特許第6244575号(P6244575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6244575
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】缶オープナー
(51)【国際特許分類】
   B67B 7/40 20060101AFI20171204BHJP
【FI】
   B67B7/40
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-203455(P2014-203455)
(22)【出願日】2014年9月12日
(65)【公開番号】特開2016-60540(P2016-60540A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年1月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510041588
【氏名又は名称】稲住 義憲
(72)【発明者】
【氏名】稲住 義憲
【審査官】 矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−003198(JP,U)
【文献】 実開昭61−123094(JP,U)
【文献】 実開平02−117395(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B67B 7/00− 7/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶の上蓋に取付けられたプルリングを引き上げることにより、前記上蓋が全面で開封するフルオープンエンドのイージーオープン缶を開封する缶オープナーにおいて、長尺棒状に形成された梃部材と、前記梃部材の先端部の下部に設けられ、前記プルリングに係合する係合爪と、前記梃部材の後端部に設けられた取手部と、前記係合爪と前記取手部との間で前記梃部材の中間点より先端部に近い位置に設けられた回転軸と、前記回転軸を介して前記梃部材に対して回動自在に支持された振り子部材と、で構成されたことを特徴とする缶オープナー。
【請求項2】
前記梃部材は上側に反っていることを特徴とする請求項1に記載の缶オープナー。
【請求項3】
前記振り子部材は、底面が円弧状を有する扇状の平板であり、扇の要部分が前記回転軸に支持されている請求項1又は2に記載の缶オープナー。
【請求項4】
前記梃部材を貫通する回転軸の両端に左右一対の振り子部材が設けられ、一対の振り子部材は前記梃部材に対して一体的に振り子運動を行う請求項1〜3の何れか1項に記載の缶オープナー。
【請求項5】
前記梃部材を縦方向に貫通する開口部に前記回転軸を介して一つの振り子部材が支持されている請求項1〜3の何れか1項に記載の缶オープナー。
【請求項6】
前記振り子部材の回転半径と、前記梃部材の先端部と前記回転軸との距離との関係は、前記爪部材を前記プルリングと前記上蓋に挿入したときには前記缶の外周縁に当接し、前記プルリングを上蓋から押し上げる動作が完了して前記回転軸の高さが高くなったときには、前記振り子部材が前記上蓋の方向に回動して該上蓋の上に載るように設定されている請求項1〜5の何れか1項に記載の缶オープナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はミカンなどの固形物を密封したフルオープンエンドのイージーオープン缶の上蓋を開封する缶オープナーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジュースやコーヒーなどの飲料用パーシャルオープンエンドのイージーオープン缶は缶上蓋の一部を開口して飲料水を飲めるが、ミカンなどの固形物を密封したフルオープンエンドのイージーオープン缶の場合には上蓋の全面を剥ぎ取らなければ固形物は取り出せない。
【0003】
上蓋全面を開封するためには最初にプルリングを引き上げてプルリング後方の上蓋一部を押し裂いた後、プルリングを手前上方に引き寄せ上蓋周縁の切断線に沿って上蓋を剥ぎ取らねばならず、これらの一連の開封作業は力が弱い女性や高齢者には困難な場合が多い。
【0004】
フルオープンエンド缶の缶オープナーは数種類の缶オープナーが市販されているが、その開封作業は複雑で使い易い缶オープナーとは云えないものが多い。
【0005】
フルオープンエンド缶の缶オープナーでイージーオープン缶を開封する動作を分析すると以下の3つの動作から構成されていることが判る。
【0006】
つまり、プルリングと缶上蓋の隙間に缶オープナーの係合爪を挿入する第1動作、上蓋外周に刻まれた切断線の一部をプルリングを押上げて押し裂く第2動作、プルリングを手前上方に引き寄せて切断線に沿って上蓋を剥ぎ取る第3動作である。
【0007】
このような動作でイージオープナー缶を開封する缶オープナーとしては例えば特許文献1〜4がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5095777号
【特許文献2】特開平8−295339
【特許文献3】特許第4657373号
【特許文献4】特開平10−175699
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら市販されている缶オープナーの中には、前述の3つの開封動作の途中で、缶オープナー取手部の握り方を変えなければならない缶オープナーが多い。つまり、最初から最後まで缶オープナーの取手部を同じ握り方で握ったまま開封作業を完了させることがむずかしい。
【0010】
特許文献1の場合には、プルリングを持ち上げた後にオープナーを握り直しプルリングをオープナーの溝に挟持しながら上蓋を巻き取りながら剥ぎ取らなければならず、開封作業が断続的で素早い作業とは云えない。
【0011】
特許文献2の場合も、プルリングを持ち上げた後にオープナーを握り直しキノコ状の突起にプルリングを係持した後に上蓋を巻き取りながら剥ぎ取らならず、開封作業が断続的で素早い作業とは云えない。
【0012】
そして、特許文献1のオープナーも特許文献2のオープナーも小さいハンドルで上蓋を巻き取る作業は指の力が弱い女性や高齢者には難しい。
【0013】
また人間は物を握るときには無意識の内に以下の4種類の握り方を使い分けている。つまり、棒状の杖を地面に突くときの握り方(杖握り)、剣道の竹刀を前に構えるときの握り方(竹刀握り)、自動車のチェンジレバーグリップや野球のボールを握るときの握り方(ボール握り)、鉛筆を握るときの握り方(鉛筆握り)の4つである。
【0014】
特許文献3の場合は最初にプルリングに爪を係合するために取手部を垂直に立てたときは前述の杖握りかボール握りか鉛筆握りが自然な握り方で、竹刀握りでは作業が窮屈で無理がある。ところが前述の上蓋を剥ぎ取る第3動作のときには竹刀握りが一番自然な握り方と云える。
【0015】
つまり、特許文献3の缶オープナーの場合には、人間工学的に最初から最後まで竹刀握りで操作することはむずかしく、前述の第2動作から第3動作に移行する途中で取手部を竹刀握りに握り直して第3の動作を完了させる必要がある。
【0016】
また上蓋を剥ぎ取る前述の第3動作のときにオネジの頭部が支点になる時間は短く、平板状の外れ防止部が斜めに傾いた時点から前述の第3動作時の支点は外れ防止部の外端が支点になるため作用点と支点の距離が長くなり、テコの倍率が低下し上蓋の剥ぎ取りに大きな力が必要になる。
【0017】
特許文献4の缶オープナーの場合には、垂直円柱状の取手部を最初から竹刀握りで握った状態で、係合爪でプルリングを引き起こし、プルリングの反対側の缶周縁部を支点として缶の上蓋を剥ぎ取れるので、プルリングの引き起こしから上蓋の開封まで取手部を握り直すことなく作業が完了できる長所がある。
【0018】
しかし、作用点になる係合爪が力点の取手部に近いため開封に要する力を小さくできない短所がある。特に外径の大きな缶の場合にはテコの倍率が小さくなる構造上の弱点がある。
【0019】
さらに上蓋を剥ぎ取るため把手を持ち上げようとすると缶本体が浮き上がろうとするので、缶本体を片手で下方に押さえておかなければならず、力の弱い女性や高齢者には開封作業がむずかしい。
【0020】
発明の課題はこのような事情を解決するために、人間工学的に無理のない自然な動作でしかも小さい力で敏速かつ簡単にフルオープンエンドのイージーオープン缶が開封できる缶オープナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の缶オープナーは上記課題を解決するために、缶の上蓋に取付けられたプルリングを引き上げることにより、前記上蓋が全面で開封するフルオープンエンドのイージーオープン缶を開封する缶オープナーにおいて、長尺棒状に形成された梃部材と、前記梃部材の先端部の下部に設けられ、前記プルリングに係合する係合爪と、前記梃部材の後端部に設けられた取手部と、前記係合爪と前記取手部との間で前記梃部材の中間点より先端部に近い位置に設けられた回転軸と、前記回転軸を介して前記梃部材に対して回動自在に支持された振り子部材と、で構成されたことを特徴とする。なお、「回転軸を介して梃部材に対して回動自在に支持された振り子部材」とは、回転軸を梃部材に回動自在に支持して回転軸に振り子部材を固定する態様と、回転軸を梃部材に固定して回転軸に振り子部材を回動自在に支持する態様との両方を含むことを意味する。
【0022】
上記の如く構成された缶オープナーによれば、係合爪をプルリングと缶の上蓋との隙間に挿入し、プルリングの孔に係合した状態で梃部材の先端部を支点として取手部を斜め前方上向きに押し出すことでプルリングを上蓋から押し上げて切断線(上蓋を缶から剥ぎ取るための切断線)の一部を破断する。その後、振り子部材の底辺部を支点に変えた状態で取手部を斜め後方下向きに押し下げることで上蓋の全面を切断線に沿って簡単に剥ぎ取ることができる。
【0023】
上記の缶の開封動作において、振り子部材は回転軸を介して梃部材に対して振り子運動するので、プルリングと缶上蓋の隙間に缶オープナーの係合爪を挿入する第1動作の際には振り子部材の側面部が缶の外周縁に当接した状態になり、開封動作を邪魔することがない。
【0024】
また、上蓋の全面を切断線に沿って剥ぎ取る第3動作の際には、回転軸の高さが高くなっており振り子部材が下向きに回動して振り子部材の底辺部が上蓋に載った状態になるので、振り子部材が梃の支点としての役目をする。
【0025】
このように、本発明の缶オープナーは、取手部をボール握りで握ることにより、自動車のチェンジレバーでギヤーチェンジするとき同じように人間工学的に自然な動作を行うだけでフルオープンエンドのイージーオープン缶を簡単に開封することができる。
【0026】
本発明の態様として、前記梃部材は上側に反っていることが好ましい。これにより、振り子部材を支点として梃部材の取手部を斜め後方下向きに押し下げたときに、梃部材が真っ直ぐな棒状である場合に比べて梃部材の先端部を一層高い位置まで移動させることができる。これにより、上蓋の全面を切断線に沿って確実に開封することができる。
【0027】
本発明の態様として、前記振り子部材は、底面が円弧状を有する扇状の平板であり、扇の要部分が前記回転軸に支持されていることが好ましい。
これにより、上蓋を切断線に沿って剥ぎ取る際の支点である振り子部材の底辺部の支点位置が、上蓋を開封するにしたがってプルリングから離れる方向にシフトしていくので、缶の上蓋をスムーズに剥ぎ取ることができる。
【0028】
本発明の態様として、前記梃部材を貫通する回転軸の両端に左右一対の振り子部材が設けられ、一対の振り子部材は前記梃部材に対して一体的に振り子運動を行うことが好ましい。このように、梃部材を挟んで左右一対の振り子部材を設けることで、缶の開封動作時に缶オープナーが横に倒れにくくなるので、缶の上蓋を一層スムーズに剥ぎ取ることができる。
【0029】
また本発明の態様として、前記梃部材を縦方向に貫通する開口部に前記回転軸を介して一つの振り子部材を支持させれば一つの振り子部材を梃部材の長手方向の中心線上に設けることができ、部材が少なくなり缶オープナーの幅も狭くすることができる。
【0030】
本発明の態様として、前記振り子部材の回転半径と、前記梃部材の先端部と前記回転軸との距離との関係は、前記爪部材を前記プルリングと前記上蓋に挿入したときには前記缶の外周縁に当接し、前記プルリングを上蓋から押し上げる動作が完了して前記回転軸の高さが高くなったときには、前記振り子部材が前記上蓋の方向に回動して振り子部材の底辺部が該上蓋の上に載るように設定されていることが好ましい。
【0031】
これは、上記した第2動作と第3動作を行う上で、振り子部材の回転半径と、梃部材の先端部と回転軸との距離との適切な距離関係を具体的に示したものである。
【発明の効果】
【0032】
以上のように、本発明の缶オープナーを使用すれば、外径と形状の異なるフルオープンエンド缶でも開封動作の途中で取手を握り直すことなく、簡単に小さい力で開封できる。
【0033】
つまり梃の後端に配置した球状または水平で棒状の取手を人間工学的に自然なボール握りで握り、開封動作の途中で取手部を握り直すことなく、敏速かつ簡単に開封できる。
【0034】
また前述の第3動作のときに特許文献4のように缶が浮き上がることがないので、缶を強く保持する必要はない。
【0035】
さらに、支点となる扇状振り子を梃の先端近くに配置することによってテコの倍率が大きくなり、力の弱い女性や高齢者でも簡単に缶上蓋を開封できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の実施の形態にかかる缶オープナーの斜視図
図2】プルリングと上蓋の間に爪を挿入する動作を説明する斜視図
図3】缶オープナーの先端部を支点にしてプルリングを持ち上げる動作を説明する斜視図
図4】缶オープナーの振り子部材を支点として上蓋の全面を剥ぎ取る動作を説明した斜視図
図5】フルオープンエンドのイージーオープン缶の斜視図
図6】本発明の缶オープナーの変形例であり、一つの振り子部材を設けた斜視図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に図面を参照しながら、本発明の缶オープナーの詳細について説明する。
【0038】
図1は本発明のフルオープンエンドの缶オープナー1の斜視図である。図1に示すように、缶オープナー1は、主として、長尺棒状に形成された梃部材2と、梃部材2の先端部3の下部に設けられた係合爪4と、梃部材2の後端部に設けられた取手部7と、係合爪4と取手部7の間で梃部材2の中間点より先端部3に近い位置に設けられた回転軸5と、回転軸5の両端に支持される左右一対の振り子部材6と、で構成される。
【0039】
梃部材2は、長さ100〜300mm、板厚2〜10mmで幅10〜20mmの寸法を有する平板状の長尺棒状部材として形成されることが好ましい。
【0040】
係合爪4は、梃部材2の先端部3の下側に箆状の部材をネジ等で結合することで形成できる。あるいは、平板な梃部材2の先端部3の下部にV字状の切り込みを入れ、先端部3を側面から見たときに篦状をした鮫の下顎が係合爪4になるように形成することもできる。これにより、図5に示すフルオープンエンドのイージーオープン缶10(以下、単に缶10という)のプルリング11と上蓋12との隙間に係合爪4を挿入し易い形状に形成できる。
【0041】
また、梃部材2の先端部3の上部は先端部3の下部に形成された係合爪4よりも前方に突出している。これにより、プルリング11の押し上げる第2動作において、先端部3の上部先端を梃部材2の支点として機能させることができる。
【0042】
取手部7の形状は、特に限定はなく、球状、棒状、三角状、方形状(立方体、直方体)等のいずれの形状でもよいが、ボール握りに対応し易い直径が20〜40mmの球状が特に好ましい。また、梃部材2に直交した水平な丸棒又は円筒棒の場合には直径が20〜40mmで長さが30〜40mmのものが好ましい。
【0043】
梃部材2と取手部7とは、接合された構造でもよく、あるいは一体成型された構造であってもよい。
【0044】
左右一対の振り子部材6は、扇状あるいは二等辺三角形の形状を有する同一サイズの平板として形成され、扇の要部分あるいは二等辺三角形の頂角部分が回転軸5に支持される。
【0045】
これにより、振り子部材6は重力により回転軸5に吊り下げられた姿勢をとるので、振り子部材6は回転軸5を介して梃部材に対して振り子運動を行うことができる。この場合、回転軸5に振り子部材6を固着して、梃部材2に対して左右一対の振り子が一体的に回動することが好ましい。
【0046】
しかし、回転軸5を梃部材2に固着し、回転軸5に対して振り子部材6が回動することにより、一対の振り子部材6が独立的に回動する態様も可能である。
【0047】
また、振り子部材6の振り子運動がスムーズに行われるように、振り子部材6の下部に錘部材(図示せず)を埋め込んで、重心が振り子部材6の下部にくるようにすることが一層好ましい。
【0048】
梃部材2、振り子部材6、取手部7の材質は木製、金属製、プラスチック製等のように特に限定されない。
【0049】
次に、本発明の実施の形態の缶オープナー1を使用して缶10を開封する方法を、開封動作のステップごとに説明する。なお、振り子部材6が扇状の場合、取手部7が球状の場合で説明する。
【0050】
図2は、本発明の缶オープナー1の係合爪4をフルオープンエンド缶10のプルリング11に係合させる第1動作を説明する斜視図である。
図2に示すように、缶オープナー1の取手部7を握って缶オープナー1を前方に前進させ、プルリング11と上蓋12との隙間に係合爪4を挿入する。このとき缶オープナー1の振り子部材6の側面部は缶10の外周縁13に当接することによって回転軸5を中心に梃部材2と平行で取手部7寄りの後方に押し戻される。したがって、振り子部材6が第1動作の作業を邪魔することはない。
【0051】
図3は本発明の缶オープナー1でプルリング11を押し上げる第2動作を示す斜視図である。図3に示すように、缶オープナー1の先端部3を支点にして取手部7を斜め前方上向に押し出すことによって、プルリング11を上蓋12から押し上げる第2動作を行う。この第2動作によって図5の切断線14のうちプルリング11の基端部側(プルリング11を上蓋12に止めている側)の切断線14が一部破断する。
【0052】
また、取手部7を斜め前方上向きに押し出すことによって回転軸5の位置が高くなり、取手部7寄りの後方に押し戻されていた振り子部材6の側面部が缶10の外周縁13に当接しなくなる。これにより、振り子部材6は重力によって下向きに回動して缶10の外周縁13を乗り越えて振り子部材6の円弧状底面6aが上蓋12の上に載った状態になる。
【0053】
図4は本発明の缶オープナー1で缶10の上蓋12の全面を剥ぎ取る第3動作を示す斜視図である。図4に示すように、上蓋12の上に載った振り子部材6は、円弧状底面6aが上蓋12に接しており、第3動作における梃の支点となる。即ち、梃の原理により、振り子部材6を梃の支点にして力点である取手部7を斜め後方下向きに押し下げることにより、作用点である係合爪4でプルリング11を斜め後方上向きに引き上げる。
【0054】
このとき、係合爪4はプルリング11の孔に係合しており、缶10の切断線14は、前述のプルリング11の基端部側から次第に破断していき、切断線14全体が破断される。これにより、缶10の上蓋12の全面を小さな力で容易に剥ぎ取ることができる。
【0055】
この第3動作において、振り子部材6の底辺6aが円弧の形状であることによって、上蓋12を剥ぎ取るにしたがって梃の支点位置がプルリング11から離れる方向に次第にシフトしていくので、缶10の上蓋12の全面をスムーズに剥ぎ取ることができる。
【0056】
上記したように、図2の第1動作、図3の第2動作、図4の第3動作と続く一連の開封作業の中で、取手部7の握り方は自動車のチェンジレバーグリップの握り方と同じボール握りで開封作業が完了する。つまり開封作業の途中で前述(背景技術を参照)した杖握りや竹刀握りに握り直す必要はない。
【0057】
また取手部7を握った手は人間工学的に自然な手のポジションのまま、取手部7を前後に往復移動させるだけで開封作業が完了する。これにより、本発明の缶オープナー1を使用すれば、外径と形状の異なるフルオープンエンド缶でも開封動作の途中で取手を握り直すことなく、簡単に小さい力で開封できる。
【0058】
図6は、本実施の形態の缶オープナー1の変形例であり、振り子部材6が一つの缶オープナーである。図6に示すように、係合爪4と取手部7の間で梃部材2の中間点より先端部3に近い位置に、梃部材2を縦方向に貫通する開口部15が形成される。この開口部15に一つの振り子部材6が回転軸5を介して回動自在に設けられる。
【0059】
このように一つの振り子部材6で構成すると、左右一対の振り子部材で構成したときに比べて缶オープナーの幅が小さくなり、使用しないときに缶オープナーを狭いスペースに収納できる。ただし、一つの振り子部材6の場合には、振り子部材6の板厚が薄いと第3動作の際に支点である振り子部材6が横に倒れやすくなるので、板厚は5〜10mm程度であることが好ましい。
【実施例】
【0060】
本発明の作用効果を確認するために実施した代表的な試作品の2つについて以下に説明する。
【0061】
第1試作品は木製の梃部材2に木製で球状の取手部7をネジ接合し、梃部材2の側面には内径6.2mmの貫通穴を開け、貫通穴を貫通した前記の外径6mmの回転棒5には左右対象の2枚の扇状で木製の振り子部材6を接着接合した。また、梃部材2の先端下部には金属製係合爪4を木ネジで結合した缶オープナー1を試作した。
【0062】
上記の木製缶オープナー1以外に、3Dプリンターで光造形したアクリル製の梃部材2と取手部7を接合し、アクリル製回転軸5と振り子6は嵌め合い接合で組立て、係合爪4は幅8mmのステンレス製板金を梃部材2の先端下部にネジ接合した第2試作品の缶オープナーも試作した。
【0063】
フルオープンエンド缶10の開封実験の結果、木製の缶オープナーとアクリル製の缶オープナーを使えばフルオープンエンドのイージーオープン缶が簡単にかつ敏速に開封でき、かつ十分な機械的な強度があることも確認できた。
【0064】
試作の過程で、振り子部材6の回転半径R1(図1参照)と、梃部材2の先端部3と回転軸5との距離L2(図1参照)との関係を適切に設定することが重要であることが判った。
【0065】
つまり、振り子部材6の回転半径R1が梃部材2の先端部3と回転軸5の距離L2より長すぎる場合には、図3の第2動作のときに振り子部材6が缶10の外周縁13に邪魔されて振り子部材6が上蓋12に載るように振り子運動しない。
【0066】
逆に、振り子部材6の回転半径R1が梃部材2の先端部3と回転軸5の距離L2より短すぎる場合には、図4の第3動作のときにプルリング11を上方に引き上げる移動距離が少ないために、缶10の上蓋12を剥離させる作業が中途半端に終わる。即ち、上蓋12の全面を開封できないまま作業が終わってしまうことが判った。
【0067】
また振り子部材6の回転半径R1を梃部材2の先端部3と回転軸5の距離L2より短くするために、梃部材2の先端部3と回転軸5の距離L2を長くしすぎると梃の倍率が小さくなり、最後には振り子部材6が缶10の外周縁13から外側に外れてしまい、梃の支点が確保できなくなってしまう。
【0068】
したがって、振り子部材6の回転半径R1と、梃部材2の先端部3と回転軸5との距離L2との関係は、係合爪4をプルリング11と上蓋12に挿入したときには缶10の外周縁13に当接し、プルリング11を上蓋12から押し上げる動作が完了して回転軸5の高さが高くなったときには、振り子部材6が上蓋12の方向に回動して該上蓋12の上に載るように設定されていることが好ましい。
【0069】
これにより、第2動作で振り子部材6が邪魔することなく、第3動作において、振り子部材6を梃の支点とすることができる。ただし、振り子部材6の全体が缶10の上蓋12に載らなくても問題ない。
【0070】
また、振り子部材6の回転半径R1と、梃部材2の先端部3と回転軸5との距離L2との関係を適切に設定するために、梃部材2の先端部3と回転軸5との距離L2を調整できるようにしてもよい。
【0071】
例えば、梃部材2の長手方向に回転軸5が貫通する貫通孔を複数形成し、回転軸5を挿入する貫通孔を使い分けることによって、係合爪4と振り子部材6との距離L2を調整できるようにすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の缶オープナーは木材でも金属でもプラスチックでも製作可能であり、爪や指、握力の弱い人が人間工学的に自然な手の往復運動によって容易に素早くフルオープンエンドのイージーオープン缶を開封できる缶オープナーとして利用できる。
【0073】
また本発明の缶オープナーはパーシャルオープンエンドのイージーオープン缶の缶オープナーとしても利用できる。
【符号の説明】
【0074】
1 缶オープナー
2 梃
3 先端部
4 係合爪
5 回転軸
6 振り子
6a 振り子の底面
7 取手部
10 フルオープンエンド缶
11 プルリング
12 上蓋
13 外周縁
14 切断線
15 開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6