(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記気流制御治具は、中央に第1貫通孔を有するとともに、前記第1貫通孔の周囲に前記第1貫通孔よりも径が小さな複数の第2貫通孔を有している板を含んでいる請求項1に記載の製造方法。
前記気流制御治具は、中央に第1貫通孔を有するとともに、前記第1貫通孔の周囲に前記第1貫通孔よりも径が小さな複数の第2貫通孔を有している板を含んでいる請求項4に記載の製造装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
先ず、本発明の一態様に係る製造方法を用いて製造可能な排ガス浄化用触媒について説明する。
【0013】
図1は、本発明の一態様に係る製造方法を用いて製造可能な排ガス浄化用触媒を概略的に示す斜視図である。
図2は、
図1に示す排ガス浄化用触媒のII−II線に沿った断面図である。
【0014】
図1及び
図2に示す排ガス浄化用触媒1は、基材SBと触媒層CLとを含んでいる。
【0015】
基材SBは、第1端面EF1及び第2端面EF2を有している。基材SBには、第1端面EF1から第2端面EF2へ向けて各々が延びた複数の孔が設けられている。複数の孔の径は、典型的には互いに等しい。
【0016】
基材SBは、円柱形である。基材SBは、だ円柱形であってもよく、角柱形であってもよい。
【0017】
基材SBは、ストレートフロータイプの排ガス浄化用触媒で使用するモノリスハニカム基材である。基材SBは、ウォールフロータイプの排ガス浄化用触媒で使用するモノリスハニカム基材であってもよい。
【0018】
触媒層CLは、基材SBの隔壁上に担持されている。触媒層CLは、基材SBの隔壁上に触媒成分を含んだスラリーをコートし、このスラリー層を乾燥させた後、焼成することによって得ることができる。このスラリー及びこのスラリーの塗布方法の詳細は後述する。
【0019】
この排ガス浄化用触媒1は、第1領域RE1と第2領域RE2とを有している。第1領域RE1は、第1端面EF1の一部から第2端面EF2の一部まで、複数の孔の長さ方向に延びた領域である。第2領域RE2は、第1端面EF1の他の部分から第2端面EF2の他の部分まで、複数の孔の長さ方向に延びた領域である。第1領域RE1は、第2領域RE2に取り囲まれている。
【0020】
第1領域RE1において、触媒層CLは、第1端面EF1から、第1端面EF1と第2端面EF2との間の位置まで形成されている。なお、第1領域RE1において、触媒層CLは、第1端面EF1から第2端面EF2まで形成されていてもよい。
【0021】
第2領域RE2において、触媒層CLは、第1端面EF1から、第1端面EF1と第2端面EF2との間の位置まで形成されており、触媒層CLの孔の長さ方向における寸法、すなわち、幅は、第1領域RE1内に位置した触媒層CLの幅と比較してより短い。
【0022】
触媒層CLは、触媒成分を含んでいる。この触媒成分は、排ガス中の一酸化炭素及び炭化水素の酸化反応並びに窒素酸化物の還元反応を促進する。この触媒成分は、例えば、白金族元素、遷移金属元素又はこれらの混合物である。白金族元素としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウム又はこれらの混合物を挙げることができる。遷移金属元素としては、例えば、ニッケル、マンガン、鉄、銅又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0023】
触媒層CLは、触媒成分の他に、耐熱性担体、酸素貯蔵材料、吸着剤、バインダ又はこれらの混合物を含んでいてもよい。
【0024】
耐熱性担体は、触媒成分の比表面積を増大させるとともに、反応による発熱を消散させて触媒成分のシンタリングを抑制する役割を担っている。耐熱性担体は、例えば、粒子の形態にある。耐熱性担体としては、例えば、アルミナ、アルミナと他の金属酸化物との複合酸化物、又はそれらの混合物を挙げることができる。上記他の金属酸化物に含まれる金属元素は、例えば、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ジルコニウム(Zr)又はこれらの2以上の組み合わせである。
【0025】
酸素貯蔵材料は、酸素過剰条件下で酸素を吸蔵し、酸素希薄条件下で酸素を放出して、酸化反応並びに還元反応を最適化する。酸素貯蔵材料は、例えば、粒子の形態にある。酸素貯蔵材料は、好ましくは、セリア、セリアと他の金属酸化物との複合酸化物、又はそれらの混合物である。上記他の金属酸化物に含まれる金属元素は、好ましくは、イットリウム(Y)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ジルコニウム(Zr)又はこれらの2以上の組み合わせであり、より好ましくは、ジルコニウムである。
【0026】
吸着剤は、一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物又はこれらの混合物を吸着する。吸着剤は、例えば、粒子の形態にある。吸着剤は、例えば、バリウム化合物、ストロンチウム化合物、ゼオライト、セピオライト又はこれらの混合物である。
【0027】
バインダは、触媒層に含まれる成分の結合をより強固にして触媒の耐久性を向上させる。バインダとしては、例えば、アルミナゾル、チタニアゾル又はシリカゾルを使用する。
【0028】
次に、本発明の一態様に係る製造装置について説明する。
【0029】
図3は、本発明の一態様に係る製造装置を概略的に示すブロック図である。
図4は、
図3に示す製造装置が予備動作を行っている様子を概略的に示す断面図である。
図5は、
図3及び
図4に示す製造装置が流体供給を完了した様子を概略的に示す断面図である。
図6は、
図3乃至
図5に示す製造装置が吸引動作を行う前の様子を概略的に示す断面図である。
図7は、
図3乃至
図6に示す製造装置が吸引動作を開始した直後の第1段階の様子を概略的に示す断面図である。
図8は、
図3乃至
図7に示す製造装置が吸引動作を完了する前であり、且つ第1段階より後の第2段階の様子を概略的に示す断面図である。
図9は、
図3乃至
図8に示す製造装置が吸引動作を完了した様子を概略的に示す断面図である。
図10は、
図6乃至
図9に示す気流制御治具の一例を概略的に示す斜視図である。これらの図では一部の構成要素を省略していることがある。
【0030】
図3乃至
図9に示す製造装置100は、基材SBに、触媒層CLの原料を含んだスラリーSLを供給する。このスラリーSLは、上述した触媒成分と分散媒とを含んでいる。この分散媒は、極性溶媒であっても非極性溶媒であってもよく、好ましくは水である。このスラリーSLの粘度は、コーン・アンド・プレート型の粘度計を使用し、25℃の温度で、せん断速度を380s
-1として測定した場合、50mPa・s乃至400mPa・sの範囲内にあることが好ましく、せん断速度を4s
-1として測定した場合、500mPa・s乃至8000mPa・sの範囲内にあることが好ましい。
【0031】
この製造装置100は、
図4乃至
図9に示す貯留治具110と、
図6乃至
図10に示す気流制御治具120と、
図3乃至
図9に示す第1移動機構200と、
図3及び
図4に示す供給装置300と、
図3及び
図6乃至
図9に示す圧力調整装置400と、
図3及び
図6乃至
図9に示す第2移動機構500と、
図3に示すコントローラ600とを含んでいる。
【0032】
貯留治具110は、枠形状を有している。貯留治具110の一方の開口部の内径は、基材SBの第1端面EF1の直径とほぼ等しい。貯留治具110は、第1端面EF1と隣接した領域を取り囲んで、第1端面EF1と共に上記の領域にスラリーSLを貯留可能とする貯留部を形成する。
【0033】
第1移動機構200は、貯留治具110及び基材SBの少なくとも一方を移動させ、貯留治具110と基材SBとが互いから離れて位置した第1状態と、上述した貯留部を形成している第2状態との間で、基材SBと貯留治具110との相対的な位置を変化させる。
【0034】
第1移動機構200は、図示しない第1移動装置及び搬送装置を含んでいる。
【0035】
第1移動装置は、第1支持体210を含んでいる。第1支持体210は、貯留治具110を支持している。第1移動装置は、上述した貯留部が形成されるように、貯留治具110を、基材SBから離れた位置から、基材SBの近傍へと移動させる。
【0036】
搬送装置は、第2支持体220を含んでいる。第2支持体220は、基材SBを着脱可能に支持している。搬送装置は、基材SBを、後述する圧力調整装置400に含まれる導管410から離れた位置から、導管410の一端の位置へと搬送する。
【0037】
供給装置300は、上述した貯留部へスラリーSLを供給する。供給装置300は、ノズル310と導管320とタンクと切替装置と第2移動装置とを含んでいる。なお、タンクと切替装置と第2移動装置とは図示していない。
【0038】
ノズル310は、スラリーSLを貯留部へ供給するための複数の吐出口を有している。ノズル310は、単一の吐出口を有していてもよい。
【0039】
導管320は、ノズル310とタンクとを接続している。タンクは、スラリーSLを貯蔵している。
【0040】
切替装置は、タンクからノズル310へのスラリーSLの供給とその停止とを切り替える。切替装置は、一例によると、バルブ及びポンプの少なくとも一方を含んでいる。
【0041】
第2移動装置は、ノズル310を、基材SBから離れた位置から、基材SBの第1端面EF1と正対する位置に移動させる。
【0042】
圧力調整装置400は、導管410と吸引装置420とを含んでいる。導管410の一端は、基材SBの第2端面EF2側に接続されている。導管410の他端は、吸引装置420に接続されている。吸引装置420は、導管410内を減圧する。
【0043】
すなわち、圧力調整装置400は、導管410内であって第2端面EF2と隣接した領域の圧力を、貯留部内のスラリーSLを間に挟んで基材SBと隣接した領域の圧力に対して相対的に低める。圧力調整装置400は、これにより、貯留部内のスラリーSLを複数の孔内へと導くとともに、複数の孔内において、第1端面EF1側から第2端面EF2側へ向けたスラリーSLの流れを生じさせる。
【0044】
気流制御治具120は、第1端面EF1へ向けて気体を通過させた場合に、この気体の流れに線速度の分布を生じさせる。
【0045】
気流制御治具120は、中央に第1貫通孔PO1を有するとともに、第1貫通孔PO1の周囲に第1貫通孔PO1よりも径が小さな複数の第2貫通孔PO2を有する板121を含んでいる。
【0046】
この板121は、典型的には、円環状である。この板121は、典型的には、樹脂、セラミックス、金属、又はこれらの混合物からなる。
【0047】
この板121の形状は、貯留部の上部を覆うような形状であることが好ましい。この板121の直径は、典型的には、貯留部の上部の直径と等しいか、それよりも大きい。
【0048】
第1貫通孔PO1の直径は、上述した基材SBの第1領域RE1の直径と等しい。
【0049】
第2貫通孔PO2は、板121上に均一に分布していることが好ましい。第2貫通孔PO2の直径は、例えば、1mm乃至5mmの範囲内にある。
【0050】
気流制御治具120は、仕切り122を更に含んでいる。この仕切り122は、第1貫通孔PO1が板121に形成している縁から第2端面EF2へ向けて延びている。この122の高さは、第2位置において、仕切り122と基材SBの第1端面EF1との間に隙間を形成することができる高さであることが好ましい。
【0051】
この仕切り122は、典型的には、円筒状である。この仕切り122は、典型的には、樹脂、セラミックス、金属、又はこれらの混合物からなる。仕切り122は、板121と溶接されている。この仕切り122は、板121と接着剤により接合されていてもよく、板121と一体成型されていてもよい。また、この仕切り122を、板121にはめ合わせることにより、気流制御治具120を得てもよい。
【0052】
第2移動機構500は、図示しない第3移動装置とを含んでいる。第3移動装置は、第3支持体510を含んでいる。第3支持体510は、気流制御治具120を支持している。第3移動装置は、気流制御治具120を、第3位置から、板121が貯留部内のスラリーSLを間に挟んで第1端面EF1と向き合い、且つ貯留部内のスラリーSLから離間した第1位置に移動させる。なお、第3位置は、ノズル310と基材SBとに挟まれた領域から離れた位置である。また、第3移動装置は、気流制御治具120を、第1位置から、第1端面EF1と向き合い且つ第1位置と比較して第1端面EF1からの距離がより短い第2位置に移動させる。
【0053】
コントローラ600は、第1移動機構200と供給装置300と圧力調整装置400と第2移動機構500とに電気的に接続されている。コントローラ600は、これらの機構又は装置の動作を制御する。
【0054】
次に、この製造装置100による排ガス浄化用触媒1の製造方法を
図3乃至
図10を参照しながら説明する。この製造方法は、以下に説明する第1乃至第9動作を含んでいる。
【0055】
第1動作では、コントローラ600は、第1移動機構200を以下のように動作させる。すなわち、コントローラ600は、先ず、搬送装置を動作させ、スラリーSLを供給していない基材SBを、圧力調整装置400に含まれる導管410から離れた位置に搬送する。次いで、コントローラ600は、第1移動装置を動作させ、基材SBにおいて上述した貯留部が形成されるように、貯留治具110を、基材SBから離れた位置から、基材SBの近傍へと移動させる。なお、第1動作は、手動で行ってもよい。
【0056】
ここで、第1動作において、スラリーSLを供給していない基材SBを、圧力調整装置400に含まれる導管410から離れた位置に搬送する代わりに、導管410の位置に搬送してもよい。この場合、後述する第4動作を省略することができる。
【0057】
第2動作では、コントローラ600は、供給装置300を以下のように動作させる。すなわち、コントローラ600は、先ず、第2移動装置を動作させ、ノズル310を、基材SBから離れた位置から、基材SBの第1端面EF1と正対する位置に移動させる。次いで、コントローラ600は、切替装置を動作させ、上述した貯留部にスラリーSLを供給する。供給されたスラリーSLは、典型的には、基材SBの第1端面EF1上に、比較的均一な厚さの層を形成する。
【0058】
次いで、コントローラ600は、切替装置を動作させ、スラリーSLの供給を止める。次いで、コントローラ600は、第2移動装置を動作させ、ノズル310を上記位置から、基材SBから離れた位置へと移動させる。
【0059】
第3動作では、コントローラ600は、第2移動機構500を以下のように動作させる。すなわち、コントローラ600は、第3移動装置を動作させ、気流制御治具120を、第1位置から離れた位置から、第1位置に移動させる。この第1位置とは、基材SBが導管410の一端に位置した場合に、気流制御治具120が、貯留部内のスラリーSLを間に挟んで第1端面EF1と向き合い、且つ貯留部内のスラリーSLから離間した位置を意味している。
【0060】
第4動作では、コントローラ600は、第1移動機構200を以下のように動作させる。すなわち、コントローラ600は、搬送装置を動作させ、スラリーSLを供給した基材SBを導管410の一端に搬送する。なお、第4動作は、第3動作よりも先に行ってもよい。
【0061】
このとき、気流制御治具120と貯留治具110の上側の端面との間には、隙間が形成されている。また、気体の流れ方向に沿って気流制御治具120の第1貫通孔PO1の下流には、基材SBの第1領域RE1が位置し、気流制御治具120の板121において、第1貫通孔PO1を除く部分(以下、板部という)の下流には、基材SBの第2領域RE2が位置する。
【0062】
第5動作では、コントローラ600は、圧力調整装置400を以下のように動作させる。すなわち、コントローラ600は、基材SBが導管410の一端に搬送された後に、圧力調整装置400を動作させる。圧力調整装置400は、第2端面EF2と隣接した領域の圧力を、貯留部内のスラリーSLを間に挟んで基材SBと隣接した領域に対して相対的に低める。ここでは、コントローラ600は、吸引装置420を動作させ、導管410内を減圧する。
【0063】
これにより、圧力調整装置400は、貯留部内のスラリーSLを複数の孔内へと導くとともに、複数の孔内において、第1端面EF1側から第2端面EF2側へ向けたスラリーSLの流れを生じさせる。基材SBの隔壁のうちスラリーSLが通過した部分の上には、スラリーSLからなる塗膜、すなわち、スラリー層SLLが形成される。
【0064】
第6動作では、コントローラ600は、
図7及び
図8に示すように第2移動機構500を動作させる。すなわち、コントローラ600は、第2移動機構500を動作させ、スラリーSLが第1端面EF1側から第2端面EF2側へ向けて流れている間に、第1位置にある気流制御治具120を第1端面EF1と向き合い且つ第1位置と比較して第1端面EF1からの距離がより短い第2位置に移動させる。第2位置は、典型的には、第1位置の真下にある。この際、第2移動機構500は、スラリーSLと接触することがないように、気流制御治具120を移動させる。
【0065】
第7動作では、コントローラ600は、圧力調整装置400を以下のように動作させる。すなわち、コントローラ600は、気流制御治具120が第1位置から第2位置に移動したのと同時に、又は、気流制御治具120が第1位置から第2位置に移動した後に、吸引装置420の吸引を停止させる。これにより、基材SBの複数の孔内において、第1端面EF1側から第2端面EF2側へ向けたスラリーSLの流れが停止する。
【0066】
第8動作では、コントローラ600は、第2移動機構500を以下のように動作させる。すなわち、コントローラ600は、第3移動装置を動作させ、気流制御治具120を第2位置から、第3位置へと移動させる。第8動作は、手動で行ってもよい。
【0067】
第9動作では、コントローラ600は、第1移動機構200を以下のように動作させる。すなわち、コントローラ600は、第1移動装置を動作させ、隔壁上にスラリー層SLLを形成した基材SBから貯留治具110を取り外し、基材SBから離れた位置へと移動させる。次いで、この基材SBを導管410の一端から取り外し、導管410から離れた位置へと搬送する。なお、貯留治具110は、基材SBを導管410から離れた位置へと搬送した後に、基材SBから取り外してもよい。この第9動作は、手動で行ってもよい。また、第9動作は、第8動作よりも先に行ってもよい。
【0068】
以上の方法により、第1領域RE1におけるスラリー層SLLの幅と、第2領域RE2におけるスラリー層SLLの幅とを異ならしめることができる。なお、連続操業を行う場合は、上述した第1乃至第9動作を繰り返す。
【0069】
次いで、この基材SBを乾燥及び焼成処理に供することにより、第1領域RE1における触媒層CLの幅と、第2領域RE2における触媒層CLの幅とが異なる排ガス浄化用触媒1を得ることができる。
【0070】
なお、この排ガス浄化用触媒1の製造は、基材SBを各装置のある場所に搬送して行ってもよく、基材SBを一箇所に固定して行ってもよい。
【0071】
以下、触媒層CLの幅をより正確に制御することができる理由について、
図7乃至
図9を参照しながら説明する。
【0072】
先ず、
図7に示すように、吸引装置420が吸引動作を開始すると、基材SBの第2端面EF2と隣接した領域の圧力は、スラリーSLを間に挟んで基材SBと隣接した領域の圧力に対して相対的に低くなる。この圧力差が十分に大きくなると、貯留部に供給されたスラリーSLは、基材SBに形成された複数の孔内に移動し、貯留部内のスラリーSLの液面が下がる。このとき、基材SBの複数の孔のうち第1端面EF1側の部分は、スラリーSLにより塞がれる。
【0073】
次に、
図8に示すように、吸引装置420を動作させた状態で、気流制御治具120を、スラリーSLと接触しないように、第1位置から第2位置へと下降させる。この間に、貯留部内のスラリーSLのほぼすべてが、基材SBの複数の孔内へと移動する。そして、複数の孔の第1端面EF1側に空気が流入し、複数の孔を満たしているスラリーSL内に、第1端面EF1側から第2端面EF2側へと延びる孔が形成されはじめる。
【0074】
気流制御治具120が、第1位置から第2位置に近づくにつれ、気流制御治具120と貯留治具110の上側の端面との間に形成された隙間は小さくなる。そして、気流制御治具120が第2位置にある場合、この隙間はほぼ存在しなくなる。したがって、気流制御治具120が第2位置に十分に近づくと、貯留部内のスラリーSLの上方の空間は、仕切り122によって、2つの領域、すなわち、仕切り122によって囲まれた内側領域、及び仕切り122と貯留治具110とによって挟まれた外側領域へと仕切られる。
【0075】
外側領域と外部空間とを連絡している第2貫通孔PO2の開口の合計面積A1と、外側領域の容積C1との比A1/C1は、内側領域と外部空間とを連絡している第1貫通孔PO1の開口の面積A2と、内側領域の容積C2との比A2/C2よりも小さい。また、仕切り122の下側端部からスラリーSL又は第1端面EF1までの距離が十分に短ければ、外側領域と内側領域との間での空気の移動は生じにくい。そして、スラリーSLの液面は、下降し続けている。それゆえ、板121が貯留治具110に十分に近づくと、外側領域の圧力と導管410内の圧力との差は、内側領域の圧力と導管410内の圧力との差と比較して小さくなる。
【0076】
したがって、気流制御治具120が、第2位置に十分に近づくと、第2領域RE2に形成された複数の孔内を移動するスラリーSLの速度及びそれら孔を満たしているスラリーSL内で孔が延びる速度は、第1領域RE1内に形成された複数の孔内を移動するスラリーSLの速度及びそれら孔を満たしているスラリーSL内で孔が延びる速度よりも低くなる。
【0077】
ここで、気流制御治具120が第1位置から第2位置へと移動する速さは、気流制御治具120がスラリーSLと接触しない速さであればよい。すなわち、気流制御治具120が第1位置から第2位置へと移動する速さは、気流制御治具120とスラリーSLとが接触しなければ、スラリーSLが貯留部から基材SBの複数の孔へと流入する速さと同一でもよく、この速さより高くてもよく、低くてもよい。
【0078】
吸引装置420による吸引を継続すると、第1領域RE1においては、スラリーSLとスラリーSL内で第1端面EF1から延びている孔とは、第1端面EF1から、第1端面EF1と第2端面EF2との間の位置まで到達し、その結果、第1端面EF1から、第1端面EF1と第2端面EF2との間の位置までスラリー層SLLが形成される。なお、第1領域RE1において、スラリー層SLLは、第1端面EF1から第2端面EF2まで形成されていてもよい。
【0079】
第2領域RE2においては、スラリーSLとスラリーSL内で第1端面EF1から延びている孔とは、第1端面EF1から第2端面EF2との間の位置まで到達する。第2領域RE2において、スラリーSLとスラリーSL内で第1端面EF1から延びている孔とが到達した位置は、第1領域RE1において、スラリーSLとスラリーSL内で第1端面EF1から延びている孔とが到達した位置よりも、第1端面EF1側にある。その結果、第1端面EF1から第2端面EF2との間の位置までスラリー層SLLが形成され、その幅は、第1領域RE1内に位置したスラリー層SLLの幅と比較してより短い。
【0080】
このようにして、第1領域RE1に形成されたスラリー層SLLの幅と、第2領域RE2に形成されたスラリー層SLLの幅とを異ならしめることができる。
【0081】
ここで、第1領域RE1に設けられた複数の孔の径と、第2領域RE2に設けられた複数の孔の径とが等しい場合、これらの孔に流入するスラリーSLの量は等しい。したがって、第2領域RE2におけるスラリー層SLLの幅が、第1領域RE1におけるスラリー層SLLの幅よりも短いと、第2領域RE2におけるスラリー層SLLの厚さは、第1領域RE1におけるスラリー層SLLの厚さよりも厚い傾向にある。
【0082】
第1領域RE1に形成されたスラリー層SLLの幅から第2領域RE2に形成されたスラリー層SLLの幅を差し引いた値(以下、コート幅差という)は、外側領域と外部空間とを連絡している第2貫通孔PO2の開口の合計面積A1と、外側領域の高さ方向に対して垂直な断面の面積A3との比A1/A3、並びに、内側領域と外部空間とを連絡している第1貫通孔PO1の開口の面積A2と、内側領域の高さ方向に対して垂直な断面の面積A4との比A2/A4によって調整することができる。
【0083】
すなわち、比A1/A3と比A2/A4との比が大きいと、気流制御治具120が第2位置に十分に近づいた場合、外側領域の圧力と導管410内の圧力との差と、内側領域の圧力と導管410内の圧力との差との比が小さい傾向にある。それゆえ、比A1/A3と比A2/A4との比が大きいと、基材SBのスラリー層SLLのコート幅差は、小さい傾向にある。
【0084】
また、比A1/A3と比A2/A4との比が小さいと、気流制御治具120が第2位置に十分に近づいた場合、外側領域の圧力と導管410内の圧力との差と、内側領域の圧力と導管410内の圧力との差との比が大きい傾向にある。それゆえ、比A1/A3と比A2/A4との比が小さいと、基材SBのスラリー層SLLのコート幅差は、大きい傾向にある。
【0085】
比A1/A3と比A2/A4との比は、例えば、気流制御治具120の板121の開口率によって調整することができる。ここで、開口率とは、板121の主面のうち、第1貫通孔PO1を除く部分において第2貫通孔PO2の合計面積が占める割合を意味している。
【0086】
すなわち、板121の開口率が高いと、比A1/A3と比A2/A4との比が大きく、スラリー層SLLのコート幅差は小さい傾向にある。したがって、触媒層CLのコート幅差を小さくするという観点からは、この板121として、開口率が20%以上であるものを用いることが好ましく、40%以上であるものを用いることがより好ましく、60%以上であるものを用いることが更に好ましい。
【0087】
また、板121の開口率が低いと、比A1/A3と比A2/A4との比が小さく、スラリー層SLLのコート幅差は大きい傾向にある。したがって、触媒層CLのコート幅差を大きくするという観点からは、この板121として、開口率が90%以下であるものを用いることが好ましく、80%以下であるものを用いることがより好ましく、60%以下であるものを用いることが更に好ましい。
【0088】
また、スラリー層SLLのコート幅差は、気流制御治具120を第1位置から第2位置まで移動させるのに要した時間(以下、下降時間)によっても調整することができる。
【0089】
すなわち、この下降時間が長いと、外側領域と内側領域との間での空気の移動が生じやすく、スラリー層SLLのコート幅差が小さい傾向にある。したがって、触媒層CLのコート幅差を小さくするという観点からは、吸引時間が5秒間であり、気流制御治具120を吸引開始と同時に第1位置から第2位置へと向かって移動させる場合、この下降時間は、0.1秒以上であることが好ましく、1.0秒以上であることがより好ましく、2.0秒以上であることが更に好ましい。
【0090】
また、この下降時間が短いと、外側領域と内側領域との間での空気の移動が生じにくく、スラリー層SLLのコート幅差が大きい傾向にある。したがって、触媒層CLのコート幅差を大きくするという観点からは、吸引時間が5秒間であり、気流制御治具120を吸引開始と同時に第1位置から第2位置へと向かって移動させる場合、この下降時間は、5.0秒以下であることが好ましく、3.0秒以下であることがより好ましく、2.0秒以下であることが更に好ましい。
【0091】
更に、スラリー層SLLのコート幅差は、第2位置において、気流制御治具120の仕切り122の下側端部と第1端面EF1との距離(以下、クリアランスという)によっても調整することができる。
【0092】
すなわち、このクリアランスが大きいと、外側領域と内側領域との間での空気の移動が生じやすく、スラリー層SLLのコート幅差が小さい傾向にある。したがって、触媒層CLのコート幅差を小さくするという観点からは、このクリアランスは、1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましく、20mm以上であることが更に好ましい。
【0093】
また、このクリアランスが小さいと、外側領域と内側領域との間での空気の移動が生じにくく、スラリー層SLLのコート幅差が大きい傾向にある。したがって、触媒層CLのコート幅差を大きくするという観点からは、このクリアランスは、30mm以下であることが好ましく、25mm以下であることがより好ましく、20mm以下であることが更に好ましい。
【0094】
以下、この排ガス浄化用触媒1の製造技術を用いた場合に達成可能な効果について、
図11を参照しながら更に詳しく説明する。
【0095】
図11は、比較例に係る排ガス浄化用触媒の製造方法における一工程を示す断面図である。この比較例に係る方法は、仕切り122を含まない気流制御治具120を用いたこと、上述した第2動作より先に第3動作を行ったこと、第3動作において基材SBの第1端面EF1と接触するように気流制御治具120を設置したこと、及び第6動作を省略したこと以外は、上述したのと同様の方法である。
【0096】
すなわち、この比較例に係る方法では、
図11に示すように、基材SBの第1端面EF1と接触するように気流制御治具120を設置した後、貯留部内にスラリーSLを供給する。その後、基材SBを導管410の一端に設置し、圧力調整装置400を動作させ、スラリーSLを第1端面EF1側から第2端面EF2側へと移動させる。
【0097】
このような構成を採用した場合、吸引装置420を動作させると、気流制御治具120は、板部を通過する流体に圧力損失を生じさせる。したがって、このような構成を採用した場合、板部の下方の領域の圧力と導管410内の圧力との差は、第1貫通孔PO1の下方の領域の圧力と導管410内の圧力との差と比較して小さくなる。そして、板121の板部は、基材SBの第2領域RE2の上方に位置し、板121の第1貫通孔PO1は、基材SBの第1領域RE1の上方に位置している。
【0098】
それゆえ、第2領域RE2に形成された複数の孔内を移動するスラリーSLの速度及びそれら孔を満たしているスラリーSL内で孔が延びる速度は、第1領域RE1内に形成された複数の孔内を移動するスラリーSLの速度及びそれら孔を満たしているスラリーSL内で孔が延びる速度よりも低くなる。
【0099】
したがって、比較例に係る方法を用いた場合、第1領域RE1に形成されたスラリー層SLLの幅と、第2領域RE2に形成されたスラリー層SLLの幅とを異ならしめることができる。
【0100】
しかしながら、このような構成を採用した場合、基材SBの第1端面EF1と接触するように設置された気流制御治具120には、スラリーSLが付着する。それゆえ、排ガス浄化用触媒1を製造するために要するスラリーSLの量が多くなる。更に、気流制御治具120に付着したスラリーSLにより、板121に設けられた第1貫通孔PO1及び第2貫通孔PO2の少なくとも一部が被覆されると、第1貫通孔PO1及び第2貫通孔PO2を通過する流体の分布が変化する。したがって、このような構成を採用した場合、スラリー層SLLの幅及びコート量にバラつきが生じ、所望の触媒層CLの幅及びコート量を得ることができない傾向にある。
【0101】
これに対し、上述した製造装置100及び製造方法を用いると、気流制御治具120にスラリーSLが付着することなく、第1領域RE1におけるスラリー層SLLの幅と、第2領域RE2におけるスラリー層SLLの幅とを異ならしめることができる。それゆえ、上述した製造装置100及び製造方法を用いると、触媒層CLの幅及びコート量に生じるバラつきを抑制することができる。
【0102】
したがって、上述した製造装置100及び製造方法を用いると、比較例に係る製造方法と比較して、触媒層CLの幅をより正確に制御することができる。
【0103】
また、連続生産を行った場合、この比較例に係る製造方法によると、生産開始直後の気流制御治具120に付着しているスラリーSLの量と、生産を繰り返した後の気流制御治具120に付着しているスラリーSLの量とは大きく異なる。したがって、この比較例に係る製造方法によると、生産開始直後の排ガス浄化用触媒1の触媒層CLの幅及びコート量は、生産を繰り返した後の排ガス浄化用触媒1の触媒層CLの幅及びコート量とは大きく異なる。
【0104】
上述した製造装置100及び製造方法によると、連続生産を行った場合であっても、気流制御治具120にはスラリーSLが付着しない。したがって、上述した製造装置100及び製造方法によると、連続生産を行った場合であっても、基材SBの触媒層CLの幅及びコート量のバラつきは少ない。すなわち、上述した製造方法は、比較例に係る方法よりも排ガス浄化用触媒1の連続生産に適している。
【0105】
製造装置100には、様々な変形が可能である。
例えば、
図3及び
図6乃至
図9に示す圧力調整装置400としては、吸引装置420を用いる代わりに送風装置を用いてもよい。送風装置は、導管410の第1開口部に固定されている基材SBの第1端面EF1側から第2端面EF2側へと向かって、貯留部に供給されたスラリーSLに圧縮空気を送風する。この送風を行うと、第1端面EF1から第2端面EF2へのスラリーSLの移動が促進される。
【0106】
また、
図6乃至
図10に示す気流制御治具120には、様々な変形が可能である。
例えば、気流制御治具120は、仕切り122を省略してもよい。このような構成を採用した場合、上述した第6動作において、コントローラ600は、第2移動機構500を動作させ、スラリーSLが第1端面EF1側から第2端面EF2側へ向けて流れている間に、気流制御治具120とスラリーSLとが接触することがないように、気流制御治具120を第1位置から第2位置へと移動させる。
【0107】
吸引装置420が動作中に、気流制御治具120が第2位置に十分に近づくと、気流制御治具120は、板部を通過する流体に圧力損失を生じさせる。したがって、このような構成を採用した場合、板部の下方の領域の圧力と導管410内の圧力との差は、第1貫通孔PO1の下方の領域の圧力と導管410内の圧力との差と比較して小さくなる。そして、板121の板部は、基材SBの第2領域RE2の上方に位置し、板121の第1貫通孔PO1は、基材SBの第1領域RE1の上方に位置している。
【0108】
それゆえ、第2領域RE2に形成された複数の孔内を移動するスラリーSLの速度及びそれら孔を満たしているスラリーSL内で孔が延びる速度は、第1領域RE1内に形成された複数の孔内を移動するスラリーSLの速度及びそれら孔を満たしているスラリーSL内で孔が延びる速度よりも低くなる。
【0109】
したがって、気流制御治具120の仕切り122を省略した場合であっても、上述した態様と同様に、気流制御治具120にスラリーSLが付着することなく、第1領域RE1に形成されたスラリー層SLLの幅と、第2領域RE2に形成されたスラリー層SLLの幅とを異ならしめることができる。
【0110】
しかしながら、このような構成を採用した場合、気流制御治具120を、貯留治具110の上側の開口から貯留部内の下方に移動させる必要がある。そして、この貯留部の内壁には、スラリーSLが付着している。それゆえ、気流制御治具120へのスラリーSLの付着を防止するためには、気流制御治具120と貯留部の内壁との間に十分な隙間を設けなければならず、この隙間から気流制御治具120の下方へと空気が流入しやすい。
【0111】
したがって、このような構成を採用した場合、仕切り122を含む場合と比較して、圧力制御性が低下する。それゆえ、触媒層CLの幅をより正確に制御するという観点からは、気流制御治具120は、仕切り122を含んでいることが好ましい。
【0112】
また、気流制御治具120の板121は、網であってもよい。網の形状としては、例えば、平織又は滑面織を挙げることができる。
【0113】
網のメッシュが大きいと、触媒層CLのコート幅差は大きい傾向にある。ここで、メッシュとは、1インチ(2.54cm)当たりの網目数を意味している。すなわち、触媒層CLのコート幅差を大きくするという観点からは、この網のメッシュとして、100メッシュ以上であるものを用いることが好ましく、150メッシュ以上であるものを用いることがより好ましく、200メッシュ以上であるものを用いることが更に好ましい。
【0114】
網のメッシュが小さいと、触媒層CLのコート幅差は小さい傾向にある。すなわち、触媒層CLのコート幅差を小さくするという観点からは、この網のメッシュとして、300メッシュ以下であるものを用いることが好ましく、250メッシュ以下であるものを用いることがより好ましく、200メッシュ以下であるものを用いることが更に好ましい。
【0115】
また、気流制御治具120の板121は、第1貫通孔PO1を省略してもよい。板121の直径は、例えば、省略した第1貫通孔PO1の径と等しい。この場合、板121の外縁から、前記第2端面EF2へ向けて延びた仕切り122を含んでいることが好ましい。このような気流制御治具120を用いると、第1領域RE1の触媒層CLの幅を、第2領域RE2の触媒層CLの幅よりも短くすることができる。
【0116】
また、気流制御治具120の板121は、第2貫通孔PO2を省略してもよい。このような気流制御治具120を用いた場合、第2貫通孔PO2を有する気流制御治具120を用いた場合と比較して、触媒層CLのコート幅差がより大きい傾向にある。
【0117】
ここでは、板121のうち、第1領域RE1の正面に位置した部分(以下、中央部という)の全体を第1貫通孔PO1としたが、中央部の一部にのみ第1貫通孔PO1を設けてもよい。この場合、中央部に設ける第1貫通孔PO1の数は、1であってもよく、2以上であってもよい。
【0118】
中央部の開口率が、その周りの部分である周縁部の開口率と比較してより大きければ、上述したのと同様の効果を得ることができる。
【0119】
また、ここでは、周縁部の開口率と比較して中央部の開口率をより大きくしているが、中央部の開口率と比較して周縁部の開口率をより大きくしてもよい。この場合、第1領域RE1の触媒層CLの幅を、第2領域RE2の触媒層CLの幅よりも短くすることができる。
【0120】
この製造装置100又は製造方法に用いられる基材SBの形状は、
図1、
図2及び
図4乃至
図9に示す形状に限られない。例えば、基材SBとして、第1領域RE1に設けられた複数の孔の径と、第2領域RE2に設けられた複数の孔の径とが異なること以外は、上述した基材SBと同様の基材SBを用いてもよい。
【0121】
このような基材SBを用いた場合、上述した第5動作において、圧力調整装置400を動作させると、スラリーSLの粘性の影響により、径が小さな孔に流入したスラリーSLよりも、径が大きな孔に流入したスラリーSLのほうが流れやすい。
【0122】
したがって、例えば、第1領域RE1に設けられた複数の孔の径が、第2領域RE2に設けられた複数の孔の径よりも大きい基材SBを用いた場合、触媒層CLのコート幅差は、第1領域RE1に設けられた複数の孔の径と、第2領域RE2に設けられた複数の孔の径とが等しい基材SBを用いた場合の触媒層CLのコート幅差と比較してより大きい。
【0123】
また、第1領域RE1に設けられた複数の孔の径が、第2領域RE2に設けられた複数の孔の径よりも小さい基材SBを用いた場合、そのコート幅差は、第1領域RE1に設けられた複数の孔の径と、第2領域RE2に設けられた複数の孔の径とが等しい基材SBを用いた場合の触媒層CLのコート幅差と比較してより小さいか、又は、ほぼなくなる。
【0124】
言い換えると、この製造方法及び製造装置100を用いると、第1領域RE1に設けられた複数の孔の径と、第2領域RE2に設けられた複数の孔の径とが異なる基材SBを用いた場合であっても、第1領域RE1の触媒層CLの幅と、第2領域RE2の触媒層CLの幅とを等しくすることが可能である。
【0125】
次に、参考例に係る製造装置について説明する。
図12は、参考例に係る排ガス浄化用触媒の製造方法における一工程を示す断面図である。
図12に示す製造装置100による製造方法は、第4動作を行った後に第3動作を行うこと、及び第6動作を行った後に第5動作を行うこと以外は、上述した製造方法と同様である。
【0126】
図12は、製造装置100が、吸引動作を行う前の様子を概略的に示す図である。この製造方法では、
図12に示すように、第6動作において、コントローラ600は、第2移動機構500を動作させ、気流制御治具120を、スラリーSLと接触しないように、第2位置に移動させる。このとき、気体の流れ方向に沿って第1貫通孔PO1の下流には、基材SBの第1領域RE1が位置し、板部の下流には、基材SBの第2領域RE2が位置する。
【0127】
なお、この製造方法では、上述した第3動作において、気流制御治具120を、第1位置に移動させる代わりに第2位置に移動させてもよい。この場合、上述した第6動作を省略することができる。
【0128】
第2位置において、気流制御治具120と貯留治具110の上側の端面とは、接触している。また、仕切り122の下側端部からスラリーSLまでの距離は十分に短い。したがって、気流制御治具120が第2位置にあると、貯留部内のスラリーSLの上方の空間は、仕切り122によって、2つの領域、すなわち、仕切り122によって囲まれた内側領域、及び仕切り122と貯留治具110とによって挟まれた外側領域へと仕切られる。
【0129】
外側領域と外部空間とを連絡している第2貫通孔PO2の開口の合計面積A1と、外側領域の容積C1との比A1/C1は、内側領域と外部空間とを連絡している第1貫通孔PO1の開口の面積A2と、内側領域の容積C2との比A2/C2よりも小さい。
【0130】
したがって、気流制御治具120を第2位置に設置した後に、第5動作において、コントローラ600が吸引装置420を動作させると、外側領域の圧力と導管410内の圧力との差は、内側領域の圧力と導管410内の圧力との差と比較して小さくなる。
【0131】
それゆえ、このような構成を採用した場合、気流制御治具120にスラリーが付着することなく、第1領域RE1に形成されたスラリー層SLLの幅と、第2領域RE2に形成されたスラリー層SLLの幅とを異ならしめることができ、更に、第5動作を行った後に第6動作を行う製造方法と比較して、気流制御治具120を第1位置から第2位置へと動作させるタイミングについて、厳密な制御が不要である。
【0132】
しかしながら、このような構成を採用した場合、スラリーSLが下方に移動するのに応じて、気流制御治具120の仕切り122の下側端部と第1端面EF1上のスラリーSLとの間の隙間は増加する。
【0133】
すなわち、このような構成を採用した場合、吸引装置420の動作によってスラリーSLが下方に移動するのに応じて、外側領域と内側領域との間に空気の移動が生じやすくなる。
【0134】
したがって、このような構成を採用した場合、第5動作後に第6動作を行う製造方法と比較して、圧力制御性が低下する。それゆえ、触媒層CLの幅をより正確に制御するという観点からは、第5動作後に第6動作を行う製造方法のほうが優れている。
【実施例】
【0135】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0136】
<例1>
先ず、
図1に示す基材SBを準備した。この基材SBは、円柱形状のモノリス基材であり、その直径は103mmであり、第1端面EF1から第2端面EF2までの長さは105mmであった。
【0137】
次に、スラリーSLを準備した。このスラリーSLの固形分は30質量%であり、コーン・アンド・プレート型の粘度計を使用し、25℃の温度で、0.4s
-1のせん断速度で測定した場合の粘度は4000mPa・sであり、400s
-1のせん断速度で測定した場合の粘度は150mPa・sであった。
【0138】
次に、気流制御治具120を準備した。具体的には、先ず、300メッシュの金網を円形に切り出し、その中央に第1貫通孔PO1に相当する円形の穴を有する形状に加工して、板121を得た。次いで、この板121の中央の穴の縁に、板121の一方の主面に対してほぼ垂直な方向に延びている仕切り122を取り付けた。なお、板121の直径は103mmであり、中央の穴の直径は60mmであった。
【0139】
次いで、
図4に示すように、基材SBの第1端面EF1上に貯留治具110を設置し、貯留部を形成した。次いで、この貯留部に、供給装置300を用いてスラリーSLを供給した。スラリーSLの供給量は250gであった。
【0140】
次いで、気流制御治具120を第1位置に設置した。次いで、スラリーSLを供給した基材SBを、導管410の第1開口部に設置した。このとき、気流制御治具120の仕切り122の下側端部と、第1端面EF1との距離は200mmであった。
【0141】
次いで、吸引装置420を動作させた。なお、スラリーSL供給前に、吸引装置420を動作させて得られた、基材SB上の風速は40m/秒であった。
【0142】
吸引開始と同時に、気流制御治具120を第1位置から第2位置に移動させた。この移動に要した時間(以下、下降時間という)は、1.0秒であった。なお、第2位置において、気流制御治具120の仕切り122の下側端部と第1端面EF1との距離、すなわち、クリアランスは、16mmであった。
【0143】
吸引開始から5秒後に、吸引装置420の動作を停止した。このようにして、基材SBの複数の孔内にスラリー層SLLを形成した。
【0144】
次いで、このスラリー層SLLを乾燥させて、コート層を得た。
【0145】
次いで、この基材SBを
図1のII−II線に沿って切断し、その切断面を確認した。その結果、第1領域RE1に設けられた複数の孔には、第1端面EF1から第2端面EF2に至るまでコート層が形成されていた。そして、第2領域RE2に設けられた複数の孔には、第1端面EF1から第2端面EF2の間の位置までコート層が形成されていた。
【0146】
第1領域RE1に形成されたコート層のコート幅から第2領域RE2に形成されたコート層のコート幅を差し引いた値、すなわち、コート幅差は16.0mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0147】
<例2>
300メッシュの金網を用いて板121を形成する代わりに、250メッシュの金網を用いて板121を形成したこと以外は、例1に記載したのと同様の方法で、コート層を得た。このコート層のコート幅差は、10.5mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0148】
<例3>
300メッシュの金網を用いて板121を形成する代わりに、200メッシュの金網を用いて板121を形成したこと以外は、例1に記載したのと同様の方法で、コート層を得た。このコート層のコート幅差は、5.0mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0149】
<例4>
300メッシュの金網を用いて板121を形成する代わりに、150メッシュの金網を用いて板121を形成したこと以外は、例1に記載したのと同様の方法で、コート層を得た。このコート層のコート幅差は、2.0mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0150】
<例5>
300メッシュの金網を用いて板121を形成する代わりに、100メッシュの金網を用いて板121を形成したこと以外は、例1に記載したのと同様の方法で、コート層を得た。このコート層のコート幅差は、1.0mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0151】
<例6>
300メッシュの金網を用いて板121を形成する代わりに、金属板を用いて板121を形成したこと以外は、例1に記載したのと同様の方法で、コート層を得た。このコート層のコート幅差は、32.0mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0152】
<例7>
金属板に複数の第2貫通孔PO2を設けたこと以外は、例6に記載したのと同様の方法で、コート層を得た。なお、第2貫通孔PO2の直径は2.0mmであり、その数は350個であった。この金属板の開口率は、20%であった。このコート層のコート幅差は、26.0mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0153】
<例8>
金属板により多くの数の第2貫通孔PO2を設けたこと以外は、例7に記載したのと同様の方法でコート層を得た。この金属板の開口率は40%であった。このコート層のコート幅差は、17.5mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0154】
<例9>
金属板により多くの数の第2貫通孔PO2を設けたこと以外は、例7に記載したのと同様の方法でコート層を得た。この金属板の開口率は60%であった。このコート層のコート幅差は、12.0mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0155】
<例10>
金属板により多くの数の第2貫通孔PO2を設けたこと以外は、例7に記載したのと同様の方法でコート層を得た。この金属板の開口率は90%であった。このコート層のコート幅差は、4.5mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0156】
<例11>
金属板により多くの数の第2貫通孔PO2を設けたこと、及び下降時間を1.0秒から0.1秒に変更したこと以外は、例7に記載したのと同様の方法で、コート層を得た。この金属板の開口率は80%であった。このコート層のコート幅差は、15.5mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0157】
<例12>
下降時間を0.1秒から1.0秒に変更したこと以外は、例11に記載したのと同様の方法でコート層を得た。このコート層のコート幅差は、8.0mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0158】
<例13>
下降時間を0.1秒から2.0秒に変更したこと以外は、例11に記載したのと同様の方法でコート層を得た。このコート層のコート幅差は、4.5mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0159】
<例14>
下降時間を0.1秒から3.0秒に変更したこと以外は、例11に記載したのと同様の方法でコート層を得た。このコート層のコート幅差は、3.0mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0160】
<例15>
下降時間を0.1秒から5.0秒に変更したこと以外は、例11に記載したのと同様の方法でコート層を得た。このコート層のコート幅差は、2.0mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0161】
<例16>
クリアランスが16mmから1mmとなるように、仕切り122の高さを高くしたこと以外は、例11に記載したのと同様の方法でコート層を得た。このコート層のコート幅差は、28.5mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
このコート層の形成は、30個の基材SBに対して連続して行った。
【0162】
<例17>
クリアランスが16mmから2mmとなるように、仕切り122の高さを高くしたこと以外は、例11に記載したのと同様の方法でコート層を得た。このコート層のコート幅差は、27.5mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0163】
<例18>
クリアランスが16mmから20mmとなるように、仕切り122の高さを低くしたこと以外は、例11に記載したのと同様の方法でコート層を得た。このコート層のコート幅差は、10.5mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0164】
<例19>
クリアランスが16mmから25mmとなるように、仕切り122の高さを低くしたこと以外は、例11に記載したのと同様の方法でコート層を得た。このコート層のコート幅差は、5.5mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0165】
<例20>
クリアランスが16mmから30mmとなるように、仕切り122の高さを低くしたこと以外は、例11に記載したのと同様の方法でコート層を得た。このコート層のコート幅差は、2.0mmであった。なお、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。
【0166】
<例21>
気流制御治具120を用いなかったこと以外は、例1に記載したのと同様の方法でコート層を得た。その結果、第1領域RE1におけるコート層のコート幅と第2領域RE2におけるコート層のコート幅とは等しかった。
【0167】
<例22>
先ず、例1に記載したのと同様に、基材SBとスラリーSLを準備した。次に、気流制御治具120として、仕切り122を省略したこと以外は、例11に記載したのと同様のものを準備した。
次いで、
図11に示すように、導管410の第1開口部に基材SBを設置した。次いで、基材SBの第1端面EF1上に貯留治具110を設置し、貯留部を形成した。
【0168】
次いで、基材SBの第1端面EF1上に、気流制御治具120を設置した。
【0169】
次いで、上記の貯留部に、供給装置300を用いてスラリーSLを供給した。スラリーSLの供給量は250gであった。
【0170】
次いで、吸引装置420を動作させ、基材SBの複数の孔内にスラリー層SLLを形成した。この吸引は、5秒間行った。
【0171】
次いで、この基材SBを乾燥させて、コート層を得た。このコート層のコート幅差は、30mmであった。なお、気流制御治具120には、スラリーSLが付着していた。
このコート層の形成は、30個の基材SBに対して連続して行った。
【0172】
これらの結果を、表1にまとめる。
【0173】
【表1】
【0174】
上記表1において、「板の構造」と表記した列には、金網のメッシュ又は金属板の開口率を記載している。「下降時間(秒)」と表記した列には、気流制御治具120を第1位置から第2位置まで移動させるのに要した時間を記載している。「クリアランス(mm)」と表記した列には、第2位置における、気流制御治具120の仕切り122の下側端部と、第1端面EF1との距離を記載している。「スラリー付着」と表記した列には、試験完了後、気流制御治具120にスラリーSLが付着していたかどうかを記載している。「コート幅差(mm)」と表記した列には、第1領域RE1に形成されたコート層のコート幅から第2領域RE2に形成されたコート層のコート幅を差し引いた値を記載している。
【0175】
図13は、金網のメッシュとコート幅差との関係の一例を示すグラフである。
図13は、例1乃至例5で得られたデータを利用して作成している。
図13に示すグラフにおいて、横軸は板121として用いた金網のメッシュを表し、縦軸はコート層のコート幅差を表している。
【0176】
上記表1及び
図13に示すとおり、金網のメッシュが大きいと、コート層のコート幅差は大きい傾向にある。金網のメッシュが小さいと、コート層のコート幅差は小さい傾向にある。
【0177】
図14は、金属板の開口率とコート幅差との関係の一例を示すグラフである。
図14は、例6乃至例10及び例12で得られたデータを利用して作成している。
図14に示すグラフにおいて、横軸は板121として用いた金属板の開口率を表し、縦軸はコート層のコート幅差を表している。
【0178】
上記表1及び
図14に示すとおり、金属板の開口率が高いと、コート層のコート幅差は小さい傾向にある。金属板の開口率が低いと、コート層のコート幅差は大きい傾向にある。
【0179】
図15は、下降時間とコート幅差との関係の一例を示すグラフである。
図15は、例11乃至例15で得られたデータを利用して作成している。
図15に示すグラフにおいて、横軸は、気流制御治具120を第1位置から第2位置まで移動させるのに要した時間を表し、縦軸はコート層のコート幅差を表している。
【0180】
上記表1及び
図15に示すとおり、下降時間が短いと、コート層のコート幅差が大きい傾向にある。下降時間が長いと、コート層のコート幅差が小さい傾向にある。
【0181】
図16は、クリアランスとコート幅差との関係の一例を示すグラフである。
図16は、例11及び例16乃至例20で得られたデータを利用して作成している。
図16に示すグラフにおいて、横軸は第2位置における、気流制御治具120の仕切り122の下側端部と第1端面EF1との距離を表し、縦軸はコート層のコート幅差を表している。
【0182】
上記表1及び
図16に示すとおり、クリアランスが小さいと、コート層のコート幅差が大きい傾向にある。クリアランスが大きいと、コート層のコート幅差が小さい傾向にある。
【0183】
図17は、連続生産数とスラリー付着量との関係の一例を示すグラフである。
図17は、例16及び例22で得られたデータを利用して作成している。
図17に示すグラフにおいて、横軸は連続生産数を表し、縦軸は気流制御治具120に付着したスラリーSLの量を表している。
【0184】
図17に示すとおり、例16に係る方法を用いてコート層を連続生産した場合、気流制御治具120にスラリーSLの付着は見られなかった。一方、例22に係る方法を用いてコート層を連続生産した場合、生産数が増加するにつれて気流制御治具120へのスラリーSLの付着量は増加する傾向が見られ、生産開始直後の気流制御治具120に付着しているスラリーSLの量と、生産を繰り返した後の気流制御治具120に付着しているスラリーSLの量とは大きく異なっていた。
【解決手段】本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法は、第1及び第2端面を有し、第1端面から第2端面へ向けて各々が延びた複数の孔が設けられた基材を備えた排ガス浄化用触媒の製造方法であって、第1端面と向き合い、第1端面へ向けて気体を通過させた場合に、この気体の流れに線速度の分布を生じさせる気流制御治具を、スラリーが第1端面側から第2端面側へ向けて流れている間に、気流制御治具が貯留部内のスラリーを間に挟んで第1端面と向き合い且つ貯留部内のスラリーからした第1位置から、第1端面と向き合い且つ第1位置と比較して第1端面からの距離がより短い第2位置へと移動させることを含んでいる。