(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
半導体基板の集積回路が形成された面をX−Y平面、前記半導体基板の厚さ方向をZ軸と定義した場合、前記半導体基板の内部領域においてZ軸方向に貫通する中空部を有し、かつ該中空部における前記半導体基板の側面部側を受光面とする光電変換部を有する光電変換素子。
半導体基板の集積回路が形成された面をX−Y平面、前記半導体基板の厚さ方向をZ軸と定義した場合、前記半導体基板の外周部の形状が、X−Y平面視座上円形であり、かつ前記半導体基板の外周部の側面部全体を受光面とする光電変換部を有する光電変換素子。
半導体基板の集積回路が形成された面をX−Y平面、前記半導体基板の厚さ方向をZ軸と定義した場合、半導体基板の内部領域においてZ軸方向に貫通する中空部を有し、かつ該中空部における半導体基板の側面部側を受光面とする光電変換部を有する光電変換素子、又は半導体基板の外周部の側面部側を受光面とする光電変換部を有する光電変換素子であって、前記受光面の形状がX−Y平面視座上滑らかな波状の凹凸形状であることを特徴とする光電変換素子。
前記光電変換部が前記受光面の直下にある前記半導体基板の側面部から内部方向に向かって延在して形成されている請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の矩形の外形形状からなる半導体光電変換素子や撮像素子をそのまま適用すると、分光分析装置の小型化や軽量化が困難となり、或いはこれら素子の使用環境等が著しく制約される。しかしながら、このような素子の外形上の制約を解消し、かつ素子の性能や信頼性低下を伴わない構造及びその製造方法についてはなんら有効な解決手段が見出されていない。このように、光電変換素子の高機能化、小型化に加え、各種分光分析装置内に組み込みやすい素子形状を実現する必要がある。また、使用する半導体、例えばシリコン基板を採用すると、その物性上の制約から、900nm(ナノメートル)以上の長波長光に対する感度が急激に低下する問題があり、近赤外光(NIR)における使用には課題が認められた。同様に、X線等の高エネルギー線に対する感度も低いことから、医療画像機器等においてはシンチレータの発光を利用することが多い。さらに、半導体基板側面部を受光面とする光電変換素子においても、駆動電圧を低電圧化する必要がある。また、光源エネルギーを有効活用し、外光やノイズの影響を排除することにより微弱光に対する感度を高める必要がある。
【0006】
温度・湿度・振動等に対する信頼性を向上させた光電変換像素子であって、様々な被測定物、例えば、血液等の液体や空気や排気ガス等の気体などの非固定物或いは流動性のある被測定物に対しても容易に分光分析を行える光電変換素子を実現する。また、例えば、被測定物が液体である場合に、専用の容器にその液体を採取するまでもなく、非接触、即ち無線通信により外部から情報を送受信することを可能にする。さらに、医療用途の分光分析装置においては、患者の苦痛軽減のため、非侵襲の測定・検査装置を提供する必要がある。
【0007】
さらに近年、撮像装置や分光分析装置における、空間分解能、エネルギー分解能に加え、時間分解能の向上が求められている。特に、時間分解能については、使用する光電変換素子の性能に依存するため、例えば、X線コンピュータトモグラフィー(CT)装置等の大型画像診断装置における時間分解能の向上は困難であった。多数の光電変換素子部品を立体的に配置する必要があるため、使用する光電変換素子の応答性能や配線長の影響を受けやすいためである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
光電変換素子を構成する半導体基板の内部領域において貫通する中空部を有し、かつ中空部における半導体基板の側面部側を受光面とする。
【0009】
光電変換素子を構成する半導体基板の外周部の形状が、平面視座上円形であり、かつ半導体基板の外周部の側面部側を受光面とする。
【0010】
中空部の周囲の半導体基板上であって平面視座上、中空部を取り巻くように非接触通信用コイルを形成した光電変換素子とする。
【0011】
光電変換素子を構成する半導体基板の内部領域において貫通する中空部を有し、かつ中空部における半導体基板の側面部側を受光面とする光電変換素子、又は半導体基板の外周部の側面部側を受光面とする光電変換素子において、受光面の形状を平面視座上滑らかな波状の凹凸形状とする。
【0012】
受光面の直下にある半導体基板の側面部から半導体基板の内部方向に向かって光電変換領域を形成した光電変換素子とする。
【0013】
光電変換素子を構成する半導体基板がシリコン基板であり、光電変換領域にゲルマニウムを含むSiGe領域を設ける。また、X線やガンマ線の検出においては、シンチレータを半導体基板側面部の受光面上に積層する。シンチレータを積層した光電変換素子及びタイムオブフライト(TOF)信号処理部を有するポジトロンエミッショントモグラフィー装置を構成する。
【0014】
光電変換素子を複数枚積層し、積層方向に隣接する二以上の浮遊拡散層領域を電気的に接続した積層型光電変換素子とする。
【0015】
半導体基板側面部上に画素電極、光導電膜及び対向電極をこの順に積層した受光面を有する光電変換素子とする。
【0016】
半導体基板側面部にある受光面上にマイクロレンズ又は光導波路、或いはこれらの組み合わせを積層した光電変換素子とする。
【0017】
光電変換素子の内部領域に半導体基板の厚さ方向に貫通する中空部を受光面とするため、予めレーザ光を中空部の形状に沿って半導体ウエーハ内部に照射し熱的な改質層を形成し、改質層を起点に中空部を応力により割断し中空部を形成後、ダイシング装置を用い、縦、及び横のスクライブラインに沿って個別の光電変換素子に個片化する。
【0018】
光電変換素子の内部領域に半導体基板の厚さ方向に貫通する中空部を形成し、中空部受光面上に画素電極を形成した複数のウエーハを積層し、さらに画素電極上に光導電膜を形成し、その上に対向電極を形成後、ダイシング装置を用いて縦、及び横のスクライブラインに沿って個別の光電変換素子に個片化する。
【0019】
分光分析装置において、光電変換素子の中空部における半導体基板側面部を受光面とする光電変換領域が中空部を取り囲むように形成され、光電変換素子の中空部内に湾曲した被検査物質輸送チューブ、及び被検査物質輸送チューブ内の被検査物質の光吸収或いは光散乱、又は被検査物質に対する光励起に起因する発光を観測するための光源部とを設けた。
【0020】
分光分析装置において、中空部における半導体基板の側面部側を受光面とする光電変換部が二か所設けられ、かつ中空部内に入射する光を発生させる光源、及び中空部を貫通する方向に被測定物を貯留するセル、被測定物を輸送するチューブ、或いは被測定物を固定又は保持する保持部のいずれかを有する。
【0021】
分光分析装置において、光電変換素子を構成する半導体基板の外周部の形状が、平面視座上円形であり、かつ半導体基板の外周部の側面部を受光面とし、受光面を取り囲む複数の被測定物を固定する試料保持手段、及び該試料保持手段の外側に光源部を配置した。
【0022】
半導体基板の内部領域において貫通する平面視座上円形の中空部を有し、かつ中空部における半導体基板の側面部側を受光面とする光電変換素子であって、半導体基板の外周部の側面形状も平面視座上円形である光電変換素子を平面視座上ドーナツ形状の密閉容器内に格納した分光分析ユニット、及びこれを用いた分光分析装置とする。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1(a)に、第一の実施例に係る光電変換素子100の斜視図を示す。光電変換素子100は、半導体基板、例えば、シリコン基板3を用いて形成されており、その内部領域に中空部1を有している。シリコン基板3の表面周辺部には外部との電気的接続を取るための電極、所謂コンタクトパッド5が配置されている。中空部1は、後述するように、シリコン基板3の表面から底面に向かってシリコン基板が貫通除去された部分であり、かつその側面部に受光部を有している。同図の右側の三次元座標軸に示すように、半導体基板面をX−Y平面とすると、半導体基板の厚さ方向はZ軸と定義される。即ち、中空部1は、シリコン基板面の内部領域においてZ軸方向に向かってシリコン基板材料が貫通除去された領域である。本構造をさらに詳しく説明するため、同図(b)に、
図1(a)における破線矢印A−A’部で示す部位における断面構造の模式図を示す。中空部1の側面は、絶縁体、例えば、シリコン酸化膜7により被覆されている。そのため、この部分が使用時に外部に露出するような状況に置かれても光電変換素子100の信頼性低下を防止することができる。中空部1の側面側から入射した光を光電変換するため、例えば、pn接合型フォトダイオードからなる光電変換領域9が該側面部からシリコン基板3の内部に向かってX−Y平面に平行な方向に延在して形成されている。光電変換領域9の延在距離を入射光の入射方向沿って変えることにより、例えば、可視光から赤外光までの広範囲の検出が可能である。また、本実施例では、単一の光電変換領域9のみから構成されているが、後述するように複数の光電変換領域から構成されていてもよい。同図(c)に、光電変換素子100の回路構成を説明するためのブロック図を示す。光電変換された電気信号は、信号読み出し回路(光電変換領域を複数有する場合は走査回路を含む)9を経て、ノイズ除去等の信号処理回路11に送られる。回路ブロック13は、アナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換回路、回路ブロック15は駆動タイミング発生回路、回路ブロック17はデジタル信号処理回路、回路ブロック19はインターフェース回路である。
【0025】
本構造により、中空領域の限定された空間内に配置した測定対象物からの透過光、散乱光、発光等を効率的に検出することができる。そのため、レンズ等の集光光学系やミラーを簡略化、或いは不要とすることも可能になる。さらに、例えば、単一のフォトトランジスタのようなディスクリート部品を複数使用した場合とは異なり、オンチップのノイズ除去、AD変換、デジタル信号処理等が可能になるので、光信号検出の高感度・高精度化、高速化、小型低消費電力化も同時に実現する。具体的な、応用例として、この中空領域に手指等の人体の一部を挿入し、周囲から近赤外光(NIR)を照射することにより、非侵襲(in-vivo)の血管や血液等の分光分析装置が簡易な構成部品により実現可能になる。
【0026】
図2の(a)乃至(f)は、第一の実施例の変形例である光電変換素子101乃至106
の平面図である。なお、光電変換素子104と105については、破線で囲まれた要部拡大
図104aと105aのみを図示する。光電変換素子100と異なる部分のみを説明するため、中空部1と光電変換部9について説明する。そのため、
図2の(a)乃至(e)については、周辺回路ブロック(11、13、15、17、19)を敢えて図示していない。光電変換素子101の中空部1と光電変換部9は、平面視座上、細長い形状となっている(図(a))。正方形や円形等の場合に比べ、被測定物が薄く長く中空部の側壁に面するので、被測定物からの透過光、散乱光、発光等を効率的に光電変換部に入射させることができるので高感度検出が容易になる。さらに、中空部側面の周辺長と平面視座上の中空部の面積との比率を高めた例が、光電変換素子102である(図(b))。即ち、櫛形や所謂ミアンダー構造にすることにより、上記比率を高めることができるので、例えば、放射性物質やアルファ線を放出するラドンを含む空気等、気体の分光分析にも有効である。
【0027】
光電変換素子103の中空部1と光電変換部9は、平面視座上、多角形であり(図(c))、やはり正方形や円形等の場合に比べ、中空部の周辺長が長くなっている。本図では多角形を図示しているが、その角が湾曲し、平面視座上、滑らかな波状の形状であってもよい。本図では、さらに中空部1の側面を被覆する絶縁膜7、例えば、シリコン酸化膜も図示されている。本構造は、特に粘性が高い被測定物や粒子の形状が大きい被測定物を通過させる場合に好適である。
【0028】
光電変換素子104の要部104a(図(d))に示すように、本変形例では、三種類の光電変換部9a、9b、9cが形成されており、その入射光方向における長さが異なっている。即ち、光電変換部9a、9b、9cが延在する長さは、この順に長くなっている。例えば、光電変換部9aの長さは2乃至4μmであり、光電変換部9bの長さは4乃至10μmであり、光電変換部9cの長さは10乃至50μmである。本構造により、光電変換部9aでは緑色(G)の入射光を、光電変換部9bでは赤色(R)の入射光を、光電変換部9cでは近赤外光(NIR)を効率的に検出することができるので、単一の光電変換素子でありながら複数の波長からなる光源を用いたマルチビーム分光分析装置に適用することができる。
【0029】
光電変換素子105の要部105a(図(e))に示すように、本変形例では、多数の光電変換部9が中空部1を取り囲むように放射状に形成されている。単一の光電変換素子でありながら多数の光電変換部9が被測定物からの透過光、拡散光、発光等を全方向から検出することができる。また、
多数の個別の光電変換部品を組み合わせる場合に問題となる感度バラツキ等を抑制することができるため、高感度かつ高精度の分光分析が容易になるという特段の効果も奏する。そのため、例えば、NIRを用いた拡散光トモグラフィー装置、3Dプリンターにデータを供給する三次元スキャナ、或いは三次元の分光分析装置等に使用する場合に特に好適である。
【0030】
光電変換素子106においては、二組の中空部1と光電変換部9が形成されている。本構造により、例えば、単一の光電変換素子において、二つの被測定物を同時に測定することが可能になる。複数の中空部と光電変換部を有していても、同一の周辺回路ブロックを(11、13、15、17、19)使用できるためである。さらに、複数の個別の光電変換部品を組み合わせる場合に問題となる感度バラツキ等を抑制することができるため、さらに高感度かつ高精度の分光分析が容易になるという特段の効果を奏する。
【0031】
図3(a)に第一の実施例の変形例に係る光電変換素子107の構造を説明するためのX−Y平面図を示す。光電変換素子107は、
図2(e)に示した光電変換素子105の要部105aと同様に、複数の光電変換部9が中空部1を取り囲むように放射状に配置されている。さらにその外周には、周辺回路ブロック11、13、15、17、19、及びマイクロパッド6が同心円状に配置されている。少なくとも中空部の側面は、シリコン酸化膜等の絶縁膜7により被覆されている。本実施形態では、さらに光電変換素子107の外形形状も円形となっている。本構造により、例えば、チューブの内部に光電変換素子を挿入する場合であっても、チューブ内の流体の流れを遮断することなく、気体や液体状の被測定物の分光分析が可能になる。次に破線矢印B−B’部における光電変換領域の断面構造と電荷読み出し回路の一例を
図3(b)に示す。中空部1に面する半導体基板3の側壁部は、既に説明したように、シリコン酸化膜等の絶縁膜7により被覆されている。同様に、半導体基板3の表面と裏面もそれぞれシリコン酸化膜等からなる絶縁膜23及び21により被覆されている。さらに、光電変換部9と絶縁膜23の間、絶縁膜7に面する半導体基板3の表面部、及び絶縁膜21に面する半導体基板3の裏面部には、それぞれ高濃度不純物導入領域28、25、及び27が形成されている。これにより、半導体基板表面の界面状態の影響を最小限に抑えることができるため、界面準位や格子欠陥等に起因するノイズ等を防止することが可能になり、併せて重金属、或いは反応性化学物質等に起因する汚染から光電変換素子を保護し、製品寿命の劣化を防止することができる。さらに本実施例では、半導体基板3の裏面に遮光膜22を積層していている。遮光膜としては、アルミニウム薄膜等が一般的であるが、タングステン等の元素番号の大きい金属を含む材料を使用することにより、受光窓以外から侵入する入射光、例えばX線等による影響を軽減することができる。これにより、隣接する光電変換領域間におけるクロストークやノイズを軽減することができる。また、遮光膜としてタングステンやアルミニウム等の金属元素を含む場合には、その放熱効果により光電変換素子自体の温度上昇を抑制する効果も期待できるので、光電変換素子自体の暗電流を低減し、信号対ノイズ(S/N)比を改善する効果も期待できる。なお、半導体基板3がP型のシリコン基板である場合、光電変換領域9はN型の不純物がドープされて領域であり、上記高濃度不純物導入領域28、25、及び27は、P型の高濃度不純物領域である。
【0032】
読み出しゲート電極29をオンにすることにより、光電変換領域9において発生した信号電荷を浮遊拡散層領域(フローティングディフュージョン又はFDとも呼ぶ)33に転送する。読みだされた信号電荷は、ソースフォロアアンプ(SFA)37により増幅され、サンプルホールド回路(S/H)39に送られる。信号電荷読み出し後、フローティングディフュージョン部33はリセット電極35をオンにすることにより、リセットドレイン31の電位レベルにリセットされる。
【0033】
図4(a)に、第二の実施例に係る光電変換素子108の斜視図を示す。光電変換素子108は、半導体基板、例えば、シリコン基板を用いて形成されており、シリコン基板の外周の側面部を受光窓とする光電変換領域9が形成されている。本構造をさらに詳しく説明するため、光電変換素子108の構造を説明するためのブロック図を
図4(b)に示す。本実施例では、光電変換領域9が光電変換素子108の外周側面部からシリコン基板3の内部に向かって延在して形成されている。即ち、光電変換素子108を取り巻く周囲から入射する入射光を全方位について検出することが可能である。また、既に説明したように、光電変換領域9の延在距離を入射光の入射方向沿って変えることにより、例えば、可視光から赤外光までの広範囲の入射光波長に対し検出が可能である。光電変換素子108の回路ブロックは、第一の実施例と同様なので説明を省略する。光電変換素子108の中央部付近には外部との電気的接続を取るための電極、マイクロパッド6が複数配置されている。光電変換素子108を検査プローブ内に配置することにより、被測定物が貯留された容器内にこの検査プローブを挿入し、外部光源から光を照射することにより被検査物の光吸収や拡散、或いは励起光による発光現象等を、複雑な集光光学系やミラーを介さずに全方向から検出することができるので検出感度が向上する。その結果、分光分析装置の小型軽量化を実現することができる。
【0034】
図4の(c)乃至(e)は、第二の実施例の変形例である光電変換素子109の斜視図((c))、斜視図(c)のC−C’部における断面構造図(d)、及び回路ブロック等を説明するための平面図(e)である。本実施例では、さらに中空部1を有している。また、複数の光電変換領域9が形成されている。本構造により、各光電変換領域9に対応する被測定物、例えばセル(試験管等の容器)に入った血液サンプルを光電変換素子109の周囲に並べることができるため、多数の血液サンプルの高速分光分析が可能になる。また、中空部1を設けたので、例えば、光電変換素子109を回転させながら使用する場合等において回転駆動軸を取り付けることが可能になる。なお、光電変換素子109内の回路ブロックは、第一の実施例と同様なので説明を省略する。
【0035】
図5の(a)、及び(b)は、第二の実施例の変形例である光電変換素子110と光電変換素子111の平面構造図である。
図5(a)に示すように、光電変換素子110の外周部は、平面視座上、凹凸が有り、外周部の周辺長が長くなっている。本図では外周形状が尖った形状で図示されているが、実際にはその角が湾曲し、平面視座上、滑らかな波状の形状であってもよい。本構造は、受光面となる電変換素子110の外周部の実質的な面積が拡大するので、被測定物との接触面積も相対的に増大させることができるので、限られた空間内におかれた被測定物であっても効率的かつ高感度に被測定物の分光分析を行うことができる。
【0036】
図5(b)に示すように、光電変換素子111は、中空部1の周辺領域を除いて、
図4(b)に図示した光電変換素子108と同様の構造からなる。光電変換素子111は、中空部1の周囲の半導体基板上に非接触通信、電力供給等を目的としたコイル10が形成されている。このような非接触通信、電力供給等を可能にするため、光電変換素子111上には、
非接触通信、電力供給回路ブロック41が形成されている。これにより、電気的接点であるコンタクトパッドやマイクロパッドが不要になる。そのため、光電変換素子111そのものをカプセルや密閉したチューブ状の容器内に封じ込めることができるため、ワイヤレス(ケーブルレス)の光電変換モジュールが得られる。その結果、被測定物、その他の化学薬品等による浸食、腐食、汚染等の悪影響を回避でき、かつ使用後の洗浄も極めて容易になるという特段の効果を奏するものである。また、コイルの内側には集積回路や金属部材等が存在しないため、ワイヤレス通信或いは給電に伴う電磁誘導等の悪影響が光電変換素子111に及ぶリスクを軽減することも本実施例により初めて可能になった。なお、
図5(a)及び(b)における回路ブロック11、13、15、17、19等は、既に説明した通りである。
【0037】
図6(a)及び(b)を用いて、第三の実施例について説明する。
図6(a)は、光電変換素子112の要部断面構造であり、同図(b)は、光電変換素子112、及びシリコン(Si)フォトダイオードの分光感度スペクトルである。同図(a)に示すように、本実施形態では、光電変換素子112を構成する半導体基板3の内部に形成した光電変換領域9の近傍にゲルマニウムを含むシリコンゲルマニウム(SiGe)領域12が形成されており、その分布は基板面に平行な方向、即ち入射光方向に沿って延在している。同図の右側に、Si基板厚さ方向(Z軸方向)におけるゲルマニウム含有量(Conc.)の分布を示す。ゲルマニウムの濃度は、Si基板厚さ方向に均一である必要はなく、図示するようにSi基板厚さ方向の中心付近に最大濃度ピークとすればよい。入射光は、同図の左側からSi基板面に入射するためである。このような濃度分布は、ゲルマニウムイオンのイオン注入とその後の熱拡散工程により容易に形成できるメリットがあり、かつ殆どの入射光が高濃度ゲルマニウムを有するSiGe領域12を通るので、光電変換素子112の分光感度スペクトルの長波長化に有効である。
【0038】
図6(b)は、入射光波長(λ)に対する光電変換素子112の相対的分光感度(R.S.)スペクトル(図中のSiGe-PDで示す実線)であり、同様に、Siフォトダイオードの相対的分光感度スペクトル(図中のSi-PDで示す破線)の一例である。ここで、Siフォトダイオードの分光感度スペクトルは、ディスクリート部品であるフォトダイオードによるものである。これに対し光電変換素子112の分光感度スペクトルにおいては、半導体基板3の内部に形成したシリコンゲルマニウム(SixGe1-x)領域12におけるゲルマニウムの含有量を50%(x=0.5)時の吸光係数、及び入射光(
図6(a)における破線矢印)の進行方向におけるシリコンゲルマニウム領域12の長さを50ミクロンメータ(μm)と仮定したものである。シリコン(Si)単体では、波長900nm(ナノメートル)よりも波長が長くなると急激に分光感度が低下する傾向があり、近赤外領域で使用する場合には必ずしも十分な分光感度とは言えなかった。本実施例によれば、シリコン基板内に形成された光電変換領域に入射光方向に沿って、ゲルマニウムを導入することにより、長波長側の分光感度が1000nm以上、例えば1100nm付近まで改善できることが分かる。
【0039】
上記実施例では、主に近赤外光の感度向上を目的に説明したが、シリコンゲルマニウムからなる光電変換領域12は、X線検出感度の改善効果も有する。ゲルマニウムの原子番号は32であり、シリコンの原子番号14よりも大きいからである。また、さらにX線検出感度を向上させるため、光電変換領域9を形成する高濃度不純物領域にも原子番号の大きな元素を導入する。即ち、半導体基板(又はウェル)がP型の場合は、光電変換領域9にヒ素(As)又はアンチモン(Sb)を導入する。従来、深いフォトダイオード形成に好適であったリン(P)(原子番号15)よりも原子番号が大きいからである。これに対し、半導体基板(又はウェル)がN型の場合は、光電変換領域9にガリウム(Ga)又はインジウム(In)を導入する。従来、深いフォトダイオード形成に好適であったボロン(B)(原子番号5)よりも原子番号が大きいからである。これにより、X線に対しても光電変換素子の分光感度スペクトルを制御或いは拡大することが可能になった。
【0040】
図7(a)及び(b)を用い、第四の実施例に係る光電変換素子の要部を説明する。本実施例では、光電変換部の感度、特に700nm以上の長波長感度とクロストークを改善できる新たな素子構造を開示する。
図7(a)は、光電変換素子113の要部であって、X軸方向から見た光電変換素子113のY−Z面に平行な断面図である。図示するように、半導体基板の側面部上に光学部材が積層されている。即ち、光学部材20は、凸形のマイクロレンズであり、光学部材24は、凹形のマイクロレンズであり、光学部材26は、互いの屈折率が異なる部材26−1と26−2から構成される光導波路である。マイクロレンズ等に使用する材料は、入射光の波長等考慮して選択されるが、特に屈折率の波長依存性に留意すべきである。本実施例ではこれら三種類の光学部材をすべて使用した例を図示しているが、光路計算等に基づきいずれかを適宜選択すればよい。その他の構造は、
図6(a)等の実施例で説明した通りである。好ましくは、マイクロレンズの中心部(図中のCLで示す位置)を通った入射光は、半導体基板の厚さ(Z軸)方向において、半導体基板表面から距離d1だけ離れた位置を通過するようにマイクロレンズが配置されている。ここで、d1は、光電変換素子のZ軸方向の厚さdの約1/2である。このように、入射光を効率的に集光することにより感度を向上させることができる点は、従来の光電変換素子上のマイクロレンズの効果と類似するが、本構造ではさらに以下に説明するような特段の効果を奏することに留意すべきである。即ち、従来の光電変換素子においては、入射光が同図のZ軸方向上部から入射し光電変換領域9を通過し、半導体基板底面方向に向かう。しかし、特に700nm以上の長波長光の場合には、シリコン基板を用いるとシリコン基板の厚さd及び光電変換領域9の深さを拡大することにより感度を確保せざるを得ない。そうすると、製造工程は汎用のCMOS製造工程とは異なる技術及び高抵抗基板等の特殊材料の導入が必要になり、また駆動電圧の増大が避けられないという深刻な問題に直面する。仮に、光電変換領域9の深さを深く形成しても、逆に隣接する光電変換領域間においてクロストークが増加するという弊害を生ずる。これに対し、本実施例では、入射光は、光電変換領域9の近傍であってX−Y平面に平行な方向に延在するシリコンゲルマ領域12のみを貫通するように同図左側から右方向に進むので、シリコン基板厚dをさらに拡大するまでもなく、効率的な光電変換と長波長光感度のさらなる向上が可能である。光電変換領域9の上記入射光方向の長さを5〜100μmの範囲に設定し、製造することは通常のパターニング(リソグラフィー)で解決できる問題だからである。
【0041】
図7(b)は、上記
図7(a)の構造の変形例に係る光電変換素子114のX軸方向から見た要部断面図である。本実施例では、マイクロレンズ等の光学部材のZ軸方向における光学中心の位置(CL)、即ち、光電変換素子表面からの距離d2が光電変換素子の厚さdの1/2よりも小さい(d2<d1)ことを特徴としている。本構造により、SiGe形成領域12をZ軸方向においてより浅く形成できるため、イオン注入時のGeイオンの加速エネルギーを下げること、熱処理工程の低温化或いは短時間化が可能になる。また、図示するように、マイクロレンズ等の集光光学系により入射光の光束を細く絞ることにより、Geイオンが最も高濃度に分布している領域を狙って集中的に照射させることができる。本構造により、シリコン基板等の半導体基板自体の厚さdもさらに薄くすることが可能になり、その結果、素子分離領域14の形成、即ち素子分離領域14のZ軸方向のシャロー化も可能になり、クロストーク等のさらなる改善効果、及び近赤外光等の長波長光に対する感度改善も同時に実現する。本実施例では、マイクロレンズ20の直径が光電変換素子の厚さdとほぼ同等であるが、さらに感度を向上させるため、マイクロレンズ20の直径を光電変換素子の厚さdよりも大きく設定することもできる。なお、後述する光導電膜を使用した構成(例えば、
図10(a)、
図11(a)等)においては、所謂、開口率が十分大きいため、感度の観点からは必ずしもマイクロレンズを必要とはしないが、入射光の入射角度依存性や隣接画素への光線侵入等の防止のため、これら光学部材を光導電膜上に積層してもよい。
【0042】
マイクロレンズ等を有する光電変換素子におけるさらに重要な特徴について、
図8(a)を用いて説明する。
図8(a)は、光電変換素子113をZ軸方向から見たX−Y平面図である。半導体基板の側面部には、
図7(a)、(b)と同様にマイクロレンズ20、及び24が形成されている。説明のため、敢えてマイクロレンズを有しない受光部を一か所図示している。マイクロレンズを有している受光部に入射する光の殆どは光電変換部9の延在方向(Y軸)に沿って進むため、隣接する光電変換領域に侵入するリスクが低い。他方、図示するように、マイクロレンズを有しない受光部では、Y軸方向とは異なる入射角で侵入した入射光、特に上述の700nm以上の長波長光の場合、入射光が大きく減衰することなく隣接する複数の光電変換領域において光電荷を発生させるリスクが高くなり、クロストークを増大させる。光電変換領域或いは空乏層領域の近傍において発生した光電荷については、素子分離領域14によって隣接する光電変換領域に漏洩することを防止できることは既に説明したとおりである。光学部材を組み合わせた本構造により、隣接する光電変換領域への入射光そのものの漏洩も抑制できるため、近赤外光等の長波長光の感度改善とクロストークの抑制の双方を同時に解決することが可能になった。
【0043】
図8(b)は、第四の実施例の他の変形例に係る光電変換素子115のX−Y平面図である。本実施例では、マイクロレンズ20は円弧状に連続した状態で中空部1の周囲に沿って半導体基板側面部に取り付けられている。即ち、本実施例におけるマイクロレンズ20の立体形状は「かまぼこ型」或いはレンチキュラーレンズと呼ばれる形状であって、個別に多数個のマイクロレンズを形成或いは積層する必要が無いため製造工程が簡略化できる利点がある。さらに光電変換素子115には、コンタクトパッド等は無く、その代りに非接触通信回路部32、及び図示していない通信用アンテナが形成されている。本構造により、後述する非接触分光分析ユニットを構成することができる
【0044】
図9(a)は、第五の実施例に係る積層型光電変換素子130のY-Z面から見た要部断面図であり、同図(b)は積層型光電変換素子130をY軸方向から見た受光面の構造を説明するための平面図である。図示するように、光電変換素子116−1、116−2、116−3を半導体基板厚さ(Z軸)方向に積層した構造である。半導体撮像素子116−1〜116−3は、既に説明した光電変換素子112、113、114等と同等の素子構造であるが、光電変換素子を複数枚積層したため、各半光電変換素子には貫通電極部(TSV)16が形成され、上層の素子との信号授受、或いは素子間の電気的接続を容易にしている。貫通電極部(TSV)16自体は、絶縁体により、半導体基板から電気的に絶縁されている。図示するように、光電変換素子116−1〜116−3は、光電変換領域9−1、9−2、9−3と読み出しゲート電極29−1、29−2、29−3、及びFD部分33−1、33−2、33−3が形成されている。FD(33−1等)に読み出された光電荷は、既に説明したように図示していないSFAにより増幅されて後段の回路に転送される。後述するように、Z軸方向に隣接する複数のFD(33−1、33−2、33−3)が互いに電気的に接続し、共通のSFAにより読み出される構造としてもよい。本実施例で重要な技術事項は以下のとおりである。即ち、各光電変換素子116−1、116−2、116−3の厚さdを薄く形成できることである。厚さdは、例えば、5〜20μmであって、素子分離領域14を半導体基板裏面の高濃度(p型)不純物層27に接触する程度の深さに形成することがポイントである。厚さdを薄くすることより、使用する半導体基板材料の高抵抗化が避けられ、その結果、駆動電圧をさらに低電圧化することができる。加えて、素子分離領域が半導体基板裏面の高濃度(p型)不純物層27まで到達しているので、前記X−Y平面に平行な方向において隣接する光電変換領域間における信号電荷の漏洩(クロストーク)を防止することができるからである。これに対し、従来の光電変換素子(シリコン基板面に対し垂直方向に入射する構造)においては、赤色光(R)や近赤外光(NIR)の感度を高めるために基板の厚さ方向に光電変換領域を拡大すると、駆動電圧の上昇と基板深部において発生した信号電荷が隣接する画素に漏洩しクロストークが増大するというジレンマを解消することができない。
【0045】
本構造は、素子分離領域14の形成のみならず、光電変換領域9、或いは貫通電極部16等の形成工程も容易にするため、製造面からも有利である。本構造を他の側面から考察する。
図9(b)は、積層型光電変換素子130における受光面側の側面部をY軸方向から見たX−Z平面図である。光電変換素子116−1〜116−3が積層されているため、厚さ(Z軸)方向の寸法Dは、撮像モジュール116−1〜116−3の厚さに接着層厚を加えた寸法となる。一方、各受光面のX方向の寸法Wは、上記撮像モジュール116−1〜116−3における各受光面のX軸方向の寸法と同一寸法である。本実施例では、例えば、破線で囲まれた複数の受光領域からなる画素群36において、好適にはWとDが同等の寸法である。言い換えると、従来、一画素(受光部)の寸法がヨコW、タテDであったものを、タテ(Z軸)方向のみ三分割した構造ということができる。本来、一画素(一受光部)であるため、三分割した画素部、即ち3層の光電変換部からの信号を後述するようなFD部を共有する回路構成により加算して出力すれば良い。画素群36の大きさ(W×D)が、例えば、30μm×30μmの大きさであっても、積層する光電変換素子数を増加させることにより、個々の半導体基板の厚さdを薄層化することができる。その結果、光電荷の読み出し電圧等の駆動電圧を低電圧化することが容易になる。例えば本実施例のように3枚積層した場合には、厚さdを10μm程度とすることができる。このように半導体基板の厚さdを薄層化することにより、素子分離領域、光電変換領域、貫通電極部等の形成も容易になるという特段の効果を奏するものである。
【0046】
図10(a)及び10(b)を用いて、第六の実施例について説明する。
図10(a)は、光電変換素子117の要部断面構造であり、同図(b)は、光電変換素子117、及びシリコン(Si)フォトダイオードの分光感度スペクトルである。同図(a)に示すように、本実施形態では、光電変換素子117の半導体基板側面部側に積層した光導電膜2において光電変換を行うことを特徴としている。即ち、半導体基板3の側面部は、高濃度不純物層25及び絶縁膜7により被覆され、さらにその上部に画素電極4が積層されている。画素電極4は、半導体基板面(X-Y平面)上に形成されている読み出し回路に信号を伝達するため、図示するように90度方向を変えることによりX-Y平面上に配線を延伸した構造となっている。また、画素電極4は、上記半導体基板側面部の外周部に沿って画素(検出部)が二以上設けられている場合には、この画素電極4も同数だけパターニングされている。画素電極4の上部には光導電膜2が積層され、さらに対向電極8が形成されている。対向電極8は、画素電極4とは異なり、画素(検出部)が複数の場合であっても、単一の電極として形成することができるが、入射光を透過する材料であることが求められる。対向電極8は、画素電極4の配線層とは反対の裏面側にその配線を延長することもできる。これにより、画素電極4と対向電極8が互いに短絡することを容易に防止することができる。半導体基板裏面と対向電極8の間には、絶縁膜30が形成されている。光導電膜2に使用する光導電材料には、入射光波長によって最適な材料が選択される。例えば、銅、インジウム、ガリウム、セレンを含む化合物(一般にCIGSと呼ばれる)に代表されるカルコパイライト系の化合物半導体、X線検出等ではセレン、ビスマス、その他原子番号の大きな元素を含む光導電膜、可視光領域ではアモルファスシリコンや有機光導電膜などが知られている。特に、CIGS系の光導電膜は、近赤外領域にも分光感度を有するので、太陽電池以外の用途にも利用されつつある。発生した光電荷は、画素電極4から、読み出しゲート電極29をオンにすることにより、FD部33に読み出され、SFA37により増幅される。FD部33のリセット動作、その他後段の信号処理等は既に説明した実施例と同様である。
【0047】
図10(b)は、CIGSを積層した光電変換素子117の分光スペクトル(図中のCIGSで示す実線)をシリコンフォトダイオードの場合(図中Si-PDで示す破線)と比較したものである。SiGeを導入した
図6(b)のケースに比べ、さらに長波長側である1200nm付近まで分光感度が伸びていることがわかる。これにより、所謂、「生体の窓」と呼ばれる波長700〜1300nmの広い範囲をカバーすることができる。さらに重要な特徴は、本願発明で可能になった円形や中空部を有する半導体基板の側面部上においても、気相成長(CVD)、蒸着、スパッタリングその他の物理・化学的成膜方法を用いることにより、光電変換部を自由に形成できるようになり、シリコンのバンドギャップに起因する分光感度スペクトルの制約を解消できる点にある。
【0048】
図11(a)及び11(b)を用いて、第七の実施例について説明する。
図11(a)は、光電変換素子118−1、118−2、118−3を半導体基板厚さ(Z軸)方向に積層した積層型光電変換素子140の要部断面構造であり、同図(b)はその等価回路図である。光電変換素子118−1、118−2、118−3は、既に説明した光電変換素子117と同等の素子構造であってよいが、以下に詳述するように、積層型光電変換素子140においては光電変換素子118−1、118−2、118−3以外の半導体素子121を積層している。即ち、光電変換素子118−1、118−2、118−3において重複する回路等を半導体素子121上に設けることにより、光電変換素子118−1、118−2、118−3の構造を簡略化或いは最適な素子構造と製造プロセスに特化することが容易になるからである。図(a)に示すように、光電変換素子118−1、118−2、118−3には、画素電極(4−1,4−2,4−3)上に光導電膜2、及びその上に対向電極8が連続して一体形成されている。光導電膜2による光電変換を行う光電変換素子の特徴はすでに
図10(a)、10(b)を用いて説明した通りである。図示すように、FD33−1、33−2、33−3は、貫通電極(TSV)16を介し、光電変換素子間で共有されている。そして、FDに読み出された光電荷は、半導体素子121上のSFA37により増幅されて後段の回路に転送される。
図11(b)の等価回路図に示すように、FD33が共有され、読み出しゲート電極29−1、29−2、29−3を独立に制御できるため、光電変換素子118−1、118−2、118−3のいずれかを選択して読み出すことも、或いは複数の光電変換素子からの信号電荷を加算して読み出すことも可能である。本構造により、半導体基板の厚さ方向の受光面の数(画素数)を増やしてこの方向の解像度を向上させたい場合には、個別に読み出し、入力光強度レベルが低い場合には、加算することにより感度を向上させることができるので、感度、解像度、ダイナミックレンジの拡大等、好適な特性に設定することが可能になる。
【0049】
第八の実施例について、
図12(a)、(b)を用いて説明する。従来、シリコン基板を用いた光電変換素子においては、X線等の高エネルギー入射光に対する検出感度が低いため、光電変換領域となるシリコン基板の厚さを100ミクロンメータ(μm)以上に設定、或いは高抵抗基板を使用するなどの工夫がされてきたが、それでもなお十分でないため、多くの場合、原子番号の大きな元素を含む光導電膜を光電変換部として用いるか、或いはシンチレータと呼ばれるX線入射に対し発光する部材を受光部上に設ける方式が採用されてきた。
図12(a)は、X線等の高エネルギー入射光に好適な光電変換素子119の要部断面構造図である。受光面、即ちX線が入射する方向(Y軸)に垂直な面が半導体基板3の側面部である点は、既に説明した光電変換素子の構造と同等である。さらに、光電変換素子119の側面部には、図示するようにX線シンチレータ44が積層されている。シンチレータ44には、入射するX線のエネルギーにより、適宜最適な材料を選択することができる。このように光電変換素子119は、シンチレータ44を用いているので、光電変換部9のY軸方向の延在距離は、シンチレータの発光波長により決めることができる。例えば、発光波長が可視光の領域にある場合には、上記Y軸方向の延在距離は、高々、10ミクロンメータ(μm)程度で十分である。なお、シンチレータ44の上方であって入射光の光路上にコリメータ(図示せず)を設けた構造であっても良いことは言うまでもない。本構造により、後述するように、被検体(被写体)を取り囲むように受光面を配置することが可能になり、小型のモバイルX線CT装置等を容易に実現可能になる。
【0050】
図12(b)は、上記
図12(a)において説明した光電変換素子119を用いたタイムオブフライト(TOF)機能を有するポジトロンエミッショントモグラフィー装置(PET)150の要部平面図である。図中の破線矢印D−D’で示す位置における断面構造は、
図12(a)において説明した通りである。既に説明した周辺回路ブロック11,13,15,17,19等をまとめて周辺回路部46として図示している。シンチレータ部44は、半導体基板側面部に沿うように配置されている。ポジトロン核種が被検体組織内部で陽電子を放出して崩壊する際に発生するガンマ(γ)線2本が互いに180°方向に発生する現象を利用するものである。陽電子を放出して崩壊する際に発生するガンマ線2本が互いに180°異なる方向に放出され、これを検出するのが従来のPETであるが、本実施例におけるPETはさらにこれら180°方向に放出されたガンマ線の到達時刻の相違から、核種40の正確な位置情報を算出する信号処理部(図示せず)を有するTOF機能を有している。511Kevのエネルギーを持ったガンマ(γ)線の検出に使用するシンチレータ材料には、例えば、Bi3Ge4O12 (BGO)、Gd2SiO5、(GSO)、Lu2SiO5 (LSO)等が知られている。なお、シンチレータ44と被検体との間にコリメータ(図示せず)を配置することにより、入射ガンマ線の指向性を制御しても良い。本構造により、例えば、500ピコ秒以下の時間精度によるTOF計測が容易になり、時間分解能、位置空間分解能を飛躍的に向上させることが可能になった。その結果、被検体に投与された放射性核種(標識薬剤)から放出されるガンマ線を多方面から捕え、三次元データを断層面に逆投影し断層像を再構成する場合において、より鮮明なTOF画像を得ることができるようになった。本実施形態では、湾曲した受光面部が形成する円周が被検体を取り囲む構造であって、単一の半導体基板上に多数の検出部(光電変換部9)を幾何学的に精密配置できるためさらに高い位置精度を実現でき、かつ複数の検出部間における感度バラツキを最小に抑えることができるため、高精度、高感度(低ノイズ)の画像再構成が実現するという特段の効果を奏するものである。
【0051】
図13は、第九の実施例に係る光電変換素子の製造方法を説明するための半導体ウエーハの平面図(a)、及び(b)である。
図13(a)に図示するように、半導体ウエーハ200上に形成される複数の光電変換素子100は、例えば、既に
図1を用いて説明した光電変換素子100等と同様の形状のものである。そのため、光電変換素子100を個片化するには、従来通りダイシング装置を使用して割断するのが最も効率的である。これに対し、光電変換素子100の内部に形成すべき中空部1をどのようにして形成するかが問題となる。通常の、回転刃を用いたダイシング装置では、直線状の切断のみ可能だからである。また、中空部の側面部は、受光面となる部分であり、その表面は可能な限り平滑であることが望ましい。そのため、光電変換素子100の回路や光電変換領域を形成した後に、この中空部の形状に沿って、予めレーザ光を半導体ウエーハ基板面上を移動させながら半導体ウエーハ基板内部に集光させることにより熱的な改質層を形成し、その後この改質層を起点に外部応力により割断し、中空部1を形成する工程を新たに設ける(例えば、特許文献4)。これに対し、
図13(b)に図示するように、半導体ウエーハ210上に形成される複数の光電変換素子108は、例えば、既に
図4(a)、(b)を用いて説明した光電変換素子108等と同様の形状のものである。そのため、光電変換素子108を個片化する場合においてはダイシング装置を使用することができない。このようなケースにおいては、パターニングしたフォトレジストをマスクとして用い、光電変換素子108の周囲或いは不要部分をエッチングにより除去し個片化する方法が有効である。
【0052】
上記半導体ウエーハ200(
図13(a))の製造工程フロー図を
図14(a)に示す。半導体ウエーハ200上に回路部等を形成(Step−1)後、中空部を上記レーザ照射により形成する(Step−2)。その後、ウエーハを積層する工程(Step−4)を加えることも可能であり、光電変換素子100又は積層型光電変換素子を個別の素子に分割、即ちダイシングし(Step−7)、個片化する工程(Step−8)を設ける。光電変換素子100の場合は、外形形状が矩形であり、縦のスクライブライン43と横のスクライブライン45に沿って、半導体ウエーハ200をダイシング装置により割断・個片化することができる。本製造法により、中空部を有する光電変換素子の製造が可能になり、さらに半導体基板側面部を受光面とする光電変換素子であっても、割断面となる受光面の表面の欠損を最小限に食い止めることができる。その結果、感度バラツキやノイズの影響を受けにくい光電変換素子、或いは積層型光電変換素子を高い歩留まりで製造することができる。
【0053】
第十の実施例について、
図14(b)を用い説明する。
図14(b)は、
図11(a)において説明した積層型光電変換素子140の製造工程フロー図である。中空部形成工程まで(Step−1及びStep−2)は、
図14(a)における製造工程と同様であるが、中空部(外周部を受光面とする場合も含む)形成後、受光面上に画素電極を形成し(Step−3)、ウエーハ積層工程(Step−4)後、光導電膜を複数の画素電極上に積層し
(Step−5)、さらにその上に対向電極を形成する(Step−6)。その後、積層したウエーハをダイシングし(Step−7)、個片化する(Step−8)ことを特徴とする。本製造方法により、個々の光電変換素子(例えば、
図11(a)における118−1、118−2、118−3)においてそれぞれ光導電膜等を別個に積層する必要がなく、ウエーハ積層工程後に光導電膜等を形成することができるので、光導電膜の品質劣化等の歩留まり低下要因を最小限に抑えることができ、かつ製造工程の簡略化による製造コストの低減が可能になる。
【0054】
図15(a)及び(b)は、第十一の実施例に係る分光分析装置を説明するための平面図(a)と、同図中の破線矢印E−E’部における断面図(b)である。分光分析装置300に使用する光電変換素子301と光源部49、及び被測定物輸送チューブ47等を含む要部(300a)のみが図示されている。使用している光電変換素子301は、例えば、
図1に示した光電変換素子100等を用いることができる。その中空部1の内部に、湾曲した被測定物輸送チューブ47が配置され、さらにこの湾曲部の内部に光源部49には、例えば発光ダイオード(LED)が配置されている。さらに、図示していないが、要部300aの全体は、外部からは遮光されている。
図15(b)において、光源49から出射した光は、その殆どが被測定物、例えば、血液等に入射するので、効率的に被測定物における光吸収、散乱を測定することができる。また、チューブ状の輸送管を使用することができるので、高速に被測定物の移動や洗浄、パージ等を連続的に行うことができる。本実施例の他の好適な例として、例えば、分光分析を行う部位における被検査物質輸送管内から分光分析後の被検査物質を除去するための洗浄液、或いは、パージガスの貯蔵容器、及びこれら洗浄液、或いはパージガスを被検査物質輸送管内に送り出すための送出機構を有していてもよい。また、気体状の被検査物質を前記受光面近傍において減圧或いは加圧状態にすることにより被検査気体分子密度を制御することができる圧力調整機構を有していてもよい。さらにまた、検出発光波長が異なる複数の光電変換素子を被検査物質の移動方向或いは被検査物質の挿入・取り出し方向に沿って多段に組み合わせた構造としてもよい。
【0055】
図15(c)及び(d)は、第十二の実施例に係る分光分析装置を説明するための平面図(c)と同図破線矢印F−F’部における断面構造図(d)である。分光分析装置310の光電変換素子311の要部と光源53、及び被測定物貯留部51等を含む要部(破線310a内)のみが図示されている。使用している光電変換素子311は、例えば、
図2(d)に示した光電変換素子104(要部104aのみ図示)等を用いることができる。本分光分析装置においては、被測定物を貯留するセルあるいは輸送するためのチューブ51が、中空部を貫通する方向に配置されており(同図(d))、さらに、光電変換領域を二か所設けている(9t、9d)。即ち、光電変換領域9tと9dの受光面は、平面視座上、互いに直角になるように位置している。そのため、集光光学系、ミラー、プリズム等を用いることなく、被測定物に入射した光の透過光(55t)と拡散光(55d)を同時にかつ高精度に検出することができる。なお、入射光は、光ファイバー53により、要部310aの外部から中空部1に導入されているが、上記第九の実施例のように、中空部内にレーザ光源やLEDを配置してもよい。
【0056】
図16(a)、及び(b)は、第十三の実施例に係る分光分析装置を説明するための平面図(a)と同図破線G−G’部の断面構造図(b)である。分光分析装置320に使用する光電変換素子321と光源部(L1,L2,L3,L4)、及び被測定物を貯留するセル(S1〜S16)等を含む要部(破線部320a)のみが図示されている。使用している光電変換素子321には、例えば、
図4(e)に示した光電変換素子109等を用いることができる。図(a)に示したように、要部320aには、光電変換素子109の場合と同様に複数の光電変換領域(9−1乃至9−16が放射状に並んでおり、その外側に複数の被測定物を入れた容器(セルS1乃至セルS16)が試料保持手段57に固定されている。さらにその外側四方向に配置された光源(L1乃至L4)から出射される光が被測定物に照射される構造となっている((同図(b))。この光源(L1乃至L4)の発光波長を変え、さらに試料保持手段57を回転させることにより、高速にマルチビーム分光分析が可能になる。光源の数は、一であっても被測定物の数(本実施例では十六)と同等であってもよい。例えば、光源の数が一である場合には、試料保持手段57を回転させればよく、また、光源の数が十六の場合には、試料保持手段57を回転するまでもなく、同時にすべての被測定物の分光分析が可能になる。
【0057】
本分光分析装置においては、単一の光電変換素子でありながら、多数の被測定物を単一の光源、或いは発光波長の異なる複数の光源を用いることにより高速かつ高精度の小型分光分析が始めて可能になった。単一の半導体光電変換素子上の複数の受光部を使用するので、受光部間における「感度ばらつきを」を最小限に抑えることができ、かつLSI用のシリコン基板を使用できるのでノイズ除去その他信号処理回路をオンチップ化できること、さらにビームスプリッタ、プリズム、ミラー、レンズ等の複雑な光学系や駆動装置を必要としないからである。
【0058】
図17(a)、(b)に第十四の実施例に係る非接触通信インターフェースを有する分光分析ユニット400の平面図(a)と、平面図(a)の中に示した破線矢印H−H’の位置における分光分析ユニット400の断面図(b)を示す。分光分析ユニット400の内部には、光電変換素子420、ブルートゥース(登録商標)等の非接触通信インターフェースを内蔵しており、また使用目的により発光ダイオード(LED)等の光源部を内蔵している。これら光電変換素子等の部品全てが密閉容器410に格納されている。密閉容器410の形成には、LSI等で広く使用されている樹脂封止法が好適である。この場合、少なくとも受光面上の樹脂材料には入射光を透過させるために低光吸収・低光散乱の透明な樹脂を選択する必要がある。それ以外にも、
図17(b)において、Z軸方向の上下に分割可能なガラス容器を用い、上記部品を格納後、これら上下のガラス容器を嵌合させることにより封止してもよい。内蔵部品や小型バッテリの交換、薬剤等の補充が容易になるためである。このような密閉容器を使用できるので、高圧・低圧環境、水中、強酸、強アルカリ中での使用や洗浄・滅菌等の過酷な環境下においても機能・性能・信頼性の維持が可能である。光電変換素子420には、
図3に示した107、
図5(b)に示した111、
図8(b)に示した115等が好適である。光電変換素子111以外は、非接触通信インターフェース、アンテナ等をオンチップ化していないが、専用通信ICやアンテナ部品等の個別部品を組み合わせて使用することもできる。分光分析ユニット400は、後述するような健康・医療目的以外にも、学術、工業、農業、食品、バイオ、動植物など様々な分野における分光分析に適用可能である。
【0059】
第十五の実施例に係る分光分析装置の模式図を
図17(c)に示す。分光分析ユニット500は、既に説明した分光分析ユニット400と同様に、非接触通信インターフェース及び光源部等を内蔵している。光電変換素子等のすべての部品が密閉容器に格納されている。そのため、水中、強酸、強アルカリ中での使用や洗浄・滅菌等の過酷な環境下においても機能・性能・信頼性の維持が可能である。光電変換素子には、
図3に示した107、
図5(b)に示した111、
図8(b)に示した115等が好適である。光電変換素子111以外は、非接触通信インターフェース、アンテナ等をオンチップ化していないが、専用通信ICやアンテナ部品等の個別部品を組み合わせて使用することもできる。分光分析ユニット500を、例えば、図示したように人体の一部である腸管(510)内に留置した状態において、分光分析ユニット500の中空部を図面中の矢印方向に通過する被測定物表面、或いは内部における光吸収や発光(蛍光)スペクトル等を、無線送受信機能を有するデータ解析部(モニター部520)において分光分析処理を実行する。例えば、近赤外光光源を用いて潜血の有無等を常時監視、検出することができる。常時装着した状態にできること、またケーブル等によって拘束されないので、被験者の肉体的、精神的負担は皆無に近い。さらに後述すように、スマートフォン等の汎用携帯機器と連携することにより、非侵襲かつ携行可能な簡便なモニタリングにより、入浴等を含む日常生活(24時間)における正確な測定、注意喚起、及びデータ蓄積・インターネット接続等が実現する。腸管以外にも、例えば、血管、尿道、呼吸気管等に留置して使用することも可能である。このような医療用途に限らず、液体、気体、その他流動性のある対象物に対する近接、或いは密着した状態におけるワイヤレスの分光分析も容易となる。また、非侵襲、非破壊、耐腐食性等に優れた小型の高精度分光分析装置として有用である。
【0060】
第十六の実施例に係る分光分析装置の模式図を
図17(d)に示す。分光分析ユニット600は、既に説明した分光分析ユニット400と同様に、非接触通信インターフェース、光源部等を内蔵しており、光電変換素子等のすべての部品が密閉容器に格納されている。そのため、水中での使用や洗浄等の過酷な使用環境にも適応可能である。光電変換素子には、
図3に示した107、
図5(b)に示した111、
図8(b)に示した115等が好適である。光電変換素子111以外は、非接触通信インターフェース、アンテナ等をオンチップ化していないが、専用通信ICやアンテナ部品等の個別部品を組み合わせて使用することもできる。図示したように、人体の一部である指(610)等に差し込んだ状態において各種の分光分析や他のセンサを組み合わせたハイブリッド構造にすることにより、心拍数、体温等のモニタリング等も容易に行えるようになる。血液の分光分析の一例として、近赤外光光源を用いた血液中の酸素化或いは脱酸素化ヘモグロビン濃度の測定、監視を行うことができる。指輪形状としたので、常時身に着けた状態にできること、またケーブル等によって拘束されないので、被験者の肉体的、精神的負担は皆無に近い。さらにスマートフォン(620)等の汎用携帯機器と連携することにより、非侵襲かつ携行可能な簡便なモニタリングにより、入浴等を含む日常生活(24時間)における正確な測定、注意喚起、及びデータ蓄積・インターネット接続等が実現する。
【課題】人体その他の三次元形状の被写体に対し、近接して撮像或いは分光分析する場合、液体、気体などの流体、その他の不定形或いは流動性のある解析対象に対し、高感度、高精度、高速に分光分析が可能な光電変換素子とその製造方法、及び光電変換素子を組み込んだ小型、軽量の撮像装置又は分光分析装置を実現する。
【解決手段】半導体基板内の中空部側面を受光面とする光電変換素子、半導体基板にレーザ照射による改質層を形成し中空部を開口する製造方法、中空部内に位置する被検査対象物のX線、或いは近赤外光等の吸収、散乱、或いは被検査物質内の光励起発光等の高精度測定を可能にした小型分光分析装置。