(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
起動からの前記ドラムの回転角が最初に90度となる時点での、前記インバータ回路が前記ドラムモータに供給する電流は、前記永久磁石の磁束による誘導起電力に対して進み位相である請求項1または2に記載のドラム駆動装置。
前記第2の運転手段は、前記ドラムモータの入力電圧と入力電流の信号を受け、起動からの前記ドラムの回転角が最初に90度となる時点で、トルクに対する電流値がほぼ最小となる位相の電流を前記ドラムモータに供給して駆動する請求項1〜3のいずれか1項に記載のドラム駆動装置。
前記第2の運転手段は、前記永久磁石の速度を推定する速度推定手段と、速度設定手段と、速度誤差増幅手段を有し、前記インバータ回路の出力電流ベクトルを、前記永久磁石の磁束に平行な第1の電流成分と、前記第1の電流成分にほぼ直交する第2の電流成分に分けて制御し、前記第1の電流成分と前記第2の電流成分の比をほぼ一定としながら、前記電流ベクトルの絶対値を前記速度誤差増幅手段の出力に応じて変化させる請求項1〜4のいずれか1項に記載のドラム駆動装置。
前記インバータ回路は、起動からの前記ドラムの回転角が最初に90度となる時点での前記ドラムの角加速度が負となるように運転する請求項1〜5のいずれか1項に記載のドラム駆動装置。
前記インバータ回路は、起動時から回転角が180度以内となる予備駆動を、少なくとも1回行った後に、前記予備駆動と逆向きの回転方向で、ドラム回転が360度以上の駆動を行う請求項1〜6のいずれか1項に記載のドラム駆動装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のドラム駆動装置は、鉛直に対して角度を有する回転軸を持つドラムと、回転子に永久磁石を有し前記ドラムを駆動するドラムモータと、前記ドラムモータに電流を供給するインバータ回路とを有し、前記インバータ回路は、第1の運転手段、第2の運転手段、切替手段を有し、前記第1の運転手段は、前記永久磁石の位相とは独立した信号を発生し、前記第2の運転手段は、前記永久磁石の位相に応じた信号を発生し、前記切替手段は、前記第1の運転手段からの信号で前記ドラムモータを起動し、起動からの前記ドラムの回転角が最初に90度となる時点より前に、前記第2の運転手段からの信号に切り替えるものである。
【0015】
これにより、第1の運転手段によって起動が確実になされるとともに、ドラムが90度回転した状態で地球の重力により発生する最大トルク時点では、前記永久磁石の磁束を最大限に生かした第2の運転手段によるドラムモータへの供給電流を低減した運転が可能となり、インバータ回路からドラムモータに供給する電流の最大値を抑えることが可能となり、小型で低コストのドラム駆動装置を提供することができる。
【0016】
上記構成において、永久磁石を、前記回転子に埋め込んで有する構成としてもよい。
【0017】
これにより、ドラムが90度回転した状態で地球の重力により発生する最大トルク時点では、前記永久磁石の磁束の作用に加えて、リラクタンストルクも活用した第2の運転手段によるドラムモータへの供給電流をさらに低減した運転が可能となり、インバータ回路からドラムモータに供給する電流の最大値をより抑えることができる。
【0018】
上記構成において、起動からの前記ドラムの回転角が最初に90度となる時点での、前記インバータ回路が前記ドラムモータに供給する電流は、前記永久磁石の磁束による誘導起電力に対して進み位相としてもよい。
【0019】
これにより、ドラムが90度回転した状態で地球の重力により発生する最大トルク時点では、リラクタンストルクの活用もなされた、第2の運転手段によるドラムモータへの供給電流を低減した運転が可能となり、インバータ回路からドラムモータに供給する電流の最大値を抑えることが可能となり、小型で低コストのドラム駆動装置を提供することができる。
【0020】
上記構成において、第2の運転手段を、前記ドラムモータの入力電圧と入力電流の信号を受け、起動からの前記ドラムの回転角が最初に90度となる時点で、トルクに対する電流値がほぼ最小となる位相の電流を前記ドラムモータに供給して駆動してもよい。
【0021】
これにより、リラクタンストルクも十分に活用し、インバータ回路からドラムモータに供給する電流の最大値を、より抑えることが可能となり、小型で低コストのドラム駆動装置を提供することができる。
【0022】
上記構成において、本発明は、第2の運転手段を、前記永久磁石の速度を推定する速度推定手段と、速度設定手段と、速度誤差増幅手段を有し、前記インバータ回路の出力電流ベクトルを、前記永久磁石の磁束に平行な第1の電流成分と、前記第1の電流成分にほぼ直交する第2の電流成分に分けて制御し、前記第1の電流成分と前記第2の電流成分の比をほぼ一定としながら、前記電流ベクトルの絶対値を前記速度誤差増幅手段の出力に応じて変化させてもよい。
【0023】
これにより、比較的簡単な構成で、速度制御が可能であり、第1の電流成分と第2の電流成分が連動して変化することで、リラクタンストルクも十分活用しながら、ドラムモータへの供給電圧の変動も抑えることができる。
【0024】
上記構成において、本発明は、インバータ回路を、起動からの前記ドラムの回転角が最初に90度となる時点での前記ドラムの角加速度が負となるように運転することとしてもよい。
【0025】
これにより、ドラムが有する運動エネルギーを活用し、インバータ回路からドラムモータに供給する電流の最大値を、より抑えることが可能となり、小型で低コストのドラム駆動装置を提供することができる。
【0026】
上記構成において、本発明は、インバータ回路を、起動時から回転角が180度以内となる予備駆動を、少なくとも1回行った後に、前記予備駆動と逆向きの回転方向で、ドラム回転が360度以上の駆動を行うこととしてもよい。
【0027】
これにより、ドラムの慣性モーメントと、質量が偏りによる重力のモーメントとの共振作用を活用し、インバータ回路からドラムモータに供給する電流の最大値を、より抑えることが可能となり、小型で低コストのドラム駆動装置を提供することができる。
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態における洗濯を行い、一般にドラム式洗濯機などと称されるドラム駆動装置のブロック図を示すものである。
【0030】
図1において、ドラム51は、鉛直に対して90度の角度をもった状態、すなわち水平の回転軸を持った状態でベアリング52、53によって回転自在に支持され、内部に衣類などの洗濯物54が入るものとなっている。
【0031】
ここで、本願で言う鉛直とは、重力の向きを示しているものであり、垂直、あるいは水平に対して直角と同義語として扱っている。
【0032】
ドラム51は、ネオジウムおよびジスプロシウムなどの希土類を含む永久磁石55、56、57、58を持つ回転子59を回転自在に保持して構成した4極のドラムモータ60から、小プーリ62、ベルト63、大プーリ64を経て10分の1に減速されての回転駆動がなされるものとなっている。
【0033】
なお、ドラム51の外側には樹脂製の外容器66と、給水弁67、排水弁68、蓋69が設けられ、ドラム51の洗濯物54に水、および洗剤を作用させ、洗濯を行うことができるものとなっている。
【0034】
ドラムモータ60に電流を供給するインバータ回路71を有し、インバータ回路71は、第1の運転手段72と、第2の運転手段73と、切替手段74、第1の電流成分Idと第2の電流成分Iqに分けて出力電流を制御するモータ電流制御部75を有する。第1の運転手段72は、永久磁石55、56、57、58の位相とは独立した信号S1を発生し、第2の運転手段73は、永久磁石55、56、57、58の位相に応じた信号S2を発生する。切替手段74は、まず第1の運転手段からの信号S1をモータ電流制御部75に接続することにより、ドラムモータ60を起動し、起動からのドラム51の回転角が最初に90度となる時点より前に、モータ電流制御部75への入力を、第2の運転手段73からの信号S2に切り替えるものとなっている。
【0035】
なお、
図1においては、S1、S2はいずれも1本の線で示しているが、実際にはそれぞれ第2の電流成分の設定値Iqr、位相θ、モータの電気角速度ωの3本で構成されている。
【0036】
また、本実施の形態においては、切替手段74は、第1の運転手段72が起動から所定時間後に変化するデジタル信号Fを受けて、S1からS2への切り替えを行うものとなっている。
【0037】
図2は、本実施の形態の第1の運転手段72および切替手段74の詳細ブロック図を示している。
【0038】
図2において、起動からの時間を計測するタイマー80は、時間信号tを出力し、時限器81、電流設定器82、角速度設定器83に入力される。
【0039】
電流設定器82は、切替手段74にIqr1として出力し、角速度設定器83からは切替手段74にω1として出力され、さらにωの時間積分を行う積分器86を経て、θ1としても出力がなされる。
【0040】
切替手段74は、F信号がローの場合にはS1を、ハイの場合にはS2を選択し、Iqr、θ、ωの各信号を出力するものとなっている。
【0041】
図3は、本実施の形態の第1の運転手段72の動作波形図を示している。
【0042】
(ア)は信号Fの論理、(イ)はIqr1、(ウ)はω1、(エ)はθ1を横軸を時間として示している。
【0043】
第1の運転手段が有効に動作する期間、すなわち信号Fがローとなる、起動から、0.6秒間の期間においては、前半の0.3秒間の期間には、Iqr1が0から6Aへ直線的に増加した後、6Aを保持するものとなり、ω1については直線的に増加するものとしている。
【0044】
モータ位相θ1は、ω1を時間積分したものとなるが、2π(360度)となった時点で0にリセットされる変数を用いて表現しているため、(エ)に見られるよう波形となり、t=0.6秒でちょうどθ1=0となる状態となっており、第1の運転手段が動作する0.6秒間にモータ電気角は4πラジアン(2回転=720度)するものとなるが、ドラ
ムモータ60が4極であることと、プーリ62、64による10分の1の減速がなされる構成となつていることから、ドラム51の回転角度としては、同期が終始理想的に行われたと仮定した場合は、36度(0.1回転)となる。
【0045】
ただし、現実的には、t=0秒時点でのドラムモータ60の回転方向の位置によって、同期状態に落ち着くまでのドラムモータ60の実回転は、プラスマイナス4分の1回転程度ばらつくものとなり、0.6秒間のドラム51の回転角度としては、27〜45度となるが、90度よりは小なる値となっている。
【0046】
時限器81が、t=0.6秒で、F信号をローからハイに上げた時点で、F信号を受けた切替手段74は、S1からS2への信号を切り替え、第2の運転手段73への切り替えを行うものとなる。
【0047】
なお、Idrに関しては、本実施の形態においては、切替手段74からF信号ローでは0A、ハイでは−3.8Aが選択されて出力される。
【0048】
図4は、本実施の形態の第2の運転手段73の詳細ブロック図を示している。
【0049】
図4において、速度誤差増幅手段90は、ドラムモータ60の角速度の設定値ωrを出力する速度設定手段89と、切替手段74から得たωの差、すなわち速度誤差からPI(比例と積分)の要素を作用させて加算し、Iqr2を出力するものとなっており、設定された速度になるようにトルクが加減されるものとなる。
【0050】
位相誤差推定器91は、後述するモータ電流制御部75からのId、Iq、Vd、Vq、およびωを入力し、これにドラムモータ60の誘導起電力定数、q軸インダクタンス、抵抗値などのパラメータを用いて計算を行うことにより、現在、モータ電流制御部75が用いている位相θと、ドラムモータ60の電圧方程式が成り立つ位相との差Δθを計算する。
【0051】
本実施の形態においては、(Vd−Ra・Id+ω・Lq・Iq)を、(Vq−Ra・Iq−ω・Lq・Id)で除した上で、その逆正接関数を取り、また符号を逆にした値にて、制御が用いているdq座標に対する実dq位相の誤差Δθとし計算がなされる。
【0052】
収束手段92は、速度推定手段93と、積分器94を有しており、速度推定手段93は、Δθが零に収束するように、PI(比例・積分)を用いて永久磁石55、56、57、58の角速度ω2の計算を行うものとなっており、さらにω2は積分器94にて時間積分の計算が行われることにより、推定位相θ2として出力がなされるものとなっている。
【0053】
Fがローの期間中においては、積分器94はθ2としてΔθが出力されるように、常に更新がなされており、速度推定手段93についても、ω2としてωとなるように、常に積分要素の更新が行われるものとなっている。
【0054】
第2の運転手段73の動作が有効となっている状態においては、位相誤差推定器91と収束手段92の作用によって、位置センサレスでのドラムモータ60の運転を行う構成となっている。
【0055】
なお、本実施の形態において位相誤差推定器91は、上記Δθの計算式を用いたが、それに限定されるものではなく、ドラムモータ60に供給される電圧と電流に関する値と、ドラムモータ60のパラメータを用い、位相の誤差Δθ、またはd軸の電圧差に関する値などを導き出すものであっても構わず、要は永久磁石55、56、57、58の位相に応
じた信号を発生しながら、ドラムモータ60を運転することができるものであればよい。
【0056】
余弦アンプ95は、Δθの余弦関数に、切替手段74からのIqr値を乗じたIref値が出力するものとなっており、速度誤差増幅手段90は、Fがローの期間中においては、出力値Iqr2がIref値に等しくなるよう、内部の積分器の値を常に更新している。
【0057】
図5は、本実施の形態のモータ電流制御部75の詳細ブロック図を示している。
なお、モータ電流制御部75は、インバータ回路71からドラムモータ60に3相の電流を供給するものとなるが、入力されるθ値として、U相電流による起磁力を基準とした場合の、永久磁石55、56、57、58による磁束の向き、すなわち真のd軸の位相と正しく合致している場合には、入力されたIdrは永久磁石55、56、57、58の磁束に平行な第1の電流成分となり、Iqrはそれに対して直交し+90度(π/2)分位相が進んだ第2の電流成分となり、所望の電流ベクトルに制御されるものとなる。
【0058】
図5において、電流誤差増幅器98、99、座標変換器100、101、PWMパワーモジュール103、直流電源104、電流検知回路105を有しており、電流誤差増幅器98は設定値Idrと座標変換器101の出力Idの差をPI(比例・積分)計算してVdとして出力するものである。
【0059】
電流誤差増幅器99は、切替手段74から得た設定値Iqrと座標変換器101の出力Iqの差を同様にPI(比例・積分)計算してVqとして出力するものとなっている。
【0060】
座標変換器100は、電流誤差増幅器98、99が出力されるVdとVqとθを入力し、数式1を用いるなどして、Vu、Vv、Vwに変換するものである。
【0062】
このように、3相を使用することにより、ドラムモータ60、インバータ回路71の構成が比較的簡単でありながら、連続的でスムーズなパワー伝達が可能であるという効果があるが、特に3相に限定されるものではなく、2相、4相、5相などであっても構わない。
【0063】
PWMパワーモジュール103は、図示しない6石のIGBT、および電子回路等で構成されたもので、Vu、Vv、Vwと、直流電源104から、280Vの直流電圧を受け、PWM(パルス幅変調)を行いながら、3相の交流をU、V、Wから出力し、数アンペアの電流をドラムモータ60へと供給していくものとなっており、具体的にはマイクロコンピュータ内にワンチップ構成されたパルス幅変調器と、それと別パッケージで設けられたパワー部分との総合体として構成されたものとなっている。
【0064】
U相とW相については、電流検知回路105の検知素子106、107を通過させることにより、電流値IuとIwの瞬時値が検知され、座標変換器101に入力される。
【0065】
なお、検知素子106、107については、検知対象となる電流により磁路に起磁力を
作用を発生させ、その磁界から電流値を検出するものや、シャント抵抗と呼ばれる抵抗の電圧降下から検知を行うものなどが利用可能である。
【0066】
V相の電流Ivについては、本実施の形態においては検出していないが、Iu+Iv+Iw=0の関係から、入力されたIuとIwよりIvも求められるものであり、座標変換器101は、数式2を用いるなどすることにより、θを用いてd軸電流Idと、q軸電流Iqを計算する。
【0068】
図6は、本実施の形態の切替手段74の出力Fによる切替動作の前後での各変数の変化を横軸の時間をやや拡大して示した波形図である。
【0069】
図6において、いずれも切替手段74の入出力信号となる、(ア)は破線でIqr1、一点鎖線でIqr2、実線でIqrを、(イ)は破線でω1、一点鎖線でω2、実線でωを、(ウ)は破線でθ1、一点鎖線でθ2、実線でθを示している。
【0070】
切替手段74の作用により、t<0.6秒においてはθ=θ1となり、t>0.6秒においてはθ=θ2となる。
【0071】
また、t<0.6秒でのIqr2に関しては、前述したようにIqr1から余弦アンプ95を経た出力Iref値が速度誤差増幅手段90の出力、すなわちIqr2となるように積分成分の更新が継続され、ω2についてはω1と同値、またθ2についても常にΔθと等しくなるようにセットが継続的になされる。
【0072】
ここで、t>0.6秒におけるIqr1、ω1、θ1については、意味が薄いことから記載していない。
【0073】
図7は、本実施の形態のドラム駆動装置で、切替手段74による切替動作前後の電流ベクトルを、真のdq座標上で示したものである。
【0074】
切替直前のIqr値であるIqr1は長さとしては、Iqr1の値である6Aあるが、向きとして第1象限にΔθだけ傾きを持ったものとなっており、真q軸成分としては、余弦アンプ95の出力、すなわちIqr1にΔθの余弦を乗じたIref値と等しいものとなり、切替直後にはIqr2=Irefへの変化がなされるものとなる。
これにより、特許文献1に述べられている速度制御の積分器の初期値設定を行うのと同様の効果が得られるものとなる。
【0075】
洗濯機などの場合には、洗濯物109が崩れた瞬間に、急に負荷トルクが小となることによって、ドラム51の角速度の更なるオーバーシュートが発生しやすいものとなるが、上記Iref値は、そのような速度超過を抑える上でも効果がある。
【0076】
一方、位相θに関しては、切替時点でθ1はちょうど0(2πの倍数)となる時点としたため、これにΔθだけ加算(すなわち跳躍的な位相進み)を行うことにより、
図6(ウ)にも示しているように、γ1軸から正しいd軸への是正がなされるものとなり、以降第2の運転手段73での良好な運転が可能となる。
【0077】
なお、本実施の形態においては、PI式の誤差増幅を行う電流誤差増幅器98、99に関しては、切替後のVdとVqのあるべき値の計算が、やや複雑となることから、内部の積分要素を切替時点で操作することは行っていないが、これらの電流に関しては、比較的短時間で応答する設計が可能であるため、問題はない。
【0078】
I90で示している電流ベクトルは、第2の運転手段73に切り替わった後、ドラム51が起動から最初に90度の角度まできた時点でのものであり、Iqrの調整がかかっていると同時に、Idrとしては、−3.8Aが設定されていることから、q軸、すなわち永久磁石55、56、57、58の磁束による誘導起電力E(=q軸方向)に対して位相の進み(進角)β1を持った、第2象限に入った状態となっている。
【0079】
図8は、本実施の形態のドラム駆動装置のドラム51の回転角の状態を示した断面図である。
【0080】
図8において、(ア)は起動開始時点のドラム51の状態を示しており、斜線で塗った部分は、洗濯物109が大量の水を含んだ状態で、かつ固まって入っている状態を示しており、洗濯物109の質量mキログラムに、地球の重力加速度gメートル/平方秒を乗じた、mgニュートンの重力が、洗濯物109の重心Pから下向きに働いている。
【0081】
点Oは、ドラム51の中心であり、回転軸となる。
【0082】
(イ)は、同様にドラム51が(ア)で示した起動時から40度回転した状態を示しており、本実施の形態において、t=0.6秒の時点で、切替手段74による第1の運転手段72から第2の運転手段73への切替が行われる時点のものとなる。
【0083】
(ウ)は、同様に起動からのドラム51の回転角が最初に90度となった状態、(エ)は、180度となった状態を示している。
【0084】
重力mgのOの回りのモーメント、すなわちトルクは、(ウ)の状態で最大となるものであり、仮に斜線で示している洗濯物109の密度が水に等しい1000kg/立米とすると、洗濯物109がちょうどドラム51の容積の半分となり、
図8の表現方法において半円となる状態で30Nm程度となる。
【0085】
もっとも、ドラム51の回転軸が、鉛直に対して90度以外の角度θdを有している場合には、ほぼθdの正弦を乗じたトルクにまで低減されるものとはなるが、少なくともドラム51の回転軸が鉛直に対して角度を有する構成である限りは、mgの影響によるトルクは必要となるものとなる。
【0086】
本実施の形態においては、(イ)に示した40度で切替手段74による第1の運転手段72から第2の運転手段73への切替動作がなされ、その瞬間での必要トルクは(ウ)に必要なトルクに40度の正弦(0.64)を乗じた値となる。
【0087】
ドラム51の回転軸に必要なトルクとしては、上記mgのモーメントによるトルク(「引き揚げトルク」と呼ぶものとする)以外に、ドラム51の加速に必要となるトルク(「加速トルク」と呼ぶものとする)もあり、それに関しては、洗濯物109を含むドラム51の慣性モーメントに、ドラム51の角加速度を乗じた値となるが、
図8(イ)の状態における上記引き揚げトルクが(ウ)の0.64倍で済むということが大きく作用するものとなり、第1の運転手段72で実現しなければならないドラム51軸でのトルクは小なるもので済むものとなり、それによってIqr1の値としては、(ウ)での必要トルクを実
現する場合に比べて相当に抑えることができる。
【0088】
特に、本実施の形態では、永久磁石55、56、57、58が回転子59内部に埋め込んで設けたドラムモータ60を使用しているため、第1の運転手段72で大きなトルクを発生しようとした場合、Id>0の強メ界磁の条件となるため、リラクタンストルクが負となり、より多くの電流を供給することになる傾向があるものとなる。
【0089】
これにより、場合によっては電流が過大であるが故に、リラクタンストルクが勝ってしまい、電流ベクトルとd軸を合わせる方向のトルクが発生せず、脱調となる場合も存在するものとなるため、大きなトルクが必要となる前の段階で、第1の運転手段72から第2の運転手段73への切替を済ませておくことは有利に作用するものとなり、第2の運転手段73での運転での供給電流の位相を、永久磁石55、56、57、58の磁束による誘導起電力と同相とするか、進ませるに関わらず、切替手段74の切替のタイミングとしてドラム51の回転角が最初に90度となる前とすることには、1つの効果が期待できるものとなる。
【0090】
しかしながら、本実施の形態のような永久磁石55、56、57、58が回転子59の鉄心内部に埋め込まれず、円筒状の鉄心の表面に永久磁石を接着して構成された回転子を有するドラムモータの場合であっても、本発明は成り立つものであり、切替手段74のタイミングをドラム51の回転角が最初に90度となる前とし、第2の運転手段では、永久磁石の磁束による誘導起電力と同相の電流を供給するように運転することにより、永久磁石の磁束を最大限に生かした運転で、最大トルクが必要となる条件を通過させることができ、ドラムモータへの供給電流を、なるべく小に抑えることができるという効果は得られるものとなる。
【0091】
本実施の形態においては、第2の運転手段73に切り替えが完了した後に、起動からのドラム51の回転角が最初に90度となる
図8(ウ)の状態となるものであり、その時の電流位相については、
図7にて、第2象限に角度β1入った状態、すなわち、永久磁石55、56、57、58の磁束による誘導起電力Eに対して、位相が進んだ電流I90が、インバータ回路71からドラムモータ60に供給される状態となる。
【0092】
図9は、本実施の形態のドラムモータ60に関して、dq面上での電流ベクトルの絶対値9Aにおいて、誘導起電力Eに対する電流の進み位相(電流進角とも呼ばれる)βを変化させた場合の発生トルクとの関係を示したグラフであり、横軸にβ、縦軸のトルクはドラム51の軸に換算した値、すなわちプーリ62、64による減速比の逆数がかかった値として取っているものである。
【0093】
図10は、本実施の形態のドラムモータ60の回転子59の断面図を示している。
【0094】
ドラムモータ60は、永久磁石55、56、57、58を回転子59の内部に埋め込んだ構成であるため、d軸とq軸のインダクタンス値Ld、Lqについて、Lq>Ldの関係となっている。
【0095】
これにより、
図9に示すように、永久磁石55、56、57、58と電流の相互によって発生するマグネットトルクTmagと、リラクタンストルクTrelの和となるトルクTsumが発生するものとなり、発生するトルクに対する電流という逆数的な見方をすると、β=25度付近では、欲しいトルク(30Nm)に対して、最小の電流(9A)で済ませることができるものとなる。
【0096】
第1の運転手段72での運転においては、G点付近で安定することは難しく、安定性の
高い運転を行うには、G点よりも左側の部分を用いることになる。その場合にはG点よりトルク減となるため、G点と同等のトルクを得るために、電流値としては、6Aよりも大としてカバーする必要が生じる。この結果、ドラムモータ60の損失が大きくなって、消費電力量の増大、温度上昇の増大となる他、PWMパワーモジュール103の電流定格のアップや、永久磁石55、56、57、58の減磁に対する耐量のアップが必要となる場合もあり、ドラム駆動装置として、コストと形状も大なるものとなる。
【0097】
これに対し、本実施の形態に示したような、第2の運転手段73による、β=25度の運転条件も可能であり、Tsumは最大値の30Nmとなるものであり、
図7で述べたβ1とほぼ等しい値となっている。
【0098】
したがって、本実施の形態のドラム駆動装置においては、第2の運転手段73は、ドラムモータ60の入力電圧Vd、Vqと、入力電流Id、Iqの信号を受け、起動からのドラム51の回転角が最初に90度となる時点、すなわち
図8(ウ)に示す状態で、トルクに対する電流値がほぼ最小となる位相の電流を、ドラムモータ60に供給して駆動するものとなっている。
【0099】
ただし、リラクタンストルクの作用が小さいドラムモータ60の場合などにおいては、誘導起電力に対してほぼ同相の電流を供給することで、永久磁石55、56、57、58の磁束と電流の相互作用で発生するマグネットトルクTmagを最大限生かした状態とする構成であっても良い。
【0100】
また、本実施の形態においては、第2の運転手段73では、Idr=−3.8Aの状態で運転することにより、最大のドラム軸トルクが必要な場合に、β=25度となる状態としているため、負荷が軽い場合など、
図8(ウ)に示した90度位置での必要トルクがより少なくて済む場合には、βは25度より大となる傾向はあるが、第2の運転手段73での運転に用いるIdr値を一定値とした比較的簡単な構成で、9A以下の電流での確実な運転は保証されるものとなる。
【0101】
なお、通常の洗濯物109は、
図8(エ)の状態となる前に重力mgの作用でバサッと崩れ、ドラム51の下に落ちるものとなるが、洗濯物109が乾いている部分と水をタップリと含んだ部分とがあり、それがドラム51内を満たすように入れられている場合には、洗濯物109が逆様になった(エ)に近い状態もあり得る。
【0102】
(エ)の状態においては、洗濯物109の位置エネルギーとしては最大となるが、洗濯物109に作用する重力mgのモーメントは零となり、ドラム51の回転に必要となるトルクは加速トルクのみの比較的小さい値となる。
【0103】
なお、本実施の形態では、座標変換器100、101は、それぞれ数式1と数式2に示した余弦関数(コサイン)のみを使用して方向余弦を加算していくシンプルなものを用いているが、正弦関数(サイン)の計算も短時間で行うことができるマイコン環境であれば、数式3、数式4などを用いてもよく、むしろ計算時間が短縮できるケースもあり、適宜使い分けすることもできる。
【0106】
また、本実施の形態においては、ドラムモータ60は、プーリ62、64、ベルト63を介してドラム51を回転駆動する構成となっており、機構的な一定の減速(10分の1)があるため、ドラムモータ60に必要なトルクが小さくて済むものとなり、装置の小型化、低コスト化に有利なものとなっている。
【0107】
しかしながら、必ずしもプーリ62、64、ベルト63を使用しなければならないというものではなく、例えばギア(歯車)での減速を行うものや、ドラム51とドラムモータ60を直接接続し、機構的な減速なしとしたダイレクト駆動などと称されるものであってもよく、いずれの場合でも、最終的に駆動されるドラム51の回転角に視点をおいたものであって、特にドラム回転角が90度となる点でのドラムモータの動作によって、議論がなされるものである。
【0108】
また、本実施の形態においては、「永久磁石55、56、57、58の位相」と表現しているものは幾何学面からの表現であり、各永久磁石の取付位置(機械角)に極対数2を乗じて0〜2πラジアンの範囲の電気角に変換した数値を示すものである。
【0109】
磁気的な表現として、回転子59の磁極の位相、磁束密度分布の位相などと言うこともできるものである。
【0110】
例えば確認用となるロータリエンコーダを取り付けて適切に処理することでも得ることができ、第2の運転手段73での運転が、永久磁石の位相と一定の位相関係となる電流波形が供給されていることで確認することが可能となる。
【0111】
(実施の形態2)
図11は、本発明の第2の実施の形態のドラム駆動装置の第1の運転手段110および切替手段111周囲のブロック図を示している。
【0112】
図11において、第1の運転手段110は、タイマー80は実施の形態1と同等であり、時限器112、電流設定器113、角速度設定器114に入力される。
【0113】
電流設定器113は、切替手段111にIqr1として出力し、角速度設定器114からは切替手段111にω1として出力される。
【0114】
AND回路116が、切替手段111のF信号生成に設けられており、第1の運転手段
110からのK信号と、第2の運転手段120からのH信号の論理積をもってF信号を生成しており、切替手段111は、F信号がローの場合にはS1を、ハイの場合にはS2を選択し、Iqr、Idr、ωの各信号を出力するものとなっている。
【0115】
図12は、本実施の形態のドラム駆動装置の第1の運転手段110の動作波形図で、
図12において、(ア)はK信号波形、(イ)はIqr波形、(ウ)はω1波形を示している。
【0116】
K信号は、起動からの時間0.3秒まではローとなり、これによってF信号は、強制的にローとなるため、第1の運転手段110からS1での運転に限定されるものとなる。
【0117】
Iqr1信号は、起動から0.3秒間で直線的に増加して4.5Aとなり、t=0.6秒まで一定値を保持した後、t=1秒までの間に0Aまで直線的に低下する。
【0118】
ω1信号は、t=0.6秒まで42rad/sに直線的に増加後、一定値を保つものとなっている。
【0119】
図13は、本実施の形態の第2の運転手段120の詳細ブロック図を示している。
【0120】
図13において、速度誤差増幅手段122は、ドラムモータ60の角速度の設定値ωrを出力する速度設定手段89と、切替手段111から得たωの差、すなわち速度誤差からPI(比例と積分)の要素を作用させて加算し、Iqraを出力する。さらに、Iqraが5A以上となった場合に、5Aの上限値に制限する制限器123が設けられ、制限器123の出力がIqr2となり、トルクが加減されて、速度制御がなされるものとなる。
【0121】
なお、本実施の形態においては、制限器123の出力Iqr2は、速度誤差増幅手段122にも出力されるものとなっており、速度誤差増幅手段122は、Iqraと比較することで、内部の積分器の値が過剰にならないように調整をおこなっている。
【0122】
d軸電圧誤差推定器125は、モータ電流制御部75からのId、Iq、Vd、およびωを入力し、これにドラムモータ60の誘導起電力定数、d軸とq軸のインダクタンス、抵抗値などのパラメータを用いて電圧方程式の計算を行うことにより、d軸の電圧の誤差Δεを計算する。
【0123】
本実施の形態においては、Δε=−(Vd−(Ra+pLd)・Id+ω・Lq・Iq)を算出しており、Δε>0で制御軸が遅れ、Δε<0で制御軸が進みとなる。
【0124】
収束手段127は、速度推定手段128と、積分器129を有しており、速度推定手段128は、Δεが零に収束するように、PI(比例・積分)を用いて永久磁石55、56、57、58の角速度ω2の計算を行うものとなっており、さらにω2は積分器129にて時間積分の計算が行われることにより、推定位相θとして出力がなされるものとなっている。
【0125】
Fがローの期間中においては、速度推定手段128は、ω2としてωとなるように、常に積分要素の更新が行われるものとなっている。
【0126】
F信号がハイとなっている状態においては、d軸電圧誤差推定器125と収束手段127の作用によって、位置センサレスでのドラムモータ60の運転が行われ、また一方、F信号がローの場合には、積分器129はω、すなわちω1を積分してθを算出する形での動作を行うものとなっている。
【0127】
比較器130は、閾値ε1(=3V)とΔεを比較し、前者が大であればハイ、後者が大であればローをH信号として出力するものである。
【0128】
なお、d軸電圧誤差推定器125は、上記Δεの計算式に限定されるものではなく、例えばpを付した微分項を入れないものなどであっても構わないものであり、その場合にはLdも必要なくなり、計算も簡単となるため、安価で処理速度が低いマイクロコンピュータなどでも済ませることができるものとなる。
【0129】
本実施の形態に関して、上記以外の構成要素は、実施の形態1と同等のものを用いた構成がなされているものとなっている。
【0130】
以上の構成において、本実施の形態での動作の説明を行う。
【0131】
図14は、本発明の第2の実施の形態のドラム駆動装置のドラム51が起動してから最初にドラム51の回転角が90度となるまでの動作波形図を示すものである。
【0132】
(ア)はΔε、(イ)はF、H、Kの各信号の論理、(ウ)はドラムモータ60の電気角速度ω、(エ)はドラム51の回転角、(オ)はドラム51の角加速度の図を示している。
【0133】
起動からの時間tについて、t<0.3秒の期間においては、ω<ωaの低速条件となり、d軸電圧誤差推定器125のΔεは絶対値として小さく、座標軸の進み遅れの推定用としては無効であり、本実施の形態においては、K信号をローとすることにより、H信号に係らず、F信号をローとし、第1の運転手段110で運転がなされ、起動がなされる。
【0134】
ω>ωaとなった時点では、Δεでの判断は有効となり、Iqr1で設定された電流は、真のq軸に対して遅れ位相で流れるものとなっており、εrefより大であることを比較器130が判定し、Hはローとなり、この状態で第1の運転手段110によるドラム51の加速が進む。
【0135】
t=0.45秒にて、ドラム51の回転角度が起動から32度に達した時点で、洗濯物109にかかる重力mgを引き上げるために必要となるトルクの増大により、ドラムモータ60の電流位相は、次第に真のq軸に近づき、Δε<εrefとなる。
【0136】
すると、信号Hがハイとなり、信号Fもハイとなって、切替手段111による切替動作が行われ、S1からS2に切り替わる。
【0137】
なお、このタイミングは、洗濯物109の量などによって変化するものとなり、必要トルクが少なかった場合には、切替タイミングが遅めとなり、本実施の形態においては、
図12(イ)で示すIqr1は、t=1秒の時点まで低減されていくので、第1の運転手段110での運転開始後1秒以内には、Δεは負の値にまで減ずるものとなり、それまでに切替手段111のS2への切替が完了することになる。
【0138】
第2の運転手段120の速度誤差増幅手段122は、Fがハイとなった時点での内部に持つ積分器の初期値としては、第1の運転手段110で用いたIqr1の出力に対応しただけのものが設定されるが、εrefを適正に設定することにより、切替時点で真のIqはほぼIqr1に近い値とすることができるため、第2の運転手段120での制御に切り替えられた直後の、ドラム51の速度のオーバーシュートが問題となることもなくせるものとなる。
【0139】
本実施の形態において、t=0.8秒で、ドラム51の回転角が、起動後最初に90度に達するものとなるが、制限器123の作用によってIqr値は、
図8(ウ)に示されているドラム51でのmgによるトルクを供給するだけの値を下回った発生トルクに留まった状態での運転となっている。
【0140】
ここでは、洗濯物109を含むドラム51の回転運動のエネルギーが、洗濯物109に位置エネルギーを与えるために使われ始め、よってωは時間と共に低下し、言い直すとドラムの角加速度が負となる状態となることが
図14(オ)のA90(<0)にて示されている。
【0141】
通常の洗濯物109では、90度を超えた時点で、ドラム51内でバサッと崩れることにより、mgのモーメントが減るため、ドラム51の回転角速度の低下の期間は短時間で終わるものとなり、その後の運転には支障をきたすことはない。
【0142】
このように、本実施の形態のドラム駆動装置は、起動からのドラム51の回転角が最初に90度となる時点で、ドラム51の角加速度が負となる運転を行うことにより、ドラム51の回転運動エネルギーを有効に用いて、最大トルクが必要となる条件での、ドラムモータ60の発生トルクを効果的に減少させながら、運転を行うことができるものとなる。
【0143】
(実施の形態3)
図15は、本実施の形態におけるドラム駆動装置の第1の運転手段135、切替手段137を中心とした部分の具体ブロック図を示している。
【0144】
図15において、第1の運転手段135は、実施の形態1と同等のタイマー80、F信号を生成する時限器138、電流設定器139、角速度設定器140に入力される。
【0145】
電流設定器139は、切替手段137にIqr1として出力し、角速度設定器140からは切替手段137にω1として出力され、実施の形態1と同様のωの積分器86で時間積分を行いθ1を出力する。
【0146】
切替手段137は、F信号がローの場合にはS1を、ハイの場合にはS2を選択し、Iqr、Idr、θ、ωの各信号を出力するものとなっている。
【0147】
本実施の形態において、S2は第2の運転手段142からの出力信号Iqr2、Idr2、θ2、ω2を含んでいる。
【0148】
図16は、本実施の形態におけるドラム駆動装置の第2の運転手段142の具体ブロック図を示している。
【0149】
図16において、速度設定手段89は実施の形態1と同じ構成のものであるが、本実施の形態においては、速度設定手段89の出力ωrとωの差をPI(比例と積分)の要素を作用させて加算し、電流ベクトルの絶対値の設定値となるIarを出力する速度誤差増幅手段143を設けた上で、Iarと設定値βrを受ける電流分配器144が設けられており、 βrは、第2の運転手段142で駆動される際の、q軸に対する電流ベクトルの進み位相の角度を設定するものであり、本実施の形態では20度としている。
【0150】
電流分配器144は、入力信号であるIarとβrに対して、
Iqr2=Iar・cosβr、Idr2=−Iar・sinβrという計算式にて計算される値を出力するものとなっている。
【0151】
位相誤差推定器91、収束手段92は、速度推定手段93と、積分器94を有しており、これらは、実施の形態1と同等の構成を用いている。
【0152】
余弦比アンプ146の出力Irefaは、Iqrに対してΔθとβrの各余弦の比で増幅された、Irefa=Iqr*(cosΔθ)/(cosβr)が出力され、速度誤差増幅手段143は、Fがローの期間中においては、出力値IarがIrefa値に等しくなるよう、内部の積分器の値を常に更新するものとなっている。
【0153】
以上の構成において、本実施の形態のドラム駆動装置の動作を説明する。
【0154】
図17は、本実施の形態におけるドラム駆動装置の起動から切替手段137による切替動作が行われるまでの動作波形図、また
図18に洗濯物109を含むドラム51の回転の状態を示している。
【0155】
本実施の形態における波形を
図17(ア)〜(ウ)に示し、それによるドラム51の回転角を(エ)に示している。
【0156】
本実施の形態においては、起動時(t=0)からの回転については、(ウ)に示しているように、ドラム51の角速度ωが負となり、回転がマイナス方向となっている。
【0157】
t=0.7秒時点でω=0に戻り、この時点で(エ)に見られるように、ドラム51は負側に30度回って停止しており、
図18(ア)に示した状態となり、ここまでの期間が予備駆動となる。
【0158】
その後、予備駆動期間とは逆の回転、すなわちωが正となって、回転の向きが正(実施の形態1の場合と同じ向き)となり、t=1.2秒時点で、ドラム51は起動前の位置に達し、引き続き正回転を続けるものとなり、
図18(イ)で示される状態となる。
【0159】
さらに、t=1.5秒時点で、F信号がローからハイに変化し、切替手段137によるS1からS2に切替がなされ、第2の運転手段142での動作となるが、その時のドラム51の回転角は、正方向に25度回転した、
図18(ウ)に示される状態となる。
【0160】
その後は、第2の運転手段142による定常的な運転、すなわち360度以上のドラム51を回転させる運転に入るものとなる。
【0161】
本実施の形態においては、予備駆動を用いたことにより、洗濯物109が一旦
図18(ア)で示されるように、位置エネルギーを有した状態とすることができることから、その後のトルク供給による運動エネルギーの供給と合わせて、
図18(イ)での大きな角速度が容易に得られるものとなる。
【0162】
これにより、第2の運転手段142の安定動作に必要となるωの下限値を十分に超えた状態で、第2の運転手段142への切替が可能となり、第2の運転手段142の動作が非常に安定なものとすることができる。
【0163】
さらに、ドラム51の回転運動エネルギーが十分大きいものとなるため、
図8(ウ)で示したドラム51の回転角が90度なり、引き揚げトルクが最大となる状態付近でも、必要とあらば、ドラムモータ60からの供給トルクを小とし、不足トルクは運動エネルギーから供給させることも可能となり、ドラムモータ60への供給電流を最小限に抑えることも可能となるものである。
【0164】
図19は、本実施の形態における切替手段137の切替時のベクトル図を示している。
【0165】
図19において、設定値Iqr1は6Aであるが、第1の運転手段135は実施の形態1で述べたようにθが遅れていることから、真のq軸電流成分は、ほぼΔθの余弦を乗じた小さ目の値となっており、切替後は切替直前の真のq軸電流が保持されるように余弦比アンプ146と電流分配器144の作用で、Iqr2、およびβrを満たすIdr2が設定されるものとなる。
【0166】
このように、速度誤差増幅手段143の出力Iarを一旦算出してから、βrでd軸成分Idr2とq軸成分Iqr2に分離する構成の場合には、Idr2を0に設定する構成や一定値に独立して設定する構成と比較して、センサレスでの運転の安定性が向上するという効果があり、特に永久磁石55、56、57、58が回転子59に埋め込まれ、Lq>Ldの特性となるドラムモータ60に対しては、適切なβr>0の設定により、脱調(同期外れ)が発生しにくくなるという優れた特性が得られるものとなる。
【0167】
また、第2の運転手段142がβrの設定により、永久磁石55、56、57、58の磁束による誘導起電力Eに対して、電流の位相が進んだ状態で運転されることにより、リラクタンストルクも有効に作用されることができるという効果もあり、その分電流を低減することができるものとなる。
【0168】
また、切替前と後の2つの電流ベクトルに関しては、真のq軸電流成分がどちらも3Aと等しい値となり、トルク差が小さいものとなり、速度のオーバーシュートを低減する作用もあるが、切替前後でのトルクの変化を極力抑える構成として、切替後のIqr2値を本実施の形態よりも若干低下させたものとしてもよく、例えばやや計算は複雑となるが、Iqr1を通る双曲線状の等トルク曲線上になる点とすれば、切替前後のトルク変化を無くした上で、所望のβrも満足させることができる。
【0169】
βr値に関して、切替手段137による切替が終わった後は、例えばω関数などとしてもよく、速度に対して最適な電流位相を設定することにより、安定したセンサレス運転の確保や、効率の向上を図ることができるものとなる。
【0170】
なお、本実施の形態においては、予備駆動のドラム回転角を30度としているが、より大きくしても良く、予備駆動の最大としては、洗濯物109の崩れが無い場合の位置エネルギーが最大となる、
図8(エ)に示した180度の位置までの範囲で、効果が得られるものとなる。
【0171】
なお、その場合には予備駆動の期間中のドラムモータ60への電流値を抑えるため、第2の運転手段142への切替を一旦行っても構わない。
【0172】
また、本実施の形態のように1回の予備駆動の後は、定常回転(360度以上継続する本運転)に入っても良いが、さらに予備駆動を重ねても良く、例えば起動後に、段々にドラム51の回転角が拡大するように、左右回転を交互に設けた後、本回転に入っても良い。
【0173】
以上のように、本実施の形態では、ドラム51の回転角が180度以内となる予備駆動を、少なくとも1回行った後に、予備駆動と逆向きの回転方向で、ドラム回転が360度以上の駆動を行うことにより、インバータ回路71からドラムモータ60へ供給する電流値を、効果的に抑えることができるものとなる。
【0174】
また、各実施の形態においては、ドラムの回転軸は、鉛直に対して90度という角度を持ち、すなわち回転軸が水平となるドラム駆動装置を示しているものとなっているが、90度以外でも、地球の重力によって生じるドラムのモーメント、すなわちトルクは鉛直に対するドラムの回転軸の角度の正弦に比例して発生するものとなるものであるため、鉛直に対して例えば10度程度の角度を持って、縦型と呼ばれるような洗濯機を構成した場合にあっても、重力の作用によるトルクが必要となる傾向は、十分に発生するものとなり、本発明の効果が期待できるものとなる。