRd基であり、A2bは式Iで定義したA基であり、P1b及びP2bは各々、式IVaで定義したP基である。)。
【0060】
各Ra基は、好ましくはC1-4アルキルであり、最も好ましくはメチルである。
【0061】
各Rc基は、好ましくはクロロである。
【0062】
各Rd基は、好ましくはアルキルチオであり、最も好ましくはメチルチオである。
【0063】
各A基は、好ましくはSであり、R12は、好ましくはSHである。
【0064】
以上に定義したような式Ia及び式Ibの特定の化合物については、好ましくは、
各Ra基がC1-4アルキルであり、最も好ましくはメチルであり、
各Rc基がクロロであり、
各Rd基がアルキルチオであり、最も好ましくはメチルチオであり、
各A基がSであり、R12が好ましくはSHである。
【0065】
本発明の方法が式Iaの化合物の合成のためのものである場合には、Robins等(Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters、2010年、第20巻(第5号)、第1749〜1751頁)によって報告された方法が、本発明の方法を得るように容易に改変される。この18F標識S−フルオロアルキルジアリールグアニジンの合成のためのRobins等の方法は、下記の方法を用いたチオール基の[18F]フルオロアルキル化を含んでいる。
【0066】
【化13】
【0067】
上の反応スキームでは、(i)はK18FKryptofix2.2.2、MeCN、90℃、15分間を表し、(ii)は最終生成物のチオール誘導体、Cs2CO3、MeCN、110℃、15分間を表している。[18F]フルオロアルキルトシレート標識試薬は、このRobins等の方法では利用前に精製される。本発明の方法では、[18F]フルオロアルキル化ステップは代替的にアセトニトリル(MeCN)ではなくアルカノール水溶液において行なわれ、[18F]フルオロアルキルトシレート標識試薬は精製されずに用いられる。
【0068】
式Iの化合物が式Iaの化合物である場合に、公知の方法を凌ぐ本方法の具体的な利点は、本発明者等によって見出された問題であるアルキル化ステップでのアセチル不純物の生成を回避することにより、精製が容易になることである。下記のスキームは、3−(2−クロロ−5−((2−ヒドロキシエチル)チオ)フェニル)−1−メチル−1−(3−(メチルチオ)フェニル)グアニジンからの3−(2−クロロ−5−((2−[18F]フルオロエチル)チオ)フェニル)−1−メチル−1−(3−(メチルチオ)フェニル)グアニジンの合成においてアセチル不純物が形成されると考えられる機構を示す。
【0069】
【化14】
【0070】
18F]フルオロアルキル化ステップ(iii)においてアセトニトリルの代わりにアルカノール溶媒を用いることにより、このアセチル不純物の生成を回避することが提案される。さらに、[18F]フルオロアルキル化ステップにおいてアルカノール溶媒を用いるということは、上に示す反応を回避するために、[18F]フルオロアルキル化ステップにアセトニトリルを用いたとしたら必要となったであろうような式IIの未反応化合物を除去するための精製を行なう必要なく、式II及び式IIIの化合物を含む第一の粗反応生成物をアルキル化に直接用い得ることを意味する。アルカノール溶媒を用いると、式IIのあらゆる未反応化合物が式IVの脱プロトン化化合物と反応し得ることには変わりないが、結果として生成される不純物は、後の精製ステップの何れにおいても分離するのが簡単なヒドロキシル不純物となる。
【0071】
簡単な態様で本発明の方法となるように改変され得るもう一つの公知の方法は、Wang等(J Radioanalyt Nuc Chem、2006年、第270巻(第2号)、第439〜443頁)によって記載されたフェノールの[18F]フルオロアルキル化を含む方法であって、18F標識アミノ酸O−(2−[18F]フルオロエチル)−L−チロシン([18F]FET)を得るための方法である。
【0072】
【化15】
【0073】
ステップ(i)で得られる[18F]フルオロエチルトシレートを、ステップ(ii)において(先ず精製する必要なく)アルカノール水溶液(DMSOではなく)のL−チロシンの溶液と反応させることができ、この溶液を、ステップ(i)に用いられる反応性[18F][K(Kryptofix)]Fを作製するためにこの方法において前段に用いられているK2CO3及びKryptofix222(NaOHではなく)の溶液の一部で処理しておく。
【0074】
従って、式IVの好ましい化合物のもう一つの例は、次式の化合物である。
【0075】
【化16】
【0076】
Lundkvist等(Nuc Med Biol、1997年、第24巻、第621〜627頁)によって記載された[18F]フルオロプロピル−β−CIT(β−CIT:(−)−2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)トロパン)の合成のための方法では、第二級アミンが[18F]フルオロプロピルブロミドを用いてアルキル化されている。
【0077】
【化17】
【0078】
この方法は、アルカノール水溶液においてステップ(ii)を行なうことにより、本発明の方法になるように容易に改変することができる。好ましくは、ステップ(i)において反応性[18F][K(Kryptofix)]Fを作製するために用いられているK2CO3及びKryptofix222の一部を(アセトニトリルを除去して)、ステップ(ii)において塩基として用いる。
【0079】
従って、式IVの好ましい化合物のもう一つの例は、次式の化合物である。
【0080】
【化18】
【0081】
上述の化合物は、本発明の方法が如何に適用され得るかの例示を提供するに過ぎない。本発明の方法はまた、同様の利点を達成するように、(i)18F源として[18F]フルオリドを用いた[18F]フルオロアルキル標識試薬の合成と、(ii)前駆体化合物におけるチオール、ヒドロキシ又はアミン官能性の[18F]フルオロアルキル化とを含む任意の反応に適用され得ることが当業者には明らかに認められよう。
【0082】
本発明の方法は、公知の方法に比較して自動化に特に馴染み易い。自動化は、自動式標識化合物合成装置において行なわれ得る。かかる装置の幾つかの市販品の例があり、Tracerlab MX(商標)及びFASTlab(商標)(GE Healthcare)、FDGPlus Synthesizer(Bioscan)、並びにSynthera(登録商標)(IBA)等がある。かかる装置は、放射化学作用が行なわれるしばしば使い捨て式である「カセット」を含んでいてよく、標識化合物合成を行なうためにこのカセットを装置に装着する。カセットは通常、流路、反応容器及び試薬バイアルを受け入れる受入口、並びに標識化合物合成後の洗浄ステップに用いられるあらゆる固相抽出カートリッジを含んでいる。本発明の方法は第一の粗反応生成物の精製を必要とせず、また第二の粗反応生成物は精製が比較的容易であるので、本発明の方法は自動化に馴染み易い。従って、好適実施形態では、本発明の方法は自動化され、最も好ましくは自動式標識化合物合成装置に取り付けられるカセットによって自動化される。従って、本発明は別の態様では、本書で定義されるような式Iの化合物の自動合成のためのカセットを提供し、このカセットは、
(i)本書で定義されるような式IIの化合物を収容する第一の容器と、
(ii)第一の容器を[18F]−フルオリドの適当な供給源と共に溶離させる手段と、
(iii)本書で定義されるような式IVの化合物を収容する第二の容器と
を含んでいる。
【0083】
本発明の方法について上で本書で定義されているような式II及び式IVの各化合物、並びに適当な[18F]フッ化物源の適当で好適な実施形態も、本発明のカセットに適用可能である。
【0084】
「容器」との用語は、自動式標識化合物合成装置と共に用いるのに適したカセットの所定位置に配置するのに適した試薬バイアルを意味するように採用されている。
【0085】
化学合成/生体分子合成に特定的な付加的な容器、例えば保護解除、精製、調合、再調合のための溶媒用のバイアルが存在していてもよい。また、精製及び/又は再調合のための付加的なカートリッジ(SPE)が存在していてもよい。また、HPLC精製が必要とされる場合にはカセットからHPLCユニットへの接続ラインが存在していてもよいし、また精製後の溶媒再調合についての要件が存在する場合には「HPLCカットバイアル」からカセットへの接続ラインが存在していてもよい。
【0086】
従って、もう一つの実施形態では、本発明のカセットは加えて、
(iv)過剰な[18F]フルオリドの除去のためのイオン交換カートリッジ及び
(v)保護基を除去するステップを行なうためのカートリッジ
の何れか又は両方を含み得る。
【0087】
また、自動合成に必要とされる試薬、溶媒及び他の消耗品も、ソフトウェアを記録したコンパクトディスクのようなデータ媒体と共に同梱されてよく、これにより自動合成器を濃度、容積及び提供時間等についての末端利用者要件に合致する方法で動作させることを可能にする。
【実施例】
【0088】
実施例の簡単な説明
実施例1は、本発明の方法を用いた3−(2−クロロ−5−((2−[18F]フルオロエチル)チオ)フェニル)−1−メチル−1−(3−(メチルチオ)フェニル)グアニジンの自動合成を記載する。
【0089】
実施例2は、溶媒としてエタノール又はアセトニトリルを用いた3−(2−クロロ−5−((2−[18F]フルオロエチル)チオ)フェニル)−1−メチル−1−(3−(メチルチオ)フェニル)グアニジンのFASTlab(商標)合成を比較する実験を記載する。
【0090】
実施例で用いた略記号の一覧
EtOH:エタノール
HPLC:高性能液体クロマトグラフィ
222:Kryptofix2.2.2
MeCN:アセトニトリル
QMA:第四メチルアンモニウム
SPE:固相抽出
TsO:トシレート
実施例1:3−(2−クロロ−5−((2−[18F]フルオロエチル)チオ)フェニル)−1−メチル−1−(3−(メチルチオ)フェニル)グアニジンのFASTlab(商標)合成
FASTlab(商標)合成器と共に用いられるカセットは下記のバイアルを含んでいた。
バイアル番号 バイアル名 組 成
1 溶離剤 K222=53mg/mL
2CO3 9.5mg/mL
溶媒(12.5%水、87.5%EtOH)
2 TsO(CH22OTs エチレンジトシレート(4.0mg)
MeCN(1.6mL)
3 EtOH EtOH(4.0mL)
4 HCl 0.1M HCl(4mL)
5 前駆体 前駆体*(15mg)
EtOH(1.8mL)
*3−(2−クロロ−5−((2−ヒドロキシエチル)チオ)フェニル)−1−メチル−1−(3−(メチルチオ)フェニル)グアニジン
また、このカセットを図1に図示する。
【0091】
1(i)[18F]フルオリドのカセットへの移送
18F]フルオリドは、GE PETraceサイクロトロンにおいてGE Healthcareから供給された。初期放射能(activity)は、真空を用いてFASTlabカセットの放射能入口を介して移送された。
【0092】
1(ii)QMAにおける[18F]フルオリドの捕捉
放射能は、放射能入口から(前処理済み)QMAカートリッジへ移送され、ここで[18F]が捕捉されて、N2で押して真空で引く組み合わせを用いて水が18O水回収バイアルまで通過した。
【0093】
1(iii)QMAからの[18F]フルオリドの溶離
1mLシリンジを用いて溶離剤バイアルの70μL(K222、K2CO3)を溶離剤バイアルから取り出した。次いで、550μLの水をウォータバッグから引き出して、1mLシリンジの溶離剤に加えた。次いで、QMAカートリッジに捕捉された[18F]フルオリドを1mLシリンジの溶離剤/水溶液を用いて溶離して、QMAカートリッジを通して溶液を引き出すために反応容器に真空を適用して反応容器に入れた。
【0094】
1(iv)[18F]フルオリドの乾燥
18F]フルオリド及び溶離剤溶液を加熱(100℃)することにより20分間にわたり乾燥させて、窒素及び真空の組み合わせを用いて、蒸発した溶媒及び水を反応容器から除去して廃液収集容器に移した。
【0095】
1(v)[18F]−フルオロエチルトシレートの標識化合物合成
1mLのエチレンジトシレート溶液(MeCNのmL当たり2.5mg)を中央(5mL)シリンジを用いてバイアルから取り出して、乾燥した[18F]フルオリド/K222/K2CO3(反応性[18F][K(Kryptofix)]F)を収容した反応容器に分取した。次いで、反応容器を密封して、86℃で15分間にわたり加熱することにより反応を行なった。
【0096】
1(vi)[18F]−フルオロエチルトシレートからの溶媒の除去
粗製[18F]−フルオロエチルトシレート/エチレンジトシレート溶液を加熱(80℃)することにより10分間にわたり乾燥させて、窒素及び真空の組み合わせを用いて、蒸発した溶媒を反応容器から除去して廃液収集容器に移した。
【0097】
1(vii)500μLの溶離剤の前駆体バイアルへの投入
溶離剤バイアルの500μL(K222、K2CO3)を溶離剤バイアルから取り出して、1mLシリンジを用いて前駆体バイアルに加えた。溶液を1分間にわたり静置した。
【0098】
1(viii)前駆体の反応容器への投入
10mg(26μモル)の前駆体(3−(2−クロロ−5−((2−ヒドロキシエチル)チオ)フェニル)−1−メチル−1−(3−(メチルチオ)フェニル)グアニジン)を1.5mLのエタノールに溶かしたものを、反応容器に真空を生成することによりバイアルから取り出した。
【0099】
1(ix)前駆体のアルキル化
次いで、反応容器を密閉して、先ず80℃で2分間にわたり加熱し、次いで100℃で13分間にわたり加熱することにより、アルキル化を行なった。
【0100】
1(x)ループの水洗浄
合計で10mLの水を中央(5mL)シリンジを用いてウォータバッグから取り出して、2回のシリンジ移動でHPLCループに通して送った。
【0101】
1(xi)クエンチ反応及びFASTlabからHPLCループへの移送
2mLの水を中央5mLシリンジを用いてウォータバッグから反応容器に加えた。1mLの0.1M HClを中央5mLシリンジを用いてバイアルから反応容器に加えた。次いで、同じシリンジを用いて内容物を反応容器から引き出して、カセットからHPLCループへ移送し、続いて、ライン及びカセット流路の窒素によるパージを行なって、あらゆる残留溶液を完全にHPLCループへ送った。
【0102】
1(xii)HPLC精製及びSPE調合
下記のHPLC方法を用いた。
【0103】
0〜60分 40%(B)
カラム ACE C18 100×10mm 5μm
移動相 移動相A(ポンプA)、アセトニトリル(ポンプB)
ループサイズ 10mL
ポンプ速度 3mL/分
波長 254nm
移動相A: 0.8%TEA[TEA(8mL)及びH2O(992mL)]
85%H3PO4(約2.1mL)によってpHを約7.5に調節
このHPLC工程を、カットが行なわれるまでHPLCソフトウェアから制御した。HPLCカットを右手(5mL)シリンジを用いてFASTlabへ移送して戻し、カットをカセットに引いて戻し、次いで希釈ウォータバッグに加えた。希釈されたHPLCカット(>100mL)を、11分間にわたり真空を掛けることによりtC18+SPEカートリッジに装填して、ウォータバッグの全内容を引いてカートリッジを通して廃液収集容器に移した。SPEカートリッジを、右手5mLシリンジを用いてバイアルから1mLエタノールによって溶離して、1.5mgアスコルビン酸を含む14mL塩水を収容したバイアルに入れた。
【0104】
その結果、下記が観測された。
【0105】
平均収量(MBq) 3177
(37GBqの[18F]フルオリドから開始)
平均RCP(%) 97
平均比放射能(GBq/μモル) 581
製造工程数 23。
【0106】
実施例2:エタノール又はアセトニトリルを溶媒として用いた3−(2−クロロ−5−((2−[18F]フルオロエチル)チオ)フェニル)−1−メチル−1−(3−(メチルチオ)フェニル)グアニジンのFASTlab(商標)合成の比較
実施例1に記載した工程をステップ1(xi)まで行なったが、以降のステップは下記の方法を用いて分析HPLCとした。
【0107】
移動相A:0.8%TEA(8mL TEA及び992mL H2O)、85%H3PO4(約2.1mL)によってpHを約7.5に調節
移動相B:MeCN
0〜1分は40%B、1〜25分は40〜95%B
HPLCカラム:Luna C18(150×4.6mm)
流量:1mL/分
加えて、溶媒としてエタノールの代わりにアセトニトリルを用いて同じ工程を行なった。図2は、溶媒としてエタノール(下)の代わりにアセトニトリル(上)を用いた場合の合成を比較している。アセトニトリルがアルキル化ステップから省かれているときには、約12分近くで溶離しているアセチル化学的不純物(生成物は直後に溶離する)が形成されないことが明らかに分かる。
図1
図2