(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施の形態)
以下、本発明に係るエンジンの動弁装置およびロッカーアームの製造方法の一実施の形態を
図1〜
図14によって詳細に説明する。
【0018】
図1に示す動弁装置1は、車両(図示せず)に搭載されるDOHC型4気筒エンジン2に装備されるものである。この動弁装置1は、後述する複数の運転形態を切替えるために、切替機構3(
図2参照)を備えている。切替機構3は、詳細は後述するが、気筒が通常通りに運転される形態と、気筒が休止する形態とを切替えるものである。
図2に示す切替機構3は、全ての気筒の吸気弁側(
図2においては右側)および排気弁側(
図2においては左側)に設けられている。
【0019】
切替機構3によって切替えられる運転形態とは、4つの気筒が通常通りに運転される全気筒運転形態と、4つの気筒のうち任意の気筒のみが運転される部分気筒運転形態である。
図2は、部分気筒運転形態が採られるときに運転される気筒の数を変えることができるように、全ての気筒に切替機構3が設けられている状態で描いてある。部分気筒運転形態が採られるときに4つの気筒のうち1つの気筒のみが運転される場合は、1気筒運転形態になる。4つの気筒のうち2つの気筒のみが運転される場合は、1/2減筒運転形態になる。4つの気筒のうち3つの気筒のみが運転される場合は、3気筒運転形態になる。4つの気筒が休止する場合は、全気筒休止形態になる。
【0020】
1気筒運転形態や3気筒運転形態が採られる場合は、運転される気筒を予め定めた規則に基づいて決めて選び、全ての気筒が均等に運転される構成を採ることが考えられる。
1/2減筒運転形態は、運転される気筒が異なる第1の運転形態と第2の運転形態とにおいて実現可能である。第1の運転形態は、4つの気筒が並ぶ方向の一端に位置する気筒(第1気筒)と、一端から数えて4番目の気筒(第4気筒)とが運転される運転形態である。第2の運転形態は、4つの気筒が並ぶ方向の一端から数えて2番目の気筒(第2気筒)と、3番目の気筒(第3気筒)とが運転される運転形態である。
【0021】
切替機構3は、1/2減筒運転形態と全気筒運転形態とを切替えるだけの場合は、図示してはいないが、通常は休止する気筒のみに装備される。全ての気筒に切替機構3が設けられる場合は、第1の運転形態による1/2減筒運転形態と、第2の運転形態による1/2減筒運転形態とを予め定めた規則に基づいて交互に切替えることができる。例えば、第1の運転形態と第2の運転形態とが予め定めた時間毎に切替られることにより、全ての気筒が略均等に運転されるから、1/2減筒運転形態が採られているにもかかわらず、エンジンの温度分布が均等になる。
全気筒休止形態は、例えばアクセルオフ時に切替えられる。全気筒休止形態が採られると、各気筒において断熱圧縮と断熱膨張とが繰り返されるだけで燃焼室に対する吸気、排気の出入りがなくなるから、ポンピングロスを低減することができる。
【0022】
この実施の形態による切替機構3は、
図1に示すように、動弁装置1の一部を構成するものである。この動弁装置1は、通常通りに運転される気筒において、シリンダヘッド4に設けられた吸気カムシャフト5および排気カムシャフト6の回転をそれぞれロッカーアーム7によって往復運動に変換して吸気弁8と排気弁9とを駆動するものである。
【0023】
この動弁装置1における吸気弁8を駆動する部分と、排気弁9を駆動する部分とは、同一の構造である。このため、以下においては、吸気弁8側と排気弁9側とにおいて構成が同等の部材については、排気弁9側の部材について説明し、吸気弁8側の部材については、同一符号を付して説明を省略する。
【0024】
吸気カムシャフト5と排気カムシャフト6は、シリンダヘッド4に回転自在に支持されたカムシャフト本体11と、このカムシャフト本体11に設けられたカム12とをそれぞれ備えている。なお、以下においては、吸気カムシャフト5と排気カムシャフト6とを総じて単にカムシャフト14という。
【0025】
カムシャフト本体11は、断面形状が円形の棒状に形成されている。カム12は、
図3に示すように、ベース円部12aとノーズ部12bとによって構成されている。ベース円部12aは、カムシャフト本体11と同一軸線上に位置する円柱の一部となる形状であって、吸気弁8または排気弁9のバルブリフト量が0になる大きさに形成されている。ノーズ部12bは、ベース円部12aから径方向の外側へ断面山形状に予め定めた突出量だけ突出する形状に形成されている。
【0026】
吸気弁8と排気弁9は、1気筒当たり2本ずつ設けられており、それぞれシリンダヘッド4に往復動自在に支持されている。2本の吸気弁8,8は、吸気カムシャフト5の軸線方向に所定の間隔をおいて並べられている。2本の排気弁9,9は、排気カムシャフト6の軸線方向に所定の間隔をおいて並べられている。
【0027】
吸気弁8は、
図1に示すように、シリンダヘッド4の吸気ポート15を開閉する弁体8aと、この弁体8aからシリンダヘッド4の動弁室16内に延びる弁軸8bとによって構成されている。排気弁9は、シリンダヘッド4の排気ポート17を開閉する弁体9aと、この弁体9aからシリンダヘッド4の動弁室16内に延びる弁軸9bとによって構成されている。弁軸8b,9bは、シリンダヘッド4の動弁室底壁16aに圧入された弁軸ガイド8c,9cを介して支持されている。弁軸8b,9bの先端部と動弁室底壁16aの底面16bとの間には、吸気弁8および排気弁9を閉じる方向に付勢するバルブスプリング18が設けられている。また、弁軸8b,9bの先端部には、キャップ状のシム19がそれぞれ設けられている。
【0028】
吸気ポート15の上流端は、シリンダヘッド4の一側部に開口している。吸気ポート15の下流端は、気筒毎の燃焼室20に開口している。排気ポート17の上流端は、燃焼室20に開口している。排気ポート17の下流端は、シリンダヘッド4の他側部に開口している。シリンダヘッド4における燃焼室20の中央部と対応する部位には、点火プラグ(図示せず)を上方から着脱するための筒壁部21が設けられている。
【0029】
シリンダヘッド4の動弁室16は、シリンダヘッド4と、このリンダヘッド4に取付けられたシリンダヘッドカバー4a(
図1参照)とによって囲まれて形成されており、気筒間に位置する隔壁22(
図2参照)によって気筒毎に区切られている。
隔壁22の上端部には、
図1に示すように、吸気カムシャフト5を支持するための吸気側ジャーナル部23と、排気カムシャフト6を支持するための排気側ジャーナル部24とが形成されている。これらのジャーナル部23,24には、カムキャップ25が複数の取付用ボルト26(
図2参照)によって取付けられている。
【0030】
カムキャップ25は、吸気カムシャフト5および排気カムシャフト6をジャーナル部23,24とともに挟んで回転自在に支持する。ジャーナル部23,24とカムキャップ25とからなるカムシャフト支持部27は、上述した気筒間の隔壁22と、シリンダヘッド4の前端部および後端部の隔壁28,29とに設けられている。ここでいう前端部と後端部は、
図2においては上端部と下端部であって、このエンジン2のクランク軸(図示せず)の軸線方向の一端部と他端部である。
【0031】
シリンダヘッド4内におけるカムシャフト支持部27どうしの間には、後述するロッカーアーム7を支持するためのロッカーハウジング単体31が設けられている。この実施の形態によるロッカーハウジング単体31は、気筒毎に設けられており、隔壁22間に跨ってシリンダヘッド4と一体成形された支持壁部32(
図1参照)に固定用ボルト33によって固定されている。支持壁部32は、
図1に示すように、点火プラグを着脱するための筒壁部21と交差してクランク軸の軸線方向に延びている。筒壁部21の上端は支持壁部32と接続され、支持壁部32には筒壁部21の内部に連なる円形開口(不図示)が形成されている。上述の動弁室底壁16a、筒壁部21、隔壁22、支持壁部32は全てシリンダヘッド4の一部を構成するものであり、シリンダヘッド4の鋳造時に一体成型される。
【0032】
ロッカーハウジング単体31は、
図4および
図5に示すように、3つの機能部によって構成されている。これらの機能部は、
図5において最も上に位置する第1のロッカーシャフト支持部34と、
図5において最も下に位置する第2のロッカーシャフト支持部35と、これらの第1、第2のロッカーシャフト支持部34,35どうしを連結する連結部36である。この実施の形態による第1、第2のロッカーシャフト支持部34,35と連結部36は、鋳造により一体に形成される。
【0033】
第1のロッカーシャフト支持部34と第2のロッカーシャフト支持部35には、ロッカーシャフト37(
図4参照)が嵌合する円形孔38,39が2つずつ形成されている。2つある円形孔のうち、一方の円形孔38,39には、吸気弁駆動用のロッカーアーム7を支持するロッカーシャフト37が嵌合する。他方の円形孔38,39には、排気弁駆動用のロッカーアーム7を支持するロッカーシャフト37が嵌合する。
第1のロッカーシャフト支持部34は、
図6に示すように、支持壁部32に取付けられる基部34aと、この基部34aから上方に突出した凸部34bとを有している。凸部34bには、ロッカーシャフト37の一端部が嵌合する2つの円形孔38が形成されている。
【0034】
第1のロッカーシャフト支持部34の2つの円形孔38は、非貫通孔である。ロッカーシャフト37の一端部は、この円形孔38に嵌合されている。この円形孔38には第1のオイル通路40が接続されている。この第1のオイル通路40は、円形孔38内にオイルをシリンダヘッド4のオイル供給部41(
図6参照)から導くために形成されている。オイル供給部41は、支持壁部32を利用して構成されている。
【0035】
第2のロッカーシャフト支持部35は、
図7に示すように、支持壁部32に取付けられる基部35aと、この基部35aから上方に突出した凸部35bとを有している。凸部35bには、ロッカーシャフト37の他端部が嵌合する2つの円形孔39が形成されている。この円形孔39は貫通孔である。ロッカーシャフト37は、
図4に示すように、凸部35bに上方から圧入されたストッパーピン42が係合し、抜け止めと回り止めが施されている。
【0036】
ロッカーシャフト37の軸心部には、ロッカーシャフト37の一端(第1のロッカーシャフト支持部34に支持される一端)に開口する非貫通孔からなるオイル孔43が形成されている。また、ロッカーシャフト37の中間部の3箇所には、ロッカーシャフト37の内外を連通する連通孔44が形成されている。上述したオイル供給部41から第1のオイル通路40を通って円形孔38内に送られたオイルは、ロッカーシャフト37内のオイル孔43を通って連通孔44からロッカーシャフト外に供給される。なお、この第1のオイル通路40は、第2のロッカーシャフト支持部35に設けることができる。この場合、第1のロッカーシャフト支持部34の円形孔38を貫通孔とし、第2のロッカーシャフト支持部35の円形孔39を非貫通孔とする。また、ロッカーシャフト37は、オイル孔43の開口端が第2のロッカーシャフト支持部35内に位置するように、ロッカーハウジング単体31に取付けられる。
【0037】
第2のロッカーシャフト支持部35の基部35aは、
図7に示すように、凸部35bより両側に突出する形状に形成されている。この基部35aの両端部分には、シリンダ孔45がそれぞれ形成されている。これらのシリンダ孔45は、カムシャフト14の軸線と平行に延びる非貫通孔からなり、第1のロッカーシャフト支持部34が位置する一方に向けて開口している。これらのシリンダ孔45には、上述した切替機構3の一部を構成する油圧ピストン46が移動自在に嵌合している。この油圧ピストン46は、請求項6記載の発明でいう「押圧子」に相当するものである。
【0038】
また、シリンダ孔45には第2のオイル通路47が接続されている。この第2のオイル通路47は、基部35aの一端側に位置する吸気弁側のシリンダ孔45と、他端側に位置する排気弁側のシリンダ孔45とをシリンダヘッド4の油圧供給部48に接続している。油圧供給部48は、支持壁部32を利用して構成されている。
油圧ピストン46は、
図4に示すように、シリンダ孔45から突出する押圧用プレート46aを有している。この押圧用プレート46aは、シリンダ孔45よりカムシャフトの軸線とは直交する方向に大きく形成されている。
ロッカーハウジング単体31の連結部36は、カムシャフト14の軸線方向に延びる板状に形成されている。この連結部36には、上述した支持壁部32の円形開口(不図示)に同心的に連なるよう円形穴36aが貫通形成されている。
【0039】
ロッカーアーム7は、
図4および
図8に示すように、複数の部材によって形成されている。これらの複数の部材は、第1のロッカーアーム52と、第2のロッカーアーム54と、第1〜第3の切替ピン55〜57などである。第1のロッカーアーム52は、カム12に接触するローラ51を有している。第2のロッカーアーム54の揺動端部には、吸気弁8または排気弁9を押圧する弁押圧部53が設けられている。第1〜第3の切替ピン55〜57は、これらの第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54とを選択的に連結するためのものである。
【0040】
第1のロッカーアーム52は、
図9に示すように、ロッカーシャフト37に揺動自在に支持される第1のアーム片52aおよび第2のアーム片52bと、これらの第1、第2のアーム片52a,52bどうしを連結する2つの連結片52c,52dとによって正面視U字状に形成されている。ロッカーシャフト37は、第1のアーム片52aと第2のアーム片52bとに形成された貫通孔58に摺動自在に嵌合している。
【0041】
第1のアーム片52aと第2のアーム片52bとにおけるロッカーシャフト37に支持される一端部であって、ロッカーシャフト37の軸線方向から見てカムシャフト14を指向する端面には、
図3および
図9に示すように、突起59が設けられている。
第1のアーム片52aと第2のアーム片52bとの間には、ローラ51が挿入されている。このローラ51は、カム12に接触する回転体からなるカムフォロアを構成するものである。
【0042】
このローラ51は、第1のアーム片52aと第2のアーム片52bの軸孔61に嵌合した支軸62に図示していないニードル軸受を介して回転自在に支持されている。支軸62の軸線は、ロッカーシャフト37の軸線と平行である。このローラ51の外周面の一部は、
図8に示すように、ロッカーシャフト37と対向している。このロッカーシャフト37におけるローラ51と対向する部位には、上述した3つの連通孔44のうち中央の連通孔44が設けられている。
【0043】
すなわち、ロッカーシャフト37内に送られたオイルの一部は、この中央の連通孔44から噴出してローラ51の外周面に付着し、ローラ51とカム12との接触部分を潤滑する。3つの連通孔44のうち両側の連通孔44は、ロッカーシャフト37における第2のロッカーアーム54を貫通する部位に設けられている。このため、第2のロッカーアーム54とロッカーシャフト37との接触部分は、これらの2つの連通孔44から流出するオイルによって潤滑される。
【0044】
支軸62の軸心部には、貫通孔からなる第1のピン孔63が形成されている。この第1のピン孔63には、第1の切替ピン55がロッカーシャフト37の軸線方向へ移動自在に嵌合している。第1の切替ピン55は、円柱状に形成されている。また、この第1の切替ピン55は、第1のロッカーアーム52の幅(第1のロッカーアーム52におけるロッカーシャフト37の軸線方向の長さ)より予め定めた長さだけ長く形成されている。この第1の切替ピン55における第1のロッカーアーム52から突出する凸部64(
図11参照)は、後述する第2のロッカーアーム54の凹部65内に収容されている。
【0045】
第1のロッカーアーム52の連結片52dと、シリンダヘッド4との間には、
図3に示すように、復帰用ばね部材66が設けられている。このばね部材66は、ローラ51がカム12に押し付けられる方向、言い換えれば、第1のロッカーアーム52がカム12によって押されて揺動する方向とは逆方向である復帰方向へ第1のロッカーアーム52を付勢している。このため、第1のロッカーアーム52は、カム12によって押されることによりばね部材66のばね力に抗して揺動する。
【0046】
第2のロッカーアーム54は、
図4および
図8に示すように、ロッカーシャフト37に揺動自在に支持された第1のアーム半部71および第2のアーム半部72と、これらのアーム半部71,72どうしを連結する第1の連結部73および第2の連結部74とを有している。この実施の形態による第1、第2のアーム半部71,72と、第1、第2の連結部73,74は、一体成形によって一体に形成されている。ロッカーシャフト37は、第1のアーム半部71と第2のアーム半部72とに形成された貫通孔75内に摺動自在に嵌合している。
【0047】
第1のアーム半部71の中間部分には、
図8に示すように、非貫通孔からなる第2のピン孔81が形成されている。この第2のピン孔81には、詳細は後述するが、第2の切替ピン56が収容される。第2のピン孔81の底には第2のピン孔81の内外を連通する通気孔81aが形成されている。
第2のアーム半部72の中間部分には、貫通孔からなる第3のピン孔82が形成されている。第3のピン孔82には、詳細は後述するが、第1の切替ピン55の一部と第3の切替ピン56とが収容される。第3のピン孔82の一端部(第1のアーム半部71とは反対側に位置する端部)には、サークリップ83が設けられている。このサークリップ83は、請求項6記載の発明でいう「抜け止め部材」に相当するものである。
【0048】
第1のアーム半部71と第2のアーム半部72は、ロッカーシャフト37に揺動自在に支持された状態で第1のロッカーアーム52を軸線方向の両側から挟む位置に配設されている。第2のアーム半部72の中間部であって、カムシャフト14を指向する部位には、
図3および
図4に示すように、突起76が設けられている。一方、カムシャフト14における突起76と対向する部位には、
図4中に二点鎖線で示すように、円盤部77が設けられている。この円盤部77は、カム12のベース円部12aと同一径の円盤状に形成されており、カム12と隣り合う位置に設けられている。
この円盤部77と突起76との間には、
図3に示すように、第2のロッカーアーム54の弁押圧部53がシム19に接触している状態において、隙間d1が形成されている。突起76は、第2のロッカーアーム54が振動等によりカムシャフト14に向けて跳ねて揺動したときに円盤部77に当たり、それ以上の第2のロッカーアーム54の揺動を規制する。
【0049】
突起76は、
図10に示すように、第1のロッカーアーム52のローラ51がカム12のベース円部12aに当接している状態で、カムシャフト14の円盤部77とわずかな隙間d2を介して近接している。この隙間d2は、
図3に示す隙間d1より狭い。また、
図10に示す状態において、第2のロッカーアーム54の弁押圧部53とシム19との間には、バルブクリアランスd3が形成される。
【0050】
第1のアーム半部71と第2のアーム半部72の揺動端部どうしは、第1の連結部73によって互いに連結されている。第1の連結部73の両端部には、吸気弁8または排気弁9のシム19を押圧する弁押圧部53が設けられている。すなわち、この第2のロッカーアーム54は、1気筒あたり2本ある吸気弁8または排気弁9を同時に押すものである。
第1のアーム半部71と第2のアーム半部72におけるロッカーシャフト37に支持される基部どうしは、第2の連結部74によって互いに連結されている。この実施の形態においては、第2の連結部74によって請求項3記載の発明でいう「連結部」が構成されている。
【0051】
第2の連結部74は、
図3に示すように、第1のアーム半部71と第2のアーム半部72とにおけるロッカーシャフト37に支持される一端部に配設されており、カムシャフト14と対向する部位どうしを連結している。また、第2の連結部74は、
図4に示すように、平面視において第1のロッカーアーム52を横切っている。このため、第1のロッカーアーム52が第2のロッカーアーム54に対してカム12に向けて揺動することによって、第1のロッカーアーム52の突起59が第2の連結部74に接近する。この実施の形態においては、第1のロッカーアーム52の突起59と当接するストッパ78(
図3参照)が第2の連結部74の下面(カム12とは反対側の面)に設けられている。
【0052】
突起59は、吸気弁8または排気弁9が閉じている状態で第1のロッカーアーム52がばね部材66のばね力で揺動することによって、ストッパ78に当接する。この突起59がストッパ78に当接すると、それ以降は、ばね部材66のばね力で第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54とが一体となって復帰方向に付勢されるから、この間は第1〜第3のピン孔63,81,82が同一軸線上に整列維持される。従って第1〜第3の切替ピン55〜57は、
図8に示す状態である連結状態に、容易かつ確実に切替えることができる。この連結状態とは、第1の切替ピン55が第1のピン孔63と第3のピン孔82とに跨がる位置に移動し、かつ第2の切替ピン56が第1のピン孔63と第2のピン孔81とに跨がる位置に移動した状態である。
【0053】
このストッパ78は、
図10に示すように、第1のロッカーアーム52の突起59がストッパ78に当接する第1のロッカーアーム52のストッパ当接位置において、カム12の下方の凹空間Sに位置している。この凹空間Sとは、ロッカーシャフト37の軸方向から見て、カムシャフト14のカム12と、第1のロッカーアーム52のローラ51と、ロッカーシャフト37とによって囲まれる空間をいう。以下においては、第1のロッカーアーム52の突起59がストッパ78に当接する状態を単に「ストッパ当接状態」という。
【0054】
第1のアーム半部71における第1のロッカーアーム52と対向する内側面には、
図11に示すように、第1の切替ピン55の凸部64を収容するための凹部65が形成されている。第2のピン孔81は、この凹部65内に開口している。
第2のアーム半部72における第1のロッカーアーム52と対向する内側面には、図示してはいないが、第1のアーム半部71と同様に凹部65が形成されている。第3のピン孔82は、この凹部65内に開口している。第1のアーム半部71の凹部65と、第2のアーム半部72の凹部65とは、ロッカーシャフト37の軸線方向から見て同一位置に、同一形状に形成されている。
【0055】
凹部65は、第2のピン孔81または第3のピン孔82から下方に向けて延びる溝状に形成されており、複数の機能部を有している。ここでいう下方とは、第2のロッカーアーム54が吸気弁8または排気弁9を押して開くときに揺動する方向である。複数の機能部は、第1のロッカーアーム52が第2のロッカーアーム54に対して揺動するときに第1の切替ピン55の両端の凸部64が通る非規制部65aと、この凸部64の移動を規制する規制部65bである。
【0056】
非規制部65aは、所定の条件が満たされた状態で、凸部64の通過を規制することなく第1のロッカーアーム52が第2のロッカーアーム54に対して揺動開始位置と最大揺動位置との間で揺動することを許容する形状に形成されている。所定の条件が満たされた状態とは、第1のロッカーアーム52がロッカーシャフト37に支持されている状態であってかつ第2のロッカーアーム54に対して揺動可能な状態(後述する非連結状態)である。
揺動開始位置とは、カム12のベース円部12aにローラ51が接触しているときの第1のロッカーアーム52の位置である。最大揺動位置とは、ノーズ部12bの最も突出量が多くなる部位がローラ51と接触しているときの第1のロッカーアーム52の位置である。
【0057】
規制部65bは、上述した所定の条件が満たされた状態において、凸部64の通過を規制することにより第1のロッカーアーム52が第2のロッカーアーム54に対して最大揺動位置を越えて揺動することを規制する。すなわち、規制部65bは、
図11中に二点鎖線によって示すように、第1のロッカーアーム52が最大揺動位置を越えて揺動するときの凸部64の移動軌跡と交差する形状に形成されている。
【0058】
規制部65bは、溝状を呈する凹部65の一端側に位置する開口部84に形成されている。この開口部84は、第2のロッカーアーム54の下方(カムシャフト14とは反対方向)に向けて開口している。規制部65bは、この開口部84の開口幅が凸部64の外径より大きくなるように形成されている。凸部64は、第1のロッカーアーム52がロッカーシャフト37に支持されていない状態において、この開口部84を通って凹部65に出入りすることができる。すなわち、規制部65bは、第1のロッカーアーム52がロッカーシャフト37に支持されていない状態において、凸部64の通過を許容する形状に形成されている。
第2のロッカーアーム54の第2のピン孔81と第3のピン孔82は、
図8に示すように、第1のアーム半部71と第2のアーム半部72を横切るようにロッカーシャフト37の軸線と平行に延びている。
【0059】
第2のピン孔81および第3のピン孔82の中心線とロッカーシャフト37の軸心との間の距離は、第1のロッカーアーム52の第1のピン孔63の中心線とロッカーシャフト37の軸心との間の距離と一致している。言い換えると、第1〜第3のピン孔63,81,82は、第1のロッカーアーム52および第2のロッカーアーム54におけるロッカーシャフト37から等距離の位置に形成されている。
【0060】
すなわち、第1のピン孔63と、第2のピン孔81および第3のピン孔82とは、第1のロッカーアーム52の揺動角度と第2のロッカーアーム54の揺動角度とが予め定めた角度となった状態で同一軸線上に位置付けられる。この予め定めた角度とは、吸気弁8または排気弁9が閉じているとき(バルブリフト量が0になるとき)の角度であり、上述したストッパ当接状態のときの角度である。
【0061】
第2のピン孔81と第3のピン孔82の孔径は、第1のピン孔63の孔径と一致している。
第2のピン孔81には、
図8に示すように、第2の切替ピン56が移動自在に嵌合しているとともに、この第2の切替ピン56を第1のロッカーアーム52に向けて付勢するばね部材85が設けられている。第2の切替ピン56は、有底円筒状に形成されており、底部が第1の切替ピン55と対向する状態で第2のピン孔81内に挿入されている。
【0062】
第2の切替ピン56の長さは、
図8中に二点鎖線で示すように、第2のピン孔81内に収容可能な長さである。ばね部材85は、第2の切替ピン56の内側底部と第2のピン孔81の底部との間に設けられている。第2の切替ピン56は、ばね部材85のばね力によって押され、第1〜第3のピン孔63,81,82が同一軸線上に位置するストッパ当接状態において、第1の切替ピン55の一端部に押し付けられる。このストッパ当接状態において、第1の切替ピン55は、第2の切替ピン56によって他端部側へ押される。
【0063】
第3のピン孔82には、第3の切替ピン57が移動自在に嵌合している。この実施の形態においては、この第3の切替ピン57と、上述した第1の切替ピン55および第2の切替ピン56とによって、本発明でいう「切替ピン」が構成されている。第3の切替ピン57は、第1の切替ピン55と対向する大径部57aと、この大径部57aから第2のロッカーアーム54の外に向けて突出する小径部57bとを有している。大径部57aと小径部57bとの境界部分には段部86が形成されている。
【0064】
この小径部57bの外径は、第3のピン孔82に設けられているサークリップ83の内径より小さい。小径部57bの先端面は、上述した油圧ピストン46の押圧用プレート46aと対向している。
第3の切替ピン57の軸線方向の長さは、
図8中に二点鎖線で示すように、第3のピン孔82の長さより僅かに短い。このため、油圧ピストン46が第2のアーム半部72に当たるまで前進したとしても、第3の切替ピン57の全体が第2のアーム半部72の中に収容され、第1の切替ピン55の両端部が第1のロッカーアーム52から略均等に突出する。
【0065】
第1〜第3の切替ピン55〜57は、ストッパ当接状態であって、かつ油圧ピストン46が非作動状態であるときに、ばね部材85のばね力で油圧ピストン46側に押され、
図8中に実線で示す連結位置に移動する。油圧ピストン46の非作動状態とは、油圧ピストン46に油圧が加えられていない状態である。また、連結位置とは、段部86がサークリップ83に当接することにより第3の切替ピン57の移動が規制される位置である。この状態において、第1の切替ピン55は、第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54の第2のアーム半部72とに跨がって位置する。また、第2の切替ピン56は、第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54の第1のアーム半部71とに跨がって位置する。このように第1〜第3の切替ピン55〜57が連結位置に位置付けられることにより、第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54とが互いに連結され、ロッカーシャフト37を中心にして一体に揺動可能になる。
【0066】
このため、カム12の回転が第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54とによって往復運動に変換され、吸気弁8または排気弁9が駆動される。このとき、第3の切替ピン57は、サークリップ83に押し付けられて連結位置に保持される。これとともに、第3の切替ピン57は、油圧ピストン46の押圧用プレート46aとの間にクリアランスが形成される状態で第2のロッカーアーム54の揺動に伴って移動する。押圧用プレート46aは、このように第1、第2のロッカーアーム52,54が揺動したとしても一部が必ず第3の切替ピン57と対向する大きさに形成されている。
【0067】
油圧ピストン46は、
図4に示すように、非作動状態のときに第1〜第3の切替ピン55〜57が連結位置に移動することを妨げることがない位置に後退する。この油圧ピストン46が非作動状態から油圧が加えられて作動状態になると、第1〜第3の切替ピン55〜57が油圧ピストン46によって押され、
図8中に二点鎖線で示す非連結位置に移動する。このとき、油圧ピストン46の押圧用プレート46aは、第2のアーム半部72に当接する。第3の切替ピン57は、第3のピン孔82内に収容される。第1の切替ピン55の両端は、第1のロッカーアーム52から僅かに突出し、第1、第2のアーム半部71,72の凹部65内に入る。第2の切替ピン56は、第2のピン孔81内に収容される。
【0068】
このように第1〜第3の切替ピン55〜57が非連結位置に位置することにより、第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54の連結状態が解除される。この場合は、第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54とが個別に揺動可能になるから、
図3に示すように、第1のロッカーアーム52がカム12によって押されて揺動するだけで、第2のロッカーアーム54は揺動することがない。この場合、吸気弁8または排気弁9が閉じた状態に保たれるから、気筒が休止状態になる。
この実施の形態による第1〜第3の切替ピン55〜57の外径は、
図3に示すように、第1のロッカーアーム52が第2のロッカーアーム54に対して揺動したとしても、軸線方向から見て一部が常に互いに対向する大きさに設定されている。
【0069】
この実施の形態による動弁装置1に設けられている切替機構3は、上述した第1〜第3の切替ピン55〜57を軸線方向に移動させることにより、第1、第2のロッカーアーム52,54が連結される連結状態と、これら両ロッカーアーム7が分離される非連結状態とを切替えるものである。
この切替機構3は、
図4に示すように、第1の押圧部91と第2の押圧部92とを有している。第1の押圧部91は、第1〜第3の切替ピン55〜57における軸線方向の一端(第2の切替ピン56)を軸線方向の他端側に向けて押す。第2の押圧部92は、第1〜第3の切替ピン55〜57における軸線方向の他端(第3の切替ピン57)を軸線方向の一端側に向けて押す。この実施の形態による第1の押圧部91は、第2のロッカーアーム54に設けられたばね部材85によって構成されている。
【0070】
第2の押圧部92は、シリンダヘッド4に固定されたロッカーハウジング単体31と、このロッカーハウジング単体31に移動自在に設けられて第3の切替ピン57の先端を押す油圧ピストン46とによって構成されている。この実施の形態においては、ロッカーハウジング単体31が請求項6記載の発明でいう「支持部材」に相当する。
【0071】
次に、第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54の製造方法を
図12〜
図14によって説明する。この製造方法は、後述する第1〜第4のステップによって実施される。第1のステップにおいては、
図12に示すように、第1のロッカーアーム52の軸孔61に円筒状治具93が支軸62の代わりに嵌合される。円筒状治具93の外径は、第1のロッカーアーム52の軸孔61に嵌合する外径である。円筒状治具93の内径は、第2のロッカーアーム54の第2のピン孔81や第3のピン孔82の内径と一致する。
【0072】
第2のステップにおいては、
図13に示すように、第2のロッカーアーム54の第2、第3のピン孔81,82と、円筒状治具93の中空部93aとに、第1〜第3の切替ピン55〜57の代わりに1本の棒状治具94が嵌合される。棒状治具94は、中空部93a(第1のピン孔63)、第2、第3のピン孔81,82内に嵌合する外径の円柱状に形成されている。第2のステップが実施されることにより、第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54とが棒状治具94を介して互いに連結される。
【0073】
第3のステップにおいては、
図13に示すように、第1のロッカーアーム52が第2のロッカーアーム54のストッパ78に当接した状態で保持される。
第4のステップにおいては、
図14に示すように、第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54とにロッカーシャフト37を通すための貫通孔58,75をドリル95で共加工する。言い換えれば、保持された第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54とにドリル95が通され、ロッカーシャフト37を通すための穴(貫通孔58,75)が加工される。
このような製造方法を採用することにより、エンジン組み立て状態において、第1のロッカーアーム52が第2のロッカーアーム54のストッパ78に当接したとき、すなわち吸気弁8または排気弁9が閉じているとき、各ロッカーアーム52,54のピン孔(第1〜第3のピン孔63,81,82)が高精度に整列する。
【0074】
このように貫通孔58,75を形成し、棒状治具94を第1、第2のロッカーアーム52,54から引き抜いた後に、ロッカーアーム7の組立作業が行われる。この組立作業は、第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54とを仮に組み合わせる仮組ステップと、両ロッカーアーム52,54にロッカーシャフト37を通す連結ステップとによって行われる。
仮組ステップにおいては、ローラ51および第1の切替ピン55が組み付けられた第1のロッカーアーム52と、第2、第3の切替ピン56,57およびばね部材85が組み付けられた第2のロッカーアーム54とを組み合わせて一つの組立体を形成する。この際、第1の切替ピン55の凸部64を第2のロッカーアーム54の凹部65内に開口部84から挿入する。
【0075】
連結ステップにおいては、凸部64が凹部65内に位置している状態で両ロッカーアーム7をロッカーハウジング単体31の第1のロッカーシャフト支持部34と第2のロッカーシャフト支持部35との間に挿入し、これらの部材にロッカーシャフト37を通す。このように第1、第2のロッカーアーム52,54がロッカーシャフト37に支持されると、第1の切替ピン55が凹部65内から出ることができなくなるから、第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54とが組み合わせられた状態に保たれる。このため、ロッカーアーム7は、ロッカーハウジング単体31に取付けられた状態で取扱うことが可能になる。このロッカーアーム7は、ロッカーハウジング単体31をシリンダヘッド4の支持壁部32に固定用ボルト33により取付けることによって、シリンダヘッド4に組み付けられる。
【0076】
このように構成されたエンジン2の動弁装置1において、第1のロッカーアーム52は、ばね部材66によってカム12に接近する方向へ付勢される。吸気弁8または排気弁9が閉じている状態においては、第1のロッカーアーム52がばね部材66のばね力で揺動して第2のロッカーアーム54のストッパ78に当接する。このとき、第1〜第3のピン孔63,81,82が同一軸線上に位置付けられるとともに、全ての切替ピン55〜57が同一軸線上に位置付けられる。
第1〜第3の切替ピン55〜57は、同一軸線上に保持されていると、連結位置と非連結位置との間を容易に移動することができる。
したがって、この実施の形態によれば、第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54とが一体化される連結状態と、分離する非連結状態とを切替えるときに第1〜第3の切替ピン55〜57が容易かつ確実に移動するエンジンの動弁装置を提供することができる。
【0077】
この実施の形態による動弁装置1においては、第1のロッカーアーム52がストッパ78に当接することによりばね部材66のばね力がストッパ78を介して第2のロッカーアーム54に伝達される。そして、第2のロッカーアーム54がばね部材66のばね力によって復帰方向に付勢される。
このため、この実施の形態によれば、第1のロッカーアーム52が第2のロッカーアーム54より復帰方向へ過度に揺動することを防ぐことができる。
【0078】
この実施の形態によるストッパ78は、この第2のロッカーアーム54の基部に位置する第2の連結部74を利用して設けられている。
このため、専らストッパ78として機能する部材を第2のロッカーアーム54に取り付ける場合と較べて省スペース化を図ることができるとともに、ストッパ78を簡易に得ることができる。
したがって、この実施の形態によれば、軽量化と低コスト化とを図りながらストッパ78を備えることができる。しかも、ストッパ78を兼用した第2の連結部74が基部に設けられているから、ロッカーシャフト回りの慣性モーメントを小さくできる。このため、この第2のロッカーアーム54は、ストッパ78を備えているにもかかわらず、高速で揺動することが可能なものとなる。
なお、ストッパ78を設ける位置は、第2の連結部74に限定されることはない。すなわち、ストッパ78は、第2のロッカーアーム54の第1、第2のアーム半部71,72や第1の連結部73に設けることができる。
【0079】
この実施の形態による第1のロッカーアーム52は、カム12が接触するカムフォロア(ローラ51)を有している。第2の連結部74は、第1のロッカーアーム52がストッパ78に当接する第1のロッカーアーム52のストッパ当接位置において、ロッカーシャフト37の軸方向から見て、カムシャフト14のカム12と、カムフォロア(ローラ51)と、ロッカーシャフト37とによって囲まれる凹空間Sに位置している(
図10参照)。
このため、この実施の形態によれば、ストッパ78がデッドスペース内に設けられるから、動弁装置1が大型化することなくストッパ78を装備することができる。
【0080】
この実施の形態において、第2のロッカーアーム54における第1のロッカーアーム52と対向する側壁には、第1の切替ピン55の凸部64が通過する凹部65が形成されている。凹部65は、非規制部65aと規制部65bとを有している。第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54とがロッカーシャフト37に支持されている組立状態においては、第1のロッカーアーム52が第2のロッカーアーム54に対して揺動したとしても、第1の切替ピン55が凹部65の外に出ることはできない。
【0081】
このため、組立状態で第1の切替ピン55が第1のロッカーアーム52から外れることはないから、この切替ピン55が外れることを防ぐための抜け止め構造が不要になる。抜け止め構造を採る必要がないと、第1のロッカーアーム52の軽量化、薄肉化、構造の簡素化を図ることができるから、製造コストを低く抑えることが可能になる。また、第1のロッカーアーム52が軽量化されると、第1のロッカーアーム52を付勢するばね部材66のばね力を小さく設定することが可能になるから、フリクションロスを低減することができる。特に、この実施の形態によれば、ローラ51を回転自在に支持する支軸62が外れることがないから、この支軸62が抜けることを防ぐための部材を第1のロッカーアーム52に圧入したり、第1のロッカーアーム52にかしめによって固定する作業が不要になる。すなわち、第1のロッカーアーム52が変形するような加工を施すことなく支軸62の抜け止めを図ることができるから、第1のロッカーアーム52を高い精度で形成することができる。
【0082】
また、第1の切替ピン55が凹部65内に入る長さに形成されていると、第1の切替ピン55の製造誤差の影響を受けることがなくなるという利点もある。この理由は、凹部65の深さ分だけ誤差を許容することができるからである。製造誤差は、凹部65の深さより遙かに小さいから、誤差の影響がなくなる。
【0083】
この実施の形態による第2のロッカーアーム54は、第3の切替ピン57の段部86に接触するサークリップ83を備えている。
このため、サークリップ83で第3の切替ピン57の抜け止めを行うことができるから、この第3の切替ピン57を第2のロッカーアーム54に組付ける作業を容易に行うことができる。また、油圧ピストン46が非作動状態で第1〜第3の切替ピン55〜57が連結位置にあるとき、第3の切替ピン57は第2のロッカーアーム54と共に上下に揺動する。しかし、その際、第3の切替ピン57が不必要に油圧ピストン46に押し付けられることがない。このため、この第3の切替ピン57と油圧ピストン46との接触部が磨耗し難い。
【0084】
この実施の形態によるロッカーアームの製造方法によれば、第1のロッカーアーム52に形成されている軸孔61の孔径が第2、第3のピン孔81,82より大きいにもかかわらず、組立状態においてはこれらの孔が正確に同一軸線上に位置するように、第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54とが形成される。ここでいう組立状態とは、第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54とがロッカーシャフト37に支持されかつ第1のロッカーアーム52がストッパ78に当接した状態である。したがって、このロッカーアームの製造方法によって形成されたロッカーアーム7を使用して動弁装置1を組み立てることにより、第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54とが一体化する形態と分離する形態との切替えをより一層容易かつ確実に行うことができる。
【0085】
(第2の実施の形態)
本発明に係るエンジンの動弁装置は、
図15および
図16に示すように構成することができる。
図15および
図16において、
図1〜
図14によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
この実施の形態による第2のロッカーアーム54は、第1のカムフォロア101と第2のカムフォロア102とを備えている。これらのカムフォロア101,102は、それぞれ第1のロッカーアーム52のローラ51と同径のローラによって構成されている。
【0086】
第1のカムフォロア101は、第1のアーム半部71に形成された穴103に挿入され、第1の筒状軸104に図示していない軸受を介して回転自在に支持されている。第1の筒状軸104は、有底円筒状に形成されており、第1のアーム半部71に圧入された位置決め用のピン105によって第1のアーム半部71に固定されている。この第1の筒状軸104の中空部内には、第2の切替ピン56が移動自在に嵌合しているとともに、この第2の切替ピン56を付勢するばね部材85が収容されている。
【0087】
第2のカムフォロア102は、第2のアーム半部72に形成された穴106に挿入され、第2の筒状軸107に図示していない軸受を介して回転自在に支持されている。第2の筒状軸107は、第2のアーム半部72を貫通する円筒状に形成されている。この第2の筒状軸107は、第2のアーム半部72に圧入された位置決め用のピン108によって第2のアーム半部72に固定されている。この第2の筒状軸107の内周部には、第3の切替ピン57が移動自在に嵌合しているとともに、第3の切替ピン57の移動を規制するサークリップ83が設けられている。
【0088】
第1の筒状軸104と第2の筒状軸107は、所定の状態で第1のロッカーアーム52の支軸62と同一軸線上に位置する。ここでいう所定の状態とは、第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54とが共にロッカーシャフト37に支持され、かつ第1のロッカーアーム52がストッパ78に当接した状態である。
一方、この実施の形態によるカムシャフト14は、
図16に示すように、第1のロッカーアーム52のローラ51に接触する第1のカム111と、第2のロッカーアーム54の第1、第2のカムフォロア101,102に接触する2つの第2のカム112とを備えている。第1のカム111は、ノーズ部111aとベース円部111bとを有している。第2のカム112は、ノーズ部112aとベース円部112bとを有している。
第2のカム112のノーズ部112aの突出量は、第1のカム111のノーズ部111aの突出量より少ない。
【0089】
この実施の形態においては、第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54とが連結されて一体化することにより、吸気弁8または排気弁9が第1のカム111によって駆動される。また、第1のロッカーアーム52と第2のロッカーアーム54とが分離することにより、吸気弁8または排気弁9が第2のカム112によって駆動される。
このため、この実施の形態によれば、吸気弁8または排気弁9のバルブリフト量が多くなる第1の駆動形態と、吸気弁8または排気弁9のバルブリフト量が少なくなる第2の駆動形態とを切替えることが可能なエンジンの動弁装置を提供することができる。
【0090】
上述した第1、第2の実施の形態を採るときに用いたロッカーハウジング単体31は、第1、第2のロッカーシャフト支持部34,35と連結部36とが一体に形成されたものである。しかし、ロッカーハウジング単体31のこれらの3つの機能部は、個別に形成することができる。この場合、連結部36となる部材に第1のロッカーシャフト支持部34となる部材と、第2のロッカーシャフト支持部35となる部材とをボルト(図示せず)で結合することにより、ロッカーハウジング単体31を形成することができる。
【0091】
また、上述した実施の形態においては、切替機構3の押圧子を油圧ピストン46によって構成する例を示した。しかし、押圧子は、図示してはいないが、揺動式のレバーによって構成することができる。このレバーは、一方の揺動端部が第3の切替ピン57に接触しかつ他方の端部が油圧ピストン46に接触する状態でロッカーハウジング単体31に揺動自在に支持される。この構成を採ることにより、油圧ピストンの設置位置の自由度が向上する。